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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1321639
審判番号 不服2015-3538  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-25 
確定日 2016-11-29 
事件の表示 特願2010-37912「差込プラグと抜止形プラグ受けとの接続構造」拒絶査定不服審判事件〔平成23年9月8日出願公開、特開2011-175801、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年2月23日の出願であって、平成25年10月21日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日付けで手続補正がされ、平成26年5月20日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年7月28日付けで手続補正がされたが当該手続補正は同年11月17日付けで決定をもって却下されるとともに、同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、これに対し、平成27年2月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされ、その後、当審において同年10月22日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という)が通知され、同年12月28日付けで手続補正がされ、平成28年2月25日付けで拒絶理由(最後)(以下「当審拒絶理由2」という)が通知され、同年5月2日付けで手続補正がされた、同年5月31日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由3」という)が通知され、同年8月8日付けで手続補正がされ、同年9月14日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由4」という)が通知され、同年10月3日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年10月3日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
丸棒状の複数本の電極ピン、及び複数本の前記電極ピンの周りを囲み複数本の前記電極ピンよりも長く突き出た周壁を有する差込プラグと、
前記差込プラグが着脱自在に接続されるプラグ接続部が設けられた器体を備え、
前記プラグ接続部は、前記器体の表面にそれぞれ開口して前記各電極ピンが挿入される複数のピン挿入口と、前記器体の表面に設けられて前記周壁が挿入される挿入溝と、前記各ピン挿入口を通して挿入される前記各電極ピンと電気的に接続される複数の刃受とを備え、
前記挿入溝には、前記挿入溝に前記周壁が挿入された状態で、前記周壁を保持する周壁保持部が設けられ、
前記挿入溝は、前記周壁の先端が前記挿入溝の奥まで挿入されるように形成され、
前記周壁保持部は、前記挿入溝の内側面に設けられて、前記周壁に設けられた爪が引っ掛かることで抜け止めを行う凹部からなり、
前記凹部は、前記挿入溝の内側面のうち、前記ピン挿入口と反対側の内側面に設けられた抜止形プラグ受けとからなる
ことを特徴とする差込プラグと抜止形プラグ受けとの接続構造。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
平成25年12月24日付けで手続補正された請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2004-185926号公報
刊行物2:特開2004-342460号公報
刊行物3:特開平11-273777号公報

刊行物1には、複数本の電極ピン(雄型接続端子3)とこれら電極ピンの周りを囲む周壁(嵌合突堤部5)とを具備した差込プラグ(プラグB)が着脱自在に接続されるプラグ接続部が設けられた器体(コンセント本体2)を備え、プラグ接続部は、器体の表面にそれぞれ開口して各電極ピンが挿入される複数のピン挿入口と、器体の表面に設けられて周壁が挿入される挿入溝(嵌合溝状部7)と、各ピン挿入口を通して挿入される各電極ピンと電気的に接続される複数の刃受(雌型接続端子1)とを備え、挿入溝には、この挿入溝に周壁が挿入された状態で、この周壁を保持する周壁保持部(誘導部8及び係合部9)が設けられた抜止形プラグ受けが記載されている。(段落【0010】-【0012】,図1-4参照。)
また、コネクタの技術分野において、着脱自在に接続される差込プラグに、複数本の電極ピンとこの複数本の電極ピンの周りを囲み複数本の電極ピンよりも長く突き出た周壁とを設けたものは、例えば刊行物2、3に記載されているように、周知の構成である。
刊行物1記載の差込プラグの周壁を、上述した周知の構成と同様に、電極ピンより長く突き出るようにすること、及びこの長く突き出る周壁を収納できるように挿入溝の深さ寸法を調整することは、当業者であれば容易になし得たことである。また、刊行物1記載の電極ピンの形状として、棒状のものを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物1には、「電源コンセント・プラグ接続セット」に関して、図面(特に、図1ないし図4参照)とともに、次の事項が記載されている。下線は当審が付した。以下同様。

(ア)「【0005】
本発明は、上記事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、ケーブル引き回しによる環境整理が容易となり、しかも、通信機器での確実な接続を保障できるように工夫した、電源コンセント・プラグ接続セットを提供することである。」

