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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R
管理番号 1321686
審判番号 不服2016-3979  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-15 
確定日 2016-11-29 
事件の表示 特願2012-218331「車両用音声処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月21日出願公開、特開2014- 72790、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月28日の出願であって、平成27年6月19日付けで拒絶理由が通知され、同年7月24日付けで手続補正がなされたが、同年12月8日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成28年3月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正がなされた。


第2 平成28年3月15日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否

1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についてするものであって、
本件補正前に
「【請求項1】
第1外部装置(14)と無線通信することで音声データを受信する受信手段(160)と、
自動二輪車(50)の運転状態を検出する運転状態検出手段(164、166)と、
前記受信手段(160)が受信した前記音声データに、前記運転状態検出手段(164、166)が検出した運転状態に応じた音声処理を施す音声処理手段(156)と、
音を出力することができる第2外部装置(16)と無線通信することで、音声処理手段(156)が所定の音声処理を施した前記音声データを送信する送信手段(162)と、
を備え、
前記運転状態検出手段(164)は、前記自動二輪車(50)の車速及びエンジン回転数を検出し、前記音声処理手段(156)は、検出された前記車速が速い程、音量を大きくさせる音声処理を前記音声データに施すとともに、検出された前記エンジン回転数に対応するエンジンノイズの逆位相の音データを前記音声データに混合させる音声処理を施す
ことを特徴とする車両用音声処理装置(10)。」
とあったところを、

「【請求項1】
第1外部装置(14)と無線通信することで音声データを受信する受信手段(160)と、
自動二輪車(50)の運転状態を検出する運転状態検出手段(164、166)と、
前記受信手段(160)が受信した前記音声データに、前記運転状態検出手段(164、166)が検出した運転状態に応じた音声処理を施す音声処理手段(156)と、
音を出力することができるマイク(16a)及びイヤフォン(16b)を有するヘッドセット(16)と無線通信することで、音声処理手段(156)が所定の音声処理を施した前記音声データを送信する送信手段(162)と、
を備え、
前記運転状態検出手段(164)は、前記自動二輪車(50)の車速及びエンジン回転数を検出し、
前記音声処理手段(156)は、検出された前記車速が速い程、音量を大きくさせる音声処理を前記音声データに施すとともに、検出された前記エンジン回転数に対応するエンジンノイズの逆位相の音データを前記音声データに混合させる音声処理を施すことを特徴とする車両用音声処理装置(10)。」
としたものである。

2.補正の適否
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2外部装置」を「マイク及びイヤフォンを有するヘッドセット」に限定したものである。よって、本件補正は、発明特定事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

3.原査定の概要
平成27年12月8日付け拒絶査定の概要は以下のとおりである。

・請求項 1-9
・引用文献等 1-10
出願人は、請求項1を「車速が速い程、音量を大きくさせる」点で限定し、「引用文献1には、自動二輪車の車速が所定のスピードより遅い場合は、車速が遅い程、スピーカから出力される音量の減衰率を大きくすることが開示されています。」、「したがって、車速が所定のスピード、つまり、毎時40Km以上になると、乗員が設定した音量の最大音量100%で出力されるため、毎時40Km以上の車速では音量がそれ以上大きくなることはありません。」、「これに対して、請求項1に係る発明では、自動二輪車の停車時に音量設定を行っても、車速が速くなる程音量が大きくなりますので、適切な音量で音声を聞くことができます。」等述べて、引用文献1の「車速に応じて音量を減衰する」構成は、請求項1に係る発明の「音量を車速に応じて大きくする」構成と効果が大きく相違する旨述べている。
しかしながら、引用文献1に記載の発明においても、少なくとも「所定のスピード」より小さな領域においては、車速に応じて音量が大きくなるものである点で相違せず、出願人の主張は採用できない。
また、仮に出願人の主張するように、引用文献1の「車速に応じて音量を減衰する」構成は、請求項1に係る発明の「音量を車速に応じて大きくする」構成と相違すると考えても、引用文献9の第1図等に記載されているように、音量を車速に応じて大きくする構成は周知の事項にすぎず、引用文献1に記載の発明においても「車速に応じて音量を減衰する」構成にかえて、「音量を車速に応じて大きくする」構成を採用することは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
また、出願人は請求項1を「検出された前記エンジン回転数に対応するエンジンノイズの逆位相の音データを前記音声データに混合させる音声処理を施す」点でも限定し、進歩性を主張している。
この点、引用文献4においてはマイクロフォンにより検出したロードノイズの逆位相の音を出力するものにとどまるが、引用文献10の[要約]等に記載されているように、エンジン回転数を検出してこれに対応するエンジンノイズの逆位相の音データを出力する手法も周知の手法にすぎない。
したがって、補正後の請求項1に係る発明は依然として進歩性を有しない。請求項1に従属する請求項2-9に係る発明についても依然として進歩性を有しない。

