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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1322265
異議申立番号 異議2015-700083  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-13 
確定日 2016-09-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5730261号発明「多価肺炎球菌多糖類-タンパク質コンジュゲート組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5730261号の特許請求の範囲を、平成28年 5月 2日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕、〔16-30〕について訂正することを認める。 特許第5730261号の請求項1、3ないし6、10ないし15に係る特許を維持する。 特許第5730261号の請求項2、7ないし9、16ないし30に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5730261号の請求項1?30に係る特許についての出願は、平成18年 3月31日(パリ条約による優先権主張 2005年 4月 8日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2008-505426号の一部を平成21年 4月24日に新たな特許出願とした特願2009-106688号について、さらにその一部を、平成24年10月10日に新たな特許出願としたものであって、平成27年 4月17日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人一般財団法人化学及血清療法研究所により特許異議の申立てがなされ、平成28年 1月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年 5月 2日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。


2.訂正請求について
2-1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)、(2)とおりである。
(1)請求項1?15からなる一群の請求項に係る訂正
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・多価免疫原性組成物であって、そのコンジュゲートの各々がキャリアタンパク質にコンジュゲートしたストレプトコッカスニューモニエの異なる血清型からの莢膜多糖類を含み、その莢膜多糖類が血清型4、6B、9V、14、18C、19F、23Fおよび少なくとも1種の付加的な血清型から調製され、ここで該付加的な血清型が血清型6Aである」とあるのを、「・・・多価免疫原性組成物であって、ここで前記多糖類-タンパク質コンジュゲートが13種類の異なる多糖類-タンパク質コンジュゲートからなり、そのコンジュゲートの各々がキャリアタンパク質にコンジュゲートしたストレプトコッカスニューモニエの異なる血清型からの莢膜多糖類を含み、その莢膜多糖類が血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19Fおよび23Fから調製され」と訂正する。

(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「調製され・・・多価免疫原性組成物。」とあるのを、「調製され、ここで前記キャリアタンパク質はCRM_(197)であり・・・多価免疫原性組成物。」と訂正する。

(ウ)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「調製され・・・多価免疫原性組成物。」とあるのを、「調製され、・・・ここで各用量は1から5μgの前記各血清型の多糖を含む、多価免疫原性組成物。」と訂正する。

(エ)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2及び7?9を削除する。また、請求項3に「請求項1または2」とあるのを「請求項1」と訂正し、請求項10?15に「請求項1?9のいずれか1項」とあるのを「請求項1及び3?6のいずれか1項」と訂正する。

(2)請求項16?30からなる一群の請求項に係る訂正
(オ)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項16?30を削除する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1?15からなる一群の請求項に係る訂正について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1における「多糖類-タンパク質コンジュゲート」の種類を、「血清型4、6B、9V、14、18C、19F、23Fおよび少なくとも1種の付加的な血清型から調製され、ここで該付加的な血清型が血清型6Aである」ものを単に「含み、」(すなわち、ほかにいかなる種類のものが含まれるかは、請求項1の文言上不特定。)とされるものから、「血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19Fおよび23Fから調製され」る「13種類の異なる多糖類-タンパク質コンジュゲートからなり、」とされるものに限定する訂正であるといえるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の以下の記載、
「本発明はまた、莢膜多糖類がストレプトコッカスニューモニエの血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、および23Fからのものであり、キャリアタンパク質がCRM_(197)である多価免疫原性組成物を提供する。」(【0007】)
からみて、本件特許明細書には、上記「血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19Fおよび23Fから調製され」る「13種類の異なる多糖類-タンパク質コンジュゲートからなり、」とされるものが記載されているといえる。そうすると、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項1における「キャリアタンパク質」を、「CRM_(197)」に限定する訂正であるといえるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、本件特許明細書の上記記載からみて、本件特許明細書には、上記「キャリアタンパク質」として「CRM_(197)」が記載されているといえる。そうすると、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、請求項1における「各血清型の多糖」の「用量」を「1から5μg」に限定する訂正であるといえるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、本件特許明細書の以下の記載、
「各ワクチン用量におけるコンジュゲートの量は、著しい副作用なしに免疫防御応答を誘発する量として選択される。このような量は、肺炎球菌の血清型に依存して変わり得る。一般に、各用量は、多糖類0.1?100μg、具体的には0.1?10μg、より具体的には1?5μgからなるはずである。」(【0045】)
からみて、本件特許明細書には、上記「各血清型の多糖」の「用量」として「1から5μg」が記載されているといえる。そうすると、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項2及び7?9を削除し、あわせて請求項2及び7?9を引用する各請求項を、これらを引用しない請求項とするものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)請求項16?30からなる一群の請求項に係る訂正について
(オ)訂正事項5について
訂正事項5に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項16?30を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-15〕、〔16-30〕について訂正することを認める。


