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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1323195
審判番号 不服2016-9463  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-24 
確定日 2017-01-18 
事件の表示 特願2013-508184「フォントサブセットの開始」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 3日国際公開、WO2011/137146、平成25年 8月22日国内公表、特表2013-533527、請求項の数(51)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年4月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年4月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年6月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。


第2 平成28年6月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
(1)請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】
コンピュータ実行方法であって、
受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、要求されるエージェントにより自律的な方法で分析する過程と、
該電子文書のコンテンツ内に含まれる該1つ以上のフォントのサブセットの要求を開始する過程と、を具備しており、該要求がそれぞれの該1つ以上のフォントの該各識別された固有の文字を含む、該コンピュータ実行方法。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。(下線は補正事項を示している。以下同様。)

(2)請求項10について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項10を、
「【請求項10】
システムであって、
要求時に、コンピュータデバイスに該コンピュータデバイスにより受信された電子文書のコンテンツを分析するエージェントを提供するフォントサーバーであって、要求されるエージェントが該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するものである、該フォントサーバーを具備しており、
該フォントサーバーは、該コンピュータデバイスからの要求時、各フォントサブセットがそれぞれの該フォントの各識別された固有の文字を含む1つ以上のフォント用のサブセットを作るように構成されており、そして 該フォントサーバーが、各該フォントサブセットを該コンピュータデバイスへ送信する過程を開始するよう更に構成される、該システム。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含んでいる。

(3)請求項21について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項21を、
「【請求項21】
コンピュータデバイスであって、
インストラクションを記憶するよう構成されたメモリーと、
プロセッサであって、
受信電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、要求されるエージェントにより自律的な方法で分析する過程及び該電子文書のコンテンツ内に含まれる該1つ以上のフォントのサブセットの要求を開始する過程であって、該要求がそれぞれの該1つ以上のフォントの各識別された固有の文字を含んでいる、該過程
を有する動作を行うために該インストラクションを実行するように構成された、該プロセッサ
を具備する該コンピュータデバイス。」
とする補正(以下、「補正事項3」という。)を含んでいる。

(4)請求項28について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項28を、
「【請求項28】
インストラクションを記憶する1つ以上のコンピュータ読み出し可能な媒体であって、該インストラクションは処理デバイスにより実行可能であり、かつ該インストラクションはこの様な実行時、該処理デバイスに、
受信電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、要求されるエージェントにより自律的な方法で分析する過程と、
該電子文書のコンテンツ内に含まれる該1つ以上のフォントのサブセットの要求を開始させる過程であって、該要求がそれぞれの該1つ以上のフォントの各該識別された固有の文字を含んでいる、該過程と、
を有する動作を行わせる、該インストラクションを記憶する該1つ以上のコンピュータ読み出し可能な媒体。」
とする補正(以下、「補正事項4」という。)を含んでいる。

(5)請求項32について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項32を、
「【請求項32】
システムであって、
コンピュータデバイスからの要求時に、1つ以上のフォントのサブセットを作成するフォントサーバーを具備しており、各該フォントサブセットが、該コンピュータデバイス内に含まれる要求されるエージェントにより電子文書のコンテンツから識別されたそれぞれの該フォントの各固有の文字を有しており、そして
該フォントサーバーが各フォントサブセットを該コンピュータデバイスへ送る過程を開始するよう構成される、該システム。」
とする補正(以下、「補正事項5」という。)を含んでいる。

(6)請求項48について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項48を、
「【請求項48】
前記フォントサーバーが各フォントサブセットを前記コンピュータデバイスに送信する過程を開始するよう構成される、又は、前記フォントサーバーが各フォントサブセット及び追加の文字をコンピュータデバイスに送信する過程を開始するよう構成されており、該追加の文字を含むことはしきい値に基礎を置くものである、請求項10に記載のシステム。」
とする補正(以下、「補正事項6」という。)を含んでいる。

(7)請求項49について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項49を、
「【請求項49】
前記プロセッサがさらに、
1つ以上のフォントのサブセットを受信する過程、又は、1つ以上のフォントのサブセット及び追加の文字を受信する過程であって、該追加の文字を含むことはしきい値に基礎を置くものである、該過程
を有する動作を行うためにインストラクションを実行するよう構成された、請求項21に記載されたコンピュータデバイス。」
とする補正(以下、「補正事項7」という。)を含んでいる。

(8)請求項50について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項50を、
「【請求項50】
実行時に処理デバイスに、
1つ以上のフォントのサブセットを受信する過程、又は、1つ以上のフォントのサブセット及び追加の文字を受信する過程であって、該追加の文字を含むことはしきい値に基礎を置くものである、該過程
を有する動作を更に行わせる、請求項28に記載の1つ以上のコンピュータ読み出し可能な媒体。」
とする補正(以下、「補正事項8」という。)を含んでいる。

