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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1323137
審判番号 不服2014-15296  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-04 
確定日 2016-12-14 
事件の表示 特願2008-261071「潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月22日出願公開、特開2010- 90252〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年10月7日の出願であって,平成25年4月25日付け拒絶理由通知書に対して,同年7月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成26年4月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年8月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ,平成27年5月26日付け拒絶理由通知書に対して,同年7月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年5月26日付け拒絶理由通知について
当審は,平成27年5月26日付けで拒絶理由を通知したが,その拒絶理由通知書の内容の概略は以下のとおりのものである。

「理由1:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2:この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



[1]理由1/請求項1?4
本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明(特に段落【0007】)の記載からみて、省燃費性、低蒸発性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性、NOACKにおける低蒸発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供するという課題を解決するものであると認められる。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願発明の発明特定事項の「潤滑油基油の尿素アダクト値を4質量%以下、40℃における動粘度を25mm^(2)/s以下、粘度指数を120以上、且つ、90%留出温度から5%留出温度を減じた値を75℃以下とする」ことと上記課題の解決との関係(作用機序)が明確に記載されていない。
また、実施例に係る記載を検討しても、基油1?5について、潤滑油基油成分の尿素アダクト値、40℃における動粘度、粘度指数及び90%留出温度から5%留出温度を減じた値が、それぞれ、(0.9,1.3,3.8,4.6,2.8)、(12.8,15.8,16.3,18.7,20.0)、(133,143,142,120,123)及び(86,64.9,62,84.6,78.6)であって、潤滑油基油成分が基油全量基準で70質量%又は100質量%含有する限られた実施例のみであり、当該実施例に係る記載に基づき、本願発明が包含し得る実施態様の全てについてまで、上記本願発明の課題を解決できるものと認識することはできない。
よって、本願の各請求項に係る発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない(平成17年(行ケ)10042号判決参照)。

[2]理由2
(1)上記[1]でも説示したとおり、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明(特に段落【0007】)の記載からみて、省燃費性、低蒸発性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性、NOACKにおける低蒸発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供するという課題を解決するものであると認められる。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、上記[1]でも説示したとおり、本願発明の発明特定事項の「潤滑油基油の尿素アダクト値を4質量%以下、40℃における動粘度を25mm^(2)/s以下、粘度指数を120以上、且つ、90%留出温度から5%留出温度を減じた値を75℃以下とする」ことと上記課題の解決との関係(作用機序)が明確に記載されておらず、また、実施例に係る記載を検討しても、本願発明が包含し得る実施態様の全てについてまで、上記本願発明の課題を解決できるものと認識することはできない。
・・(中略)・・
(4)してみると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないし、また請求項1?4に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。」

第3 当審の判断

I.本願の請求項1に記載された発明
上記平成27年7月30日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
尿素アダクト値が2.5質量%以下、40℃における動粘度が18mm^(2)/s以下、粘度指数が125以上、且つ、90%留出温度から5%留出温度を減じた値が70℃以下である潤滑油基油成分を、基油全量基準で10質量%?100質量%含有する潤滑油基油と、
粘度指数向上剤と、
を含有し、
100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が140?300であることを特徴とする潤滑油組成物。」
(以下の検討において、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

II.特許法第36条第6項第1号について
1.サポート要件
特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
このような観点に立って,以下本願明細書の記載について検討する。

