• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1323279
審判番号 不服2015-16107  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-01 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2011- 58880「光学フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日出願公開、特開2012- 18383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成23年3月17日の出願(優先権主張平成22年6月8日)であって、平成26年10月31日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月24日に意見書が提出され、平成27年5月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月1日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、平成28年7月28日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月30日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年9月30日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「透明なアクリル系樹脂に、平均粒径10?300nmのゴム弾性体粒子を25?45重量%含有するアクリル系樹脂組成物100重量部に対し、ステアリン酸系化合物からなる滑剤が0.01?0.07重量部の割合で配合されてなる組成物を溶融押出しし、2本の金属製ロールで挟み込んだ状態で製膜し、ロール状に巻き取ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。」(以下「本願発明」という。)

2 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由のうち、理由2は概ね次のとおりである。
本件出願の請求項1?7(平成28年9月30日になされた手続補正前のもの)に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2008-239739号公報

引用例1に記載された発明において、滑剤を請求項1に係る発明に記載された数値範囲とすることは、当業者が適宜なし得た設計的な事項にすぎない。

3 引用例等の記載事項
(1)本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由で引用例1として引用された刊行物である特開2008-239739号公報(以下単に「引用例」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が110℃以上の熱可塑性樹脂を含み、該フィルムの全ヘイズが1.6%以上、内部ヘイズが1.0%以下、面内位相差Δndが10nm以下、厚み方向位相差Rthが-10?10nmである熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
表面ヘイズが1.0%以上である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がアクリル樹脂である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
アクリル樹脂が、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1?5のアルキル基を表す。)
【請求項5】
上記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)50?95質量%とアクリル弾性体粒子(B)5?50質量%とで構成され、アクリル樹脂(A)の構成単位として、少なくともメタクリル酸メチル単位55?95mol%とグルタル酸無水物単位5?45mol%を含有し、かつメタクリル酸メチル単位とグルタル酸無水物単位の和が90mol%以上である請求項4に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
アクリル弾性体粒子(B)の重量平均粒径が50?300nmである、請求項5に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
アクリル弾性体粒子(B)が、内層がアクリル酸アルキルエステル単位および/または芳香族ビニル単位を含有するゴム弾性体であり、外層がグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂を含む重合体であり、アクリル弾性体粒子(B)とアクリル樹脂(A)の屈折率差が0.010以下である、請求項5または6に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
380nmにおける光線透過率が10%以下である、請求項1?7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
単層構成を有している、請求項1?8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
少なくとも一方の表面にハードコート層が積層されている、請求項1?9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項11】
光学用途に用いられる、請求項1?10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項12】
押出機を用いて、溶融した熱可塑性樹脂を口金から冷却ロール上に押し出して固化せしめる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、口金から冷却ロール間のドラフト比を10以上とし、かつ、溶融した熱可塑性樹脂の押出機出口から口金出口までの平均滞留時間を30?60分間とする、請求項1?11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、新規かつ工業上有用な耐熱性、光学的等方性に優れ、かつ取り扱い性にも優れた熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。
【0002】
さらに詳しくは、例えば、フラットディスプレイパネル等の表示材料、車両用内装材および外装材、電化製品、建材用内層および外装材等の表面表皮材料、及びそれらに用いられる各種フィルムの表面保護材として有用であり、特にその優れた耐熱性・光学等方性から、偏光子保護フィルムなどのフラットディスプレイパネル用材料として有用である熱可塑性樹脂およびその製造方法に関する。」
ウ 「【背景技術】
【0003】
各種の高分子樹脂フィルム、特にアクリル樹脂、ポリカーボネート、塩化ビニル、環状オレフィンなどのフィルムは透明性や表面光沢性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内層および外装材等の表面表皮など広範な分野で使用されている。
・・・略・・・
【0006】
・・・略・・・
しかし、近年の急速な画面の大型化および価格低下に対応するためにフィルム広幅化や加工ラインの高速化が進んでおり、それに伴いフィルムの搬送性、巻取り性、表面に発生する細かな傷、巻き出し時の帯電、および搬送性や帯電が原因となり、例えばハードコート層や反射防止膜を形成する時に欠点を発生させる等の生産工程上の問題が顕在化してきており、製造コスト低減の障害となっている。
・・・略・・・」
エ 「【0059】
本発明においては、上記のアクリル樹脂(A)にアクリル弾性体粒子(B)を分散せしめることにより、アクリル樹脂(A)の優れた特性を大きく損なうことなく優れた靱性および耐衝撃性を付与することができる。アクリル弾性体粒子(B)の含有量としては、5?50質量%が好ましく、さらに好ましくは10?30質量%である。アクリル弾性体粒子(B)が5質量%未満である場合には、フィルムの靱性に劣ったり、ヘイズを所望の値に制御できなくなったりすることがある。アクリル弾性体粒子(B)が50質量%を超える場合には、耐熱性が不十分となったり、ヘイズを所望の値に制御できなくなったりすることがある。
【0060】
また、アクリル弾性体粒子(B)としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、これらの各層が隣接し合った構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体(B-M)や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体(B-G)等が好ましく使用できる。」
