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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1321764
審判番号 不服2015-4574  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-09 
確定日 2016-11-17 
事件の表示 特願2011- 46998「ガスバリア性エポキシ樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月27日出願公開、特開2012-184294〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月3日にされた特許出願であって、平成26年4月17日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日に意見書が提出されたが、同年12月3日付けで拒絶査定がされたところ、平成27年3月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、同年5月19日付けで同法第164条第3項の規定による報告がされたものである。

第2 本願発明
平成27年3月9日に提出された手続補正書による補正は、特許請求の範囲について、請求項の削除を目的とするものであって適法なものであるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年3月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を含むガスバリア性エポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂中のハロゲン含有量が0.6質量%以下であり、前記エポキシ樹脂及び/又はエポキシ樹脂硬化剤が下記一般式(1)で表される骨格構造を分子内に有し、かつ該樹脂組成物中の下記一般式(1)で表される骨格構造の含有量が30質量%以上である、ガスバリア性エポキシ樹脂組成物を利用してなる塗料。
【化5】



第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
引用文献1:特開2003-291253号公報
引用文献2:特開昭63-250372号公報 」
というものを含むものである。

第4 引用文献1及び2の記載事項
本願の出願前に頒布された引用文献1及び2には、以下の事項が記載されている。
1 引用文献1
(1)「【請求項1】鋼材の表面に、プライマー層およびポリマー樹脂層からなる被覆層が積層されてなるポリマー被覆鋼材であって、前記プライマー層がエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤を主成分とするプライマー組成物の硬化により形成されたものであり、かつ前記プライマー層の23℃、相対湿度60%RHにおける酸素透過係数が0.2 cc-mm/m^(2)・day・atm以下であることを特徴とするポリマー被覆鋼材。」(特許請求の範囲、請求項1)
(2)「【請求項5】前記プライマー組成物中に含有される(1)式に示される骨格構造が40重量%以上である請求項1?4のいずれかに記載のポリマー被覆鋼材。
【化1】

