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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
管理番号 1323069
審判番号 不服2016-171  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-06 
確定日 2016-12-22 
事件の表示 特願2011- 72344「電源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月25日出願公開、特開2012-210013〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成23年3月29日の出願であって、平成27年3月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月20日付けて手続補正がなされたが、同年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年1月6日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正がなされ、同年7月19日付けで当審において、拒絶理由(以下、「当審の拒絶理由」という。)が通知され、同年9月20日付けで手続補正がなされたものである。
そして、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年9月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
入力電源に共通に入力が接続され、半導体チップに集積化された複数のコンバータと、
前記複数のコンバータの共通接続された出力と負荷との間に接続され負荷電流を検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路で検出された負荷電流値に応じてコンバータの並列運転数を算出し、運転するコンバータには前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号を供給し、停止するコンバータに対して前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号をオフに固定する制御を行う制御回路と、
を備え、
負荷電流と並列運転するコンバータの出力電圧との特性が、軽負荷時出力電圧が跳ね上がる領域と、過電流保護による垂下領域との間の、負荷電流に対する出力電圧が所定の傾きを有する領域で動作させ、並列運転時の各々のコンバータの負荷を均一化させる制御を行い、
前記制御回路は、前記コンバータの並列運転数nを、検出された前記負荷電流値を、使用する前記コンバータの電力変換効率が最大となる電流値である、定格負荷の所定割合又は定格負荷近傍の電流値で除した整数として求め、運転する前記コンバータの電力変換効率を維持する、ことを特徴とする電源装置。」

2.引用例等

当審の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された、特開平11-127573号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のDC/DCコンバータの並列運転装置は以上のように構成されており、オン/オフ司令受信端子6にオン信号が入力されているときは負荷の大小に関わらずDC/DCコンバータ2a?2dはすベて動作している。また、一般にDC/DCコンバータの電力損失は、例えばスイッチング損失のように出力電力の単純増加関数で表される電力損失と、例えば制御回路の消費電力のように動作中は出力電力に関わらず一定である固定損失との和で表される。従って、前述の単純増加関数をF(x)、固定損失をP_(c) 、並列運転するDC/DCコンバータの台数をN、負荷に供給される総電力をP_(o) とすると、従来のDC/DCコンバータの並列運転装置の電力損失の合計P_(Loss)は、数1で表され、電力変換効率ηは数2で表される。
【0005】
【数1】
P_(LOSS)=N×F(P_(o)/N)+N×P_(c)
【0006】
【数2】
η= P_(o) ×100
N×F(P_(o)/N)+N×P_(c)+P_(o)
【0007】上記数1より、従来のDC/DCコンバータの並列運転装置では、常にDC/DCコンバータの個数分の固定損失P_(c) が存在することが分かる。また、数2において、負荷に供給される総電力P_(o) が大きい場合、固定損失P_(c) は総電力P_(o)に対し相対的に小さくなるため、電力変換効率ηの低下の原因とならないが、負荷に供給される総電力P_(o) が小さい場合、固定損失P_(c )は総電力P_(o) に対し相対的に大きくなるため、電力変換効率ηの低下の原因となる。このように従来のDC/DCコンバータの並列運転装置では、常にDC/DCコンバータの個数分の固定損失P_(c) が存在するため、軽負荷の場合、電力変換効率が著しく低下するという欠点があった。」(【0004】?【0007】の記載。)

