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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1321869
審判番号 不服2015-15951  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-28 
確定日 2016-12-06 
事件の表示 特願2011-534621「埋め込みデータプロセッサを備えた眼科用レンズを形成するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日国際公開、WO2010/051203、平成24年 3月29日国内公表、特表2012-507747、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年10月21日(優先権主張外国庁受理2008年10月31日 米国、2009年10月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年4月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年8月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成28年6月30日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年10月4日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成28年10月4日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1及び11に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」といい、請求項11に係る発明を「本願発明11」という。)は次のとおりである。
なお、請求項2ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項であり、請求項12ないし14は、請求項11を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項である。

「 【請求項1】
コンタクトレンズを形成する方法であって、前記方法が、
基材に搭載されたデータプロセッサ、液体メニスカス可変レンズ及び電気化学セルを含む媒体挿入物を、該媒体挿入物を支持する第1の成形型部分の保持点に配置する工程と、
前記第1の成形型部分内に反応性モノマー混合物を堆積させる工程と、
前記媒体挿入物を前記反応性モノマー混合物に接触させて位置づける工程と、
前記第1の成形型部分を第2の成形型部分に近接させて位置づけることにより、前記媒体挿入物及び反応性モノマー混合物の少なくともいくらかを内部に備えるレンズキャビティを形成する工程と、
前記反応性モノマー混合物を化学線に曝露させる工程と、を含み、
前記保持点は、前記反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている、方法。」

「 【請求項11】
コンタクトレンズを製造するための装置であって、前記装置が、
データプロセッサ、液体メニスカス可変レンズ及び電気化学セルを含む媒体挿入物を、該媒体挿入物を支持する第1の成形型部分の保持点に配置するための自動装置と、
反応性モノマー混合物を前記第1の成形型部分内に堆積させるための分配器と、
前記反応性モノマー混合物のための化学線源と、を含み、
前記保持点は、前記反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている、装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の請求項1ないし14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特表2005-535942号公報
2.国際公開第2005/016617号
3.特表2005-524099号公報
4.国際公開第2007/020184号
5.特表2007-526517号公報
6.特表2008-515170号公報
7.特開2008-135018号公報

2 原査定の理由についての当審の判断
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
原査定の引用文献1(特表2005-535942号公報)には、次のアないしエの事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズと、
このコンタクトレンズに取着された電気駆動部材と、
前記コンタクトレンズに取着され、また前記電気駆動部材と電子通信接続される視界検出器と、
前記電気駆動部材と視界検出器とにパワーを与えるようにコンタクトレンズに取着された電源とを具備している電気駆動のコンタクトレンズ系。
【請求項2】
前記視界検出器は、距離計を有している請求項1の電気駆動のコンタクトレンズ系。
【請求項3】
前記視界検出器は、傾斜スイッチを有している請求項1の電気駆動のコンタクトレンズ系。
【請求項4】
前記視界検出器は、マイクロジャイロスコープを有している請求項1の電気駆動のコンタクトレンズ系。
【請求項5】
前記電源は、等角のバッテリーである請求項1の電気駆動レンズ系。
・・・(中略)・・・
【請求項11】
前記電気駆動部材は、コンタクトレンズに接続されたカプセル内に収容されている請求項1のコンタクトレンズ系。
【請求項12】
前記カプセルは、堅い材料で構成されている請求項11のコンタクトレンズ系。
【請求項13】
前記カプセルは、安定化距離の屈折力を与える請求項11のコンタクトレンズ系。
【請求項14】
前記視界検出器は、カプセル内に収容されている請求項11のコンタクトレンズ系。
・・・(中略)・・・
【請求項16】
電気駆動部材をカプセルで包むことと、
このカプセルで包まれた電気駆動部材とこの電気駆動部材にパワーを与える電源とをコンタクトレンズに取着させることとを具備する、
電気駆動のコンタクトレンズ系を形成する方法。
【請求項17】
視界検出器が、前記コンタクトレンズに取着され、前記電気駆動部材と電子通信接続される請求項16の方法。
【請求項18】
前記視界検出器は、距離計を有している請求項17の方法。
【請求項19】
前記視界検出器は、電気駆動部材と共にカプセルに包まれている請求項17の方法。
・・・(中略)・・・
【請求項24】
前記電気駆動部材は、堅い材料のカプセルに包まれている請求項16の方法。
【請求項25】
前記コンタクトレンズは、疎水性材を有している請求項16の方法。」