3.特許異議の申立てについて
3-1.本件特許発明
上記のとおり本件訂正請求による訂正が認められるから、本件特許の請求項2、7?9、16?30に係る発明は、存在しないものとなった。
そして、残る本件特許の請求項1、3?6、10?15に係る発明は、平成28年 5月 2日付け訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲の請求項1、3?6、10?15に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、以下、本件訂正後の請求項1、3?6、10?15に係る発明を、それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明3」?「本件訂正発明6」、「本件訂正発明10」?「本件訂正発明15」のように記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類-タンパク質コンジュゲートを、生理学的に許容できるビヒクルと共に含む多価免疫原性組成物であって、ここで前記多糖類-タンパク質コンジュゲートが13種類の異なる多糖類-タンパク質コンジュゲートからなり、そのコンジュゲートの各々がキャリアタンパク質にコンジュゲートしたストレプトコッカスニューモニエの異なる血清型からの莢膜多糖類を含み、その莢膜多糖類が1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19Fおよび23Fから調製され、ここで前記キャリアタンパク質はCRM_(197)であり、ここで各用量は1から5μgの前記各血清型の多糖を含む、多価免疫原性組成物。
【請求項3】
さらにアジュバントを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
アジュバントがアルミニウムをベースとするアジュバントであるところの、請求項3記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
アジュバントがリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムからなる群より選択されるところの、請求項4記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
アジュバントがリン酸アルミニウムであるところの、請求項5記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
医薬として用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
ワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
ストレプトコッカスニューモニエ莢膜多糖類コンジュゲートに対する免疫応答を誘発するための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
最初のワクチン投与後、被験者が、適切な間隔で1回または数回の追加免疫を受けるワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
ワクチン投与のスケジュールが、生後2、4、6、および12?15カ月である、乳児および幼児へのワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
青少年および成人へのワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。

3-2.取消理由の概要
本件訂正による訂正前の請求項1?30に係る特許に対して平成28年 1月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?30に係る発明は、引用文献1?7に記載された発明と相違点がないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、また仮に相違点があるとしても、引用文献1?10に記載された発明に基いて出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
加えて、本件特許の請求項1?30に係る発明は、発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許の請求項1?30に係る発明の特許は、同法第113条第2号及び同条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

引用文献1:特表2004-508416号公報
引用文献2:特表2002-539273号公報
引用文献3:特表2002-540074号公報
引用文献4:特表2002-542204号公報
引用文献5:Pediatrika,2004,24(4),p147-155
引用文献6:Pediatric Infectious Disease Journal,2002,21(11),p1008-1016
引用文献7:Clinical Infectious Disease,2000,30,p100-121
引用文献8:American Journal of Epidemiology,2004,159(7),p634-644
引用文献9:Seminars in Pediatric Infectious Diseases,2002,13(3),p155-164
引用文献10:Int.J.Medical Microbiology,2004,294,p277-294
引用文献11:FEMS Immunology and Medical Microbiology,2004,40,p193-199
引用文献12:Vaccines,Third Edition,1999,W.B.Saunders Company,p196-207,p584-591

3-3.引用文献の記載
本件出願の優先日前に頒布されたことが明らかな各引用文献には、以下の事項が記載されている。
(1)引用文献1の記載事項
(ア)摘記事項1-(1)
「【請求項1】
少なくとも1つのストレプトコッカス・ニューモニエ多糖体抗原と、PhtA、PhtD、PhtB、PhtE、SpsA、LytB、LytC、LytA、Sp125、Sp101、Sp128、Sp130およびSp133から成る群から選択される少なくとも1つのストレプトコッカス・ニューモニエ蛋白抗原またはその免疫学的機能等価物とを含んで成る免疫原性組成物。
【請求項2】
多糖体抗原が多糖体蛋白担体接合物の形態で提供される請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
担体蛋白がジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、CRM197、キーホール・リンペットヘモシアニン(KLH)、ツベルクリンの蛋白誘導体およびH.インフルエンザ由来の蛋白Dから選択される請求項2記載の免疫原性組成物。」(第2頁第2?13行)
(イ)摘記事項1-(2)
「【0013】
本発明のストレプトコッカス・ニューモニエ多糖体抗原
典型的には、本発明のストレプトコッカス・ニューモニエワクチンは多糖体抗原(好ましくは、担体蛋白に結合したもの)を含み、ここに多糖体は少なくとも4つの肺炎球菌の血清型から誘導される。好ましくは、4つの血清型は、6B、14、19Fおよび23Fを含む。より好ましくは、少なくとも7つの血清型、例えば血清型4、6B、9V、14、18C、19Fおよび23F由来のものが組成物に含まれる。さらにより好ましくは、少なくとも11の血清型が組成物に含まれ、例えば一の具体例における組成物は、1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23F(好ましくは、担体蛋白に結合したもの)由来の莢膜多糖体を含む。本発明の好ましい具体例において、・・・、少なくとも13の多糖体抗原(好ましくは、担体蛋白に結合したもの)が含まれる。
【0014】
高齢者のワクチン接取・・・に関しては、・・・を上記の11価の抗原性組成物に含み、15価ワクチンを形成することが有利であるのに対して、幼児または小児(中耳炎の不安がある)に関しては、有利には抗原型血清型6Aおよび19Aが13価ワクチンを形成するために含まれる。」(第5頁第48行?第6頁第17行)
(ウ)摘記事項1-(3)
「【0048】
実施例1
エス・ニューモニエ莢膜多糖体
11価の候補ワクチンは、実質的にEP72513に記載されているように調製した莢膜多糖体血清型1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23Fを含む。各々の多糖体を活性化し、CDAP化学(WO98/08348)を用いて誘導体化し、蛋白担体に結合させる。
・・・
【0049】
蛋白担体:
選択した蛋白担体は分類不可能なヘモフィルス・インフルエンザから、イー・コリで発現した組換え蛋白D(PD)である。」(第15頁第26?37行)
(エ)摘記事項1-(4)
「【0059】
・・・
活性化およびカップリング化学:
活性化およびカップリング化学は各々の多糖体に固有のものである。・・・結合物を2MのNaClで平衡化したSephacryl 500HRゲル濾過カラムを用いてゲル濾過により精製した。」(第17頁第33?46行)
(オ)摘記事項1-(5)
「【0030】
上記したように、ワクチン接種への多糖体の用い方に関連した問題は、多糖体それ自体は免疫原性に乏しいという事実である。これを解決するため、多糖体をバイスタンダー細胞であるT細胞の助けを付与する蛋白キャリアに結合させてもよい。そのため、本発明で利用される多糖体はそのような蛋白キャリアに結合されていることが好ましい。現在、一般的に多糖体の免疫原性を生むために使われる、そのような蛋白の例として、ジフテリアとテターヌストキソイド(DT、DT CRM197、他のDT変異体)、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)、エヌ・メニンジティディス由来のOMPC、ツボクラリンの精製蛋白誘導体(PPD)が挙げられる。
【0031】
肺炎球菌多糖体を用いる免疫原性組成物(またはワクチン)のための他の担体は、ヘモフィルス・インフルエンザ(EP594610-B)由来の蛋白D、またはそのフラグメントである。使用に適したフラグメントはヘルパーT細胞エピトープを含むフラグメントである。・・・蛋白D担体は、意外にも、多肺炎球菌多糖体抗原が結合しているワクチンにおける担体として有用である。エピトープ抑制は、通常には、同様の担体が各々の多糖体に対して用いられる場合に生じやすい。意外にも、本発明者らは、蛋白Dが、特に、組合せワクチンにおける該エピトープ抑制効果を最小限にするのに適していることを見出した。組合せ中の1つまたはそれ以上の肺炎球菌多糖体は、蛋白D上に有利に結合でき、好ましくはすべての抗原は、該組合せワクチンにおいて蛋白Dに結合している。」(第10頁第7?26行)

