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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1321865
審判番号 不服2015-20493  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-17 
確定日 2016-12-06 
事件の表示 特願2011-541425「太陽電池用ポリエステルフィルム、太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム及びそれを用いたフロントシート」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月15日国際公開、WO2012/033141、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の概要
本願は、2011年9月7日(優先権主張2010年9月8日、日本国、2011年2月9日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年3月4日付けで拒絶理由が通知され、同年5月8日付けで意見書が提出されるとともに手続補正書が提出され、同年6月1日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年8月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正書が提出されたが、同年8月13日付けで平成27年8月5日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
本件は、これに対して、平成27年11月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後、平成28年1月4日付けで前置報告がなされ、これに対して、平成28年6月2日付けで上申書が提出された。
さらに、その後、当審において、平成28年7月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒理」という。)が通知され、同年9月28日付けで意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明10」、といい、「本願発明1」?「本願発明10」をまとめて「本願発明」という。)は、平成28年9月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1?10は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
広角X線回折法により測定した(-105面)における長手方向に配向した結晶の長さが50Å以上60Å以下であり、
フィルム厚みを50μmに換算したときのMORの値(MOR-C)が1.4?1.8であり、
フィルムの密度が1.37?1.40g/cm^(3)である太陽電池用ポリエステルフィルムであって、
上記フィルムを構成するポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートであり、
カルボキシル末端濃度がポリエステルに対し25eq/ton以下であり、
フィルムの固有粘度(IV)が0.65?0.90dl/gである
ことを特徴とする太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルムの150℃における熱収縮率が、長手方向、幅方向ともに、-0.5%以上、2.0%以下である請求項1に記載の太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムの150℃における熱収縮率が、長手方向、幅方向ともに、-0.5%以上、0.5%以下である請求項1に記載の太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムを構成するポリエステルが、
アルミニウム及び/又はその化合物と、フェノール部位を有するリン系化合物を含有する重縮合触媒の由来物を含有している請求項1?3のいずれか1項に記載の太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の太陽電池用ポリエステルフィルムと、該ポリエステルフィルムの少なくとも片面に形成された塗布層を有し、
前記塗布層が、ウレタン樹脂とブロックイソシアネートを主成分とする太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ブロックイソシアネートの解離温度が120?140℃、且つ、ブロック剤の沸点が152?218℃であることを特徴とする請求項5に記載の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂が、脂肪族系ポリカーボネートポリオールを構成成分とするウレタン樹脂である請求項5又は6に記載の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記塗布層の赤外分光スペクトルにおいて、脂肪族系ポリカーボネート成分由来の1460cm^(-1)付近のピークの吸光度(A1460)とウレタン成分由来の1530cm^(-1)付近のピークの吸光度(A1530)との比率(A1460/A1530)が、0.51?1.18である請求項7に記載の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記塗布液中のウレタン樹脂とブロックイソシアネートの質量比(ウレタン樹脂/ブロックイソシアネート)が、1.62/6.82?12.99/1.52である請求項5?8のいずれか1項に記載の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項10】
請求項5?9のいずれか1項に記載の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムを含むことを特徴とする太陽電池用フロントシート。」


第3 原査定の理由の概要

理由1(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(サポート要件)について
・請求項1-9
請求項1には、ポリエステルが3種類の群より選択される1種以上であることが記載されているが、下線部の如く、異なる種類のポリエステルを複数混合して使用することは、本願明細書のいずれの箇所にも記載も示唆もされていない。
よって、請求項1-9に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

