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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G11B
管理番号 1321889
審判番号 不服2015-20535  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-17 
確定日 2016-12-06 
事件の表示 特願2011-271556「光情報記録媒体、再生装置および再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月20日出願公開、特開2013-122806、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成23年12月12日の出願であって、平成27年2月6日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月13日付けで手続補正がなされたが、同年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月17日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。
その後、当審の平成28年8月25日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年10月20日付けで手続補正がなされたものである。

第2.本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年10月20日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
対物レンズの開口数が0.85であり再生光の波長が405[nm]である再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さTm[nm]が短くなるように形成されたプリピット群によってコンテンツが記録されているデータ領域を有する再生専用の光情報記録媒体であって、
上記コンテンツを再生するための再生速度として、2×(4.92×Tm/149)[m/s]以上、(10000/60)×2×π×(24/1000)[m/s]未満の範囲の再生速度を指定する再生速度情報が記録されており、
上記データ領域を再生する際の上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックの周波数は、上記再生専用の光情報記録媒体のうち、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが上記光学系解像限界より長いプリピットのみで構成されたプリピット群によって再生条件を示す情報が記録されたディスク情報領域を再生する再生速度に対応する再生クロックの周波数の2倍以上の整数倍であり、
上記再生速度情報が示す再生速度に対応した再生光出力を指定する再生光出力情報が記録されており、
上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックがN倍速(N≧2)の再生クロックであるとき、上記再生光出力は、1倍速のときの再生光出力のN倍よりも小さいことを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
上記光情報記録媒体は円盤形状であり、
上記コンテンツが記録されるデータ領域と、
上記再生速度情報が記録されるディスク情報領域とを有し、
上記ディスク情報領域は、上記データ領域より内周側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
上記データ領域には、上記再生装置が有する光学系解像限界より、平均長さTmが短くなるように形成されたプリピット群によってコンテンツが記録されており、
上記ディスク情報領域には、上記再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが長くなるように形成されたプリピット群によって上記再生速度情報が記録されていることを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
上記再生装置が有する光学系解像限界より、走査方向における長さが短いプリピットを含むプリピット群により、上記コンテンツが記録されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
対物レンズの開口数が0.85であり再生光の波長が405[nm]である再生装置であって、
上記再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さTm[nm]が短くなるように形成されたプリピット群によってコンテンツが記録されたデータ領域を有する再生専用の光情報記録媒体を再生する場合、上記コンテンツを、2×(4.92×Tm/149)[m/s]以上、(10000/60)×2×π×(24/1000)[m/s]未満の再生速度で再生する再生部を備え、
上記データ領域を再生する際の上記再生速度に対応する再生クロックの周波数は、上記再生専用の光情報記録媒体のうち、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが上記光学系解像限界より長いプリピットのみで構成されたプリピット群によって再生条件を示す情報が記録されたディスク情報領域を再生する再生速度に対応する再生クロックの周波数の2倍以上の整数倍であり、
(4.92×Tm/149)[m/s]を第1再生速度とし、上記第1再生速度に対応する再生光出力を第1再生光出力とすると、上記コンテンツの再生時において、上記第1再生速度に対する再生速度の増加比より、上記第1再生光出力に対する再生光出力の増加比が小さくなるように、上記再生光出力を制御する出力制御部を備えることを特徴とする再生装置。
【請求項6】
対物レンズの開口数が0.85であり再生光の波長が405[nm]である再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さTm[nm]が短くなるように形成されたプリピット群によってコンテンツが記録されたデータ領域を有する再生専用の光情報記録媒体の再生方法であって、
上記光情報記録媒体に、開口数0.85の対物レンズを介して波長405[nm]の再生光を照射し、2×(4.92×Tm/149)[m/s]以上、(10000/60)×2×π×(24/1000)[m/s]未満の再生速度で上記コンテンツを再生するものであり、
上記データ領域を再生する際の上記再生速度に対応する再生クロックの周波数は、上記再生専用の光情報記録媒体のうち、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが上記光学系解像限界より長いプリピットのみで構成されたプリピット群によって再生条件を示す情報が記録されたディスク情報領域を再生する再生速度に対応する再生クロックの周波数の2倍以上の整数倍であり、
(4.92×Tm/149)[m/s]を第1再生速度とし、上記第1再生速度に対応する再生光出力を第1再生光出力とすると、上記コンテンツの再生時において、上記第1再生速度に対する再生速度の増加比より、上記第1再生光出力に対する再生光出力の増加比が小さくなるように、上記再生光出力を制御することを特徴とする再生方法。」

