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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
管理番号 1323220
審判番号 不服2014-19954  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-03 
確定日 2016-12-28 
事件の表示 特願2013- 7375「HARQを使用するMIMOSCW(単一符号語)設計のためのランクの段階的低下」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日出願公開,特開2013-128300〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2006年5月31日を国際出願日とする出願である特願2008-514745号(パリ条約による優先権主張 2005年5月31日 米国,2005年10月28日 米国)の一部を,平成23年2月10日に新たな特許出願とした特願2011-027351号の一部を,平成25年1月18日に新たな特許出願としたものであって,平成26年5月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月3日に拒絶査定不服の審判が請求され,当審より,平成27年6月16日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,同年9月24日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され,同年12月17日付けで最後の拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,平成28年6月22日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年6月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成28年6月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成27年9月24日付けで手続補正された特許請求の範囲に記載された請求項1を,次のように補正することを含むものである。
以降,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を「補正前の請求項1」と称し,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1を「補正後の請求項1」と称し,本件補正のうち,請求項1に係る補正を「請求項1補正」と称する。

(補正前の請求項1)
「 1伝送フレームにおける複数の伝送の全体にわたり符号化率を維持するためにランクの段階的低下を実行する方法であって,
アクセス・ポイントにおいて複数の符号化シンボルを生成することと,
利用者デバイスへのMIMO伝送に関するMIMO伝送ランクが連続的な伝送で低下されるように,ランクの段階的低下シーケンスを反映する確定的方法で,該MIMO伝送ランクを更新することであって,ここにおいて,該MIMO伝送ランクは,スペクトル効率,変調,符号化率,および伝送回数に基づいて決定されることと,
情報シンボルを持つMIMOレイヤ,およびイレイジュア信号を持つ(M_(T)-M個)MIMOレイヤの値,M,を決定するために該符号化シンボルを逆多重化することであって,ここでMおよびM_(T)は1≦M≦M_(T)を満たす整数であることと,
空間マッピング行列を使用してM個のレイヤを空間マッピングすることと
事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論することを可能にすることと,を具備する,方法。」

(補正後の請求項1)
「 1伝送フレームにおける複数の伝送の全体にわたり符号化率を維持するためにランク更新を実行する方法であって,
アクセス・ポイントにおいて複数の符号化シンボルを生成することと,
符号化率が現在のMIMO伝送ランクに関連付けられる最小許容閾値未満に減少することに基づいて,MIMO伝送ランクを更新することであって,ここにおいて,該更新されたMIMO伝送ランクは,スペクトル効率に基づいて決定されることと,
情報シンボルを持つMIMOレイヤの値M,およびイレイジュアシンボルを持つMIMOレイヤの値(M_(T)-M)を生成するために該符号化シンボルを逆多重化することであって,ここでMおよびM_(T)は1≦M≦M_(T)を満たす整数であり,Mは,該更新されたMIMO伝送ランクに基づくことと,
空間マッピング行列を使用して情報シンボルを持つ該M個のMIMOレイヤを空間マッピングすることと,
該符号化シンボルを復号するときに使用するための該更新されたMIMO伝送ランクをアクセス端末に指示するために,該符号化シンボルと共に該アクセス端末にランク指示信号を送信することと,を具備する,方法。」

