• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1322159
審判番号 不服2014-14519  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-25 
確定日 2016-12-01 
事件の表示 特願2007-555110「高温熱安定性を有するビスマレイミド樹脂」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開、WO2006/088612、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-530300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年1月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年2月16日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年9月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年3月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月21日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年6月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月19日付けで補正の却下の決定及び拒絶査定(発送日:同年同月26日)がされ、これに対して、同年7月25日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされ、同年9月11日付けで前置報告がされ、平成27年11月30日付けの拒絶理由通知に対して、請求人からは何らの応答もないものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成26年7月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
全BMI 70-85重量%、ただし全BMIの2-20重量%はトリメチルヘキサンジアミン(TMH-BMI)、ヘキサンジアミン(ヘキサメチレンジアミンビスマレイミドすなわちHMDA-BMI)、オクタンジアミン、デカンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン及びイソホロンジアミンに由来する脂肪族BMIであり、全BMIの20-80重量%はMDA-BMI及びTDA-BMIから選ばれる芳香族BMIである、並びに
オレフィン性共反応物15-30重量%、ただし樹脂が177-316℃(350-600°F)における老化に対して改良された安定性を示し、且つ樹脂のTgが260-400℃(500-750°F)である、
を含んでなる熱硬化性樹脂組成物。」

第3 刊行物に記載された事項及び発明
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開平2-64113号公報(以下、「刊行物」という。)には、「ビスマレイミド樹脂のスラリー混合」に関し、次の事項が記載されている。

1 特許請求の範囲
「1.約1重量%から約90重量%の少なくとも1種類の固形状ビスマレイミドと1種類以上のコモノマーとを含む熱硬化性樹脂系の製造法であって、平均粒度が約30μm未満の粒子状の前記固形状ビスマレイミドを液体コモノマー中へ、前記固形状ビスマレイミドの実質的な部分が前記液体コモノマーに溶解しないような温度でスラリー混合することを特徴とする熱硬化性樹脂系の製造方法。
・・・
4.液体コモノマーがビスマレイミド樹脂、エポキシ樹脂、アルケニルナジシミド樹脂、シアネート官能性樹脂およびアルケニルフェノールおよびアルケニルオキシフェニル末端を有する樹脂から成る群から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
・・・
6.コモノマーがジアルケニルビスフェノールから成る群から選択される、請求項4に記載の方法。
7.ジアルケニルビスフェノールがo,o′-ジアリルビスフェノールAである、請求項6に記載の方法。」

2 第4頁右上欄第10行?同頁左下欄第17行
「本発明の熱硬化性樹脂系は、1種類以上の固形状ビスマレイミドモノマー1.0から約90重量%を含む。かかるモノマーは当業者には周知であり、一般的には無水マレイン酸または無水メチルマレイン酸のような置換無水マレイン酸と適当なジアミンとの反応によって調製される。ビスマレイミド酸の調製には、芳香族および脂肪族ジアミンの両方とも好適である。
適当なジアミンには、例えば各種のトルエンジアミンおよびメチレンジアニリンのような芳香族ジアミンがある。他の有用な芳香族ジアミンとしては、l,3-および1,4-フェニレンジアミン、および2,2’-、2,4’-、3,3’-および4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルイソプロピリデン、ジアミノジフェニルケトン、ジアミノジフェニルオキシドおよびジアミノジフェニルスルフィドが挙げられる。
適当な脂肪族ジアミンとしては、線状および分岐状C_(2)?C_(20)アルキレンジアミン、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,5-ペンタジアミン、l,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-および1,4-シクロヘキサンジアミン、キシレンジアミン、およびジシクロペンタジェンから誘導されるトリシクロデカン構造を有するジアミンが挙げられる。」

3 第4頁右下欄第14行?第5頁左上欄第9行
「2種類以上の異なるビスマレイミドモノマーの混合物であるいわゆる共融ビスマレイミドも有用である。これらの混合物を用いることによって、ビスマレイミド成分の融点は個別のビスマレイミドモノマーの融点に較べてかなり低下することがある。三成分または更に多成分の混合物、例えば、トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、および1,8-オクタンジアミン、1,12-ドデカンジアミンまたは2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンのような1種類以上の脂肪族ジアミンのビスマレイミドを含む混合物を用いるのが好ましい。かかる共融混合物は、市販品を容易に利用できる。
本発明の樹脂系は1種類以上のコモノマーも含んでいる。これらのコモノマーはビスマレイミドモノマーと反応するかまたはそれら自身ともしくは他の成分と反応するコモノマーであってもよい。」

