• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1323293
審判番号 不服2016-831  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-19 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2012- 63394「無線通信装置のアンテナをチューニングするシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-199923〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)3月21日(パリ条約による優先権主張 2011年3月22日 アメリカ合衆国)の出願であって、平成27年9月1日付けで手続補正がなされ、平成27年9月16日付けで拒絶査定(謄本送達日平成27年9月29日)がなされ、これに対して平成28年1月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成28年1月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年1月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成28年1月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】
第1の無線通信信号を受信し、前記第1の無線通信信号を、少なくとも発振器信号に基づいて、第1のデジタル信号に変換するように構成された受信パスと、
第2のデジタル信号を、少なくとも前記発振器信号に基づいて、第2の無線通信信号に変換するように構成された送信パスと、
前記受信パス及び前記送信パスに接続され、前記第2の無線通信信号を送信するように構成されたアンテナと、
前記送信パス及び前記アンテナに接続されるアンテナチューナと、
前記アンテナ及び前記アンテナチューナに接続される制御パスと、
を有し、
前記制御パスは、無線周波数(RF)カプラと、該RFカプラに結合されるダウンコンバータとを有し、該ダウンコンバータは、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの第1の信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートし、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの第2の信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートし、且つ
前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達する
ように構成される、
無線通信装置。
【請求項2】
前記アンテナチューナは1つ以上の可変キャパシタを有し、前記アンテナチューナへの前記1つ以上の制御信号は、前記1つ以上の可変キャパシタのキャパシタンスを制御する、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記RFカプラは、結合ポートと終端ポートとを有し、前記RFカプラは、前記第2の無線通信信号の伝送電力の少なくとも一部を、前記結合ポート及び前記終端ポートに結合するように構成される、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記結合ポートは、前記アンテナに伝達される入射電力を表す前記第1の信号を担持し、前記終端ポートは、前記アンテナによって反射される反射電力を表す前記第2の信号を担持する、請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記ベースバンド入射電力信号は、Iチャネル成分とQチャネル成分とを有し、且つ 前記ベースバンド反射電力信号は、Iチャネル成分とQチャネル成分とを有する、
請求項1乃至4の何れか一項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記制御パスは更に、
前記送信パスから前記アンテナに伝達される電力を検知し、
前記送信パスから前記アンテナに伝達される前記電力の位相を検知し、且つ
前記検知された電力及び前記検知された位相に少なくとも部分的に基づいて、前記1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達する
ように構成される、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項7】
アンテナチューナの制御用の制御パスであって、
結合ポートと終端ポートとを有する無線周波数(RF)カプラであり、前記結合ポートが、前記アンテナチューナに接続されるアンテナに伝達される入射電力を表す第1の信号を担持し、且つ前記終端ポートが、前記アンテナによって反射される反射電力を表す第2の信号を担持するように、前記アンテナチューナに接続された伝送線の伝送電力の少なくとも一部を結合するように構成されたRFカプラと、
前記RFカプラに結合されるダウンコンバータであり、
少なくとも発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの前記第1の信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートし、且つ
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの前記第2の信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートする
ように構成されたダウンコンバータと、
少なくとも前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて、前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するように構成された制御モジュールと、
を有する制御パス。
【請求項8】
無線周波数(RF)カプラをアンテナチューナに結合するステップであり、前記RFカプラの結合ポートが、前記アンテナチューナに接続されるアンテナに伝達される入射電力を表す第1の信号を担持し、且つ前記RFカプラの終端ポートが、前記アンテナによって反射される反射電力を表す第2の信号を担持するように結合するステップと、
少なくとも発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの前記第1の信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートするステップと、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの前記第2の信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートするステップと、
少なくとも前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて、前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するステップと、
を有する方法。」の記載を、

