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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02F |
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管理番号 | 1321603 |
審判番号 | 不服2015-20243 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-11 |
確定日 | 2016-11-29 |
事件の表示 | 特願2011- 28171「水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月 6日出願公開、特開2012-167583、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年2月14日の出願であって、平成26年6月17日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年8月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年2月24日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し平成27年3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年8月26日付けで、平成27年3月31日に提出された手続補正書でした補正についての補正の却下の決定がされ、同日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年11月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 平成27年11月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項に関しては、本件補正前の(すなわち、平成26年8月7日提出の手続補正書によって補正された)特許請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。 (ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 シリンダに接合されるデッキ面が下端に設けられ、冷却水を通過させる冷却水通路が内部に設けられ、自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造であって、 前記冷却水通路の出口が一側壁側に設けられ、該出口は、該一側壁に沿って横長に形成され、且つ、前記デッキ面に対して斜め上向きに設けられ、 前記シリンダヘッドの上端には、カムシャフトのカムジャーナルを軸支するカムジャーナル受部が設けられ、 前記出口の周囲にはアウトレットホースを接合可能なフランジ部が設けられ、該フランジ部は、前記カムシャフトの軸方向視において、前記カムジャーナル受部と重なるように形成され、 前記フランジ部は、前記一側壁の上端部に設けられ、前記フランジ部の下側に形成される空間に前記自動二輪車のメインフレームが配置されることを特徴とする水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造。」 (イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 シリンダに接合されるデッキ面が下端に設けられ、冷却水を通過させる冷却水通路が内部に設けられ、自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造であって、 前記冷却水通路の出口が一側壁側に設けられ、該出口は、該一側壁に沿って横長に形成され、且つ、前記デッキ面に対して斜め上向きに設けられ、 前記シリンダヘッドの上端には、カムシャフトのカムジャーナルを軸支するカムジャーナル受部が前側の排気側と後側の吸気側にそれぞれ設けられ、 前記出口の周囲にはアウトレットホースを接合可能なフランジ部が設けられ、該フランジ部は、前記カムシャフトの軸方向視において、前側の排気側の前記カムジャーナル受部とのみ重なるように形成され、 前記フランジ部は、前記一側壁の上端部に設けられ、前記フランジ部の下側に形成される空間に前記自動二輪車のメインフレームが配置されることを特徴とする水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。) 2.補正の適否 本件補正は、特許請求の範囲については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項である「カムジャーナル受部」及び「フランジ部」に関し、「カムジャーナル受部」が「前側の排気側と後側の吸気側にそれぞれ」設けられる旨、及び「フランジ部」がカムシャフトの軸方向視において、「前側の排気側の」前記カムジャーナル受部と「のみ」重なるように形成される旨を限定するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 2.-1 引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-108333号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「水冷式内燃機関」に関し、図面とともに、次のような記載がある。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、自動二輪車用水冷式内燃機関の冷却水出口構造に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0002】 【従来の技術】 従来の内燃機関冷却水の通路構造では、シリンダヘッド内の水ジャケットから排出される冷却水は、シリンダヘッドの前部(排気側)もしくは上前部に設けられた水ジョイントを経て、ラジエータへ送られている(後略)」(段落【0002】) (ウ)「【0004】 【解決しようとする課題】 従来、コンパクトなシリンダヘッドでは、カムチェーン、カムシャフト、給・排気弁、点火プラグ等が水ジャケットの外側に密に配置されているので、水ジョイントの配置が困難であった。」