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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E03D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E03D
審判 全部無効 2項進歩性  E03D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03D
管理番号 1322556
審判番号 無効2013-800237  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-20 
確定日 2016-06-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3578169号発明「水洗便器」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正することを認める。 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は,請求人が,被請求人が特許権者である特許第3578169号(以下「本件特許」という。平成12年3月31日に出願した特願2000-96506号の一部を平成15年10月7日に新たな特許出願としたものであって,平成16年7月23日に設定登録された。請求項の数は1である。)の請求項1に係る発明についての特許を無効にすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件審判の経緯は,以下のとおりである。

平成25年12月20日 審判請求
平成26年 3月24日 審判事件答弁書,訂正請求書
平成26年 5月 1日 弁駁書
平成26年 5月23日 手続補正書(請求人)
平成26年 7月 4日 審理事項通知書
平成26年 8月28日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 8月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 9月 8日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成26年 9月11日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成26年 9月11日 口頭審理
平成26年10月 8日 審決の予告
平成26年12月15日 訂正請求書
平成27年 2月 4日 弁駁書

第3 訂正請求

1 訂正請求の内容
被請求人が平成26年12月15日に行った訂正請求(以下「本件訂正」という。)は,本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)について,訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを請求するものであって,次の事項をその訂正内容とするものである(下線は,平成26年12月15日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりである。)。

(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1において,「該便器ボール部に貯め置く溜水を汚物と共にトラップから排出し」とあるのを,「該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項1において,「ボール面上縁部に設けられたボール面噴出口」とあるのを,「ボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項1において,「このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,」を追加する。

(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項1において,「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する案内手段」とあるのを,「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許請求の範囲の請求項1において,「前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有する」とあるのを,「前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し,」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許請求の範囲の請求項1において,「前記棚部は,前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し,」を追加する。

(7)訂正事項7
本件特許請求の範囲の請求項1において,「この棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており,」を追加する。

(8)訂正事項8
本件特許請求の範囲の請求項1において,「前記棚部は,前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」を追加する。

(9)訂正事項9
本件特許明細書の段落【0005】において,

「上記した課題を解決するため,本発明の水洗便器では,新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部に貯め置く溜水を汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器であって,前記便器ボール部におけるボール面上縁部に設けられたボール面噴出口であって,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と,前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する案内手段とを備え,前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備え,前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を設けた。」

とあるのを,

「上記した課題を解決するため,本発明の水洗便器では,新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器であって,前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と,前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段とを備え,前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備え,前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し,前記棚部は,前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し,この棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており,前記棚部は,前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている。」

と訂正する。

2 訂正の適否

(1)訂正事項1について

ア 訂正事項1は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「水洗便器」について,「溜水」が「便器ボール部のボール面」に貯め置かれる点,及び「溜水」を「ボール面の付着汚物と共に」排出する点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 「ボール面」との限定に関して,本件特許明細書の段落【0008】には「便器10は,汚物を受けるボール部20を備える。ボール部20の周壁は,便器10の非洗浄時でも溜水RWと接する覆水面23と,便器10の非洗浄時には溜水RWと接しない露出面24から構成されている。」との記載があり,また,段落【0021】 には「このため,棚部50の棚面に乗って流れている洗浄水を,…棚部50の旋回経路各部でボール部20のボール面(詳しくは,露出面24から覆水面23にかけてボール面)に沿って流し落とすことができる。」との記載がある。

ウ 「ボール面の付着汚物」との限定に関して,本件特許明細書の段落【0021】には「このように旋回経路各部で流れ落ちる洗浄水(リムショット洗浄水)でボール面の付着汚物を確実に剥離できるので,ボール面洗浄能力を向上させることができる。」との記載がある。

エ したがって,訂正事項1は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について

ア 訂正事項2は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ボール面噴出口」について,「露出」して設けられた点,及び「1つ」である点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 「露出して」との限定に関して,本件特許明細書の段落【0010】には「リム噴出口44は,…リム給水路43の先端に位置するよう,ボール部20のボール面(詳しくは露出面24)上縁に形成されている。」との記載があり,また,段落【0037】には「リム噴出口44近傍では,対向するオーバーハング部52と棚部50との間を,ボール部20の側で解放することで,この領域の棚部50の棚面を便器上方から見やすくした。」との記載がある。

ウ 「1つの」との限定に関して,本件特許明細書の段落【0009】には「他方の経路(リムショット噴出系)は,洗浄水給水孔40から,ボール部20の上部側面に空けられたリム噴出口44までの経路を有する。」との記載があり,また,図1には1つのリム噴出口44が記載されている。

エ したがって,訂正事項2は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について

ア 訂正事項3は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ボール面噴出口」について,「洗浄水を供給する給水路の先端開口」である点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 本件特許明細書の段落【0010】には「リム噴出口44は,…リム給水路43の先端に位置するよう…」との記載があり,また,段落【0016】には「給水路先端のリム噴出口44からボール部20に噴出される。」との記載がある。

ウ したがって,訂正事項3は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4について

ア 訂正事項4は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「案内手段」について,「露出」している点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 本件特許明細書の段落【0037】には「また,リム噴出口44より下流では,オーバーハング部52の傾斜形成により,棚部50の棚面はもとよりオーバーハング部52の内側面や連続部54の表面を,便器上方の側から使用者に見やすくした。」との記載がある。

ウ したがって,訂正事項4は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5について

ア 訂正事項5は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「規制壁部」について,「前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有」する点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 本件特許明細書の段落【0026】には「リム噴出口44との繋ぎ部分では,図示するように,リム部21の内面形状は,リム噴出口44の便器外方側の開口側面並びに開口上面から略連続した形状とされている。」との記載がある。

ウ したがって,訂正事項5は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(6)訂正事項6について

ア 訂正事項6は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「棚部」について,「前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有」する点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 本件特許明細書の段落【0020】には「便器10は,…このリム噴出口44の前方にボール面回りに旋回した経路の棚部50を有する。この棚部50は,ボール部20の上記した露出面24の上縁回りの領域に形成されており,リム噴出口44からのリムショット洗浄水を棚面に乗せて下流側(旋回軌跡の下流側)に流す。」との記載がある。

ウ したがって,訂正事項6は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(7)訂正事項7について

ア 訂正事項7は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「棚部」について,「棚面」が「前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いる点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 本件特許明細書の段落【0020】には「図2に示すように,便器10は,リム噴出口44を図における便器左側方に備え,図中斜線で示すように,このリム噴出口44の前方にボール面回りに旋回した経路の棚部50を有する。この棚部50は,ボール部20の上記した露出面24の上縁回りの領域に形成されており,リム噴出口44からのリムショット洗浄水を棚面に乗せて下流側(旋回軌跡の下流側)に流す。」との記載があり,また,段落【0021】には「棚部50は,その各部において,図4に示すように,ボール部20の底部の側に傾斜形成されている。」との記載があり,さらに,図2には棚部50及びオーバーハング部52が示されている。

ウ 上記イを踏まえて図4をみると,図4における棚部50とオーバーハング部52の位置関係から,棚部50の範囲が把握できる。よって,図4における,ボール面上縁回りに形成された棚部50より下側にある「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」が把握できるから,棚部50が有する棚面の「ボール部の底部の側への傾斜」が,「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」よりも緩やかに形成されていることが看て取れる。

エ したがって,訂正事項7は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

オ なお,請求人は,平成27年2月4日付け弁駁書(第4?13頁)において以下のように主張し,訂正事項7については願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は記載した事項の範囲内においてするものではなく,また,実質上特許請求の範囲を変更するものであるから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に規定する訂正の要件を満たさない旨を主張している。

(ア)「棚面」の範囲,「ボール面上縁」の具体的な位置や範囲,「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」の具体的な位置や範囲,傾斜角を測定すべき箇所を一義的に把握することができない(平成27年2月4日付け弁駁書(第5?8頁)参照)。

(イ)図3及び図4において,請求人による棚面の傾斜角測定箇所に基づけば,「棚面」の「便器ボール部の底部の側への傾斜」は,「ボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」の傾斜よりも大きく,また,図3において棚面の傾斜角測定箇所を下方にしても,「棚面」の「便器ボール部の底部の側への傾斜」は,「ボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」の傾斜と同じである(平成27年2月4日付け弁駁書(第8?9頁)参照)。

(ウ)本件特許明細書の段落【0021】には「棚面」の「便器ボール部の底部の側への傾斜」を大きくする構成及びその利点が開示されており,緩やかにする思想は排除されている(平成27年2月4日付け弁駁書(第10頁)参照)。

(エ)平成26年12月15日付け訂正請求書の第18頁の,「棚面」の「便器ボール部の底部の側への傾斜」を示す直線L1と,「ボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」の傾斜を示すL2を選択した根拠が不明であり,L1とL2の間の曲面の中間領域の位置づけが不明である(平成27年2月4日付け弁駁書(第11頁)参照)。

カ 上記オ(ア)?(エ)の主張について検討する。

(ア)上記オ(ア),オ(エ)の主張について
「棚面」の「便器ボール部の底部の側への傾斜」が「前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」よりも「緩やかに形成されて」いる点に関しては上記ウで述べたとおりであるから,L1とL2を選択した根拠は明らかである。また,L1とL2の間の曲面の中間領域については,傾斜が特定できない領域であって,「棚面」の「便器ボール部の底部の側への傾斜」及び「ボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」という特定事項とは関係しない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(イ)上記オ(イ)の主張について
棚部50の棚面を周回全体としてみた場合,その「ボール部の底部の側への傾斜」が,「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」よりも緩やかに形成されているから,請求人の主張は採用できない。

(ウ)上記オ(ウ)の主張について
段落【0021】の記載は「ボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」の傾斜との関係を述べたものではないから,請求人の主張は採用できない。

(8)訂正事項8について

ア 訂正事項8は,訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「棚部」について,「前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」点を限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであると認められる。

イ 本件特許明細書の段落【0020】には,「この棚部50は,ボール部20の上記した露出面24の上縁回りの領域に形成されており,リム噴出口44からのリムショット洗浄水を棚面に乗せて下流側(旋回軌跡の下流側)に流す。」との記載があり,また,段落【0021】には「棚部50の棚面に乗って流れている洗浄水を,図1に図中白抜き矢印で示すように,棚部50の旋回経路各部でボール部20のボール面(詳しくは,露出面24から覆水面23にかけてボール面)に沿って流し落とすことができる。よって,このように旋回経路各部で流れ落ちる洗浄水(リムショット洗浄水)でボール面の付着汚物を確実に剥離できるので,ボール面洗浄能力を向上させることができる。」との記載がある。
さらに,図1には,1つのリム噴出口44から噴出された噴出洗浄水が棚部50に沿って流れ,一方向(上方からみて反時計回り)の旋回流が形成されると共に,棚部50の棚面からボール部20のボール面のボール面上縁の下側で且つボール面上縁に隣接する領域に洗浄水が流下する様子が図示されている。

ウ したがって,訂正事項8は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

エ なお,請求人は,平成27年2月4日付け弁駁書(第12頁)において,訂正事項8に関し,本件特許明細書には「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」の具体的な位置や範囲について記載されていない旨を主張しているが,上記(7)ウのとおりであり,採用できない。

(9)訂正事項9について

ア 訂正事項9は,上記訂正事項1ないし訂正事項8による訂正に伴い明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるための訂正であるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ そして,上記(1)ないし(8)における訂正事項1ないし訂正事項8についての検討と同様の理由により,訂正事項9は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

ウ なお,請求人は,平成27年2月4日付け弁駁書(第12?13頁)において,訂正事項9は訂正事項7及び訂正事項8を内容とするから新規事項の追加及び特許請求の範囲の変更にあたる旨を主張しているが,上記(7)及び(8)のとおりであり,採用できない。

3 本件訂正についてのむすび

以上のとおりであるから,本件訂正を認める。

第4 本件訂正発明
上記第3のとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は,次に記載したとおりのものと認められる。

「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器であって,前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と,前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段とを備え,前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備え,前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し,前記棚部は,前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し,この棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており,前記棚部は,前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっていることを特徴とする水洗便器。」

第5 請求人の主張の概要及び証拠方法

請求人は,「特許第3578169号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており,その理由と証拠方法は次のとおりである。

1 無効理由1(新規性欠如)

(1)審判請求書(第7?23頁)における主張
本件特許の請求項1に係る発明は,本件特許の原出願(特願2000-96506号)の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。

(2)平成26年5月1日付け弁駁書(第16?33頁)における主張
ア 平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。

イ 甲第1号証の図17,図24には「1つのボール面噴出口」に相当する構成が記載されており,甲第1号証の図2,図4,図8,図16には「先端開口」に相当する構成が記載されている。

ウ 甲第1号証に記載された発明における「リム部内壁側面15のうちボウル部導水路16より下側の部分」及び「ボウル部導水路16」は,「棚部」及び「規制壁部」に相当する。

エ 甲第1号証には,「ボール面噴出口(横向吐水開口5)との繋ぎ部分において,ボール面噴出口(横向吐水開口5)の開口底面から略連続した棚面」として,「リム部内壁側面15のうちボウル部導水路16より下側の部分」が記載されている。

オ 甲第1号証には,「ボール面噴出口(横向吐水開口5)との繋ぎ部分において,ボール面噴出口(横向吐水開口5)の開口側面から略連続した壁面を有する規制壁部」として,「ボウル部導水路16」が記載されている。

(3)口頭審理陳述要領書(第11?18頁)における主張

ア 甲第1号証の図8に記載された「下向吐水開口4」は洗浄水を「ボール面上縁に沿って」噴出していないので,「横向吐水開口5」が「1つのボール面噴出口」に相当する。

イ 甲第1号証の図8に記載された「横向吐水開口5」の底面及び側面は,「リム部内壁側面15のうち境界部3より下側の部分」及び「リム部内壁側面15のうち境界部3の上部分」と略連続となっている。

(4)口頭審理陳述要領書(2)(第4?19頁)における主張

ア 甲第1号証に記載された発明において,ボウル部1を旋回する洗浄水は,「境界部3」の上側部分のみを流れるものではなく,下側部分も流れるものであり,当該下側部分は「棚部」に相当する。

イ 甲第1号証の図8に記載された「横向吐水開口5」の底面は「境界部3」のすぐ上側に位置しており,「境界部3」のすぐ下部分と略連続となっている。

(5)平成27年2月4日付け弁駁書(第15?16,25?27頁)における主張

ア 本件訂正発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。

イ 甲第1号証に記載された発明における「滑らかな段状をなす形状」の「乾燥面」の「傾斜が緩やかな面」である「上方領域」,及び,「傾斜の急な面」である「下方領域」は,それぞれ,本件訂正発明における「棚面」及び「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」に相当する。

