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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1321653
審判番号 不服2015-9293  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-19 
確定日 2016-11-10 
事件の表示 特願2010-279502「光学シート、面光源装置及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月 5日出願公開、特開2012-128178〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
(1) 本願は、平成22年12月15日の出願であって、平成26年 8月 5日付けで拒絶理由が通知(同年 8月 7日発送)され、同年 9月16日に意見書が提出されると共に手続補正がなされ、平成27年 2月20日付けで拒絶査定がなされ(同年 3月 3日オンライン送達)、これを不服として平成27年 5月19日に審判が請求されると同時に手続補正が行なわれたが、平成28年 6月 2日付けで当審による拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知(同年同月 7日発送)され、これに対して同年 7月22日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

(2) 本願の請求項1?5に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
【請求項1】
「 表裏を同じ向きにして重ね合わされる光学シートであって、
シート状の本体部の一方の面に単位光学要素として、主切断面形状が頂角90°の直角二等辺三角形である単位柱状プリズムを、同一周期で、その稜線方向を互い平行に配列してなるプリズム群を有し、該本体部の他方の面に最外面が平滑な耐擦傷性塗膜を有し、
前記配列された単位光学要素で形成される光学要素面の硬度Heと、前記耐擦傷性塗膜の平滑面を成す平滑塗膜面の硬度Hmとについて、
JIS K5600-5-4(1999年)に準拠して測定(荷重1000g、速度1mm/s)した鉛筆硬度で、硬度HmがF以上であり、且つ硬度Hmが硬度He以上(硬度Hm≧硬度He)であって、硬度HeがB以上である、光学シート。」


2 当審拒絶理由の概要は以下のとおり。
当審拒絶理由のうち、特許法29条2項に関しては、この出願の請求項1、3?5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である引用例1:特開2008-304524号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用刊行物及びその摘記事項
(1) 引用例1には、「耐擦傷性複層レンズフィルム」(発明の名称)に関して図と共に次の事項が記載されている。
ア 【技術分野】及び【背景技術】
「【0001】
本発明は、液晶テレビ、コンピューターやワードプロセッサーなどの液晶表示装置に好適な耐擦傷性複層レンズフイルムに関し、更に詳しくは、表面の傷が付き難く、取り扱いの容易なレンズ機能を有する耐擦傷性複層レンズフイルムに関するものである。」
「【0005】
レンズフイルムを一体的に成形する方法を採用する場合、該レンズフイルムの材料として使用する樹脂に要求される特性としては、透明性、寸法安定性、防湿性等が高いことが挙げられ、その上で、レンズフイルムを所望の形に打ち抜く際の衝撃で破損しないような耐衝撃性、取り扱い時に液晶表示装置の表面と擦れても傷が付きにくいような耐擦傷性が望まれる。更に、レンズ機能を向上するためには、屈折率が高い材料が好ましい。
【0006】
上記の好ましい特性を全て満たす材料は発見されていないが、これらのうちの多くを充足する材料としてはポリカーボネートがよく知られており、比較的安価であるためプリズムフイルムの材料として従来からよく利用されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかし、ポリカーボネートからなるレンズフイルムは、表面硬さ、耐擦傷性に劣る欠点があり、耐擦傷性については、鉛筆硬度がBもしくは2B程度と劣っており、バックライトや液晶パネルの表面に該レンズフイルムを貼着する際に、該レンズフイルムの裏面に擦り傷が生じることがある。
詳述すると、液晶表示装置のバックライトでは、通常、導光板上に光拡散フイルムが設置されるが、この光拡散フイルムには表面に散乱を起こすように凹凸が刻まれている。この凹凸は樹脂の表面を粗面成形するか、または樹脂の表面に有機物又は無機物の粒子を配して成形される。また、液晶パネルの表面にはカラーフイルタが設けられているが、このカラーフィルタにもマトリックスの設定に伴う凹凸がある。これらのいずれの凹凸も、ポリカーボネートより硬度が高い。
一方、レンズフイルムはレンズ面を光の出射側に向けて光拡散フイルムや液晶パネルの上に配置されるのが普通であるので、このレンズフイルムの裏面が光拡散フイルムやカラーフィルタの凹凸と接触して擦り傷が発生するのである。
【0007】
この欠点を解消する方法として、裏面に熱、光、電離性放射線により硬化する樹脂を塗工することによりハードコート処理する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。更には、気相中で物理的に蒸着する方法、化学反応により蒸着する方法があるが、いずれも生産性が悪くコスト高になるという欠点がある。
一方、メタクリル樹脂やメタクリル酸メチル含む透明な樹脂は透明性、硬度が高く、耐擦傷性についても鉛筆硬度が4Hと優れており、レンズ機能を有する部材の材料として使用されているが、防湿性、耐衝撃性に劣るため、単独でフイルム状に成形し、適当な形状に裁断して使用することは困難である。
また、ポリカーボネートからなるレンズフイルムの裏面に透明性、耐擦傷性が高いコート用フイルムを接着剤等により貼り付けることも考えられるが、多工程となりコスト高となってしまう。」

