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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1322984
審判番号 不服2014-23271  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-14 
確定日 2016-12-16 
事件の表示 特願2008-282604「電気・電子部品用封止・充填剤および電気・電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月13日出願公開、特開2010-106223〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年10月31日の出願であって、平成25年9月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月21日に手続補正書及び意見書が提出され、平成26年7月15日付けで拒絶査定がなされ、同年11月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年2月3日付けで前置報告がなされ、当審において平成28年5月11日付けで、平成26年11月14日付け手続補正が却下されるとともに、平成25年9月30日付けの拒絶理由について留保すると言及した上で特許法第36条第6項第1号についての拒絶理由が通知され、同年8月1日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年8月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、次の通りのものである。

「 【請求項1】
少なくとも二液型のヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物からなり、ヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、A液とB液の二液型からなり、前記A液が、(a)一分子中に少なくとも2個の分子鎖末端にアルケニル基を有し、R_(2)SiO_(2/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が80.00?99.65モル%の範囲内の量であり、RSiO_(3/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が0.10?10.00モル%の範囲内の量であり、および残りのモル%がR_(3)SiO_(1/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)である2種の分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを重量比で20:80?80:20の範囲内で含むオルガノポリシロキサンの混合物、および(b)分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン{本成分の含有量は、本組成物中の(a)成分のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1?10モルとなる量である。}を含み、(c)ヒドロシリル化反応用触媒を含まないものであり、前記B液が、前記(a)成分、および前記(c)成分(触媒量)を含み、前記(b)成分を含まないものであり、室温で全ての成分を混合した直後の粘度を初期粘度としたとき、混合直後から、室温で、初期粘度の2倍の粘度に達するまでの時間が10分以上であり、室温で、初期粘度の5倍の粘度になった時から初期粘度の10倍の粘度に達するまでの時間が10分以内であり、25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから30分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度が128?140(mm/10)の範囲内である、電気・電子部品用封止・充填剤。
【請求項2】
25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから120分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度が125?126(mm/10)である、請求項1に記載の電気・電子部品用封止・充填剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気・電子部品用封止・充填剤を室温で封止・充填してなる電気・電子部品。」


第3 拒絶理由の概要

平成25年9月30日付け拒絶理由は、以下のとおりのものを含むものである。

「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



1.特開昭58-7452号公報(以下、「引例1」という。)」


第4 当審の判断

1.引例1の記載
本願の出願日前に頒布された刊行物である引例1には、次の記載がある。

(1)
「(a)本質的に(CH_(3))_(2)SiO 80?96.5モル%、CH_(3)SiO_(1.5) 2.0?10.0モル%、(CH_(3))_(3)SiO_(0.5) 1.25?6.0モル%および(CH_(3))_(2)(CH_(2)=CH)SiO_(0.5) 0.25?4.0モル%からなることを特徴とするポリオルガノシロキサン;
(b)分子当り平均1個より多いケイ素結合水素原子でかつケイ素原子1個につき1個以下のケイ素結合水素原子、および1基当り炭素原子1個?6個のアルキル基とフェニルと3,3,3-トリフルオロプロピルとからなる群から選択された有機基を有するオルガノ水素シロキサンであって、ケイ素結合ビニルのモル当り平均0.2?5.0モルのケイ素結合水素を与えるオルガノ水素シロキサン;および
(c)白金触媒
から本質的に構成される均質混合物からなる硬化性シロキサン組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(2)
「本発明は硬化して誘電性シリコーンゲルを生成する独特なシロキサン組成物に関するものである。特に、ここで開示される組成物は環境温度または高温で容易に硬化してゲルの物理的性質およびその低温特性に対し有害な影響を与えずに極低温(約-120℃)に耐えることができるシリコーンゲルを生成するように特に配合されている。
本発明によって配合されたゲルの主な用途は誘電性注封ゲルである。電気部品を封入するためシリコーン注封材料を使用することは文書によってよく証明されている。」(第2頁左上欄下から第5行?右上欄第6行)

(3)
「好ましいオルガノ水素シロキサンは式
H(CH_(3))_(2)Si(OSi(CH_(3))_(2))_(X)OSi(CH_(3))_(2)H
(但しxは5?20である)を有するものである。」(第4頁左下欄第10?12行)

(4)
「コポリマ一Aの組成
MeSiO_(1.5) 9.0モル%
Me_(2)ViSiO_(.5) 0.75モル%
Me_(3)SiO_(0.5) 7.25モル%
Me_(2)SiO 83モル%
コポリマーBの組成
MeSiO_(1.5) 2.0モル%
Me_(2)ViSiO_(0.5) 0.75モル%
Me_(3)SiO_(0.5) 0.95モル%
Me_(2)SiO 96.30モル%
それから、種々の粘度を有する、シロキサン単位組成物のポリオルガノシロキサンを生成するためにコポリマーAおよびBを物理的にブレンドした。このようなブレンドから得られた2種類の代表的ポリマーとしてポリマーブレンドIおよびIIを挙げる。

基 準 成 分 モル%

ポリマー MeSiO_(1.5) 5.62
ブレンドI ViMe_(2)SiO_(0.5) 0.75
Me_(3)SiO_(0.5) 4.03
Me_(2)SiO 89.60
(粘度 0.00072m^(2)/g)

ポリマー MeSiO_(1.5) 5.0
ブレンドII ViMe_(2)SiO_(0.5) 0.75
Me_(3)SiO_(0.5) 3.82
Me_(2)SiO 90.43
(粘度 0.00074m^(2)/g)」(第5頁右下欄第9行?第6頁左上欄下から第4行)

(5)
「基準のポリマーブレンドIおよびポリマーブレンドIIを式HMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)Hの橋かけ剤および上記Willing特許の実施例1中に開示されているようにsym-ジビニルテトラメチルジシロキサンとクロロ白金酸を反応させて得られた白金触媒と混合し、硬化することによって特定のシロキサン組成物が生成された。使用した特殊な白金触媒錯体は0.85重量%白金を含有していた。
・・・(中略)・・・
第1表および第2表は本発明によって製造した多数のゲルの組成および特徴を示す。」(第6頁右上欄第4行?同左下欄第11行)

(6)
「実施例3
硬化性ゲル組成物
ポリマーブレンドII 100重量部
橋かけ剤
[HMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)H]5.14 〃
白金触媒 .0946 〃
(MeViSiO)_(4) .0294 〃
便宜上硬化性ゲル組成物を2成分型にパッケージすることが望ましい。各成分の内容物を次に示す。
A成分
ポリマーブレンドII 50g
白金触媒 0.09g
B成分
ポリマ-ブレンドII 45.11g
橋かけ剤 4.89g
(MeViSiO)_(4) 0.028g
硬化するため、成分AおよびBを1:1重量比で混合し、そして次の性質を評価した:
硬化時間(135℃100gで) 6.1分
30分間(150℃で)硬化した 4.5mm
試料の針入度
硬化時間(25℃で) 5時間
以上の実施例にしたがって製造した本発明の範囲内の硬化ゲルは、たとえば宇宙電子工学において、低温安定性が重要となる電子回路を保護するための相似被覆として有益に使用することができる。」(第7頁右上欄第10行?同左下欄下から第5行)

(7)


」(第8頁第2表)

2.引例1記載の発明
上記摘示事項1.(2)及び(6)によれば、引用例1の硬化性シロキサン組成物は、電気・電子部品を封入するために使用されるものであると認められる。
そうしてみると、上記摘示事項1.(4)及び(6)によれば、引用例1には、
「コポリマ一A(MeSiO_(1.5) 9.0モル%、Me_(2)ViSiO_(.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 7.25モル%、Me_(2)SiO 83モル%)とコポリマーB(MeSiO_(1.5) 2.0モル%、Me_(2)ViSiO_(0.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 0.95モル%、Me_(2)SiO 96.30モル%)とをブレンドしてなるポリマーブレンドII(MeSiO_(1.5):5.0モル%、ViMe_(2)SiO_(0.5):0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5):3.82モル%、Me_(2)SiO:90.43モル%)(50g)、及び白金触媒(0.09g)とからなるA成分と
コポリマ一A(MeSiO_(1.5) 9.0モル%、Me_(2)ViSiO_(.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 7.25モル%、Me_(2)SiO 83モル%)とコポリマーB(MeSiO_(1.5) 2.0モル%、Me_(2)ViSiO_(0.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 0.95モル%、Me_(2)SiO 96.30モル%)とをブレンドしてなるポリマーブレンドII(MeSiO_(1.5):5.0モル%、ViMe_(2)SiO_(0.5):0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5):3.82モル%、Me_(2)SiO:90.43モル%)(45.11g)、及びHMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)H(4.89g)、(MeViSiO)_(4)(0.028g)とからなるB成分とからなる、電気・電子部品封入用組成物。」
の発明(以下、「引例発明」という。)が記載されているといえる。

3.本願発明1と引例発明との対比
引例発明において、「Me」はメチル基を、「Vi」はビニル基をそれぞれ意味していることは、引例1の記載から明らかである。
また、引例発明のMeSiO_(1.5)は、本願発明1における「RSiO_(3/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)」に、
引例発明のMe_(2)ViSiO_(.5)及びMe_(3)SiO_(0.5)は、いずれも本願発明1における「R_(3)SiO_(1/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)」に、Me_(2)SiOは、「R_(2)SiO_(2/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)」に、それぞれ相当し、
引例発明のコポリマーA中の各成分(Me_(2)SiO、MeSiO_(1.5)、Me_(2)ViSiO_(.5)、Me_(3)SiO_(0.5)、)の比率(順に、83モル%、9.0モル%、0.75モル%、7.25モル%、)は、本願発明1の対応する成分の比率(80.00?99.65モル%、0.10?10.00モル%、残部、残部)と重複するものである。引例発明のコポリマーB中の各成分についても同様である。
そして、本願明細書【0018】の「分岐鎖状のオルガノポリシロキサンとは、分子構造が分岐鎖状もしくは一部分岐を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンのことであり、具体的には、分子構造中にRSiO_(3/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)および/またはSiO_(4/2)単位を有するオルガノポリシロキサンのことである」の記載、同【0019】の「この分岐鎖状のオルガノポリシロキサンとしては、R_(2)SiO_(2/2)単位、RSiO_(3/2)単位、およびR_(3)SiO_(1/2)単位からなる重合体が好ましい。これらの単位中のRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の一価炭化水素基が例示され、極少量の水酸基、さらにはメトキシ基等のアルコキシ基を有していてもよいが、この重合体中の少なくとも2個のRはアルケニル基であることが必要である。」との記載を踏まえれば、引例発明のコポリマーA、コポリマーBは、いずれも、本願発明1における「一分子中に少なくとも2個の分子鎖末端にアルケニル基を有し、R_(2)SiO_(2/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が80.00?99.65モル%の範囲内の量であり、RSiO_(3/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が0.10?10.00モル%の範囲内の量であり、および残りのモル%がR_(3)SiO_(1/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)である」分岐鎖状のオルガノポリシロキサンと相違ないものである。また、上記摘示事項1.(4)によれば、ポリマーブレンドIIは、コポリマーAとコポリマーBとを「物理的にブレンド」、すなわち、混合して得られたものであるところ、各成分のモル%(ポリマーブレンドII:MeSiO_(1.5 )5.0、ViMe_(2)SiO_(0.5 )0.75、Me_(3)SiO_(0.5 )3.82、Me_(2)SiO 90.43。コポリマ一A:MeSiO_(1.5 )9.0、Me_(2)ViSiO_(.5 )0.75、Me_(3)SiO_(0.5 )7.25、Me_(2)SiO 83。コポリマーB:MeSiO_(1.5 )2.0、Me_(2)ViSiO_(0.5 )0.75、Me_(3)SiO_(0.5 )0.95、Me_(2)SiO 96.30。)に着目すれば、コポリマ一AとコポリマーBとを約3対4で混合することによりポリマーブレンドIIが得られたと解されるから、この混合の比率も、本願発明1での「2種の分岐鎖状のオルガノポリシロキサン」の重量比(20:80?80:20)と重複するものである。
また、引例発明のHMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)Hは、その式から、本願発明1における「分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン」に相当する。
さらに、引例発明の「白金触媒」は、その機能から、本願発明1における「ヒドロシリル化触媒」と相違ないものである。そして、引例発明の「電気・電子部品封入用組成物」は、本願発明1の「電気・電子部品用封止・充填剤」と重複一致するものである。

そうしてみると、本願発明1と引例発明とは、以下の点で、一致、相違する。

●一致点
「少なくとも二液型のヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物からなり、ヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、A液とB液の二液型からなり、前記A液が、(a)一分子中に少なくとも2個の分子鎖末端にアルケニル基を有し、R_(2)SiO_(2/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が80.00?99.65モル%の範囲内の量であり、RSiO_(3/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が0.10?10.00モル%の範囲内の量であり、および残りのモル%がR_(3)SiO_(1/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)である2種の分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを重量比で20:80?80:20の範囲内で含むオルガノポリシロキサンの混合物、および(b)分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンを含み、(c)ヒドロシリル化反応用触媒を含まないものであり、前記B液が、前記(a)成分、および前記(c)成分(触媒量)を含み、前記(b)成分を含まない電気・電子部品用封止・充填剤。」

●相違点1:A液中の(b)成分の含有量に関して、本願発明1では、「(a)成分のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1?10モルとなる量」と特定するのに対して、引例発明では、そのような特定がない点。

●相違点2:電気・電子部品用封止・充填剤の性状に関して、本願発明1では、「室温で全ての成分を混合した直後の粘度を初期粘度としたとき、混合直後から、室温で、初期粘度の2倍の粘度に達するまでの時間が10分以上であり、室温で、初期粘度の5倍の粘度になった時から初期粘度の10倍の粘度に達するまでの時間が10分以内であり、25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから30分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度が128?140(mm/10)の範囲内である」との特定を行うのに対して、引例発明では、そのような特定がない点。

4.本願発明1についての判断
(1)まず、相違点1に関して検討する。
引例1の記載において、オルガノ水素シロキサン(引例発明のHMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)H)の量に関して、「ケイ素結合ビニルのモル当り平均0.2?5.0モルのケイ素結合水素を与えるオルガノ水素シロキサン」とされていて(上記の1.(1))、またポリマーブレンドIIを100g、網かけ剤(HMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)H)を4.76g使用したゲルの「SiViモルに対するSiHモルの比」は0.8である(上記の1.(4)及び(6))とされている。ここで、「SiViモルに対するSiHモルの比」が0.8であるとは、該当するゲルにおいて、ポリマーブレンドIIのケイ素結合ビニルをもたらす成分(ViMe_(2)SiO_(0.5))の1モル当り、ケイ素結合水素をもたらす成分(オルガノ水素シロキサン)が0.8モルであることを意味している。
そうしてみると、ポリマーブレンドIIを合計で95.11g、網かけ剤を4.89g使用している引例発明においても、「(a)成分のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1?10モルとなる量」の(b)成分が使用されている蓋然性が極めて高いと判断されるので、相違点1を実質的な相違点であるとすることができない。
(2)相違点2に関して、確かに引例1には、「室温で、初期粘度の2倍の粘度に達するまでの時間」、「室温で、初期粘度の5倍の粘度になった時から初期粘度の10倍の粘度に達するまでの時間」、「25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから30分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度」についての明示的な記載はない。
ところで、化学の技術分野において、同じ組成をもつ2つの組成物を同1条件下で使用すれば、一方の組成物が示す性状と同じ性状を他方の組成物も示すことが技術常識である。
そうしてみると、上記3.の一致点及び上記(1)の記載のとおり、本願発明1の「電気・電子部品用封止・充填剤」の組成は、引例発明の「電気・電子部品封入用組成物」のそれと同じであると認められる以上、引例発明の「電気・電子部品封入用組成物」も、本願発明1の「電気・電子部品用封止・充填剤」と同様に、「室温で全ての成分を混合した直後の粘度を初期粘度としたとき、混合直後から、室温で、初期粘度の2倍の粘度に達するまでの時間が10分以上であり、室温で、初期粘度の5倍の粘度になった時から初期粘度の10倍の粘度に達するまでの時間が10分以内であり、25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから30分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度が128?140(mm/10)の範囲内」との性状を示すとすべきであり、逆に、これを否定すべきものがあるとも認めることができない。
さらに、本願明細書の記載は、「室温で全ての成分を混合した直後の粘度を初期粘度としたとき、混合直後から、室温で、初期粘度の2倍の粘度に達するまでの時間が10分以上であり、室温で、初期粘度の5倍の粘度になった時から初期粘度の10倍の粘度に達するまでの時間が10分以内であり、25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから30分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度が128?140(mm/10)の範囲内」との性状を示すために、「少なくとも二液型のヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物からなり、ヒドロシリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、A液とB液の二液型からなり、前記A液が、(a)一分子中に少なくとも2個の分子鎖末端にアルケニル基を有し、R_(2)SiO_(2/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が80.00?99.65モル%の範囲内の量であり、RSiO_(3/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)が0.10?10.00モル%の範囲内の量であり、および残りのモル%がR_(3)SiO_(1/2)単位(Rは一価炭化水素基である。)である2種の分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを重量比で20:80?80:20の範囲内で含むオルガノポリシロキサンの混合物、および(b)分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン{本成分の含有量は、本組成物中の(a)成分のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1?10モルとなる量である。}を含み、(c)ヒドロシリル化反応用触媒を含まないものであり、前記B液が、前記(a)成分、および前記(c)成分(触媒量)を含み、前記(b)成分を含まないもの」とすること以外の要件が必要であることを示しているものとも解することができない。
したがって、相違点2を実質的な相違点とすることができない。
(3)以上のとおり、本願発明1と引例発明との間に実質的な相違はないから、本願発明1は引例発明である。

