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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1321719
審判番号 不服2014-24918  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-05 
確定日 2016-11-16 
事件の表示 特願2008-554597「分子インプリントポリマの改良した調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月30日国際公開、WO2007/095949、平成21年 7月30日国内公表、特表2009-527471〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2007年2月21日(パリ条約による優先権主張 2006年2月21日、デンマーク王国(DK))を国際出願日とする出願であって、平成24年11月27日付け拒絶理由通知に対し、平成25年6月4日受付け手続補正書及び意見書が提出され、さらに同年11月5日付け拒絶理由通知に対し、平成26年5月12日受付け意見書及び同年5月13日付け手続補足書が提出されたが、同年7月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年12月5日に拒絶査定不服審判が請求され、平成27年2月5日受付け手続補正書が提出された。そして、平成28年1月8日付けで当審による拒絶理由通知がなされ、同年5月12日受付けの手続補正書、誤訳訂正書及び意見書が提出された。

2.本願発明

本願請求項1、18に係る発明は、それぞれ平成28年5月12日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、18に記載された以下のとおりのものである (以下、これらをそれぞれ「本願発明1」、「本願発明2」といい、まとめて「本願発明」という。)。

本願発明1
「標的分子に対する高い結合能力および高い特異性を有する分子インプリントポリマ(MIP)を含む組成物の調製方法であって、この方法が、
a)前記標的分子に結合する不溶性MIPの懸濁液を得るステップであって、前記不溶性MIPは、テンプレート分子として標的分子またはその模倣体を用いて調製される、ステップと、
b)前記懸濁されたMIPを親和性精製工程にかけるステップであって、前記テンプレート分子、そのフラグメントまたはその模倣体は捕捉剤として使用される、ステップと、
c)前記親和性精製工程において前記捕捉剤に結合するMIPを回収し、回収された生成物から前記捕捉剤および前記捕捉剤に結合しないMIPを排除するステップと、
d)回収されたMIPと、選択的に、キャリア、ビークルまたは希釈剤を混合し、前記組成物を得るステップと、
を具えることを特徴とする方法。」

本願発明2
「組成物中の全てのMIPが、同一の標的分子に結合し、選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないことを特徴とする不溶性MIPの組成物。」

3.当審の判断
(1)本願発明1に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

ア 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な記載の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ そこで検討するに、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】には「十分に高い結合能力を有するMIP組成物を得て、この組成物を可溶性レセプタおよび抗体の代替として薬学的応用に使用可能なように、MIPを調製する改良方法を提供することを本発明の目的とする。」と記載されている。本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】及び本願請求項1の記載からして、本願発明1の解決すべき課題は、可溶性レセプタ及び抗体の代替として薬学的応用に使用可能な十分に高い結合能力を有するMIP組成物を調製する改良方法を提供することであるといえる。

ウ 一方、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0117】には実施例1として「テンプレートとしてのフルオレセインを有するMIP」に関する記載がなされているものの、懸濁されたMIPを親和性精製工程にかけるステップ、親和性精製工程においてフルオレセインに結合するMIPを回収し、フルオレセインに結合しないMIPを排除するステップ、及び回収されたMIPと、選択的に、キャリア、ビークルまたは希釈剤を混合するステップについては記載されていない。すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例1には、本願請求項1のステップa)に相当する工程については記載されているものの、ステップb)?d)に相当する工程は記載されているとはいえない。
同様に、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0118】、【0119】にはそれぞれ実施例2、実施例3として「テンプレートとしてのコール酸を有するMIP」に関する記載がなされており、やはり本願請求項1のステップa)に相当する工程については記載されているものの、ステップb)?d)に相当する工程は記載されているとはいえない。