(イ)「【0010】
(第1の実施の形態)
本発明に係る第1の実施の形態において、本発明に係る電源コンセント・プラグ接続セットは、基本的に、一対の雌型接続端子1を、硬質合成樹脂などの電気絶縁性材料からなるコンセント本体2に備えたコンセントAと、雌型接続端子1に対向する一対の雄型接続端子3を、コンセント本体2と同材質のプラグ本体4に備えたプラグBとから構成される。
【0011】
そして、プラグBは、雄型接続端子3を囲む環状の嵌合突堤部5を、プラグ本体4に形成すると共に、そのコンセント接続側に位置して、弾性を持って、外側に反発するフック6を備えており、コンセントAは、雌型接続端子1に雄型接続端子3を嵌合した状態で、嵌合突堤部5を嵌合する環状の嵌合溝状部7を、雌型接続端子1を囲んで、コンセント本体2に形成する。
【0012】
また、コンセントAは、そのプラグ接続側に位置して、フック6をその弾性に抗して内側に誘導する誘導部8、及び、フック6の外側への反発で係合する係合部9を備えている。なお、この実施の形態では、フック6が、その先端の係止爪6aに誘導用のテーパ面6bを形成しており、また、誘導部8が嵌合溝状部7の外側縁の一部および嵌合溝状部7の外周内壁に形成した溝孔で構成され、係合部9が前記溝孔の内縁で構成されている。」

(ウ)「【0015】
このような構成によれば、嵌合突堤部5が嵌合溝状部7に嵌合され、同時に、接続端子1を接続端子3に接続するとき、フック6が誘導部8に誘導されて撓み、接続端子1、3の接合が完結した時点で、フック6の弾性的な反発で、係合爪6aが係合部9に係止されるから、接続端子1、3の接続状態を確実に維持すると共に、通信用の接続端子10、11も確実に接続できる。」

(エ)「【0031】
【発明の効果】
本発明は、以上詳述したように、プラグ本体に、その雄型接続端子を囲む環状の嵌合突堤部を形成すると共に、そのコンセント接続側に位置して、弾性を持って、外側に反発するフックを備えており、コンセント本体に、その雌型接続端子に前記雄型接続端子を嵌合した状態で、前記嵌合突堤部を嵌合する環状の嵌合溝状部を、前記雌型接続端子を囲んで形成すると共に、そのプラグ接続側に位置して、前記フックをその弾性に抗して内側に誘導する誘導部、及び、前記フックの外側への反発で係合する係合部を備えており、前記嵌合突堤部及び嵌合溝状部に、それぞれ、互いに嵌合接続される通信回線の接続端子が装備している。従って、ケーブル引き回しによる環境整理が容易となり、しかも、通信機器での確実な接続を保障できる。」

(オ)図1ないし図3には、コンセント本体2の表面にそれぞれ開口して一対の雄型接続端子3が挿入される複数の接続端子挿入口を設けることが図示され、図2には、プラグBが一対の雄型接続端子3の周りを囲み一対の前記雄型接続端子3よりも短く突き出た嵌合突堤部5を有することが図示され、図3には、嵌合突堤部5の先端が嵌合溝状部7の奥まで挿入されるように形成されることが図示されている。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「一対の雄型接続端子3、及び一対の前記雄型接続端子3の周りを囲み一対の前記雄型接続端子3よりも短く突き出た嵌合突堤部5を有するプラグBと、
前記プラグBが着脱自在に接続されるプラグ接続側が設けられたコンセント本体2を備え、
前記プラグ接続側は、前記コンセント本体2の表面にそれぞれ開口して前記各雄型接続端子3が挿入される複数の接続端子挿入口と、前記コンセント本体2の表面に設けられて前記嵌合突堤部5が挿入される嵌合溝状部7と、前記接続端子挿入口を通して挿入される前記雄型接続端子3と電気的に接続される一対の雌型接続端子1とを備え、
前記嵌合溝状部7には、前記嵌合溝状部7に前記嵌合突堤部5が挿入された状態で、前記嵌合突堤部5を保持する誘導部8及び係合部9が設けられ、
前記嵌合溝状部7は、前記嵌合突堤部5の先端が前記嵌合溝状部7の奥まで挿入されるように形成され、
前記誘導部8及び係合部9は、前記嵌合溝状部7の外側縁の一部及び外周内壁に設けられて、前記嵌合突堤部5に設けられた係止爪6aが引っ掛かることで抜け止めを行う溝孔の内縁からなり、
前記溝孔の内縁は、前記嵌合溝状部7の外側縁の一部及び外周内壁に設けられたコンセントAとからなる電源コンセント・プラグ接続セット。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物2には、「電気コネクタ」に関して、図面(特に、図1、図4参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の電線を有するコードの一部と、前記各電線の端末に個別にかつ電気的に接続される電線接続部を有する金属製の端子の一部とが、合成樹脂から成るコネクタハウジングにインサート成形されて成る電気コネクタに関する。」

