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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1322330 |
異議申立番号 | 異議2016-700768 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-24 |
確定日 | 2016-12-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5867406号発明「生分解性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5867406号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第5867406号の請求項1ないし7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年7月11日(優先権主張平成23年8月8日)に特許出願され、平成28年1月15日に設定登録され、その後、特許異議申立人昭和電工株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 乳酸系樹脂(A)と、乳酸系樹脂(A)以外の生分解性樹脂(B)を含有する生分解性フィルムであって、フィルムの長さ方向と厚さ方向の断面において、生分解性樹脂(B)からなる連続相に、乳酸系樹脂(A)からなる分散相が、フィルムの長さ方向に長い楕円状またはフィルムの長さ方向に長い層状に分散した構造を有し、乳酸系樹脂(A)と生分解性樹脂(B)の合計100質量%における、乳酸系樹脂(A)の含有量(質量%)をP_(A)、生分解性樹脂(B)の含有量(質量%)をP_(B)、該分散相の厚さ(nm)をW_(A)、連続相の厚さ(nm)をW_(B)としたときに、分散相の厚さW_(A)が5?100nmであり、かつ次式を満たす生分解性フィルム。 W_(A)/W_(B)≦2.0×P_(A)/P_(B) 【請求項2】 JIS K7128-1 (1998)で定められたトラウザー引裂法によるフィルムの引裂強度が、長さ方向、幅方向のいずれも5N/mm以上である請求項1に記載の生分解性フィルム。 【請求項3】 P_(A):P_(B)=5:95?60:40である請求項1または2に記載の生分解性フィルム。 【請求項4】 温度200℃、剪断速度100sec^(-1)における乳酸系樹脂(A)の溶融粘度をη_(A)、温度200℃、剪断速度100sec^(-1)における生分解性樹脂(B)の溶融粘度をη_(B)としたとき、次式を満たす請求項1?3のいずれかに記載の生分解性フィルム。 0.3≦η_(A)/η_(B)≦1.1 【請求項5】 相溶化剤を含有する請求項1?4のいずれかに記載の生分解性フィルム。 【請求項6】 乳酸系樹脂(A)が、ポリエーテル系セグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体及びポリエステル系セグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つとホモポリ乳酸とからなる請求項1?5のいずれかに記載の生分解性フィルム。 【請求項7】 生分解性樹脂(B)が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペートおよびポリブチレンアジペート・テレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1?6のいずれかに記載の生分解性フィルム。」 第3 特許異議申立の理由の概要 異議申立人は、証拠として甲第1号証(本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開2005-281677号公報)及び甲第2号証(実験成績証明書)を提出し、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである旨主張している。 第4 甲各号証の記載及び甲1号証に記載された発明 1 甲第1号証の記載及び甲第1号証に記載された発明 (1) 甲第1号証の記載 甲第1号証には、「脂肪族ポリエステル系樹脂組成物及びその成形体」に関して、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 下記の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)及び脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物であって、(A)及び(B)の合計100重量部中(A)を50?99重量部、(B)を1?50重量部含有しており、かつ(A)及び(B)の合計100重量部に対し、(C)を1?100重量部含有してなることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。 [脂肪族ポリエステル系樹脂(A)] 脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、並びに脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族ポリエステル系樹脂 [芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)] 脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位、並びに芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計に対し、5?50モル%である芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂 [脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)] 脂肪族オキシカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族オキシカルボン酸系樹脂 ・・・ 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなる成形体。 【請求項6】 フィルムである、請求項5に記載の成形体。」 イ 「【0013】 本発明の成形体は、このような本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなるものであり、十分な可撓性、優れた力学特性、特に優れた引き裂き強度、引っ張り伸度、及び衝撃強度を有し、自然環境下における分解特性をも有するものであり、特にフィルム用途に有用である。」 ウ 「【0015】 以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。 <脂肪族ポリエステル系樹脂(A)> 脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、並びに脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とする。好ましくは、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、下記式(1)で表される脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、並びに下記式(2)で表される脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とするものである。 -O-R^(1)-O- (1) -OC-R^(2)-CO- (2) (上記式(1),(2)中、R^(1)は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基を、R^(2)は直接結合、2価の脂肪族炭化水素基、又は2価の脂環式炭化水素基を表す。) 【0016】 式(1)のジオール単位を与えるジオール成分(a-1)は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でもエチレングリコール、1,4-ブタンジオールが好ましく、1,4-ブタンジオールが特に好ましい。 【0017】 式(2)のカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分(a-2)は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸が好ましい。」 エ 「【0041】 <芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)> 芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)は、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位、並びに芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計に対し、5?50モル%であるものであり、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)に含まれる脂肪族又は脂環式ジオール単位は、下記式(3)で表され、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位は下記式(4)で表され、芳香族ジカルボン酸単位は下記式(5)で表されることが好ましい。 -O-R^(3)-O- (3) -OC-R^(4)-CO- (4) -OC-R^(5)-CO- (5) (上記式(3)中、R^(3)は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基を表し、式(4)中、R^(4)は直接結合、2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基を表し、式(5)中、R^(5)は2価の芳香族炭化水素基を表す。) 【0042】 式(3)のジオール単位を与えるジオール成分(b-3)は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でもエチレングリコール、1,4-ブタンジオールが好ましく、1,4-ブタンジオールが特に好ましい。 【0043】 式(4)のカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分(b-4)は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸が好ましい。 【0044】 式(5)の芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分(b-5)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、中でもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。」 オ 「【0054】 <脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)> 脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)は、脂肪族オキシカルボン酸単位を必須成分とするものであり、その脂肪族オキシカルボン酸単位は、下記式(6)で表されることが好ましい。 -O-R^(6)-CO- (6) (上記式(6)中、R^(6)は2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基を表す。) 【0055】 式(6)の脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸成分(c-6)の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体のいずれでもよい。これらの中で好ましいものは、乳酸又はグリコール酸である。これら脂肪族オキシカルボン酸成分(c-6)は、2種類以上を混合して用いることもできる。 【0056】 また、生分解性に影響を与えない範囲で、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)にはウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。」 カ「【0089】 本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の成形方法に関しては、熱プレス成形、射出成形、押し出し成形等特に限定されないが、押し出し成形により得られるフィルム状成形体において、特に本発明の効果が顕著に現れる。即ち、本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形していられるフィルムは、十分な引っ張り伸度、引き裂き強度、衝撃強度等を有する。 【0090】 フィルム状成形体を得る方法としては、例えばTダイ、Iダイ、丸ダイ等から所定の厚みに押出したフィルム状、シート状物又は円筒状物を、冷却ロールや水、圧空等により冷却、固化させる方法等が挙げられる。この際、本発明の効果を阻害しない範囲で数種の組成物を積層させた積層フィルムとすることもできる。」 キ「【0094】 脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造に用いた各成分は以下の通りである。 (1)脂肪族ポリエステル系樹脂(A) [脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)] 攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた容量1m^(3)の反応容器に、コハク酸134kg、1,4-ブタンジオール116リットル、DLリンゴ酸0.24kg、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%DL乳酸水溶液7.21kgを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下120℃から反応を開始し、1時間40分かけて200℃まで昇温した。引き続き、1時間25分かけて230℃に昇温すると同時に1mmHg(133Pa)まで減圧し、230℃、1mmHg(133Pa)にて4時間20分重合を行い、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)を得た。 【0095】 得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)のMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.2g/10分、結晶化温度は82℃(半値幅は7.2℃)であった。また融点は110℃であった。この脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)中のリンゴ酸成分は0.15モル%であった。 【0096】 [脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)] 攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧口を備えた容量1m^(3)の反応容器に、コハク酸76.9kg、アジピン酸24.8kg、1,4-ブタンジオール84.3リットル、DLリンゴ酸0.24kg、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%DL乳酸水溶液5.4kgを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下120℃から反応を開始し、1時間40分かけて200℃まで昇温した。引き続き、1時間25分かけて230℃に昇温すると同時に1mmHg(133Pa)まで減圧し、230℃、1mmHg(133Pa)にて4時間重合を行い脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)を得た。 【0097】 得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)のMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.2g/10分、結晶化温度は58℃(半値幅は6.8℃)であった。また融点は88℃であった。この脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)中のリンゴ酸成分は0.16モル%であった。 【0098】 [脂肪族ポリエステル系樹脂(A3)] 脂肪族ポリエステル系樹脂(A3)として、昭和高分子社製のポリブチレンスクシネート「ビオノーレ#1001」を用いた。このもののMFR(190℃、2.16kg荷重)は1.5g/10分、結晶化温度は83℃(半値幅は7.2℃)であった。また融点は112℃であった。 【0099】 [脂肪族ポリエステル系樹脂(A4)] 脂肪族ポリエステル系樹脂(A4)として、昭和高分子社製のポリブチレンスクシネート「ビオノーレ#3001」を用いた。このもののMFR(190℃、2.16kg荷重)は0.8g/10分、結晶化温度は62℃(半値幅は6.2℃)であった。また融点は94℃であった。 【0100】 (2)芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B) 芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)として、ビー・エー・エス・エフ ジャパン社製のポリブチレンテレフタレートアジペート「エコフレックス」を用いた。このもののMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.3g/10分であった。なお、1H-NMR測定によると、「エコフレックス」を構成するモノマーの組成は、テレフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオール=87/100/187モル比であった。 【0101】 (3)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C) [脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)] 脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)として、三井化学社製のポリ乳酸「レイシアH-100」を用いた。このもののMFR(190℃、2.16kg荷重)は8.3g/10分であった。なお、融点は166℃、ガラス転移温度は59℃であった。 【0102】 [脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C2)] 脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C2)として、三井化学社製のポリ乳酸「レイシアH-400」を用いた。このもののMFR(190℃、2.16kg荷重)は3.9g/10分であった。なお、融点は165℃、ガラス転移温度は59℃であった。 【0103】 [脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C3)] 脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C3)として、三井化学社製のポリ乳酸「レイシアH-280」を用いた。このもののMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.1g/10分であった。なお、DSC測定において融点は観測されず、ガラス転移温度は56℃であった。」 ク「【0107】 実施例1?20及び比較例1?5 脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)?(A4)、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)?(C3)、カルボジイミド化合物(D)、充填材(E1),(E2)、可塑剤(F)を表1,2に示した配合にて、190℃において二軸混練機にて混練し、175℃でインフレ成形し、20μm厚みのフィルムを得た。その際のブロー比を表1,2に併せて示した。」 ケ「 ![]() 」 (2) 甲第1号証に記載された発明 上記記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「脂肪族ポリエステル系樹脂(A)、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)及び脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなるフィルム。」 