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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F |
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管理番号 | 1322324 |
異議申立番号 | 異議2016-700787 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-30 |
確定日 | 2016-12-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5873009号発明「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体水溶液およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5873009号の請求項1ないし13、14及び15に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5873009号の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、平成23年4月6日(優先権主張 平成22年4月7日 同年6月7日 同年6月18日)を国際出願日として特許出願され、平成28年1月22日に特許の設定登録がされ、平成28年8月30日にその特許に対し、特許異議申立人岡本啓三から特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5873009号の請求項1ないし15に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を含む無機粒子分散剤を製造する方法であって、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用して製造されたものであり、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で80質量%以上含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており、 該水溶液に含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75であり、 該水溶液に含まれる、硫黄原子又はリン原子を含む無機の陰イオンの濃度が、該水溶液に対して1000?10000ppmであることを特徴とする無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項2】 前記ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液は、(i)酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液をアルカリ金属塩で中和する工程と、(ii)酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を有機アミンで中和する工程とを必須として製造されることを特徴とする請求項1に記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項3】 前記ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液は、APHAが200以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項4】 前記酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液をアルカリ金属塩で中和する工程は、40?100℃で行われることを特徴とする請求項2に記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項5】 前記酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を有機アミンで中和する工程は、40?100℃で行われることを特徴とする請求項2又は4に記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項6】 前記無機の陰イオンは、硫酸イオンと次亜リン酸イオンとを含むことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項7】 前記ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液は、固形分濃度を35?70質量%に調整したときのpHが4.0?9.0であることを特徴とする請求項2、4?6のいずれかに記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項8】 請求項1に記載のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を製造する方法であって、該製造方法は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下使用し、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用してポリ(メタ)アクリル酸系重合体を製造する工程と、酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を、有機アミンで中和する工程を含むことを特徴とするポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液の製造方法。 【請求項9】 請求項2に記載のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を製造する方法であって、該製造方法は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下使用し、次亜リン酸及び/又は次亜リン酸塩を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用してポリ(メタ)アクリル酸系重合体を製造する工程と、(i)酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液をアルカリ金属塩で中和する工程と、(ii)酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を有機アミンで中和する工程とを必須として含むことを特徴とするポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液の製造方法。 【請求項10】 前記酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を有機アミンで中和する工程は、40?100℃で行われることを特徴とする請求項9に記載のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液の製造方法。 【請求項11】 前記酸型及び/又は部分中和型のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液をアルカリ金属塩で中和する工程は、40?100℃で行われることを特徴とする請求項9に記載のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液の製造方法。 