(9)請求項51について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項51を、
「【請求項51】
前記フォントサーバーが各フォントサブセットを前記コンピュータデバイスに送信する過程を開始するよう構成される、又は、前記フォントサーバーが各フォントサブセット及び追加の文字をコンピュータデバイスに送信する過程を開始するよう構成されており、該追加の文字を含むことはしきい値に基礎を置くものである、請求項32に記載のシステム。」
とする補正(以下、「補正事項9」という。)を含んでいる。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正のうち上記補正事項1は、補正前の請求項1に記載された「受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、自律的な方法で分析する過程」について、「要求されるエージェントにより」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物の記載事項
(ア) 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-215915号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「個人情報配信システム」に関し、次の記載がある。

a「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インターネット上のWebページの多くは、HTML形式のデータ(本願では、単に、HTMLデータという)によって構成されており、Webブラウザ用のアプリケーションプログラムは、いずれもこのHTMLデータを端末装置上に表示させる機能を有している。また、最近では、電子メール用のアプリケーションプログラムの多くが、HTML形式で記述されたメールデータの閲覧機能を有しており、HTMLデータの配信は、Webページという形式だけでなく、電子メールという形式でも可能になってきている。このように、インターネットを利用して情報配信を行う上では、HTML形式が標準フォーマットとしての地位を確立している。結局、HTMLデータは、インターネットを利用して配信するデータとして、極めて汎用性の高いデータであり、端末装置の機種やオペレーションシステムを選ばずに、広く配信することができる。
【0005】
しかしながら、その反面、標準的なHTMLデータとして取り扱うことが可能な文字には制限がある。すなわち、日本語環境の場合、HTMLデータは、これまで「シフトJIS」なる文字コード体系で記述されるのが一般的であり、基本的には、JIS第1水準および第2水準の文字しか取り扱うことができなかった。最近では、「Unicode」なる文字コード体系が世界的に標準の文字コード体系としての地位を確立しつつあり、この「Unicode」なる文字コード体系で記述されたHTMLデータも普及しつつあるが、それでも使用可能な文字には制限があり、標準的な「Unicode」では表現できない文字が存在する。また、「シフトJIS」や「Unicode」で定義されている文字コードであっても、端末装置のオペレーションシステムによっては、異なる字形が割り当てられているため、端末装置によっては、いわゆる「文字化け」が発生するという混乱も生じている。
【0006】
一般的なWebページに掲載する情報であれば、標準的なHTMLデータとして取り扱うことができない文字については、そのような文字の使用を避けたり、別な文字に置き換えて使用したりしても、大きな問題は生じない。ところが、クレジットカードの利用明細書やダイレクトメールなど、個々の個人向けの情報の場合、特定の文字の使用を避けたり、別な文字に置き換えることは、ビジネス文書の提示という点からは好ましくない。特に、個人の住所や氏名などには、JIS第1・第2水準以外の漢字が用いられていることも少なくないが、住所や氏名を構成する漢字を正しく表示できないと、個人によっては不快感を覚える場合もあろう。また、住所や氏名には、一般に、異体字と呼ばれている特殊な字体も存在するため、標準的なHTMLデータでは十分に対応することができない。
【0007】
そこで本発明は、HTMLデータとして個人情報を配信しつつ、利用可能な文字に制限が課されることのない個人情報配信システムを提供することを目的とする。」(段落【0004】-【0007】)

b「【0020】
<<< §1.本発明に係る個人情報配信システムの基本構成 >>>
図1は、本発明の基本的な実施形態に係る個人情報配信システムの構成を示すブロック図である。この個人情報配信システムは、個人用端末装置11?13に対して、インターネット20を介して個人情報の配信を行うためのシステムであり、図示のとおり、配信情報格納部110、文字コード変換部120、文字コード変換テーブル130、HTMLデータ生成部140、表示書式格納部150、フォント変換テーブル160、個人情報配信サーバ170、フォント配信サーバ180によって構成されている。なお、これら各ブロックで示す構成要素は、この個人情報配信システムを、個々の機能に着目して捉えたものであり、実際には、この個人情報配信システムは、インターネット20に接続された1つもしくは複数のサーバ用コンピュータに、専用のソフトウエアプログラムを組み込むことにより構成することができる。
【0021】
本発明に係る個人情報配信システムの特徴は、HTMLデータを閲覧する機能をもった個々の個人用端末装置11?13に対して、ネットワーク(図示の例では、インターネット20)を介して、それぞれ固有の個人情報をHTMLデータとして配信することにある。具体的な利用形態としては、前述したとおり、信販会社が、クレジットカードの各会員に対して、1ヶ月ごとの利用明細をWebページを利用して配信するサービスを行う例、銀行が、各預金者に対して、預金取引の明細をWebページを利用して配信するサービスを行う例、保険会社が、各契約者に対して、保険契約の明細や契約書の内容をWebページを利用して配信するサービスを行う例、通販会社が、電子メールを利用して、個々の消費者宛に商品カタログのダイレクトメールを配信するサービスを行う例など様々である。本発明における「個人情報」とは、「特定の個人向けに提供されるべき情報」を広く意味しているものであり、この他にも様々なビジネス分野において、本発明に係る個人情報配信システムを利用することが可能である。」(段落【0020】-【0021】。下線は当審で付与。以下同様。)

c「【0051】
そこで、本発明では、配信情報格納部110に格納されている第1のテキストデータ(第1の文字コード体系)を、個人用端末装置11?13による閲覧に適した第2のテキストデータ(第2の文字コード体系)に変換する際に、第1の文字コード体系には含まれているが第2の文字コード体系には含まれていない文字を外字文字として取り扱うことにより、第2の文字コード体系を用いている個人用端末装置11?13においても、これらの文字を正しく閲覧できるようにしている。また、第2の文字コード体系には含まれているが、個人用端末装置11?13によっては正しく表示できない可能性のある文字についても、外字文字と同等の取り扱いをすることにより、OSの相違による文字化けの発生を防ぐようにしている。」(段落【0051】)

