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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1322229
審判番号 不服2015-16206  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-02 
確定日 2016-12-20 
事件の表示 特願2013-507342「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日国際公開、WO2012/132842、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯

本件出願は、2012年3月9日(国内優先権主張 平成23年3月31日)を国際出願日とする出願であって、手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成26年 7月 4日付け:拒絶理由通知(同年同月8日発送)
平成26年 9月 8日提出:意見書
平成26年 9月 8日提出:手続補正書
平成26年10月27日付け:拒絶理由通知(同年11月4日発送)
平成26年12月15日提出:意見書
平成26年12月15日提出:手続補正書
平成27年 5月27日付け:拒絶査定(同年6月2日送達)
平成27年 9月 2日提出:審判請求書
平成27年 9月 2日提出:手続補正書
平成28年 6月28日付け:拒絶理由通知(同年7月5日発送)
平成28年 9月 5日提出:意見書
平成28年 9月 5日提出:手続補正書

2 本件発明

本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年9月5日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本件出願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子供与性物質と電子輸送性有機材料とを含む混合層と、前記混合層の表面に電子輸送性有機材料を成膜させてなる第1の層と、前記第1の層に接するホール注入層とが、陽極から陰極へこの順に形成されてなり、
前記第1の層の厚みが0.2?20nmの範囲であり、
前記ホール注入層が、電子受容性有機物質単体で形成され、
前記混合層は、前記電子供与性物質の含有量が混合層全体に対して5?50mol%であり、前記電子輸送性有機材料の含有量が混合層全体に対して95?50mol%であり、
前記混合層は、前記電子供与性物質である金属のLiと、前記電子輸送性有機材料との共蒸着により形成され、
前記陽極と前記混合層との間に更に電子輸送性有機材料からなる第2の層が設けられ、
前記混合層に含まれる電子輸送性有機材料と、前記第1の層を形成している電子輸送性有機材料と、前記第2の層を形成している電子輸送性有機材料とが、全て同一の材料(ただし、Alq_(3)を除く)であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電子受容性有機物質が、1、4、5、8、9、11-Hexaazatriphenylene-Hexacarbonitrileであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子注入層とホール注入層とが、陽極から陰極へこの順に形成され、
前記電子注入層は、電子供与性物質と電子輸送性有機材料とを含んでなり、
前記電子供与性物質及び前記電子輸送性有機材料の含有量をそれぞれC1及びC2としたとき、C1/C2の値は、前記電子注入層の陽極側端部及び陰極側端部よりも中央部の方が大きく、
前記電子注入層は、前記電子輸送性有機材料からなる第2の層と、前記電子供与性物質と前記電子輸送性有機材料とを含む混合層と、前記混合層の表面に前記電子輸送性有機材料を成膜させてなる第1の層とが、前記陽極から前記陰極へこの順に形成されてなり、
前記第2の層の前記電子輸送性有機材料と、前記混合層の前記電子輸送性有機材料と、前記第1の層の前記電子輸送性有機材料とは、全て同一の材料(ただし、Alq_(3)を除く)であり、
前記混合層は、前記電子供与性物質の含有量が混合層全体に対して5?50mol%であり、前記電子輸送性有機材料の含有量が混合層全体に対して95?50mol%であり、
前記混合層は、前記電子供与性物質である金属のLiと、前記電子輸送性有機材料との共蒸着により形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

3 当審において通知した拒絶の理由

当審において通知した平成28年6月28日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりである。

拒絶の理由1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



ア 請求項1の記載「前記混合層に含まれる電子輸送性有機材料と、前記第1の層を形成している電子輸送性有機材料と、前記第2の層を形成している電子輸送性有機材料とが、Alq_(3)以外の材料で全て同一である」、請求項3の記載「前記第2の層の前記電子輸送性有機材料と、前記混合層の前記電子輸送性有機材料と、前記第1の層の前記電子輸送性有機材料とは、Alq_(3)以外の材料で全て同一であり」によって特定される混合層、第2の層、第1の層の3層の材料が明確でない。

拒絶の理由2) この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



特開2010-56077号公報
特開2008-78414号公報
特開2006-155940号公報
特開2003-264085号公報

4 当審の拒絶の理由1)についての判断
平成28年9月5日提出の手続補正書により請求項1,請求項3が補正された結果、請求項1,請求項3に係る発明において、混合層、第2の層及び第1の層の電子輸送性有機材料が「全て同じ材料(ただし、Alq_(3)を除く)」であることが明確となった。
してみると、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものと認められるから、当審の拒絶の理由1)は解消した。

