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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1322692
審判番号 不服2015-1402  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-26 
確定日 2016-12-07 
事件の表示 特願2012-165085「生存率予測アッセイ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-198248〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年8月19日を国際出願日とする外国語特許出願である特願2012-525213号の一部を新たな特許出願として平成24年7月25日に出願された特願2012-165085号(パリ条約による優先権主張 2009年8月19日 GB,2010年1月22日 GB)であって、平成26年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年9月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同月19日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同月24日に請求人に送達された。
これに対して、平成27年1月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされた。
その後、当審により平成27年12月21日付けで拒絶の理由が通知され、平成28年6月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成28年6月21日にされた手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、つぎのとおりのものである。
「【請求項1】
血液、血漿または血清サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するための1又は複数の検出剤、及び前記FLCの濃度の標準曲線の作成を可能にする前記FLC用の標準を含む、血液、血漿または血清サンプル中のFLCの総量を決定するためのアッセイキットであって、前記アッセイキットは、抗遊離λ抗体又はその断片、及び抗遊離κ抗体又はその断片の混合物を含む比ろう法又は比濁法キットである、アッセイキット。」
(下線は、補正箇所を示す。)

第3 平成27年12月21日付の拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)の概要
当審拒絶理由通知により通知した理由のうち、請求項1について通知した理由は、請求項1に係る発明は、その出願前に外国において、頒布された刊行物1(欧州特許出願公開第0336472号明細書(1989年10月11日公開)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、請求項1に係る発明は、同刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第4 当審の判断
1 刊行物1に記載された事項及び発明について
(1)本願の最先の優先権主張日前に外国において頒布された刊行物である刊行物1(欧州特許出願公開第0336472号明細書)には、尿サンプル中の遊離軽鎖の存在を決定する方法、その方法の実施のための調製物の複合体及び関連した試薬について、次の事項が記載されている。(下線は、当審により付与した。以下同様。)

(引1ア)「It is known that an immunoglobulin is schematically made up of two heavy chains and two light chains. Determinations of the presence of the free light chains, also called proteins by Bence Jones, in the urine is of great interest from the diagnostic viewpoint.
The free light chains are present in traces in the serum of normal subjects but are practically absent in the urine. The presence of said light chains in the urine is an indication of the existence of a pathological condition, particularly of immunological nature.
Actually the presence of free light chains in urine presupposes their anomalous increase in the serum of the subject but, given their low molecular weight, free light chains pass through the glomerular filter and do not persist in the blood. It is therefore necessary to perform an indirect investigation, ascertaining their presence in the urine.
The presence of free light chains in the urine, which is the consequence of the increase thereof in the blood, is associated with immunological pathologies which can be summarized as (a) the presence of monoclonal free light chains, i.e. immunoproliferative illnesses such as multiple myeloma, micromolecular myeloma, Waldenstrom's macroglobulinemia, chronic lymphatic leukemia and primitive amyloidosis; and (b) the presence of polyclonal free light chains, i.e. hyperimmune illnesses such as systemic lupus erythematosus, acute rheumatoid arthritis and secondary amyloidosis.」(第1欄1行?32行)
(当審仮訳 「免疫グロブリンは、模式的に2つの重鎖と2つの軽鎖からなることが知られている。尿中における、ベン ジョーンズによるタンパク質とも呼ばれている、遊離の軽鎖の存在の決定は、診断上の観点から大きな関心がある。
遊離軽鎖は、正常対象の血清においては痕跡的に存在するが、尿においては実際的には存在しない。尿中の前記軽鎖の存在は、病理的条件、特に免疫学的性質の存在の指標である。
現に、尿における遊離軽鎖の存在は、対象の血清における変則的な増加を前もって推定するが、それらの低い分子量から、遊離軽鎖は糸球体フィルターを通過して、血液中には存在しない。したがって、間接的研究を行い、尿におけるそれらの存在を確認することが必要である。
尿における遊離軽鎖の存在は、血液におけるその増加の結果であるので、(a)単クローン性遊離軽鎖の存在、すなわち、多発性骨髄腫、・・・のような免疫増殖性疾患;及び(b)ポリクローン性遊離軽鎖の存在、すなわち、全身性エリトマトーデス、急性関節リューマチ及び二次的アミロイドーシスのような高度免疫疾患、として要約される免疫学的病理に関連している。」)