●理由2(進歩性)について
・請求項1-9
・引用文献等1-9
・備考
補正がされた請求項1について、文献1の段落24、65等には、例えばPENからなる厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムであって、MOR-Cの範囲は補正後本願請求項1記載の範囲と重複する。
そして、長手方向に配向した結晶の長さについて文献1には記載されていないが、本願明細書によれば、長手方向の結晶サイズは、逐次二軸延伸法の際の長手方向の延伸による配向結晶を示すものであって、延伸倍率の大きさや延伸温度などで制御されるものである旨の記載がある。そして、文献2の段落15、83以降の実施例など、文献3の段落18、44以降の実施例等に記載された、配向度を高めるポリエステルフィルムの延伸倍率や温度等の製造条件が本願明細書[0146]などの条件と同程度であることに鑑みれば、文献1記載の発明に対して文献2あるいは3記載のポリエステルフィルムの製法を適用することで、長手方向に配向した結晶の長さが自然と、本願と同程度になる蓋然性が高く、進歩性を有しない。
また、密度についても、ポリエステルフィルムとして通常に用いられている程度のものであって、特段のものとは認められない。例えば、引用文献4、5を参照されたい。
ポリエステル重合触媒については、引用文献6(特に請求項1)、カルボキシル末端濃度については引用文献7(特に請求項1、表2、3)に開示されており、このような技術を採用することに何ら困難性はない。
ポリエステルフィルムと他の層との接着性を高めるためのアンカー層として、ブロックイソシアネートを含有するウレタン樹脂を含む層を設けることは、引用文献8、9に記載されている。

<引用文献等一覧>

1.特開平11-236538号公報
2.特開2009-269302号公報
3.特開2001-239579号公報
4.特開平5-230237号公報
5.国際公開第2007/105306号
6.特開2002-220449号公報
7.特開2007-204538号公報
8.特開平10-44587号公報
9.特開平2-158633号公報


第4 原査定の理由の判断
1 理由1について
本件補正により、「上記フィルムを構成するポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートであり、」と補正され、理由1は解消された。

2 理由2について
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

「【0102】〔実施例6〕実施例1において、ホットメルト材の基材として用いたPENフィルム(厚さ50μm)を、分子配向度の種々異なるものとし、これを用いて太陽電池シートを作製した。この太陽電池シートは略円盤状を成し、その直径は約14mmである。分子配向度の測定条件として、新王子製紙(株)社製、MOA-3001Aを用い、測定周波数4GHz,1度毎に360度のマイクロ波強度を測定し、このマイクロ波の強度比から分子配向度を求め、特に異方性の程度を表す指標であるMOR値を代表値とした。また、各サンプルフィルム上の異なる位置から採取した2つの試料片について測定した。
【0103】得られた太陽電池シートの反りを計測し、基準値を超える反りのものを規格部外品として、良品の歩留まり率を求めた。測定法法として、平板上に載置した太陽電池シートの一端部に錘(直径約24mm、厚さ約1.5mm、重さ約76g)の一部が被さるように乗せ、反りにより浮き上がった他の端部の最大の高さを計測し、この値の1/2を反り量とした。また、基準値として、反り量が0.8mmを超えるものを規格外とした。また、上記太陽電池シートの作製に使用した被ラミネート体である太陽電池セルは、MOR値1.24の分子配向度を有し、極めて等方性に近いPENフィルム(厚さ75μm)を可撓性基板に統一して用いた。そして、ホットメルト材の基材にMOR値の異なるものを用い、比較検討を行った。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】



上記記載事項の【表1】から、サンプル1、2の試料片1、2のMOR値は、1.222?1.333であることが読み取れる。

すると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「MOR値が1.222?1.333である、太陽電池シートのホットメルト材の基材フィルム用PENフィルム(厚さ50μm)。」

イ 引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「【0083】
(実施例1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しない固有粘度が0.62dl/gのPET(B)樹脂ペレット100質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に、また、PET(A)とPET(B)をシリカ粒子の含有量を0.10質量%となるよう混合調整し、常法により乾燥して押出機1(外層I層用)及び3(外層III層用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2つのポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は5:90:5となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0084】
この未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。
【0085】
次いで、水系ポリウレタン樹脂(DIC社製、ハイドランHW345)と、水系ポリブロックイソシアネート化合物A(三井化学ポリウレタン社製、タケネートWB-920、TDI系ラクタムブロック型)を固形分質量比率 30/70 で混合し、溶剤質量比率が水/イソプロパノール=70/30の溶媒により、固形分濃度14.6質量%のコート液(A)を調整した。コート液を濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)25μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、リバースロール法で一軸配向PETフィルムの片面に乾燥後の塗布量が0.2g/m^(2)になるように塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0086】
この塗布層を形成した一軸延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.2倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、30秒間で処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、易接着層の塗布量0.2g/m^(2)、フィルム厚さ70μmの易接着性二軸配向ポリエステルフィルムを得た。」