【請求項12】 前記製造方法は、溶媒として水のみを使用した溶液重合によりポリ(メタ)アクリル酸系重合体を製造する工程を含むことを特徴とする請求項8?11のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液の製造方法。 【請求項13】 前記無機粒子分散剤は、顔料分散剤であることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の無機粒子分散剤の製造方法。 【請求項14】 ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む無機粒子スラリーを製造する方法であって、 該製造方法は、無機粒子に、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を添加して無機粒子を粉砕する工程を含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用して製造されたものであり、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で90質量%以上含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており、 該無機粒子スラリーに含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75であり、 該無機粒子スラリーに含まれる、硫黄原子又はリン原子を含む無機の陰イオンの濃度が、該無機粒子スラリーに対して100?400ppmであり、 該無機粒子スラリーに含まれる無機粒子は、全無機粒子100質量%に対して、粒径が2μm以下の粒子が90?100質量%含まれ、 該無機粒子スラリーの固形分濃度が75質量%以上であることを特徴とする無機粒子スラリーの製造方法。 【請求項15】 無機粒子に、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を添加して無機粒子を粉砕する工程を含む無機粒子スラリーを製造する方法であって、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用して製造されたものであり、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で90質量%以上含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており、 該水溶液に含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75であり、 該水溶液に含まれる、硫黄原子又はリン原子を含む無機の陰イオンの濃度が、該水溶液に対して1000?10000ppmであることを特徴とする無機粒子スラリーの製造方法。」 以下、特許第5873009号の請求項1ないし15に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明15」という。 第3 特許異議の申立ての概要 特許異議申立人岡本啓三(以下、単に「異議申立人」という。)は、証拠として特開平10-110015号公報(以下、「甲1」という。)、特開平3-121101号公報(以下、「甲2」という。)、特開平6-263803号公報(以下、「甲3」という。)、特開2003-277409号公報(以下、「甲4」という。)、特開2009-242598号公報(以下、「甲5」という。)、特開2004-51683号公報(以下、「甲6」という。)、特開2000-281959号公報(以下、「甲7」という。)を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおりの主張している。 1.特許法第29条第2項について (1)請求項1、2、6ないし9、12、13及び15に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、6ないし9、12、13及び15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。 (2)請求項3ないし5、10及び11に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3ないし5、10及び11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。 (3)請求項14に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲2ないし甲5及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。 第4 甲1ないし甲7の記載及び甲1に記載された発明 1.甲1の記載 甲1には、以下のとおりの記載がある。 (1)「【請求項1】 α,β-不飽和カルボン酸を構成単位とする(共)重合体(A)の中和物からなり、該(A)中の酸基の10?99.9モル%がアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩であり、0.01?50モル%が第4級アンモニウム塩、アンモニウムおよび有機アミンの群から選ばれる少なくとも1種の塩であり、0?89.9モル%が遊離の酸基であることを特徴とする顔料分散剤。 【請求項2】 第4級アンモニウム塩がテトラアルキルアンモニウム塩である請求項1記載の分散剤。 【請求項3】 α,β-不飽和カルボン酸がアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸半エステルおよびフマル酸半エステルの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の分散剤。 【請求項4】 無機顔料用である請求項1?3のいずれか記載の分散剤。」(特許請求の範囲請求項1?4) (2)「実施例1 耐圧反応容器にイソプロピルアルコール420部、水120部を仕込み、窒素置換後密閉し、100℃に昇温した。攪拌下アクリル酸77部と、アクリル酸228部と連鎖移動剤(トリエチレングリコールジメルカプタン)4部と次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部と塩化第1鉄(4水和物)0.7部との均一混合物と、過硫酸ナトリウム6%水溶液50部とを、別々の容器からそれぞれ3時間、1時間後から2時間、3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、35%過酸化水素水溶液3部を投入し同温度で1時間保持し重合率99.9%の重合体(a)を得た。このもののGPCによる重量平均分子量は10,000、分子量分布は1.28であった。水酸化ナトリウム30%水溶液158部、トリエチルメチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール60%溶液27部で中和した後、イソプロピルアルコール、メチルアルコールを留去して、ポリアクリル酸混合塩水溶液を得た。 実施例2、3、4、5 重合体(a)を用いて中和塩、中和度を表1記載のように代えた以外は実施例1に同じ。」(段落【0021】?