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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M |
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管理番号 | 1321988 |
審判番号 | 不服2015-5748 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-03-27 |
確定日 | 2016-11-21 |
事件の表示 | 特願2009-282970「電源装置内のファンの速度を制御するための装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月15日出願公開、特開2010-158155〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)12月14日(パリ条約による優先権主張2008年(平成20年)12月30日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成27年1月26日付けで拒絶査定がなされ、同年3月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、当審において、平成28年3月22日付けで拒絶理由を通知し、平成28年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成28年4月26日付けの手続補正書の【請求項1】の欄に記載される、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 電源装置内のファンの速度を制御するための装置であって、 前記電源装置の入力端子における入力電力をある時間間隔の間計測して入力電力値を算出する入力電力モジュールと、 前記電源装置の出力端子における出力電力を前記ある時間間隔の間計測して出力電力値を算出する出力電力モジュールと、 前記入力電力モジュールから前記入力電力値、及び前記出力電力モジュールから前記出力電力値を受け取り、前記入力電力値と前記出力電力値の間の差に基づいて、前記ある時間間隔の間に前記電源装置によって消費される電力を表す電力消費値を算出する消費モジュールと、 前記消費モジュールから前記電力消費値を受け取り、該電力消費値を用いて、参照テーブルを検索して、前記受け取った電力消費値に対応して指定されたファン速度を取り出すファン・モジュールであって、前記参照テーブルは、複数の電力消費値範囲のそれぞれにファン速度を関連付けして、前記受け取った電力消費値が入る電力消費値範囲のファン速度を指定することにより、前記電力消費値の増加をファン速度の増加に関連づけし、又は前記電力消費値の低下をファン速度の低下に関連づけする、前記ファン・モジュールと、 前記ファン・モジュールから前記電力消費値に対応するファン速度を受け取り、前記ファンの速度を制御するファン・コントローラとを備える装置。」 3.引用文献の記載事項と引用発明(下線は、着目箇所を示すために当審で付した。) (1)平成28年3月22日付けの拒絶理由通知で引用した特開平9-264647号公報(以下、引用文献1という。)には次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電子機器の入力および出力を検出する電力検出手段と、この電力検出手段で検出された入力と出力の両者間の電力差による発熱量と部品実装形態に応じた温度上昇を推測し前記電力差に応じて冷却ファンの風量を制御する制御回路とを設けたことを特徴とする電子機器冷却回路。 【請求項2】 電子機器の内部電子回路と、この内部電子回路の入出力部にそれぞれある入出力の電圧を検出する電圧検出器および入出力の電流を検出する電流検出器と、前記電圧検出器および前記電流検出器の出力を入力して電力を算出する電力検出器と、この電力検出器で算出された前記内部電子回路の入出力部のそれぞれの電力値を比較する電力比較器と、この電力比較器で比較された差分を入力し入力電力に応じて電圧を出力する電力電圧変換器と、前記電子機器の内部温度上昇および部品実装形態によりファンの風量を考慮して設定した基準電圧を出力する電圧基準回路と、前記電子機器を冷却する冷却ファンと、前記電力電圧変換器からの出力を一方へ入力し前記電圧基準回路からの出力を他方へ入力してこれら入力両者の値を比較増幅して前記冷却ファンを駆動する冷却ファン駆動回路とを有することを特徴とする電子機器冷却回路。 