(イ)「【0010】
先ず図1および図2において、コード11は、たとえば車両に取付けられるセンサからの信号伝達用として用いられるものであり、該コード11の端部に電気コネクタ13が取付けられる。
【0011】
この電気コネクタ13は、複数たとえば一対の電線12,12を有するコード11の一部と、前記各電線12,12の端末に個別にかつ電気的に接続される電線接続部14c…を有する複数たとえば一対の金属製の端子14,14の一部と、合成樹脂から成るホルダ15とが、合成樹脂から成るコネクタハウジング16にインサート成形されて成るものである。」

(ウ)「【0019】
ところで、コネクタハウジング16は、ホルダ15と、該ホルダ15に組付けられる一対の端子14…の一部と、それらの端子14…に各電線12,12を電気的に接続せしめた前記コード11の一部とを覆うハウジング主部16aと、該ハウジング主部16aに一体に連なる接続筒部16bとから成るものであり、前記両端子14…の端子接続部14b…は、ホルダ15から突出して接続筒部16b内に並列配置されることになる。」

(エ)図4には、コネクタハウジング16が一対の端子14の端子接続部14bよりも長く突き出た接続筒部16bを有することが図示されている(以下「刊行物2の技術事項」という。)。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物3には、「ハーネスプラグ」に関して、図面(特に、図3、図5参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電源線をコネクタ方式で接続するために、電源線の先端に取り付けられ、一般的に受け側となるハーネスコネクタと共に用いられるハーネスプラグに関するものである。」

(イ)「【0019】ハーネスプラグ11は、受け側となるハーネスコネクタ10と嵌合する凹部14がハウジング13の前面に形成され、この凹部14内には電線の複数の芯線がそれぞれ接続される複数本の栓刃15,15’が先端を凹部14の開口に臨ませて配設されている。ハーネスプラグ11のハウジング13は、合成樹脂製のボディ13aとカバー13bとで構成される。ボディ13aは上面及び前面が開口した略箱状に形成され、隔壁16により内部が前後の空間に分離され、前方に形成される凹所14aにより上記ハーネスコネクタ10の挿着部30(図4及び図5参照)が挿入される凹部14が形成されている。上記隔壁16には、3本の栓刃15,15’を圧入して固定する固定溝17を形成してあり、栓刃15,15’を固定溝17に取り付けると、凹所14a内に栓刃15,15’の先端部が列設されることになる。そして、ボディ13aの後方の内部空間は、ボディ13aの長手方向に沿って走る2条の隔壁18でさらに3つの収納室に分離され、夫々の収納室内に栓刃15,15’が収められる。このボディ13aの後端部にはカバー13bと組み合わせた状態で電線挿入口となる3つの凹部19が形成されている。なお、各凹部19は電線挿入口の内部が細径となっており、電線挿入口に挿入される芯線が栓刃15,15’の接触片15aと錠ばね20との間に確実に位置決めされる形状に形成してある。」

(ウ)「【0023】ボディ13aの凹所14aと共に凹部14を形成するカバー13bの凹所14bの内底面には、後述するハーネスコネクタ10の逆差し防止溝34(図5参照)に嵌まるハーネスコネクタ10の挿着方向に沿って走る誤接続防止部としての突条22が形成されており、これにより逆差しあるいは定格や用途の異なるハーネスコネクタ10が誤って接続されるのを防止するようにしてある。」

(エ)「【0034】次に、ハーネスプラグ11が差し込まれるハーネスコネクタ10について説明する。ハーネスコネクタ10は、図5に示すように、差込み側となるハーネスプラグ11の凹部14に挿着される挿着部30が前面に形成され、この挿着部30の前面に形成された栓刃挿入口31から挿入されるハーネスプラグ11の栓刃15を夫々受ける複数の刃受ばね32を内部に備える構造となっている。」