d「【0064】
ここでは、上述したHTMLデータ生成部140による2つの処理作業を、簡単な具体例について説明しておく。たとえば、文字コード変換部120からHTMLデータ生成部140に対して、図9に示すような文字列に対応するテキストデータが与えられた場合を考えてみよう。このテキストデータは、Unicodeで記述された第2のテキストデータであるから、実際には、図示のとおり「65E5 9AD9 4E09 90CE E0FF」なる文字コード列になる。HTMLデータ生成部140は、この文字コード列の中の「9AD9」,「E0FF」なるコードが、図8に示すフォント変換テーブル160に含まれていることを認識し、「外字を利用する必要がある」と判断し、次の2つの処理を実行する。
【0065】
まず第1に、図8に示すフォント変換テーブル160を参照することにより、「9AD9」および「E0FF」なる外字文字コードを表示するためには、「myfont」なる外字フォント名をもつ外字フォントファイルが必要であると判断できるので、当該外字フォントファイルをダウンロードするための情報をHTMLヘッダーに追加する処理を実行する。そして、第2に、「9AD9」および「E0FF」なる外字文字コードに対して、「myfont」なる外字フォント名を指定するタグ情報を追加する処理を実行する。
【0066】
図10は、このような2つの処理を実行することにより生成されたHTMLデータの一例を示す図である。上半分がHTMLヘッダーの部分であり、下半分がHTML本文の部分である。HTMLヘッダーの第4行目(@font-face以下)?第8行目までが、「myfont」なる外字フォント名をもつ外字フォントファイルをダウンロードするために付加された情報である。第5行目は、「myfont」なるファイル名をもったフォントファミリーを利用することを宣言する文であり、第8行目は、ダウンロードの対象となる当該外字フォントファイルのURLアドレスを示す文である。HTMLデータを解釈実行可能な一般的なアプリケーションプログラムは、これらの文に基づいて、フォント配信サーバ180内に用意されている外字フォントファイルFのアドレスを認識し、これを自動的にダウンロードする作業を実行する。
【0067】
一方、HTML本文の部分には、外字部分については、「myfont」なるフォント名のフォントデータを用い、その他の部分については、個人用端末装置に標準的に装備されているフォントデータ(ここでは、「standard」なるフォント名であるものとする)を用いるよう、必要なタグ情報が追加されている。具体的には、なるタグの後に出現する文字コードは、「standard」なる標準フォントによる表示がなされ、なるタグの後に出現する文字コードは、「myfont」なる外字フォントによる表示がなされることになる。その結果、図9に示す5文字のテキストデータのうち、「日」,「三」,「郎」の3文字は標準フォントで表示され、「はしご高」,「唖の異体」の2文字は外字フォントで表示されることになる。
【0068】
Unicodeで定義されている「はしご高」は、標準フォントで表示すると、OSによっては文字化け発生の可能性があるが、この例のように外字フォントで表示するようにすれば、文字化けの危険性を排除することができる。一方、「唖の異体」は、そもそもUnicodeでは定義されていないので、文字コード変換部120では、図7に示す文字コード変換テーブル130を参照して、外字フォントファイルF内の対応する外字文字コード「E0FF」への変換が行われている。よって、外字フォントファイルFを用いることにより、支障なく表示が可能になる。
【0069】
このように、本発明に係る個人情報配信システムでは、「外字を利用する必要がある」と判断された日高三郎宛のHTMLデータには、「外字を利用するために必要な情報」を埋め込む処理が行われるが、「外字を利用する必要がない」と判断された田中一郎宛や佐藤二郎宛のHTMLデータには、そのような埋め込み処理は行われないことになる。その結果、日高三郎が利用する個人用端末装置13に対しては、フォント配信サーバ180から外字フォントファイルFのダウンロードが実行されるが、田中一郎が利用する個人用端末装置11や佐藤二郎が利用する個人用端末装置12に対しては外字フォントファイルFのダウンロードは実行されない。結局、必要な場合にのみ、必要な外字フォントファイルのダウンロードが実行されることになるので、極めて効率的な運用が可能になる。
【0070】
<<< §5.外字フォントファイルの構成例 >>>
図1に示す実施形態では、フォント配信サーバ180内には、外字フォントファイルFが用意され、個人用端末装置は、必要に応じて、この外字フォントファイルFをダウンロードして用いることになる。上述した実施形態では、第1の文字コード体系としてJEF、第2の文字コード体系としてUnicodeを用いており、外字フォントファイルF内には、JEFには含まれているがUnicodeには含まれていない文字コード(たとえば、「唖の異体」)と、Unicodeに含まれているがOSによっては文字化けするおそれのある文字コード(たとえば、「はしご高」や「品の鴎」)と、が含まれており、これに対応して、フォント変換テーブル160には、図8に示すようなテーブルが用意されていた。
【0071】
ここでは、説明の便宜上、フォント変換テーブル160には、「はしご高」,「品の鴎」,「唖の異体」という3文字のみが掲載されている例を示したが、実際には、このフォント変換テーブル160に掲載すべき文字(すなわち、外字フォントファイルF内に外字としてフォントデータを用意すべき文字)は、他にも多数存在する。実用上は、1000文字以上の文字を、外字として取り扱い、外字フォントファイルF内にフォントデータを用意しておくのが好ましい。
【0072】
