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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1321737
審判番号 不服2015-12469  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-01 
確定日 2016-11-16 
事件の表示 特願2013-501849「増強光捕捉スキームによる薄膜光起電力素子」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日国際公開、WO2011/121067、平成25年 6月17日国内公表、特表2013-524499〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)3月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年3月31日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月30日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成26年8月11日付けで拒絶理由が通知され、同年11月12日に意見書が提出されたが、平成27年2月18日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年7月1日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年7月1日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成24年11月30日付け特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書によるもの)の特許請求の範囲を、以下のとおりに補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したとおりである。)。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1につき、
「レリーフテクスチャード加工の透明カバープレート(7)、700nm未満の層厚さを有する透明導電性酸化物の層、光吸収活性層(2)及び反射性背面電極(3)を含む薄膜光起電力素子であって、前記透明導電性酸化物の層が非テクスチャード加工の層(6)であり、前記透明カバープレート(7)が、底面、頂部、並びに底面と頂部とを接続する表面一式を含有する幾何光学的レリーフ構造の配列を含むことによってレリーフ構造化され、前記底面と頂部が少なくとも3つのn-多角形表面(nは4以上である)によって接続されていることを特徴とする、前記薄膜光起電力素子。」
とあったものを、
「レリーフテクスチャード加工の透明カバープレート(7)、700nm未満の層厚さを有する透明導電性酸化物の単一の層であって、前面電極を形成する単一の層、光吸収活性層(2)及び反射性背面電極(3)を含む薄膜光起電力素子であって、前記透明導電性酸化物の層が非テクスチャード加工の層(6)であり、前記透明カバープレート(7)が、底面、頂部、並びに底面と頂部とを接続する表面一式を含有する幾何光学的レリーフ構造の配列を含むことによってレリーフ構造化され、前記底面と頂部が少なくとも3つのn-多角形表面(nは4以上である)によって接続されていることを特徴とする、前記薄膜光起電力素子。」に補正。

2 補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1において、「700nm未満の層厚さを有する透明導電性酸化物の層」に係り、「単一の層であって、前面電極を形成する単一の層」との限定を付加するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1(1)において、本件補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定における拒絶理由に引用された、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2009/059998号(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある(なお、訳文は、特表2011-503861号公報に基づいて、当審が付した。また、下線も当審にて付した。)。
(ア)「The invention pertains to a photovoltaic device which comprises at least one active layer and a cover plate that contains on at least one side an array of optical structures and which is in optical contact with the light receiving surface of the active layer(s) in order to reduce the reflection losses of said surface.・・・
Photovoltaic devices are commonly used to convert light energy into electrical energy. These devices contain an active layer which consists of a light absorbing material which generates charge carriers upon light exposure. An active layer which is currently common in photovoltaic devices is silicon. However, a variety of materials can be encountered like for example gallium arsenide (GaAs), cadmium telluride (CdTe) or copper indium gallium diselenide (CIGS). The charges, which are generated in the active layer, are separated to conductive contacts that will transmit electricity. Due to the thin and brittle nature of the active layer it is usually protected from external influences by a transparent cover plate e.g. made of glass.」(1頁7?22行)
(本発明は、少なくとも1つのアクティブ層およびカバープレートを含む光起電力装置であって、前記カバープレートは、前記アクティブ層の受光面の反射損失を低減するために、少なくとも1つの側においてオプティカルレリーフ構造体のアレイを含み、かつ前記アクティブ層の受光面と光学的にコンタクトしている形式の光起電力装置に関する。・・・
光起電力装置は、光エネルギを電気エネルギに変換するために一般に広く使用されている。この装置は、露光下にて電荷キャリアを生成する光吸収材料からなるアクティブ層を含む。現在、光起電力装置においてよく知られているアクティブ層はシリコンである。しかしながら、例えばガリウム砒素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、または銅・インジウム・ガリウム・セレン化合物(CIGS)のような様々な材料を使用することができる。アクティブ層にて生成された電荷は、電気を伝導する導電コンタクトへと分散される。アクティブ層は薄くて壊れやすい性質を有するので、通常、例えばガラス製の透明なカバープレートによって外部影響から保護されている。)