(オ)図3には、ハーネスプラグ11が複数本の栓刃15よりも長く突き出た凹部14の内壁を有することが図示されている(以下「刊行物3の技術事項」という。)。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「一対の雄型接続端子3」は前者の「複数本の電極ピン」に相当し、以下同様に、「嵌合突堤部5」は「周壁」に、「プラグB」は「差込プラグ」に、「コンセント本体2」は「器体」に、コンセント本体2の「プラグ接続側」は器体の「プラグ接続部」に、「接続端子挿入口」は「ピン挿入口」に、「嵌合溝状部7」は「挿入溝」に、「一対の雌型接続端子1」は「複数の刃受」に、「誘導部8及び係合部9」は「周壁保持部」に、「前記嵌合溝状部7の外側縁の一部及び外周内壁」は「前記挿入溝の内側面」及び「挿入溝の内側面のうち、前記ピン挿入口と反対側の内側面」に、「係止爪6a」は「爪」に、「溝孔の内縁」は「凹部」に、「コンセントA」は「抜止形プラグ受け」に、「電源コンセント・プラグ接続セット」は「差込プラグと抜止形プラグ受けとの接続構造」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「複数本の電極ピン、及び複数本の前記電極ピンの周りを囲み突き出た周壁を有する差込プラグと、
前記差込プラグが着脱自在に接続されるプラグ接続部が設けられた器体を備え、
前記プラグ接続部は、前記器体の表面にそれぞれ開口して前記各電極ピンが挿入される複数のピン挿入口と、前記器体の表面に設けられて前記周壁が挿入される挿入溝と、前記各ピン挿入口を通して挿入される前記各電極ピンと電気的に接続される複数の刃受とを備え、
前記挿入溝には、前記挿入溝に前記周壁が挿入された状態で、前記周壁を保持する周壁保持部が設けられ、
前記挿入溝は、前記周壁の先端が前記挿入溝の奥まで挿入されるように形成され、
前記周壁保持部は、前記挿入溝の内側面に設けられて、前記周壁に設けられた爪が引っ掛かることで抜け止めを行う凹部からなり、
前記凹部は、前記挿入溝の内側面のうち、前記ピン挿入口と反対側の内側面に設けられた抜止形プラグ受けとからなる
差込プラグと抜止形プラグ受けとの接続構造。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明は、差込プラグの電極ピンが「丸棒状」であり、差込プラグが「複数本の前記電極ピンよりも長く突き出た」周壁を有するのに対し、
引用発明は、プラグBの雄型接続端子3が「丸棒状」でなく、プラグBが「一対の前記雄型接続端子3よりも短く突き出た」嵌合突堤部5を有する点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
本願明細書の「本実施形態の差込プラグ50では、電極ピン52a?52cがコンタクト11a?11cに接続される際には、既に周壁53の先端が挿入溝9に挿入されているので、電極ピン52a?52cの接続時にアークが発生したとしても外部からアークが見えることはない。」(平成28年5月2日付け手続補正書の段落【0029】)との記載、及び「電極ピン52a?52cがコンタクト11a?11cから離れた瞬間には、まだ周壁53の先端が挿入溝9内に挿入されているので、電極ピン52a?52cの開離時にアークが発生したとしても外部からアークが見えることはない。」(平成27年12月28日付け手続補正書の段落【0030】)との記載からみて、本願発明の、差込プラグが複数本の電極ピンよりも長く突き出た周壁を有するとの構成は、電極ピンの接離時にアークが発生したとしても外部からアークが見えないようにすることを課題としたものである。

これに対して、引用発明に係る刊行物1には、外部からアークが見えないようにするとの課題についての記載はなく、その示唆もない。

他方、刊行物2には、コネクタハウジング16が一対の端子14の端子接続部14bよりも長く突き出た接続筒部16bを有することが図示されているものの、コネクタハウジング16が接離する相手部材の形状や構造について何ら記載がなく、接続筒部16bが端子接続部14bよりも長く突き出た態様についての技術的意義は何ら記載されておらず、また、アークの発生に関する記載や示唆もない。

また、刊行物3には、ハーネスプラグ11が複数本の栓刃15よりも長く突き出た凹部14の内壁を有することが図示されているものの、ハーネスプラグ11が接離するハーネスコネクタ10の挿着部30が凹部14に挿入されることからみて、上記内壁は凹部14を画定するためのものであり、上記内壁が栓刃15よりも長く突き出た態様についての技術的意義は何ら記載されておらず、また、アークの発生に関する記載や示唆もない。