イ 【発明が解決しようとする課題】
「【0008】
本発明はかかる実情に鑑み、従来技術の問題点を解消し、液晶テレビの大画面にも対応し得る耐擦傷性を備え、組み立て作業等において傷が発生し難いばかりでなく、組み立て後の装置内でも傷が発生しにくく、且つレンズフイルムの重要な性質である光の集光性能、屈折による方向変換性能、光透過性といった光学性能を損なうことのない耐擦傷性複層レンズフイルムを提供することにある。・・(略)・・」

ウ 【発明を実施するための最良の形態】
「【0018】
本発明の耐擦傷性複層レンズフイルムは、図1に基本的な構成を示したように、一面にレンズ機能を有する立体模様を備えたレンズ層2と、レンズ層の他面に形成された裏面層3とからなる複層レンズフイルムであって、レンズ層2はポリカーボネートからなり、裏面層3は、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが15重量%以上100重量%未満とスチレンが0重量%を超えて85重量%以下(合計が100重量%)の共重合体、メタクリル酸メチルが60重量%以上100重量%未満とこれと共重合可能な単量体が0重量%を超えて40重量%以下(合計が100重量%)の共重合体から選ばれ、ポリカーボネート以上の硬度を有するアクリル系樹脂からなり、レンズ層2を構成する樹脂と裏面層3を構成する樹脂は溶融共押し出しにより一体化されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の耐擦傷性複層レンズフイルム1のうち、レンズ層2はポリカーボネートからなる。本発明に使用されるポリカーボネートはビスフェノールAを主成分とする通常のポリカーボネートであり、市販のポリカーボネート樹脂が全て好適に使用できる。この樹脂の屈折率は通常1.58、光透過率は90%以上であり、レンズシートの材料として好適に使用できる。
【0020】
本発明で使用する裏面層3は、特定のアクリル系樹脂からなる。このアクリル系樹脂は接着剤を使用せずにレンズ層2と接着するように、ポリカーボネートとの親和性が高い必要があり、またポリカーボネートからなるレンズ層2を擦り傷から保護するため、ポリカーボネートよりも耐擦傷性の点で優れている必要がある。・・(略)・・
【0022】
耐擦傷性については、・・(略)・・なお、ポリカーボネートの鉛筆硬度がB乃至2B程度であるのに対し、ポリメタクリル酸メチルの鉛筆硬度は4Hである。」