b)「【0013】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.図1は、この発明の実施の形態1によるDC/DCコンバータの並列運転装置を示すもので、1は入力端子、2a?2dはDC/DCコンバータ、3は電流検出回路、4は出力端子、5は負荷、6はオン/オフ司令受信端子、7はDC/DCコンバータオン/オフ制御回路である。
【0014】上記図1のDC/DCコンバータの並列運転装置において、DC/DCコンバータ2a?2dは、複数のDC/DCコンバータを負荷に対して並列に接続し動作させた場合、各DC/DCコンバータの出力電流がほぼ等しくなる、並列運転可能なDC/DCコンバータである。オン/オフ司令受信端子6にオン信号が入力されると、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7はDC/DCコンバータ2a?2dに対しオン信号を出力する。DC/DCコンバータ2a?2dは、オン信号を受信すると、動作を開始し入力端子1に印加される不安定な一次電源電圧をDC/DC変換し、安定した出力電圧を負荷5に供給する。この時、DC/DCコンバータ2a?2dは負荷5に対し、バランスよく電流を供給する。
【0015】電流検出回路3は出力端子4から出力される総出力電流を検出し、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7に出力する。また、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7は、電流検出回路3の出力する電流信号をモニタし、出力端子4から出力される総出力電流により、DC/DCコンバータ2a?2dのオン/オフを制御する。つまり、DC/DCコンバータ2a?2dの単体の定格出力電流をI_(oMAX)、出力端子4から出力される総出力電流をI_(TOTAL) とし、動作しているDC/DCコンバータの数をi(iは自然数)としたとき、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7は数3が成り立つように、動作しているDC/DCコンバータの数を制御する。
【0016】
【数3】
i-1<I_(TOTAL) /I_(oMAX)≦i
【0017】以上のようにDC/DCコンバータオン/オフ制御回路7がDC/DCコンバータ2a?2dのオン/オフを制御することにより、負荷の軽いときは動作させるDC/DCコンバータの数が制限され、固定損失が減少するため、軽負荷の場合の電力変換効率の低下を防止することができる。」(【0013】?【0017】の記載。)(下線は、当審で特に注目した箇所に付与した。以下、同様。)

c)「【0043】
【発明の効果】この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を有する。
【0044】第1の発明によれば、負荷の軽いときには動作させるDC/DCコンバータの数を制限し、固定損失を減少させることにより、軽負荷の場合でも効率よく電力変換することができる。」(【0043】?【0044】の記載。)

d)図1には、共通接続された入力端子1と、共通接続された出力端子4とを有するDC/DCコンバータ2a?2dが示されている。

上記下線部及び関連箇所の記載によれば、引用例1には以下の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されている。
「共通接続された入力端子1と、共通接続された出力端子4とを有するDC/DCコンバータ2a?2dを負荷5に対して並列に接続し動作させ、
オン/オフ司令受信端子6にオン信号が入力されると、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7はDC/DCコンバータ2a?2dに対しオン信号を出力し、
DC/DCコンバータ2a?2dは、オン信号を受信すると、動作を開始し入力端子1に印加される一次電源電圧をDC/DC変換し、出力電圧を負荷5に供給するDC/DCコンバータの並列運転装置において、
電流検出回路3は出力端子4から出力される総出力電流を検出し、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7に出力し、
DC/DCコンバータ2a?2dの単体の定格出力電流をI_(oMAX)、出力端子4から出力される総出力電流をI_(TOTAL) とし、動作しているDC/DCコンバータの数をi(iは自然数)としたとき、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7は、
i-1<I_(TOTAL) /I_(oMAX)≦i
が成り立つように、動作しているDC/DCコンバータの数を制御し、
負荷の軽いときは動作させるDC/DCコンバータの数が制限され、固定損失が減少するため、軽負荷の場合の電力変換効率の低下を防止する
DC/DCコンバータの並列運転装置。」

当審の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2009-232587号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

e)「【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電源装置の構成を示す図である。この電源装置は、交流電源電圧の入力端子1及び2と、直流電源電圧の出力端子3及び4と、入力される交流電源電圧を整流及び平滑する整流平滑回路10と、整流平滑回路10によって整流及び平滑された電圧が供給され、スイッチング動作を行うことによって電圧変換を行う複数チャンネルの電圧変換回路(図1においては、チャンネル1の電圧変換回路11?チャンネル4の電圧変換回路14を示す)と、電圧変換回路11?14の出力電流(出力電力)を合成する出力合成回路30と、電圧変換回路11?14を制御する制御部40とを有している。
【0014】
さらに、この電源装置は、電圧変換回路11?14の共通の入力電圧を検出する入力電圧検出回路50と、出力合成回路30の出力電圧を検出する出力電圧検出回路60と、電圧変換回路11?14の入力電流をそれぞれ検出する入力電流検出回路71?74と、電圧変換回路11?14の出力電流をそれぞれ検出する出力電流検出回路81?84とを有している。なお、検出回路の種類や数は、必要に応じて適宜変更することができる。例えば、入力電流検出回路71?74の替わりに、電圧変換回路11?14の共通の入力電流を検出する入力電流検出回路を設け、出力電流検出回路81?84の替わりに、出力合成回路30の出力電流を検出する出力電流検出回路を設けるようにしても良い。
【0015】
整流平滑回路10は、例えば、ダイオードブリッジとコンデンサとを含んでおり、入力端子1と入力端子2との間に印加される交流電圧をダイオードブリッジによって全波整流し、コンデンサによって平滑する。
【0016】
チャンネル1の電圧変換回路11は、1次側の交流電圧を昇圧又は降圧して2次側に出力するトランス20と、トランスの1次側巻線21に直列に接続され、パルス状の駆動信号に従ってトランスの1次側巻線21に電流を流すMOSFET等のスイッチング素子24と、制御部40から供給される駆動信号に基づいて、スイッチング素子24を駆動するための駆動信号を生成する駆動回路25と、トランスの2次側巻線22に発生する電圧を半波整流するダイオード26と、整流された電圧を平滑するコンデンサ27とを含んでいる。ここで、ダイオード26及びコンデンサ27は、出力回路を構成している。」(【0013】?【0016】の記載。)

