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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1322109
審判番号 不服2014-22378  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-04 
確定日 2016-11-29 
事件の表示 特願2010-544581「電子構成素子を作製する方法および電子構成素子」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日国際公開、WO2009/095005、平成23年 5月19日国内公表、特表2011-515789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)本願は、2009年 1月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年 1月30日、独国、2008年 4月21日、独国、2008年 7月 2日、独国、2008年 9月23日、独国)を国際出願日とする出願であって、以下の手続がなされたものである。

平成23年12月15日提出 手続補正書
平成24年 9月11日付け 拒絶理由通知書(平成24年 9月14日発送)
平成25年 2月26日提出 誤訳訂正書
平成25年 2月27日提出 意見書及び手続補正書
平成25年 9月 5日付け 拒絶理由通知書(平成25年 9月 9日発送)
平成26年 3月 6日提出 意見書及び手続補正書
平成26年 6月27日付け 拒絶査定(平成26年 7月 7日送達)
平成26年11月 4日提出 審判請求書
平成27年12月28日付け 拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書」という。平成28年 1月 5日発送)
平成28年 5月30日提出 意見書及び誤訳訂正書

(2)本願発明は、上記平成28年 5月30日に提出された誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
構成素子をカプセリングするバリア層を有する電子構成素子を作製する方法において、
該方法は、
- 少なくとも1つの機能層(22)を有する基板(1)を準備するステップと、
- プラズマ支援原子堆積法(PEALD)を用いて前記の機能層(22)に少なくとも1つの第1バリア層(3)を被着するステップとを有しており、ただし当該第1バリア層(3)は、
スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブまたはハフニウムを含有する酸化物、
スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブまたはハフニウムを含有する窒化物
ないしは
スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブまたはハフニウムを含有する酸窒化物を有しており、
前記方法はさらに
- プラズマ支援化学気相成長(PECVD)を用いて前記の機能層(22)に少なくとも1つの第2バリア層(4)を被着するステップと、
- 前記の第1バリア層(3)および第2バリア層(4)に合成物質を有する保護層(5)を被着するステップとを有する、
ただし、前記保護層(5)を10μm以上の厚さで被着する、
ことを特徴とする、構成素子をカプセリングするバリア層を有する電子構成素子を作製する方法。」

2 拒絶理由の概要
当審拒絶理由通知書における拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、「本件出願の平成26年 3月 6日提出の手続補正書で補正された下記の請求項1?15に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。

3 引用刊行物及びその摘記事項
(1)当審拒絶理由通知で刊行物1として引用され、本願の優先権主張日前に国内において頒布された特開2001-284042号公報(以下「引用例」という。)には、「有機EL素子」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。
(ア)発明の属する技術分野、従来の技術及び解決しようとする課題
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体を備え、該構造体の外表面に有機発光材料を被覆する保護層を有する有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に、有機EL素子は、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体を備える。しかし、使用雰囲気中の水分により有機発光材料が劣化し、構造体における本来の発光領域に無発光領域が形成され、表示品位の悪化を招く。この問題に対して、特開平7-161474号公報では、CVD法(化学気相成長法)により成膜された炭素または珪素からなる無機アモルファス性膜を、構造体の外表面に有機発光材料を被覆するように形成し、これを保護膜として用いることが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来公報について行った本発明者等の検討によれば、従来の保護膜は構造体に対する被覆性が不十分であるために、水分に対する抵抗性が低く、高温高湿(例えば、65℃、95%RH)雰囲気で動作させたところ、無発光領域が発生してしまうことがわかった。
【0004】そこで、本発明は上記問題に鑑み、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体を備え、該構造体の外表面に有機発光材料を被覆する保護層を有する有機EL素子において、保護層の構造体に対する被覆性を向上させることを目的とする。」