「【0027】
立体模様としては、所望の光学性能を有する形状であれば特に限定されないが、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム;・・(略)・・などが例示できる。
【0028】
このような形状の立体模様を採用した場合、・・(略)・・入射面に各種の方向からの光が入射する時に、3角形の頂点方向、プリズムの3角形の形状が2等辺の場合はレンズフイルムの法線方向、に集光しやすい。この3角形の形状は、通常、頂角が60度から120度の範囲である。特定の方向の入射光が大部分である場合には、所要の方向に出射光を得るよう等辺又は不等辺の3角形プリズムの形状が設計される。
・・(略)・・
【0032】
本発明の耐擦傷性レンズフイルム1は、裏面層の外側面3aにランダムの凹凸構造、線状の凹凸構造等の光拡散機能のある凹凸構造を設けることもできる。
線状の凹凸構造としては、断面がV字型、U字型、四角形型、台形型等であり、平面視が直線状、波線状、円弧線状などの形状が例示できる。
光拡散機能のある凹凸構造を形成する方法は特に限定されないが、レンズ機能を有する立体模様を形成する場合と同様、樹脂を複層フイルム化した後で、このフイルムをエンボスシートなどで押圧することにより、所定のフイルムにエンボス加工を施す方法や、共押出し時における冷却ロールによる押圧と同時に所望する凹凸模様を形成したロールを用いて挟圧することにより、所定のフイルムに該凹凸模様を形成して凹凸構造とする方法が例示できる。
・・(略)・・
【0035】
本発明の耐擦傷性レンズフイルム1の厚みは特に限定されないが、芯材等に巻き付けてロール状製品とする場合、巻き取り可能な厚みは500μm以下とするのが好ましい。・・(略)・・
【0036】
上記のポリカーボネートからなるレンズ層2と特定のアクリル系樹脂からなる裏面層3は、溶融共押し出しにより一体化され、耐擦傷性レンズフイルムとされる。
共押し出しによって耐擦傷性レンズフイルム1を作製する方法を、図2に基づいて説明する。なお、図2は共押し出しによる樹脂の複層方法の一例を示す概略図である。
まず、それぞれ別の溶融押し出し機4A、4Bを用いてポリカーボネートとアクリル系樹脂をそれぞれ溶融し、ギアポンプ5aを通して、両溶融樹脂をフイードブロック5bに送り込み、このフイードブロック5bにより整流状に積層して、ダイス5cより、図示してないが、表面にレンズ機能を有する立体模様を刻設した金属製の冷却ロール6aとゴムロール6bの間に、ポリカーボネート層が冷却ロール6a側となるようにフイルム状に押し出す。
押し出されたポリカーボネートとアクリル系樹脂の溶融樹脂は、冷却ロール6aにより冷却されると同時に、冷却ロール6aの表面に刻設した立体模様がポリカーボネート層の表面に転写形成される。なお、冷却の際、ポリカーボネート層(レンズ層)とアクリル系樹脂層(裏面層)の接着を完全にするため、冷却ロール6aとこれに対向した冷却ロール6a’の間で更に挟圧することが望ましい。押し出された樹脂を挟圧するロール6a、6b:6a’の組み合わせは上記したロールに限定されず、金属ロールとゴムロール、金属ロールと金属ベルト、金属ロールと金属弾性ロール等の組み合わせが例示できる。
なお、ポリカーボネートとアクリル系樹脂を共押し出しする際に、必要に応じ、金属ロールとゴムロールの組合せの場合、ゴムロール面の保護と耐久性を増すために、更にこの粗面の写し取りを避け、又は特定の形状を付与するために支持体7を介在させることができる。支持体の一例としては、2軸延伸したポリエチレンテレフタレートフイルム等が挙げられる。図中、7aは支持体繰り出し機、7bは支持体巻き取り機である。
冷却されたレンズフイルム1は巻き取り機8を使用して芯材などに巻き取ってロール状製品としてもよいし、適当な形、大きさに裁断して束にしてもよい。支持体を使用した場合は、レンズフィルムから支持体を剥離除去してからロール状製品とされ、又は裁断される。」


「【0037】
本発明の耐擦傷性レンズフイルムの使用方法は、各種の方法が考えられる。液晶表示装置のバックライトとして使用する場合は、通常、光拡散板上に、レンズ構造2の面を光の出射面となるように配置して使用するのが一般的である。更に、光を一層集中したい場合は、同一又は同類の耐擦傷性レンズフイルムを重ねて使用する場合もある。使用されるバックライトは直下型でもエッジライト型でもどちらでもよい。特に、広画面の液晶テレビでは、本発明の耐擦傷性レンズフイルムは、直下型の拡散した光源が使用される場合に適している。」