オ 「【0092】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、フィルム内部は光を散乱させることなく、かつ、フィルム表面にわずかなうねり状の凹凸を有する構成をとることで優れた取り扱い性・加工性を有しながら、かつ、高透明性を発現させることが可能となる。詳しくは、フィルム内部は光を散乱させない構造とし、表面にわずかなうねり状の凹凸を有する構造とすることで、フィルムの滑り性やロール状に巻いた時のエア抜け性、ロール巻き出し時の帯電性などを改善させることができ、かつ熱可塑性樹脂フィルム表面に、例えばハードコート層や粘着層、反射防止層などの機能層を設ける等の加工を施すことで、表面凹凸形状を埋めることにより光の散乱が低減され、高透明性を発現させることが可能となる。つまり、フィルムの内部ヘイズを低く保ちながら、全ヘイズをある範囲に制御することで、このような機能を発現させることができる。
【0093】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、内部ヘイズは1.0%以下であり、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。内部ヘイズが1.0%を超えると光の散乱が大きくなり、画像がぼやけたり、精度が劣ったりすることがある。また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、全ヘイズは1.6%以上であり、好ましくは1.6?5.0%、さらに好ましくは1.6?3.0%である。全ヘイズが1.6%未満である場合は、巻き取り性、走行性など取り扱い性に劣ることがある。全ヘイズの上限値は特に限定されないが、表面加工後のヘイズ値低減の観点から5.0%未満が好ましい。」
カ 「【0106】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムには本発明の目的を損なわない範囲で、他のアクリル樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の一種以上をさらに含有させることができ、また、ヒンダードフェノール系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。」
キ 「【0141】
[実施例]
(1)アクリル樹脂の調製
(A)アクリル樹脂(A1)
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤(以下の方法で調整した。メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、イオン交換水1,500重量部を反応器中に仕込み反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保つ。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続け、アクリル酸メチルとアクリルアミド共重合体の水溶液として得る。得られた水溶液を懸濁剤として使用した)0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記原料モノマー混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合中間体(a-1)を得た。この共重合体(a-1)の重合率は98%であり、重量平均分子量は10万であった。
【0142】
メタクリル酸 :25重量部
メタクリル酸メチル :75重量部
t-ドデシルメルカプタン :1.5重量部
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル:0.4重量部
これに添加剤(NaOCH_(3))を配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂(A1)を得た。このアクリル樹脂(A1)中のメタクリル酸メチル単位の組成比は75mol%、メタクリル酸単位の組成比は2mol%、グルタル酸無水物単位の組成比は23mol%であった。
【0143】
(B)アクリル樹脂(A2?A6)
原料モノマー混合物のメタクリル酸、メタクリル酸メチルの混合比、および平均分子量を表1の通りとした以外は、前期(A1)と同様にしてアクリル樹脂(A2?A6)を得た。得られたアクリル樹脂のグルタル酸無水物単位の組成比は表1に示した通りであった。
【0144】
(C)アクリル樹脂(A7)
原料モノマー混合物のメタクリル酸、メタクリル酸メチルの混合比、および平均分子量を表1の通りとし、また、分子内環化反応を行わなかった事以外は前期(A1)と同様にしてアクリル樹脂(A7)を得た。
【0145】
(2)アクリル弾性体粒子の調製
(A)アクリル弾性体粒子(B1)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に脱イオン水120重量部、炭酸カリウム0.5重量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5重量部、過硫酸カリウム0.005重量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル53重量部、スチレン17重量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)2重量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、コア層(内層)重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21重量部、メタクリル酸9重量部、過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層(外層)を重合させ、この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ-ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、2層構造(コアシェル構造)のアクリル弾性体粒子(B)を得た。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の平均粒子径は140nmであった。
【0146】
(B)アクリル弾性体粒子(B2?B4)
原料モノマーの組成および平均粒径を表2の通りとした以外は前期(B1)同様の方法にて、アクリル弾性体粒子B2?B4を得た。
【0147】
[実施例1]
上記アクリル樹脂(A1)80重量部およびアクリル弾性体粒子(B1)を20重量部の組成比で配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いてスクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練後、平均目開き7μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにて異物を濾過し、ペレット状のアクリル樹脂を得た。
【0148】
次いで、100℃、100Paで6時間乾燥したペレットをベント付きの直径65mmの一軸押出機を用いて、ベント圧12kPa、押出し設定温度260℃にてアクリル樹脂を押し出し、ギアポンプを介して樹脂の計量を行った。次に、平均目開き7μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにて異物を濾過した後に、口金(Tダイ(リップ間隙0.8mm、設定温度260℃))を介して押出し、表面温度125℃の冷却ロールに両面を完全に接着させるようにして冷却後、続いて90℃、40℃の順に冷却ロールを通してフィルムを徐冷し、両端部をシェアカッターにて除去したのち、ロール状に巻き取り、厚み40μmの未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。なお、押出機出口?Tダイ出口までの樹脂平均滞留時間は45分、ドラフト比は22であった。
【0149】
得られたフィルムの特性は表4の通りであり、優れた耐熱性や光学等方性、低い内部ヘイズを有しながら、搬送性、巻き取り性など加工性にも優れたものであった。
【0150】
[実施例2]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表4の通りであり、優れた耐熱性や光学等方性、低い内部ヘイズを有しながら、搬送性、巻き取り性など加工性にも優れたものであった。
【0151】
[実施例3]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表4の通りであり、優れた耐熱性や光学等方性を有しながら、搬送性、巻き取り性など加工性にも優れたものであった。また、耐熱加工性にやや劣り、内部ヘイズがやや高かったものの、合格の範囲内であった。
【0152】
[実施例4]
使用する原料配合および製膜条件を表3の通りとした以外は、実施例1と同様にして、未延伸アクリル樹脂フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表4の通りであり、優れた耐熱性や光学等方性、低い内部ヘイズを有しながら、搬送性、巻き取り性など加工性にも優れたものであった。」
ク 「【0161】
【表1】