<引用文献等一覧>
1.特開2006-281965号公報
2.特開2001-287681号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平10-304485号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2010-028783号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2004-136734号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2007-030825号公報(周知技術を示す文献)
7.実願昭57-175427号(実開昭59-078187号)
のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
8.特開2004-109115号公報(周知技術を示す文献)
9.特開平04-191139号公報(新たに引用する文献;周知技術を 示す文献)
10.特開平07-077989号公報(新たに引用する文献;周知技術 を示す文献)

4.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-281965号公報(以下、「引用例1」という。)には、「自動二輪車のオーディオ装置」に関して以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0010】 本発明の実施例を図に基づき説明する。1はスクータ、オートバイ等の自動二輪車であり、車体の前上部において左右のハンドル間にフロントパネル2が配置され、このフロントパネル2の裏側の空間にはオーディオ装置3が収納されている。オーディオ装置3は、音源4と、コントロール部5と、スピーカ6を備え、自動二輪車1の直流電源であるバッテリ7を電源としている。オーディオ装置3へ供給されるバッテリ7の電力は、スイッチ18によってON-OFFされる。自動二輪車1の車体の前上部に配置したオーディオ装置3と自動二輪車1の車体の後部に配置したバッテリ7とのリード線19は、車体に沿って座席20の下側を通って配線されている。」

イ.「【0014】 コントロール部5は、制御回路8、ミュート回路9、信号処理回路10等を備えてコントロールボックス5Aに収納されており、制御回路8には自動二輪車1の車輪1Aの回転によって動作するスピードセンサ11からの信号が入力されていて、スピードセンサ11からのパルス信号を入力して自動二輪車1のスピードを算出し、このスピードに応じた制御出力をミュート回路9と信号処理回路10へ供給するように制御回路8が動作する。
【0015】 コントロール部5へ音源4の出力が信号ライン12によって入力する。このため、ミュート回路9には、音源4の出力が入力するように信号ライン12で接続している。信号ライン12は、一端がミュート回路9の音源入力部に接続され、他端先端には音源4の出力端子13に着脱自在に差し込まれるプラグ14を備え、中間部には音源4をON-OFFするスイッチを備えた操作部15を備えている。なお、信号ライン12の一端とミュート回路9の音源入力部に接続される部分は、ミュート回路9の音源入力部側を出力端子13と同様の差込口とし、信号ライン12側をプラグ14と同様のプラグとして、着脱自在構成とすることもできる。ミュート回路9には、ミュート回路9を自動ミュート稼動状態(ON)と自動ミュート停止状態(OFF)となるようにミュートスイッチ16を備えている。
【0016】 信号処理回路10は、ミュート回路9の出力を入力して増幅動作する増幅機能回路と制御回路8からの信号によって出力レベルが制御される処理回路等を備えており、出力によってスピーカ6が作動する。そして、スピーカ6での音量(ボリューム)を増減する音量調節部17を備えている。また、スピーカ6はステレオ信号作動するように2個接続されている。」

