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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1322993
審判番号 不服2016-8052  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-01 
確定日 2017-01-05 
事件の表示 特願2012-187651「スタビライザの製造方法および加熱装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月13日出願公開、特開2014- 43922、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年8月28日の出願であって、平成27年10月5日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年11月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年3月17日付け(発送日:同年3月22日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成28年6月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
(1)特許請求の範囲について
本件補正は、特許請求の範囲を、本件補正により補正される前(すなわち、平成27年11月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲)の下記ア.を、下記イ.へと補正すること(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

ア.本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
湾曲部を有するスタビライザの製造方法において、
通電加熱によりスタビライザ半製品に焼戻しを行う焼戻し工程を含み、
前記焼戻し工程では、第1加熱工程と第2加熱工程とを順に行い、
前記第1加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行い、
前記第2加熱工程では、スタビライザ半製品に断続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行うことを特徴とするスタビライザの製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱工程において、通電開始から電流値が最大到達電流値となるまで直線的に電流を増加させることを特徴とする請求項1に記載のスタビライザの製造方法。
【請求項3】
前記第1加熱工程と前記第2加熱工程との間に電流を流さない通電オフ工程を設けることを特徴とする請求項1または2に記載のスタビライザの製造方法。
【請求項4】
湾曲部を有するスタビライザの製造に使用される加熱装置において、
スタビライザ半製品の両端部に固定される電極を備え、
前記電極同士の間で通電することにより、前記スタビライザ半製品に焼戻しを行い、
前記焼戻しでは、前記電極同士の間で連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に第1の通電加熱を行い、次いで、前記電極同士の間で断続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に第2の通電加熱を行うことを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
前記第1の通電加熱において、通電開始から電流値が最大到達電流値となるまで直線的に電流を増加させることを特徴とする請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記第1の通電加熱と前記第2の通電加熱との間に電流を流さない通電オフ工程を設けることを特徴とする請求項4または5に記載の加熱装置。」

イ.本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
湾曲部を有するスタビライザの製造方法において、
通電加熱によりスタビライザ半製品に焼戻しを行う焼戻し工程を含み、
前記焼戻し工程では、第1加熱工程と第2加熱工程とを順に行い、
前記第1加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行い、
前記第2加熱工程では、スタビライザ半製品に断続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行うことにより、前記湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせることを特徴とするスタビライザの製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱工程において、通電開始から電流値が最大到達電流値となるまで直線的に電流を増加させることを特徴とする請求項1に記載のスタビライザの製造方法。
【請求項3】
前記第1加熱工程と前記第2加熱工程との間に電流を流さない通電オフ工程を設けることを特徴とする請求項1または2に記載のスタビライザの製造方法。
【請求項4】
湾曲部を有するスタビライザの製造に使用される加熱装置において、
スタビライザ半製品の両端部に固定される電極を備え、
前記電極同士の間で通電することにより、前記スタビライザ半製品に焼戻しを行い、
前記焼戻しでは、前記電極同士の間で連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に第1の通電加熱を行い、次いで、前記電極同士の間で断続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に第2の通電加熱を行うことにより、前記湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせることを特徴とする加熱装置。
【請求項5】
前記第1の通電加熱において、通電開始から電流値が最大到達電流値となるまで直線的に電流を増加させることを特徴とする請求項4に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記第1の通電加熱と前記第2の通電加熱との間に電流を流さない通電オフ工程を設けることを特徴とする請求項4または5に記載の加熱装置。」
なお、下線は補正箇所を示し、請求人が付したとおりである。

(2)明細書について
本件補正は、明細書の段落【0010】及び【0018】を、以下のとおり補正すること(以下、「補正事項2」という。)を含むものである。
「【0010】
本発明のスタビライザの製造方法は、湾曲部を有するスタビライザの製造方法において、通電加熱によりスタビライザ半製品に焼戻しを行う焼戻し工程を含み、焼戻し工程では、第1加熱工程と第2加熱工程とを順に行い、第1加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流してスタビライザ半製品に通電加熱を行い、第2加熱工程では、スタビライザ半製品に断続的に電流を流してスタビライザ半製品に通電加熱を行うことにより、湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせることを特徴とする。」
「【0018】
本発明の加熱装置は、湾曲部を有するスタビライザの製造に使用される加熱装置において、スタビライザ半製品の両端部に固定される電極を備え、電極同士の間で通電することにより、スタビライザ半製品に焼戻しを行い、焼戻しでは、電極同士の間で連続的に電流を流してスタビライザ半製品に第1の通電加熱を行い、次いで、電極同士の間で断続的に電流を流してスタビライザ半製品に第2の通電加熱を行うことにより、湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせることを特徴とする。」
なお、下線は補正箇所を示し、請求人が付したとおりである。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
補正事項1は、請求項1について、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2加熱工程」に、(第2の通電加熱を行う)「ことにより、前記湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」との限定を付加するとともに、請求項4について、請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2の通電加熱」について、(第2の通電加熱を行う)「ことにより、前記湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1及び4に記載された発明と補正後の請求項1及び4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1ないし6に記載された発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」ないし「本願補正発明6」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

ア.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭57-134520号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「中空スタビライザの熱処理方法」に関し、次の事項が図面と共に記載されている。

(ア)「2.特許請求の範囲
車両の車体がわおよび車輪がわにそれぞれ取付けられる基部および腕部と、これら基部および腕部の間に介在する彎曲部とを一体に有して管状部材から形成された本体を熱処理する場合に、長手方向の少なくとも一部分をこれに直接通電して加熱するようにしたことを特徴とする中空スタビライザの熱処理方法。」

(イ)「本発明は中空スタビライザの熱処理方法に関する。
中空スタビライザに対し焼入れ、焼もどし、焼鈍などの熱処理を施す場合には、中実スタビライザにおけると同様に主として加熱炉中に保持して加熱している。したがって加熱時間が長く、中空材であるため加熱中に変形し易いとか、スケールが発生し易く製品の肌荒れがひどいなどの難点がある。また、部分的に高応力となるスタビライザにおいては当該部分のみの熱処理を施せばよいが、上述のような炉中加熱では不適当であるとともにエネルギー効率が悪くなる。」(1頁左下欄13行?右下欄4行)

(ウ)「本発明は上記事情のもとになされたもので、その目的とするところは、所望部分のみを、しかも短時間で加熱することができ、したがって熱変形やスケール等の発生が少なく、かつエネルギー効率のよい中空スタビライザの熱処理方法を提供することにある。」(1頁右下欄5?10行)

(エ)「第1図において中空スタビライザの本体1は、車両の車体がわに取付けられる基部2と、先端部が車輪がわに取付けられる腕部3と、これら基部2および腕部3の間に介在する彎曲部4とを一体に有して適宜の中空材料から形成されている。このような本体1において一般に最高応力が発生する彎曲部4のみに熱処理を施すため同部4を加熱する場合には、図示のように彎曲部4の長手方向両側に電極5,6を取付け、これら電極5,6を電源部7の接続端8,9にそれぞれ接続する。そして、電源部7から接続端8-電極5-彎曲部4-電極6-接続端9の閉回路に通電することにより彎曲部4が加熱される。」(1頁右下欄12行?2頁左上欄5行)

(オ)「いずれにしても加熱温度は電源部7を介して通電電流を調節することにより、また加熱時間は通電時間を制御することにより、それぞれ所望値に設定される。」(2頁左上欄11?15行)

(カ)「この場合、他方の電極6,6を腕部3の先端部に取付けるようにすれば、全体を加熱することが可能となる。」(2頁右上欄5?8行)

(キ)「本発明によれば、上述したように長手方向の少なくとも一部分を直接通電によって加熱するようにしたので、所望部分のみを簡単かつ容易に加熱し得るとともに、通常の炉中加熱に比較すれば加熱時間を大幅に短縮することができる。したがって脱炭や結晶粒の粗大化ならびに変形等が少なく、かつスケールの発生が殆んどないから表面が滑らかであり、品質レベルおよび耐久性を著しく向上させることができる。しかもエネルギー効率が良好で省資源、省エネルギーに寄与することができ、かつ装置の小型化が可能であるとともに作業環境を改善することができるなど、実用上、多くの優れた効果を奏することができる。」(2頁右上欄11行?左下欄4行)

(ク)上記(イ)の記載からみて、刊行物1は、中空スタビライザに対し焼もどしにおける熱処理を対象としており、これは「スタビライザの製造方法」の一部として、「スタビライザ半製品に焼もどし」を行っているものと理解できる。また、上記(エ)の記載からみて、電源部7、接続端8,9、及び電極5,6は、通電加熱を行うことにより中空スタビライザを加熱し、焼もどしを行っているので、これらは、「スタビライザの製造に使用される加熱装置」を構成していると理解できる。

上記記載事項、上記認定事項、図示内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、それぞれ「引用発明1」、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「彎曲部を有するスタビライザの製造方法において、
通電加熱によりスタビライザ半製品に焼もどしを行う焼もどし工程を含み、
前記焼もどし工程では、加熱工程を行い、
前記加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行うスタビライザの製造方法。」(引用発明1)

「彎曲部を有するスタビライザの製造に使用される加熱装置において、
スタビライザ半製品の両端部に固定される電極を備え、
前記電極同士の間で通電することにより、前記スタビライザ半製品に焼もどしを行い、
前記焼もどしでは、前記電極同士の間で連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行う加熱装置。」(引用発明2)

イ.対比
引用発明1と本願補正発明1を対比すると、その構造及び機能から見て、引用発明1の「彎曲部」は、本願補正発明1の「湾曲部」に相当し、同じく前者の「焼きもどし」、「焼きもどし工程」、及び「加熱工程」は、それぞれ後者の「焼戻し」、「焼戻し工程」、及び「第1加熱工程」に相当する。

以上の点からみて、本願補正発明1と引用発明1とは、
「湾曲部を有するスタビライザの製造方法において、
通電加熱によりスタビライザ半製品に焼戻しを行う焼戻し工程を含み、
前記焼戻し工程では、第1加熱工程を行い、
前記第1加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行うスタビライザの製造方法。」
で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
焼戻し工程が、本願補正発明1が、「第1加熱工程と第2加熱工程とを順に行い」、「前記第2加熱工程では、スタビライザ半製品に断続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に通電加熱を行うことにより、前記湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」のに対して、引用発明1は、第1加熱工程を有するのみで、かかる第2加熱工程を有していない点。

引用発明2と本願補正発明4を対比すると、その構造及び機能から見て、引用発明2の「彎曲部」は、本願補正発明4の「湾曲部」に相当し、同じく前者の「焼きもどし」、及び「通電加熱」は、それぞれ後者の「焼戻し」、及び「第1の通電加熱」に相当する。

以上の点からみて、本願補正発明4と引用発明2とは、
「湾曲部を有するスタビライザの製造に使用される加熱装置において、
スタビライザ半製品の両端部に固定される電極を備え、
前記電極同士の間で通電することにより、前記スタビライザ半製品に焼戻しを行い、
前記焼戻しでは、前記電極同士の間で連続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に第1の通電加熱を行う加熱装置。」
で一致し、次の点で相違する。
[相違点2]
焼戻しでは、本願補正発明4が、第1の通電加熱を行い、「次いで、前記電極同士の間で断続的に電流を流して前記スタビライザ半製品に第2の通電加熱を行うことにより、前記湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」のに対して、引用発明2は、第1の通電加熱を行うのみで、かかる第2の通電加熱を行わない点。

ウ.判断
本願明細書には、「したがって、本発明は、焼戻し工程において、スタビライザ半製品の湾曲部での硬さのバラツキの発生を抑制することができるのはもちろんのこと、工程時間の短縮化を図ることができるスタビライザの製造方法および加熱装置を提供することを目的としている。」(段落【0008】)、「具体的には、第1加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流してスタビライザ半製品に通電加熱を行うから、スタビライザ半製品を急勾配で温度上昇させることができる。これにより、電流の最短経路となる湾曲部の内側部分の温度を、所望の目標温度あるいはその近傍の温度まで急激に高めることができるから、スタビライザ半製品の湾曲部の内側部分と外側部分とで大きな温度差を発生させることができる。第1加熱工程による通電加熱後、高温部分である湾曲部の内側部分から周囲の部分へ伝熱が行われ、この場合、上記のように湾曲部の内側部分と外側部分とで大きな温度差が発生しているから、湾曲部の内側部分の周囲部分である湾曲部の外側部分を容易に温めることができる。」(段落【0012】)、「ところが、高温部分である湾曲部の内側部分からの伝熱だけでは湾曲部の外側部分の温度上昇に限界があり、たとえば第1加熱工程後に加熱を行わない場合には、湾曲部の外側部分は所望の目標温度に到達できず、湾曲部の内側部分と湾曲部の外側部分とで比較的大きな温度差が残った状態で、湾曲部の内側部分だけでなく外側部分でも、温度低下が始まってしまう。また、第1加熱工程と同様に連続的に電流を流す通電加熱を行った場合には、湾曲部の内側部分と外側部分とで温度差が再び大きくなってしまう。」(段落【0013】)、「これに対して本発明のスタビライザの製造方法では、第1加熱工程後の第2加熱工程において、スタビライザ半製品に断続的に電流を流してスタビライザ半製品に通電加熱を行うから、湾曲部の内側部分を、第1加熱工程後の温度(目標温度あるいはその近傍の温度)のまま維持することができる、あるいは、目標温度に徐々に近づけることができる。そのような断続的電流による通電加熱時、湾曲部の外側部分には、伝熱による昇温作用に加えて、断続的電流による通電加熱の昇温作用が働くから、昇温速度が速くなる。これにより、第2加熱工程終了時の湾曲部の外側部分の最高到達温度を、湾曲部の内側部分の最高到達温度に近づけることができる。」(段落【0014】)、「本発明のスタビライザの製造方法あるいは加熱装置によれば、焼戻し工程においてスタビライザ半製品の湾曲部での硬さのバラツキの発生を抑制することができる等の効果を得ることができる。」(段落【0020】)と記載されている。
これらの記載から見て、本願補正発明1は、焼戻し工程において、スタビライザ半製品の湾曲部での硬さのバラツキの発生の抑制及び工程時間の短縮化を目的として、第1加熱工程では、スタビライザ半製品に連続的に電流を流して通電加熱を行い、あえてスタビライザ半製品の湾曲部の内側部分と外側部分とで大きな温度差を発生させて、その後の第2加熱工程において、スタビライザ半製品に断続的に電流を流して通電加熱を行い、「湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」ことにより、上記目的を達成したものである。
これに対して、刊行物1に係る前記ア.(ア)ないし(エ)、(キ)の記載を踏まえると、引用発明1は、焼もどしに係る中空スタビライザの加熱として、炉中加熱による不具合(加熱時間が長い等)を解消するために、中空スタビライザの長手方向の少なくとも一部分をこれに直接通電して加熱するようにした点に特徴があり、実施例として、電極5,6を彎曲部4の長手方向両側に設けたもの及び腕部3の先端部に設けたものが示されている。
しかしながら、そもそも刊行物1には、スタビライザにおいて、「湾曲部の内側部分の方が湾曲部の外側部分よりも加熱され温度が高くなり、湾曲部の内側部分と外側部分とで大きな温度差が発生し、焼戻し後のスタビライザ半製品に硬さが湾曲部の内側部分と外側部分とで大きく異なる結果、製品の硬さのバラツキが大きくなってしまう。」(本願明細書の段落【0004】)という湾曲部における通電加熱の不具合についての知見及び課題が示されておらず、刊行物1全体の記載からみても、引用発明1は、炉中加熱を従来技術として、本願補正発明1に相当する「第1加熱工程」(連続的に電流を流す)のみを有する構成に留まり、刊行物1には、本願補正発明1に相当する「第2加熱工程」(断続的に電流を流す)を設けること及び「湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」ことの動機付けに係る記載及び示唆はない。

