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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1323051
審判番号 不服2014-26422  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-25 
確定日 2016-12-22 
事件の表示 特願2010-269648「封止材用組成物、封止材用組成物を用いた発光デバイスおよび太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日出願公開、特開2012-116990〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月2日の出願であって、平成26年2月5日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月2日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年1月21日付けで前置報告がされ、当審において、平成28年6月2日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日に意見書、手続補正書及び手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?7に係る発明は、平成28年8月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1、請求項2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、次のとおりである。

「 【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなる有機ケイ素化合物と、下記の一般式(2)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなるフッ素含有有機ケイ素化合物とを含み、
前記有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、前記フッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対する前記フッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合(F原子数/Si原子数×100(%))が20%?130%であることを特徴とする封止材用組成物。
(R^(1)SiO_(1.5))_(n) ・・・(1)
(R^(2)SiO_(1.5))_(n) ・・・(2)
(但し、上記の一般式(1)中、nは3?50の整数、複数のR^(1)は、同一または異なっており、炭素数1?20のアルキル基、エーテル結合を含有する炭素数1?20の1価の炭化水素基、エステル結合を含有する炭素数1?20の1価の炭化水素基、および、置換基を有していてもよいオルガノシロキシ基を含有する炭素数1?12の1価の炭化水素基からなる群から選択された少なくとも1種である。上記の一般式(2)中、nは3?50の整数、複数のR^(2)は、同一または異なっており、炭素数1?20のアルキル基、エーテル結合を含有する炭素数1?20の1価の炭化水素基、エステル結合を含有する炭素数1?20の1価の炭化水素基、および、置換基を有していてもよいオルガノシロキシ基を含有する炭素数1?12の1価の炭化水素基からなる群から選択された少なくとも1種であって、少なくとも1つのR^(2)が、フッ素、炭素数5?18のアルキル基の水素がフッ素に置換された置換基、または、パーフルオロアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)
【請求項2】
前記フッ素含有有機ケイ素化合物は、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシランおよび1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリメトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種を重合してなるシルセスキオキサンであることを特徴とする請求項1に記載の封止材用組成物。」

第3 当審における拒絶理由の概要
当審において、平成28年6月2日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、
「1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 」
というものである。

第4 当審拒絶理由の妥当性についての判断
1.本願明細書の記載事項
本願明細書には、次の記載(以下、「摘示ア」のようにいう。)がある。

ア 「本発明は、光学素子を封止するための封止材用組成物、その封止材用組成物を用いた発光デバイスおよび太陽電池モジュールに関するものである。」(段落【0001】)

イ 「本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、透明でかつ厚膜形成が可能であり、しかも耐光性に優れた封止材用組成物、その封止材用組成物を用いた発光デバイスおよび太陽電池モジュールを提供することを目的とする。」(段落【0005】)

ウ 「「封止材用組成物」
本発明に係る封止材用組成物は、下記の一般式(1)で表されるシルセスオキサンおよび/またはその重合体からなる有機ケイ素化合物と、下記の一般式(2)で表されるシルセスオキサンおよび/またはその重合体からなるフッ素含有有機ケイ素化合物とを含むものである。
(R^(1)SiO_(1.5))_(n) ・・・(1)
(R^(2)SiO_(1.5))_(n) ・・・(2)
(但し、上記の一般式(1)中、nは3?50の整数、複数のR^(1)は、同一または異なっており、炭素数1?20のアルキル基、エーテル結合を含有する炭素数1?20の2価の炭化水素基、エステル結合を含有する炭素数1?20の2価の炭化水素基、および、置換基を有していてもよいオルガノシロキシ基を含有する炭素数1?12の2価の炭化水素基からなる群から選択された少なくとも1種である。上記の一般式(2)中、nは3?50の整数、複数のR^(2)は、同一または異なっており、炭素数1?20のアルキル基、エーテル結合を含有する炭素数1?20の2価の炭化水素基、エステル結合を含有する炭素数1?20の2価の炭化水素基、および、置換基を有していてもよいオルガノシロキシ基を含有する炭素数1?12の2価の炭化水素基からなる群から選択された少なくとも1種であって、少なくとも1つのR^(2)が、フッ素、炭素数5?18のアルキル基の水素がフッ素に置換された置換基、または、パーフルオロアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。)

上記の一般式(1)で表されるシルセスキオキサンは、一般式SiR^(1)(OR^(1))_(3)で表されるトリアルコキシシランを、下記の化学反応式(3)に従って重合してなるカゴ状化合物である。なお、複数のR^(1)は、同一であっても、異なっていてもよい。

【化1】

」(段落【0018】?【0020】)