ウ 甲第1号証の図2には「噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落と」す構成が開示されている。

(6)なお,無効理由1のうち,甲第2号証又は甲第3号証に基づく新規性の欠如についての無効理由は取り下げられたので(「第1回口頭審理調書」を参照。),無効理由1は以下のように整理できる。

本件訂正発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

2 無効理由2(進歩性欠如)

(1)審判請求書(第24?38頁)における主張

本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に,周知技術,甲第4号証あるいは甲第5号証に記載された技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。

(2)平成26年5月1日付け弁駁書(第34?51頁)における主張

ア 平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に,周知技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。

イ 甲第1号証に記載された発明に,水洗便器の技術分野における周知技術を適用して,棚部とボール面噴出口との繋ぎ部分において,甲第2号証ないし甲第8号証のようにボール面噴出口の開口底面を平坦にしたり,甲第9号証ないし甲第11号証のように水のエネルギー損失を抑制して流速の低下を抑えるために水が流れる部分を平面や平滑にすることにより,「略連続」の範囲内にすることは,最適化や設計変更のような当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。

ウ 甲第2号証に記載された発明に,水洗便器の技術分野における周知技術である,甲第1号証,甲第8号証,甲第9号証に開示されたボール面噴出口を「1つ」とする構成を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

エ 甲第3号証に記載された発明に,水洗便器の技術分野における周知技術である,甲第1号証,甲第8号証,甲第9号証に開示されたボール面噴出口を「1つ」とする構成,及び,甲第1号証,甲第2号証,甲第8号証,甲第9号証に開示された形成される旋回流を「一方向」とする構成を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

(3)口頭審理陳述要領書(第11?32頁)における主張

ア 甲第1号証に記載された発明に,水洗便器の技術分野における周知技術を適用して,棚部とボール面噴出口との繋ぎ部分において,甲第2号証ないし甲第8号証のようにボール面噴出口の開口底面を平坦にしたり,甲第9号証ないし甲第11号証のように水のエネルギー損失を抑制して流速の低下を抑えるために水が流れる部分を平面や平滑にすることにより,「略連続」の範囲内にすることは,最適化や設計変更のような当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。

イ 甲第2号証のFIG.2では「排出スロット36と流路26側の流路との繋ぎ部分」は露出しており,仮に露出していないとしても,甲第1号証,甲第3号証,甲第12号証,甲第13号証,甲第15号証,甲第16号証,甲第17号証,甲第18号証にボール面噴出口を露出させる構成が周知技術として開示されている。

ウ 甲第1号証,甲第8号証,甲第19号証にはボール面噴出口1つタイプとボール面噴出口2つタイプが相互に置換可能であることが周知技術として記載されており,甲第2号証に記載された発明に,甲第1号証,甲第8号証,甲第9号証に開示されたボール面噴出口を「1つ」とする周知技術を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

エ 甲第3号証に記載された発明に,水洗便器の技術分野における周知技術である,甲第1号証,甲第8号証,甲第9号証に開示されたボール面噴出口を「1つ」とする構成,及び,甲第1号証,甲第2号証,甲第8号証,甲第9号証に開示された形成される旋回流を「一方向」とする構成を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

(4)平成27年2月4日付け弁駁書(第14?26頁)における主張

ア 本件訂正発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に,周知技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。

イ 甲第1号証には「棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いる構成が開示されており,また,当該構成は,甲第2号証,甲第3号証,甲第9号証,甲第12号証ないし甲第18号証に開示されている周知技術であり,当該周知技術を甲第1号証に記載された発明に適用することは当業者が容易になし得たことである。

ウ 甲第2号証及び甲第3号証には「棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いる構成が開示されており,また,「噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落と」すことは甲第1号証等に開示された周知技術であり,当該周知技術を甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に適用することは当業者が容易になし得たことである。

(5)なお,無効理由2のうち,甲第1号証,甲第2号証又は甲第3号証,及び甲第4号証又は甲第5号証に基づく進歩性の欠如についての無効理由は取り下げられたので(「第1回口頭審理調書」を参照。),無効理由2は以下のように整理できる。

ア 本件訂正発明は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「無効理由2-1」という。)。

イ 本件訂正発明は,甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「無効理由2-2」という。)。

ウ 本件訂正発明は,甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「無効理由2-3」という。)。

3 無効理由3(特許法第36条第6項第1号又は第2号違反)

(1)審判請求書(第39?41頁)における主張
本件特許の請求項1の記載において,「略連続」の技術的意義が不明確であり,「略連続」の用語の意義をサポートする本件特許の構成,効果に係る技術的事項は本件特許の明細書及び図面には記載されていないので,本件特許の請求項1に係る発明は特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効にすべきものである。

(2)平成26年5月1日付け弁駁書(第52?55頁)における主張
平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明の記載において,「略連続」という用語の外延が不明確であり,「略連続」の用語の意義をサポートする本件特許の構成,効果に係る技術的事項は本件特許の明細書及び図面には記載されていないので,本件訂正発明は特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効にすべきものである。

(3)口頭審理陳述要領書(第6?10頁)における主張

ア 平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明の記載において,それ自体不明確である「連続」との用語に,さらに「略」が付された「略連続」という用語は外延が不明確である。

イ 本件特許明細書の図5には,リム噴出口44と棚部50との繋がり部分に段差を示す線が記載されているので,何故「略連続」なのかが不明確である。

(4)平成27年2月4日付け弁駁書(第27?28頁)における主張
本件訂正発明の記載において,「略連続」の文言について不備がある。さらに,「棚面」の「傾斜」の意義,「ボール面上縁」の意義,「隣接する領域」及びその「傾斜」の意義が不明確となっており,また,発明の詳細な説明によるサポートを欠いている。

4 証拠方法
請求人が提出した甲号証は,以下のとおりである。

甲第1号証:国際公開第98/16696号
甲第2号証:米国特許第4,930,167号明細書
甲第3号証:特開平11-350575号公報
甲第4号証:実公平7-35891号公報
甲第5号証:米国特許第3,843,977号明細書
甲第6号証:実願昭59-156187号(実開昭61-71678号)のマイクロフィルム
甲第7号証:実願昭61-201557号(実開昭63-108477号)のマイクロフィルム
甲第8号証:特開平8-177112号公報
甲第9号証:米国特許第3,538,518号明細書
甲第10号証:特開平11-264174号公報
甲第11号証:特開平11-140948号公報
甲第12号証:実公平2-45334号公報
甲第13号証:特開平9-125502号公報
甲第14号証:特開平9-125504号公報
甲第15号証:実願平4-2356号(実開平5-61272号)のCD-ROM
甲第16号証:特開平4-254630号公報
甲第17号証:英国特許出願公開第2045311号明細書
甲第18号証:西独国特許出願公開第2104884号明細書
甲第19号証:特開平8-120740号公報

第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法

被請求人は,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており,その主張の概要と証拠方法は次のとおりである。

1 無効理由1に対して

(1)審判事件答弁書(第9?26頁)における主張

ア 平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明のいずれとも同一ではない。

イ 甲第1号証に記載された発明は,2つの「ボール面噴出口」を備えている点,「棚部」を有していない点,「略連続した棚面」及び「略連続した壁面」を備えていない点において,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明と相違する。

ウ 甲第2号証に記載された発明における「排水スロット36」が,本件訂正発明における「ボール面噴出口」に相当するので,甲第2号証に記載された発明は「案内手段」を備えていない点において,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明と相違する。

エ 甲第3号証に記載された発明は,「射水孔42」及び2つの「ボール面噴出口」を備えている点,「オーバーハング」形状の「規制壁部」を備えていない点,ボール面噴出口との繋ぎ部分において「略連続」か否かが不明である点,互いに逆方向の旋回流を形成している点において,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明と相違する。

(2)口頭審理陳述要領書(第2?13頁)における主張

ア 甲第1号証に記載された発明における「汚物受け面10の上方領域」は,「平らで且つ物をのせる」という「棚」の一般的な意味と合致しておらず,また,洗浄水を案内して旋回流を形成していないので,「棚部」に相当しない。

イ 甲第1号証に記載された発明における「横向吐水開口5」は,「汚物受け面10の上方領域」と落差が生じているので「略連続」となっておらず,また,「ボウル部導水路16」と段差が生じているので「略連続」となっていない。

(3)口頭審理陳述要領書(2)(第2?6,9?11頁)における主張

ア 甲第1号証の図8に記載された「下向吐水開口4」は「ボール面噴出口」に相当するので,甲第1号証に記載された発明は「横向吐水開口5」及び「下向吐水開口4」の2つの「ボール面噴出口」を備えていることとなり,「1つのボール面噴出口」を備えるものではない。

イ 甲第1号証に記載された発明では,「境界部3」から「汚物受け面10(乾燥面12)」に洗浄水の一部(分流洗浄水)が流下するのみであり,「境界部3の下側部分」は旋回流を形成していないので 「棚部」に相当しない。

2 無効理由2に対して

(1)審判事件答弁書(第26?32頁),口頭審理陳述要領書(2)(第6?8頁)における主張

ア 平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に,周知技術,甲第4号証あるいは甲第5号証に記載された技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲第2号証,甲第4号証ないし甲第11号証は「ボックスリム」タイプや「オープンリム」タイプの水洗便器に関するものであるので,本件訂正発明における「前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し」という構成とは無関係なものである。甲第3号証の図9では略連続か否かが不明である。したがって,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に,周知技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲第2号証に記載された発明における「排水スロット36」が,本件訂正発明における「ボール面噴出口」に相当するので,甲第2号証に記載された発明は「案内手段」を備えていない点において,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明と相違する。

エ ボール面噴出口1つタイプとボール面噴出口2つタイプという2つの技術は適宜選択する設計事項ではないから,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,甲第3号証に記載された発明に,周知技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)口頭審理陳述要領書(第17?21頁)における主張

ア 甲第1号証に記載された発明においては,「横向吐水開口5」から噴出された洗浄水は,途中で「下向吐水開口4」から噴出された洗浄水と衝突するので,下流領域で旋回流の形成が難しくなるが,平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明においては「ボール面噴出口」は1つであるので,他の噴出口から噴出された洗浄水により邪魔されることがなく,ボール面全域を確実に洗浄することができる。したがって,甲第1号証に記載された発明において「ボール面噴出口」を1つとすることは困難である。

イ 甲第1号証に記載された発明においては,「横向吐水開口5」から噴出された洗浄水は,「ボウル部導水路16」に沿って流れるので,そもそも,棚部を設ける必要が無い。したがって,甲第1号証に記載された発明において「棚部」を設けることは困難である。

ウ 甲第1号証に記載された発明においては,「段差のある壁面」を有しているが,遠心力を利用して旋回流を形成するため,「横向吐水開口5」から勢いよく洗浄水を吐出するので,段差による影響は実質的に無い。したがって,甲第1号証に記載された発明において,「棚部」が「ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面」を有し,「規制壁部」が「ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面」を有するようにすることは困難である。

(3)平成26年12月15日付け訂正請求書(第10?31頁)における主張

ア 甲第1号証に記載された発明においては,「乾燥面12の上方領域」の傾斜は,「乾燥面12の上方領域より下側で且つ上方領域に隣接する領域」の傾斜よりも緩やかではないから,「乾燥面12の上方領域」は本件訂正発明の「棚部」に相当しない。

イ 甲第1号証に記載された発明において,「下向吐水開口」に代えて,溜水面に近接した「押込洗浄水吐水口」を形成することは「後知恵」であり,当業者が適宜なし得たことではない。

ウ 甲第1号証に記載された発明は,「棚部」及び「規制壁部」を備えていない。

3 無効理由3に対して

(1)審判事件答弁書(第32頁),口頭審理陳述要領書(2)(第2?3頁)における主張

ア 平成26年3月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明に記載された「略連続」は,「おおよそ,つらなりつづくこと」と理解でき,本件特許明細書の段落【0006】に記載された作用効果を奏することができる程度の連続を言うと理解できるので,サポート要件違反ではなく,明確性要件違反でもない。

イ 本件特許明細書の図5における,リム噴出口44と棚部50との繋がり部分の線は,リム噴出口44の開口形状を示すためのものであり,段差を示すものではない。

4 証拠方法
被請求人が提出した乙号証は,以下のとおりである。

乙第1号証:特開2007-315044号公報
乙第2号証:特開平10-237929号公報

第7 各甲号証の記載

1 甲第1号証について

本件特許の原出願(特願2000-96506号)の出願日(平成12年3月31日)前に頒布された刊行物である甲第1号証には,以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(甲1-ア)「ところが,上記した便器X1,X2は,未だ,以下の問題が残されていた。すなわち,上記の洗浄流路構造では,便器X1,X2のいずれにせよ,洗浄水を汚物受け面110に向けて流すために,リム部130の下側面がボウル部100内方に張出した複雑な形状となっている。したがって,リム部130の下側面などには上記釉薬を塗布しにくいので雑菌や汚れが付着しやすくなっており,その上,使用者からは死角となる窪みとなるために清掃が困難となって衛生性を損なっていた。さらには,付着した雑菌や汚れが臭気発生源となっていた。
さらに,リム通水路140の下側面には,前記したように多数の吐水孔160やスリット状の吐水口170を形成しなければならないので工程が煩雑となり,便器構造におけるコスト高の要因となっていた。…
そこで,本発明者らは,従来の水洗便器が有する課題を改善すべく鋭意検討した結果,上記課題を解決することのできる水洗便器を見出して本発明を完成するに至った。」(第2頁第12?26行)

(甲1-イ)「1. 便器上縁の内側壁面に沿って便器上縁の略全体に行き渡らせるよう主洗浄水を吐出する吐出手段と,
該吐出手段からの前記主洗浄水を案内する洗浄水導水路(16)と,
この導水路(16)と滑らかに連続して形成された前記主洗浄水から分かれた分流洗浄水をボール内面全体に行きわたらせる導水部(10)とを備えてなる水洗便器。」(請求の範囲)

(甲1-ウ)「吐水部から吐出された洗浄水は,吐水部から離れるにしたがって広がるものであり,…」(第7頁第23?24行)

(甲1-エ)「図1?図4に第1実施例に係る水洗便器Aを示している。水洗便器Aは釉薬を塗布した陶器製であり,図1及び図2に示すように,その前部がボウル部1を形成し,ボウル部1の後部に給・排水部2を配した構成としている。ボウル部1は,その内部空間Qの下部に洗浄水を貯溜するとともに,その前部に汚物を受けるための椀状に形成された汚物受け面10を有し,同汚物受け面10は,溜水部Wの水面下に没した溜水面11と,溜水部Wの水面上に位置する乾燥面12とからなり,同乾燥面12は溜水面11に連続する滑らかな段状をなす形状としている。」(第8頁第27行?第9頁第7行)