ウ.「【0023】 このようなミュート回路9の動作は、スピードセンサ11からのパルス信号によって、制御回路8は自動二輪車1のスピードを算出し、例えば毎時40Km以下の場合に、制御回路8がミュート回路9によって自動ミュートがかかる状態に自動制御する。自動ミュートがかかる状態となれば、毎時40Km以下のスピードの範囲内では、自動二輪車1のスピードの低下に応じて、スピーカ6へ供給される出力が段階的に減少して音量が段階的に減少するように、制御回路8がミュート回路9を制御する。
【0024】 即ち、自動二輪車1のスピードが、例えば毎時40Kmでは、音量調節部17によって設定された音量の最大音量100%で出力され、毎時35Kmではその最大音量の80%で出力され、毎時30Kmではその最大音量の70%で出力され、毎時25Kmではその最大音量の60%で出力されるというように、スピードに応じて出力が段階的に減衰するように動作する。この段階は、たとえば、5段階であり、自動二輪車1が停止しているときは、最低段階に低下し、この状態でもスピーカ6からは、小さい音量で音が聞こえる状態である。自動二輪車1が停止しているときとは、例えば、信号待ちの状態である。
【0025】 そして、自動二輪車1が停止状態から走行状態へ移行して、制御回路8が自動二輪車1のスピードを算出しつつ、スピードが上昇することに伴って、段階的に音量がアップするように制御回路8がミュート回路9を自動制御する。そして、自動二輪車1のスピードが所定のスピード、例えば毎時40Kmを越えたとき、ミュート回路9によって自動ミュートがかからなくなるように、制御回路8がミュート回路9を自動制御する。これは、スピードが毎時40Kmを越えて更に上昇するに伴って、走行中に運転者が受ける騒音が大きくなるため、ミュートによって音量を増減する必要がなくなるためである。
【0026】 このように、ミュート回路9により自動ミュートがかかるか否かを決める所定スピード(上記では毎時40Km)は、制御回路8によって任意に設定できるように、スイッチを設ける等の手段を採ればよい。」

上記アないしウから、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記アによれば、オーディオ装置は、音源4、コントロール部5、スピーカ6を備えているものである。

・上記イによれば、コントロール部5は、制御回路8、ミュート回路9、信号処理回路10を備えているものである。

・上記イによれば、制御回路8は、自動二輪車の車輪の回転によって動作するスピードセンサ11からの信号が入力されて、スピードに応じた制御出力をミュート回路9と信号処理回路10へ供給するものである。

・上記イによれば、ミュート回路9は、音源4と信号ライン12で接続されているものである。

・上記イによれば、信号処理回路10は、ミュート回路9の出力と制御回路8からの信号をスピーカ6に出力するものである。

・上記ウによれば、制御回路8は、スピードに応じて段階的に音量(出力)が減衰またはアップするようにミュート回路9を制御するものである。

そうすると、上記アないしウの記載によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「信号ラインによって音源4と接続されたミュート回路9と、
自動二輪車の車輪の回転によって動作するスピードセンサ11と、
スピードに応じて段階的に音量(出力)が減衰またはアップするようにミュート回路9を制御する制御回路8と、
ミュート回路9の出力と制御回路8からの信号をスピーカ6に出力する信号処理回路10とを備える
オーディオ装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-287681号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 二輪車における運転座席の前方箇所に装着される固定装置部と、
二輪車の運転者または搭乗者が身体にまとう状態で携帯する携帯装置部とを備えてなり、
前記携帯装置部は、音源と、この音源からの音声信号を送信アンテナを通じ電波で送信する無線送信機とを有し、
前記固定装置部は、前記送信アンテナから送信された電波を受信アンテナを通じ受信する無線受信機と、この無線受信機の受信信号を音声出力するスピーカとを有していることを特徴とする二輪車用発音装置。」

上記によれば、二輪車における運転座席の前方箇所に装着される固定装置部は、無線受信器とスピーカを有する事項が記載されている。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-304485号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0023】次に、以上のように構成された情報提供装置1の動作について具体的に説明する。先ず、運転者がヘルメット3を装着して二輪車を運転する場合で説明する。車体には上記した特別情報入力手段11が設けられており、常時所定の特別情報が提供されている。ここでは、例えばラジオによる音声情報を想定する。即ち、ラジオの音声情報は、所定の電波塔(図示略)などから送信されるが、これを特別情報入力手段11が取り込む。そして、接続されている送信機15に伝達する。このとき、ラジオの音声情報はステレオ式の音声情報として2種類の音声が別々に伝達される。」