エ また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0120】?【0124】には実施例4として「各MIP粒子の結合能力」に関する記載がなされている。そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0120】には「粉末状のMIP粒子間の結合能力/特性の違いを評価するために、結合試験を最も単純な形態で行った。実施例1からのMIPは、フルオレセインに対する結合能力に関して試験した。」と記載されていることから、粉末状のMIP粒子として実施例1で得られたMIPが使用されていると認められる。さらに、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0121】には「フルオレセインに対する1.9mgのMIPを380μlエタノール(96%)に懸濁し、5μlのフルオレセイン溶液(0.05mg/μlのエタノール)を追加し、5分間混合した。懸濁液は、遠心分離され、上澄み液を除去した。次いで、粒子を300μlのエタノールで3回洗浄した。洗浄した粒子を、顕微鏡ガラスプレートの上で拡散させ、結合能力分析を、白色光の粒子(全粒子)、および、UV光(365nm)に暴露された場合緑色蛍光を発する粒子(MIP結合粒子)を視覚的に粒子を数えることによって行った。UV光の使用により、エミッションフィルタは、緑色蛍光をみるために必要ではない。」と記載されており、MIP粒子がエタノールで洗浄されたことが記載されているものの、「白色光の粒子(全粒子)」から「UV光(365nm)に暴露された場合緑色蛍光を発する粒子(MIP結合粒子)」を分離することは記載されていない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0122】には「図4に示される粒子は、白色光およびUV光で撮られる2つの写真を重ねたものである。白点は、白色光で照らされた粒子であり、黒点は、UVで照らされた緑色蛍光粒子である。図4から、白色光で照らされた粒子(白点)は、UV光に照らされるときの緑色蛍光の粒子(黒点)より数が多いことは明らかである。2つの異なる光源下で視認される粒子数の違いは、MIPをミクロ化することで、結合MIP粒子の個体群および結合していない(非結合性)MIP粒子(=デブリ)の個体群が生じることを示している。従って、親和性特性に基づいた結合MIP粒子の選択は、使用されるMIP重量単位あたりの使用されるテンプレートへの結合能力として測定される結合能力を効率的に上昇させる。」、段落【0123】には「図示された写真は、緑色蛍光粒子は、粒径に関係なく異なる程度(強度)の緑色蛍光を示すという我々の観察を説明することができない。このような観察結果は、異なる結合MIP粒子間の結合能力の違いに対応している。この強度(蛍光)の差は、MIP粒子は異なる結合能力を有しないことを例示しており、従って、MIPの結合能力は、この実施例においては、最も高い蛍光強度を有するMIP粒子を選択することによって増加される。」と記載されており、これらの記載と図4から、結合MIP粒子の個体群と結合していない(非結合性)MIP粒子(=デブリ)の個体群が混在していることが示されているといえる。しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0122】、【0123】及び図4からは、UV光に照らされるときの緑色蛍光の粒子、すなわち段落【0121】に記載された「UV光(365nm)に暴露された場合緑色蛍光を発する粒子(MIP結合粒子)」が、白色光で照らされた粒子から分離されることは何ら示されていない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例4においても、やはり本願請求項1のステップa)に相当する工程については記載されているものの、ステップb)?d)に相当する工程は記載されているとはいえない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0124】には「このことをまとめると、本実施例は、MIP粒子組成物の結合能力が、結合しない粒子を除去することによって上昇することを示している。結合能力は、高親和性および/または標的分子に結合する複数の露出される結合ポケットを有するMIP粒子の濃度を高めることによって改良可能である。」と記載されているものの、上述のとおり、実施例1?4には実際に高親和性及び/または標的分子に結合する複数の露出される結合ポケットを有するMIP粒子の濃度を高めたことは開示されているとはいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例には、ステップb)?d)を経た不溶性MIPが実際に得られたことは示されているとはいえない。