エ 「上記の一般式(2)で表されるシルセスキオキサンは、一般式SiR^(2)(OR^(2))_(3)で表されるトリアルコキシシランを、上記の化学反応式(3)に従って重合してなる環状化合物である。なお、複数のR^(2)は、同一であっても、異なっていてもよい。」(段落【0029】)

オ 「「参考例1」
(封止材用組成物の調製)
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)、水および酢酸を含む混合液を、80℃で加熱しながら、40時間攪拌、混合し、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)を重合してなる有機ケイ素化合物と、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)を重合してなるフッ素含有有機ケイ素化合物とを含む合成物を調製した。
この合成物に、硬化剤としてジブチルスズジラウレートを添加し、封止材用組成物を調製した。
なお、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)の添加量を90mol%、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)の添加量を10mol%とした。
また、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)からなる有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対するトリエトキシフルオロシラン(F1TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合は10%であった。

(膜形成試験)
得られた封止材用組成物をガラス基板(基材)上に、所定の厚さとなるように塗布し、150℃で加熱して、硬化させて、ガラス基板上に、封止材用組成物からなる膜を形成した。
膜厚を変えて、封止材用組成物からなる膜を形成したところ、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。

(吸湿性試験)
封止材用組成物(約4g)と、シリカゲル(約2g)とを、ビーカーに容れて混合し、この混合物を、脱泡しながら、150℃で加熱して、硬化させて、ビーカー内に直径約20mmの円板状の硬化物を成形した。
その後、前記の硬化物を収容しているビーカー内に水を入れて、前記の硬化物を水に30時間浸漬した。
その後、水を除去して、ビーカー内に残った硬化物の質量を測定し、前記の硬化物の吸水透湿率を算出した。
すなわち、ビーカーの質量を(A)g、シリカゲルの質量を(B)g、水に浸漬する前の硬化物の質量とビーカーの質量の合計を(C)g、水に浸漬した後の硬化物とビーカーの質量の合計を(D)gとした場合、前記の硬化物の吸水透湿率を下記の数式に従って算出した。
吸水透湿率=(D-C)/(C-B-A)×100(質量%)
結果を表1に示す。

「参考例2」
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)の添加量を80mol%、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)の添加量を20mol%とした以外は参考施例1と同様にして封止材用組成物を調製した。
また、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)からなる有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対するトリエトキシフルオロシラン(F1TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合は20%であった。
得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

「実験例1」
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)、水および酢酸を含む混合液を、80℃で加熱しながら、40時間攪拌、混合し、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)を重合してなる有機ケイ素化合物と、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)を重合してなるフッ素含有有機ケイ素化合物とを含む合成物を調製した。
この合成物に、硬化剤としてジブチルスズジラウレートを添加し、封止材用組成物を調製した。
なお、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)の添加量を99.5mol%、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)の添加量を0.5mol%とした。
また、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)からなる有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、トリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対するトリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合は6.5%であった。
得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

「実験例2」
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)の添加量を99mol%、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)の添加量を1mol%とした以外は実験例1と同様にして封止材用組成物を調製した。
また、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)からなる有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、トリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対するトリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合は13%であった。
得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、得られた封止材用組成物について、参考験例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

「実験例3」
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)の添加量を95mol%、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)の添加量を5mol%とした以外は実験例1と同様にして封止材用組成物を調製した。
また、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)からなる有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、トリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対するトリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合は65%であった。
得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

「実験例4」
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)の添加量を95mol%、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)の添加量を5mol%とした以外は実験例1と同様にして封止材用組成物を調製した。
また、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)からなる有機ケイ素化合物のケイ素原子数と、トリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のケイ素原子数とを合わせた数(全数)に対するトリエトキシフルオロシラン(F13TES)からなるフッ素含有有機ケイ素化合物のフッ素原子数の割合は130%であった。
得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

「参考例3」
n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)、水および酢酸を含む混合液を、80℃で加熱しながら、40時間攪拌、混合し、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)を重合してなる有機ケイ素化合物を含む合成物を調製した。
この合成物に、硬化剤としてジブチルスズジラウレートを添加し、封止材用組成物を調製した。
得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、得られた封止材用組成物について、参考例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

「参考例4」
市販のシリコーンを用いて、参考例1と同様にして膜形成試験を行った。その結果、膜厚が0.5mm?10mmの範囲であれば、その膜にはクラックが発生することなく、その膜がガラス基板から剥離しないことが確認された。
また、このシリコーンについて、参考例1と同様にして吸湿性試験を行った。
結果を表1に示す。

【表1】

」(段落【0078】?【0088】)