【0022】) (3)「【表1】 --------------------------------- |中和度|中和塩の種類と中和度(モル%) |モル%| --------------------------------- 実施例 1| 30|ナトリウム28/トリエチルメチルアンモニウム2 --------------------------------- 実施例 2| 40|ナトリウム30/テトラメチルアンモニウム10 --------------------------------- 実施例 3| 60|ナトリウム57/ジエタノールアミン 3 --------------------------------- 実施例 4|100|ナトリウム 95/アンモニウム 5 --------------------------------- 実施例 5| 30|ナトリウム 29.5/アンモニウム 0.5 --------------------------------- 実施例 6| 40|ナトリウム 38/アンモニウム 2 --------------------------------- 実施例 7| 60|ナトリウム 59/アンモニウム 1 --------------------------------- 実施例 8|100|ナトリウム 99/テトラメチルアンモニウム1 --------------------------------- 実施例 9| 60|ナトリウム30/トリエチルメチルアンモニウム30 --------------------------------- 実施例10|100|カリウム 90 /テトラメチルアンモニウム10 --------------------------------- 実施例11| 60|ナトリウム 98/トリエチルアンモニウム 2 --------------------------------- 実施例12|100|カリウム99.5/テトラメチルアンモニウム0.5 --------------------------------- 実施例13|100|ナトリウム70/トリエチルメチルアンモニウム30 --------------------------------- 実施例14|100|ナトリウム 97 /アンモニウム 3 --------------------------------- 比較例 1| 30|ナトリウム 28/リチウム 2 --------------------------------- 比較例 2| 40|ナトリウム 30/マグネシウム 10 --------------------------------- 比較例 3| 60|ナトリウム 57 /リチウム 3 --------------------------------- 比較例 4|100|ナトリウム95/リチウム 5 --------------------------------- 比較例 5| 30|ナトリウム 30 --------------------------------- 比較例 6| 40|ナトリウム 40 --------------------------------- 比較例 7| 60|ナトリウム 60 --------------------------------- 比較例 8|100|ナトリウム 100 --------------------------------- 比較例 9| 60|アンモニウム 60 --------------------------------- 比較例10|100|カリウム 100 --------------------------------- 比較例11|100|アンモニウム 100 --------------------------------- 比較例12|100|トリエチルアンモニウム 100 --------------------------------- 」(段落【0030】) (4)「試験例1(重質炭酸カルシウムの湿式粉砕分散) 水25部と、実施例1?10、比較例1?10の分散剤0.6部(固形分)とを均一に溶解した各水溶液に重炭酸カルシウムの荒挽き鉱石を75部添加し、サンドグラインダーを用いて30分攪拌分散させた。得られた75重量%炭酸カルシウム水性スラリーの製造直後、および25℃で7日間静置後の粘度をBL粘度計を用いて25℃、60rpmの条件で測定した。表2に試験結果を示す。」(段落【0031】) (5)「【表2】 質炭酸カルシウムの質式粉砕分散試験結果 ------------------------- 分散剤 | 炭酸カルシウム(75%)のスラリー粘度 | (mPa・s) | 製造直後 | 7日後 ------------------------- 実施例 1 | 230 | 2050 実施例 2 | 160 | 900 実施例 3 | 180 | 1200 実施例 4 | 150 | 850 実施例 5 | 150 | 900 実施例 6 | 130 | 1200 実施例 7 | 180 | 1200 実施例 8 | 150 | 850 実施例 9 | 150 | 900 実施例10 | 130 | 1200 -------------------------- 比較例 1 | 420 | 6500 比較例 2 | 320 | 4500 比較例 3 | 330 | 5000 比較例 4 | 400 | 5500 比較例 5 | 380 | 5100 比較例 6 | 420 | 6500 比較例 7 | 320 | 4500 比較例 8 | 330 | 5000 比較例 9 | 400 | 5500 比較例10 | 380 | 5100 -------------------------- 」(段落【0032】) 2.甲1に記載された発明 甲1には、摘示(1)?(4)から、特に、実施例2に係るポリアクリル酸混合塩水溶液の製造方法に着目すれば、次の発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。 「耐圧反応容器にイソプロピルアルコール420部、水120部を仕込み、窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、攪拌下アクリル酸77部と、アクリル酸228部と連鎖移動剤(トリエチレングリコールジメルカプタン)4部と次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部と塩化第1鉄(4水和物)0.7部との均一混合物と、過硫酸ナトリウム6%水溶液50部とを、別々の容器からそれぞれ3時間、1時間後から2時間、3.5時間かけて滴下し、滴下終了後、35%過酸化水素水溶液3部を投入し同温度で1時間保持し重合率99.9%の、GPCによる重量平均分子量が10,000、分子量分布が1.28である重合体(a)を得、これを水酸化ナトリウム30%水溶液169部、テトラメチルアンモニウムカーボネートのメタノール60%溶液96部で中和した後、イソプロピルアルコール、メチルアルコールを留去して得られる、ポリアクリル酸の中和物であり、酸基の30モル%がナトリウム塩で、酸基の10モル%がテトラメチルアンモニウム塩であり、残りの60モル%が遊離の酸基である、重炭酸カルシウム用の顔料分散剤である、ポリアクリル酸混合塩水溶液の製造方法。」 また、同じく、摘示(1)?(4)から、特に、実施例2に係る炭酸カルシウムスラリーの製造方法に着目すれば、次の発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されているといえる。 