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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C02F
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  C02F
管理番号 1322281
異議申立番号 異議2016-700040  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-20 
確定日 2016-10-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5750607号発明「製紙工程水の殺菌装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5750607号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4、6?9〕、〔5、10?13〕について訂正することを認める。 特許第5750607号の請求項1?3、5?13に係る特許を維持する。 特許第5750607号の請求項4に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5750607号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年6月27日の出願であって、登録後の経緯は以下のとおりである。

平成27年 5月29日 :特許権の設定登録
平成28年 1月20日 :特許異議申立人 龍原 友二による特許異議の申立て
同年 3月16日付け:取消理由の通知
同年 5月17日 :訂正の請求、意見書の提出
同年 7月15日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成28年5月17日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による、一群の請求項1?9に係る訂正の内容は以下の(1)?(5)のとおりである。

(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の単位時間当たりの変動が所定値以内となるように構成されたことを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。」とあるのを、
「前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、前記第1薬剤注入部は、前記第1タンクと前記希釈水ラインとを接続する第1接続ラインと、前記第1接続ラインに設けられた第1ポンプとを有し、前記第2薬剤注入部は、前記第2タンクと前記希釈水ラインとを接続する第2接続ラインと、前記第2接続ラインに設けられた第2ポンプとを有し、前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の変動が所定値以内となるように、前記第1および第2ポンプが無脈動ポンプで構成されたことを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。」に訂正する。

(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項6?9がそれぞれ引用する請求項から、請求項4、5を削除する。

(3)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項3-1
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記希釈水ラインが、・・・前記第2薬剤注入部または前記第1薬剤注入部が前記第2バッファタンクに接続されている請求項1に記載の製紙工程水の殺菌装置。」とあるのを、
「水源からの希釈水を製紙工程水ラインを導入する希釈水ラインに、次亜ハロゲン酸化合物を含む第1溶液を貯蔵する第1タンクと、次亜ハロゲン酸化合物と反応することにより結合ハロゲンを生成する化合物である結合ハロゲン生成化合物を含む第2溶液を貯蔵する第2タンクと、前記第1タンク内の第1溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第1薬剤注入部と、前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の変動が所定値以内となるように、前記希釈水ラインが、・・・前記第2薬剤注入部または前記第1薬剤注入部が前記第2バッファタンクに接続されていることを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。」に訂正する。

(5)訂正事項3-2
特許請求の範囲の請求項5を引用する請求項6?9を、新たに請求項10?13とする。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項

(1)訂正事項1-1について
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1-1は、まず、訂正前の請求項1に、「前記第1薬剤注入部は、・・・第1接続ラインと、・・・第1ポンプとを有し、前記第2薬剤注入部は、・・・第2接続ラインと、・・・第2ポンプとを有し、」という発明特定事項、及び「前記第1および第2ポンプが無脈動ポンプで」あるという発明特定事項を直列的に付加するものである。
したがって、上記の点は特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)次に、「希釈水のpH値の単位時間当たりの変動が所定値以内となるように」から、「単位時間当たりの」を削除した点についてみると、「単位時間」が不明であったために、発明が技術的に不明瞭であったものを正し、発明を明確にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1-1のうち、訂正前の請求項1に、「前記第1薬剤注入部は、・・・第1接続ラインと、・・・第1ポンプとを有し、前記第2薬剤注入部は、・・・第2接続ラインと、・・・第2ポンプとを有し、」という発明特定事項、及び「前記第1および第2ポンプが無脈動ポンプで」あるという発明特定事項を直列的に付加する点は、上記「ア」のとおり特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)また、「希釈水のpH値の単位時間当たりの変動が所定値以内となるように」から、「単位時間当たりの」を削除した点について、訂正前の請求項1に係る本件特許発明は、「単位時間」を短い時間とすることにより、「単位時間当たりのpH値の変動」を小さくし、要件を満たすものとすることが可能であったところ、該「単位時間当たりの」を削除することにより、訂正後の請求項1に係る本件特許発明は、装置が作動している全ての時間を通じてpH値の変動が所定値以内となることを要することになる。
すなわち、pH値の変動に関する条件をより厳しくしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)したがって、訂正事項1-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項の有無について
上記「イ」のとおり、訂正事項1-1は、特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえないから、新たな技術的事項を導入するものともいえない。
したがって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、多数項を引用している請求項の引用請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。

(3)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。

(4)訂正事項3-1について
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項3-1は、まず、訂正前の請求項5が請求項1の記載を引用するものであったところ、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しない形へと書き替えようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