(甲1-オ)「上記構成の水洗便器Aにおいて,本発明の特徴となるのは,ボウル部1の汚物受け面10と,同ボウル部1の上部開口13の周縁に形成したリム部内側壁面15とを連続させて湾曲面を形成するとともに,同リム部内側壁面15を洗浄水のボウル部導水路16としたことにある。しかも,本実施例では,前記ボウル部導水路16を,前記リム部内側壁面15の全周,あるいはその一部をボウル部1内側方に向けて覆い被さるように傾斜させたオーバーハング面形状としている。
すなわち,オーバーハング面形状としたボウル部導水路16は,図1及び図3に示すように,汚物受け面10の乾燥面12から連続して鋭角状に滑らかに立上がっており,従来のリム部の内側周壁(図27(a),図28(a)参照)の傾斜とは逆向きで,しかも,かかるボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3を上方から目視可能としている。
かかる構成により,ボウル部1の汚物受け面10とリム部14との境界部3が上方から見て死角となるような窪みにならず,便器製造において釉薬の塗布が確実に行われるので,汚れや雑菌の付着が防止され,しかも,通常の清掃の容易に行えるので衛生性が保たれる。」(第9頁第20行?第10頁第7行)

(甲1-カ)「しかも,洗浄水は内側方へオーバーハングしたボウル部導水路16で上から押さえられた状態でリム部内側壁面15を流れ,汚物受け面10全体に行き渡って広く洗浄することができる。」(第10頁第22?24行)

(甲1-キ)「用便後,使用者が例えばレバーや押しボタンなどを操作して洗浄水を供給すると,給水された洗浄水は,上記給水孔21から導水路22に流れ,下向吐水開口4及び横向吐水開口5より汚物受け面10に向けて吐出される。」(第10頁第26行?第11頁第1行)

(甲1-ク)「一方,横向吐水開口5からの洗浄水は,前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら,乾燥面12を含む汚物受け面10を洗浄するとともに,溜水部Wに旋回流を発生させ,同溜水部Wの略中心部に渦を形成して浮遊する汚物を溜水部Wの中心に引き寄せる方向に作用する。」(第11頁第4?8行)

(甲1-ケ)「汚物を巻き込んだ洗浄水である処理水は,排水流路入口18から上昇路24に流れ,同上昇路24の端部に形成した堰部25から縦管26へ溢れ出す。そして,溢れ出た処理水は,縦管26に形成した第1絞り部27と第2絞り部28の各膨出棚部27a,28aへ当たり,両絞り部27,28間の空間29でウォーターシールを形成してサイホンを誘発する。この排水路23におけるサイホンの作用により,汚物受け面の汚物が便器外へと排出されることになる。」(第11頁第12?19行)

(甲1-コ)「図8に示したものは,下向吐水開口4及び横向吐水開口5を形成した膨出部17を吐出方向に延長している。」(第11頁第26?28行)

(甲1-サ)図3は,次のものである。


(甲1-シ)図8は,次のものである。


(甲1-ス) (甲1-エ)を踏まえて図3を見ると,滑らかな段状をなす形状である「乾燥面12」の上方領域は下方領域と比較して傾斜の緩やかな面であることが看て取れる。

(甲1-セ) (甲1-オ)及び(甲1-コ)を踏まえて図8を見ると,「ボウル部導水路16」に接して「吐出方向に延長」された「膨出部17」の先端に「横向吐水開口5」が位置していることが看て取れる。

(甲1-ソ) (甲1-ウ)及び(甲1-ク)を踏まえて図3を見ると,「ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路f」は「横向吐水開口5」を離れるにしたがって広がって周回していると認められるから,洗浄水は「乾燥面12」の上方領域,及び,「ボウル部導水路16」を流れると認められる。

(甲1-タ) (甲1-イ),(甲1-ス)及び(甲1-ソ)を踏まえて図8を見ると,「乾燥面12」の上方領域には,「周回流路f」を旋回する「主洗浄水」と「乾燥面12」を流下する「分流洗浄水」とが流れていることが看て取れる。

上記の事項を総合すると,甲第1号証には,次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。

「便器上縁の内側壁面に沿って便器上縁の略全体に行き渡らせるよう主洗浄水を吐出する吐出手段と,
該吐出手段からの前記主洗浄水を案内する洗浄水導水路と,
この導水路と滑らかに連続して形成された前記主洗浄水から分かれた分流洗浄水をボール内面全体に行きわたらせる導水部とを備え,
導水部であるボウル部の汚物受け面と,同ボウル部の上部開口の周縁に形成したリム部内側壁面とを連続させて湾曲面を形成するとともに,同リム部内側壁面を洗浄水導水路であるボウル部導水路とし,
汚物受け面は溜水面と溜水部の水面上に位置する乾燥面とからなり,乾燥面は溜水面に連続する滑らかな段状をなす形状とし,乾燥面の上方領域は下方領域と比較して傾斜の緩やかな面であり,
前記ボウル部導水路を,前記リム部内側壁面の全周,あるいはその一部をボウル部内側方に向けて覆い被さるように傾斜させたオーバーハング面形状とし,
ボウル部導水路に接して吐出方向に延長された膨出部に,下向吐水開口,及び吐出手段である横向吐水開口が形成され,横向吐水開口は膨出部の先端に位置し,
横向吐水開口からの洗浄水は,ボウル部導水路で上から押さえられた状態でリム部内側壁面を流れ,前記ボウル部導水路と乾燥面との境界部における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら,乾燥面を含む汚物受け面を洗浄するとともに,溜水部に旋回流を発生させ,
乾燥面の上方領域には周回流路fを旋回する前記主洗浄水と乾燥面を流下する前記分流洗浄水が流れ,
ボウル部導水路と乾燥面との境界部は上方から目視可能であり,
汚物を巻き込んだ洗浄水である処理水により誘発されたサイホンの作用により,汚物受け面の汚物が便器外へと排出される,
水洗便器。」

また,甲第1号証には,以下の記載がある。

(甲1-チ)「同膨出部17を下方に伸延して先端を溜水部Wの水面に近接させるとともに,その先端部の一側に偏位させた位置に,第1実施例における下向吐水開口4に相当する押込洗浄水吐出口40を形成している。」(第14頁第2?5行)

(甲1-ツ)「押込洗浄水吐出口40からの洗浄水は,溜水部Wに向けて略垂直方向に吐出されて,溜水部Wに排泄された汚物を排水路23側に押し込む方向に作用する。一方,横向吐水開口5からの洗浄水は,前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら,乾燥面12を含む汚物受け面10を洗浄するとともに,溜水部Wに旋回流を発生させ,渦の略中心に浮遊する汚物を寄せ,押込洗浄水吐出口40からの洗浄水の水勢とあいまって,汚物をを巻き込んだ処理水を効率的に排水流路入口18へ流入させることができる。」(第14頁第14?21行)

(甲1-テ) 上記(甲1-チ)及び(甲1-ツ)を踏まえると,甲第1号証には「横向吐水開口と,溜水部の水面に近接した押込洗浄水吐出口とが形成され,押込洗浄水吐出口からの洗浄水は溜水部に向けて略垂直方向に吐出され,横向吐水開口からの洗浄水は周回流路を旋回する」という事項が記載されている。

2 甲第2号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には,以下の記載がある(訳文は請求人が提出した訳文のとおり。以下同じ。)。

(甲2-ア)「Accordingly, it is a primary object of the present invention to provide for a toilet with rim feed and discharge means that generate vortex flushing action.
Another object of the present invention is to provide for superior cleaning and sanitizing characteristics pursuant to the pro-active vortex water flushing method.
A further object of the present invention is to provide a vortex flushing method that substantially reduces the volumetric water requirements.
Additionally, it is an object of the present invention to provide a vortex flushing method that provides for improved syphonic action, thereby generating superior waste removal proficiency.」(第1欄第53行?第1欄第65行)
(訳文:従って,本発明の主な目的は,渦洗浄動作を発生させるリム供給及び排出手段を備えた便器を提供することにある。本発明の他の目的は,プロアクティブな渦水洗方法に従った優れた洗浄及び衛生特性を提供することにある。本発明の更なる目的は,必要な水の体積を実質的に減少させる渦洗浄方法を提供することにある。本発明の更なる目的は,改善されたサイホン的動作を与える渦洗浄方法を提供し,これにより排泄物の優れた除去の実力を得ることにある。)

(甲2-イ)「1. A one-piece molded toilet comprising:
a bowl;
a rim feed reservoir integral with said bowl and operative to connect said bowl with an external water supply source;
a rim integral with said bowl and extending generally around the periphery of said bowl, said rim defining an internal rim cavity;
a continuous rim discharge passage provided on the underside of said rim within said bowl; and
passage means for producing vortex flushing within said bowl, said passage means including at least two flow passages fluidly connected between said rim feed reservoir and said internal rim cavity, said passage means, rim feed reservoir, and said rim and bowl being of a one-piece molded construction, said first flow passage diameter being different than the diameter of said second flow passage and wherein said first flow passage provides fluid communication between one side of said rim cavity and said rim feed reservoir in a first direction, and said second flow passage providing fluid communication between an opposite side of said rim cavity and said rim feed reservoir in a second direction such that fluid discharged through said rim discharge passage into said bowl generates top to bottom swirling fluid motion in said bowl.
2. The toilet according to claim 1, wherein said bowl comprises a generally cylindrical rim feed reservoir operatively connecting said bowl with an external water supply source, said bowl including a hollow rim extending substantially around its periphery defining an inner rim cavity and having a continuously slotted discharge passage disposed on the underside of said rim within said bowl.」(第4欄第40行?第5欄第6行)
(訳文:1. 一体成形された便器であって,
ボウルを有し,
前記ボウルに一体化されて,前記ボウルを外部給水源接続するよう動作可能なリムフィードリザーバを有し,
前記ボウルに一体化されて前記ボウルの周囲をほぼ取り巻くように延びるリムを有し,前記リムは内部リムキャビティを形成するものであり,
前記ボウル内の前記リムの下側に設けられた連続したリム排出路を有し,かつ,
前記ボウル内で渦洗浄を生成するための通路手段を有し,前記通路手段は,前記リムフィードリザーバと前記内部リムキャビティの間で流体的に接続された少なくとも2つの流路を含み,前記通路手段,リムフィードリザーバ及び前記リムとボウルは,一体成形された構造とされており,前記第1流路の直径は前記第2フロー通路の直径とは異なっており,前記リム排出路を通じて前記ボウル内に排出された流体が,前記ボウル内に上部から底部への渦流体動作を生成するように,前記第1流路は,前記リムキャビティの一方側と前記リムフィードリザーバとの間で,第1方向に流体通路を提供し,前記第2流路は,前記リムキャビティの反対側と前記リムフィードリザーバとの間で,第2の方向に流体通路を提供する,一体成形された便器。
2. 請求項1に記載の便器であって,前記ボウルは,前記ボウルを外部給水源に動作的に接続する,略円筒形のリムフィードリザーバを有し,前記ボウルは,内側リムキャビティを形成するとともに実質的にその周囲にわたって延びる中空リムを有し,かつ,前記ボウル内の前記リムの下側に連続的にスロットが設けられた排出路を有する,便器。)

(甲2-ウ)「The present invention provides a toilet 10 having traditional bowl 12, support 14 and waste outlet 16 features.」(第2欄第68行?第3欄第2行)
(訳文:本発明は,従来型のボウル12,サポート14及び排泄物出口16を構成要素として備える便器10を提供する。)

(甲2-エ)「Water introduced through the first flow passage 26 communicates within the rim cavity 30 in one direction while simultaneously the second flow passage 28 communicates within the rim cavity 30 in the opposite direction. The larger diameter of the first flow passage 26 provides the primary flow direction and accounts for approximately 270.degree. of travel within the rim cavity 30.」(第3欄第34?41行)
(訳文:第1流路26を通じて導入された水は,リムキャビティ30内を一方の方向に流通し,同時に,第2流路28を通じて導入された水は,リムキャビティ30内を反対側方向に流通する。大径の第1流路26は主フロー方向を提供し,リムキャビティ30内の通路のほぼ270°を占めるよう移動する。)

(甲2-オ)「Disposed on the horizontal underside of the rim 34 is a discharge slot 36. The discharge slot 36 extends around the entire circumference of the rim 34. The discharge slot 36 provides the communicative path between the internal rim cavity 30 and the inner bowl wall 38. The water introduced at the rim feed reservoir 18 passes through the flow passages 26 and 28 such that water traveling within the rim cavity 30 is discharged through the discharge slot 36 onto the inner bowl wall 38 of the bowl 12. This invention produces direct unrestricted flow within and around the rim cavity 30 with said circumferential motion continuing upon discharge through the discharge slot 36.」(第3欄第43?55行)
(訳文:リム34の水平下側には,排出スロット36が配置される。排出スロット36は,リム34の全周面にわたって延びている。排出スロット36は,内部リムキャビティ30と内側ボウル壁38との間の流通路を提供する。リムフィードリザーバ18で導入された水は,リムキヤビティ30内を移動する水が排出スロット36を通じてボウル12の内側ボウル壁38上に排出されるように流路26及び28を流通する。この発明によれば,リムキャビティ30内でその周方向を流れるダイレクトで制限のないフローが提供され,この周方向の動きは,排出スロット36を通じた排出によって継続する。)

(甲2-カ)「FIG. 5 presents a diagrammatic illustration of a fluid flow profile within the rim cavity 30 and subsequently through the discharge slot 36 and onto the inner bowl wall 38 in accordance with the preferred embodiment of the present invention.」(第3欄第63?67行)
(訳文:図5は,本発明の好適実施形態に係る,リムキヤビテイ30内及びその後の排出スロット36を通じた内側ボウル壁38上への流体フロープロフィルを示す。)

(甲2-キ)「FIG. 5 also details the improved syphonic reaction generated through the waste outlet 16 shown in FIG. 2. Waste material within the bowl 12 is pushed, pursuant to the vortex action, into the waste outlet 16 in front of the flushing water.」(第4欄第8?10行)
(訳文:図5は,図2に示される排泄物出口16を通じて生成される,改善されたサイホン的な反応の向上の詳細をも示す。ボウル12内の排泄物は,渦動作によって,洗浄水前方の排泄物出口16内へと押し出される。)

(甲2-ク)FIG.2は,次のものである。


(甲2-ケ)FIG.5は,次のものである。


(甲2-コ) (甲2-ウ)を踏まえてFIG.2を見ると,ボウル12には溜水が存在することが看て取れる。

(甲2-サ) (甲2-オ)を踏まえてFIG.2を見ると,「リム34」の内側は底面部及び側壁部を有すること,「リム34」の内側の側壁部は底面部をオーバーハングしていること,「リム34」の内側の底面部の傾斜は「内側ボウル壁38」の「排出スロット36」に隣接する領域よりも緩やかに形成されていること,及び,「排出スロット36」は露出していることが看て取れる。