上記によれば、二輪車の車体には、ラジオ等の特別情報が提供される特別情報入力手段と送信機が設けられる事項が記載されている。

(4)原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-28783号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0091】 本実施例は、エンターテーメントに限らず、ロードノイズなどの低減のためにアクティブノイズキャンセル装置として本願のデジタルスピーカーを用いることも可能である。すなわち、図示されていないマイクロフォンによりロードノイズなどを検出し、それとは逆の位相の音声が生成されるようにする。また、その際に指向性を制御することで、例えば運転者が聞こえるロードノイズだけを低減したり助手席や後部座席の同乗者が聞こえるロードノイズだけを低減したりすることも可能になる。本実施例は車載用デジタル音響システム以外にも、航空機やモーターバイク、バス、電車などの乗り物にも適用できる。また、カプセルホテル等のベッドや視聴覚室、コンサートホールなどにおけるデジタル音響システムやノイズキャンセル用途にも応用可能である。」

上記によれば、ロードノイズなどの低減のためにアクティブノイズキャンセル装置が用いられる事項が記載されている。

(5)原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-136734号公報(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0021】次にこの第1実施例の作用について説明すると、オーディオ装置27が、車体カバー12Aにおけるフロントカバー17の張出部17aに設けられる収納室26内に、透明な蓋29で覆われて収納され、光信号等の無線信号によってオーディオ装置27を遠隔操作する遠隔操作器30を保持するホルダ31が操向ハンドル15に取付けられる。したがってオーディオ装置27を遠隔操作するにあたり、配線コードを不要として部品点数を低減するとともに煩雑な配線作業を不要とし、コスト削減を図ることができ、また自動二輪車の走行中でもオーディオ装置27を容易に操作することができる。」

上記によれば、オーディオ装置27を遠隔操作する遠隔操作器を保持するホルダが、自動二輪車の走行ハンドルに取り付けられている事項が記載されている。

(6)原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-30825号公報(以下、「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0023】 ここで、上記自動二輪車1は、シート27前方においてトップシェルタ32内に配置されるオーディオ本体(音声信号を発生させる装置)51と、フロントカウル34内のメータパネル36両側に配置される各フロントスピーカ52と、リアトランク29前部のシートバック28両側に配置される各リアスピーカ53と、左右サドルバッグ40間のリアフェンダ60後部に配置されるアンプ54とを主とするオーディオ装置50を備えている。フロントスピーカ52は、比較的大型の中低音用スピーカ52aに対し、比較的小型の高音用スピーカ52bが分離して設けられる。なお、メータパネル36の中央部手前側には、カーナビゲーションシステムにおける液晶表示部36aが配設されている。
【0024】 オーディオ本体51は、ラジオチューナ、カセットテーププレーヤ、CD(Compact Disk)プレーヤ、及びMD(Mini Disc)プレーヤ等の複数のオーディオソースを有する。なお、図中符号51aは、リアトランク29内に収容されるオーディオ本体51の一部としてのCDチェンジャーを示す。このオーディオ本体51から出力された音響信号は、アンプ54を介して増幅された後に、各フロントスピーカ52及びリアスピーカ53から実際の音響として出力される。」

上記によれば、オーディオ本体51は自動二輪車のトップシェルタ32内に配置され、リアトランクにはCDチェンジャーが収納される事項が記載されている。

(7)原査定の拒絶の理由に引用された実願昭57-175427号(実開昭59-78187号)のマイクロフィルム(以下、「引用例7」という。)には、以下の事項が記載されている。

「カバー(5b)を光透過材で構成し、収納装置(5)と共に防水構造とする事により、操作時のみカバー(5b)を開け、通常はそれを閉めておく事により、セット自体の防水処置を軽減する様にする事もできる。
さらに、音響機器本体(2)を収納する収納装置(5)でなく、小物入れ等外部から簡単に触れられては困るものを収納するものに適用してもよく、ジープ等四輪車にも適用することができる。」(第5頁6行?14行)