f)「【0025】
図2は、図1に示す制御部の動作を説明するためのブロック図である。図2に示すように、制御部40は、負荷状態算出部42と、動作チャンネル数設定部43と、制御信号生成部44とを、機能ブロックとして含んでいる。これらの機能ブロックは、DSP及びソフトウェア(制御プログラム)を用いて構成されるが、ディジタル回路やアナログ回路を用いて構成しても良い。
【0026】
負荷状態算出部42は、出力電圧検出回路60の検出結果である出力電圧値と、出力電流検出回路81?84の検出結果である出力電流値とに基づいて、負荷ZLに供給される電力の値を算出する。動作チャンネル数設定部43は、負荷状態算出部42によって算出される電力の値に基づいて、複数チャンネルの電圧変換回路11?14の内で動作させる電圧変換回路のチャンネル数を設定する。
【0027】
制御信号生成部44は、動作チャンネル数設定部43によって設定されるチャンネル数に従って、制御信号として、電圧変換回路11?14の各々に個別に供給される駆動信号を生成することにより、電圧変換回路11?14を制御する。複数チャンネルの電圧変換回路を同時に動作させる場合には、それらの電圧変換回路に供給される駆動信号の位相は、互いに異なっていても良いし(マルチフェーズ方式)、揃っていても良い。出力電圧のリップルが比較的大きい場合には、マルチフェーズ方式を採用することにより、出力電圧のリップルを低減することができる。
【0028】
例えば、制御信号生成部44は、複数チャンネルの電圧変換回路11?14を、チャンネル1の電圧変換回路11、チャンネル2の電圧変換回路12、チャンネル3の電圧変換回路13、チャンネル4の電圧変換回路14の順で、優先的に動作させる。ここで、制御信号生成部44は、動作させる電圧変換回路のチャンネル数を増加させるときに、少なくとも1つの電圧変換回路を新たに起動させると共に、他の起動している電圧変換回路の出力電流を減少させ、また、動作させる電圧変換回路のチャンネル数を減少させるときに、少なくとも1つの電圧変換回路を停止させると共に、他の起動している電圧変換回路の出力電流を増加させる。この制御は、動作させる電圧変換回路のチャンネル数を変化させるときに、格納部41に格納されている設定値に基づいて駆動信号のデューティを設定するフィードフォワード制御によって行われる。これにより、動作させる電圧変換回路のチャンネル数が切り換えられる際に、出力電圧の変動が抑えられる。
【0029】
さらに、制御信号生成部44は、入力電圧検出回路50の検出結果である入力電圧値と、出力電圧検出回路60の検出結果である出力電圧値と、入力電流検出回路71?74の検出結果である入力電流値と、出力電流検出回路81?84の検出結果である出力電流値との内の少なくとも1つに基づいて、駆動信号のデューティをフィードバック制御する。例えば、制御信号生成部44は、出力電圧検出回路60の検出結果である出力電圧値に基づいて、動作させる電圧変換回路に供給される駆動信号のデューティを調節する。」(【0025】?【0029】の記載。)

g)「【0051】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図5は、本発明の第2の実施形態に係る電源装置の制御部の動作を説明するためのブロック図である。第2の実施形態においては、図5に示すように、制御信号生成部44が、制御信号として、複数チャンネルの電圧変換回路11?14について共通の駆動信号と、複数チャンネルの電圧変換回路11?14の各々に個別のイネーブル信号とを供給することにより、電圧変換回路11?14を制御する。その他の点に関しては、図1に示す第1の実施形態と同様である。図1に示す駆動回路25は、イネーブル信号が活性化されたときに、MOSFET等のスイッチング素子24に駆動信号を供給し、イネーブル信号が非活性化されたときに駆動信号をローレベルに固定する。そのような駆動回路の例を、図6に示す。」(【0051】の記載。)