(甲2-シ) (甲2-オ)を踏まえてFIG.2及びFIG.5を見ると,「リム34」の内側は,「流路26」との繋ぎ部分,及び,「流路28」との繋ぎ部分を有し,それぞれの流路は繋ぎ部分において「リム34」の内側の底面部及び側壁部と連続した面を有することが看て取れる。

(甲2-ス) (甲2-カ)を踏まえてFIG.5を見ると,「流体フロー」は一方向の「渦動作」であることが看て取れる。

上記の事項を総合すると,甲第2号証には,次の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。)。

「一体成形された便器であって,
ボウルを有し,
ボウルには溜水が存在し,
前記ボウルに一体化されて,前記ボウルを外部給水源接続するよう動作可能なリムフィードリザーバを有し,
前記ボウルに一体化されて前記ボウルの周囲をほぼ取り巻くように延びるリムを有し,前記リムは内部リムキャビティを形成するものであり,
前記ボウル内の前記リムの下側に設けられた連続したリム排出路を有し,かつ,
前記ボウル内で渦洗浄を生成するための通路手段を有し,前記通路手段は,前記リムフィードリザーバと前記内部リムキャビティの間で流体的に接続された少なくとも2つの流路を含み,前記通路手段,リムフィードリザーバ及び前記リムとボウルは,一体成形された構造とされており,前記第1流路の直径は前記第2流路の直径とは異なっており,前記リム排出路を通じて前記ボウル内に排出された流体が,前記ボウル内に上部から底部への渦流体動作を生成するように,前記第1流路は,前記リムキャビティの一方側と前記リムフィードリザーバとの間で,第1方向に流体通路を提供し,前記第2流路は,前記リムキャビティの反対側と前記リムフィードリザーバとの間で,第2の方向に流体通路を提供し,
前記ボウルは,前記ボウルを外部給水源に動作的に接続する,略円筒形のリムフィードリザーバを有し,前記ボウルは,内側リムキャビティを形成するとともに実質的にその周囲にわたって延びる中空リムを有し,かつ,前記ボウル内の前記リムの下側に連続的にスロットが設けられた排出路を有し,
第1流路及び第2流路を流通した水が,リム排出路を通じてボウルの内側ボウル壁上に排出され,
第1流路を通じて導入された水は,リムキャビティ内を一方の方向に流通し,同時に,第2流路を通じて導入された水は,リムキャビティ内を反対側方向に流通し,
中空リムの内側は底面部及び側壁部を有し,側壁部は底面部をオーバーハングしており,中空リムの下部のスロットは露出しており,
中空リムの内側の底面部の傾斜は内側ボウル壁の排出スロットに隣接する領域よりも緩やかに形成されており,
中空リムの内側の底面部及び側壁部は,第1流路との繋ぎ部分,及び,第2流路との繋ぎ部分において連続した面を有し,
ボウル内の排泄物は,一方向の渦動作によって,洗浄水前方の排泄物出口内へと押し出される,
便器。」

3 甲第3号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には,以下の記載がある。

(甲3-ア)「【0003】【発明が解決しようとする課題】上述した洋風便器,洗面器,小便器などの水回り製品では,洗浄水を洗浄面全面に行き渡らせる必要があるため,たくさんの洗浄水を洗浄面に流すことにより,洗浄面全面の洗浄を行っていた。しかし,節水の観点からすると,全面洗浄可能な洗浄水量はできるだけ少ない方が望ましいことから,少ない洗浄水量で洗浄面全面の洗浄が可能な水回り製品が望まれていた。」

(甲3-イ)「【請求項5】 洗浄面の外周に沿って洗浄水を導くとともに,その洗浄水を前記洗浄面に流れ落とす通水路が形成された洋風便器であって,
前記通水路は,前記洗浄面の外周に沿って形成された水平壁部を有し,この水平壁部の少なくとも前記洗浄面に隣接した内側が洗浄面の全外周に渡って開口されていることを特徴とする洋風便器。
【請求項6】 請求項5に記載の洋風便器において,
前記通水路は,前記洗浄面の外周に沿って形成された水平壁部と,この水平壁部の前記洗浄面とは反対側の外側に立設された立上壁部とを有し,前記水平壁部の前記洗浄面に隣接した内側および上方が洗浄面の全外周に渡って開口されていることを特徴とする洋風便器。
【請求項7】 請求項6に記載の洋風便器において,
前記通水路には,前記立上壁部の上端から前記水平壁部と平行に延びる上部壁部およびこの上部壁部先端から下方に延びる下り壁部を有する断面L字形状の通水路カバーが着脱可能に設けられていることを特徴とする洋風便器。」

(甲3-ウ)「【0019】便器本体1は,図2に示すように,便鉢11と,この便鉢11の後方に設けられ洗浄水タンク4から洗浄水が供給される給水路14と,この給水路14にゼット水路15を通じて連通した排水路17とを備える。便鉢11の外周縁に沿って洗浄水を導くリム通水路12が環状に形成され,このリム通水路12の下壁に洗浄水を前記便鉢11の便鉢面11Aに向けて射出する射水孔としてのリム孔13が一定ピッチ間隔で複数形成されている。給水路14に供給された洗浄水は,そこからリム通水路12およびゼット水路15に供給される。リム通水路12に供給された洗浄水は,リム孔13から便鉢11の便鉢面11Aに向けて射出される。ゼット水路15に供給された洗浄水は,ゼット水路15のゼット孔16から強い水勢で排水路17へ向けて排出され,排水路17を早期に満水状態として,サイホン作用を発生させる。」

(甲3-エ)「【0029】[第5実施形態]第5実施形態は本発明を洋風便器に適用した例である。本実施形態の洋風便器は,図9に示すように,便鉢11の外周縁に沿って,洗浄水を導くとともに,その洗浄水を前記便鉢11の便鉢面11Aに流れ落とす通水路41が形成されている。通水路41は,便鉢11の外周縁に沿って水平にかつ環状に形成された水平壁部41Aと,この水平壁部41Aの便鉢面11Aとは反対側の外側縁に沿って立ち上がり形成された立上壁部41Bとを有し,便鉢面11Aに隣接した内側縁および上方がそれぞれ開口されている。なお,給水路14に隣接した面には,給水路14に供給された洗浄水を直接,便鉢11の便鉢面11Aに射出する射水孔42が形成されている。
【0030】従って,第5実施形態によれば,給水路14に供給された洗浄水は,通水路41の水平壁部41Aに沿って便鉢11の外周に回り込みながら,便鉢11の便鉢面11Aに流れ落ちるから,つまり,便鉢面11Aの全外周から流れ落ちるから,少ない洗浄水でも,便鉢面11A全面を効果的に洗浄することができる。しかも,この通水路41の構造では,便鉢11の外周縁に沿って水平に形成された水平壁部41Aと,この水平壁部41Aの外側縁に沿って立ち上がり形成された立上壁部41Bとを有し,水平壁部41Aの内側縁および上方がそれぞれ開口されているから,清掃しやすい。
【0031】なお,図9では,通水路41を給水路14に連通させるようにしたが,図10に示すように,洗浄水タンクから供給された洗浄水をディストリビュータ43を介して通水路41に供給するようにしても,同様な効果が期待できる。また,図9および図10に示す通水路41の構造において,立上壁部41Bの上端に水平壁部41Aと平行な返し壁部を設けるようにしてもよい。たとえば,図11に示すように,通水路41の略全周に沿って,前記立上壁部41Bの上端から水平壁部41Aと平行に延びる上部壁部45Aおよびこの上部壁部45A先端から下方に延びる下り壁部45Bを有する断面L字形状の通水路カバー45を着脱可能に設けるようにしてもよい。なお,45Cは射水溝である。このようにすれば,洗浄水の水勢が強すぎても,洗浄水が通水路41の外部に飛散するようなことも防止できるとともに,通水路カバー45を外せば,通水路41の上方が開口された状態になるので,清掃しやすい利点を維持できる。さらに,図12に示すような通水路41’の構造でも同様な効果が期待できる。これは,立上壁4部1Bの上端に水平壁部41Aと平行な返し壁部41Cを形成し,この返し壁部41Cの先端から下方へ下り壁部41Dを形成し,この下り壁部41Dと水平壁部41Aとの間に射水溝44を全周に渡って形成した構造である。」

(甲3-オ)図2は,次のものである。


(甲3-カ)図9は,次のものである。


(甲3-キ) (甲3-ウ)を踏まえて図2を見ると,便鉢11内に溜水が存在することが看て取れる。

(甲3-ク) (甲3-エ)を踏まえて図9を見ると,給水路14の下流の便鉢面11Aに露出する部分が2つあり,それらの部分から通水された洗浄水は,両側から外周に回り込んで流れ落ちることが看て取れる。

(甲3-ケ) (甲3-エ)を踏まえて図9を見ると,通水路41の水平壁部41Aの傾斜は便鉢面11Aの水平壁部41Aに隣接する領域よりも緩やかに形成されていることが看て取れる。

上記の事項を総合すると,甲第3号証には,次の発明が記載されていると認められる(以下「甲3発明」という。)。

「洗浄面の外周に沿って洗浄水を導くとともに,その洗浄水を前記洗浄面に流れ落とす通水路が形成された洋風便器であって,
前記通水路は,前記洗浄面の外周に沿って形成された水平壁部を有し,この水平壁部の少なくとも前記洗浄面に隣接した内側が洗浄面の全外周に渡って開口され,
前記通水路は,前記洗浄面の外周に沿って形成された水平壁部と,この水平壁部の前記洗浄面とは反対側の外側に立設された立上壁部とを有し,前記水平壁部の前記洗浄面に隣接した内側および上方が洗浄面の全外周に渡って開口され,
前記通水路には,前記立上壁部の上端から前記水平壁部と平行に延びる上部壁部およびこの上部壁部先端から下方に延びる下り壁部を有する断面L字形状の通水路カバーが着脱可能に設けられており,
便鉢と,洗浄水が供給される給水路と,排水路とを備え,
便鉢内に溜水が存在し,
通水路が給水路に連通されており,
便鉢の便鉢面に射出する射水孔が形成されており,
給水路の下流の便鉢面に露出する部分が2つあり,それらの部分から通水された洗浄水は,両側から便鉢の外周に回り込んで流れ落ち,
通水路の水平壁部の傾斜は便鉢面の水平壁部に隣接する領域よりも緩やかに形成されており,
洗浄水は,排水路を満水状態として,サイホン作用を発生させる,
洋風便器。」

4 甲第4号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には,以下の記載がある。

(甲4-ア)「該給水路7の便器側部に沿う外側導水壁17と該開口9の外側の辺縁部9bとの間には,図示の通り,該給水路7の路床面7fが,リム通水路4及び開口9より後方の路床面7Fのいずれに対しても面一に連なるように平坦状に延在している。」(第4欄第30?34行)

5 甲第5号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には,以下の記載がある。

(甲5-ア)「It is preferbly made in two parts, the first of which is a base element 51 and the other of which is a cover element 52.…It has a flat bottom 56 which forms the base of a rinse channel 57.…Inlet conduit means 62 is formed in a flat portion 63 of the cover element to receive water from tank 21.」(第2欄第66行?第3欄第20行)
(訳文:リム部材50は,2つのパーツにより製造されることが好ましく,その一方はベースエレメント51,他方はカバーエレメント52である。…それは,洗浄チャネル57のベースを形成する平底部56を有する。…入口管路手段62は,タンク21から水を受けるために,カバーエレメントの折り曲げ部63に形成されている。)

(甲5-イ)FIG.3は,次のものである。


(甲5-ウ) (甲5-ア)を踏まえてFIG.3を見ると,入口管路手段62から洗浄チャネル57に連通する流路であるベースエレメント51の平底部56に沿った部分であって,洗浄チャネル57への入口部分である噴出口が,洗浄チャネル57までベースエレメント51の平底部56として平坦に連続していることが看て取れる。

6 甲第6号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には,以下の記載がある。

(甲6-ア)「従って,ロータンク(図示省略)等から受給孔4を経て供給Aされる洗浄水は,リム通水路5の始流部5aで,導水路7内へ分岐して流入Bされる。」(第4頁第14?17行)

(甲6-イ)第1図は,次のものである。


(甲6-ウ)第3図は,次のものである。


(甲6-エ) (甲6-ア)を踏まえて第1図及び第3図を見ると,受給孔4を経て供給される洗浄水が,リム通水路5の始流部5a両脇の平坦面からリム通水路5に流れ込むことが看て取れる。

7 甲第7号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には,以下の記載がある。

(甲7-ア)「図面に示すように,給水室6からリム通水路4への連絡口の一方が,給水室壁7で区画されて洗浄水の流入が遮断され,他方の連絡口4aがリム通水路4への流入部4aになされている。」(第6頁第8?11行)

(甲7-イ)第1図は,次のものである。


(甲7-ウ) (甲7-ア)を踏まえて第1図を見ると,給水室6からリム通水路4への流入部4aを平坦にすることが看て取れる。

8 甲第8号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には,以下の記載がある。

(甲8-ア)「【0011】ただ,従来例とは異なり,導水路(4)はリム(5)の接線方向に形成されており,これによって,開口部(2)から導水路(4)に供給された洗浄水は,その水勢を弱めることなく通水路(6)に流れ込み,通水路(6)内をほぼ一周して,順次に射水孔(7)からボウル面(8)に流れ落ちる。また,洗浄水が流れ込む通水路(6)には,止水壁(9)を設け,洗浄水の流れ方向を限定するようにもしている。」

(甲8-イ)図1は,次のものである。


(甲8-ウ) (甲8-ア)を踏まえて図1を見ると,新たな洗浄水をボウル面(8)に通水する給水路の部分に相当する導水路(4)と,ボウル面(8)上縁周りに洗浄水を案内するリム状の通水路(6)とを接続する繋ぎ部分が平坦面となっていることが看て取れる。

9 甲第9号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には,以下の記載がある。

(甲9-ア)「Flushing liquid from the hose 18 is directed into an entrance chamber 30, shown in detail in FIGS. 5 and 6. The shape of this chamber is designed to minimize turbulence in the flushing liquid as it transitions from the hose 18 to the flushing manifold 20.」(第3欄第48?52行)
(訳文:ホース18からのブラッシング液は,図5及び6に詳細に示される入口チャンバ30へと導入される。このチャンバの形は,ホース18から洗浄用マニフォールド20へと洗浄液が流れる際の乱流を最小化する形状に設計される。)