「【請求項1】
第1の無線通信信号を受信し、前記第1の無線通信信号を、少なくとも発振器信号に基づいて、第1のデジタル信号に変換するように構成された受信パスと、
第2のデジタル信号を、少なくとも前記発振器信号に基づいて、第2の無線通信信号に変換するように構成された送信パスと、
前記受信パス及び前記送信パスに接続され、前記第2の無線通信信号を送信するように構成されたアンテナと、
前記送信パス及び前記アンテナに接続されるアンテナチューナと、
前記アンテナ及び前記アンテナチューナに接続される制御パスと、
を有し、
前記制御パスは、
無線周波数(RF)カプラと、
前記RFカプラに結合されたスイッチと、
前記スイッチを介して前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから入射電力信号及び反射電力信号を交互に受信するダウンコンバータであり、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記入射電力信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートし、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記反射電力信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートする
ように構成されたダウンコンバータと
を有し、
前記制御パスは、前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するように構成される、
無線通信装置。
【請求項2】
前記アンテナチューナは1つ以上の可変キャパシタを有し、前記アンテナチューナへの前記1つ以上の制御信号は、前記1つ以上の可変キャパシタのキャパシタンスを制御する、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記RFカプラは、結合ポートと終端ポートとを有し、前記RFカプラは、前記第2の無線通信信号の伝送電力の少なくとも一部を、前記結合ポート及び前記終端ポートに結合するように構成される、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記結合ポートは、前記アンテナに伝達される入射電力を表す前記入射電力信号を担持し、前記終端ポートは、前記アンテナによって反射される反射電力を表す前記反射電力信号を担持する、請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記ベースバンド入射電力信号は、Iチャネル成分とQチャネル成分とを有し、且つ 前記ベースバンド反射電力信号は、Iチャネル成分とQチャネル成分とを有する、
請求項1乃至4の何れか一項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記制御パスは更に、
前記送信パスから前記アンテナに伝達される電力を検知し、
前記送信パスから前記アンテナに伝達される前記電力の位相を検知し、且つ
前記検知された電力及び前記検知された位相に少なくとも部分的に基づいて、前記1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達する
ように構成される、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項7】
アンテナチューナの制御用の制御パスであって、
結合ポートと終端ポートとを有する無線周波数(RF)カプラであり、前記結合ポートが、前記アンテナチューナに接続されるアンテナに伝達される入射電力を表す入射電力信号を担持し、且つ前記終端ポートが、前記アンテナによって反射される反射電力を表す反射電力信号を担持するように、前記アンテナチューナに接続された伝送線の伝送電力の少なくとも一部を結合するように構成されたRFカプラと、
前記RFカプラに結合されたスイッチと、
前記スイッチを介して前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから前記入射電力信号及び前記反射電力信号を交互に受信するダウンコンバータであり、
少なくとも発振器信号に基づいて、前記入射電力信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートし、且つ
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記反射電力信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートする
ように構成されたダウンコンバータと、
少なくとも前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて、前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するように構成された制御モジュールと、
を有する制御パス。
【請求項8】
無線周波数(RF)カプラをアンテナチューナに結合するステップであり、前記RFカプラの結合ポートが、前記アンテナチューナに接続されるアンテナに伝達される入射電力を表す入射電力信号を担持し、且つ前記RFカプラの終端ポートが、前記アンテナによって反射される反射電力を表す反射電力信号を担持するように結合するステップと、
前記RFカプラから交互に受信される前記入射電力信号及び前記反射電力信号に対し、
少なくとも発振器信号に基づいて、前記入射電力信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートし、少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記反射電力信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートするステップと、
少なくとも前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて、前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するステップと、
を有する方法。」
に補正するものである。

2 本件補正の適合性
(1)補正の範囲(第17条の2第3項)
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。

(2)補正の目的(第17条の2第5項第1号ないし第4号)
本件補正は、補正前の請求項1、4、7及び8を、それぞれ補正後の請求項1、4、7及び8に補正するものであり、各補正の内容からみて、特許法第17条の2第5項に規定する、請求項の削除(第1号)、誤記の訂正(第3号)、明りょうでない記載の釈明(第4号)のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
そこで、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的としたものか否かにつき検討する。

ア 補正前の請求項1と補正後の請求項1との比較
(ア)補正後の請求項1に係る補正は、補正前の請求項1の「無線周波数(RF)カプラと、該RFカプラに結合されるダウンコンバータとを有」する「制御パス」に、新たに「前記RFカプラに結合されたスイッチ」を追加するとともに、
補正前の「RFカプラに結合されるダウンコンバータ」を、
補正後の「前記スイッチを介して前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから入射電力信号及び反射電力信号を交互に受信するダウンコンバータ」に補正しようとするものであって、
これにより、RFカプラからの前記入射電力信号と前記反射電力信号とを1系統のダウンコンバータで交互にダウンコンバートするという新たな課題を解決しようとするものである。

(イ)したがって、補正後の請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものとはいえず、また、(仮に、必要な事項の限定といえたとしても、)その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明との解決しようとする課題が同一であるものとはいえないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。

イ 補正前の請求項7及び8と補正後の請求項7及び8との比較
補正後の請求項7及び8に係る補正についても、上記アと同様の理由により、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。