2.補正の適否(補正の目的要件)
(1)請求項1補正の内容
請求項1補正は,次の補正からなる。
ア 補正前の「ランクの段階的低下」を,「ランク更新」とする補正。
イ 補正前の「利用者デバイスへのMIMO伝送に関するMIMO伝送ランクが連続的な伝送で低下されるように,ランクの段階的低下シーケンスを反映する確定的方法で,該MIMO伝送ランクを更新することであって」を,「符号化率が現在のMIMO伝送ランクに関連付けられる最小許容閾値未満に減少することに基づいて,MIMO伝送ランクを更新することであって」とする補正。
ウ 補正前の「該MIMO伝送ランクは,スペクトル効率,変調,符号化率,および伝送回数に基づいて決定される」を,「該更新されたMIMO伝送ランクは,スペクトル効率に基づいて決定される」とする補正。
エ 補正前の「情報シンボルを持つMIMOレイヤ,およびイレイジュア信号を持つ(M_(T)-M個)MIMOレイヤの値,M,を決定するために該符号化シンボルを逆多重化すること」を,「情報シンボルを持つMIMOレイヤの値M,およびイレイジュアシンボルを持つMIMOレイヤの値(M_(T)-M)を生成するために該符号化シンボルを逆多重化すること」とする補正。
オ 補正前の「事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論することを可能にすること」を削除して,「該符号化シンボルを復号するときに使用するための該更新されたMIMO伝送ランクをアクセス端末に指示するために,該符号化シンボルと共に該アクセス端末にランク指示信号を送信すること」を付加する補正。

なお,上記アないしオに係る補正のそれぞれを,「補正ア」ないし「補正オ」という。

(2)補正の適否の検討
ア 補正ア及び補正イについて
補正ア及び補正イは,いずれも,「段階的低下」又は「低下」といった事項を「変更」に上位概念化する補正を含むものである。また,補正前の請求項1に係る「段階的低下」及び「低下」に関して,当審拒絶理由は,不明りょうである旨の指摘はしていない。
よって,補正ア及び補正イは,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮又は同第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものではない。
また,補正ア及び補正イは,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除又は同第3号の誤記の訂正を目的とするものでもない。

イ 補正ウについて
補正ウは,「スペクトル効率,変調,符号化率,および伝送回数」を,「スペクトル効率」に上位概念化するものである。また,補正前の請求項1に係る「スペクトル効率,変調,符号化率,および伝送回数」に関して,当審拒絶理由は,不明りょうである旨の指摘はしていない。
よって,補正ウは,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮又は同第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものではない。
また,補正ウは,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除又は同第3号の誤記の訂正を目的とするものでもない。

ウ 補正エについて
補正エは,当審拒絶理由における理由A(特許法第36条第6項第2号)の1ないし3を解消するために,「情報シンボルを持つMIMOレイヤの値」が「M」であり,「イレイジュアシンボルを持つMIMOレイヤの値」が「(M_(T)-M)」であることを明りょうにするものであるから,特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

エ 補正オについて
明細書の段落【0039】には,「ランクの段階的低下シーケンスは,伝送信号のパケット・フォーマットの関数であることが出来る(例えば,端末はどの伝送でどのランクが使用されるべきかを自動的に知る),この場合明示的信号は必要ない,ことが注目される。それに代わって,基地局は,伝送信号を復号するときに使用されるべきランクについて端末に報知するために,それぞれの伝送に対してランク指示信号を提供することが出来る。」と記載されている。
当該記載によれば,「パケット・フォーマット」に基づいて端末がランクを知る(推定する)場合には,明示的信号は必要ないことになるから,「パケット・フォーマット」に基づいて端末がランクを知る(推定する)こと(以下,「技術事項1」という。)と,基地局が明示的にランク指示信号を提供する(送信する)こと(以下,「技術事項2」という。)とは,技術的手段が異なるといえる。
一方,補正前の請求項1に記載の「事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論することを可能にすること」は,技術事項1を包含する事項であり,補正後の請求項1に記載の「該符号化シンボルを復号するときに使用するための該更新されたMIMO伝送ランクをアクセス端末に指示するために,該符号化シンボルと共に該アクセス端末にランク指示信号を送信すること」は,技術事項2を包含する事項であるから,補正オは,技術的手段を変更する補正である。
すると,補正オは,特許法第17条の2第5項第4号の不明りょうな記載の釈明の範囲を逸脱するものであり,同第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものでもない。
また,補正オは,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除又は同第3号の誤記の訂正を目的とするものでもない。

よって,以上のア,イ及びエの検討より,補正ア,補正イ,補正ウ及び補正オを含む請求項1補正を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項(補正の目的要件)に適合しない。
なお,本件補正は,出願時における明細書,特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内でしたものであるから,特許法第17条の2第3項(新規事項)の要件には適合している。
また,補正オは,技術的手段を変更する補正であり,本件補正は,特別な技術的事項を変更する補正を含むことが明らかであるから,特許法第17条の3第4項(シフト補正)の要件に適合しない。