しかしながら、この外字フォントファイルFをダウンロードして利用する個人用端末装置側の立場から見ると、たった数文字を表示するために、1000文字以上の外字フォントを含んだ外字フォントファイルFをダウンロードするのは効率的ではない。たとえば、図2の下段に示す日高三郎宛の配信情報を個人用端末装置11上で表示する場合、「はしご高」の1文字だけが外字として取り扱われる。このように、外字としての取り扱いを行うべき文字が1文字でも含まれていると、図10に示す例のように、配信対象となるHTMLデータのHTMLヘッダーの部分に、外字フォントファイルFをダウンロードするための指示が挿入され、外字フォントファイルF全体のダウンロードが行われることになる。最近は、ブロードバンドの環境が整備されつつあり、従来に比べれば、大容量の外字フォントファイルをダウンロードしても、大きな負担は生じないケースが多いが、依然として、通信容量の小さな回線経由でインターネットに接続している個人用端末装置も少なくない。また、携帯電話を個人用端末装置として利用している利用者にとってみれば、ダウンロード対象となるファイルの容量はできるだけ小さい方が好ましい。
【0073】
このような要望に応えるためには、フォント配信サーバ180内に、単一の外字文字コードのフォントデータのみを含む単一外字フォントファイルを、必要な外字文字コードの分だけ用意しておけばよい。たとえば、図11には、フォント配信サーバ180内に、3つの外字フォントファイルを用意した例が示されている。すなわち、左側に示す外字フォントファイルには、文字コード「9AD9」で示される「はしご高」なる外字のフォントデータのみが含まれており、中央に示す外字フォントファイルには、文字コード「9D0E」で示される「品の鴎」なる外字のフォントデータのみが含まれており、右側に示す外字フォントファイルには、文字コード「E0FF」で示される「唖の異体」なる外字のフォントデータのみが含まれている。
【0074】
この3つのファイルは、いずれも形式的には独立したファイルとなっているため、それぞれ別個のフォント名が付されている。各フォント名はそれぞれユニークなものである必要があるため、ここでは、「myfont」なる文字列に、各ファイル内に含まれている単一外字の文字コードをそのまま付したものを、当該外字フォントファイルのフォント名として用いるようにしている。たとえば、文字コード「9AD9」で示される「はしご高」なる外字のフォントデータのみを含む左側の外字フォントファイルには、「myfont 9AD9」なるフォント名が付されている。同様に、中央の外字フォントファイルには「myfont 9D0E」、右側の外字フォントファイルには「myfont E0FF」なるフォント名が付されている。上述したとおり、実用上は、1000文字以上の外字フォントデータを用意しておくのが好ましいので、1つの外字文字コードのフォントデータを1つの外字フォントファイルとして用意すると、フォント配信サーバ180内には、外字フォントファイルが1000以上収容されることになる。
【0075】
一方、図12は、図11に示すフォント配信サーバ180に収容されている3つの外字フォントファイルに対応して用意されたフォント変換テーブル160の具体例を示す図である。この例では、外字として取り扱うべき3つの文字「はしご高」,「品の鴎」,「唖の異体」について、Unicodeと外字フォント名との対応関係が示されている。このフォント変換テーブル160を参照することにより、たとえば、Unicode「9AD9」なる文字を表示するには、「myfont 9AD9」なるフォント名の外字フォントファイルをダウンロードしてくればよいことが認識できる。なお、フォント変換テーブル160は、フォント配信サーバ180内に収容されている外字フォントファイル内の外字文字コードと、当該外字フォントファイルを特定するためのフォント名との対応関係を定義することができれば、必ずしも表の形式にする必要はない。たとえば、図12に示す例の場合であれば、「myfont」なる文字列に、Unicodeによる文字コード列をそのまま付加したものが、当該文字コードに対応する外字フォントファイルのフォント名である、という規則を、フォント変換テーブル160として定義しておけば足りる。
【0076】
HTMLデータ生成部140は、前述したとおり、この図12に示すフォント変換テーブル160を参照しながら、HTMLデータを生成することになる。ここでは、たとえば、図9に示すような5つの文字コードからなる第2のテキストデータが与えられた場合、HTMLデータ生成部140がどのような処理を行うかを簡単に説明しよう。図12に示すフォント変換テーブル160を参照すれば、この5つの文字コードのうち、「9AD9(はしご高)」については、「myfont 9AD9」なるフォント名の外字フォントファイルが必要になり、「E0FF(唖の異体)」については、「myfont E0FF」なるフォント名の外字フォントファイルが必要になることが認識できる。そこで、HTMLデータ生成部140は、HTMLヘッダーの部分に、「myfont 9AD9」なるフォント名の外字フォントファイルと、「myfont E0FF」なるフォント名の外字フォントファイルとをダウンロードするための情報を追加する処理を実行する。更に、HTML本文については、「9AD9(はしご高)」なる文字コードに対しては「myfont 9AD9」なるフォント名を指定し、「E0FF(唖の異体)」なる文字コードに対しては「myfont E0FF」なるフォント名を指定するタグ情報を追加する処理を実行する。
【0077】
結局、上述のような処理が施されたHTMLデータの配信を受けた個人用端末装置は、図11に示すフォント配信サーバ180から、「myfont 9AD9」なるフォント名の外字フォントファイルと「myfont E0FF」なるフォント名の外字フォントファイルとをダウンロードし、「はしご高」および「唖の異体」を表示することになる。このように、1つの外字文字コードのフォントデータを1つの外字フォントファイルとして用意しておけば、個人用端末装置側で閲覧する際に、表示に必要なフォントデータを1文字単位でダウンロードすることができるようになり、極めて効率的な運用が可能になる。」(段落【0064】-【0077】)