(イ)発明の実施の形態のうち第1実施形態
「【0021】1はガラス基板であり、このガラス基板1の平坦な一面上には、ITO(インジウムチンオキサイド)膜等の透明導電膜よりなり、ホール注入電極として機能する陽極(下部電極)2が形成されている。図2に示す様に、陽極2は、基板1上にスパッタ法により成膜されたITO膜(例えば厚さ150nm)をエッチング等にてパターニングすることにより、x方向に延びるストライプ状に形成されたものであり、例えば、500μm幅の帯状のものが、50μmの間隔でストライプ状に並んだものとしている。
【0022】この陽極2上には、本発明でいう有機発光材料としてのホール輸送層3及び有機発光層4が、順次形成されている。本例では、ホール輸送層3として、ガラス転移点(以下、Tg点という)が約130℃のテトラトリフェニルアミン(以下、TPTEという)を約40nmの膜厚で、有機発光層4として、Tg点が170℃のトリス(8-キノリノール)アルミニウム(以下、Alqという)に対して蛍光物質のキナクリドン化合物(Tg点存在せず)をドープしたものを約50nmの膜厚で、約10^(-6)Torrの真空度で順次蒸着している。
【0023】そして、有機発光層4の上には、金属等よりなり、電子注入電極として機能する陰極(上部電極)5が形成されている。本例では、陰極5は、マスクを用いた真空蒸着によって形成されたAl(アルミニウム)膜(例えば厚さ100nm)であり、図2に示す様に、陽極2と略直交するようにy方向へ延びるストライプ形状をなす。例えば、陰極5は、500μm幅の帯状のものが、50μmの間隔でストライプ状に並んだものとしている。
【0024】このように、本有機EL素子100は、陽極2と陰極5とが交差して重なり合う領域が、発光表示を行うべき部分である表示画素(本来の発光領域)を構成しているドットマトリクスディスプレイである。図2では、陽極2と陰極5とが重なり合って、複数個の矩形状の表示画素Gを構成している。
【0025】このように、本有機EL素子100は、基板1上に、互いに対向する一対の電極2、5間に有機発光材料4を配置してなる構造体2?5を備えるが、さらに、この構造体2?5の外表面に、有機発光材料3、4を被覆して外部環境から保護する保護層6を有する。本例では、保護層6は原子層成長法(アトミックレイヤーエピタキシー法、以下、ALE法という)により、約400nmの厚さで形成されたアルミナ(Al_(2)O_(3))膜である。
・・(略)・・
【0032】ここで、ALE法による保護層6の成膜時の基板温度(成膜温度)については、予め成膜されている有機発光材料3、4(本例ではTPTE、Alq)のTg点以下の温度とすることが好ましい。これは、該成膜温度が該Tg点よりも高いと有機発光材料の結晶化が進み、発光効率が低下するためである。上記具体例では、有機発光材料3、4に使用されている材料の中で最も低いTPTEのTg点130℃よりも約30℃低い100℃に、基板温度を設定した。
【0033】図4は、成膜温度(基板温度)により、素子の電圧-輝度特性がどのように変化するかを確認した結果を示すグラフである。成膜温度が100℃で成膜した時と130℃(TPTEのTg点)で成膜した時とでは、ほとんど差は認められなかったが、150℃で成膜した時は、明らかに電圧-輝度特性が右側にシフトしていることがわかる。これは、成膜温度が150℃で保護層6を形成する工程中に、TPTEの結晶化が進み、発光効率が低下したためと考えられる。
・・(略)・・
【0037】また、基板加工時のスクラッチ(ひっかき傷)や、製品レベルでの組み付け時における物理的ダメージから保護するには、ALE法で保護層6を成膜した後、この物理的ダメージから保護層6を保護する樹脂膜(物理的ダメージ保護層)を、保護層6の上部に設ければ良い。図5は、上記有機EL素子100において、樹脂膜7を設けた構成を示す部分的な概略断面図である。
【0038】ここで、樹脂膜7の組成、成膜法、厚さは問わない。例えば、保護層6として、ALE法で上記図3に準じてAl_(2)O_(3)を50nm程度成膜し、その後、樹脂膜7として、蒸着法などでパラキシレン重合体などを約2μm成膜すればよい。その他、樹脂膜7としては、スピンコート法、スクリーン印刷法、塗布法などによって形成されるゴム系材料、アクリル系樹脂、シリコーン、エポキシ系樹脂などの有機系材料の膜でも良い。なお、樹脂膜7の成膜過程(スピンコート法での硬化処理等を含む)であってもやはり有機発光材料3、4のTg点以下であることが望ましい。
【0039】[保護層の組成]保護層6は、ALE法によって成膜可能であることが必要なことは勿論であるが、上述のように有機発光材料3、4のTg点以下で成膜でき、かつ、物理的・化学的に安定であって、保護層6としての要求特性を満足できれば、その組成は問わない。例えば、金属や珪素の酸化物、窒化物、酸窒化物が好ましい。」

