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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A63H
管理番号 1321513
審判番号 不服2016-3343  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-03 
確定日 2016-12-02 
事件の表示 特願2013-184243「玩具システム及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月19日出願公開、特開2015- 51064、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年9月5日の出願であって、平成27年3月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月22日付けで手続補正がされ、同年11月30日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年12月3日)、これに対し、平成28年3月3日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において同年9月30日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年10月12日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成28年10月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められる。本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムであって、
前記情報端末は、
前記副玩具からIDを受信するID受信手段と、
前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを前記サーバから取得する演出制御データ取得手段と、
前記演出制御データ取得手段が取得した、前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを前記主玩具に送信する演出制御データ送信手段と、
を有し、
前記サーバは、
前記副玩具のIDに対応する演出制御データを記憶しており、
前記主玩具は、
前記演出制御データ送信手段から送信された、前記演出制御データ取得手段が取得した前記ID受信手段で受信された前記副玩具のIDに対応する演出制御データを記憶可能である、
ことを特徴とする玩具システム。
【請求項2】
副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムであって、
前記主玩具は、一部又は全部のIDに対応する演出制御データが欠落した不全状態のテーブルデータを記憶しており、
前記サーバは、欠落している演出制御データを補充し、前記不全状態のテーブルデータのうちの各IDに応じた前記演出制御データそれぞれを個別に完全状態にするための更新制御データを記憶しており、
前記情報端末は、
前記副玩具からIDを受信するID受信手段と、
前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを完全状態とするための更新制御データを前記サーバから取得する更新制御データ取得手段と、
を有し、
前記情報端末または前記主玩具は、
前記主玩具に記憶されている前記テーブルデータの前記演出制御データを、前記更新制御データ取得手段により取得された更新制御データを用いて完全状態に更新する制御を行う更新制御手段と、
を備えた、
玩具システム。
【請求項3】
副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムであって、
前記主玩具は、前記副玩具の種類別の各IDと対応づけられた、完全状態となったときに各IDに応じた演出出力を行うことができるようになる演出制御データを格納したテーブルデータを不全状態で記憶しており、
前記サーバは、前記不全状態のテーブルデータのうちの前記演出制御データそれぞれを個別に完全状態にするための更新制御データを記憶しており、
前記情報端末は、
前記副玩具からIDを受信するID受信手段と、
前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを完全状態とするための更新制御データを前記サーバから取得する更新制御データ取得手段と、
を有し、
前記情報端末または前記主玩具は、
前記主玩具に記憶されている前記テーブルデータの前記演出制御データを、前記更新制御データ取得手段により取得された更新制御データを用いて完全状態に更新する制御を行う更新制御手段と、
を備えた、
玩具システム。
【請求項4】
前記不全状態のテーブルデータは、一部又は全部のIDに対応する演出制御データが暗号化された状態のデータであり、
前記サーバは、暗号化されている演出制御データを復号するためのデータとして前記更新制御データを記憶しており、
前記更新制御手段は、前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを復号することで前記更新する制御を行う、
請求項3に記載の玩具システム。
【請求項5】
副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムにおける前記情報端末としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
前記副玩具からIDを受信する制御を行うID受信制御手段、
前記ID受信制御手段で受信されたIDに対応する演出制御データを前記サーバから取得する演出制御データ取得手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項6】
副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムにおける前記情報端末としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記主玩具は、一部又は全部のIDに対応する演出制御データが欠落した不全状態のテーブルデータを記憶しており、
前記サーバは、欠落している演出制御データを補充し、前記不全状態のテーブルデータのうちの各IDに応じた前記演出制御データそれぞれを個別に完全状態にするための更新制御データを記憶しており、
前記コンピュータを、
前記副玩具からIDを受信するID受信手段、
前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを完全状態とするための更新制御データを前記サーバから取得する更新制御データ取得手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項7】
副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムにおける前記情報端末としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記主玩具は、前記副玩具の種類別の各IDと対応づけられた、完全状態となったときに各IDに応じた演出出力を行うことができるようになる演出制御データを格納したテーブルデータを不全状態で記憶しており、
前記サーバは、前記不全状態のテーブルデータのうちの前記演出制御データそれぞれを個別に完全状態にするための更新制御データを記憶しており、
前記コンピュータを、
前記副玩具からIDを受信するID受信手段、
前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを完全状態とするための更新制御データを前記サーバから取得する更新制御データ取得手段、
として機能させるためのプログラム。」

