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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1322294
異議申立番号 異議2016-700871  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-15 
確定日 2016-11-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5890654号発明「プレス成形方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5890654号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5890654号(以下,「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は,平成23年10月31日に特許出願され,平成28年2月26日にその特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成28年3月22日),その後,その特許に対し,平成28年9月15日に特許異議申立人 岩本朋子(以下,単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 特許異議申立ての理由の概要

特許異議申立人は,証拠として,甲第1号証及び甲第2号証を提出し,次の特許異議申立ての理由を主張している。

1 証拠方法

甲第1号証:第42回塑性加工連合講演会講演論文集I(9月25日,27日),社団法人 日本塑性加工学会,平成3年9月5日発行,p.445-448,写し
甲第2号証:特開2009-255116号公報

2 特許異議申立ての理由

理由1(特許法第29条第2項)

本件特許発明2は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項2に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由2(特許法第36条第6項第2号)

本件特許発明1及び2は明確でないから,本件出願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3(特許法第36条第4項第1号)

本件特許発明1は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから,本件出願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断

1 理由1(特許法第29条第2項)について

(1)甲号証の記載及び引用発明

ア 甲第1号証には「成形開始後から下死点の直前に至るまでの間パッドとパンチとの隙間によって前記パンチ底面直下の被加工材をたるませながら前記パンチをダイに対して相対移動させる第1のステップと,
前記パンチが前記第1のステップ以降から下死点に至るまでの間で前記パッドと前記パンチとの隙間を小さくしていくことで前記パンチ底面直下の前記被加工材のたるみを解消する第2のステップと,
によりプレス成形して前記プレス成形品とするプレス成形において,
材料強度が低い被加工材(HT55)よりも材料強度が高い被加工材(HT80)をプレス成形する場合には,パッドの背圧(クッション圧)を低くして被加工材のたわみδを大きくしてプレス成形するプレス成形方法」が記載されている。

イ 甲第2号証には「プレス成型方法」の発明が記載されている。

(2) 判断

本件特許発明2と甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)とを対比すると,甲第1号証には「成形開始後から下死点に至るまでの間で前記被加工材を前記パッドによって前記パンチに押し付けて前記パンチ底面に前記被加工材が接した状態」でプレス成形する,という点はなんら開示されていない。
ここで,甲第2号証には,「前記パンチが成形開始後から下死点に至るまでの間で前記被加工材を前記パッドによって前記パンチに押し付けて前記パンチ底面に前記被加工材が接した状態でプレス成形」する事項が従来技術(以下,「甲2技術」という。)として開示されているが,この際の材料は980MPa級高張力鋼板であり,甲1発明で引張強さが大きいとされているHT80よりも引張強さが大きい材料である。そして,甲第2号証では,甲2技術の課題を解決するために,甲1発明のように「たわみ量」を設けたプレス成形を開示している。
すなわち,甲第2号証で開示されているのは,甲2技術の課題を解決するために,甲1発明の技術を用いる,というものであるから,甲1発明に甲2技術を適用する動機を欠く。
また,「たわみ量」を設けた甲1発明のプレス成形方法と,「たわみ量」を設けない甲2技術のプレス成型方法とをいずれも用いることとし,さらにこれらの方法を材料強度に応じて使い分けるという点については,甲第1号証及び甲第2号証には記載も示唆もされていないことから,甲第1号証と甲第2号証とから,「最も材料強度が低い被加工材」の場合に甲2技術を用い,その他の材料強度の場合に甲1発明を用いる,という点は,甲1発明と甲2技術とから当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また,甲2技術は,甲1発明においてたわみ量が小さくなっていき,たわみ量が零となった場合である,としても,その「たわみ量が零となった場合」が「最も材料強度が低い被加工材を加工する場合」と同じ場合である,とする理由は何ら存在しないから,この点でも,本件特許発明2は甲1発明又は甲2技術から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明2は,甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 理由2(特許法第36条第6項第2号)について