(イ)次に、「希釈水のpH値の単位時間当たりの変動が所定値以内となるように」から、「単位時間当たりの」を削除した点は、上記(1)ア(イ)と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項3-1のうち、請求項間の引用関係を解消したことは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)また、「希釈水のpH値の単位時間当たりの変動が所定値以内となるように」から、「単位時間当たりの」を削除した点についてみても、上記(1)イ(イ)と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)したがって、訂正事項3-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項の有無について
上記「イ」のとおり、訂正事項3-1は、特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえないから、新たな技術的事項を導入するものともいえない。
したがって、訂正事項3-1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項3-2について
訂正事項3-2は、訂正事項3-1に伴い、訂正前の請求項5を直接ないし間接に引用していた訂正前の請求項6?9を、訂正後の請求項5を引用する訂正後の請求項10?13としたものである。

したがって、上記(4)と同様の理由により、訂正事項3-2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記(4)と同様の理由により、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。

(6)一群の請求項について
訂正事項1-1?3-2に係る訂正前の請求項1?9について、請求項2?9は請求項1を引用していたから、訂正前の請求項1?9に対応する訂正後の請求項1?13は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
ただし、訂正後の請求項5、10?13については、引用関係の解消を目的とする訂正であるから、訂正後の請求項1?4、6?9とは別に訂正することを認める。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4、6?9〕、〔5、10?13〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(以下「本件特許発明1?13」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

【請求項1】
水源からの希釈水を製紙工程水ラインを導入する希釈水ラインに、次亜ハロゲン酸化合物を含む第1溶液を貯蔵する第1タンクと、次亜ハロゲン酸化合物と反応することにより結合ハロゲンを生成する化合物である結合ハロゲン生成化合物を含む第2溶液を貯蔵する第2タンクと、前記第1タンク内の第1溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第1薬剤注入部と、前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、
前記第1薬剤注入部は、前記第1タンクと前記希釈水ラインとを接続する第1接続ラインと、前記第1接続ラインに設けられた第1ポンプとを有し、
前記第2薬剤注入部は、前記第2タンクと前記希釈水ラインとを接続する第2接続ラインと、前記第2接続ラインに設けられた第2ポンプとを有し、
前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の変動が所定値以内となるように、前記第1および第2ポンプが無脈動ポンプで構成されたことを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。
【請求項2】
前記第1薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第1接続ポイントの下流位置または前記第2薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第2接続ポイントの下流位置、および前記希釈水ラインにおける前記第1接続ポイントと前記第2接続ポイントとの間位置に、ミキサーが設けられている請求項1に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項3】
前記第1薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第1接続ポイントが、前記第2薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第2接続ポイントよりも上流側に配置されている請求項1または2に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
水源からの希釈水を製紙工程水ラインを導入する希釈水ラインに、次亜ハロゲン酸化合物を含む第1溶液を貯蔵する第1タンクと、次亜ハロゲン酸化合物と反応することにより結合ハロゲンを生成する化合物である結合ハロゲン生成化合物を含む第2溶液を貯蔵する第2タンクと、前記第1タンク内の第1溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第1薬剤注入部と、前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、
前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の変動が所定値以内となるように、
前記希釈水ラインが、上流側希釈水ライン、中流側希釈水ラインおよび下流側希釈水ラインを有し、
前記上流側希釈水ラインと前記中流側希釈水ラインとの間に第1バッファタンクおよび撹拌機が設けられると共に、前記中流側希釈水ラインと前記下流側希釈水ラインとの間に第2バッファタンクおよび攪拌機が設けられ、
前記第1薬剤注入部または前記第2薬剤注入部が前記上流側希釈水ラインに接続されると共に、前記第2薬剤注入部または前記第1薬剤注入部が前記第2バッファタンクに接続されていることを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。
【請求項6】
前記希釈水ラインにおける前記第1および第2薬剤注入部よりも下流位置にpHセンサが設けられると共に、前記pHセンサからの信号が入力される制御部をさらに備え、
前記第1薬剤注入部が第1ポンプを有し、かつ前記第2薬剤注入部が第2ポンプを有し、
前記制御部は、前記pHセンサからの信号に基づいて前記第1および第2ポンプを個別に制御するよう構成された請求項1?3のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項7】
前記所定値が±0.1である請求項1?3、6のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項8】
前記次亜ハロゲン酸化合物が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸カリウムのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項1?3、6?7のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項9】
前記結合ハロゲン生成化合物が、水溶性の無機アンモニウム塩、アンモニア、スルファミン酸またはその塩、尿素、ヒダントイン化合物、グリシン、スレオニン、リジン、グルタミン酸およびタウリンのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項1?3、6?8のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項10】
前記希釈水ラインにおける前記第1および第2薬剤注入部よりも下流位置にpHセンサが設けられると共に、前記pHセンサからの信号が入力される制御部をさらに備え、
前記第1薬剤注入部が第1ポンプを有し、かつ前記第2薬剤注入部が第2ポンプを有し、
前記制御部は、前記pHセンサからの信号に基づいて前記第1および第2ポンプを個別に制御するよう構成された請求項5に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項11】
前記所定値が±0.1である請求項5または10に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項12】
前記次亜ハロゲン酸化合物が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸カリウムのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項5、10、11のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項13】
前記結合ハロゲン生成化合物が、水溶性の無機アンモニウム塩、アンモニア、スルファミン酸またはその塩、尿素、ヒダントイン化合物、グリシン、スレオニン、リジン、グルタミン酸およびタウリンのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項5、10?12のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1?9、すなわち訂正後の請求項1?13に係る特許に対して平成28年3月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1.本件特許発明は、「単位時間」及び「所定値」について何ら具体的に特定していないから、その技術範囲が不明確であり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由2.本件特許発明は、「単位時間」及び「所定値」の設定値によっては、本件特許発明が解決しようとする課題を解決し得ない範囲を包含するものであり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由3.本件特許発明1?3、8、9は、甲1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

