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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1322260
異議申立番号 異議2016-700089  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-04 
確定日 2016-09-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5761998号発明「難燃性ポリアミド組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5761998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5、7-12]、6について、訂正することを認める。 特許第5761998号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5761998号(設定登録時の請求項の数は12。以下、「本件特許」という。)は、国際出願日である平成21年12月21日(優先権主張 平成20年12月22日 平成21年1月7日 平成21年9月30日)にされたとみなされる特許出願に係るものであって、平成27年6月19日に設定登録された。
特許異議申立人 野中恵(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年2月4日、本件特許の請求項1ないし12に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成28年3月30日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年5月30日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年7月5日付けで意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?ウのとおりである。なお、下線については訂正箇所に合議体が付したものである。

訂正事項ア
訂正前の特許請求の範囲の請求項1である
「ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分0.05?2質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、元素周期律表の第2?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。」

「ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分0.05?2質量%、ポリフェニレンオキシド0?4質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。」
に訂正する。

訂正事項イ
訂正前の特許請求の範囲の請求項5における
「前記金属酸化物(E-2)は、鉄の酸化物、マグネシウムの酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物からなる群から選択される1種以上である」

「前記金属酸化物(E-2)は、鉄の酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物からなる群から選択される1種以上である」
に訂正する。

訂正事項ウ
訂正前の特許請求の範囲の請求項6である
「前記亜鉛の複合酸化物が錫酸亜鉛である、請求項5に記載の難燃性ポリアミド組成物。」

「ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および錫酸亜鉛である金属酸化物成分0.05?2質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
前記錫酸亜鉛の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項アについて

ア この訂正は、訂正前の請求項1では、難燃性ポリアミド組成物を、「ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分0.05?2質量%」を含むものに特定していたのに対し、訂正後の請求項1では、「ポリフェニレンオキシド0?4質量%」との記載を追加することにより、訂正後の請求項1の難燃性ポリアミド組成物の組成を、更に0?4質量%のポリフェニレンオキシドを含むものにより具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。しかも、ポリフェニレンオキシドを0?4質量%含む点については、例えば願書に添付した明細書の【0069】【0070】に記載がある。

イ また、この訂正は、訂正前の請求項1では、難燃性ポリアミド組成物に含まれる金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)を「元素周期律表の第2?12族に存在する元素を含む化合物」に特定していたのに対し、訂正後の請求項1では、「元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物」に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。

ウ 異議申立人は、上記イの訂正に関し、「金属水酸化物(E-1)」を「元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物」に訂正する点は、願書に最初に添付した明細書または特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正でない旨主張する。

エ 上記主張について検討する。訂正前の請求項1における金属水酸化物は「元素周期律表の第2?12族に存在する元素を含む化合物」との特定であるから、第7?12族に存在する元素を含む化合物を包含するものであった。そして、発明の詳細な説明には「金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、好ましくは周期律表の第2族?12族の金属元素を含む化合物である」(段落【0086】)と記載があり、金属水酸化物(E-1)と金属酸化物(E-2)とが同等のものとして使用されることが記載されているのであるから、「金属酸化物(E-2)が・・・更に好ましくは第7?12族」(段落【0057】)との記載も併せみれば、発明の詳細な説明に第7?12族についても記載されているといえ、この訂正事項は、願書に最初に添付した明細書または特許請求の範囲内の訂正である。そして、第2?12族から第7?12族に更に限定することでの効果等を主張する等の新たな技術事項を導入するものでもない。なお、確かに、発明の詳細な説明には、金属水酸化物の実施例として第2族の元素を含む化合物である水酸化カルシウムしか示されていないが、実施例がないことをもって、発明の詳細な説明に記載されていないということはできない。

オ よって、訂正事項アの訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的とし、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項イについて

訂正事項イは、訂正前の「金属酸化物(E-2)」の具体例である「鉄の酸化物、マグネシウムの酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物」について、マグネシウムの酸化物を削除して「鉄の酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物」に訂正するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とし、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項ウについて

訂正事項ウは、訂正前の請求項6が請求項5の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項ウは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 一群の請求項について

上記訂正事項ア?ウの訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5、7-12」、6について、訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、平成28年5月30日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分0.05?2質量%、ポリフェニレンオキシド0?4質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記金属化合物成分が金属酸化物(E-2)である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)の含有率が20?60質量%であり、前記難燃剤(C)の含有率が5?15質量%である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物(E-2)の平均粒子径が、0.01?10μmである、請求項2に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物(E-2)は、鉄の酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物からなる群から選択される1種以上である、請求項2に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項6】
ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および錫酸亜鉛である金属酸化物成分0.05?2質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
前記錫酸亜鉛の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。
【請求項7】
前記難燃剤(C)が、式(I)のホスフィン酸塩化合物、および/または式(II)のビスホスフィン酸塩化合物、および/またはこれらのポリマーを含む難燃剤である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【化1】