すると、上記引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2の技術事項」という。)が記載されている。

「未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸した、一軸配向PETフィルムに、易接着層を形成し、この易接着層を形成した一軸延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.2倍に延伸した、易接着性二軸配向ポリエステルフィルム。」

ウ 引用文献3
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

「【0042】実施例1
(フィルム用ポリエステルの重合)ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート100重量部に対し、三酸化アンチモンをポリエステル中の酸成分に対して0.025モル%加えて、窒素雰囲気下常圧にて245℃で10分間撹拌した。次いで50分間を要して275℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Paとしてさらに275℃、13.3Paで重縮合反応を行い、極限粘度が0.64のPETを得た。
【0043】(易接着層用塗布液の調整)ジメチルテレフタレート95部、ジメチルイソフタレート95部、エチレングリコール35部、ネオペンチルグリコール145部、酢酸亜鉛0.1部および三酸化アンチモン0.1部を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6.0部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(1333?26.6Pa)で2時間かけて重縮合反応を行い、数平均分子量19500、軟化点60℃のポリエステル樹脂を得た。該ポリエステル樹脂の30%水分散液6.7部、重亜硫酸ソーダでブロックしたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリウレタン樹脂の20%水溶液(第一工業製薬製、エラストロンH-3(商品名))40部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64(商品名))0.5部、水47.8部およびイソプロピルアルコール5部を混合し、さらに、アニオン性界面活性剤1重量%、コロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックスOL(商品名))5重量%添加し塗布液とした。
【0044】(ポリエステルフィルムの製膜)上記エチレンテレフタレートポリマーを常法により160℃で2時間真空乾燥させた後、Tダイから押し出し、静電荷によりキャスティングドラムに密着させ、キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを80℃に加熱されたロールで加熱後、縦方向に2.5倍延伸して、一軸配向ポリエステルフィルムを得た。その後、前記塗布液を濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が25μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、リバースロール法で片面に塗布、乾燥した。この時のコート量は0.01g/m^(2)であった。塗布後引き続いて、テンター内において80℃に予熱し、90℃から130℃に昇温しながら幅方向に3.0倍延伸し、その後、210℃で15秒間熱処理し、190℃から150℃に冷却しながら幅方向に5%弛緩処理して、厚みが190μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。」

すると、上記引用文献3には、以下の技術事項(以下「引用文献3の技術事項」という。)が記載されている。

「キャストフィルムを80℃に加熱されたロールで加熱後、縦方向に2.5倍延伸した、一軸配向ポリエステルフィルムに、易接着層用塗布液を塗布し、引き続いて、テンター内において80℃に予熱し、90℃から130℃に昇温しながら幅方向に3.0倍延伸した、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム。」