理由4.本件特許発明1?3、8、9は、甲1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

甲1号証:特開2008-221152号公報

3.当審の判断
(1)取消理由に対する当審の判断
ア 理由1について
本件特許発明は、本件訂正により、pH値の変動について、「単位時間当たりの」ものである点が削除され、装置が作動している全ての時間を通じてpH値の変動が所定値以内となることを要するものとなった。
そして、本件特許発明は、「所定値」の幅を具体的に特定するものではないが、本件特許発明1においては、「前記第1ポンプおよび第2ポンプが無脈動ポンプで構成されている」こと、また、本件特許発明5においては、「前記上流側希釈水ラインと前記中流側希釈水ラインとの間に第1バッファタンクおよび撹拌機が設けられると共に、前記中流側希釈水ラインと前記下流側希釈水ラインとの間に第2バッファタンクおよび攪拌機が設けられ、前記第1薬剤注入部または前記第2薬剤注入部が前記上流側希釈水ラインに接続されると共に、前記第2薬剤注入部または前記第1薬剤注入部が前記第2バッファタンクに接続されている」こと、という具体的手段が特定されているから、当業者は、本件特許発明の構成とその技術的意義を理解することができる。
したがって、本件特許発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

イ 理由2について
上記「ア」のとおり、本件特許発明1ないし5は、pH値の変動を所定値以内とするための具体的手段が特定されており、当業者であれば、本件特許発明は、明細書【0009】に記載された課題を解決し得ることを理解できる。
したがって、本件特許発明は、その課題を解決し得ない範囲を包含するものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

ウ 理由3、4について
甲1号証には、「主配管(4)を流れる希釈用水に、薬液タンク(5)から定量ポンプ(6)により次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加し、ラインミキサー(7)により希釈し、次いで薬液タンク(8)から定量ポンプ(9)により硫酸アンモニウム水溶液を添加し、ラインミキサー(10)により、pHが8?11の範囲となる混合液が調製され、抄紙工程水へ添加される、抄紙工程水の微生物の生育を抑制する装置。」(甲1発明)が記載されている。(特許請求の範囲、【0004】、【0017】、【図1】)
しかしながら、本件特許発明1について、甲1号証には、無脈動ポンプを用いることについて記載も示唆もない。
また、本件特許発明5について、甲1号証には、バッファタンクを用いることについて記載も示唆もない。

ここで、特許異議申立人は意見書において、本件特許発明の「無脈動ポンプ」は、甲1発明の「定量ポンプ」と同等のものであると解釈されると主張している。
しかしながら、「無脈動ポンプ」とは、「定量ポンプ」のうち特に脈動がないものを指すことが当業者の技術常識であるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
また、甲1号証の【0011】には、「本発明の・・・方法によれば、得られた混合液のpHは、自ずと8?11の範囲となり、pHを調整する必要がなく・・・」と記載されているから、甲1発明において、定量ポンプとして無脈動ポンプを用いる動機付けもない。