一方、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-271750号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「鋼材の熱処理方法」に関し、「本発明は、鋼材を液体中で熱処理する方法であって、加熱効率が良く、従って設備が比較的小型で済み、且つ鋼材全体を熱処理できるようにすることを技術的課題とするものである。」(段落【0005】)、「両端を電極により保持した鋼材を電極と一緒に液体中に沈め、次に鋼材に通電して電気抵抗による発熱で鋼材温度を所定温度まで上昇させ、次に通電のパルス発振により前記所定温度を所定時間保持し、次に通電を解除し且つ液体を攪拌することにより冷却する。」(段落【0007】)、「【作用】かかる熱処理方法では鋼材の断面全域に電流が流れて鋼材全体が加熱されるものであり、鋼材全体の熱処理ができる。そして、鋼材に直接電流を流すので、熱効率が前記従来技術よりも良く、小型の設備で済むものである。」(段落【0008】)、「図1は本発明の実施例の説明図で、パイプ形状の鋼材1の両端を電極3でクランプし、液体2(例えば水)の入った水槽4にクランプしたまま沈ませ、図2の(a),(b)に示すように、通電して電気抵抗による発熱で加熱を行い鋼材1をその焼入れ温度Tまで昇温させ、昇温後は通電のパルス発振を行って鋼材1の温度を維持制御する。このパルス発振は、鋼材1中の炭化物等が十分固溶しうる時間(例えば10秒間)保持する。その後、通電を止めると同時に液体を攪拌し鋼材1を冷却して焼入を行うものである。」(段落【0010】)、「図2(a)は鋼材1の温度と時間との関係を示し、点線で示すものはバラツキを示す。図2(b)は鋼材1への通電と時間との関係を示す。(a)にて安定化した温度Tは約870℃で、(b)に示すように加熱初期は通電しっぱなしにて急速加熱を行い、一定温度T(焼入温度付近)まで温度が上昇した所で通電をパルス発振して焼入温度850℃を維持し、鋼材1の部位の加熱差の緩和を図り、更に炭化物の完全固溶化を図る。」(段落【0013】)と記載されている。
これらの記載から見て、刊行物2には、鋼材の熱処理方法として、鋼材に通電して電気抵抗による発熱で鋼材温度を所定温度まで上昇させ、次に通電のパルス発振により前記所定温度を所定時間保持することにより、加熱効率を良くした点が記載されているが、これに留まり、図面の記載も参酌すると、単にまっすぐな鋼材1を対象に通電加熱を行ったものにすぎず、パルス発振による通電も鋼材1の温度の維持を目的とするものであり、刊行物2には、少なくとも湾曲部を有する鋼材を対象とした開示はないことから、本願補正発明1に係る湾曲部における通電加熱の不具合についての知見及び課題を見い出すことはできず、当該知見及び課題がないことから、「湾曲部の内側の高温部から外側の低温部への伝熱による昇温作用に加えて断続的電流による通電加熱の昇温作用を働かせる」ことも記載されておらず、その示唆もない。

したがって、刊行物1及び刊行物2の記載からは、引用発明1に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けを見い出すことができず、引用発明1に刊行物2に記載された事項を適用することはできない。
よって、相違点1に係る本願補正発明1の構成は、引用発明1、及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものと言えない。

以上のとおりであるから、本願補正発明1は、引用発明1、及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとは言えない。

また、本願補正発明2及び3は、本願補正発明1をさらに限定したものであるから、当業者が、引用発明1、及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に想到し得たものではない。

引用発明2は、引用発明1に係るスタビライザの製造方法に使用する加熱装置に相当するので、引用発明1に係る上記判断の理由と同様に、刊行物1及び刊行物2の記載からは、引用発明2に刊行物2に記載された事項を適用する動機付けを見い出すことができず、引用発明2に刊行物2に記載された事項を適用することはできない。
よって、相違点2に係る本願補正発明4の構成は、引用発明2、及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものと言えない。

以上のとおりであるから、本願補正発明4は、引用発明2、及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとは言えない。

また、本願補正発明5及び6は、本願補正発明4をさらに限定したものであるから、当業者が、引用発明2、及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に想到し得たものではない。

したがって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
本件補正の補正事項2は、特許請求の範囲に係る補正事項1に伴って補正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るため、明細書の段落【0010】及び【0018】を補正するものであり、補正事項1と同様、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3.本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし6に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、上記第2.の2.のとおり、本願補正発明1ないし3は、当業者が引用発明1、及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に想到し得たものではなく、本願補正発明4ないし6は、当業者が引用発明2、及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に想到し得たものではない。

したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-20 
出願番号 特願2012-187651(P2012-187651)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 保田 亨介  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 阿部 利英
中川 隆司
発明の名称 スタビライザの製造方法および加熱装置  
代理人 末成 幹生  

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