エ 引用文献4
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

「【0057】実施例1
<ポリエステルAの調整>平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子1.48重量部、エチレングリコール14.8重量部および、0.1Mのトリポリリン酸ナトリウム0.00296重量部を混合し、ホモジナイザーで攪拌処理し16.3重量部のスラリーを得た。
【0058】他方、テレフタル酸100重量部、エチレングリコール70.7重量部、三酸化アンチモン0.0697重量部、トリエチレンアミン0.271重量部および酢酸マグネシウム0.0931重量部を加え、250℃、2.5Kg/cm^(2)の圧力下でエステル化を行った。
【0059】エステル化終了後、この溶液にトリメチルホスフェート0.0327重量部を加えて常圧下260℃で攪拌を行った。30分後、前記スラリー11.0重量部を加えてさらに30分攪拌を行った。その後、真空下で重縮合反応を行い、極限粘度η=0.62のポリエチレンテレフタレートを得た(ポリエステルA)。
【0060】<ポリエステルBの調製>上記ポリエステルAの製造において、炭酸カルシウムの代わりに平均粒径の0.4μmのカオリンを添加すること以外は同様にして、極限粘度η=0.62のポリエチレンテレフタレートを得た(ポリエステルB)。
【0061】<ポリエステルCの調製>上記ポリエステルAの製造において、炭酸カルシウムの代わりに平均粒径0.08μmのγ型酸化アルミニウムを添加すること以外は同様にして、極限粘度η=0.60のポリエチレンテレフタエートを得た(ポリエステルC)。
【0062】上記の不活性無機化合物粒子が表1に示した濃度になるように、得られた上記ポリエステルA、ポリエステルBおよびポリエステルCを所定の重量比で混合、乾燥した後、280℃で溶融し、30℃の冷却ドラム上にキャスティングすることにより厚さ220μmの未延伸フィルムを得た。次いでこのフィルムを75℃に加熱したロール、および表面温度600℃の赤外線ヒーター(フィルムから20mm離れた位置に設置)を用いて加熱した後、低速ロールと高速ロールとの間で縦方向に3.3倍延伸した。更にこのフィルムをテンター中で100℃で横方向に4.4倍延伸した。テンター中では、横延伸に引き続いて熱処理・再横延伸および横方向への緩和を行った。熱処理および緩和条件は表1に示す。次いで20℃に加熱したロールにフィルムを接触させ、加熱ロールとその前後のロールとの間の張力をコントロールすることによって縦方向への緩和を行い、厚さ15μmの2軸配向ポリエステルフィルムを得た。このようにして得られたフィルムの特性を表にまとめた。
【0063】実施例2?8および比較例1?3
不活性無機化合物粒子の種類、平均粒径、添加量を表1に示すように、実施例1と同様にして2軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0064】実施例1?8および比較例1?3で得られた2軸配向ポリエステルフィルムについてその特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】



上記記載事項の【表1】から、実施例1?8の密度は、1.3941?1.3970であることが読み取れる。

すると、上記引用文献4には、以下の技術事項(以下「引用文献4の技術事項」という。)が記載されている。
「密度が1.3941?1.3970である2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム。」

オ 引用文献5
引用文献5には、以下の事項が記載されている。

(ア)「請求の範囲
[1]数平均分子量が18500?40000である1つまたは複数の層を用いてなるポリエステル樹脂層を有し、該ポリエステル樹脂層に5?40重量%二酸化チタンを有する層を少なくとも1層以上有するポリエステル樹脂シートであって、
波長300?350の光線透過率が0.005?10%、
相対反射率が80%以上105%以下、
みかけ密度が1.37?1.65g/cm^(3)、
光学濃度が0.55?3.50であり、
光学濃度ばらつきが中心値に対して20%以内である
太陽電池用ポリエステル樹脂シート。」

(イ)「[表1]

[表2]

[表3]

[表4]



上記記載事項の表1?4には、「みかけ密度」が1.37?1.65g/cm^(3)の範囲の実施例が記載されている。

すると、上記引用文献5には、以下の技術事項(以下「引用文献5の技術事項」という。)が記載されている。

「みかけ密度が1.37?1.65g/cm^(3)である太陽電池用ポリエステル樹脂シート。」

カ 引用文献6
引用文献6には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種を金属含有成分として含み、下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【化1】

(式(1)中、R^(1)、R^(2)はそれぞれ独立に水素、炭素数1?30の炭化水素基を表す。R^(3)は、水素、炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。R^(4)は、水素、炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を含んでいてもよい。)」

すると、上記引用文献6には、以下の技術事項(以下「引用文献6の技術事項」という。)が記載されている。

「ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種を金属含有成分として含み、下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【化1】

(式(1)中、R^(1)、R^(2)はそれぞれ独立に水素、炭素数1?30の炭化水素基を表す。R^(3)は、水素、炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。R^(4)は、水素、炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基またはカルボニルを含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。lは1以上の整数、mは0または1以上の整数を表し、l+mは4以下である。Mは(l+m)価の金属カチオンを表す。nは1以上の整数を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を含んでいてもよい。)」