2.特許法第36条第6項第1号について
(1)本願発明1について
本願発明1は、上記第2に記載したとおりの発明であり、
(A)一般式(1)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなる有機ケイ素化合物と、
(B)一般式(2)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなるフッ素含有有機ケイ素化合物と、
を含む封止材用組成物に関するものであるから、
(A1)一般式(1)で表されるシルセスキオキサン、
(A2)一般式(1)で表されるシルセスキオキサンの重合体、
(B1)一般式(2)で表されるシルセスキオキサン、
(B2)一般式(2)で表されるシルセスキオキサンの重合体、
とすると、封止材用組成物は、(A1)と(B1)、(A1)と(B2)、(A2)と(B1)、(A2)と(B2)、(A1)+(A2)と(B1)、(A1)+(A2)と(B2)、(A1)と(B1)+(B2)、(A2)と(B1)+(B2)、又は、(A1)+(A2)と(B1)+(B2)を含むものであって、(A)と(B)の共重合体は包含していない。

(2)特許法第36条第6項第1号についての判断
本願発明1が、発明の詳細な説明に記載したものであるか否かについて検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、一般的な記載として、(A)一般式(1)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなる有機ケイ素化合物や、(B)一般式(2)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなるフッ素含有有機ケイ素化合物の、個々の製造に関して記載されているものの(摘示ア?エ)、最終的な組成物において、(A)と(B)の両方を含む封止材用組成物の製造に関しての具体的な記載はない。そして、具体的な実施例として、本願発明の解決課題である、クラックが発生せず、透明でかつ厚膜形成が可能であり、しかも耐光性に優れた封止材用組成物として記載されているのは、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)と、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)又はトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)とを同時に重合して封止材用組成物を調製した参考例及び実験例のみであって(摘示オ)、これらの参考例及び実験例は、OTESと、F1TES又はF13TESと、水と、酢酸とを含む混合液を加熱しながら攪拌、混合して重合していることから、その生成物は、有機ケイ素化合物とフッ素含有有機ケイ素化合物の両方を含んでいるもの(いわゆる、両化合物のアロイ)ではなく、国際公開第2009/101753号(平成26年2月5日付け拒絶理由通知書において提示された引用文献1)の請求の範囲[1]、[2]に記載されているように、本願発明1に規定された一般式(1)中のR^(1)基を有するトリアルコキシシランと一般式(2)中のR^(2)基を有するトリアルコキシシランを反応させて得られた、「R^(1)SiO_(1.5)部分とR^(2)SiO_(1.5)部分を有する化合物」であると認められる。
本願出願前の当業者において、シリコーン化合物のアロイとシリコーン化合物の共重合体とはその化学的性質が異なることが技術常識である。
してみると、発明の詳細な説明に実質的に開示されているのは、本願発明1のような、有機ケイ素化合物とフッ素含有有機ケイ素化合物の両方を含む封止材用組成物ではなく、本願発明1に規定された一般式(1)中のR^(1)基を有するトリアルコキシシランと一般式(2)中のR^(2)基を有するトリアルコキシシランを反応させて得られた、「R^(1)SiO_(1.5)部分とR^(2)SiO_(1.5)部分を有する化合物」(審決注:いわゆる共重合体)を含む封止材用組成物ということになる。
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)請求人の主張についての検討
審判請求人は、平成28年8月5日に提出された意見書において、以下の主張をしている。
「本願の実験例1?4では、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)、水および酢酸を含む混合液を、80℃で加熱しながら、40時間攪拌、混合することにより、OTESを重合してなる有機ケイ素化合物と、F13TESを重合してなるフッ素含有有機ケイ素化合物とを含む合成物を調製しています。この場合、酢酸が、OTESとF13TESの重合触媒として機能しているものと思料致します。
別途提出した参考資料(山田文一郎、「重合性シランカップリング剤-メタクリロイルオキシアルキルトリアルコシキシラン」、高分子技術レポートVol.7、山本貴金属地金株式会社、2013年6月19日)の2頁から6頁に記載されているように、トリアルコキシシランは、酸触媒の存在下、溶媒中で、まず加水分解します。その後、そのトリアルコキシシランの加水分解物が縮合し、トリアルコキシシランの重合体が生成します。すなわち、本願発明のように、異なる2種のトリアルコキシシランを、酸触媒の存在下で同一の溶媒中で反応させても、これらが共重合して共重合体を形成することはなく、それぞれのトリアルコキシシランが縮合して、重合体が生成します。従って、本願請求項1に係る発明は、一般式(1)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなる有機ケイ素化合物と、一般式(2)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなるフッ素含有有機ケイ素化合物とを含む封止材用組成物であって、R^(1)SiO_(1.5)部分とR^(2)SiO_(1.5)部分を有する共重合体を含む封止材用組成物ではありません。
以上、御説明しましたように、請求項1、および請求項1を引用する請求項2?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると思料致します。また、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、および請求項1を引用する請求項2?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると思料致します。」
また、上記参考資料の4頁には、トリアルコキシシランが加水分解し、その後加水分解物が縮合して重合体が生成するという主張に対応するものとして、以下のスキームが記載されている。