上記刊行物1の記載、刊行物1の図1、10、11、12、及びこの分野の技術常識を考慮すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

〈引用発明〉
「HTMLデータを閲覧する機能をもった個人用端末装置において、
外字部分については、「myfont」なるフォント名のフォントデータを用い、その他の部分については、個人用端末装置に標準的に装備されているフォントデータを用いるよう、必要なタグ情報が追加されたHTMLデータの配信を受け、
単一の外字文字コードのフォントデータのみを含む単一外字フォントファイルを、必要な外字文字コードの分だけ用意したフォント配信サーバ180から、表示に必要なフォントデータを1文字単位でダウンロードし、表示する方法。」


(イ) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-124030号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「ネットワーク環境におけるフォント処理装置および方法」に関し、次の記載がある。

a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数の情報処理装置を通信ネットワークで結合したネットワーク環境において、適当なフォントを用いて文字を出力する処理を、ネットワークを介して行うフォント処理装置および方法に関する。」(段落【0001】)

b「【0042】図2は、こうしたフォントに関係する処理をインターネット上で実現するフォント処理システムを示している。図2のフォント処理システムは、情報を提供するWWWサーバ41と、WWWサーバ41と通信ネットワークで結ばれたWWWクライアント61から成る。
【0043】WWWサーバ41は、提供メディア42を格納するファイルである文書メディア43、イメージメディア44、音声メディア45を保持している。また、文字資源取出し機構46、文書メディア出力機構40、文書メディア処理機構47、イメージメディア処理機構48、音声メディア処理機構49、文字種洗出し機構51、外字洗出し機構54、およびフォント読出し機構56を有する。
【0044】文書メディア43は、図21の文書メディア13と同様に、HTMLで記述され、文字列などの文字メディアを含み、イメージメディア44および音声メディア45へのリンクを保持している。また、文字種洗出し機構51および外字洗出し機構54は、例えばC言語で記述されたプログラムであり、WWWサーバ41上で実行される。
【0045】これに対して、文字資源取出し機構46、文書メディア出力機構40、文書メディア処理機構47、イメージメディア処理機構48、音声メディア処理機構49、およびフォント読出し機構56は、例えばジャバ言語で記述されたアプレットプログラムであり、WWWクライアント61にダウンロードされて実行される。
【0046】このうち、文字資源取出し機構46、文書メディア出力機構40、およびフォント読出し機構56は、あらかじめシステムに備え付けの共通プログラムであるが、文書メディア処理機構47、イメージメディア処理機構48、および音声メディア処理機構49は、各サービス提供者が個別に指定できるプログラムである。
【0047】また、WWWクライアント61は表示装置67を備え、Webブラウザ62、標準のフォント読出し機構63、標準の文書メディア出力機構64、標準のイメージメディア出力機構65、および標準の音声メディア出力機構66を有する。
【0048】Webブラウザ62は、例えば、WWWサーバ41からアプレットをダウンロードして実行することのできるジャバ対応ブラウザである。また、機構63、64、65、66は、あらかじめWWWクライアント61内に用意された出力処理用のプログラムであって、それぞれ、図21のフォント読出し機構19、文書出力機構20、イメージ出力機構21、音声出力機構22に対応する。
【0049】図2のフォント処理システムにおける処理の流れは、次のようになる。
(a)表示装置67に表示されたWebブラウザ62の画面から、参照したいホームページの存在場所を、ユーザがURLなどで指定する。
(b)Webブラウザ62は、指定されたURLをたよりにIPアドレスを求め、ネットワーク上の該当マシンであるWWWサーバ41へ接続し、ホームページに相当する文書メディア43と、文書メディア43からリンクする文字資源取出し機構46とを、WWWクライアント61にダウンロードする。
(c)Webブラウザ62は文書メディア43を解析して、ここからリンクしているイメージ/音声などのメディアデータのURLを知る。そして、文字資源取出し機構46を呼び出す。文字資源取出し機構46は、HTML文書を出力/表示するために必要なフォント資源と文書メディア出力機構40とフォント読出し機構56とを、WWWサーバ41からWWWクライアント61へダウンロードする。文字資源取出し機構46による処理手順は、以下の(X)および(Y)より成る。
(X)文字資源取出し機構46は、ジャバなどのプロトコルにより、WWWサーバ41内の文字種洗出し機構51を呼び出し、各種書体フォントの管理ファイル50から必要な書体フォントを抽出させる。このとき、文書メディア43の中で使われている各文字について、対応するフォントが抽出され、書体フォントの抽出ファイル52に格納される。
【0050】文字種洗出し機構51からは、さらに外字洗出し機構54が呼び出され、外字フォントの管理ファイル53から必要な外字フォントを抽出する。このとき、文書メディア43の中で使われている各外字について、対応するフォントが抽出され、外字フォントの抽出ファイル55に格納される。
(Y)文字資源取出し機構46は、書体フォントの抽出ファイル52、外字フォントの抽出ファイル55、文書メディア出力機構40、およびフォント読出し機構56を、WWWサーバ41からWWWクライアント61へダウンロードする。抽出ファイル52、55は、それぞれ、各種書体フォントの管理ファイル52′、外字フォントの管理ファイル55′として、WWWクライアント61内に格納される。
(d)Webブラウザ62は、(c)で得られた各メディアデータのURLをたよりにIPアドレスを求め、ネットワーク上の該当マシンへ接続し、イメージメディア44、音声メディア45をダウンロードする。
(e)ダウンロードしたメディアデータ44、45を、文書メディア43と一緒に、表示装置67に出力/表示する。出力機構は、各メディアごとに分かれている。
【0051】文書メディア43の出力では、標準のフォント読出し機構63と標準の文書メディア出力機構64の代わりに、ダウンロードされたフォント読出し機構56と文書メディア処理機構40が用いられる。
【0052】文書メディア出力機構40は、文書メディア13中の文字列を表示するプログラムであり、フォントの取り出しについては、フォント読出し機構56に依頼する。フォント読出し機構56は、各種書体フォントの管理ファイル52′および外字フォントの管理ファイル55′から、文字単位に該当するフォントを取り出して、文書メディア出力機構40に供給する。
【0053】また、標準のイメージメディア出力機構65はイメージメディア44のデータを表示し、標準の音声メディア出力機構66は音声メディア45のデータを出力する。
【0054】WWWサーバ41内の文書メディア43には、イメージメディア44や音声メディア45と同様に、不図示の他の文書メディアもリンクすることができる。そして、上述の処理(d)において、文書メディア処理機構47、イメージメディア処理機構48、および音声メディア処理機構49も、同様にWWWサーバ41からダウンロードすることができる。
【0055】この場合、処理(e)において、文書メディア43にリンクする文書メディアのデータは文書メディア処理機構47により表示され、イメージメディア44のデータはイメージメディア処理機構48により表示され、音声メディア45のデータは音声メディア処理機構49により出力される。
【0056】これにより、サービス提供者は、他の文書メディア、イメージメディア44、および音声メディア45の編集/出力処理を任意に指定して、WWWクライアント61に行わせることができる。
【0057】このようなフォント処理方法によれば、標準の文字メディア出力機構64が準備されていない端末に対しても、サーバ(ホスト)側で文字メディアの出力に必要なフォントを動的に洗い出し、洗い出したフォントを文字メディア(出力文書)と一緒に、クライアント(個人端末)側へ動的にダウンロードする。したがって、標準フォントさえ持っていないような簡略化された端末でも、多彩な文字を表示することが可能になる。
【0058】また、フォントを出力/表示するプログラム部品(アプレット)もサーバに準備され、文字メディアと一緒にクライアントへダウンロードされる。そして、出力処理の終了時点で、サーバからダウンロードされたメディアデータ/フォント資源/プログラム部品は、クライアント上から削除される。こうして、ネットワーク上の各個人ユーザ端末の動作環境が、サーバ側から供給/制御されるようになる。
【0059】欧米などでは、Times 、Helvetica 、Courier など、非常に多くの種類のフォントが利用されており、さらにプラットフォーム毎に異なるシステムフォントも用いられる。このため、図2のフォント処理システムは、日本語以外の他の言語の文字を表示する際にも有効である。特に、文字資源取出し機構46、文書メディア出力機構40、文字種洗出し機構51、およびフォント読出し機構56の組合わせは、日本国内のみならず欧米での利用にも適した構成となっている。
【0060】また、文字資源取出し機構46、文書メディア出力機構40、外字洗出し機構54、およびフォント読出し機構56の組合わせは、日本国内で外字だけの運用を行う場合に適しており、これに文字種洗出し機構51を加えた構成は、日本国内で各種書体のフォントおよび外字の運用を行う場合に適している。」(段落【0042】-【0060】)

イ 対比
補正発明と引用発明を対比する。

(ア)引用発明における個人用端末装置はコンピュータの一種であることは明らかであるから、引用発明の「方法」は「コンピュータ実行方法」といえる。

(イ)したがって、引用発明の「方法」と補正発明の「コンピュータ実行方法」とは、後述する相違点を除き、いずれも「コンピュータ実行方法」である点で一致する。

(ウ)引用発明の「HTMLデータ」は、補正発明の「電子文書のコンテンツ」に相当する。また、引用発明の「配信を受け」ることと、補正発明の「受信」することとは、技術的に同義である。

(エ)引用発明において、「外字部分については、「myfont」なるフォント名のフォントデータを用い」て表示し、「その他の部分については、個人用端末装置に標準的に装備されているフォントデータを用い」て表示するためには、「必要なタグ情報が追加されたHTMLデータ」を分析することで、外字部分とその他の部分それぞれの文字を識別することが必要であることは明らかであるから、引用発明は、補正発明の「受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれるフォントの各固有の文字を識別するために、分析する過程」を含んでいるといえる。

(オ)引用発明においては、「表示に必要なフォントデータを1文字単位でダウンロード」するため、上記(エ)の分析、識別結果に基づいて、フォント配信サーバ180に対してダウンロード要求を発するとともに、当該要求の中に識別した外字部分の文字を含める必要があることは当然であり、また、引用発明の「単一の外字文字コードのフォントデータのみを含む単一外字フォントファイル」は、外字フォント全体の部分集合、すなわち「サブセット」にほかならないから、引用発明は、補正発明の「電子文書のコンテンツ内に含まれるフォントのサブセットの要求を開始する過程と、を具備しており、該要求がそれぞれの該フォントの各識別された固有の文字を含む」構成を含んでいるといえる。

(カ)上記(ウ)-(オ)を総合すると、引用発明の「外字部分については、「myfont」なるフォント名のフォントデータを用い、その他の部分については、個人用端末装置に標準的に装備されているフォントデータを用いるよう、必要なタグ情報が追加されたHTMLデータの配信を受け、単一の外字文字コードのフォントデータのみを含む単一外字フォントファイルを、必要な外字文字コードの分だけ用意したフォント配信サーバ180から、表示に必要なフォントデータを1文字単位でダウンロードし、表示する」構成と、補正発明の「受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、要求されるエージェントにより自律的な方法で分析する過程と、該電子文書のコンテンツ内に含まれる該1つ以上のフォントのサブセットの要求を開始する過程と、を具備しており、該要求がそれぞれの該1つ以上のフォントの該各識別された固有の文字を含む」構成とは、「受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれるフォントの各固有の文字を識別するために、分析する過程と、該電子文書のコンテンツ内に含まれる該フォントのサブセットの要求を開始する過程と、を具備しており、該要求がそれぞれの該フォントの該各識別された固有の文字を含む」点で共通する。

そうすると、補正発明と引用発明は、次の点で一致する。

「コンピュータ実行方法であって、
受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれるフォントの各固有の文字を識別するために、分析する過程と、該電子文書のコンテンツ内に含まれる該フォントのサブセットの要求を開始する過程と、を具備しており、該要求がそれぞれの該フォントの該各識別された固有の文字を含む、該コンピュータ実行方法。」

他方、補正発明と引用発明は次の点で相違する。

<相違点1>
補正発明は、コンテンツ内に含まれ、識別しサブセットを要求するフォントの数が「1つ以上」であるのに対し、引用発明は、外字部分についての「myfont」1つである点。

<相違点2>
一致点の「受信した電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれるフォントの各固有の文字を識別するために、分析する過程」の実施主体が、補正発明は「要求されるエージェント」であるのに対し、引用発明は明らかではない点。

<相違点3>
補正発明は「自律的な方法で」分析しているのに対して、引用発明では自律的な方法か否かが特定されていない点。

ウ 判断
以下の(ア)-(ク)の事項を総合勘案すると、引用発明において上記相違点2に係る補正発明の構成を採用することは、当業者といえども容易に推考し得たこととはいえない。

(ア)補正発明の「要求されるエージェント」のうち、「エージェント」とは、本願明細書の段落【0022】の「この様なエージェントは実質的に自律的な方法で実行可能なソフトウエアモジュールと考えられてもよい。例えば、コンピュータシステム202に提供されると、ソフトウエアエージェントは重要なユーザーの相互作用無しに動作する。」との記載を参酌すれば、「ソフトウエアモジュール」を意味するものと認められる。

(イ)また、補正発明の「要求されるエージェント」のうち、「要求された」とは、本願明細書の段落【0027】の「該ファイル302はまた、ソフトウエアエージェントが該ユーザーのコンピュータデバイス202へ提供されることを要求する1つ以上のインストラクション306を含む。該インストラクション(図で“エージェントを取って来るインストラクション”とラベル付けされた)を実行すると、図形矢印310で表される様に、該ユーザーのコンピュータデバイス(例えば、コンピュータシステム202)からフォントプロバイダー214(例えば、サーバー222)への要求308のデリバリが開始される。要求308に応答して、図形矢印312で表される様に、エージェント(例えば、エージェント212)が該フォントプロバイダー214のサーバー222からユーザーのコンピュータデバイス(例えば、コンピュータシステム202)へ送られる。或る場合、エージェントのデリバリは該ファイルが受信された直ぐ後に起こり、ユーザーには何の後れも気付かれない。」との記載及び図3、並びに、段落【0030】の「インストラクション402が実行されると(例えば、コンピュータシステム202により)、エージェントがフォントプロバイダー(例えば、フォントプロバイダー214)から要求される。一旦コンピュータシステム202により受信されると、該HTMLファイル400のコンテンツを分析する該エージェントが実行される。」との記載及び図4を参酌すれば、サーバー等の外部装置から得たものであることを意味している。

(ウ)ここで、上記イ(エ)で示したとおり、引用発明は、「外字部分については、「myfont」なるフォント名のフォントデータを用い」て表示し、「その他の部分については、個人用端末装置に標準的に装備されているフォントデータを用い」て表示するために、「必要なタグ情報が追加されたHTMLデータ」の内容、すなわちコンテンツを分析することで、外字部分とその他の部分それぞれの文字を識別する構成を含むものであるといえるが、これら分析及び識別の実施主体については、明らかではない。
技術常識を参酌すれば、当該「分析」及び「識別」は、個人用端末装置が有するWebブラウザ等の「ソフトウェア」によって実現されているといえるが、これは個人用端末装置に内在するものであって、刊行物1には、当該ソフトウェアを外部装置から得ることについての記載もそれを示唆する記載もない。

(エ)一方、刊行物2の上記「(1)イ」の記載事項からみて、刊行物2には、ジャバ言語で記述されたアプレットプログラムである文字資源取り出し機構46をWWWサーバ41からWWWクライアント61にダウンロードし、文字資源取り出し機構46はWWWサーバ41内の文字種洗い出し機構51を呼び出して、文書メディア43の中で使われている各文字について、対応するフォントが抽出されることが記載されている(以下「刊行物2に記載された事項」という。)。