キ 引用文献7
引用文献7には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
下記式(1)および(2)を同時に満足する量の触媒由来のチタン化合物およびリン化合物を含むポリエステルフィルムであって、フィルムを構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度が40当量/トン以下であることを特徴とする太陽電池裏面封止用ポリエステルフィルム。
0<WTi≦20 …(1)
1≦WP≦300 …(2)
(上記式中、WTiはポリエステルフィルム中の触媒由来のチタン元素含有量(ppm)、WPはポリエステルフィルム中のリン元素含有量(ppm)を示す)」

(イ)「【表2】

【表3】



上記記載事項の表2?3には、「末端カルボキシル基量(当量/トン)」が40当量/トン以下の範囲の実施例が記載されている。

すると、上記引用文献7には、以下の技術事項(以下「引用文献7の技術事項」という。)が記載されている。

「フィルムを構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度が40当量/トン以下である太陽電池裏面封止用ポリエステルフィルム。」

ク 引用文献8
引用文献8には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0002】
【従来の技術】近年、電子スチルカメラあるいはコンピュータの普及とともに、それらの画像を紙面等に記録するためのハードコピー技術が急速に発達した。これらハードコピーの究極の目標は銀塩写真であり、特に、色再現性、画像密度、光沢、耐候性などをいかに銀塩写真に近づけるかが、開発の課題となっている。ハードコピーの記録方法には、銀塩写真によって画像を表示したディスプレーを直接撮影するもののほか、昇華型熱転写方式、インクジェット方式、静電転写型方式など多種多様の方式が知られている。インクジェット方式によるプリンターは、フルカラー化が容易なことや印字騒音が低いことなどから、近年急速に普及しつつある。インクジェット方式は、ノズルから被記録材に向けてインク液滴を高速で射出するものであり、インク中に多量の溶媒を含む。このため、インクジェットプリンター用の記録シートは、速やかにインクを吸収し、しかも優れた発色性を有することが要求される。これらインクジェット記録は銀塩写真を目指したものであるが、そのようなプリント物において高品質、高品位で、耐水性が有り、連続プリントにも裏写りしないものはなかった。特に、写真調の高画質が要求される分野では支持体として平滑性に優れたプラスチックフィルムを使用することが適しているが、一般にプラスチックフィルムとインク受容層の接着は不十分で、この点を解決することを目的として、プラスチックフィルムとインク受容層の間にアンカーコート層を設けることが提案されている。しかし、このようなアンカー層を設けても水滴が付着した後これを拭き取っても、画像受理層が脱離しない状態までは至っておらず、十分な耐水性を付与するには至っていないのが現状である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、インク受容層が強固に接着し、インクが吸収した後に水をかけてもインク受容層がとれにくく、インクジェットプリンターによる画像記録を行う上で、重送やしわ等の問題が起こりにくく、特にカラーインクジェットプリンターで出力した時に銀塩写真のような光沢度の高い、高品質、高品位の記録ができる受像フィルム用の基材フィルムの提供を目的とする。」

(イ)「【0031】実施例2
実施例1と同様にして得た空洞含有ポリエステルフィルム上にアンカー層としてブロックイソシアネート含有ポリエステルウレタン樹脂(第一工業製薬製 エラストロン H-3)に反応触媒(第一工業製薬製、エラストロンキャタリスト64)を対反応性樹脂3重量%添加したものを2重量%となるように水とイソプロピルアルコールの7/3(重量比)混合溶液に混合し、ワイヤーバー(#5)で塗布した。その後、80℃で2分間、170℃で30秒間乾燥させた以外は実施例1と同様にしてインクジェット受像フィルム用基材フィルムを得た。」

