ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G03F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F |
---|---|
管理番号 | 1323121 |
審判番号 | 不服2015-14036 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-24 |
確定日 | 2016-12-26 |
事件の表示 | 特願2011-187941「1級アルカノールアミンを含むLCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日出願公開,特開2012-118502〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2011-187941号(優先権主張 平成22年12月2日 大韓民国,以下「本件出願」という。)は,平成23年8月30日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。 平成25年 4月26日:拒絶の理由(同年5月14日発送) 平成25年11月14日:意見書 平成25年11月14日:手続補正(1) 平成26年 2月 6日:拒絶の理由(同年同月18日発送) 平成26年 6月18日:意見書 平成26年 6月18日:手続補正(2) 平成26年10月10日:拒絶の理由(同年同月21日発送,以下「原査定の拒絶の理由」という。) 平成27年 2月18日:意見書 平成27年 2月18日:手続補正(3) 平成27年 3月17日:手続補正(3)の補正の却下の決定 平成27年 3月17日:拒絶査定(同年同月24日発送) 平成27年 7月24日:審判請求 平成27年 7月24日:手続補正(以下「本件補正」という。) 第2 補正の却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本願発明」という。)。 「(a)アルカノールアミン1?20重量%; (b)アルコール10?60重量%; (c)水0.1?50重量%; (d)極性有機溶剤5?50重量%;及び (e)腐食防止剤0.01?3重量%;を含み, ここで,アルカノールアミンが,モノエタノールアミン(Monoethanol amine),モノイソプロパノールアミン(Monoisopropanol amine),2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(2-amino-2-methyl-1-propanol)および2-メチルアミノエタノール(2-Methylaminoethanol)からなる群から選ばれた1種以上であり, アルコールが,エチレングリコール(Ethylene Glycol),1-ヘキサノール(1-Hexanol),オクタノール(Octanol),1-ヘプタノール(1-Heptanol),1-デカノール(1-Decanol),2-ヘプタノール(2-Heptanol)及びテトラヒドロフルフリルアルコール(Tetrahydrofurfurylalcohol)からなる群から選ばれた1種以上であり, 極性有機溶剤が,N-メチルピロリドン(N-methylpyrollidone,NMP),スルホラン(Sulfolane),ジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide,DMSO),ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide,DMAC),モノメチルホルムアミド(Monomethylformamide),ジエチレングリコールモノメチルエーテル(Diethyleneglycolmonomethylether),ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Diethyleneglycolmonoethylether),ジエチレングリコールモノブチルエーテル(Diethyleneglycolmonobutylether)及びトリエチレングリコールエーテル(Triethyleneglycolether)からなる群から選ばれた1つ以上であり, 腐食防止剤が,C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物を含み,環を構成する炭素が,N,O及びSからなる群から選ばれた一つ以上の原子で置換されてなり,該ヘテロ環の炭素原子にメルカプト基が置換されている,LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本件補正後発明」という。)。 「(a)アルカノールアミン1?20重量%; (b)エチレングリコール,オクタノール,1-ヘプタノール,1-デカノール,2-ヘプタノール及びテトラヒドロフルフリルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種,10?60重量%; (c)水0.1?50重量%; (d)極性有機溶剤5?50重量%;及び (e)腐食防止剤0.01?3重量%;を含み, ここで,アルカノールアミンが,モノエタノールアミン(Monoethanol amine),モノイソプロパノールアミン(Monoisopropanol amine),2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(2-amino-2-methyl-1-propanol)および2-メチルアミノエタノール(2-Methylaminoethanol)からなる群から選ばれた1種以上であり, 極性有機溶剤が,N-メチルピロリドン(N-methylpyrollidone,NMP),スルホラン(Sulfolane),ジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide,DMSO),ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide,DMAC),およびモノメチルホルムアミド(Monomethylformamide)からなる群から選ばれた1つ以上であり,および 腐食防止剤が,C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物からなり,環を構成する炭素が,N,O及びSからなる群から選ばれた一つ以上の原子で置換されてなり,該ヘテロ環の炭素原子にメルカプト基が置換されている, LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物であって, 該組成物が,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールエーテルから選択される1種または2種以上のグリコール類を5?50重量%含有すること,および 該組成物が,AlおよびCu配線の腐食を防止すること を特徴とする,前記LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物。」 (3) 本件補正について 本件補正は,以下の補正事項からなる。 