(2)引用文献2の記載事項
(ア)摘記事項2-(1)
「【請求項1】 3D-MPLでアジュバント化された1以上のストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)莢膜多糖コンジュゲートを含み、かつ、アルミニウム-ベースのアジュバントを実質的に欠く抗原性組成物であって、ここで、上記ストレプトコッカス・ニューモニエ多糖コンジュゲートの中の少なくとも1が、アルミニウム-ベースのアジュバントとともに3D-MPLを含む組成物に比較して、3D-MPLを含む組成物において有意により免疫原性である、前記抗原性組成物。
・・・
【請求項8】 前記ストレプトコッカス・ニューモニエ莢膜多糖が、以下の:
破傷風毒素;
ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)のOMPC;
ジフテリア毒素;
ストレプトコッカス・ニューモニエのニューモリジン(pneumolysin);又はCRM197
から成る群から選ばれるタンパク質にコンジュゲートされている、請求項1?7のいずれかに記載の抗原性組成物。
・・・
【請求項14】 ストレプトコッカス・ニューモニエ莢膜多糖血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、及び23Fのコンジュゲートを含む、請求項1又は7に記載の抗原性組成物。
・・・」(第2頁第2行?第3頁末行)
(イ)摘記事項2-(2)
「【0048】
本発明の肺炎連鎖球菌多糖抗原
典型的には、本発明の肺炎連鎖球菌ワクチンは、多糖抗原(好ましくは複合化)を含み、この場合、多糖は少なくとも4つの血清型の肺炎球菌から得られる。好ましくは、4つの血清型としては、6B、14、19Fおよび23Fが挙げられる。さらに好ましくは少なくとも7つの血清型、例えば4、6B、9V、14、18C、19Fおよび23Fから得られるものが組成物中に含まれる。さらに好ましくは、少なくとも11の血清型が組成物に含まれ、例えば一実施態様における組成物は、血清型1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23Fから得られる莢膜多糖(好ましくは複合化(conjugated))を含む。本発明の好ましい実施態様では、少なくとも13の多糖抗原(好ましくは複合化)が含まれるが、・・・も本発明により意図される。
【0049】
老齢者予防接種(例えば、肺炎予防のための)に関しては、・・・を前記の11価抗原性組成物に含入して、15価ワクチンを生成するのが有益であるが、一方、乳児または幼児用(中耳炎がより問題である)には、血清型6Aおよび19Aが含入されて、13価ワクチンを生成するのが有益である。」(第15頁下から第4行?第16頁第17行)
(ウ)摘記事項2-(3)
「【0134】
実施例1
肺炎連鎖球菌莢膜多糖:
11価候補ワクチンとしては、本質的にはEP72513に記載されたように作製された莢膜多糖血清型1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23Fが挙げられる。各多糖は、CDAP化学作用を用いて活性化され、誘導されて・・・、タンパク質担体と連結される。・・・
【0135】
タンパク質担体
選択されるタンパク質担体は、・・・組換え体プロテインD(PD)である。」(第34頁第18行?第35頁第1行)
(エ)摘記事項2-(4)
「【0149】
・・・活性化およびカップリング条件は、各多糖に特異的である。・・・
【0150】
・・・CDAP(CDAP/PS比0.75 mg/mg PS)を多糖溶液に付加した。・・・多糖の活性化を実施した。プロテインD(量は初期PS/PD比によっている)を活性化多糖に付加し、特異的pHで1時間、カップリング反応を実施した。」(第38頁第19行?第39頁第1行)
(オ)摘記事項2-(5)
「【0023】
多糖免疫原の産生のために今日一般に用いられるこれらの高免疫原性担体の例としては、ジフテリア毒素(CTまたはCRM197突然変異体)、破傷風毒素(TT)、カギアナカサガイヘモシアニン(KLH)およびツベルクリンの精製タンパク質誘導体(PPD)が挙げられる。
【0024】
一般的に用いられる担体に関連した問題
多数の問題が、例えばGMP複合体の産生におけるならびに複合体の免疫学的特徴における、これらの一般的に用いられる担体の各々に関連している。
【0025】
これらの担体の一般的使用および抗多糖抗体応答の誘導におけるそれらの成功例にもかかわらず、それらはいくつかの欠点に関連する。例えば、抗原特異的免疫応答は、担体(この場合、破傷風毒素)に対して向けられる先在する抗体の存在により抑制され得る(エピトープ抑制)ということが知られている・・・。
・・・
【0028】
したがって、多糖ベースのワクチンのための担体タンパク質の選択は、すべての患者において作用する(広範なMHC認識)担体に対する必要性、高レベルの抗多糖抗体応答の誘導および担体に対する低抗体応答の間の平衡を必要とする。
【0029】
したがって、多糖ベースのワクチンのために予め用いられる担体は、多数の欠点を有する。これは、種々の多糖抗原に関して同一担体が用いられる場合に、エピトープ抑制が特に問題となる組合せワクチンにおいて特にそうである。・・・
【0030】
本発明は、前記の欠点を蒙らない多糖/多ペプチドベースの免疫原性複合体の調製に際して用いるための新規の担体を提供する。
【0031】
本発明は、ワクチンを含めた多糖ベースの免疫原性組成物のための担体として、インフルエンザ菌からのプロテインD(EP 0 594 610 B1)またはその断片を提供する。この担体の使用は、組合せワクチンにおいて特に有益である。」(第11頁第2行?第12頁第20行)