すると、上記引用文献8には、以下の技術事項(以下「引用文献8の技術事項」という。)が記載されている。

「空洞含有ポリエステルフィルム上にアンカー層としてブロックイソシアネート含有ポリエステルウレタン樹脂(第一工業製薬製 エラストロン H-3)に反応触媒(第一工業製薬製、エラストロンキャタリスト64)を対反応性樹脂3重量%添加したものを2重量%となるように水とイソプロピルアルコールの7/3(重量比)混合溶液に混合し、ワイヤーバー(#5)で塗布し、その後、80℃で2分間、170℃で30秒間乾燥させて得られた、インクジェット受像フィルム用基材フィルム。」

ケ 引用文献9
引用文献9には、以下の事項が記載されている。

(ア)「〔従来の技術および発明が解決しようとする課題〕
二軸延伸ポリエステルフィルムは、優れた特性を有することで広く用いられているものの、用途によっては、接着性などが悪いという欠点がある。」(公報第1頁左下欄第19行?同頁右下欄第2行)

(イ)「〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、特定のポリウレタンを塗布層として有するポリエステルフィルムが接着性などの表面特性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、塗布延伸法により得られる塗布層を有するポリエステルフィルムであって、該塗布層中にポリカーボネートを構成成分とするポリウレタンを含有することを特徴とする積層フィルムに存する。」(公報第2頁左上欄第20行?同頁右上欄第10行)

(ウ)「本発明における塗布液には、塗布層の固着性(ブロッキング性)、耐水性、耐溶剤性、機械的強度の改良のため架橋剤としてメチロール化あるいはアルキロール化した尿素系、メラミン系、グアナミン系、アクリルアミド系、ポリアミド系などの化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、ブロックポリイソシアネート、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコーアルミネートカップリング剤、熱、過酸化物、光反応性のビニル化合物や感光性樹脂などを含有していてもよい。」(公報第4頁右上欄第13行?同頁左下欄第3行)

すると、上記引用文献9には、以下の技術事項(以下「引用文献9の技術事項」という。)が記載されている。

「ポリカーボネートを構成成分とするポリウレタン、ブロックポリイソシアネートを含有する塗布層を有するポリエステルフィルム。」

(2)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、両者は、
「フィルム厚みを50μmに換算したときのMORの値(MOR-C)が1.4?1.8である太陽電池用ポリエステルフィルム。」
で一致し、次の各点で相違する。

ア 本願発明1では、「広角X線回折法により測定した(-105面)における長手方向に配向した結晶の長さが50Å以上60Å以下であ」るのに対して、引用発明では、「広角X線回折法により測定した(-105面)における長手方向に配向した結晶の長さ」が明らかでない点。

イ 本願発明1では、「フィルムの密度が1.37?1.40g/cm^(3)である」のに対して、引用発明では、「PENフィルム」の密度が明らかでない点。

ウ 本願発明1では、「上記フィルムを構成するポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートであ」るのに対して、引用発明では、「PENフィルム」である点。

エ 本願発明1では、「カルボキシル末端濃度がポリエステルに対し25eq/ton以下であ」るのに対して、引用発明では、「カルボキシル末端濃度」が明らかでない点。

オ 本願発明1では、「フィルムの固有粘度(IV)が0.65?0.90dl/gである」のに対して、引用発明では、「PENフィルム」の固有粘度(IV)が明らかでない点。

(3)判断
上記相違点アについて検討する。
引用文献2には、易接着性二軸配向ポリエステルフィルムの一実施例の製造方法として、引用文献2の技術事項が、引用文献3には、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一実施例の製造方法として、引用文献3の技術事項が記載されており、これらの製造方法に、本願発明1の実施例の製造方法と類似する部分があるとは認められる。
しかし、これらの製造方法は、ともに、格別な技術的意味を有する方法して各引用文献に記載されたものではなく、これらの製造方法を、引用発明の「基材フィルム用PENフィルム」の製造方法として採用する動機付けはない。
また、仮に、これらの製造方法を、引用発明の「基材フィルム用PENフィルム」の製造方法として採用したとしても、その「広角X線回折法により測定した(-105面)における長手方向に配向した結晶の長さ」が、必ずしも、50Å以上60Å以下となるとは認められない。
さらに、引用文献4?9には、それぞれ、引用文献4?9の技術事項が記載されるのみで、ポリエステルフィルムの「広角X線回折法により測定した(-105面)における長手方向に配向した結晶の長さ」についての記載はない。
すると、引用発明に、引用文献2?9に記載された技術事項を参照しても、上記相違点アに係る本願発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