4 第5頁右上欄第2?19行
「このようなコモノマーに加えて、本発明の樹脂系はエンジニアリングサーモプラスチック強化剤、詳細にはポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンスルホン、ポリエーテルスルホン等を含んでいてもよい。これらのサーモプラスチック強化剤は、ガラス転移温度Tgが約150℃を超過するものであるべきである。
好ましいコモノマーはアルケニルフェノールおよびアルケニルオキシフェニルである。好適なものには、o,o′-ジアリル-およびo,o′-ジプロペニルビスフェノール、例えばo,o′-ジアリル-およびo,o′-ジプロペニルビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールSがある。アルケニルフェノール-およびアルケニルオキシフェニル末端ジシクロペンタジェンも好適である。」

5 第7頁左下欄第6行?同頁右下欄第10行
「『液体コモノマー』という用語は、スラリー混合中に連続相を構成する全樹脂系の成分を意味する。これらの成分は液体、好ましくは室温で粘稠な液体である。かかる液体コモノマーの例は、ビスマレイミドの共融混合物のあるもの、ジアリルビスフェノールAのようなある種の強化剤および各種のエポキシおよびシアネート樹脂である。この液体コモノマーは室温で固形物であってもよい。このような場合には、スラリー混合工程温度はこれらの固形コモノマーが融解して液状連続相を形成するようにするために高くしなければならない。この温度は、通常の液体のコモノマーの場合であっても、これらの成分の粘度が極めて高いときには、幾分高くすることが望ましいこともある。
固形状のビスマレイミドの実質的な部分が固体状のままであることが重要である。『実質的な部分』という用語は、微細な粒度のビスマレイミドを液状共成分に加えることによって行うスラリー混合の際に溶解する固形状ビスマレイミドの量によって最も良好に定義される。この部分は、スラリー混合法の後に熱硬化性樹脂系から調整される樹脂フィルムまたはプレプレグが所望な粘着性とドレープ性を有し且つ(複数の)固形状ビスマレイミド成分の実質的な結晶化が起こらないようなものでなければならない。」

6 第11頁左上欄第1?17行
「実施例6
メチレンジアニリン、トリメチルへキサメチレンジアミンおよびトルエンジアミンのビスマレイミドをそれぞれ約64重量%、15重重%および21重量%含む共融混合物を融解し、次いで、250°F21℃)に冷却する。このビスマレイミド混合物1000gにo,o′-ジアリルビスフェノールA800gを撹拌しながら加える。この混合物160°F(71℃)に冷却し、この温度でジェットミル粉砕した実施例5のビスマレイミド400gを加え、高剪断羽根を有するファウセット(Fawcett)エア・ミキサー103A型を用いて十分に分散する。ミキサースピードは700rpmである。この樹脂系を、次に160°F(71℃)で触媒で処理し、この温度でシリコーンをコーティングした剥離紙にコーティングして、良好なドレープ性を有する粘稠な樹脂系を製造する。」

これら記載事項を総合すると、刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

引用発明
「1?90重量%の少なくとも1種類の固形状ビスマレイミドと1種類以上のコモノマーとを含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記固形状ビスマレイミドが置換無水マレイン酸並びに芳香族ジアミン及び脂肪族ジアミンとの反応によって調製されたものであり、前記コモノマーがo,o′-ジアリルビスフェノールAである熱硬化性樹脂組成物。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、次の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点]
相違点1
全BMI(固形状ビスマレイミド)を構成する成分である脂肪族BMIについて、本願発明は「トリメチルヘキサンジアミン(TMH-BMI)、ヘキサンジアミン(ヘキサメチレンジアミンビスマレイミドすなわちHMDA-BMI)、オクタンジアミン、デカンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン及びイソホロンジアミンに由来する」ものと特定し、さらにその構成割合を「全BMIの2-20重量%」と特定するのに対し、引用発明はそのような特定事項を有しない点。