10 甲第10号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には,以下の記載がある。

(甲10-ア)「【0017】【課題を解決するための手段】本発明は,衛生陶器の給水部から洗浄水吐出穴までの通水区間において素地表面に釉薬層を設けたことを特徴とする。前記衛生陶器が大便器であって,そのゼット導水路において素地表面に釉薬層を設けたことを特徴とする。また,前記衛生陶器が小便器であることを特徴とする。また,前記衛生陶器が洗面器であって,そのオーバーフロー部において素地表面に釉薬層を設けたことを特徴とする。
【0018】釉薬層は非吸水性であり,表面も平滑である。そのため通水後は表面にわずかな水分が残るだけである。平滑で非吸水性のため,表面に残留する水分も通水の度に入れ替わる。またカビが発生しそうになってもその場に残留しにくい。そのため,衛生陶器の給水部から洗浄水吐出穴までの通水区間において,カビの発生を抑制でき,雑菌の増殖も抑えることができる。」

11 甲第11号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には,以下の記載がある。

(甲11-ア)「【0045】この実施例に係るサイホン便器は,床上排水タイプであり,このタイプの便器は,サイホン力が弱いため汚物を排水路13に吸引する力が小さいが,この実施例のように,ゼット吐水口11を排水路入口12に向けて下向きとするとともに,ゼット吐水口11から排水路入口12に至るまでの底面を連続した傾斜面とすることで,ゼット吐水口11から排水路入口12にスムーズに洗浄水が流入し,強力なゼット吐水流によって汚物を排水路13に押し込み排出することが可能になる。尚,上記の構成を床上排水タイプ以外のサイホン式便器に適用できるのは勿論である。」

12 甲第12号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には,以下の記載がある。

(甲12-ア)「導水部8の手前側の部分には水の吐出口9が左右及び下の3ケ所に開設されており(第6図参照),水タンクからの洗浄水がこの吐出口9を通つて通水路3の奥側に吐出可能とされている。」(第3欄第21?25行)

13 甲第13号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には,以下の記載がある。

(甲13-ア)「【0022】図6?8は,このディストリビュータ8Aを備えた洋風便器の一例を示すものである。この洋風便器1Aはリム通水路3が無く,代わりに棚部20が鉢部2の側面の上部に設けられている。ディストリビュータ8Aからの水は,この棚部20上に流出され,図6,7の矢印Wのように該棚部20から順次に鉢部2へ落下しながら鉢部2の前部にまで達する。図6?8のその他の構成は図1?2と同様であり,同一符号は同一部分を示している。」

(甲13-イ)図7は,次のものである。


(甲13-ウ) (甲13-ア)を踏まえて図7を見ると,ディストリビュータ8Aの口が露出していることが看て取れる。

14 甲第14号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第14号証には,以下の記載がある。

(甲14-ア)「【0038】図4,5はさらに別の実施の形態に係る洋風便器を示すものである。この洋風便器10Bは,リム通水路が無く,代わりに棚部34が鉢部14Aの内周の側面の上部に設けられている。洗浄水は,ディストリビュータ36からこの棚部34上に鉢部内面に沿って水平方向に流出され,図4の矢印Wのように該棚部34から順次に鉢部14Aへ落下しながら鉢部14Aの前部にまで達する。」

15 甲第15号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第15号証には,以下の記載がある。

(甲15-ア)「【0010】 【実施例】 以下,添付した図面に沿って実施例を示し,この考案の簡易水洗便器についてさらに詳しく説明する。
図1は,この考案の一実施例を示した側断面図である。
たとえばこの図1に示したように,この考案の簡易水洗便器の場合には,便器ボウル面(1)の前部および後部にそれぞれ相対向して洗浄水吐水口(2a)(2b)を設けている。そして,加圧タンク(3)で加圧された洗浄水は,2本の配水パイプ(4a)(4b)に分配し,各々の洗浄水吐水口(2a)(2b)から,水通し棚(5)に沿って吐水する。」

(甲15-イ)図3は,次のものである。


(甲15-ウ) (甲15-ア)を踏まえて図3を見ると,洗浄水吐水口(2a)が露出していることが看て取れる。

16 甲第16号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第16号証には,以下の記載がある。

(甲16-ア)「【0014】【実施例】本発明のローウォータ水洗トイレが図1及び図2に示されており,その全体が符合10であらわされている。このトイレ10は,上端が開放され下端排出口14を有する便器12を備えている。便器12の内面16はレッジ(棚状部)18を有し,このレッジ18は便器上端近くにおいて便器の周方向に延びている。詳細な説明および特許請求の範囲において用いられているように,「レッジ(棚状部)」という表現はレッジの下方及び上方における便器表面のスロープ部分よりも水平に近いスロープ部若しくは傾斜部有する便器表面16の一部を称するのに用いられている。1つの水洗ノズル20が水洗水(洗浄水)をレッジ18に向けて噴射し,水洗水はレッジ18上を便器12の周方向に流れる。水洗水の速度が小さくなると,水洗水は次第にレッジ18から降下し,便器表面16を流れて排出口14に至る。パルセータ22は水洗水パルスを生成し,この水洗水パルスが水洗水路24を通ってノズル20へ流れる。水路24にはバックフロー抵抗(逆流防止装置)26が設けられており,便器から水が水路24に逆流しないようにしている。」

(甲16-イ)図1は,次のものである。


(甲16-ウ) (甲16-ア)を踏まえて図1を見ると,水洗ノズル20が露出していることが看て取れる。

17 甲第17号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第17号証には,以下の記載がある。

(甲17-ア)「The waterway 18 is subsequently formed with a pair of oppositely directed washdown jet apertures 22,24 which open adjacent the rim at the rear of the pan.」(第1頁第116?119行)
(訳文:水路18は,パンの後方でリムに隣接して開口する,それぞれ逆向きの洗浄ジェット開口部22,24のペアとともに形成される。)

(甲17-イ)FIG.1は,次のものである。


(甲17-ウ) (甲17-ア)を踏まえてFIG.1を見ると,洗浄ジェット開口部22が露出していることが看て取れる。

18 甲第18号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第18号証には,以下の記載がある。

(甲18-ア)「

」(第2頁第8?9行)
(訳文:水洗する水の供給口は3で,便器排水口は4で表している。)

(甲18-イ)FIG.1は,次のものである。


(甲18-ウ) (甲18-ア)を踏まえてFIG.1を見ると,供給口3が露出していることが看て取れる。

19 甲第19号証について

本件特許の原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第19号証には,以下の記載がある。

(甲19-ア)「【0003】先ず,図7に示す便器2Aにおいては,洗浄水分配器8の分岐管10,11の先端側は径全体を開口する全開孔12a,12bとするとともに,この分岐管10,11の中央給水管9寄りの所定の位置に同面積の開口孔13a,13bが貫設され,また,通水路7に形成されたスリット状の溝部7aは給水部4側において開口孔13a,13bからの給水を流束A1として溜め水面15に放水するために大きく開口されて後部流束孔16が開設されている。また,同リム6の前部側には流束A1と対向する流束A2を溜め水面15に放水するため大きく開口されて前部流束孔17が開設されている。
【0004】また,図8に示す便器2Bにおいては,洗浄水分配器8の分岐管10の先端側を全開孔12aとし,他方の分岐管11の先端を全閉12cとするとともに,この分岐管10,11の中央給水管9寄りの所定の位置に同面積の開口孔13a,13bが貫設され,また,給水部4側には開口孔13a,13bからの給水を流束A1として溜め水面15に放水する後部流束孔16が開設されて,給水がリム6の通水路7を流れる過程でそのスリット状溝部7aより便鉢5の内面に向けて旋回流18が放水されるとともに,後部流束孔16より流束A1を放水するようにしたものである。
【0005】また,図9に示す便器2Cにおいては,洗浄水分配器8の分岐管10の先端側を全開孔12aとし,他方の分岐管11の先端を小孔の半開孔12dとするとともに,この分岐管10,11の中央給水管9寄りの所定の位置に同面積の開口孔13a,13bが貫設され,また,給水部4側には開口孔13a,13bからの給水を流束A1として溜め水面15に放水する後部流束孔16が開設されて,給水がリム6の通水路7を流れる過程でそのスリット状溝部7aより便鉢5の内面に向けて旋回流18が放水され,また,後部流束孔16より流束A1を放水するとともに,リム6の一方の通水路7b側に溜め水面15に対しほぼ対角状で流束A1に指向して流束A3を放水する側部流束孔19を開設したものである。」

(甲19-イ) 上記の事項から,甲第19号証には「洗浄水分配器8の分岐管10の先端側を全開孔12aとし,他方の分岐管11の先端を全閉12cとし,給水がリム6の通水路7を流れる過程でそのスリット状溝部7aより便鉢5の内面に向けて旋回流18が放水される」という事項が記載されている。

第8 無効理由についての当審の判断

1 無効理由1について

(1)本件訂正発明と甲1発明との対比,判断

ア 甲1発明における「ボウル部」,「汚物受け面」,「溜水部」は,それぞれ,本件訂正発明における「便器ボール部」,「ボール面」,「トラップ」に相当し,甲1発明における「横向吐水開口からの洗浄水は」「乾燥面を含む汚物受け面を洗浄するとともに,溜水部に旋回流を発生させ」,「汚物を巻き込んだ洗浄水である処理水により誘発されたサイホンの作用により,汚物受け面の汚物が便器外へと排出される」「水洗便器」は,本件訂正発明における「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器」に相当する。

イ 甲1発明における「横向吐水開口」,「膨出部」は,それぞれ,本件訂正発明における「ボール面噴出口」,「給水路」に相当する。
そして,甲1発明における,「膨出部」の先端に位置し,「便器上縁の略全体に行き渡らせるよう主洗浄水を吐出する」「横向吐水開口」と,本件訂正発明における「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口」とは,「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられたボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口」である点で共通する。

ウ 甲1発明においては「ボウル部導水路と乾燥面との境界部は上方から目視可能」であるから,ボウル部導水路と乾燥面は露出していると認められる。
したがって,甲1発明における「周回流路fを旋回する」「主洗浄水」が流れ,露出している「乾燥面の上方領域」及び「ボウル部導水路」は,本件訂正発明における「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段」に相当する。

エ 甲1発明における「滑らかな段状をなす形状」の「乾燥面」の「傾斜の緩やかな面」である「上方領域」は,本件訂正発明における「棚部」に相当する。
よって,甲1発明における「周回流路fを旋回する」「主洗浄水」が流れる「乾燥面の上方領域」は,本件訂正発明における「前記噴出洗浄水が流れる棚部」に相当する。
また,甲1発明における洗浄水を「上から押さえ」る「オーバーハング面形状」の「ボウル部導水路」は,本件訂正発明における「前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部」に相当する。
したがって,甲1発明における「周回流路fを旋回する」「主洗浄水」が流れる「乾燥面の上方領域」と,洗浄水を「上から押さえ」る「オーバーハング面形状」の「ボウル部導水路」とを備えることは,本件訂正発明における「前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備え」ることに相当する。

オ 上記アないしエから,本件訂正発明と甲1発明とは,

「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器であって,
前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられたボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と,
前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段とを備え,
前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備える,水洗便器。」

の点で一致する。

カ 他方,本件訂正発明と甲1発明とは,以下の点で相違する。

[相違点1-1]:
本件訂正発明は「ボール面上縁部」に「1つのボール面噴出口」を備えているのに対して,甲1発明は「ボウル部導水路」に接する「膨出部」に「横向吐水開口」と「下向吐水開口」の2つを備えている点。

[相違点1-2]:
本件訂正発明は,「棚部」が「ボール面噴出口との繋ぎ部分」において,「ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面」を有し,かつ,「規制壁部」が「ボール面噴出口との繋ぎ部分」において,「ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面」を有しているのに対し,甲1発明は「乾燥面の上方領域」及び「ボウル部導水路」と,「吐出方向に延長」された「膨出部」に形成された「横向吐水開口」との具体的な位置関係が不明である点。

[相違点1-3]:
本件訂正発明は,「棚部」が,「噴出洗浄水の旋回経路である」「棚面を有し」,「棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており」,かつ,「噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から」「流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」のに対し,甲1発明は「ボウル部導水路」と「乾燥面の上方領域」の「境界部」が「周回流路f」であり,「乾燥面の上方領域」に「周回流路fを旋回する」「主洗浄水」と「乾燥面を流下する」「分流洗浄水」が流れるものである点。

よって,本件訂正発明は,甲第1号証に記載された発明とはいえない。

キ 請求人の主張について

(ア)請求人は,口頭審理陳述要領書(第11?12頁)において,甲1発明における「下向吐水開口」は洗浄水を「ボール面上縁に沿って」噴出していないので,「ボール面噴出口」に相当しない旨を主張している。
しかし,本件訂正発明における「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口」との特定事項は,「ボール面上縁部」に「ボール面噴出口」が1つのみ存在すると解釈すべきであるから,請求人の主張は採用できない。

(イ)請求人は,平成27年2月4日付け弁駁書(第15頁)において,甲1発明における「『乾燥面』の『傾斜が緩やかな面』である『上方領域』の底面となる箇所」は,本件訂正発明における「棚面」に相当する旨を主張している。
しかし,甲1発明において,「ボウル部導水路」と「乾燥面の上方領域」の「境界部」が「洗浄水」の「周回流路f」であり,「底面となる箇所」は「洗浄水」の「周回流路」ではないから,「底面となる箇所」は,本件訂正発明における「噴出洗浄水の旋回経路である」「棚面」には相当せず,請求人の主張は採用できない。

(2)小括
以上のとおり,請求人の主張する無効理由1には理由がない。

2 無効理由2-1について

(1)本件訂正発明と甲1発明との対比
甲1発明と本件訂正発明との一致点及び相違点は上記「1 無効理由1について」における「(1)本件訂正発明と甲1発明との対比,判断」で検討したとおりのものである。

(2)相違点についての判断

ア 相違点1-1について
甲第1号証には「横向吐水開口と,溜水部の水面に近接した押込洗浄水吐出口とが形成され,押込洗浄水吐出口からの洗浄水は溜水部に向けて略垂直方向に吐出され,横向吐水開口からの洗浄水は周回流路を旋回する」という事項(上記第7,1(甲1-テ)を参照。)が記載されていることを踏まえると,甲1発明において「下向吐水開口」に代えて,溜水面に近接した「押込洗浄水吐出口」を形成するようにし,上記相違点1-1に係る構成となすことは,当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点1-2について
甲1発明において,「乾燥面の上方領域」及び「ボウル部導水路」と「横向吐水開口」との具体的位置関係を如何にするかは,当業者が適宜決定し得る設計的事項というべきところ,甲1発明の「横向吐水開口」は,便器上縁の内側壁面に沿って洗浄水を吐出し,便器上縁の略全体に行き渡らせるものであることを踏まえると,噴出される洗浄水の勢いにロスを生じないようにすることは当業者であれば当然に考慮すべき事項であるから,「横向吐水開口」の開口側面と開口底面を,「ボウル部導水路」と「乾燥面」のそれぞれと,「境界部」の近傍において略連続とし,上記相違点1-2に係る構成となすことは,当業者が適宜なし得たことである。