【0162】
【表2】

【0163】
【表3】

【0164】
【表4】


ケ 【0152】(上記キ)の記載、及び、使用する原料配合および成膜条件を示した表3(上記ク)の記載からみて、実施例4は、光線透過率が91%であり、アクリル樹脂(A)として、アクリル樹脂A4を70重量%、アクリル弾性体粒子(B)として、アクリル弾性体粒子B1を30重量%配合した以外は、実施例1と同様であるものと認められる。
コ 上記アないしケからみて、引用例には、請求項12について、具体的な実施例4として、次の発明(引用箇所をそのまま示すため参照として段落番号等を併記する。)が記載されているものと認められる。
「【0163】【表1】アクリル樹脂(A4)を70重量%、アクリル弾性体粒子(B1)を30重量%の組成比で配合し、【0147】ペレット状のアクリル樹脂を得、
【0148】、【0164】【表3】次いで、100℃、100Paで6時間乾燥したペレットをベント付きの直径65mmの一軸押出機を用いて、ベント圧12kPa、押出し設定温度260℃にてアクリル樹脂を押し出し、ギアポンプを介して樹脂の計量を行い、次に、平均目開き7μmのステンレス鋼繊維を焼結圧縮したフィルターにて異物を濾過した後に、
口金(Tダイ(リップ間隙0.8mm、設定温度260℃))を介して押出し、表面温度125℃の冷却ロールに両面を完全に接着させるようにして冷却後、続いて90℃、40℃の順に冷却ロールを通してフィルムを徐冷し、両端部をシェアカッターにて除去したのち、ロール状に巻き取り、光線透過率が91%で、厚み40μmの未延伸アクリル樹脂フィルム、【請求項3】すなわち、熱可塑性樹脂フィルムを得る、【0002】偏光子保護フィルムなどのフラットディスプレイパネル用材料として有用である熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
【0145】前記アクリル弾性体粒子(B1)は、コア層(内層)重合体を得、シェル層(外層)を重合させ、2層構造(コアシェル構造)として得た平均粒子径140nmのものである、
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。」(以下「引用発明」という。)