「耐圧反応容器にイソプロピルアルコール420部、水120部を仕込み、窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、攪拌下アクリル酸77部と、アクリル酸228部と連鎖移動剤(トリエチレングリコールジメルカプタン)4部と次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部と塩化第1鉄(4水和物)0.7部との均一混合物と、過硫酸ナトリウム6%水溶液50部とを、別々の容器からそれぞれ3時間、1時間後から2時間、3.5時間かけて滴下し、滴下終了後、35%過酸化水素水溶液3部を投入し同温度で1時間保持し重合率99.9%の、GPCによる重量平均分子量が10,000、分子量分布が1.28である重合体(a)を得、これを水酸化ナトリウム30%水溶液169部、テトラメチルアンモニウムカーボネートのメタノール60%溶液96部で中和した後、イソプロピルアルコール、メチルアルコールを留去して得られる、ポリアクリル酸の中和物であり、酸基の30モル%がナトリウム塩で、酸基の10モル%がテトラメチルアンモニウム塩であり、残りの60モル%が遊離の酸基である、ポリアクリル酸混合塩水溶液である分散剤0.6部(固形分)と水25部とを均一に溶解した水溶液に重炭酸カルシウムの荒挽き鉱石を75部添加し、サンドグラインダーを用いて30分攪拌分散させてなる、炭酸カルシウムスラリーの製造方法。」 3.甲2ないし甲7の記載 (1)甲2ないし甲4には、分散剤、スケール防止剤などに用いられる低分子量のポリカルボン酸重合体およびそれらの塩を製造するに際し、高価な次亜燐酸連鎖移動剤の使用量を減少させた、アクリレート単量体の重合または共重合方法が記載されている。 (2)甲5には、ポリアクリル酸系重合生成物において、重合開始剤由来の無機イオン含有量がポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対して12,000質量ppm以下であることが記載されている。 (3)甲6には、ポリアクリル酸等の重合体を中和するに際し、中和温度を40℃以上80℃未満の範囲に保持することが記載されている。 (4)甲7には、アルカリ金属イオンとアンモニウムイオンとで中和されたアクリル酸重合体及び/又はアクリル酸共重合体で特定末端基を有する重合体である分散剤の存在下、炭酸カルシウムを湿式粉砕する炭酸カルシウムスラリーの製造法が記載されている。 第5 対比・判断 1.本件発明1について (1)本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、甲1発明Aの「重炭酸カルシウム用の顔料分散剤である、ポリアクリル酸混合塩水溶液」は、本件発明1の「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を含む無機粒子分散剤」に相当し、甲1発明Aの「ポリアクリル酸の中和物であり、酸基の30モル%がナトリウム塩で、酸基の10モル%がテトラメチルアンモニウム塩であり、残りの60モル%が遊離の酸基である」、「ポリアクリル酸混合塩」は、本件発明1の「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており」、「水溶液に含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75であり」に相当する。 そして、甲1発明Aの「過硫酸ナトリウム」は、本件発明1の「過硫酸塩」に相当する。甲1発明Aの「過硫酸ナトリウム」の使用量を計算すると、「過硫酸ナトリウム6%水溶液50部」を用いていることから0.71gと算出される。そうすると、甲1発明Aの「過硫酸ナトリウム」の使用量についても、本件発明1の「過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い」と重複一致している。 そして、甲1発明Aの「次亜リン酸ナトリウム」は、本件発明1の「次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種」に相当する。甲1発明Aの「次亜リン酸ナトリウム」の使用量を計算すると、「次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部」を用いていることから0.35gと算出される。そうすると、甲1発明Aの「次亜リン酸ナトリウム」の使用量については、本件発明1の「次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用して」と相違する。 また、甲1発明Aのポリアクリル酸混合塩が、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で80質量%以上含むことは明らかである。 (2)そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、 「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を含む無機粒子分散剤を製造する方法であって、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を使用して製造されたものであり、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で80質量%以上含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており、 該水溶液に含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75である、 無機粒子分散剤の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。 [相違点1] 次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種の使用量の合計量が、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、本件発明1は、「1.0g以上、5.0g以下」と特定しているのに対し、甲1発明Aは、「0.35g」である点。 [相違点2] 水溶液に含まれる、硫黄原子又はリン原子を含む無機の陰イオンの濃度について、本件発明1は、「水溶液に対して1000?10000ppm」と特定しているのに対し、甲1発明Aは、特に特定していない点。 (3)相違点1について 確かに、甲2ないし甲4には、分散剤、スケール防止剤などに用いられる低分子量のポリカルボン酸重合体およびそれらの塩において、次亜燐酸連鎖移動剤を使用して重合することが記載されている(第4 3.(1))ものの、これらはあくまでも、高価な次亜燐酸連鎖移動剤の使用量を減少させることを目的とするものである。 そうすると、甲2ないし甲4の記載を参酌すれば、甲1発明Aにおいて用いられている次亜リン酸ナトリウムは、高価なものであることから、当該次亜リン酸ナトリウムの使用量を減らしこそすれ、増やすことには阻害要因があるといえる。 したがって、甲2ないし甲4に記載された事項を甲1発明Aに組み合わせたとしても、次亜リン酸ナトリウムの使用量を、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、0.35gからさらに増やし、1.0g以上、5.0g以下とすることは、たとえ当業者であっても容易とはいえない。 