(引1イ)「The invention is based on the observation that an antigen-antibody reaction is usable for determination of the presence of free light chains in the urine without prior concentration, leading to turbidity values which allow appraisal of the presence of such chains with significant qualitative and quantitative reliability. In particular the invention proposes a diagnostic method based on ascertainment of the concentration of light chains in the urine comprising the phases (a) centrifugation of the urine sample and separation of the overfloating, (b) addition to the sample of an anti free light chain antiserum reagent operating with an excess of antibodies, and (c) appraisal of turbidity of the reacted sample.
In particular if a quantitative appraisal is required the method calls for addition of the antiserum reagent to a calibration sample containing free light chains in a predetermined quantity to obtain calibration curves for the quantitative analysis procedure by turbidity comparison. 」(第2欄15行?35行)
(当審仮訳「本発明は、抗原-抗体反応が、事前濃縮のない尿中の遊離軽鎖の存在の決定のために使用可能であって、重要な定性的及び定量的信頼性を備えたそのような鎖の評価をさせる濁度値へ導くという観察に基づくものである。特に、本発明は、次の段階(a)尿サンプルの遠心分離及び上方浮上部分の分離、(b)抗体過剰で操作する抗遊離軽鎖抗血清試薬のサンプルへの添加、及び(c)反応したサンプルの濁度の評価を含む、尿中の軽鎖濃度の評価に基づく診断方法を提案している。
特に、定量的評価が必要としても、本方法は、濁度比較による定量分析プロセス用の標準曲線を得るために、予め決定された量で遊離軽鎖を含むキャリブレーションサンプルへの抗血清試薬の添加が必要である。」)

(引1ウ)「The anti light chain antiserum is obtainable by any of the known procedures for the purpose, generally from an animal immunized with free light chains.
Two types of light chain are known, conventionally denominated kappa and lambda, which can be used for immunization of animals to obtain corresponding antiserums.
Such an antiserum reacts with all of the antigen sites of the light chain including those which can be defined as 'hidden', when the light chain is linked to the heavy chain. This antiserum then shows both the linked light chains and the free light chains.
It is possible to obtain an anti free light chain antiserum by separating therefrom the antibodies turned toward the antigenic sites not 'hidden' by the light chain; this can be achieved by reacting the anti free light chain antiserum with whole immunglobulins and recovering the antibodies which have not reacted. Such an antiserum reacts only with kappa or lambda free light chains respectively and does not react with linked light chains.」(第2欄36行?第3欄4行)
(当審仮訳「抗軽鎖抗血清は、一般的には遊離軽鎖で免疫された動物から、この目的のために知られた任意のプロセスによって得られる。
軽鎖の2つのタイプが知られており、慣習的にκとλと名付けられ、それらは対応する抗血清を得るために動物の免疫用に使用される。
そのような抗血清は、軽鎖が重鎖に結合しているときには、’隠されている’として定義される軽鎖に含まれている軽鎖の抗原部位の全てと反応する。
軽鎖によって’隠されている’のではない抗原部位に対する抗体を該抗血清から分離することによって、抗遊離軽鎖抗血清を得ることが可能である;これは、抗遊離軽鎖抗血清を全体免疫グロブリンと反応し、反応しなかった抗体を回収することによって、行うことができる。そのような抗血清は、κ又はλ遊離軽鎖とだけそれぞれ反応し、結合した軽鎖とは反応しない。」)

(引1エ)「A kit of products necessary for performing the analysis in accordance with the invention typically includes the following components.
(a) Anti free light chain antiserum reagent consisting of dilute antiserum, e.g. in concentrations of 20% anti free kappa light chain antiserum, 20% anti free lambda light chain antiserum, and 60% of a 4% solution of PEG 6000 in a physiological buffer solution (PBS) (phosphate buffer at pH 7.4) It is advantagaeous to add a preservative such as 0.1% Sodium Azide.