5 当審の拒絶の理由2)についての判断

(1)特開2010-56077号公報に記載された事項
当審拒絶理由で引用された特開2010-56077号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願の出願前に頒布された刊行物であって、当該引用文献1には次の記載がある。(下線は、後述する引用発明の認定に特に関連する箇所を示す。)

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光源や液晶表示器用バックライト、フラットパネルディスプレイ等に用いることのできる有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子と称される有機発光素子としては、陽極となる透明電極、ホール輸送層、発光層(有機発光層)、電子注入層、陰極となる電極の順に、透明基板の片側の表面に積層した構成のものが、その一例として知られている。そして、陽極と陰極の間に電圧を印加することによって、電子注入層を介して発光層に注入された電子と、ホール輸送層を介して発光層に注入されたホールとが、発光層内で再結合して発光が起こり、発光層で発光した光は、透明電極及び透明基板を通して取り出される。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、自発光であること、比較的高効率の発光特性を示すこと、各種の色調で発光可能であること等の特徴を有するものであり、表示装置、例えばフラットパネルディスプレイ等の発光体として、あるいは光源、例えば液晶表示機用バックライトや照明としての活用が期待されており、一部では既に実用化されている。
【0004】
しかし、有機エレクトロルミネッセンス素子は、その輝度と寿命とがトレードオフの関係にあり、より鮮明な画像、あるいは明るい照明光を得るために輝度を増大させると、寿命が短くなるという問題点を有する。
【0005】
この問題を解決するものとして、近年、陽極と陰極の間に発光層を複数備え、且つ各発光層間を電気的に接続した有機発光素子が提案されている(例えば特許文献1-5等参照)。
【0006】
図3はこのような有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を示すものであり、陽極1となる電極と陰極2となる電極の間に複数の発光層4a,4bを設けると共に、隣接する発光層4a,4bの間に中間層3を介在させた状態で積層し、これを透明な基板5の表面に積層したものである。陽極1は光透過性の電極として、陰極2は光反射性の電極として形成されている。尚、図3では、発光層の4a,4bの両側に設けられる電子注入層とホール輸送層とは、図示を省略している。
【0007】
このものでは、複数層の発光層4a,4bを中間層3で仕切って電気的に接続することによって、陽極1と陰極2の間に電圧を印加した場合に、複数の発光層4a,4bがあたかも直列的に接続された状態で同時に発光し、各発光層4a,4bからの光が合算されるため、一定電流通電時には従来型の有機エレクトロルミネッセンス素子よりも高輝度で発光させることができ、上記のような輝度-寿命のトレードオフを回避することが可能になるものである。
【0008】
ここで、上記の中間層3の構成として現在知られている一般的なものとしては、例えば、(1)BCP:Cs/V_(2)O_(5)、(2)BCP:Cs/NPD:V_(2)O_(5)、(3)Li錯体とAlのその場反応生成物、(4)Alq:Li/ITO/ホール輸送材料、(5)金属-有機混合層、(6)アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含む酸化物等がある。尚、「:」は2種の材料の混合を表し、「/」は前後の組成物の積層を表す。
【0009】
また、最近では、これら以外の構造を有する中間層3も提案されている(特許文献6、非特許文献1)。これらの文献には、(7)電子注入層-電子引き抜き層-ホール輸送性材料の積層、あるいは(8)電子注入層-電子輸送層-電子引き抜き層-ホール輸送層の積層からなる中間層3が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-329748号公報
【特許文献2】特開2003-272860号公報
【特許文献3】特開2005-135600号公報
【特許文献4】特開2006-332048号公報
【特許文献5】特開2006-173550号公報
【特許文献6】特開2006-49393号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 45, No. 12, 2006, pp. 9212」

