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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1322312
異議申立番号 異議2016-700757  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-22 
確定日 2016-12-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5869932号発明「鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び鍵盤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5869932号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第5869932号の請求項1ないし4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年3月27日に出願され、平成28年1月15日に特許の設定登録がされ、同年8月22日にその特許に対し、特許異議申立人東レ株式会社から特許異議の申立てがされたものである。



第2 本件発明

特許第5869932号の請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
グラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含む鍵盤用ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体であり、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれることを特徴とする鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(A)のゴム状重合体とグラフト共重合する単量体に関して、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20?100重量%、その他の共重合可能な他のビニル系単量体0?80重量%((メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の合計は100重量%)の組成比率であって、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)の単量体に関して、(メタ)アクリル酸エステル系単量体50?100重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0?50重量%((メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体の合計は100重量%)の組成比率であることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、ポリアミド樹脂(C)1?30重量部を配合する事を特徴とする鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる鍵盤。」

以下、特許第5869932号の請求項1ないし4に係る発明を、それぞれ、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい、本件特許発明1ないし4を総称して「本件特許発明」ということもある。



第3 特許異議の申立ての概要

特許異議申立人東レ株式会社(以下、単に「異議申立人」という。)は、証拠として特開2009-139512号公報(以下、「甲1」という。)、特開平11-199742号公報(以下、「甲2」という。)、特開2010-44112号公報(以下、「甲3」という。)、特開2010-224147号公報(以下、「甲4」という。)、特開2001-34268号公報(以下、「甲5」という。)及び特開2009-98628号公報(以下、「甲6」という。)を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおりの主張している。

1.特許法第29条第1項第3号について
請求項1及び4に係る発明は、甲1に記載された発明と同一であるから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第2項に該当し取り消すべきものである。

2.特許法第29条第2項について
(1)請求項1ないし4に係る発明は、甲1に記載された発明と甲3ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第2項に該当し取り消すべきものである。

(2)請求項1ないし4に係る発明は、甲2に記載された発明と甲3ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第2項に該当し取り消すべきものである。

3.特許法第36条第6項第1号
請求項1ないし4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。

4.特許法第36条第4項第1号
請求項1ないし4に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されてなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。



第4 甲1ないし6の記載及び甲1及び甲2に記載された発明

1.甲1の記載
甲1には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
スチレン系重合体が50質量%以上含まれるスチレン系樹脂(A)50?95質量%、珪酸塩鉱物(B)5?50質量%からなり、鉛筆硬度がHB以上であるスチレン系樹脂組成物(I)からなる鍵盤。
【請求項2】
スチレン系樹脂(A)が芳香族ビニル単量体、および不飽和ニトリル単量体からなる共重合体を含むことを特徴とする請求項1記載の鍵盤。
【請求項3】
珪酸塩鉱物(B)がタルクであることを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤。」(特許請求の範囲請求項1?3)

(2)「本発明の課題は、従来にない象牙のような見た目の高級感、タッチ感、演奏性、経済性、および吸水寸法変化に優れ、傷が付きにくく、耐薬品性の高い素材からなる鍵盤を提供する事にある。」(段落【0006】)

(3)「本発明で用いられるスチレン系樹脂(A)とは、少なくとも芳香族ビニル単量体を含むスチレン系重合体を50質量%以上含む樹脂である。スチレン系重合体は芳香族ビニル単量体の単独重合体であっても、芳香族ビニル単量体を含む共重合体であっても良い。該スチレン共重合体としては、芳香族ビニル単量体の他に不飽和ニトリル単量体や他の共重合可能な単量体を共重合したものを用いることができる。これらのうち芳香族ビニル単量体、および不飽和ニトリル単量体からなる共重合体が含まれることが好ましい。芳香族ビニル単量体の割合は、特に制限はないが、30?100質量%が好ましく、更に45?90質量%が好ましい。
スチレン系樹脂(A)には、スチレン系(共)重合体が50質量%以上含まれ、成形性、耐薬品性および演奏性の点で50質量%以上である。
スチレン系樹脂(A)には、ゴム状重合体に芳香族ビニル単量体のほか必要に応じて他の単量体をグラフトしたグラフト重合体も含むことができる。
芳香族ビニル単量体には特に制限はなく、具体例としてはスチレンをはじめ、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレンおよびp-t-ブチルスチレンなどが挙げられるが、なかでもスチレンおよびα-メチルスチレンが好ましく用いられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
不飽和ニトリル系単量体には特に制限はなく、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、中でもアクリロニトリルが好ましい。これらは、1種または2種以上用いることができる。アクリロニトリルの含有量に特に制限はないが、例えばアクリロニトリル・スチレン共重合体の場合では、15?50質量%が好ましい。
その他の共重合可能な単量体としては、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレートなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸などが挙げられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
スチレン系重合体としては、ポリスチレン、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・N-フェニルマレイミド共重合体、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体が挙げられ、これらのうち、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体が好ましい。
共重合体の製造方法は、特に制限されるものではないが、乳化重合、塊状重合あるいは塊状・懸濁重合により製造されることが好ましい。
グラフト重合体に用いられるゴム状重合体には特に制限はなく、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが使用できる。これらゴム状重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン-メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル-メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン系共重合体、エチレン-イソプレン共重合体およびエチレン-アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム状重合体のうちでは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムが好ましい。
ゴム状重合体の質量平均粒子径に特に制限はないが0.1?0.5μmが好ましい。質量平均粒子径は衝撃性の向上から0.1μm以上が好ましく、外観性の低下から0.5μm以下が好ましい。ゴム状重合体の配合量は、スチレン系樹脂組成物(I)の鉛筆硬度がHB以上になる範囲であれば特に制限はないが、スチレン系樹脂組成物(I)中に0?10質量%が好ましい。更に好ましくは8質量%以下であり。成形性、耐傷性の低下から10質量%以下である。
グラフト重合体は、ジエン系ゴムにアクリロニトリル、スチレンなどをグラフトしたABS樹脂、アクリル系ゴムにアクリロニトリル、スチレンなどをグラフトしたASA樹脂、エチレン系ゴムにアクリロニトリル、スチレンなどをグラフトしたAES樹脂が好ましい。更に好ましくは8質量%以下である。
グラフト重合体の製造方法は、特に制限されるものではないが、乳化重合、塊状重合あるいは懸濁重合より製造されることが好ましい。」(段落【0010】?【0016】)