(イ)「This object is achieved by a photovoltaic device comprising at least one active layer and a transparent cover plate which contains on at least one side an array of geometrical optical relief structures and which is in optical contact with a surface receiving side of the at least one active layer of a photovoltaic device, characterized in that the optical relief structures comprise a base and a single apex which are connected by at least three n-polygonal surfaces where n is equal to 4 or higher.」(4頁8?14行)
(この課題は、少なくとも1つのアクティブ層と、透明なカバープレートとを含む光起電力装置であって、前記カバープレートは、少なくとも1つの側において幾何学的なオプティカルレリーフ構造体のアレイを含み、かつ前記光起電力装置の前記少なくとも1つのアクティブ層の受光面と光学的にコンタクトしている形式の光起電力装置において、前記オプティカルレリーフ構造体は、底面および1つの頂上部を含み、これらは少なくとも3つのn多角形の表面によってコネクトされている、ただしnは4以上である、ことを特徴とする光起電力装置によって解決される。)

(ウ)「The cover plate comprising the optical relief structures according to the invention may be obtained by processes known in the art, e.g. injection molding, thermo calendaring, laser structuring, photo-lithographic methods, powder pressing, casting, grinding or hot pressing.」(8頁1?4行)
(本発明によるオプティカルレリーフ構造体を含むカバープレートは、当該分野において公知の加工処理方法、例えば射出成形、熱カレンダ加工、レーザ構造化、フォトリソグラフィ法、粉末加圧成形、鋳込み成形、研削、または加熱加圧成形法等によって得ることができる。)

(エ)「Whether optical contact is achieved depends on the refractive index (n) of the medium or media which connect the transparent plate comprising the array of optical relief structures and the photovoltaic device. If a medium between said components is non-existing optical contact is per definition achieved. In all other cases optical contact is achieved when the refractive index of the medium or media between the components is on average at least 1.2. More favorably the refractive index of the medium or media is on average at least 1.3 and most favorably the refractive index of the medium is at least 1.4. To determine the refractive index of a medium an Abbe refractometer should be used.
For example, in case the transparent cover plate comprising the array of optical structures is made of polymethylmethacrylate with n=1.5, the active layer of the photovoltaic device is made of silicon n =3.8 and the medium between these two components is air n=1 , no optical contact is achieved.
In case the transparent cover plate comprising the array of optical structures is made of polymethylmethacrylate with n=1.5, the active layer of the photovoltaic device is made of silicon n =3.8 and the medium is an adhesive with a refractive index of n=1.5, optical contact is achieved.」(11頁1?19行)
(光学的コンタクトが達成されるか否かは、オプティカルレリーフ構造体のアレイを含む透明なプレートと光起電力装置とを接続させる媒体の屈折率に依存している。前記要素間に媒体が存在しない場合、定義上光学的コンタクトが達成される。その他全ての場合においては、光学的コンタクトは、前記要素間にある媒体の屈折率が平均して少なくとも1.2である場合に達成される。媒体の屈折率が平均して少なくとも1.3であるとより好ましく、媒体の屈折率が少なくとも1.4であると最も好ましい。媒体の屈折率を検出するためには、アッベ屈折計を使用すべきである。
例えば、オプティカルレリーフ構造体のアレイを含む透明なカバープレートがn=1.5のポリメタクリル酸メチルから製造され、光起電力装置のアクティブ層がn=3.8のシリコンから製造され、前記2つの要素間の媒体がn=1の空気である場合には、光学的コンタクトは達成されない。
オプティカルレリーフ構造体のアレイを含む透明なカバープレートがn=1.5のポリメタクリル酸メチルから製造され、光起電力装置のアクティブ層がn=3.8のシリコンから製造され、媒体が屈折率n=1.5の接着剤である場合には、光学的コンタクトが達成される。)