ウ 相違点1-3について

(ア)例えば,上記第7,2(甲2-サ),上記第7,3(甲3-ケ)のとおり,ボウル面の上縁部に洗浄水を導く水平な通水路を備えた水洗便器は周知である。

(イ)しかし,甲第2号証,甲第3号証には,棚部が「1つのボール面噴出口」「との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し」,かつ,「ボール面上縁回りに形成された」「噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有」することによって,一方向の旋回流を形成する噴出洗浄水の旋回経路を形成するという技術思想はない。

(ウ)甲1発明は「ボウル部導水路」と「乾燥面の上方領域」の「境界部」を「洗浄水」の「周回流路f」とするものであって,「乾燥面の上方領域」は「周回流路f」の下方に延びているから,広がって流れる「洗浄水」が「乾燥面の上方領域」の一部を流れるとしても,「棚面」を有していないから,「乾燥面の上方領域」は,本件訂正発明の「棚部」のように,ボウル面の上縁部に噴出洗浄水の旋回経路を形成するものではない。
したがって,上記周知技術を踏まえても,甲1発明において「乾燥面の上方領域」を洗浄水の旋回経路である棚面とすること(「乾燥面の上方領域」全体を「周回流路」とすること)が,当業者にとって容易であったとはいえない。

エ 請求人の主張について
請求人は,相違点1-3に関し,平成27年2月4日付け弁駁書(第14?26頁)において,甲第1号証には「棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いる構成が開示されており,また,当該構成は,甲第2号証,甲第3号証,甲第9号証,甲第12号証ないし甲第18号証に開示されている周知技術であるから,本件訂正発明は,甲第1号証に記載された発明に,周知技術を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張しているが,上記1(1)キ(イ)及び上記ウ(イ)で述べたとおり,甲1発明は,洗浄水の旋回経路である棚面を有するものではなく,また,棚面を形成することが当業者にとって容易になし得たこととも認められないから,採用できない。

(3)小括
以上の検討によれば,本件訂正発明は,当業者が甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものということはできない。
よって,請求人の主張する無効理由2-1には理由がない。

3 無効理由2-2について

(1)本件訂正発明と甲2発明との対比

ア 甲2発明における「ボウル」,「内側ボウル壁」は,それぞれ,本件訂正発明における「便器ボール部」,「ボール面」に相当し,甲2発明における「ボウルには溜水が存在し」,「内側ボウル壁上に排出され」た「水」によって「ボウル内の排泄物は」「洗浄水前方の排泄物出口内へと押し出される」「便器」は,本件訂正発明における「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器」に相当する。

イ 甲2発明における「『第1流路』及び『第2流路』」は,本件訂正発明における「給水路」に相当し,甲2発明における「『中空リムの内側』と『第1流路との繋ぎ部分』,及び,『中空リムの内側』と『第2流路との繋ぎ部分』」は,本件訂正発明における「給水路の先端開口」に相当し,甲2発明における「『内側ボウル壁上に排出され』る水が通る『中空リムの内側』と『第1流路との繋ぎ部分』,及び,『中空リムの内側』と『第2流路との繋ぎ部分』」と,本件訂正発明における「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口」とは,「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に設けられたボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口」である点で共通する。

ウ 甲2発明における「第1流路及び第2流路を流通し」,「内側ボウル壁上に排出され」る水が通る「中空リムの内側」と,本件訂正発明における「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段」とは,「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する案内手段」である点で共通する。

エ 甲2発明における「中空リムの内側」の「底面部」は,本件訂正発明における「前記噴出洗浄水が流れる棚部」に相当する。

オ 甲2発明における「中空リムの内側」の「底面部をオーバーハング」する「側壁部」は,本件訂正発明における「前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部」に相当する。

カ 甲2発明における「中空リムの内側の底面部及び側壁部は,第1流路との繋ぎ部分,及び,第2流路との繋ぎ部分において連続した面を有し」ていることは,本件訂正発明における「前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有」していることに相当する。

キ 甲2発明における「第1流路を通じて導入された水」及び「第2流路を通じて導入された水」が「流通」する「中空リムの内側」の「底面部」は,本件訂正発明における「前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面」に相当する。

ク 甲2発明における「中空リムの内側の底面部の傾斜は内側ボウル壁の排出スロットに隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いることは,本件訂正発明における「棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いることに相当する。

ケ 甲2発明における「第1流路を通じて導入された水は,リムキャビティ内を一方の方向に流通し,同時に,第2流路を通じて導入された水は,リムキャビティ内を反対側方向に流通し」,「リム排出路を通じてボウルの内側ボウル壁上に排出され」,「ボウル内の排泄物は,一方向の渦動作によって,洗浄水前方の排泄物出口内へと押し出される」ことと,本件訂正発明における「前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」こととは,「前記ボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」点で共通する。

コ 上記アないしケから,本件訂正発明と甲2発明とは,

「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器であって,
前記便器ボール部におけるボール面上縁部に設けられたボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と,
前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する案内手段とを備え,
前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備え,
前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し,
前記棚部は,前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し,この棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており,前記棚部は,前記ボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている水洗便器。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点2-1]:
本件訂正発明は「ボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口」を備えているのに対して,甲2発明は「中空リムの内側」と「第1流路」との「繋ぎ部分」,及び,「中空リムの内側」と「第2流路」との「繋ぎ部分」の2つを備えており,さらに,当該「繋ぎ部分」は露出していない点。

[相違点2-2]:
本件訂正発明は「棚部」及び「規制壁部」を備えた「案内手段」が「露出」しているのに対して,甲2発明は「リムの下側」に設けられた「スロット」は露出しているものの,「中空リムの内側の底面部及び側壁部」は露出していない点。

[相違点2-3]:
本件訂正発明は「前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面」に関し,「ボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成する」のに対し,甲2発明は「第1流路を通じて導入された水は,リムキャビティ内を一方の方向に流通し,同時に,第2流路を通じて導入された水は,リムキャビティ内を反対側方向に流通」する点。

(2)相違点についての判断

ア 相違点2-1について

(ア)例えば,上記第7,1(甲1-テ),上記第7,19(甲19-イ)のとおり,1つのボール面噴出口により渦洗浄動作を発生させる水洗便器は周知である。

(イ)しかし,甲2発明は,「渦洗浄動作を発生させるリム供給及び排出手段を備えた便器を提供すること」,「プロアクティブな渦水洗方法に従った優れた洗浄及び衛生特性を提供すること」,「必要な水の体積を実質的に減少させる渦洗浄方法を提供すること」及び「改善されたサイホン的動作を与える渦洗浄方法を提供し,これにより排泄物の優れた除去の実力を得ること」という目的を達成するために,「少なくとも2つの流路」の直径を異ならせてボウル内に上部から底部への渦流体動作を生成する構成を採用した発明(上記第7,2(甲2-ア)及び(甲2-イ)を参照。)であるから,上記周知技術を踏まえても,甲2発明において1つの「繋ぎ部分」のみから水を排出すること(流路を1つとすること)が,当業者にとって容易であったとはいえない。

イ 請求人の主張について
請求人は,相違点2-1に関し,平成26年5月1日付け弁駁書(第47頁)において,「ボール面噴出口」を「1つ」とする構成は甲第1号証,甲第8号証,甲第9号証に開示されているから,水洗便器の技術分野において周知技術であり,甲2発明に上記周知技術を適用して本件訂正発明に想到することは容易である旨の主張をし,また,口頭審理陳述要領書(第29頁)において,ボール面噴出口1つタイプとボール面噴出口2つタイプのどちらを選択するかは,当業者が適宜選択する設計事項に過ぎないと主張しているが,上記ア(イ)で述べたとおりであって採用できない。

(3)小括
以上の検討によれば,相違点2-2,2-3について検討するまでもなく,本件訂正発明は,当業者が甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものということはできない。
よって,請求人の主張する無効理由2-2には理由がない。

4 無効理由2-3について

(1)本件訂正発明と甲3発明との対比

ア 甲3発明における「便鉢」,「洗浄面」は,それぞれ,本件訂正発明における「便器ボール部」,「ボール面」に相当し,甲3発明における「便鉢内に溜水が存在し」,「洗浄水を前記洗浄面に流れ落と」し,「洗浄水は,排水路を満水状態として,サイホン作用を発生させる」「便器」は,本件訂正発明における「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器」に相当する。

イ 甲3発明における「洗浄面の外周に沿って洗浄水を導く」ための,「2つ」の「給水路の下流の便鉢面に露出する部分」と,本件訂正発明における「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口」とは,「前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられたボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口」である点で共通する。

ウ 甲3発明における「給水路に連通され」,「洗浄面の外周に沿って洗浄水を導くとともに,その洗浄水を前記洗浄面に流れ落とす通水路」と,本件訂正発明における「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段」とは,「前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する案内手段」である点で共通する。

エ 甲3発明における「洗浄水を導く」「通水路」の「水平壁部」は,本件訂正発明における「前記噴出洗浄水が流れる棚部」に相当する。

オ 甲3発明における「『洗浄水を導く』『通水路』の『立上壁部』及び『前記立上壁部の上端から前記水平壁部と平行に延びる上部壁部』」は,本件訂正発明における「前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部」に相当する。

カ 甲3発明における「水平壁部」と「立上壁部」とを有する「通水路」が「給水路に連通されて」いることは,本件訂正発明における「前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有」することに相当する。

キ 甲3発明における「便鉢の外周に回り込」む「洗浄水を導く」「通水路」の「水平壁部」は,本件訂正発明における「前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面」に相当する。

ク 甲3発明における「通水路の水平壁部の傾斜」が「洗浄面」の「水平壁部に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いることは,本件訂正発明における「棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されて」いることに相当する。

ケ 甲3発明における「給水路の下流の便鉢面に露出する部分」から「水平壁部」を有する「通水路」に「通水された洗浄水」が「両側から外周に回り込んで」「洗浄面」に「流れ落ち」ることと,本件訂正発明における「前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」こととは,「前記ボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている」点で共通する。

コ 上記アないしケから,本件訂正発明と甲3発明とは,

「新たな洗浄水を便器ボール部に通水して,該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し,便器洗浄を行う水洗便器であって,
前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられたボール面噴出口であって,このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり,供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と,
前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する案内手段とを備え,
前記案内手段は,前記噴出洗浄水が流れる棚部と,前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを,前記ボール面上縁回りに形成して備え,
前記棚部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し,前記規制壁部は,前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において,前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し,
前記棚部は,前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し,
この棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており,
前記棚部は,前記ボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし,この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている水洗便器。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点3-1]:
本件訂正発明は「ボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口」を備えているのに対し,甲3発明は「給水路の下流の便鉢面に露出する部分」が2つあり,さらに「射水孔」が形成されている点。

[相違点3-2]:
本件訂正発明は「棚部をオーバーハングする規制壁部」を備えた「案内手段」が「露出」しているのに対し,甲3発明は「上部壁部」及び「下り壁部」を備える「通水路」は露出していない点。

[相違点3-3]:
本件訂正発明は「前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面」に関し,「ボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成する」のに対し,甲3発明は「水平壁部」を有する「通水路」に「通水された洗浄水」が「両側から外周に回り込」む点。

(2)相違点についての判断

ア 相違点3-1について

(ア)上記3(2)ア(ア)で述べたとおり,1つのボール面噴出口により渦洗浄動作を発生させる水洗便器は周知である。

(イ)しかし,甲3発明は,洗浄水が両側から便鉢の外周に回り込んで流れ落ちる便器に関するものであり,渦洗浄動作を発生させる上記周知技術とは技術分野が異なるから,上記周知技術を踏まえても,甲3発明において「給水路の下流の便鉢面に露出する部分」を1つとすること(片側から回り込んで流れ落ちるようにすること)が,当業者にとって容易であるとはいえない。

イ 請求人の主張について
請求人は,平成26年5月1日付け弁駁書(第49?50頁)において,「ボール面噴出口」を「1つ」とする構成は甲第1号証,甲第8号証,甲第9号証に開示されているから,水洗便器の技術分野において周知技術であり,甲3発明に上記周知技術を適用して本件訂正発明に想到することは容易である旨の主張をし,また,口頭審理陳述要領書(第30?32頁)において,ボール面噴出口1つタイプとボール面噴出口2つタイプのどちらを選択するかは,当業者が適宜選択する設計事項に過ぎないと主張しているが,上記ア(イ)で述べたとおりであって採用できない。

(3)小括
以上の検討によれば,相違点3-2,3-3について検討するまでもなく,本件訂正発明は,当業者が甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものということはできない。
よって,請求人の主張する無効理由2-3には理由がない。

5 無効理由3について

(1)請求人の主張

ア 請求人は,本件訂正発明における「略連続」という用語の外延が不明確であり,「略連続」の用語の意義をサポートする本件特許の構成,効果に係る技術的事項は本件特許の明細書及び図面には記載されていない旨を主張している。

イ 請求人は,本件訂正発明における「棚面」の「傾斜」の意義,「ボール面上縁」の意義,「隣接する領域」及びその「傾斜」の意義が不明確となっており,また,発明の詳細な説明によるサポートを欠いている旨を主張している。

(2)判断

ア 「略連続」について
本件訂正発明の「略連続」に関し,本件特許明細書には,
「また,リム噴出口44との繋ぎ部分において,棚部50の棚面は,図4(a)のA-A断面並びに図5に示すように,リム噴出口44の開口底面から略連続した棚面となるようにされている。よって,リム噴出口44からのリムショット洗浄水の噴出に際し,落差をもって洗浄水を噴出することがなくなり,棚面への洗浄水衝突を招かない。このため,リムショット時に洗浄水のエネルギ損失を抑制できるので,高いエネルギを持った状態で,リムショット洗浄水をリム噴出口44の下流側に,即ち,棚部50の旋回軌跡に沿って流すことができる。」(段落【0022】),
「しかも,このリム噴出口44との繋ぎ部分では,図示するように,リム部21の内面形状は,リム噴出口44の便器外方側の開口側面並びに開口上面から略連続した形状とされている。よって,棚部50がリム噴出口44の開口底面と略連続した棚面とされていることと相まって,リム噴出口44からは,リムショット洗浄水を衝突を起こすことなくより効果的に噴出することができ,好ましい。」(段落【0026】)
との記載がある。
そして,上記記載に照らせば,本件訂正発明の「略連続」は,「リム噴出口44からのリムショット洗浄水の噴出に際し,落差をもって洗浄水を噴出することがなくなり,棚面への洗浄水衝突を招かない」から「リムショット時に洗浄水のエネルギ損失を抑制できるので,高いエネルギを持った状態で,リムショット洗浄水をリム噴出口44の下流側に,即ち,棚部50の旋回軌跡に沿って流すことができる」という作用効果,及び,「リム噴出口44からは,リムショット洗浄水を衝突を起こすことなくより効果的に噴出することができ」るという作用効果を奏する程度に「おおよそ,つながりつづくこと」を意味するものとして理解することができる。

