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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60R 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B60R 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B60R 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B60R |
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管理番号 | 1321267 |
異議申立番号 | 異議2016-700173 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-02-26 |
確定日 | 2016-11-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5769738号発明「自動車用遮音トリム部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5769738号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5769738号の請求項1-10に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)3月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年3月9日、欧州特許庁)を国際出願日として特許出願され、平成27年7月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人秋山満により特許異議の申立てがされ、当審において、平成28年5月23日付けで取消理由を通知し、平成28年8月24日付けで意見書が提出されたものである。 2.本件発明 特許第5769738号の請求項1-10に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」-「本件発明10」という。)。 「【請求項1】 質量層と、デカップリング層(1)と、を具え、音響質量ばね特性を有する遮音トリム部品であって、 前記質量層は、多孔質繊維層(3)と、薄い不浸透性バリア層(2)と、を有し、 前記バリア層(2)は、前記多孔質繊維層(3)と、前記デカップリング層(1)と、の間に配置され、 全層はともに積層され、 AWを前記多孔質繊維層(3)の面積質量(g/m^(2))、tを前記多孔質繊維層(3)の厚さ(mm)としたとき、前記多孔質繊維層(3)は少なくとも96×AW×tの動的ヤング率(Pa)を有する、 ことを特徴とする遮音トリム部品。 【請求項2】 前記多孔質繊維層(3)の前記面積質量AWが、500g/m^(2)から2000g/m^(2)である、 請求項1に記載の遮音トリム部品。 【請求項3】 前記多孔質繊維層(3)の前記厚さtが、1mmから10mmである、 請求項1または2に記載の遮音トリム部品。 【請求項4】 追加の吸音層(4)が、前記多孔質繊維層(3)の上に少なくとも部分的に設けられている、 請求項1?3のいずれか1項に記載の遮音トリム部品。 【請求項5】 少なくとも前記吸音層(4)が、スクリム層(5)によって覆われている、 請求項4に記載の遮音トリム部品。 【請求項6】 前記薄い不浸透性バリア層(2)が、少なくとも40μmの厚さを有する、 請求項1?5のいずれか1項に記載の遮音トリム部品。 【請求項7】 前記薄い不浸透性バリア層(2)が、60から80μmの厚さを有する、 請求項1?5のいずれか1項に記載の遮音トリム部品。 【請求項8】 前記多孔質繊維層(3)は、少なくとも部分的に、スクリム層(5)によって覆われている、 請求項1?7のいずれか1項に記載の遮音トリム部品。 【請求項9】 装飾層、カーペット層、房状のカーペットあるいは不織布のカーペットが、前記多孔質繊維層(3)の上に設けられている、 請求項1?8のいずれか1項に記載の遮音トリム部品。 【請求項10】 遮音材として、あるいは、遮音材および吸音材の組み合わせとして、請求項1?9のいずれか1項に記載の遮音トリム部品を、乗用車およびトラックのような車両内にて、内部ダッシュ、床仕上げ材、ホイールライナーのような自動車用のトリム部品として使用する方法。」 3.取消理由の概要 当審において、本件発明1-10に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 刊行物1(欧州特許出願公開第2159786号明細書、特許異議申立書での甲第1号証の1)により、本件発明1-10は、特許法第29条第1項、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 4.