(2)周知の事項
ア 特開2008-76600号公報の記載
本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由で技術常識を示す刊行物として引用された特開2008-76600号公報には次の記載がある。
(ア)「【背景技術】
【0002】
樹脂をフィルム成形加工する際の、加工機の金属面との摩擦低減、樹脂間の摩擦低減、樹脂の流動性及び離型性の改善のために、滑剤が樹脂に添加される。この滑剤添加によって、ダイスリップの汚れを低減できるように、また冷却ロールの平滑面を良好に転写できるようになることがある。
・・・略・・・
【0005】
しかし、樹脂に滑剤を添加すると、樹脂成形時に滑剤が蒸発し、フィルム製造ラインの各部に凝結し、製造ライン等を汚すことがある。この汚れが長期間の運転によって堆積し、フィルム成形面の平滑性等に影響を与えることがある。また製造ラインの汚れがフィルムに付着することがあり、それによって、他のフィルム等との接着性を低下させることがある。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ダイスリップやフィルム製造ラインでの汚れが少なく、フィルムに付着する汚れが少なく、偏光子等の他のフィルムとの接着性が良好な積層フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、滑剤を0.005?0.05重量%含有するメタクリル樹脂Aと、滑剤を0.05重量%超含有する樹脂Bとを、樹脂Aからなる層及び樹脂Bからなる層が最表面となるように、共押出して、ダイスリップを通過させて溶融フィルムを得、
該溶融フィルムを、樹脂Aからなる層が第一冷却ロール面に触れるようにして引き取ることによって、ダイスリップや他のフィルム製造ラインでの汚れが少なく、フィルムに付着する汚れが少なく、偏光子等の他のフィルムとの接着性が良好な積層フィルムが得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに検討した結果完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)少なくとも、滑剤を0.005?0.05重量%含有するメタクリル樹脂Aと、滑剤を0.05重量%超含有する樹脂Bとを、樹脂Aからなる層及び樹脂Bからなる層が最表面となるように、共押出して、ダイスリップを通過させて溶融フィルムを得、
該溶融フィルムを、樹脂Aからなる層が第一冷却ロール面に触れるようにして引き取る工程を含む積層フィルムの製造方法。
(2)上記製造方法において、樹脂Bが好ましくはメタクリル樹脂である。
(3)上記製造方法において、滑剤が、好ましくは脂肪酸又は高級アルコールであり、より好ましくはラノリンアルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、又は12-ヒドロキシステアリン酸である。
(4)上記製造方法において、好ましくは、樹脂Aからなる層と樹脂Bからなる層との間に、他の樹脂からなる層が1?3層形成されるように共押出する、特に好ましくは、樹脂Aからなる層と樹脂Bからなる層との間に、スチレン重合体樹脂からなる層が形成されるように共押出する。
(5)上記製造方法において、さらに延伸する工程を含む。
【0010】
(6)前記の製造方法によって得られる積層フィルム。
(7)前記の積層フィルムと、偏光子とを積層してなる光学素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層フィルムの製造方法によれば、滑剤の含有量が比較的に少ない樹脂Aからなる層をロール面に接触させて成形を行うことによって、フィルムに付着する汚れが少なくなり、他フィルムとの接着性が良好となる。また、滑剤含有量が比較的に多い樹脂Bからなる層によって、加工機金属面と樹脂との間や樹脂と樹脂との間の摩擦を低減し、ダイスリップの汚れを低減できる。
また、樹脂フィルムに含有される滑剤の総量を、低減することができるので、滑剤の蒸発量が少なくなり、製造ラインの汚れを減らすことができる。」
(イ)「【0046】
本発明の製造方法で得られる積層フィルムにおいて、未延伸のものは偏光子を保護するためのフィルムとして好適であり、延伸されたものは位相差フィルム、若しくは位相差フィルムの機能を兼ね備えた偏光子保護フィルムとして好適である。
【0047】
本発明の製造方法で得られる積層フィルムは、偏光子又は偏光板と貼り合わせ、液晶表示装置に用いられる。
偏光板は、偏光子の両面に保護層がそれぞれ積層されているものである。偏光子に保護層を積層する方法に格別な制限はなく、例えば、保護層となる保護フィルムを、必要に応じてアクリル系接着剤などを介して偏光子に積層する一般的な方法を採用すればよい。」
(ウ)「【0062】
【表1】