エ 【実施例】
「【0039】
(耐擦傷性レンズフイルムの作成)
実施例1
ポリカーボネート(帝人化成株式会社製パンライトL-1250Y)を十分除湿乾燥した後、スクリュー型押出機A(口径90mm、L/D32)に投入し、押出機最高設定温度285℃、先端部設定温度260℃になる様に設定した。
一方、ポリメタクリル酸メチル(住友化学株式会社製スミペックHT25x)を十分除湿乾燥した後、スクリュー型押出機B(口径45、L/D28)に投入し、押出機最高設定温度260℃、先端部設定温度260℃になる様に設定した。
上記の樹脂を、それぞれのギアポンプを通して、ポリカーボネートは85Kg/hrの吐出量にて、ポリメタクリル酸メチルは8Kg/hrの吐出量にて、260℃に保たれた共押出用のフイードブロックに送り込み、ダイ温度265℃に設定したリップ先端より吐出した。
その後、共押し出しされた樹脂を金属製の冷却ロールとゴムロールの間隙で押圧し、耐擦傷性レンズフイルムとした。冷却ロールの表面には頂角90度の2等辺3角形を50μmの周期で隣接して線状に配備されており、共押し出しされた樹脂のポリカーボネート層を冷却ロール側とするとともに、ポリメタクリル酸メチル層をゴムロール側とし、さらにポリメタクリル酸メチル層とゴムロールの間に、支持体として100μmの2軸延伸したポリエチレンテレフタレートフイルムを挟み込んだ。
その後、更に冷却ロールにて積層物を冷却した後、ポリエチレンテレフタレートフイルムを剥離除去し、ポリカーボネート層(レンズ層)とポリメタクリル酸メチル層(裏面層)とからなる耐擦傷性レンズフイルムを芯材に巻き取ってロール状製品とした。
得られた耐擦傷性レンズフイルムの厚みは240μmであった。共押し出し用のフイードブロックに送り込んだ樹脂の量を勘案すると、ポリカーボーネート層(レンズ層)の厚さは約220μm、ポリメタクリル酸メチル層(裏面層)の厚さは約20μmと推定される。
・・(略)・・
【0045】
(耐擦傷性試験)
1.裏面層の鉛筆硬度
各種の硬度の鉛筆にてレンズフイルムの裏面に描画し、その後、レンズフイルム裏面の傷の有無を調べた。結果は、傷の発生しない最大の硬度で表す。」

オ 【0049】の【表1】に記載された各項目から、実施例1は、レンズ層がポリカーボネートであること、裏面層が鉛筆硬度2Hのメタクリル酸メチルであることが確認できる。
【表1】

(2) 引用例1に記載された発明
上記摘記事項ア?オの記載を整理すると、引用例1には、下記の発明が記載されている。
なお、上記引用例1の摘記箇所に記載されている「複層レンズフイルム」及び「レンズフイルム」と、「耐擦傷性レンズフイルム」とは、同じものであるから、下記の発明の認定に当たり、「耐擦傷性レンズフイルム」に用語を統一した。また、下記発明を認定するに際して参照した引用例1の記載箇所の段落を、参考として付記した。

「 一面にレンズ機能を有する立体模様を備えたレンズ層と、レンズ層の他面に形成された裏面層とからなり、レンズ層はポリカーボネートからなり、裏面層は、ポリカーボネート以上の硬度を有するアクリル系樹脂からなり、レンズ層を構成する樹脂と裏面層を構成する樹脂は溶融共押し出しにより一体化(【0018】)し、芯材に巻き取ってロール状製品(【0039】)とした耐擦傷性レンズフイルムであって、
上記耐擦傷性レンズフイルムは、
押し出されたポリカーボネートとアクリル系樹脂の溶融樹脂は、冷却ロールにより冷却されると同時に、冷却ロールの表面に刻設した立体模様がポリカーボネート層の表面に転写形成され(【0036】)たものであり、
上記立体模様は、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム(【0027】)であって、
冷却ロールの表面には頂角90度の2等辺3角形を50μmの周期で隣接して線状に配備されており、共押し出しされた樹脂のポリカーボネート層を冷却ロール側とするとともに、ポリメタクリル酸メチル層をゴムロール側として共押し出しされた樹脂を金属製の冷却ロールとゴムロールの間隙で押圧することで、ポリカーボネート層からなるレンズ層とポリメタクリル酸メチル層からなる裏面層(【0039】)が形成され、
上記裏面層は、
接着剤を使用せずにレンズ層と接着するように、ポリカーボネートとの親和性が高く、またポリカーボネートからなるレンズ層を擦り傷から保護するため、ポリカーボネートよりも耐擦傷性が優れており(【0020】)、
各種の硬度の鉛筆にて耐擦傷性レンズフイルムの裏面に描画し、その後、耐擦傷性レンズフイルム裏面の傷の有無を調べ、傷の発生しない最大の硬度(【0045】)で表す鉛筆硬度が2H(【表1】)である、
耐擦傷性レンズフイルム」(以下「引用発明」という。)


4 当審の対比・判断
(1) 本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「耐擦傷性レンズフイルム」、「ポリカーボネート層」からなる「レンズ層」及び「レンズ機能を有する立体模様」は、本願発明の「光学シート」、「本体部」及び「単位光学要素」に相当する。