(3)結語
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第4項及び第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成28年6月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,「第2 補正の却下の決定」の「1 本件補正」の「補正前の請求項1」とした,次のとおりのものと認める。

「 1伝送フレームにおける複数の伝送の全体にわたり符号化率を維持するためにランクの段階的低下を実行する方法であって,
アクセス・ポイントにおいて複数の符号化シンボルを生成することと,
利用者デバイスへのMIMO伝送に関するMIMO伝送ランクが連続的な伝送で低下されるように,ランクの段階的低下シーケンスを反映する確定的方法で,該MIMO伝送ランクを更新することであって,ここにおいて,該MIMO伝送ランクは,スペクトル効率,変調,符号化率,および伝送回数に基づいて決定されることと,
情報シンボルを持つMIMOレイヤ,およびイレイジュア信号を持つ(M_(T)-M個)MIMOレイヤの値,M,を決定するために該符号化シンボルを逆多重化することであって,ここでMおよびM_(T)は1≦M≦M_(T)を満たす整数であることと,
空間マッピング行列を使用してM個のレイヤを空間マッピングすることと
事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論することを可能にすることと,を具備する,方法。」

2.当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は,次のとおりである。

「 <<<< 最 後 >>>>

この審判事件に関する出願は,合議の結果,以下の理由A,Bによって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら,この通知書の発送の日から3ヶ月以内に意見書を提出してください。

理 由

A (…中略…)

B 本件出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



【請求項1】等に記載された「事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論する」点に関し,「フォーマット」の具体的な内容について明細書には開示がなく,何を意味するのかが不明瞭であるため,「利用者デバイス」が,具体的に「フォーマット」が保持するどのような情報を用いて「MIMO伝送ランクを推論する」のか,が不明である。

なお,この点に関し,平成27年9月24日付け意見書の「理由A2(実施可能要件)について」において,
『「パケットフォーマットは,CQIに対応する変調符号化スキームを示す番号である」という定義は誤りであると思料いたします。請求項および明細書で言及されたパケットフォーマットは番号ではなく,伝送されているデータのフォーマットに関するものです。例えば,データは,様々な符号化スキームを有する,様々なヘッダまたはフッタ,CNCチェック,および/または特定の位置に位置付けられたビットを有する,様々な長さのパケットによりパッケージされることができます。明細書の段落[0046]では,伝送されたデータのスペクトル効果を最適化する,および/または信号対ノイズ比(SNR)を最大化するために選択され得るパケットフォーマットが開示されています。審判官殿の解釈は,変調符号化スキームがパケットフォーマットのタイプであると考慮され得る点で近いのですが,パケットフォーマットは番号ではありません。

したがって,「事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該パケット・フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論することを可能にすること」という限定は,フォーマット自体の事前に定義されたランクを用いて利用者デバイスがMIMO伝送ランクを推論することを可能にします。審判請求人は,本拒絶を解決するため,請求項1,6,11,19,および27-28の「パケット・フォーマット」を「フォーマット」と補正しました。』
と主張している。

しかしながら,請求人が段落【0046】に開示されていると主張する「パケットフォーマット」が,具体的に段落【0046】の記載のどの部分を特定して「パケットフォーマット」であると主張しているのか不明であり,また,上記「例えば,データは,様々な符号化スキームを有する,様々なヘッダまたはフッタ,CNCチェック,および/または特定の位置に位置付けられたビットを有する,様々な長さのパケットによりパッケージされることができます。」との主張は,単に一般的な「パケット」構成を説明しているだけと認められ,【請求項1】等に記載された「事前に定義されたランクを有するフォーマット」が具体的に何を指すのかが不明瞭である。
そのため,「利用者デバイス」が,具体的に「フォーマット」が保持するどのような情報を用いて「MIMO伝送ランクを推論する」のか,が不明である。