」(特許請求の範囲、請求項5)
(3)「【請求項8】前記エポキシ樹脂が、メタキシリレンジアミンのテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂を主成分とするものである請求項1?5のいずれかに記載のポリマー被覆鋼材。
【請求項9】前記エポキシ樹脂硬化剤が、下記の(A)と(B)の反応生成物、または(A)、(B)および(C)の反応生成物である請求項1?8のいずれかに記載のポリマー被覆鋼材。
(A)メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミン
(B)ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物
(C)炭素数1?8の一価カルボン酸および/またはその誘導体」(特許請求の範囲、請求項8、9)
(4)「【発明の属する技術分野】本発明はポリマー樹脂-鋼材間の接着力が高く、防錆、防食性能に優れたポリマー被覆鋼材に関するものである。
【従来の技術】ポリマー樹脂を表面に被覆した鋼材(以下、ポリマー被覆鋼材とする。)は、塗装鋼材に比べて、意匠性、機能性に優れ、また環境保全の観点からも期待できることから、住宅用建材や電気機器用途、缶材用途などに使用されている。
特に、ポリオレフィン樹脂を表面に被覆した鋼材(以下、ポリオレフィン被覆鋼材とする。)は、長期間の防食性能が優れているため、鋼管、鋼管杭、鋼板等の用途に加えて、海底、極寒冷地、熱帯などで使用される建材用鋼材や原油、重質油、天然ガスなどを輸送するパイプライン用鋼管として使用されている。しかし、例えばパイプラインの輸送流体温度は、油井の深度化、重質油化などの観点から上昇しており、鋼材には幅広い温度環境下における防食性能の向上が要求されている。加えて、電気防食が併用される環境下においては、過防食電流による陰極剥離が問題となるため高温での耐陰極剥離性の向上が課題となっている。さらに、電気防食に関しては、防食に使用する電気量を低減させるために、鋼材には防錆、防食性能のさらなる向上が要求されている。
ポリオレフィン被覆鋼材に関する従来技術としては、鋼材と変性ポリオレフィン接着剤層との間にクロメート処理を施したり、エポキシプライマー層を介在させることにより、鋼材の防食性能を向上させる方法が提案されているが、これらの方法では、60℃以下の接水環境下に対しては満足した性能が得られるものの、60℃を超える接水環境下では耐温水性、耐陰極剥離性において満足した性能が得られない。また、熱水処理後のポリオレフィン樹脂層-鋼材間の接着性が著しく低下することから、長期間の防食性能を維持することは困難である。
上記問題を解決する技術として、特開平11-170433号公報では、鋼材表面から、クロメート層、特定のエポキシ樹脂および特定のアミン類、さらに有機フィラーとして特定のフェノール樹脂とを配合して形成したプライマー層、変性ポリオレフィン接着層、ポリオレフィン樹脂層からなる鋼材を形成することにより、幅広い温度環境下でポリオレフィン樹脂層と鋼材間の接着性を良好に維持し、耐温水性や耐陰極剥離性に優れたポリオレフィン被覆鋼材を提供する方法が提案されている。しかしながら、例えばパイプライン用鋼管の様な湿熱環境下における長期的な使用の場合に併用される電気防食において使用する電気量を低減させるためには、さらなる防錆、防食性能の向上が要求される。また、電気防食を併用しない住宅用建材や電気機器、缶材等の用途においても、鋼材自身の使用寿命長期化の目的から、鋼材に対する防錆、防食性能のさらなる向上が要求されている。
