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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1322298
異議申立番号 異議2016-700807  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-31 
確定日 2016-11-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第5873949号発明「燃料マニホールド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5873949号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5873949号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年9月15日(国内優先権主張 平成26年10月21日)を出願日とする出願であって、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人鈴木秀仁により特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
特許第5873949号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
それぞれの内部に燃料ガス流路が形成された複数の燃料電池セルが設けられるように構成された燃料マニホールドであり、燃料ガスを前記複数の燃料電池セルのそれぞれの前記燃料ガス流路に供給する燃料マニホールドであって、
内部空間を画定する壁を有する燃料マニホールド本体と、
前記燃料マニホールド本体の壁に形成された貫通孔に挿入され、前記燃料マニホールド本体の内部空間に燃料ガスを導入するための導入管と、
前記内部空間内に位置する金属材料で構成され、前記導入管を前記壁に溶融接合する接合材と、
を備えた、燃料マニホールド。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料マニホールドにおいて、
前記導入管は、前記壁に対して前記内部空間側での溶接、または、ろう付けによって、
前記壁に接合・固定された、燃料マニホールド。
【請求項3】
燃料電池セルとセパレータとが交互に複数回積層された燃料電池のスタック構造体の積層方向の端部に設けられた蓋部材であり、燃料ガスを前記複数の燃料電池セルに供給する蓋部材であって、
内部空間を画定する壁を有する蓋本体と、
前記蓋部材の壁に形成された貫通孔に挿入され、前記蓋本体の内部空間に燃料ガスを導入するための導入管と、
前記内部空間内に位置する金属材料で構成され、前記導入管を前記壁に溶融固定する接合材と、
を備えた、蓋部材。
【請求項4】
請求項3に記載の蓋部材において、
前記導入管は、前記壁に対して前記内部空間側での溶接、または、ろう付けによって、
前記壁に接合・固定された、蓋部材。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人鈴木秀仁は、主たる証拠として特開2011-29115号公報(以下、「刊行物1」という。)、及び、特開2010-199058号公報(以下、「刊行物7」という。)、並びに、従たる証拠として特開2004-157052号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開平8-124584号公報(以下、「刊行物3」という。)、特開2005-216643号公報(以下、「刊行物4」という。)、特開平7-201353号公報(以下、「刊行物5」という。)、特開2007-207454号公報(以下、「刊行物6」という。)、及び、特開平11-45727号公報(以下、「刊行物8」という。)を提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明のセルスタック装置の一例を示す外観斜視図である。図2は、本発明のセルスタック装置の効果を説明するための説明図である。なお、以降の図において同一の部材については同一の番号を付するものとする。
【0024】
本発明のセルスタック装置Aは、内部にガス流路(不図示)を有する燃料電池セル1を複数個立設させた状態で、間に集電部材(不図示)を設けて電気的に接続してなるセルスタック3と、セルスタック3の下端をシール材5を介して固定するマニホールド7と、セルスタック3の上方に設けられ、中央部に気化部を備えるとともに、その両端部に燃料ガス送出口11を有し、上面に原燃料供給管31が設けられた改質器9と、改質器9のそれぞれの燃料ガス送出口11に接続された燃料ガス供給管13とから構成されており、燃料ガス供給管13は、マニホールド7の両端部に接続されている。ここで、本発明のセルスタック装置Aを構成する燃料ガス供給管13は、少なくともその一部に応力緩和部14を有することが重要である。また、セルスタック3の両端部には、燃料電池セル1(セルスタック3)の発電により生じた電流を集電して外部に引き出すための、電流引出部15を有する導電部材17が配置されている。ここで、応力緩和部14とは、燃料ガス供給管13の他の部分よりも弾性変形しやすい部分をいう。また、ここでいうマニホールド7の端部とは、セルスタック3の端部からマニホールド7の側面のうち燃料電池セル1の配列方向と直交する側面までの領域およびその側面を意味する。ここでセルスタック3および集電部材17の下端をマニホールド7に固定するためのシール材5としては、セルスタック3が高温に加熱されても変形や溶融しないような耐熱性を有するガラスやガラスにセラミック粒子を含むガラスセラミックスなどが好適に用いられる。
【0025】
これにより、改質器9が高温において、図2に示すように、破線で示した方向へと膨張した場合においても、マニホールド7に生じる応力は、燃料ガス供給管13(応力緩和部14)が変形することにより緩和されることから、マニホールド7の変形が抑えられる。このためセルスタック3を固定するためのシール材5に割れが生じることを抑制でき、結果的にセルスタック装置Aの耐久性を高めることができるとともに、信頼性を向上することができる。
【0026】
また、本発明のセルスタック装置Aにおいては、応力緩和部14は、燃料ガス供給管13のマニホールド7との接続部付近7aに設けられていることが好ましい。
【0027】
これにより、改質器9が高温となって膨張したときの燃料ガス供給管13の変形をマニホールド7との接続部付近に集約できるために、シール材5の割れをさらに抑制することが可能になるとともに、燃料ガス供給管13の改質器9とマニホールド7との途中での変形を抑制できる。
【0028】
ここでいうマニホールド7の接続部付近7aとは、燃料ガス供給管13が接続されたマニホールド7の穴7bの付近の燃料ガス供給管13の部分をいい、図2においては、応力緩和部14に相当する部分である。燃料ガス供給管13をマニホールド7に接続する場合においては、燃料ガス供給管13に設けられた応力緩和部14をマニホールド7に形成された穴7bに溶接して接続される。
【0029】
図2では、応力緩和部14として、蛇腹構造を示したが、本発明においては、応力緩和部14が燃料ガス供給管13の他の部位よりも弾性的に変形しやすい構造となっていればよい。この場合、例えば、図3に示すように、(a)燃料ガス供給管13の管径を小さくした構造、(b)燃料ガス供給管13の管の肉厚を薄くした構造などが好適である。
【0030】
以上説明した応力緩和部14は、燃料ガス供給管13と一体物であってもよいが、燃料ガス供給管13が応力緩和部14を有する構造であれば、燃料ガス供給管13とは別に作製した部材14bを接続するものであってもかまわない(図3(c))。この場合、燃料ガス供給管13との接続部において燃料ガスの漏洩を防止するという理由から、応力緩和部14と燃料ガス供給管13との接する面には金属性の耐熱性のあるシール部材を設けることが好ましく、このような接続はスウェージロック式またはねじ式にするのがよい。」
「【0033】
図4は、本発明のセルスタック装置Aを構成する改質器の一例を示す断面図である。図4に示す改質器9においては、筒状の容器23内の燃料電池セル1の配列方向に沿った中央部に気化部25を有し、気化部25の両側部(すなわち燃料電池セル1の配列方向に沿った両端部)に改質触媒27を備える改質部29を有している。気化部25は、原燃料が供給される供給口30を有し、供給口30に原燃料供給管31が接続されている。また、それぞれの改質部29には、原燃料を改質して生成される燃料ガスを送出するための燃料ガス送出口11を有し、燃料ガス送出口11に燃料ガス供給管13の一端が接続されている。なお、気化部25と改質部29とは通気性のある壁33で分離されている。また、図示しないが、改質器9において水蒸気改質を行う場合においては、原燃料供給管31の内側に水供給管を設けることもできる。
【0034】
このようなセルスタック装置Aにおいては、改質器9におけるそれぞれの改質部29にて生成された燃料ガスが、それぞれの燃料ガス供給管13を通してマニホールド7の両端部より燃料電池セル1に供給されることとなる。
【0035】
それにより、マニホールド7上に配置されたセルスタック3を構成する各燃料電池セル1に十分量の燃料ガスを供給することができ、燃料電池セル1が劣化することや発電効率が低下することを抑制することができる。」
「【0044】
なお、図1においては、燃料電池セル1としては、内部を燃料ガス(水素含有ガス)が長手方向に流通するガス流路を有する中空平板型の支持体の表面に、燃料側電極層、固体電解質層および酸素側電極層をこの順に設けてなる固体酸化物形燃料電池セル1を例示している。」