上記によれば、音響機器本体を収納装置に収納する事項が記載されている。

(8)原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-109115号公報(以下、「引用例8」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0052】〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態は、駒部材100Aの構造が第1、2実施形態と相違するものである。なお、アンテナ21は、第2実施形態と同じ構成であるため、説明を省略する。
第3実施形態の駒部材100Aは、図8に示すように、駒本体131と、側蓋132とで構成されている。駒本体131は、金属製部材からなり中空筒状に形成されている。側蓋132は、プラスチックなどの非導電性部材(電磁絶縁体)で構成されている。
そして、駒本体131の中空部(収納部)131A内にアンテナ21が収納され、その両開口部に側蓋132が装着されている。この際、コイル212の軸方向(コア211の軸方向)が中空部131Aの軸方向と一致する向きでアンテナ21は収納されている。従って、コイル212の軸方向には、非導電性部材からなる側蓋132が配置され、受信感度の低下を防止している。
また、駒本体131の外周の一部は、金属部分が切断されて絶縁材133が挟み込まれている。なお、本実施形態では、この絶縁材133は、バンド裏面側に形成されており、駒部材100Aにおけるバンド表面側の意匠の低下を防止している。」
「【0071】本発明の無線機能付き電子機器としては、前述の電波修正時計に限定されず、例えば、前記ICカード機能のみが設けられた電子機器(装着バンド付ICカード装置)等の各種電子機器にも適用できる。例えば、電子機器としては、脈拍や体温等の測定機器や通信、通話機能を備えた通信機器、カレンダやスケジュール、アドレス帳機能を備えた携帯情報端末機器、電子計算機能を備えた携帯型コンピュータ、音楽や画像、映像再生機能を備えたAV機器、非接触型通信機能を備えた個人情報管理用機器等の各種の無線情報の通信機能を有する電子機器に適用できる。
これらの電子機器においても、例えば本体に液晶表示部等を設け、駒部材100内に組み込まれたアンテナで受信したり、外部に送信する情報、例えば残金情報や使用履歴等の情報を表示するようにしてもよい。さらには、電子機器から利用者のID情報を通信できるようにし、その電子機器と通信するシステム側から利用者に情報を提供するようにしてもよい。例えば、交通機関への乗降車時や、イベント会場や店舗への入退場時、会社等への出退勤時に、利用者全員にメッセージを送ったり、特定の人(IDで特定)に特別なメッセージ(特典ポイントの案内、イベント情報)を送るようにしてもよい。」

上記によれば、通話機能を備えた通信機器、アドレス帳機能を備えた携帯情報端末機器、電子計算機能を備えた携帯型コンピュータ、音楽や画像、映像再生機能を備えたAV機器等のアンテナで受信したり、送信したりする電子機器の筐体について、本体を金属製部材からなり中空筒状に形成し、側蓋をプラスチックなどの非導電性部材(電磁絶縁体)で構成する事項が記載されている。

(9)原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-191139号公報(以下、「引用例9」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「第1図は、請求項1に係わる発明の一実施例のブロック図であり、1は音響ソース、2はプリアンプ、3は音量制御回路、4はパワーアンプ、5はスピーカである。また、7は車速検出手段、6は制御信号変換回路であり、車速検出手段7からの車速信号が制御信号変換回路6に供給される。すると、制御信号変換回路6は車速信号をこの車速信号のレベルに応じた制御信号に変換し、この制御信号を音量制御回路3に供給する。そして、音量制御回路3は制御信号変換回路6からの制御信号に従って、プリアンプ2からの音響信号のレベルを制御する。音量制御回路3によってレベルが制御された音響信号はパワーアンプ4を介してスピーカ5に供給される。したがって、車速に従って、制御された音量レベルの音響信号がスピーカ5によって再生される。
このように、上述した第1図によれば、車速の増加に伴なって、風切り音,ロードノイズ,機械音等の騒音が大となると、自動的にスピーカ5からの再生音の音量も大となるので、騒音のレベルに左右されずに、車室内で音楽等を鑑賞することができる。」(第2頁左下欄4行?同頁右下欄5行)
「第3図は、第2図例の変形例のブロック図であり、第2図例のエンジン出力検出手段8の代わりにエンジン回転数検出手段10が設けてある。
このエンジン回転数検出手段10は、エンジン9の回転数を検出し、この検出したエンジン回転数を示すエンジン回転数信号を制御信号変換回路6に供給する。すると制御信号変換回路6はエンジン回転数信号をエンジン回転数に応じた制御信号に変換し、この制御信号を音量制御回路3に供給する。そして、第2図例と同様にして、音量制御回路3によって音量レベルが制御された音響信号がパワーアンプ4を介してスピーカ5に供給され。したがって、エンジン回転数に従って制御された音量レベルの音響信号がスピーカ5によって再生される。
上述した第3図例によれば、エンジン回転数の増加に伴なって騒音が大となると、自動的にスピーカ5からの再生音の音量も大となるので、騒音のレベルに左右されずに、車室内で音楽等を鑑賞することができる。」(第3頁左上欄8行?同頁右上欄7行)