(b) Calibrators.

These can be used as positive controls of the qualitative procedure and as calibrators for the quantitative procedure.
The samples used come from patients with secernating micromolecular myeloma. In the absence of any reference method in the literature electrophoresis was performed on the urinary proteins, noting the presence of a large band subsequently typified with immunofixation as free kappa and lambda light chains accompanied by a barely visible band of albumin. The quantity of total proteins is therefore considered to practically coincide with the quantity of free light chains. The dosage of the total proteins was performed by the Bradford method. The samples are freeze-dried with addition of preservative (1% Sodium Azide) to be diluted with distilled water for use, then with PBS to plot the standard curve for the quantitative procedure.

(c) Reagent without antiserum.

The composition of this reagent is the same as that of the antiserum reagent but without the latter and to be used in the control and calibration procedure as standard white.」(第3欄8行?48行)
(当審仮訳 「本発明に対応する分析を実施するために必要な物質のキットは、典型的に次の成分を含む。
(a)例えば、濃度で20%の抗遊離κ軽鎖抗血清、20%の抗遊離λ軽鎖抗血清、及び4%PEG6000の生理的緩衝液(PBS)(pH7.4のリン酸塩緩衝液)溶液60%の、希釈された抗血清から成る抗遊離軽鎖抗血清試薬。0.1%アジ化ナトリウムのような防腐剤を添加することが有利である。
(b)キャリブレーター
これらは、定性的方法の陽性コントロールとして、及び定量的方法に対してのキャリブレーターとして使用され得る。
使用されるサンプルは、異なっているマイクロ分子骨髄腫の患者に由来する。文献にはいかなる参照方法も存在しないので、電気泳動が本尿タンパク質において実施され、アルブミンの裸眼視可能なバンドを伴い、引き続いての免疫固定法を用いて遊離κ及びλ軽鎖としてタイプ分けされる大きなバンドの存在が記録された。したがって、トータルのタンパク質の量は、遊離軽鎖の量と実際的に一致すると考えられる。トータルタンパク質の適用量はブラッドフォード法によって実行された。サンプルは、使用のために蒸留水で希釈され、次いでPBSと共に定量方法のための標準曲線をプロットするために、防腐剤(1%アジ化ナトリウム)を添加して凍結乾燥される。
(c)抗血清以外の試薬
この試薬の組成は、抗血清試薬がないことを除き、抗血清試薬の組成と同じものであり、スタンダードホワイトとしてコントロール及び定量方法において用いられるためのものである。」)

(引1オ)「1. Method of determination of the presence of free light chains in undiluted samples of urine comprising the phases (a) centrifugation of the urine sample and separation of the overfloating for performance of the determination, (b) addition to the sample of an anti light chain antiserum reagent operating with excess antibodies, and (c) appraisal of the turbidity of the reacted sample.
・・・
3. Method in accordance with claim 1 characterized in that the turbidity of the reacted sample is appraised by comparison with the product of reaction of the antiserum reagent with a calibrator having a predetermined content of free light chains.
4. Method in accordance with claim 3 characterized in that a calibration curve is constructed for the comparison, instrumentally appraising the turbidity value of the reaction product of the antiserum reagent with samples made up of calibrator solutions in various concentrations. 」(第5欄43行?第6欄12行)
(当審仮訳「1.尿の希釈されていないサンプルにおける遊離軽鎖の存在の決定方法であって、次の段階(a)尿サンプルの遠心分離及び決定を実行するための溢流の分離、(b)抗体過剰で操作する抗軽鎖抗血清試薬のサンプルへの添加、及び(c)反応したサンプルの濁度の評価を含む、方法。
(中略)
3.反応したサンプルの濁度が、遊離軽鎖の予め決定された含有量を有するキャリブレーターと抗血清試薬の反応生成物と比較して評価されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
4.標準曲線が比較のために作成されて、さまざまな濃度のキャリブレーター溶液から形成されたサンプルと抗血清試薬の反応生成物の濁度が機器的に評価されることを特徴とする請求項3に記載の方法。」 )