(オ)刊行物2に記載された事項として、WWWクライアント61がWWWサーバ41にフォントに関するソフトウェアを要求し得ることについては特定されているといえるが、文書メディア43の中で使われている各文字に対応するフォントの抽出はWWWサーバ41において行われており、WWWクライアント61において文字を識別し、その文字を含めた要求を行っているものではない。

(カ)したがって、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用し、相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たということができない。

(キ)また、刊行物1及び刊行物2のほかに原査定の拒絶の理由に引用された刊行物3(特表2004-501442号公報)、刊行物4(特開2005-217816号公報)、刊行物5(特開2007-011733号公報)、刊行物6(特開平05-233510号公報)のいずれにも、上記相違点2に係る補正発明の構成について、記載も示唆もされていない。

(ク)ほかに引用発明において上記相違点2に係る補正発明の構成を採用することが当業者にとって容易であったといえる根拠は見当たらない。

したがって、その他の相違点について判断するまでもなく、補正発明は引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
本件補正のうち上記補正事項2は、補正前の請求項10に記載された「エージェントを提供するフォントサーバーであって、」との重複した記載を削除、整理し、「エージェント」が「要求される」ものであるとの限定を付加し、その他「フォントサーバ」に関する記載を整理するものであって、補正前の請求項10に記載された発明と補正後の請求項10に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項10に記載された発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討するに、請求項10に記載された発明は、補正発明のカテゴリーを方法の発明から物の発明に変更し、「コンピュータデバイス」と「フォントサーバ」とが協働する「システム」の発明としたものであり、実質的に補正発明をさらに限定した発明であるから、上記2.(1)で検討したのと同様に、引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

よって、本件補正の補正事項2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)補正事項3について
本件補正のうち上記補正事項3は、補正前の請求項21に記載された「受信電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、自律的な方法で分析する過程」について、「要求されるエージェントにより」との限定を付加するとともに、軽微な記載の整理を行ったものであって、補正前の請求項21に記載された発明と補正後の請求項21に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項21に記載された発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討するに、請求項21に記載された発明は、補正発明のカテゴリーを方法の発明から物の発明に変更し、「コンピュータデバイス」の発明としたものであり、実質的に補正発明をさらに限定した発明であるから、上記2.(1)で検討したのと同様に、引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

よって、本件補正の補正事項3は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(4)補正事項4について
本件補正のうち上記補正事項4は、補正前の請求項28に記載された「受信電子文書のコンテンツを、該電子文書のコンテンツ内に含まれる1つ以上のフォントの各固有の文字を識別するために、自律的な方法で分析する過程」について、「要求されるエージェントにより」との限定を付加するものであって、補正前の請求項28に記載された発明と補正後の請求項28に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項28に記載された発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討するに、請求項28に記載された発明は、補正発明のカテゴリーを方法の発明からコンピュータ読み出し可能な媒体の発明に変更したものであるから、上記2.(1)で検討したのと同様に、引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

よって、本件補正の補正事項4は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(5)補正事項5について
本件補正のうち上記補正事項5は、補正前の請求項32に記載された「エージェント」について、「要求される」ものであるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項32に記載された発明と補正後の請求項32に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の前記請求項32に記載された発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討するに、請求項32に記載された発明は、補正発明のカテゴリーを方法の発明から物の発明に変更し、「コンピュータデバイス」と「フォントサーバ」とが協働する「システム」の発明としたものであり、実質的に補正発明をさらに限定した発明であるから、上記2.(1)で検討したのと同様に、引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

よって、本件補正の補正事項5は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(6)補正事項6-9について
本件補正のうち上記補正事項6-9は、それぞれ、補正前の請求項48に記載された「各フォントサブセット及び追加の文字をコンピュータデバイスに送信する過程」、補正前の請求項49に記載された「1つ以上のフォントのサブセット及び追加の文字を受信する過程」、補正前の請求項50に記載された「1つ以上のフォントのサブセット及び追加の文字を受信する過程」、及び補正前の請求項51に記載された「各フォントサブセット及び追加の文字をコンピュータデバイスに送信する過程」について、「該追加の文字がデータ転送限界に基づいていることを含む」との記載を「該追加の文字を含むことはしきい値に基礎を置くものである」と変更するものであって、いずれも特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-51に記載された発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-51に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、請求項1に記載された発明である補正発明、請求項10、21、28及び32に記載された発明は、上記第2の2.のとおり、いずれも引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

また、以下の1.-5.のとおりであるから、上記請求項1、10、21、28及び32に記載された発明以外の、請求項2-9、11-20、22-27、29-31、33-51に記載された発明は、いずれも引用発明及び刊行物2?6に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

1.補正発明を引用する請求項2-9、43-47に記載された発明は、補正発明をさらに限定した発明である。

2.請求項10を引用する請求項11-20、48に記載された発明は、請求項10に係る発明をさらに限定した発明である。

3.請求項21を引用する請求項22-27、49に記載された発明は、請求項21に係る発明をさらに限定した発明である。

4.請求項28を引用する請求項29-31、50に記載された発明は、請求項28に記載された発明をさらに限定した発明である。

5.請求項32を引用する請求項33-42、51に記載された発明は、請求項32に記載された発明をさらに限定した発明である。

したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-05 
出願番号 特願2013-508184(P2013-508184)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 古河 雅輝  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 山田 正文
土谷 慎吾
発明の名称 フォントサブセットの開始  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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