5.本願発明2についての対比、判断
本願発明2は、本願発明1に「25℃で、初期粘度の2倍の粘度に達してから120分後の硬化物のJIS K 2220に規定される1/4ちょう度が125?126(mm/10)である」との特定を加えるものである。
上記の4.の通り、本願発明2の「電気・電子部品用封止・充填剤」の組成は、引例発明の「電気・電子部品封入用組成物」の組成と同じであるから、引例発明の「電気・電子部品封入用組成物」も本願発明2と同じ性状を示すと認められ、本願発明2と引例発明との間に実質的な相違があるものとすることはできない。
本願発明2は引例発明である。

6.本願発明3についての対比、判断
(1)引例1記載の発明
引例発明は「電気・電子部品封入用組成物」であるところ、上記の摘示事項1.(6)によれば、斯かる組成物は25℃で硬化するものである。ここで、25℃は、通常、室温とされている温度である。そして、摘示事項1.(1)によれば、組成物は、硬化することで、電気・電子部品を封入するという目的を達成することができることが理解できる。そうすると、封入される電気・電子部品に着目して引例発明を整理すると、引例1には、以下の発明(以下、「引例部品発明」という。)も記載されているといえる。
「コポリマ一A(MeSiO_(1.5) 9.0モル%、Me_(2)ViSiO_(.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 7.25モル%、Me_(2)SiO 83モル%)とコポリマーB(MeSiO_(1.5) 2.0モル%、Me_(2)ViSiO_(0.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 0.95モル%、Me_(2)SiO 96.30モル%)とをブレンドしてなるポリマーブレンドII(MeSiO_(1.5):5.0モル%、ViMe_(2)SiO_(0.5):0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5):3.82モル%、Me_(2)SiO:90.43モル%)(50g)、及び白金触媒(0.09g)とからなるA成分と
コポリマ一A(MeSiO_(1.5) 9.0モル%、Me_(2)ViSiO_(.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 7.25モル%、Me_(2)SiO 83モル%)とコポリマーB(MeSiO_(1.5) 2.0モル%、Me_(2)ViSiO_(0.5) 0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5) 0.95モル%、Me_(2)SiO 96.30モル%)とをブレンドしてなるポリマーブレンドII(MeSiO_(1.5):5.0モル%、ViMe_(2)SiO_(0.5):0.75モル%、Me_(3)SiO_(0.5):3.82モル%、Me_(2)SiO:90.43モル%)(45.11g)、及びHMe_(2)Si(OSiMe_(2))_(?14)OSiMe_(2)H(4.89g)、(MeViSiO)_(4)(0.028g)とからなるB成分とからなる電気・電子部品封入用組成物を室温で硬化させることによって封入してなる電気・電子部品。」
(2)本願発明3と引例部品発明との対比、判断
本願発明3は、本願発明1あるいは本願発明2の「電気・電子部品用封止・充填剤」を「室温で封止・充填してなる電気・電子部品。」に係るものである。
上記4.及び5.のとおり、本願発明1あるいは本願発明2は引例発明と実質的に同じである。そして、引例部品発明で使用される「電気・電子部品封入用組成物」は、引例発明の「電気・電子部品封入用組成物」に相違ないものである。そうしてみると、本願発明3と引例部品発明とを対比すると、上記の3.の相違点1及び相違点2以外の相違点があるものとすることができない。そして、相違点1、相違点2ともに実質的な相違点でないことは、上記4.のとおりである。
したがって、本願発明3も引例部品発明と同じであると認める。

7.小括
本願発明1ないし本願発明3は、引例発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


第5 むすび

本願発明1ないし本願発明3は、本願の出願日前に頒布された引例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-30 
結審通知日 2016-09-27 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2008-282604(P2008-282604)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟前田 孝泰  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
大島 祥吾
発明の名称 電気・電子部品用封止・充填剤および電気・電子部品  

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