イ「【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の幾つかの実施形態によって、電気駆動のコンタクトレンズ系が開示されている。このコンタクトレンズ系は、コンタクトレンズと、このコンタクトレンズに取着された電気駆動部材と、コンタクトレンズに取着され、また電気駆動部材と電子通信接続される視界検出器と、電気駆動部材と視界検出器とにパワーを与えるようにコンタクトレンズに取着された電源とを有している。電気駆動部材は、視力補正のための少なくとも1つの焦点距離を与える。
【0007】
電気駆動部材は、印加された電界によって駆動されたときに電気駆動材料に印加される電圧の量に応じて変化する屈折率を生じる、ポリマーゲル並びに/もしくは液晶などの1つ以上の層の電気駆動材料を有してもよい。装着者が電気駆動部材を含むコンタクトレンズ系の領域を通してものを見ているとき、前記屈折率が、装着者に電気駆動の視力補正を与える。コンタクトレンズ系は、安定化距離の視力補正のための領域そして電気駆動の視力補正のための領域を含む視力補正領域を与え得る。
【0008】
所定の実施形態では、電気駆動部材の1つ以上の電気駆動層の各々は、複数のピクシレーテッド(pixilated)グリッド要素を有しているグリッドアレイを有し、各グリッド要素は、夫々に単独で駆動され得る。各グリッド要素は、複数のほぼ透明な電極に接続され、シリコーンダイオードのような実質的に透明な絶縁材料によって隣のグリッド要素から分離され得る。
【0009】
前記アレイの異なる幾つかのグリッド要素の電気駆動材料に印加される電圧を変えることによって電気駆動部材に小さな調節が成され、これによって、コマ収差及び球面収差などの他の比較的高い等級の又は非従来的な屈折誤差並びに/もしくは接眼レンズの収差を補正でき、更に、色収差などの他の収差も補正できる。このような非従来的な屈折誤差の補正は、近視、遠視、老眼、乱視などの従来的な屈折誤差の補正に加えて、電気駆動部材の電気駆動層によって与えられ得る。
【0010】
1つ以上の電気駆動層が複数のピクシレーテッドグリッド要素のグリッドアレイを有している実施形態では、電気駆動層は、金属層、位置合わせ層(alignment layer)、導電層(conducting layer)、並びに/もしくは、絶縁層とを更に有している。金属層は、金属層上の絶縁材料層によって互いに分離された複数の電極のアレイを有するようにエッチングされ得る。電気駆動材料は、電極のアレイを有している金属層の1側面に取着され得る。金属層の他の側面には、インジウムスズ酸化物のような光学的に透明な導電材を有している導電層が取着され得る。この導電層は、印加された電圧を金属層内の複数の電極へと導くために電源に取着され得る。
【0011】
適当な電気駆動材料は、様々のクラスの液晶とポリマーゲルとを有している。これらのクラスは、電気駆動ポリマーだけでなく、ネマチック結晶、洗浄性結晶、コレステリック液晶、ポリマー液晶、ポリマーが分散した液晶、並びに、ポリマーで安定された液晶(polymer stabilized liquid crystals)を含む。
【0012】
ネマチック液晶のような液晶が電気駆動材として使用される場合、ネマチック結晶や多くの他の液晶が複屈折であるため、位置合わせ層が必要となり得る。すなわち、これらは、印加電圧がなく非偏光に晒されたときに2つの異なる焦点距離を表示する。この複屈折は、網膜上に2つの像かぼやけた像を生じさせる。この複屈折を緩和するために、電気駆動材料の第2の層が使用され、電気駆動材料の第1の層に対して直交するように配置されるとよい。このように、光の両分極化が両方の層によって等しく焦点を合わせられ、また全ての光が同じ焦点距離で焦点を合わせられる。
【0013】
代わって、大きなキラル成分を有しているコレステリック液晶が、好ましい電気駆動材料として代わりに用いられてもよい。ネマチック液晶や他の一般的な液晶とは異なり、コレステリック液晶は、ネマチック液晶の両極性を有しておらず、単一電気駆動層内に多層膜の電気駆動材料を必要としない。
【0014】
本発明の実施形態の電気駆動部材で使用され得る種々の電気駆動層は、2003年4月23日に提出されたPCT/US03/12528で説明されており、これは全体に参照して本明細書に組み入れられる。
【0015】
コンタクトレンズ系は、1つ以上の焦点距離の視力補正を与えるように多焦点であってよい。本発明の所定の実施形態では、遠視のための視力補正は、安定化の光学(fixed optic)によって与えられる。遠視以外の近い視界や中間視界などの視力補正のための焦点距離は、電気駆動的に与えられる。更に、遠視が安定化の光学によって与えられる実施形態においても、コンタクトレンズ系は、装着者の遠視における非従来的な屈折誤差のために電気駆動的な補正を与えることができる。この補正は、装着者に20/20より良い視力(vision)を与え得る。
【0016】
多焦点距離が望ましい場合は、装着者がどこを見ているのかということと、従って、装着者の凝視(gaze)に基いて1つもしくは複数の適当な焦点距離を与えるためには電気駆動部材がどのように駆動されるべきなのかということとを自動的に割り出すように、視界検出器が使用され得る。視界検出器は、焦点距離の変更を装着者が必要としていることを検出し、コンタクトレンズ系の装着者が必要とする適当な視力補正に応じて焦点距離を切り替えるように、電気駆動部材に印加される電圧を調節する1つの装置である。視界検出器は、例えばマイクロジャイロスコープや傾斜スイッチのような、距離計や視標追跡機であるか、あるいは、1つ以上のこれらの装置の組み合わせであってもよい。
【0017】
視界検出器が距離計の場合、距離計は、観察される目標物を位置付け、観察される目標物によって反射される距離計から観察される目標物までの、距離計によって受信される伝送時間に基いてこの目標物の装着者からの距離を割り出すために、レーザーや発光ダイオードや高周波やマイクロ波や超音波インパルスなどの様々の源を利用し得る。距離計は、コントローラに連結された検出器とトランスミッターとを有してよい。他の実施形態では、単一の装置が、コントローラに接続された検出器とトランスミッターとの両方として2つのモードで機能するように作られ得る。
【0018】
コントローラは、プロセッサ、マイクロプロセッサ、集積回路、もしくは、少なくとも1つのメモリ成分を有しているチップであってよい。コントローラは、複数の異なる焦点距離のための装着者の処方箋を含む視力の処方箋などの情報を記憶する。コントローラは、距離計の1つの部品であるか、距離計と一体的な部品であってよい。所定の実施形態では、距離計のトランスミッターは、半透明もしくは透明であり、装着者の視界を最小限にしか干渉しない有機発光ダイオード(OLED)である。
【0019】
距離計は、電気駆動部材と、直接的に又はコントローラを介して電子通信接続される。電気駆動部材によって形成された焦点距離は、異なる焦点距離を与えるように切り替えられるべきだと、距離計が検出した場合、距離計は、コントローラに電気信号を送り得る。この信号に応えて、コントローラが、コントローラのメモリ内に記憶された視力補正と一致した新しい屈折率を作るように、電気駆動部材に印加される電圧を調節する。新しい屈折率は、焦点距離の変化に対応するようにコンタクトレンズ系内に適当な屈折力を作る。」

