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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01B
管理番号 1321254
異議申立番号 異議2016-700553  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-21 
確定日 2016-10-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第5834954号発明「透明導電膜及び有機エレクトロルミネッセンス素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5834954号の請求項1、2、4、5、6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5834954号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年1月25日を出願日とする出願であって、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人宮園祐爾(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下それぞれ「本件発明1?6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
透明な基材と、前記基材上に形成された透明な有機化合物層と、を備える透明導電膜であって、
前記有機化合物層は、カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、解離性基含有自己分散型ポリマーと、を含有する分散液を用いて形成されており、
前記導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比は、0.5以上2.5未満である
ことを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
前記重量比は、0.8以上1.2以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記基材上にパターン状に形成された金属材料からなる第1導電層と、
前記基材上に形成されて前記第1導電層と電気的に接続された、前記有機化合物層からなる透明な第2導電層と、
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明導電膜。
【請求項4】
前記解離性基含有自己分散型ポリマーのガラス転移温度は、25℃以上80℃以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の透明導電膜。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の透明導電膜を電極として備える
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、解離性基含有自己分散型ポリマーと、を含有する分散液を生成するステップと、
生成された前記分散液を用いて、透明な基板上に透明な有機化合物層を形成するステップと、
を含み、
前記導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比は、0.5以上2.5未満である
ことを特徴とする透明導電膜の製造方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特表2005-511808号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2010-167564号公報(以下、「甲第2号証」という。)、特開2006-28214号(以下、「甲第3号証」という。)、特表2007-526925号公報(以下、「甲第4号証」という。)、特開平2011-1396号公報(以下、「甲第5号証」という。)、Andreas Elschner他, "PEDOT Principles and Applications of an Intrinsically Conductive Polymer" U.S., CRC Press, November 2, 2010 pp.122(以下、「甲第6号証」という。)、東洋紡HP”水分散ポリエステル樹脂 バイロナール”,[online]、インターネット<URL:http://www.toyobo.co.jp/seihin/xi/vy/vylonal/list.htm>(以下、「甲第7号証」という。)を提出し、以下の申立理由1-1?申立理由3-2によって請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1-1
本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由1-2
本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1、2、4、5、6に係る発明は、甲第2号証?甲第4号証、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3-1
本件特許の請求項1、4、6に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由3-2
本件特許の請求項1、2、4、6に係る発明は、甲第4号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

4 甲号証の記載
(1)甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、「ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニオンの存在下でのポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)重合体の製造方法に関する。」

1イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の一面は、高い電気伝導率、高い可視光線透過率、可視および紫外線露出に対する高い安定性並びに良好な加工性を示すポリチオフェン類およびチオフェン共重合体を提供することである。」

1ウ 「【0042】
この開示で使用されるPEDOTは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を表す。
【0043】
この開示で使用されるEDOTは、3,4-エチレンジオキシチオフェンを表す。
【0044】
この開示で使用されるADOTは、3,4-アルキレンジオキシチオフェンを表す。
【0045】
この開示で使用されるPSSは、ポリ(スチレンスルホン酸)またはポリ(スチレンスルホネート)を表す。」

1エ 「【0079】
ポリアニオン化合物
本発明に従う分散液中での使用のためのポリアニオン化合物は、欧州特許出願公開第440957号に開示されておりそして重合体状カルボン酸、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、またはポリマレイン酸およびポリスルホン酸、例えばポリ(スチレンスルホン酸)を包含する。これらのポリカルボン酸およびポリスルホン酸は、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と他の重合可能単量体、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびスチレンとの共重合体でもありうる。
【0080】
本発明に従う方法の第18の態様によると、ポリアニオンはポリ(スチレンスルホン酸)である。」

1オ 「【0090】
結合剤
本発明の特徴は、本発明に従う方法により得られうるポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液でも実現される。
【0091】
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第1の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液は結合剤をさらに含有する。この結合剤は本発明に従う組成物を用いて製造される帯電防止性または電気伝導性層の成分を一緒に結合させて支持体上の非平面構造をより良好にコーティング可能にする。この結合剤は本発明の方法に従い製造される組成物の粘度も増加させる。
【0092】
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第2の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液はポリエステルウレタン共重合体結合剤、例えばバイエル(BAYER)からのディスパーコル(DISPERCOLL)VPKA8481、さらにを含有する。
【0093】
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第3の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液は結合剤をさらに含有し、この結合剤はポリアクリレート類、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、スルホン酸基を有するカルボキシレート-含有共重合体、ヒドロキシ-改質されたアクリル酸共重合体およびポリ(ビニルアルコール)よりなる群から選択される。
【0094】
結合剤の適合性は、0.1重量%の特定の結合剤を例えば87重量%の1,2-プロパンジオール、9重量%のジエチレングリコール、3重量%の脱イオン水、0.5重量%のゾニル(ZONYL)(R)FSOおよび0.5重量%のシリコーン発泡防止剤X50860Aの如き本発明のPEDOT/PSS-含有組成物用の典型的な分散媒体に加えることにより、評価された。そのような分散媒体中に0.1重量%の程度まで溶解した結合剤は本発明に従う組成物用に適しているとみなされた。
【0095】
特に適する結合剤は以下のものを包含する:
結合剤01=B.F.グッドリッチ(B.F.Goodrich)からのポリアルケニルポリエーテルで架橋結合されたアクリル酸のホモ-および共重合体である、カルボポル(CARBOPOL)(R)ETD-2623、
結合剤02=B.F.グッドリッチからのアクリル酸およびアクリル酸エチルの共重合体のラテックスである、カルボポル(R)アクア(Aqua)30、
結合剤03=ハーキュレス・インコーポレーテッド(Hercules Inc.)からのカルボキシメチルセルロースである、アンバーガム(AMBERGUM)(R)3021、
結合剤04=バスフ(BASF)からのポリビニルピロリドンである、ルビスコル(LUVISKOL)(R)K30、
結合剤05=シンエツ・ケミカル・カンパニー(Shin-Etsu Chemical Company)からのヒドロキシアルキルセルロースメチルプロピルエーテル、
結合剤06=ハーキュレス・インコーポレーテッドからのヒドロキシプロピルセルロースである、クルセル(KLUCEL)(R)L、
結合剤07=ゼニカ(Zenica)からのアクリレートをベースにした水性ラテックスである、ネオクリル(NEOCRYL)(R)BT24、
結合剤08=BYC・セラ(BYC Cera)からのアクリレートをベースにした水性ラテックスである、アクアセル(AQUACER)(R)503、
結合剤09=ユニオン・カーバイド(Union Carbide)からのアクリレートをベースにした水性ラテックスである、ポリフォーブ(POLYPHOBE)(R)TR117、
結合剤10=ウエストバコ・コーポレーション(Westvaco Corporation)からのアクリレートをベースにした水性ラテックスである、アモレックス(AMOREX)(R)CR2900、
結合剤11=ウエストバコ・コーポレーションからのアクリレートをベースにした水性ラテックスである、CRX-8057-45、
結合剤12=ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas)からの54重量%のアクリレートをベースにした水性ラテックスである、プリマル(PRIMAL)TMEP-5380、
結合剤13=エルンスト・ジャガー・ヘム・ロストッフェGmbH(Ernst Jager Chem. Rohstoffe GmbH)からの58重量%のアクリレートをベースにした水性ラテックスである、ジャゴテックス(JAGOTEX)(R)KEM1020、
結合剤14=スタール・ホーランド・BV(Stahl Holland BV)からの54重量%のアクリレートをベースにした水性ラテックスである、ペルムテックス(PE
RMUTEX)(R)PS-34=320、
結合剤15=エルンスト・ジャガー・ヘム・ロストッフェGmbHからの55重量%のアクリレート共重合体水性ラテックスである、ジャゴテックス(R)KEM4009、
結合剤16=B.F.グッドリッチからの50重量%のアクリル酸-AMPS共重合体水性ラテックスである、グッド・ライト(GOOD RITE)(R)K797、
結合剤17=B.F.グッドリッチからの50重量%の水溶性アクリル酸重合体である、グッド・ライト(R)K7058、
結合剤18=アルコ・ケミカル(Alco Chemical)からのアクリル酸/スチレン共重合体ラテックスである、ナルレックス(NARLEX)(R)DX2020、
結合剤19=アルコ・ケミカルからのアクリル酸/スチレン共重合体ラテックスである、アルコパース(ALCOPERSE)(R)725、
結合剤20=B.F.グッドリッチからの18.1重量%の架橋結合されていないメタクリル酸/アクリル酸エチル共重合体ラテックスである、カルボポル(R)EP2、
結合剤21=ワッカー・ヘミー(WACKER CHEMIE)からの97.5-99.5%加水分解されたポリ(ビニルアルコール)、
結合剤22=バイエルからのポリエステルウレタン共重合体分散液である、ディスパーコルTMUVPKA8481。
【0096】
結合剤1、2および20はPEDOT/PSS-含有量に依存しない分散液の粘度に対して非常に強い影響を有する。」

1カ 「【0097】
顔料および染料
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第4の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液は着色されたまたは不透明な組成物を与えるための顔料または染料をさらに含有する。透明な着色された組成物は、着色された染料または顔料、例えばジアゾおよびフタロシアニン顔料を加えることにより実現できる。」