そして、上記相違点アに係る構成を備えることにより、本願発明1は、本願の明細書に記載された効果を奏する。

よって、本願発明1は、相違点イ?オについて検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2?9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2?9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明2?10は本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2?9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 当審拒理について
1 当審拒理の概要
理由1(委任省令要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3(明確性要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


理由1(委任省令要件)
請求項1の太陽電池用ポリエステルフィルムについて、広角X線回折法により測定された(-105面)における長手方向に配向した結晶の長さ(以下「結晶の長さ」という。理由2、3についても同様。)が50Å以上、フィルム厚みを50μmに換算したときのMORの値(MOR-C)(以下「MOR-C」という。理由2、3についても同様。)が1.4?2.0、フィルムの密度が1.37?1.40g/cm^(3)と特定されている。
これに対して、本願明細書の【0159】の太陽電池用ポリエステルフィルムの評価結果についての【表1】によると、製造例1?8は、結晶の長さ、MOR-C、フィルムの密度がいずれも請求項1の範囲内にある。また、製造例9は、MOR-Cが請求項1の範囲内にある。すると、結晶の長さが請求項1の範囲外にあるのは製造例9の48Åのみであり、フィルムの密度が請求項1の範囲外にあるのは製造例9の1.402g/cm^(3)のみであり、MOR-Cについては請求項1の範囲外にある製造例が記載されていない。そして、製造例8の耐加水分解性伸度保持率は製造例の中で最低であり、製造例9のカールの評価が唯一Bとなっている。
すると、耐加水分解伸度保持率について、結晶の長さ、MOR-C、フィルムの密度がどのように影響しているのか不明である。また、カールについて、MOR-Cがどのように影響しているのか不明であり、結晶の長さ、フィルムの密度についても両者がどのように関連して影響しているのか不明である。
したがって、請求項1に係る発明がどのような作用効果を奏するのかが明細書で確認できない。
すると、詳細な説明の記載から、請求項1の技術上の意義が理解できない。
また、請求項1を直接、間接に引用する請求項についても同様である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?9に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。