(1)本件特許発明1

ア 特許異議申立人の主張

理由2についての主張として,特許異議申立書の第13ページ下から8行ないし下から6行には,「本件特許発明1は、『複数の異なる板厚の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する』ことを前提として、『最も板厚が厚い被加工材』と記載されているが、『最も板厚が厚い』の意義が不明確である。」と記載されている。

イ 当審の判断

本件特許発明1の「最も板厚が厚い被加工材」とは,「複数の異なる板厚の被加工材」のうち,「最も板厚が厚い被加工材」である。そして,特許異議申立人が申立書の主張の中で,「順次プレス成形する被加工材の板厚」が,「1.2mm,1.4mm,1.6mmの3種類であった場合には,『最も板厚が厚い』被加工材は,1.6mmのもの」であり,「1.2mm,1.4mmの2種類の場合には,『最も板厚が厚い』被加工材は,1.4mmのもの」であると例示できているように,複数の板厚の被加工材が存在する場合,「最も板厚が厚い被加工材」は明確に特定できると認められる。
したがって,本件特許発明1が,明確でないとはいえない。

(2)本件特許発明2

ア 特許異議申立人の主張

理由2に関する主張として,特許異議申立書の第15ページ15行ないし18行には,「本件特許発明2は、構成Aに記載されているように『複数の異なる材料強度の被加工材を、順次、ハット断面形状のプレス成形品にプレス成形する』ことを前提として、構成C、Dには、『最も材料強度が低い被加工材』という文言があるが、『最も材料強度が低い』の意義が不明確である。」と記載されている。

イ 当審の判断

本件特許発明2の「最も材料強度が低い被加工材」とは,「複数の異なる材料強度の被加工材」のうち,「最も材料強度が低い被加工材」である。そして,特許異議申立人が申立書の主張の中で,「順次プレス成形する被加工材の材料強度」が,「材料強度が590MPa、780MPaの2種類の場合には、『最も材料強度が低い』被加工材は、590MPaのもの」であり,「被加工材が780MPa、980MPaの場合には、『最も材料強度が低い』被加工材は、780MPaのもの」であると例示できているように,複数の異なる材料強度の被加工材が存在する場合,「最も材料強度が低い被加工材」は明確に特定できると認められる。
したがって,本件特許発明2が,明確でないとはいえない。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本件特許の請求項1及び2に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものではない。

2 理由3(特許法第36条第4項第1号)について

(1)特許異議申立人の主張

理由3に関する主張として,特許異議申立書の第15ページ10行ないし13行には,「最も板厚の厚い被加工材の板厚が変わる場合において、どのようにパンチとダイのクリアランスを設定(変更)するのかが当業者においても不明であり、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは言えない。」と記載されている。

(2)当審の判断

パンチとダイのクリアランスの設定は,従来技術でも行われていた事項
であり,例えば,本件特許の明細書の【0005】には,ハット断面形状のプレス成形品をプレス成形するための種々の方法が従来存在していたことが示されており,これらのプレス成形においてもプレスとダイのクリアランスの設定は行われているといえる。
そうすると,「複数の被加工材のうちの最も板厚の厚い被加工材を特定し、その特定された被加工材をプレス成形するときのクリアランスにパンチとダイの間のクリアランスを設定する」ものについては,その際のクリアランスは,その板厚の被加工材が従来プレス成形するときに用いられていたクリアランスとすればよい,と解され,ここで,従来からハット断面形状のプレス成形は当業者によって実施されているものであるから,当業者であれば当該クリアランス設定を行うことは可能であるといえる。
したがって,発明の詳細な説明の記載が,本件特許発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本件特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものではない。

第5 むすび

したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-16 
出願番号 特願2011-238765(P2011-238765)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B21D)
P 1 651・ 121- Y (B21D)
P 1 651・ 537- Y (B21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 間中 耕治水野 治彦  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 長清 吉範
平岩 正一
登録日 2016-02-26 
登録番号 特許第5890654号(P5890654)
権利者 新日鐵住金株式会社 富士重工業株式会社
発明の名称 プレス成形方法  
代理人 寺本 光生  
代理人 山口 洋  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 志賀 正武  
代理人 寺本 光生  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 山口 洋  
代理人 志賀 正武  

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