ア 補正事項1 「(b)アルコール」について,本件補正前は「(b)アルコール10?60重量%」及び「アルコールが,エチレングリコール(Ethylene Glycol),1-ヘキサノール(1-Hexanol),オクタノール(Octanol),1-ヘプタノール(1-Heptanol),1-デカノール(1-Decanol),2-ヘプタノール(2-Heptanol)及びテトラヒドロフルフリルアルコール(Tetrahydrofurfurylalcohol)からなる群から選ばれた1種以上であり」とされていたのを,「(b)エチレングリコール,オクタノール,1-ヘプタノール,1-デカノール,2-ヘプタノール及びテトラヒドロフルフリルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種,10?60重量%」とする。 (当合議体注:選択肢が減じられている。) イ 補正事項2 「(d)極性有機溶剤」について,本件補正前は「(d)極性有機溶剤5?50重量%」及び「極性有機溶剤が,N-メチルピロリドン(N-methylpyrollidone,NMP),スルホラン(Sulfolane),ジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide,DMSO),ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide,DMAC),モノメチルホルムアミド(Monomethylformamide),ジエチレングリコールモノメチルエーテル(Diethyleneglycolmonomethylether),ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Diethyleneglycolmonoethylether),ジエチレングリコールモノブチルエーテル(Diethyleneglycolmonobutylether)及びトリエチレングリコールエーテル(Triethyleneglycolether)からなる群から選ばれた1つ以上であり」とされていたのを,「(d)極性有機溶剤5?50重量%」及び「極性有機溶剤が,N-メチルピロリドン(N-methylpyrollidone,NMP),スルホラン(Sulfolane),ジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide,DMSO),ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide,DMAC),およびモノメチルホルムアミド(Monomethylformamide)からなる群から選ばれた1つ以上であり」とする。 (当合議体注:選択肢が減じられている。) ウ 補正事項3 「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」について,「該組成物が,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールエーテルから選択される1種または2種以上のグリコール類を5?50重量%含有する」という事項を加える。 (当合議体注:これら選択肢は,本件補正前は極性有機溶剤として挙げられていたものである。なお,改行は取って表記した。) エ 補正事項4 「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」について,「該組成物が,AlおよびCu配線の腐食を防止する」という事項を加える。 2 新規事項違反 (1) 補正事項1について 補正事項1により,(b)成分について,「アルコール」が削除された。 ここで,化学において「アルコール」とは,通常,「炭化水素の水素原子を水酸基で置換した形の化合物の総称。」(広辞苑6版)を意味する。しかしながら,本願発明においては,「(b)アルコール」のみならず,「(a)アルカノールアミン」もアルコールであり,また,「(d)極性有機溶剤」の選択肢にもアルコールが含まれている(例:ジエチレングリコールモノメチルエーテル)。したがって,本願発明でいう「アルコール」の技術的意義は,通常の「アルコール」の技術的意義とは異なる(化学的に「アルコール」であることに加えて,さらなる技術的意義がある)と解するのが相当である。そこで,「アルコール」の技術的意義を参酌するとともに,補正事項1が,本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内でしたものであるかを確認するために,当初明細書等を参照する。 アルコールに関して,当初明細書等の段落【0020】には,「アルコールを添加しない場合,腐食防止及び剥離能力には影響を与えないが,剥離工程進行時,工程温度(40℃以上)と装備内の排気圧により水が揮発されて剥離液の寿命が短縮される。従って,LCDフォトレジスト剥離工程進行時,剥離液の使用時間に応じて適当量のアルコールを混合して使用すればよい。」と記載されている。また,背景技術として,段落【0005】には,「水を含むフォトレジスト剥離液を用いてTFT-LCDフォトレジスト剥離工程を進行する場合,使用時間によって水が揮発するため,剥離液内の水の含有量が変化して,腐食防止剤の腐食防止能力及びフォトレジスト剥離能力が急激に変わる。」と記載されている。 そうしてみると,当初明細書等におけるアルコールとは,「剥離工程進行時,工程温度(40℃以上)と装備内の排気圧により水が揮発されて剥離液の寿命が短縮される」ことを防止するためのものである。すなわち,当初明細書等において「10?60重量%」と規定された「(b)アルコール」の量は,「0.1?50重量%」と規定された「(c)水」の含有量や,剥離液の使用時間を考慮して定められるものであった。 ところが,本件補正の補正事項1により,(b)成分について,特許請求の範囲から「アルコール」が削除された。その結果,本件補正後発明の(b)成分,例えば,「エチレングリコール」は,「(c)水」の含有量や,剥離液の使用時間を考慮して定められるものとは限らなくなった。 例えば,本件補正後発明は,(b)成分の「エチレングリコール」の量を,極性有機溶剤としての機能的側面から決定しても良いものとなった。その結果,本件補正後発明は,極性有機溶剤が,50重量%を越えて含まれても良いものとなった(例:(b)成分のエチレングリコール30重量%及び(d)成分のN-メチルピロリドン30重量%で,併せて60重量%の極性有機溶媒が含まれても良いものとなった。)。なお,(b)成分として挙げられている「エチレングリコール」が極性有機溶剤として使用可能なものであることは,技術常識である(必要ならば,特開2001-250276号公報(原査定の拒絶の理由の引用文献1)の段落【0020】の実施例7を参照。)。 しかしながら,このような事項は当初明細書等に記載されていない。 以上のとおりであるから,補正事項1は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。 (2) 補正事項3について 補正事項3についても,同様である。 すなわち,補正事項3により「ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールエーテルから選択される1種または2種以上のグリコール類」(以下「(f)グリコール類」という。)は,極性有機溶剤として組成物に加えられるものとは特定されなくなり,その機能が特定されない化合物として,組成物に加えられるものとなった。 しかしながら,当初明細書等に開示された「(f)グリコール類」は,(A)極性有機溶剤としての「(f)グリコール類」(段落【0012】)又は(B)剥離後における洗浄力の向上のための「(f)グリコール類」(段落【0018】)であって,(C)その機能が特定されない「(f)グリコール類」は開示されていない。 以上のとおりであるから,補正事項3は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。 