(オ)「Figure 1 a shows a schematic representation of the reflection losses of the active layer with a prior art flat transparent cover plate in comparison with the reduction in reflection losses of the active layer by a cover plate comprising an array of optical relief structures as shown in figure 1 b. The optical relief structures reduce the reflection losses of the light receiving surface of the active layer of a photovoltaic device. Light reflected from the active layer enters the optical relief structure via the base and is at least partially reflected to its original direction, i.e. to the active layer, by the surfaces of said optical relief structure.」(24頁7?14行)
(図1aは、図1bに図示するようなオプティカルレリーフ構造体のアレイを含むカバープレートによるアクティブ層の反射損失の低減と比較して、従来技術による平坦かつ透明なカバープレートを備えたアクティブ層の反射損失を示す概略図である。オプティカルレリーフ構造体は、光起電力装置のアクティブ層の受光面の反射損失を低減する。アクティブ層から反射された光は底面を介してオプティカルレリーフ構造体に入り、前記オプティカルレリーフ構造体によって少なくとも部分的に光のもときた方向へ、すなわちアクティブ層へと反射される。)

(カ)「Figure 5 is a schematic representation showing a part of an array of geometrical optical relief structures with adjacent structures abutting each other in top view. Figure 5 a shows the geometrical optical relief structures placed such that the orientation of all structures is the same with respect to each other. Figure 5 b shows the geometrical optical relief structures placed such that the orientation of the structures is alternating with respect to each other. Figure 5 c shows the geometrical optical relief structures placed such that the orientation of all structures is random with respect to each other.」(25頁7?14行)
(図5は、相互に隣接し合う隣接構造を有する幾何学的なオプティカルレリーフ構造体のアレイの一部の上面図である。図5aは、全ての構造体の配向が互いに同じになるように位置づけられた幾何学的なオプティカルレリーフ構造体を図示している。図5bは、構造体の配向が互いに交互になるように位置づけられた幾何学的なオプティカルレリーフ構造体を図示している。図5cは、構造体の配向が互いにランダムになるように位置づけられた幾何学的なオプティカルレリーフ構造体を図示している。)

(キ)上記(オ)及び(カ)で言及されるFigure 1(図1)及びFigure 5(図5)は次のものである。


(ク)引用発明
上記(ア)ないし(キ)によれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも1つのアクティブ層及びカバープレートを含む光起電力装置であって、
前記カバープレートは、少なくとも1つの側において幾何学的なオプティカルレリーフ構造体のアレイを含み、かつ前記アクティブ層の受光面と光学的にコンタクトし、
前記アクティブ層は、露光下にて電荷キャリアを生成する光吸収材料からなり、
前記アクティブ層にて生成された電荷は、電気を伝導する導電コンタクトへと分散され、
前記アクティブ層は薄くて壊れやすい性質を有し、
前記オプティカルレリーフ構造体は、底面および1つの頂上部を含み、これらは少なくとも3つのn多角形の表面によってコネクトされ(ただしnは4以上である)、
前記オプティカルレリーフ構造体を含むカバープレートは、射出成形、熱カレンダ加工、レーザ構造化、フォトリソグラフィ法、粉末加圧成形、鋳込み成形、研削、または加熱加圧成形法等によって得ることができ、
前記オプティカルレリーフ構造体のアレイを含む透明なカバープレートが光起電力装置のアクティブ層と接着剤で、光学的コンタクトが達成される、
光起電力装置。」

イ 周知技術
(ア)本願の優先日前に頒布された特開平11-298030号公報(以下、「周知文献1」という。)には、以下の記載がある
a 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、大型化要求に対応し、反射光防止機能があり、かつ表面が汚れにくい太陽電池用カバーガラス及びその製造方法並びに該太陽電池用カバーガラスを用いた太陽電池を提供することを目的とする。・・・
【0012】また、本発明における半導体層としては、多結晶シリコンを用いたが、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、GaAs等の化合物半導体を用いることができる。コストの観点からは、アモルファスシリコンを用いることが好ましく、変換効率の観点からは、結晶性シリコンを用いることが好ましい。また、本発明におけるカバーガラスは、生産性の観点から裏面側が平滑であることが好ましい。
【0013】本発明における透明導電膜層としては、SnO_(2)層などが挙げられる。該SnO_(2)層には、フッ素やアンチモンなどを添加することができる。また、本発明における裏面電極層としては、Ag層などが挙げられる。本発明は、また、透明導電膜層、半導体層及び裏面電極層を有してなる太陽電池に用いられるカバーガラスの製造方法において、前記カバーガラスの光入射側の表面に凹凸を形成する第1の処理工程と、前記凹凸の頂部のみを平坦化する第2の処理工程と、を有することを特徴とする太陽電池用カバーガラスの製造方法を提供する。」