h)「【0055】
イネーブル信号がローレベルに非活性化されているときには、スイッチ回路94がオフして反転回路92及び93に電源電位VHが供給されないので、反転回路93から出力されるゲート信号はローレベルとなる。従って、スイッチング素子24はオフ状態を維持する。イネーブル信号がハイレベルに活性化されると、スイッチ回路94がオンして反転回路92及び93に電源電位VHが供給されるので、駆動信号に基づいて反転回路93からパルス状のゲート信号が出力される。図1に示すスイッチング素子24は、駆動回路25から駆動信号が印加されてスイッチング動作を行う。」(【0055】の記載。)

上記下線部及び関連箇所の記載によれば、引用例2には、第2の実施形態として、以下の技術(以下、「引用例2記載の技術」という。)が記載されている。
「整流平滑回路10によって整流及び平滑された電圧が供給され、スイッチング動作を行うことによって電圧変換を行う複数チャンネルの電圧変換回路(チャンネル1の電圧変換回路11?チャンネル4の電圧変換回路14)と、電圧変換回路11?14の出力電流(出力電力)を合成する出力合成回路30と、電圧変換回路11?14を制御する制御部40とを有し、
さらに、電圧変換回路11?14の共通の入力電圧を検出する入力電圧検出回路50と、出力合成回路30の出力電圧を検出する出力電圧検出回路60と、出力合成回路30の出力電流を検出する出力電流検出回路を設ける電源装置において、
電圧変換回路11は、1次側の交流電圧を昇圧又は降圧して2次側に出力するトランス20と、トランスの1次側巻線21に直列に接続され、パルス状の駆動信号に従ってトランスの1次側巻線21に電流を流すMOSFET等のスイッチング素子24と、制御部40から供給される駆動信号に基づいて、スイッチング素子24を駆動するための駆動信号を生成する駆動回路25と、トランスの2次側巻線22に発生する電圧を半波整流するダイオード26と、整流された電圧を平滑するコンデンサ27とを含んでおり、
制御部40は、負荷状態算出部42と、動作チャンネル数設定部43と、制御信号生成部44とを、機能ブロックとして含んでおり、
負荷状態算出部42は、出力電圧検出回路60の検出結果である出力電圧値と、出力電流検出回路81?84の検出結果である出力電流値とに基づいて、負荷ZLに供給される電力の値を算出し、
動作チャンネル数設定部43は、負荷状態算出部42によって算出される電力の値に基づいて、複数チャンネルの電圧変換回路11?14の内で動作させる電圧変換回路のチャンネル数を設定し、
制御信号生成部44は、動作チャンネル数設定部43によって設定されるチャンネル数に従って、制御信号として、電圧変換回路11?14の各々に個別に供給される駆動信号を生成することにより、電圧変換回路11?14を制御ものであり、
例えば、この制御は、動作させる電圧変換回路のチャンネル数を変化させるときに、格納部41に格納されている設定値に基づいて駆動信号のデューティを設定するフィードフォワード制御によって行われ、
例えば、制御信号生成部44は、出力電圧検出回路60の検出結果である出力電圧値に基づいて、動作させる電圧変換回路に供給される駆動信号のデューティを調節するものであり、
制御信号生成部44が、制御信号として、複数チャンネルの電圧変換回路11?14について共通の駆動信号と、複数チャンネルの電圧変換回路11?14の各々に個別のイネーブル信号とを供給することにより、電圧変換回路11?14を制御し、
駆動回路25は、イネーブル信号が活性化されたときに、MOSFET等のスイッチング素子24に駆動信号を供給し、イネーブル信号が非活性化されたときに駆動信号をローレベルに固定するものであり、イネーブル信号がローレベルに非活性化されているときには、ゲート信号はローレベルとなるり、スイッチング素子24はオフ状態を維持するものである
電圧変換回路の制御技術。」