イ 図面の記載
「【図1】


「【図2】


「【図3】



ウ 上記アの記載事項、及び、上記イの記載事項には、「セルスタック3」と「マニホールド7」と「改質器9」を備えた「セルスタック装置A」について記載されている。

エ 上記アの記載事項の【0024】には、「マニホールド7」は、内部にガス流路を有する燃料電池セル1を複数個立設させた状態で、間に集電部材を設けて電気的に接続してなるセルスタック3の下端をシール材5を介して固定するものであることが記載されている。

オ 上記アの記載事項の【0024】には、「マニホールド7」の両端部に燃料ガス供給管13が接続されていることが記載されている。

カ 上記アの記載事項の【0028】には、燃料ガス供給管13に設けられた応力緩和部14が、「マニホールド7」に形成された穴7bに溶接して接続されることが記載されている。

キ 上記アの記載事項の【0034】には、燃料ガスが、燃料ガス供給管13を通じて「マニホールド7」の両端部より燃料電池セル1に供給されることが記載されている。

ク 上記アの記載事項の【0044】には、燃料電池セル1は内部に燃料ガスが流通するガス流路を有することが記載されている。

ケ 上記イの記載事項の【図2】及び【図3】から、穴7bが「マニホールド7」の上面に形成されていることが看取できる。

コ 上記オから、「マニホールド7」と「燃料ガス供給管13」の組み合わせで、一つの装置とみることができる。

サ 上記カ、ケ及びコから、「マニホールド7」と「燃料ガス供給管13」の組み合わせは、「マニホールド7」の上面に形成された穴7bに、燃料ガス供給管13に設けられた応力緩和部14が溶接して接続されているといえる。

シ 上記エ、ク及びコより、「マニホールド7」と「燃料ガス供給管13」の組み合わせは、内部に燃料ガス流路を有する燃料電池セル1を複数個立設させるものであるといえる。

ス 上記キ、コ及びシから、「マニホールド7」と「燃料ガス供給管13」の組み合わせは、燃料ガスを複数の燃料電池セル1に供給するものであるといえる。

セ 上記イの記載事項の【図2】及び【図3】から、「マニホールド7」は、内部空間を画定する上面を有することが看取できる。

ソ 上記サより、「マニホールド7」と「燃料ガス供給管13」の組み合わせは、「マニホールド7」の上面に形成された穴7bに溶接して接続された燃料ガス供給管13を備えたものといえる。

タ 上記シ?ソから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「内部に燃料ガス流路を有する燃料電池セル1を複数個立設させたマニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせであり、燃料ガスを複数の燃料電池セル1に供給するマニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせであって、
内部空間を画定する上面を有するマニホールド7と、
マニホールド7の上面に形成された穴7bに溶接して接続された燃料ガス供給管13と、
を備えた、マニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせ。」

(2)刊行物2の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属酸化物などの半導体からなるサーミスタや金属抵抗体等を感温素子として備える温度センサに関する。更に詳しくは、自動車の排気ガス浄化装置の触媒コンバータ内部や排気管内等といった被測定流体(例えば排気ガス)が流通する流通路内に素子を配置し、被測定流体の温度検出を行う温度センサに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、先端側に感温素子であるサーミスタ素子を接続し、後端側に外部回路接続用のリード線を接続している金属芯線を内包したシース部材(シースピン)と、サーミスタ素子を収納する形態でシース部材に装着される金属キャップとを備え、このシース部材がフ
ランジ(リブ)の所定位置にて溶接された構造の温度センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような温度センサは、排気ガス通路内を流れる排気ガスの温度を感温素子によって検出するための排気温センサとして用いられている。
【0003】
【特許文献1】
特開2000-162051号公報(第1図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、特許文献1に記載の温度センサにおいては、フランジ内にシース部材を挿入し、フランジにおける排気ガス通路寄りの端部(換言すれば、フランジの先端部)をレーザー溶接により全周溶接することによって、フランジとシース部材とを固定した構造を有している。しかし、このような構造の温度センサでは、例えば排気管に装着されたときに、フランジとシース部材との溶接部が排気ガス通路内に配置されることになる。そのために、排気管内にて感熱部(排気管内に配置されるサーミスタ素子側の部位)から溶接部を経由してフランジに熱が伝導する熱引きの問題が生ずる。感熱部からフランジへの熱伝導が容易になると、応答性の悪化、感熱部での温度測定精度の低下を招くことに繋がる。
【0005】
また、排気ガス通路内に金属体同士の溶接部が配置される場合、溶接部が高温環境下に直接晒されるために同溶接部が酸化してしまい、長期間の使用によりセンサ自体の耐久性や排気ガスの気密性を損なうおそれがある。そのために、温度センサの信頼性を高めるべく、排気ガス通路内に配置されるレーザー溶接等の溶接部をできるだけ少なくさせた構造が望まれている。」