理由2(サポート要件)について
(1)請求項1の太陽電池用ポリエステルフィルムについて、結晶の長さが50Å以上、MOR-Cが1.4?2.0、フィルムの密度が1.37?1.40g/cm^(3)と特定されている。
これに対して、本願明細書の【0159】の太陽電池用ポリエステルフィルムの評価結果についての【表1】のうちで、耐加水分解性伸度保持率が低い製造例8とカールの評価が低い製造例9を除くと、結晶の長さは55?56Å、MOR-Cは1.51?1.64、フィルムの密度は1.388?1.390となっている。
そして、結晶の長さ、MOR-C、フィルムの密度によって太陽電池用ポリエステルフィルムの特性も異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)請求項2、3の太陽電池用ポリエステルフィルムについて、150℃における熱収縮率が、長手方向、幅方向ともに、-1.0%以上、3.0%以下であり、150℃における熱収縮率が、長手方向、幅方向ともに、-0.5%以上、0.5%以下であると、それぞれ特定されている。
これに対して、本願明細書の【0159】の太陽電池用ポリエステルフィルムの評価結果についての【表1】のうちで、耐加水分解性伸度保持率が低い製造例8とカールの評価が低い製造例9を除くと、熱収縮率が、長手方向は0.5?2、幅方向は0.1?0.8となっている。
そして、熱収縮率によって太陽電池用ポリエステルフィルムの特性も異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項2、3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(3)請求項4のアルミニウム及び/又はその化合物と、フェノール部位を有するリン系化合物を含有する重縮合触媒を用いて重合されてなる太陽電池用ポリエステルフィルムについて、カルボキシル末端濃度がポリエステルに対し25eq/ton以下であり、フィルムの固有粘度(IV)が0.60?0.90dl/gであると特定されている。
これに対して、本願明細書の太陽電池用ポリエステルフィルムの製造例のうちで、アルミニウム及び/又はその化合物と、フェノール部位を有するリン系化合物を含有する重縮合触媒を用いて重合されてなる製造例は、製造例6(【0140】?【0144】、【0151】)であり、【0144】ではカルボキシル末端濃度は5eq/tonとなっている。また、表1の製造例6では、フィルムの固有粘度(IV)は0.7dl/gとなっている。
そして、カルボキシル末端濃度、フィルムの固有粘度によって太陽電池用ポリエステルフィルムの特性も異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4)請求項5の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムについて、ブロックイソシアネートの解離温度が130℃以下、且つ、ブロック剤の沸点が180℃以上であると特定されている。
これに対して、本願明細書の【0167】?【0172】のブロックイソシアネートの解離温度、ブロック剤の沸点は、それぞれ、120℃?140℃、152℃?218℃となっている。
そして、ブロックイソシアネートの解離温度、ブロック剤の沸点によっ太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムの特性も異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(5)請求項7の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムについて、1460cm^(-1)付近のピークの吸光度(A1460)とウレタン成分由来の1530cm^(-1)付近のピークの吸光度(A1530)との比率(A1460/A1530)が、0.50?1.55であると特定されている。
これに対して、本願明細書の【0205】、【0206】の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムの評価結果についての【表2】、【表3】のうちで、封止剤密着の評価が低い製造例14、22?24を除くと、吸光度比率は0.51?1.18となっている。
そして、吸光度比率によって太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムの特性も異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項7に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(6)請求項8の太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムについて、塗布液中のウレタン樹脂とブロックイソシアネートの質量比(ウレタン樹脂/ブロックイソシアネート)が、1/9?9/1であると特定されている。
これに対して、本願明細書の【0173】?【0202】のウレタン樹脂とブロックイソシアネートの質量比は、1.62/6.82(【0183】)?12.99/1.52(【0180】)となっている。
そして、ウレタン樹脂とブロックイソシアネートの質量比によっ太陽電池用易接着性ポリエステルフィルムの特性も異なるものであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項8に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(7)請求項1?5、7、8を直接、間接に引用する請求項についても同様である。

(8)以上から、請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

理由3(明確性要件)について
(1)請求項4は、「太陽電池用ポリエステルフィルム」という物の発明であるが、請求項4の「アルミニウム及び/又はその化合物と、フェノール部位を有するリン系化合物を含有する重合触媒を用いて重合されてなり」は、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、請求項4に係る発明は明確でない。

(2)請求項5は、「太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム」という物の発明であるが、請求項5の「前記塗布層が、ウレタン樹脂とブロックイソシアネートを主成分とする塗布液から形成されたものである」は、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、請求項5に係る発明は明確でない。

(3)請求項4、5を間接的又は直接的に引用する請求項についても同様である。

(4)以上から、請求項4?9に係る発明は明確でない。

2 当審拒理の判断
(1)理由1について
本件補正により、請求項1の発明特定事項に必要な限定がなされた。この補正により、本願発明1の技術上の意義が理解できるものとなった。また、本願発明2?10についても同様である。
よって、当審拒理の理由1は解消した。

(2)理由2について
本件補正により、請求項1?6、8、9の発明特定事項に必要な限定がなされた。この補正により、本願発明1?6、8、9は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった、また、本願発明7、10についても同様である。
よって、当審拒理の理由2は解消した。

(3)理由3について
本件補正により、請求項4、5の製造方法による特定が補正された。この補正により、本願発明4、5は、明確となった。また、本願発明6?10についても同様である。
よって、当審拒理の理由3は解消した。

3 小括
そうすると、もはや、当審拒理で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-21 
出願番号 特願2011-541425(P2011-541425)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 徹  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 松川 直樹
伊藤 昌哉
発明の名称 太陽電池用ポリエステルフィルム、太陽電池用易接着性ポリエステルフィルム及びそれを用いたフロントシート  
代理人 柴田 有佳理  
代理人 植木 久彦  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久一  

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