イ 引用発明は「芯材に巻き取ってロール状製品」とするのであるから、巻き取られた「耐擦傷性レンズフイルム」は、シート状である。そして、引用発明における「芯材に巻き取ってロール状製品とした耐擦傷性レンズフイルム」は、シート状の「耐擦傷性レンズフイルム」が裏面(或いは表面)を外側にして芯材に巻き取られた時に、任意の周の裏面(或いは表面)とその次の周の表面(或いは裏面)とが対向(対面)しているものである。
また、引用例1には、【0036】に下記の記載がある。
「・・(略)・・
冷却されたレンズフイルム1は巻き取り機8を使用して芯材などに巻き取ってロール状製品としてもよいし、適当な形、大きさに裁断して束にしてもよい。支持体を使用した場合は、レンズフィルムから支持体を剥離除去してからロール状製品とされ、又は裁断される。」
一方、本願明細書には、本願発明の発明特定事項である「表裏を同じ向きで2枚重ね合わせてなる」との点に関し、以下の記載がある。
「【0009】
すなわち、本発明の課題は、光学密着防止策は他の光学部材に任せて、プリズム等による光学要素面の反対側を粗面とはせずに平滑面とした構成の光学シートについて、光学シートを2枚重ねで使用したり、ロールにして保管や運搬したりして光学シート同士で表裏が接触しても、或いは他の部材と接触しても、光学シート自体の少なくとも光学要素面反対側の平滑面が傷付き難い耐擦傷性に優れる光学シート提供することである。
また、この様な光学シートを用いることで、該光学シート等の光学部材が傷付き難い、面光源装置と液晶表示装置を提供することである。」
「【0020】・・(略)・・
また、「光学シートを、表裏を同じ向きで2枚重ね合わせてなる」とは、2枚以上の光学シート10a、10b、・・を図2の如く(2枚の場合を図示)、各光学要素面Pe、Pe、・・が全て同一方向(図2に於いては、上方)を向くようにして重ね合わせ、1つの光学シート10bの光学要素面Peが隣接する光学シート10aの平滑塗膜面Pmと対面するようにすることを意味する。」
してみると、引用発明の「芯材に巻き取ってロール状製品とした耐擦傷性レンズフイルム」は、本願発明の「表裏を同じ向きにして重ね合わされる光学シート」に相当する。

ウ また、引用発明は、「押し出されたポリカーボネートとアクリル系樹脂の溶融樹脂は、冷却ロールにより冷却されると同時に、冷却ロールの表面に刻設した立体模様がポリカーボネート層の表面に転写形成され」るものであり、その際の立体模様が、「頂角90度の2等辺3角形を50μmの周期で隣接して線状に配備」されたものであるから、これが転写されたポリカーボネート層の表面には、「頂角90度の2等辺3角形を50μmの周期で隣接して線状に配備」された立体模様となり、これによって、断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズムを形成しているものである。
一方、本願発明における「柱状プリズム」に関して、本願の明細書には、図1(a)と共に、以下の説明がなされている。
「【0025】
(単位柱状プリズム)
単位柱状プリズムは、代表的には主切断面の形状が、本体部1側を底辺とする三角形形状の単位プリズムである。この様な、単位柱状プリズムとしては、従来公知の各種プリズムを適宜採用することができる。・・(略)・・本発明に於ける単位柱状プリズムには単位柱状レンズも含み得る。」
「【0065】
〔実施例1〕
図1(a)の様な、単位光学要素2として単位柱状プリズムを採用した光学シート10を作製した。」

したがって、引用発明の「耐擦傷性レンズフイルム」の表面に形成される立体模様からなる「断面が3角形で底辺を隣接した多数の3角柱を頂稜が略平行になるように配列したプリズム」は、本願発明の「シート状の本体部の一方の面に単位光学要素として、主切断面形状が頂角90°の直角二等辺三角形である単位柱状プリズムを、同一周期で、その稜線方向を互い平行に配列してなるプリズム群を有し」との構成を有している。