(3)刊行物3の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物3には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は固体電解質燃料電池の集電部品酸化防止方法に関し、具体的には固体電解質型燃料電池で発生した電気を外部に取り出すための金属製集電部品の高温酸化防止方法に関する。」
「【0007】
【作用】この発明は、燃料電池のカソード側から排出されるガス(酸化雰囲気)を電池の設置されている部屋とは別の部屋に放出すると共に、電池のアノード側から排出されているガス(還元性雰囲気)を、直接、燃料電池の設置されている部屋(炉内)に放出し電池周りを還元性雰囲気とする。このように、電池のアノード側から排出されるガス(還元性雰囲気)を直接炉内に放出し、電池周りを還元性雰囲気とすることにより、集電部品の高温酸化を防止できる。
【0008】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図1(A),(B)を参照して説明する。ここで、図1(A)は平面図、図1(B)は図1(A)の縦断面図である。本実施例は、平板型の固体電解質型燃料電池において燃料と酸化剤を対向に流す対向流型に関する。電池部は、従来と同様に、チャンバー21内に固体電解質型燃料電池22、金属製の集電部品23、及び燃料入口マニホールド24,酸化剤入口マニホールド26,酸化剤出口マニホールド27を配置して構成されている。燃料は燃料入口マニホールド24から固体電解質型燃料電池22に供給され、燃料電池22の設置されているチャンバー21に直接放出する。一方、酸化剤は酸化剤入口マニホールド26から燃料電池22に供給され、酸化剤出口マニホールド27に排出する様にする。こうした構成により、上記実施例では、従来のように電池運転中に多量の窒素を必要とすることなく、電池周りは還元性雰囲気11となり、集電部品23の酸化防止が可能となる。」

イ 図面の記載
「【図1】



(4)刊行物4の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物4には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型燃料電池に関し、詳細には、熱サイクルに対する耐久性に優れた積層構造の平板型固体電解質型燃料電池に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の平板型の固体電解質型燃料電池では電流の取出しを金属板を接合させることによって行っているが、固体電解質型燃料電池は、約1000℃にも達する高温で運転されるものであり、金属酸化の問題を起こし易いため、酸素雰囲気で金属材料を使用することは、出来るだけ避けるべきである。」
「【0034】
セル305は、電池の最小構成単位であって、燃料側電極302と、酸素側電極304との間に平板状の固体電解質膜303が挟み込まれた構造である。そして、燃料側電極302は燃料側集電体301と接合し、酸素側電極304は酸素側集電体306と接合するように配置される。固体電解質膜303の材質としては、例えばYSZを主成分とする材料などが用いられる。燃料側電極302の材質は、例えばニッケル-ジルコニアサーメットの多孔質セラミックスを用いることが可能であり、酸素側電極304の材質としては、例えば、ランタンマンガナイト(LaMnO_(3))系の多孔質セラミックスを用いることができる。」
「【0041】
本実施形態の固体電解質型燃料電池100では、ユニット31eと下部の耐熱性基板10bとの間に、導電性セラミックスからなる集電体300が配備されている。この集電体300は、燃料側集電体301と同様の材質のものを用いることができる。集電体300を配備する意義は以下のとおりである。
本実施形態においては、上部の耐熱性基板10aは、燃料側集電体301が介在した状態ではあるが、燃料ガス60の流路(破線)に近接している。この燃料ガス60は水素などの還元性ガスであるため、燃料側集電体301を超えて耐熱性基板10a側に漏出しても、金具11の周囲は還元雰囲気となって、これが酸化したり腐食したりする心配は少ない。これに対して、下部の耐熱性基板10bは、通常の折り返しガス流れの場合、ユニット31eの酸素側集電体306およびセパレータ307により遮断されているものの、酸化材ガス70の流路に近接した状態になっている。このため、万一、酸化材ガス70が酸素側集電体306およびセパレータ307を超えて漏出した場合、下部耐熱性基板10bに組み込まれた金具11が酸化したり、腐食したりして、電池性能を損なうおそれがある。このため、本実施形態では、ユニット31a?31eとは別に集電体300を配備し、ここで燃料ガス60の折り返し流路を付加することにより、下部耐熱性基板10bの金具11の周囲を燃料ガス雰囲気(還元雰囲気)になるようにしている。」

イ 図面の記載
「【図1】



(5)刊行物5の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物5には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0022】この実施例に係る燃料電池は、電解質板1(電解質層)をその両主面側から一対の電極、すなわちアノード2a,カソード2bで挟むように配設した構成の単位燃料電池3,3′を備えている。これら単位燃料電池3,3′間に、それぞれ集電板4a,4bを介してセパレータ部材5a,5b,5cから成るセパレータ5を配設している。また、複数のセパレータ5同士の間は、所要ガスチャネルを形成するため、電気絶縁性のセラミック製のマニホールドリング6および金属製のリング状部材(シールリング)10の積層によって、セパレータ5同士の間を気密に接続するように構成されている。
【0023】つまり、マニホールドリング6およびシールリング10は、セパレータ5の間に積層されて介在し、燃料系ガスチャネルもしくは酸化剤系ガスチャネルとして機能している。」
「【0034】なお、単位燃料電池3,3′を積層配置した積層型燃料電池の構成においては、金属製のシールリング10とセパレータ5との間は、積層配置に先立ってろう付け、溶接,高温接着剤による接着等により予め接合しておいても良い。そして、この場合は製造工程が容易になるとともに、ガスシール性の向上も図り得る。また、セパレータ5に内蔵されたスペーサ11についても、対向するセパレータ部材5a,5b,5cに、積層配置に先立ってろう付け,溶接,高温接着剤による接着等により予め接合しておいても良い。そして、この場合は製造工程が容易になる。」
「【0041】なお、組み立ておよび製造に当たって、セパレータ部材5bとシールリング10と厚板リング12、厚板リング12′とセパレータ部材5cの積層配置に先立って、それぞれ予めろう付け,溶接,高温接着剤による接着などで接合しておけば、組み立て作業性およびガスシール性が向上する。」