(3)引用文献3の記載事項
(ア)摘記事項3-(1)
「【請求項1】少なくとも1のストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)多糖抗原、及び少なくとも1のストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)タンパク質抗原又は免疫学的に機能性のその等価物を含む免疫原性組成物。
・・・
【請求項5】前記多糖抗原が、多糖-タンパク質担体コンジュゲートの形態で提示される、請求項1?4のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項6】前記担体タンパク質が、以下の:ジフテリア毒素(Diphtheria toxid)、破傷風毒素(Tetanus toxid)、CRM197、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(Keyhole Limpet Haemocyanin (KLH))、ツベルクリン(Tuberculin)のタンパク質誘導体(PPD)、及びH.インフルエンザ(H. influenzae)由来のタンパク質から成る群から選ばれる、請求項5に記載の免疫原性組成物。」(第2頁第2?25行)
(イ)摘記事項3-(2)
「【0048】
本発明の肺炎連鎖球菌多糖抗原
典型的には、本発明の肺炎連鎖球菌ワクチンは、多糖抗原(好ましくは複合化)を含み、この場合、多糖は少なくとも4つの血清型の肺炎球菌から得られる。好ましくは、4つの血清型としては、6B、14、19Fおよび23Fが挙げられる。さらに好ましくは少なくとも7つの血清型、例えば4、6B、9V、14、18C、19Fおよび23Fから得られるものが組成物中に含まれる。さらに好ましくは、少なくとも11の血清型が組成物に含まれ、例えば一実施態様における組成物は、血清型1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23Fから得られる莢膜多糖(好ましくは複合化(conjugated))を含む。本発明の好ましい実施態様では、少なくとも13の多糖抗原(好ましくは複合化)が含まれるが、・・・も本発明により意図される。
【0049】
老齢者予防接種(例えば、肺炎予防のための)に関しては、・・・を前記の11価抗原性組成物に含入して、15価ワクチンを生成するのが有益であるが、一方、乳児または幼児用(中耳炎がより問題である)には、血清型6Aおよび19Aが含入されて、13価ワクチンを生成するのが有益である。」(第15頁下から第4行?第16頁第17行)
(ウ)摘記事項3-(3)
「【0134】
実施例1 肺炎連鎖球菌莢膜多糖:
11価候補ワクチンとしては、本質的にはEP72513に記載されたように作製された莢膜多糖血清型1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23Fが挙げられる。各多糖は、CDAP化学作用を用いて活性化され、誘導されて・・・、タンパク質担体と連結される。・・・
【0135】
タンパク質担体
選択されるタンパク質担体は、・・・組換え体プロテインD(PD)である。」(第34頁第18行?第35頁第1行)
(エ)摘記事項3-(4)
「【0149】
・・・活性化およびカップリング条件は,各多糖に特異的である。・・・
【0150】
・・・CDAP(CDAP/PS比0.75mg/mgPS)を多糖溶液に付加した。・・・多糖の活性化を実施した。プロテインD(量は初期PS/PD比によっている)を活性化多糖に付加し、特異的pHで1時間、カップリング反応を実施した。」(第38頁第19行?第39頁第1行)
(オ)摘記事項3-(5)
「【0023】
多糖免疫原の産生のために今日一般に用いられるこれらの高免疫原性担体の例としては、ジフテリア毒素(CTまたはCRM197突然変異体)、破傷風毒素(TT)、カギアナカサガイヘモシアニン(KLH)およびツベルクリンの精製タンパク質誘導体(PPD)が挙げられる。
【0024】
一般的に用いられる担体に関連した問題
多数の問題が、例えばGMP複合体の産生におけるならびに複合体の免疫学的特徴における、これらの一般的に用いられる担体の各々に関連している。
【0025】
これらの担体の一般的使用および抗多糖抗体応答の誘導におけるそれらの成功例にもかかわらず、それらはいくつかの欠点に関連する。例えば、抗原特異的免疫応答は、担体(この場合、破傷風毒素)に対して向けられる先在する抗体の存在により抑制され得る(エピトープ抑制)ということが知られている・・・。
・・・
【0028】
したがって、多糖ベースのワクチンのための担体タンパク質の選択は、すべての患者において作用する(広範なMHC認識)担体に対する必要性、高レベルの抗多糖抗体応答の誘導および担体に対する低抗体応答の間の平衡を必要とする。
【0029】
したがって、多糖ベースのワクチンのために予め用いられる担体は、多数の欠点を有する。これは、種々の多糖抗原に関して同一担体が用いられる場合に、エピトープ抑制が特に問題となる組合せワクチンにおいて特にそうである。・・・
【0030】
本発明は、前記の欠点を蒙らない多糖/多ペプチドベースの免疫原性複合体の調製に際して用いるための新規の担体を提供する。
【0031】
本発明は、ワクチンを含めた多糖ベースの免疫原性組成物のための担体として、インフルエンザ菌からのプロテインD(EP 0 594 610 B1)またはその断片を提供する。この担体の使用は、組合せワクチンにおいて特に有益である。」(第11頁第2行?第12頁第20行)