なお,補正事項2により,本件補正前の「(d)極性有機溶剤」に該当する化合物の選択肢から,本件補正後に「(f)グリコール類」として列挙された化合物が削除されている。そうしてみると,補正事項3は,本件補正前の「(d)極性有機溶剤」を,単に2つに分けて書き改める意図があったものと,善解できるかもしれない。 しかしながら,このように解した場合には,「(d)極性有機溶剤」の分量の上限(50重量%)と「(f)グリコール類」の分量の上限(50重量%)の合算が,当初明細書等に開示された「(d)極性有機溶剤」の分量の上限(50重量%)を越えることとなる。 いずれにせよ,補正事項3は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。 請求人は,審判請求書(補正後)において,グリコール類は極性有機溶剤として記載されていなかったと主張する(3.手続補正について)。 しかし,グリコール類が極性有機溶剤として記載されていないことは,機能が特定されないグリコール類が記載されていたことの根拠にはならない。 なお,段落【0012】には,「上記極性有機溶剤は,R-O(CH_(2)CH_(2)O)Hの化学式(ここで,上記Rは,線状炭化水素,分岐炭化水素又は環状炭化水素のうちの何れか一つである)を有するグリコールを含有する」と記載されている。この記載には,「(CH_(2)CH_(2)O)」の後に繰り返しを表す「n」が記載されていない等の誤記があるものの,当初明細書等に開示された各化合物に照らし合わせて検討すると,この記載は,「(f)グリコール類」を意図して記載したものと解するのが妥当である。したがって,当初明細書には,極性有機溶媒としての「(f)グリコール類」も開示されていたと考えるのが相当である。 (3) 小括 本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 3 目的要件違反 (1) 補正事項3について 補正事項3は,「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」の組成に関するものである。ここで,本件補正前の「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」は,「(a)アルカノールアミン」,「(b)アルコール」,「(c)水」,「(d)極性有機溶剤」及び「(e)腐食防止剤」を含むものとされていた(剥離後における洗浄力の向上のための「(f)グリコール類」は任意成分であった。)。これに対して,本件補正後の「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」は,「(a)アルカノールアミン」,「(b)アルコール」,「(c)水」,「(d)極性有機溶剤」及び「(e)腐食防止剤」に加えて,その機能が特定されない「(f)グリコール類」を含むものとなった。 そうしてみると,本件補正は,「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」について,その機能が特定されない「(f)グリコール類」という新たな成分を追加する補正であるから,本件補正は,特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるということができない。 したがって,本件補正は,同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものであるということができない。 なお,補正事項2により,本件補正前の「(d)極性有機溶剤」に該当する化合物の選択肢から,本件補正後に「(f)グリコール類」として列挙された化合物が削除されている。そうしてみると,補正事項3は,本件補正前の「(d)極性有機溶剤」を,単に2つに分けて書き改める意図があったものと,善解できるかもしれない。 しかしながら,このように解した場合には,「(d)極性有機溶剤」の分量の上限(50重量%)と「(f)グリコール類」の分量の上限(50重量%)の合算が,本件補正前の「(d)極性有機溶剤」の分量の上限(50重量%)を越えることとなり,本件補正は,特許請求の範囲の拡張となる。 いずれにせよ,本件補正は,同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものであるということができない。 また,本件補正が,36条5項に規定する請求項の削除(17条の2第5項1号),誤記の訂正(同条同項3号),明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)(同条同項4号)のいずれにも該当しないことは,明らかである。 (2) 審判請求人の主張について 補正事項2及び3に係る補正について,審判請求人は,誤記の訂正であると主張する。 しかしながら,「(f)グリコール類」は極性有機溶剤であるから,本件補正前の「(d)極性有機溶剤」として列挙された化合物の選択肢の中に,「(f)グリコール類」に該当するものが含まれていることが,誤記であるということはできない。 請求人は,発明の詳細な説明の段落【0017】及び【0018】に,それぞれ,「極性有機溶剤としては,N-メチルピロリドン…等を5?50重量%単独又は混合使用することができる。」及び「剥離後における洗浄力の向上のために,グリコール類は,ジエチレングリコールモノエチルエーテル…等を20%?60%単独又は混合使用することができる。」という記載があることを根拠に,発明の詳細な説明には,グリコール類は極性有機溶剤として記載されていなかったと主張する。 しかしながら,上記2(2)で述べたとおり,当初明細書等には,(A)極性有機溶剤としての「(f)グリコール類」と,(B)剥離後における洗浄力の向上のための「(f)グリコール類」が開示されていた。そうしてみると,誤記の訂正前の特許請求の範囲の記載が誤りで,誤記の訂正後の特許請求の範囲の記載が正しいことが,明細書及び図面の記載や当業者の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるということはできない。 したがって,本件補正が,「誤記の訂正」,すなわち,「本来その意であることが明細書,特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを,その意味内容の字句・語句に正す」ことを目的とするものということはできない。 (3) 小括 本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 4 独立特許要件違反 本件補正のうち補正事項2は,「(d)極性有機溶剤」の選択肢を削除する補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正である。 そこで,念のために,独立特許要件違反についても判断すると,以下のとおりとなる。 (1) 引用例1の記載 本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布され,原査定の拒絶の理由で引用された特開2001-350276号公報(【公開日】平成13年12月21日,【発明の名称】フォトレジスト剥離剤組成物及びその使用方法,【出願番号】特願2000-167081号,【出願日】平成12年6月5日,【出願人】ナガセ化成工業株式会社,以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,半導体集積回路,液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられるフォトレジスト剥離剤組成物及びその使用方法,詳しくは,半導体基板上又は液晶用ガラス基板上に配線を形成する時に不要となったフォトレジストを高性能で除去し,かつ,配線材料の腐食を発生させないフォトレジスト剥離剤組成物及びその使用方法に関するものである。」 