1キ 「【0104】
架橋結合剤
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第5の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液は別の工程段階で加えられる架橋結合剤をさらに含有する。適する架橋結合剤は、エポキシシラン(例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、ここに引用することにより本発明の内容となる欧州特許出願公開第564911号明細書に開示されたようなシラン類の加水分解生成物(例えばテトラエトキシシランまたはテトラメトキシシランの加水分解生成物)、および場合によりブロック形態であってもよいジ-またはオリゴ-イソシアネート類である。」

1ク 「【0107】
界面活性剤
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第7の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液は界面活性剤をさらに含有する。
【0108】

【0109】
本発明に従うポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液の第9の態様によると、ポリチオフェンまたはチオフェン共重合体の水性もしくは非水性溶液または分散液は非イオン性界面活性剤、例えばエトキシル化された/フルオロアルキル界面活性剤、ポリエトキシル化されたシリコーン界面活性剤、ポリシロキサン/ポリエーテル界面活性剤、ペルフルオロ-アルキルカルボン酸のアンモニウム塩、ポリエトキシル化された界面活性剤および弗素-含有界面活性剤をさらに含有する。
【0110】
適する非イオン性界面活性剤は下記のものを包含する:
界面活性剤番号01=デュポン(DuPont)からのイソプロパノールの水中50重量%溶液中のF(CF_(2)CF_(2))_(1-9)CH_(2)CH_(2)O(CH_(2)CH_(2)O)_(x)H(ここで、x=0?約25である)の40重量%溶液である、ゾニル(R)FSN、

界面活性剤番号05=デュポンからのエトキシル化された非イオン性フルオロ-界面活性剤とデュポンからの式:F(CF_(2)CF_(2))_(1-7)CH_(2)CH_(2)O(CH_(2)CH_(2)O)_(y)H(ここで、y=0?約15である)との混合物である、ゾニル(R)FSO-100
…」

1ケ 「【0112】
工業用途
ポリチオフェン類およびチオフェン重合体の水性溶液または分散液は、高い電気伝導率を低い可視光線吸収および高い赤外線に対する吸収と一緒に示す。ポリチオフェン類およびチオフェン共重合体の水性溶液または分散液を含んでなる水性溶液または分散液は広範囲の硬質および軟質基質、例えばセラミック、ガラスおよびプラスチック、に適用することができ、そして特に例えばプラスチックシートの如き軟質基質用に適しており、そしてポリチオフェンまたはチオフェン共重合体層がその電気伝導性を失うことなく基質を実質的に曲げたりまたは変形することができる。
【0113】
そのようなポリチオフェン類およびチオフェン共重合体は、例えば、光電池装置、電池、蓄電器並びに有機および無機エレクトロルミネセント装置の中で、電磁遮蔽層の中で、熱遮蔽層の中で、写真フィルム、サーモグラフィー記録材料およびフォトサーモグラフィー記録材料を包含する広範囲の製品用の帯電防止性コーティングの中で、強化窓の中で、エレクトロクロミック装置の中で、有機および生物有機材料用センサーの中で、電界効果トランジスターの中で、印刷版の中で、伝導性樹脂接着剤の中で並びに自立性電気伝導性フィルムの中で利用することができる[ハンドブック・オブ・オリゴ-・アンド・ポリチオフェンズ(Handbook of Oligo- and Polythiophenes)の10章、D.フィチョウ(Fichou)編集、ウイリー(Wiley)-VCH、ワインハイム(1999)も参照のこと]。」

1コ 「【実施例】
【0114】
本発明を以下で比較例および本発明の実施例により説明する。これらの実施例に示される百分率および比は断らない限り重量による。
【0115】
下記の支持体を比較例および本発明の実施例で使用した:
・オートスタット(AUTOSTAT)(R)=オートタイプ・インターナショナル・リミテッド(AUTOTYPE INTERNATIONAL LTD)により供給される両面が下塗りされた175μm厚さの熱安定化されたポリ(エチレンテレフタレート)[PET]、
・下塗り層番号01でコーティングされた175μm厚さの熱安定化されたPET
下塗り層番号01は組成:
88%の塩化ビニリデン、10%のアクリル酸メチルおよび 79.1%
2%のイタコン酸の共重合体
バイエルからのコロイド状シリカである、キエセルゾル 18.6%
(Kieselsol)(R)100F
バイエルからの界面活性剤であるメルソラト(Mersolat)(R)H 0.4%
チバ-ガイギー(CIBA-GEIGY)からの界面活性剤である 1.9%
ウルトラフォン(Ultravon)(R)W
を有する。」

1サ 「本発明の実施例1
【0121】
室温において、438.23gのポリ(スチレンスルホン酸)[PSS](分子量=290,000)の5.99重量%水溶液および2061.77gの脱イオン水をスタラーおよび窒素入り口を装備した4L反応容器の中で混合した。窒素をこの混合物中に30分間にわたり泡立たせた後に、12.78g(90ミリモル)のEDOTをこの溶液に加えた。この溶液中の酸素の濃度は、インプロ6000シリーズO_(2)センサーを用いるニック・プロセス・ユニット73O_(2)で測定して0.52mg/Lであった。0.225gのFe_(2)(SO_(4))_(3).9H_(2)Oおよび25.7gのNa_(2)S_(2)O_(8)を次に加えて重合反応を開始させた。反応混合物を25℃において7時間にわたり攪拌し、その後にさらに4.3gのNa_(2)S_(2)O_(8)を加えた。16時間の追加反応時間後に、反応混合物をイオン交換体(バイエルからの300mLのレワチットTMS100MB+500mLのレワチットTMM600MB)を用いて2回処理した。生じた混合物を95℃において2時間にわたりさらに熱処理しそして生じた粘着性混合物を高剪断力[60MPa(600バール)における微細流動化器]で処理した。この工程が1950gのPEDOT1の1.02重量%青色分散液を生じた。」

1シ 「【0125】
比較例1および2並びに本発明の実施例1および2の分散液をベースとした分散液を用いる電気伝導性層の製造
3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン、ゾニル(R)FSO100、塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸(88/10/2)の共重合体ラテックス並びにN-メチルピロリドンを比較例1および2並びに本発明の実施例1および2の分散液に加えることによりコーティング分散液を製造し、下塗り層1を有する175μmポリ(エチレンテレフタレート)支持体上へのドクターブレードコーティングおよび45℃における3.5分間にわたる乾燥で、下記の組成:
PEDOT 28.9mg/m^(2)
[PEDOT]/PSS 100mg/m^(2)
ゾニル(R)FSO100 8mg/m^(2)
3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン 100mg/m^(2)
塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸 100mg/m^(2)
(88/10/2)の共重合体ラテックス
N-メチルピロリドン 2mL/m^(2)
を有する層を製造した。
比較例1および2並びに本発明の実施例1および2の分散液をベースとした分散液を用いて製造される電気伝導性層の特性表示
10片の束を可視フィルターを用いるマクベス(Macbeth)(R)TD904濃度計で測定しそして次にそこから単一片の光学濃度を得ることにより、層の光学濃度を測定した。表2に示された値はPET-支持体の光学濃度を含む。」

(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記1イ及び上記1ケの記載によれば、甲第1号証に記載された発明は、高い電気伝導率と高い可視光線透過率を備えたポリチオフェン類およびチオフェン共重合体であって、プラスチックシートのような軟質基質上に形成されるものであり、有機および無機エレクトロルミネセント装置の中で利用されるものである。

イ 上記1サの記載によれば、実施例1の分散液は、438.23gのポリ(スチレンスルホン酸)[PSS]の5.99重量%水溶液に、12.78gのEDOTを加えることにより製造された、1950gのPEDOT1の1.02重量%青色分散液である。ここで、上記1エの記載によれば、ポリ(スチレンスルホン酸)[PSS]はポリアニオン化合物であり、上記1ウの記載によれば、EDOTとは、3,4-エチレンジオキシチオフェンであり、PEDOTとは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を表す。また、青色分散液に含有されたPSSの重量は、438.23g×5.99%=26.25gであるから、青色分散液における、EDOTに対するPSSの重量比は、26.25÷12.78=2.05である。
なお、青色分散液における、PSSとEDOTが反応して生成されたPEDOT1の重量は1950×1.02%=19.89gであり、投入したEDOTの重量(12.78g)よりも大きくなっているから、上記PEDOT1とは、モノマーであるEDOTのみが重合したものではなく、EDOTが重合したPEDOTに、さらに、PSSが反応したもの(以下、「PEDOT/PSS」という。)を表していると推定される。また、青色分散液中に加えられた、26.25gのPSS及び12.78gのEDOTを合わせた合計重量39.13gは、PEDOT1の重量19.89gよりも大きいので、合計重量39.13gのPSS及びEDOTの一部分のみが反応して19.89gの「PEDOT/PSS」が生成しているものと認められる。つまり、PSSとEDOTの全量が反応してPEDOT1になるわけではないので、青色分散液を製造するために使用されたEDOTに対するPSSの重量比と、EDOTとPSSが反応して得られたPEDOT1におけるPEDOTに対するPSSの重量比は同一ではないといえる。

ウ 上記1シの記載によれば、上記イに記載した実施例1の青色分散液に、3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン、ゾニル(R)FSO100、塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス並びにN-メチルピロリドンを加えることにより製造したコーティング分散液を、下塗り層1を備えたポリ(エチレンテレフタレート)支持体上に塗布することにより電気伝導性層が製造されており、当該電気伝導性層は、PEDOT、PSS、ゾニル(R)FSO100、3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシランに加えて、塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックスを含有する層である。ここで、上記1クの記載によれば、ゾニル(R)FSO100は界面活性剤であり、上記1キの記載によれば、3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシランは架橋結合剤である。