(ウ)発明の実施の形態のうち第4実施形態
「【0100】(第4実施形態)図14に本発明の第4実施形態に係る有機EL素子200の部分的な概略断面構成を示す。上記各実施形態では、保護層6はALE法のみにより成膜されたものであったが、本実施形態は、構造体2?5の上に形成された保護層6を、ALE法により形成された層(ALE層という)6aと、ALE法とは異なる方法により形成された層(非ALE層という)6bとの組合せから構成したことを特徴とするものである。
【0101】本例では、保護層6は、厚さ数nm?数十nmのAl_(2)O_(3)よりなるALE層6aと厚さ数nm?数十nmのCVD法により形成されたAl_(2)O_(3)よりなる非ALE層6bとが交互に積まれたものである。ここで、ALE層6aが構造体2?5の直上に形成され、非ALE層6bがALE層6aの上に形成され、以降、順次交互に積層されている。なお、図示例では4層だが層数は限定しない。
【0102】次に、本実施形態の保護層6の形成方法について述べる。図15は、本実施形態に係る成膜装置の模式的な構成を示す図である。この成膜装置は、まず、ALE法によりALE層6aであるAl_(2)O_(3)膜を形成し、続いて、同じ装置内にて、CVD法により非ALE層6bであるAl_(2)O_(3)膜を形成するものである。
【0103】10は例えばステンレス等より区画形成された密閉構造の真空室であり、その内部は排気通路11とつながっている。そして、真空室10の内部は、図示しない真空ポンプ(メカニカルブースターポンプやロータリーポンプ等)を用いて、排気通路11から真空に引かれている。
【0104】真空室10の内部には、例えばチタン等により密閉構造に形成された反応室12が設置されている。反応室12の壁部には、図示しない制御回路等にて作動制御される電動開閉式のシャッタ13が形成されている。このシャッタ13を開閉することで反応室12内への基板の出し入れを行ったり、シャッタ13の開度調整によって反応室12内の圧力を調整したり、シャッタ13を全開することでパージの促進を行うようになっている。
【0105】また、反応室12内へTMAガス、H_(2)Oガス及びN_(2)ガスを供給するためのステンレス等よりなる各配管系14、15、16、17が設けられている。配管系14はTMAガスの配管系(TMA配管系)であり、反応室12内へTMAガスを導入するためのものである。配管系15はN_(2)ガスの配管系(TMA除去用N_(2)ガス配管系)であり、TMA配管系14によってTMAガスを所定の時間流した後に、残存するTMAガスを除去するためのパージガスとしてのN_(2)ガスを流すために利用する。
【0106】配管系16は反応ガスであるH_(2)Oガスの配管系(水配管系)であり、TMA除去用N_(2)ガス配管系15によってパージガスを流した後、反応室12内へH_(2)Oガスを導入するためのものである。配管系17はN_(2)ガスの配管系(水除去用N_(2)ガス配管系)であり、水配管系16によってH_(2)Oガスを所定の時間流した後に、残存するH_(2)Oガスを除去するためのパージガスとしてのN_(2)ガスを流すために利用する。
【0107】これらTMA配管系14、水配管系16、各N_(2)ガス配管系15、17は各々、図示しない制御回路等によって作動制御される図示しないバルブ及びガス供給源を有しており、それぞれ、吸着ガス供給手段、反応ガス供給手段、パージ手段を構成している。
【0108】そして、各配管系14?17のバルブは、所定のタイミングにて開閉されるようになっており、それによって、反応室12へのガス供給は、TMA、N_(2)ガス(パージガス)、H_(2)Oガス、N_(2)ガス(パージガス)の順に、切り替えて交互に供給されるようになっている。なお、配管系14?17は、真空室10を貫通して(貫通部は密封構造となっている)、接続用のボルト等により反応室12に接続されている。
【0109】また、反応室12の内部には、薄膜が形成される基板(ガラス基板等)18を搭載するヒータ付き基板ホルダ19が設置されている。この基板18は、上記各実施形態における構造体2?5までが形成されたガラス基板1に相当するものである。基板ホルダ19は、例えば、基板18が搭載可能な面積を有する金属板の下に均一加熱可能なようにシースヒータを取り付けたものとできる。
【0110】更に、基板ホルダ19は、基板温度を測定するための図示しない熱電対を有しており、図示しない温度制御回路によって該熱電対の測定値を検知しつつ、基板18を所望の温度に加熱可能となっている。また、この基板ホルダ19は、反応室12内へ基板18を出し入れするために、搬送可能になっている。
【0111】かかる成膜装置においては、まず、基板18をヒータ付き基板ホルダ19に設置搭載し、真空室10を通して、シャッタ13の部分から反応室12内に搬送する。そこで、所望の反応が起こる以上の温度(本例では100℃)まで、基板18を基板ホルダ19により、加熱する。
【0112】基板18が所望の温度(例えば100℃)に達したら、TMA配管系14からTMAガスを反応室12に送り込む。その供給流量、及び、TMA配管系14とは逆側にあるシャッタ13の開閉度を適宜制御することにより、反応室12内の雰囲気圧を数百Pa程度に保つことができ、基板18にTMAが一層だけ吸着する。その後、シャッタ13を全開にして、TMA除去用N_(2)ガス配管系15よりN_(2)ガスを流すことにより、反応室12内に残留するTMAガスを除去することができる。
【0113】次に、H_(2)Oガスを水配管系16から反応室12へ送り込む。その供給流量、及び、水配管系16とは逆側にあるシャッタ13の開閉度を適宜制御することにより、反応室12内の水蒸気圧を一定に保つことができ、基板18に吸着したTMAと反応させてAl_(2)O_(3)を形成することができる。その後、シャッタ13を全開にして、水除去用N_(2)ガス配管系17よりN_(2)ガスを流す。それにより、反応室12内に残留するH_(2)Oを除去することができる。
【0114】このようにALE法による成膜サイクル(TMA導入→パージ→H_(2)O導入→パージ)を所望の膜厚に達するまで繰り返し、1層目のALE層6aを形成した後、以下のようなCVD法による成膜を開始する。なお、CVD成膜における成膜温度(基板温度)は、上記ALE法による成膜温度と同じ100℃とするが、これに限定するものではなく、室温でもよい。
【0115】まず、TMAを気化して、そのガスをTMA配管系14から反応室12に送り込む。そのTMAガスの量を制御するとともに、TMA配管系14と逆側にあるシャッタ13の開閉度を制御して、反応室12の雰囲気圧を数百Pa以上に保つ。そうすると、TMAが基板18に吸着するのはもとより、基板18周辺に滞留する。
【0116】その後、上記シャッタ13を全開にして、TMA除去用N2ガス配管系15より窒素ガスを流すこと無く、H_(2)Oを気化して、そのガスを水配管系16から反応室12に送り込む。そうすると、基板18上はもとより、基板18周辺の気相でもTMAとH_(2)Oとが反応して、Al_(2)O_(3)を形成することができる。こうして、基板18においてALE層6a上に、非ALE層6bが形成される。このようなCVD成膜では、成膜レートが速いため、膜中の空孔が成膜途中で消滅することが少なく、内部応力を低減できる。
【0117】このように、本実施形態によれば、保護層6をALE法により成膜されたALE層6aとCVD法により成膜された非ALE層6bとの組み合わせにより構成しているため、互いの層6a、6bの膜質を変えることができ、ALE層6aを上記非応力緩和膜として、非ALE層6bを上記応力緩和膜としてそれぞれ機能させることができる。
【0118】ALE層6aの内部応力は100℃程度の低温で成膜しても、例えば400nmの厚さで約430MPaになるが、CVD法により成膜された非ALE層6bでは-150Mpa程度に落とすことができる。従って、ALE層6aと非ALE層6bとの多層膜よりなる保護層6全体の全応力は、例えば400nmの厚さで150MPa程度に落とすことができる。
【0119】また、応力緩和膜として機能する非ALE層6bは、膜内に内部欠陥等の多い膜となるので構造体2?5に対する被覆性が不十分となりやすい。しかし、本実施形態の有機EL素子200によれば、図16に示す様に、非ALE層6bにカバレッジ不良部K1やピンホールK2が発生しても、その下、即ち、構造体2?5の直上を被覆するALE層6aの被覆性が良いため、水分に対する抵抗性は問題ない。なお、図16は、上記図2において陰極5が無い部分の断面に対応した断面図である。
【0120】よって、本実施形態においても、保護層6に発生する応力を緩和して亀裂等の損傷の可能性を低減した保護層6を実現することができ、保護層6の構造体2?5に対する被覆性を、より確実に向上させることができる。さらに、本実施形態によれば、保護層6の一部を成膜レートの速いCVD法により形成するため、保護層6の全部をALE法にて成膜する場合に比べて、成膜時間を短くすることができる。なお、ALE法とは異なる方法はスパッタ法等でも良い。」