b 「【0020】
なお、前記凹凸の頂部の平坦化については、均一の研磨レートを得るため、例えば、1)長方形のパットがガラス流れ方向に対し前後左右に揺動する方式のポリシングマシンを用いる、2)主軸に複数の補助主軸を設け、補助主軸に複数のポリシャーを有するポリシングマシンを用いる、あるいは3)エッチング法等の研磨法で行ってもよい。
さらに仕上がったガラスの非研磨面に、SnO_(2)からなる透明導電膜層3、アモルファスシリコン層4及びAgからなる裏面電極5を加工後、EVA膜6を介在させて、7のフロート板3mmと積層してモジュール化し、屋根に施工し6ケ月間の実用性試験を行った。」

c 「【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のアモルファス太陽電池の構成図である。・・・
【符号の説明】
1:太陽電池用カバーガラス
2:太陽電池用カバーガラス研磨面
3:透明導電膜
4:アモルファスシリコン膜
5:裏面電極
6:EVA膜
7:裏面ガラス
8:結晶系太陽電池
9:裏面フィルム」

d 上記cで言及される図1は次のものである。


(イ)同じく、米国特許出願公開第2008/0115828号明細書(以下、「周知文献2」という。)には、以下の記載がある(なお、訳文は、当審が付した)。
a 「[0014] FIG. 3 is a schematic diagram illustrating how a patterned exterior surface of the light-incident glass substrate of a photovoltaic device can reduce reflections off of the front surface.・・・
[0018] An example photovoltaic device is illustrated in cross section in FIG. 2. The photovoltaic device (e.g., solar cell) includes, for example and without limitation, high transmission light-incident side patterned glass substrate 1 , conductive film 2 which may be of or include a transparent conductive oxide (TCO) in certain example instances, a photoelectric transfer film (or semiconductor, gel or liquid absorber) 3 which may include one or more layers, a rear or back electrode and/or reflector 4 , and an optional glass superstrate 5 .」
([0014] 図3は、光電池の装置の光入射ガラス基板のパターン化された外側の表面が、どのように表面から反射を減らすことができるかを例示する概略図である。・・・
[0018] 太陽光発電装置の例を図2の断面図に示す。太陽光発電装置(例えば、太陽電池)は、例えば、限定はしないが、光入射側がパターン化された高透過率ガラスのサブストレート1、特定の例の場合は透明導電性酸化物(TCO)からなる、あるいは、含む導電性フィルム2、1層以上の光電変換フィルム(または半導体、ゲルあるいは液体吸収剤)3、裏面ないし背面電極である/または反射層4、及び、光学ガラスのスーパーストレート5を含む。)

b 上記aで言及されるFIG.2及びFIG.3(図2及び図3)は次のものである。


(ウ)ここで、周知文献1のAg層からなる裏面電極層が反射性であることは明らかであるから、上記(ア)の周知文献1及び上記(イ)の周知文献2によれば、本願の優先日前には、太陽電池において、半導体層を挟むように透明導電性酸化物の電極と裏面電極である反射層を設けることが、周知技術であったと認められる。

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「露光下にて電荷キャリアを生成する光吸収材料からな」る「アクティブ層」は、本願補正発明の「光吸収活性層(2)」に相当する。

(イ)引用発明の「少なくとも1つの側において幾何学的なオプティカルレリーフ構造体のアレイを含み」、かつ「前記オプティカルレリーフ構造体は、底面および1つの頂上部を含み、これらは少なくとも3つのn多角形の表面によってコネクトされ(ただしnは4以上である)」「透明なカバープレート」は、「底面および1つの頂上部」並びにそれらとを接続する表面一式を含有することは明らかであるから、本願補正発明の「底面、頂部、並びに底面と頂部とを接続する表面一式を含有する幾何光学的レリーフ構造の配列を含むことによってレリーフ構造化され、前記底面と頂部が少なくとも3つのn-多角形表面(nは4以上である)によって接続されてい」る「レリーフテクスチャード加工の透明カバープレート(7)」に相当する。