エ ポリエチレンテレフタレートが透明な樹脂であることは技術常識であるから、上記ウに記載した、ポリ(エチレンテレフタレート)支持体が透明であることは明らかである。
また、上記1カには、甲第1号証に記載されたポリチオフェンまたはチオフェン共重合体は、着色するため、また、不透明化するために、顔料または染料を含有させると記載されており、このことは逆に言えば、顔料または染料を含有しなければ透明であるものと解されるから、ポリチオフェンであるPEDOTから製造される上記ウの電気伝導性層は透明であると推定される。なお、上記ウの電気伝導性層が透明であることは、上記アに記載したように、甲第1号証に記載された発明が高い可視光線透過率を備えたものであることとも整合している。
また、下塗り層1が透明であることは明記されていないが、下塗り層1は透明な電気伝導性層を透明な支持体との間に設けられるものであり、仮に下塗り層1が不透明であれば、電気伝導性層及び支持体を透明にする意味がなくなるから、下塗り層1は当然透明であるといえる。なお、上記1コには、下塗り層1の組成が記載されているところ、重量の79.1%を占める、塩化ビニリデン、アクリル酸メチル、及びイタコン酸の共重合体は、透明な上記電気伝導性層にも含有されているものであるから、下塗り層1が透明であると推定されることと整合している。
したがって、透明な下塗り層1が形成された、透明なポリ(エチレンテレフタレート)支持体に、上記ウの透明な電気伝導性層が形成されたもの(以下、「積層体」という。)は、全体として透明になっているものと認められる。

オ 上記1ア?1シの記載事項及びア?エの検討事項に基づき、実施例1の青色分散液を元に製造されたコーティング分散液を用いて形成された、電気伝導性層を備えた積層体とその製造方法に関する記載を、本件発明1、6の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「透明な支持体と、前記支持体上に形成された透明な電気伝導性層と、を備える透明な積層体であって、
前記電気伝導性層は、ポリ(スチレンスルホン酸)[PSS]の水溶液に3,4-エチレンジオキシチオフェン[EDOT]を加えることにより生成したPEDOT/PSSを含有している青色分散液に、界面活性剤であるゾニル(R)FSO100と、塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス等を加えたコーティング分散液を用いて形成されており、
前記青色分散液におけるEDOTに対するPSSの重量比は2.05である、透明な積層体。」(以下「甲1発明」という。)

「ポリ(スチレンスルホン酸)[PSS]の水溶液に3,4-エチレンジオキシチオフェン[EDOT]を加えることにより生成したPEDOT/PSSを含有している青色分散液に、界面活性剤であるゾニル(R)FSO100と、塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス等を加えたコーティング分散液を生成するステップと、
生成された前記コーティング分散液を用いて、透明な支持体上に透明な電気伝導性層を形成するステップと、
を含み、
前記青色分散液におけるEDOTに対するPSSの重量比は2.05である、
透明な積層体の製造方法。」(以下「甲1方法発明」という。)

(2)甲第2号証について
(2-1)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第2号証には、「導電性積層体」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性積層体に関する。さらに詳しくは、透明樹脂基体、アンカーコート層、および導電性樹脂組成物層を有し、該導電性樹脂組成物がポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体を導電性成分として含有し、タッチスクリーンなどの抵抗膜式スイッチなどの種々の分野に好適に使用され得る導電性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、タッチスクリーンなどの透明電極や、電子波シールド材として、あるいは偏光フィルムなどの機能性フィルムの帯電防止用フィルムとして、導電性能を有するフィルムが好適に用いられている。このようなフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)などのポリマーでなる透明フィルムを基体とし、その表面の少なくとも片面に、無機金属酸化物(例えば、酸化インジウムおよび酸化スズの混合焼結体(ITO))でなる導電層が形成された積層フィルムが汎用されている。無機金属酸化物層の形成には、ドライプロセスまたはウエットプロセスが利用される。」

2イ 「【0006】

【特許文献3】特開2006-28214号公報」

2ウ 「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的とするところは、透明樹脂基体上に、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとの複合体など、導電性ポリマーを主成分とする導電層を有する積層体であって、透明性および導電性に優れ、かつ導電層と基体との密着性が良好であり、さらに、高温条件下においても導電性能が低下しにくい導電性積層体を提供することにある。本発明の他の目的は、上記優れた性質を有し、抵抗膜式スイッチ用導電性フィルムなどとして好適な導電性積層体を提供することにある。」

2エ 「【0024】
以下、導電性樹脂組成物層を形成する材料について、順次記載する。
【0025】
(2.1)ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体
ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体は、3,4-ジアルコキシチオフェンを、ポリ陰イオンの存在下で酸化剤を用いて重合させることにより得られる。…
【0028】
上記3,4-ジアルコキシチオフェンにおいて、R1およびR2のアルキル基としては、好適には、メチル基、エチル基、n-プロピル基などが挙げられる。R1およびR2が一緒になって形成されるアルキレン基としては、1,2-アルキレン基、1,3-アルキレン基などが挙げられ、好適には、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基などが挙げられる。このうち、1,2-エチレン基が特に好適である。…
【0029】
上記方法に用いられる、ポリ陰イオンとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などのポリカルボン酸類;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などのポリスルホン酸類などが挙げられる。これらの中で、ポリスチレンスルホン酸が特に好適である。…」

2オ 「【0035】
(2.2)ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂
導電性樹脂組成物層に含有されるポリエステル樹脂は特に制限されないが、水溶性ポリエステル系ポリマーあるいは水分散性ポリエステル系ポリマーであることが好ましい。即ち、水もしくは、多少の有機溶剤を含有する水に可溶であるか、または分散させることが可能なポリエステルであることが好ましい。
【0036】

【0039】
このようなポリエステル樹脂の具体的な商品名としては、バイロナールMD-1100、バイロナールMD-1500、バイロナールMD-1930(以上、東洋紡製)、ニチゴポリエスターWR-901、ニチゴポリエスターW-0005(以上、日本合成化学製)、ガブセンES-901A、ガブセンES-210、ガブセンSR-150(以上、ナガセケムテックス株式会社製)、ぺスチレンA-100、ぺスチレンA-510(以上、高松油脂製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】

【0044】
これらの樹脂が過少であると、得られる積層体を高温条件下などの過酷な条件で使用したときに、層の剥離が生じたり、導電性が低下する恐れがある。逆に過剰であると、導電成分の不足による導電性低下のおそれがある。」

2カ 「【0096】
以下の実施例および比較例においては、透明樹脂基体として、100mm×150mmのPETフィルム(東レルミラーT60:厚み188μm、東レ株式会社製)を使用した。」

2キ 「【0102】
(実施例1)
(1)アンカーコート層の形成
スーパーフレックス300(ポリウレタン系水分散体 ポリウレタン含量30質量%:第一工業製薬製)を、イオン交換水で固形分10%に希釈した。さらにこの水分散体を、ソルミックスAP-7(工業用変性アルコール:日本アルコール販売製)を用い0.1%に希釈し、アンカーコート剤を得た。このアンカーコート剤を、透明樹脂基体上に、ワイヤーバーNo.4(ウエット膜厚6μm)を用いてバーコート法により塗布し、100℃で2分間乾燥させることにより、該基体上にアンカーコート層を形成した。
【0103】

【0104】
(2)導電性積層体の調製
特許文献3の実施例1.5に準ずる方法にて製造した、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体10.4部(固形分換算量)に、2.7部のバイロナールMD-1500(ポリエステル系水分散体;ポリエステル含量:30質量%;東洋紡製)、4.2部のメラミン系架橋剤(住友化学製:SumitexResinM-3)、48部のN-メチルホルムアミド、少量の界面活性剤、少量のレベリング剤、適量の水、および変性エタノールを加え、1時間攪拌した。これを400メッシュのSUS製の篩にてろ過し、導電性樹脂組成物塗料Aを得た。
【0105】
この導電性樹脂組成物塗料Aを、上記(1)項で形成したアンカーコート層上に、ワイヤーバーNo.8(ウエット膜厚12μm)を用いてバーコート法により塗布、乾燥した。次いで、これを130℃のオーブンにて15分間加熱し、導電性樹脂組成物層を有する積層体フィルムを得た。」

(2-2)甲第2号証に記載された発明
ア 上記2ア及び上記2ウの記載によれば、甲第2号証に記載された発明は、透明性および導電性に優れた導電性積層体であって、透明樹脂基体上に、ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体など、導電性ポリマーを主成分とする導電層を有する積層体であり、タッチスクリーンなどの透明電極に用いられるものである。

イ 上記2キには、実施例1の導電性積層体の調整方法が記載されており、当該方法において、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸(以下、それぞれ、「PEDOT」、「PSS」ということもある。)との複合体の水分散体は、特許文献3の実施例1.5に準ずる方法にて製造したものであるところ、特許文献3(特開2006-28214号公報)すなわち甲第3号証の段落【0065】を参照すれば(後述する3エ参照。)、上記複合体の水分散体は、PSS24.7部を含む水溶液に8.8部の3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」ということもある。)を加えて反応させることにより製造したものであると認められる。したがって、上記複合体の水分散体を製造するために用いられた、EDOTに対するPSSの重量比は、24.7÷8.8=2.8である。なお、上記(1-2)イの検討を参照すれば、この重量比は、上記複合体におけるPEDOTに対するPSSの重量比とは異なるものであるといえる。