第3.当審の拒絶の理由について

1.当審拒絶理由の概要

当審において平成28年8月25日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
1-1.理由1(特許法第36第6項第1号・第2号違反)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)独立形式で記載された請求項1,6,8の各請求項について、これら請求項の記載のみでは、コンテンツを再生するための再生速度を「2×(4.92×Tm/149)[m/s]以上、(10000/60)×2×π×(24/1000)[m/s]未満」とする旨は記載されているものの、そのときの再生光出力との関係については何ら特定がなく、そのため、発明が解決しようとする課題(超解像再生を行うことと再生耐久性との両立)を如何に解決し得るものであるのか明らかでなく、課題を解決するための技術的手段(事項)が適切に反映されていない。
したがって、この点において請求項1,6,8の各請求項に係る発明は明確なものでないとともに、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるといえる。
〔請求項1,6,8の各請求項の記載のみでは、再生速度をN(N≧2)倍とするとともに、再生光出力も単純にN倍とするようなN倍速再生も含まれ得るものであり、本願明細書に記載のような「・・1倍速クロックを用いる場合の再生速度でコンテンツを再生する場合よりも、光情報記録媒体の単位面積および単位時間当たりの再生光の受光量を減少させることができる。・・・・よって、再生による光情報記録媒体の劣化を抑制し、信頼性の高い再生を行うことができる。」といった作用効果を必ずしも奏するとはいえない。
課題を解決するうえでのそもそも技術的特徴は、再生速度の増加の度合いに比較して、必要な再生光出力の増加の度合いを小さくする、より具体的には、再生速度をN(N≧2)倍としたとき、再生光出力は√N倍とすることにあるはず(請求項7,9も参照)。請求項1,6,8の各請求項においても、このことを明確に把握し得るような記載(表現)とすべきである。〕

(2)請求項2において、「上記コンテンツが記録される第1領域と、上記再生速度情報が記録される第2領域とを有し、」とあるが、ここでいう「第1領域」、「第2領域」なるものと、引用する請求項1における、コンテンツが記録されている「データ領域」、再生条件を示す情報が記録された「ディスク情報領域」との関係が不明瞭である。(それぞれ同じ領域を意味するならば、用語を統一するなどされたい。請求項2を引用する請求項3も同様。)

1-2.理由2(特許法第29条第2項)
本件出願の請求項1?6,8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.国際公開第2007/100139号
2.特開2006-134445号公報

2.当審拒絶理由についての判断

2-1.理由1(特許法第36第6項第1号・第2号違反)について
平成28年10月20日付け手続補正により特許請求の範囲が補正され、具体的には、
(a)上記(1)の指摘に対して、
請求項1において、再生速度と再生光出力との関係について、「上記再生速度情報が示す再生速度に対応した再生光出力を指定する再生光出力情報が記録されており、上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックがN倍速(N≧2)の再生クロックであるとき、上記再生光出力は、1倍速のときの再生光出力のN倍よりも小さい」(補正前の請求項4、9)ことを特定し、課題を解決するための技術的手段(事項)が適切に反映されたものとする補正がなされ、
また、それぞれ独立形式で記載された請求項5、6(補正前の請求項6、8)において、再生速度と再生光出力との関係について、「(4.92×Tm/149)[m/s]を第1再生速度とし、上記第1再生速度に対応する再生光出力を第1再生光出力とすると、上記コンテンツの再生時において、上記第1再生速度に対する再生速度の増加比より、上記第1再生光出力に対する再生光出力の増加比が小さくなるように、上記再生光出力を制御する」(補正前の請求項7)ことを特定し、課題を解決するための技術的手段(事項)が適切に反映されたものとする補正がなされた。