2.明細書に記載された事項
本願明細書における,本願発明の,特に潤滑油基油に関連する主な記載事項は,次のとおりである。


「【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や変速機、その他機械装置には、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。したがって、従来のエンジン油にはこうした要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。
【0003】
近時、潤滑油に求められる省燃費性能は益々高くなっており、高粘度指数基油の適用や各種摩擦調整剤の適用などが検討されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平06-306384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の潤滑油は、省燃費性と低温粘度特性との両立という点で、未だ改善の余地がある。
【0005】
一般的な省燃費化の手法として、製品の動粘度の低減や、粘度指数向上つまり基油粘度の低減と粘度指数向上剤の添加を組み合わせることによるマルチグレード化などが知られている。しかしながら、製品粘度の低減や、基油粘度の低減は厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。そこでそれらの不具合を防止し、耐久性を維持するために、高温高せん断粘度(HTHS粘度)を維持することが必要となる。つまり、実用性能を維持しながら、さらに省燃費性を付与するためには、150℃におけるHTHS粘度を維持し、40℃および100℃の動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上することが重要となる。
【0006】
一方、CCS粘度やMRV粘度などの低温性能を向上するだけであれば、40℃および100℃の動粘度の低減や、基油粘度を低減しつつ粘度指数向上剤を添加することによるマルチグレード化などを行えばよい。しかし、製品粘度の低減や基油粘度の低減は、厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。なお、これらの不具合はポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油などの低温粘度に優れる潤滑油基油を併用すればある程度解消できる。しかし、上記合成油は高価であり、他方、低粘度鉱油系基油は一般的に粘度指数が低くNOACK蒸発量が高い。そのため、それらの潤滑油基油を配合すると、潤滑油の製造コストが増加し、あるいは、高粘度指数化及び低蒸発性を達成することが困難となる。また、これら従来の潤滑油基油を用いる場合、省燃費性の改善には限界がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、省燃費性、低蒸発性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性、NOACKにおける低蒸発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供することを目的とする。」


「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、尿素アダクト値が2.5質量%以下、40℃における動粘度が18mm^(2)/s以下、粘度指数が125以上、且つ、90%留出温度から5%留出温度を減じた値が70℃以下である潤滑油基油成分を、基油全量基準で10質量%?100質量%含有する潤滑油基油と、粘度指数向上剤と、を含有し、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が140?300であることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
【0009】
ここで、本発明でいう「尿素アダクト値」とは、以下の方法により測定される値を意味する。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた炭化水素成分(尿素アダクト物)の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。

【0011】
また、本発明でいう「90%留出温度」及び「5%留出温度」はそれぞれASTM D 2887-97に準拠して測定される90%留出温度(T90)および5%留出温度(T5)を意味する。以下、場合により90%留出温度から5%留出温度を減じた値を「T90-T5」と示す。」