なお,平成27年9月24日付けの手続補正で「パケットフォーマット」が「フォーマット」と補正されたが,該「フォーマット」は「パケットフォーマット」よりも広い概念であるうえ,当初明細書に該「フォーマット」に関する説明は無いため,上記補正は新規事項追加の疑義がある。



最後の拒絶理由通知とする理由

この拒絶理由通知は,原審における最初の拒絶理由通知(平成25年3月29日付け)に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。

(以下省略)」

以上より,当審拒絶理由は,「事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論する」との事項に関し,発明の詳細な説明の記載は,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないので,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない,という拒絶の理由を含むものである。

3 当審拒絶理由についての判断
当審拒絶理由における前記拒絶の理由(実施可能要件)について検討する。

(1)発明の詳細な説明の記載について
明細書には,本願発明に係る「フォーマット」と明細書に記載の「パケット・フォーマット」との関係について具体的な記載はないものの,仮に,「フォーマット」が,「パケット・フォーマット」とはまったく異なる概念である場合には,当審拒絶理由のなお書きに疑義が呈せられているように,平成27年9月24日付け手続補正は,新規事項の追加となることが明らかであるので,「フォーマット」は,「パケット・フォーマット」を上位概念化して記載したものと解するのが合理的である。
そして,明細書には,「フォーマット」ないし「パケット・フォーマット」と「ランク」との関係に関して,次の記載がある。

ア 「【0008】
順方向リンク制御オーバーヘッド制限:良好なパケット復号を可能にするために,アクセス・ポイントは,順方向リンクの共通制御チャネルを使用して,受信側にランクとパケット・フォーマットの信号を送る必要がある。しかしながら,重負荷のシナリオの場合,オーバーヘッド制限のために,アクセス・ポイントは,全ての送信されるパケットに対して,受信側にランクとパケット・フォーマットの信号を送ることが出来るとは限らない。結果として,1又は複数のパケットの複数の伝送を介してMIMO伝送ランクを間断なく更新することが出来ない,従来のMIMOシステムは,チャネル状態や干渉レベルの変動には頑強であるとは云えず,遅いHARQ伝送の復号又はパケット復号の失敗をもたらす。」

イ 「【0014】
(…中略…)該方法は,更に,事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットを使用して該符号化シンボルを送信すること,及び/又は,該符号化シンボルを復号するときに使用するためのランクを該アクセス端末に示すために該符号化シンボルと共にアクセス端末にランク指示信号を送信するための命令を送信すること,を具備することが出来る。」
【0015】
(…中略…)該方法は,更に,事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットを使用して該符号化シンボルを送信すること,及び/又は,該符号化シンボルを復号するときに使用するためのランクを該アクセス端末に示すために該符号化シンボルと共にアクセス端末にランク指示信号を送信するための命令を送信すること,を具備することが出来る。
(…中略…)
【0017】
(…中略…)関連する態様に従えば,該信号は,関連する事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットにおいて符号化シンボルを含むことが出来る。追加として又はそれに代わって,該受信機は,アクセス・ポイントからの情報信号を復号するときに用いるためのランクをアクセス端末に示すランク指示信号を受信することが出来る。
(…中略…)
【0019】
(…中略…)ある態様によれば,該信号は,関連する事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットにおいて符号化されてきた符号化シンボルを含むことが出来る。追加として又はそれに代わって,該受信機は,アクセス・ポイントから受信された該信号を復号するときに用いるためのランクをアクセス端末に示す,ランク指示信号を受信することが出来る。
【0020】
(…中略…)該コンピュータ可読媒体は,また更に,事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットを使用して該符号化シンボルを送信するための命令,及び/又は,該符号化シンボルを復号するときに使用するためのランクをアクセス端末に示すために該符号化シンボルと共にアクセス端末にランク指示信号を送信するための命令,を記憶できる。
【0021】
(…中略…)該プロセッサは,また更に,事前に定義されたランクを有するパケット・フォーマットを使用して該符号化シンボルを送信するための命令,及び/又は,該符号化シンボルを復号するときに使用するためのランクをアクセス端末に示すために該符号化シンボルと共にアクセス端末にランク指示信号を送信するための命令,を実行することができる。
【0022】
(…中略…)その上,該FLAMは,パケット・フォーマットに関する情報を含み,複数のパケット・フォーマットのそれぞれは,それと関連付けられる独自のランクを有することが出来て,該複数のフォーマットは,該利用者デバイスが自身のランクを決定することを可能にする。