(b)上記(2)の指摘に対して、
請求項2、3において、「第1領域」、「第2領域」なる記載を、それぞれ「データ領域」、「ディスク情報領域」とし、引用する請求項1の用語と統一する補正がなされた。

したがって上記(a)及び(b)によれば、当審の理由1で指摘した不備な点はすべて解消され、本件出願は、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしているものと認められる。

2-2.理由2(特許法第29条第2項)について
(1)引用例の記載事項
(1-1)引用例1
当審の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/100139号(以下、「引用例1」という。)には、「光情報記録媒体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「 [9] 再生装置が有する光学系解像限界の長さより短い長さを含む凹及び /または凸からなるプリピットによりコンテンツが記録された第1領域と、
媒体の種類を特定するための媒体識別情報が凹及び/または凸からなるプリピットにより記録された第2領域とが、割り当てられた超解像光情報記録媒体であって、
上記媒体識別情報を形成するプリピットは、上記光学系解像限界の長さ以上で形成されていることを特徴とする超解像光情報記録媒体。」

イ.「 [14] 上記第2領域には、上記第1領域のコンテンツ再生用の再生速度情報が、再生装置が有する光学系解像限界の長さ以上の凹及び/または凸からなるプリピットによって記録されており、
上記再生速度情報が記録された凹及び/または凸からなるプリピットが、上記テス トリード領域より上記第1領域から遠い位置に設けられていることを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載の超解像光情報記録媒体。」

ウ.「[0033] 〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態に係る超解像光情報記録媒体ついて、図1?図3を用いて説明すると以下の通りである。なお、本実施形態では、再生専用媒体で、断面構造がBDタイプの超解像光情報記録媒体(以下、超解像媒体1とする)を例として説明する。また、以下の説明において、再生装置10とは、後述の、本実施形態に係る超解像媒体1と通常光情報記録媒体との両方を再生できる、光情報記録媒体再生装置10を指す。」

エ.「[0038] データ領域2は、図1に示すように、媒体情報領域3の間に割り当てられ、基板成型時に、凹及び/または凸からなるプリピットを設けることにより、上記コンテンツが記録されている。このプリピットは、図2におけるD2T?D8Tの長さのプリピットであり、最短の長さが、再生装置10の有する光学系解像限界よりも短い。すなわち、再生装置10が有する光学系解像限界より短い長さのプリピットも含めて上記コンテンツを記録するため(超解像記録形態)、通常媒体より高密度な記録が可能となっている。なお、データ領域2では、(1,7)RLL変調がなされているが、これに限られるわけではなく、ランダムパターンによる記録であればよい。」

オ.「[0041] 媒体情報領域3は、図1に示すように、超解像媒体1の最内周部と最外周部とに予め割り当てられ、超解像媒体1に関する情報が、凹及び/または凸からなるプリピットによって記録されている(通常記録形態)。このプリピットは、図2におけるR2T?R8Tの長さのプリピットであり、最短の長さが、再生装置10が有する光学系解像限界以上である。言い換えれば、媒体情報領域3のプリピット群の最短プリピット長は、データ領域2の上記プリピット群の最短プリピット長より長くなる。なお、媒体情報領域3は、超解像媒体1の内周及び外周に設けられているが、これに限定されるものではなく、内周または外周のいずれかに割り当てられていてもよい。
[0042] 超解像媒体1に関する情報には、データ領域2を有することを示す媒体識別情報、再生装置10が再生時に利用する再生速度情報、コピープロテクトのための媒体固有番号、データ領域2における位置を特定するための領域位置情報等が含まれる。」