(エ)「【0070】
【表2】


イ 上記アから、
「偏光子保護フィルム等に有用なフィルムにおいて、滑剤としてステアリン酸を用い、樹脂に滑剤を0.05重量%超含有した場合には、樹脂と樹脂との間の摩擦を低減する滑剤として機能し得ること」は、本願の優先日前に周知(以下「周知事項1」という。)であったと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用例には「【0092】本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、・・・、高透明性を発現させることが可能となる。」と記載され、また、引用発明において、完成されたフィルムの状態でも光線透過率が91%であるから、引用発明の「アクリル樹脂(A4)」は、実質的に「透明」であるといえ、本願発明の「透明なアクリル系樹脂」に相当する。

(2)引用発明の「偏光子保護フィルムなどのフラットディスプレイパネル用材料として有用である熱可塑性樹脂フィルムの製造方法」は、本願発明の「光学フィルムの製造方法」に相当する。

(3)本願の明細書の「【0019】(ゴム弾性体粒子) アクリル系樹脂に配合されるゴム弾性体粒子は、ゴム弾性を示す層を含む粒子である。・・・ゴム弾性体としては、例えば、・・・アクリル系弾性重合体などが挙げられる。」との記載からみても、アクリル系弾性重合体の粒子がゴム弾性体の粒子といえるのであるから、引用発明の「アクリル弾性体粒子(B1)」は、平均粒子径140nmのものであり、本願発明の「平均粒径10?300nmのゴム弾性体粒子」に相当することは明らかである。

(4)引用発明の「アクリル樹脂」は、「アクリル樹脂(A4)」(本願発明の「透明なアクリル樹脂」に相当。以下、カギ括弧に続く丸括弧内の用語は、対応する本願発明の用語を表す。)を70重量%、「アクリル弾性体粒子(B1)」(ゴム弾性体粒子)を30重量%の組成比で配合して得られたものであるから、引用発明の「アクリル樹脂」は、本願発明の「透明なアクリル系樹脂に、平均粒径10?300nmのゴム弾性体粒子を25?45重量%含有するアクリル系樹脂組成物」に相当する。

(5)引用発明は、「アクリル樹脂」(アクリル系樹脂組成物)を押出し設定温度260℃にて押し出し、冷却後、ロール状に巻き取り、「熱可塑性樹脂フィルム」(光学フィルム)を得ているのであるから、本願発明の「アクリル系樹脂組成物を溶融押出しし、ロール状に巻き取る」という構成を備えることは明らかである。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願発明と引用発明とは、
「透明なアクリル系樹脂に、平均粒径10?300nmのゴム弾性体粒子を25?45重量%含有するアクリル系樹脂組成物を溶融押出しし、ロール状に巻き取る光学フィルムの製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願発明では、「アクリル系樹脂組成物100重量部に対し、ステアリン酸系化合物からなる滑剤が0.01?0.07重量部の割合で配合されてなる」のに対し、
引用発明では、滑剤が配合されていない点。

・相違点2
ロール状に巻き取る前に、
本願発明では、「2本の金属製ロールで挟み込んだ状態で製膜し」ているのに対し、
引用発明では、表面温度125℃の冷却ロールに両面を完全に接着させるようにして冷却後、続いて90℃、40℃の順に冷却ロールを通してフィルムを徐冷している点。

5 判断
(1)上記相違点1について検討する。
ア 引用例には、【0106】に「また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムには本発明の目的を損なわない範囲で・・・高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤・・・などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。」と記載されている。
イ 上記3(2)イの周知事項1のとおり、偏光子保護フィルム等に有用なフィルムにおいて、滑剤としてステアリン酸を用い、樹脂に滑剤を0.05重量%超含有した場合には、樹脂と樹脂との間の摩擦を低減する滑剤として機能し得ることは周知(その他の例.特開2007-9182号公報(【0070】ないし【0082】参照。)、特開2009-51922号公報(【0032】ないし【0036】参照。))である。
ウ 上記アのように、引用例の記載から、滑剤を導入する際には、少なくとも滑剤として機能する程度の配合量を導入することは明らかであり、透明性等の観点から、配合量をあまり大きくできないこともまた引用例に示唆されているものと認められる。
エ そして、引用発明において、滑剤としてステアリン酸を用いることや、滑剤の具体的な配合量を0.05重量%近傍の値を採用することは、上記周知技術から容易に想到し得たものであり、0.05重量%近傍は、0.01?0.07重量部の割合で配合する本願発明の数値範囲に含まれるものであるから、引用発明において、ステアリン酸系化合物からなる滑剤をアクリル系樹脂組成物100重量部に対し、0.01?0.07重量部の割合で配合すること、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知事項1に基づいて適宜なし得た事項にすぎない。

(2)上記相違点2について検討する。
ア シート状物を形成する際に、押出機により押し出された樹脂を2本のロール、すなわち2本のポリシングロールで挟み込むことは下記周知例から明らかなように周知(以下「周知事項2」という。)であり、ポリシングロールとして金属製ロールを用いることも下記周知例から明らかなように周知(以下「周知事項3」という。)である。
(ア)周知事項2を示す周知例
周知例1.特開平10-260638号公報(「【0052】・・・中段のポリッシングロール9と上段のポリッシングロール8の間に押し出しを行い、拡散層3の厚みは押出成形機の押し出し量で調整を行った。」との記載参照。)
周知例2.国際公開第2004/090587号(6頁8ないし14行の「押出法は押出機内で熱可塑性樹脂を加熱溶融させ、シート状の口金を持った金型いわゆるダイから押出し、ポリッシング口一ルに挟時し板状に成形する方法である。 共押出法は多層板を作製する最も簡便な方法で、複数台の押出機を用い、複数の溶融樹脂層流を積み重ねる積層ダイ、例えばフィ一ドブロックダイやマルチマニホールドダイなどから積層押出し、ポリッシンダロールに挟持することによって板状に成形する方法である。」との記載参照。)
周知例3.国際公開第2009/038142号(「[0049](2)ポリシングロール式では、直径が200-400mmの金属製の冷却ロールが2本以上配置された設備を用いる。例えば、冷却ロール(1)/冷却ロール(2)、冷却ロール(1)/冷却ロール(2)/冷却ロール(3)などの構成が挙げられる。前記構成において、冷却ロール(1)と冷却ロール(3)は、冷却ロール(2)と逆方向に回転する。冷却ロール(1)と冷却ロール(2)の間に、Tダイより押し出された溶融フィルム状物を挟んで圧することにより冷却固化させる。使用する冷却ロールの表面状態は鏡面であることが好ましく、具体的には0.4S以下が好ましい。」との記載参照。)
(イ)周知事項3を示す周知例
上記周知例3.国際公開第2009/038142号(上記[0049]参照。)
イ 引用発明は、「ロール状に巻き取る前に、冷却ロールに両面を完全に接着させるようにして」いるのであるが、2本の冷却ロールで挟み込んだとは明示されておらず、この点につき、請求人は平成28年9月30日提出の意見書において、引用発明の「冷却ロールに両面を完全に接着させる」との記載より、例えばアクリル樹脂の一方面を1本目の冷却ロールに接触させて冷却し、その後、1本目の冷却ロールから引き離し、次いで他方面を2本目の冷却ロールに接触させて冷却することにより、「両面を完全に接触」させるようにして冷却することも考えられる旨主張している。
しかしながら、上記アの周知事項2からみて、引用発明において、「冷却ロールに両面を完全に接着させる」が、2本のポリシングロールで挟み込んだ状態で製膜することを意味することは当業者にとって自明である。仮に、引用発明の「冷却ロールに両面を完全に接着させる」が、2本のポリシングロールで挟み込んだ状態で製膜することを意味するものでないとしても、引用発明において、周知事項2のポリシングロールを適用することは当業者が適宜なし得たことである。
ウ また、上記アの周知事項3からみて、2本のロールで挟み込んだ状態で製膜するためのポリシングロールを金属製とすることは当業者が適宜なし得たことである。
エ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知事項2及び3に基づいて適宜なし得たことである。

(3)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知事項1ないし3の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(4)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-31 
結審通知日 2016-11-01 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2011-58880(P2011-58880)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 光学フィルムの製造方法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