なお、甲1発明Aにおいて次亜リン酸ナトリウムは、還元剤として用いられているものであって、連鎖移動剤としてはトリエチレングリコールジメルカプタンが用いられているものであるところ、甲1発明Aにおいて、連鎖移動剤として用いられているトリエチレングリコールジメルカプタンに代えて、甲2ないし甲4に記載された次亜燐酸連鎖移動剤を使用することについて検討しても、上記したとおり、敢えて高価な次亜燐酸を使用することの動機を見出すこともできない。 そうである以上、たとえ、甲2ないし甲4に、第4 3.(1)で述べたような技術の開示があったとしても、甲1発明Aにおいて、次亜リン酸ナトリウムの使用量に関し、甲2ないし甲4に開示の技術を甲1発明Aに組み合わせる動機がないし、仮に組み合わせたとしても、甲1発明Aにおいて相違点1に係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。 また、甲5ないし甲7は、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種の使用量について開示するものではないことから、甲5ないし甲7の記載を参酌したとしても、相違点1についての上記の判断は変わらない。 以上のとおりであるから、相違点1は想到容易とはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1は甲1発明Aと相違点1及び2において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1は想到容易とはいえないのであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明Aを主たる引用発明として、甲2ないし甲7に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)さらなる検討 なお、甲1発明Aとは別に、甲1の実施例9、10または13に着目した発明を認定したとしても、当該発明と本件発明1とを対比すれば、少なくとも相違点1において相違するものであり、相違点1についての判断は(3)で述べたとおりであるから、やはり、本件発明1は、甲1に記載された発明を主たる引用発明として、甲2ないし甲7に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本件発明2ないし13について 本件発明2ないし13は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明を主たる引用発明として、甲2ないし甲7に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3.本件発明14について (1)本件発明14と甲1発明Bとを対比すると、甲1発明Bの「ポリアクリル酸混合塩水溶液である分散剤0.6部(固形分)と水25部とを均一に溶解した水溶液に重炭酸カルシウムの荒挽き鉱石を75部添加し、サンドグラインダーを用いて30分攪拌分散させてなる、炭酸カルシウムスラリーの製造方法」は、本件発明14の「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む無機粒子スラリーを製造する方法であって、 該製造方法は、無機粒子に、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を添加して無機粒子を粉砕する工程を含み」に相当し、甲1発明Bの「ポリアクリル酸の中和物であり、酸基の30モル%がナトリウム塩で、酸基の10モル%がテトラメチルアンモニウム塩であり、残りの60モル%が遊離の酸基である」、「ポリアクリル酸混合塩」は、本件発明14の「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており」、「無機粒子スラリーに含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75であり」に相当する。 そして、甲1発明Bの「過硫酸ナトリウム」は、本件発明14の「過硫酸塩」に相当する。甲1発明Bの「過硫酸ナトリウム」の使用量を計算すると、「過硫酸ナトリウム6%水溶液50部」を用いていることから0.71gと算出される。そうすると、甲1発明Bの「過硫酸ナトリウム」の使用量についても、本件発明14の「過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い」と重複一致している。 そして、甲1発明Bの「次亜リン酸ナトリウム」は、本件発明14の「次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種」に相当する。甲1発明Bの「次亜リン酸ナトリウム」の使用量を計算すると、「次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部」を用いていることから0.35gと算出される。そうすると、甲1発明Bの「次亜リン酸ナトリウム」の使用量については、本件発明14の「次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用して」と相違する。 また、甲1発明Bのポリアクリル酸混合塩が、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で90質量%以上含むことは明らかである。 (2)そうすると、本件発明14と甲1発明Bとは、 「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む無機粒子スラリーを製造する方法であって、 該製造方法は、無機粒子に、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を添加して無機粒子を粉砕する工程を含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を使用して製造されたものであり、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で90質量%以上含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており、 該無機粒子スラリーに含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75である、 無機粒子スラリーの製造方法。」の点で一致し、以下の相違点3ないし6で相違する。 [相違点3] 次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種の使用量の合計量が、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、本件発明14は、「1.0g以上、5.0g以下」と特定しているのに対し、甲1発明Bは、「0.35g」である点。 [相違点4] 無機粒子スラリーに含まれる、硫黄原子又はリン原子を含む無機の陰イオンの濃度について、本件発明14は、「水溶液に対して100?400ppm」と特定しているのに対し、甲1発明Bは、特に特定していない点。 [相違点5] 無機粒子スラリーに含まれる無機粒子について、本件発明14は、「全無機粒子100質量%に対して、粒径が2μm以下の粒子が90?100質量%含まれ」と特定しているのに対し、甲1発明Bは、特に特定していない点。 [相違点6] 無機粒子スラリーの固形分濃度について、本件発明14は、「75質量%以上」と特定しているのに対し、甲1発明Bは、特に特定していない点。 (3)相違点3について 相違点3は相違点1と同じであるから、1.(3)?