オ 審判請求人は、平成28年5月12日受付けの意見書6頁「(9)請求項18について」において、以下のように釈明している。
「請求項18の記載内容の説明は、図4の参照が必要です。図4は、標準的なMIP組成物は多くの非結合性ポリマー粒子を含んでいることを示しています。本願発明の根本的な目的は、最終生成物を作る際に、非結合性の粒子を排除することです。上述のように、これは粒子状物質の精製用の従来技術(膨張ベッドクロマトグラフィーおよび凝集)を用いて行われます。これらの技術を用いて、精製過程において捕捉剤と結合しないMIPを排除することができ、その結果、組成物中の全てのMIPは、MIP結合性のものとなります。」
また、審判請求人は、平成28年5月12日受付けの意見書7頁「(11)明細書の段落[0123]について」において、以下のように釈明している。
「結論として、出願人は、試験分子(フルオレセイン)と全く結合しないMIP粒子が存在することを発見しました。これは、図4、および、MIP組成物は非結合性のものを取り除くことによって、より高い結合能を示すようになることから明らかです。加えて、発明者は同じ大きさのMIPが異なる蛍光強度を示すことを発見し、本願において報告しています。これは図4からは容易には読み取れませんが、この発見は結合能力の弱いMIPをMIP組成物から取り除くことができるという知見を提供するものであり、したがって組成物の結合能力および平均凝集を増加させることにつなげることが可能です。」
しかしながら、上記エで既述のとおり、図4及び本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0122】、【0123】の記載から示されているといえるのは、結合MIP粒子の個体群と結合していない(非結合性)MIP粒子(=デブリ)の個体群が混在していることである。そして、図4及び本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0122】?【0124】の記載には、MIP組成物から非結合性のものが実際に除外できることは何ら示されていない。また、図4のMIP組成物から非結合性の粒子を排除するための具体的な精製条件は何ら開示されておらず、またMIP組成物から非結合性の粒子を排除することが本願出願時の技術常識であったとはいえないことから、たとえ従来から膨張ベッドクロマトグラフィー、凝集といった技術が存在していたとしても、図4から非結合性の粒子を排除した組成物が得られるとは当業者でも理解できるとはいえない。

カ 次に、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0098】?【0101】には、次のような記載がなされている。
「本発明の調製の様態に関する発見
本願の発明者達は、高能力を有するMIPを調製するために、MIP調製、ミクロ化、テンプレートの除去、および利用可能なMIPの選択は、ミクロ化および選択技術に特に集中して、使用される。
従って、従来のMIP調製および精製方法を、細胞および/またはタンパク質分野で周知の選択および精製方法と組合せる場合、優れた結果が得られる。
例は、MIP技術「モノマの選択」から、ミクロ化、抽出および篩は、EBAなどの機能的精製と組合せられる。膨張ベッドの官能基を有するマトリックス/表面に結合させる能力に従ってMIP粒子を分類することによって、従来の「上流」MIP製品は、「下流」の選択段階および精製段階で捕捉して完全なものとなる。
上述のように組合せられたプロセスの極めて簡略化した概要は、図2にみられる。」
しかしながら、これらの記載を参酌しても、高能力を有するMIPの精製のための具体的な精製条件は図2に何ら記載されておらず、図2には概念的な工程図が示されているだけでやはり具体的な精製工程は記載されているとはいえない。