イ 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の従来技術のように複数の発光層を仕切る中間層を設けると、駆動電圧の増大や、好ましくない電圧上昇の発生を招くおそれがあり、また膜質の悪さによるショートサーキット等の欠陥発生の問題も生じてしまう。
【0013】
例えば、上記(1)に示す系の中間層では、V_(2)O_(5)層の膜質によるショートの問題が発生するおそれがある。
【0014】
また上記(2)に示す系では、二つの層間で生じる副反応による電圧上昇の問題がある。すなわち、ルイス酸分子は電子輸送材料とも反応し、またアルカリ金属はルイス塩基としてホール輸送材料とも反応し、これらの反応によって駆動電圧の増大が起こることが報告されている(参考文献:高分子学会有機EL研究会 平成17年12月9日講演会 マルチフォトン有機EL照明)。
【0015】
また上記(3)に示す系では、その場反応生成物を得るために用いるLi錯体の有機配位子成分が、素子特性に悪影響を与えることがあることが問題となる。
【0016】
また上記(4)の系では、中間層としてのITOからのホール輸送材料へのホール注入が必ずしも良好でなく、駆動電圧や素子特性の観点で問題がある。さらにITOの比抵抗が小さいために、本来発光することを望まない場所にまでITO面内を電荷が伝わることがあり、意図した発光領域以外の部分からも発光が生じることが問題となる。
【0017】
また上記(5)の系では、金属酸化物等の金属化合物を含む金属と有機物を混合して中間層を形成するために、中間層の熱安定性が低下し、特に大電流を通電した際の発熱に対する中間層の安定性に劣るという問題がある。
【0018】
また、上記(6)の系では、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含有する金属酸化物の中間層としての機能が必ずしも充分ではなく、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含有する金属酸化物以外の物質からなる層を積層して用いることが実質的に必要であり、中間層の構造が複雑になるという問題がある。
【0019】
更に、上記(1)及び(4)の系では、特に大面積デバイスとなった際に、中間層を構成する膜内の応力によって、中間層周辺での欠陥が起こりうる可能性がある。
【0020】
尚、特許文献3には、1種のマトリクスに添加剤を膜内のどの位置でもその濃度が0にはならないように添加することによって中間層を形成する方法が記載されているが、この場合にも前記参考文献に記載されているような問題のすべてを解決することはできないものである。
【0021】
一方、上記(7)の系では、非特許文献1にも記載されているように駆動電圧が高いという問題があり、上記(8)の系では(7)の系で課題であった駆動電圧の低減が図られているものの、電子輸送層の両方に位置する電子注入層と電子引き抜き層の経時的な拡散および反応に基づく寿命に関する課題がある。
【0022】
以上のように、中間層を介して積層された複数の発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子には種々の課題があり、このような種々の課題を克服した中間層を実現することが望まれているのが現状である。
【0023】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、中間層の改良によって、長期耐久性および寿命特性を向上することができる有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極1と陰極2の間に、中間層3を介して積層された複数の発光層4を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、中間層3は、電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、導電体材料を含有する光透過性の層3bと、電荷輸送性有機材料からなる層3cと、ホール注入材料からなる層3dとを備えて形成されており、電荷輸送性材料の層3cの厚みが0.5?30nmの範囲であることを特徴とするものである。
【0025】
この発明によれば、中間層3内において、電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、ホール注入材料からなる層3dの間に、導電体材料を含有する光透過性の層3bと、厚みが0.5?30nmの電荷輸送性有機材料からなる層3cを有するため、電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、ホール注入材料からなる層3dとの直接的な反応、および駆動にともなう両層3a,3dの界面の混合あるいは層間の材料の拡散などを抑制することができるものであり、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となるものである。
【0026】
また本発明は、上記の電荷輸送性有機材料からなる層3cが、電子輸送性材料からなる層であることを特徴とするものである。
【0027】
このように、電荷輸送性有機材料からなる層3cが電子輸送性材料であると、ホール注入材料からなる層3dから受け渡される電子を、低抵抗で効率良く、導電体材料を含有する光透過性の層3bに輸送することができ、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となるものである。
【0028】
また本発明は、上記の電荷輸送性有機材料からなる層3cが、ホール輸送性材料からなる層であることを特徴とするものである。
【0029】
このように、電荷輸送性有機材料からなる層3cがホール輸送性材料であると、導電体材料を含有する光透過性の層3bから受け渡されるホールを、低抵抗で効率良く、ホール注入材料からなる層3dに輸送することができ、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となるものである。
【0030】
また本発明は、上記の電荷輸送性有機材料からなる層3cが、ホール輸送性材料と電子輸送性材料の混合物、あるいはバイポーラ性材料からなる層であることを特徴とするものである。
【0031】
この発明によれば、電荷輸送性有機材料からなる層3cはホールと電子の両者を運ぶ層となり、ホール注入材料からなる層3dから受け渡される電子を低抵抗で効率良く導電体材料を含有する光透過性の層3bに輸送することができると共に、導電体材料を含有する光透過性の層3bから受け渡されるホールを低抵抗で効率良くホール注入材料からなる層3dに輸送することができるものであり、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となるものである。
【0032】
また本発明は、上記の導電体材料を含有する光透過性の層3bが、金属酸化物と金属窒化物の少なくとも一方からなる層、金属と金属酸化物の積層層または混合層、金属からなる層のいずれかであることを特徴とするものである。
【0033】
この発明によれば、導電体材料を含有する光透過性の層3bを高い耐熱性を有する安定な層として形成することができ、電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、ホール注入材料からなる層3dとの直接的な反応、および駆動にともなう両層3a,3dの界面の混合あるいは層間の材料の拡散などを抑制する効果を高く得ることができるものであり、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることがより可能となるものである。