カ.「[0075] 次に、再生装置10は、超解像媒体1の媒体情報領域3に記録されている再生クロック切替情報を再生する。該再生クロック切替信号は、検出器15、ヘッドアンプ16、および信号処理部24を介して制御部19の再生クロック制御部27に送られる。再生クロック制御部27は、上記再生クロック切替信号に基づいて、再生クロックを予め定められている超解像媒体用の再生クロックに変更する(S5)。その後、データ領域2が、超解像媒体1用の再生レーザパワーでアクセスされる(S6)。そして、データ領域2のコンテンツが、検出器15、ヘッドアンプ16、RFアンプ17A、および信号処理回路17Bを介して再生される(S7)。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0078] なお、上述のように、本実施の形態では、超解像媒体1に上記再生クロック切替情報が記録されており、再生装置10は、超解像媒体1を再生する時に、上記再生クロック切替情報により再生クロックを切り替えている。しかしながら、光情報記録媒体の識別により、再生クロックを切り替える構成としてもよい。この場合、超解像媒体1に上記再生クロック切替情報を記録する必要がなくなる。
[0079] ここで、再生装置10が、超解像媒体1と通常媒体とで再生クロックを切り替える理由について、再生専用の通常媒体が、通常媒体用の再生クロックおよび超解像媒体1用の再生クロックで再生される場合を例として図7(a)(b)を用いて説明する。なお、上記通常媒体は、(1,7)RLL変調がなされている。すなわち、チャネルピットの長さTを基準にして、最短プリピット2Tから、最長プリピット8Tまでの長さのプリピットが基板上に設けられている。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0083] 次に、上記通常媒体が、超通常媒体1用の再生クロックで再生される場合について説明する。なお、超解像媒体1は、上記通常媒体の2倍の線密度であるとする。このため、超解像媒体1用の再生クロック幅は、上記通常媒体用の再生クロック幅の半分となる。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0086] また、例えば、上記通常媒体を超通常媒体1用の再生クロックで再生し、その出力信号を二値化するタイミングをずらし、一つ飛ばしで取り込むことにより、擬似的に上記通常媒体用の再生クロックで再生したようにすることも可能である。しかしながら、このような信号処理は、非常に複雑になるという問題がある。よって、通常媒体と超解像媒体1とをそれぞれ最適な状態で再生するためには、それぞれの場合で、再生クロックを変更することが必要である。そして、以上のことから、再生装置10は、超解像媒体1と通常媒体とで再生クロックを切り替えている。
[0087] また、上記再生クロック切替情報は、再生装置10が有する光学系解像限界より長い長さのプリピットによって記録されている。このため、通常媒体用の再生レーザパワーおよび再生クロックで再生でき、無駄な再生レーザパワーおよび再生クロックの切り替えを必要としない。」

キ.「[0101] なお、本発明において使用可能な再生レーザパワー決定法は、上記手法に限定されるものではない。例えば、あらかじめ再生レーザパワーが、媒体情報領域3に記録されていても良い。あるいは、媒体識別情報自体で再生レーザパワーを略決定、又は決定できてもよい。前者の場合、媒体識別情報と、テストリード領域3Aに照射する再生レーザパワーを再生エラーが最小となるまで増加することにより最適な再生レーザパワーを決定する方法とを併用することで、再生レーザパワーの決定が的確となるとともに、再生レーザパワー決定が早くなり、再生装置の立ち上がり時間が早くなる。一方、後者の場合は、同時にクロック切り替え情報、又は線速変更情報が媒体識別番号に含まれていれば、他の再生のために必要な情報は、データ領域2と同様に記録されていてもよい。その場合は、データ領域2をより多く確保できるので、より媒体の記録容量を増すことができる。」