[式中、R^(1)およびR^(2)は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC_(1)-C_(6)アルキルおよび/またはアリールであり;
R^(3)は直鎖状のまたは枝分かれしたC_(1)-C_(10)アルキレン、C_(6)-C_(10)アリーレン、C_(6)-C_(10)アルキルアリーレンまたはC_(6)-C_(10)アリールアルキレンであり;
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;
mは1?4であり;nは1?4であり;xは1?4である]
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(A)が、テレフタル酸成分単位を40?100モル%、テレフタル酸以外の芳香族多官能カルボン酸成分単位0?30モル%、および/または炭素原子数4?20の脂肪族多官能カルボン酸成分単位0?60モル%からなる多官能カルボン酸成分単位(a-1)と、炭素原子数4?25の多官能アミン成分単位(a-2)とを含む、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項9】
前記強化材(D)は繊維状物質である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を成形して得られる成形体。
【請求項11】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を、不活性ガスの存在下で射出成形する工程を含む、ポリアミド組成物の成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を成形して得られる電気電子部品。」

第4 取消理由の概要

平成28年3月30日付けで通知した取消理由は、本件特許の請求項1ないし5、7ないし12に係る発明は、本件特許に係る出願前の特許出願であって、本件特許に係る出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)から,その発明に係る特許は取り消すべきというものである。

先願:国際出願 PCT/JP2009/053993号(国際公開第2009/110480号)(異議申立人の証拠方法である甲第5号証、以下「甲5」という。)
先願の国際出願日:2009年(平成21年)3月3日
先願の優先日 :2008年(平成20年)3月3日
先願の国際公開日:2009年(平成21年)9月11日
先願に係る発明の発明者:古河弘昭、三好貴章
先願の出願人:旭化成ケミカルズ株式会社

第5 合議体の判断

当合議体は、以下述べるように、上記取消理由には理由はないと判断する。

1 甲5の国際出願の明細書、請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明

先願明細書等には、明細書の具体的な実施例6?36と請求の範囲の請求項1、2、9、18又は請求の範囲1、2、8、9、15?18の記載、並びに実施例33からみて、以下の発明が記載されていると認める。

「(A)280℃以上の融点を有するポリアミドである熱可塑性樹脂と、(B)下記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩、下記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類と、(C)数平均粒子径100nm?25μmであり、周期律表第IIA族元素及びアルミニウムから選ばれる1種以上の元素の水酸化物、酸化物から選ばれる1種以上である塩基性化合物と、(D)無機補強材を更に含む難燃性樹脂組成物であって、前記(B)成分100質量部に対し、前記(C)成分を0.01?10質量部含む、難燃性樹脂組成物。
<イメージ省略>
(式中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なっていてもよく、直鎖状若しくは分岐状のC_(1)?C_(6)-アルキル及び/又はアリール若しくはフェニルであり、R^(3)は、直鎖状若しくは分岐状のC_(1)?C_(10)-アルキレン、C_(6)?C_(10)-アリーレン、C_(6)?C_(10)-アルキルアリーレン又はC_(6)?C_(10)-アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは、2又は3であり、nは、1?3の整数であり、xは、1又は2である。)」(以下、「先願発明1」という。)、及び、
「(A)280℃以上の融点を有するポリアミドとポリフェニレンエーテルとである熱可塑性樹脂と、(B)下記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩、下記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類と、(C)数平均粒子径100nm?25μmであり、周期律表第IIA族元素及びアルミニウムから選ばれる1種以上の元素の水酸化物、酸化物から選ばれる1種以上である塩基性化合物と、(D)無機補強材を更に含む難燃性樹脂組成物であって、前記(B)成分100質量部に対し、前記(C)成分を0.01?10質量部含む、難燃性樹脂組成物。
<イメージ省略>
(式中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なっていてもよく、直鎖状若しくは分岐状のC_(1)?C_(6)-アルキル及び/又はアリール若しくはフェニルであり、R^(3)は、直鎖状若しくは分岐状のC_(1)?C_(10)-アルキレン、C_(6)?C_(10)-アリーレン、C_(6)?C_(10)-アルキルアリーレン又はC_(6)?C_(10)-アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは、2又は3であり、nは、1?3の整数であり、xは、1又は2である。)」(以下、「先願発明2」という。)、及び、
「2、6-ジメチルフェニールから構成される重合体ポリフェニレンエーテル(PPE-2)を30質量部、無水マレイン酸(MAH)を0.3質量部、テレフタル酸とノナメチレンジアミン及び2-メチル-1、8-オクタメチレンジアミンからなる融点308℃の芳香族ポリアミド(PA9T-1)を70質量部、チョップドガラス繊維(GF)を54質量部、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(FR-1)を25質量部、タルク(Talc)を1質量部、数平均粒子径が0.2μmの酸化亜鉛(ZNO)を0.5質量部を配合した難燃性樹脂組成物。」(以下、「先願発明3」という。)