エ 「【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、中間層3内において、電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、ホール注入材料からなる層3dの間に、導電体材料を含有する光透過性の層3bと、厚みが0.5?30nmの電荷輸送性有機材料からなる層3cを有するため、電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、ホール注入材料からなる層3dとの直接的な反応、および駆動にともなう両層3a,3dの界面の混合あるいは層間の材料の拡散などを抑制することができるものであり、このような中間層3の改良によって、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となるものである。」

オ 「【0057】
電荷輸送性有機材料からなる層3cを電子輸送性材料で形成する場合、本層3cの陰極2側に隣接するホール注入材料からなる層3dから受け渡される電子を、本層3cの陽極1側に隣接する導電体材料を含有する光透過性の層3bに、低抵抗で効率良く輸送することができるものである。この電子輸送性材料としては、電子輸送性に優れ、電子に対して安定であり、また熱安定性に優れる材料であれば、特に限定せず用いることができるものであり、例えば、Alqなどのキノリン誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体などを挙げることができる。」

カ 「【実施例】
【0080】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0081】
(実施例1)
陽極1として、厚み150nm、幅5mm、シート抵抗約10Ω/□のITO膜が図2のパターンのように成膜された、0.7mm厚のガラス製の基板5を用意した。そしてまず、この基板5を、洗剤、イオン交換水、アセトンで各10分間超音波洗浄した後、IPA(イソプロピルアルコール)で蒸気洗浄して乾燥し、さらにUV/O_(3)処理を施した。
【0082】
次に、この基板5を真空蒸着装置にセットし、1×10^(-4)Pa以下の減圧雰囲気下で、陽極1の上に、ホール注入層として、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)と酸化モリブデン(MoO_(3))の共蒸着体(モル比1:1)を30nmの膜厚で蒸着した。次にこの上にホール輸送層として、α-NPDを30nmの膜厚で蒸着した。
【0083】
次いで、このホール輸送層の上に、発光層4aとして、Alq_(3)にキナクリドンを3質量%共蒸着した層を30nmの膜厚で形成した。次にこの発光層4aの上に、電子輸送層としてBCPを単独で60nmの厚みに成膜した。
【0084】
この後、電子輸送層の上に、Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を厚み5nmで成膜することによって、電荷移動錯体からなる層3aを電子注入層として形成し、次にこの上に厚み3nmのAl層を成膜することによって、導電体材料を含有する光透過性の層3bを形成し、次にこの上にBCPを厚み5nmで成膜することによって、電荷輸送性有機材料からなる層3cを形成し、次にこの上に厚み5nmのHAT-CN6(化1)を成膜することによって、ホール注入材料からなる層3dを形成し、中間層3を作製した。
【0085】
【化1】

【0086】
続いて中間層3の上に、ホール輸送層として、α-NPDを40nmの膜厚で蒸着し、ホール輸送層の上に、発光層4bとして、Alq_(3)にキナクリドンを7質量%共蒸着した層を30nmの膜厚で形成した。
【0087】
次にこの発光層4bの上に、電子輸送層としてBCPを単独で40nmの膜厚に成膜し、続いて、LiFを0.5nmの膜厚で成膜した。
【0088】
この後、陰極2となるアルミニウムを0.4nm/sの蒸着速度で、図2のパターンのように5mm幅、100nm厚に蒸着した。
【0089】
このようにして発光層4が二層構成でその間に中間層3が設けられた、図1に示す構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。尚、ホール注入層、ホール輸送層及び電子輸送層は、図示を省略している。」