(4)引用文献4の記載事項
(ア)摘記事項4-(1)
「【請求項1】
(a)タンパク質又はペプチドと複合しているか、あるいは複合していない、そのいずれかの1又は複数のストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)の多糖類;及び
(b)RSV抗原を、Th1型応答の優先的な刺激因子であるアジュバントと共に含んで成る、ワクチン組成物。」(第2頁第2?7行)
(イ)摘記事項4-(2)
「【0024】
ストレプトコッカス・ニューモニエの多糖は、複合しているならばタンパク質又はペプチドのいずれかに複合する。多糖の抗原はいくつかのTヘルパータンパク質に複合されてきた。これらはTヘルパーのエピトープを提供する。代表的なタンパク質はジフテリア毒素、破傷風毒素、及びプロテインD又はヘモフィルス・インフルエンザB(Haemophilius influenza B)由来のその脂質化した誘導リポプロテインDを含む。他の適当なタンパク質担体は、ジフテリアCrm197及びインフルエンザ由来の主要な非構造性タンパク質、NS1(特にアミノ酸1-81)を含む。
【0025】
プロテインDは本発明に従うワクチンの好ましい成分であり、これにストレプトコッカス・ニューモニエの多糖が複合される。」(第10頁第6?17行)
(ウ)摘記事項4-(3)
「【0028】
典型的に本発明のワクチンのストレプトコッカス・ニューモニエ成分は、多糖抗原を含んで成り(好ましくは複合したもの)、ここで前記の多糖は少なくとも4つの肺炎球菌の血清型に由来するだろう。好ましくは、前記の4つの血清型は6B,14,19F及び23Fを含む。更に好ましくは、少なくとも7つの血清型が前記組成物に含まれ、例えば血清4,6B,9V,14,18C,19F及び23Fに由来するものである。より更に好ましくは、少なくとも11の血清型が前記組成物に含まれ、例えば1つの態様における本組成物は、血清型1,3,4,5,6B,7F,9V,14,18C,19F及び23F(好ましくは複合したもの)に由来する莢膜多糖を含む。本発明の好ましい態様において、少なくとも13又は少なくとも15又は少なくとも17の多糖抗原(好ましくは複合したもの)が含まれるが、・・・もまた本発明によって考慮される。
【0029】
高齢者のワクチン接種(例えば肺炎の予防のため)にとって、・・・上述した11価の抗原性組成物に対する・・・を含めることは有利であり、一方幼児又はよちよち歩きの幼児にとって(より関心があるのが中耳炎である場合)、血清型6A及び19Aは13価のワクチンを形成するために有利に含まれる。」(第11頁第4?24行)

(5)引用文献5の記載事項
(ア)摘記事項5-(1)
「要約
・・・
現在、スペインでは、肺炎球菌防御のための2つのワクチンが存在する:23価の多糖類ワクチン(VNP-23v)と7価のコンジュゲートワクチン(VNC-7v)。
他のコンジュゲートワクチンとして、9価、11価、13価が開発中であるが、いまだ市場にはでていない。」(第147頁 要約)
(イ)摘記事項5-(2)
「7価の肺炎球菌コンジュゲートワクチンは、ストレプトコッカス・ニューモニエの7つの血清型の莢膜抗原の精製した多糖類(4,6B,9V,14,18C,19F,及び23F)が別々にタンパク質、・・・CRM197とコンジュゲートしたものを含む。」(第148頁右欄第33?39行)
(ウ)摘記事項5-(3)
「その他の肺炎球菌ワクチン
・・・7価のコンジュゲートワクチン(VNC-7v)・・・が利用可能なワクチンとして存在する。
・・・
-9価の血清型ワクチン(血清型1及び5追加)は、2歳未満の子供と2?5際の子供において、87%に至るまでカバレージを増加させる。
-11価の血清型ワクチン(血清型3及び7Fを追加)。・・・
-13価の血清型ワクチン(血清型6A及び19A追加)。」(第152頁右欄下から第19?1行)

(6)引用文献6の記載事項
(ア)摘記事項6-(1)
「・・・血清型4,6B,9V,14,18C,19F,23Fを含む7価の肺炎球菌コンジュゲートワクチン(PCV-7);PCV-7に血清型1及び5を追加した9価の肺炎球菌コンジュゲートワクチン(PCV-9);PCV-9に血清型3及び7Fを追加した11価の肺炎球菌コンジュゲートワクチン(PCV-11)。」(第1009頁左欄第15?21行)
(イ)摘記事項6-(2)
「PCV-11で表される血清型に、6A及び19Aを追加することにより、各年代の集団において全ての主要な血清型が含まれると思われる。」(第1014頁右欄第12?15行)