相違点2
全BMI(固形状ビスマレイミド)を構成する成分である芳香族BMIについて、本願発明は「MDA-BMI及びTDA-BMIから選ばれる」と特定し、さらにその構成割合を「全BMIの20-80重量%」と特定するのに対し、引用発明はそのような特定事項を有しない点。

相違点3
熱硬化性樹脂組成物を構成する必須成分である全BMI及びオレフィン性共反応物(o,o′-ジアリルビスフェノールAとしてのコモノマー)の各構成割合について、本願発明はそれぞれ「全BMI 70-85重量%」、「オレフィン性共反応物15-30重量%」と特定するのに対し、引用発明は固形状ビスマレイミドが「1?90重量%」であるとするものの、コモノマーの構成割合については何ら特定しない点。

相違点4
熱硬化性樹脂組成物の性状について、本願発明は「177-316℃(350-600°F)における老化に対して改良された安定性を示し、且つ樹脂のTgが260-400℃(500-750°F)」であると特定するのに対し、引用発明はそのような特定事項を有しない点。

第5 判断
上記相違点について検討する。
1 相違点1について
引用発明における脂肪族BMIの前駆体に係る脂肪族ジアミンについて、刊行物には本願発明に相当するものの例示がある(上記第3の2)。さすれば、引用発明の「脂肪族ジアミン」を具体的に設定するにあたり、相違点1に係る構成を採用する程度のことは当業者であれば想到容易である。
また、本願の明細書をみても、本願発明が全BMIに対する脂肪族BMIの構成割合を「全BMIの2-20重量%」と特定してなることについて格別の技術的意義を見いだすことができないところ、引用発明における固形状ビスマレイミドについて、置換無水マレイン酸と脂肪族ジアミンとの反応によって調製されたものの構成割合を「全BMIの2-20重量%」とする程度のことは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

2 相違点2について
引用発明における芳香族BMIの前駆体に係る芳香族ジアミンについて、刊行物は「トルエンジアミンおよびメチレンジアニリン」を例示する(上記第3の2)。そして、引用発明の「芳香族ジアミン」として上記例示のものを採用したとき、引用発明における置換無水マレイン酸と芳香族ジアミンとの反応によって調製されたものは本願発明と同じ「MDA-BMI及びTDA-BMIから選ばれる」ものとなる。さすれば、相違点2に係る上記構成は、当業者であれば想到容易である。
また、その構成割合を「全BMIの20-80重量%」とする程度のことも、上記(ア)で述べたことと同様の理由により、単なる設計事項にすぎない。

3 相違点3について
本願の明細書をみても、本願発明が全BMIの熱硬化性樹脂組成物に対する含有割合を「全BMI 70-85重量%」と特定してなることについて、格別の技術的意義を見いだすことができない。そして、引用発明は、熱硬化性樹脂組成物を構成する成分である固形状ビスマレイミド(全BMI)の含有割合を「1?90重量%」と特定するところ、この範囲から特に「70-85重量%」を設定することは当業者であれば格別困難なく想到しうるといえる。
また、熱硬化性樹脂組成物を構成する成分であるコモノマー(オレフィン性共反応物)の含有割合を「15-30重量%」と設定することについても、上述したことと同様に、当業者であれば想到容易である。

4 相違点4について
本願の明細書を総合すると、本願発明は、脂肪族BMI及び芳香族BMIとして請求項1に記載される特定のものを特定量含有することで、相違点4に係る構成・性状(177-316℃(350-600°F)における老化に対して改良された安定性を示し、且つ樹脂のTgが260-400℃(500-750°F))を呈すると理解される。
そして、上記1?3で述べたように、本願発明と同じBMIを同じ量含むものは、当業者が引用発明に基いて容易に想到し得るから、そのようなものも本願発明と同じ上記性状を呈するといえる。相違点1ないし3を踏まえると相違点4は、実質的な相違点でない。

5 そして、本願発明による老化後の熱安定性の向上という効果も、引用発明から当業者が予測し得た程度のものである。

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-05 
結審通知日 2016-07-06 
審決日 2016-07-20 
出願番号 特願2007-555110(P2007-555110)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
小柳 健悟
発明の名称 高温熱安定性を有するビスマレイミド樹脂  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