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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C21D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C21D |
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管理番号 | 1321227 |
異議申立番号 | 異議2016-700077 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-01-29 |
確定日 | 2016-08-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5757693号発明「低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5757693号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5について訂正することを認める。 特許第5757693号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5757693号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成22年5月25日に出願され、平成27年6月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人JFEスチール株式会社により特許異議の申し立てがされ、当審において平成28年4月4日付けで取消理由を通知し、同年6月1日付けで特許権者により意見書及び訂正請求書が提出され、同年7月19日付けで特許異議申立人により意見書が提出されたものである。 第2 訂正請求の適否について 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 a 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「冷却速度10℃/sec以上の急冷を開始して」を「冷却速度10?16℃/secの急冷を開始して」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?5においても同様に訂正する。)。 b 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、「昇温速度を5℃/sec以上とする」を「昇温速度5?8℃/secとする」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?5においても同様に訂正する。)。 c 訂正事項3 願書に添付した明細書の段落[0014]において、「冷却速度10℃/sec以上の急冷を開始して」を「冷却速度10?16℃/secの急冷を開始して」に訂正する。 d 訂正事項4 願書に添付した明細書の段落[0014]において、「昇温速度を5℃/sec以上とする。」を「昇温速度を5?8℃/secとする。」に訂正する。 e 訂正事項5 願書に添付した明細書の段落[0067]において、「冷却速度の上限は定めるものではないが、冷却設備能力等の生産上の理由で制限される。」を 「冷却速度の上限は16℃/secとした。」に訂正する。 f 訂正事項6 願書に添付した明細書の段落[0069]において、「昇温速度を5℃/sec以上に急速加熱する。」を「昇温速度を5?8℃/secに急速加熱する。」に訂正する。 g 訂正事項7 願書に添付した明細書の段落[0074] において、「図1から」を「図2から」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ・訂正事項1について 訂正前の請求項1において、冷却速度の上限が規定されていなかったが、訂正事項1による訂正は、冷却速度の上限を規定し、冷却速度の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、該訂正事項1による訂正は、特許明細書の「熱間圧延における仕上圧延の累積圧下率は94.3%、仕上圧延の最終3パスの累積圧下率は45%とした。仕上圧延後から巻取りまでの冷却速度は16℃/sとした。」(【0060】)等の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、該訂正事項1による訂正は、冷却速度の上限を規定し、冷却速度の範囲を限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ・訂正事項2について 訂正前の請求項1において、昇温速度の上限が規定されていなかったが、訂正事項2による訂正は、昇温速度の上限を規定し、昇温速度の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、該訂正事項2による訂正は、「この熱延板を、板温の800?1000℃の間の昇温速度を約3?8℃/secで加熱して、1100℃の温度で焼鈍した。・・・板温の800?1000℃の間の昇温速度を5℃/sec以上とすることにより、B8で1.91T以上の高磁束密度が得られることが分かる。」(【0073】?【0074】)の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、該訂正事項2による訂正は、昇温速度の上限を規定し、昇温速度の範囲を限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ・訂正事項3について 訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、該訂正事項3による訂正は、訂正事項1と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ・訂正事項4について 訂正事項2による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、該訂正事項4による訂正は、上記訂正事項2と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ・訂正事項5について 訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、該訂正事項5による訂正は、訂正事項1、3と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ・訂正事項6について 訂正事項2による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、該訂正事項6による訂正は、訂正事項2、4と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ・訂正事項7について 【0074】の「得られた仕上げ焼鈍後の鋼板の磁気特性を図2に示す。図1から、・・・、B8で1.91T以上の高磁束密度が得られることが分かる。」の記載において、「図1から、・・・、B8で1.91T以上の高磁束密度が得られることが分かる。」は、その前の「得られた仕上げ焼鈍後の鋼板の磁気特性を図2に示す。」を受けて、図2に示す磁気特性の特徴を解説する文章であるから、「図1から」は「図2から」の誤記であることは明らかであり、該訂正事項7による訂正は誤記の訂正を目的とするものに該当する。 そして、特許明細書の【0074】の記載は、願書に最初に添付した明細書の【0074】の記載と同じであるから、該訂正事項7による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は、図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 そして、本件訂正前の請求項2ないし5は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正後の請求項1ないし5は一群の請求項である。