ウ「【0030】
図1に示されているように、コンタクトレンズ系100は、遠視力(distance vision)の補正のための安定化距離の光学領域150を有している。安定化距離の光学領域150内でコンタクトレンズ系100の所定の領域を通してものを見ることによって与えられる遠視力の補正が、遠視以外の焦点距離について電気駆動部材110によって与えられる電気駆動の視力補正に加えられる。これらの領域が一緒になって、コンタクトレンズ系100によって与えられる総合的な視力補正領域を作り出す。電気駆動部材110が何らかの理由で機能しない場合、例えば、電力の欠如によって印加電圧が電気駆動部材に流れない場合、安定化距離の光学領域150が、装着者が遠視のための視力補正を続けて得られるようにする。全視力補正が不可能になると、例えば、装着者が運転をしている時に電気駆動部材110が機能しなくなるなど危険な結果を生じる可能性があることから、遠視のための視力補正を維持することが重要である。
【0031】
コンタクトレンズ120は、光学部分と非光学部分との両方か一方を有し得る。コンタクトレンズ120が光学部分を有している場合は、この光学部分は、コンタクトレンズ系100の安定化距離の光学領域150を有している。コンタクトレンズ120の非光学部分は、コンタクトレンズ系100のための機械的なサポートを与え、また1つ以上の安定化要素140、145を有してもよい。しかし、所定の実施形態ではコンタクトレンズ120の全体が所定の光学倍率を有しても良い。ただし、こうした実施形態では、コンタクトレンズ120の瞳孔を覆う領域の外では視力補正が与えられ得ない。
【0032】
コンタクトレンズ120は、図1に示されているような正面図ではほぼ円形であり、目の湾曲に沿うのに適した凹んだ側面を有している。コンタクトレンズ120のサイズは、装着者の所定の身体的な性格、例えば、装着者の年齢や装着者の目のサイズもしくは湾曲に応じて、コンタクトレンズ系100と適合されるように、様々であってよい。コンタクトレンズ系100の総合的な視力補正領域は、典型的には、ほぼ円形で、直径が約4mmないし約10mmであるが、約5mmないし約8mmであると好ましい。
【0033】
電気駆動部材110と、更に距離計130とコントローラとには、等角の電源(conformal power source)190、例えばバッテリー、キャパシタ、もしくは他の電力貯蔵装置などをコンタクトレンズ系100に取着することによって、電力が与えられ得る。等角の電源190は、コンタクトレンズ120の形状に形成された薄いフィルムである。電源190は、リング形であり、視力補正領域の外でコンタクトレンズ120に取着されている。この電源は、装着者の視界を邪魔することなく、電源の重さをコンタクトレンズ120全体に均等に分配し得る。幾つかの実施形態では、電源190がリング形状でなくてもよく、代わりに、安定化要素145としてコンタクトレンズ120に取着されてもよいことが、理解されるだろう。こうした実施形態では、電源190の重さは、コンタクトレンズ系100を更に安定させて距離計130を瞼裂の間に保持するための釣り合いおもりとして機能する。
【0034】
電源190は、バッテリーなどに予め貯蔵された電力を提供し得る。あるいは、電源190は、例えば透明な圧電ポリマーの薄いフィルムなどを採用した電気機械変換技術を利用して、眼の動きによる運動エネルギーを電気エネルギーに変換してもよい。また電源190は、例えば透明な光起電性ポリマーフィルムから作られた薄い光起電性の細胞を利用して、光を電気に変換することによっても作られ得るだろう。
【0035】
電気駆動部材110は、少なくとも1つの焦点距離のために電気駆動の視力補正を与える。これは、電気駆動の近い視界並びに/もしくは中間視界を含み得る。これら視界は、多焦点距離について視力補正が必要な装着者が必要とする最も一般的な焦点距離である。また、中間視界とは、近い中間視界と遠い中間視界とのいずれか又は両方であってよい。こうした実施形態では、遠い視界は、装着者の遠い視界内での従来的でない屈折誤差を電気駆動部材の所定の部分のみを駆動させることによって電気駆動的に補正するために適応光学(adaptive optics)を利用する場合を例外として、コンタクトレンズ120によって与えられる。従来的でない屈折誤差を無くすことによって、装着者の視界を20/10よりも多く補正することを含み、最大でここまで、20/20より多く装着者の視界を補正し得る。
【0036】
電気駆動部材110によって与えられる視力補正のためのコンタクトレンズ系100の領域が、安定化距離の光学領域150によって与えられた視力補正領域と同じくらい大きいか、これより小さくてよい。電気駆動部材110の前記領域が安定化距離の光学領域150よりも小さい、少なくとも1つの実施形態では、電気駆動部材110は、瞳孔の少なくとも一部を覆っており、好ましくは、瞳孔の上方に中心付けられている。
【0037】
本発明の所定の実施形態では、電気駆動部材110は、これをコンタクトレンズ120に取着する前にカプセルに包まれる。カプセルに包まれた部材110の1例が、図1に示されているコンタクトレンズ系100の断面図として図2に示されている。カプセル115は、電気駆動部材110を包んでいる。コンタクトレンズ120は、このカプセル115の周りに、このカプセル115がコンタクトレンズ120内に配置されるようにモールド成形され得る。カプセル115は、ほぼ円形で、電気駆動部材110を受けるようにされている。カプセル115は、工学的に光透過性を有しており、装着者がカプセル115を通してものを見ることを可能にしている。
【0038】
カプセル115は、好ましくは堅く、非ガス透過性かつ疎水性の材料、もしくは、ガス透過性の材料で作られ得る。適当な非ガス透過性かつ疎水性の材料の1例には、ポリメチルメタクリル樹脂(PMMA)が含まれる。
【0039】
適当な堅いガス透過性材料には、シリコーンアクリル樹脂と重合されたメチルメタクリル(MMA)、もしくは、メタクリルオキシプロピル基トリス(methacryloxypropyltris)(トリメタオキシシラン(trimethoxysilane))(TRIS)などと重合されたMMAが含まれる。フルオロメタクリル樹脂でドープされたMMA-TRISが、カプセル115のために特に適したガス透過性材料である。
【0040】
コンタクトレンズ120は、堅いガス透過性材料又は可撓性の疎水性材料で作られ得る。適当な可撓性の疎水性材料の例は、例えば、ヒドロキシエチル・メタクリレート(HEMA)、エチレンジメタクリレート(EDMA)かエチレングリコールモノゲタアクリラート(EGDMA)かと相互リンクされたHEMAなどの熱硬化性ポリマーヒドロゲル(thermo-set polymer hydrogels )、又は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンベースポリマーが含まれる。
【0041】
説明された材料に加えて、光学的な等級の疎水性及びガス透過性の材料と非ガス透過性材料とが、コンタクトレンズの技術では良く知られている。一般的に、これらの材料のどれもが、カプセル115もしくはコンタクトレンズ120の形成のためにいずれかの組み合わせで使用され得る。しかし、堅いガス透過性コンタクトレンズと可撓性の疎水性コンタクトレンズとのいずれかと組み合わせられた、堅くて、疎水性並びに/もしくは耐水性のカプセルが、好ましい。
【0042】
幾つかの実施形態では、コンタクトレンズ系100の全電子部品がカプセル115内に収容されるように、距離計130と、更にコントローラと電源とが、電気駆動部材110と共にカプセル115内にシールされ得る。これは、電子部品の製造とカプセルに包まれることとが別にされるため製造コストを安くする利点を有することができる。また、カプセル115は、疎水性又は耐水性の材料で作られるか、耐水性のシーラントでシールされ得る。これによって、電子部品が涙や他の目からの分泌物によって影響されないように保護する利点を与えることができる。カプセル115が別に構成される場合、これは、コンタクトレンズ120に距離計130を別に取着する必要なくコンタクトレンズ系100を作り出すように、コンタクトレンズ120に後で取着され得る。しかし、距離計130をカプセル115内に配置することは必要なく、距離計は、カプセル115の外でコンタクトレンズ120の上もしくは内のどこにでも配置され得ることが理解されるだろう。この場合、距離計130は、カプセル115からコンタクトレンズ120中の距離計130へと流れる導体を介して電気駆動部材110に接続されている。」