・上記引用例1に記載の「光情報記録媒体」は、上記「ア.」、「エ.」、「オ.」の段落[0041]の記載事項、及び図1、図2によれば、最短の長さが、再生装置が有する光学系解像限界の長さより短い凹及び /または凸からなるプリピットによりコンテンツが記録されたデータ領域2(第1領域)と、最短の長さが、上記光学系解像限界の長さ以上の凹及び/または凸からなるプリピットにより超解像光情報媒体に関する情報が記録された媒体情報領域3(第2領域)とが、割り当てられた超解像光情報記録媒体に関するものである。
・上記「ウ.」の記載事項によれば、超解像光情報記録媒体は、例えば再生専用媒体でBDタイプのものである。
・上記「イ.」、「オ.」の段落[0042]の記載事項によれば、超解像光情報記録媒体に関する情報としては、データ領域2(第1領域)のコンテンツ再生用の再生速度情報が含まれる。
・上記「カ.」の記載事項、及び図7(a)(b)によれば、超解像媒体用の再生クロック幅は、通常媒体用の再生クロック幅の半分である。つまり、超解像媒体用の再生クロックの周波数は、通常媒体用の再生クロックの周波数の2倍である。このことから、超解像記録形態のデータ領域2(第1領域)を再生する再生クロックの周波数は、通常記録形態の媒体情報領域3(第2領域)を再生する再生クロックの周波数の2倍であることが理解できる。
・上記「キ.」の記載事項によれば、媒体情報領域3(第2領域)には、あらかじめ再生レーザパワーを記録していても良いものである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「最短の長さが、再生装置が有する光学系解像限界の長さより短い凹及び /または凸からなるプリピットによりコンテンツが記録されたデータ領域と、最短の長さが、上記光学系解像限界の長さ以上の凹及び/または凸からなるプリピットにより超解像光情報記録媒体に関する情報が記録された媒体情報領域とが、割り当てられた再生専用のBDタイプの超解像光情報記録媒体であって、
前記超解像光情報記録媒体に関する情報として、前記データ領域のコンテンツ再生用の再生速度情報が含まれ、
超解像記録形態の前記データ領域を再生する再生クロックの周波数は、通常記録形態の前記媒体情報領域を再生する再生クロックの周波数の2倍であり、
前記媒体情報領域には、あらかじめ再生レーザパワーを記録していても良い、
超解像光情報記録媒体。」

(1-2)引用例2
同じく当審の拒絶の理由に引用された特開2006-134445号(以下、「引用例2」という。)には、「光ディスク装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0004】
また、光ディスクには、ディスク自体に共振が発生する共振回転数7800回転(rpm)や、高速回転により各部にかかる大きな加速度によりポリカーボネイトのディスク基板が破壊されてしまう破壊回転数と云った回転数の制約を有していることも知られている
。」

イ.「【0009】
また、従来、高速回転によるディスク基板の破壊を回避するために光ディスクの最大回転数は1万回転(rpm)以下にすると云う決まりが一般的であったが、本発明者らは破壊を避けるためにマージンを必要量とった場合でも最大回転数をもっと上げられることを見出した。」

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「ディスク基板の破壊を回避するために光ディスクの最大回転数を1万回転(rpm)以下に制限すること。」

(2)対比
そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「最短の長さが、再生装置が有する光学系解像限界の長さより短い凹及び /または凸からなるプリピットによりコンテンツが記録されたデータ領域と、最短の長さが、上記光学系解像限界の長さ以上の凹及び/または凸からなるプリピットにより超解像光情報記録媒体に関する情報が記録された媒体情報領域とが、割り当てられた再生専用のBDタイプの超解像光情報記録媒体であって」によれば、
(a)引用発明における、コンテンツが記録された「データ領域」、再生専用のBDタイプの「超解像光情報記録媒体」が、それぞれ本願発明1における、コンテンツが記録されている「データ領域」、再生専用の「光情報記録媒体」に相当し、
(b)引用発明における「超解像光情報記録媒体」にあっても、BDタイプであることから、再生装置は当然、対物レンズの開口数が0.85であり再生光の波長が405[nm]であるといえる。
(c)また、引用発明のデータ領域における「プリピット」は、最短の長さが、再生装置が有する光学系解像限界の長さより短い凹及び /または凸からなるものであることから、本願発明1でいう、再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さTm[nm]が短くなるように形成された「プリピット群」に相当するものである。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「対物レンズの開口数が0.85であり再生光の波長が405[nm]である再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さTm[nm]が短くなるように形成されたプリピット群によってコンテンツが記録されているデータ領域を有する再生専用の光情報記録媒体」である点で一致する。