キ 「 【図1】




(2) 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、実施例1(段落【0081】?【0089】及び図1)として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「陽極1として、ITO膜が成膜されたガラス製の基板5を用意し、
陽極1の上に、ホール注入層として、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)と酸化モリブデン(MoO_(3))の共蒸着体(モル比1:1)を蒸着し、
次にこの上にホール輸送層として、α-NPDを蒸着し、
次いで、このホール輸送層の上に、発光層4aとして、Alq_(3)にキナクリドンを3質量%共蒸着した層を形成し、
次にこの発光層4aの上に、電子輸送層としてBCPを単独で成膜し、
この後、電子輸送層の上に、Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜することによって、電荷移動錯体からなる層3aを電子注入層として形成し、
次にこの上にAl層を成膜することによって、導電体材料を含有する光透過性の層3bを形成し、
次にこの上にBCPを厚み5nmで成膜することによって、電荷輸送性有機材料からなる層3cを形成し、
次にこの上にHAT-CN6を成膜することによって、ホール注入材料からなる層3dを形成し、中間層3を作製し、
続いて中間層3の上に、ホール輸送層として、α-NPDを蒸着し、
ホール輸送層の上に、発光層4bとして、Alq_(3)にキナクリドンを7質量%共蒸着した層を形成し 、
次にこの発光層4bの上に、電子輸送層としてBCPを単独で成膜し、
続いて、LiFを成膜し、
この後、陰極2となるアルミニウムを蒸着した、
発光層4が二層構成でその間に中間層3が設けられた構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。」


(3) 本件発明1と引用発明との対比・判断
ア 引用発明は、
「陽極1として、ITO膜が成膜されたガラス製の基板5を用意し、
陽極1の上に、ホール注入層として、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)と酸化モリブデン(MoO_(3))の共蒸着体(モル比1:1)を蒸着し、
次にこの上にホール輸送層として、α-NPDを蒸着し、
次いで、このホール輸送層の上に、発光層4aとして、Alq_(3)にキナクリドンを3質量%共蒸着した層を形成し、
次にこの発光層4aの上に、電子輸送層としてBCPを単独で成膜し」ていることから、引用発明は、「陽極1」と、「α-NPDと酸化モリブデン(MoO_(3))の共蒸着体(モル比1:1)」である「ホール注入層」と、「α-NPDを蒸着」した「ホール輸送層」と、「Alq_(3)にキナクリドンを3質量%共蒸着」した「発光層4a」と、「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」とが、この順に形成されていることが把握できる。

イ 引用発明は、次に、
「この後、電子輸送層の上に、Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜することによって、電荷移動錯体からなる層3aを電子注入層として形成し、
次にこの上にAl層を成膜することによって、導電体材料を含有する光透過性の層3bを形成し、
次にこの上にBCPを厚み5nmで成膜することによって、電荷輸送性有機材料からなる層3cを形成し、
次にこの上にHAT-CN6を成膜することによって、ホール注入材料からなる層3dを形成し、中間層3を作製し」ていることから、引用発明は、上記アの「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」の上に、「中間層3」として、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」と、「厚み3nmのAl層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」と、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」と、「HAT-CN6を成膜」した「ホール注入材料からなる層3d」とが、この順に形成されていることが把握できる。

ウ 引用発明は、次に、
「続いて中間層3の上に、ホール輸送層として、α-NPDを蒸着し、
ホール輸送層の上に、発光層4bとして、Alq_(3)にキナクリドンを7質量%共蒸着した層を形成し 、
次にこの発光層4bの上に、電子輸送層としてBCPを単独で成膜し、
続いて、LiFを成膜し、
この後、陰極2となるアルミニウムを蒸着し」ているのであるから、引用発明は、上記イの「中間層3」の上に、「α-NPDを蒸着」した「ホール輸送層」と、「Alq_(3)にキナクリドンを7質量%共蒸着」した「発光層4b」と、「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」と、成膜した「LiF」と、「アルミニウムを蒸着」した「陰極2」とが、この順に形成されていることが把握できる。

エ 「中間層3」について
(ア)上記イより、引用発明の「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」は、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」したものであるから「Alq_(3)」と「Li」との「混合」「膜」である。
引用発明の「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」における「Li」及び「Alq_(3)」は、技術的にみて、それぞれ、本件発明1における「電子供与性物質」及び「電子輸送性有機材料」に相当する。
そうすると、引用発明の、「Alq_(3)」と「Li」との「混合」「膜」である、「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」は、本件発明1の「電子供与性物質と電子輸送性有機材料とを含む混合層」に相当する。

(イ)引用発明の「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」は、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」したものであるから、「Li」と「Alq_(3)」とにより形成されている。
そうすると、上記(ア)より、引用発明は、本件発明1の「前記混合層は、前記電子供与性物質である金属のLiと、前記電子輸送性有機材料と」により「形成され」という事項を備えている。