エ 図2は次のとおりのものである。


オ 上記アないしエからみて、引用文献1には、次の構成を備えるコンタクトレンズ系を形成する方法の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「下記構成1ないし5を具備する電気駆動のコンタクトレンズ系を形成する方法であって、下記工程1及び2を有する方法。
(構成1)電気駆動部材であって、
該電気駆動部材は、カプセルで包まれ、コンタクトレンズに取着され、印加された電界によって駆動されたときに電気駆動材料に印加される電圧の量に応じて変化する屈折率を生じる、ポリマーゲル及び/又は液晶などの1つ以上の層の電気駆動材料を有するものである、
電気駆動部材。
(構成2)前記カプセルで包まれた電気駆動部材と共にコンタクトレンズに取着され、該電気駆動部材ににパワーを与える電源。
(構成3)視界検出器であって、
該視界検出器は、前記コンタクトレンズに取着され、前記電気駆動部材と電子通信接続され、
該視界検出器は、距離計を有し、前記電気駆動部材と共にカプセルに包まれており、
前記視界検出器の距離計は、コントローラに連結された検出器とトランスミッターとを有し、
前記コントローラは、プロセッサ、マイクロプロセッサ、集積回路、もしくは、少なくとも1つのメモリ成分を有しているチップである、
視界検出器。
(構成4)ほぼ円形で、前記電気駆動部材を受けるようにされているカプセル。
(構成5)堅いガス透過性材料又は可撓性の疎水性材料で作られたコンタクトレンズであって、
適当な堅いガス透過性材料には、シリコーンアクリル樹脂と重合されたメチルメタクリル(MMA)、若しくは、メタクリルオキシプロピル基トリス(methacryloxypropyltris)(トリメタオキシシラン(trimethoxysilane))(TRIS)などと重合されたMMAが含まれ、
適当な可撓性の疎水性材料には、例えば、ヒドロキシエチル・メタクリレート(HEMA)、エチレンジメタクリレート(EDMA)かエチレングリコールモノゲタアクリラート(EGDMA)かと相互リンクされたHEMAなどの熱硬化性ポリマーヒドロゲル(thermo-set polymer hydrogels )、又は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンベースポリマーが含まれるものである、
コンタクトレンズ。
(工程1)コンタクトレンズ系の全電子部品がカプセル内に収容されるように、距離計と、更にコントローラと電源とを、電気駆動部材と共にカプセル内にシールする工程。
(工程2)前記カプセルの周りに、このカプセルがコンタクトレンズ内に配置されるように、コンタクトレンズをモールド成形する工程。」