ウ さらに、上記2キによれば、PEDOTとPSSとの複合体の水分散体に、バイロナールMD-1500と少量の界面活性剤等を加えることにより、導電性樹脂組成物塗料Aを得、PETフィルムからなる透明樹脂基体に形成されたアンカーコート層上に、上記導電性樹脂組成物塗料Aを塗布することにより、導電性樹脂組成物層を有する積層体フィルムを得ている。

エ 上記アに記載したように、甲第2号証に記載された発明は、タッチスクリーンなどの透明電極に用いられる、透明性および導電性に優れた導電性積層体であるから、上記ウに記載された、積層体フィルム、並びに、当該積層体フィルムを構成する透明樹脂基体、アンカーコート層、及び導電性樹脂組成物層は、いずれも透明であるものと認められる。

オ 上記2ア?2キの記載事項及び上記ア?エの検討事項に基づき、実施例1の導電性樹脂組成物塗料Aを用いて形成された、積層体フィルムとその製造方法に関する記載を、本件発明1、6の記載ぶりに則して整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「透明樹脂基体と、前記透明樹脂基体上に形成された透明な導電性樹脂組成物層と、を備える透明な積層体フィルムであって、
前記導電性樹脂組成物層は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液に3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を加えて反応させることにより製造した、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体の水分散体に、バイロナールMD-1500と少量の界面活性剤等を加えた導電性樹脂組成物塗料Aを用いて形成されており、
上記水分散体中におけるEDOTに対するPSSの重量比2.8である、透明な積層体。」(以下「甲2発明」という。)

「ポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液に3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を加えて反応させることにより製造した、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体の水分散体に、バイロナールMD-1500と少量の界面活性剤等を加えた導電性樹脂組成物塗料Aを生成するステップと、
生成された前記導電性樹脂組成物塗料Aを用いて、透明樹脂基体上に透明な導電性樹脂組成物層を形成するステップと、
を含み、
上記水分散体中におけるEDOTに対するPSSの重量比2.8である、
透明な積層体の製造方法。」(以下「甲2方法発明」という。)

(3)本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第3号証には、「ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
3ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法、ならびに該方法により得られる水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極、ならびに電磁波シールド材などの基材のコーティングに用いられている。…」

3イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決することにあり、その目的とするところは、透明性および導電性に優れた導電性薄膜を形成することの可能な、導電性ポリマー成分を含む水分散体の製造方法、および該方法により得られる水分散体を提供することにある。」

3ウ 「【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、3,4-ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオンの存在下で重合させる際に、該ポリ陰イオンとして、特定の分子量のまたは特定のスルホン化率のポリスチレンスルホン酸を用いること、あるいは、反応時のpHを特定の値に規定することにより、透明性および導電性に優れた導電性ポリマー成分を含む水分散体を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明のポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第1の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4-ジアルコキシチオフェン
【0010】
【化1】…
【0011】
(式中、R1およびR2は相互に独立して水素またはC1-4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1-4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該、ポリ陰イオンは、重量平均分子量80,000から1,000,000のポリスチレンスルホン酸であり、該ポリスチレンスルホン酸のスルホン化率は99%以上である。

【0029】
本発明の第1の方法においては、上記ポリ陰イオンは、特定の分子量とスルホン化率とを有するポリスチレンスルホン酸であり、第2の方法においては、上記ポリ陰イオンは、特定のスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸であり、第3の方法においては、上記重合工程において、pHが特定の範囲に設定される。さらに、第4の方法においては、上記ポリ陰イオンが特定の分子量を有するポリスチレンスルホン酸であり、かつ上記重合工程においてpHが特定の範囲に設定される。第5の方法においては、上記ポリ陰イオンが特定のスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸であり、かつ上記重合工程においてpHが特定の範囲に設定される。以下に、これらについて順次説明を行う。
【0030】
(I)第1の方法
この方法で用いられる、上記式(1)で示される3,4-ジアルコキシチオフェンにおいて、R1およびR2のC1-4のアルキル基としては、好適には、メチル基、エチル基、n-プロピル基などが挙げられる。R1およびR2が一緒になって形成されるC1-4のアルキレン基としては、1,2-アルキレン基、1,3-アルキレン基などが挙げられ、好適には、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基などが挙げられる。このうち、1,2-エチレン基が特に好適である。また、C1-4のアルキレン基は置換されていてもよく、置換基としては、C1-12のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。置換されたC1-4のアルキレン基としては、1,2-シクロヘキシレン基、2,3-ブチレン基などが挙げられる。このようなアルキレン基の代表例として、R1およびR2が一緒になって形成されるC1-12のアルキル基で置換された1,2-アルキレン基は、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、スチレンなどのα-オレフィン類を臭素化して得られる1,2-ジブロモアルカン類から誘導される。
【0031】
第1の方法においては、用いられるポリ陰イオンは、上述のように、重量平均分子量が80,000から1,000,000のポリスチレンスルホン酸である。この分子量は、好ましくは80,000から700,000、さらに好ましくは150,000から500,000の範囲である。ポリスチレンスルホン酸のスルホン化率(後述)は99%以上であり、通常、スルホン化率が100%のポリスチレンスルホン酸が用いられる。上記特定の分子量およびスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸を用いると、得られる複合体の水分散体を用いて形成される薄膜の導電性および透明性に優れる。
【0032】
上記ポリ陰イオンの使用量は、上記3,4-ジアルコキシチオフェン100質量部に対して、50から3,000質量部の範囲が好ましく、より好ましくは100から1,000質量部の範囲であり、最も好ましくは、150から500質量部の範囲である。」

3エ 「【0065】
(実施例1.5)
日本エヌエスシー(株)の9X407を、ミリポア社製Biomax-100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量165,000、スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4-エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.93であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,010部:固形分1.44%)を得た。」

(4)本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第4号証には、「電気伝導性コーティングの製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は電気伝導性コーティングの製造方法に関する。」

4イ 「【背景技術】
【0002】
ポリチオフェン類はそれらの興味ある電気および/または光学性質のために広く研究されてきた。ポリチオフェン類は化学的もしくは電気化学的酸化または還元で電気伝導性になる。それらの最終的に達成可能な電気伝導性は、それらの化学的組成、ポリチオフェン連鎖中のチオフェン単量体の重合の立体規則性およびそれらのπ-共役長さにより決められる。未置換のチオフェン類または3-および4-位置において同じ基で置換されたチオフェン類が重合される場合には、そのような立体規則性問題は生じない。

【0015】
1999年に、非特許文献3は、PSS:PEDOT比が減少するにつれて0.24?3.33の範囲内のPSS対PEDOT比を有するEDOTおよびNaPPSの水溶液およびアセトニトリル(AN)溶液から製造されたPEDOT/PSSの電気伝導性は本質的な伝導性成分であるPEDOTのより高い濃度のために当業者により直感的に予期されるように増加したことを報告した。
【0016】



(5)甲第5号証について
(5-1)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第5号証には、「導電性高分子溶液およびその製造方法、帯電防止性シート」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
5ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子とポリアニオンとバインダと溶媒とを含有し、前記バインダは、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物であることを特徴とする導電性高分子溶液。
【請求項2】

【請求項6】
基材と、該基材の少なくとも片面に形成された導電性塗膜とを有し、導電性塗膜が、請求項1または2に記載の導電性高分子溶液が塗布されて形成された塗膜であることを特徴とする帯電防止性シート。」

5イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性塗膜を形成するための導電性高分子溶液およびその製造方法、保護シート等に用いられる帯電防止性シートに関する。」

5ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、バインダにアルコキシシランを併用しても、導電性塗膜の耐溶剤性は充分に向上しなかった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、耐溶剤性に優れた導電性塗膜が得ら
れる導電性高分子溶液およびその製造方法を提供することを目的とする。耐溶剤性に優れた導電性塗膜を有する帯電防止性シートを提供することを目的とする。」

5エ 「【0007】
<導電性高分子溶液>
本発明の導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとバインダと溶媒とを含有する。
【0008】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、およびこれらの共重合体等が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類およびポリアニリン類が好ましい。
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性、バインダへの相溶性を得ることができるが、導電性およびバインダへの分散性または溶解性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0009】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、…ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、…等が挙げられる。
【0010】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種または2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。」

5オ 「【0011】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとしては、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。

【0016】
ポリアニオンのアニオン基としては、-O-SO_(3)^(-)X^(+)、-SO_(3)^(-)X^(+)、-COO^(-)X^(+)(各式においてX^(+)は水素イオン、アルカリ金属イオンを表す。)が挙げられる。すなわち、ポリアニオンは、スルホ基および/またはカルボキシ基を含有する高分子酸である。これらの中でも、π共役系導電性高分子へのドーピング効果の点から、-SO_(3)^(-)X^(+)、-COO^(-)X^(+)が好ましい。
また、このアニオン基は、隣接してまたは一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
【0017】
上記ポリアニオンの中でも、溶媒溶解性および導電性の点から、ポリイ レンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸を含む共重合体、ポリスルホメタクリル酸エチル、ポリスルホメタクリル酸エチルを含む共重合体、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)を含む共重合体、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸、ポリメタリルオキシベンゼンスルホン酸を含む共重合体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸を含む共重合体等が好ましい。」