上記によれば、車速の増加に伴なって自動的にスピーカ5からの再生音の音量を大とすること、エンジン回転数の増加に伴なって自動的にスピーカ5からの再生音の音量を大とする事項が記載されている。

(10)原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-77989号公報(以下、「引用例10」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【要約】
【目的】 エンジンの騒音を確実に低減できるようにする。
【構成】 エンジン1に、エンジン回転数を検出する回転数検出器11を設けるとともにスピーカ12を取り付ける。電子式の制御手段13は、上記の回転数検出器11が検出した回転数検出信号に基づいて上記スピーカ12へ二次音信号を出力するように構成する。エンジン1の運転時には、エンジンから発生する騒音とは逆位相の二次音を上記スピーカ12から発生させる。すると、これら2つの音が重なり合って相殺される。」

「【0009】上記シリンダブロック2内のピストン(図示せず)が上死点位置になったことを検出する上死点位置検出器11が、上記フライホイール6に対面される。この上死点位置検出器11によって、一定時間内でピストンが上死点位置となった回数をカウントすることにより前記クランク軸5の回転数を算出可能になっている。
【0010】上記の吸気マニホールド7から放射される吸気音とは逆位相の音を発生するスピーカ12が、同上の吸気マニホールド7に対面するようにエンジン1に付設される。このスピーカ12が二次音発生器を構成している。上記の上死点位置検出器11が検出した回転数検出信号に基づいて上記スピーカ12へ二次音信号を出力する電子式制御手段13が設けられる。この制御手段13は、上記の回転数検出信号に従って吸気騒音とは逆位相の波形を出力する二次音変換器14とパワーアンプ15とを備える。」

上記によれば、スピーカを、吸気マニホールドに対面するようにエンジンに付設し、クランク軸の回転数検出信号にしたがって、エンジンから発生する騒音とは逆位相の二次音をスピーカから発生させる事項が記載されている。

5.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「音源4」は、音声データを提供するものであるから、本願補正発明の「第1外部装置」に相当する。
また、引用発明の「ミュート回路9」は、音声データを音源から受信するから、本願補正発明の「受信手段」に相当する。
よって、引用発明の「信号ラインによって音源6と接続されたミュート回路9」は、本願補正発明の「第1外部装置と通信することで音声データを受信する受信手段」に相当する。
但し、第1外部装置と受信手段との通信手段が、本願補正発明は「無線通信」であるのに対し、引用発明はその旨の特定はされていない。

b.引用発明の「自動二輪車の車輪の回転によって動作するスピードセンサ11」は、本願補正発明の「自動二輪車の運転状態を検出する運転状態検出手段」に相当し、本願補正発明の「前記自動二輪車の車速を検出」することに相当する。