【請求項3】 前記冷却ファンと前記冷却ファン駆動回路の出力値をモニタするモニタ回路を有することを特徴とする請求項2記載の電子機器冷却回路。 【請求項4】 前記電力検出器の出力側検出器を出力負荷の種類に応じて複数用いることにより、前記電子機器の冷却動作を細かく制御するすることを特徴とする請求項2または請求項3記載の電子機器冷却回路。 【請求項5】 前記モニタ回路の出力を大規模電子機器冷却回路を制御するシステム制御回路の信号に使用し、前記大規模電子機器冷却回路の各部冷却回路の外部から制御して冷却動作を行うことを特徴とする請求項3または請求項4記記載の電子機器冷却回路。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器の冷却に関し、特に、電源または電子負荷の温度上昇を低減する冷却回路に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、電子機器の電源または電子負荷等に一般的に使用されている冷却回路では、電子回路の最大発熱を冷却するファンを強制的に駆動させていた。 【0003】また、他の冷却回路では、温度検出器を用いて温度に応じて制御を行い電子機器の冷却を行っていた。 【0004】また、他の冷却回路では、電力検出手段を出力または入力にのみ設けて冷却を行っていた。 【0005】次に、この従来の公知例について図面を参照して説明する。 【0006】この従来の公知例としては、特開平5-145259号公報が知られている。 【0007】図5は従来の冷却装置の一例の構成を示すブロック図である。 【0008】この従来の冷却装置は、主に、設定温度を発生させる回路と温度を感知できるセンサと、設定温度とセンサ出力を比較する比較器とからなる回路、例えば、図5の温度センサ51で構成される。 【0009】従来、電子機器および電子負荷等に一般的に使用される冷却回路では、電子回路の最大発熱を冷却するファンを強制的に駆動し、温度検出を行い、ファンの回転を制御していた。例えば、図5においては、モータ部53で回転部54を強制的に駆動し、温度センサ51で温度検出を行い、これをもとに回転数可変制御部52で回転部54の回転を制御していた。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】上述した従来の電子機器冷却回路で、ファンを強制的に駆動させている方式では、電子回路が大規模システムになると電子回路の実動の発熱と空冷ファンの能力に差が生じ、省エネ上非効率なムダが発生する、また、空冷ファンの騒音が大きくなるという問題があった。 【0011】また、従来の電子機器冷却回路で、温度検出器を用いて温度に応じて制御を行う方式では、発熱した内部温度が、検出器の温度設定に至るまで、制御回路は動作しないため、発熱時間と検出時間にずれが発生し、温度検出器の誤差が重なって上記と同じような省エネ上の非効率なムダが発生し、十分満足する効果が得られなかった。 【0012】さらに、従来の電子機器冷却回路で、電力検出手段を出力または入力にのみ設けて同様な効果を期待する方式のものは、入力電圧がワイドレンジになる場合に、入出力電力差から算出される電源および電子負荷の消費電力を決定する発熱を詳細に検出できないため、冷却が細かく制御できなくなり、上記と同じ問題が発生していた。 【0013】 【課題を解決するための手段】本発明の目的は、上記の問題を解決し、省エネ対策およびファン騒音の低減を図ることにある。」 したがって、引用文献1には、その段落【0013】に記載される事項を目的とした発明であって、【請求項1】に記載される構成を有する発明が記載されているといえる。 また、引用文献1の段落【0001】等の記載によれば、引用文献1の【請求項1】でいう「電子機器」は「電源装置」を含むものである。 以上によれば、引用文献1には、引用文献1の【従来の技術】の欄に記載される冷却回路に対して「省エネ対策とファン騒音の低減を図る」ことを目的とした発明であって、次の構成を有する発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「電源装置の入力および出力を検出する電力検出手段と、この電力検出手段で検出された入力と出力の両者間の電力差による発熱量と部品実装形態に応じた温度上昇を推測し前記電力差に応じて冷却ファンの風量を制御する制御回路とを設けた電源装置冷却回路。」 (2)同じく平成28年3月22日付けの拒絶理由通知で引用した特開平11-184566号公報(以下、引用文献2という。)には次の記載がある。 「【0037】(第2の実施の形態)図4は、被冷却部の電源の出力電流変動、及び周囲温度変動を関数として冷却能力を制御する冷却制御装置を有する電子システムの構成を説明するための図である。 【0038】第2の実施の形態における電子システムは、4台のメモリ35とプロセッサ36とを含むCPUユニット33を有する電子装置(ただし、図4には電子装置の被冷却部31にあたるCPUユニット33のみ図示してある)と、CPUユニット33内に設けられ被冷却部31の温度を計測する温度センサ38、被冷却部31に冷却風43を送る4台のファン42、被冷却部31の消費電力を計測する電力計測部37、及び電力計測部37からの消費電力情報39と温度センサ38からの周囲温度情報40と収集して計算処理し、後述するファン制御テーブル320を基に適正なファン回転制御を行うファン制御部32からなる冷却制御装置と、2台の電源ユニット34がそれぞれファン41と温度検出機能(図示せず)を搭載し、電子装置の被冷却部31と、冷却制御装置のファン制御部32とへ電源を供給する電源部30と、から構成される。 【0039】第2の実施の形態では、CPUユニット33内のメモリ35、プロセッサ36等の搭載数、動作状況により消費電力が変動することを利用し、その変動を電力計測部37で計測(例:+5V、+3.3V等の電流測定)して得られた消費電力情報39と温度センサ38からの周囲温度情報40をファン制御部32で計算することでファンの回転制御を行う。なお、消費電力の測定は、例えば、電源部30の出力電流変動にて計測する。 【0040】ここで、メモリ35、プロセッサ36等の最大搭載/最大動作かつ最大入気温度時に必要なファン42の最大冷却能力は定常回転数のファン4台であるとし、消費電力情報39を4分類(4分類以外でも可能)、周囲温度情報40を2分類(2分類以外でも可能)とする。 【0041】第2の実施の形態では、消費電力情報39の値を最大電力値の80%以上、60%以上、40%以上、40%未満と定義する。消費電力情報39は、+5V、+3.3V等の電流測定で検出する。 【0042】また、周囲温度情報40は、30℃以上を「High」,30℃以下を「Low」と定義する。周囲温度は、温度センサから信号をもらい検出する。 【0043】そして、ファンの回転制御には定常回転・低速回転・停止の3つの回転モードを設定し、それぞれ消費電力、周囲温度を関数としたファン制御テーブル320で定義する。 【0044】図5は、消費電力、周囲温度を関数とした場合のファン4台の稼働状態の関係を示したファン制御テーブル320を示す図である。 【0045】ファン制御テーブル320は、図5に示すように、消費電力321、周囲温度322、ファン1,2,3,4の回転制御323,324,325,326で構成される。 【0046】図5に示すファン制御テーブル320において、たとえば、消費電力が「60%以上」、周囲温度が「High」の場合は、ファン4台の稼働状態は2台が「定常回転」、2台が「低速回転」となる。 【0047】また、消費電力が「40%以上」、周囲温度が「Low」の場合は、ファン4台の稼働状態は3台が「低速回転」、1台が「停止」となる。 【0048】なお、第1の実施の形態と同様に、ファン4台の回転状態が同一でない場合が存在するため、冷却の偏り防止用のエアタンク等によるエアミキシングを考慮する。 【0049】また、第2の実施の形態では回転モード機能のあるファンを対象としているためその制御は信号制御で行われるが、回転モード機能なしのファンに対しても第1の実施の形態と同様に適応できる。 【0050】次に、ファン制御部32の処理について説明する。図6は、第2の実施の形態におけるファン制御部32の処理を説明するためのフローチャートである。 【0051】第2の実施の形態におけるファン制御部32の処理は、図6に示すように、まず、電力計測部37から消費電力情報39を取得する(ステップ601)。 【0052】そして、その消費電力情報39の値が最大電力値の80%以上か否かの判定を行い(ステップ602)、80%以上である場合には消費電力を「80%以上」として格納しておき(ステップ603)、80%未満である場合には次に60%以上はあるか否かの判定を行い(ステップ604)、60%以上である場合には消費電力を「60%以上」として格納しておき(ステップ605)、60%未満である場合には次に40%以上はあるか否かの判定を行い(ステップ606)、40%以上である場合には消費電力を「40%以上」として格納しておき(ステップ607)、40%未満である場合には消費電力を「40%未満」として格納しておく(ステップ608)。 