(段落【0004】) (エ)「【0005】 【課題を解決するための手段および効果】 前記従来の課題を解決するために、本発明は給・排気弁を作動させるカムのカムシャフトがシリンダヘッド内に設けられた水冷式内燃機関において、前記カムシャフトの軸線の延長上に隣設して点火プラグが設けられ、前記シリンダヘッドに形成された水ジャケットからラジエータへ送給される冷却水の取出口が前記点火プラグに隣接して設けられたことを特徴とするものである。したがって本発明の水冷式内燃機関では、カムシャフトや給・排気弁等の動弁機能部材の配置を変更することなく、また水ジョイントを取付けるために新たにボスを設けることなく、冷却水の取出口を設けることができ、シリンダヘッドの構造がコンパクトになる。」(段落【0005】) (オ)「【0006】 【発明の実施の形態】 図1は本発明の水冷式内燃機関の一実施例を示す縦断正面図(図2のI-I矢視断面図)、図2は図1のII-II矢視水平断面図である。まず図1において、1はシリンダブロック、2はシリンダヘッド、3はヘッドカバー、5は上クランクケース、6は下クランクケースをそれぞれ示す。(後略)」(段落【0006】) (カ)「【0007】 一方、シリンダヘッド2内では、図2も参照すると、カムシャフト15がカムホルダー16によって回転自在に支持されており、上記クランク軸11の回転がスプロケット12、カムチェーン13、スプロケット14を介して、このカムシャフト15に伝達される。そしてこのカムシャフト15に形成されたカム15aの動きが、図示しないロッカーアームを介して、給気弁17および排気弁18を作動させる。(後略)」(段落【0007】) (キ)「【0008】 またシリンダブロック1とシリンダヘッド2の壁内にはそれぞれ水ジャケット1a、水ジャケット2aが形成されており、図示しないラジエータで冷却された冷却水によって、シリンダブロック1とシリンダヘッド2を冷却するようになっている。」(段落【0008】) (ク)「【0009】 (中略)また上記シリンダヘッド2に形成された水ジャケット2aからラジエータに戻される冷却水の取出口として、水ジョイント23が、上記同様カムシャフト15aの軸線の延長上、上記点火プラグ22の更に外方に隣接して設けられている。図2中には、この水ジョイント23の取付孔23aが示されている。この水ジョイント23は、図1に示されるようにL字形になっていて、ラジエータの方向に排出口を向けて取付けられる。」(段落【0009】) (ケ)「【0010】 本実施例では、カムシャフト15の軸線の延長上に隣接して点火プラグ22が設けられ、またシリンダヘッド2に形成された水ジャケット2aからラジエータに戻される冷却水の取出口として、水ジョイント23が点火プラグ22の外方に隣接して設けられるので、カムシャフト15や給気弁17・排気弁18等の動弁機能部材の配置を変更することなく、また水ジョイント23を取付けるためのボスを新たに設けることなく、冷却水の取出口を設けることができ、シリンダヘッド2の構造がコンパクトになる。(後略)」(段落【0010】) (2)引用文献1記載の事項 上記(1)(ア)ないし(ケ)並びに図1及び2の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。 (サ)上記(1)(ア)ないし(ケ)の記載から、引用文献1には、「自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッド」が記載されていることが分かる。 (シ)上記(1)(キ)及び図1の記載から、引用文献1に記載された水冷式内燃機関用シリンダヘッドは、シリンダブロック1に接合される面が下端に設けられ、冷却水を通過する水ジャケット2aが内部に設けられていることが分かる。 (ス)上記(1)(ク)の記載並びに図1及び2の記載から、水ジョイント23を取り付ける取付孔23aは一側壁側に設けられることが分かる。 (セ)図1において、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とは接合されていることが看取できる。また、図1は、図2のI-I矢視断面図であるから、シリンダブロック1とシリンダヘッド2は、面で接合していることが分かる。 (ソ)図1において、水ジョイントを取り付ける取付孔23aは、シリンダブロック1とシリンダヘッド2の接合面に対して斜め上向きに形成されることが看取できる。 (タ)図1及び2において、水ジョイントを取り付ける取付孔23aは、シリンダヘッド2の一側壁上端に設けられていることが看取できる。 (チ)上記(1)(カ)並びに図1及び2の記載から、カムシャフト15を回転自在に支持するカムホルダー16はシリンダヘッド2内に設けられることが分かる。 (3)上記(1)及び(2)並びに図1及び2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「シリンダブロック1に接合される面が下端に設けられ、冷却水を通過させる水ジャケット2aが内部に設けられ、自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造であって、 前記水ジャケット2aへ水ジョイント23を取り付ける取付孔23aが一側壁側に設けられ、該取付孔23aは、シリンダブロック1と接合される前記面に対して斜め上向きに設けられ、前記シリンダヘッド2内には、カムシャフト15を回転自在に支持するカムホルダー16が設けられ、前記取付孔23aは、前記一側壁の上端部に設けられた水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造。」 2.-2 引用文献2-10 (1)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-92596号公報(以下、「引用文献2」という。)には、段落【0019】並びに図5及び7からみて、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されている。 「水冷式のエンジンにおいて、シリンダブロック6の後端部に設けられた張り出し部33の上面に上向きに形成され、シリンダヘッド7の側面に沿って横長の開口33aを形成する技術。」 (2)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-44461号公報(以下、「引用文献3」という。)には、段落【0014】及び図4からみて、次の技術(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されている。 「横長に形成された冷却水出口28が開口したフランジ面27にウォーターアウトレットを取り付ける技術。」 (3)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-124893号公報(以下、「引用文献4」という。)