キ そして、図3については、本願発明の詳細な説明の末尾の「図面の簡単な説明」において「図3のパートIは、拡張ベッド吸着による精製または分類を示す。結合しないMIPは、通過し、排出される一方、ベッド粒子に結合されたコレステロール様分子など、テンプレートに結合するMIPは、保持される。図3のパートIIは、機能的に精製されたMIPを示す。ベッド粒子のテンプレート分子に結合するMIPは、続いて、抽出することができる。これらの抽出されたMIPは、結合性MIPと非結合性MIPとを含む未精製のMIP集合よりも、より高い結合能力を有する。」と記載されているものの、本願請求項1のステップa)?d)のいずれのステップと図3のIとIIのいずれが対応しているかは何ら説明がなされていない。
この点、審判請求人は、平成28年5月12日受付けの意見書4頁「(2)請求項1について」で以下のように釈明している。
「本願明細書において本願発明の実施例のすべてが記載されているわけではありません。しかしながら、出願人は、このことによって本願発明が実施可能でないとされるべきではないと考えています。図3は、本願の請求項1に記載の発明を的確に示す概略図と言えるものです。/図3の(I)は、請求項1のステップb)を表しています。図の左側に表されている(コレステロールがテンプレート分子として用いられている)未精製の標準MIPの集合は、コレステロール様分子が結合し、捕捉剤として用いられているクロマトグラフ・ビーズ懸濁液に接しています。図3の(I)では、コレステロールと結合したMIPのみがベッド粒子に保持されています。次のステップでは、MIPはベッド粒子から溶出されます。これにより、MIPがベッド粒子から解放され、溶出物がコレステロールを結合したMIPのみを含む状態になります(図3の(II))。要するに、図3の左側に示されている未精製の標準MIPの集合は請求項1のステップa)に、図3の(I)はステップb)に、図3の(II)はステップc)にそれぞれ対応しています。」(「/」は改行を意味する。)
しかしながら、本願請求項1のステップb)は、懸濁されたMIPを親和性精製工程にかけるステップであって、テンプレート分子、そのフラグメントまたはその模倣体は捕捉剤として使用されるステップであって、テンプレートに結合しないMIPとテンプレートに結合するMIPに分類する工程ではないのに対して、図3の(I)ではテンプレートに結合しないMIPとテンプレートに結合するMIPに分類されていることから、本願請求項1のステップb)と図3の(I)が対応しているとはいえない。そして、本願請求項1のステップc)は、親和性精製工程において捕捉剤に結合するMIPを回収し、回収された生成物から捕捉剤及び捕捉剤に結合しないMIPを排除するステップであるのに対して、図3の(II)ではベッド粒子のテンプレート分子に結合するMIPが抽出されているものの回収された捕捉剤に結合しないMIPを排除することは示されていないことから、本願請求項1のステップc)と図3の(II)も対応しているとはいえない。
また、仮に図3の(I)がステップb)、図3の(II)がステップc)にそれぞれ対応しているとしても、図3は抽象的な概念図であり、図3に対する説明にも、コレステロールを用いて、どのようにしてベッド粒子に保持されたMIPのみを溶出するのか等の具体的な処理条件が示されていない。そして、MIP組成物から非結合性の粒子を排除することが本願出願時の技術常識であったとはいえない。
そうすると、依然として本願請求項1の各ステップが図3及びその説明に記載されているとはいえない。

ク 加えて、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0039】?【0058】には精製に関する一般的な記載がなされているだけで、具体的な精製条件は何ら記載されていない。特に、EBAシステムについて言及している段落【0051】には「本発明は、EBAシステムの固相またはベッド粒子が、前記MIPを作製するために使用されたテンプレートに類似するか、または同一の化学構造に暴露された場合、MIP技術によって調製された粒子が、同様の方法において、EBAによって分類または精製できると結論づけている。ベッド粒子がEBAシステムの流体の一部の流れとともに輸送されるが、MIP粒子が比較的一定の膨張量で保持されることは重要であるので、比較的に高密度(>2g/ml)のベッド粒子は、流体化プロセスにおいてベッドに結合したMIPから結合していないMIPを分離するために、優れていることが明らかになるだろう。」と記載されているものの、EBAによって分類または精製できると結論づける根拠も、高密度(>2g/ml)のベッド粒子が流体化プロセスにおいてベッドに結合したMIPから結合していないMIPを分離するために優れているとする根拠も明らかでない。