第3 原査定の理由について

1.原査定の理由の概要

(1)平成27年3月24日付け拒絶理由通知

「[理由1]
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
(1)請求項1,5
引用文献1,2
備考:
引用文献1には、「玩具、データ送信方法及びデータ送信システム」の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。
引用発明1は、識別データを記憶した玩具10をパーソナルコンピュータ20に接続すると、識別データがパーソナルコンピュータ20に読み出され、サーバ30へネットワーク40を介して自動的に送信され、サーバ30は送信されてきた識別データが登録されているか否かを判断し、登録されている場合には、コンテンツデータをパーソナルコンピュータ20へ送信するものである(要約,図1)。
また、引用発明1は、例えば、コンテンツがマンガである場合、玩具10がキャラクタとして登場し、ストーリーの進行に応じて様々な行動を起こす内容になっており、このコンテンツデータは、ストーリーの「最初」から「最後」までに、キャラクタ(玩具10)が行動を起こす場面に対応するデータ箇所P1?P6に、発光データ、音声データ、駆動データ及び振動データを適宜付加した構成になっており(段落0049)、これにより、マンガのストーリーでのキャラクタの行動に連動させて、玩具10の発光、音声出力、振動、頭部10cの動作が適宜可能となるものである(段落0050,図2)。
一方、引用文献2には、文字や図形の描画が可能な磁気ディスプレイ装置の本体2において(段落0001,図6)、リーダ16により交信範囲内に存在するキャラクタ3a?3eが検出され、そのIDが読み出されると、本体2の制御部11はキャラクタテーブル131に基づいて、読み出されたIDに対応する音を判別してスピーカ15により出力させる点が記載されており(要約,図1,2)、また、磁気ディスプレイ装置は、キャラクタ3a?3eにより図形を描画するだけでなく、その描画に伴って聴覚的な変化をもたらすことができるとともに(段落0067)、各キャラクタ3a?3eのICタグ30にLED33を接続することにより、ICタグ30と本体2とが交信している間、LED33を点灯させることができ、光学的な視覚効果を得ることができる点が記載されている(段落0068)。
引用文献2に記載された磁気ディスプレイ装置の本体2は、玩具ともいえるものであるところ(図1,6)、引用発明1に引用文献2に記載された上記事項を採用することは当業者に容易である。また、引用文献1に記載されたパーソナルコンピュータ20の通信機能を別体の装置とすることに、格別な困難性があるとまではいえないから、上記採用の際に、パーソナルコンピュータ20を、通信機能を有する「情報端末」と、種々の演出出力を行う「主玩具」との別体とするとともに、「主玩具」が、玩具10の識別データに対応したコンテンツデータを「演出制御データ」として、サーバ30から「情報端末」を介して受信して、本願請求項1に係る発明の如く構成することは、当業者が適宜設計し得る事項にすぎない。
してみれば、引用文献1,2の記載に基づき適宜設計変更して、本願請求項1に係る発明を構成することは、当業者が容易に想到し得るものである。
請求項5も同趣旨である。

(2)請求項2-4,6-7
引用文献1,2
備考:
上記(1)と共通する部分は省略する。
引用文献2には、本体2内の所定の記憶領域に、各キャラクタ3a?3eに固有の識別情報及び各キャラクタ3a?3eに対応してスピーカ15から出力する音の種類を定めたキャラクタテーブル131を記憶している点が記載されているところ(段落0040,図2)、引用発明1は、コンテンツデータの全部に限らず、所要部分がパーソナルコンピュータ20へ送信される場合をも想定していることからすれば(段落0051)、上記採用の際に、「主玩具」で「不完全状態のデータテーブル」を記憶し、サーバ30からコンテンツデータの一部を受信して補充することにより完全状態に更新して、本願請求項2に係る発明の如く構成することも設計事項にすぎない。
請求項3も同様である。
また、情報通信分野において、暗号化されたデータを送受信することも一般的に行われているから、上記採用の際に上記一般的事項を採用して、本願請求項4に係る発明の如く構成することも設計事項にすぎない。
してみれば、引用文献1,2の記載及び一般的事項に基づき適宜設計変更して、本願請求項2-4に係る発明を構成することは、当業者が容易に想到し得るものである。
請求項6,7も同趣旨である。