2 甲第2号証の記載 甲第2号証には、次の事項が記載されている。 「5.実験方法 5-1.概要 特開2005-281677号公報に記載の実施例14、15、20に記載のフィルムを作製し、特許5867406号公報に記載の観察および解析を行った。 5-2.試料の作製 特開2005-281677号公報に記載の実施例14、15、20に基づきフイルムを作製した。 5-2-1.使用した成分 特開2005-281677号公報の【0094】?【0101】の記載に基づき、成分を決定した。使用した各成分は以下のとおりである。 (1)脂肪族ポリエステル系樹脂(A1) 脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)として、当該公開特許の出願人である三菱化学株式会社製の「GS-PLA AZ91TN」を用いた。 この三菱化学株式会社製の「GS-PLA AZ91TN」は、NMRでその組成成分を分析したところ(分析の詳細は添付資料1を参照)、 コハク酸/I,4-ブタンジオール/乳酸=49/49/2 (モル比) というものであった。 また、同様に、「GS-PLA AZ91TN」の融点をJIS K7121に準拠し、試験片を質量5mg、加熱速度10℃/分の条件で測定して融解ピーク温度より求めたところ、110℃であった。 さらに、メルトフローレート(MFR、190℃、2.16kg荷重)を、JIS K7210に準拠し測定したところ、4.5g/10分であった。 以上のことより、実験に用いた三菱化学株式会社製の「GS-PLA AZ91TN」は、特開2005-281677号公報に脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)として記載されている、脂肪族ポリエステル系樹脂と、ほぼ同様な組成と物性とを有するポリエステル系の樹脂であることがわかる。 (2)脂肪族ポリエステル系樹脂(A2) 脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)として、当該公開特許の出願人である三菱化学株式会社製の「GS-PLA AD92WN」を用いた。 この三菱化学株式会社製の「GS-PLA AD92WN」について、上記(A1)の場合と同様にして、樹脂の組成と、融点と、MFRとを測定したところ、次のような結果が得られた。 コハク酸/アジピン酸/I,4-ブタンジオール/乳酸=38/10/50/2(モル比) 融点88℃、MFR4.5g/10分 以上のことより、実験に用いた三菱化学株式会社製の「GS-PLA AD92WN」は、特開2005-281677号公報に脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)として記載されている、脂肪族ポリエステル系樹脂と、ほぼ同様の組成と物性とを有するポリエステル系の樹脂であることがわかる。 ・・・ (5)芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B) 芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)として、ポリブチレンテレフタレートアジペートのBASF・ジャパン社製の「エコフレックス F Blend C1200」を用いた。 この「エコフレックス F Blend C1200」について上記(A1)の場合と同様にして樹脂の組成とMFRを測定したところ、 ポリブチレンテレフタレートアジペート:テレフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオールは、85/97/187(モル比)(添付資料1参照)であり、MFRは4.3g/10分であった。すなわち、特開2005-281677号公報に記載されている「エコフレックス」と同一のものである。 (6)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1) 脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)として、ポリ乳酸を用いた。 ポリ乳酸としては、NatureWorks社製の「Ingeo3001D」を用いた。 この「ingeo3001D」を上記(A1)の場合と同様にして、融点とMFRを測定したところ、融点は166℃、MFRは11.6g/10分であった。また、示差走査熱量測定(DSC)を昇温速度10℃/分で測定し、ガラス転移温度を求めたところ、ガラス転移温度は61℃であった(添付資料1参照)。 以上のことより、当該ポリ乳酸は、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)として特開2005-281677号公報に記載されている三井化学社製のポリ乳酸「レイシアH-100」と同一の性状を有する樹脂であることがわかる。」 第5 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)」は、本件特許発明1の「乳酸系樹脂(A)」に相当し、同様に後者の「脂肪族ポリエステル系樹脂(A)、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)」、「脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなるフィルム」は、前者の「乳酸系樹脂(A)以外の生分解性樹脂(B)」、「生分解性フィルム」に相当する。 以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、 [一致点] 「乳酸系樹脂(A)と、乳酸系樹脂(A)以外の生分解性樹脂(B)を含有する生分解性フィルム」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点] 連続相及び分散相の関係に関して、本件特許発明1では、「フィルムの長さ方向と厚さ方向の断面において、生分解性樹脂(B)からなる連続相に、乳酸系樹脂(A)からなる分散相が、フィルムの長さ方向に長い楕円状またはフィルムの長さ方向に長い層状に分散した構造を有し、乳酸系樹脂(A)と生分解性樹脂(B)の合計100質量%における、乳酸系樹脂(A)の含有量(質量%)をP_(A)、生分解性樹脂(B)の含有量(質量%)をP_(B)、該分散相の厚さ(nm)をW_(A)、連続相の厚さ(nm)をW_(B)としたときに、分散相の厚さW_(A)が5?100nmであり、かつW_(A)/W_(B)≦2.0×P_(A)/P_(B)を満たす」(以下、「分散構造」という。)のに対して、引用発明では、かかる分散構造を有するか不明な点。 