(エ)図14について
図14は、第4実施形態に係る有機EL素子の部分断面図であり、ガラス基板1上の構造体(陽極2、ホール輸送層3,有機発光層4及び陰極5の積層体)の最上表面全体を覆うように、ALE層6a及び非ALE層6Bからなる保護層6が積層されていることが看取できる。



(オ)上記(ウ)の第4実施形態において、【0109】に「この基板18は、上記各実施形態における構造体2?5までが形成されたガラス基板1に相当するものである」と記載されており、例えば、第1の実施形態については以下のように記載されている。
「(【0021】)ガラス基板1の平坦な一面上には、ITO(インジウムチンオキサイド)膜等の透明導電膜よりなり、ホール注入電極として機能する陽極(下部電極)2が形成され、
(【0022】)この陽極2上には、本発明でいう有機発光材料としてのホール輸送層3及び有機発光層4が、順次形成され、
(【0023】)そして、有機発光層4の上には、金属等よりなり、電子注入電極として機能する陰極(上部電極)5が形成され、
(【0025】)本有機EL素子100は、基板1上に、互いに対向する一対の電極2、5間に有機発光材料4を配置してなる構造体2?5を備え、さらに、この構造体2?5の外表面に、有機発光材料3、4を被覆して外部環境から保護する保護層6を有する。」

上記記載から、第4実施形態における基板18を第1の実施形態のガラス基板1として整理すると、引用例には、次の発明が記載されている。

「(【0004】、図14)基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体(陽極2、ホール輸送層3、有機発光層4及び陰極5の積層体)を備え、該構造体の最上表面全体を覆うことで、該構造体の外表面に有機発光層4を形成する有機発光材料を被覆する保護層を有する有機EL素子の製造方法において、
(【0101】)保護層6が、Al_(2)O_(3)よりなるALE層6aとCVD法により形成されたAl_(2)O_(3)よりなる非ALE層6bとが交互に積まれたものであって、ALE層6aが構造体2?5の直上に形成され、非ALE層6bがALE層6aの上に形成される製造方法であって、
(【0109】、【0021】?【0025】)互いに対向する一対の電極2、5間に有機発光材料4を配置してなる構造体2?5を備えたガラス基板1を、
(【0111】)ヒータ付き基板ホルダ19に設置搭載し、真空室10を通して、シャッタ13の部分から反応室12内に搬送し、
(【0112】)TMAガスを反応室12に送り込み、ガラス基板1にTMAが一層だけ吸着し、その後、反応室12内に残留するTMAガスを除去し、
(【0113】)次に、H_(2)Oガスを反応室12へ送り込み、ガラス基板1に吸着したTMAと反応させてAl_(2)O_(3)を形成し、その後、反応室12内に残留するH_(2)Oを除去し、
(【0114】)ALE法による成膜サイクル(TMA導入→パージ→H_(2)O導入→パージ)を所望の膜厚に達するまで繰り返し、1層目のALE層6aを形成した後、CVD法による成膜を開始して、
(【0116】)ガラス基板1においてALE層6a上に、非ALE層6bが形成される、
有機EL素子の製造方法。」(以下、「引用発明」という。))