(2)刊行物1に記載された発明
ア 上記(引1エ)には、尿サンプル中の遊離軽鎖の存在を決定する方法に対応する分析を実施するために必要な物質の「キット」に含まれるものとして、「濃度で20%の抗遊離κ軽鎖抗血清、20%の抗遊離λ軽鎖抗血清、及び4%PEG6000の生理的緩衝液(PBS)(pH7.4のリン酸塩緩衝液)溶液60%の、希釈された抗血清から成る抗遊離軽鎖抗血清試薬」が例示されており、当該「抗遊離軽鎖抗血清試薬」は、遊離κ軽鎖に対する抗血清と、遊離λ軽鎖に対する抗血清とが一緒に混合されたものを含むものであることが理解できる。
イ 上記(引1イ)には、刊行物1に記載の「抗遊離軽鎖抗血清試薬」が「尿中の遊離軽鎖の存在の決定のために使用可能」であって、「定性的及び定量的信頼性」を「備えた評価」をさせる「濁度値」を評価することによる、「尿中の軽鎖濃度の評価に基づく診断方法」を提案することが記載されており、また、当該「抗遊離軽鎖抗血清試薬」がサンプルへ添加されるものであることが記載されているから、刊行物1に記載の分析を実施するために必要な物質の「キット」が、尿サンプル中の遊離軽鎖の総量を決定するために使用されることは明らかであるといえる。
ウ また、その尿サンプル中の遊離軽鎖の総量を決定する方法では、上記(引1イ)に記載のように、「(b)抗体過剰で操作する抗遊離軽鎖抗血清試薬のサンプルへの添加、及び(c)反応したサンプルの濁度の評価を含む」方法であるから、刊行物1に記載の分析を実施するために必要な物質の「キット」は、濁度測定用のキットと理解される。
エ そして、該物質のキットが、上記(引1イ)に記載されているような「本方法は、濁度比較による定量分析プロセス用の標準曲線を得るために、予め決定された量で遊離軽鎖を含むキャリブレーションサンプルへの抗血清試薬の添加が必要である」方法の実施のためのものであり、上記(引1エ)に記載されているように、「定量方法のための標準曲線をプロットするため」のキャリブレータが含まれているから、「遊離軽鎖の濃度の標準曲線の作成を可能にする遊離軽鎖の標準」も含まれていることは明らかである。
オ してみると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「尿サンプル中の遊離軽鎖の総量を検出するための抗遊離軽鎖抗血清、及び前記遊離軽鎖の濃度の標準曲線の作成を可能にする前記遊離軽鎖用の標準を含む、尿サンプル中の遊離軽鎖の総量を決定するための物質のキットであって、前記キットは、遊離λ軽鎖に対する抗血清と、遊離κ軽鎖に対する抗血清とが一緒に混合された抗遊離軽鎖抗血清試薬を含む濁度測定用のキットである、物質のキット。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(3)本願発明と刊行物1発明の対比
ア 刊行物1発明の「物質のキット」は、上記(引1エ)に記載されているように、「分析を実施するために必要な」ものであるから、本願発明の「アッセイキット」に相当するものであるといえる、
そうすると、刊行物1発明の「尿サンプル中の遊離軽鎖の総量を検出するための抗遊離軽鎖抗血清、及び前記遊離軽鎖の濃度の標準曲線の作成を可能にする前記遊離軽鎖用の標準を含む、尿サンプル中の総量を決定するための物質のキット」と、本願発明の「血液、血漿または血清サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するための1又は複数の検出剤、及び前記FLCの濃度の標準曲線の作成を可能にする前記遊離軽鎖用の標準を含む、サンプル中のFLCの総量を決定するためのアッセイキット」とは、「生体サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するための1又は複数の検出剤、及び前記FLCの濃度の標準曲線の作成を可能にする前記遊離軽鎖用の標準を含む、サンプル中のFLCの総量を決定するためのアッセイキット」である点で一致するものといえる。
イ そして「抗血清」が「ポリクローナル抗体」であることは、免疫分野における技術常識であるから、刊行物1発明の「遊離λ軽鎖に対する抗血清」と「遊離κ軽鎖に対する抗血清」は、本願発明の「抗遊離λ抗体」と「抗遊離κ抗体」に、それぞれ相当することは技術常識から明らかである。
してみると、刊行物1発明の「遊離λ軽鎖に対する抗血清と、遊離κ軽鎖に対する抗血清とが一緒に混合された抗遊離軽鎖抗血清試薬」は、本願発明の「抗遊離λ抗体又はその断片、及び、抗遊離κ抗体又はその断片の混合物」とは、少なくとも「抗遊離λ抗体、及び、抗遊離κ抗体の混合物」である点で一致するものといえる。
ウ 以上のことから、本願発明と刊行物1発明とは、次の一致点で一致し、次の各相違点において一応相違する。