5カ 「【0021】
(バインダ)
バインダは、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物であり、π共役系導電性高分子同士を結着させるものである。

【0024】
アルコキシシランの縮合物の市販品としては、…X-41-1059A(信越化学工業(株)製)、…等の置換基を有さない化合物等が挙げられる。
アルコキシシランの縮合物の中でも、耐溶剤性がより高くなることから、エポキシ基を有するものが好ましい。
【0025】
反応性樹脂は、アルコキシシランの縮合物と反応可能な官能基を有するものである。

反応性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、アルコキシシランとの反応性、基材との密着性の面から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。」

5キ 「【0038】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)水溶液の調製
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gの製造例1で得たポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記ろ過処理が行われた処理液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液を得た。
【0039】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT-PSS水溶液50.0gに、脱イオン水10gと、脱イオン水で30質量%に希釈したエポキシ樹脂溶液(品名W2811R70、ジャパンエポキシレジン(株)製)40gと、エポキシ基を含有するアルコキシシランの縮合物(品名、X-41-1059A、信越化学工業(株)製)0.6g(エポキシ樹脂固形分100質量部に対して5質量部)とを、マグネチックスターラを用いて、50℃、12時間撹拌し、反応させて、導電性高分子溶液を得た。
次いで、その導電性高分子溶液にメタノールを40g添加し、#8のバーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、ルミラーT-60)に塗布し、100℃、1分間乾燥して、導電性塗膜を形成した。」

5ク 「【0050】
(実施例12)
エポキシ樹脂を、ポリエステル樹脂溶液(品名バイロナールMD1245、東洋紡績(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性塗膜を形成し、その導電性塗膜の表面抵抗値および耐溶剤性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。」

(5-2)甲第5号証に記載された発明
ア 上記5イ、5ウの記載によれば、甲第5号証に記載された発明は、耐溶剤性に優れた導電性塗膜を有する帯電防止性シートに関する発明である。

イ 上記5クによれば、実施例12の導電性塗膜は、実施例1において、エポキシ樹脂をポリエステル樹脂溶液(品名バイロナールMD1245、東洋紡績(株)製)に変更して形成したものであるから、まず、実施例1の導電性塗膜について確認する。
上記5キには、実施例1の導電性塗膜の形成方法が記載されており、14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」ということもある。)と、36.7gのポリスチレンスルホン酸(以下、「PSS」ということもある。)の水溶液とを混合し反応させることによって、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液を調整し、当該PEDOT-PSS水溶液に、エポキシ樹脂溶液と、アルコキシシランの縮合物である、X-41-1059A(信越化学工業(株)製)を反応させて、導電性高分子溶液を製造し、次いで、当該導電性高分子溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布、乾燥して、導電性塗膜を形成している。

ウ 上記イに記載したように、実施例12の導電性塗膜は、実施例1において、エポキシ樹脂をポリエステル樹脂溶液(品名バイロナールMD1245、東洋紡績(株)製)に変更して形成したものであるから、実施例12の導電性塗膜は、次の方法によって形成されるものである。
すなわち、14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、36.7gのポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液とを混合し反応させることによって、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液を調整し、当該PEDOT-PSS水溶液に、バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059Aを反応させて、導電性高分子溶液を製造し、次いで、当該導電性高分子溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布、乾燥して、導電性塗膜を形成している。
ここで、上記ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液とは、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を含有する水溶液を意味するものと解される。
また、上記アの検討を勘案すると、ポリエチレンテレフタレートフィルムに導電性塗膜が形成されたものは、帯電防止性シートを構成しているものと認められる。

エ 上記ウの記載によれば、実施例12の導電性塗膜において、青色のPEDOT-PSS水溶液を調整するために、14.2gのEDOTと36.7gのPSSを反応させているから、EDOTに対するPSSの重量比は、36.7÷14.2=2.58となっているが、反応の結果得られた、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液において、PEDOTに対するPSSの重量比がどれだけであるかは不明である。なお、上記(1-2)イの検討を参照すれば、PEDOTに対するPSSの重量比は、上記EDOTに対するPSSの重量比とは異なるものであるといえる。

オ 上記ウに記載された方法によって製造された実施例12の導電性塗膜が透明であるかについては明記されていないので、この点について検討する。当該導電性塗膜は、上記アに記載したように、帯電防止性シートとして使用されるものであるから、透明性が必要とされるものであるとはいえない。また、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液が青色を呈すること、また、甲第7号証の「1.水分散ポリエステル」の銘柄欄にある「MD-1245」についてその外観欄には「乳白色」と記載されていることから、これら有色の原料から製造された当該導電性塗膜が透明であると直ちにはいうことはできない。
また、導電性高分子溶液を塗布する、ポリエチレンテレフタレートフィルムが透明であることは技術常識である。
したがって、導電性高分子溶液が透明であるか不明であるから、ポリエチレンテレフタレートフィルムに当該導電性高分子溶液を塗布、乾燥して導電性塗膜が形成されたもの、すなわち、帯電防止性シートが、全体として透明になっているか不明である。

カ 上記5ア?5クの記載事項及び上記ア?オの検討事項に基づき、実施例12の伝導性塗膜を用いて形成された帯電防止性シートとその製造方法に関する記載を、本件発明1、6の記載ぶりに則して整理すると、甲第5号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「透明なポリエチレンテレフタレートフィルムと、前記ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成された導電性塗膜と、を備える帯電防止性シートであって、
前記導電性塗膜は、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液とを混合し反応させることによって調整された、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を含有するPEDOT-PSS水溶液に、バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059Aを反応させて製造させた導電性高分子溶液を用いて形成されており、
前記PEDOT-PSS水溶液におけるEDOTに対するPSSの重量比は2.58である、
帯電防止性シート。」(以下「甲5発明」という。)

「3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液とを混合し反応させることによって調整された、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を含有するPEDOT-PSS水溶液に、バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059Aを反応させることによって導電性高分子溶液を生成するステップと、
生成された前記導電性高分子溶液を用いて、透明なポリエチレンテレフタレートフィルム上に導電性塗膜を形成するステップと、
を含み、
前記PEDOT-PSS水溶液におけるEDOTに対するPSSの重量比は2.58である、
帯電防止性シートの製造方法。」(以下「甲5方法発明」という。)

(6)本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
6ア「


上記6アの翻訳は次のとおりである。




(7)いつ電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものか不明である甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
7ア「



7イ「



5 判断
(1)申立理由1-1、1-2の検討
(1-1)本件発明1と甲1発明の対比
ア 甲1発明の「透明な支持体」は、本件発明1の「透明な基材」に相当する。

イ 甲1発明の「透明な電気伝導性層」は、「ポリ(スチレンスルホン酸)[PSS]の水溶液に3,4-エチレンジオキシチオフェン[EDOT]を加えることにより生成したPEDOT/PSSを含有している青色分散液に、界面活性剤であるゾニル(R)FSO100と、塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックスと、を加えたコーティング分散液を用いて形成され」たものであり、有機化合物からなる層であることは明らかであるから、本件発明1の「透明な有機化合物層」に相当する。

ウ 甲1発明の「透明な積層体」は、「透明な電気伝導性層」を有していることから、導電膜であるといえるので、本件発明1の「透明導電膜」に相当する。

エ 本件特許明細書の段落【0030】?【0031】の記載によれば、「カチオン性π共役系導電性高分子前駆体モノマー」の具体例が「3,4-エチレンジオキシチオフェン」であり、同段落【0032】?【0035】の記載によれば「ポリアニオン」の具体例が「ポリスチレンスルホン酸」であり、同段落【0114】には、合成例1として、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の溶液中に、3.4-エチレンジオキシチオフェンを添加し、重合させることにより、導電性高分子化合物CP-1(PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)/PSS、PEDOT/PSS=1.0/2.4(質量比))を合成することが記載されている。
そして、上記4(1)(1-2)イに記載したように、引用発明の「PEDOT/PSS」は、EDOTが重合したPEDOTに、さらに、PSSが反応したものであることを勘案すると、甲1発明の「3,4-エチレンジオキシチオフェン[EDOT]」が重合した「PEDOT」、「ポリ(スチレンスルホン酸)[PSS]」、「PEDOT/PSS」は、それぞれ、本件発明1の「カチオン性π共役導電性高分子」、「ポリアニオン」、「導電性高分子化合物」に相当する。

オ 甲1発明の「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」と本件発明1の「解離性基含有自己分散型ポリマー」は、ポリマー(もしくは共重合体)である点で共通する。

カ 甲1発明の「コーティング分散液」は、「透明な電気伝導性層」を形成するために「透明な支持体」に塗布される分散液である。
一方、本件発明1の「分散液」は、「透明な有機化合物層」を形成するために「透明な基材」に塗布される分散液である。
したがって、上記ア、ウの検討事項を勘案すれば、甲1発明の「コーティング分散液」は本件発明1の「分散液」に相当する。

キ 本件発明1において、「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」とは、上記エに記載した合成例1に則して言えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)と3.4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)が重合して生成された導電性高分子化合物CP-1における、PEDOTに対するPSSの重量比を意味しているものである。
一方、甲1発明において、「重量比2.05」とは、「青色分散液」を製造するために使用された原料としての、「EDOT」に対する「PSS」の重量比であり、「EDOT」が重合したPEDOTに、「PSS」が反応して得られた、「PEDOT/PSS」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比ではない。そして、甲1発明において、「PEDOT/PSS」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどれだけであるかは、甲第1号証に記載されておらず、不明である。