(2)周知例
ア 当審拒絶理由通知で引用例2として引用され、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2006/101856号 (以下「周知例1」という。)には、「A PLASMA ENHANCED ATOMIC LAYER DEPOSITION SYSTEM AND METHOD(プラズマ加速原子層成膜のシステムおよび方法)」(発明の名称)に関して、日本語に訳すと概略、以下の事項が記載されている。
(ア)PECVDに関して
[0003](【0003】以下特表公報の対応する段落を括弧書き内に「【】」で表示する。)に、概略以下の事項が記載されている。
「PECVD法では、プラズマを用いることにより、膜の形成機構が変化しあるいは加速される。例えば、一般に、プラズマ励起では、通常必要な温度よりも十分に低い温度で、膜形成反応が進行し、熱励起CVDによって、同様の膜を製作することができる。また、熱CVD法ではエネルギー的にまたは速度論的に適さない膜形成化学反応が、プラズマ励起により活性化される。このように、PECVD膜の化学的および物理的特性は、処理パラメータを調節することにより、比較的広い範囲で変化させることができる。」
(イ)PEALDに関して
[0068](【0049】)に、概略以下の事項が記載されている。
「前述の従来技術において示したように、ALD処理プロセスの幅広い普及を妨げる一つの要因は、そのような処理プロセスでは、比較的成膜速度が遅いことである。特に、従来のALD処理プロセスでは、通常、単一層の成膜のためには、通常約10秒のサイクル時間の還元反応を利用した場合、約15乃至20秒のサイクルが必要となる。本願発明者らは、この成膜時間を低減させるため(または成膜速度を向上するため)、従来のALD処理プロセスの処理パラメータについて研究を行った。その結果、本願発明者らは、従来の600A以下のプラズマ電力を増大させることにより、還元反応が加速されることを見出した。例えば、薄膜の共形タンタル含有膜を調製するため、第1の処理材料として五塩化タンタルを用い、第2の処理材料として水素を用い、図3に示すようなPEALD処理プロセスを実施する場合、約1000Wの電力が水素還元剤に結合される。この電力レベルでは、還元反応は、約5秒で飽和に達し、これは通常の600Wのプラズマ電力処理の約10秒とは大きく異なる。
(ウ)成膜材料について
また、PEALD処理プロセスによって成膜できる材料として、[0098](【0065】)に窒化タンタル、[0103](【0070】)にZrO_(2)、[0104](【0071】)にHfO_(2)等の酸化物が例示されている。

イ 当審拒絶理由通知で引用例3として引用され、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/145513号 (以下「周知例2」という。)には、「大気圧グロー放電プラズマを使用した原子層堆積の方法及び装置」(発明の名称)に関して日本語に訳すと概略、以下の事項が記載されている。
(ア)「基板が高温に耐えられない場合には、従来技術のALD法を使用できない。大気圧でのプラズマを使用して、ALDプロセスを室温でも実行することができ、これにより、プラスチック等の合成材料上への薄層堆積を含め、非常に広い適用領域が可能となる。また、これにより、ポリマー箔等の処理のために本方法を適用することもできる。」(4頁27?最終行(【0023】))、
(イ)「本発明によれば、大気圧プラズマを用いた原子層堆積(ALD)プロセスを実行するための改善された方法が提供される。ALDプロセスは、材料、例えばAl_(2)O_(3)、HfO_(2)、Ta_(2)O_(5)、及び他の多くの材料の原子層の無欠陥コーティングを堆積するために使用することができる。」(8頁23?28行(【0043】))
(ウ)「本発明は、様々なALD用途に有利に適用することができる。本発明は半導体用途に限定されず、パッケージング、有機LED(OLED,organic LED)又は有機薄膜トランジスタ(OTFT,organic thin film transistor)用途等のプラスチック製電子機器等の用途にまで拡張することもできる。」(21頁17?23行(【0089】))

ウ 当審拒絶理由通知で引用例5として引用され、本願の優先権主張日前に国内において頒布された特開2007-270352号公報 (以下「周知例3」という。)には、「堆積システムのパーティクルコンタミネーションを減少するように構成された排気装置」(発明の名称)に関して、 【0004】に、以下の事項が記載されている。
「PECVDにおいて、プラズマは、膜堆積メカニズムを変更するかまたは増強するために利用される。例えば、プラズマ励起は、一般的に、熱励起CVDプロセスによって同様の膜を生成することを必要とするそれらより非常に低い温度で進行する膜形成反応を一般に許容する。加えて、プラズマ励起は、熱CVDにおいてエネルギー的にまたは動力学的に充足されていない膜形成化学反応をアクティブにすることができる。PECVD膜の化学および物理的な特性は、それにより、プロセスパラメータを調整することによって、相対的に広い範囲を通して変化されることができる。」

エ 当審拒絶理由通知で周知例として引用され、本願の優先権主張日前に国内において頒布された特開2006-286220号公報(以下「周知例4」という。)には、「有機エレクトロルミネッセンス素子」(発明の名称)に関して【0010】に、以下の事項が記載されている。
「無機封止膜は、水に対する溶解性の低い無機材料を用いて形成されるものであり、例えば、窒化シリコンなどの金属窒化物;SiO_(2)、Al_(2)O_(3)などの金属酸化物・・(略)・・等の無機材料を挙げることができる。これらの中で金属窒化物が好ましく、窒化シリコンがより好ましい。
この無機封止膜の厚さについては特に制限はないが、封止性、剥離しにくさ、クラックの入りにくさなどの観点から、通常0.1?1×104nm程度、好ましくは10?3000nm、より好ましくは50?1000nmである。
無機封止膜の形成方法に特に制限はなく、有機EL素子表面又は樹脂封止膜表面に、上記無機材料を、例えばプラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの気相成長法によって積層することができる。・・(略)・・」