<一致点>
「生体サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するための1又は複数の検出剤、及び前記FLCの濃度の標準曲線の作成を可能にする前記FLC用の標準を含む、生体サンプル中のFLCの総量を決定するためのアッセイキットであって、前記アッセイキットは、抗遊離λ抗体、及び、抗遊離κ抗体の混合物を含むキットである、アッセイキット。」

<相違点1>
本願発明が「血液、血漿または血清」サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するための1又は複数の検出剤を含む「血液、血漿または血清」サンプル中のFLCの総量を決定するためのアッセイキットであるのに対して、刊行物1発明は「尿」サンプル中の遊離軽鎖の総量を検出するための抗遊離軽鎖抗血清を含む「尿」サンプル中の遊離軽鎖の総量を決定するための物質のキットである点

<相違点2>
本願発明が「比ろう法又は比濁法キット」であるのに対し、刊行物1発明は「濁度測定用のキット」である点。

(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
(ア)本願発明は、「アッセイキット」であって、「血液、血漿または血清サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するための1又は複数の検出剤」及び「FLCの濃度の標準曲線の作成を可能にする前記FLC用の標準」を含むものであり「抗遊離λ抗体又はその断片、及び抗遊離κ抗体又はその断片の混合物を含む」ことをその要旨とする発明であるから、本願発明において「血清、全血又は血漿サンプル」が特定されているとしても、当該特定は、本願発明の「アッセイキット」の用途が特定されるにとどまり、それ以上に本願発明の「アッセイキット」に含まれるものとして、特定の成分や検出剤、標準が特定されるものではない。
そして、発明の詳細な説明を参酌しても、そのような用途に用いられる「アッセイキット」が、特定の成分や検出剤、標準が含まれるものに特定されると解釈される根拠となる記載は見受けられない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点ではないというべきである。
(イ)請求人は、平成28年6月21日に提出の意見書において、「刊行物1」には、「血液、血漿または血清中のトータル(κおよびλ)遊離軽鎖を測定する方法」が教示されていないこと、「本願出願人のFreelite(登録商標)アッセイの導入前には、軽鎖に対する抗体は、尿由来のベンス・ジョーンズタンパク質に対して産生されていました。ベンス・ジョーンズタンパク質は、腎臓から尿に排出される遊離軽鎖であります。抗体は、軽鎖分子全体に対して惹起されます。これは、抗体が重鎖に結合しているときに暴露される軽鎖分子の一部に結合する抗体、並びに、遊離(すなわち重鎖に結合していない)のときにのみ曝露される部分に結合する抗体、の混合物であります。Freelite(登録商標)アッセイは、アッセイキット中の抗体が遊離κまたはλ軽鎖に特異的であることを保証するように、抗体を産生する動物において寛容化のシステムを使用します。この技術は、トータルFLC(遊離軽鎖)を測定する方法を創出するように適合されています。
遊離軽鎖に特異的でない抗軽鎖抗体を含むことは、重鎖に結合した軽鎖は腎臓を通過しないため、尿を測定するアッセイでは重要ではありません。このように結合した免疫グロブリンは尿中には通常存在しないため、重鎖に結合した軽鎖と交差反応することは、問題とはなりません。
対照的に、全血、血清、および血漿において、重鎖に結合する軽鎖を有する免疫グロブリンの量は、通常存在する比較的低レベルの遊離軽鎖と比較して、非常に高くなっています。例えば、成人における血清IgGの正常範囲は、6?16g/Lであり、血清遊離κおよびλ軽鎖の濃度の中央値は、それぞれ、7.3mg/Lと12.7mg/Lであります。このことは、結合した軽鎖との交差反応が存在すれば、トータルFLCを測定することは不可能となることを意味します。本願発明のキットにより、サンプル中のトータルFLCの量を定量的に測定することが可能になりますが、本願発明のキットは、結合した軽鎖および遊離軽鎖の両方を測定するのではありません。」と主張し、その根拠として参考資料を提出している。