イ 図面の記載
「【図1】



(6)刊行物6の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物6には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換させるエネルギー部門で用いる燃料電池セルをセパレータを介して積層してなる燃料電池スタックに関するものである。」
「【0038】
セパレータ35を構成するセンタープレート36、四角枠レール37、カソード側レール38、シールリング39、アノード側及びカソード側の各流路形成板兼集電板40及び41は、上記のように構成してあるので、センタープレート36の周辺の上面に四角枠レール37を載せて、該レール37の下面とセンタープレート36の周辺の上面同士を全周にわたり溶接又はろう付けにて接合する。同様に、センタープレート36の下面に前後のカソード側レール38の上面のメタルタッチ面を当接させ、溶接又はろう付けにて接合し、センタープレート36と四角枠レール37及びカソード側レール38とを気密状態に一体化させる。
【0039】
次に、四角枠レール37の内側にアノード側の流路形成板兼集電板40を配置して、下方へ突出している各突部41bの先端をセンタープレート36の上面に接触させて、センタープレート36の上面に燃料ガスFGの流路(通路)を形成させるようにする。
【0040】
次いで、カソード側レール38の間にカソード側の流路形成板兼集電板41を配置して、上方へ突出している各突部41bの先端をセンタープレート36の下面に接触させて、センタープレート36の下面に酸化ガスOGの流路を形成させるようにすると共に、上記カソード側の流路形成板兼集電板41の左右両端部の各切欠部46,47に、それぞれシールリング39を嵌合させ、各シールリング39をセンタープレート36の各マニホールド42,43に一致させて、溶接又はろう付けにて気密に接合させ、セパレータ35を組み立て形成させるようにする。なお、シールリング39は、センタープレート36の下面にカソード側レール38を溶接するときに、センタープレート36の下面にマニホールド42,43と連通するように溶接またはろう付けで接合してから、カソード側の流路形成板兼集電板41の切欠部46,47に嵌合させるようにしてもよい。」

イ 図面の記載
「【図1】


「【図5】



(7)刊行物7の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物7には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質からなる電解質部と、電解質部と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して燃料ガスを反応させる燃料電極部と、電解質部と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して酸素を含むガスを反応させる空気電極部と、を備えた反応部材、を利用した反応装置に関する。」
「【0034】
(燃料電池の全体構造)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物型燃料電池(以下、単に「燃料電池」と称呼する。)10の破断斜視図である。図2は、燃料電池10の部分分解斜視図である。燃料電池10は、薄板体11とセパレータ12とが交互に積層されることにより形成されている。即ち、燃料電池10は、平板スタック構造を備えている。薄板体11は、燃料電池10の「単セル」とも称呼される。
【0035】
図2の円A内に拡大して示したように、薄板体11は、電解質層(固体電解質層)11aと、電解質層11aの上(上面)に形成された燃料極層11bと、電解質層11aの下(下面、燃料極層11bとは反対の面)に形成された空気極層11cと、を有している。薄板体11の平面形状は、互いに直交するx軸及びy軸の方向に沿う辺を有する正方形(1辺の長さ=A)である。薄板体11は、x軸及びy軸に直交するz軸方向に厚み方向を有する板体(厚さ=t1)である。」
「【0037】
薄板体11は、一対のセル貫通孔11d,11dを備えている。それぞれのセル貫通孔11dは、電解質層11a、燃料極層11b及び空気極層11cを貫通している。一対のセル貫通孔11d,11dは、薄板体11の一つの辺の近傍であってその辺の両端部近傍領域に形成されている。
【0038】
図3は、図2においてx軸と平行な1-1線を含むとともにx-z平面と平行な平面に沿ってセパレータ12を切断したセパレータ12の断面図である。図2及び図3に示したように、セパレータ12は、平面部12aと、上方枠体部12b(周縁部)と、下方枠体部12c(周縁部)と、を備えている。セパレータ12の平面形状は、互いに直交するx軸及びy軸の方向に沿う辺を有する正方形(1辺の長さ=A)である。平面部12aの厚さはtzであり、「枠体部」(周縁部)の厚さはt2(>tz)である。」
「【0040】
平面部12aは、z軸方向に厚み方向を有する薄い平板体である。平面部12aの平面形状は、x軸及びy軸方向に沿う辺を有する正方形(1辺の長さ=L(<A))である。
【0041】
上方枠体部12bは、平面部12aの周囲(4つの辺の近傍領域、即ち、外周近傍領域)において上方に向けて立設された枠体である。上方枠体部12bは、外周枠部12b1と段差形成部12b2とからなっている。
【0042】
外周枠部12b1は、セパレータ12の最外周側に位置している。外周枠部12b1の縦断面(例えば、y軸方向に長手方向を有する外周枠部12b1をx-z平面に平行な平面に沿って切断した断面)の形状は長方形(又は正方形)である。
【0043】
段差形成部12b2は、平面部12aの四つの角部のうちの一つの角部において、外周枠部12b1の内周面からセパレータ12の中央に向けて延設された部分である。段差形成部12b2の下面は平面部12aと連接している。段差形成部12b2の平面視における形状は略正方形である。段差形成部12b2の上面(平面)は、外周枠部12b1の上面(平面)と連続している。段差形成部12b2には、貫通孔THが形成されている。貫通孔THは、段差形成部12b2の下方に位置する平面部12aにも貫通している。
【0044】
下方枠体部12cは、平面部12aの周囲(4つの辺の近傍領域、即ち、外周近傍領域)において下方に向けて立設された枠体である。下方枠体部12cは、平面部12aの厚さ方向の中心線CLに対して上方枠体部12bと対称形状を有している。従って、下方枠体部12cは、外周枠部12b1、及び段差形成部12b2とそれぞれ同一形状の外周枠部12c1、及び段差形成部12c2を備えている。但し、段差形成部12c2は、平面部12aの四つの角部のうち段差形成部12b2が形成されている角部と隣り合う2つの角部のうちの一方の角部に配置・形成されている。
【0045】
図4は、薄板体11及び薄板体11を支持(挟持)した状態における一対のセパレータ12を、図2においてy軸と平行な2-2線を含むとともにy-z平面と平行な平面に沿って切断した縦断面図である。上述したように、燃料電池10は、薄板体11とセパレータ12とが交互に積層されることにより形成されている。
【0046】
ここで、この一対のセパレータ12のうち、薄板体11に対してその下方・上方に隣接するものをそれぞれ、便宜上、下方セパレータ121及び上方セパレータ122と称呼する。図4に示したように、下方セパレータ121及び上方セパレータ122は、下方セパレータ121の上方枠体部12bの上に上方セパレータ122の下方枠体部12cが対向するように互いに同軸的に配置される。
【0047】
薄板体11は、その周縁部全周が、下方セパレータ121の上方枠体部12b(周縁部)の上面と上方セパレータ122の下方枠体部12c(周縁部)の下面との間に挟持される。このとき、薄板体11は、下方セパレータ121の平面部12aの上面に空気極層11cが対向するように配置され、上方セパレータ122の平面部12aの下面に燃料極層11bが対向するように配置される。
【0048】
薄板体11の周縁部全周と下方セパレータ121の上方枠体部12bの全周、並びに、薄板体11の周縁部全周と上方セパレータ122の下方枠体部12cの全周は、シール材13により、互いに、電気的に絶縁された状態でシール(接合)され且つ相対移動不能に固定されている。シール材13としては、結晶化ガラス(非晶質領域が残存していてもよい。)が使用される。
【0049】
以上により、図4に示したように、下方セパレータ121の平面部12aの上面と、下方セパレータ121の上方枠体部12b(外周枠部12b1及び段差形成部12b2)の内側壁面と、薄板体11の空気極層11cの下面と、により酸素を含む気体が供給される空気流路21が形成される。酸素を含む気体は、図4の破線の矢印により示したように、上方セパレータ122の貫通孔THと薄板体11のセル貫通孔11dとを通して空気流路21に流入する。
【0050】
また、上方セパレータ122の平面部12aの下面と、上方セパレータ122の下方枠体部12c(外周枠部12c1及び段差形成部12c2)の内側壁面と、薄板体11の燃料極層11bの上面と、により水素を含む燃料が供給される燃料流路22が形成される。燃料は、図4の実線の矢印により示したように、下方セパレータ121の貫通孔THと薄板体11のセル貫通孔11dとを通して燃料流路22に流入する。
【0051】
また、図4に示すように、空気流路21中において、ステンレス(具体的には、フェライト系SUS)製の平板状の金属メッシュ(前記「導電部材」に対応)であるSUSメッシュ31(例えば、エンボス構造を有する。)が内装されている。SUSメッシュの31の線径は、例えば0.05?0.5mmである。また、このフェライト系SUS製の「導電部材」はメッシュではなく、エキスパンドメタルなどでも良い。この場合、板厚は、例えば0.05?0.5mmである。「導電部材」の材質であるフェライト系SUSとしては、例えば、日立金属株式会社製のZMG232Lを使用することが好ましい。
【0052】
SUSメッシュ31の上端部(上側凸部)及び下端部(下側凸部)はそれぞれ、薄板体11の空気極層11cの下面及び下方セパレータ121の平面部12aの上面と接触している。より具体的には、後述するように、SUSメッシュ31の上端部は、Ag焼成膜を介して空気極層11cと固定され且つ電気的に接続され、SUSメッシュ31の下端部は、溶接(或いは、拡散接合)により下方セパレータ121と固定され且つ電気的に接続されている。後に詳述するように、このSUSメッシュ31に対しては、空気流路21に内装される前において予め、Agめっき処理、且つ真空熱処理が施されている。
【0053】
同様に、燃料流路22中において、Ni製の平板状の金属メッシュであるNiメッシュ32(例えば、エンボス構造を有する。)が内装されている。Niメッシュの32の線径は、例えば0.05?0.5mmである。Niメッシュ32の上端部及び下端部はそれぞれ、上方セパレータ122の平面部12aの下面及び薄板体11の燃料極層11bの上面と接触している。より具体的には、後述するように、Niメッシュ32の上端部は、溶接(或いは、拡散接合)により上方セパレータ122と固定され且つ電気的に接続され、Niメッシュ32の下端部は、Ni焼成膜を介して燃料極層11bと固定され且つ電気的に接続されている。
【0054】
このように、空気流路21内にSUSメッシュ31が内装されることで、下方セパレータ121と薄板体11(の空気極層11c)との電気的接続が確保され、燃料流路22内にNiメッシュ32が内装されることで、上方セパレータ122と薄板体11(の燃料極層11b)との電気的接続が確保される。加えて、係る金属メッシュ31,32の内装により、ガスの流通経路が規制される。この結果、空気流路21及び燃料流路22中において、平面視にてガスの流通により発電反応が実質的に発生し得る領域の面積(流通面積)が拡大され得、薄板体11にて発電反応が効果的に発生し得る。
【0055】
以上のように構成された燃料電池10は、例えば、図5に示したように、燃料流路22に燃料が供給され、且つ、空気流路21に空気が供給されることにより、以下に示す化学反応式(1)及び(2)に基づく発電を行う。
(1/2)・O_(2)+2^(e-)→O^(2-) (於:空気極層11c) …(1)
H_(2)+O^(2-)→H_(2)O+2^(e-) (於:燃料極層11b) …(2)」