よって,請求人の主張は採用できない。

イ 「棚面」の「傾斜」,「ボール面上縁」,「隣接する領域」及びその「傾斜」について
本件訂正発明の「この棚面は,前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており」との記載に関し,本件特許明細書には,
「図2に示すように,便器10は,リム噴出口44を図における便器左側方に備え,図中斜線で示すように,このリム噴出口44の前方にボール面回りに旋回した経路の棚部50を有する。この棚部50は,ボール部20の上記した露出面24の上縁回りの領域に形成されており,リム噴出口44からのリムショット洗浄水を棚面に乗せて下流側(旋回軌跡の下流側)に流す。」(段落【0020】),
「棚部50は,その各部において,図4に示すように,ボール部20の底部の側に傾斜形成されている。」(段落【0021】)
との記載があり,さらに,図2には棚部50及びオーバーハング部52が示されている。
上記記載を踏まえて図4をみると,図4における棚部50とオーバーハング部52の位置関係から,棚部50の範囲が把握できる。よって,図4における,ボール面上縁回りに形成された棚部50より下側にある「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」が把握できるから,棚部50が有する棚面の「ボール部の底部の側への傾斜」が,「ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域」よりも緩やかに形成されていることが看て取れる。

よって,請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり,請求人の主張する無効理由3には理由がない。