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし5についての訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」・・・「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 質量%で、Si:0.8?7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01?0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02?0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003?0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを、下記式で表す温度T1?T3の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T3(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱し、その後、熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、一回の冷間圧延、又は、焼鈍を介する複数の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上焼鈍の二次再結晶開始までの間に、鋼板の窒素量を増加させる処理を施すことよりなる一方向性電磁鋼板の製造方法において、熱間圧延における仕上圧延時の終了温度を950℃以下とし、かつ、圧延終了後2秒以内に冷却速度10?16℃/secの急冷を開始して、巻取温度700℃以下で巻き取り、引き続き、熱延板焼鈍を施す際に、板温800?1000℃の間の昇温速度を5?8℃/sec以上とすることを特徴とする低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 T1=10062/(2.72-log([Al]×[N]))-273 T2=14855/(6.82-log([Mn]×[S]))-273 T3=10733/(4.08-log([Mn]×[Se]))-273 ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、及び[Se]は、それぞれ、酸可溶性Al、N、Mn、S、及びSeの含有量(質量%)である。 【請求項2】 前記熱間圧延における仕上圧延時の累積圧下率が93%以上であることを特徴とする請求項1に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 【請求項3】 前記熱間圧延における仕上圧延時の最終3パスの累積圧下率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 【請求項4】 前記珪素鋼スラブが、さらに、質量%で、Cu:0.01?0.30%を含有し、かつ、珪素鋼スラブを、前記式で表す温度T1?T3および下記式で表す温度T4の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T4(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 T4=43091/(25.09-log([Cu]×[Cu]×[S]))-273 ここで、[Cu]及び[S]は、それぞれ、Cu及びSの含有量(質量%)である。 【請求項5】 前記珪素鋼スラブが、さらに、質量%で、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、及び、Bi:0.01%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 」 2 取消理由の概要 当審において、本件発明1ないし5に係る特許に対して通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 ア 取消理由1(特許法第29条第2項) (ア-1)本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ア-2)本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項、さらには甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ 取消理由2(特許法第36条第6項第1号) 本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載したものではない。その理由は、特許異議申立書の第21頁第10行-第22頁第19行に記載のとおりである。 第4 判断 1 取消理由1について (1)甲各号証の記載事項 (1-1)甲第1号証(特開2002-212635号公報) (1a) 「【請求項1】 C:0.01?0.10質量%、Si:2.5?4.5質量%、Al:0.015?0.035質量%、N:0.003?0.008質量%、Cu:0.02?0.15質量%、Se:0.007?0.025質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを、1200℃以上1350℃以下のAlNが固溶する温度に加熱してから、熱間圧延し、次いで、熱延板焼鈍を施した後、1回または中間焼鈍をはさむ2回以上の冷間圧延を行い、その後、脱炭焼鈍を行い、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、次いで、箱型焼鈍炉で二次再結晶、グラス皮膜形成と純化を起こさしめ、次いで、形状矯正の熱処理を行うことを特徴とする磁気特性に優れる一方向性珪素鋼板の製造方法。 ・・・ 【請求項3】 前記熱間圧延の仕上げ圧延終了温度を900?1100℃の範囲とし、かつ、仕上げ圧延終了後巻き取りまでの冷却を下記式; T(t)<FDT-(FDT-700)×t/6 2≦t≦6 〔ただし、T(t):鋼板温度(℃)、FDT:仕上げ圧延終了温度(℃) 、t:熱間圧延の仕上げ圧延終了からの経過時間(秒)〕を満足するように処理し、700℃以下で巻き取ることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気特性に優れる一方向性珪素鋼板の製造方法。」(【特許請求の範囲】) (1b) 「・・・すなわち、熱延の仕上げ圧延終了から巻き取りまでの温度履歴を規定するのは、規定範囲ではAlNを析出させず固溶を十分行わしめるためである。規定範囲より遅くすると熱延中に析出して磁気特性が不良となる。 仕上げ熱延終了後の温度履歴によってかかる効果の得られる理由については明らかである。添加されたインヒビター成分のAlNの熱延でのほぼ完全な固溶とCu-Seの析出をより均一とするためである。したがって、仕上げ熱延終了直後の高温滞留時間を短くすることが、良好なインヒビターの析出形態を得るために基本的に重要である。本発明においては、上述した条件以外の、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、中間焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍、焼鈍分離剤塗布および仕上げ焼鈍などの各工程における製造条件は、それぞれ、公知の方法に従って行えばよい。」(【0035】-【0037】;なお、下線は当審において付した。以下、同様。) (1c) 「なお、本発明においては、インヒビター成分として上記した元素の他に、Sn、Sb、P、Crも有利に作用するので、それぞれ前記成分に併せて含有させることもできる。これらの成分の好適添加範囲は、それぞれ、0.02?0.30質量%である。さらに、Niは0.03?0.30質量%、Mo、Cdは0.005?0.30質量%で効果がある。」(【0045】) (1d) 「【実施例】(実施例1)表1に示す化学組成を有し、残部は実質的にFeよりなる厚み200mm、幅1000mmの珪素鋼連続鋳造スラブを通常のガス加熱炉にて1300℃で、AlNを溶体化すべく加熱し、熱間粗圧延した後、圧延終了温度950℃の熱間仕上げ圧延を行い2.3mm厚とし、その後、図1に示す各温度履歴で制御冷却し、550℃で巻き取った。 この熱延板に、980℃×3分間の熱延板焼鈍、酸洗を施した後、1.55mmの中間板厚までの冷間圧延、1120℃×45秒の中間焼鈍を経た後、0.23mmの最終板厚まで冷間圧延した。次いで、得られた冷延板を、湿水素雰囲気中で850℃、2分の脱炭焼鈍を施し、次いで、MgOを主体成分とする焼鈍分離剤を塗布し、窒素25%、水素75%雰囲気中で900?1100℃間の昇温速度15℃/時間で二次再結晶させ、その後、水素雰囲気中で1200℃×20時間の最終仕上げ純化焼鈍を施し、その後、形状矯正と張力を有する絶縁皮膜を塗布して成品とした。かくして得られた成品について、磁気特性を測定した。その結果を、表2に示す。 表2に示すように、本発明の方法によれば、いずれも、高磁束密度かつ低鉄損の優れた磁気特性を示すことがわかる。これに対し、本発明の範囲を外れた比較例では、磁気特性も劣っていることがわかる。」(【0046】- 【0048】) (1e) 「 」 (【表1】) (1f) 「 」(【図1】) (1-2)甲第2号証(特開平11-335738号公報) (2a) 「冷間圧延工程においては、熱延板焼鈍後の1回冷延法、熱延板焼鈍後に中間焼鈍を挟む2回冷延法、又は熱延板焼鈍を省略又は低温化した、中間焼鈍を挟む2回冷延法のいずれも採用でき、更に、3回冷間圧延法を採ることも可能である。この冷間圧延工程における最初の焼鈍(熱延板焼鈍又は中間焼鈍)の昇温工程でこの発明の骨子とする窒化けい素の微細析出、更にそれに続く(B,Si)N 及び最終的にはBNの析出処理を行う。 