刊行物1の記載事項および発明 (1)刊行物1の対応日本出願の公開公報である特開2010-76756号公報(特許異議申立書での甲第1号証の2)を参考にすれば、刊行物1には以下の記載がある。 「[0001] 本発明は、 自動車の表面に面して配置されるように意図された弾性のある多孔性のバネ基層と、 バネ基層に組みつけられ、200g/m^(2)未満の面密度を示す中間の薄膜と、 500N.m^(-3).sよりも大きな通気抵抗を示す多孔性の硬化層であって、中間の薄膜上に配置された多孔性の硬化層と、 多孔性の硬化層上に配置された最上層とを備えるタイプの、自動車用の防音アセンブリに関する。」、 「[0051] 本発明による第1のアセンブリ10Aは、たとえば、15mmの厚さを有し、800g/m^(2)の面密度を示す、綿繊維およびエポキシ樹脂のフェルトのバネ基層14、および50g/m^(2)の質量を示すポリエチレン/ポリアミドから作製された不透過性の中間の薄膜16を備える。アセンブリ10Aは、さらに、10mmの厚さ、1,600g/m^(2)の面密度、1,525N.m^(-3).sの通気抵抗を有する、綿繊維およびエポキシ樹脂のフェルトの多孔性の硬化層18、および1,000N.m^(-3).sの通気抵抗を有し、100g/m^(2)の面密度を有する不織布の抵抗性最上層20を備える。」、及び、 「[0065] さらに硬化層18は、バネ基層14よりも剛性がある。したがって、この硬化層18は、6.10^(3)Paより大きなヤング係数、たとえば6.10^(3)Paと6.10^(6)Paの間のヤング係数、有利には約15.10^(3)Paに等しいヤング係数を示す。」 (2) 刊行物1に記載の発明 以上の記載および刊行物1の第1図の記載内容からすれば、甲第1号証の1には、 「多孔性の硬化層18と中間の薄膜層16とバネ基層14 とからなる自動車用防音アセンブリ10Aであって、多孔性の硬化層18が面積密度1,600g/m^(2) 、厚さ10mm、であり、6×10^(3) Paと6×10^(6) Paの間のヤング係数である、自動車用防音アセンブリ」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 5.判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「自動車用防音アセンブリ」は、本件発明1の「遮音トリム部品」に相当する。 また、引用発明の「自動車用防音アセンブリ」も本件発明1の「遮音トリム部品」と同じく、質量層である比較的硬い層(多孔性の硬化層18)とばね層である比較的柔らかい層(バネ基層14)を組み合わせた部材で防音部材を構成する点で同じである。よって、引用発明の「自動車用防音アセンブリ」は「音響質量ばね特性を有」しているといえる。 さらに、引用発明の「バネ基層14」は自動車用防音アセンブリ(遮音トリム部品)の第1層目であるという点で本件発明1の「デカップリング層」に相当する。また、引用発明の「中間の薄膜層16」と「多孔性の硬化層18」はこの順で「バネ基層14」の上に積層されており、さらに、「多孔性の硬化層18」は、多孔繊維層といえる綿繊維およびエポキシ樹脂のフェルトであり、「中間の薄膜層16」は不透過性(不浸透性)である。このことから、引用発明の「多孔性の硬化層18」と「中間の薄膜層16」は、それぞれ、本件発明1の「多孔質繊維層」と「薄い不浸透性バリア層」に相当すると共に、この両者で本件発明1の「質量層」に相当する構成をなしている。結局、引用発明は、本件発明1の、「質量層は、多孔質繊維層(3)と、薄い不浸透性バリア層(2)と、を有し、前記バリア層(2)は、前記多孔質繊維層(3)と、デカップリング層(1)と、の間に配置され、全層はともに積層され」るに相当する構成も有する。 以上より、両者の一致点、および、相違点は次のとおりとなる。 <一致点> 「質量層と、デカップリング層と、を具え、音響質量ばね特性を有する遮音トリム部品であって、 前記質量層は、多孔質繊維層と、薄い不浸透性バリア層と、を有し、 前記バリア層は、前記多孔質繊維層と、前記デカップリング層と、の間に配置され、 全層はともに積層されてる遮音トリム部品 」 <相違点> 本件発明1は、多孔質繊維層の動的ヤング率について「AWを前記多孔質繊維層(3)の面積質量(g/m^(2))、tを前記多孔質繊維層(3)の厚さ(mm)としたとき、前記多孔質繊維層(3)は少なくとも96×AW×tの動的ヤング率(Pa)を有する」と規定しているのに対し、引用発明の、多孔性の硬化層18については、「ヤング係数」が「6×10^(3)Paと6×10^(6)Paの間」であるとしいる点。 上記相違点について検討する。 