(7)引用文献7(Clinical Infectious Disease,2000,30,p100-121)
(ア)摘記事項7-(1)
「ワクチン組成。3大主要製造業者の7価(7-V)のワクチン組成は、血清型4、6B、9V、14、18C、19F及び23Fの多糖類由来のコンジュゲートを含む。9価(9-V)の組成は、7-Vに血清型1及び5を追加したものである。11価(11-V)の組成は、9-Vに血清型3及び7Fを含む。」(第101頁右欄第44?48行)
(イ)摘記事項7-(2)
「幼児におけるIPDのカバレッジを最大化するために、将来のワクチンは血清型6A及び19Aを含むことが必要となるだろう。」(第117頁右欄第42?44行)

(8)引用文献8の記載事項
(ア)摘記事項8-(1)


」(第638頁表3)
(イ)摘記事項8-(2)
「・・・複数の肺炎球菌コンジュゲートワクチンが非臨床、臨床又は認可済の段階にあり、各ワクチンは異なるタンパク質キャリアを使用する(表3)。1つの肺炎球菌コンジュゲートワクチンとして、7価のワクチン(PnCRM-7)(Prevnar;ワイスワクチン、パールリバー、ニューヨーク)が米国及び約50か国にて認可されている。」(第638頁右欄下から第7?1行)

(9)引用文献9の記載事項
(ア)摘記事項9-(1)


」(第158頁表4)
(イ)摘記事項9-(2)
「1つの肺炎球菌コンジュゲートワクチンとして、7価の製剤(Prevnar(商標))が現在、米国で認可されている。このワクチンは、7つの肺炎球菌の多糖抗原(血清型4,6B,9V,14,19F,23F及び多糖類18C)を、還元的アミノ化により、20μgのCRM197とコンジュゲートしたものであり、PCV7と表される。血清型6Bを4μg含み、血清型6Bを除く各抗原を2μg含む0.5mLの使用が推奨される。リン酸アルミニウム(0.5mg)をアジュバントとして添加する。ただし、ワクチンは保存料又はチメロサールは含まない。・・・」(第158頁右欄下から第10?1行)

(10)引用文献10の記載事項
(ア)摘記事項10-(1)
「9価(血清型1,4,5,6B,9V,14,18C,19F,23F;CRM197コンジュゲート)・・・、11価ワクチン製剤(9価に血清型3及び7Fを追加)(・・・)は臨床開発中である。」(第283頁右欄第10?18行)

(11)引用文献11の記載事項
(ア)摘記事項11-(1)
「血清の殺菌活性を調べた結果、我々は、いずれの群も陽性の血清であったが、CCPS-P64k_(R)群(審決注:還元アミノ化法でコンジュゲーションしたワクチン)においては殺菌活性の幾何平均力価(GMT)が他の群(審決注:カルボジイミド法でコンジュゲーションしたワクチンを含む)よりも3倍高いことを見出した(表1)。」(第196頁左欄第11?15行)
(イ)摘記事項11-(2)
「CCPS-P64kRで免疫した群のプール血清のみで、対照群と統計的な有意差をもってコロニー形成単位が低下し、防御効果が認められた(P<0.01、Dunnett多重比較検定)。」(第196頁右欄第10?13行)

(12)引用文献12の記載事項
(ア)摘記事項12-(1)
「4種のHibコンジュゲートワクチン(表11-5参照)について、ヒトでの詳細な評価が行われた。ワクチン(図11-7)は、全て同じハプテン(PRP)であっても、多糖のサイズ、キャリア蛋白の種類、結合のタイプが異なっており、誘導される免疫応答の型も異なる。」(第199頁左欄第12?17行)

3-4.判断
(1)本件訂正発明1について
(ア)特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について
一般に、疾病の予防・治療のための組成物に係る発明(医薬発明)が、「刊行物に記載された発明である」といえるためには、当該医薬の有効成分となる物質の名称や化学構造等が記載されているだけでは足りず、有効成分とされる物質が、目的とする疾病の予防・治療に十分な薬理作用を有することを当業者が認識できるだけの記載(例えば、薬理試験結果の記載)が当該刊行物にある必要があるところ、上記「3-3.引用文献の記載」によれば、引用文献1?10のいずれにも、実際に、上記13種類の各多糖体の各々がCRM_(197)にコンジュゲートした組成物を製造し、これが医薬として有用な免疫原性を示したことを明らかにした記載は見いだせない。
そして、免疫干渉の予測が困難であるとか、担体性のエピトープ抑制のリスクが存在するといった、本件出願の優先日当時の技術常識を考慮すれば、本件訂正発明1が奏する本件特許明細書に記載の効果は、上記各引用文献の記載からは当業者にも予測できない顕著な効果というべきものである。
したがって、本件訂正発明1は、引用文献1?7に記載された発明ではなく、また、引用文献1?10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号について
具体的な取消理由は、以下の1)、2)の2点である。
1)本件発明1?30の記載は、13価に満たない血清型の莢膜多糖類を含む多価免疫原性組成物、並びに13価を超える血清型の莢膜多糖類を含む多価免疫原性組成物をも含み得る記載となっている。
これに対して、本件特許明細書には、13価の多価免疫原性組成物に関する事項が記載されているに過ぎない。また、本件特許明細書の実施例においても、実際にワクチンとしての免疫原性が確認できているのは、13価コンジュゲートワクチンのみである。
また、一般的に血清型抗原の追加や削除は、免疫干渉や担体性のエピトープ抑制のリスクが存在することが知られている。このため、実施例にて実証された13価以外の血清型抗原を追加したり削除したりした多価免疫原性組成物については、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
さらに、本件発明1?30において、13価に満たない血清型の莢膜多糖類を含む多価免疫原性組成物や13価を超える血清型の莢膜多糖類を含む多価免疫原性組成物については、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていない。