このためには、この冷間圧延工程における最初の焼鈍では、500 ℃以上の昇温速度を5 ℃/s以上とし、かつ、焼鈍温度を1000?1150℃とすることが必要である。・・・」(【0033】-【0034】) (2b) 「(実施例2)表3の鋼塊記号K及びLに示される組成の溶鋼を電磁攪拌を行いつつ連続鋳造機で鋳込み、厚み200 mmのスラブとなした。各鋼塊の溶製に際しては不純物の清浄化処理の程度を変えることにより、鋼塊記号KはAl含有量を0.001 ?0.028 %の範囲で、鋼塊記号LはV含有量を0.003 ?0.032 %の範囲で変化させた。 鋳込み後のスラブを誘導加熱炉に装入し、N_(2)ガス中で1時間で1380℃まで昇温し熱間圧延を行った。この熱間圧延では粗圧延で45mm、仕上圧延で2.0 mmの板厚とし、熱間圧延時間は120 ?140 秒間であった。また、熱間圧延終了温度は920?960 ℃であり、熱間圧延終了後コイル巻取りまでの冷却速度は45?70℃/sとした。更に、コイル巻取り温度は550 ?620 ℃とした。 この後、各コイルは300 ℃での予熱の後、500 ℃まで15秒間で昇温し更に1100℃まで15℃/sの昇温速度で昇温した後、30秒間保持してからミスト水を噴射し急冷した。このときの焼鈍雰囲気は空燃比0.95で露点45℃の燃料ガスを用い、鋼板表層を脱炭してC含有量を0.020 %低減した。この後、酸洗し、ゼンジマー圧延機によってスタンド出側の温度として最高温度が250 ℃となる温間圧延と150 ?230 ℃で10?40分間のパス間時効を行い、最終板厚0.34mmに圧延した。」 (【0048】-【0050】) (1-3)甲第3号証(特開2008-1981号公報) (3a) 「【請求項1】 質量%で、Si:0.8?7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01?0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02?0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003?0.05%を含有する珪素鋼素材を、下記式で表される温度T1、T2、およびT3(℃)のいずれの温度以上、1350℃以下の温度で加熱した後に熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、次いで一回の冷間圧延または焼鈍を介して複数の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上げ焼鈍の二次再結晶開始までの間に鋼板の窒素量を増加させる処理を施すことよりなる方向性電磁鋼板の製造方法において、 前記熱延板の焼鈍を、1000?1150℃の所定の温度まで加熱して再結晶させた後、それより低い850?1100℃の温度で焼鈍する工程で行うことにより、焼鈍後の粒組織においてラメラ間隔を20μm以上に制御するとともに、 前記最終板厚の鋼板を脱炭焼鈍する際の昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃にある間を40℃/秒以上の加熱速度で加熱することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 T1=10062/(2.72-log([Al]×[N]))-273 T2=14855/(6.82-log([Mn]×[S]))-273 T3=10733/(4.08-log([Mn]×[Se]))-273 ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、[Se]は、それぞれ 酸可溶性Al、N、Mn、S、Seの含有量である。」(【特許請求の範囲】) (3b) 「上述した温度にて加熱されたスラブは引続き熱間圧延され所要板厚の熱延板とされる。この熱延板を、1000?1150℃の所定の温度まで加熱して再結晶させた後、それより温度の低い850?1100℃で必要な時間焼鈍し、焼鈍後の粒組織においてラメラ間隔を20μm以上に制御する。一段目の焼鈍については、熱延板の再結晶を促進する観点からは5℃/秒以上、好ましくは10℃/秒以上の加熱速度で行い、1100℃以上の高温では0秒、1000℃程度の低温では30秒以上の時間焼鈍を行えば良い。また、二段目の焼鈍時間はラメラ構造を制御する観点から20秒以上行えば良い。二段目の焼鈍後はラメラ組織を保存する観点から、平均5℃/秒以上、好ましくは15℃/秒以上の冷却速度で冷却すれば良い。 なお、熱延板焼鈍を2段階で行うことは、特許文献7にも一部記載されているが、その焼鈍の目的は、インヒビター状態の調整を行うことであり、本願発明のように、前記後者の方法で方向性電磁鋼板の製造する際、2段階の熱延板焼鈍によって、焼鈍後の粒組織におけるラメラ間隔を制御することにより、脱炭焼鈍の昇温過程における急速加熱範囲をより低い温度範囲にしても、一次再結晶後に二次再結晶しやすい方位の粒の存在する比率を高めることができることについては、何ら示唆するものではない。」(【0047】 -【0048】) (1-4)甲第4号証(特開平9-316537号公報) (4a) 「【0088】熱間圧延後の鋼板は、熱延板焼鈍が施され、1回又は中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延によって最終板厚とされる。ここに、熱延板焼鈍の昇温過程は、この発明において最も重要な工程の一つであって、600 ?800 ℃の昇温速度を5?30℃/sとすることが肝要である。かかる昇温速度の制御によって、熱間圧延段階で多量に生起させたAlN の析出サイト上に微細AlN を高密度に生成させる。この微細AlN は600 ℃前後から析出を開始し、800 ℃程度で大部分が析出するので、この温度領域での昇温速度が重要となるである。」 (4b) 「この熱間圧延においては、粗圧延でのクーラント水量の調整により各鋼種2本のスラブにつき、一方は仕上圧延開始温度を1150?1220℃とし、仕上圧延終了温度を890 ?970 ℃とし、その後はジェット水を鋼帯に噴射することにより18℃/sの冷却速度で急冷してから、550 ℃でコイル状に巻き取った(適合例)。 他方は、仕上圧延開始温度を1250?1310℃とし、仕上圧延終了温度を1120?1190℃とし、その後はジェット水を鋼帯に噴射することにより8℃/sで冷却してから、巻き取りは適合例と同じく550 ℃で行った(比較例)。なお、粗圧延開始から仕上圧延終了までの所要時間は、いずれも230 ?290 秒間の範囲であった。 熱間圧延終了後は、各鋼板を1000℃で30秒間の熱延板焼鈍を施した、このとき、昇温温度を15?17℃/s(600 ?800 ℃間の昇温速度13?16℃/s)とした。この後、酸洗により表面のスケールを除去してから、冷間圧延により中間板厚1.40mmとし、次いで中間焼鈍を施した。この中間焼鈍の条件は、適合例の鋼板については露点50℃、50%H_(2) 、残部N_(2) バランスの雰囲気中で1080℃で60秒間の熱処理を施したのち、ミスト水を用いて40℃/sの冷却速度で350 ℃まで急冷し、この350 ℃にて20秒間保持した後、冷却し酸洗したものである。一方、比較例の鋼板の中間焼鈍条件については、適合例と同一の雰囲気中で1170℃で60秒間の熱処理を施したのち、ミスト水を用いて40℃/sの冷却速度で室温まで急冷した後、酸洗したものである。」(【0104】-【0106】) (1-5)甲第5号証(特開平2-263923号公報) (5a) 「(1)重量でC:0.021?0.100%、Si:2.5?4.5%ならびに通常のインヒビター成分を含み、残余はFeおよび不可避的不純物よりなる珪素鋼スラブを熱延し、熱延板焼鈍をすることなく引き続き圧下率80%以上の冷延,脱炭焼鈍,最終仕上焼鈍を施して一方向性電磁鋼板を製造する方法において、熱延終了温度を750?1150℃とし、最終3パスの累積圧下率を40%以上とすることを特徴とする磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲) (2)甲第1号証記載の発明 甲第1号証には、上記(1a)によれば、磁気特性に優れる一方向性珪素鋼板の製造方法が記載されており、上記(1d)-(1f)によれば、その実施例として、【表1】において番号2、5で示される化学組成を有し、残部は実質的にFeよりなる珪素鋼スラブを1300℃で加熱し、その後、熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、窒素25%、水素75%雰囲気中で900?1100℃間の昇温速度15℃/時間で二次再結晶させ、その後、水素雰囲気中で1200℃×20時間の最終仕上げ純化焼鈍を施す方法において、熱間圧延における仕上げ圧延時の終了温度を950℃とし、制御冷却(【図1】において、Bで示される温度履歴)を行い、550℃で巻き取りを行い、引き続き、980℃×3分間の熱延板焼鈍を施す低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法が記載されている。 