(ウ)引用発明の「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」は、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」したものであるから、「混合膜」の「Alq_(3)」と「Li」との「モル比」が「1:1」である。
そうすると、上記(ア)より、引用発明は、本件発明1における「前記混合層は、前記電子供与性物質の含有量が混合層全体に対して5?50mol%であり、前記電子輸送性有機材料の含有量が混合層全体に対して95?50mol%であり」という事項を備えている。

(エ)上記イより、引用発明は、「Al層を成膜することによって、導電体材料を含有する光透過性の層3bを形成し、次にこの上にBCPを厚み5nmで成膜することによって、電荷輸送性有機材料からなる層3cを形成し」ているから、上記イより、「Al層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」の表面に、「BCPを厚み5nmで成膜」して、「電荷輸送性有機材料からなる層3c」を形成している。
また、引用発明の「電荷輸送性有機材料からなる層3c」における「BCP」は、「2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン」という構造式を有する「フェナントロリン誘導体」であることは技術常識である。
引用文献1の段落【0057】によれば、「フェナントロリン誘導体」は、「電荷輸送性有機材料からなる層3cを電子輸送性材料で形成する場合」の「本層3cの陰極2側に隣接するホール注入材料からなる層3dから受け渡される電子を、本層3cの陽極1側に隣接する導電体材料を含有する光透過性の層3bに、低抵抗で効率良く輸送することができる」「電子輸送性材料」の一つとして例示されているものであるから、引用発明の「電荷輸送性有機材料からなる層3c」における「BCP」は、本件発明1の「電子輸送性有機材料」に相当する。
そうすると、引用発明の「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」は、本件発明1の「電子輸送性有機材料を成膜させてなる第1の層」に相当し、引用発明は、「Al層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」の表面に「電子輸送性有機材料を成膜させてなる第1の層」を備えることとなる。
また、「電荷輸送性有機材料からなる層3c」は、「BCPを厚み5nmで成膜」したものであるから、引用発明は、本件発明1の「前記第1の層の厚みが0.2?20nmの範囲である」という事項を備えている。

(オ)上記イより、引用発明は、「BCPを厚み5nmで成膜することによって、電荷輸送性有機材料からなる層3cを形成し、次にこの上にHAT-CN6を成膜することによって、ホール注入材料からなる層3dを形成し」ているから、「HAT-CN6を成膜」した「ホール注入材料からなる層3d」は、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」に接している。
また、引用発明の「HAT-CN6を成膜」した「ホール注入材料からなる層3d」は、本件発明1の「ホール注入層」に相当する。
そうすると、引用発明は、上記(エ)より、本件発明1の「前記第1の層に接するホール注入層」を備えている。
また、本件出願の明細書の段落【0038】?【0044】【化3】,【0073】には、「1、4、5、8、9、11-Hexaazatriphenylene-Hexacarbonitrile(HAT-CN6)」に関し、「電子受容性有機物質(ルイス酸ともいう)」であることが記載されていることから、引用発明の「ホール注入材料からなる層3d」における「HAT-CN6」は、本件発明1の「電子受容性有機物質」に相当する。
引用発明においては、「ホール注入材料からなる層3d」は、「HAT-CN6を成膜」することにより形成されていることから、引用発明は、「前記ホール注入層が、電子受容性有機物質単体で形成され」という事項を備えている。

(カ)上記ア?ウから、引用発明においては、「陽極1」と「陰極2」との間に、「中間層3」として、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」と、「Al層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」と、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」と、「HAT-CN6を成膜」した「ホール注入材料からなる層3d」とが、この順に形成されていることが把握できる。
引用発明の「中間層3」、「陽極1」及び「陰極2」は、それぞれ本件発明1の「中間層」、「陽極」及び「陰極」に相当する。
そうすると、上記(ア),(エ)及び(オ)から、引用発明は、「前記中間層」は、「混合層」と、「Al層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」と、「第1の層」と、「ホール注入層」とが、「陽極から陰極へこの順に形成されてなり」という事項を備えている。

オ 上記ア及びイから、引用発明は、「陽極1」、「発光層4a」、「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」、「中間層3」として、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」を、この順に備えていることが把握でき、これから、「陽極1」と「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」との間に「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」を備えていることも把握できる。
引用発明の「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」における「BCP」は、本件発明1における「電子輸送性有機材料」に相当し、引用発明の「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」は、本件発明1の「電子輸送性有機材料からなる第2の層」に相当する。
そうすると、上記エ(ア)及び(カ)より、引用発明は、本件発明1の「前記陽極と前記混合層との間に更に電子輸送性有機材料からなる第2の層が設けられ」という事項を備えている。