(5)で述べたのと同じ理由により、相違点3は想到容易とはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明14は甲1発明Bと相違点3ないし6において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点3は想到容易とはいえないのであるから、相違点4ないし6について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1に記載された発明を主たる引用発明として、甲2ないし甲7に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4.本件発明15について (1)本件発明15と甲1発明Bとを対比すると、甲1発明Bの「ポリアクリル酸混合塩水溶液である分散剤0.6部(固形分)と水25部とを均一に溶解した水溶液に重炭酸カルシウムの荒挽き鉱石を75部添加し、サンドグラインダーを用いて30分攪拌分散させてなる、炭酸カルシウムスラリーの製造方法」は、本件発明15の「無機粒子に、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を添加して無機粒子を粉砕する工程を含む無機粒子スラリーを製造する方法」に相当し、甲1発明Bの「ポリアクリル酸の中和物であり、酸基の30モル%がナトリウム塩で、酸基の10モル%がテトラメチルアンモニウム塩であり、残りの60モル%が遊離の酸基である」、「ポリアクリル酸混合塩」は、本件発明15の「ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており」、「水溶液に含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75であり」に相当する。 そして、甲1発明Bの「過硫酸ナトリウム」は、本件発明15の「過硫酸塩」に相当する。甲1発明Bの「過硫酸ナトリウム」の使用量を計算すると、「過硫酸ナトリウム6%水溶液50部」を用いていることから0.71gと算出される。そうすると、甲1発明Bの「過硫酸ナトリウム」の使用量についても、本件発明15の「過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い」と重複一致している。 そして、甲1発明Bの「次亜リン酸ナトリウム」は、本件発明15の「次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種」に相当する。甲1発明Bの「次亜リン酸ナトリウム」の使用量を計算すると、「次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部」を用いていることから0.35gと算出される。そうすると、甲1発明Bの「次亜リン酸ナトリウム」の使用量については、本件発明15の「次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を、その使用量の合計がポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、1.0g以上、5.0g以下となるように使用して」と相違する。 また、甲1発明Bのポリアクリル酸混合塩が、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で90質量%以上含むことは明らかである。 (2)そうすると、本件発明15と甲1発明Bとは、 「無機粒子に、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体を含む水溶液を添加して無機粒子を粉砕する工程を含む無機粒子スラリーを製造する方法であって、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体は、過硫酸塩をポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して0.1g以上、1.9g以下用い、次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種を使用して製造されたものであり、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる全単量体由来の構造100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造を酸型換算で90質量%以上含み、 該ポリ(メタ)アクリル酸系重合体のカルボキシル基の少なくとも一部は有機アミンで中和されており、 該水溶液に含まれる、(メタ)アクリル酸(塩)がラジカル重合することにより形成される構造であって、-CH_(2)CR(COOM)-(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム塩、有機アミン塩を表す。)、で表される構造のモル数と、水溶液に添加された有機アミン(塩)が反応して形成された構造のモル数及び未反応のままで存在する有機アミン(塩)のモル数の合計とのモル比が100:10?100:75である、 無機粒子スラリーの製造方法。」の点で一致し、以下の相違点7及び8で相違する。 [相違点7] 次亜リン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩の少なくとも1種の使用量の合計量が、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いる全単量体1モルに対して、本件発明15は、「1.0g以上、5.0g以下」と特定しているのに対し、甲1発明Bは、「0.35g」である点。 [相違点8] 水溶液に含まれる、硫黄原子又はリン原子を含む無機の陰イオンの濃度について、本件発明15は、「水溶液に対して1000?10000ppm」と特定しているのに対し、甲1発明Bは、特に特定していない点。 (3)相違点7について 相違点7は相違点1と同じであるから、1.(3)?(5)で述べたのと同じ理由により、相違点7は想到容易とはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明15は甲1発明Bと相違点7及び8において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点7は想到容易とはいえないのであるから、相違点8について検討するまでもなく、本件発明15は、甲1に記載された発明を主たる引用発明として、甲2ないし甲7に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-12-06 |
出願番号 | 特願2012-509691(P2012-509691) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08F)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤井 勲 |
特許庁審判長 |
小柳 健悟 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 西山 義之 |
登録日 | 2016-01-22 |
登録番号 | 特許第5873009号(P5873009) |
権利者 | 株式会社日本触媒 |
発明の名称 | ポリ(メタ)アクリル酸系重合体水溶液およびその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |