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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1322959
審判番号 不服2015-20969  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-26 
確定日 2016-12-15 
事件の表示 特願2011-536165「有機エレクトロルミネッセンス素子およびこれを用いた照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日国際公開、WO2011/046166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成22年10月14日(国内優先権主張平成21年10月14日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略次のとおりである。

平成26年 5月29日付け:拒絶理由通知書(同年6月3日発送)
平成26年 7月24日提出:意見書
平成26年 7月24日提出:手続補正書
平成26年12月25日付け:拒絶理由通知書(平成27年1月6日発送)
平成27年 3月 3日提出:意見書
平成27年 8月27日付け:拒絶査定(同年9月1日送達)
平成27年11月26日提出:審判請求書
平成27年11月26日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成26年7月24日提出の手続補正書による補正後(以下、「本件補正前」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載及び明細書の段落【0011】の記載を補正するものであるところ、本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下の(1)及び(2)のとおりである(下線は、本件補正による補正箇所を示す。)。

(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「複数の発光ユニット間に、電界をかけることで正孔と電子を発生する電荷発生層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっており、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成され、かつ、前記複数の発光ユニットがスリットコータ又はスクリーン印刷により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「複数の発光ユニット間に、電界をかけることで正孔と電子を発生する電荷発生層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっており、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成され、前記複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有し、かつ、前記複数の発光ユニットがスリットコータ又はスクリーン印刷により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(3) 補正事項
本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1において、「該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっており、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成され、かつ、前記複数の発光ユニットがスリットコータ又はスクリーン印刷により形成される」とあるのを、「該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっており、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成され、前記複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有し、かつ、前記複数の発光ユニットがスリットコータ又はスクリーン印刷により形成される」に補正するものである(以下、「補正事項1」という。)。

2 本件補正の目的について
補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「複数の発光ユニット」の構成を、「前記複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有」するという構成に限定するものである。
また、補正事項1による補正の前後において、請求項1に係る発明の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

3 新規事項の追加について
補正事項1は、本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」といい、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面を総称して、「当初明細書等」という。)の段落【0207】、【0234】?【0251】、【0440】及び【0448】?【0587】(特に、段落【0440】、【0455】、【0497】、【0511】参照。)等の記載に基づくものであるから、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。

4 独立特許要件について
補正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正後発明1」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか)について、以下に検討する。

(1) 本件補正後発明1
本件補正後発明1は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用例とその記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において頒布された刊行物である特開2007-242601号公報(以下、引用例1)には、「有機エレクトロルミネッセンス素子」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は、後述する引用発明の認定に関連する箇所を示す。)。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電流効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Tangらは有機蛍光色素を発光層とし、これと電子写真の感光体等に用いられている有機電荷輸送化合物とを積層した二層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)を作製した(特許文献1:特開昭59-194393号公報)。さらに、蛍光色素を電子輸送発光層に微量ドーピングすると、蛍光色素からの発光が生じ、高効率、長寿命の素子が得られることが報告されている。有機EL素子は、競合素子に比べ、低電圧駆動、高輝度に加えて多数の色の発光が容易に得られるという特徴があることから、その素子構造、及び用いられる有機蛍光色素や有機電荷輸送化合物について多くの試みが報告されている(非特許文献1:ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn.J.Appl.Phys.)第27巻、L269頁(1988年))、非特許文献2:ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(J.Appl.Phys.)第65巻、3610頁(1989年))。
また、主に低分子の有機化合物を用いる有機EL素子とは別に、高分子の発光材料(以下、高分子蛍光体という。)を用いる高分子発光素子が、特許文献2(WO9013148号公開明細書)、特許文献3(特開平3-244630号公報)、非特許文献3(アプライド・フィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)第58巻、1982頁(1991年))などで提案されていた。WO9013148号公開明細書の実施例には、可溶性前駆体を電極上に成膜し、熱処理を行うことにより共役系高分子に変換されたポリ(p-フェニレンビニレン)(以下、PPVということがある。)の薄膜を用いた素子が開示されている。
このような従来の有機EL素子は、材料や素子構成の改良により、輝度、寿命の高性能化がなされているが、表示用ディスプレイや照明用途に要求される実用的レベルまで達していない。
このような従来の有機EL素子は、対向する電極の間に、発光層を含む発光ユニットを1個有するものであるが、その性能を向上する目的で、対向する電極の間に、発光層を含む発光ユニットを複数個有し、各発光ユニットが電荷発生層によって仕切られている有機EL素子(積層型素子と呼ぶことがある)が提案されている(特許文献4:特開2003-272860号公報)。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の積層型素子は低分子材料を用いたものに限られていたために、量産に適した塗布法や印刷法を利用できる高分子材料を用いた積層型素子を実現する方法が望まれていた。」

b 「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、上記課題を解決し、高分子系でも積層型有機EL素子を作製可能とすべく鋭意検討した結果、電荷発生層を仕事関数の異なる材料を積層又は混合して作製することにより、溶液から製膜できる高分子材料系でも積層型有機EL素子が有効に作動し、有機材料への電子や正孔の注入が効果的に行われることを見出し、本発明をなすに至った。
本発明は、以下の通りである。
(1) 電気的なエネルギーを与える外部回路に接続された二つの対向する電極であり、そのうち少なくとも一方が透明又は半透明である上記電極、並びに
該電極の間に
一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する複数個の発光ユニット、及び
該複数個の発光ユニットのうちの二つの間に挟持された電荷発生層
を含んでなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該複数個の発光ユニットのうち隣り合う二つはいずれも該電荷発生層によって仕切られており、
該電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含んでなり、
該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(2) 前記電荷発生層が、前記金属又はその化合物(A)を1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層とを含んでなり、該第1の層が、正孔を注入する電極に対向する側にある上記(1)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(3) 前記電荷発生層が、一つの層に、前記金属又はその化合物(A)の1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である上記(1)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(4) 前記電荷発生層の550nmでの波長に対する透過率が30%以上である上記(1)?(3)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(5) 前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、及びアルカリ金属、及びアルカリ土類金属からなる群から選ばれる上記(1)?(4)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(6) 前記仕事関数4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である上記(1)?(5)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(7) 前記遷移金属酸化物が、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、及びReからなる群から選ばれる1種類以上の金属の酸化物である上記(6)記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(8) 前記仕事関数が3.0eV以下の金属がLiであり、前記仕事関数が4.0eV以上の化合物がV_(2)O_(5)である上記(1)?(4)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(9) 前記仕事関数4.0eV以上の化合物が少なくとも一種の有機化合物である上記(1)?(5)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(10) 前記高分子発光材料の重量平均分子量が1万から1000万であり、有機溶媒に可溶である上記(1)?(9)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(11) 一つの電荷発生層により隔てられた二つの発光ユニットの発光層の発光色が同一でない上記(1)?(10)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(12) 前記二つの対向する電極の間の、一つの発光ユニットと一つの電荷発生層とを含む層の厚みが、該発光ユニットから発生する光の波長を該発光ユニットと該電荷発生層の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内である上記(1)?(11)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(13) 発光ユニットを構成する各層の少なくとも1層を溶液からの製膜により形成することを特徴とする、上記(1)?(12)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
(14)(1)?(12)のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する発光装置。
本発明によれば、高分子発光材料を含有する発光層を塗布法で形成できるので、素子の全層を蒸着法によって作製する低分子積層型素子に比べて積層型EL素子の作製時間を大幅に短縮することができる。」

c 「【発明の効果】
【0005】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、本発明特有の電荷発生層を用いることにより高分子材料でタンデム型の有機EL素子を作製できる。」

d 「【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における電荷発生層とは、その機能として、電圧印加時に陰極方向にホールを注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層である。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、この電荷発生層が二つの発光ユニットの間に狭持されている。ここで本発明において「発光ユニット」とは、一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する積層構造をいう。本発明の有機EL素子においては、複数個の発光ユニットが各々電荷発生層を挟んで積層された構造になっている。さらにこれらの複数個の発光ユニットのうち、少なくとも一つの発光ユニットにおいては、該発光ユニットを構成する一層以上の有機層のなかの一層が高分子発光材料を含有する発光層からなっている。
本発明における「発光ユニット」は、発光層が1層しかない従来型の有機EL素子の構成要素から対向する電極(陽極と陰極)を除いた部分に相当する。従って、本発明の有機EL素子は、高分子発光材料を有する有機層を含む複数の発光ユニットが本発明特有の電荷発生層によって仕切られた構造体が、2つの対向する電極に挟まれた構造であるとも言える。ここで2つの対向する電極の少なくとも一方は透明又は半透明であり、発光層で発生した光を有効に外部に取り出すことができる。
【0007】
本発明における電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物(B)の1種類以上とを含んでなることを特徴とする。仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、仕事関数が3.0eV以下であり、かつ化合物自体の仕事関数が3.0eV以下である化合物をさす。仕事関数が上記の範囲から外れると有効な電荷注入が起こりにくくなり本発明の効果が十分に得られないので好ましくない。
電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類金属からなる群から選択することができる。中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属としてはリチウム(Li)(2.93eV)、ナトリウム(Na)(2.36eV)、カリウム(K)(2.28eV)、ルビジウム(Rb)(2.16eV)、及びセシウム(Ce)(1.95eV)が、またアルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)(2.9eV)及びバリウム(Ba)(2.52eV)が好ましい(カッコ内は仕事関数を示す。)。Liがより好ましい。
また、電荷発生層を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、上記の金属の酸化物、ハロゲン化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、炭化物等である。
第1の層の厚さは、本発明の効果を十分に得るためには、10nm以下が好ましく、より好ましくは6nm以下である。
【0008】
本発明における電荷発生層は、上記の仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物(A)の1種類以上を単独で用いるよりも、上記の化合物(B)の1種類以上と組合せて用いることにより格段に優れた効果を発揮する。
上記金属又はその化合物(A)と上記化合物(B)とを組合せて用いた電荷発生層としては以下の2通りがある。
(i)電荷発生層が、前記金属又はその化合物(A)を1種類以上含む第1の層と、前記化合物(B)を1種類以上含む第2の層とを含んでなる(積層構造)。
(ii)電荷発生層が、一つの層に、前記金属又はその化合物(A)の1種類以上と前記化合物(B)の1種類以上とを含む混合層である(混合層)。
積層構造の場合には第1の層を陽極側(正孔を注入する電極に対向する側)に、第2の層を陰極側にして積層することが好ましい。混合層の場合には、共蒸着などの手法により、2種類の材料の混合した層を一度に形成する方法や、第1の層を構成する材料を極めて薄く形成することにより、連続膜になる前の島状の離散的な構造を形成し、この構造の上に第2の層を形成することにより混合層とする方法、などを用いて混合層を形成することができる。
第2の層を構成する材料としては仕事関数が4.0eV以上の無機又は有機化合物が選ばれる。仕事関数が4.0eV以上の無機化合物としては遷移金属酸化物が望ましく、遷移金属酸化物のなかでも、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などの酸化物が好ましい。V_(2)O_(5)、MoO_(3)がより好ましい。
また第2の層に用いられる仕事関数が4.0eV以上の有機化合物としては、後の工程で用いられる塗布液に溶解しにくく、かつ第1の層の材料から電子を受け取りやすい電子受容性の材料が好ましい。さらに好ましくは第1の層の材料と電荷移動錯体を形成することが好ましい。このような材料の例としてテトラフルオロ-テトラシアノキノジメタン(4F-TCNQ)が挙げられる。
第2の層の厚さは、2nm以上100nm以下が望ましく、さらに望ましくは4nm以上80nm以下である。
【0009】
また本発明の電荷発生層は、さらに第3の層として、透明導電性薄膜を含んでいてもよい。透明導電性薄膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)などを用いることができる。
【0010】
本発明の電荷発生層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法などを用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0012】
(混色、白色)
本発明の有機EL素子は、積層型素子であり、同時に発光する複数の発光ユニットを含むため、各々の発光ユニットの発光波長を互いに異なるようにして、混色により別の色とすることが可能である。特に補色の関係にある2色の組合せや、RGBなど3色の混色、又は4色以上の混色によって白色とすることができる。
・・・(中略)・・・
【0014】
本発明における発光ユニットの構成としては従来知られている構成を利用することができる。すなわち、
(陽極)/発光層/(陰極)、
(陽極)/ホール輸送層/発光層/(陰極)、
(陽極)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/(陰極)
などである。これらに加えて、電極と有機物層の間に電荷注入を容易にする目的で電荷注入層が用いられる場合がある。電荷注入層には、陰極側の電子注入層、陽極側のホール注入層がある。さらにホール輸送層と発光層の間又は電子注入層と発光層の間に発光効率を高める目的でインターレイヤを挿入する場合がある。
・・・(中略)・・・
【0016】
また、陽極と発光ユニットの間に、ホール注入を容易にするために、ホール注入層を形成してもよい。ホール注入層の材料としては、陽極材料とホール輸送材料の中間のイオン化ポテンシャルを有する材料が好ましい。例えば、フタロシアニン誘導体、ポリチオレン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物などの厚さ1?200nmの層、又は金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等の厚さ2nm以下の層が望ましい。
導電性高分子材料としては、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などが挙げられる。
該導電性高分子の電気伝導度は、10^(-7)S/cm以上10^(3)S/cm以下であることが好ましく、発光画素間のリーク電流を小さくするためには、10^(-5)S/cm以上10^(2)S/cm以下がより好ましく、10^(-5)S/cm以上10^(1)S/cm以下がさらに好ましい。通常は該導電性高分子の電気伝導度を10^(-5)S/cm以上10^(3)S/cm以下としてホール注入性を上げるために、該導電性高分子に適量のアニオンをドープする。アニオンの例としては、ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、樟脳スルホン酸イオンなどが好適に用いられる。
・・・(中略)・・・
【0019】
陰極と発光ユニットの間に電子注入を容易にするために、電子注入層を形成してもよい。電子注入層の材料としては、陰極材料と電子輸送材料との中間の電子親和力を有する材料が望ましい。例えば、金属フッ化物や金属酸化物、又は有機絶縁材料等が挙げられ、中でもアルカリ金属又はアルカリ土類金属等の金属フッ化物や金属酸化物が好ましい。また導電性高分子材料も用いられる。
該導電性高分子の材料としては、ホール注入材料で説明した電気伝導度の高分子材料を用いればよいが、電子注入性を向上させるためには、適量のカチオンをドープする。カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンなどが用いられる。
電子注入層の膜厚は、例えば1nm?150nmであり、2nm?100nmが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0021】
さらに、本発明の有機EL素子では、複数個の発光ユニットが用いられ、該発光ユニットは一層以上の有機層を含む。該一層以上の有機層のうちの一層は発光層であり、そこで正孔と電子が再結合することにより、発光が起こる。該有機層には、低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料や発光材料、又は高分子型有機EL素子に用いられる高分子発光材料が用いられる。発光色としては、赤、青、緑の3原色の発光以外に、中間色や白色の発光が例示される。フルカラー素子には、3原色の発光色が、平面光源では白色や中間色の発光が好ましい。
【0022】
低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料や発光材料としては、公知の低分子化合物、三重項発光錯体が挙げられる。低分子化合物では、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン若しくはその誘導体、ペリレン若しくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8-ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン若しくはその誘導体、又はテトラフェニルブタジエン若しくはその誘導体などを用いることができる。
さらに三重項発光錯体の例としては、例えば、イリジウムを中心金属とするIr(ppy)_(3)、Btp_(2)Ir(acac)、白金を中心金属とするPtOEP、ユーロピウムを中心金属とするEu(TTA)_(3)phen等が挙げられる。。
【0023】
これらの各層の厚みは、発光効率や駆動電圧が望みの値になるように、適宜選択されるが、5nmから200nmが一般的である。正孔輸送層としては、10?100nmが例示され、好ましくは20?80nmである。発光層としては、10?100nmが例示され、20?80nmが好ましい。正孔ブロック層では、5?50nmが例示され、10nmから30nmが好ましい。電子注入層としては、10?100nmが例示され、20?80nmが好ましい。
これらの層の製膜方法としては、真空蒸着、クラスター蒸着、分子線蒸着などの真空プロセスが挙げられるが、それ以外に、溶解性やエマルジョンを形成できる材料の場合は、後述のコーティング法や印刷法にて製膜する方法が例示される。
【0024】
高分子型有機EL素子に用いられる高分子発光材料としては、ポリフルオレン、その誘導体及び共重合体、ポリアリーレン、その誘導体及び共重合体、ポリアリーレンビニレン、その誘導体及び共重合体、芳香族アミン及びその誘導体の(共)重合体が例示される。発光材料や電荷輸送材料には上述の低分子型有機EL素子用の発光材料や電荷輸送材料を混合して用いてもよい。
本発明の有機EL素子では、複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有する。
高分子発光材料の重量平均分子量は1万から1000万が好ましく、さらに好ましくは2万から500万である。また高分子発光材料は有機溶剤に対して可溶性を有することが好ましい。
高分子発光層の厚みとしては、5nmから300nmが例示され、30?200nmが好ましく、さらに好ましくは40?15nmである。
【0025】
これまで述べてきた高分子材料を含む発光層、電荷輸送層及び電荷注入層、高分子材料を含まない発光層、電荷輸送層及び電荷注入層の成膜方法としては、溶液からのコーティング法や印刷法を挙げることができる。この溶液から塗布後乾燥により溶媒を容易に除去することができる。また電荷輸送材料や発光材料を混合した場合においても同様な手法が適用でき、製造上非常に有利である。溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法を用いることができる。また電荷注入材料は、エマルジョン状で水やアルコールに分散させたものも溶液と同様な方法で、成膜することができる。
コーティング法や印刷法で、高分子材料に用いる溶媒としては特に制限はないが、塗布液を構成する溶媒以外の材料を溶解又は均一に分散できるものが好ましい。該塗布液を構成する材料が非極性溶媒に可溶なものである場合に、該溶媒としてクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソール、n-ヘキシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、デカリン、ビジクロヘキシル等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒が好適に利用できる。
【0026】
本発明の有機EL素子を形成する基板は、電極や該素子の各層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板などが例示される。不透明な基板の場合には、反対の電極が透明又は半透明であることが好ましい。」


イ 引用例1に記載された発明
a 上記アからみて、引用例1の、(A)段落【0004】には、(引用例1でいう)本発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」の全体構成が記載され、(B)段落【0008】,【0009】及び段落【0010】には、本発明の電荷発生層を3層構造としてよいこと、及び電荷発生層の形成方法が記載され、(C)段落【0014】及び段落【0025】には、本発明の「発光ユニット」の構造及び「発光ユニット」を構成する発光層、電荷発生層の成膜方法が記載されている。

b 上記ア及び上記イaからみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 電気的なエネルギーを与える外部回路に接続された二つの対向する電極であり、そのうち少なくとも一方が透明又は半透明である上記電極、並びに
該電極の間に一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する複数個の発光ユニット、及び
該複数個の発光ユニットのうちの二つの間に挟持された電荷発生層を含んでなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該複数個の発光ユニットのうち隣り合う二つはいずれも該電荷発生層によって仕切られており、
電荷発生層は、電圧印加時に陰極方向にホールを注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層であり、
電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物の1種類以上含む第1の層と、仕事関数が4.0eV以上の有機化合物を1種類以上含む第2の層とを含んでなる積層構造であり、
さらに第3の層として、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)である透明導電性薄膜を含み、
電荷発生層は、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法を用いて形成され、
発光ユニットの構成は、ホール輸送層/発光層/電子輸送層であり、
該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有し、
高分子材料を含む発光層、電荷輸送層、高分子材料を含まない発光層、電荷輸送層は、溶液からのコーティング法や印刷法により成膜される、
有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(3) 対比・判断
本件補正後発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明は、「電気的なエネルギーを与える外部回路に接続された二つの対向する電極であり、そのうち少なくとも一方が透明又は半透明である上記電極」を含み、引用発明の「発光ユニット」は、「該電極の間に一層以上の有機層を含み、そのうちの一層が発光層であり、正孔と電子の再結合により発光する」ものである。
したがって、引用発明の「発光ユニット」は、本件補正後発明1の「発光ユニット」に相当する。さらに、引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、上記「発光ユニット」を「複数個」有しているので、引用発明は、本件補正後発明1の「複数の発光ユニット」を具備する。

イ 引用発明の「電荷発生層」は、「電圧印加時に陰極方向にホールを注入し、陽極方向に電子を注入する役割を果たす層」である。
したがって、引用発明の「電荷発生層」は、本件補正後発明1の「電界をかけることで正孔と電子を発生する電荷発生層」に相当する。

ウ 引用発明の「電荷発生層」は、「該複数個の発光ユニットのうちの二つの間に挟持され」るとともに、「該複数個の発光ユニットのうち隣り合う二つはいずれも該電荷発生層によって仕切られて」いる。
そうすると、引用発明においては、「複数個の発光ユニット」のうちのいずれの隣り合う二つの間においても「電荷発生層」が存在する。
したがって、上記ア,イも踏まえると、引用発明は、本件補正後発明1の「複数の発光ユニット間に、電界をかけることで正孔と電子を発生する電荷発生層を有する」構成を備えている。

エ 引用発明の「電荷発生層」は、「仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物の1種類以上含む第1の層と、仕事関数が4.0eV以上の有機化合物を1種類以上含む第2の層とを含んでなる積層構造」であり、「さらに第3の層として、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)である透明導電性薄膜を含」んでいる。
そうすると、引用発明の「電荷発生層」は、「仕事関数が3.0eV以下の金属又はその化合物の1種類以上含む第1の層」と、「仕事関数が4.0eV以上の有機化合物を1種類以上含む第2の層」と、「酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)である透明導電性薄膜」からなる「第3の層」の積層構造である。
したがって、引用発明の「電荷発生層」は、本件補正後発明1の「該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっており」を充足している。

オ 引用発明の「発光ユニットの構成」は、「ホール輸送層/発光層/電子輸送層」である。また、引用発明においては、「高分子材料を含む発光層、電荷輸送層、高分子材料を含まない発光層、電荷輸送層は、溶液からのコーティング法や印刷法により成膜され」ている。
ここで、前記「ホール輸送層」及び「電子輸送層」は、技術常識からみて、それぞれ前記「電荷輸送層」に該当する。
そうすると、引用発明の「ホール輸送層/発光層/電子輸送層」である「発光ユニット」は、「ホール輸送層」、「発光層」及び「電子輸送層」が、高分子材料を含む、あるいは含まないのいずれにせよ、「溶液からのコーティング法や印刷法により成膜され」ていることとなる。
したがって、引用発明は、「前記複数の発光ユニットが、溶液からのコーティング法や印刷法により成膜される」構成を備えている。

カ 上記ア?オより、引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件補正後発明1の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

キ 上記ア?カから、本件補正後発明1と引用発明とは、

「複数の発光ユニット間に、電界をかけることで正孔と電子を発生する電荷発生層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっている、有機エレクトロルミネッセンス素子。」の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)
本件補正後発明1においては、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成されるのに対して、
引用発明においては、該電荷発生層が、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法を用いて形成されているが、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成されているのかどうか明らかでない点。

(相違点2)
本件補正後発明1においては、前記複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有し、かつ、前記複数の発光ユニットがスリットコータ又はスクリーン印刷により形成されるのに対して、
引用発明においては、該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有しているものの、前記複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有しているかどうか明らかでなく、前記複数の発光ユニットが、溶液からのコーティング法や印刷法により成膜されるものの、スリットコータ又はスクリーン印刷により形成されるのかどうか明らかでない点。

ク 上記相違点について検討する。
a 相違点1について

有機エレクトロルミネッセンス素子の技術分野において、電荷輸送層、電荷発生層や発光層など素子を構成する機能層をスクリーン印刷法やスリットコート法により形成することは、以下(a)?(g)に例示されるように、本件出願の優先日前に周知の技術である。

(a)特開2002-25768号公報(以下、「引用例2」という。)
特に、段落【0031】の「[正孔輸送層]・・・正孔輸送層の形成方法に特に制限はなく、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法などが用いられる。また、正孔輸送層を、有機発光層と同様にグラビア印刷法により形成すること、あるいはスクリーン印刷法により形成することは、簡便に複数個の有機EL素子の正孔輸送層を所望のパターン形状に形成できるため好ましい。」を参照。
(b)特開2008-186766号公報(以下、「引用例3」という。)
特に、段落【0005】の「高分子系有機発光材料を用いた有機EL素子の構造は主に正孔輸送層/有機発光層/陰極となっており、陽極、陰極といった電極を除いてすべてウェットコーティング法により作成することが可能である。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スリットコート法、スピンコート法・・・といった印刷法がある。特に、印刷法は有機発光層を、画素ごとにR(赤)、G(緑)、B(青)の3色の異なる発光色を有する有機発光層に塗りわけをおこないパターニングする場合においては、塗り分け、パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。」や、段落【0042】の「次に液を正孔輸送層4上に配置する手法について説明する。液を配置する方法の一つとしてはウェットコーティング法がある。用いるウェットコーティング法としては、塗布時に基板に熱、振動を与えない手法であることが望ましく、前記条件を満たすウェットコーティング法としては、スリットコート法、・・・平版印刷法のいずれかを用いることが好ましい。この中でも特にスリットコート法、凸版印刷法を用いることがより好ましい。スリットコート法を用いることにより、液を均一に塗布することが出来また、膜厚制御も容易になる。また、塗布可能である液の特性範囲も幅広く、液選択の自由度が広い。また、凸版印刷法を用いることにより、狙った部分に直接液を配置することが出来、塗布する液の量の制御も容易であり、流動によるムラが最小限に抑えられるため、よりよい効果を得ることができるため好ましい。」等を参照。
(c)特開2007-234514号公報(以下、「引用例4」という。)
特に、段落【0035】の「第1の電荷発生層は、酸化インジウム、酸化インジウム酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム酸化亜鉛などの酸化物導電性材料で形成することが好ましい。・・・また、導電性ペーストを用いてスクリーン印刷で形成することもできる。・・・それにより、基板10の端部を介してリークする電流を防止することができる。」を参照。
(d)特開2007-335852号公報(以下、「引用例5」という。)
特に、段落【0158】の「湿式製膜法による層形成の場合は、前述した各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)の1種又は2種以上の所定量を、必要により電荷のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤を添加して、溶媒に溶解させて、塗布溶液を調製し、スピンコート、・・・、スクリーン印刷、インクジェット法等の湿式製膜法により陽極上に塗布し、乾燥して、正孔注入層3を形成させる。」を参照。
(e)特開2007-49153号公報(以下、「引用例6」という。)
特に、段落【0015】の「HIL417:HIL417は良好な正孔伝導特性を有し、また第1の電極411からEML420へと正孔を効率的に注入するために使用される。このHIL417は正孔輸送層としても機能する。・・・HIL417は導電性ドーパントでドープされ、かつ架橋基を有するポリマー結合剤を有する小分子から構成されている。」、段落【0018】の「ドーパント材料および・・・HIL417を選択的堆積技術または非選択的堆積技術により形成することができる。選択的堆積技術の例には、例えばインクジェットプリント、・・・スクリーン印刷が含まれる。非選択的堆積技術の例には、例えばスピンコーティング・・・が含まれる。」等を参照。
(f)特開2008-106125号公報(以下、「引用例7」という。)
特に、段落【0188】?【0189】の「高分子発光素子の作製の際に、この液状組成物(例えば、溶液状態の組成物)を用いて成膜する場合、該液状組成物を塗布した後、乾燥により溶媒を除去するだけでよく、また電荷輸送材料や発光材料を混合した場合においても同様な手法が適用できるので、製造上非常に有利である。・・・・液状組成物を用いた成膜には、スピンコート法、・・・、スクリーン印刷法、・・・、インクジェットプリント法等の塗布法を用いることができる。」を参照。
(g)特開2007-165606号公報(以下、「引用例8」という。)
特に、段落【0053】の「上記燐光発光性高分子化合物を含む有機発光層は、スピンコート法、・・・スクリーン印刷法・・・インクジェットプリント法等の湿式成膜法などにより形成できる。このため、有機発光素子の製造工程が簡略化でき、また、表示装置の大画面化も実現できる。」、段落【0054】の「本発明に係る有機発光素子の具体的構成・・・陽極(2)/正孔注入層(3)/正孔輸送層/有機発光層(4)/陰極(5)、陽極(2)/正孔注入層(3)/有機発光層(4)/電子輸送層/陰極(5)、陽極(2)/正孔注入層(3)/正孔輸送層/有機発光層(4)/電子輸送層/陰極(5)などの構成であっても、これらを逆に積層した構成であってもよい。」、段落【0066】の「本発明に係る有機発光素子において、上記の各層は、・・・乾式成膜法の他、スピンコート法、・・、スクリーン印刷法、・・・、インクジェットプリント法等の湿式成膜法などにより形成できる。・・・パターニングしてもよい。」を参照。

引用発明においては、該第1の層、該第2の層、該第3の層の積層構造である電荷発生層が真空蒸着法、スパッタ法、塗布法を用いて形成されるところ、引用発明において、電荷発生層の少なくとも一層を、塗布法であるスクリーン印刷法やスリットコート法により形成することは、上記周知の技術を心得た当業者であれば容易になし得ることである。

b 上記相違点2について
(a)引用例1(段落【0025】)には、発光ユニットを構成する発光層、電荷輸送層の成膜方法としての、溶液からのコーティング法や印刷法の例として、スクリーン印刷法を用いることができることが記載されており、当業者であれば、引用発明の印刷法として、前記スクリーン印刷法を採用することは適宜なし得る設計的事項である。

(b)引用発明においては、「該複数個の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有し」ている。
したがって、引用発明おいては、「前記複数の発光ユニットの少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有し」ていることとなる。

(c)引用例1(段落【0021】,【0022】)には、複数個の発光ユニットに関し、発光ユニットに含まれる有機層である発光層には、低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料やイリジウムを中心金属とするIr(ppy)_(3)、Btp_(2)Ir(acac)、白金を中心金属とするPtOEP、ユーロピウムを中心金属とするEu(TTA)_(3)phenなどの三重項発光錯体を用いてもよいことが記載されている(ここで、「三重項発光錯体」材料が、「リン光発光性材料」であることは技術常識である。)。

(d)引用例1(段落【0024】)には、高分子型有機EL素子に用いられる高分子発光材料には上記の低分子型有機EL素子用の発光材料や電荷輸送材料を混合して用いてもよいことが記載されている。

(e)上記(b)ないし(d)を踏まえると、引用発明において、複数のユニットのうち、高分子発光材料を含有する発光層に、リン光発光性材料である低分子型有機EL素子に用いられる三重項発光錯体や電荷輸送材料を混合した構成を採用して、複数の発光ユニットの少なくとも一層にリン光発光性材料を含有した構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(f)なお、仮に上記(e)で示した判断が当業者にとって容易とは言えなかったとしても、そもそも有機エレクトロルミネッセンス素子の技術分野において、発光層として、リン光発光性ドーパントを含有する層を用いることや、リン光発光性ドーパントを含有する層を塗布、印刷により形成することは、以下(h)?(l)に例示されるように、本件出願の優先日前に周知の技術であって、引用発明において、発光層として、前記周知の技術に基づき、複数の発光ユニットの少なくとも一層にリン光性発光ドーパントを含有した構成とすることは、上記周知の技術を心得た当業者であれば容易になし得ることである。

(h)特開2003-163086号公報(以下、「引用例9」という。)
特に、段落【0013】の「この場合、前記発光層が、前記燐光性有機化合物を含む材料を有機溶剤に溶解した溶液を塗布することにより形成されてなると、蒸着法に比べ、容易にかつ安価に発光層を形成することができる。」、【0039】?【0041】の「発光層18は、燐光性有機化合物を発光成分として含む。・・・上記燐光性有機化合物は、例えば、遷移金属や希土類金属を含む金属錯体有機化合物であって、有機溶剤に可溶で、有機溶剤溶液から均一な薄膜が形成できるものである。特に、高分子量の有機化合物であることが好ましい。この場合、高分子量の有機化合物に低分子量の燐光性化合物を混合したものでもよく、また、高分子量の有機化合物自体が蛍光性化合物に直接結合していてもよい。その代表的な化学構造としては、下記式に示すイリジウムや白金の金属錯体が好適である。・・・」、段落【0055】の「発光層18は、スピンコート法、印刷法あるいはインクジェット法等の塗布法により形成する。・・・」、段落【0070】?【0071】の「下記式中(6)に示すホール輸送性高分子(PVK)と、下記式中(7)に示す燐光性金属錯体と、下記式中(8)に示す電子輸送性高分子とをジクロロエタンに溶解した溶液をスピンコート法により上記ホール注入層上に塗布し、厚み100nmの発光層を形成した。このとき、燐光性金属錯体(7)の発光層中含有量は8質量%とした。さらに、この発光層上に厚み10nmのカルシウム、厚み100nmのアルミニウムを連続して真空蒸着して陰極を形成し、有機EL素子(高分子EL素子)を得た。・・・」を参照。
(i)特表2007-501507号公報(以下、「引用例10」という。)
特に、段落【0005】の「燐光OLEDの発光領域は、ホスト材料に燐光金属錯体をドープすることによって作成される(蛍光金属錯体は、J.Appl.Phys.65,3610,1989に記載される態様と類似の方法でホスト材料にドープされる)・・・」、段落【0008】の「ポリマーホスト材料は、スピンコート又はディップコートのような安価な技術によって積層される材料を可能にするので、充分利点を有する典型的な溶液プロセス材料である。これは、また、フルカラーディスプレイの製造に特に有益な材料のインクジェット印刷を可能にする。」、段落【0081】?【0086】の「例 一般的手続き 緑色発光錯体11又は赤色発光錯体12(WO02/66552に開示される)及びホストポリマーがキシレン溶液からスピンコートによって、・・・金属封止を使用して封止された。・・・【化26】・・・【化27】・・・装置は次のホスト材料を使用して製造された。【化28】・・・ホスト材料として使用された。」を参照。
(j)特開2007-288071号公報(以下、「引用例11」という。)
特に、段落【0050】?【0052】の「そして、スクリーン印刷法により、この電荷注入層115上に発光層112を形成する。・・・ このように本発明の方法によれば、発光層112を電荷注入層115としての酸化モリブデン層上にスクリーン印刷することにより形成されるため・・・」、段落【0090】の「画素規制層としての窒化シリコン膜114が形成された後、スクリーン印刷法によって発光層112が形成される。・・・発光層112を構成する高分子系の有機発光材料としては、可視領域で蛍光または燐光特性を有しかつ製膜性の良いものが望ましく、・・・」を参照。
(k)引用例5
特に、段落【0233】?【0236】の「続いて、発光層4を以下のように湿式製膜法によって形成した。発光層4の材料として、本発明の電荷輸送材料である、実施例1で合成した化合物(H-1)と、下記に示す構造式の有機イリジウム錯体(D-1)とを用い、これらを溶媒としてトルエンに溶解させて有機電界発光素子用組成物を調製し、この有機電界発光素子用組成物を用いて下記の条件でスピンコートした。・・・【化33】・・・スピンコート条件・・・化合物(H-1):(D-1)=10:1(重量比)・・・上記のスピンコートにより膜厚65nmの均一な薄膜が形成された。」を参照。
(l)引用例7
特に、段落【0271】?【0273】の「<実施例1> -組成物1の調製- 重合体1と下記式:・・・イリジウム錯体A(アメリカンダイソース社製)とを重量比100:2で混合してなる混合物の、0.4重量%クロロホルム溶液(以下、「組成物1」という。)を調製した。・・・【0273】 <実施例2> -発光素子の作製- ・・・成膜し、ホットプレート上で200℃で10分間乾燥した。次に、組成物1をスピンコートにより3000rpmの回転速度で成膜した。・・・高分子発光素子を作製した。・・・」を参照。

ケ 本件補正後発明1の効果(本件明細書の段落【0043】、【0044】、【0484】、【0491】、【0564】等)についても、蒸着法に比較して、ウエットプロセスである塗布法・印刷法により薄膜形成する方法が、薄膜の均一な形成、大型化やコストの観点で有効であること、また、インクジェット印刷が生産性の面で好ましいものではないことが、当業者に既に知られていることから(例えば、引用例3(段落【0004】,【0005】等)、引用例2(段落【0006】,【0007】等)等参照。)、電荷発生層や発光ユニットの形成に、薄膜の均一な形成、大型化、コスト、生産性に優れる、周知技術であるスクリーン印刷を採用しようとする当業者が期待する効果にすぎない。

コ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書「4.本願発明が特許されるべき理由」において、
「しかしながら、引用文献1には、本願請求項1に記載の「複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有」する点について記載されておりません。
引用文献1の段落[0022]には、低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料や発光材料の例が記載されており、三重項発光錯体の例についても記載されておりますが、実施例で三重項発光錯体を使用したものはなく、効果を実証したものではありません。
したがいまして、引用文献1には、本願請求項1に係る発明特定事項の全てを満たす発明についての記載及び示唆はありません。」、
「引用文献1?6のいずれにも、複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有する点については何等記載されておりません。引用文献1の段落[0022]には、低分子型有機EL素子に用いられる電荷輸送材料や発光材料の例が記載されており、三重項発光錯体の例についても記載されておりますが、実施例で三重項発光錯体を使用したものはなく、効果を実証したものではありません。
一方、本願請求項1は、引用文献1?6を参照して発想されたものではなく、複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有する構成を本発明の構成とすることは、本発明者が試行錯誤し実験をした結果であります。
よって、発光材料の一例として一般記載に挙げられた三重項発光錯体の記載のみから、発光材料にリン光発光性ドーパントを選択することは、当業者であっても容易に想到することはできません。」
と主張している。
しかしながら、上記クa及びbで述べたとおり、引用発明において、相違点1及び相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

(4) 小括
本件補正後発明1は、引用発明及び引用例2?11に例示された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1?32のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成26年7月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲1に記載された、上記「第2[理由]1(1) 本件補正前の特許請求の範囲」に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりのものである。

「複数の発光ユニット間に、電界をかけることで正孔と電子を発生する電荷発生層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該電荷発生層が少なくとも1層以上の層からなっており、該電荷発生層の少なくとも1層がスリットコータ又はスクリーン印刷により形成され、かつ、前記複数の発光ユニットがスリットコータ又はスクリーン印刷により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]4(2) 引用例とその記載事項」に記載されたとおりである。

3 対比・判断
(1) 本件発明は、上記「第2[理由]1(2) 本件補正後の特許請求の範囲」で検討した本件補正後発明1に関して、「前記複数の発光ユニットの少なくとも1層にリン光発光性ドーパントを含有し」との限定を削除したものである。

(2) そうすると、本件発明の構成要件を全て含み、これをより限定したものである本件補正後発明1が、「第2[理由]4 独立特許要件について」において検討したとおり、引用発明及び引用例2?11に例示された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様な理由により、引用発明及び引用例2?11に例示された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び引用例2?11に例示された周知の技術に基づいて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2016-10-07 
結審通知日 2016-10-11 
審決日 2016-10-28 
出願番号 特願2011-536165(P2011-536165)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 渡邉 勇
河原 正
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子およびこれを用いた照明装置  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  
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