引用文献等一覧
1.特開2005-149146号公報
2.特開2006-116122号公報」

(2)平成27年11月30日付け拒絶査定

「この出願については、平成27年 3月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

●理由1(特許法第29条第2項)について
請求項 1-7
引用文献等 1-4
備考
出願人は平成27年5月22日付けの意見書の第2(3)において、『引用文献1-2に記載の発明は、本願請求項1-3,5-7に係る発明の『副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末』を具備した点について、記載も示唆もございません。』と主張する。
しかしながら、引用文献1に記載のようなパーソナルコンピュータには、通信機能や玩具的な機能、及びその他の種々の機能が搭載されていることは一般的に知られており、また、携帯電話端末を介してゲーム機がサーバと通信することは一般的に行われている事項であるから(必要であれば、引用文献3(要約,図2),引用文献4(段落0045,0046,図4))、仮に、出願人が主張するように、引用文献1,2に直接の記載がなくても、本願請求項1-7に係る発明は、引用発明1に引用文献2に記載の事項及び一般的事項を採用することにより、通常の創作能力を発揮して適宜設計変更したものにすぎないから、依然として進歩性を有するとまではいえず、また、得られる効果も予測し得る程度である、といわざるを得ない。
したがって、出願人の上記主張は採用できない。
その他の事項については、同拒絶理由通知の理由1(1),(2)のとおりである。

<引用文献等一覧>
1.特開2005-149146号公報
2.特開2006-116122号公報
3.特開2001-237984号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
4.特開2011-50784号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)」

2.原査定の理由の判断

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-149146号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア.「【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るデータ送信システム1の概略図である。本実施形態のデータ送信システム1は、外部の通信機器である携帯型のパーソナルコンピュータ20の一側面に設けられた接続部21に玩具10を接続することで、ネットワーク40を介して特定のサーバ30(Webサーバ又はFTPサーバ)との通信接続を確立し、サーバ30から所要のデータをパーソナルコンピュータ20で取得できるようにしたものである。」

イ.「【0044】
(中略)サーバ30はサーバ用内部バス36に通信接続部31、CPU32、RAM33、ROM34及びハードディスク35を接続した構成にしている。」

ウ.「【0045】
ハードディスク35は、各種プログラム及びデータ等を記憶しており、本実施形態では、サーバ通信プログラム、判断プログラム、メニューデータ、登録申込用の登録申込みデータ、登録テーブル及び各種コンテンツデータを記憶している。」

エ.「【0049】
(中略)このコンテンツデータはストーリーの「最初」から「最後」までに、キャラクタ(玩具10)が行動を起こす場面に対応するデータ箇所P1?P6に発光データ、音声データ、駆動データ及び振動データを適宜付加した構成にしている。」

オ.「【0051】
なお、上述したコンテンツデータの全部又は所要部分がパーソナルコンピュータ20へ一括して送信される場合、パーソナルコンピュータ20におけるコンテンツデータの再生進行に応じて、発光データ及び音声データ等の付加箇所が再生された時に、コンテンツ再生プログラムの規定内容に基づき発光データ及び音声データ等が玩具10へ出力され、コンテンツデータの内容と人形の発光、音声出力等は確実に連動される。」

カ.「【0055】
(中略)また、玩具10の接続を検出した場合(S1:YES)、パーソナルコンピュータ20のCPU23は玩具10から識別データ及び通信起動データを読み出し(S2)、通信起動データに基づきサーバ30との通信接続を確立して識別データをサーバ30へ送信する(S3)。

キ.「【0056】
(中略)また、識別データの登録判断(S4)で、識別データの登録が有る場合、又は上述した識別データの登録が完了した場合(S6)、サーバ30は所要のコンテンツデータをパーソナルコンピュータ20へ送信し、パーソナルコンピュータ20では送信されてきたコンテンツデータを受信して再生する(S7)。上述したコンテンツデータの送信の際には、付加された発光データ及び音声データ等も送信する。」

ク.「【0057】
(中略)さらに、ストーリーの進行に応じてパーソナルコンピュータ20は、送信されてきたコンテンツデータに付加された発声データ及び音声データ等を玩具10へ出力するので、パーソナルコンピュータ20に接続された玩具10がコンテンツの進行に応じたキャラクタの行動に伴い発光、音声出力等を行うため、ユーザはコンテンツ及び玩具10の連携した演出を享受できる。」