イ 図面の記載
「【図1】


「【図2】


「【図3】


「【図4】


「【図5】



ウ 上記アの記載事項、及び、上記イの記載事項には、「固体酸化物型燃料電池10」について記載されている。

エ 上記アの記載事項の【0034】には、「固体酸化物型燃料電池10」は、薄板体11とセパレータ12とが交互に積層されている平板スタック構造を備え、薄板体11は燃料電池10の単セルであることが記載されている。

オ 上記記載事項アの【0049】には、「固体酸化物型燃料電池10」において、酸素を含む気体は、上方セパレータ122の貫通孔THと薄板体11のセル貫通孔11dとを通して空気流路21に流入することが記載されている。

カ 上記記載事項アの【0050】には、「固体酸化物型燃料電池10」において、燃料は、下方セパレータ121の貫通孔THと薄板体11のセル貫通孔11dとを通して燃料流路22に流入することが記載されている。

キ 上記アの記載事項の【0051】には、「固体酸化物型燃料電池10」は、空気流路21中において、SUSメッシュ31が内装されていることが記載されている。

ク 上記アの記載事項の【0053】には、「固体酸化物型燃料電池10」は、燃料流路22中において、Niメッシュ32が内装されていることが記載されている。

ケ 上記イの記載事項の【図1】から、「固体酸化物型燃料電池10」の薄板体11及びセパレータ12が積層された最上部の薄板体11の上に「蓋」が設けられていることが看取できる。

コ 上記イの記載事項の【図1】から、「固体酸化物型燃料電池10」のセパレータ12及び「蓋」は、それらの下部に同様の薄板体11が形成されていることが看取できる。

サ 上記イの記載事項の【図2】及び【図5】から、各セパレータ12には、2つの貫通孔THが形成されていることが看取できる。

シ 上記イの記載事項の【図4】から、「固体酸化物型燃料電池10」のセパレータ12の下部には、Niメッシュ32が内装された内部空間を有することが看取できる。

ス 上記記載事項イの【図4】から、「固体酸化物型燃料電池10」は、下方セパレータ121の貫通孔THには、下方より上方へ気体が流れ、上方セパレータ121の貫通孔THには、上方より下方へ気体が流れることが看取できる。

セ 上記コ及びシより、「固体酸化物型燃料電池10」の「蓋」の下部には、セパレータ12と同様に、Niメッシュ32が内装された内部空間を有するといえる。

ソ 上記イの記載事項の【図1】から、「蓋」の上面の壁には、2つの穴が形成されていることが看取できる。

タ 上記オ、カ及びスから、「固体酸化物型燃料電池10」は、酸素を含む気体が「固体酸化物型燃料電池10」の積層構造の上方から供給され、燃料は「固体酸化物型燃料電池10」の積層構造の下方から供給されるといえる。

チ 上記タより、酸素を含む気体が上方から供給され、燃料は下方から供給されるから、「蓋」の壁に形成された2つの穴は、一方が酸素を含む気体の供給穴であり、他方が燃料の排出穴であるといえる。

ツ 上記エ及びケから、「蓋」は、燃料電池10の単セルである薄板体11とセパレータ12とが交互に積層されている平板スタック構造の最上部の薄板体11の上に設けられている。

テ 上記チから、「蓋」は燃料を排出するものであるといえる。

ト 上記セから、「蓋」は、内部空間を画定する壁を備えているといえる。

ナ 上記チから、「蓋」は、その壁に形成された排出穴を有するといえる。

ニ 上記ツ?ナから、刊行物7には、次の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。
「燃料電池10の単セルである薄板体11とセパレータ12とが交互に積層されている平板スタック構造の最上部の薄板体11の上に設けられた蓋であり、燃料を排出する蓋であって、
内部空間を画定する壁を有する蓋を備え、
蓋部材の壁に形成された燃料の排出穴を有する、蓋。」

(8)刊行物8の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物8には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固体電解質を用いて電気化学反応によってそのギブスの自由エネルギーを電気エネルギーに変換する固体電解質型燃料電池に係わり、特に、発電特性および熱効率に優れ、信頼性の高い平板型支持膜方式の固体電解質型燃料電池に関する。」
「【0004】図5は、従来の平板型支持膜方式の固体電解質型燃料電池の基本構成を示す断面図である。強度を備えた円板形の多孔質基板19の一方の主面にアノード電極20、固体電解質層21を形成し、さらにその上にランタンマンガナイトからなるカソード電極22を形成したセルを、セパレータ23を介装して順次積層することにより円柱状の燃料電池積層体が構成されている。セルの内部の中央部の近傍にはそれぞれ二つの貫通孔が設けられており、積層体中に燃料ガス入口マニホールド24と酸化剤ガス入口マニホールド25を形成している。なお、本構成では、このように内部にガス入口マニホールドが配されているので、一般に内部マニホールド方式と呼ばれる。」
「【0012】
【発明の実施の形態】
<実施例1>図1は、本発明の固体電解質型燃料電池の第1の実施例に用いられるセパレータの基本構成を示す平面図で、(a)はアノード電極側より見た平面図、(b)はカソード電極側より見た平面図である。また、図2は、このセパレータの斜視図で、(a)はアノード電極側より見た斜視図、(b)はカソード電極側より見た斜視図である。
【0013】セパレータ1は、耐熱性、耐酸化性のニッケルークロム合金材料からなる円形状の薄板を金型を用いたプレス加工により凹凸形状に成形したもので、アノード電極側の表面に燃料ガスのマニホールド2、ガス流路4、排出口となる絞り溝6および集電突起8が、また、カソード電極側の表面に酸化剤ガスのマニホールド3、ガス流路5、排出口となる絞り溝7および集電突起9が備えられている。このうち、燃料ガスのマニホールド2とガス流路4はカソード電極側の集電突起9に相対し、酸化剤ガスのマニホールド3とガス流路5はアノード電極側の集電突起8に相対している。また、燃料ガスのマニホールド2と酸化剤ガスのマニホールド3はそのガス導入口が相対する側端に位置するよう配されている。
【0014】本構成において、側端部のガス導入口よりマニホールド2へと導入された燃料ガスは、中央部分の平坦部へと導かれ、複数のガス流路4へと分流されたのち、各ガス流路4の側端部に配された絞り溝6より外部へと排出される。同様に、反対面の側端部のガス導入口よりマニホールド3へと導入された酸化剤ガスは、中央部分の平坦部へと導かれ、複数のガス流路5へと分流されたのち、各ガス流路5の側端部に配された絞り溝7より外部へと排出される。流路抵抗の大きい絞り溝6が配されているので、複数のガス流路4への分流の等配率の高い燃料ガスの流れが得られ、同様に、絞り溝7によって、複数のガス流路5への分流の等配率の高い酸化剤ガスの流れが得られることとなる。また、上述のごとく、燃料ガスと酸化剤ガスのガス導入口が相対する側端に配されているので、この部に継ぎ手やガス供給管を溶接接続することによりガスが供給されるので、従来の構成で用いていたごときガスシール部が不要となり、ガスのリークが回避され、クロスリークが防止されるので、優れた発電特性で安定して運転できることとなる。」

イ 図面の記載
「【図2】


「【図5】



5 対比・判断
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「マニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせ」、「燃料ガス」、「マニホールド7」、「上面」、「穴7b」、「燃料ガス供給管13」は、本件特許発明1の「燃料マニホールド」、「燃料ガス」、「燃料マニホールド本体」、「壁」、「貫通孔」、「燃料ガスを導入するための導入管」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明1の「内部に燃料ガス流路を有する燃料電池セル1を複数個立設させたマニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせ」は、本件特許発明1の「それぞれの内部に燃料ガス流路が形成された複数の燃料電池セルが設けられるように構成された燃料マニホールド」に相当する。

(ウ)引用発明1の「燃料ガスを複数の燃料電池セル1に供給するマニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせ」は、本件特許発明1の「燃料ガスを前記複数の燃料電池セルのそれぞれの前記燃料ガス流路に供給する燃料マニホールド」に相当する。

(エ)引用発明1の「内部空間を画定する上面を有するマニホールド7」は、本件特許発明1の「内部空間を画定する壁を有する燃料マニホールド本体」に相当する。

(オ)引用発明1の「マニホールド7の上面に形成された穴7bに溶接して接続された燃料ガス供給管13」「を備えた」事項と、本件特許発明1の「燃料マニホールド本体の壁に形成された貫通孔に挿入され、前記燃料マニホールド本体の内部空間に燃料ガスを導入するための導入管と、前記内部空間内に位置する金属材料で構成され、前記導入管を前記壁に溶融接合する接合材と、を備えた」事項とは、「燃料マニホールド本体の壁に形成された貫通孔に溶融接合され、前記燃料マニホールド本体の内部空間に燃料ガスを導入するための導入管を備えた」事項で一致する。

上記(ア)?(オ)によれば、本件特許発明1と引用発明1とは、
「それぞれの内部に燃料ガス流路が形成された複数の燃料電池セルが設けられるように構成された燃料マニホールドであり、燃料ガスを前記複数の燃料電池セルのそれぞれの前記燃料ガス流路に供給する燃料マニホールドであって、
内部空間を画定する壁を有する燃料マニホールド本体と、
前記燃料マニホールド本体の壁に形成された貫通孔に溶融固定され、前記燃料マニホールド本体の内部空間に燃料ガスを導入するための導入管と、
を備えた、燃料マニホールド。」で一致し、以下ア及びイの点で相違する。

(相違点)
ア 本件特許発明1では、「導入管」が「貫通穴に挿入され」ているのに対し、引用発明1では、「燃料ガス供給管13」が穴7bに挿入されているのか否か不明な点。
イ 「接合材」について、本件特許発明1では、「内部空間内に位置する金属材料で構成され」ているものであるのに対し、引用発明1は、「接合材」を備えているのか否か不明な点。

まず、上記イの相違点について検討する。
引用発明1は、「燃料ガス供給管13」を「マニホールド7の上面に形成された穴7bに溶接して接続された」ものであり、溶接して接続する際に金属材料で構成された接合材を用いることは、引例を挙げるまでもなく慣用手段であるから、引用発明1の「燃料ガス供給管13」を、金属材料で構成された接合材を用いて「マニホールド7の上面に形成された穴7bに溶接して接続」することは、当業者が容易になし得たことである。
しかしながら、その際の溶接箇所について、刊行物1には、「燃料ガス供給管13をマニホールド7に接続する場合においては、燃料ガス供給管13に設けられた応力緩和部14をマニホールド7に形成された穴7bに溶接して接続される」(【0028】)と記載されており、マニホールド7が箱状の物体であることを勘案すると、箱状のマニホールド7に溶接する際に、箱の内部から溶接できないので、箱の外部で溶接することが自然である。なお、刊行物1には、マニホールド形成前に上面の内部側から溶接することについては記載も示唆もされていない。
そこで、上記イの相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項が、当業者が容易になし得たものであるというためには、引用発明1において、「燃料ガス供給管13」を、金属材料で構成された接合材を用いて「マニホールド7の上面に形成された穴7bに溶接して接続」する際に、接合材が「内部空間内に位置する」ことが、当業者にとって容易になし得たものであるといえなければならないので、この点について、以下検討する。

刊行物2(【0001】、【0004】、【0005】参照。)には、自動車の排気ガス浄化装置の触媒コンバータ内部や排気管内等といった排気ガスの温度検出を行う温度センサにおいて、排気ガス通路内に温度センサの金属体同士の溶接部が配置される場合、溶接部が高温環境下に直接晒されるために同溶接部が酸化してしまい、センサ自体の耐久性や排気ガスの気密性を損なうおそれがあることが記載されている。
しかしながら、刊行物2に記載された事項は、自動車の排気ガス浄化装置の触媒コンバータ内部や排気管内等といった排気ガスの温度検出を行う温度センサに関するものであるから、該温度センサの溶接部が酸化する恐れがあるからといって、ただちに、引用発明1の「燃料電池セルを立設させた」「マニホールド7と燃料ガス供給管13の組み合わせ」における、「マニホールド7」と「燃料ガス供給管13」との接続部に同様の課題が存在することを、当業者は想起できない。

刊行物3(【0007】参照。)には、燃料電池の設置されている炉内において、電池のアノード側から排出されるガス(還元性雰囲気)を直接炉内に放出し、電池周りを還元性雰囲気とすることにより、集電部品の高温酸化を防止したことが記載されている。
しかしながら、上記したように、当業者であれば、引用発明1において、「燃料ガス供給管13」と「穴7b」との接続箇所を、外部に位置する接合材で接続することが自然であるといえるところ、刊行物3に記載された事項を参酌して、引用発明1において、電池のアノード側から排出される燃料ガス(還元性雰囲気)を、外部に位置する接合材を用いて接合した箇所に対して放出させることは、当業者にとって容易になし得たことであったとしても、内部空間に位置する接合材で接合することは、刊行物3の記載に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

刊行物4(【0041】参照。)には、固体電解質型燃料電池100において、ユニット31a?31eとは別に集電体300を配備し、ここで燃料ガス60の折り返し流路を付加することにより、下部耐熱性基板10bの金具11の周囲を燃料ガス雰囲気(還元雰囲気)になるようにして、金具11が酸化したり腐食したりするのを防ぐことが記載されている。
しかしながら、上記したように、当業者であれば、引用発明1において、「燃料ガス供給管13」と「穴7b」との接続箇所を、外部に位置する接合材で接続することが自然であるといえるところ、引用発明1において、セル1の詳細な構造が不明であり、どのように刊行物4に記載の事項を適用すればよいのか不明であるし、仮に適用できたとしても、刊行物4に記載の事項は、燃料ガス60の経路を変更するものであって、接合材の接合箇所について開示するものではないから、内部空間に位置する接合材で接合することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

刊行物5(【0034】、【0041】参照。)には、積層型燃料電池において、金属製のシールリング10とセパレータ5との間、スペーサ11とセパレータ部材5a,5b,5cとの間、及び、セパレータ部材5bとシールリング10と厚板リング12との間をそれぞれろう付け、溶接,高温接着剤による接着等により接合することが記載されている。
また、刊行物6(【0001】、【0038】、【0040】参照。)には、燃料電池スタックにおいて、レール37の下面とセンタープレート36の周辺の上面同士を全周にわたり溶接又はろう付けにて接合すること、センタープレート36の下面に前後のカソード側レール38の上面のメタルタッチ面を当接させ、溶接又はろう付けにて接合すること、各シールリング39をセンタープレート36の各マニホールド42,43に一致させて、溶接又はろう付けにて気密に接合すること、及び、センタープレート36の下面にマニホールド42,43と連通するように溶接またはろう付けで接合することが記載されている。
刊行物5及び6からすると、燃料電池を構成する金属部材の接合について、溶接やろう付けを行うことは周知慣用技術であるといえるが、これらの記載をもって、引用発明において、内部空間に位置する接合材で接合することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