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点を解決し優れた防錆、防食性能を有するポリマー被覆鋼材を提供するものである。」(段落【0001】?【0006】)
(5)「本発明のエポキシ樹脂は、各種アルコール類、フェノール類およびアミン類とエピハロヒドリンの反応により得られる。例えば、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂は、メタキシリレンジアミンにエピクロルヒドリンを付加させることで得られる。ここで、前記グリシジルアミン部位は、キシリレンジアミン中のジアミンの4つの水素原子と置換できる、モノ-、ジ-、トリ-および/またはテトラ-グリシジルアミン部位を含む。モノ-、ジ-、トリ-および/またはテトラ-グリシジルアミン部位の各比率はメタキシリレンジアミンとエピクロルヒドリンとの反応比率を変えることで変更することができる。例えば、メタキシリレンジアミンに約4倍モルのエピクロルヒドリンを付加反応させることにより、主としてテトラグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂が得られる。本発明のエポキシ樹脂は、各種アルコール類、フェノール類およびアミン類に対し過剰のエピハロヒドリンを水酸化ナトリウム等のアルカリ存在下、20?140℃、好ましくはアルコール類、フェノール類の場合は50?120℃、アミン類の場合は20?70℃の温度条件で反応させ、生成するアルカリハロゲン化物を分離することにより合成される。生成したエポキシ樹脂の数平均分子量は各種アルコール類、フェノール類およびアミン類に対するエピハロヒドリンのモル比により異なるが、約80?4000であり、約200?1000であることが好ましく、約200?500であることがより好ましいい。」(段落【0016】)
(6)「次に本発明のポリマー被覆鋼材の製造法について説明する。ポリマー被覆鋼材は鋼材の表面にプライマー層を形成させた後に溶融させたポリマー樹脂を押出して被覆層を形成させる押出し法と、鋼材の表面にプライマー組成物を塗布し、プライマー組成物の硬化反応が終了する前に直ちにポリマーフィルムを貼り合わせ、硬化反応させるフィルム法のいずれの方法も使用することができる。すなわち、押出し法の場合には、錆等を除去し、必要に応じてショットブラスト処理、グリッドブラスト処理、サンドブラスト処理、脱脂などの表面処理やクロメート処理やリン酸亜鉛処理などの下地処理を施した鋼材の表面に、塗布方法に応じたプライマー塗装装置によりプライマーを塗装し、その後必要により加熱装置によって加熱硬化させ、プライマー層を形成させる。プライマーの塗装方法としては、スプレー塗装、ロール塗布、しごき塗り、刷毛塗り、流し塗りなど公知の方法の中から鋼材の形態などに応じて適宜選択することができる。また加熱装置による鋼材の加熱方法は高周波誘導加熱、遠赤外線加熱、ガス加熱など従来公知の方法の中から適宜選択して用いることができる。次いで、プライマー層を形成した鋼材の表面に、必要に応じて変性ポリオレフィン樹脂層などの接着層を被覆し、さらにその表面にポリマー樹脂を被覆した後、冷却装置により冷却し、ポリマー被覆鋼材を得る。変性ポリオレフィン樹脂やポリマー樹脂は丸ダイやTダイにより押出されることで被覆される。これらは2層として共押出しして被覆してもよいし、それぞれ単層として別途押出して被覆することもできる。」(段落【0035】)