カ 引用発明は、「発光層4が二層構成でその間に中間層3が設けられた構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子」であり、また、上記ア?ウより、「陽極1」と「陰極2」の間に、「発光層4a」、「中間層3」及び「発光層4b」をこの順に形成したものである。
以上より、引用発明は、「陽極1」、「発光層4a」、「中間層3」、「発光層4b」及び「陰極2」の順に形成されたものである。
引用発明の「発光層4a」及び「発光層4b」は、本件発明1の「発光層」に相当する。
そうすると、上記エ(カ)より、引用発明は、「陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた」という事項を備えている。

キ 上記ア?カより、引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件発明1の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

ク 上記ア?キから、本件発明1と引用発明とは、
「陽極と陰極の間に、中間層を介して積層された複数の発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記中間層は、電子供与性物質と電子輸送性有機材料とを含む混合層と、電子輸送性有機材料を成膜させてなる第1の層と、前記第1の層に接するホール注入層とが、陽極から陰極へこの順に形成されてなり、
前記ホール注入層が、電子受容性有機物質単体で形成され、
前記混合層は、前記電子供与性物質の含有量が混合層全体に対して5?50mol%であり、前記電子輸送性有機材料の含有量が混合層全体に対して95?50mol%であり、
前記混合層は、前記電子供与性物質である金属のLiと、前記電子輸送性有機材料とにより形成され、
前記陽極と前記混合層との間に更に電子輸送性有機材料からなる第2の層が設けられた、
有機エレクトロルミネッセンス素子。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本件発明1においては、「第1の層」が「前記混合層」の表面に成膜させてなるものであるのに対して、
引用発明においては、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」(本件発明1の「第1の層」に相当する)が、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」(本件発明1の「混合層」に相当)の表面ではなく、「Al層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」の表面に成膜させてなるものである点。

相違点2:
本件発明1においては、「前記混合層」は、「前記電子供与性物質である金属のLiと、前記電子輸送性有機材料との共蒸着により形成され」ているのに対して、
引用発明においては、「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」(本件発明1の「混合層」に相当)は、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」したものである点。

相違点3:
本件発明1においては、「前記混合層に含まれる電子輸送性有機材料と、前記第1の層を形成している電子輸送性有機材料と、前記第2の層を形成している電子輸送性有機材料とが、全て同一の材料(ただし、Alq_(3)を除く)である」のに対して、
引用発明においては、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」(本件発明1の「混合層」に相当)に含まれる電子輸送性材料がAlq_(3) 、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」(本件発明1の「第1の層」に相当)を形成している電子輸送性材料がBCP、「BCPを単独で成膜」した「電子輸送層」(本件発明1の「第2の層」に相当)を形成している電子輸送性材料がBCPである点。