本件発明1が多孔質繊維層の剛性を表す物理的指標に関し、「動的ヤング率」について数式をもって定めているのに対し、引用発明では、硬化層18(多孔質繊維層に相当する)「ヤング係数」の数値をもって定めているものであるといえる。 ここで、刊行物1の「ヤング係数」については、刊行物1中に特に説明がされていないことから、材料の弾性変形領域における、応力-歪み曲線の傾きから得られる値、すなわち、静的な荷重に対するヤング率(ヤング係数)であると考えることが技術常識上妥当である。これに対し、本件発明1の「動的ヤング率」は、動的方法で測定されたヤング率であり、しかも、静的方法で測定されたヤング率と、動的方法で測定されたヤング率との間の直接的な相関関係は無いという、明細書の記載(段落【0039】-【0046】、特に、段落【0045】)からすれば、本件発明1の「動的ヤング率」と刊行物1に記載の発明の「ヤング係数」は異なるものとなる。 よって、この動的ヤング率について「AWを前記多孔質繊維層(3)の面積質量(g/m^(2))、tを前記多孔質繊維層(3)の厚さ(mm)としたとき、前記多孔質繊維層(3)は少なくとも96×AW×t」とした点は、刊行物1には記載されていない。(なお、異議申立人の提出したその他の甲第2号証から甲第7号証にもこの点は記載されていない。) また、本件発明1は、「AWを前記多孔質繊維層(3)の面積質量(g/m^(2))、tを前記多孔質繊維層(3)の厚さ(mm)としたとき、前記多孔質繊維層(3)は少なくとも96×AW×tの動的ヤング率(Pa)を有する」としたことにより、「車両内の防音に重要な周波数の範囲にわたって遮音するトリム部品を提供する」ことができるという顕著な作用効果を奏する(段落【0016】-【0019】)。 したがって、本件発明1は、引用発明とはいえないし、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ 本件発明2-10について 本件発明2-10に係る発明は、本件発明1を減縮したものである。 よって、本件発明2-10は、本件発明1と同様の理由で、引用発明とはいえないし、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人秋山満は、特許異議申立書において、請求項1-10に係る発明において、動的ヤング率の上限値が特定されておらず、明細書の開示範囲を逸脱するので、特許法第36条第6項1号の要件を満たさない。請求項1-10に係る発明の、多孔質繊維層の動的ヤング率の極めて高い場合を一体どのようにしたら製造できるのか発明の詳細な説明では何ら説明されておらず、出願時の技術常識に照らして実施不可能であるので、特許法第36条第4甲第1号の要件を満たさないと主張している。 しかしながら、請求項1-10に係る発明である「遮音トリム部品」に要求される機械的、物理的性質に基づいて考えれば、その動的ヤング率の上限値は、出願当時の当業者における技術的常識に照らして達成可能な常識的な値が暗示されているといえ、請求項1-10に係る発明おいて、動的ヤング率の上限値が特定されていないことをもって、請求項1-10に係る発明が明細書の開示の範囲を逸脱するとはいえない。また、同様の理由により、明細書の記載は請求項1-10に係る発明を実施する程度に記載されていないとはいえない。 よって、上記特許異議申立人の主張は理由がない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本件特許1-10は、取消理由通知に記載した取消理由および特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許1-10を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-11-07 |
出願番号 | 特願2012-556503(P2012-556503) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(B60R)
P 1 651・ 537- Y (B60R) P 1 651・ 113- Y (B60R) P 1 651・ 121- Y (B60R) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田中 成彦、川村 健一 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 氏原 康宏 |
登録日 | 2015-07-03 |
登録番号 | 特許第5769738号(P5769738) |
権利者 | オートニアム マネジメント アクチエンゲゼルシャフト |
発明の名称 | 自動車用遮音トリム部品 |
代理人 | 塩川 和哉 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 出野 知 |