第9 むすび
以上のとおり,本件訂正発明についての特許は,特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反してなされたものではなく,同法第123条第1項第2号に該当するものではない。
また,本件訂正発明についての特許は,特許法第36条第6項第1号又は第2号の規定に違反してなされたものではなく,同法第123条第1項第4号に該当するものでもない。
したがって,請求人が主張する無効理由によっては,本件訂正発明についての特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水洗便器
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな洗浄水を便器ボール部に通水してこれを洗浄する水洗便器に関する。
【背景技術】
【0002】
便器ボール部に洗浄水を通水してこれを洗浄する方式には種々のものがあり、ボール部上縁のリム部を中空とし、その中空部を通水経路として、このリム部からボール面に洗浄水を噴出する方式が普及している。この他、ボール面上縁部の内側壁面に沿って洗浄水を噴出する新たな洗浄方式も提案されている。
【特許文献1】特開平9-125502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記公報に記載の水洗便器では、ただ漫然と洗浄水がボール面に噴出されているに過ぎず、噴出洗浄水の挙動や、リム部形状等に改善の余地が残されていた。例えば、上記公報の水洗便器では、便器上縁に内側に突出する突部を接合してリム部とし、これを噴出洗浄水の飛散防止用に用いているが、噴出洗浄水の流れの様子は噴出口からの距離に応じて変わるので、場合によってはこの突部では十分に飛散防止を図ることができないことがあった。また、上記の突部を接合して焼成しその突部部分を便座の着座に用いているが、こうした構成では、焼成時に突部の接合箇所に亀裂が発生しやすくなる。或いは、噴出後の洗浄水を前方に流れる間にボール部底部に流れ落とすとしているが、噴出洗浄水の勢いによってはこの流れ落ちが十分でないようなこともあった。
【0004】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされ、ボール面上縁部の内側壁面に沿って洗浄水を噴出して便器を洗浄する場合の機能改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するため、本発明の水洗便器では、新たな洗浄水を便器ボール部に通水して、該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し、便器洗浄を行う水洗便器であって、前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって、このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり、供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と、前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段とを備え、前記案内手段は、前記噴出洗浄水が流れる棚部と、前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを、前記ボール面上縁回りに形成して備え、前記棚部は、前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において、前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し、前記規制壁部は、前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において、前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し、前記棚部は、前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し、この棚面は、前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており、前記棚部は、前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし、この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水洗便器は、ボール面噴出口との繋ぎ部分において、ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を設けたので、ボール面噴出口からの洗浄水噴出に際して洗浄水の衝突を起こさず、噴出洗浄水のエネルギー損失を抑制してボール面噴出口から下流に噴出できるので、高いエネルギーを持った噴出洗浄水で便器洗浄を図ることができ、洗浄能力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以上説明した本発明の構成及び作用を一層明らかにするために、以下本発明の水洗便器について、その実施の形態を説明する。図1は本発明の実施例であるサイホンゼット式の便器10を、その採用する洗浄水噴出の様子と共に示す概略斜視図、図2は、便器10をその上面をほぼ全域に亘って破断して示す説明図であり、図3は便器10を図2における3-3線に沿って破断した概略縦断面を示す説明図、図4はリム部21を説明するため図2のA-A線、B-B線、C-C線、D-D線の各部でリム部21を破断した概略部分断面である。このサイホンゼット式の便器10は、洗浄に伴って、後述するゼット噴出口22からの洗浄水噴出とボール面上縁における洗浄水噴出を行う。以下、便器10の各部について、各図を参照しつつ説明する。
【0008】
これら図面に示すように、便器10は、汚物を受けるボール部20を備える。ボール部20の周壁は、便器10の非洗浄時でも溜水RWと接する覆水面23と、便器10の非洗浄時には溜水RWと接しない露出面24から構成されている。
【0009】
この便器10は、二つの洗浄水噴出系を有する。一方の噴出系(ゼット噴出系)は、洗浄水タンク310(図3参照)からのタンク洗浄水入り口である洗浄水給水孔40から、ボール部底部の凹部26に開口されたゼット噴出口22までの経路を有する。他方の経路(リムショット噴出系)は、洗浄水給水孔40から、ボール部20の上部側面に空けられたリム噴出口44までの経路を有する。このゼット噴出系とリムショット噴出系は、洗浄水給水孔40の直下近傍で、後述するように分岐形成されており、それぞれの噴出口に洗浄水を供給する。
【0010】
ゼット噴出口22は、図示するように、凹部26を挟んでトラップの吸引口25とほぼ対峙する位置に設けられている。そして、このゼット噴出口22は、洗浄水給水路41のゼット給水孔45と、便器内部を湾曲するように形成されたゼット給水路46を介して接続されている。リム噴出口44は、洗浄水給水路41から洗浄水給水孔40近傍で分岐したリム給水路43の先端に位置するよう、ボール部20のボール面(詳しくは露出面24)上縁に形成されている。
【0011】
この場合、リム給水路43は、図2から明らかなように、洗浄水タンク310を固定するためのタンク取付孔28と図示しない便座或いは便座装置を取り付けるための便座取付孔29との干渉を避けた経路で形成されている。タンク取付孔28および便座取付孔29は、所定の既存ピッチ(例えば、タンク取付孔間ピッチ=170mm、便座取付孔間ピッチ=140mm)である。このため、本実施例の便器10には、既存の洗浄水タンクや便座(便座装置)をそのまま固定でき、特別な取付ピッチを有するタンクや便座を手配する必要がない。
【0012】
便器10は、その製造の過程で、ボール部パーツ10aと、本体下部パーツ10bと、給水路遮蔽パーツ10cとされ、これらのパーツを接合・なじみ処理した後、焼成して製造される。
【0013】
便器10の内部には、ボール部20に水を噴出するための上記の二系等の噴出系のほか、ボール部20内の汚物を排水ソケット70並びに排水立ち上げ管90に向けて排出するためのサイホントラップ管路が設けられている。なお、このサイホントラップ管路は、接続路31およびこれらに続く上昇路32、下降路33で構成されるが、本発明の要旨に関係しないのでその説明は省略する。
【0014】
まず、噴出系の構成について説明する。便器10の後方には、便器洗浄水の給水源としての洗浄水タンク310が設置されている。このタンク内洗浄水は、底部の図示しない排水弁から洗浄水給水孔40を通過し、洗浄水給水路41とリム給水路43に分流される。なお、後述のトラップから便器外部に排出される洗浄水量(排出洗浄水量)は、タンクの排水弁の開弁制御により調整可能であり、所定量、例えば大便洗浄時にあって約6リットルとなるよう設定することができる。
【0015】
この洗浄水給水孔40を通過して洗浄水給水路41に流入したタンク洗浄水は、既述したゼット給水孔45並びにゼット給水路46を通過して、ゼット噴出口22から吸込口25に向けて噴出される。よって、洗浄水のエネルギは、吸込口25以降のトラップに無駄なく伝達されるので、サイホン作用をより早期に引き起こすことが可能となる。なお、洗浄水給水路41の上部前方には、ボール部20の外側に位置する空隙42が区画壁41aによって形成されており、この区画壁にはエア排出孔41bが空けられている。よって、このエア排出孔41bからのエア排出により、洗浄水給水路41への速やかな洗浄水流入を経て、洗浄水は速やかにゼット噴出口22から噴出される。
【0016】
一方、リム給水路43に分流して流れ込んだ洗浄水は、給水路先端のリム噴出口44からボール部20に噴出される。こうした洗浄水の分流は洗浄水給水孔40のほぼ直下で起きるので、両噴出口からは、ほとんど同時に洗浄水噴出が開始される。また、リム噴出口44から離れた位置で洗浄水の分流を起こすことができるので、分流後の洗浄水をその流れに比較的乱れが起きない状態でリム噴出口44に流して噴出できる。この結果、このリム噴出口44からは、流れに乱れが無い状態で洗浄水をボール面上縁部に噴出することができる。従って、洗浄水をその流れに大きな乱れが起きない状態で噴出でき、ボール面上縁部から洗浄水が不用意に飛び出すようなことも無くなる。また、便器の洗浄性も高めることができる。以下、リム噴出口44からの洗浄水噴出をリムショットと呼ぶこととし、このリムショットによる洗浄水の挙動については後述する。
【0017】
リム給水路43は、図3に点線で示すように、リム噴出口44に至るまで、洗浄水給水孔40の側から下方に傾斜して形成されている。よって、リム噴出口44の側から洗浄水が不用意に逆流しないようにできる。また、リム給水路43を流れる間においては、洗浄水のエネルギロスを起こさないようにできるので、リム噴出口44からは、大きな流速をもって勢い良く洗浄水を噴出できる。
【0018】
なお、洗浄水給水路41とリム給水路43への洗浄水分流程度は、リム給水路43の分岐箇所の有効管路面積を調整することで種々調整可能である。
【0019】
次に、リムショットによる洗浄水の挙動をリム部21の構成と関連付けて説明する。図5はリム噴出口44の周辺の概略斜視図である。
【0020】
図2ないし図5に示すように、便器10は、リム噴出口44からのリムショット洗浄水を案内すべく、次のような構成を有する。図2に示すように、便器10は、リム噴出口44を図における便器左側方に備え、図中斜線で示すように、このリム噴出口44の前方にボール面回りに旋回した経路の棚部50を有する。この棚部50は、ボール部20の上記した露出面24の上縁回りの領域に形成されており、リム噴出口44からのリムショット洗浄水を棚面に乗せて下流側(旋回軌跡の下流側)に流す。
【0021】
棚部50は、その各部において、図4に示すように、ボール部20の底部の側に傾斜形成されている。このため、棚部50の棚面に乗って流れている洗浄水を、図1に図中白抜き矢印で示すように、棚部50の旋回経路各部でボール部20のボール面(詳しくは、露出面24から覆水面23にかけてボール面)に沿って流し落とすことができる。よって、このように旋回経路各部で流れ落ちる洗浄水(リムショット洗浄水)でボール面の付着汚物を確実に剥離できるので、ボール面洗浄能力を向上させることができる。
【0022】
また、リム噴出口44との繋ぎ部分において、棚部50の棚面は、図4(a)のA-A断面並びに図5に示すように、リム噴出口44の開口底面から略連続した棚面となるようにされている。よって、リム噴出口44からのリムショット洗浄水の噴出に際し、落差をもって洗浄水を噴出することがなくなり、棚面への洗浄水衝突を招かない。このため、リムショット時に洗浄水のエネルギ損失を抑制できるので、高いエネルギを持った状態で、リムショット洗浄水をリム噴出口44の下流側に、即ち、棚部50の旋回軌跡に沿って流すことができる。
【0023】
この棚部50は、上記した旋回経路に沿って、その下流に行くほど下方に傾斜するようにされている。即ち、図3および図4に示すように、便器左方側では、44近傍でもっともその高さが高く、便器前方側では低くなるようにされている。この様子は、図4において、リム部21上端面から棚部50までの隔たりが広くなることで示されている。また、棚部50は、便器右方側においても、便器前方から後方にいくほど低くなるようにされており、図5に示すように、経路末端では旋回経路開始部(即ち、リム噴出口44の配設付近)と段差状を呈する。このように棚部50は旋回経路に沿って下方に傾斜するので、リムショット洗浄水がこの棚部50に乗って旋回経路に沿って流れる際、このリムショット洗浄水を旋回経路(旋回軌跡)の末端までより確実に行き渡らせることができる。
【0024】
このため、旋回経路の各部での上記したリムショット洗浄水のボール面に沿った流れ落ちを確実に起こすことができ、汚物の剥離効果が高まる。また、旋回経路末端に行き渡ったリムショット洗浄水は旋回状態でボール部20の溜水に流れ込むので、溜水の旋回も引き起こすことができ、これによりトラップへの洗浄水吸引を促進できる。これらの結果、棚部50を上記のように旋回経路に沿って下方に傾斜させることで、高い洗浄能力を発揮できる。この場合、後述するリム部21によるリムショット洗浄水の案内により、リムショット洗浄水の旋回挙動を確実なものとできるので、より高い洗浄能力を発揮できる。
【0025】
また、便器10は、ボール部20の上縁回りにリム部21を備え、このリム部21を、図4に示すように、上記の棚部50をその上部から覆うようにしている。このリム部21は、棚部50の便器外側方向から上方に立ち上がって当該棚部をオーバーハングするよう形成されており、そのオーバーハングの様子を棚部50の旋回経路、即ちリムショット洗浄水の案内軌跡に沿って異なるものとしている。つまり、リム噴出口44との繋ぎ部分では、リム部21は、その有するオーバーハング部52が棚部50と略水平に対向する程度までオーバーハングさせている(図4(a)、(b)参照)。
【0026】
しかも、このリム噴出口44との繋ぎ部分では、図示するように、リム部21の内面形状は、リム噴出口44の便器外方側の開口側面並びに開口上面から略連続した形状とされている。よって、棚部50がリム噴出口44の開口底面と略連続した棚面とされていることと相まって、リム噴出口44からは、リムショット洗浄水を衝突を起こすことなくより効果的に噴出することができ、好ましい。そして、オーバーハング部52の内面コーナー部53は、R形状や三角状の余肉付けとされているので、焼成時において当該コーナー部の亀裂発生を回避できると共に、オーバーハング部52の強度を向上することができる。
【0027】
また、リム噴出口44から離れた範囲では、ボール部上縁回りにおいて、リム部21のオーバーハング部52を棚部50に対して傾斜したオーバーハング状態とした(図4(c)?図4(a)参照)。そして、この傾斜状のオーバーハング部52と棚部50を、図示するように、湾曲形状の連続部54で連続させた。更に、図4(c)の便器左方部から図4(d)の便器前方側の右方部に亘る間においては、オーバーハング部52を図中rで示す曲率半径で湾曲形成し、その湾曲程度を便器前方側ほど大きくなるようにした。なお、図4(c)、(b)、(a)に示す範囲にあってもオーバーハング部52を湾曲させるようにすることもできる。
【0028】
そして、図2および図4に示すように、上記したオーバーハング部52をリム部21の一部分とし、このリム部21には、その内部に中空部55を形成した。中空部55は、便座の着座部となるリム上面壁58と、リム部における便器外郭を形成する外郭壁59と、ボール部20上縁との接合壁60と、上記のオーバーハング部52とで囲まれて形成されている。図2に示すように、この中空部55は、リム噴出口44から離間した箇所、詳しくは、リムショット洗浄水RSがその流れの向きを棚部50とオーバーハング部52で変える箇所の付近から形成されている。そして、この中空部55は、ボール部20回りに湾曲し、既述した洗浄水給水路41の上部前方の空隙42に至るまで形成されている。
【0029】
このようなリム部21を有することから、次の利点がある。リム噴出口44の近傍では、オーバーハング部52の内面コーナー部53をR形状や三角状の余肉付けとされたものとして、この範囲のオーバーハング部52の強度を高めている。これ以外の領域のリム部21にあっては、中空部55を形成して、リム上面壁58をその左右のオーバーハング部52と外郭壁59で支えるようにして、中空部55を有する範囲にあってもリム部21の強度向上を図っている。この結果、焼成時の亀裂発生回避の信頼性を高めると共に、リム部21全体の強度を確実に高めることができる。よって、便座や局部洗浄装置などを支承なく便器10に装着できる。
【0030】
更に、以上説明したごとく便器10は、棚部50とオーバーハング部52をボール部上縁回りに有するので、次の利点がある。
【0031】
上記したように棚部50は、その棚面にリムショット洗浄水RSを乗せつつ、このリムショット洗浄水RSを棚部旋回経路に沿って下流に流す。一方、オーバーハング部52と棚部50に連続した連続部54は、棚部から立ち上がることで50と同じ旋回経路に沿って存在し、RSの流れ方向をこの旋回経路に沿ったものに規制する。これにより、リムショット洗浄水RSは、上記の旋回経路に沿って案内されて、ボール面上縁回りの旋回経路に沿って流れる。
【0032】
そして、このようにリムショット洗浄水RSを案内するに当たり、棚部50に対するオーバーハング部52のオーバーハングの様子をリムショット洗浄水RSの旋回経路に沿って異なるものとした。つまり、リム噴出口44との繋ぎ部分では、オーバーハング部52を棚部50と略水平に対向する程度までオーバーハングさせて、リム噴出口44から噴出されるリムショット洗浄水RSを棚部50とオーバーハング部52とで取り囲むようにした。このため、閉鎖管路のリム給水路43を通過してリム噴出口44から噴出されたリムショット洗浄水RSは、噴出口周囲に拡散して噴出しようとするが、棚部50並びにオーバーハング部52によりその拡散が確実に回避された状態で噴出する。よって、洗浄水の拡散噴出に伴う外部への洗浄水飛散を確実に回避できると共に、流れ方向(噴出方向)を揃えた状態でリム噴出口44前方、即ち上記の旋回経路に沿って噴出できる。
【0033】
また、図4に示すように、このようにして拡散回避を行った下流領域では、オーバーハング部52を棚部50に対して傾斜させると共に、このオーバーハング部52を連続部54を介して棚部50から立ち上げた。よって、リムショット洗浄水RSを案内するに際して、リムショット洗浄水RSをこの連続部54に集めつつ旋回経路に沿って下流に流すことができる。そして、旋回による遠心力を受けてリムショット洗浄水RSが便器外部に飛び出そうとしても、傾斜させたオーバーハング部52でこの洗浄水を受け止めてこの洗浄水の飛び出しを有効に回避できる。
【0034】
しかも、傾斜状のオーバーハング部52自体を内側に湾曲させて、便器前方ではこの湾曲程度を大きくした。この点でも次の利点がある。便器前方では便器前方から後方に向けた流れにその方向が大きく変わるので、上記した洗浄水の飛び出しが起きやすい。しかし、この便器前方でオーバーハング部52はより大きな湾曲形状を採るので、便器前方における洗浄水の飛び出しもより効果的に回避することができる。
【0035】
これらの結果、上記した構成を有する本実施例の便器10によれば、リムショット洗浄水RSをボール部上縁回りに噴出して便器洗浄を行う場合の噴出洗浄水の飛散防止機能を向上させることができる。
【0036】
また、ボール面の汚物剥離効果を高めるために、50をその旋回経路の各部でボール部20の側に傾斜させるようにし、この傾斜を、上記のように流れ方向が大きく変わる便器前方側で大きくした。よって、傾斜が大きい分だけ多くの量のリムショット洗浄水RSを、便器前方におけるボール面に沿ってボール部底面側に流し落とすことができるので、便器前方側のボール面であっても高い洗浄能力で洗浄できる。
【0037】
加えて、次のようなまた別の利点がある。リム噴出口44近傍では、対向するオーバーハング部52と棚部50との間を、ボール部20の側で解放することで、この領域の棚部50の棚面を便器上方から見やすくした。また、リム噴出口44より下流では、オーバーハング部52の傾斜形成により、棚部50の棚面はもとよりオーバーハング部52の内側面や連続部54の表面を、便器上方の側から使用者に見やすくした。こうすることで、使用者に棚面等の汚れ具合をよく見えるようにする。よって、使用者は、掃除の要否を容易に判断できると共に、容易に棚面等を掃除できる。
【0038】
また、本実施例では、リムショット洗浄水RSによる便器洗浄に加えて、ゼット噴出口22から洗浄水をボール部溜水に直接噴出するようにした。よって、トラップへの洗浄水(溜水)の吸引効率を一層高めることができ、溜水並びに汚物をより効果的かつ速やかにトラップから排出できる。
【0039】
次に、上記した便器10の製造方法について説明する。この製造方法では、一律な形状のリム部を有する既存の便器の製造方法と、ボール部パーツ10aの型成型に用いる型構造が異なるに過ぎない。図6は便器10のうちボール部パーツ10aの型成型に用いる型構成を便器縦断面方向で示す説明図、図7は図4に示したリム部各部の横断面方向の型構造を示す説明図、図8はリム部21の要部とその部分の型構造を一部を拡大して示す説明図である。なお、各型は多孔質の吸引型である。
【0040】
図示するように、ボール部パーツ10aの型成型に際しては、上型100と、下型101と、合わせ型102を用いる。上型100は、リム部21のオーバーハング部52或いはリム上面壁58と、外郭壁59と、洗浄水タンク310や図示しない便座の載置部上壁部122を形成するための型である。この上型100は、洗浄水給水孔40形成用の樹脂製、例えばテフロン(登録商標)製の凸部100aを有し、リム部21並びに載置部の上端アールの境界で下型101、合わせ型102と接合する。
【0041】
下型101は、リム噴出口44に洗浄水を分流供給するためのリム給水路43を形成すると共に、空隙42を形成するための区画壁41aと、リム部21の接合壁60とを形成するための型である。この下型101は、エア排出孔41b形成用の樹脂製、例えばテフロン(登録商標)製の埋没材101aと、リム部21の接合壁60における排泥孔61形成用の樹脂製、例えばテフロン(登録商標)製の埋没材101bを有する。合わせ型102は、リム部21のオーバーハング部52および内面コーナー部53並びにリム噴出口44を形成するための型であり、離型に支障が無いようリム周りに分割されている。この場合、合わせ型102は、リム噴出口44の形成位置に樹脂製、例えばテフロン(登録商標)製の図示しない埋没部を有し、この埋没部によりリム噴出口44を形成する。
【0042】
これら各型を型接合して各型で形成されたキャビティに泥漿を注入し、各型を吸引処理すると、図示するように各型の型形状に倣って泥漿が着層する。その後、乾燥させて離型すると、ボール面上縁のリム部21を含み、便器全体の上部構造を有するボール部パーツ10a(便器素地)が形成される。余剰の泥漿排出の際には、この便器素地におけるエア排出孔41bから排泥のためのエアが送られ、便器素地の中空部、即ち空隙42や中空部55に残存していた余剰の泥漿は、排泥孔61から除去される。
【0043】
また、既存の図示しない型(上型・下型或いは左右の型)を用いて、ボール部下方部や凹部26、上記トラップ管路、便器本体下部部分等の残余の便器部分を含む便器下部構造を有する本体下部パーツ10b(便器素地)を型成型して準備する。更には、本体下部パーツ10bに形成済みのゼット給水路46用の凹所をその経路に亘って遮蔽する給水路遮蔽パーツ10cを成型して準備する。なお、この給水路遮蔽パーツ10cの成型も既存のものと変わることは無い。
【0044】
こうして各パーツの準備が完了すると、各パーツを端面同士で接合させて、その接合個所を指や刷毛等でなじみ処理に処し、焼成する。このような製造工程を採るに当たり、ボール部パーツ10a成型用の下型101の型形状を変更するだけでよいので、低コスト化を図ることができる。なお、下型101と合わせ型102は分割されず、一体型でも成形可能である。また、ボール部パーツ10aと本体下部パーツ10bを接合しない一体型の成形方法も可能である。
【0045】
以上、本発明が実施される形態を説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。
【0046】
例えば、上記実施例では、洗浄水タンクとして、便器に連結されるロータンク型タンクを用いたが、ロータンク型タンク以外のタンク、例えば、便器と洗浄管を介して接続されてトイレの壁等に設置される隅付き型や平付き型のタンクを用いてもよい。この場合に、洗浄水タンクを高い位置に設置してハイタンクとすることも可能である。
【0047】
また、本発明をサイホンゼット式便器10やサイホン便器に適用した場合を例として説明したが、上記の便器と他の装置や部材との組み合わせた発明として把握することもできる。例えば、局部洗浄や暖房等の諸機能を実現する機能便座と組み合わせた衛生洗浄装置、収納用キャビネットや手洗装置と組み合わせたトイレキット装置、トイレ室内の構造体としての壁材,床材および天井材等を組み合わせたシステムトイレ装置等に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例であるサイホンゼット式の便器10を、その採用する洗浄水噴出の様子と共に示す概略斜視図である。
【図2】便器10をその上面をほぼ全域に亘って破断して示す説明図である。
【図3】便器10を図2における3-3線に沿って破断した概略縦断面を示す説明図である。
【図4】リム部21を説明するため図2のA-A線、B-B線、C-C線、D-D線の各部でリム部21を破断した概略部分断面である。
【図5】リム噴出口44の周辺の概略斜視図である。
【図6】便器10のうちボール部パーツ10aの型成型に用いる型構成を便器縦断面方向で示す説明図である。
【図7】図4に示したリム部各部の横断面方向の型構造を示す説明図である。
【図8】リム部21の要部とその部分の型構造を一部を拡大して示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10…便器
10a…ボール部パーツ
10b…本体下部パーツ
10c…給水路遮蔽パーツ
20…ボール部
21…リム部
22…ゼット噴出口
23…覆水面
24…露出面
25…吸込口
26…凹部
28…タンク取付孔
29…便座取付孔
40…洗浄水給水孔
41…洗浄水給水路
41a…区画壁
41b…エア排出孔
42…空隙
43…リム給水路
44…リム噴出口
45…ゼット給水孔
46…ゼット給水路
50…棚部
52…オーバーハング部
53…内面コーナー部
54…連続部
55…中空部
58…リム上面壁
59…外郭壁
60…接合壁
61…排泥孔
100…上型
101…下型
102…合わせ型
310…洗浄水タンク
RS…リムショット洗浄水
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新たな洗浄水を便器ボール部に通水して、該便器ボール部のボール面に貯め置く溜水をボール面の付着汚物と共にトラップから排出し、便器洗浄を行う水洗便器であって、前記便器ボール部におけるボール面上縁部に露出して設けられた1つのボール面噴出口であって、このボール面噴出口は洗浄水を供給する給水路の先端開口であり、供給を受けた洗浄水を前記ボール面上縁部からボール面上縁に沿って噴出する前記ボール面噴出口と、前記ボール面噴出口からの噴出洗浄水を前記ボール面上縁回りに案内する露出した案内手段とを備え、前記案内手段は、前記噴出洗浄水が流れる棚部と、前記噴出洗浄水の流れ方向を規制すると共に前記棚部の便器外側方向から上方に立ち上がって前記棚部をオーバーハングする規制壁部とを、前記ボール面上縁回りに形成して備え、前記棚部は、前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において、前記ボール面噴出口の開口底面から略連続した棚面を有し、前記規制壁部は、前記ボール面噴出口との繋ぎ部分において、前記ボール面噴出口の開口側面から略連続した壁面を有し、前記棚部は、前記ボール面上縁回りに形成された前記噴出洗浄水の旋回経路である前記棚面を有し、この棚面は、前記便器ボール部の底部の側への傾斜が前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域よりも緩やかに形成されており、前記棚部は、前記1つのボール面噴出口から噴出された噴出洗浄水を棚面に乗せて旋回経路に沿って下流に流すことにより一方向の旋回流を形成すると共にこの旋回する噴出洗浄水を旋回経路の棚面から前記ボール面のボール面上縁より下側で且つボール面上縁に隣接する領域に流れ落とし、この流下する洗浄水がボール面の付着汚物を剥離するようになっていることを特徴とする水洗便器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-03-09 
結審通知日 2015-03-12 
審決日 2015-03-24 
出願番号 特願2003-347812(P2003-347812)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (E03D)
P 1 113・ 113- YAA (E03D)
P 1 113・ 536- YAA (E03D)
P 1 113・ 121- YAA (E03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鷲崎 亮河本 明彦  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 赤木 啓二
村松 貴士
登録日 2004-07-23 
登録番号 特許第3578169号(P3578169)
発明の名称 水洗便器  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 山崎 道雄  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山本 泰史  
代理人 渡邊 誠  
代理人 弟子丸 健  
代理人 渡邊 誠  
代理人 西澤 利夫  
代理人 山本 泰史  

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