オ 当審拒絶理由通知で周知例として引用され、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2006/135474号(以下「周知例5」という。)には、「気密封止パッケージ及びその製造方法」(発明の名称)に関して、7頁3行?8頁19行(【0028】?【0030】)に、日本語に訳すと概略、以下の事項が記載されている。
「(【0028】)幾つかの実施形態では、第1の基板12を通しての水分及び酸素の拡散を防止するため、第1の基板12と有機電子デバイス14との間にバリヤーコーティング16を配設できる。幾つかの実施形態では、バリヤーコーティング16は、第1の基板12を完全に覆うようにして第1の基板12の表面上に配設又はその他の方法で形成できる。当業者には容易に理解される通り、バリヤーコーティング16は、反応性化学種に関する任意適宜の反応生成物又は再結合生成物を含み得る。幾つかの実施形態では、バリヤーコーティング16は約10?約10000nmの範囲内、好ましくは約10?約1000nmの範囲内の厚さを有し得る。容易に理解される通り、バリヤーコーティング16が引き起こす光透過率の低下が約20%未満、好ましくは約5%未満となるように、第1の基板12を通しての光の透過を妨げないバリヤーコーティング16の厚さを選択することが望ましい。また、第1の基板12の可撓性を顕著に低下させないと共に、曲げによって顕著に劣化しない性質を有するバリヤーコーティング材料及び厚さを選択することも望ましい。
(【0029】)幾つかの実施形態では、バリヤーコーティング16は、物理蒸着、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、高周波プラズマ強化化学蒸着(RFPECVD)、膨張熱プラズマ化学蒸着(ETPCVD)、反応スパッタリング、電子サイクロトロン共鳴プラズマ強化化学蒸着(ECRPECVD)、誘導結合プラズマ強化化学蒸着(ICPECVD)、スパッター蒸着、真空蒸着、原子層蒸着(ALD)又はこれらの組合せのような任意適宜の堆積技術で配設できる。
(【0030】)幾つかの実施形態では、バリヤーコーティング14は、特に限定されないが、有機材料、無機材料、セラミック、金属又はこれらの組合せのような材料を含み得る。通例、これらの材料は反応性プラズマ化学種の反応生成物又は再結合生成物であり、第1の基板12の表面上に堆積される。幾つかの実施形態では、有機材料は、反応体の種類に応じて炭素、水素、酸素及び任意には他の少量元素(例えば、硫黄、窒素、ケイ素など)からなり得る。コーティング中に有機組成物を生じる好適な反応体は、15までの炭素原子を有する直鎖又は枝分れアルカン、アルケン、アルキン、アルコール、アルデヒド、エーテル、アルキレンオキシド、芳香族化合物などである。無機及びセラミックコーティング材料は、通例、IIA、IIIA、IVA、VA、VIA、VIIA、IB及びIIB族元素の酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物又はこれらの組合せ、IIIB、IVB及びVB族金属、並びに希土類金属からなる。例えば、シラン(SiH4)及び有機物質(例えば、メタン又はキシレン)から生じたプラズマの再結合で炭化ケイ素を基板上に堆積できる。シラン、メタン及び酸素から、或いはシラン及びプロピレンオキシドから生じたプラズマからオキシ炭化ケイ素を堆積できる。オキシ炭化ケイ素はまた、テトラエトキシシラン(TEOS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)又はオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)のような有機ケイ素前駆体から生じたプラズマからも堆積できる。シラン及びアンモニアから生じたプラズマから窒化ケイ素を堆積できる。酒石酸アルミニウムとアンモニアとの混合物から生じたプラズマからオキシ炭窒化アルミニウムを堆積できる。所望のコーティング組成物を得るため、金属酸化物、金属窒化物、金属オキシ窒化物、酸化ケイ素、窒化ケイ素及びオキシ窒化ケイ素のような他の反応体の組合せも選択できる。」

カ 当審拒絶理由通知で周知例として引用され、本願の優先権主張日前に国内において頒布された特開2007-90803号公報(以下「周知例6」という。)には、「ガスバリアフィルム、並びに、これを用いた画像表示素子および有機エレクトロルミネッセンス素子」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。
「【0002】
従来から、プラスチック基板やフィルムの表面に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物の薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装用途や、食品や工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また、包装用途以外にも液晶表示素子、太陽電池、EL基板等で使用されている。特に液晶表示素子、有機EL素子などへの応用が進んでいる透明基材には、近年、軽量化、大型化という要求に加え、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わり、重くて割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって透明プラスチック等のフィルム基材が採用され始めている。プラスチックフィルムは前記要求に応えるだけでなく、ロール トゥ ロール方式が可能であることからガラスよりも生産性が良くコストダウンの点でも有利である。」
「【0027】
(無機物からなるバリア層)
本発明のガスバリアフィルムを構成するバリア層は、無機物を含有しバリア性能を改善する層である。無機バリア層に含まれる無機物の成分は特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、Ta等の1種以上を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。」

4 当審の判断
(1)対比・判断
ア 本願発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体」、「構造体の最上表面全体を覆うことで、該構造体の外表面に有機発光材料を被覆する保護層」、「有機EL素子」、及び、「有機発光層4」とは、本願発明の「構成素子」、「構成素子をカプセリングするバリア層」、「電子構成素子」、及び、「機能層」に相当する。
(イ)引用発明の「ALE法」は、「TMAガスを反応室12に送り込み、ガラス基板1にTMAが一層だけ吸着し、その後、反応室12内に残留するTMAガスを除去し、」、「次に、H_(2)Oガスを反応室12へ送り込み、ガラス基板1に吸着したTMAと反応させてAl_(2)O_(3)を形成し、その後、反応室12内に残留するH_(2)Oを除去」する「成膜サイクル(TMA導入→パージ→H_(2)O導入→パージ)」からなるものであるから、本願発明の「原子堆積法(ALD)」に相当する。
(ウ)引用発明の「基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体(陽極2、ホール輸送層3,有機発光層4及び陰極5の積層体)を備え、該構造体の最上表面全体を覆うことで、該構造体の外表面に有機発光層4を形成する有機発光材料を被覆する保護層」を形成する保護層の内「1層目のALE層6a」は、「Al_(2)O_(3)」からなる層であるから、本願発明の「原子堆積法(ALD)を用いて前記の機能層に」「被着する」「少なくとも1つの第1バリア層」に相当し、「金属を含有する酸化物」である点で一致する。
(エ)引用発明の「基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した構造体(陽極2、ホール輸送層3,有機発光層4及び陰極5の積層体)を備え、該構造体の最上表面全体を覆うことで、該構造体の外表面に有機発光層4を形成する有機発光材料を被覆する保護層」を形成する保護層の内「ALE層6a」上に形成された「非ALE層6b」は、「CVD法」により形成された層であるから、本願発明の「化学気相成長(CVD)を用いて前記の機能層に」「被着する」「少なくとも1つの第2バリア層」である点で一致する。

そうすると、両者は、
「構成素子をカプセリングするバリア層を有する電子構成素子を作製する方法において、
該方法は、
- 少なくとも1つの機能層を有する基板を準備するステップと、
- 原子堆積法(ALD)を用いて前記の機能層に少なくとも1つの第1バリア層を被着するステップとを有しており、ただし当該第1バリア層は、
金属を含有する酸化物、
を有しており、
前記方法はさらに
- 化学気相成長(CVD)を用いて前記の機能層に少なくとも1つの第2バリア層を被着するステップ、
とを有する構成素子をカプセリングするバリア層を有する電子構成素子を作製する方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
原子堆積法(ALD)及び化学気相成長(CVD)に関して、本願発明は、何れもプラズマ支援である、「プラズマ支援原子堆積法(PEALD)」及び「プラズマ支援化学気相成長(PECVD)」であるのに対して、引用発明では、何れもプラズマ支援を行っていない点。

相違点2:
本願発明は、「プラズマ支援原子堆積法(PEALD)」で被着する「第1バリア層は、スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブまたはハフニウムを含有する酸化物、スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブまたはハフニウムを含有する窒化物ないしはスズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブまたはハフニウムを含有する酸窒化物を有し」ているのに対して、引用発明は、「Al_(2)O_(3)」である点。

相違点3:
本願発明1は、「第1バリア層(3)および第2バリア層(4)に合成物質を有する保護層(5)を被着するステップとを有する、ただし、前記保護層(5)を10μm以上の厚さで被着する」のに対して、引用発明では、その様な層を形成していない点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1及び2について
a 引用例に記載された実施の形態のうち第1実施形態についての説明として、【0039】には、「[保護層の組成]保護層6は、ALE法によって成膜可能であることが必要なことは勿論であるが、上述のように有機発光材料3、4のTg点以下で成膜でき、かつ、物理的・化学的に安定であって、保護層6としての要求特性を満足できれば、その組成は問わない。例えば、金属や珪素の酸化物、窒化物、酸窒化物が好ましい。」と記載されている。
上記記載から、保護層6は、有機発光材料3、4のTg点以下となる低温で成膜できる、金属の酸化物、窒化物、酸窒化物が好ましいことが理解でき、当該事項は、保護膜が有機発光材料の上に形成するとの被着場所及び保護層としての機能自体から要求される事項であるから、第1実施形態に限らず他の実施形態においても同様に適用すべき事項であることは当業者に明らかである。
また、より早く作業が進む(高速)様に工程、条件等を工夫することは、生産効率の観点から一般的に要求され、通常行われている事項である。
b 一方、ALD法及びCVD法において、熱ALD或いは熱CVDに比べ、より低温或いはより高速で成膜する方法として、プラズマを用いること即ち、プラズマ支援を行うこと(プラズマ支援ALD(PEALD)或いはプラズマ支援CVD(PECVD))は、何れも周知の技術事項である。
例えば、周知例1の[0068](【0049】)には、ALD処理プロセスでは、成膜速度が遅いため、PEALD処理プロセスを実行すること、また、[0003](【0003】)には、プラズマ励起をすることにより通常必要な温度よりも低い温度で成膜しても熱CVDと同様の膜が形成できることが記載されており、PEALD処理プロセスによって成膜できる材料として、[0098](【0065】)に窒化タンタル、[0103](【0070】)にZrO_(2)、[0104](【0071】)にHfO_(2)等の酸化物が例示されている。
また、周知例2の4頁27?最終行(【0023】)には、基板が高温に耐えられない場合には、従来技術のALD法を使用できないことが、8頁23?28行(【0043】)には、HfO_(2)、Ta_(2)O_(5)の材料が、21頁17?23行(【0089】)には、有機LEDに適用することが、記載されており、周知例3の【0004】には、「プラズマ励起は、一般的に、熱励起CVDプロセスによって同様の膜を生成することを必要とするそれらより非常に低い温度で進行する膜形成反応を一般に許容する。」ことが記載されている。
さらに、周知例4(【0010】),周知例5(【0029】)には、有機LED・有機電子デバイス等のの無機封止膜・バリアコーティングの形成手段として、プラズマCVD法・PECVDを用いる事が記載されており、周知例5(【0030】),周知例6(【0027】)には、Sn,Zn,Ti,Ta当各種金属元素の酸化物、窒化物、酸窒化物をバリアコーティング/ガスバリア層の材料として用いることも記載されている。
c したがって、成膜方法及び成膜材料に関して引用例に記載されている低温化及び一般的な要求課題である高速化との観点から、ALD法及びCVD法として、周知のPEALD法及びPECVD法を採用し、膜材料として周知のTa、Zr、Hf等の金属材料の酸化物、窒化物或いは酸窒化物を採用することは当業者ならば容易に想到し得た事項にすぎず、当該構成を採用することにより格別有意な効果を奏するとも認められない。
なお、本願の請求項1に記載された各金属については、本願明細書の【0028】に単に例示されているにすぎず、具体的な実施例等の比較実験データは何ら記載されておらず、当該材料を選択したことによる格別な効果は見出せない。