ケ 審判請求人は、平成28年5月12日受付けの意見書5頁2段落で以下のように主張している。
「出願人は、2回目の拒絶理由通知に対する平成26年5月12日付の応答の際に、証拠資料として本願発明が実施された例を提出致しました。この極めて単純な膨張ベッド精製を用いた実施例では、フェニルアラニンと結合するMIPの結合能が25%上昇したことがはっきりと示されています。後続の改良技術である本願発明は、より高い結合能を有するものと言えます。」
しかしながら、平成26年5月13日付け手続補足書の証拠資料2は本願発明1の実施例に該当するものであり、このように特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。
仮に上記証拠資料2を参酌しても、証拠資料2には公表日が記載されていないことから、証拠資料2をもってMIPの膨張ベッド精製が本願出願当時に周知ないし技術常識であったとは認められない。
また、平成26年5月13日付け手続補足書の証拠資料1は、膨張ベッドを使ったタンパク質の親和性精製(アフィニティ精製)に関する論文であり(タイトル参照)、MIPの精製に用いることは何ら開示されていない。そうすると、MIPの精製に親和性精製が用いられることが本願出願当時の技術常識であったとは認められない。そのため、分子インプリンティングに親和性精製を適用した場合にどのようにしてMIPを膨張ベッドもしくは捕捉剤から分離するのかは、技術常識を参酌しても明細書の発明の詳細な説明から明らかであるとは認められない。

そうすると、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明でなく、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる、すなわち可溶性レセプタ及び抗体の代替として薬学的応用に使用可能な十分に高い結合能力を有するMIP組成物を調製する改良方法を提供できると認識できる範囲のものではないし、当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できることを認識できる範囲のものでもない。
したがって、本願請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

(2)本願発明2に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件(いわゆる明確性要件)について

ア 請求項18には「組成物中の全てのMIPが、同一の標的分子に結合し、選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないことを特徴とする不溶性MIPの組成物。」との記載があるが、組成物中の全てのMIPが同一の標的分子に結合することとはどのようなことを意味しているのか、選択的に組成物が標的分子に対する結合部位の全てを含まないこととはどのようなことを意味しているのか、本願明細書の発明の詳細な説明にも具体的な説明がないことから、これらの意義が不明瞭である。

イ まず、本願発明2において、「選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないこと」は任意的事項であるといえる(請求項18の原文となり、本願のパテントファミリーである国際公開第2007/095949号の請求項18には「optionally」との文言が用いられており、これは「選択的に」あるいは「任意に」との意味である)。そのため、本願発明2の必須の事項は組成物中の全てのMIPが同一の標的分子に結合することであると解される。
しかしながら、組成物中の全てのMIPが同一の標的分子に結合することとはどのようなことであるのか、この文言からその意味は明らかでない。組成物中には多数のMIP(分子インプリントポリマ)が存在しているところ、それら全てのMIPが同一の標的分子に結合している状態は、当業者が理解できるものとはいえない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明を見ても、段落【0027】には「第3の態様において、本発明は、以下の特性の少なくとも1つを有する不溶性MIPの組成物を与える:/1)MIPの平均直径が20μm未満であること;/2)平均標的分子結合能力が、MIPの10質量単位に対して少なくとも標的の1質量単位であること;/3)前記組成物中の実質的に全てのMIPが、同一の標的分子に結合し、選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないこと。」(「/」は改行を意味する。)、段落【0031】には「「分子インプリントポリマ」(MIP)は、1つまたはそれ以上のテンプレート分子の少なくとも一部に対応するキャビティ(またはボイド)を具えるポリマであり、この1つまたはそれ以上のテンプレート分子は、重合化前にクロスリンクしているモノマを含むモノママトリックスに組み込まれる。重合化後に得られたポリマは、テンプレート分子の形状に対応する多数のキャビティを含む。通常、MIPは、小さな粒子に分離(sequester)され、従って、テンプレートの除去を促進し、テンプレート分子に類似または同一の標的分子と相互作用する部分的なキャビティが形成される。」、段落【0103】には「本発明の手段によって得られるMIP組成物の少なくともいくつかは、新規な組成物であると考えられる。従って、本発明は、以下の特性の少なくとも1つを有するMIP組成物に関連する。/1)MIPの平均直径が20μm未満である;/2)標的結合の平均が、MIPの10質量単位に対して少なくとも標的の1質量単位である;/3)組成物中の実質的に全てのMIPは同一標的分子に結合し、組成物は標的分子に対する結合部位の全てを含まない。」(「/」は改行を意味する。)との記載がなされているものの、段落【0027】、【0103】の記載は本願請求項18の記載の繰り返し、段落【0031】は分子インプリントポリマに関する一般的記載にすぎず、同一の標的分子と組成物中の全てのMIPが同一の標的分子に結合することの技術的意味を説明した記載はない。