第6 判断 1 本件特許発明1について (1) 甲第1号証の実施例14及び15との同一性 ア 「使用した成分」(甲第2号証第2頁)について (ア)上記摘示事項キから、甲第1号証の実施例14及び15は、「コハク酸134kg、1,4-ブタンジオール116リットル、DLリンゴ酸0.24kg、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%DL乳酸水溶液7.21kg」を重合して、「脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)」を、「コハク酸76.9kg、アジピン酸24.8kg、1,4-ブタンジオール84.3リットル、DLリンゴ酸0.24kg、酸化ゲルマニウムを予め1重量%溶解させた90%DL乳酸水溶液5.4kg」を重合して、「脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)」を得ている。 また、「ビー・エー・エス・エフ ジャパン社製のポリブチレンテレフタレートアジペート『エコフレックス』」を「芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)」として用いている。なお、「エコフレックス」の型番については不明である。 さらに、「レイシアH-100」を「脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)」として用いている。 しかるところ、甲第2号証の実験成績証明書においては、「脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)」として、「GS-PLA AZ91TN」を、「脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)」として、「GS-PLA AD92WN」を用いている。 また、「芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)」として、特定の型番である「エコフレックス F Blend C1200」を用いている。 さらに、「脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)」として、「レイシアH-100」とは異なる「Ingeo3001D」を用いている。 そうすると、「使用した成分」について、甲第2号証の実験成績証明書において用いられた樹脂と甲第1号証の実施例14及び15に記載されたものは同一とはいえない。 (イ)上記「使用した成分」について、異議申立人は、「GS-PLA AZ91TN」が甲第1号証記載の「脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)」と、「GS-PLA AD92WN」が甲第1号証記載の「脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)」と「ほぼ同様な組成と物性とを有するポリエステル系の樹脂である」(甲第2号証第2頁、添付資料1参照)と主張しているが、「ほぼ同様な組成と物性とを有する」としても、同一であるとはいえない。 また、異議申立人は、甲第2号証の添付資料1を参照しつつ、「エコフレックス F Blend C1200」が甲第1号証記載の「芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)」と「同一のものである」と主張し、「レイシアH-100」が甲第1号証記載の「脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)」と「同一の性状を有する樹脂である」と主張しているが、前者については、テレフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオールのモル比が両者で異なり、後者については、MFRが両者で異なるから、「エコフレックス F Blend C1200」が甲第1号証記載の「芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)」と同一であるとはいえないし、また「レイシアH-100」が甲第1号証記載の「脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)」と同一であるともいえない。 イ 「TEM観察・画像解析」及び「トラウザー引裂強度」(甲第2号証第5、6頁)について 本件特許発明1においては、透過型電子顕微鏡を加速電圧「100kV」の条件で用い、引裂強度の測定雰囲気を「湿度65%RH」において行っている。 他方、甲第2号証の実験成績証明書においては、測定機器が異なる上に、透過型電子顕微鏡を加速電圧「120kV」の条件で用い、引裂強度の測定雰囲気を「湿度50%RH」において行っている(甲第2号証第5?7頁、添付資料2参照)。 そうすると、測定機器が異なる上に、測定条件が異なるから、測定結果から直ちに甲第2号証の実験成績証明書において用いられた樹脂と甲第1号証の実施例14及び15において用いられたものは同一であるとはいえない。 ウ したがって、引用発明は上記分散構造を有しているとはいえず、上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1が引用発明と同一であるとはいえない。 (2) 甲第1号証の実施例20との同一性 上記(1)と同様に、引用発明は上記分散構造を有しているとはいえず、上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1が引用発明と同一であるとはいえない。 (3) 小括 本件特許発明1と引用発明とは、上記相違点で実質的に相違するから、本件特許発明1は、引用発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 2 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし7とは、少なくとも上記相違点で実質的に相違するから、本件特許発明2ないし7は、引用発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件特許を取り消すことができない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-12-05 |
出願番号 | 特願2012-538894(P2012-538894) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C08J)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岩本 昌大 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
小柳 健悟 大島 祥吾 |
登録日 | 2016-01-15 |
登録番号 | 特許第5867406号(P5867406) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 生分解性フィルム |
代理人 | 大谷 保 |