(4)「本発明のスチレン系樹脂組成物(I)には、鉛筆硬度HB以上の範囲であれば、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。他の熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、アクリルエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカプロラクトン、芳香族ポリエステルエラストマー、ポリアミド系エラストマー、ASグラフトポリエチレン、およびASグラフトポリプロピレンなどが挙げられる。これらのうちポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。」(段落【0022】)

(5)「1.実施例および比較例に用いた原材料
<樹脂成分>
(スチレン系(共)重合体)
(A-1)アクリロニトリル30質量%、スチレン70質量%からなり、還元粘度が0.73であるアクリロニトリル・スチレン共重合体
(A-2)アクリロニトリル40質量%、スチレン60質量%からなり、還元粘度が0.58であるアクリロニトリル・スチレン共重合体
(A-3)ブタジエン系ゴム50質量%、ゴム重量平均粒子径200?300nm、アクリロニトリル15質量%、スチレン35重量%、グラフト率55%、還元粘度0.26のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体
(その他の樹脂)
(A-4)ポリメチルメタクリレート(旭化成ケミカルズ株式会社製 デルペット80N)
<充填剤成分>
(珪酸塩鉱物(B))
(B-1)タルク(キハラ化成株式会社製 SP-GB) 平均粒子径8μm
(その他の充填剤)
(B-2)繊維径0.5?1.0μm、繊維長8?30μmである塩基性硫酸マグネシウム
(B-3)炭酸カルシウム(株式会社カルファイン製 ACE-35)
<その他(C)>
(C-1)二酸化チタン(石原産業株式会社製 タイペークPF691)
(C-2)エチレンビスステアリルアミド(花王株式会社製 花王ワックスEB-FF)
ここで、スチレン系重合体におけるグラフト率とは、ゴム状重合体にグラフト共重合した成分の、ゴム状重合体に対する質量割合として定義される。重合反応により生成した重合体をアセトンに溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分と不溶分とに分離する。この時、アセトンに溶解する成分は重合反応した共重合体のうちグラフト反応しなかった成分(非グラフト成分)であり、アセトン不溶分はゴム状重合体、及びゴム状重合体にグラフト反応した成分(グラフト成分)である。アセトン不溶分の重量からゴム状重合体の質量を差し引いた値がグラフト成分の質量として定義されるので、これらの値からグラフト率を求めることが出来る。
また、スチレン系重合体における還元粘度とは、熱可塑性樹脂をアセトンに溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離する。熱可塑性樹脂におけるゴム状重合体にグラフトしていない成分(非グラフト成分)の還元比粘度は、アセトン可溶分0.25gを2-ブタノン50mlにて溶解した溶液を、30℃にてCannon-Fenske型毛細管中の流出時間を測定することにより得られる。
2.成形品の作成および評価方法
実施例、比較例中の評価、各種測定は以下の通りである。
表1に示された配合割合で全ての成分をドライブレンドし、株式会社池貝製PCM45二軸押出機(L/D=28.9)を用いて250℃で溶融混練を行った。
日本製鋼所製J-100EPI射出成形機を用いシリンダー設定温度250℃、金型温度60℃にて図1の部位10の鍵盤表面(図3のa=20mm、b=200mm、c=10mm、d=50mm、t=1.5mm)を作成し、評価を行った。
[鉛筆硬度]
成形された鍵盤で、JIS K5600に準じて鉛筆硬度を測定した。
[高級感]
成形された鍵盤を目視し、10名中で象牙のような高級感があると7名以上が感じた場合には◎、5?7名の場合には○、5名未満の場合には×とした。
[タッチ感]
成形された鍵盤に手で触れ、10名中で象牙のようなタッチ感であると7名以上が感じた場合には◎、5?7名の場合には○、5名未満の場合には×とした。
[耐傷性]
成形された鍵盤をツメで引っ掻き、目視にて傷が確認できない場合には◎、傷がうっすら確認できる場合には○、傷が容易に確認できた場合には×とした。
[演奏性]
成形された鍵盤で演奏し、10名中で象牙のような演奏性であると7名以上が感じた場合には◎、5?7名の場合には○、5名未満の場合には×とした。
[薬品性]
木酢液およびグリース(G501 信越化学工業株式会社製)を表面に塗布し、2週間放置後に表面にクラックが発生していない場合には○、クラックが発生した場合には×とした。
表1に示すように本発明に規定する条件を満たさない場合には、本発明の効果を得ることができないが、本発明の樹脂組成物では、象牙のような見た目の高級感、タッチ感、演奏性、経済性、および吸水寸法変化に優れ、傷が付きにくく、耐薬品性に優れた効果が得られていることがわかる。
【表1】

」(段落【0029】?【0038】)

2.甲1に記載された発明
甲1には、摘示(5)の実施例5から、鍵盤に用いられるスチレン系樹脂組成物に着目すれば、次の発明(以下、「甲1発明5」という。)が記載されているといえる。

「(A-1)アクリロニトリル30質量%、スチレン70質量%からなり、還元粘度が0.73であるアクリロニトリル・スチレン共重合体 75重量部、
(A-3)ブタジエン系ゴム50質量%、ゴム重量平均粒子径200?300nm、アクリロニトリル15質量%、スチレン35重量%、グラフト率55%、還元粘度0.26のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体 5重量部、
(B-1)タルク(キハラ化成株式会社製 SP-GB) 平均粒子径8μm 20重量部、
(C-1)二酸化チタン(石原産業株式会社製 タイペークPF691) 2.4重量部、
及び、
(C-2)エチレンビスステアリルアミド(花王株式会社製 花王ワックスEB-FF) 0.6重量部
からなる、
鍵盤用スチレン系樹脂組成物。」

また、同様に、甲1には、摘示(5)の実施例5から、鍵盤に用いられるスチレン系樹脂組成物に着目すれば、次の発明(以下、「甲1発明6」という。)が記載されているといえる。

「(A-1)アクリロニトリル30質量%、スチレン70質量%からなり、還元粘度が0.73であるアクリロニトリル・スチレン共重合体 40重量部、
(A-4)ポリメチルメタクリレート(旭化成ケミカルズ株式会社製 デルペット80N) 40重量部、
(B-1)タルク(キハラ化成株式会社製 SP-GB) 平均粒子径8μm 20重量部、
(C-1)二酸化チタン(石原産業株式会社製 タイペークPF691) 2.4重量部、
及び、
(C-2)エチレンビスステアリルアミド(花王株式会社製 花王ワックスEB-FF) 0.6重量部
からなる、
鍵盤用スチレン系樹脂組成物。」

3.甲2の記載
甲2には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
重量平均粒子径が0.1?2.0μmであるゴム質重合体(a)20?80重量部の存在下に、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を重合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)10?50重量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)10?90重量部、および芳香族ビニル系単量体(c)75?35重量%、シアン化ビニル系単量体(d)5?40重量%およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体(e)0?60重量%からなるビニル系共重合体(III)0?50重量部からなり、
(I)+(II)+(III)=100重量部であり、23℃における損失係数が0.02以上である制振性樹脂組成物。
【請求項2】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)が、メタクリル酸メチルである請求項1記載の制振性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム質重合体(a)がポリブタジエンであり、重量平均粒子径が、0.1?0.4μmである請求項1または2記載の制振性樹脂組成物。
【請求項4】
ゴム含有グラフト共重合体(I)が、重量平均粒子径が0.1?0.4μmであるポリブタジエンゴム30?60重量部の存在下に、メタクリル酸メチル60?80重量%、スチレン20?40重量%およびアクリロニトリル0?10重量%からなる単量体混合物70?40重量部を重合したものである請求項1記載の制振性樹脂組成物。
【請求項5】
23℃における損失係数が0.03以上である請求項1?4記載の制振性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5いずれかに記載の樹脂組成物100重量部に対して、無機充填材(IV)0.5?100重量部を配合してなる制振性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6いずれかに記載の制振性樹脂組成物を成形してなる成形品。」(特許請求の範囲請求項1?7)

(2)「【発明の属する技術分野】
本発明は、制振性に優れ、かつ成形加工性および耐衝撃性に優れた制振性樹脂組成物に関するものである。
【従来の技術】
ジエン系ゴムにアクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニルと、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニルから選ばれた2種類以上の化合物を共重合したABS樹脂は、耐衝撃性、機械的強度および成形加工性に優れ、OA機器や家電製品向けの用途に幅広く利用されている。
ところが、近年になって、生活環境の変化から、騒音・振動といった環境問題が注目されるようになり、当該用途での騒音・振動の低減が要求されている。例えばOA分野では、光ディスクやフロッピーディスクの振動に対して、また家電製品では、エアコンの室内・室外ファンや洗濯機などのモーターから発生する騒音に対して、低減が要求されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、熱可塑性ポリウレタンなどの振動を吸収する材料をブレンドすると曲げ弾性率が著しく低下し、当該用途への適用が困難になる問題があり、アクリル酸エステル単量体および/またはメタクリル酸エステル単量体と他の共単量体からなる共重合体と熱可塑性樹脂をブレンドする方法では、耐衝撃性が不十分であった。
本発明は、かかる状況を解決するために、優れた制振性と耐衝撃性を有する制振性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するために、ゴム強化スチレン系樹脂にブレンドする重合体成分について鋭意検討した結果、ゴム粒子径が特定範囲にあるゴム質重合体に、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物をグラフトさせたグラフト共重合体を用いることで、制振性と耐衝撃性が飛躍的に改善されることを見出し、ついに本発明を完成するに到った。」(段落【0001】?【0007】)

(3)「更に本発明の目的を損なわない範囲で塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、各種エラストマー類を加えて成形用樹脂としての性能を改良することができる。・・・」(段落【0027】)

(4)「本発明の制振性樹脂組成物からなる成形品の用途については、電気、電子、自動車、機械、雑貨など特に制限はないが、本発明の成形品の特徴から、制振性が要求される用途に有効である。なかでも、電気、電子製品のハウジングや機能部品、パチンコの受け皿等の雑貨部品、トイレ・台所等のサニタリー部品および自動車の内外装部材などに使用することができる。
【物性の測定法】
制振性樹脂組成物の樹脂特性の測定方法を下記する。損失係数、耐衝撃性等の一般的な特性については、射出成形によりテストピースを成形し、下記試験法に準拠し測定した。
(1)ゴム重量平均粒子径:「Rubber Age Vol.88 p.484?490(1960)by E.Schmidt, P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法(アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める)。
(2)グラフト率:グラフト共重合体所定量(m)にアセトンを加え、3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離後、不溶分を濾過し、この不溶分を60℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、式(1)より算出した。ここで、Lはグラフト共重合体のゴム含有量である。
グラフト率(%)={[(n)-(m)×L]/[(m)×L]}×100 式(1)
(3)アスペクト比:JIS R3420に準じて平均径および長さを測定し、平均径と長さの比から算出した。
(4)損失係数:厚さ3mmのテストピースを用いて、減衰法によりJIS G0602に準じて測定した。
(5)流動性(MFR):ISO1133(220℃、98N荷重)。
(6)耐衝撃性(Izod衝撃):ASTM D256(12.7mmノッチ付き、23℃)。
(7)曲げ弾性率:ASTM D790(6.4mm、23℃)。
【実施例】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
参考例1 ゴム含有グラフト共重合体(I)A1の製造
窒素置換した反応器に純水120部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部および重量平均粒子径が0.2μmであるポリブタジエンラテックス50部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始としてメタ
クリル酸メチル36部,スチレン12部、アクリロニトリル2部およびt-ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部,オレイン酸カリウム2.5部および純水25部からなる水溶液を7時間かけて連続滴下し、反応を完結させた。得られたゴム含有グラフト共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ-ダで中和後、洗浄、濾過、乾燥してゴム含有グラフト共重合体(I)A1を得た。このゴム含有グラフト共重合体(I)A1のグラフト率を表1に示した。
参考例2 ゴム含有グラフト共重合体(I)A2の製造
参考例1のポリブタジエンラテックスを重量平均粒子径0.25μmであるポリブタジエンラテックス50部(固形分換算)に変えた以外は、参考例1と同様に行い、表1記載のゴム含有グラフト共重合体(I)A2を得た。
参考例3 ゴム含有グラフト共重合体(I)A3の製造
参考例1のポリブタジエンラテックスを重量平均粒子径が0.05μmであるポリブタジエンラテックス50部(固形分換算)に変えた以外は、参考例1と同様に行い、表1記載のゴム含有グラフト共重合体(I)A3を得た。
参考例4 ゴム含有グラフト共重合体(I)A4の製造
参考例1のうち、スチレンを36部、アクリロニトリルを14部とし、あとは参考例1と同様の方法で重合を行い、表1記載のゴム含有グラフト共重合体(I)A4を得た。
参考例5 不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)B1の製造
容量が20Lで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45-24151号公報記載)0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次にメタクリル酸メチル72部,スチレン24部、アクリロニトリル4部およびt-ドデシルメルカプタン0.2部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合溶液を反応系を攪拌しながら添加し、60℃に昇温し重合を開始した。15分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、50分かけて100℃まで昇温した。以降は、通常の方法に従って、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行ない、表2記載の不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)B1を得た。
参考例6 不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)B2の製造 参考例5の条件のうち、メタクリル酸メチルを60部、スチレンを30部、アクリロニトリルを10部にした以外は、参考例5と同様の方法で重合を行い、表2記載の不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)B2を得た。
参考例7 不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)B3の製造 参考例5の条件のうち、メタクリル酸メチルを5部、スチレンを90部、アクリロニトリルを5部にした以外は、参考例5と同様の方法で重合を行い、表2記載の不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)B3を得た。
参考例8 ビニル系共重合体(III)C1の製造
参考例5の条件のうち、アクリロニトリルを10部、スチレンを50部、N-フェニルマレイミドを40部とし、あとは参考例5と同様の方法で重合を行い、表3記載のビニル系共重合体(III)C1を得た。
参考例9 ビニル系共重合体(III)C2の製造
参考例5の条件のうち、アクリロニトリルを30部、スチレンを70部とし、あとは参考例5と同様の方法で重合を行い、表3記載のビニル系共重合体(III)C2を得た。
参考例10 ビニル系共重合体(III)C3の製造
参考例5の条件のうち、アクリロニトリルを10部、スチレンを90部とし、あとは参考例5と同様の方法で重合を行い、表3記載のビニル系共重合体(III)C3を得た。
【表1】

【表2】

【表3】

実施例1?6、比較例1?12
参考例1?10にて製造された各共重合体および無機充填材を表4および5に示す配合割合にてヘンシェルミキサーで混合後、40mmφ押出機により押出し、制振性樹脂組成物を得た。その評価結果は表4および5に示すとおりである。
【表4】

【表5】

D1:ガラス繊維(日本電気硝子社製:アスペクト比=230)
D2:ガラス繊維(日本電気硝子社製:アスペクト比=230)/マイカ(ミカレット21PU:山口雲母工業所社製)=50/50(重量%)のブレンド品
表4および5から、本発明の制振性樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比較して、制振性、成形加工性および耐衝撃性のバランスに優れていることがわかる。
【発明の効果】
本発明の制振性樹脂組成物は、ゴム粒子径が特定範囲にあるゴム質重合体に、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物をグラフトさせたグラフト共重合体を用いることが特徴であり、制振性、成形加工性および耐衝撃性のバランスに優れている。そして、本発明の制振性樹脂組成物は、これらの特徴をいかして、自動車部品、電気・電子部品、OA機器部品として好適である。」(段落【0029】?【0057】)

4.甲2に記載された発明
甲2には、摘示(1)の請求項1から、制振性樹脂組成物に関し、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

「重量平均粒子径が0.1?2.0μmであるゴム質重合体(a)20?80重量部の存在下に、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を重合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)10?50重量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)10?90重量部、および芳香族ビニル系単量体(c)75?35重量%、シアン化ビニル系単量体(d)5?40重量%およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体(e)0?60重量%からなるビニル系共重合体(III)0?50重量部からなり、
(I)+(II)+(III)=100重量部であり、23℃における損失係数が0.02以上である制振性樹脂組成物。」

5.甲3の記載
甲3には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
上壁及び少なくとも2つの側壁を備え該側壁間に中空部を有した樹脂製の鍵本体と、前記中空部内で発泡し前記鍵本体と結合した発泡樹脂部と、該発泡樹脂部との接触により前記中空部内で前記鍵本体に固定された機能部材とを備えていることを特徴とする電子鍵盤楽器用鍵。」(特許請求の範囲請求項1)

(2)「発泡樹脂部50は、次のようにして打鍵時の手指の衝突音を吸収し、打鍵時に鍵自身が発する音の音質を向上させる。一般に、樹脂製の鍵は、箱形で中空であるので、中実構造の木製鍵盤と異なり、指で打鍵する際、特に爪が打鍵面に当たる時に、衝突音が中空部に響いてカチカチという甲高い雑音として聞こえる難点がある。これに対し、発泡樹脂部50を備えた鍵1は、発泡樹脂部を備えないものから鍵本体の固有振動数が変化すると共に、打鍵時の爪の衝突による振動は発泡樹脂部で吸収され、その結果、カチカチという耳障りな甲高い音が抑制され、打鍵時に鍵自身が発する音の音質が向上する。このように、発泡樹脂部50は振動吸収部材としても機能する。しかも、発光部材30は、鍵の壁部を補強するので、剛性を高め、強い打鍵時にも反り・捩れ感のない堅固な鍵とすることができる。さらに、発光部材30は、鍵の重量を増し、演奏時の鍵に質量感を与えて演奏性を高めることができる。
鍵本体10の壁部を形成する樹脂としては、スチレン系のAS,ABS等の通常の樹脂製鍵盤に用いられるものが使用される。発泡樹脂部50を形成する樹脂としては、オレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系等の種々のものを使用することができ、例えばウレタンのように、自己接着性の高い樹脂が望ましい。スチレン系の樹脂は、鍵の壁部に対して近似した物性を示し結合性に優れているので望ましい。また、発泡の程度は、鍵に求められる機能部材の固定、消音性、剛性、重量感に応じて決めることができ、ソフトな発泡材、或いは硬質な発泡材等を選択することができる。」(段落【0018】?【0019】)

6.甲4の記載
甲4には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
少なくとも押鍵される表層部が成形加工された鍵盤楽器の鍵において、模様を形成するドット状の凸部を表面に形成したことを特徴とする鍵盤楽器の鍵。」(特許請求の範囲請求項1)

(2)「[1.1.鍵盤材10aの構成の説明]
鍵盤材10aは、例えばABS樹脂の射出成形品で構成されており、両側壁10b,10b(図1(a)に一方のみ図示)と天壁10cからなり、底面が開放した逆U字形の断面を有している。また、鍵盤材10aには、その両側壁10b,10bの前部それぞれから下方に延びるフック状のストッパ部10d,10dが設けられている。さらに、鍵盤材10aの下面にはアクチュエータ部10eが設けられている。また、鍵盤材10aの後端部には、シャーシに回動自在に支持される被支持部10fが設けられている。」(段落【0022】)

7.甲5の記載
甲5には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】 透明性を有するベースポリマー100重量部と、
光を拡散させる光拡散剤0.01?10.00重量部と、
白色系着色剤0.1?1.5重量部と、
から成る白鍵用組成物であって、
前記ベースポリマーは、ポリスチレン、ABS、ASのいずれかを用い、前記光拡散剤は、ポリメチルメタクリレート架橋体および硫酸バリウムのいずれかを用い、前記白色系着色剤は、二酸化チタン、群青、およびチタンエロー系顔料からなることを特徴とする白鍵用組成物。」(特許請求の範囲請求項1)

8.甲6の記載
甲6には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
上壁及び少なくとも2つの側壁を備え該側壁間に中空部を有した樹脂製の鍵本体と、前記中空部内で該鍵本体と一体化した樹脂で形成された振動吸収部材とを備えたことを特徴とする電子鍵盤楽器用鍵。
【請求項2】
前記振動吸収部材が、前記中空部内での発泡により前記鍵本体と一体化した樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器用鍵。
【請求項3】
前記振動吸収部材が、前記中空部内に充填されてゲル化することにより前記鍵本体と一体化したゲルで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器用鍵。」(特許請求の範囲請求項1?3)

(2)「鍵盤は、鍵盤楽器で音楽を奏でる上での主たる入力装置であり、それを構成する鍵にも高い品質や高級感が求められるが、打鍵時の爪の衝突音が甲高く響くと、安っぽい印象を与えてしまう。さらに、ヘッドフォンやイヤフォンをつけて演奏すると、演奏音は演奏者にのみ聞こえ外部へ発せられないので、楽器の近くにいる者には爪の衝突音がさらに目立って聞こえることになる。」(段落【0004】)



第5 対比・判断

1.特許法第29条第1項第3号について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明5との対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明5とを対比すると、甲1発明5の「(A-3)ブタジエン系ゴム50質量%、ゴム重量平均粒子径200?300nm、アクリロニトリル15質量%、スチレン35重量%、グラフト率55%、還元粘度0.26のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体」は、ブタジエン系ゴムの存在下にアクリロニトリル及びスチレンをグラフト重合して得られたものであることはあきらかであるから、本件特許発明1の「グラフト共重合体(A)」に、ゴム状重合体の存在下にビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である限りにおいて相当するといえる。
そして、甲1発明5の「鍵盤用スチレン系樹脂組成物」は、本件特許発明1の「鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物」に、相当するといえる。
また、甲1発明5における樹脂組成物中のブタジエン系ゴムの配合量を計算すると、樹脂組成物100重量部中に2.43(=5÷2÷(75+5+20+2.4+0.6)×100)重量部と算出される。

(イ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明5とは、
「グラフト共重合体(A)を含む鍵盤用ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下にビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である、鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の相違点1?3で相違する。

[相違点1]
グラフト共重合体(A)を製造する際のビニル系単量体が、本件特許発明1では、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体」を必須成分としているのに対し、甲1発明5では、「アクリロニトリル」及び「スチレン」である点。

[相違点2]
本件特許発明1では、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体であ」る「(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含む」と特定しているのに対し、甲1発明5では、特に特定していない点。

[相違点3]
ゴム状重合体の含有量について、本件特許発明1では、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」と特定しているのに対し、甲1発明5では、2.43重量部である点。

(ウ)相違点1について
a 相違点1に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(段落【0020】)からみて、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることが理解され、本件特許明細書の実施例3と比較例4とを対比(段落【0042】?【0058】)すれば、本件特許発明1における特定事項である相違点1に係る構成を満たす、すなわち、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体」である「グラフト共重合体(A-1)」を使用することで、メタクリル酸メチルを使用せずスチレンとアクリロニトリルとを使用した「グラフト共重合体(A-2)」を使用したものと比較して、低音化特性及び耐傷性について優れるものであると理解される。
b 一方、甲1には、第4 1.(3)で摘示したとおり、グラフト重合体として、「グラフト重合体は、ジエン系ゴムにアクリロニトリル、スチレンなどをグラフトしたABS樹脂、アクリル系ゴムにアクリロニトリル、スチレンなどをグラフトしたASA樹脂、エチレン系ゴムにアクリロニトリル、スチレンなどをグラフトしたAES樹脂が好ましい。」と記載されているに留まり、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体に関し一切記載も示唆もされていない。
ここで、甲1には、「その他の共重合可能な単量体としては、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレートなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物・・・などが挙げられる。」(第4 1.(3))と記載されているものの、これは「スチレン系樹脂(A)とは、少なくとも芳香族ビニル単量体を含むスチレン系重合体を50質量%以上含む樹脂である。スチレン系重合体は芳香族ビニル単量体の単独重合体であっても、芳香族ビニル単量体を含む共重合体であっても良い。該スチレン共重合体としては、芳香族ビニル単量体の他に不飽和ニトリル単量体や他の共重合可能な単量体を共重合したものを用いることができる。」(第4 1.(3))との記載を受けての記載であることから、あくまでもスチレン系樹脂(A)を構成する「他の共重合可能な単量体」成分の例示として記載するに留まるものであって、グラフト重合体のグラフト重合する単量体について例示するものではないと理解される。
そして、甲1には、「スチレン系樹脂(A)には、ゴム状重合体に芳香族ビニル単量体のほか必要に応じて他の単量体をグラフトしたグラフト重合体も含むことができる。」とも記載されているものの、当該「他の単量体」として具体的な例示は記載されておらず、上記したグラフト重合体の具体的な例示の記載に照らせば、当該「他の単量体」は具体的には「アクリロニトリル」のみが例示されているに留まり、当該グラフトする「他の単量体」が上記した「その他の共重合可能な単量体」と同じものであるともいえない。
確かに、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体(例えば、MBS樹脂)それ自体はゴム強化熱可塑性樹脂組成物の技術分野において周知慣用のものであると認められるものの、具体的に鍵盤用のゴム強化熱可塑性樹脂組成物技術分野において、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体(例えば、MBS樹脂)を使用することが周知慣用手段であるとまでは認めることができない。
c そうすると、本件特許発明1において、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体」を使用することにより、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術的意義について理解することができ、斯かる技術的意義については、甲1には何ら示されていないというべきである。
してみると、甲1発明5は、本件特許発明1における、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体」を使用しつつ、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。

(エ)相違点2について
a 相違点2に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の実施例3、4と比較例5とを対比(段落【0042】?【0058】)すれば、本件特許発明1における特定事項である相違点2に係る構成を満たす、すなわち、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)」である「(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B-1)または(B-2)」を使用することで、メタクリル酸メチルを使用せずスチレンとアクリロニトリルとを共重合したスチレン系共重合体を使用したものと比較して、低音化特性及び耐傷性について優れるものであると理解される。
b 一方、甲1には、第4 1.(4)で摘示したとおり、「本発明のスチレン系樹脂組成物(I)には、鉛筆硬度HB以上の範囲であれば、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。他の熱可塑性樹脂としては、・・・ポリアミド、・・・ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。これらのうち・・・ポリメチルメタクリレート・・・が好ましい。」と記載されているものの、ポリメチルメタクリレートを配合した際に、特に低音化特性に優れたものとなることに関し一切記載も示唆もされていないし、当該技術分野における技術常識であるともいえない。
c そうすると、本件特許発明1において、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体」を使用することにより、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術的意義について理解することができ、斯かる技術的意義については、甲1には何ら示されていないというべきである。
してみると、甲1発明5は、本件特許発明1における、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体」を使用しつつ、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。

(オ)相違点3について
a 相違点3に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(段落【0027】)からみて、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることが理解され、本件特許明細書の実施例2、3と比較例6とを対比(段落【0042】?【0058】)すれば、本件特許発明1における特定事項である相違点3に係る構成を満たす、すなわち、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」との範囲内である「15または20重量部」の量で使用することで、30重量部の量で使用したものと比較して、耐傷性について優れるものであると理解される。
b 一方、甲1には、第4 1.(3)で摘示したとおり、グラフト重合体の量として、「ゴム状重合体の配合量は、スチレン系樹脂組成物(I)の鉛筆硬度がHB以上になる範囲であれば特に制限はないが、スチレン系樹脂組成物(I)中に0?10質量%が好ましい。更に好ましくは8質量%以下であり。成形性、耐傷性の低下から10質量%以下である。」と記載されているに留まるものであり、グラフト重合体の配合量を斯かる範囲を超えて、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」ものとすることが周知慣用手段であるとまでは認めることができない。
c そうすると、本件特許発明1において、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」ものを使用することにより、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術的意義について理解することができ、斯かる技術的意義については、甲1には何ら示されていないというべきである。
してみると、甲1発明5は、本件特許発明1における、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」ものを使用しつつ、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。

(カ) 小括
以上のとおり、本件特許発明1は甲1発明5と相違点1?3において相違するものであるから、本件特許発明1は、甲1発明5と同一であるとはいえない。

イ 本件特許発明1と甲1発明6との対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明6とを対比すると、甲1発明6の「(A-4)ポリメチルメタクリレート(旭化成ケミカルズ株式会社製 デルペット80N)」は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体であり」に相当する。
そして、甲1発明6の「鍵盤用スチレン系樹脂組成物」は、本件特許発明1の「鍵盤用」「熱可塑性樹脂組成物」に、相当する。

(イ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明6とは、
「(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含む鍵盤用熱可塑性樹脂組成物であって、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体である、鍵盤用熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の相違点4?6で相違する。

[相違点4]
本件特許発明1では、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られ」る「グラフト共重合体(A)を含む」と特定しているのに対し、甲1発明6では、特に特定していない点。

[相違点5]
ゴム状重合体の含有量について、本件特許発明1では、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」と特定しているのに対し、甲1発明6では、含まれない点。

[相違点6]
熱可塑性樹脂組成物について、本件特許発明1では、「ゴム強化」と特定しているのに対し、甲1発明6では、特に特定していない点。

(ウ)相違点4について
a 相違点4に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の実施例1?6と比較例1?4とを対比(段落【0042】?【0058】)すれば、本件特許発明1における特定事項である相違点4に係る構成を満たす、すなわち、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体」である「グラフト共重合体(A-1)」を使用することで、斯かるグラフト共重合体(A-1)を使用しない、あるいはグラフト共重合体(A-1)に代えて、メタクリル酸メチルを使用せずスチレンとアクリロニトリルとを使用した「グラフト共重合体(A-2)」を使用したものと比較して、低音化特性及び耐傷性について優れるものであると理解される。
b 一方、甲1には、ア(ウ)で述べたとおり、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体に関し一切記載も示唆もされていないし、鍵盤用のゴム強化熱可塑性樹脂組成物技術分野において、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体(例えば、MBS樹脂)を使用することが周知慣用手段であるとまでは認めることができない。
c そうすると、本件特許発明1において、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体」を使用することにより、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術的意義について理解することができ、斯かる技術的意義については、甲1には何ら示されていないというべきである。
してみると、甲1発明6は、本件特許発明1における、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体」を使用しつつ、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
したがって、相違点4は実質的な相違点である。

(エ)相違点5及び6について
a (ウ)で述べたとおり、「ゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られ」る「グラフト共重合体(A)を含む」ことに係る相違点4は実質的な相違点であるから、当該グラフト共重合体(A)中に含まれるゴム重合体の含有量に係る相違点5や当該ゴム重合体が含まれることを意味すると認められる相違点6についても、当然に実質的な相違点である。

(オ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は甲1発明6と相違点4?6において相違するものであるから、本件特許発明1は、甲1発明6と同一であるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は甲1に記載された発明と同一であるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1に係る鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明と同一であるとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明5との対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明5とを対比すると、1.(1)ア(ア)?(イ)で述べたとおり、本件特許発明1と甲1発明5とは、
「グラフト共重合体(A)を含む鍵盤用ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下にビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体である、鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し、1.(1)ア(イ)で述べた相違点1?3で相違する。