イ.引用発明における「前記超解像光情報記録媒体に関する情報として、前記データ領域のコンテンツ再生用の再生速度情報が含まれ」によれば、
引用発明における、コンテンツ再生用の「再生速度情報」は、本願発明1における、コンテンツを再生するための再生速度を指定する「再生速度情報」に相当し、
本願発明1と引用発明とは、「上記コンテンツを再生するための再生速度を指定する再生速度情報が記録」されている点で共通するといえる。
ただし、再生速度情報が指定する再生速度について、本願発明1では、「2×(4.92×Tm/149)[m/s]以上、(10000/60)×2×π×(24/1000)[m/s]未満」の範囲である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違している。

ウ.引用発明における「・・最短の長さが、上記光学系解像限界の長さ以上の凹及び/または凸からなるプリピットにより超解像光情報記録媒体に関する情報が記録された媒体情報領域とが、割り当てられた・・・・超解像記録形態の前記データ領域を再生する再生クロックの周波数は、通常記録形態の前記媒体情報領域を再生する再生クロックの周波数の2倍であり」によれば、
(a)引用発明における、超解像光情報記録媒体に関する情報が記録された「媒体情報領域」が、本願発明1でいう、再生条件を示す情報が記録された「ディスク情報領域」に相当するといえ、
(b)引用発明の媒体情報領域における「プリピット」は、最短の長さが、再生装置が有する光学系解像限界の長さ以上の凹及び /または凸からなるものであることから、本願発明1でいう、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが上記光学系解像限界より長いプリピットのみで構成された「プリピット群」に相当するものである。
(c)また、引用発明において、データ領域を再生する再生クロックの周波数、媒体情報領域を再生する再生クロックの周波数のいずれについても、これら領域を再生する再生速度に対応するものであることは当然のことである。
以上のことを踏まえると、本願発明1と引用発明とは、「上記データ領域を再生する際の上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックの周波数は、上記再生専用の光情報記録媒体のうち、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが上記光学系解像限界より長いプリピットのみで構成されたプリピット群によって再生条件を示す情報が記録されたディスク情報領域を再生する再生速度に対応する再生クロックの周波数の2倍」である点で共通するということができる。
ただし、データ領域を再生する際の再生クロックの周波数について、本願発明1では、ディスク情報領域を再生する際の再生クロックの周波数の「2倍以上の整数倍」、つまり、2倍のみでなく、3倍以上の整数倍も取り得るものであるのに対し、引用発明では、2倍とされるにすぎない点で相違するといえる。

エ.引用発明における「前記媒体情報領域には、あらかじめ再生レーザパワーを記録していても良い」によれば、
引用発明における「再生レーザパワー」は、本願発明1でいう「再生光出力」に相当し、
引用発明においても、媒体情報領域にあらかじめ再生レーザパワーを指定する情報を記録しておくことができるものであることから、
本願発明1と引用発明とは、「再生光出力を指定する再生光出力情報が記録」されている点で共通する。
ただし、再生光出力について、本願発明1では、「上記再生速度情報が示す再生速度に対応した」ものであることを特定するのに対して、引用発明では、そのような特定がない点で相違している。

よって、本願発明1と引用発明とは、
「対物レンズの開口数が0.85であり再生光の波長が405[nm]である再生装置が有する光学系解像限界より、最小マーク長と最小スペース長との平均長さTm[nm]が短くなるように形成されたプリピット群によってコンテンツが記録されているデータ領域を有する再生専用の光情報記録媒体であって、
上記コンテンツを再生するための再生速度を指定する再生速度情報が記録されており、
上記データ領域を再生する際の上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックの周波数は、上記再生専用の光情報記録媒体のうち、最小マーク長と最小スペース長との平均長さが上記光学系解像限界より長いプリピットのみで構成されたプリピット群によって再生条件を示す情報が記録されたディスク情報領域を再生する再生速度に対応する再生クロックの周波数の2倍であり、
再生光出力を指定する再生光出力情報が記録されていることを特徴とする光情報記録媒体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
再生速度情報が指定するコンテンツを再生するための再生速度について、本願発明1では、「2×(4.92×Tm/149)[m/s]以上、(10000/60)×2×π×(24/1000)[m/s]未満」の範囲である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
上記相違点1にも関連して、データ領域を再生する際の再生クロックの周波数について、本願発明1では、ディスク情報領域を再生する際の再生クロックの周波数の「2倍以上の整数倍」、つまり、2倍のみでなく、3倍以上の整数倍も取り得るものであるのに対し、引用発明では、2倍とされるにすぎない点。