【0053】続いて、温度センサ38から周囲温度情報40を取得し(ステップ609)、温度が30℃以上であるか否かの判定を行い(ステップ610)、30℃以上である場合には周囲温度を「High」として格納しておき(ステップ611)、30℃未満である場合には周囲温度を[Low」として格納しておく(ステップ612)。 【0054】そして、それぞれ格納された消費電力及び周囲温度を基にファン制御テーブル320から回転モードを決定してファン42それぞれを制御する(ステップ613)。 【0055】したがって、装置内の被冷却部の消費電力変動を直接的なデータとして取り扱って被冷却部に発生する発熱量を求め、かつその周囲温度の計測データと合わせて冷却ファンの回転制御を行うことにより、半導体ジャンクション温度等の変動幅(熱ストレス)に対する信頼性を向上することができ、簡単かつ高精度な制御にて短時間に変化する装置内の被冷却部の発熱量に対応した最適な冷却効果を実現することが可能となる。 【0056】また、被冷却部の構成要素数変動、動作モード変動、及び周囲温度変動に即した冷却により、過剰騒音(過剰冷却)を排除して電子装置を低騒音化することが可能になる。」 4.対比 本願発明と引用発明を対比すると、次のことがいえる。 (1)引用発明の「冷却ファン」は、電源装置を冷却するためのファンであるから、当然に電源装置内のものであり、本願発明の「電源装置内のファン」に相当する。 また、ファンの速度に応じてファンの風量が変わることは当然のことであるから、引用発明が「ファンの風量を制御」するものであることは、本願発明が「ファンの速度を制御」するものであることと、「ファンの風量を制御」するものである点で共通する。 以上を踏まえると、引用発明と本願発明は、「電源装置内のファンの風量を制御するための装置」といい得るものである点で共通する。 (2)引用発明の「入力」と「出力」は、それぞれ、本願発明の「入力端子における入力電力」、「出力端子における出力電力」に相当する。 そして、引用発明の電力検出手段の上記「入力」を検出する機能をつかさどる部分と、上記「出力」を検出する機能をつかさどる部分は、それぞれ、本願発明の「入力電力モジュール」、「出力電力モジュール」と、「電源装置の入力端子における入力電力を計測する手段」、「電源装置の出力端子における出力電力を計測する手段」といい得るものである点で共通する。 (3)引用発明の「制御回路」と本願発明の「ファン・コントローラ」とは、それぞれの機能からみて、「前記入力電力と前記出力電力の間の差に応じて前記ファンの風量を制御するファン・コントローラ」といい得るものである点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明の間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「電源装置内のファンの風量を制御するための装置であって、 前記電源装置の入力端子における入力電力を計測する手段と、 前記電源装置の出力端子における出力電力を計測する手段と、 前記入力電力と前記出力電力の間の差に応じて前記ファンの風量を制御するファン・コントローラとを備える装置。」である点。 (相違点1) 本願発明は、ファンの「速度」を制御するための装置であるのに対し、引用発明は、ファンの「風量」を制御するための装置ではあるものの、ファンの「速度」を制御するための装置には特定されていない点。 (相違点2) 本願発明の「入力電力を計測する手段」、「出力電力を計測する手段」は、それぞれ、「電源装置の入力端子における入力電力をある時間間隔の間計測して入力電力値を算出する入力電力モジュール」、「電源装置の出力端子における出力電力を前記ある時間間隔の間計測して出力電力値を算出する出力電力モジュール」であるのに対し、引用発明の「入力電力を計測する手段」、「出力電力を計測する手段」は、そのようなものには特定されていない点。 (相違点3) 本願発明は、「前記入力電力モジュールから前記入力電力値、及び前記出力電力モジュールから前記出力電力値を受け取り、前記入力電力値と前記出力電力値の間の差に基づいて、前記ある時間間隔の間に前記電源装置によって消費される電力を表す電力消費値を算出する消費モジュール」と、「前記消費モジュールから前記電力消費値を受け取り、該電力消費値を用いて、参照テーブルを検索して、前記受け取った電力消費値に対応して指定されたファン速度を取り出すファン・モジュールであって、前記参照テーブルは、複数の電力消費値範囲のそれぞれにファン速度を関連付けして、前記受け取った電力消費値が入る電力消費値範囲のファン速度を指定することにより、前記電力消費値の増加をファン速度の増加に関連づけし、又は前記電力消費値の低下をファン速度の低下に関連づけする、前記ファン・モジュール」とを有するのに対し、引用発明は、それらに対応するモジュールを有するものには特定されていない点。 (相違点4) 本願発明の「ファン・コントローラ」は、「前記ファン・モジュールから前記電力消費値に対応するファン速度を受け取り、前記ファンの速度を制御する」ものであるのに対し、引用発明の「ファン・コントローラ」は、そのようなものには特定されていない点。 5.判断 (1)相違点1について 一般に、ファンの風量を制御するための手法として、ファンの速度制御は周知である(引用文献2の図4に示されるファン制御部も、ファンの速度制御によりファンの風量を制御するものと認められる。)し、引用発明の目的に照らせば、引用発明におけるファンの風量の制御として該周知のファンの速度制御を採用できない理由はない。 してみれば、引用発明におけるファンの風量の制御として該周知のファンの速度制御を採用することは当業者が容易になし得たことである。そして、そのことは、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味している。 (2)相違点2?4について 以下の事情を総合すると、引用発明において上記相違点2?4に係る本願発明の構成を採用することも、当業者が容易になし得たことというべきである。 ア.一般に、制御回路をデジタル処理回路により実現することはごく普通に行われていることであり、引用発明の制御回路についても、それをデジタル処理回路により実現すること自体は、当業者が容易に推考し得たことである。 イ.引用発明の制御回路をデジタル処理回路により実現する場合には、引用発明の電力検出手段(入力電力を計測する手段と出力電力を計測する手段)をデジタル信号を出力するものとするとともに、電力差を求める機能をつかさどる部分についても、デジタル信号を入力しデジタル信号を出力するものとするのが普通であるが、そうすることは、引用発明において相違点2に係る本願発明の構成と、相違点3に係る本願発明の構成のうちの「消費モジュール」に係る構成を採用することにほかならない。 ウ.引用文献2の第2の実施形態の説明箇所(上記摘記箇所)には、消費電力に応じて冷却ファンの風量を制御をするものであるという意味において、引用発明と同一の技術分野に属する技術であって、デジタル処理回路による制御に適した技術といえる、「複数の電力消費値範囲のそれぞれにファン速度を関連付けした参照テーブルであって、電力消費値の増加をファン速度の増加に関連づけし、前記電力消費値の低下をファン速度の低下に関連づけした参照テーブル」といえるテーブル(引用文献2の図5に示されるファン制御テーブル)を用いて冷却ファンの速度を制御する技術(以下、「引用文献2の技術」という。)が示されている。 そして、引用発明と引用文献2の技術を技術分野の共通性や、引用文献2の技術の内容を考慮すると、引用発明の制御回路を上記のようにデジタル処理回路により実現しようとする際に、この引用文献2の技術をも併せ採用することも、当業者が容易に推考し得たことである。 エ.以上のことは、引用発明において、相違点2?4に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって容易であったことを意味している。 (3)本願発明の効果について 本願発明の効果は、引用発明に周知技術と引用文献2の技術を適用して得られる構成のものが奏するであろうと当業者が予測し得る範囲を超えるものとはいえず、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。 (4)請求人の主張について 審判請求人は、平成28年4月26日付け意見書において、大要以下の主張をしている。 ア.引用文献1の請求項1の記載「部品実装形態に応じた温度上昇を推測し」は、引用文献1の請求項2、段落0014、0017の記載によれば、電圧基準回路9により、部品実装形態に応じて出力される基準電圧の使用を示唆していることが明らかであるから、請求項1の発明は、図1の基準電圧回路9や増幅器8を備えることまでを要件としない上位概念の発明ではない。 引用文献1の発明は、基準電圧を基準として用いて、冷却ファン11を単に回転又は停止させること、このための回路として電圧基準回路9と増幅器8を備えることを特徴又は必須の構成としている。 イ.