ウ 小括
以上より、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(3)独立特許要件の検討
上記(2)の理由により上記補正却下の決定のとおり結論すべきであるが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項に規定する要件に適合するものであるとした場合に、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

ア 引用例
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開2009/124874号(2009年10月15日国際公開、以下「引用例」という。)には、図面とともに、次のとおりの記載がある(なお、下線は当審において付したものである。)。
a 「Figure11 shows a block diagram of a transceiver 100 suitable for implementing the above-described matching methods. An antenna 1105 is coupled via an antenna system, which includes adjustable matching network 1111, T/R duplexing circuit 1112, and directional coupler 1113, to a receiver circuit 1120 and transmitter circuit 1130. In a first mode, the antenna system couples the receiver 1120, transmitter 1130, and antenna 1105 so that the receiver 1120 receives signals (on line F) from a wireless network, the signals having passed through T/R duplexer 1112. In a second mode, the antenna system couples transmitter 1130, receiver 1120 and antenna 1105 so that the receiver 1120 receives signals (on line G) from directional coupler 1113, which separates out the transmitter signal component that is reflected from the antenna system due to impedance mismatch. Optionally, the receiver may also receive (on line H), from directional coupler 1113, a sample of the forward transmitter signal wave traveling toward the antenna system. Frequency synthesizer 1140 generates a transmit carrier frequency signal that is fed to transmitter 1130 where it is modulated with digital baseband signals received (on line E) from baseband processing circuit 1150. Frequency synthesizer 1140 also generates local oscillator signals for receiver 1120.」(第19ページ第34行?第20ページ第11行)
(当審訳: 「図11は、上述した整合方法を実施するのに適したトランシーバ100のブロック図を示す。アンテナ1105はアンテナシステムを介して受信機回路1120及び送信機回路1130と結合され、アンテナシステムは、調整可能な整合ネットワーク1111、T/Rデュープレクシング回路1112及び方向性結合器1113を含む。第1のモードにおいては、アンテナシステムは、受信機1120が無線ネットワークから(ラインFで)信号を受信するように、受信機1120、送信機1130及びアンテナ1105を結合する。前記信号は、T/Rデュープレクサ1112を通して受信機1120に伝送される。第2のモードにおいては、アンテナシステムは、受信機1120が方向性結合器1113から(ラインGで)信号を受信するように、送信機1130、受信機1120及びアンテナ1105を結合する。前記方向性結合器1113は、インピーダンス不整合によってアンテナシステムから反射された送信機信号成分を分離する。オプションとして、受信機はまた、アンテナシステムに向かって進行する順方向送信機信号波のサンプルを(ラインHで)方向性結合器1113から受信してもよい。周波数シンセサイザ1140は、送信機1130に供給される送信搬送波周波数信号を生成する。前記送信搬送波周波数信号は、ベースバンド処理回路1150から(ラインEで)受信されるデジタルベースバンド信号で変調される。周波数シンセサイザ1140はまた、受信機1120に対する局部発振器信号を生成する。」)

b 「One local oscillator signal that may be generated adapts the receiver 1120 to downconvert signals received from the antenna system in the first mode, corresponding to reception of user data traffic from the wireless network station. Another local oscillator signal that may be generated adapts the receiver to downconvert reflected transmitter signals coupled from the antenna system in the second mode.」(第20ページ第13行?第17行)
(当審訳:「生成される1つの局部発振器信号は、第1のモードでアンテナシステムから受信された信号をダウンコンバートするよう受信機1120を適合させる。第1のモードは無線ネットワーク局からのユーザデータトラフィックの受信に対応している。生成される別の局部発振器信号は、第2のモードにおいて結合したアンテナシステムからの反射された送信信号をダウンコンバートするよう受信機を適合させる。」)

c 「In some embodiments, receiver 1120 may comprise a homodyne downconverter for downconverting reflected signals; the same or a separate downconverter may be used for the received signals. In such an embodiment, the local oscillator signal used for downconverting the reflected signals may be the same signal used to generate the transmit carrier frequency signal.」(第20ページ第23行?第20ページ第27行)
(当審訳:「いくつかの実施例では、受信機1120は、反射信号をダウンコンバートするためのホモダインダウンコンバータを備えてもよい。受信信号に対しては、同一のまたは別個のダウンコンバータが使用されてもよい。このような実施例において、反射信号をダウンコンバートするために使用される局部発振器信号は、送信搬送波周波数信号を生成するために使用するのと同じ信号であってよい。」)