ケ.図1からは、パーソナルコンピュータ20が玩具10とは別体であることが看取できる。

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「パーソナルコンピュータ20におけるコンテンツデータの再生進行に応じて、発光データ及び音声データ等の付加箇所が再生された時に、コンテンツ再生プログラムの規定内容に基づき発光データ及び音声データ等が玩具10へ出力され、コンテンツの進行に応じたキャラクタの行動に伴い発光、音声出力等を行う玩具10と、玩具10とは別体のパーソナルコンピュータ20と、サーバ30とを有するデータ送信システム1であって、
パーソナルコンピュータ20は、
玩具10から識別データを読み出すCPU23を有し、
識別データの登録判断(S4)で、識別データの登録が有る場合、又は上述した識別データの登録が完了した場合(S6)、サーバ30は所要のコンテンツデータをパーソナルコンピュータ20へ送信し、パーソナルコンピュータ20では送信されてきたコンテンツデータを受信し、コンテンツデータは発光データ、音声データ、駆動データ及び振動データを適宜付加したものであり、
サーバ30は、
ハードディスク35を接続した構成にしており、ハードディスク35が各種コンテンツデータを記憶している
データ送信システム1。」

同じく原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-116122号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

コ.「【0024】
本実施の形態では、RFID(Radio Frequency IDentification)システムを適用し、磁石が形成され、当該磁石側を磁気ディスプレイに載置することにより描画可能な玩具体(以下、キャラクタという)に各キャラクタに固有の識別情報(以下、IDという)を記憶したRFIDタグ(以下、ICタグという)を備え、磁気ディスプレイが形成された本体にICタグからIDを読み出すリーダを備えて、磁気ディスプレイ上に載置されたキャラクタを識別し、そのキャラクタに応じた音を出力する例を説明する。」

サ.「【0025】
まず、構成を説明する。
図1に、本実施形態における磁気ディスプレイ装置1の外観図を示す。」

シ.「【0032】
図2に、本体2の内部構成を示す。
図2に示すように、本体2は、制御部11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13、操作部14、スピーカ15、リーダ16を備えて構成されており、リーダ16を介してキャラクタ3a?3eに内蔵されたICタグ30と交信を行う。」

ス.「【0035】
音出力処理では、リーダ16により交信範囲内に存在するキャラクタ3a?3eが検出され、そのIDが読み出されると、ROM13のキャラクタテーブル131に基づいて、現在設定されている音モード及び読み出されたIDに対応する音又はメロディ音楽を判別し、その音情報をROM13から読み出してスピーカ15により出力させる。」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「各キャラクタに固有の識別情報(以下、IDという)を記憶したRFIDタグ(以下、ICタグという)を備えるキャラクタ3a?3eが検出され、そのIDが読み出されると、読み出されたIDに対応する音又はメロディ音楽を判別し、その音情報が出力されるスピーカ15を備える本体2を備える磁気ディスプレイ装置1であって、
本体2は、
読み出されたIDに対応する音又はメロディ音楽の音情報が読み出されるROM13を備える
磁気ディスプレイ装置1。」

(3)対比

本願発明1と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「発光、音声出力等を行う玩具10」、「玩具10とは別体のパーソナルコンピュータ20」及び「サーバ30」は、それぞれ本願発明1の「発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具」、「前記主玩具とは別体の情報端末」及び「サーバ」に相当する。また、引用発明1の「データ送信システム1」は「玩具10」を含むから、本願発明1の「玩具システム」に相当する。

引用発明1の「識別データ」は本願発明1の「ID」に相当し、引用発明1の「玩具10から識別データ及び通信起動データを読み出すCPU23」と、本願発明1の「前記副玩具からIDを受信するID受信手段」とは、「IDを受信するID受信手段」との概念で共通する。

引用発明1は「識別データの登録判断(S4)で、識別データの登録が有る場合、又は上述した識別データの登録が完了した場合(S6)、サーバ30は所要のコンテンツデータをパーソナルコンピュータ20へ送信し、パーソナルコンピュータ20では送信されてきたコンテンツデータを受信」する構成を備えており、ここで「コンテンツデータは発光データ、音声データ、駆動データ及び振動データを適宜付加した」ものであるから、引用発明1の当該構成は、本願発明1の「前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを前記サーバから取得する演出制御データ取得手段」に相当する。

引用発明1の「サーバ30は、ハードディスク35が各種コンテンツデータを記憶している」ことと、本願発明1の「前記サーバは、前記副玩具のIDに対応する演出制御データを記憶して」いることは、前者の「コンテンツデータ」が「発光データ、音声データ、駆動データ及び振動データを適宜付加した」ものであることを踏まえると、「前記サーバは、前記IDに対応する演出制御データを記憶している」との概念で共通する。