「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明の潤滑油組成物は、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が25mm^(2)/s以下、粘度指数が120以上、且つ、T90-T5が75℃以下であるである潤滑油基油成分(以下、便宜的に「本発明に係る潤滑油基油成分」という。)を、基油全量基準で10質量%?100質量%含有する潤滑油基油(以下、便宜的に「本発明に係る潤滑油基油」という。)を含有する。
【0021】
本発明に係る潤滑油基油成分は、尿素アダクト値、40℃における動粘度及び粘度指数、T90-T5が上記条件を満たすものであれば、鉱油系基油、合成系基油、または両者の混合物のいずれであってもよい。
【0022】
本発明に係る潤滑油基油成分としては、粘度-温度特性、低温粘度特性および熱伝導性
の要求を高水準で両立させることが可能であることから、ノルマルパラフィンを含有する原料油を、尿素アダクト値が4質量%以下、40℃における動粘度が25mm^(2)/s以下、粘度指数が120以上、且つ、T90-T5が75℃以下となるように、水素化分解/水素化異性化することにより得られる鉱油系基油または合成系基油、あるいは両者の混合物が好ましい。
【0023】
本発明に係る潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、上述の通り4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下である。また、潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0024】
また、本発明に係る潤滑油基油成分の40℃動粘度は、25mm^(2)/s以下であることが必要であり、好ましくは18mm^(2)/s以下、より好ましくは16mm^(2)/s以下、さらに好ましくは15mm^(2)/s以下、特に好ましくは14mm^(2)/s以下、最も好ましくは13mm^(2)/s以下である。一方、当該40℃動粘度は、5mm^(2)/s以上であることが好ましく、より好ましくは8mm^(2)/s以上、さらに好ましくは9以上、特に好ましくは10以上である。ここでいう40℃における動粘度とは、ASTM D-445に規定される40℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の40℃動粘度が25mm^(2)/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、5mm^(2)/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0025】
本発明に係る潤滑油基油成分の粘度指数は、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるよう、また低粘度であっても蒸発しにくいためには、その値は120以上であることが必要であり、好ましくは125以上、より好ましくは130以上、更に好ましくは135以上、特に好ましくは140以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような125?180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI-PAO系基油のような150?250程度のものも使用することができる。ただし、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油については、低温粘度特性を向上するために、180以下であることが好ましく、160以下であることがより好ましく、150以下であることがさらに好ましく、145以下であることが特に好ましい。
【0026】
また、本発明に係る潤滑油基油成分の蒸留性状に関し、90%留出温度から5%留出温度を減じた値T90-T5は75℃以下であることが必要であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは68℃以下、更に好ましくは67℃以下、特に好ましくは66℃以下である。また、T90-T5は30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。T90-T5が75℃を超える場合には、潤滑油の蒸発損失が大きく、蒸発損失を小さく抑えた場合には、省燃費性が劣る可能性があるため、好ましくない。また、T90-T5が30℃未満の場合には、効果のわりに、収率が低下したり、製造コストが大幅に増加する恐れがあるため、好ましくない。
・・(中略)・・
【0049】
本発明の潤滑油組成物においては、本発明に係る潤滑油基油成分として、尿素アダクト値4質量%以下、40℃動粘度25mm2/s以下および粘度指数120以上、且つ、T90-T5が75℃以下である潤滑油基油の1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0050】
本発明に係る潤滑油基油は、本発明に係る潤滑油基油成分のみで構成されていてもよいが、本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分をさらに含有してもよい。本発明に係る潤滑油基油が本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分をさらに含有する場合、本発明に係る潤滑油基油成分の含有割合は、本発明に係る潤滑油基油の全量を基準として、10?100質量%であり、好ましくは30?98質量%、より好ましくは50?95質量%、さらに好ましくは70?93質量%、最も好ましくは80?95質量%である。当該含有割合が10質量%未満の場合には、必要とする低温粘度、省燃費性能が得られないおそれがある。
【0051】
本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分としては、特に制限されないが、鉱油系基油、合成系基油又はこれらから選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物が挙げられる。鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1?100mm^(2)/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0052】
また、合成系基油としては、・・(中略)・・が挙げられる。
・・(中略)・・
【0054】
本発明に係る潤滑油基油成分と他の潤滑油基油成分とを併用する場合、他の潤滑油基油成分の割合は、本発明に係る潤滑油基油の全量を基準として、90質量%以下とすること好ましい。
【0055】
また、本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含有する。本発明の潤滑油組成物に含まれる粘度指数向上剤は特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、オレフィンコポリマー系粘度指数向上剤、スチレンージエン共重合体系粘度指数向上剤等、公知の粘度指数向上剤を使用することができ、これらは非分散型あるいは分散型のいずれであっても良いが、非分散型であることがより好ましい。これらの中でも、粘度指数向上効果が高く、粘度-温度特性、低温粘度特性に優れる潤滑油組成物を得やすい点で、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましく、非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることがより好ましい。
・・(中略)・・
【0077】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油全量基準で、第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、第2の潤滑油基油成分の含有量が1?50質量%となるように、また、得られる潤滑油組成物の100℃における動粘度が4?12mm^(2)/s、粘度指数が200?350となるように、第1の潤滑油基油成分と、第2の潤滑油基油成分と、粘度指数向上剤と、を混合することによって得られる。なお、粘度指数向上剤は、予め第1の潤滑油基油成分又は第2の潤滑油基油成分の一方と混合した後に、他方と混合してもよく、あるいは、第1の潤滑油基油成分及び第2の潤滑油基油成分を含有する混合基油と粘度指数向上剤とを混合してもよい。
・・(中略)・・
【0106】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、4?12mm^(2)/sであることが必要であり、好ましくは4.5mm^(2)/s以上、より好ましくは5mm^(2)/s以上、特に好ましくは6mm^(2)/s以上である。また、好ましくは10mm^(2)/s以下、より好ましくは9mm^(2)/s以下、特に好ましくは8mm^(2)/s以下である。100℃における動粘度が4mm^(2)/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、12mm^(2)/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0107】
また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、140?300の範囲であることが必要であり、好ましくは190?300、より好ましくは200?300、さらに好ましくは210?300、一層好ましくは220?300、特に好ましくは240?300、最も好ましくは250?300である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が140未満の場合には、HTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに-35℃における低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数が300以上の場合には、低温流動性が悪化し、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。」