イ 「【0002】 【従来の技術】剥離剤組成物は,半導体集積回路,液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられるフォトレジストを剥離する際に用いられる。半導体素子回路又は付随する電極部の製造は,以下のように行われる。まず,シリコン,ガラス等の基板上にAl等の金属膜をCVDやスパッタ等の方法で積層させる。その上面にフォトレジストを膜付けし,それを露光,現像等の処理でパターン形成する。パターン形成されたフォトレジストをマスクとして金属膜をエッチングする。その後,不要となったフォトレジストを剥離剤組成物を用いて剥離・除去する。その操作を繰り返すことで素子の形成が行われる。 【0003】従来,剥離剤組成物としては,有機アルカリ,無機アルカリ,有機酸,無機酸,極性溶剤等の単一溶剤,これらの混合溶液が用いられている。また,フォトレジスト剥離性を向上させるために,アミンと水との混合液を剥離剤として用いることも良く知られている。 【0004】また,特開平5-259066号公報には,有機アミンと水との混合液に防食剤を添加した剥離剤が記載されている。具体的には,芳香環式フェノール化合物および芳香環式カルボン酸化合物よりなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と有機アミンを含有する水溶液からなるフォトレジスト剥離液が記載されている。」 ウ 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】例えば,現在,良く知られているモノエタノールアミン(MEA)と溶剤との混合物からなる非水の剥離剤では,Alを腐蝕しない。しかしながら,非水の剥離剤は,フォトレジストの剥離・除去性が水含有の剥離剤より劣り,また熱又は酸等の薬液での処理,あるいはプラズマ状態に曝されることにより変質したフォトレジスト膜の剥離・除去性が水含有の剥離剤より劣る。更に,非水の剥離剤はより高い温度条件下で使用しなければならない。一方,モノエタノールアミンと水との混合液からなる剥離剤は,Alを腐蝕しやすいので好ましくない。 【0006】また特開平5-259066号公報記載のフォトレジスト用剥離液においては,極性有機溶剤が含まれていないことによりフォトレジスト除去性能が十分ではない。また,この公報に記載されている有機アミンとして四級アンモニウム化合物を使用した場合,Alを腐蝕させてしまう。更にクレゾール,レゾルシノール,カテコール等の芳香環式化合物はAl防食能が十分でなく,かつ,それらをフォトレジスト剥離剤組成物の成分とした場合,変質したフォトレジスト膜の除去性が低下するという問題がある。 【0007】これらの点に鑑み,本発明者は種々の実験を重ねた結果,一級,二級もしくは三級のアルキルアミン又は一級,二級もしくは三級のアルカノールアミンと極性有機溶剤と水との混合液からなる剥離剤に,変質したフォトレジスト膜の除去性を低下させず,かつ防食効果のある化合物を添加することにより,Alの腐蝕を阻止又は大幅に抑制し,なおかつ,優れた剥離・除去性を維持できることを見出した。」 エ 「【0015】また,極性有機溶剤としては,メチルセロソルブ,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブ,メチルセロソルブアセテート,エチルセロソルブアセテート,メトキシメチルプロピオネート,エトキシエチルプロピオネート,プロピレングリコールメチルエーテルアセテート,乳酸メチル,乳酸エチル,乳酸ブチル,乳酸イソプロピル,ピルビン酸エチル,2-ヘプタノール,3-メチル-1-ブタノール,2-メチル-1-ブタノール,2-メチル-2-ブタノール,メチルジグライム,メチルイソブチルケトン,メチルアミルケトン,シクロヘキサノン,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGMEE),ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール,BDG),ピリジン,ジメチルスルホキサイド,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチル-2-ピロリドン(NMP),γ-ブチロラクトン,スルホラン,1,2-エタンジオール(EG),1,2-プロパンジオール,3-メチル-1,3-ブタンジオール,2-メチル-1,3-プロパンジオール,1,3-ブタンジオール,1,4-ブンタンジオール,グリセリン等を用いることができる。」 オ 「【0017】 【実施例】以下に実施例及び比較例を示し,本発明の特徴とするところをより一層明確にする。」 カ 「【0018】…(省略)…表1,表2において,MDEAはN-メチル-N,N-ジエタノールアミンを示し,MEAはモノエタノールアミンを示し,DEAEはN,N-ジエチルエタノールアミン(ジエチルアミノエタノール)を示し,NMEAはN-メチルエタノールアミンを示し,BDGはジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール)を示し,NMPはN-メチル-2-ピロリドンを示し,DEGMEEはジエチレングリコールモノエチルエーテルを示し,EGは1,2-エタンジオールを示し,TMAHはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドを示し,3-APyは3-アミノピリジンを示している。」 キ 「【0019】 【表1】 【0020】 【表2】 」 ク 「【0023】これに対して,一級,二級もしくは三級のアルキルアミン又は一級,二級もしくは三級のアルカノールアミンと極性有機溶剤と水とを主成分とする組成に環を構成する元素が窒素と炭素からなる複素環式水酸基含有化合物のうち1種,又はそれらの混合物を添加した剥離剤組成物(実施例1?29)では,Alの腐蝕を阻止でき,しかも,優れたフォトレジスト剥離性を維持できることがわかる。 【0024】つぎに,本発明のフォトレジスト剥離剤組成物の使用方法の一例について説明する。半導体基板上又は液晶ガラス基板上に金属薄膜をCVDやスパッタ等により形成させる。その上面にフォトレジストを膜付けした後,露光,現像等の処理でパターン形成する。パターン形成されたフォトレジストをマスクとして金属薄膜をエッチングする。その後,不要となったフォトレジストを本発明の剥離剤組成物を用いて剥離・除去して配線等が形成された半導体素子が製造される。」 (2) 引用発明 引用例1には,実施例7(段落【0020】の【表2】)として,以下のフォトレジスト剥離剤組成物の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「【0020】【表2】 アルキルアミン又はアルカノールアミンとして,MEA(モノエタノールアミン)を20.0重量%, 極性有機溶剤として,DEGMEE(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)を29.5重量%,及びEG(1,2-エタンジオール)を29.5重量%, 水を20.0重量%, Al防食剤として,2,3-ピリジンジオールを1.0重量%含み, 【0001】半導体集積回路,液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられる, フォトレジスト剥離剤組成物。」 (3) 引用例2の記載 本件出願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由で引用された特開2002-72505号公報,【公開日】平成14年3月12日,【発明の名称】フォトレジスト剥離剤組成物およびその使用方法,【出願番号】特願2000-259854号,【出願日】平成12年8月29日,【出願人】ナガセ化成工業株式会社,以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 一級,二級もしくは三級のアルキルアミンまたは一級,二級もしくは三級のアルカノールアミンと,水と,2-メルカプトベンゾイミダゾールを主成分とする,フォトレジスト剥離剤組成物。 【請求項2】 さらに極性有機溶剤を含有する,請求項1に記載のフォトレジスト剥離剤組成物。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,半導体集積回路,液晶パネルの半導体素子回路などの製造に用いられるフォトレジスト剥離剤組成物およびその剥離剤組成物を用いるフォトレジストの剥離方法に関するものである。さらに詳しくは,半導体素子回路の配線材料の一つである銅の腐食を抑え,かつ,不要となったフォトレジストを高性能で除去するフォトレジスト剥離剤組成物に関するものである。」 ウ 「【0002】 【従来の技術】従来,IC,LSIなどの半導体素子や液晶パネル素子は,基板上に形成されたアルミニウム,アルミニウムの合金などの導電性金属膜あるいはSiO_(2)膜などの絶縁膜上にレジストパターンを形成し,このパターンをマスクとして前記導電性金属膜や絶縁膜を選択的にエッチングし,微細回路を形成した後,不要のレジストパターン屑を剥離剤で除去する工程で製造されている。 【0003】上記レジストを除去するための剥離剤は種々あるが,その中でもモノエタノールアミンなどの有機アミン化合物を主成分とする有機アミン系剥離剤が汎用されている。この有機アミン系剥離剤の特徴は,比較的毒性が低く,廃液処理に煩雑な処理が必要でなく,ドライエッチング,アッシング,イオン注入などの処理で形成される変質したレジスト膜の剥離性に優れている点にある。 【0004】このような特徴を有する有機アミン系剥離剤を剥離剤として基板を処理する場合,まず,有機アミン系剥離剤でレジストパターン層を除去し,次に,この有機アミン系剥離剤を,純水を用いて洗浄・除去処理を行なうのが一般的である。しかし,純水による洗浄では剥離剤を短時間で完全に除去することが難しく,また,洗浄時間が長くなると,金属の腐食が発生し易くなる。そのため,純水による洗浄処理に先立って,有機アミン系剥離剤を有機溶剤で洗浄するリンス処理が一般的に行われている。 【0005】他方,有機アミン系剥離剤の導電性金属膜に対する防食効果を高めるために,有機アミン系剥離剤に防食剤を含有させることが検討されている。例えば,特開平1-88548号公報には,ブチンジオールを防食剤として含有し,モノエタノールアミン,グリコールモノアルキルエーテル,ブチンジオール,および水から成る剥離剤が提案されている。 【0006】ところで,近年,銅が高い導電性を有し,配線遅延が解消されるという理由から,配線材料として銅を使用した半導体素子,液晶パネル素子が開発されつつある。この特開平1-88548号公報に記載された防食剤はアルミニウムおよびアルミニウムの合金に対しては防食効果があるものの,アルミニウムまたはアルミニウムの合金よりも導電性に優れた配線材料である銅に対しては,防食効果が認められない。」 エ 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】そこで,レジストの溶解性,さらにはドライエッチング,アッシング,イオン注入などの処理で形成される変質したレジスト膜の剥離性に優れ,銅に対し防食効果の高い剥離剤が望まれている。」 オ 「【0008】 【課題を解決するための手段】こうした状況に鑑み,本発明者などは鋭意研究を重ねた結果,一級,二級もしくは三級のアルキルアミンまたは一級,二級もしくは三級のアルカノールアミン,2-メルカプトベンゾイミダゾールおよび水,さらに必要に応じ極性有機溶剤を主成分とする剥離剤が,銅の腐食がなく,レジストの除去性にも優れることを見出した。」 カ 「【0015】本発明に用いられる一級,二級もしくは三級のアルカノールアミンとしては,モノエタノールアミン(MEA),N,N-ジメチルエタノールアミン,アミノエチルエタノールアミン,N-メチル-N,N-ジエタノールアミン(MDEA),N,N-ジブチルエタノールアミン,N-メチルエタノールアミン(NMEA),3-アミノ-1-プロパノールアミン,N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。 【0016】なかでも,トリエチレンテトラミン,モノエタノールアミン(MEA),N,N-ジエチルエタノールアミン(DEEA), N-メチルエタノールアミン(NMEA)が,入手が容易であり,好ましく用いられる。 【0017】本発明に用いられる極性有機溶剤としては,メチルセロソルブ,エチルセロソルブ,ブチルセロソルフ,メチルセロソルブアセテート,エチルセロソルブアセテート,メトキシメチルプロピオネート,エトキシエチルプロピオネート,プロピレングリコールメチルエーテルアセテート,乳酸メチル,乳酸エチル,乳酸ブチル,乳酸イソプロピル,ピルビン酸エチル,2-へプタノール,3-メチル-1-ブタノール,2-メチル-1-ブタノール,2-メチル-2-ブタノール,メチルジグライム,メチルイソブチルケトン,メチルアミルケトン,シクロヘキサノン,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGMEE),ジエチレングリコールモノプロピルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール,BDG),ピリジン,ジメチルスルホキサイド(DMSO),N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC),N-メチル-2-ピロリドン(NMP),γ-ブチロラクトン,スルホラン,1,2-エタンジオール(EG),1,2-プロパンジオール,3-メチル-1,3-ブタンジオール,2-メチル1,3-プロパンジオール,1,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,グリセリンなどが挙げられる。中でも,ジエチレングリコールモノブチルエーテルがレジストの溶解性,安全性に優れているところから好ましい。」 キ 「【0018】さらに,上記フォトレジスト剥離剤組成物は,アルミニウムおよびアルミニウム合金などに対する防食性を高めるために,さらに防食剤を含有することができる。」 (4) 引用例2記載発明 引用例2の請求項1及び2に対応する段落【0008】には,以下の技術が記載されている(以下「引用例2記載発明」という。)。 「一級,二級もしくは三級のアルキルアミンまたは一級,二級もしくは三級のアルカノールアミン,2-メルカプトベンゾイミダゾールおよび水,さらに必要に応じ極性有機溶剤を主成分とし,銅の腐食がなく,レジストの除去性にも優れる,フォトレジスト剥離剤組成物。」 (5) 対比 本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。 ア (a)アルカノールアミン 引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,「アルカノールアミンとして,MEA(モノエタノールアミン)を20.0重量%」含む。また,引用発明の「モノエタノールアミン」は,本件補正後発明の「(a)アルカノールアミン」の選択肢に含まれている。 