(1-2)本件発明1と甲1発明の一致点と相違点
上記(1-1)の検討から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「透明な基材と、前記基材上に形成された透明な有機化合物層と、を備える透明導電膜であって、
前記有機化合物層は、カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、ポリマーと、を含有する分散液を用いて形成されている、
ことを特徴とする透明導電膜。」

≪相違点≫
相違点1:「有機化合物層」を形成する「分散液」に含有される「ポリマー」が、本件発明1においては、「解離性基含有自己分散型ポリマー」であるのに対して、甲1発明においては、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」である点。
相違点2:「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」が、本件発明1においては、「0.5以上2.5未満」であるのに対して、甲1発明においては不明である点。

(1-3)相違点についての判断
(1-3-1)相違点1について
ア 本件特許明細書の段落【0023】に「導電性ポリマーと混合するバインダー樹脂として、解離性基含有自己分散型ポリマーを用い」と記載されていることから、本件発明1の「解離性基含有自己分散型ポリマー」はバインダーとして機能するポリマーである。一方、甲1発明における「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」が、バインダーの機能を持つポリマーとしてコーティング分散液に加えられているか不明である。この点について、甲第1号証には、上記1オに摘記したとおり、結合剤について記載されており、「結合剤」とは本件特許明細書に記載された「バインダー」を意味するものと認められるところ、上記「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」が結合剤であることは記載されていないので、バインダーに相当するものであるか不明である。

イ 仮に、上記「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」がバインダーとしての機能を有するものであり、また、「イタコン酸」が、特許異議申立書の第15頁5?7行に記載されているように、本件発明1の「解離性基」に該当するものである、つまり、上記「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」が「解離性基含有」「ポリマー」であるとしても、以下の理由により、甲1発明の上記「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」が「自己分散型ポリマー」であるとはいえない。
本件特許明細書の段落【0050】には「本発明において、水系溶剤に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーとは、ミセル形成を補助する界面活性剤や乳化剤等を含まず、ポリマー単体で水系溶剤に分散可能なものである。」と記載されていることから、「自己分散型」のポリマーであるとは、ミセル形成を補助する界面活性剤や乳化剤等を含まずに、水系溶剤に分散可能であることを意味しており、したがって、界面活性剤によって分散しているポリマーは、「自己分散型ポリマー」とはいえない。
一方、甲1発明において、「コーティング分散液」には、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」以外に、「界面活性剤であるゾニル(R)FSO100」が加えられていることから、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」は、水系溶剤に分散するために界面活性剤が必要なポリマーであるといえるから、本件発明1の「自己分散型ポリマー」に該当するものであるとはいえない。

ウ したがって、甲1発明において、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」が、バインダーとして機能する「解離性基含有」「ポリマー」であるとしても、「自己分散型ポリマー」であるとはいえないから、相違点1は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点である。
そして、甲1発明において、「コーティング分散液」に「界面活性剤であるゾニル(R)FSO100」を含有させる必要がないこと、つまり、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」が「自己分散型ポリマー」として使用可能であることは、甲第1号証に記載も示唆もされていないし、また、界面活性剤を用いることによってポリマーが分散している分散液において、界面活性剤の添加を省略することが可能であることが技術常識であるともいえない。
また、甲第1号証には、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」に代えて、「解離性基含有自己分散型ポリマー」を採用することについて記載も示唆もされていないし、「PEDOT/PSS」に加えるバインダーとして「解離性基含有自己分散型ポリマー」を使用することが、技術常識であるともいえない。
よって、甲1発明において、「コーティング分散液」に含有させるバインダーとして、「解離性基含有自己分散型ポリマー」を採用すること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(1-3-2)相違点2について
ア 上記(1-1)キに記載したように、甲第1号証には、「青色分散液」を製造するために使用された原料である「EDOT」に対する「PSS」の重量比が「2.05」であることは記載されているが、「EDOT」が重合したPEDOTに「PSS」が反応して得られた、「PEDOT/PSS」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどれだけかについては、記載されておらず不明である。また、「EDOT」に対する「PSS」の重量比と、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどのような関係にあるかも不明であるから、「EDOT」に対する「PSS」の重量比から、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を算出することもできない。したがって、相違点2は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点でないとはいえない。
そこで、既に申立人によって提示された甲第3?6号証を、周知の技術を示す文献として参照することによって、「PEDOT/PSS」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を0.5以上2.5未満とすることが容易であるかについて検討する。

イ 甲第3号証の段落【0009】?【0011】、【0031】?【0032】には、3,4-ジアルコキシチオフェンを、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて水系溶媒中で重合させる場合に、ポリ陰イオンの使用量は、上記3,4-ジアルコキシチオフェン100質量部に対して150から500質量部の範囲が最も好ましいと記載されているが、上記重合の結果得られたポリマーにおいて、ポリ3,4-ジアルコキシチオフェンに対するポリ陰イオンの重量比がどれだけであるかは記載されておらず、不明である。

ウ 甲第4号証の段落【0015】には、PSS:PEDOT比が減少すると、本質的な伝導性成分であるPEDOTの濃度が高くなるため、PEDOT/PSSの電気伝導性は増加する特徴があると記載されている。しかしながら、同段落【0016】の表4において、溶媒が水である場合のPSS:PEDOT比と伝導率の関係を見ると、PSS:PEDOT比が0.24のときは、PSS:PEDOT比が2.0や2.5のときに比べて、伝導率が9.9Scm^(-1)と高い値となっているため上記特徴が確認できるようにも見えるが、PSS:PEDOT比が2.0と2.5の伝導率はそれぞれ0.3cm^(-1)と0.4cm^(-1)となっており、PSS:PEDOT比が小さい方が導電率が小さくなっているので、PSS:PEDOT比が減少すると電気伝導性が増加するという特徴が表4によって裏付けられているとはいえない。当該表4の開示によれば、水溶媒中のPSS:PEDOT比として、電気伝導性が最も高くなる0.24の値を採用する動機付けを与えるとはいえるが、電気伝導性がはるかに小さい2.0の値を採用する動機付けを与えるとはいえない。また、上述のとおり、PSS:PEDOT比が減少すると電気伝導性が増加するという特徴は必ずしも表4によっては裏付けられておらず、そのため、PSS:PEDOT比として、0.24よりも大きく2.0よりも小さい範囲の値に対して電気伝導性がどのような値となるか不明であるから、表4の記載が、0.24よりも大きく2.0よりも小さい範囲の値を採用する動機付けを与えるとはいえない。

エ 甲第5号証の段落【0038】には、14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸をイオン交換水に溶かした溶液とを混合し反応させることによって、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水溶液を得ることが記載されている。上記記載によれば、3,4-エチレンジオキシチオフェンに対するポリスチレンスルホン酸の重量比が36.7÷14.2=2.58であることがわかるが、製造されたPEDOT-PSS水溶液において、PEDOTに対するPSSの重量比がどれだけであるかは不明である。

オ 甲第6号証の表9.1には、「Commercial PEDOT:PSS Types and Their Properties(当審訳:商業用PEDOT:PSS水中分散液の型およびこれらの特性)」との標題を付して、いくつかの商業用PEDOT:PSS水中分散液について、そのPEDOT:PSS比率と導電性の関係が示されており、特に、CleviosPH、CleviosP VP Al4083、CleviosP VP CH8000について注目すると、それぞれ、上記比率が1:2.5、1:6、1:20と変化すると、導電率(S/cm)が、<10、10^(-3)、10^(-5)と変化することが示されており、上記の変化から、上記比率の範囲において、PSSの値が低いほど導電率が高くなる傾向性があることが見て取れる。上記傾向性に基づいて、最も導電率が高いものを選択するとの観点から、PEDOTに対するPSSの重量比が2.5のものを採用するための動機付けを与えるといえるが、PEDOTに対するPSSの重量比が2.5未満において導電率がどのように変化するか表9.1の記載からは不明であるから、PEDOTに対するPSSの重量比が2.5未満のものを採用するとの動機付けを与えるとはいえない。

カ 以上の検討のとおり、甲第4、6号証の記載に基づけば、「EDOT」が重合したPEDOTに「PSS」が反応して得られた、「PEDOT/PSS」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を0.24もしくは2.5とする動機付けを与えるとはいえるが、甲第2?6号証のいずれを参照しても、「EDOT」が重合したPEDOTに「PSS」が反応して得られた、「PEDOT/PSS」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を「0.5以上2.5未満」の範囲とする動機付けが示されているとはいえない。
したがって、甲1発明において、周知の技術を参照しても、相違点2に係る本件発明1の特定事項を採用することが、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(1-3-3)本件発明1についての検討のまとめ
以上検討したとおり、本件発明1は、甲1発明と相違点1及び相違点2のいずれの点でも相違しているので、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(1-4)本件発明5についての検討
本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(1-2)で検討したと同様に、甲1発明と少なくとも相違点1及び相違点2の点で相違しており、上記(1-3)で検討したと同様の理由で、相違点1は、本件発明5と甲1発明の実質的な相違点であるし、相違点2は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点でないとはいえない。
したがって、本件発明5は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、上記(1-3)で検討したように、甲1発明において、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが容易であるとはいえないから、甲1発明と少なくも相違点1及び相違点2において相違している本件発明5についても同様に、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(1-5)本件発明6についての検討
ア 本件発明6は本件発明1の製造方法に該当する発明であるところ、上記(1-1)の検討を参照して、本件発明6と甲1方法発明を対比すれば、一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、ポリマーと、を含有する分散液を生成するステップと、
生成された前記分散液を用いて、透明な基板上に透明な有機化合物層を形成するステップと、
を含む、
ことを特徴とする透明導電膜の製造方法。。」