(イ) 相違点1について
a 1.(1)ア(ウ)で述べたとおり、相違点1に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることを理解することができる。
b 他方、甲1には、1.(1)ア(ウ)で述べたとおり、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体に関し一切記載も示唆もされておらず、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
c そうすると、甲1発明5において、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
d そして、甲3には、「一般に、樹脂製の鍵は、箱形で中空であるので、中実構造の木製鍵盤と異なり、指で打鍵する際、特に爪が打鍵面に当たる時に、衝突音が中空部に響いてカチカチという甲高い雑音として聞こえる難点がある。」と記載されており、本件特許発明1における低音化特性の課題が存在していたことは認められる(第4 5.(2))ものの、甲3では、「発泡樹脂部50を備えた鍵1」という構成を備えることで、「発泡樹脂部を備えないものから鍵本体の固有振動数が変化すると共に、打鍵時の爪の衝突による振動は発泡樹脂部で吸収され、その結果、カチカチという耳障りな甲高い音が抑制され、打鍵時に鍵自身が発する音の音質が向上する。」(第4 5.(2))というものであって、本件特許発明1における相違点1に係る構成、すなわち「(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体」を用いることで、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
また、甲6にも「打鍵時の爪の衝突音が甲高く響くと、安っぽい印象を与えてしまう。」(第4 8.(2))と記載されているものの、甲3と同様に、本件特許発明1における相違点1に係る構成、すなわち「(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体」を用いることで、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
e また、甲4?6には、ABS樹脂が鍵盤用に使用されることが記載されている(第4 6.?8.)が、「(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体」を用いることは記載されておらず、それにより低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
f そうである以上、たとえ、甲1及び甲3?6の記載を参酌したとしても、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するための具体的な解決手段として、グラフト重合体においてグラフトする単量体として「アクリロニトリル」及び「スチレン」に代えて「(メタ)アクリル酸エステル系単量体」を必須成分として用いること、すなわち「(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体」を用いることを導き出すことは、たとえ当業者であっても困難なことである。
g そして、本件特許発明1における相違点1に係る効果は、1.(1)ア(ウ)で述べたとおり、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲3?6を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
h 相違点1についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点1は想到容易とはいえない。

(ウ) 相違点2について
a 1.(1)ア(エ)で述べたとおり、相違点2に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることを理解することができる。
b 他方、甲1には、1.(1)ア(エ)で述べたとおり、配合することができる他の熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレートが記載されているものの、ポリメチルメタクリレートを配合した際に、特に低音化特性に優れたものとなることに関し一切記載も示唆もされていないし、当該技術分野における技術常識であるともいえない。
c そうすると、甲1発明5において、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
d そして、甲3?6にも、本件特許発明1における相違点2に係る構成、すなわち「(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体」を用いることで、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
e そうである以上、たとえ、甲1及び甲3?6の記載を参酌したとしても、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するための具体的な解決手段として、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体」を用いることを導き出すことは、たとえ当業者であっても困難なことである。
g そして、本件特許発明1における相違点2に係る効果は、1.(1)ア(エ)で述べたとおり、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲3?6を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
h 相違点2についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点2は想到容易とはいえない。

(エ) 相違点3について
a 1.(1)ア(オ)で述べたとおり、相違点3に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることを理解することができる。
b 他方、甲1には、1.(1)ア(オ)で述べたとおり、グラフト重合体の配合量について、「スチレン系樹脂組成物(I)中に0?10質量%が好ましい。更に好ましくは8質量%以下であり。成形性、耐傷性の低下から10質量%以下である。」と記載されているに留まるものであり、グラフト重合体の配合量を「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」ものとすることにより、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を得ることができることが当該技術分野における技術常識であるともいえない。
c そうすると、甲1発明5において、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえないし、仮に、グラフト重合体の配合量を増やすことまでは想到しうるとしても、甲1に記載された上記上限値を超えて、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」ものとすることを導き出すことは、たとえ当業者であっても困難なことである。
d そして、本件特許発明1における相違点3に係る効果は、1.(1)ア(オ)で述べたとおり、耐衝撃性と低音化特性及び耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲3?6を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
e 相違点3についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点3は想到容易とはいえない。

(オ)小括
以上のとおり、相違点1?3はいずれも想到容易とはいえないのであるから、本件特許発明1は、甲1発明5から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明1と甲1発明6との対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明6とを対比すると、1.(1)イ(ア)?(イ)で述べたとおり、本件特許発明1と甲1発明6とは、
「(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含む鍵盤用熱可塑性樹脂組成物であって、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体である、鍵盤用熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し、1.(1)イ(イ)で述べた相違点4?6で相違する。

(イ) 相違点4について
a 1.(1)イ(ウ)で述べたとおり、相違点4に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることを理解することができる。
b 他方、甲1には、1.(1)イ(ウ)で述べたとおり、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体に関し一切記載も示唆もされておらず、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえない。
c そうすると、甲1発明6において、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
d そうすると、ア(イ)で述べたとおり、たとえ、甲1及び甲3?6の記載を参酌したとしても、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するための具体的な解決手段として、「(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合したグラフト重合体」を用いることを導き出すことは、たとえ当業者であっても困難なことである。
e そして、本件特許発明1における相違点4に係る効果は、1.(1)イ(ウ)で述べたとおり、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲3?6を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
f 相違点4についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点4は想到容易とはいえない。

(ウ) 小括
以上のとおり、相違点4は想到容易とはいえないのであるから、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明6から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明1と甲2発明との対比
(ア)本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)」は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル系単量体」に相当するから、甲2発明の「重量平均粒子径が0.1?2.0μmであるゴム質重合体(a)20?80重量部の存在下に、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を重合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)」は、本件特許発明1の「グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体であり」に、「不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)」は「(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体であり」に、それぞれ相当する。
そして、甲2発明の「樹脂組成物」は、本件特許発明1の「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物」に相当することは明らかである。

(イ)そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「グラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)を含むゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)はゴム状重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル系単量体と必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られるグラフト共重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を重合して得られる重合体である、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の相違点7?9で相違する。

[相違点7]
樹脂組成物の用途について、本件特許発明1では、「鍵盤用」と特定するのに対し、甲2発明では、特に特定していない点。

[相違点8]
樹脂組成物について、甲2発明では、「23℃における損失係数が0.02以上」であり「制振性」であると特定しているのに対し、本件特許発明1では、特に特定していない点。

[相違点9]
ゴム状重合体の含有量について、本件特許発明1では、「ゴム強化熱可塑性樹脂組成物100重量部中にゴム状重合体が10?25重量部含まれる」と特定しているのに対し、甲2発明では、ゴム質重合体(a)20?80重量部の存在下に、単量体混合物80?20重量部を重合してなるゴム含有グラフト共重合体(I)を10?50重量部含有するとのみ特定し、樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量について直接特定していない点。