2)本件発明1?30において、莢膜多糖類とキャリアタンパク質とのコンジュゲーションの形態については特に限定されておらず、あらゆるコンジュゲーションの形態が含まれ得る。
一方、本件特許明細書には、具体的に開示されるものは「還元的アミノ化」のみである。
また、本件特許明細書の実施例においても、実際に免疫原性が確認できているのは、「還元的アミノ化」によりコンジュゲートしたワクチンのみである。
ここで、コンジュゲートワクチンの免疫原性に関して、コンジュゲーションの形態が影響を与えることは、本件出願前において広く知られた事実である。例えば、引用文献11、12参照。
それゆえ、あらゆるコンジュゲーションの形態が含まれ得る本件発明1?30まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
また、「還元的アミノ化」以外のコンジュゲーションの形態については、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていない。

以下、検討する。
1)の点について
本件訂正請求による訂正後の請求項1の記載では、多価免疫原性組成物における多糖類-タンパク質コンジュゲートは13種類の血清型(1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F及び23F)の莢膜多糖類からなるもののみであるから、本件訂正発明1について、取消理由(イ)1)は解消している。

2)の点について
(a)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段について、以下のとおり記載されている。
「【0002】
ストレプトコッカスニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)は、世界中の乳児および子どもの髄膜炎、肺炎、および重度侵襲性疾患の主な原因である。・・・7価の肺炎球菌コンジュゲートワクチン(7vPnC、Prevnar(登録商標))は、その種の中でも、乳児および子どもの侵襲性疾患および中耳炎に対して高い免疫原性および効果を有することが示された最初のワクチンであった。・・・Prevnarは、CRM_(197)と呼ばれるキャリアタンパク質とそれぞれコンジュゲートした、血清型4、6B、9V、14、18C、19F、および23Fからの莢膜多糖類を含有する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血清型1、3、5、6A、7F、および19Aに起因する肺炎球菌による侵襲性疾患の相対的負荷の大きさおよび重要性を鑑みると、これらの血清型をPrevnar処方に加えることによって、米国および欧州では90%超、ならびにアジアおよびラテンアメリカでは70%?80%にまで、侵襲性疾患への適用範囲が高まるはずである。このワクチンは、Prevnar以上に適用範囲を著しく拡大し、血清群交差防御の制限に依存しない6Aおよび19Aへの適用範囲を提供するはずである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明は、一般に、13種類の異なる多糖類-タンパク質コンジュゲートを・・・含む多価免疫原性組成物を提供し、そのコンジュゲートのそれぞれは、キャリアタンパク質にコンジュゲートしたストレプトコッカスニューモニエの異なる血清型からの莢膜多糖類を含有する。・・・より具体的には、本発明は、7vPnCワクチン(4、6B、9V、14、18C、19F、および23F)の7種類の血清型に加えて、6種類のさらなる血清型(1、3、5、6A、7F、および19A)を含む13価の肺炎球菌コンジュゲート(13vPnC)組成物を提供する。
【0007】
本発明はまた、莢膜多糖類がストレプトコッカスニューモニエの血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、および23Fからのものであり、キャリアタンパク質がCRM_(197)である多価免疫原性組成物を提供する。」(第3頁第34行?第5頁15行)

(b)実施可能要件違反・サポート要件違反についての判断
上記(a)の記載から、本件訂正発明1は、肺炎球菌ワクチンとして従来知られていた「Prevenar(登録商標)」以上の適用範囲を有する肺炎球菌ワクチンを提供することを課題とし、その解決手段が、13種類の肺炎球菌莢膜多糖(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F及び23F)の各々がCRM_(197)にコンジュゲートした多糖類-タンパク質コンジュゲートを用いることであると理解でき、上記の課題が実際に解決できることを裏付ける記載として、本件特許明細書には、13種類の血清型の多糖類をそれぞれ還元的アミノ化法によってCRM_(197)にコンジュゲートした多糖類-タンパク質コンジュゲートを含む免疫原性組成物を製造し、ラビットでの免疫応答を確認したことも記載されている(実施例1?16)。
そして、多糖類-タンパク質コンジュゲートにおいて、多種多様なタンパク質や莢膜多糖類に免疫原性があることが、本件特許の優先日当時に周知であったことからすれば、上記実施例で確認された免疫応答の原因となっているのが、多糖類-タンパク質コンジュゲートの大部分を占める多糖類及びタンパク質(CRM_(197))の部分であって、コンジュゲーションによって形成される部分が、少なくともその主たる原因でないものと理解される。
以上のことからすると、本件訂正発明1の課題を解決するために必須の技術的事項は、本件訂正請求による訂正後の請求項1に記載のとおりのものと認められ、本件訂正発明1において、多糖類-タンパク質コンジュゲートが還元的アミノ化法によるものであることが、上記課題の解決に必須の技術的事項として、特許請求の範囲に記載されなければならない理由はない。
したがって、本件訂正発明1は、請求項1に記載の技術的事項によって、上記の課題を解決できる、すなわち、「Prevnar(登録商標)」以上の適用範囲を有する肺炎球菌ワクチンを提供できるものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)を満たしている。また、当業者は、周知のコンジュゲート法を用いることによって、過度の試行錯誤を要することなく、本件訂正発明1の多価免疫原性組成物を製造し、ワクチンとして使用し得るものといえるから、本件訂正発明1は、特許法第36条第4項第1号の要件(実施可能要件)を満たしている。