ウ 「【0039】
(…中略…)ランクの段階的低下シーケンスは,伝送信号のパケット・フォーマットの関数であることが出来る(例えば,端末はどの伝送でどのランクが使用されるべきかを自動的に知る),この場合明示的信号は必要ない,ことが注目される。それに代わって,基地局は,伝送信号を復号するときに使用されるべきランクについて端末に報知するために,それぞれの伝送に対してランク指示信号を提供することが出来る。」

エ 「【0061】
ある場合には,FLAMは,利用者デバイスへの伝送のためのパケット・フォーマットに関する情報を含むことが出来る,そして,パケット・フォーマットの定義は,固有のランクの属性を具備することが出来る。例えば,第1のパケット・フォーマットは,それに関連付けられるランク3を有することが出来,他方,第2のパケット・フォーマットは,それに関連付けられるランク2を有することが出来る,等々。パケット・フォーマット及び関連付けられるランクは,関連付けの任意の好ましい置換(例えば,直接的関係,反転関係,昇順及び又は降順関係又はそれ等の反転,無作為相関,…)を含むことが出来て,上述で説明された例には限定されない。
【0062】
補足FLAMは,利用者ランク更新に関する情報を利用者デバイス804に供給することが出来て,次に該利用者デバイスは,該情報によって今度は自身のランクを決定することが出来る。例えば,ランクがパケット・フォーマットに連結される場合,利用者デバイス804は,受信されたパケット・フォーマットから自身の新しいランク割り当てを推論することが出来る。」

前記アないしエより及び出願時の技術常識を勘案して,発明の詳細な説明の記載事項について検討する。

(ア)前記アは,従来技術における問題として,受信側に「ランク」と「パケット・フォーマット」の信号を送ることが出来るとは限らないため,MIMO伝送ランクを更新することが出来ない,ということに関するものである。ここで,「パケット・フォーマットの信号」とは,どのような信号であるのか具体的に特定していないものの,「MIMO伝送ランク」の更新に使用される信号であることまでは把握することができる。

(イ)前記イは,「パケット・フォーマット」が,「事前に定義されたランク」を「有する」,ということに関するものである。しかしながら,「パケット・フォーマット」が,どのような形で「事前に定義されたランク」を「有する」のか,当該記載のみによっては把握することができない。

(ウ)前記ウの「ランクの段階的低下シーケンスは,伝送信号のパケット・フォーマットの関数である」,「端末はどの伝送でどのランクが使用されるべきかを自動的に知る」,「この場合明示的信号は必要ない」,「これに代わって,基地局は,伝送信号を復号するときに使用されるべきランクについて端末に報知するために,それぞれの伝送に対してランク指示信号を提供することが出来る。」からは,「パケット・フォーマット」は,ランク指示信号とは異なり,「ランク」を示す明示的信号を含むものではなく,何らかの関数を用いて端末が「ランク」を知ることができるものであること,すなわち,端末が,「パケット・フォーマット」に基づいて,「ランク」を推定(推論)することができると把握することができる。

(エ)前記エからは,「パケットフォーマット」には,第1のパケット・フォーマット,第2のパケット・フォーマット等,複数種類のものが存在し,各パケット・フォーマットに,対応するランクが関連付けられること,また,「ランク」が「パケット・フォーマット」に連結される場合,すなわち,関連付けられている場合には,利用者デバイス(端末)は,受信した「パケット・フォーマット」から「ランク」を推論することができることを把握することができる。