当審の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2009-219209号公報(以下「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

i)「【0024】
図1は、本発明の実施例1に係る電源装置の構成を示す回路図である。この電源装置は、絶縁型の第1AC-DCコンバータ1と第2AC-DCコンバータ2とが並列接続されて構成されている。第1AC-DCコンバータ1および第2AC-DCコンバータ2の各々は、電流を分担して負荷装置に供給する。」(【0024】の記載。)

j)「【0030】
上記のように構成される第1AC-DCコンバータ1および第2AC-DCコンバータ2の各々において、制御回路17に含まれる誤差増幅器EAのゲインを調整し、図2に示すように、負荷電流、つまり出力電流Ioが増加すると出力電圧Eoが低下するように傾斜を持たせる。ゲインの調整は、第1AC-DCコンバータ1および第2AC-DCコンバータ2の各出力電流のバラツキが所定範囲、例えば5?10%に収まるように、さらに好ましくは等しくなるように、ゲイン抵抗R1の抵抗値を設定することにより行われる。
【0031】
この状態は、第1AC-DCコンバータ1および第2AC-DCコンバータ2の各々の出力に見かけ上のバランス抵抗Rz’およびRz”がそれぞれ挿入された場合と同じ状態になる。
【0032】
その結果、負荷電流Ioが増加し、一方のAC-DCコンバータから供給する電流が多くなってバランス抵抗により出力電圧が下がると、出力電圧が高い他方のAC-DCコンバータから電流を供給するようになる。このようにして、各AC-DCコンバータの出力電流に対する出力電圧の変化により、複数のAC-DCコンバータで負荷電流Ioを均等に分担するようになる。」(【0030】?【0032】の記載。)

当審の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2006-33990号公報(以下「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

k)「【0022】
また、図1に示すスイッチング制御回路2a、第1スイッチングトランジスタTr1、及び第2スイッチングトランジスタTr2は、例えば図5に示すように同一の半導体チップ91上にモノリシックに集積化できる。半導体チップ91はパッケージ92により被覆されている。図5に示す例においては、半導体チップ91上に複数の(第1,第2,・・・・・)DC/DCコンバータ11,12,・・・・・のそれぞれの一部が集積化されている。複数のDC/DCコンバータ11,12,・・・・・は、それぞれ異なる電圧値を有するDC電圧を第1負荷31、第2負荷32、・・・・・にそれぞれ供給する。尚、半導体チップ91上に複数のDC/DCコンバータ11,12,・・・・・のそれぞれの全部が集積化されていても良い。半導体チップ91上には、複数のDC/DCコンバータ11,12,・・・・・以外の回路が集積化されていても良い。」(【0022】の記載。)

3.対比

本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。

あ)引用例1記載の発明の「DC/DCコンバータ2a?2d」は、「共通接続された入力端子1」を有するものであるから、本願発明の「入力電源に共通に入力が接続され、半導体チップに集積化された複数のコンバータ」と、「入力電源に共通に入力が接続された複数のコンバータ」である点で共通するといえる。

い)引用例1記載の発明の「電流検出回路3」は、「共通接続された出力端子4とを有するDC/DCコンバータ2a?2d」の「出力端子4から出力される総出力電流を検出」するものであるから、本願発明の「前記複数のコンバータの共通接続された出力と負荷との間に接続され負荷電流を検出する電流検出回路」に相当する。

う)引用例1記載の発明の「DC/DCコンバータ2a?2dの単体の定格出力電流をI_(oMAX)、出力端子4から出力される総出力電流をI_(TOTAL) とし、動作しているDC/DCコンバータの数をi(iは自然数)としたとき、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7は、
i-1<I_(TOTAL) /I_(oMAX)≦i
が成り立つように、動作しているDC/DCコンバータの数を制御する」ことは、本願発明の「前記電流検出回路で検出された負荷電流値に応じてコンバータの並列運転数を算出」することに相当する。
また、引用例1記載の発明は「オン/オフ司令受信端子6にオン信号が入力されると、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7はDC/DCコンバータ2a?2dに対しオン信号を出力し」、「DC/DCコンバータ2a?2dは、オン信号を受信すると、動作を開始し入力端子1に印加される一次電源電圧をDC/DC変換し、出力電圧を負荷5に供給する」ものであり、「DC/DCコンバータ2a?2d」がオフ信号を受信すると動作を停止することは明らかである。
したがって、引用例1記載の発明の「DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7」は、本願発明の「前記電流検出回路で検出された負荷電流値に応じてコンバータの並列運転数を算出し、運転するコンバータには前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号を供給し、停止するコンバータに対して前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号をオフに固定する制御を行う制御回路」と「前記電流検出回路で検出された負荷電流値に応じてコンバータの並列運転数を算出し、運転するコンバータを動作させ、停止するコンバータに対して動作を停止する制御を行う制御回路」である点で共通するといえる。