c.引用発明の「制御回路8」は、スピードセンサ11が検出したスピードに応じて段階的に音量(出力)を減衰またはアップするように制御するものであり、引用発明の「信号処理回路10」は、ミュート回路9の出力と制御回路8からの信号をスピーカ6に出力するものであるから、引用発明の「制御回路8」および「信号処理回路10」は、本願補正発明の「音声処理手段」に相当する。そして、引用発明の「信号処理回路」は、上記のとおりスピーカ6に出力する機能を備えたものであるから、本願補正発明の「送信手段」に相当する。
よって、引用発明の「スピードに応じて段階的に音量(出力)が減衰またはアップするようにミュート回路9を制御する制御回路8」および「ミュート回路9の出力と制御回路8からの信号をスピーカ6に出力する信号処理回路10」は、本願補正発明の「前記受信手段が受信した前記音声データに、前記運転状態検出手段が検出した運転状態に応じた音声処理を施す音声処理手段」および「音を出力することができる装置と通信することで、音声処理手段が所定の音声処理を施した前記音声データを送信する送信手段」に相当し、本願補正発明の「前記音声処理手段は、検出された前記車速が速い程、音量を大きくさせる音声処理を前記音声データに施す」ことにも相当する。
但し、音を出力することができる手段およびその通信手段が、本願補正発明は「マイク及びイヤフォンを有するヘッドセット」と「無線」通信するものであるのに対し、引用発明はその旨の特定はされていない。
更に、音声処理において、本願補正発明は、音量を大きくさせる音声処理とともに「検出されたエンジン回転数に対応するエンジンノイズの逆位相の音データを音声データに混合」させるのに対し、引用発明はその旨の特定はされていない。

d.引用発明の「オーディオ装置」は、本願補正発明の「車両用音声処理装置」に相当する。

したがって、一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「第1外部装置と通信することで音声データを受信する受信手段と、
自動二輪車の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記受信手段が受信した前記音声データに、前記運転状態検出手段が検出した運転状態に応じた音声処理を施す音声処理手段と、
音を出力することができる装置と通信することで、音声処理手段が所定の音声処理を施した前記音声データを送信する送信手段と、
を備え、
前記運転状態検出手段は、自動二輪車の車速を検出し、
前記音声処理手段は、検出された前記車速が速い程、音量を大きくさせる音声処理を前記音声データに施す車両用音声処理装置。」

<相違点1>
第1外部装置と受信手段との通信手段が、本願補正発明は「無線通信」であるのに対し、引用発明はその旨の特定はされていない。

<相違点2>
音を出力することができる手段およびその通信手段が、本願補正発明は「マイク及びイヤフォンを有するヘッドセット」と「無線」通信するものであるのに対し、引用発明はその旨の特定はされていない。

<相違点3>
音声処理において、本願補正発明は、音量を大きくさせる音声処理とともに「検出されたエンジン回転数に対応するエンジンノイズの逆位相の音データを音声データに混合」させるのに対し、引用発明はその旨の特定はされていない。

6.判断
上記<相違点3>について検討する。
引用発明は、引用例1の段落【0003】ないし【0006】を参照すると、所定のスピード以下のときは周囲の迷惑とならないような適度な音量になるように自動ミュートがかかる状態にすることを要旨としている。つまり、引用発明は、聞きとり易い音声を得る技術ではなく、周囲の迷惑にならない音量に制御する技術である。
そうすると、回転数検出信号に従ってエンジンから発生する騒音とは逆位相の二次音をスピーカから発生させる事項が記載されている引用例10(上記「4.(10)」に記載した特開平7-077989号公報)が例え周知技術であったとしても、引用発明にはそもそも音声を聞きとり易くしようという技術思想はないから、引用発明に引用例10を組み合わせる動機付けは存在しない。
また、引用例2ないし引用例9も(かつ、平成28年4月13日付け前置報告書で提示された周知技術である特開2000-99037号公報、特開昭61-112496号、特開2003-87359号公報をも参照したとしても)、引用発明と組み合わせて相違点3とし得る動機付けは存在しない。
よって、引用発明および引用例2ないし10からは、相違点3に係る発明特定事項を当業者が容易になし得たこととすることはできない。

したがって、相違点1および2について検討するまでもなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

本願請求項2ないし9の発明は、本願補正発明をさらに限定したものであるから、本願補正発明と同様に、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

7.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定

に適合するから、本願の請求項1ないし9に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、本願の請求項1に係る発明(本願補正発明)は、上記「第2」のとおり、引用例1に記載された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願の請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用する請求項2ないし9に係る発明は、請求項1に係る発明を更に限定した発明であるから、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2012-218331(P2012-218331)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 千本 潤介  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
関谷 隆一
発明の名称 車両用音声処理装置  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 坂井 志郎  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 大内 秀治  

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