≪相違点≫
相違点1’:「有機化合物層」を形成する「分散液」に含有される「ポリマー」が、本件発明6においては、「解離性基含有自己分散型ポリマー」であるのに対して、甲1方法発明においては、「塩化ビニリデン、メタクリレートおよびイタコン酸の共重合体ラテックス」である点。
相違点2’:「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」が、本件発明6においては、「0.5以上2.5未満」であるのに対して、甲1方法発明においては不明である点。

イ 相違点1’、2’は、それぞれ、相違点1、2と同じであるから、相違点についての上記(1-3)の検討をそのまま採用することができる。
したがって、本件発明6は、甲1方法発明と相違点1’及び相違点2’の点で相違しており、相違点1’は、本件発明6と甲1発明の実質的な相違点であるし、相違点2’は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)申立理由2の検討
(2-1)本件発明1と甲2発明の対比
ア 甲2発明の「透明樹脂基体」、「透明な導電性樹脂組成物層」は、それぞれ、本件発明1の「透明な基材」、「透明な有機化合物層」に相当する。

イ 甲2発明の「透明な積層体フィルム」は、「透明な導電性樹脂組成物層」を有していることから、導電膜であるといえるので、本件発明1の「透明導電膜」に相当する。

ウ 本件特許明細書の段落【0030】?【0031】の記載によれば、「カチオン性π共役系導電性高分子前駆体モノマー」の具体例が「3,4-エチレンジオキシチオフェン」であり、同段落【0032】?【0035】の記載によれば「ポリアニオン」の具体例が「ポリスチレンスルホン酸」であり、同段落【0114】には、合成例1として、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の溶液中に、3.4-エチレンジオキシチオフェンを添加し、重合させることにより、導電性高分子化合物CP-1(PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)/PSS、PEDOT/PSS=1.0/2.4(質量比))を合成することが記載されている。
一方、甲2発明において、ポリスチレンスルホン酸(PSS)と3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)が反応することによって、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体が生成しているものと認められる。
したがって、甲2発明の「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)」、「ポリスチレンスルホン酸(PSS)」、「複合体」は、それぞれ、本件発明1の「カチオン性π共役導電性高分子」、「ポリアニオン」、「導電性高分子化合物」に相当する。

オ 本件特許明細書の段落【0023】には、本件発明1の「解離性基含有自己分散型ポリマー」がバインダーとして機能するポリマーであることが記載されており、同段落【0058】には、上記「解離性基含有自己分散型ポリマー」の具体例として、「バイロナールMD1500」が例示されている。
一方、甲第2号証には、上記2オに、 導電性樹脂組成物層に含有されるポリエステル樹脂として、バイロナールMD-1500が使用可能であり、この樹脂が過少であると、層の剥離が生じると記載されていることから、バイロナールMD-1500は層が剥離しないような性質、すなわち、結着剤またはバインダーとしての機能を有しているものと解することができる。したがって、甲2発明において、「バイロナールMD-1500」はバインダーとして機能するポリマーとして使用されているものと認められる。
ここで、甲2発明の「バイロナールMD-1500」が「自己分散型ポリマー」であるかについて検討する。本件発明1において、「自己分散型」であるとは、上記(1-3-1)イに記載したように、ミセル形成を補助する界面活性剤や乳化剤等を含まずに、水系溶剤に分散可能であることを意味しているから、「少量の界面活性剤」とともに使用されている甲2発明の「バイロナールMD-1500」は、「自己分散型ポリマー」に該当するものであるとはいえない。
したがって、甲1発明の「バイロナールMD-1500」と本件発明1の「解離性基含有自己分散型ポリマー」とは、バインダーとして機能するポリマーの点で共通する。

カ 甲2発明の「導電性樹脂組成物塗料A」は、「透明な導電性樹脂組成物層」を形成するために「透明樹脂基体」に塗布される塗料であって、「水分散体」に「バイロナールMD-1500と少量の界面活性剤等」を加えることによって調整されるものである。
一方、本件発明1の「分散液」は、「透明な有機化合物層」を形成するために「透明な基材」に塗布される分散液である。
したがって、上記ア、イの検討事項を勘案すれば、甲2発明の「導電性樹脂組成物塗料A」は本件発明1の「分散液」に相当する。

キ 本件発明1の「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」とは、上記(1-1)エに記載した合成例1に則して言えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)と3.4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)が重合して生成された導電性高分子化合物CP-1における、PEDOTに対するPSSの重量比を意味しているものである。
一方、甲2発明において、「重量比2.8」とは、「水分散体」を製造するために使用された原料としての、「EDOT」に対する「PSS」の重量比であり、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比ではない。そして、甲2発明において、「複合体」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどれだけであるかは、甲第2号証、及び甲第2号証で参照された甲第3号証に記載されておらず、不明である。

(2-2)本件発明1と甲2発明の一致点と相違点
上記(2-1)の検討から、本件発明1と甲2発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「透明な基材と、前記基材上に形成された透明な有機化合物層と、を備える透明導電膜であって、
前記有機化合物層は、カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、バインダーとして機能するポリマーと、を含有する分散液を用いて形成されている、
ことを特徴とする透明導電膜。」

≪相違点≫
相違点3:「有機化合物層」を形成する「分散液」に含有される「バインダーとして機能するポリマー」が、本件発明1においては、「解離性基含有自己分散型ポリマー」であるのに対して、甲2発明においては、「少量の界面活性剤」とともに使用される「バイロナールMD-1500」である点。
相違点4:「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」が、本件発明1においては、「0.5以上2.5未満」であるのに対して、甲2発明においては不明である点。

(2-3)相違点についての判断
(2-3-1)相違点3について
ア 甲第2号証の上記2オには、水分散性ポリエステル系ポリマーとしてバイロナールMD-1500が挙げられるところ、水分散性ポリエステル系ポリマーとは水に分散させることが可能なポリエステルであることが記載されているのみであり、当該水分散性ポリエステル系ポリマーが界面活性剤なしでも水に分散させることが可能であるかについては記載されておらず、不明である。したがって、甲2発明において、「導電性樹脂組成物塗料A」に「界面活性剤」を含有させる必要がないこと、つまり、「バイロナールMD-1500」が「自己分散型ポリマー」として使用可能であると直ちには言うことができないし、また、界面活性剤を用いることによってポリマーが分散している分散液において、界面活性剤の添加を省略することが可能であることが技術常識であるともいえない。
また、甲第2号証には、「バイロナールMD-1500」に代えて、「解離性基含有自己分散型ポリマー」を採用することについて記載も示唆もされていないし、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」に加えるバインダーとして「解離性基含有自己分散型ポリマー」を使用することが、技術常識であるともいえない。
よって、甲2発明において、「導電性樹脂組成物塗料A」に含有させる「バインダーとして機能するポリマー」として、「解離性基含有自己分散型ポリマー」を採用すること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(2-3-2)相違点4について
ア 上記(2-1)キに記載したように、甲第2号証には、「水分散体」を製造するために使用された原料である「EDOT」に対する「PSS」の重量比が「2.8」であることは記載されているが、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどれだけかについては、記載されておらず不明である。また、「EDOT」に対する「PSS」の重量比と、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどのような関係にあるかも不明であるから、「EDOT」に対する「PSS」の重量比から、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を算出することもできない。したがって、相違点4は、本件発明1と甲2発明との実質的な相違点でないとはいえない。
そこで、甲第3、4、6号証の記載に基づいて、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を0.5以上2.5未満とすることが容易であるかについて検討する。

イ 上記(1-3-2)のイ、ウ、オにおいて検討したように、甲第4、6号証の記載に基づけば、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」における「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を0.24もしくは2.5とする動機付けを与えるとはいえるが、甲第3、4、6号証のいずれにも、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」における「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を「0.5以上2.5未満」の範囲とする動機付けが示されているとはいえない。
したがって、甲2発明において、「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とPSSとの複合体」における「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を「0.5以上2.5未満」とすること、すなわち、相違点4に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(2-3-3)本件発明1についての検討のまとめ
以上検討したとおり、本件発明1は、甲第2?4号証、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-4)本件発明2、4、5についての検討
本件発明2、4、5は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(2-2)で検討したと同様に、甲2発明と、少なくとも相違点3及び相違点4の点で相違している。そして、上記(2-3)で検討したように、甲2発明において、甲第3、4、6号証に記載された発明に基づいて、相違点3及び相違点4に係る本件発明1の特定事項とすることが容易であるとはいえないから、甲2発明と少なくも相違点3及び相違点4において相違している本件発明2、4、5についても同様に、甲第2、3、4、6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2-5)本件発明6についての検討
ア 本件発明6は本件発明1の製造方法に該当する発明であるところ、上記(2-1)の検討を参照して、本件発明6と甲2方法発明を対比すれば、一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、バインダーとして機能するポリマーと、を含有する分散液を生成するステップと、
生成された前記分散液を用いて、透明な基板上に透明な有機化合物層を形成するステップと、
を含む、
ことを特徴とする透明導電膜の製造方法。」