したがって,引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,本件補正後発明の「(a)アルカノールアミン1?20重量%」の要件を満たす。 イ (b)成分 引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,「EG(1,2-エタンジオール)を29.5重量%」含む。また,引用発明の「EG(1,2-エタンジオール)」は,本件補正後発明の「(b)」の選択肢に含まれている(当合議体注:「1,2-エタンジオール」は,「エチレングリコール」の別名である。)。 したがって,引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,本件補正後発明の「(b)エチレングリコール…10?60重量%」の要件を満たす。 なお,引用発明において,「1,2-エタンジオール」は,「極性有機溶剤」とされている。しかしながら,引用発明の「1,2-エタンジオール」は,化学的には「極性」を持つ「有機」の「溶媒」であるとしても,本件補正後発明の「極性有機溶剤」には該当しない(要件を満たさない)ものである。 ウ (c)水 引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,「水を20.0重量%」含む。 したがって,引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,本件補正後発明の「(c)水0.1?50重量%」の要件を満たす。 エ (e)腐食防止剤 引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,「2,3-ピリジンジオールを1.0重量%」含む。 ここで,引用発明の「2,3-ピリジンジオール」は,「Al防食剤として」「フォトレジスト剥離剤組成物」に含まれるものであるから,「腐食防止剤」である。また,「2,3-ピリジンジオール」は,本件補正後発明の「C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物からなり,環を構成する炭素が,N,O及びSからなる群から選ばれた一つ以上の原子で置換されてなり」という要件を満たす。加えて,その分量も,本件補正後発明の「0.01?3重量%」の要件を満たす。 そうしてみると,引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」と,本件補正後発明の「(e)腐食防止剤」とは,「(e)腐食防止剤0.01?3重量%」を含み,「腐食防止剤が,C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物からなり,環を構成する炭素が,N,O及びSからなる群から選ばれた一つ以上の原子で置換されてなり」という点で共通する。 オ (f)グリコール類 引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,「DEGMEE(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)を29.5重量%」含む。また,引用発明の「DEGMEE(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)」は,本件補正後発明の「(f)グリコール類」の選択肢に含まれている。 したがって,引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,本件補正後発明の「(f)グリコール類」を「5?50重量%含有する」という要件を満たす。 カ LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物 引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,「半導体集積回路,液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられる」ものであるから,「LCD製造用」でもある。 したがって,引用発明の「フォトレジスト剥離剤組成物」は,本件補正後発明の「LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物」に相当する。 (6) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明は,以下の構成で一致する。 「(a)アルカノールアミン1?20重量%; (b)エチレングリコール,オクタノール,1-ヘプタノール,1-デカノール,2-ヘプタノール及びテトラヒドロフルフリルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種,10?60重量%; (c)水0.1?50重量%; (e)腐食防止剤0.01?3重量%;を含み, ここで,アルカノールアミンが,モノエタノールアミン(Monoethanol amine),モノイソプロパノールアミン(Monoisopropanol amine),2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(2-amino-2-methyl-1-propanol)および2-メチルアミノエタノール(2-Methylaminoethanol)からなる群から選ばれた1種以上であり, 腐食防止剤が,C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物からなり,環を構成する炭素が,N,O及びSからなる群から選ばれた一つ以上の原子で置換されてなる, LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物であって, 該組成物が,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びトリエチレングリコールエーテルから選択される1種または2種以上のグリコール類を5?50重量%含有する, 前記LCD製造用フォトレジスト剥離液組成物。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は,以下の構成で相違する。 (相違点1) 本件補正後発明の「腐食防止剤」は,C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物からなり,「該ヘテロ環の炭素原子にメルカプト基が置換されている」のに対して,引用発明の「Al防食剤」は,C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物からなるけれども,「該ヘテロ環の炭素原子にメルカプト基が置換されている」ものではない点。 (相違点2) 本件補正後発明は,「(d)極性有機溶剤5?50重量%」を含み,「極性有機溶剤が,N-メチルピロリドン(N-methylpyrollidone,NMP),スルホラン(Sulfolane),ジメチルスルホキシド(Dimethylsulfoxide,DMSO),ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide,DMAC),およびモノメチルホルムアミド(Monomethylformamide)からなる群から選ばれた1つ以上」であるのに対して,引用発明は,この要件を満たす極性有機溶剤を含まない点。 (相違点3) 本件補正後発明は,「該組成物が,AlおよびCu配線の腐食を防止する」とされているに対して,引用発明は,「Al防食剤として,2,3-ピリジンジオールを1.0重量%含む」から,「該組成物が,Al」「配線の腐食を防止する」としても,Cu配線の腐食を防止するとはいえない点。 (7) 判断 ア 相違点1及び3について LCD製造の際に使用するAl配線が,より高い導電性を有するCu配線へ置き換えられてきたことは,以下に例示されるように,本件出願の優先日時点における周知の技術的課題である。 (ア)引用例2 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,半導体集積回路,液晶パネルの半導体素子回路などの製造に用いられるフォトレジスト剥離剤組成物およびその剥離剤組成物を用いるフォトレジストの剥離方法に関するものである。さらに詳しくは,半導体素子回路の配線材料の一つである銅の腐食を抑え,かつ,不要となったフォトレジストを高性能で除去するフォトレジスト剥離剤組成物に関するものである。 …(省略)… 【0006】ところで,近年,銅が高い導電性を有し,配線遅延が解消されるという理由から,配線材料として銅を使用した半導体素子,液晶パネル素子が開発されつつある。この特開平1-88548号公報に記載された防食剤はアルミニウムおよびアルミニウムの合金に対しては防食効果があるものの,アルミニウムまたはアルミニウムの合金よりも導電性に優れた配線材料である銅に対しては,防食効果が認められない。」 (イ)特開2008-191631号公報(拒絶査定の引用文献3,以下「周知例1」という。) 「【0001】 本発明は半導体集積回路,プリント配線基板,液晶の製造工程におけるフォトレジスト層を除去するための除去剤に関するものである。 …(省略)… 【0005】 従来の半導体集積回路の配線材料としてはアルミニウムが用いられており,モノエタノールアミンはアルミニウム配線については問題なく使用することができた。しかし,近年,半導体集積回路の微細化が進み,配線材料は抵抗の大きいアルミニウムから抵抗の小さい銅へと変わりつつある。ところが,従来のレジスト剥離剤の主剤であったモノエタノールアミンは銅に対する腐食が大きく,銅配線プロセスへの使用は困難である。 【0006】 また液晶パネルなどのフラットパネルディスプレーでは,ゲート材料としてクロムが使用されてきたが,フラットパネルディスプレーにおいても,クロムより低抵抗の材料,すなわちアルミ,モリブデン,銅へと変わりつつある。フラットパネルディスプレーについても,従来の剥離剤の主原料であるモノエタノールアミンはダメージが大きかった。」 (ウ)特開2008-286881号公報(拒絶査定の引用文献4,以下「周知例2」という。) 「【0001】 本発明はフォトレジスト剥離剤組成物に関し,詳細には,液晶ディスプレイ(以下,LCDともいう。)等のフラットパネルディプレイ(以下,FPDともいう。)のCu又はCu合金配線基板及びAl又はAl合金配線基板製造に好適に使用される,防食性ならびに剥離性に優れるフォトレジスト剥離剤組成物に関する。 …(省略)… 【0006】 しかしCu又はCu合金配線形成工程は未だ移行期にあり,例えば液晶パネル素子製造現場において,一工場全てをCu又はCu合金配線形成工程のみにすることは,現実には難しい。そこで,従来,Al又はAl合金配線形成工程を行ってきた工場内の一部に,Cu又はCu合金配線形成工程用の製造ラインを導入するということが行われている。 …(省略)… 【0013】 本発明は上記諸事情に鑑みてなされたものであり,FPDのための配線基板製造工程において,基板上に形成されたAl又はAl合金配線を腐食させることなくAl又はAl合金配線形成工程におけるフォトレジストを剥離することができ,かつ,基板上に形成されたCu又はCu合金配線を腐食させることなくCu又はCu合金配線形成工程におけるフォトレジストを剥離することができるフォトレジスト剥離剤組成物を提供することを目的とする。」 (エ)国際公開2010/061701号(以下「周知例3」という。) 「[0001] 本発明は,防食性フォトレジスト剥離剤組成物に関し,特に,特定の防食剤を含有することにより,防食効果に優れた防食性フォトレジスト剥離剤組成物を提供するものである。 [0002] …(省略)… ところで,液晶ディスプレイにはアルミ配線が多く採用されているが,近年の液晶ディスプレイの大型化に伴い,コスト面やテレビの薄型化の観点からアルミニウムよりも抵抗値が小さい銅配線の採用が検討されている。そこでアルミニウムだけでなく銅に対しても優れた防食効果を有するレジスト剥離剤が望まれている。しかしながら,銅及びアルミニウムの両方に十分な防食効果を発揮できる防食処方をした剥離剤は,現在までに知られていない。 …(省略)… [0005] 本発明は,前記の課題を解決するためになされたもので,銅及びアルミニウムのいずれに対しても,幅広い温度域において,また,水の存在下及び不存在下のいずれにおいても,優れた防食効果を発現する防食性フォトレジスト剥離剤組成物を提供することを目的とする。」 また,本件出願の優先日時点において,引用例2記載発明が知られているところ,引用例2記載発明のフォトレジスト剥離剤組成物は,引用発明のフォトレジスト剥離剤組成物とアルキルアミン又はアルカノールアミン,水及び極性有機溶剤を含む点で共通し,これに2-メルカプトベンゾイミダゾールが入ることで,銅の腐食がなく,レジストの除去性にも優れた剥離剤となっている。また,2-メルカプトベンゾイミダゾールは,「C_(5)-C_(10)ヘテロ環式化合物を含み,環を構成する炭素が,N,O及びSからなる群から選ばれた一つ以上の原子で置換されてなり,該ヘテロ環の炭素原子にメルカプト基が置換されている」化合物である。 そうしてみると,アルミ配線のみならず銅配線への対応を考慮した当業者が,引用発明のフォトレジスト剥離剤組成物において2-メルカプトベンゾイミダゾールを採用し,相違点1を克服することは,容易に推考できたものである。なお,引用発明における防食剤の分量は1.0重量%であるから,引用発明の「2,3-ピリジンジオール」を「2-メルカプトベンゾイミダゾール」に置き換えた場合はもちろん,引用発明のフォトレジスト剥離剤組成物に2-メルカプトベンゾイミダゾールを追加した場合においても,その総量が引用発明に含まれていた防食剤の3倍以上になるとは考え難く,少なくとも,防食剤の分量を0.01?3重量%の範囲内とすることは,当業者が望む防食の程度とコストの兼ね合いで決定すれば良い事項にすぎない。 また,このようにしてなるフォトレジスト剥離剤組成物は,本件補正後発明の組成物の要件を全て満たすものとなるから,「AlおよびCu配線の腐食を防止する」効果を奏するものになる。 あるいは,特開2002-351093号公報(以下「周知例4」という。)の【0033】には,「必要に応じてさらに含有される防食剤としては,アルミニウムや銅に対する当業者が通常用いる防食剤,例えば,1,2,3-ベンゾトリアゾール,2-メルカプトベンゾイミダゾール…などが挙げられる。」と記載されている。また,特開2002-38197号公報(以下「周知例5」という。)の段落【0024】及び【0035】には,それぞれ,「薄膜金属層の腐蝕を低減する任意の腐食抑制剤が本発明における使用に適している。…腐食抑制剤がカテコール,(C_(1)-C_(6))アルキルカテコール,ベンゾトリアゾールまたは(C_(1)-C_(10))アルキルベンゾトリアゾール,2-メルカプトベンゾイミダゾールであるのが好ましく,ベンゾトリアゾールおよびtert-ブチルカテコールであるのがより好ましい。」及び「本発明の組成物は,金属,特に銅およびアルミニウムを含有する基体に対して実質的に非腐食性である。」と記載されている。 したがって,引用発明のフォトレジスト剥離剤組成物に2-メルカプトベンゾイミダゾールを追加した場合はもちろん,「2,3-ピリジンジオール」を「2-メルカプトベンゾイミダゾール」に置き換えた場合においても,当業者は,「AlおよびCu配線の腐食を防止する」効果を期待するといえる。 イ 相違点2について フォトレジスト剥離剤組成物の技術分野において,極性有機溶剤を2種類以上組み合わせて,剥離組成物の溶媒とすることは,以下に例示されるように,本件出願の優先日時点における周知慣用技術である。 (ア)特開2008-133529号公報(以下「周知例6」という。) 「【0035】 複数の極性溶媒の混合物は剥離組成物に有利に用いることができる。極性溶媒の混合物が用いられるとき,典型的に1種の溶媒はジメチルスルホキシド,スルホラン,およびジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選択される。」 (イ)特開2008-216296号公報(以下「周知例7」という。) 「【0021】本発明に使用される極性有機溶剤としては,例えば,ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG),N-メチルピロリドン(NMP),ジメチルアセトアミド(DMAC),プロピレングリコール(PG),ジメチルスルホキシド(DMSO)等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。これらのうち,ジエチレングリコールモノブチルエーテル,N-メチルピロリドン及びジメチルアセトアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。」 (ウ)特開平11-136627号公報(以下「周知例8」という。) 「【0008】本発明の剥離剤において用いられる水混和性溶媒としては,…ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル,N-メチルピロリドン,ジメチルスルホキシドなどが好適に使用される。これらの水混和性溶媒は単独で用いてもよく,二種以上を組み合わせて用いてもよい。」 そうしてみると,引用例1の段落【0017】には,本件補正後発明の「(d)極性有機溶剤」の選択肢に含まれる極性有機溶剤として,「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」,「スルホラン」,「ジメチルスルホキサイド」及び「N-ジメチルアセトアミド(DMAC)」(以下「NMP等」等。)が記載されているから,引用発明においてNMP等を追加することは,引用例1が示唆する範囲内の事項である。なお,引用例1の【0019】(表1)?【0020】(表2)の組成を参照すると,極性有機溶剤の分量は,残余分の分量を等分して設定されている。したがって,引用発明において,「DEGMEE(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)を29.5重量%」及び「EG(1,2-エタンジオール)を29.5重量%」にNMP等を追加する場合,分量は約19.7重量%で等分されることとなるから,分量においても,本件補正後発明の(b)成分,(d)極性有機溶媒及び(f)グリコール類の分量の要件を満たすものであり,少なくとも,本件補正後発明の分量の範囲とすることは,当業者における通常の試行錯誤の範囲内の事項にすぎない。 引用発明において,相違点2に係る構成を採用することは,引用例1に開示された選択肢の示唆に基づく周知慣用技術の付加にすぎない。 (8) 小括 本件補正後発明は,引用例1及び2に記載された発明,並びに,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 5 補正却下のまとめ 本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。また,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するものである。さらに,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。 したがって,本件補正は,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の優先日前に日本国又は外国において頒布された引用例1及び2に記載された発明に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用例に記載の事項及び引用発明について 引用例1及び2に記載の事項,並びに,引用発明及び引用例2記載発明については,前記「第2」4(1)?(4)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,(A)本件補正後発明の(b)成分が,「アルコール」であることを明らかにし,(B)本件補正後発明の「(b)極性有機溶剤」と「グリコール類」を併せて「(b)極性有機溶剤」とし(分量は5?50重量%のままとし),(C)「該組成物が,AlおよびCu配線の腐食を防止する」という事項を削除したものである。 ここで,(A)本件補正後発明の(b)成分に対応する引用発明の「EG(1,2-エタンジオール)」は,化学的にアルコールであるとともに,その分量が本願発明の「アルコール」の範囲内にあることから,本願発明でいう「アルコール」としても機能する。また,(B)引用発明の「DEGMEE(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)を29.5重量%」は,本願発明の「(b)極性有機溶剤」の選択肢に含まれ,分量も満たす。 そうしてみると,本願発明と引用発明は,前記「第2」4(6)イの相違点1において相違し,その余は一致することとなる。そして,相違点1についての判断は,前記「第2」4(7)に記載したとおりである。 そうしてみると,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 5 予備的見解 当合議体は,本件補正については却下するのが妥当と考えるが,仮に,本件補正を却下しない場合においては,本願発明は,前記「第2」1(2)に記載のとおりのものとなる。 しかしながら,この場合においては,前記「第2」4と同様の理由により,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明,並びに,周知技術に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 第4 まとめ いずれにせよ,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-07-29 |
結審通知日 | 2016-08-01 |
審決日 | 2016-08-16 |
出願番号 | 特願2011-187941(P2011-187941) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03F)
P 1 8・ 573- Z (G03F) P 1 8・ 572- Z (G03F) P 1 8・ 575- Z (G03F) P 1 8・ 561- Z (G03F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 倉持 俊輔 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 鉄 豊郎 |
発明の名称 | 1級アルカノールアミンを含むLCD製造用フォトレジスト剥離液組成物 |
代理人 | 葛和 清司 |