(2)周知例(引用文献2ないし5)の記載事項及び周知技術
ア 原査定の引用文献2(国際公開第2005/016617号)には、次の(ア)及び(イ)の事項が記載されている。
(ア)「而して、上述せる如き構造とされたモールド重合用成形型10を用いて、目的とするマーク付きコンタクトレンズを製造するに際しては、例えば、以下の如き工程を経由する手法が、採用されることとなる。
すなわち、先ず、第5図及び第6図に示される如く、雌型14の微細な粗面化加工が施された前面成形キャビティ面28におけるスパッタリング処理部36に対して、液状の着色剤を、所定のマーク形状となるように、本実施形態においては、最終的に、レンズ規格やロット番号、品質保持期限、左眼用・右眼用の判別記号、商標等がコンタクトレンズに付与され得るように、付着乃至はプリントして、マーク部38を形成する。この際、着色剤を、スパッタリング処理部36に付着乃至はプリントする手法としては、特に限定されることはなく、パッド印刷に代表される接触方式や、インクジェット式マーキング装置を用いた非接触方式のマーキング手法等、従来から公知の手法が何れも有利に採用されることとなる。
なお、ここで用いられる着色剤としては、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液を構成するモノマー成分の少なくとも1種以上からなる媒体中に、所定の色素を溶解又は分散せしめてなるものが採用される。
このため、着色剤の主成分である媒体は、用いるモノマー混合液に応じて適宜に選択されることとなり、使用するモノマー混合液中に含まれる少なくとも1種のモノマー成分が、単独で、或いは、2種以上のモノマー成分の組合せにおいて、媒体として用いられるのである。このように、着色剤とモノマー混合液とにおいて、共通するモノマー成分が存在すると、後述するように、マーク部がレンズ本体に強固に結合するようになって、優れた転写性が有利に実現されるようになるのである。中でも、特に、媒体としては、モノマー混合液と同一のモノマー組成とされたものが、より一層好適に採用される。換言すれば、モノマー混合液を、着色剤の媒体として使用することがより一層望ましい。これにより、マーク部が更に強固にレンズ本体(コンタクトレンズ構成重合体)に結合することとなって、優れた転写性が更に有利に実現されるようになる。
因みに、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液としては、目的とするコンタクトレンズの種類(例えば、ハード、ソフト、非含水性、含水性等)や、コンタクトレンズに必要とされる特性(例えば、酸素透過性等)に応じて、従来から公知の各種のモノマー成分のうちの2種以上を適宜に選択して、混合してなるものを用いることが出来る。具体的に、モノマー混合物を構成するモノマー成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、シリコン含有(メタ)アクリレートやシリコン含有スチレン誘導体、シリコン含有マクロモノマー等のケイ素含有モノマー;フッ素含有スチレン誘導体、フッ素含有アルキル(メタ)アクリレート等のフッ素含有モノマー;(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸;架橋性モノマー等、従来から公知の各種のものを例示することが出来る。なお、上記「・・・(メタ)アクリレート」なる表記は、「・・・アクリレート」及び 「・・・メタクリレート」を含む総称として用いられており、また、その他の(メタ)アクリル誘導体についても同様である。
また一方、着色剤に含有せしめられる色素としては、重合性や非重合性を問わず、従来から周知の染料又は顔料を使用することが出来る。
・・・(中略)・・・
かくして、上述せる如き着色剤が前面成形キャビティ面28に対して付着乃至はプリントされてマーク部38が形成されると、それに引き続いて、前面成形キャビティ面28に付着された着色剤からなるマーク部38の予備重合が行なわれることとなる。
かかる予備重合は、通常の熱重合法及び/又は通常の光重合法に従って行なわれることとなる。熱重合にてマーク部38の予備重合を行なう場合は、例えば、恒温乾燥器を用いて、マーク部38が形成された雌型14を、常圧下で、又は、ラジカル重合阻害を考慮に入れ、窒素雰囲気下で、温度:20?80℃、好ましくは30?70℃、重合時間:10?60分、好ましくは20?50分で予備重合を行なうようにすれば良い。また、光重合にてマーク部38の予備重合を行なう場合には、例えば、常温・常圧下、ブラックライト(波長:350?400nm)若しくは高圧水銀灯(波長:350?450nm)下で、5?300秒間、光を照射すれば良い。なお、射出成形等によって形成される樹脂型に対して、マーク部38を形成する場合には、射出成形等により形成された樹脂型(雌型14)に成形熱が残存している状態において、前述せる如きスパッタリングによる微細な粗面化加工と、それによつて形成されたスパッタリング処理部36に対する着色剤の付着(マーク部38の形成)とを実施するようにすれば、加熱や光照射を行なうことなく、樹脂型(雌型14)に残存する成形熱のみで予備重合を有利に実施することが可能となる。
なお、かかる予備重合は、マーク部38を構成する着色剤の重合が完結する前の状態で、重合が停止されるように、言い換えれば、着色剤中のモノマー成分が完全に重合して固体化する前に、その重合操作が終了せしめられることとなる。より好適には、着色剤が流動性を失って、多少の弾性と固さをもってゼリー状に固化したゲル状乃至は半ゲル状の状態、換言すれば、オリゴマー領域と推測される分子量となるまで、予備重合が行われるのである。
より具体的には、予備重合後における着色剤の粘度(マーク部38の粘度)が25℃において、100?27000mPa・s、より好ましくは500?20000mPa・s、更に好ましくは1000?10000mPa・sとなるように、予備重合が行われることが望ましい。何故ならば、予備重合後における着色剤の粘度が低過ぎると、成形キャビティ16内にモノマー混合液を充填した際に、着色剤中の色素がモノマー混合液に浸出して、色滲みが発生して、コンタクトレンズに形成されるマークが不鮮明となるからであり、また、一方、予備重合後における着色剤の粘度が27000mP・sを超えて、着色剤が固体化すると、モールド形成後、得られるコンタクトレンズ(重合体)の表面が均一とならず、コンタクトレンズ表面からマーク部38が突出する恐れがあり、これにより、コンタクトレンズ装用時に、装用者が異物感等を感じて装用感が悪くなる恐れがあるからである。
また、予備重合後における着色剤の比重は、上記粘度の上昇に伴って高くなるが、比重が低過ぎると、色滲みすることとなり、鮮明なマークを形成することが出来ず、また、高過ぎると、マーク部38とレンズ本体とを有利に一体化せしめることが出来なくなるところから、0.90?2.00、より好ましくは0.95?2.50、更に好ましくは1.00?1.20とされることが望ましい。
次いで、上述せる如き予備重合の後、該予備重合されたマーク部38が付着した状態下において、第7図に示される如く、雌型14の凹部24内に、図示しない所定の供給装置から、目的とするコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液40を、所定量において供給する。
この際、モノマー混合液40と着色剤には、少なくとも1種以上の同じモノマー成分が含有せしめられているところから、モノマー混合液40は、予備重合された着色剤からなるマーク部38に対して、良好な親和性を有しており、モノマー混合液40がマーク部38に対して、よく馴染む。また、モノマー混合液40の一部は、マーク部38に含浸する。
その後、雌型14における前記段差26の角部に対して、雄型12における筒壁部21の外周面の底部18側角部が当接するように、また、雄型12の外フランジ部22の下面と雌型14の外フランジ部34の上面とが互いに当接するように、雄型12と雌型14とを組み付けて、型合わせを行なうことにより、それら雄型12と雌型14との間に成形キャビティ16を形成すると共に、該成形キャビティ16内にモノマー混合液が充填される(第8図参照)。この型合わせにより、成形キャビティ16から溢れ出た余剰のモノマー混合液40は、成形キャビティ16の上方に形成される液溜部30内に収容されることとなる。
なお、ここにおいて、モールド重合用成形型10の成形キャビティ16内に充填されるモノマー混合液40としては、特に限定されるものではなく、前述せるように、目的とするコンタクトレンズの種類(例えば、ハード、ソフト、非含水性、含水性等)や、コンタクトレンズに必要とされる特性(例えば、酸素透過性等)に応じて、従来から公知の各種のモノマー成分を適宜に選択して配合してなる、各種の配合組成のモノマー混合液を用いることが出来る。
また、かかるモノマー混合液40には、必要に応じて、従来から一般的に用いられている各種の添加剤、例えば、紫外線吸収剤や色素等が、従来と同様に、適量において、添加せしめられても何等差支えなく、更には、非重合性の溶媒が、重合の妨げにならない程度の量において添加されていてもよい。
そして、そのようなモノマー混合液40は、公知の重合開始剤等が添加された状態で、モールド重合用成形型10の成形キャビティ16内に充填され、通常の重合手法に従って重合せしめられることとなる。
かかる重合手法としては、例えば、重合開始剤をモノマー混合液に配合した後、該モノマー混合液40を室温?約130℃の温度範囲で徐々に或いは段階的に加熱して重合せしめる熱重合法や、マイクロ波、紫外線、放射線(γ線)等の電磁波を照射して重合を行なう光重合法等が挙げられる。また、重合は、塊状重合法によって行なわれても良いし、溶媒等を用いた溶液重合法によって行なわれても良く、またその他の方法によって行なわれても良い。
・・・(中略)・・・
このようにして、 モノマー混合液40が重合せしめられることにより、 目的とするマーク付きコンタクトレンズがモールド成形されることとなるのであるが、本実施形態においては、第8図に示されるように、紫外光を、光透過性を有する透明な雄型12を通じて、成形キャビティ16内に導入している。
これにより、モノマー混合液40が光重合せしめられ、生成する重合体にて目的とするコンタクトレンズ本体(コンタクトレンズ構成重合体42)が形成されると共に、前述せる如くして、予備重合されたマーク部38を構成する着色剤の重合が完結する。また、この重合の際、マーク部38を構成する着色剤に存在する重合性基と、モノマー混合液40のモノマー成分とが重合乃至は共重合することにより、それらが化学的に結合せしめられ、以てコンタクトレンズ構成重合体42とマーク部構成重合体44とが強固に一体化せしめられるのである。
また、コンタクトレンズ構成重合体42とマーク部構成重合体44とが強固に一体化せしめられた重合体には、雄型12の後面成形キャビティ面20に対応したベースカーブ面と、雌型14の前面成形キャビティ面28に対応したフロントカーブ面が付与されているのである。
そして、第9図に示されるように、雄型12を雌型14から取り外すことにより、型開きを行なう。そして、かかる型開きの後、従来と同様な離型操作で、コンタクトレンズを脱型することにより、第10図に示される如く、マーク部38がコンタクトレンズ本体(42)に転写され、マーク付きコンタクトレンズ46が、得られるのである。
このように、本実施形態にあっては、重合時におけるコンタクトレンズ構成重合体42とマーク部構成重合体44との強固な一体化が有利に実現されているところから、雌型14の前面成形キャビティ面28に、マーク部構成重合体44(マーク部38)が残って、マークがコンタクトレンズに転写されなかったり、コンタクトレンズに転写されてもマーク部38が簡単に取れてしまうようなことが、効果的に防止され、優れた転写性が実現され得ているのである。
また、コンタクトレンズ46に形成されたマークは、前記した着色剤の予備重合によって、色滲みが惹起されず、極めて鮮明且つ明瞭となっている。更に、モールド重合用成形型10の前面成形キャビティ面28におけるマーク部形成部位には、着色剤の付着乃至はプリントに先立って、スパッタリングによる微細な表面加工が施されるところから、前面成形キャビティ面28への、着色剤の付着性乃至はプリント性が効果的に高められ、以てコンタクトレンズ46には、所期の形状のマークが確実に形成されるようになっている。
さらに、着色剤中に含有されていた色素は、マーク部構成重合体44中に、重合結合した状態において、或いは非結合状態において、取り込まれているところから、得られたマーク付きコンタクトレンズ46を水等の水系媒体に浸漬しても、色素が溶出せず、以てマークが脱色されるようなことも、有利に防止されている。
加えて、マーク付きコンタクトレンズ46のベースカーブ面及びフロントカーブ面は、それぞれ、モールド重合用成形型10の後面成形キャビティ面20及び前面成形キャビティ面28に対応して、面一とされており、従来の凹部形成によって惹起される、機械的強度の低下や細菌の繁殖等の心配もない。
しかも、上述せる如くしてコンタクトレンズを製造すれば、コンタクトレンズの成形と同時に、コンタクトレンズへのマーキングも行なわれるところから、従来、コンタクトレンズの成形後に行なっていたマーキング工程を、コンタクトレンズの一貫した製造工程の中に組み入れることが可能となり、これにより、マーク付きコンタクトレンズを、安価に製造することが可能となる。」(14頁1行?25頁18行)