エ 引用発明は、共押し出しされた樹脂のポリメタクリル酸メチル層をゴムロールにより押圧して裏面層の表面形状が形成されたものであり、立体模様を形成する面であるポリカーボネート層の表面は、形成する立体模様の反転像(頂角90度の2等辺3角形を50μmの周期で隣接して線状に配備されたもの)が設けられた冷却ロールにより押圧されるものである。
そして、引用例1の【0032】には、「本発明の耐擦傷性レンズフイルム1は、裏面層の外側面3aにランダムの凹凸構造、線状の凹凸構造等の光拡散機能のある凹凸構造を設けることもできる。
・・・(略)・・・共押出し時における冷却ロールによる押圧と同時に所望する凹凸模様を形成したロールを用いて挟圧することにより、所定のフイルムに該凹凸模様を形成して凹凸構造とする方法が例示できる。」と記載されているように、共押出し時に裏面層に凹凸構造を設けたい場合には、凹凸模様を形成したロールを用いることが、説明されている。
してみると、引用例の実施例1(摘記事項エ)に関する説明において、裏面層に凹凸構造の拡散層を設けることが記載されておらず、かつゴムロール表面に特定の形状を形成することも記載されていないことから、引用発明の裏面層表面は、平滑な面となっていることは明らかである。
そして、引用発明の耐擦傷性レンズフイルムの裏面層の表面は、鉛筆硬度が2Hであるから耐擦傷性である。
したがって、引用発明の「耐擦傷性レンズフイルム」の「ポリメタクリル酸メチル層からなる裏面層」と、本願発明の「本体部の他方の面に」「有し」ている「最外面が平滑な耐擦傷性塗膜」とは、「本体部の他方の面に」「有し」ている「最外面が平滑な耐擦傷性膜」である点で一致している。

オ 表裏の硬度に関して、引用発明は「裏面層は、ポリカーボネート以上の硬度を有するアクリル系樹脂」であり、「各種の硬度の鉛筆にて耐擦傷性レンズフイルムの裏面に描画し、その後、耐擦傷性レンズフイルム裏面の傷の有無を調べ、傷の発生しない最大の硬度で表す鉛筆硬度が2Hであ」り、2Hは、Fよりも固くF以上の硬度であるから、本願発明の「前記配列された単位光学要素で形成される光学要素面の硬度Heと、前記耐擦傷性塗膜の平滑面を成す平滑塗膜面の硬度Hmとについて、
JIS K5600-5-4(1999年)に準拠して測定(荷重1000g、速度1mm/s)した鉛筆硬度で、硬度HmがF以上であり、且つ硬度Hmが硬度He以上(硬度Hm≧硬度He)であって、硬度HeがB以上」とは、鉛筆硬度で、「前記配列された単位光学要素で形成される光学要素面の硬度Heと、前記耐擦傷性膜の平滑面を成す平滑膜面の硬度Hmとについて、
硬度HmがF以上であり、且つ硬度Hmが硬度He以上(硬度Hm≧硬度He)である」点で一致している。

カ したがって、本願発明と、引用発明とは、
「 表裏を同じ向きにして重ね合わされる光学シートであって、
シート状の本体部の一方の面に単位光学要素として、主切断面形状が頂角90°の直角二等辺三角形である単位柱状プリズムを、同一周期で、その稜線方向を互い平行に配列してなるプリズム群を有し、該本体部の他方の面に最外面が平滑な耐擦傷性膜を有し、前記配列された単位光学要素で形成される光学要素面の硬度Heと、前記耐擦傷性膜の平滑面を成す平滑膜面の硬度Hmとについて、
鉛筆硬度で、硬度HmがF以上であり、且つ硬度Hmが硬度He以上(硬度Hm≧硬度He)である、光学シート。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1
耐擦傷性膜に関し、本願発明は、塗膜であるのに対して、引用発明は、レンズ層を構成するポリカーボネートと溶融共押し出しにより一体化されたポリメタクリル酸メチル層である点。

相違点2
光学要素面の硬度Heと、耐擦傷性膜の平滑面を成す平滑面の硬度Hmとに関して、本願発明は「JIS K5600-5-4(1999年)に準拠して測定(荷重1000g、速度1mm/s)した鉛筆硬度で、硬度HmがF以上であり、且つ硬度Hmが硬度He以上(硬度Hm≧硬度He)であって、硬度HeがB以上である」のに対して、引用発明では、鉛筆硬度の測定条件及び光学要素面の硬度Heが特定されていない点で相違する。