そして、上記【図1】に示される制御冷却の温度履歴Bによれば、上記制御冷却は、仕上げ圧延終了直後に冷却速度58.3(=(950-600)/6))℃/secの冷却を開始するものである。 よって、上記検討内容及び【表1】の記載内容によれば、甲第1号証には、 「(A)質量%で、Si:3.25%、C:0.065%、Al:0.027%、N:0.0045%、Mn:0.02%、Cu:0.05%,Seq.=0.004+0.406×0.010=0.008、含有し、残部実質的にFeからなる、あるいは、 (B)質量%で、Si:3.55%、C:0.072%、Al:0.028%、N:0.0050%、Mn:0.07%、Cu:0.10%、Seq.=0.008+0.406×0.015=0.014、を含有し、残部実質的にFeからなる珪素鋼スラブを1300℃で加熱し、その後、熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、窒素25%、水素75%雰囲気中で900?1100℃間の昇温速度15℃/時間で二次再結晶させ、その後、水素雰囲気中で1200℃×20時間の最終仕上げ純化焼鈍を施す一方向性珪素鋼板の製造方法において、熱間圧延における仕上圧延時の終了温度を950℃とし、かつ、圧延終了直後に冷却速度58.3℃/secの冷却を開始して、巻取温度550℃で巻き取り、引き続き熱延板焼鈍を行う低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比・判断 本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「(A)質量%で、Si:3.25%、C:0.065%、Al:0.027%、N:0.0045%、Mn:0.02%、Cu:0.05%,Seq.=0.004+0.406×0.010=0.008、含有し、残部実質的にFeからなる、あるいは、(B)質量%で、Si:3.55%、C:0.072%、Al:0.028%、N:0.0050%、Mn:0.07%、Cu:0.10%、Seq.=0.008+0.406×0.015=0.014、を含有し、残部実質的にFeからなる珪素鋼スラブ」、「冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を施して」、「窒素25%、水素75%雰囲気中で900?1100℃間の昇温速度15℃/時間で二次再結晶させ、その後、水素雰囲気中で1200℃×20時間の最終仕上げ純化焼鈍を施す」、「珪素鋼板」は、本件特許発明4における「質量%で、Si:0.8?7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01?0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02?0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003?0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブ」、「一回の冷間圧延、又は、焼鈍を介する複数の冷間圧延を施して」、「仕上焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上焼鈍の二次再結晶開始までの間に、鋼板の窒素量を増加させる処理を施す」、「電磁鋼板」にそれぞれ相当するから、両者は以下の点で相違し、その他の点で一致する。 (相違点1) 本件特許発明4では、珪素鋼スラブを、「前記式で表す温度T1?T3および下記式で表す温度T4の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T4(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱する・・・ T1=10062/(2.72-log([Al]×[N]))-273 T2=14855/(6.82-log([Mn]×[S]))-273 T3=10733/(4.08-log([Mn]×[Se]))-273 ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、及び[Se]は、それぞれ、酸可溶性Al、N、Mn、S、及びSeの含有量(質量%)である。 T4=43091/(25.09-log([Cu]×[Cu]×[S]))-273 ここで、[Cu]及び[S]は、それぞれ、Cu及びSの含有量(質量%)である。」のに対し、甲1発明では、それが明らかでない点。(「・・・」は、記載の省略を表わす。) (相違点2) 本件特許発明4では、仕上げ圧延時の「圧延終了後2秒以内に速度10?16℃/secの急冷を開始する」のに対し、甲1発明では、「冷却直後に速度58.3℃/secの冷却を開始する」点。 (相違点3) 本件特許発明4では、「熱延板焼鈍を施す際に、板温800?1000℃の間の昇温速度を5?8℃/secとする」のに対し、甲1発明では、それが明らかでない点。 上記相違点について検討する。 ・(相違点1)について 甲1発明において、上記スラブ(A)の場合、T1=1243、T2=1088、T3=1107、T4=1159となる。 また、上記スラブ(B)の場合、T1=1258、T2=1202、T3=1249、T4=1203となり、甲1発明のスラブ加熱温度は、1300℃であるから、いずれのスラブの場合にも、「珪素鋼スラブを、前記式で表す温度T1?T3および下記式で表す温度T4の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T4(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱する」といえるから、該相違点は実質的なものではない。 ・(相違点2)について 甲第1号証の上記(1a)の【請求項3】に記載にされる一方向性珪素鋼板の製造方法においては、仕上げ圧延終了後の冷却は、「仕上げ圧延終了後巻き取りまでの冷却を下記式; T(t)<FDT-(FDT-700)×t/6 2≦t≦6 〔ただし、T(t):鋼板温度(℃)、FDT:仕上げ圧延終了温度(℃) 、t:熱間圧延の仕上げ圧延終了からの経過時間(秒)〕を満足するように処理」するものであり、上記(1b)によれば、該冷却は、仕上げ熱延終了直後の高温滞留時間を短くし、良好なインヒビターの析出形態を得るために重要なものである。 そして、上記(1f)の【図1】には、上記式により規定される「本発明の範囲」として斜線を施した領域が示されており、甲1発明の冷却温度履歴Bは、仕上げ圧延終了から2?6秒の間、該領域を通過している。 ここで、950℃で仕上げ圧延を終了し、終了直後に58.3℃/secの速度で冷却を開始する甲1発明において、仮にその冷却速度を変更するとしても、仕上げ圧延終了から2?6秒の間、上記斜線を施した領域の範囲内を通過させる必要がある。 そして、上記式によると、仕上げ圧延から2秒後の温度は863.3℃(=950-(950-700)×2/6)未満であり、6秒後の温度は、700℃(=950-(950-700)×6/6)未満になるから、冷却速度は、(863.3-700)/(6-2)= 40.8℃/secより大きくなければならない。 そうすると、甲1発明に接した当業者において、40.8℃/secよりもかなり低い「10?16℃/sec」に冷却速度を変更することが容易になし得たこととは到底いうことができない。 したがって、相違点3について判断するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、本件特許発明5は、請求項1ないし4を引用するものであるが、甲1発明と対比すると、いずれも、上記(相違点2)が相違点となることから、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項、さらには甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 取消理由2について 上記「第2」のとおり、特許明細書の記載に基づく訂正により、本件特許発明1ないし5は、いずれも、その冷却速度及び昇温速度について上限が規定され、特定の範囲を有するものとなった。 したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由1、2によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、熱延板焼鈍工程の条件改善によって、優れた磁気特性を有する、トランスの鉄心等に利用される一方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 一方向性電磁鋼板は、トランス等の電気機器の鉄心材料として使用されており、磁気特性として、励磁特性と鉄損特性が良好でなくてはならない。