サ 上記相違点1についてまず検討する。
引用文献1の【発明の詳細な説明】には、【背景技術】及び【発明が解決しようとする課題】として、輝度-寿命のトレードオフを回避することが可能である、「陽極と陰極の間に発光層を複数備え、且つ各発光層間を電気的に接続した有機エレクトロルミネッセンス素子」が提案されているところ、(1)BCP:Cs/V_(2)O_(5)、(2)BCP:Cs/NPD:V_(2)O_(5)、(3)Li錯体とAlのその場反応生成物、(4)Alq:Li/ITO/ホール輸送材料、(5)金属-有機混合層、(6)アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含む酸化物、(7)電子注入層-電子引き抜き層-ホール輸送性材料の積層、(8)電子注入層-電子輸送層-電子引き抜き層-ホール輸送層の積層などから構成される従来の中間層においては、上記(1)の系については、V_(2)O_(5)層の膜質によるショートの問題、上記(2)の系については、二つの層間で生じる副反応による電圧上昇の問題、上記(3)の系については、その場反応生成物を得るために用いるLi錯体の有機配位子成分が素子特性に悪影響を与えるという問題、上記(4)の系については、中間層としてのITOからのホール輸送材料へのホール注入が必ずしも良好でないことを原因とする駆動電圧や素子特性の観点上の問題、さらにITOの比抵抗が小さいために本来発光することを望まない場所にまでITO面内を電荷が伝わることを原因とする意図した発光領域以外の部分からも発光が生じるという問題、上記(5)の系については、金属酸化物等の金属化合物を含む金属と有機物を混合して中間層を形成するために中間層の熱安定性が低下し、特に大電流を通電した際の発熱に対する中間層の安定性に劣るという問題、上記(6)の系については、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含有する金属酸化物の中間層としての機能が必ずしも充分ではなく、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含有する金属酸化物以外の物質からなる層を積層して用いることが実質的に必要であり、中間層の構造が複雑になるという問題、さらに上記(1)及び(4)の系については、特に大面積デバイスとなった際に、中間層を構成する膜内の応力によって、中間層周辺での欠陥が起こりうる可能性があるという問題、上記(7)の系については、駆動電圧が高いという問題、上記(8)の系については、電子輸送層の両方に位置する電子注入層と電子引き抜き層の経時的な拡散および反応に基づく寿命に関する問題等が存在すること、引用文献1に記載の「本発明」は、これらの問題を鑑みてなされたものであり、中間層の改良によって、長期耐久性および寿命特性を向上することができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである(引用文献1の段落【0001】から【0023】)ことが記載され、【課題を解決するための手段】として、引用文献1に記載の「本発明」に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、「陽極1と陰極2の間に、中間層3を介して積層された複数の発光層4を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子」であって、「中間層3」を、「電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3a」と、「導電体材料を含有する光透過性の層3b」と、「電荷輸送性有機材料からなる層3c」と、「ホール注入材料からなる層3d」とを備えて形成され、「電荷輸送性材料の層3cの厚みが0.5?30nmの範囲である」ことを特徴とするものであること(引用文献1の段落【0024】)が記載されている。
そして、引用文献1には、引用文献1の「本発明」の作用・効果として、「本発明」によれば、「電荷移動錯体からなる層または3.7eV以下の仕事関数を有する金属もしくは金属化合物の層3aと、ホール注入材料からなる層3dとの直接的な反応、および駆動にともなう両層3a,3dの界面の混合あるいは層間の材料の拡散などを抑制することができるものであり、このような中間層3の改良によって、長期耐久性および寿命特性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることが可能となる」こと(引用文献1の段落【0033】)が記載されている。
してみると、引用発明である、発光層4が二層構成でその間に中間層3が設けられた構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子においては、「中間層3」として、「Alq_(3)とLiとのモル比1:1の混合膜を成膜」した「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」と、「厚み3nmのAl層を成膜」した「導電体材料を含有する光透過性の層3b」と、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」と、「HAT-CN6を成膜」した「ホール注入材料からなる層3d」とが、この順に形成されていることが、上記課題を解決するための手段であるから、この課題を解決するための手段を構成する「中間層3」の4つの層のうち、一部を構成する「導電体材料を含有する光透過性の層3b」を省略し、「電荷移動錯体からなる層3a」である「電子注入層」の表面に、「BCPを厚み5nmで成膜」した「電荷輸送性有機材料からなる層3c」が成膜された構成とすることは、引用発明における課題を解決することができなくなるため、阻害要因があると認められる。
してみると、引用文献1に記載された発明に基づいて、相違点1に係る構成とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。
また、当審拒絶理由で引用された特開2008-78414号公報(段落【0055】を参照。以下「引用文献2」という。)や特開2006-155940号公報(段落【0063】を参照。以下「引用文献3」という。)に例として記載された、本出願前に周知の、電子注入層を、BCPとLiをモル比1:1で共蒸着により形成する技術、あるいは、当審拒絶理由で引用された特開2003-264085号公報(段落【0063】,【0132】,【0133】を参照。以下「引用文献4」という。)に記載された、有機エレクトロルミネッセンス素子において、異なる層で有機化合物を同一のものとすれば、より簡単なプロセスで素子を作製することができるという示唆に基づいたとしても、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易であるとはいえない。

よって、相違点2,3の容易想到性について判断を示すまでもなく、本件発明1は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたといえない。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「前記電子受容性有機物質が、1、4、5、8、9、11-Hexaazatriphenylene-Hexacarbonitrileであること」が限定されたものである。
してみると、本件発明1と同様、本件発明2は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたといえない。

(5)本件発明3について
本件発明3は、上記クの相違点1に対応する「前記混合層の表面に前記電子輸送性有機材料を成膜させてなる第1の層」という構成を具備するから、本件発明1と同様な理由により、本件発明3は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたといえない。

6 むすび
以上のとおり、当審において通知した拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-07 
出願番号 特願2013-507342(P2013-507342)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井亀 諭  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
河原 正
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 水尻 勝久  
代理人 竹尾 由重  
代理人 西川 惠清  

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