(イ)第5図?第8図は次のとおりのものである。








イ 原査定の引用文献3(特表2005-524099号公報)には、次の(ア)及び(イ)の事項が記載されている。
(ア)「【0016】
図6は、本発明のレンズを生産するために用いることができる鋳造成形法を示す。」

(イ)図6は次のとおりのものである。


ウ 原査定の引用文献4(国際公開第2007/020184号)には、次の事項が記載されている。
「Geometrieaenderung durch Benetzungswinkelbeeinflussung (Electrowetting): Zwei ineinander nicht mischbare Fluide annaehernd gleicher Dichte, die sich in ihren Brechungsindizes unterscheiden, bilden eine sphaerisch gekruemmte oder plane Grenzflaeche (Meniskus). Wird das eine, elektrisch leitfaehige Fluid, in Kontakt mit einer Elektrode gebracht und gegenueber einer zweiten, von den beiden Fluiden durch eine isolierende Schicht (Dielektrikum) getrennte Elektrode eine Potentialdifferenz angelegt, so laesst sich der Benetzungswinkel und somit die Kruemmung des Meniskus durch den sog. Elektrowetting-Effekt aendern. Da der Meniskus zwei Medien unterschiedlichen Brechungsindex trennt, wird das optische Abbildungsverhalten veraendert. WO99/18456 beschreibt eine axiale Anordnung von leitfaehigem Fluid, transparentem Dielektrikum und transparenter Elektrode im Strahlengang und Massnahmen zur radialen Zentrierung des Tropfens in der optischen Achse. WO03/069380 beschreibt eine Anordnung, bei der die mit einem Dielektrikum beschichtete Elektrode zylindrisch um die optische Achse angeordnet ist. In der optischen Achse befinden sich axial hintereinander angeordnet das elektrisch-leitfaehige Fluid und das isolierende Fluid, sowie der die beiden trennende Meniskus.」(11頁32行?12頁10行。なお、原文のaウムラウトをaeに、uウムラウトをueに、エスツェットをssに、それぞれ代替表記して摘記した。)
(日本語訳:ぬれ角を変えることによる幾何形状の変化(エレクトロウェッティング):
屈折率が異なる、ほぼ同じ密度の、相互に混合不可能な2つの流体は、球面状に湾曲した、又は、平坦な境界面(メニスカス)を形成する。電極と接触されていて、絶縁膜(誘電体)によって両流体から分離された2つの電極に対向する弾性導電性流体に電位差が印加されている場合、ぬれ角と、従って、メニスカスの湾曲は、所謂エレクトロウェッティング効果によって変えることができる。メニスカスは、異なった屈折率の2つの媒体を分離するので、光学結像特性が変えられる。国際公開第99/18456号には、導電流体、透明誘電体及び透明電極を光路内に軸方向に配列すること、及び、滴剤(Tropfen)を光軸内半径方向にセンタリングするための手段が記載されている。国際公開第03/069380号には、誘電体がコーティングされた電極を、光軸を中心して円筒状に配設された装置が記載されている。光軸内には、軸方向に相互に前後して配設されて、導電流体及び絶縁流体並びに両者を分離するメニスカスが設けられている。)