≪相違点≫
相違点3’:「有機化合物層」を形成する「分散液」に含有される「バインダーとして機能するポリマー」が、本件発明1においては、「解離性基含有自己分散型ポリマー」であるのに対して、甲2方法発明においては、「少量の界面活性剤」とともに使用される「バイロナールMD-1500」である点。
相違点4’:「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」が、本件発明6においては、「0.5以上2.5未満」であるのに対して、甲2方法発明においては不明である点。

イ 相違点3’、4’は、それぞれ、相違点3、4と同じであるから、相違点についての上記(2-3)の検討をそのまま採用することができる。
したがって、本件発明6は、甲第2?4号証、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由3-1、3-2の検討
(3-1)本件発明1と甲5発明の対比
ア 甲5発明の「透明なポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件発明1の「透明な基材」に相当する。

イ 甲5発明の「導電性塗膜」は、「3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液とを混合し反応させることによって調整された、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を含有するPEDOT-PSS水溶液に、バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059Aを反応させて製造させた導電性高分子溶液を用いて形成されて」おり、有機化合物からなる層であることは明らかであるから、本件発明1の「透明な有機化合物層」とは、「有機化合物層」の点で共通する。

ウ 甲5発明の「帯電防止性シート」は、「導電性塗膜」を有していることから、導電膜であるといえるので、本件発明1の「透明導電膜」とは、「導電膜」の点で共通する。

エ 本件特許明細書の段落【0030】?【0031】の記載によれば、「カチオン性π共役系導電性高分子前駆体モノマー」の具体例が「3,4-エチレンジオキシチオフェン」であり、同段落【0032】?【0035】の記載によれば「ポリアニオン」の具体例が「ポリスチレンスルホン酸」であり、同段落【0114】には、合成例1として、ポリスチレンスルホン酸(PSS)の溶液中に、3.4-エチレンジオキシチオフェンを添加し、重合させることにより、導電性高分子化合物CP-1(PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)/PSS、PEDOT/PSS=1.0/2.4(質量比))を合成することが記載されている。
一方、甲5発明において、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)が反応することによって、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)が生成しているものと認められる。
したがって、甲5発明の「ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)」、「ポリスチレンスルホン酸(PSS)」、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」は、それぞれ、本件発明1の「カチオン性π共役導電性高分子」、「ポリアニオン」、「導電性高分子化合物」に相当する。

オ 本件特許明細書の段落【0023】には、本件発明1の「解離性基含有自己分散型ポリマー」がバインダーとして機能するポリマーであることが記載されており、同段落【0058】には、上記「解離性基含有自己分散型ポリマー」の具体例として、「バイロナールMD1245」が例示されている。
一方、甲第5号証には、上記5オに、アルコキシシランの縮合物と、該アルコキシシランの縮合物と反応可能な反応性樹脂との反応物は、バインダであって、π共役系導電性高分子同士を結着させるものであると記載されており、上記5エには、π共役系導電性高分子の具体例としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましいと記載されている。また、甲5発明の「バイロナールMD1245」はエポキシ樹脂に代えて使用しているものであり、エポキシ樹脂は上記5オによれば、反応性樹脂として好ましいとされているものである。以上から、甲5発明において、「バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059A」が反応した反応物は、バインダとして機能するポリマーと認められる。
また、甲5発明において、PEDOT-PSS水溶液に、バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059Aを反応させる際に、界面活性剤を使用することは記載されていないから、「バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059A」が反応した反応物は、界面活性剤がなくても水に分散するポリマー、すなわち、「自己分散型ポリマー」であるといえる。
さらに、「バイロナールMD1245」は、上述のとおり、「解離性基含有自己分散型ポリマー」の具体例であり、「解離性基」を含有するポリマーであるから、「バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059A」が反応した反応物も「解離性基」を含有するポリマーであるといえる。
したがって、甲5発明の「バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059A」が反応した反応物は、本件発明1の「解離性基含有自己分散型ポリマー」に相当し、いずれも、バインダーとして機能するポリマーである。

カ 甲5発明の「導電性高分子溶液」は、「導電性塗膜」を形成するために「透明なポリエチレンテレフタレートフィルム」に塗布される水溶液である。そして、この水溶液の中には、水に不溶である、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」と、「バイロナールMD1245と、アルコキシシランの縮合物であるX-41-1059A」が反応した反応物が含有されているから、分散液であることは明らかである。
一方、本件発明1の「分散液」は、「透明な有機化合物層」を形成するために「透明な基材」に塗布される分散液である。
したがって、上記ア、イの検討事項を勘案すれば、甲5発明の「導電性高分子溶液」は本件発明1の「分散液」に相当する。

キ 本件発明1の「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」とは、上記(1-1)エに記載した合成例1に則して言えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)と3.4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)が重合して生成された導電性高分子化合物CP-1における、PEDOTに対するPSSの重量比を意味しているものである。
一方、甲5発明において、「重量比」が「2.58」とは、「PEDOT-PSS水溶液」を製造するために使用された原料としての、「EDOT」に対する「PSS」の重量比であり、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比ではない。そして、甲5発明において、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどれだけであるかは、甲第5号証に記載されておらず、不明である。

(3-2)本件発明1と甲5発明の一致点と相違点
上記(3-1)の検討から、本件発明1と甲5発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「透明な基材と、前記基材上に形成された有機化合物層と、を備える導電膜であって、
前記有機化合物層は、カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、解離性基含有自己分散型ポリマーと、を含有する分散液を用いて形成されている、
ことを特徴とする導電膜。」

≪相違点≫
相違点5:「有機化合物層」及び「導電膜」が、本件発明1においては、「透明」であるのに対して、甲5発明においては、「透明」であるか不明である点。
相違点6:「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」が、本件発明1においては、「0.5以上2.5未満」であるのに対して、甲5発明においては不明である点。

(3-3)相違点についての判断
(3-3-1)相違点5について
甲5発明は、「帯電防止性シート」の発明であるところ、帯電防止性シートを透明にすることは、甲第5号証には記載も示唆もされていないし、技術常識であるともいえない。
したがって、甲5発明において、「導電性塗膜」と「帯電防止性シート」を透明にすること、すなわち、相違点5に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(3-3-2)相違点6について
ア 上記(3-1)キに記載したように、甲第5号証には、「PEDOT-PSS水溶液」を製造するために使用された原料である「EDOT」に対する「PSS」の重量比が「2.58」であることは記載されているが、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどれだけかについては、記載されておらず不明である。また、「EDOT」に対する「PSS」の重量比と、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比がどのような関係にあるかも不明であるから、「EDOT」に対する「PSS」の重量比から、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を算出することもできない。したがって、相違点6は、本件発明1と甲5発明との実質的な相違点でないとはいえない。
そこで、甲第4、6号証の記載に基づいて、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」における、「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を0.5以上2.5未満とすることが容易であるかについて検討する。

イ 上記(1-3-2)のウ、オにおいて検討したように、甲第4、6号証の記載に基づけば、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」における「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を0.24もしくは2.5とする動機付けを与えるとはいえるが、「0.5以上2.5未満」の範囲とする動機付けが示されているとはいえない。
したがって、甲5発明において、「ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)」における「PEDOT」に対する「PSS」の重量比を「0.5以上2.5未満」とすること、すなわち、相違点6に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(3-3-3)本件発明1についての検討のまとめ
以上検討したとおり、本件発明1は、甲5発明と相違点5及び相違点6のいずれの点でも相違しているので、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、甲第4?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3-4)本件発明2、4についての検討
本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(3-2)で検討したと同様に、甲5発明と、少なくとも相違点5及び相違点6の点で相違している。
したがって、本件発明4は甲第5号証に記載された発明であるということはできない。
また、上記(3-3)で検討したように、甲5発明において、甲第4、6号証に記載された発明に基づいて、相違点5及び相違点6に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易であるとはいえないから、甲5発明と少なくも相違点5及び相違点6において相違している本件発明2、4についても同様に、甲第4?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3-5)本件発明6についての検討
ア 本件発明6は本件発明1の製造方法に該当する発明であるところ、上記(3-1)の検討を参照して、本件発明6と甲5方法発明を対比すれば、一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「カチオン性π共役導電性高分子及びポリアニオンを有する導電性高分子化合物と、解離性基含有自己分散型ポリマーと、を含有する分散液を生成するステップと、
生成された前記分散液を用いて、基板上に有機化合物層を形成するステップと、
を含む、
ことを特徴とする導電膜の製造方法。」

≪相違点≫
相違点5’:「有機化合物層」及び「導電膜」が、本件発明1においては、「透明」であるのに対して、甲5発明においては、「透明」であるか不明である点。
相違点6’:「導電性高分子化合物における前記カチオン性π共役導電性高分子に対する前記ポリアニオンの重量比」が、本件発明1においては、「0.5以上2.5未満」であるのに対して、甲5発明においては不明である点。

イ 相違点5’、6’は、それぞれ、相違点5、6と同じであるから、相違点についての上記(3-3)の検討をそのまま採用することができる。
したがって、本件発明6は甲第5号証に記載された発明であるということはできない。
また、本件発明6は、甲第4?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、4、5、6に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、4、5、6に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-05 
出願番号 特願2012-13078(P2012-13078)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01B)
P 1 652・ 113- Y (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 池渕 立
小川 進
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5834954号(P5834954)
権利者 コニカミノルタ株式会社
発明の名称 透明導電膜及び有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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