しかしながら、刊行物1発明の「物質のキット」における「抗遊離λ軽鎖抗血清、及び、抗遊離κ軽鎖抗血清」は、上記1(1)の(引1ウ)に説示したように、「抗血清は、軽鎖が重鎖に結合しているときには、’隠されている’として定義される軽鎖に含まれている軽鎖の抗原部位の全てと反応する。軽鎖によって’隠されている’のではない抗原部位に対する抗体を該抗血清から分離することによって、抗遊離軽鎖抗血清を得ることが可能である」ことが記載され、そのような分離を行う工程として「抗遊離軽鎖抗血清を全体免疫グロブリンと反応し、反応しなかった抗体を回収する」ことが記載されていること、そして、そのようにして得られた抗血清が「κ又はλ遊離軽鎖とだけそれぞれ反応し、結合した軽鎖とは反応しない」ものであることが記載されているのであるから、たとえ、「血清、全血又は血漿サンプル」中に(尿サンプルとは異なり)遊離軽鎖(FLC)だけではなく、重鎖に結合した形態の軽鎖が免疫グロブリンとして多量に含まれているとしても、刊行物1発明の「抗血清」は、重鎖に結合した形態の軽鎖とは反応しないことは技術的に明らかというべきである。
してみると、刊行物1発明の「抗血清」が「血清、全血又は血漿サンプル」の遊離軽鎖(FLC)の総量を検出するために使用できないとする請求人の主張は、理由がない。
なお、請求人は、請求人が販売するFreelite(登録商標)アッセイキットと刊行物1の出願人の販売しているNSCアッセイキットとの比較結果などが記載された参考資料も提出しているが、刊行物1発明と参考資料のアッセイキットとが同じものであるとは限らないことから、それらの参考資料に基づく請求人の主張は採用することができない。
(ウ)刊行物1に「血清、全血又は血漿サンプル」中の「FLCの総量」を検出する方法が記載されていないことから、その点が実質的な相違点であるとして、検討する。
刊行物1の上記1(1)の(引1ア)に「遊離軽鎖は、正常対象の血清においては痕跡的に存在するが、尿においては実際的には存在しない。尿中の前記軽鎖の存在は、病理的条件、特に免疫学的性質の存在の指標である」こと、「尿における遊離軽鎖の存在は、血液におけるその増加の結果であるので、(a)単クローン性遊離軽鎖の存在、すなわち、多発性骨髄腫、・・・のような免疫増殖性疾患;及び(b)ポリクローン性遊離軽鎖の存在、すなわち、全身性エリトマトーデス、急性関節リューマチ及び二次的アミロイドーシスのような高度免疫疾患、として要約される免疫学的病理に関連している」ことが記載されていることから、刊行物1において「血清、全血又は血漿サンプル」中の「FLCの総量」を検出することの有用性について示唆されているといえる。
そして、「血清サンプル中の遊離軽鎖(FLC)の総量を診断上考慮すべき値として用いることが、本願の最先の優先権主張日前において従来周知のことである(必要なら、例えば、[Blood,November 16, 2003, Vol.102, No.11, pp.935a, Abstract #3481]の「Methods:」欄の最終文「We also studied the prognostic effect of elevated total FLC.」(当審和訳:我々はまた、高値となったトータルFLCの予後効果を研究した。)及び「Results:」欄の最終文「Similarly an increased level of total serum FLC (>18 mg/L) was associated with a greater risk of progression (relative risk 1.9; 95% CI, 1.02-3.3; P=0.05).(当審和訳:同様に、トータル血清FLCの増加したレベル(>18mg/L)は、進行のより大きなリスクと関連した(相対的リスク1.9;95%CI,1.02-3.3;P=0.05)。)」との記載、[透析学会誌23(6);633?637頁,1990年」、特に表3等の記載を参照されたい)。
上記刊行物1における示唆及び当該周知技術に鑑みれば、刊行物1発明の「物質のキット」を「血清、全血又は血漿サンプル」中の「FLCの総量」を決定するために用いようとすることには、十分な動機付けがあるといえる。
また、刊行物1発明が、「血清、全血又は血漿サンプル」中の「FLCの総量」を決定するために用いることができるものであることは、上記(ア)で検討したとおりである。
以上のことからすれば、上記相違点1が実質的な相違点であったとしても、当業者が技術常識に基づいて容易に想到し得る程度のことである。
(エ)相違点1の検討のまとめ
上記(ア)で検討したとおり、相違点1は、「アッセイキット」としての構成上の実質的な相違点ではない。
また、そうでないとしても、(ウ)で検討したように、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、当業者が技術常識に基づいて容易に想到し得る程度のことである。