「【実施例】
【0116】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0117】
(実施例1?6、比較例1?4)
実施例1?6及び比較例1?4においては、それぞれ以下に示す基油及び添加剤を用いて表3に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。なお、潤滑油組成物の調製の際には、その150℃におけるHTHS粘度が2.55?2.65の範囲内となるようにした。
基油1?5の性状を表1、2に示す。
(基油)
O-1(基油1):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O-2(基油2):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O-3(基油3):n-パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
O-4(基油4):水素化分解基油
O-5(基油5):水素化分解/水素化異性化基油
(添加剤)
A-1(粘度指数向上剤1):PSSI=20、MW=400,000、Mw/PSSI=2×10^(4)の非分散型ポリメタクリレート系添加剤(アルキルメタアクリレート混合物(アルキル基:メチル基、炭素数12?15の直鎖アルキル基、炭素数16?20の直鎖アルキル基)90モル%と、炭素数22の分岐鎖アルキル基を有するアルキルメタアクリレート10モル%とを主構成単位として重合させて得られる共重合体)
A-2(粘度指数向上剤2):PSSI=40、Mw=300,000、Mw/Mn=4.0、Mw/PSSI比=7.25×10^(3)の分散型ポリメタクリレート系添加剤(ジメチルアミノエチルメタクリレート及びアルキルメタアクリレート混合物(アルキル基:メチル基、炭素数12?15の直鎖アルキル基)を主構成単位として重合させて得られる共重合体)
A-3(粘度指数向上剤3):PSSI=28、Mw=200,000、Mw/Mn=4.3、Mw/PSSI比=7.14×10^(3)の分散型ポリメタクリレート(ジメチルアミノエチルメタクリレート及びアルキルメタアクリレート混合物(アルキル基:メチル基、炭素数12?15の直鎖アルキル基、炭素数16?18の直鎖アルキル基)を主構成単位として重合させて得られる共重合体)
B-1(その他の添加剤):添加剤パッケージ(金属系清浄剤(Caサリシレート Ca量2000ppm)、無灰分散剤(ホウ素化ポリブテニルコハク酸イミド)、酸化防止剤(フェノール系、アミン系)、摩耗防止剤(アルキルリン酸亜鉛 P量800ppm)、摩擦調整剤(MoDTC Mo量400ppm、エステル系無灰摩擦調整剤、ウレア系無灰摩擦調整剤)、流動点降下剤、消泡剤等を含む)。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
[潤滑油組成物の評価]
実施例1?2及び比較例1?4の各潤滑油組成物について、40℃又は100℃における動粘度、粘度指数、40℃又は100℃におけるHTHS粘度、NOACK蒸発量(1h、250℃)、-35℃におけるCCS粘度、-40℃におけるMRV粘度を測定した。各物性値の測定は以下の評価方法により行った。得られた結果を表3に示す。
(1)動粘度:ASTM D-445
(2)HTHS粘度:ASTM D4683
(3)NOACK蒸発量:ASTM D 5800
(4)CCS粘度:ASTM D5293
(5)MRV粘度:ASTM D3829
【0121】
【表3】

【0122】
表3に示したように、実施例1?6及び比較例1?3の潤滑油組成物は150℃におけるHTHS粘度が同程度のものであるが、比較例1?3の潤滑油組成物に比べて、実施例1?6の潤滑油組成物は、40℃動粘度、100℃動粘度、100℃HTHS粘度およびCCS粘度が低く、低温粘度および粘度温度特性が良好であった。この結果から、本発明の潤滑油組成物が、省燃費性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度を著しく改善できる潤滑油組成物であることがわかる。」

3.本願発明の解決すべき課題について
本願明細書【0007】において,
「省燃費性、低蒸発性と低温粘度に優れ、ポリ-α-オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性、NOACKにおける低蒸発性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供することを目的とする。」
と記載されていることから,本願発明の課題は,「潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃におけるHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度、(-40℃におけるMRV粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供すること」(以下,「本願発明の課題」ともいう。)であると解される。