え)引用例1記載の発明の「DC/DCコンバータ2a?2dの単体の定格出力電流をI_(oMAX)、出力端子4から出力される総出力電流をI_(TOTAL) とし、動作しているDC/DCコンバータの数をi(iは自然数)としたとき、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7は、
i-1<I_(TOTAL) /I_(oMAX)≦i
が成り立つように、動作しているDC/DCコンバータの数を制御する」ことにより、「負荷の軽いときは動作させるDC/DCコンバータの数が制限され、固定損失が減少するため、軽負荷の場合の電力変換効率の低下を防止する」ことは、本願発明の「前記制御回路は、前記コンバータの並列運転数nを、検出された前記負荷電流値を、使用する前記コンバータの電力変換効率が最大となる電流値である、定格負荷の所定割合又は定格負荷近傍の電流値で除した整数として求め、運転する前記コンバータの電力変換効率を維持する、こと」と、「前記制御回路は、前記コンバータの並列運転数nを、検出された前記負荷電流値を、使用する前記コンバータの電流値で除した整数として求め、運転する前記コンバータの電力変換効率を維持する、こと」である点で共通するといえる。

お)引用例1記載の発明の「DC/DCコンバータの並列運転装置」は、「電源装置」といい得るものである。

よって、両者は以下の一致点と相違点とを有する。

〈一致点〉
「入力電源に共通に入力が接続された複数のコンバータと、
前記複数のコンバータの共通接続された出力と負荷との間に接続され負荷電流を検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路で検出された負荷電流値に応じてコンバータの並列運転数を算出し、運転するコンバータには前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号を供給する制御を行う制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記コンバータの並列運転数nを、検出された前記負荷電流値を、前記コンバータの電流値で除した整数として求め、運転する前記コンバータの電力変換効率を維持する電源装置。」である点。

〈相違点1〉
本願発明では、「複数のコンバータ」は「半導体チップに集積化」されたものであるのに対し、引用例1記載の発明は、半導体チップに集積化されたものではない点。

〈相違点2〉
「制御回路」は、本願発明では、「運転するコンバータには前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号を供給し、停止するコンバータに対して前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号をオフに固定する制御を行う制御回路」を有するものであるのに対し、引用例1記載の発明は、「運転するコンバータを動作させ、停止するコンバータに対して動作を停止する制御を行う」ものの、コンバータのスイッチング素子をどのように制御するのか特定されていない点。

〈相違点3〉
本願発明は、「負荷電流と並列運転するコンバータの出力電圧との特性が、軽負荷時の出力電圧が跳ね上がる領域と、過電流保護による垂下領域との間の、負荷電流に対する出力電圧が所定の傾きを有する領域で動作させ、並列運転時の各々のコンバータの負荷を均一化させる制御を行」うものであるのに対して、引用例1記載の発明は、そのような制御を行うものではない点。

〈相違点4〉
本願発明は、「コンバータの並列運転数nを、検出された前記負荷電流値を、使用する前記コンバータの電力変換効率が最大となる電流値である、定格負荷の所定割合又は定格負荷近傍の電流値で除した整数として求め」るのに対して、引用例1記載の発明は、「出力端子4から出力される総出力電流」「I_(TOTAL) 」を「DC/DCコンバータ2a?2dの単体の定格出力電流」「I_(oMAX)」で除した整数として求める点。

4.判断

〈相違点1について〉
周知例2の上記摘記事項k)に記載されるように、複数のコンバータを1つの半導体チップに集積化することは、本願出願前周知技術であり、引用例1記載の発明の「DC/DCコンバータ2a?2d」を半導体チップに集積化することは、当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項にすぎない。
したがって、引用例1記載の発明に上記周知技術を適用して、本願発明の上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は、平成28年9月20日付け意見書において、「複数のセル化したコンバータを個別にフィードバック制御する方式について検討しますと、引用例1等の方式では制御部が複雑化する、という問題があります(本願明細書段落【0013】)。セル化コンバータの制御に関する課題の認識は、引用例1等にはいっさい開示も示唆もされておりません。」と主張している。
しかしながら、引用例1には、「電流検出回路3は出力端子4から出力される総出力電流を検出し、DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7に出力し」、「DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7はDC/DCコンバータ2a?2dに対しオン信号を出力し」、「DC/DCコンバータオン/オフ制御回路7は、」「動作しているDC/DCコンバータの数を制御する」ものである引用例1記載の発明が記載されており、引用例1記載の発明の「制御回路7」の行う制御方式は、本願発明の「制御回路」の行う制御方式に比して複雑化したものとは認められない。