(ウ)相違点7について
a 相違点7に係る構成の本件特許発明1における技術的意義は、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するものであることを理解することができる。
b 一方、甲2には、第4 3.(2)で摘示したとおり、「優れた制振性と耐衝撃性を有する制振性樹脂組成物を提供することを目的とする。」と記載されているに留まり、低音化特性と耐傷性に関し一切記載も示唆もされていない。
そして、甲2には、甲2発明に係る制振性樹脂組成物の用途として、「近年になって、生活環境の変化から、騒音・振動といった環境問題が注目されるようになり、当該用途での騒音・振動の低減が要求されている。例えばOA分野では、光ディスクやフロッピーディスクの振動に対して、また家電製品では、エアコンの室内・室外ファンや洗濯機などのモーターから発生する騒音に対して、低減が要求されている。」(第4 3.(2))及び「本発明の制振性樹脂組成物からなる成形品の用途については、電気、電子、自動車、機械、雑貨など特に制限はないが、本発明の成形品の特徴から、制振性が要求される用途に有効である。なかでも、電気、電子製品のハウジングや機能部品、パチンコの受け皿等の雑貨部品、トイレ・台所等のサニタリー部品および自動車の内外装部材などに使用することができる。」(第4 3.(4))と記載されているに留まり、鍵盤に用いることに関し一切記載も示唆もされていない。
また、鍵盤用熱可塑性樹脂組成物において、低音化特性と耐傷性に優れたものとするために、鍵盤以外の制振性が要求される用途に用いられる制振性樹脂組成物を使用することが周知慣用手段であるとまでは認めることができない。
c そうすると、本件特許発明1において、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術的意義について理解することができ、斯かる技術的意義については、甲2には何ら示されていないというべきである。
してみると、甲2発明は、本件特許発明1における、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという技術思想を示すものとはいえず、甲2発明において、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するという課題を認識し、斯かる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
d そして、甲3には、「一般に、樹脂製の鍵は、箱形で中空であるので、中実構造の木製鍵盤と異なり、指で打鍵する際、特に爪が打鍵面に当たる時に、衝突音が中空部に響いてカチカチという甲高い雑音として聞こえる難点がある。」と記載されており、本件特許発明1における低音化特性の課題が存在していたことは認められる(第4 5.(2))ものの、甲3では、「発泡樹脂部50を備えた鍵1」という構成を備えることで、「発泡樹脂部を備えないものから鍵本体の固有振動数が変化すると共に、打鍵時の爪の衝突による振動は発泡樹脂部で吸収され、その結果、カチカチという耳障りな甲高い音が抑制され、打鍵時に鍵自身が発する音の音質が向上する。」(第4 5.(2))というものであって、本件特許発明1における相違点7に係る構成、すなわち特定の組成を有する樹脂組成物を鍵盤に用いることで、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
また、甲6にも「打鍵時の爪の衝突音が甲高く響くと、安っぽい印象を与えてしまう。」(第4 8.(2))と記載されているものの、甲3と同様に、本件特許発明1における相違点7に係る構成、すなわち特定の組成を有する樹脂組成物を鍵盤に用いることで、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
e また、甲4?6には、ABS樹脂が鍵盤用に使用されることが記載されている(第4 6.?8.)が、特定の組成を有する樹脂組成物を鍵盤に用いることは記載されておらず、それにより低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物が得られることについて記載も示唆もない。
f そうである以上、甲2発明に係る制振性樹脂組成物の用途として、甲2には何ら記載も示唆もない鍵盤用途を導き出すことには無理があるといわざるをえず、仮に鍵盤に係る甲1及び甲3?6の記載を参酌したとしても、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するために、甲2発明に係る制振性樹脂組成物を鍵盤に使用することは、たとえ当業者であっても困難なことである。
g そして、本件特許発明1における相違点7に係る効果は、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を提供するというものであり、そのような効果は、甲1及び甲3?6を参酌したとしても、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
h 相違点7についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点7は想到容易とはいえない。

(エ) 小括
以上のとおり、相違点7は想到容易とはいえないのであるから、相違点8及び9について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は甲1に記載された発明と相違するものであり、斯かる相違点は甲3?6に記載された事項から想到容易とはいえないのであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲3?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明1は甲2に記載された発明と相違するものであり、斯かる相違点は甲1及び甲3?6に記載された事項から想到容易とはいえないのであるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1に係る鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明及び甲1及び甲3?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3.特許法第36条第6項第1号について
異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲において樹脂組成物の組成や構造は具体的にほとんど特定されておらず、その結果として、種々の樹脂組成物を広範に含むものであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、具体例として実施例にて製造されたゴム強化熱可塑性樹脂組成物のみが記載されているに過ぎないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、本件特許の特許請求の範囲まで、拡張一般化できないものであると主張している。

しかしながら、上記のとおり、本件特許明細書の記載によれば、特にその実施例及び比較例を対比すれば、本件特許発明の構成を備えることにより、低音化特性と耐傷性に優れた鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び鍵盤を提供するという本件特許発明の課題を解決することができることが理解される。
また、確かに、本件特許明細書の実施例において具体的に用いられているのは「メタクリル酸メチル(MMA)」を使用したもののみではあるものの、このことだけを根拠として本件特許明細書の実施例に記載されたゴム強化熱可塑性樹脂組成物以外のものでは本件特許発明の課題を解決することができないとまではいえないから、本件特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えているとはいえない。
そうすると、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、この主張は採用することができない。

4.特許法第36条第4項第1号について
異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、本件特許明細書の実施例にて具体的に開示された以外の樹脂組成物について、どのような組成や構造を有する樹脂組成物とすれば、本件特許明細書の段落【0011】に記載された効果を得ることができるのか判然とせず、当業者にとり過度の試行錯誤が必要になるものであると主張している。

しかしながら、少なくとも本件特許明細書の実施例の記載に基づけば、その限りにおいて本件特許発明を実施することができることは明らかであって、この点は異議申立人も争っていない。
そして、本件特許発明において、本件特許明細書の実施例において具体的に用いられている樹脂組成物以外のものにおいても、本件特許明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、原料の種類や配合割合などを適宜変更することにより、当業者であれば本件特許発明に係る鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物を製造することができると認められるのであるから、本件特許明細書の記載が、当業者にとり過度の試行錯誤が必要になるものであるとまではいえない。
そうすると、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、この主張は採用することができない。



第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-22 
出願番号 特願2012-72162(P2012-72162)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 橋本 栄和
小野寺 務
登録日 2016-01-15 
登録番号 特許第5869932号(P5869932)
権利者 日本エイアンドエル株式会社
発明の名称 鍵盤用ゴム強化熱可塑性樹脂組成物及び鍵盤  
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