エ 原査定の引用文献5(特表2007-526517号公報)には、次の事項が記載されている。
「【0009】
特許文献1は、可変な流体のメニスカスを使用する、コンタクトレンズのような、レンズ素子を製造する方法を開示することが、留意される。製造されるレンズ素子は、固定した焦点屈折力を有する。
【特許文献1】国際公開第04/050334号パンフレット
【非特許文献1】Optics Express(No.7 2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生体適合性であると共に相対的に効率的な様式で変動させることができる焦点屈折力を有する可変焦点レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明と一致して、透明な後部の壁、透明な前部の壁、その透明な前部の壁とその透明な後部の壁との間に形成された空洞、前記の空洞内に含有された屈折率を異ならせる第一の及び第二の不混和性の流体、並びに、二つの流体の間の流体のメニスカスの曲率を変化させるために電圧を印加することができる電極を含む、目のための可変焦点レンズであって、ここで、少なくとも、そのレンズの後部の壁は、生体適合性の材料を含み、その材料は、その目とのそのレンズの生体適合性を提供する、可変焦点レンズが、提供される。
【0012】
その流体のメニスカスの曲率を変化させることによって、並びに、第一の及び第二の流体の屈折率の適切な選択によって、その前部の壁及びその後部の壁を介して、その可変焦点レンズを通過する光を、相対的に大きい範囲の焦点屈折力にわたって、可変に焦点調節することができる。それらレンズの動作は、その電圧の印加が、エレクトロウェッティング(electrowetting)の原理に基づくものであり、その原理においては、そのメニスカスが、ある一定の曲率を採用することを引き起こすエレクトロウェッティングの力を提供する。その電圧の変動は、この曲率の変動と共に、その結果として、相対的に効率的な且つ単純な様式でそのレンズの焦点屈折力における変動を引き起こす。」

オ 上記ア及びイからみて、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に、次の(ア)のことが周知であったものと認められる(以下「周知技術1」という。)。
また、上記ウ及びエからみて、本願の優先日前に、次の(イ)のことが周知であったものと認められる(以下「周知技術2」という。)。
(ア)周知技術1
「コンタクトレンズのモールド成形法において、当該モールド成形法が、着色剤からなるマーク部又はカラーイメージを雌型内の特定の点に配置する工程と、前記雌型内にコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液を堆積させる工程と、前記着色剤からなるマーク部又はカラーイメージを前記モノマー混合液に接触させて位置づける工程と、雄型を雌型に近接させて位置づけることにより、前記着色剤からなるマーク部又はカラーイメージと前記モノマー混合液を内部に備えるキャビティを形成する工程と、前記モノマー混合液を重合させる工程を含むこと」
(イ)周知技術2
「流体メニスカス可変焦点レンズ」

3 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「コンタクトレンズ系」、「『プロセッサ』、『マイクロプロセッサ』」、「電源」及び「カプセル」は、本願発明の「コンタクトレンズ」、「データプロセッサ」、「電気化学セル」及び「媒体挿入物」に相当する。

(2)引用発明の「カプセル」(媒体挿入物)は、視界検出器が、前記コンタクトレンズに取着され、前記電気駆動部材と電子通信接続され、前記視界検出器は、距離計を有しており、前記視界検出器は、電気駆動部材と共にカプセルに包まれており、前記電気駆動部材は、印加された電界によって駆動されたときに電気駆動材料に印加される電圧の量に応じて変化する屈折率を生じる、ポリマーゲル及び/又は液晶などの1つ以上の層の電気駆動材料を有し、前記視界検出器の距離計は、コントローラに連結された検出器とトランスミッターとを有し、前記コントローラは、「プロセッサ、マイクロプロセッサ」(データプロセッサ)、集積回路、もしくは、少なくとも1つのメモリ成分を有しているチップであり、電気駆動部材は、これをコンタクトレンズに取着する前に「カプセル」に包まれており、「カプセル」は、ほぼ円形で、電気駆動部材を受けるようにされており、コンタクトレンズ系の全電子部品が「カプセル」内に収容されるように、距離計と、更にコントローラと「電源」(電気化学セル)とが、電気駆動部材と共に「カプセル」内にシールされている。ここで、上記チップであるコントローラが何らかの基板又は基材に搭載されていることは明らかである。また、本願発明1の「可変レンズ」は、焦点距離が可変であるレンズと解される(本願明細書【0023】の「・・・データプロセッサは可変焦点レンズを制御する命令を発する・・・」との記載を参照。)ところ、引用発明のコンタクトレンズ内にある「電気駆動部材」は、印加される電圧の量に応じて変化する屈折率を生じるのであり、焦点距離が変化するものであるから、当該「電気駆動部材」は、本願発明1の「可変レンズ」に相当する。
したがって、本願発明1の「媒体挿入物」と引用発明の「カプセル」とは、「基材に搭載されたデータプロセッサ、可変レンズ及び電気化学セルを含む」点で一致する。