なお、引用文献11、12の上記摘記事項の記載は、多糖類-タンパク質コンジュゲートを含む免疫原性組成物の中には、当該多糖類-タンパク質コンジュゲートの免疫原性あるいはワクチンとしての効果が、そのコンジュゲーションの形態に影響されるものがあることを示唆するだけのものであり、還元的アミノ化法以外の方法でコンジュゲートされた多糖類-タンパク質コンジュゲートを含む本件訂正発明1の多価免疫原性組成物が、本件訂正発明1の課題を解決し得ないことを当業者に推認させるものではないから、引用文献11、12の記載から直ちに、本件訂正発明1がサポート要件・実施可能要件を満たすとする上記の判断が覆されるものではない。

(ウ)本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、上記いずれの取消理由にも該当しない。

(2)本件訂正発明3?6、10?15について
(ア)特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について
本件訂正発明3?6は、本件訂正発明1の多価免疫原性組成物にさらにアジュバントを含めることを付加するものであり、本件訂正発明10?15は、本件訂正発明1及び3?6の多価免疫原性組成物の用途を特定するものであり、いずれの発明も、本件訂正発明1の「発明を特定するための事項」の全部を含むものである。
したがって、本件訂正発明3?6、10?15も、本件訂正発明1と同様、引用文献1?7に記載された発明ではなく、また、引用文献1?10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号について
本件訂正発明3?6、10?15は、上記(ア)で説示したとおり、本件訂正発明1の多価免疫原性組成物にさらにアジュバントを含めることを付加したり、該組成物の用途を特定するものであるところ、これらの点はいずれも、本願出願日当時の周知・慣用の技術に属するものであり、これらの点も含む本件訂正発明3?6、10?15は、本件訂正発明1と同様に当業者が実施することができるものと認められ、また、本件訂正発明1と同様の課題を有し、当該課題を解決できるものとも認められる。

(ウ)本件訂正発明3?6、10?15についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明3?6、10?15も、上記いずれの取消理由にも該当しない。

(3)本件訂正請求による訂正後の請求項2、7?9、16?30に係る特許について
本件訂正請求による訂正により、請求項2、7?9、16?30は削除され、存在しないものとなった。
そうすると、請求項2、7?9、16?20に係る特許に対する本件特許異議申立ては、存在しない請求項に係る特許について、その取消を申立てるものであり、これは不適法なものであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正を認め、また、上記取消理由によっては、本件請求項1、3ないし6、10ないし15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3ないし6、10ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類-タンパク質コンジュゲートを、生理学的に許容できるビヒクルと共に含む多価免疫原性組成物であって、ここで前記多糖類-タンパク質コンジュゲートが13種類の異なる多糖類-タンパク質コンジュゲートからなり、そのコンジュゲートの各々がキャリアタンパク質にコンジュゲートしたストレプトコッカスニューモニエの異なる血清型からの莢膜多糖類を含み、その莢膜多糖類が血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19Fおよび23Fから調製され、ここで前記キャリアタンパク質はCRM_(197)であり、ここで各用量は1から5μgの前記各血清型の多糖を含む、多価免疫原性組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
さらにアジュバントを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
アジュバントがアルミニウムをベースとするアジュバントであるところの、請求項3記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
アジュバントがリン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムからなる群より選択されるところの、請求項4記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
アジュバントがリン酸アルミニウムであるところの、請求項5記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
医薬として用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
ワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
ストレプトコッカスニューモニエ莢膜多糖類コンジュゲートに対する免疫応答を誘発するための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
最初のワクチン投与後、被験者が、適切な間隔で1回または数回の追加免疫を受けるワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
ワクチン投与のスケジュールが、生後2、4、6、および12?15カ月である、乳児および幼児へのワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
青少年および成人へのワクチン投与に用いるための、請求項1及び3?6のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
(削除)
【請求項20】
(削除)
【請求項21】
(削除)
【請求項22】
(削除)
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)
【請求項25】
(削除)
【請求項26】
(削除)
【請求項27】
(削除)
【請求項28】
(削除)
【請求項29】
(削除)
【請求項30】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-12 
出願番号 特願2012-225307(P2012-225307)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 新留 素子
内藤 伸一
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5730261号(P5730261)
権利者 ワイス・エルエルシー
発明の名称 多価肺炎球菌多糖類-タンパク質コンジュゲート組成物  
代理人 森下 梓  
代理人 ▲高▼橋 宏次  
代理人 小野 新次郎  
代理人 一宮 維幸  
代理人 廣瀬 しのぶ  
代理人 龍田 美幸  
代理人 宮澤 純子  
代理人 一宮 維幸  
代理人 龍田 美幸  
代理人 飯村 敏明  
代理人 宮澤 純子  
代理人 ▲高▼橋 宏次  
代理人 四本 能尚  
代理人 森下 梓  
代理人 佐藤 眞紀  
代理人 小野 新次郎  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 佐藤 眞紀  
代理人 廣瀬 しのぶ  
代理人 飯村 敏明  
代理人 四本 能尚  

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