には、段落【0020】及び【0023】並びに図14からみて、次の技術(以下、「引用文献4記載技術」という。)が記載されている。 「シリンダブロック20の冷却水出口から、横長に形成されたシリンダヘッド10の冷却水入口18へ冷却水を流す技術。」 (4)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-286008号公報(以下、「引用文献5」という。)には、段落【0016】及び【0021】並びに図1からみて、次の技術(以下、「引用文献5記載技術」という。)が記載されている。 「シリンダヘッド側ウォータジャケットから、横長に形成され、周囲に形成されたフランジ部22にウォータアウトレット25が取り付けられた冷却水出口通路21に冷却水を流す技術。」 (5)本願の出願前に頒布され、原審の補正却下の決定において引用された特開2008-101491号公報(以下、「引用文献6」という。)には、段落【0039】及び【0040】並びに図5及び9からみて、次の技術(以下、「引用文献6記載技術の1」という。)が記載されている。 「ヘッドブロックの上面に、吸気側、排気側の双方にそれぞれカムシャフトを配置する技術。」 また、引用文献6には、段落【0029】ないし【0032】並びに図1、3及び11の記載からみて、次の技術(以下、「引用文献6記載技術の2」という。)が記載されている。 「カムシャフトの駆動部分を小型化してできた空間を前側に配置することで一対のタンクレールフレームの相互距離を小さくする技術。」 また、引用文献6には、段落【0039】及び図5の記載からみて、次の技術(以下、引用文献6記載技術の3」という。)が記載されている。 「エンジンの排気ポート52を、自動二輪車の進行方向前側に配置する技術。」 (6)本願の出願前に頒布され、原審の補正却下の決定において引用された特開2005-330857号公報(以下、「引用文献7」という。)には、段落【0022】並びに図2及び3からみて、次の技術(以下、「引用文献7記載技術の1」という。)が記載されている。 「シリンダヘッド20とシリンダヘッドカバー21との間に吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを挟み込むようにして収容する技術。」 また、引用文献7には、段落【0022】及び図2の記載からみて、次の技術(以下、引用文献7記載技術の2」という。)が記載されている。 「エンジンの排気ポート20Bを、自動二輪車の進行方向前側に配置する技術。」 (7)本願の出願前に頒布され、原審の補正却下の決定において引用された特開2005-106036号公報(以下、「引用文献8」という。)には、段落【0028】及び図1からみて、次の技術(以下、「引用文献8記載技術」という。)が記載されている。 「エンジンの排気側を、自動二輪車の進行方向前側に配置する技術。」 (8)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-57464号公報(以下、「引用文献9」という。)には、段落【0034】及び図1からみて、次の技術(以下、「引用文献9記載技術」という。)が記載されている。 「ラジエーターを、自動二輪車の進行方向前側に配置する技術。」 (9)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-121325号公報(以下、「引用文献10」という。)には、段落【0021】並びに図1及び2の記載からみて、次の技術(以下、引用文献10記載技術」という。)が記載されている。 「左右一対のメインフレーム3,3間に、シリンダヘッド13及びシリンダヘッドカバー14が位置するようエンジンEを懸架する技術。」 2.-3 対比・判断 引用発明における「シリンダブロック1」は、その構成、機能又は技術的意義からみて補正発明における「シリンダ」に相当し、以下同様に、「面」は「デッキ面」に、「冷却水」は「冷却水」に、「水ジャケット2a」は「冷却水通路」に、「一側壁側」は「一側壁側」に、「自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造」は「自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造」に、「取付孔23a」は「冷却水通路の出口」に、それぞれ相当する。 また、引用発明において「取付孔23a」が、「シリンダブロック1と接合される前記面に対して斜め上向きに設けられ」ることは、その構成からみて補正発明において「出口」が「前記デッキ面に対して斜め上向きに設けられ」ることに相当する。 また、「シリンダヘッドにはカムシャフトを軸支するカムジャーナル受部が設けられ」るという限りにおいて、引用発明において「前記シリンダヘッド2内には、カムシャフト15を回転自在に支持するカムホルダー16が設けられ」ることは、補正発明において「前記シリンダヘッドの上端には、カムシャフトのカムジャーナルを軸支するカムジャーナル受部が前側の排気側と後側の給気側にそれぞれ設けられ」ることに相当する。 そして、「冷却水の出口が一側壁の上端部に設けられ」るという限りにおいて、引用発明において「取付孔23aは、前記一側壁の上端部に設けられた」ことは、補正発明において「前記出口の周囲にはアウトレットホースを接合可能なフランジ部が設けられ、該フランジ部は、前記カムシャフトの軸方向視において、前側の排気側の前記カムジャーナル受部とのみ重なるように形成され、前記フランジ部は、前記一側壁の上端部に設けられ、前記フランジ部の下側に形成される空間に前記自動二輪車のメインフレームが配置される」ことに相当する。 よって、補正発明と引用発明とは、 「シリンダに接合されるデッキ面が下端に設けられ、冷却水を通過させる冷却水通路が内部に設けられ、自動二輪車に用いられる水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造であって、前記冷却水通路の出口が一側壁側に設けられ、該出口は、前記デッキ面に対して斜め上向きに設けられ、シリンダヘッドにはカムシャフトを軸支するカムジャーナル受部が設けられ、一側壁の上端部に冷却水通路の出口が設けられた、水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1)「冷却水通路の出口」に関し、補正発明においては「一側壁に沿って横長に形成され」たものであるのに対し、引用発明においてはそのようには形成されていない点(以下、「相違点1」という。)。 (相違点2)「シリンダヘッドにはカムシャフトを軸支するカムジャーナル受部が設けられ」ることに関し、補正発明においては「前記シリンダヘッドの上端には、カムシャフトのカムジャーナルを軸支するカムジャーナル受部が前側の排気側と後側の給気側にそれぞれ設けられ」るのに対し、引用発明では「前記シリンダヘッド2内には、カムシャフト15を回転自在に支持するカムホルダー16が設けられ」る点(以下、「相違点2」という。)。 (相違点3)「冷却水通路の出口が一側壁の上端部に設けられ」ることに関し、補正発明においては、「前記出口の周囲にはアウトレットホースを接合可能なフランジ部が設けられ、該フランジ部は、前記カムシャフトの軸方向視において、前側の排気側の前記カムジャーナル受部とのみ重なるように形成され、前記フランジ部は、前記一側壁の上端部に設けられ、前記フランジ部の下側に形成される空間に前記自動二輪車のメインフレームが配置される」のに対し、引用発明においては「取付孔23aは、一側壁の上端部に設けられた」点(以下、「相違点3」という。)。 上記各相違点について検討する。 ア 相違点1について 引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術等に示されるように、車両の種別を問わず、シリンダヘッド、シリンダブロックの別を問わず、またその目的を問わず、少なくとも冷却水の出口を横長に形成する技術は、本願出願前に周知技術(以下、「周知技術1」という。)であったと認められる。また、引用発明において、冷却水通路の出口の形状については、図示された特定の形状にのみ限定される特段の事情があるとは解されないため、その形状は必要に応じて適宜に変更し得るものといえる。そうすると、引用発明において、周知技術1を採用し、引用発明の一側壁の上端部の取付孔23aを横長とし、一側壁に沿うようにして相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。 イ 相違点2について 引用文献6記載技術の1及び引用文献7記載技術の1等に示されるように、カムシャフトをシリンダヘッド上端に、給気側及び排気側の双方にそれぞれ配置する技術は、本願出願前に周知技術(以下、「周知技術2」という。)であったと認められる。また、当該周知技術においては、カムシャフトがカムジャーナルを有することは自明の事項である。そうすると、高出力化、高回転化などの一般的な課題の下で、引用発明において、周知技術2を採用して相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。 ウ 相違点3について 引用文献6記載技術の1及び引用文献7記載技術の1に見られるように、給気側及び排気側の双方にカムシャフトをそれぞれ配置することは、本願出願前に周知技術であったと認められる。また、引用文献3記載技術及び引用文献5記載技術等に示されるように、冷却水出口通路にフランジ部を設け、アウトレットを該フランジに接合する技術は、本願出願前に周知技術であったと認められる。また、自動二輪車の技術分野において、部品を軽量化又は小型化するという課題は、本願出願前の一般的な課題に過ぎない。 しかし、引用発明及び引用文献2ないし10記載技術は、いずれもフランジ部及びカムジャーナル受部の位置関係を何ら開示又は示唆するものではない。さらに、引用発明及び引用文献2ないし10記載技術は、フランジ部及びメインフレームの位置関係を何ら開示又は示唆するものでもない。したがって、前述の一般的な課題である部品の小型化という課題を考慮しても、引用発明及び各周知技術から相違点3に係る補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 そして、補正発明は、相違点3に係る発明特定事項を備えることにより、本願明細書の段落【0049】に記載されるように、フランジ部の下側に大きな空間を形成し、この空間にメインフレームを配置することで空間の有効利用が可能となるという作用効果を奏するものである。 そうすると、補正発明が、引用発明並びに引用文献2ないし10記載技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 2.-4 まとめ 補正発明は、引用発明並びに引用文献2ないし10記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、他に補正発明が特許を受けることができない理由もないから、本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についての補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の既定に適合する。 また、本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。 3.むすび 本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合し、適法になされたものである。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし6に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、補正発明は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明並びに引用文献2ないし10記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 また、補正発明を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6に記載された発明は、補正発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明並びに引用文献2ないし10記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-11-15 |
出願番号 | 特願2011-28171(P2011-28171) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F02F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 橋本 敏行 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
三島木 英宏 松下 聡 |
発明の名称 | 水冷式内燃機関用シリンダヘッドの構造 |
代理人 | 北村 周彦 |