2 引用文献2
(1)「〔従来の技術〕
一般式(1)
H_(2)NCH_(2)-R-CH_(2)NH_(2) (1)
(式中、Rはフェニレン基またはシクロヘキシレン基を表わす。)
で表わされるジアミンと
一般式(2)

(式中、R^(1)は水素原子またはメチル基、Xは塩素原子または臭素原子を表わす。)
で表わされるエピハロヒドリンとを反応させたのち、脱ハロゲン化水素反応によって一般式(3)

(式中、RおよびR^(1)は前記に同じ)
で表わされるポリグリシジルアミノ化合物を製造する方法は、例えば、特公昭61-6828および61-7198号公報に既に開示されており、ここに開示された方法によって、当該ポリグリシジルアミノ化合物は工業的規模で製造され得る。ここで得られるポリグリシジルアミノ化合物は、低粘度であり、作業性にすぐれ、且つ耐熱性、接着性、剛性、機械的強さ等の諸物性に極めてすぐれた硬化物を与えるエポキシ樹脂として有用であり、これらの特徴を生かして注型用素材、炭素繊維コンポジット用バインダー、航空宇宙産業用構造材、電気・電子部品用素材、スポーツ用品、重合体架橋剤等の各種用途に広い分野で使用されている。
しかし、近年、特に工レクトロニクス技術分野において、可能な限り残存ハロゲンの含有量が低減されたエポキシ樹脂の供給が強く望まれている。しかるに、前記従来の技術で得られるポリグリシジルアミノ化合物では、加水分解性ハロゲンの残存量が相対的に多く、通常、千ppmあるいはそれ以上の量で含まれており、前記従来方法において操作上の工夫を加えても、加水分解性ハロゲンの残存量を数百ppm以下に低減することは極めて困難であった。
さらには、前記従来の技術で得られるポリグリシジルアミノ化合物中には、非加水分解性ハロゲンも相当量存在し、上記加水分解性ハロゲンとともにこれらのハロゲンの存在は、特にエレクトロニクス関連分野において当該ポリグリシジルアミノ化合物を使用した場合、基材の劣化や金属の腐蝕といった致命的な欠陥の原因となる。
従って、可能な限り残存ハロゲン含有量の低いポリグリシジルアミノ化合物を製造する技術の開発が強く望まれている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明者らは、上述のごとき残存ハロゲン含有量の低いポリグリシジルアミノ化合物に関する強い要望に鑑み、前記従来のポリグリシジルアミノ化合物の製造方法の改善について鋭意検討を進め、ジアミンにエピハロヒドリンを付加して得られるハロヒドリン体の脱ハロゲン化水素反応の効率化に工夫を加えることによって、所望のハロゲン残存量の低いポリグリシジルアミノ化合物が得られることを見出して本発明を完成した。」(2頁右上欄15行?3頁右上欄1行)
(2)「実施例 1
反応器にエピクロルヒドリン 740g(8モル)と水 36g(2モル)を加え、系に窒素気流(25ml/min)を流しつつ室温下から始めて3.5時間を要してメタキシリレンジアミン 136g(1モル)を滴下した。滴下中及び滴下終了後2時間に亘って反応系の温度は35℃に保った。次いでベンジルトリエチルアンモニウムクロリド50%水溶液 3.6g(0.008モルに相当)を添加した後、48%苛性ソーダ水溶液 375g(4.5モルに相当)を30分を要して滴下した。さらに、3時間反応温度を35℃に保って第1次脱ハロゲン化水素反応を行なった。反応終了後、水 480g(30モル)を加えて析出した食塩を溶解し、静置、分液した。油層に新たに水 240g(15モル)を加えて洗浄し、分液した。次いで、油層から未反応のエピクロルヒドリンを減圧下90℃において留去した。得られた粗ポリグリシジルメタキシリレンジアミンにトルエン 644g(7モル)を添加し、濾紙(No.1)を用いて濾過した。濾液を水 240g(15モル)を用いて2回水洗した。油層を一部採取して工程分析を行なった所、粗ポリグリシジルメタキシリレンジアミン中の全塩素 6,700ppm、加水分解性塩素 1,200ppmであった。残りの油層に反応剤として苛性カリ 3.8g(0.07モル)、触媒としてヘキサメチルリン酸トリアミド 12.5g(0.07モル)及びポリエチレングリコール(商品名「PEG-400」 2.8g(0.007モル)を添加し、35℃において2時間を要して第2次脱ハロゲン化水素反応を行なった。次いで水240g(15モル)を用いて2回油層を水洗した。得られた油層からトルエンを含む揮発分を減圧下110℃を超えない温度で3時間かけて留去した。揮発分を充分除いた後、熱時に桐山ロート(40φ)を用いて濾過した。最終的に330g(収率 91.6%)のポリグリシジルメタキシリレンジアミンを得た。
製品分析の結果、全塩素 3,300ppm、加水分解性塩素 110ppm、粘度 1,650mPas(25℃)、色数 1(ガードナー)、保存性 1.3であった。」(6頁右下欄11行?7頁右上欄14行)