前記(ア)ないし(エ)(特に,(ウ)及び(エ))より,発明の詳細な説明には,「パケット・フォーマット」は,複数の種類があり,各「パケット・フォーマット」は,「ランク」が関連付けられているが,明示的に「ランク」を示す信号は含まず,受信側の端末は,受信した「パケット・フォーマット」により「ランク」を推論できることが記載されている。
そうすると,「パケット・フォーマット」は,明示的に「ランク」を示す信号を含まないが,受信した端末が,「ランク」を推論できるものでなければならない。
しかしながら,明細書及び図面には,「パケット・フォーマット」の定義及び「パケット・フォーマット」にどのように「ランク」が関連付けられているのか,その結果,「パケット・フォーマット」を受信した端末が,当該「パケット・フォーマット」から「ランク」をどのように推論するのかについて何ら記載がなく,また,出願時の技術常識(例えば,3GPPのLTEに関する周知の規約等)においても,「パケット・フォーマット」が非明示的に「ランク」を示すことについて具体的な定義は存在しない。
したがって,発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を参酌しても,「事前に定義されたランクを有するフォーマットを用いて該符号化シンボルを送信し,該利用者デバイスが該フォーマットに基づいて,該MIMO伝送ランクを推論する」との事項に関し,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないから,本願は,特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に規定する要件を満たしていない。

(2)請求人の意見について
請求人は,平成27年9月24日付けの意見書において,
「『パケットフォーマットは,CQIに対応する変調符号化スキームを示す番号である』という定義は誤りであると思料いたします。請求項および明細書で言及されたパケットフォーマットは番号ではなく,伝送されているデータのフォーマットに関するものです。例えば,データは,様々な符号化スキームを有する,様々なヘッダまたはフッタ,CNCチェック,および/または特定の位置に位置付けられたビットを有する,様々な長さのパケットによりパッケージされることができます。明細書の段落[0046]では,伝送されたデータのスペクトル効果を最適化する,および/または信号対ノイズ比(SNR)を最大化するために選択され得るパケットフォーマットが開示されています。審判官殿の解釈は,変調符号化スキームがパケットフォーマットのタイプであると考慮され得る点で近いのですが,パケットフォーマットは番号ではありません。」
と主張している。(以下,これを「主張1」という。)
主張1において,請求人は,当審が,平成27年6月16日付けで通知した拒絶理由において,優先権主張の基礎である米国特許仮出願の記載に基づいて示唆した「パケットフォーマットは,CQIに対応する変調符号化スキームを示す番号である」という定義を否定した上で,「請求項および明細書で言及されたパケットフォーマットは番号ではなく,伝送されているデータのフォーマットに関するものです。例えば,データは,様々な符号化スキームを有する,様々なヘッダまたはフッタ,CNCチェック,および/または特定の位置に位置付けられたビットを有する,様々な長さのパケットによりパッケージされることができます。」と主張しているが,当該主張部分は,一般的な伝送データのフォーマットについて説明しているにすぎず,一般的な伝送データのフォーマットが,どのように「ランク」に関連付けられるのかについて何ら説明していない。また,一般的な伝送データのフォーマットから「ランク」を推定できること,すなわち,一般的な伝送データのフォーマットが特定の「ランク」に関連付けられることは,出願時の技術常識(例えば,3GPPのLTEの周知の規約等)であったとは認められない。
また,主張1の中で,「明細書の段落[0046]では,伝送されたデータのスペクトル効果を最適化する,および/または信号対ノイズ比(SNR)を最大化するために選択され得るパケットフォーマットが開示されています。」において引用される明細書の段落【0046】には,
「図4Aは,種々の態様に従って,容量に基づくランク予測を促進するシステムの一説明図である。システム400は,複数の受信トーンのそれぞれに対する,複数のMMSE受信機402から404を含む。図4は,簡明を期するため4アンテナの例に関して説明されるけれども,より少ない又はより多いトーン及びそれぞれのコンポーネントが本明細書で説明される種々の態様に関連して採用されることが出来ることは,当業者によって認められる。それぞれのトーンに対して,第1から第4レイヤ伝送に対する後処理SNR,SNR1(k),SNR2(k),SNR3(k),SNR4(k),は,それぞれのトーンに対して下記のように計算される:
【数4】
(…数式省略…)」
と記載されているが,当該記載は,「容量に基づくランク予測を促進するシステム」に関し,特に,各トーンに対する各レイヤ伝送に対する後処理SNRの計算を説明するものであって,明細書及び図面の他の記載を参酌しても,「容量」が「パケットフォーマット」と同義であることは記載も示唆もなく,かつ,そのことが出願時の技術常識(例えば,3GPPのLTEの周知の規約等)から自明ともいえない。よって,明細書の段落【0046】には,請求人が主張する「伝送されたデータのスペクトル効果を最適化する,および/または信号対ノイズ比(SNR)を最大化するために選択され得るパケットフォーマット」を説明するものとは認められない。