しかも、近年、特に環境問題からエネルギーロスの少ない低鉄損素材への市場要求が強まっている。磁束密度の高い鋼板は、鉄損が低く、また、鉄心が小さくできるので、極めて重要な開発目標である。 【0003】 この高い磁束密度を有する一方向性電磁鋼板は、適切な冷延と焼鈍とにより、熱延板から最終板厚にした鋼板を仕上焼鈍して、通称、ゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位を有する一次再結晶粒を選択成長させる、いわゆる、二次再結晶によって得られる。 【0004】 この二次再結晶は、鋼板中に、インヒビターとよばれる微細な析出物、例えば、MnS、AlN、MnSe、Cu_(2)S、BN、(Al、Si)N等が存在すること、又は、Sn、Sb等の粒界偏析型の元素が存在することによって達成される。 【0005】 この二次再結晶を制御するための一つの方法として、微細析出物を、熱間圧延前のスラブ加熱時に完全固溶させ、その後に、熱間圧延及びその後の焼鈍工程で微細析出させる方法が、工業的に実施されている。しかし、この方法では、析出物を完全固溶させるために、1350℃ないし1400℃以上の高温で、スラブを加熱する必要がある。 【0006】 この温度は、普通鋼のスラブ加熱温度に比べて約200℃高く、そのための専用の加熱炉が必要であり、また、溶融スケール量が多いことや、線状の二次再結晶不良が発生し易いため連続鋳造スラブの使用が困難という問題を含んでいる。 【0007】 そこで、上述の問題を回避するために、1350℃以下の低温でスラブを加熱して、方向性電磁鋼板を製造する方法について研究開発が進められた。低温スラブ加熱による製造方法として、例えば、小松らは、窒化処理により形成した(Al、Si)Nをインヒビターとして用いる方法を、特許文献1で開示している。また、小林らは、その際の窒化処理の方法として、脱炭焼鈍後にストリップ状で窒化する方法を、特許文献2で開示している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】特公昭62-045285号公報 【特許文献2】特開平02-077525号公報 【特許文献3】特開昭62-040315号公報 【特許文献4】特開平02-274812号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 一方向性電磁鋼板の磁気特性をより優れたものにする一方法として、{110}<001>ゴス方位二次再結晶の集積度を上げるため、一次再結晶集合組織において、ゴス方位に蚕食され易い{111}<112>方位等の面強度を高める方法が知られている。 【0010】 例えば、熱間圧延における仕上圧延の最終3パスの累積圧下率や、最終パスの圧下率を高めることにより、歪の蓄積を促進し、その後、自らの熱エネルギーを利用して、極力、再結晶させ、結晶微細化を図ることで、冷間圧延後の一次再結晶で、{111}<112>方位等の面強度を高める製造方法が、特許文献4等に開示されている。 【0011】 しかし、この方法では、熱延後の自らの熱エネルギーを利用して再結晶を図るので、スラブ加熱時のスキッド上と、スキッドとの間における温度差や、鋼板の幅方向の温度差等により、再結晶集合組織及び/又は磁気特性のバラツキが生じ易いという問題がある。 【0012】 このため、本発明は、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を製造する方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 上記の課題を解決するために、本発明は、以下の特徴を有するものである。 【0014】 (1)本発明は、まず、質量%で、Si:0.8?7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01?0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02?0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003?0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを、下記式で表す温度T1、T2、及び、T3(℃)のいずれの温度以上、1350℃以下となる温度で加熱し、その後、熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、一回の冷間圧延又は焼鈍を介する複数の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上焼鈍の二次再結晶開始までの間に、鋼板の窒素量を増加させる処理を施すことよりなる一方向性電磁鋼板の製造方法において、熱間圧延における仕上圧延時の終了温度を950℃以下とし、かつ、圧延終了後2秒以内に冷却速度10?16℃/secの急冷を開始して、巻取温度700℃以下で巻き取り、引き続き、熱延板焼鈍を施す際に、板温800?1000℃の間の昇温速度を5?8℃/secとすることを特徴とする。 【0015】 T1=10062/(2.72-log([Al]×[N]))-273 T2=14855/(6.82-log([Mn]×[S]))-273 T3=10733/(4.08-log([Mn]×[Se]))-273 ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、及び[Se]は、それぞれ、酸可溶性Al、N、Mn、S、及びSeの含有量(質量%)である。 【0016】 (2)本発明は、前記(1)の発明において、熱間圧延における仕上圧延の累積圧下率が93%以上であることを特徴とする。 【0017】 (3)本発明は、前記(1)、又は、(2)の発明において、熱間圧延における仕上圧延の最終3パスの累積圧下率が40%以上であることを特徴とする。 【0018】 (4)本発明は、前記(1)、(2)、又は、(3)の発明において、前記珪素鋼スラブが、質量%で、Cu:0.01?0.30%含有し、かつ、珪素鋼スラブを、前記式で表す温度T1?T3および下記式で表す温度T4の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T4(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱することを特徴とする。 T4=43091/(25.09-log([Cu]×[Cu]×[S]))-273 ここで、[Cu]及び[S]は、それぞれ、Cu及びSの含有量(質量%)である。 【0019】 (5)本発明は、前記(1)、(2)、(3)、又は、(4)の発明において、前記珪素鋼スラブが、質量%で、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、及び、Bi:0.01%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする。 【発明の効果】 【0020】 本発明は、二次再結晶制御のための主たるインヒビターを脱炭焼鈍工程以降の窒化処理により形成する低温スラブ加熱方式であるので、二次再結晶を制御するインヒビターへの影響を及ぼすことなく、仕上げ圧延時の板温を容易に低く抑えることができ、さらに、熱間圧延でのコイル巻取りまでの板温も急速に低く抑えることで再結晶及び粒成長を抑制し、続く、熱延板焼鈍を施す際に急速加熱することにより、鋼板の長さ及び幅方向とも、均一かつ効果的に再結晶の微細化を図ることができる。 【0021】 これらのことにより、一次再結晶集合組織が改善されて、{110}<001>方位二次再結晶の集積度が上がり、コイル内で磁気特性が均一でかつ優れた方向性電磁鋼板をより容易に製造することができる。 【0022】 さらに、本発明では、熱間圧延における仕上圧延の累積圧下率の制御をより厳格に行うことにより、一次再結晶集合組織がさらに改善されて、二次再結晶をより安定的に行い、一層の磁気特性向上効果を得ることができる。 【0023】 さらに、本発明では、熱間圧延での仕上圧延における後段パスの圧下率をより高めることにより、一次再結晶集合組織がさらに改善されて、二次再結晶をより安定的に行い、一層の磁気特性向上効果を得ることができる。 【0024】 さらに、本発明によれば、添加元素に応じて磁気特性を改良した一方向性電磁鋼板を製造することができる。 【図面の簡単な説明】 【0025】 【図1】熱間圧延における仕上げ圧延時の終了温度の条件と磁束密度B8の関係を示す図である。 【図2】熱延板焼鈍の昇温速度の条件と磁束密度B8を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0026】 本発明は、AlNを二次再結晶の主なインヒビターとする一方向性電磁鋼板の製造方法において、1350℃以下の低温でスラブを加熱することが前提である。