(3)引用発明のコンタクトレンズは、「カプセル」(媒体挿入物)の周りに、この「カプセル」がコンタクトレンズ内に配置されるようにモールド成形され、前記コンタクトレンズは、堅いガス透過性材料又は可撓性の疎水性材料で作られ、適当な堅いガス透過性材料には、シリコーンアクリル樹脂と重合されたメチルメタクリル(MMA)、もしくは、メタクリルオキシプロピル基トリス(methacryloxypropyltris)(トリメタオキシシラン(trimethoxysilane))(TRIS)などと重合されたMMAが含まれ、適当な可撓性の疎水性材料の例は、例えば、ヒドロキシエチル・メタクリレート(HEMA)、エチレンジメタクリレート(EDMA)かエチレングリコールモノゲタアクリラート(EGDMA)かと相互リンクされたHEMAなどの熱硬化性ポリマーヒドロゲル(thermo-set polymer hydrogels )、又は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンベースポリマーが含まれるのであるから、モールド成形の初期段階において、「カプセル」が反応性モノマー化合物に接触していることは明らかである。
また、本願発明1は、媒体挿入物を支持する第1の成形型部分の保持点に配置する工程と、前記第1の成形型部分内に反応性モノマー混合物を堆積させる工程と、前記媒体挿入物を前記反応性モノマー混合物に接触させて位置づける工程と、前記第1の成形型部分を第2の成形型部分に近接させて位置づけることにより、前記媒体挿入物及び反応性モノマー混合物の少なくともいくらかを内部に備えるレンズキャビティを形成する工程と、前記反応性モノマー混合物を化学線に曝露させる工程と、を含むのであるから、コンタクトレンズは、媒体挿入物の周りに、該媒体挿入物がコンタクトレンズ内に配置されるようにモールド成形するものであることは明らかである。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「媒体挿入物を反応性モノマー混合物に接触させ、該媒体挿入物の周りに、該媒体挿入物がコンタクトレンズ内に配置されるようにモールド成形するものである」点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明1と引用発明は、
「コンタクトレンズを形成する方法であって、前記方法が、
基材に搭載されたデータプロセッサ、可変レンズ及び電気化学セルを含む媒体挿入物を反応性モノマー混合物に接触させ、コンタクトレンズは、該媒体挿入物の周りに、該媒体挿入物がコンタクトレンズ内に配置されるようにモールド成形するものである、
方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「モールド成形」が、
本願発明1では、「媒体挿入物を支持する第1の成形型部分の保持点に配置する工程と、前記第1の成形型部分内に反応性モノマー混合物を堆積させる工程と、前記媒体挿入物を前記反応性モノマー混合物に接触させて位置づける工程と、前記第1の成形型部分を第2の成形型部分に近接させて位置づけることにより、前記媒体挿入物及び反応性モノマー混合物の少なくともいくらかを内部に備えるレンズキャビティを形成する工程と、前記反応性モノマー混合物を化学線に曝露させる工程と、を含」むのに対し、
引用発明では、上記各工程を含むことについては特定されていない点。

相違点2:
本願発明1では、「媒体挿入物」が配置される「保持点」が、「前記反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている」のに対し、
引用発明では保持点があるかどうかも特定されていない点。

相違点3:
前記「可変レンズ」が
本願発明では、「液体メニスカス可変レンズ」であるのに対し、
引用発明では、「印加される電圧の量に応じて変化する屈折率を生じる、ポリマーゲル及び/又は液晶などの1つ以上の層の電気駆動材料を有」するものである点。

4 判断
(1)上記相違点1及び2についてまとめて検討する。
上記2(2)オで述べたとおり、本願の優先日前に、「コンタクトレンズのモールド成形法において、当該モールド成形法が、着色剤からなるマーク部又はカラーイメージを雌型内の特定の点に配置する工程と、前記雌型内にコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液を堆積させる工程と、前記着色剤からなるマーク部又はカラーイメージを前記モノマー混合液に接触させて位置づける工程と、雄型を雌型に近接させて位置づけることにより、前記着色剤からなるマーク部又はカラーイメージと前記モノマー混合液を内部に備えるキャビティを形成する工程と、前記モノマー混合液を重合させる工程を含むこと」は周知であったものと認められる(周知技術1)。
しかしながら、本願の優先日前に、コンタクトレンズのモールド成形法において、引用発明の「カプセル」(媒体挿入物)のような固体物を「反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている保持点」に配置することまでが周知であったとは認められないから、引用発明において、相違点1及び2に係る本願発明1の構成となすことが、当業者が容易になし得たことであるということはできない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明の請求項2ないし10に係る発明は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明及び周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明11は、本願発明1と同様に、「保持点は、反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている」との構成を含んでいる。
したがって、本願発明1と同様に、本願発明11は、引用発明及び周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項12ないし14に係る発明は、本願発明11をさらに限定したものであるので、本願発明11と同様に、引用発明及び周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)以上のとおりであるから、本願の請求項1ないし14に係る発明は、当業者が引用文献1に記載された発明、及び周知技術1及び2に基いて容易に発明をすることができたとはいえず、よって、原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1及び11において、「保持点」が、「第1の成形型部分」上のある特定の点(すなわち場所)を意味するのか、それとも、第1の成形部分に設けられた特定の物(すなわち部材)を意味するのかについては、請求項1及び11の記載からは不明である。
そうすると、請求項1及び11に係る発明、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10に係る発明、及び、請求項11の記載を直接又は間接的に引用する請求項12ないし14に係る発明は、いずれもその構成の一部が不明であるから、請求項1ないし14に係る発明は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 当審拒絶理由についての当審の判断
(1)平成28年10月4日になされた手続補正
平成28年10月4日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を対象とし、本件補正前の請求項1及び11に係る発明をそれぞれ特定するために必要な事項である「保持点」について、当該「保持点」は、「反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている」ことを限定するものである。

(2)当審拒絶理由についての判断
上記(1)の補正により、本件補正前の請求項1及び11に係る発明の「保持点」は、反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料によって形成されている「部材」を意味することが明確となった。
また、当該「保持点」は、本願明細書の発明の詳細な説明(【0062】)に記載されている、レンズ本体を形成するものと同種の重合材料、すなわち、「反応性モノマー混合物の重合生成物と同種の重合材料」によって形成されていることが特定された。
したがって、請求項1及び11並びにそれらの従属請求項(請求項2ないし10、12ないし14)に係る発明はその構成の一部が不明である(「保持点」が場所か部材か不明である)から明確でないとの不備はもはや存在しない。
また、請求項1及び11並びにそれらの従属請求項(請求項2ないし10、12ないし14)に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)小括
したがって、本願の請求項1ないし14に係る発明が明確でないとはいえなくなった。また、本願の請求項1ないし14に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえなくなった。
そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし14に係る発明は、当業者が引用文献1に記載された発明並びに周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-22 
出願番号 特願2011-534621(P2011-534621)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02C)
P 1 8・ 537- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也大隈 俊哉  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
西村 仁志
発明の名称 埋め込みデータプロセッサを備えた眼科用レンズを形成するための方法及び装置  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  

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