以上から、上記イの相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、引用発明1及び刊行物2?6に記載された事項から、当業者が容易になし得たものということはできない。

したがって、上記アの相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1及び刊行物2?6に記載された事項から、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記「(1)本件特許発明1について」で述べた理由と同様の理由により、引用発明1及び刊行物2?6に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3と引用発明7とを対比する。
(ア)引用発明7の「蓋」、「燃料電池10の単セルである薄板体11」、「燃料」は、本件特許発明3の「蓋本体」、「燃料電池セル」、「燃料ガス」に相当する。
また、本件特許発明3の「蓋部材」は、「蓋本体」、「導入管」及び「接合材」とを備えたものであるから、引用発明7の「蓋」と本件特許発明3の「蓋部材」とは、いずれも「蓋本体」を含むものである点で共通する。

(イ)引用発明7の「燃料電池10の単セルである薄板体11とセパレータ12とが交互に積層されている平板スタック構造の最上部の薄板体11の上に設けられた蓋」と、本件特許発明3の「燃料電池セルとセパレータとが交互に複数回積層された燃料電池のスタック構造体の積層方向の端部に設けられた蓋部材」とは、いずれも「燃料電池セルとセパレータとが交互に複数回積層された燃料電池のスタック構造体の積層方向の端部に設けられた」蓋本体を含むものである点で共通する。

(ウ)引用発明7の「蓋」は「燃料を排出する」ものであって、燃料が「燃料電池10の単セルである薄板体11」から流れてくるものといえるから、引用発明7の「燃料を排出する蓋」と、本件特許発明3の「燃料ガスを前記複数の燃料電池セルに供給する蓋部材」とは、いずれも「前記複数の燃料電池セルとの燃料ガス経路となる」蓋本体を含むものである点で共通する。

(エ)引用発明7の「内部空間を画定する壁を有する蓋」は、本件特許発明3の「内部空間を画定する壁を有する蓋本体」に相当する。

(オ)引用発明7の「蓋の壁に形成された燃料の排出穴」と、本件特許発明3の「蓋部材の壁に形成された貫通孔」とは、蓋本体を含むものの「壁に形成された貫通孔」で共通する。

上記(ア)?(オ)によれば、本件特許発明3と引用発明7とは、
「燃料電池セルとセパレータとが交互に複数回積層された燃料電池のスタック構造体の積層方向の端部に設けられた蓋本体を含むものであり、前記複数の燃料電池セルとの燃料ガス経路となる蓋本体を含むものであって、
内部空間を画定する壁を有する蓋本体と、
前記蓋本体を含むものの壁に形成された貫通孔と、を備えた、蓋本体を含むもの。」で一致し、以下ウ及びエの点で相違する。

(相違点)
ウ 燃料ガス経路となる蓋本体を含むものが、本件特許発明3は、「燃料ガスを、前記複数の燃料電池セル」に「供給する」ものであるのに対し、引用発明7は、「燃料を排出する」ものである点。
エ 本件特許発明3は、「貫通孔に挿入され、前記蓋本体の内部空間との燃料ガス経路である導入管と、前記内部空間内に位置する金属材料で構成され、前記導入管を前記壁に溶融固定する接合材と、を備えた」ものであるのに対し、引用発明7は、「導入管」及び「接合材」が存在するか否か不明な点。

まず、上記エの相違点について検討する。
引用発明7は、「蓋の壁に形成された燃料の排出穴を有する」ものであって、燃料電池において、燃料ガスの供給または排出を管により行うこと、及び、燃料ガスが流れる管を穴に接続する際に、金属材料で構成された接合材を用いることは、いずれも周知技術であるから、引用発明7において、「蓋部材の壁に形成された燃料の排出穴」に、燃料ガスの排出を行う管を金属材料で構成された接合材を用いて接続することは、当業者が容易になし得たことである。
しかしながら、上記「5」「(1)」でも述べた理由と同様に、当業者であれば、「蓋部材」の「排出穴」と「管」との接続を、本件特許発明3のように「内部空間内」に位置する接合材で接続するよりもむしろ、外部に位置する接合材で接続することが自然であるといえる。
そこで、上記エの相違点に係る本件特許発明3の発明特定事項が、当業者が容易になし得たものであるというためには、引用発明7において、管を金属材料で構成された接合材を用いて排出穴に接続する際に、接合材が「内部空間内に位置する」ことが、当業者にとって容易になし得たものであるといえなければならないので、この点について、以下検討する。

刊行物8(【0004】、【0013】、【0014】)には、多孔質基板19の一方の主面にアノード電極20、固体電解質層21を形成し、さらにその上にカソード電極22を形成したセルを、セパレータ23を介装して順次積層することにより構成された燃料電池積層体において、セパレータに形成された燃料ガスと酸化剤ガスのガス導入口が、継ぎ手やガス供給管を溶接接続することによりガスが供給される点が記載されている。
しかしながら、刊行物8に記載された事項は、ガス導入口にガス供給管がどのように溶接接続されているか不明であるから、引用発明7において、管を金属材料で構成された接合材を用いて排出穴に接続する際に、管を排出穴に挿入するとともに、接合材を「内部空間内に位置」させることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

また、刊行物2?6に記載された事項は、上記「(1)本件特許発明1について」で述べたとおりであり、引用発明7において、管を金属材料で構成された接合材を用いて排出穴に接続する際に、接合材を「内部空間内に位置」させることについても、上記「(1)本件特許発明1について」で検討した理由と同様の理由により、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

以上から、上記エの相違点に係る本件特許発明3の発明特定事項は、引用発明7及び刊行物2?6、8に記載された事項から、当業者が容易になし得たものということはできない。

したがって、上記ウの相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、引用発明7及び刊行物2?6、8に記載された事項から、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3を更に減縮したものであるから、上記「(3)本件特許発明3について」で述べた理由と同様の理由により、引用発明7及び刊行物2?6、8に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。

(5)小結
以上のとおり、本件特許発明1?4は、引用発明1及び引用発明7並びに刊行物2?6、8に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-11 
出願番号 特願2015-181668(P2015-181668)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎菊地 リチャード平八郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 千葉 輝久
土屋 知久
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5873949号(P5873949)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 燃料マニホールド  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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