即ち、本発明は、熱間圧延前の低温スラブ加熱において、インヒビターを完全に固溶させ、かつ、後工程の窒化により、インヒビターの補強を行うものであり、例えば、特許文献3で開示されている、二次再結晶に必要なインヒビターを、脱炭焼鈍(一次再結晶)完了以降から、仕上げ焼鈍における二次再結晶発現以前までに造り込む技術を利用するものである。 【0027】 1350℃以下の低温スラブ加熱を前提とする製造方法においては、二次再結晶を制御するインヒビターに影響を及ぼすことなく、仕上げ圧延時の板温を低く抑えることができる。本発明者らは、このことを活用し、さらに、熱間圧延でのコイル巻取りまでの板温も低く抑えることで、再結晶・粒成長を抑制し、続いて、熱延板焼鈍を施す際に急速加熱することにより、効果的に、再結晶粒の微細化を図ることができる。 【0028】 この現象の解明は充分なされているわけではないが、熱間圧延時の加工歪蓄積を増大し、保持した後、この熱延板を急速加熱することにより、再結晶粒の微細化が促進されるものと推定される。 【0029】 この方法によれば、冷延後の一次再結晶集合組織において、素材粒界近傍から発生する{111}<112>方位を増やすことができ、その結果、{110}<001>方位二次再結晶の集積度が上がり、効果的に、磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板を製造できることを見出し、本発明を完成させた。 【0030】 次に、本発明で用いる珪素鋼素材の成分組成を限定する理由について説明する。以下、%は、質量%を意味する。 【0031】 本発明は、少なくとも、Si:0.8?7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01?0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02?0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003?0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成、又は、この成分組成に、さらに、Cu:0.01?0.30%、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、及び、Bi:0.01%以下の1種又は2種以上を含有させた成分組成を基本とし、必要に応じて、他の成分を含有する方向性電磁鋼板用の珪素鋼スラブを素材として用いる。成分組成の限定理由は次の通りである。 【0032】 Siは、添加量を多くすると電気抵抗が高くなり、鉄損特性が改善される。しかし、7%を超えると、冷延が極めて困難となり、圧延時に、鋼板が割れてしまうので、7%以下とする。より工業生産に適するのは4.8%以下である。一方、0.8%より少ないと、仕上焼鈍時にγ変態が生じ、鋼板の結晶方位が損なわれてしまうので、0.8%以上とする。好ましくは、2.8?4.0%である。 【0033】 Cは、一次再結晶組織を制御するうえで有効な元素であるが、磁気特性に悪影響を及ぼすので、仕上焼鈍前に脱炭する必要がある。Cが0.085%より多いと、脱炭焼鈍時間が長くなり、工業生産における生産性が損なわれてしまうので、0.085%以下とする。好ましくは、0.05?0.08%である。 【0034】 酸可溶性Alは、本発明においてNと結合し、(Al、Si)Nとして、インヒビターとしての機能を確保するのに必須の元素である。インヒビター機能を確保するため、0.01%以上含有する必要があるが、0.065%を超えると、二次再結晶が不安定となるので、酸可溶性Alは、二次再結晶が安定する0.01?0.065%とする。好ましくは、0.022?0.035%である。 【0035】 Nは、0.012%を超えると、冷延時、鋼板中にブリスターとよばれる空孔を生じ、また、インヒビターとして機能させるためには、0.0075%以下とすることが必要である。0.0075%を超えると析出物の分散状態が不均一となり、二次再結晶が不安定になる。好ましくは、0.006?0.0075%である。 【0036】 Mnは、0.02%より少ないと、熱間圧延において、割れが発生し易くなる。Mnは、インヒビターとして機能するMnS及び/又はMnSeを形成するが、0.20%を超えると、MnS及び/又はMnSeの析出分散が不均一になり易く、二次再結晶が不安定になるので、0.20%以下とする。好ましくは、0.03?0.09%である。 【0037】 S及びSeは、Mnと結合して、インヒビターとして機能するMnS及び/又はMnSeを形成するので、含有量は、Seq.=S+0.406×Seで規定する。Seq.=S+0.406×Seが0.003%より少ないと、インヒビターとしての機能が減じてしまうので、Seq.は0.003%以上とする。一方、0.05%を超えると、析出物の分散が不均一になり易く、二次再結晶が不安定になるので、0.05%以下とする。好ましくは、0.005?0.05%である。 【0038】 本発明では、さらに、インヒビター構成元素としてCuを添加してもよい。Cuも、SやSeと結合し、インヒビターとして機能する析出物を形成する。0.01%より少ないと、インヒビターとしての機能が減じてしまうので、0.01%以上とする。一方、0.3%を超えると、析出物の分散が不均一になり易く、鉄損低減効果が飽和してしまうので、0.3%以下とする。好ましくは、0.05?0.3%である。 【0039】 本発明の珪素鋼スラブは、上記成分に加え、必要に応じて、さらに、Cr、P、Sn、Sb、Ni、Biの少なくとも1種類を、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、Bi:0.01%以下の範囲で含有してもよい。 【0040】 Crは、脱炭焼鈍の酸化層を改善し、グラス被膜形成に有効な元素であり、0.3%以下とする。好ましくは、0.02?0.3%である。 【0041】 Pは、比抵抗を高めて鉄損を低減させることに有効な元素である。0.5%を超えると、圧延性に問題が生じるので、0.5%以下とする。好ましくは、0.02?0.3%である。 【0042】 SnとSbは、粒界偏析元素である。本発明は、Alを含有しているので、仕上げ焼鈍の条件によっては、焼鈍分離剤から放出される水分によりAlが酸化されて、コイル位置でインヒビター強度が変動し、磁気特性がコイル位置で変動する場合がある。この対策の一つとして、Sn及び/又はSbの粒界偏析元素を添加して酸化を防止する方法がある。 【0043】 本発明では、コイル位置での磁気特性の変動を抑制するため、Sn及び/又はSbを0.30%以下添加する。0.30%を超えると、脱炭焼鈍時に酸化され難く、グラス皮膜の形成が不十分となるとともに、脱炭焼鈍性が著しく阻害される。好ましくは、0.02?0.30%である。 【0044】 Niは、比抵抗を高めて鉄損を低減させることに有効な元素である。また、熱延板の金属組織を制御して、磁気特性を向上させるうえで有効な元素である。しかし、1%を超えると、二次再結晶が不安定になるので、1%以下とする。好ましくは、0.02?0.30%である。 【0045】 Biは、0.01%以上添加すると硫化物などの析出物を安定化してインヒビターとしての機能を強化する効果がある。しかし、0.01%を超えると、グラス被膜形成に悪影響を及ぼすので、0.01%以下とする。好ましくは、0.0005?0.01%である。 【0046】 さらに、本発明で用いる珪素鋼スラブは、磁気特性を損なわない範囲で、上記以外の元素及び/又は他の不可避的混入元素を含有していてもよい。 【0047】 次に、本発明の製造条件について説明する。 【0048】 上記成分組成を有する珪素鋼スラブは、転炉又は電気炉等により鋼を溶製し、必要に応じて、溶鋼を真空脱ガス処理し、次いで、連続鋳造又は造塊後分塊圧延によって得られる。 【0049】 珪素鋼スラブは、通常、150?350mm、好ましくは、220?280mmの厚みに鋳造されるが、30?70mmの薄スラブであってもよい。薄スラブの場合は、熱延板を製造する際に、中間厚みに粗加工を行う必要がないという利点がある。 【0050】 <スラブ加熱温度> 珪素鋼スラブは、その後、熱間圧延に先だってスラブ加熱がなされる。本発明においては、スラブ加熱温度は1350℃以下として、熱間圧延前のスラブ加熱において、インヒビターを完全に固溶させ、かつ、高温スラブ加熱における諸問題(専用の加熱炉が必要であり、また、溶融スケール量が多い等の問題)を回避する。 【0051】 本発明では、インヒビター(AlN、MnS、及び、MnSeなど)が完全溶体化する必要があるので、スラブ加熱温度を、下記式で表す温度T1、T2、及び、T3(℃)の全ての温度以上とするとともに、インヒビター構成元素量を制御する必要がある。 【0052】 AlとNの含有量に関しては、下記式T1が1350℃以下となるようにする必要がある。同様に、MnとSの含有量、また、MnとSeの含有量、さらに、CuとSの含有量に関しては、それぞれ、下記式T2、T3、及び、T4が、1350℃以下となるようにする必要がある。 