第5 引用文献1に記載された発明
上記第4 1(1)?(3)からみて、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「鋼材の表面に、プライマー層およびポリマー樹脂層からなる被覆層が積層されてなるポリマー被覆鋼材のプライマー層を硬化により形成する、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤を主成分とするプライマー組成物であって、前記プライマー層の23℃、相対湿度60%RHにおける酸素透過係数が0.2 cc-mm/m^(2)・day・atm以下であり、前記プライマー組成物中に含有される(1)式に示される骨格構造が40重量%以上であり、
【化1】

前記エポキシ樹脂が、メタキシリレンジアミンのテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂を主成分とするものであり、前記エポキシ樹脂硬化剤が、下記の(A)と(B)の反応生成物、または(A)、(B)および(C)の反応生成物
である、プライマー組成物。
(A)メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミン
(B)ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物
(C)炭素数1?8の一価カルボン酸および/またはその誘導体」

第6 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の(1)式は本願発明の一般式(1)と同一であるから、引用発明の「(1)式に示される骨格構造」は、本願発明の「一般式(1)で表される骨格構造」に相当する。
2 引用発明の「エポキシ樹脂」は、メタキシリレンジアミンのテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂を主成分とするものであるから、本願発明の「一般式(1)で表される骨格構造を分子内に有するエポキシ樹脂」に相当する。
3 引用発明の「エポキシ樹脂硬化剤」は、(A)と(B)の反応生成物、または(A)、(B)および(C)の反応生成物であるところ、(A)はメタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンであるから、本願発明の「一般式(1)で表される骨格構造を分子内に有するエポキシ樹脂硬化剤」に相当する。
4 引用発明の「プライマー組成物」は、当該プライマー組成物の硬化により形成されたプライマー層の酸素透過係数が0.2 cc-mm/m^(2)・day・atm以下であるから、本願発明の「ガスバリア性エポキシ樹脂組成物」に相当する。
5 引用発明の「プライマー組成物中に含有される(1)式に示される骨格構造が40重量%以上」は、本願発明の「樹脂組成物中の一般式(1)で表される骨格構造の含有量が40質量%以上」の範囲で重複一致している。
6 以上のことを総合すると、本願発明と引用発明との一致点と相違点は、次のとおりである。
(一致点)「エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を含むガスバリア性エポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂及び/又はエポキシ樹脂硬化剤が下記一般式(1)で表される骨格構造を分子内に有し、かつ該樹脂組成物中の下記一般式(1)で表される骨格構造の含有量が40質量%以上である、ガスバリア性エポキシ樹脂組成物。
【化5】



相違点1:本願発明では、エポキシ樹脂中のハロゲン含有量が0.6質量%以下であるのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。
相違点2:本願発明では、ガスバリア性エポキシ樹脂組成物を塗料として利用するのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。
7 上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献1に記載されているように(第4 1(4)参照)、鋼材をポリマーで被覆する技術分野において、鋼材の防錆、防食性能をさらに向上させるという課題は従来からあった課題であると認められる。
また、引用文献1の記載からみて(第4 1(5)参照)、引用発明のエポキシ樹脂は、アミン類であるジアミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルアミノ化合物であると認められる。
さらに、引用文献2には、ジアミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルアミノ化合物にはハロゲンが多く残存しており、当該ポリグリシジルアミノ化合物を使用した場合には、ハロゲンの存在が基材の劣化や金属の腐蝕といった致命的な欠陥の原因となることが記載されている(第4 2(1)参照)。
加えて、引用文献2には、ジアミンにエピハロヒドリンを付加して得られるハロヒドリン体の脱ハロゲン化水素反応の効率化に工夫を加えることによって、所望のハロゲン残存量の低い、具体的にはハロゲン残存量が3,300ppm(0.33質量%)程度のポリグリシジルアミノ化合物が得られることが記載されている(第4 2(1)及び(2)参照)。
以上を総合すると、鋼材をポリマーで被覆する技術分野における鋼材の防錆、防食性能をさらに向上させるという従来からあった課題を踏まえて、引用発明で使用されているプライマー組成物の有する防錆、防食性能をより高めようとすることは、当業者が普通に行う程度のことに過ぎないものと認める。そして、金属の腐蝕の原因として様々なものが知られているところ、ポリグリシジルアミノ化合物中のハロゲンも金属の腐蝕の原因となることが知られているのであるから、引用発明で使用されている組成物中のポリグリシジルアミノ化合物中のハロゲンを減じてみようとすることに格別の困難性があるものとすることができない。そしてそのための手段として、引用文献2に記載されているジアミンにエピハロヒドリンを付加して得られるハロヒドリン体の脱ハロゲン化水素反応の効率化に工夫を加えた方法を採用して、引用発明のエポキシ樹脂中のハロゲン含有量を極力減ずることは、当業者が容易に想到しえたことであるといえ、その際の下限値として0.6質量%を決定したことに格別の創意を要するものとは認めることができない。
そして、本願発明において奏される耐食性に優れるという効果は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が予測し得た範囲内のものにすぎない。
(2)相違点2にいて
引用文献1には、引用発明のプライマー組成物を鋼材の表面に塗布することが記載されているから(上記第4 1(6)参照)、引用発明のプライマー組成物を塗料として利用することは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願発明において、ガスバリア性エポキシ樹脂組成物を塗料として利用することにより、当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
よって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-13 
結審通知日 2016-09-20 
審決日 2016-10-03 
出願番号 特願2011-46998(P2011-46998)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 前田 寛之
守安 智
発明の名称 ガスバリア性エポキシ樹脂組成物  
代理人 大谷 保  

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