しかしながら、異なる2種のトリアルコキシシランが共重合体を形成することはないことの説明として挙げられている、「トリアルコキシシランは、酸触媒の存在下、溶媒中で、まず加水分解します。その後、そのトリアルコキシシランの加水分解物が縮合し、トリアルコキシシランの重合体が生成します。」という反応は、上記スキームも含め、トリアルコキシシランが1種の場合の反応を一般的に説明しているにすぎない。異なる2種のトリアルコキシシランが同時に反応する場合には、上記国際公開第2009/101753号に記載されているように、2種のトリアルコキシシラン同士が反応するものと認められる。
そうすると、請求人の主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のことから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

3.特許法第36条第4項第1号について
(1)本願発明1について
本願発明1は、上記第4 2.(1)において検討したとおりである。

(2)特許法第36条第4項第1号についての判断
本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて検討する。
上記第4 2.(2)において検討したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、一般的な記載として、(A)一般式(1)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなる有機ケイ素化合物や、(B)一般式(2)で表されるシルセスキオキサンおよび/またはその重合体からなるフッ素含有有機ケイ素化合物の、個々の製造に関して記載されているものの(摘示ア?エ)、最終的な組成物において、(A)と(B)の両方を含み、透明でかつ厚膜形成が可能であり、しかも耐光性に優れた所期の封止材用組成物の製造に関しての具体的な記載はない。そして、具体的な実施例として記載されているのは、n-オクチルトリエトキシシラン(OTES)と、トリエトキシフルオロシラン(F1TES)又はトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン(F13TES)とを同時に重合して封止材用組成物を調製した参考例及び実験例のみであって(摘示オ)、これらの参考例及び実験例は、OTESと、F1TES又はF13TESと、水と、酢酸とを含む混合液を加熱しながら攪拌、混合して重合していることから、その生成物は、有機ケイ素化合物とフッ素含有有機ケイ素化合物の両方を含んでいるもの(いわゆる、両化合物のアロイ)ではなく、上記国際公開第2009/101753号に記載されているように、本願発明1に規定された一般式(1)中のR^(1)基を有するトリアルコキシシランと一般式(2)中のR^(2)基を有するトリアルコキシシランを反応させて得られた、「R^(1)SiO_(1.5)部分とR^(2)SiO_(1.5)部分を有する化合物」であると認められる。
してみると、発明の詳細な説明の記載により実際に得られるのは、本願発明1のような、有機ケイ素化合物とフッ素含有有機ケイ素化合物の両方を含む封止材用組成物ではなく、本願発明1に規定された一般式(1)中のR^(1)基を有するトリアルコキシシランと一般式(2)中のR^(2)基を有するトリアルコキシシランを反応させて得られた、「R^(1)SiO_(1.5)部分とR^(2)SiO_(1.5)部分を有する化合物」を含む封止材用組成物ということになる。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(3)請求人の主張についての検討
請求人の主張は、上記第4 2.(3)において検討したように、採用できない。

(4)まとめ
以上のことから、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

4.特許法第36条第6項第2号について
本願発明2(補正前の請求項3に係る発明に対応する。)は、上記第2に記載したとおりの発明であり、「前記フッ素含有有機ケイ素化合物は、(中略)トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン(中略)からなる群より選択される少なくとも1種を重合してなるシルセスキオキサンであることを特徴とする請求項1に記載の封止材用組成物。」との記載がある。しかしながら、「3,3,3-トリフルオロプロピル」は、炭素数3のアルキル基の水素がフッ素に置換された置換基であるから、本願発明2が引用する請求項1に記載されたフッ素含有有機ケイ素化合物におけるフッ素含有部分に関する定義である「少なくとも1つのR^(2)が、フッ素、炭素数5?18のアルキル基の水素がフッ素に置換された置換基、または、パーフルオロアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1つである」に合致せず、その記載が依然として明確でない。
したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、当審において通知した拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-18 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2010-269648(P2010-269648)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08L)
P 1 8・ 536- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 のぞみ岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 西山 義之
大島 祥吾
発明の名称 封止材用組成物、封止材用組成物を用いた発光デバイスおよび太陽電池モジュール  
代理人 西澤 和純  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 慎吾  

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