【0053】 T1=10062/(2.72-log([Al]×[N]))-273 T2=14855/(6.82-log([Mn]×[S]))-273 T3=10733/(4.08-log([Mn]×[Se]))-273 T4=43091/(25.09-log([Cu]×[Cu]×[S]))-273 ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、[Se]、及び、[Cu]は、それぞれ、酸可溶性Al、N、Mn、S、Se、及び、Cuの含有量(質量%)である。 【0054】 <熱延仕上圧延終了温度> スラブ加熱は、上述したように1350℃以下で行い、引続き熱間圧延され、所要板厚の熱延板とされる。その際、仕上圧延時の終了温度は、950℃以下とすることで、磁気特性が明確に向上する。 【0055】 この作用は、充分、解明されてはいないが、圧延歪の蓄積が増大すると、その後の急冷により、熱延終了まで再結晶が抑制され、かつ、熱延板焼鈍での急速加熱による再結晶の際に、結晶微細化が促進され、冷延後の一次再結晶集合組織において素材粒界近傍から発生する{111}<112>方位が増加し、その結果、{110}<001>方位二次再結晶が成長し易くなるためと考えられる。 【0056】 仕上圧延時の終了温度は、磁気特性にとって低い方が好ましいので下限を定めないが、下げ過ぎると、圧延性等の生産上の支障が生じるので、下限温度はこの支障が生じない温度を選択する。仕上げ圧延時の終了温度の好ましい温度範囲は、750?900℃である。 【0057】 以下に、本発明の基礎をなす知見が得られた実験について説明する。なお、磁気測定は、60×300mmの単板を用いたJIS C 2556 記載の単板磁気特性試験方法(SST試験法)で行い、B8(800A/mのときの磁束密度、単位はテスラ)を測定した。 【0058】 (実験例1) まず、熱間圧延における仕上げ圧延時の終了温度の条件と磁束密度B8の関係を調査した。 【0059】 Si:3.26%、C:0.055%、酸可溶性Al:0.028%、N:0.005%、Mn:0.05%、S:0.01%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる40mm厚のスラブを、1320℃の温度で加熱した後、2.3mm厚に熱間圧延した。その際、仕上圧延の終了温度を760?1010℃の範囲で変化させた。 【0060】 熱間圧延における仕上圧延の累積圧下率は94.3%、仕上圧延の最終3パスの累積圧下率は45%とした。仕上圧延後から巻取りまでの冷却速度は16℃/sとした。 【0061】 この熱延板を、板温の800?1000℃の間の昇温速度を7.2℃/secとして加熱して、1100℃の温度で焼鈍した。その後、焼鈍した熱延板を0.23mm厚まで冷間圧延し、その後、850℃で脱炭焼鈍し、続いて、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して、鋼板中の窒素を0.019%に増加させ、次いで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、その後、1200℃で20時間の仕上焼鈍を施した。 【0062】 得られた仕上焼鈍後の鋼板の磁気特性を図1に示す。図1から、仕上圧延の終了温度を950℃以下にすることにより、B8で1.91T以上の高磁束密度が得られることが分かる。 【0063】 <仕上圧延の累積圧下率> 仕上圧延の累積圧下率を93%以上とすることで、さらに、磁気特性が向上する。この作用は、仕上圧延時の終了温度を下げる場合と同様に、歪蓄積効果が増大するためと考えられる。仕上圧延の累積圧下率の好ましい範囲は、93?97%である。 【0064】 <仕上圧延の最終3パスの累積圧下率> 最終3パスの累積圧下率を40%以上とすることにより、同様な作用が得られ、磁気特性が向上する。 【0065】 上記圧下率は、いずれも、上限を定めるものではないが、圧延能力等の生産上の理由で制限される。上記圧下率の好ましい範囲は、45?60%である。 【0066】 <仕上圧延終了後、冷却開始までの時間> 上記方法で歪蓄積を増大させても、圧延終了後2秒以内に冷却を開始しなければ、熱延での再結晶抑制、かつ、熱延板焼鈍での急速加熱に伴う結晶微細化効果による磁気特性の向上が充分に果たせない。これは、鋼板の長さ及び幅方向の温度バラツキにより、不均一に再結晶が始まるためと考えられる。 【0067】 <仕上圧延終了後から巻取りまでの冷却速度> 仕上圧延後から巻取りまでの冷却速度についても、10℃/sec以上にしなければ、上記冷却開始時間と同様な作用により、再結晶抑制・結晶微細化効果による磁気特性向上が充分果たせない。冷却速度の上限は16℃/secとした。 【0068】 <巻取温度> 巻取温度についても、700℃以下にしなければ、上記冷却開始時間・冷却速度と同様な作用により、結晶微細化効果による磁気特性向上が充分果たせない。この温度は低いほど効果があり、下限を定めるものではないが、熱延板形状等の生産上の理由で制限される。好ましくは、450?600℃である。 【0069】 <熱延板焼鈍加熱時の昇温速度> 熱延板の焼鈍工程の昇温の際に、板温の800?1000℃の間の昇温速度を5?8℃/secに急速加熱することにより、効果的に磁気特性を向上させることができる。この作用は充分解明されてはいないが、熱延での圧延加工強化・再結晶抑制により蓄積された圧延歪を活用して、急速加熱により再結晶粒の微細化促進を図り、かつ、連続焼鈍により、鋼板の長さ・幅方向の温度バラツキがなく均一に再結晶させることができるので、前述したような集積度の高い{110}<001>方位二次再結晶を得るのに好ましい冷延前素材となると考えられる。 【0070】 (実験例2) 熱延板焼鈍の昇温速度の条件と磁束密度B8の関係を調査した。 【0071】 Si:3.25%、C:0.057%、酸可溶性Al:0.027%、N:0.004%、Mn:0.06%、S:0.011%、Cu:0.1%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる40mm厚のスラブを1320℃の温度で加熱した後、2.3mm厚に熱間圧延した。その際、仕上圧延の終了温度を840℃とした。 【0072】 熱間圧延における仕上圧延の累積圧下率は94.3%、仕上圧延の最終3パスの累積圧下率は45%とし、仕上圧延後から巻取りまでの冷却速度は16℃/sとした。 【0073】 この熱延板を、板温の800?1000℃の間の昇温速度を約3?8℃/secで加熱して、1100℃の温度で焼鈍した。その後、焼鈍した熱延板を0.23mm厚まで冷間圧延し、その後、850℃で脱炭焼鈍し、続いて、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して、鋼板中の窒素を0.017%に増加させ、次いで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、その後、1200℃で20時間の仕上焼鈍を施した。 【0074】 得られた仕上焼鈍後の鋼板の磁気特性を図2に示す。図2から、熱延板焼鈍時に、板温の800?1000℃の間の昇温速度を5℃/sec以上とすることにより、B8で1.91T以上の高磁束密度が得られることが分かる。 【0075】 <熱延板焼鈍の加熱温度> 熱延板の焼鈍は、熱延で生じた温度履歴の差による結晶組織・析出物分散の不均一性を解消するために、1000?1150℃の温度範囲で行う。 【0076】 <冷間圧延> 一回又は焼鈍を挟んだ二回以上の冷間圧延により、最終板厚の冷延板とする。冷間圧延の回数は、望む製品の特性レベルとコストとを勘案して適宜選択する。冷間圧延に際しては、最終冷間圧延率を80%以上とすることが、{110}<001>方位二次再結晶の集積度を高めるために有利な{111}等の一次再結晶方位を発達させる上で必要である。 【0077】 <脱炭・窒化> 冷間圧延後の鋼板に、鋼中に含まれるCを除去するために、湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍を施す。この後、二次再結晶発現前に、鋼中にNを侵入させることによって、インヒビターとして機能する(Al、Si)Nを形成させ、磁束密度の高い製品を安定して製造する。 【0078】 窒素を増加させる窒化処理としては、脱炭焼鈍工程において、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で焼鈍する方法、MnN等の窒化能のある粉末を焼鈍分離剤中に添加すること等により仕上げ焼鈍中に行う方法等がある。 【0079】 脱炭焼鈍工程では、一次再結晶粒径が7?18μmとなるよう、800?900℃で加熱する。この加熱により、二次再結晶をより安定して発現でき、さらに優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。その後、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、次いで、仕上焼鈍を行い{110}<001>方位粒を、二次再結晶により優先成長させる。 