(イ)相違点2について
a 引用例の【0037】には、「基板加工時のスクラッチ(ひっかき傷)や、製品レベルでの組み付け時における物理的ダメージから保護するには、ALE法で保護層6を成膜した後、この物理的ダメージから保護層6を保護する樹脂膜(物理的ダメージ保護層)を、保護層6の上部に設ければ良い。」と記載され、また、【0007】には、「保護層(6)の上に、該保護層を保護する樹脂膜(7)を形成したことを特徴としており、該樹脂膜により保護層が保護されるため、保護層を薄くしても水分に対する抵抗性を確保できる。そして、保護層を薄くできるということは、ALE法による保護層の成膜時間を短縮でき、スループットを向上させることができる。」と記載されている。
ここで、引用例に記載された上記「樹脂膜(物理的ダメージ保護層)」は、本願発明の「合成物質を有する保護層」に相当する。
b ところで、引用例の上記【0037】は、引用例における第1実施形態の説明として記載されており、請求項2に、「前記保護層(6)の上に該保護層を保護する樹脂膜(7)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。」と記載されている。また、第4実施形態から認定した引用発明に関しては、請求項10に、「前記保護層(6)は、前記原子層成長法により形成された層(6a)と、前記原子層成長法とは異なる方法により形成された層(6b)との組合せから構成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の有機EL素子。」、請求項13に、「前記原子層成長法とは異なる方法は、CVD法であることを特徴とする請求項10ないし12のいずれか1つに記載の有機EL素子。」と記載されており、他の請求項も含め、保護層の上に樹脂膜を形成することと、原子相成長法及びCVD法を用いる多層膜を形成することとの両者を同時に行うことが特定された請求項はなく、両者を同時に行う実施例も記載されていない。
c しかしながら、樹脂層の形成に関しては、下層の原子相成長法による保護層を薄くしても、その上部に樹脂層を形成することで、保護層を物理的にダメージから保護するものであることは、【0037】、【0007】にも説明されているとおりであり、有機EL素子は、薄膜化を要求されていることは周知の課題である。
そして、引用発明においても、原子層成長法とCVD法とによる多層膜の形成方法であるとはいえ、当該多層膜においても薄膜化を要求されることは明らかであり、基板加工時のスクラッチや製品レベルでの組み付け時に物理的ダメージを被りやすくなることは当然予想される事項にすぎない。
したがって、引用例に記載されている保護層の上に樹脂膜を形成する方法を、引用発明の原子層成長法とCVD法とによって形成される多層膜からなる保護層の形成方法に適用することは当業者ならば容易に想到し得た事項であり、樹脂膜の厚さについては、基板加工等の製造条件、製品レベルでの使用条件等に応じて、適宜設定すべき事項にすぎず、本願発明において、「10μm以上の厚さ」とすることによる格別有意な臨界的効果も見いだせない。

なお、引用例には、保護層の上に樹脂膜を用いる方法と、原子層成長法とCVD法を用いる多層膜からなる保護層を形成する技術とを、同時に行ってはならないとの積極的な記載もない。

(ウ)相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果について
相違点1及び相違点2に係る本願発明の各発明特定事項により奏される相乗的な効果について、格別顕著な点は見いだせない。

(エ)請求人は、平成28年 5月30日に提出した意見書において、下記の主張をしているが、当該事項についての判断は、上記(ア)、(イ)で検討したとおりである。
「3.補正後の本願請求項1記載の発明に関する進歩性について
・・(略)・・引用例1に開示されているのは、ALE層上の非ALE層

または樹脂膜のいずれかであります。当業者は、これらの別々の実施例を組み合わせることについてのきっかけをこの引用例1に見出すことはありません。
更に、・・(略)・・引用された従来技術には、このような厚さの保護層についても指摘がありません。例えば引用例1には2μmの厚さだけしか記載されていません。
上記の拒絶理由通知書において引用された従来技術には、本願新請求項1に示した材料を有しかつALDを用いて被着した第1のバリア層と、PECVDを用いて被着した第2のバリア層と、合成物質を含有する保護層とからなる3つの層の組み合わせも、10μm以上の厚さを有する保護層も記載されていないため、本願新請求項1は、引用例1?3に対し進歩性を有しています。」

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知例に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-30 
結審通知日 2016-07-04 
審決日 2016-07-15 
出願番号 特願2010-544581(P2010-544581)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 藤原 敬士
清水 康司
発明の名称 電子構成素子を作製する方法および電子構成素子  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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