ウ また、上述のとおり、「選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないこと」は本願発明2では任意的事項ではあるが、請求項18では「組成物中の全てのMIPが、同一の標的分子に結合し」と記載される一方で、「記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まない」とも記載されている。この記載からは、前者ではMIPが標的分子に結合しているのに対して、後者ではMIPが標的分子に結合していないと解されることから、一見すると請求項18の前半部分と後半部分が矛盾した記載となっている。そうすると、請求項18の「選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないこと」の意味も不明瞭である。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】には「第3の態様において、本発明は、以下の特性の少なくとも1つを有する不溶性MIPの組成物を与える:/1)MIPの平均直径が20μm未満であること;/2)平均標的分子結合能力が、MIPの10質量単位に対して少なくとも標的の1質量単位であること;/3)前記組成物中の実質的に全てのMIPが、同一の標的分子に結合し、選択的に、前記組成物が、標的分子に対する結合部位の全てを含まないこと。」(「/」は改行を意味する。)、段落【0103】には「本発明の手段によって得られるMIP組成物の少なくともいくつかは、新規な組成物であると考えられる。従って、本発明は、以下の特性の少なくとも1つを有するMIP組成物に関連する。/1)MIPの平均直径が20μm未満である;/2)標的結合の平均が、MIPの10質量単位に対して少なくとも標的の1質量単位である;/3)組成物中の実質的に全てのMIPは同一標的分子に結合し、組成物は標的分子に対する結合部位の全てを含まない。」(「/」は改行を意味する。)と記載されているものの、組成物が標的分子に対する結合部位の全てを含まないことの技術的意味を説明した記載はない。

エ 審判請求人は、平成28年5月12日受付けの意見書6頁「(9)請求項18について」において、以下のように釈明している。
「請求項18の記載内容の説明は、図4の参照が必要です。図4は、標準的なMIP組成物は多くの非結合性ポリマー粒子を含んでいることを示しています。」
しかしながら、請求項18では組成物中の全てのMIPが、同一の標的分子に結合することを必須の事項としているものの、この事項と直ちに非結合性の粒子を排除することとの関連は何ら示されていない。そうすると、審判請求人の釈明をもってしても、本願発明2が当業者であっても明確に理解できない。
また、審判請求人は、平成28年5月12日受付けの意見書7頁「(11)明細書の段落[0123]について」において、以下のように釈明している。
「結論として、出願人は、試験分子(フルオレセイン)と全く結合しないMIP粒子が存在することを発見しました。これは、図4、および、MIP組成物は非結合性のものを取り除くことによって、より高い結合能を示すようになることから明らかです。加えて、発明者は同じ大きさのMIPが異なる蛍光強度を示すことを発見し、本願において報告しています。これは図4からは容易には読み取れませんが、この発見は結合能力の弱いMIPをMIP組成物から取り除くことができるという知見を提供するものであり、したがって組成物の結合能力および平均凝集を増加させることにつなげることが可能です。」
しかしながら、図4にはフルオレセインと結合しないMIP粒子が存在していることが示されているとはいえても、MIP組成物から非結合性のものが実際に除外できることは何ら示されていない。また、また、図4には、組成物中の全てのMIPが同一のフルオレセインに結合していることも、組成物がフルオレセインに対する結合部位の全てを含まないことも示されていない。そうすると、審判請求人の釈明をもってしても、本願発明2が明確なものとはいえない。

したがって、本願請求項18の記載は明確なものとはいえない。

4.むすび

以上のとおり、本願請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさず、本願請求項18の記載は特許法第36条第6項第2号の規定を満たさず、特許を受けることができないから、ほかの請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-16 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-04 
出願番号 特願2008-554597(P2008-554597)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 穴吹 智子
横山 敏志
発明の名称 分子インプリントポリマの改良した調製方法  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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