基準電圧を基準として用いて、冷却ファン11を単に回転又は停止させるためには、引用文献1に記載の電圧基準回路9と増幅器8を使用することが当業者にとって最も一般的な手法であって、これらをディジタル化する必要性は全くない。 そもそも冷却ファンを単に回転又は停止させるだけの引用文献1の発明に、引用文献2に記載のファン制御テーブル320を使用する必要性は全く生じてこない。 従って、本願発明を全く知り得なかった状態にあった当業者は、上記のようにディジタル化する必要のない引用文献1の回路をディジタル化した上で、これに引用文献2のファン制御テーブル320を使用することに到底到達し得なかった。 しかしながら、上記ア.の趣旨の主張は失当であるから、上記イ.の趣旨の主張の当否にかかわらず、請求人の主張は採用できない。 理由は次のとおりである。 まず、引用文献1の段落0014の記載は、特許請求の範囲の記載をそのまま転記したに過ぎないものであり、当該段落0014中の請求人が指摘する記載も、請求項1、2について請求人が指摘する記載と同じ記載であるから、独立して検討する意味はないものである。 次に、引用文献1の請求項1に「部品実装形態に応じた温度上昇を推測し」という記載があることや、請求項2、段落0017に請求人が指摘するとおりの記載があることは事実であるが、それらのことは、引用文献1の請求項1の発明が、「図1の基準電圧回路9や増幅器8を備えることまでを要件としない上位概念の発明ではないこと」や、「基準電圧を基準として用いて、冷却ファン11を単に回転又は停止させること、このための回路として電圧基準回路9と増幅器8を備えることを特徴又は必須の構成としていること」を何ら意味しない。 なぜならば、引用文献1の請求項1に「部品実装形態に応じた温度上昇を推測し」という記載があることや、請求項2、段落0017に請求人が指摘するとおりの記載があることについては、次のことがいえるからである。 (ア)引用文献1の請求項1の「部品実装形態に応じた温度上昇を推測し前記電力差に応じて冷却ファンの風量を制御する」という記載によって表される技術的事項は、引用文献1の請求項2や段落0017に示される構成を採用した場合にのみ採用され得る事項ではなく、例えば、引用発明に上記引用文献2の技術を適用したものにおいても、当然に採用され得る事項である。 このことは、部品実装形態に応じて冷却ファンによる冷却効率が変わるのは当然のことであること、それを踏まえて引用発明に上記引用文献2の技術を適用する場合には、引用文献2に記載のファン制御テーブル320のようなテーブルを設定する際に、部品実装形態をも考慮するのが普通であると考えられること、そのテーブルを設定する際に、部品実装形態をも考慮するということは、「部品実装形態に応じた温度上昇を推測し前記電力差に応じて冷却ファンの風量を制御する」という技術的事項を採用することにほかならないこと等の事情から明らかである。 (イ)引用文献1の請求項2や段落0017に請求人が指摘するとおりの記載があるのは、引用文献1の請求項1に係る発明が「基準電圧を基準として用いて、冷却ファン11を単に回転又は停止させること、このための回路として電圧基準回路9と増幅器8を備えることを特徴又は必須の構成としている」という事実を表すものではなく、引用文献1の請求項1に係る発明が、請求項2あるいは段落0017に示されるような構成としても具体化できるという事実を表すに過ぎないものである。 6.まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と、周知技術及び引用文献2の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。 7.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明と、周知技術及び引用文献2の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-27 |
結審通知日 | 2016-06-28 |
審決日 | 2016-07-11 |
出願番号 | 特願2009-282970(P2009-282970) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齋藤 健児、中里 翔平 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
高瀬 勤 小曳 満昭 |
発明の名称 | 電源装置内のファンの速度を制御するための装置及びその方法 |
代理人 | 太佐 種一 |
代理人 | 上野 剛史 |
復代理人 | 坂口 博 |