(2) 相違点についての判断
ア 相違点1について
本願の明細書には、耐殺傷性塗膜に関して下記の記載がある。
「【0030】
〔耐擦傷性塗膜〕
耐擦傷性塗膜3は、少なくとも樹脂を含み、外部(周囲の雰囲気等)に露出した最外面が平滑面となった塗工形成された透明な層である。耐擦傷性塗膜3は、保護フィルム無しで光学シート10同士がその表裏で接触するとき、或いは、光学密着防止の為に接触面を粗面化した他の光学部材と接触するときに、光学シートの傷付きを防止する為の層である。
この様な、耐擦傷性塗膜3は、樹脂成分をバインダ樹脂として、更に必要に応じて、各種添加剤、溶剤等を含む樹脂組成物(塗液、塗料)によって塗布形成することができる。
【0031】
(樹脂)
上記樹脂としては、耐擦傷性塗膜3自体の本体部1からの剥離を防ぐ観点から、本体部1との密着性が強い透明な樹脂を適宜採用すると良い。
この様な樹脂としては、熱可塑性樹脂、或いは、熱硬化性樹脂や電離放射線硬化性樹脂等の硬化性樹脂などの透明な樹脂を使用できる。例えば、熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、・・(略)・・等であり、熱硬化性樹脂は、・・・(略)・・・電離放射線硬化性樹脂は紫外線や電子線等の電離放射線の照射で硬化する・・(略)・・等である。なお、硬化性樹脂の場合は、硬化剤、重合開示剤などが該樹脂成分の一部として含み得る。
上記各種樹脂のなかでも、特に電離放射線硬化性樹脂は、硬化が迅速で生産性に優れる上、形成される耐擦傷性塗膜3の塗膜強度を強くでき耐擦傷性を優れたものに出来る点で好ましい。」
上記記載においては、「耐擦傷性塗膜」を形成する樹脂として、本体部1との密着性が強い透明な樹脂を適宜採用し得るものであり、熱可塑性の樹脂も含め種々の樹脂が選択肢として列記されているものの、「塗膜」とする形成方法を採用することによって、膜自体に特定の物性、形状等を持たせることについては特段の説明がなされていない。
一方、引用発明においては、溶融樹脂を押し出し、冷却ロールとゴムロールとによって耐擦傷性レンズフイルムを形成しているものであるから、裏面層を形成するポリメタクリル酸メチルは、熱可塑性樹脂といえ、また、「接着剤を使用せずにレンズ層と接着するように、ポリカーボネートとの親和性が高」いものである。
したがって、本願発明の「塗膜」である「耐擦傷性膜」と、引用発明における「レンズ層を構成するポリカーボネートと溶融共押し出しにより一体化されたポリメタクリル酸メチル層」とに、物の発明における構成としての差異は見出せず、物の発明として実質的な相違点ではない。
仮に、製造方法も含め考慮するとしても、一体的に成形する方法として引用例1に「この欠点を解消する方法として、裏面に熱、光、電離性放射線により硬化する樹脂を塗工することによりハードコート処理する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。・・(略)・・」(【0007】)として開示された次善の手段にすぎない。

イ 相違点2について
(ア)測定方法について
引用発明は、「各種の硬度の鉛筆にて耐擦傷性レンズフイルムの裏面に描画し、その後、耐擦傷性レンズフイルム裏面の傷の有無を調べ、傷の発生しない最大の硬度」を「鉛筆硬度」として表しているものの、その他の測定条件については、特定されていない。
しかしながら、定性的な評価を行うにあたり、JIS規格等の公的な規格に沿って測定を行うことは一般的であり、特段の説明が無ければ、一般的な規格で測定を行っているか、或いはその様な規格を採用することは当業者ならば容易に実施する程度のものである。
そして、鉛筆硬度の測定法として、JISK5600-5-4(1999年)(荷重750g、速度0.5?1.0mm/S、鉛筆の傾斜45°)或いは、JISK5400-5-4(荷重1000g)或いは、荷重に関して両規格を混在させることは、通常行われている測定方法である。
また、引用発明において、何れの測定方法を採用したとしても、レンズ層と裏面層との鉛筆硬度の大小が逆転するとは考えられないし、また、裏面層についても実施例1の裏面層について鉛筆硬度がFよりも柔らかくなることも想定し難い。さらに、裏面層に傷を付けたくないという引用例1の技術思想から、裏面層の鉛筆硬度を本願発明の測定方法によって特定されるFよりも固くしたいと言うこと自体は、当業者ならば容易に想到し得た事項である。
(イ)光学要素面の硬度Heについて
引用発明においては、光学要素面の硬度Heは特定されておらず、「裏面層は、ポリカーボネート以上の硬度を有するアクリル系樹脂からな」っているものである。引用例1の【表1】によれば、実施例1に対して、比較例1は、ポリカーボネートのみからなり、その鉛筆硬度が「2B」であることが示されていることから引用発明におけるポリカーボネートの鉛筆硬度も「2B」と推定し得るものであるが、引用発明においては、ポリカーボネートの鉛筆硬度を「2B」に特定しなければならない特段の事情はない。
加えて、引用例1には、ポリカーボネートに関して、「本発明に使用されるポリカーボネートはビスフェノールAを主成分とする通常のポリカーボネートであり、市販のポリカーボネート樹脂が全て好適に使用できる。」(【0019】)、「ポリカーボネートの鉛筆硬度がB乃至2B程度である」(【0022】)と説明されている。
したがって、引用発明において、鉛筆硬度を「B」とすることは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。