[相違点3]
再生光出力情報が指定する再生光出力について、本願発明1では、「上記再生速度情報が示す再生速度に対応した」ものであり、「上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックがN倍速(N≧2)の再生クロックであるとき、上記再生光出力は、1倍速のときの再生光出力のN倍よりも小さい」ことを特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

(3)判断
まず、上記[相違点3]について検討すると、
引用発明においても、媒体情報領域に再生速度情報が記録されてなるものであり、また、あらかじめ再生レーザパワーを記録しておいても良いものであるものの、引用例1には、再生レーザパワーとして、再生速度情報が示す再生速度に対応したものとすることの記載はなく、したがって当然、再生速度と再生光出力との関係について、本願発明1における「上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックがN倍速(N≧2)の再生クロックであるとき、上記再生光出力は、1倍速のときの再生光出力のN倍よりも小さい」とする発明特定事項については記載も示唆もされていない。
また、引用例2には、「ディスク基板の破壊を回避するために光ディスクの最大回転数を1万回転(rpm)以下に制限すること」が記載(上記(1-2)を参照)されているのみであり、上記発明特定事項については記載も示唆もない。
よって、少なくとも本願発明1の「上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックがN倍速(N≧2)の再生クロックであるとき、上記再生光出力は、1倍速のときの再生光出力のN倍よりも小さい」という発明特定事項については、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、本願発明1は、上記発明特定事項を有することにより、「超解像特性を維持したままで、再生耐久性を向上することができる」という格別の効果を奏するものである(特に本願明細書の段落【0034】、【0038】?【0039】、【0052】?【0053】を参照)。

したがって、他の相違点(相違点1及び2)を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願の請求項2ないし6に係る発明について
(4-1)本願の請求項2ないし4に係る発明
請求項2ないし4は、請求項1に従属する請求項であり、本願の請求項2ないし4に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定するものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4-2)本願の請求項5に係る発明
独立形式で記載された請求項5に係る発明は、再生速度と再生光出力との関係について、本願発明1が上記発明特定事項のとおり「上記再生速度情報が示す再生速度に対応する再生クロックがN倍速(N≧2)の再生クロックであるとき、上記再生光出力は、1倍速のときの再生光出力のN倍よりも小さい」と特定するところを、これに代えて「(4.92×Tm/149)[m/s]を第1再生速度とし、上記第1再生速度に対応する再生光出力を第1再生光出力とすると、上記コンテンツの再生時において、上記第1再生速度に対する再生速度の増加比より、上記第1再生光出力に対する再生光出力の増加比が小さくなるように、上記再生光出力を制御する」と特定したものであり、その余の発明特定事項については実質的にすべて共通するものである。
よって、請求項5に係る発明についても、上記(3)で検討した本願発明1と同様、少なくとも「(4.92×Tm/149)[m/s]を第1再生速度とし、上記第1再生速度に対応する再生光出力を第1再生光出力とすると、上記コンテンツの再生時において、上記第1再生速度に対する再生速度の増加比より、上記第1再生光出力に対する再生光出力の増加比が小さくなるように、上記再生光出力を制御する」という発明特定事項については、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、請求項5に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4-3)本願の請求項6に係る発明
独立形式で記載された請求項6に係る発明は、「再生装置」という物の発明である請求項5に係る発明を、「再生方法」という方法の発明にそのカテゴリーを変えて表現したものであって、実質的に請求項5に係る発明のすべての発明特定事項を共通して有するものであるといえるから、上記(4-2)と同じ理由により、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.当審拒絶理由についてのむすび

以上のとおり、本願の請求項1ないし6に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしていないということもできない。

第4.むすび

以上のとおり、当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできず、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-21 
出願番号 特願2011-271556(P2011-271556)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G11B)
P 1 8・ 537- WY (G11B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ゆずりは 広行深沢 正志  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 井上 信一
國分 直樹
発明の名称 光情報記録媒体、再生装置および再生方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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