【0080】 以上、説明したように、本発明によれば、珪素鋼スラブを、所定の析出物が完全溶体化する温度以上、かつ、1350℃以下の温度で加熱し、その後に熱間圧延し、熱延板焼鈍し、次いで、一回の冷間圧延又は焼鈍を介する複数の冷間圧延を施して最終板厚とし、脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上焼鈍の二次再結晶開始までの間に鋼板に窒化処理をして、一方向性電磁鋼板を製造する際に、熱間圧延工程における仕上圧延時の終了温度を950℃以下とし、かつ、圧延終了後2秒以内に急冷開始して巻取温度を700℃未満とするとともに、引き続き、熱延板焼鈍を施す際に、板温の800?1000℃の間の昇温速度を5℃/sec以上とすることにより、磁束密度の高い方向性電磁鋼板を製造することができる。 【実施例】 【0081】 以下に本発明の実施例を説明するが、実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例である。従って、本発明はこの一条件例に限定されるものではなく、本発明を逸脱せず本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。 【0082】 なお、磁気測定はSST試験法(前述)で行い、B8(800A/mのときの磁束密度、単位はテスラ)を測定した。 【0083】 <実施例1> 表1に示す化学成分を有する40mm厚の珪素鋼スラブを1320℃の温度で加熱し、その後、2.3mm厚に熱間圧延した。その際、仕上熱延の終了温度を875?885℃、仕上圧延後から冷却開始までの時間を1秒、冷却開始から巻取りまでの冷却速度を13?14℃/sec、巻取温度を580?610℃とした。熱間圧延における仕上圧延の累積圧下率は94%、仕上圧延の最終3パスの累積圧下率は45%とした。 【0084】 これらの熱延板について、板温の800?1000℃の間の昇温速度を7℃/secとして加熱して、1100℃の温度で焼鈍した。その後、焼鈍を施した熱延板を0.23mm厚まで冷間圧延し、その後、850℃で脱炭焼鈍し、続いて、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して、鋼板中の窒素を0.016%に増加させ、次いで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、その後、1200℃で20時間の仕上焼鈍を施した。 【0085】 仕上焼鈍後の鋼板の磁気特性(B8)を、表2の発明例B10?B16に示す。仕上熱延及び熱延板焼鈍とも、本発明の条件を満たしており、本発明のいずれかの成分組成の場合も、高い磁束密度が得られた。 【0086】 【表1】 【0087】 【表2】 【0088】 <実施例2> 表1の鋼符号A1の成分組成の40mm厚の珪素鋼スラブを、表2に示す条件で製造した。表2に示す条件以外の条件は、以下の通りである。熱延板の焼鈍後、熱延板を0.23mm厚まで冷間圧延し、その後、850℃で脱炭焼鈍し、続いて、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して、鋼板中の窒素を0.016%に増加させ、次いで、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、その後、1200℃で20時間の仕上焼鈍を施した。 【0089】 得られた仕上焼鈍後の鋼板の磁気特性を、表2の発明例B1?B9及び比較例C1?C6に示す。仕上熱延及び熱延板焼鈍とも、本発明の条件を満たす場合には、高い磁束密度が得られた。 【産業上の利用可能性】 【0090】 本発明によれば、優れた磁気特性、特に、高い磁束密度を有する低鉄損の一方向性電磁鋼板を製造することができる。よって、本発明は、電磁鋼板製造及び利用産業において利用可能性が高いものである。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、Si:0.8?7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01?0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02?0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003?0.05%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを、下記式で表す温度T1?T3の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T3(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱し、その後、熱間圧延し、得られた熱延板を焼鈍し、一回の冷間圧延、又は、焼鈍を介する複数の冷間圧延を施して最終板厚の鋼板とし、その鋼板を脱炭焼鈍した後、焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼鈍を施すとともに、脱炭焼鈍から仕上焼鈍の二次再結晶開始までの間に、鋼板の窒素量を増加させる処理を施すことよりなる一方向性電磁鋼板の製造方法において、熱間圧延における仕上圧延時の終了温度を950℃以下とし、かつ、圧延終了後2秒以内に冷却速度10?16℃/secの急冷を開始して、巻取温度700℃以下で巻き取り、引き続き、熱延板焼鈍を施す際に、板温800?1000℃の間の昇温速度を5?8℃/secとすることを特徴とする低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 T1=10062/(2.72-log([Al]×[N]))-273 T2=14855/(6.82-log([Mn]×[S]))-273 T3=10733/(4.08-log([Mn]×[Se]))-273 ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、及び[Se]は、それぞれ、酸可溶性Al、N、Mn、S、及びSeの含有量(質量%)である。 【請求項2】 前記熱間圧延における仕上圧延時の累積圧下率が93%以上であることを特徴とする請求項1に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 【請求項3】 前記熱間圧延における仕上圧延時の最終3パスの累積圧下率が40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 【請求項4】 前記珪素鋼スラブが、さらに、質量%で、Cu:0.01?0.30%を含有し、かつ、珪素鋼スラブを、前記式で表す温度T1?T3および下記式で表す温度T4の全てが1350℃以下となるように、インヒビター成分の含有量を調整し、かつ、T1?T4(℃)の温度以上、1350℃以下で加熱することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 T4=43091/(25.09-log([Cu]×[Cu]×[S]))-273 ここで、[Cu]及び[S]は、それぞれ、Cu及びSの含有量(質量%)である。 【請求項5】 前記珪素鋼スラブが、さらに、質量%で、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、及び、Bi:0.01%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-08-15 |
出願番号 | 特願2010-119471(P2010-119471) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C21D)
P 1 651・ 121- YAA (C21D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田口 裕健 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
富永 泰規 鈴木 正紀 |
登録日 | 2015-06-12 |
登録番号 | 特許第5757693号(P5757693) |
権利者 | 新日鐵住金株式会社 |
発明の名称 | 低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 渡辺 望稔 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | ▲徳▼永 英男 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 三橋 史生 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 三和 晴子 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | ▲徳▼永 英男 |