また,請求人は,平成28年6月22日付けの意見書において,
「出願人は,審判官殿のご意見に同意いたし兼ねますが,本願独立請求項1,11,19,20,および28(補正後の請求項1,10,17,18,および26)を「フォーマット」という記載を取り除くように補正しました。
また本願従属請求項27における『フォーマット』という記載を『パケットフォーマット』と記載するように補正しました。本補正の根拠は,本願明細書の段落[0039]に見受けられます。出願人は,基地局からのMIMO伝送のコンテクストにおける,本願請求項27に記載されている「事前に定義されたランクを有するフォーマット」が,例えば,ランク指示が事前に定義される特定のダウンリンク制御情報(DCI)フォーマットまたは同様のものを意味することを当業者が理解するものと思料いたします。」
と主張している。(以下,これを「主張2」という。)
主張2において,請求人は,「出願人は,審判官殿のご意見に同意いたし兼ねます」と主張するものの,当審拒絶理由に対する具体的な反論はしていない。
また,主張2において,「パケット・フォーマット」に関する請求項27に係る補正の根拠として挙げている明細書の段落【0039】には,「パケット・フォーマット」と「ランク」に関し,
「ランクの段階的低下シーケンスは,伝送信号のパケット・フォーマットの関数であることが出来る(例えば,端末はどの伝送でどのランクが使用されるべきかを自動的に知る),この場合明示的信号は必要ない,ことが注目される。それに代わって,基地局は,伝送信号を復号するときに使用されるべきランクについて端末に報知するために,それぞれの伝送に対してランク指示信号を提供することが出来る。」と記載されている。
当該記載には,請求人が主張する「ランク指示が事前に定義される特定のダウンリンク制御情報(DCI)フォーマットまたは同様のもの」について記載されていない。また,「ランク指示が事前に定義される特定のダウンリンク制御情報(DCI)フォーマットまたは同様のもの」が,本願の出願時における技術常識(例えば,3GPPにおけるLTEの周知の規約等)であったとも認められない。(そもそも,3GPPにおいて,「DCIフォーマット」について議論がなされたのは,本願の出願の後であり,本願の出願時において,「DCIフォーマット」と「同様のもの」に対応するものが何であるのかも,請求人は明らかにしていない。)
また,請求人は,「ランク」を推定するための「フォーマット」(パケット・フォーマット)が,主張1においては,一般的な伝送データのフォーマットである旨主張しているのに対し,主張2においては,「ダウンリンク制御情報(DCI)フォーマットまたは同様のもの」と主張しており,一貫していない。

したがって,請求人の主張は,各意見書を通じて一貫しておらず,また,個々の意見書における各主張を参酌したとしても,当審拒絶理由を解消するものとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり,この出願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-26 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-18 
出願番号 特願2013-7375(P2013-7375)
審決分類 P 1 8・ 574- WZ (H04J)
P 1 8・ 572- WZ (H04J)
P 1 8・ 536- WZ (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽岡 さやか  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 HARQを使用するMIMOSCW(単一符号語)設計のためのランクの段階的低下  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 峰 隆司  
代理人 岡田 貴志  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  
代理人 井上 正  
代理人 佐藤 立志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  

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