イ 相違点2について
(ア)刊行物1発明のような濁度測定用のキット、すなわち、サンプルに測定対象物に対する抗体を含む試薬を反応させて生成した抗原-抗体複合体による反応液の濁度の変化を利用してサンプル中の測定対象物の濃度を測定するキットを利用して、サンプルの濁度をその濁度により評価するにあたって、照射した光の散乱光を測定する比ろう法、又は照射光の散乱による透過光の減衰を測定する比濁法を用いて評価することは、本件優先日前におけるイムノアッセイ分野における技術常識にすぎない。
上記の技術常識に鑑みれば、刊行物1発明の「濁度測定用のキット」は、その濁度評価手法として「比ろう法又は比濁法」を用いて評価できるものであることは明らかであるから、刊行物1発明の濁度測定用キットは、「比ろう法又は比濁法キット」であるといえる。
そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
(イ)仮に、刊行物1発明の「濁度測定用キット」と「比ろう法又は比濁法キット」とが実質的に相違するものであるとしても、刊行物1発明の「濁度測定用キット」を「比ろう法又は比濁法キット」として用いるようにすることに格別の困難性はないから、当業者であれば、適宜なし得る範囲内の事項である。
(ウ)相違点2の検討のまとめ
上記のとおりであるから、上記(ア)で検討したとおり相違点2は、実質的な相違点ではない。
また、そうでないとしても、上記(イ)で検討したように相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、当業者であれば適宜なし得る程度のことにすぎない。

(5)まとめ
以上検討したとおり、本願発明と刊行物1発明との間に「キット」としての構成上の差異は見出せないから、本願発明は、刊行物1発明に該当する。 また、そうでないとしても本願発明は、刊行物1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 結論
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
また、そうでないとしても、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-11 
結審通知日 2016-07-12 
審決日 2016-07-25 
出願番号 特願2012-165085(P2012-165085)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G01N)
P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 尾崎 淳史
渡戸 正義
発明の名称 生存率予測アッセイ  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 川口 嘉之  

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