(ウ)引用発明の「光起電力装置」は、「アクティブ層は薄くて壊れやすい性質を有」するから、薄膜光起電力装置といえる。
したがって、引用発明の「アクティブ層は薄くて壊れやすい性質を有」する「光起電力装置」は、本願補正発明の「薄膜光起電力素子」に相当する。

(エ)一致点及び相違点
上記(ア)ないし(ウ)によれば、本願補正発明と引用発明は、
「レリーフテクスチャード加工の透明カバープレート(7)及び光吸収活性層(2)を含む薄膜光起電力素子であって、前記透明カバープレート(7)が、底面、頂部、並びに底面と頂部とを接続する表面一式を含有する幾何光学的レリーフ構造の配列を含むことによってレリーフ構造化され、前記底面と頂部が少なくとも3つのn-多角形表面(nは4以上である)によって接続されている、前記薄膜光起電力素子。」
である点で一致し、
本願補正発明の「薄膜光起電力素子」は、「700nm未満の層厚さを有する透明導電性酸化物の単一の層であって、前面電極を形成する単一の」「非テクスチャード加工の」「層(6)」及び「反射性背面電極(3)」含むのに対して、引用発明の「光起電力装置」は、導電コンタクトの具体的構成が特定されない点(以下、「相違点」という。)で相違する。

イ 判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「光起電力装置」は、「アクティブ層にて生成された電荷は、電気を伝導する導電コンタクトへと分散される」ものであるから、アクティブ層に導電コンタクトが設けられることは明らかであるところ、上記(2)イ(ウ)のとおり、太陽電池において、半導体層を挟むように透明導電性酸化物の電極と裏面電極である反射層を設けることが、周知技術であったから、引用発明の「光起電力装置」(太陽電池)において、「アクティブ層」を挟むように透明導電性酸化物の電極と裏面電極である反射層を設けることに格別の困難性はない。
そして、上記(2)イ(ウ)の周知技術に基づいて、引用発明の「光起電力装置」(太陽電池)において、「アクティブ層」を挟むように透明導電性酸化物の電極と裏面電極である反射層を設けるに際して、当該透明導電性酸化物の電極の層厚さ及び構造が適宜定められるべきものであるところ、これを700nm未満の単一の層とする点に格別の困難性はない。
さらに、周知文献1及び2のいずれにも、透明導電性酸化物の電極をテクスチャード加工とするか否かについて明記がないが、周知文献1は「カバーガラスの光入射側の表面に凹凸を形成する」(上記「(2)」「イ」「(ア)」「a」段落【0013】)ものであり、また、周知文献2は「光入射側がパターン化された高透過率ガラスのサブストレート1」(上記「(2)」「イ」「(イ)」「a」)であるものであり、いずれも、ガラスの入射面をテクスチャード加工とすることにより入射光の反射を防止することが記載されているから、他にテクスチャード加工とすると記載のない層は、テクスチャード加工されていないと解するのが相当である。
したがって、引用発明の「光起電力装置」において、「アクティブ層にて生成された電荷は、電気を伝導する導電コンタクトへと分散される」ために具体的構成として、上記周知技術に基づいて、アクティブ層を挟むように、非テクスチャード加工の700nm未満の単一の層からなる透明導電性酸化物の電極と、裏面電極である反射層を設けることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成24年11月30日付けで特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2、[理由] 1 補正の内容」において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」「(2)」のとおりである。

3 対比・判断
本願発明について
上記「第2」[理由]「2 補正の目的」のとおり、本件補正は、補正前の請求項1において、「700nm未満の層厚さを有する透明導電性酸化物の層」に係り、「単一の層であって、前面電極を形成する単一の層」との限定を付加するものである。
したがって、本願発明は、上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」で検討した本願補正発明を特定するための事項である、「700nm未満の層厚さを有する透明導電性酸化物の層」に係り、「単一の層であって、前面電極を形成する単一の層」との限定を省いたものである。
これに対して、上記「第2」[理由]「3」「(3)」「イ」で検討したとおり、上記限定を省いた本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記「第2」[理由]「3」での検討と同様の理由により、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得るものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-17 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-04 
出願番号 特願2013-501849(P2013-501849)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 増強光捕捉スキームによる薄膜光起電力素子  
代理人 山口 和弘  
代理人 池田 正人  
代理人 清水 義憲  
代理人 野田 雅一  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 成人  

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