そうすると、刊行物2,3の技術事項は、引用発明の嵌合突堤部5の先端が嵌合溝状部7の奥まで挿入されるような接続構造を前提に端子14及び接続筒部16bや栓刃15及び凹部14の内壁のそれぞれの突出長さを設定したものではなく、刊行物2,3により、「コネクタの技術分野において、着脱自在に接続される差込プラグに、複数本の電極ピンとこの複数本の電極ピンの周りを囲み複数本の電極ピンよりも長く突き出た周壁とを設け」ることは、周知の構成であるともいえない。しかも、刊行物2,3には本願発明に係る上記課題についての記載や示唆もない。
したがって、引用発明に刊行物2,3の技術事項を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び刊行物2,3の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2ないし5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明及び刊行物2,3の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由1の概要
本願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア 請求項1の「挿入溝の深さ寸法が前記電極ピンの長さ寸法よりも大きくなるように形成され」との事項に関して、「電極ピンの長さ」とは、電極ピンの全長のことなのか、或いは電極ピンの「前方へ向かって突出する」部分の長さのことなのか不明瞭である。
イ 請求項2の「複数の前記ピン挿入口を間にした両側位置」との事項及び請求項3の「複数の前記ピン挿入口が並ぶ方向に沿った」との事項に関して、発明の詳細な説明及び図面には、3本の電極ピン52a?52cが三角形状をなすように配置されているから、「複数の前記ピン挿入口を間にした両側」や「複数の前記ピン挿入口が並ぶ方向」を明確に特定できないばかりか、発明の詳細な説明及び図面に記載された内容とも整合していない。

(2)当審拒絶理由2の概要
本願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

補正により請求項1に記載された「前記挿入溝の深さ寸法が前記差込プラグの着脱方向における前記周壁の寸法よりも大きくなる」との事項について、発明の詳細な説明には「周壁53の先端が挿入溝9の奥まで挿入される」(段落【0029】)と記載され、図5及び図8にも同様の事項が図示されているから、周壁の寸法「よりも大きくなる」との事項は、発明の詳細な説明及び図面に記載されていない。

(3)当審拒絶理由3の概要
本願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1の「前記挿入溝は、前記挿入溝の深さ寸法及び前記差込プラグの着脱方向における前記周壁の寸法が、前記周壁の先端が前記挿入溝の奥まで挿入される寸法関係となるように形成され」との事項に関して、「前記周壁の先端が前記挿入溝の奥まで挿入される」ことは、挿入溝の深さ寸法と差込プラグの着脱方向における周壁の寸法との「寸法関係」を一義的に特定することができないから、上記事項は明瞭とはいえない。

(4)当審拒絶理由4の概要
本願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1は「抜止形プラグ受け」に係る発明が特定されるべきところ、差込プラグに関する事項が記載されているから、請求項1の記載は不明確である。

2 当審拒絶理由の判断
(1)当審拒絶理由1について
補正前の請求項1の「挿入溝の深さ寸法が前記電極ピンの長さ寸法よりも大きくなるように形成され」との事項、同請求項2の「複数の前記ピン挿入口を間にした両側位置」との事項、及び同請求項3の「複数の前記ピン挿入口が並ぶ方向に沿った」との事項は補正により削除された。
よって、当審拒絶理由1のア及びイは解消した。

(2)当審拒絶理由2について
請求項1は、「前記挿入溝は、前記周壁の先端が前記挿入溝の奥まで挿入されるように形成され」と補正された。このことにより、請求項1の記載は発明の詳細な説明と整合した。
よって、当審拒絶理由2は解消した。

(3)当審拒絶理由3について
補正前の請求項1の「前記挿入溝は、前記挿入溝の深さ寸法及び前記差込プラグの着脱方向における前記周壁の寸法が、前記周壁の先端が前記挿入溝の奥まで挿入される寸法関係となるように形成され」との事項は削除された。
よって、当審拒絶理由3は解消した。

(4)当審拒絶理由4について
請求項1は「差込プラグと抜止形プラグ受けとの接続構造」と補正された。このことにより、請求項1は明確となった。
よって、当審拒絶理由4は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-15 
出願番号 特願2010-37912(P2010-37912)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01R)
P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 貴志  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 冨岡 和人
中川 隆司
発明の名称 差込プラグと抜止形プラグ受けとの接続構造  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 西川 惠清  
代理人 坂口 武  
代理人 北出 英敏  

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