〈相違点2について〉
引用例2記載の技術は、動作させる電圧変換回路(コンバータ)にデューティを有する駆動信号を供給、すなわち、「運転するコンバータには前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号を供給」し、また、停止させる電力変換回路(コンバータ)のイネーブル信号をローレベルに非活性化させ、スイッチング素子をオフ状態に維持する、すなわち、「停止するコンバータに対して前記コンバータのスイッチング素子をオン・オフさせる信号をオフに固定する制御を行う」技術といい得るものである。
そして、DC/DCコンバータにおいて、スイッチング素子を備え、スイッチング素子をオン・オフ制御することにより、出力を制御することは周知であって、引用例1記載の発明においても、上記引用例2に記載された技術は有用かつ採用可能であり、また、採用を妨げる事情はないから、引用例1記載の発明に上記引用例2に記載された技術を適用して、本願発明の上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

〈相違点3について〉
周知例1の上記摘記事項i)、j)に記載されるように、「コンバータが並列接続されて構成される電源装置において、負荷電流に対する出力電圧が所定の傾きを有する領域でコンバータを動作させ、並列運転時の各々のコンバータの負荷を均一化させる制御」を行うことは、本願出願前周知技術である。
そして、引用例1記載の発明においても、上記周知技術は有用かつ採用可能であり、また、採用を妨げる事情はないから、引用例1記載の発明に上記周知技術を適用して、「負荷電流に対する出力電圧が所定の傾きを有する領域で動作させ、並列運転時の各々のコンバータの負荷を均一化させる制御を行」うものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、引用例1記載の発明のコンバータは、定格電流付近で駆動されるものであるから、引用例1記載の発明が「軽負荷時の出力電圧が跳ね上がる領域と、過電流保護による垂下領域との間」の領域で動作させるものであることは、明らかである。
したがって、引用例1記載の発明に上記周知技術を適用して、本願発明の上記相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

〈相違点4について〉
引用例1記載の発明は、「DC/DCコンバータの並列運転装置では、常にDC/DCコンバータの個数分の固定損失P_(c) が存在」するため、「負荷に供給される総電力P_(o)が小さい場合、固定損失Pc は総電力P_(o) に対し相対的に大きくなるため、電力変換効率ηの低下の原因」となり、「従来のDC/DCコンバータの並列運転装置では、常にDC/DCコンバータの個数分の固定損失P_(c )が存在するため、軽負荷の場合、電力変換効率が著しく低下するという欠点があった」ことを課題(【0007】参照)とし、「負荷の軽いときには動作させるDC/DCコンバータの数を制限し、固定損失を減少させることにより、軽負荷の場合でも効率よく電力変換する」効果(【0044】参照)を得るものであるから、動作させるDC/DCコンバータ自体も、最も電力変換効率が高い電流値で動作するように制御するのが自然であり、また、例えば、特開2009-171711号公報に「すなわち、一般的に電源装置に用いられる電力変換器は、図8に示すように、負荷が最大定格出力に近い状態だと最も電力変換率が良くなるように設計されている」(【0005】参照)と記載されるように、定格出力に近い状態で電力変換効率が最も良くなることは周知であることを考慮すれば、引用例1記載の発明において「コンバータの並列運転数」を求めるために用いる「コンバータの単体の定格出力電流」の値を「使用する前記コンバータの電力変換効率が最大となる電流値である、定格負荷の所定割合又は定格負荷近傍の電流値」に代えることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。
したがって、引用例1記載の発明において、本願発明の上記相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明が奏する作用、効果についてみても、引用例1記載の発明に上記引用例2に記載された技術及び上記各周知技術を適用したものから当業者が予想できる程度のものである。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2に記載された技術及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-18 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2011-72344(P2011-72344)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 貴行中里 翔平  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 山田 正文
山澤 宏
発明の名称 電源装置  
代理人 加藤 朝道  

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