ウ 本願発明の効果について
本願発明の奏する効果について、請求人は、平成28年 5月27日提出の意見書(以下「意見書」という。)の「(4-2)引用例1について」の欄において下記の主張をしている。
「一方、本願発明においては、段落[0076]-[0080]、[表1]に示すように、上記の本願発明の特徴(c)、すなわち、耐擦傷性塗膜の平滑面を成す平滑塗膜面の「硬度Hm」が「F以上」であり、且つ硬度Hmが上記硬度He以上(「硬度Hm≧硬度He」)であって、「硬度He」が「B以上」である、という特定を満たす実施例1?7においては、いずれも、平滑塗膜面の耐擦傷性は良好(○又は△)になることが確認されています。
このような評価結果(効果)は、引用例1に何ら記載されておらず、それゆえ、引用例1から、上記の特徴(c)で規定されているような、本願発明の光学シートに、当業者が容易に想到することはあり得ないものと思料いたします。」
しかしながら、本願発明は[表1]に記載されていない様々な態様(例えば、硬度HmがFであって、硬度HeがHBであるものや、硬度Hmが5Hであって、硬度Heが4Hであるもの等)を含んでいる。したがって、[表1]を根拠とした効果の顕著性の主張は、請求項1の記載に基づかないものであり、本願発明の効果として採用することができない。
更に言えば、[表1]において、「平滑塗膜面」が「NG」とされているのは、硬度HmがHBのものである。そして、「平滑塗膜面」が「OK」とされているのは、いずれも硬度HmがFより硬いものであり、「硬度HeがB以上である」ようにすることの格別顕著な効果は、[表1]から直ちに読み取れるものではない。
してみれば、本願発明について、上記ア及びイにおいて既に検討した容易想到性の議論を覆すような格別顕著な効果の存在を認定することはできない。

エ 引用例1の比較例1に基づく意見書の主張について
「 実施例1の裏面層の鉛筆強度が2Hであり、ポリカーボネートのみの比較例の場合2Bとなることが記載されています(段落[0049]、[表1])。
しかしながら、引用例1には、上記の本願発明の特徴(c)、特に、本願

発明の光学シートにおける、配列された単位光学要素で形成される光学要素面の「硬度He」が、「B以上」であることについて、記載されておりません。
そして、上記のように、頂角90度の2等辺三角形を50μmの周期で隣接して線状に配備した冷却ロールにより加工し、ポリカーボネートのレンズフィルムとしたレンズ層においては、その表面の硬度は、平坦層である引用例1のポリカーボネートのみの比較例1における裏面層の硬度よりもさらに硬度が小さいもの(軟らかいもの)になると考えられます。
すなわち、引用例1のポリカーボネートからなるレンズ層においては、その表面の硬度は「2B」よりもさらに硬度が小さいもの(軟らかいもの)になると考えられます。」
しかしながら、引用発明のポリカーボネートが、比較例1におけるポリカーボネートに限定されるものでないことは、上記イのとおりである。

オ まとめ
上記ア?エのとおり本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。


5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の請求項2?5に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-09 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2010-279502(P2010-279502)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一大隈 俊哉  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 道祖土 新吾
藤原 敬士
発明の名称 光学シート、面光源装置及び液晶表示装置  
代理人 藤枡 裕実  

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