2 本件発明と先願発明との対比・判断

(1) 本件発明1と先願発明1
本件発明1と先願発明1とを対比する。
先願発明1の「(A)280℃以上の融点を有するポリアミドである熱可塑性樹脂」(以下、「(A)成分」という。)、「(B)下記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩、下記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類」(以下、「(B)成分」という。)、「(D)無機補強材」(以下、「(D)成分」という。)、「難燃性樹脂組成物」は、それぞれ、本件発明1における「融点は270?340℃であ」る「ポリアミド樹脂(A)」、「ホスフィン酸塩化合物」、「強化材(D)」、「難燃性ポリアミド組成物」に相当する。
そうすると、先願発明1と本件発明1とは

「ポリアミド樹脂(A)、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)、強化材(D)、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
難燃性ポリアミド組成物。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点1>
金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分に関し、本件発明1においては「金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである」と特定するのに対し、先願発明1は「数平均粒子径100nm?25μmであり、周期律表第IIA族元素及びアルミニウムから選ばれる1種以上の元素の水酸化物、酸化物から選ばれる1種以上である塩基性化合物」との特定である点。
<相違点2>
難燃性ポリアミド組成物として、本件発明1においては、ポリフェニレンオキシド0?4質量%を含む」と特定するのに対して、先願発明1は、この点を特定しない点。
<相違点3>
組成物の配合量に関し、本件発明1においては、「ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、ホスフィン酸塩化合物5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物0.05?2質量%、ポリフェニレンオキシド0?4質量%」と特定するのに対して、先願発明1においては、特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
「金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)」の金属は、本件発明1の「元素周期律表の第7?12族に存在する元素」と先願発明1の「周期律表第IIA族元素及びアルミニウムから選ばれる1種以上の元素」とでは相違し、相違点1は実質的な相違点である。
そうすると、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明1と同一ではない。

(2) 本件発明2ないし5、7ないし12と先願発明1
本件発明2ないし5、7ないし12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明2ないし5、7ないし12と先願発明1とは、上記(1)のとおり、少なくとも相違点1において実質的に相違するから、本件発明2ないし5、7ないし12についても、先願発明1と同一ではない。

(3) 本件発明1と先願発明2
本件発明1と先願発明2とを対比する。
先願発明2は、先願発明1における熱可塑性樹脂として、ポリアミド樹脂に加えてポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキシド)を含むものであるから、その余は上記(1)での検討と同様であって、本件発明1と先願発明2とは、上記相違点1で実質的に相違するから、上記相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明2と同一ではない。

(4) 本件発明2ないし5、7ないし12と先願発明2
本件発明2ないし5、7ないし12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明2ないし5、7ないし12と先願発明2とは、上記(3)のとおり、少なくとも相違点1において実質的に相違するから、本件発明2ないし5、7ないし12についても、先願発明2と同一とはいえない。

(5) 本件発明1と先願発明3
本件発明1と先願発明3とを対比する。
先願発明3の「2、6-ジメチルフェニールから構成される重合体ポリフェニレンエーテル(PPE-2)」、「テレフタル酸とノナメチレンジアミン及び2-メチル-1、8-オクタメチレンジアミンからなる芳香族ポリアミド(PA9T-1)」、「チョップドガラス繊維(GF)」、「ジエチルホスフィン酸アルミニウム(FR-1)」、「酸化亜鉛(ZNO)」、「難燃性樹脂組成物」は、それぞれ、本件発明1における「ポリフェニレンオキシド」、融点270℃?340℃である「ポリアミド樹脂(A)」、「強化材(D)」、「ホスフィン酸塩化合物である分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)」、「元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである金属酸化物(E-2)」、「難燃性ポリアミド組成物」に相当する。
そして、それぞれの配合量を、計算すると、先願発明3と本件発明1とは

「ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分0.05?2質量%、ポリフェニレンオキシドを含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
配合されるポリフェニレンオキシドの配合量に関し、本件発明1においては「0?4質量%」と特定するのに対し、先願発明3は「16.4質量%」配合する点。

上記相違点4について検討する。
相違点4の配合量の相違は、難燃性ポリアミド組成物に係る発明において、実質的な相違点である。
なお、先願明細書等には、配合するポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキシド)に関し「上述の樹脂を混合物として用いる場合、各々好適な量に違いがある。ポリフェニレンエーテル以外の熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンエーテルと比較的親和性の高い樹脂である、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、スチレン系エラストマー、アクリロニトリル-スチレン共重合体、N-フェニルマレイミドとスチレンの共重合体、及びこれらの混合物から選ばれる1種を用いる場合、本実施形態の熱可塑性樹脂の合計量を100質量%としたとき、本実施形態の熱可塑性樹脂中のポリフェニレンエーテル含有量が、10?90質量%の範囲内であることが好ましい。ポリフェニレンエーテル含有量のより好ましい下限値は、20質量%であり、更に好ましくは30質量%である。ポリフェニレンエーテル含有量のより好ましい上限値は80質量%であり、更に好ましくは70質量%であり、より更に好ましくは60質量%である。」(段落【0114】)との記載があることから、先願発明3におけるポリフェニレンエーテルの配合量が0?4質量%としたものが先願明細書等に記載されているに等しいということもできない。
そうすると、本件発明1は、先願発明3と同一ではない。

(6) 本件発明2ないし5、7ないし12と先願発明3
本件発明2ないし5、7ないし12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明2ないし5、7ないし12と先願発明3とは、上記(5)のとおり、相違点4で実質的に相違するから、本件発明2ないし5、7ないし12についても、先願発明3と同一とはいえない。

3 まとめ

よって、本件特許の請求項1ないし5、7ないし12に係る発明は、先願明細書等に記載された発明と同一ではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許の請求項1ないし5、7ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)から選ばれる金属化合物成分0.05?2質量%、ポリフェニレンオキシド0?4質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)は、元素周期律表の第7?12族に存在する元素を含む化合物であり、かつ金属水酸化物(E-1)および金属酸化物(E-2)の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記金属化合物成分が金属酸化物(E-2)である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)の含有率が20?60質量%であり、前記難燃剤(C)の含有率が5?15質量%である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物(E-2)の平均粒子径が、0.01?10μmである、請求項2に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物(E-2)は、鉄の酸化物、亜鉛の酸化物、および亜鉛の複合酸化物からなる群から選択される1種以上である、請求項2に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項6】
ポリアミド樹脂(A)20?80質量%、分子中にハロゲン基を有さない難燃剤(C)5?40質量%、強化材(D)0?50質量%、および錫酸亜鉛である金属化合物成分0.05?2質量%を含む難燃性ポリアミド組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)の融点は270?340℃であり、
難燃剤(C)は、ホスフィン酸塩化合物であり、
前記錫酸亜鉛の平均粒子径は、0.01?20μmである、難燃性ポリアミド組成物。
【請求項7】
前記難燃剤(C)が、式(I)のホスフィン酸塩化合物、および/または式(II)のビスホスフィン酸塩化合物、および/またはこれらのポリマーを含む難燃剤である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【化1】

[式中、R^(1)およびR^(2)は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC_(1)-C_(6)アルキルおよび/またはアリールであり;
R^(3)は直鎖状のまたは枝分かれしたC_(1)-C_(10)アルキレン、C_(6)-C_(10)アリーレン、C_(6)-C_(10)アルキルアリーレンまたはC_(6)-C_(10)アリールアルキレンであり;
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;
mは1?4であり;nは1?4であり;xは1?4である]
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(A)が、テレフタル酸成分単位を40?100モル%、テレフタル酸以外の芳香族多官能カルボン酸成分単位0?30モル%、および/または炭素原子数4?20の脂肪族多官能カルボン酸成分単位0?60モル%からなる多官能カルボン酸成分単位(a-1)と、炭素原子数4?25の多官能アミン成分単位(a-2)とを含む、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項9】
前記強化材(D)は繊維状物質である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を成形して得られる成形体。
【請求項11】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を、不活性ガスの存在下で射出成形する工程を含む、ポリアミド組成物の成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を成形して得られる電気電子部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-14 
出願番号 特願2010-543843(P2010-543843)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
守安 智
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5761998号(P5761998)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 難燃性ポリアミド組成物  
代理人 鷲田 公一  
代理人 鷲田 公一  

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