したがって、両者は、

「発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具と、前記主玩具とは別体の情報端末と、サーバとを具備した玩具システムであって、
前記情報端末は、
IDを受信するID受信手段と、
前記ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを前記サーバから取得する演出制御データ取得手段と、
を有し、
前記サーバは、
前記IDに対応する演出制御データを記憶している、
玩具システム。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
主玩具が演出出力を行うのが、前者においては、「副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合」であるに対して、後者においては、主玩具はコンテンツデータの再生進行に応じて演出出力を行う点。

[相違点2]
情報端末が有するID受信手段が、前者では「副玩具から」IDを受信するのに対して、後者では主玩具からIDを受信する点。

[相違点3]
前者の情報端末が、「演出制御データ取得手段が取得した、ID受信手段で受信されたIDに対応する演出制御データを主玩具に送信する演出制御データ送信手段」を有するのに対して、後者の情報端末はそのような手段を有さない点。

[相違点4]
前者の主玩具が、「演出制御データ送信手段から送信された、演出制御データ取得手段が取得したID受信手段で受信された副玩具のIDに対応する演出制御データを記憶可能である」のに対して、後者の主玩具は演出制御データを記憶しない点。

(3)判断

上記相違点2について検討する。

引用発明2には、IDの受信に関して、「各キャラクタに固有の識別情報(以下、IDという)を記憶したRFIDタグ(以下、ICタグという)を備えるキャラクタ3a?3eが検出され、そのIDが読み出されると、読み出されたIDに対応する音又はメロディ音楽を判別し、その音情報が出力されるスピーカ15を備える本体2」が記載されており、「本体2」、「キャラクタ3a?3e」及び「ID」は、それぞれ本願発明1における「主玩具」、「副玩具」及び「ID」に相当するから、当該「本体2」は、本願発明1の「副玩具の種類によって異なるIDを保持する当該副玩具から当該IDを読み取った場合に、発光、表示及び音出力のうちの少なくとも1つによる演出出力を行う主玩具」に相当する。
そうすると、引用発明2は、IDの受信に関して、主玩具が副玩具からIDを読み取ることは開示しているものの、上位相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。

原査定の拒絶査定において周知技術を示す文献として挙げられた引用文献3及び4には、それぞれ本願発明1の「主玩具」に相当する「携帯ゲーム機1」(引用文献3)及び「ゲーム機1」(引用文献4)は記載されているものの、本願発明1の「副玩具」に相当する発明特定事項は開示されていない。

また、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そうすると、引用発明1において、引用発明2を適用したとしても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。

したがって、仮に相違点1、3及び4に係る本願発明1の発明特定事項とすることが容易に想到できたとしても、本願発明1は、引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

本願発明2及び3の「前記情報端末は、前記副玩具からIDを受信するID受信手段」を有する点は、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と同一の発明特定事項である。また、本願発明4は、本願発明3をさらに限定したものである。

本願発明5ないし7は、それぞれ本願発明1ないし3をプログラムとしたものであって、本願発明5ないし7の「前記コンピュータを、前記副玩具からIDを受信する制御を行うID受信制御手段」「として機能させる」ことは、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と実質的に同一の発明特定事項である。

すると、本願発明2ないし7は、本願発明1と同様に、当業者が引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要

「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項2及び6記載の「前記演出制御データそれぞれを個別に完全状態にする」とは、「演出制御データ」をどのようなまとまりで完全状態にすることを指すのか(特に「ID」との対応関係はどのようになっているのか)が不明である。
よって、請求項2及び6に係る発明は明確でない。

(2)請求項3及び7の「前記主玩具は、完全状態となったときに前記副玩具の種類別の各IDに対応づけた演出制御データを格納して各IDに応じた演出出力を行うことができるようになるテーブルデータを不全状態で記憶しており」という記載は、「テーブルデータ」全体が「完全状態となったときに」演出出力を行うことができることを指すのか、「前記副玩具の種類別の各IDに対応づけた演出制御データ」が「完全状態となったときに」演出出力を行うことができることを指すのかが不明である。
よって、請求項3?4及び7に係る発明は明確でない。 」

2.当審拒絶理由の判断

平成28年10月12日付け手続補正書によって、本願の請求項2ないし7は上記「第2 本願発明」のとおりに補正された。

このことにより、請求項2ないし4及び7に係る発明は明確となった。

よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-16 
出願番号 特願2013-184243(P2013-184243)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A63H)
P 1 8・ 537- WY (A63H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宇佐田 健二  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 玩具システム及びプログラム  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康弘  
代理人 高柳 司郎  
代理人 下山 治  

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