(2)その他の特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は意見書において、本件特許発明1?3、6、8、9は甲2号証に記載された発明であるか、甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかしながら、甲2号証は、その表題にも記載のとおり、公衆浴場等におけるレジオネラ属菌対策を含めた総合的衛生管理手法に関するものであり、製紙工程水ラインに適用することについて記載も示唆もない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?3、5?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、5?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件請求項4に対して、特許異議申立人 龍原 友二がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水源からの希釈水を製紙工程水ラインを導入する希釈水ラインに、次亜ハロゲン酸化合物を含む第1溶液を貯蔵する第1タンクと、次亜ハロゲン酸化合物と反応することにより結合ハロゲンを生成する化合物である結合ハロゲン生成化合物を含む第2溶液を貯蔵する第2タンクと、前記第1タンク内の第1溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第1薬剤注入部と、前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、
前記第1薬剤注入部は、前記第1タンクと前記希釈水ラインとを接続する第1接続ラインと、前記第1接続ラインに設けられた第1ポンプとを有し、
前記第2薬剤注入部は、前記第2タンクと前記希釈水ラインとを接続する第2接続ラインと、前記第2接続ラインに設けられた第2ポンプとを有し、
前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の変動が所定値以内となるように、前記第1および第2ポンプが無脈動ポンプで構成されたことを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。
【請求項2】
前記第1薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第1接続ポイントの下流位置または前記第2薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第2接続ポイントの下流位置、および前記希釈水ラインにおける前記第1接続ポイントと前記第2接続ポイントとの間位置に、ミキサーが設けられている請求項1に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項3】
前記第1薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第1接続ポイントが、前記第2薬剤注入部の前記希釈水ラインとの第2接続ポイントよりも上流側に配置されている請求項1または2に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
水源からの希釈水を製紙工程水ラインを導入する希釈水ラインに、次亜ハロゲン酸化合物を含む第1溶液を貯蔵する第1タンクと、次亜ハロゲン酸化合物と反応することにより結合ハロゲンを生成する化合物である結合ハロゲン生成化合物を含む第2溶液を貯蔵する第2タンクと、前記第1タンク内の第1溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第1薬剤注入部と、前記第2タンク内の第2溶液を前記希釈水ライン内の希釈水中に注入する第2薬剤注入部とを備え、
前記希釈水ラインの最下流における前記第1溶液と第2溶液とが混合した希釈水のpH値の変動が所定値以内となるように、
前記希釈水ラインが、上流側希釈水ライン、中流側希釈水ラインおよび下流側希釈水ラインを有し、
前記上流側希釈水ラインと前記中流側希釈水ラインとの間に第1バッファタンクおよび撹拌機が設けられると共に、前記中流側希釈水ラインと前記下流側希釈水ラインとの間に第2バッファタンクおよび攪拌機が設けられ、
前記第1薬剤注入部または前記第2薬剤注入部が前記上流側希釈水ラインに接続されると共に、前記第2薬剤注入部または前記第1薬剤注入部が前記第2バッファタンクに接続されていることを特徴とする製紙工程水の殺菌装置。
【請求項6】
前記希釈水ラインにおける前記第1および第2薬剤注入部よりも下流位置にpHセンサが設けられると共に、前記pHセンサからの信号が入力される制御部をさらに備え、
前記第1薬剤注入部が第1ポンプを有し、かつ前記第2薬剤注入部が第2ポンプを有し、
前記制御部は、前記pHセンサからの信号に基づいて前記第1および第2ポンプを個別に制御するよう構成された請求項1?3のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項7】
前記所定値が±0.1である請求項1?3、6のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項8】
前記次亜ハロゲン酸化合物が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸カリウムのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項1?3、6?7のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項9】
前記結合ハロゲン生成化合物が、水溶性の無機アンモニウム塩、アンモニア、スルファミン酸またはその塩、尿素、ヒダントイン化合物、グリシン、スレオニン、リジン、グルタミン酸およびタウリンのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項1?3、6?8のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項10】
前記希釈水ラインにおける前記第1および第2薬剤注入部よりも下流位置にpHセンサが設けられると共に、前記pHセンサからの信号が入力される制御部をさらに備え、
前記第1薬剤注入部が第1ポンプを有し、かつ前記第2薬剤注入部が第2ポンプを有し、
前記制御部は、前記pHセンサからの信号に基づいて前記第1および第2ポンプを個別に制御するよう構成された請求項5に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項11】
前記所定値が±0.1である請求項5または10に記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項12】
前記次亜ハロゲン酸化合物が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸カリウムのうちから選択された1種または2種以上を含む請求5、10、11のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
【請求項13】
前記結合ハロゲン生成化合物が、水溶性の無機アンモニウム塩、アンモニア、スルファミン酸またはその塩、尿素、ヒダントイン化合物、グリシン、スレオニン、リジン、グルタミン酸およびタウリンのうちから選択された1種または2種以上を含む請求項5、10?12のいずれか1つに記載の製紙工程水の殺菌装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-26 
出願番号 特願2013-134975(P2013-134975)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 854- YAA (C02F)
P 1 651・ 113- YAA (C02F)
P 1 651・ 855- YAA (C02F)
P 1 651・ 853- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 永田 史泰
後藤 政博
登録日 2015-05-29 
登録番号 特許第5750607号(P5750607)
権利者 株式会社片山化学工業研究所 ナルコジャパン合同会社
発明の名称 製紙工程水の殺菌装置  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 稲本 潔  
代理人 野河 信太郎  
代理人 稲本 潔  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 金子 裕輔  
代理人 野河 信太郎  
代理人 金子 裕輔  
代理人 野河 信太郎  

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