4.発明の詳細な説明の記載の検討
ア 本願発明について,特に,潤滑油基油について着目すると,
「尿素アダクト値が2.5質量%以下、40℃における動粘度が18mm^(2)/s以下、粘度指数が125以上、且つ、90%留出温度から5%留出温度を減じた値が70℃以下である」
と特定される潤滑油基油成分(以下,「本願発明で特定された潤滑油基油成分」ともいう。)を、基油全量基準で10質量%?100質量%含有するものとされている。(以下の記載において,「質量%」を単に「%」と表記する。)
イ そこで,本願明細書【表3】の実施例4に係る潤滑油組成物と比較例3に係る潤滑油組成物とを,15%:85%の割合で混合した基油(以下,「ケースA」という。)について想定してみる。
ケースAは合計2種類の潤滑油基油「基油2」及び「基油4」から構成されることとなり,このうち,本願発明で特定された潤滑油基油成分に相当するのは基油2のみであって,該基油2の含有量は15%となる。また,本願発明で特定された潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分に相当するのは基油4のみであって,該基油4の含有量は85%の量を占めることとなる。
なお,本願発明では,潤滑油組成物全体について,「100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、粘度指数が140?300である」と特定されているが,実施例4に係る潤滑油組成物は元より,比較例3についてもこれら両事項(特性)は上記範囲内にあるものであるから,これら両組成物を15%:85%の割合で混合した場合でも,これら2つの特定事項については上記範囲内にあるとすることができる。
ウ 次に,ケースAの潤滑油組成物が全体として,本願発明の課題である所望の低温特性を有するか否かを検討する。
本願明細書【表3】の「CCS粘度」及び「MRV粘度」は潤滑油組成物の低温特性を示す試験であり,両者はともに特定の低温環境下におけるエンジン始動時の潤滑油粘度を測定するものであって,小さな値ほど好ましいとされるものである。両試験についての結果は,実施例4については,それぞれ「2700mPa・s」と「6100mPa・s」であり,比較例3は,それぞれ「7700mPa・s」と「23200mPa・s」である。そして,このような結果を受けて,本願明細書【0122】では,
「比較例1?3の潤滑油組成物に比べて、実施例1?6の潤滑油組成物は、40℃動粘度、100℃動粘度、100℃HTHS粘度およびCCS粘度が低く、低温粘度および粘度温度特性が良好であった。この結果から、本発明の潤滑油組成物が、・・・150℃における高温高せん断粘度を維持しながら、省燃費性と-35℃以下における低温粘度とを両立させることができ、特に潤滑油の40℃および100℃における動粘度を低減し、粘度指数を向上し、-35℃におけるCCS粘度を著しく改善できる潤滑油組成物であることがわかる。」
と記載されている。
このように実施例4に係る潤滑油組成物と比較例3に係る潤滑油組成物とは,低温特性に大きな差があり,前者について高評価がなされていて,本願発明の課題が解決される旨の記載もなされているものであるのに対して,後者については,本願発明の課題を解決し得ない旨の記載がなされているものである。
エ これらの実施例4及び比較例3に関する記載を踏まえて上記ケースAについて検討すると,実施例4に係る潤滑油組成物と比較例3に係る潤滑油組成物とを,前者を15%に対して後者を85%の割合で混合したものである,すなわち,低温特性が良好で本願発明の課題を解決することが示された実施例4に係る潤滑油組成物(15%)と,低温特性が大きく劣るため本願発明の課題を解決し得ないとされる比較例3に係る潤滑油組成物(85%)との混合物である。さらに,本願明細書には,実施例1?6と合計6つの実施例が記載されているが,何れの例においても,本願発明で特定された潤滑油基油成分を100%又は70%から構成される潤滑油基油を使用する例である。すなわち,本願発明で特定された潤滑油基油成分が潤滑油基油全量に対して100%又は70%を占める例のみが示されているに留まり,例えば,本願発明で特定された潤滑油基油成分が潤滑油基油全量に対して相対的に少量成分となる場合などについては,何ら示されていないものである。
このような状況を踏まえるならば,ケースAのような場合について,当業者が本願明細書の記載から本願発明の課題を解決し得るか否かを理解するに際して,否定的に解釈することはあっても,肯定的に解釈することは,通常はあり得ないというべきである。
オ 以上のことから,本願明細書の【実施例】の記載(【0118】?【0122】)を根拠に上記ケースAについて,本願発明の課題を解決することが,当業者に理解されるように記載されているものとすることができない。
カ そこで,次に本願明細書における他の記載をも斟酌して検討する。
例えば,「本願発明で特定された潤滑油基油成分」に関しては,本願明細書【0050】に,
「本発明に係る潤滑油基油は、本発明に係る潤滑油基油成分のみで構成されていてもよいが、本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分をさらに含有してもよい。本発明に係る潤滑油基油が本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分をさらに含有する場合、本発明に係る潤滑油基油成分の含有割合は、本発明に係る潤滑油基油の全量を基準として、10?100質量%であり、好ましくは30?98質量%、より好ましくは50?95質量%、さらに好ましくは70?93質量%、最も好ましくは80?95質量%である。当該含有割合が10質量%未満の場合には、必要とする低温粘度、省燃費性能が得られないおそれがある。」
との記載はあり,10%未満となる場合について言及はあるものの,例えば,すべての実施例における含有量である70%又は100%から大きく離れた下限値である10%の近傍において,例えば,実施例1?5と同様な低温特性を示されるであろうことについて,当業者が首肯しうる合理的な説明がなされているものとすることができない。
キ また,「本願発明で特定された潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分」に関しては,本願明細書【0051】及び【0054】には、「特に制限されないが、鉱油系基油、合成系基油又はこれらから選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物が挙げられる。鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1?100mm^(2)/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。」及び「本発明に係る潤滑油基油成分と他の潤滑油基油成分とを併用する場合、他の潤滑油基油成分の割合は、本発明に係る潤滑油基油の全量を基準として、90質量%以下とすること好ましい。」
との記載があるところ,上記ケースAでは本願発明で特定された潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分の含有量は85%であって,この値が上限である90%に近いものではあるが,明細書のこの箇所の記載を見ても,上記ケースAについて,例えば,実施例1?6と同様な低温特性を示されるであろうことについて,当業者が首肯しうる合理的な説明がなされているものとすることができない。
ク さらに,潤滑油基油成分に言及した本願明細書【0077】において、
「本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油全量基準で、第1の潤滑油基油成分の含有量が10?99質量%、第2の潤滑油基油成分の含有量が1?50質量%となるように、また、得られる潤滑油組成物の100℃における動粘度が4?12mm^(2)/s、粘度指数が200?350となるように、第1の潤滑油基油成分と、第2の潤滑油基油成分と、粘度指数向上剤と、を混合することによって得られる。」
との記載があるところ,本願発明で特定された潤滑油基油成分が相対的に少量成分となる場合についても,例えば,実施例1?6と同様な低温特性が示されることについての技術的根拠が説明されているものでもない。
ケ そして,これら明細書の記載に加えて,明細書の他の記載及び技術常識を考慮したとしても,上記ケースAの場合について,本願発明の課題を解決できることが,当業者にとって理解されるものであるとする根拠を見出せ得ないものである。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明において,本願発明の一部については本願発明の課題が解決できることが記載されているとしても,これを本願発明の全範囲にまで一般化できることについては当業者が理解できるように記載されているものとすることができない。

5.小括
よって,本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものとすることができないから,本願特許請求の範囲の記載場,特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしているとすることができない。

III.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
1.実施可能要件
特許法第36条第4項第1号には,発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」との規定がなされている。
2.発明の詳細な説明の記載の検討
本願発明に係る潤滑油組成物について,本願発明の課題である,「潤滑油の150℃のHTHS粘度を一定に維持しつつ、100℃におけるHTHS粘度を低減し、-35℃以下におけるCCS粘度を著しく改善できる高粘度指数の潤滑油組成物を提供すること」について,当業者が理解できるように記載されているものとすることができないことは,上記II.4においてケースAを例示として記載したとおりである。
したがって,本願発明(特にケースA)の詳細な説明の記載は,本願発明について,当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているものとすることができない。
3.小括
よって,本願明細書の記載は,特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているものとすることができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願は,特許法第36条第6項に規定する要件及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしているものではないから,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-10 
結審通知日 2015-12-15 
審決日 2015-12-28 
出願番号 特願2008-261071(P2008-261071)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C10M)
P 1 8・ 536- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 菅野 芳男
豊永 茂弘
発明の名称 潤滑油組成物  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 城戸 博兒  
代理人 平野 裕之  
代理人 黒木 義樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 正人  

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