d 「Downconverted digital signal samples are passed (on line D) from the receiver to the digital signal processing circuit 1150. Baseband processing circuit 1150 may be configured to operate in a first mode to decode downconverted signals corresponding to network-originated user data traffic, i.e., received signals, and/or in a second mode to process downconverted transmitter reflected wave signals. Several different methods for processing reflected wave samples in the second mode to determine the reflection coefficient G were listed above; each of these approaches essentially comprises combining reflected wave samples with knowledge of the transmitter modulation signal that was applied to the transmitter (at input E), to compensate the reflected wave signals for the known transmitter modulation and thereby calculate an antenna reflection coefficient. This calculated antenna reflection coefficient is generally accurate, in phase and magnitude, apart from any scaling and phase offset determined by calibration of the specific transceiver design.」(第21ページ第1行?第12行))
(当審訳:「ダウンコンバートされたデジタル信号サンプルは、受信機から(ラインDで)デジタル信号処理回路1150に送られる。ベースバンド処理回路1150は、ネットワークで生成されるユーザデータトラフィック、即ち、受信信号に対応するダウンコンバートされた信号を復号化する第1のモード、及び/又は、ダウンコンバートされた送信機反射波信号を処理する第2のモードで動作するように構成してもよい。反射係数Γを求めるために第2のモードで反射波サンプルを処理するためのいくつかの異なる方法は、上述のとおりリストされている。これらのアプローチそれぞれは本質的に、反射波サンプルと(ラインEで)送信機に印加された送信機変調信号に関する知識とを合成して、既知の送信機変調成分を反射波信号に対して補償し、それによりアンテナ反射係数を計算することを含む。この計算されたアンテナ反射係数は、具体的なトランシーバ設計の較正によって決定される何らかのスケーリング及び位相オフセットは別として、一般的には、位相及び振幅において正確である。」)

e 「Having determined the antenna reflection coefficient, the baseband processing circuit 1150 may be configured to compute changes to adjustable matching network 1111 to improve the antenna matching. The changes are computed based on at least the reflection coefficient, but may also be based on a current operating state of the transmitter 1130, as well as the current state of matching network 1111.」(第21ページ第14行?第18行)
(当審訳:「アンテナ反射係数を求めた後には、ベースバンド処理回路1150は、アンテナ整合を改善するために、調整可能な整合ネットワーク1111に対する変更を算出するよう構成することができる。前記変更は、少なくとも反射係数に基づいて算出される。しかし、また、送信機1130の現在の動作状態と整合ネットワーク1111の現在の状態に基づいていても良い。」)

f 「Those skilled in the art will notice that in Figure 11 the matching network 1111 is shown after the duplexer 1112, and is thus in both transmit and receive paths.」(第21ページ第20行?第21行)
(当審訳:「当業者は、図11において整合ネットワーク1111がデュープレクサ1112の後、従って送信パス及び受信パスの両方の中に示されていることに気づくであろう。」)

g 「Changes to the matching network are commanded by the digital signal processing circuits 1150 (using control line K). Baseband processor 1150 also controls the receiver 1120 (via line A), frequency synthesizer 1140 (line B), and transmitter 1130 (line C). Baseband processing and control circuit 1150 may comprise a mixture of digital signal processors adapted specifically for fast numerical calculation, hard logic and general microprocessors, all of which are orchestrated by suitable software programs. A specific set of software programs may be associated with performing antenna matching to ensure that antenna matching is performed at appropriate times and that the antenna system, synthesizer 1140, receiver 1120 and transmitter 1130 are operating in the correct modes. Such software may also contain calibration procedures configured to automatically determine the above-mentioned amplitude scaling and phase shift constants that may be needed to properly interpret processed reflected wave samples.」(第21ページ第28行?第21ページ第38行)
(当審訳:「整合ネットワークに対する変更は(制御ラインKを使用して)デジタル信号処理回路1150によって命令される。ベースバンドプロセッサ1150はまた、(ラインAを介して)受信機1120、周波数シンセサイザ1140(ラインB)、および送信機1130(ラインC)を制御する。ベースバンド処理及び制御回路1150は、高速数値計算に特化して適合されたデジタル信号プロセッサ、ハードロジック及び汎用マイクロプロセッサの複合体を含んでもよい。これらのすべては適切なソフトウェアプログラムによって統合制御される。ある特定のセットのソフトウェアプログラムをアンテナ整合の実行に関連づけることができ、それによってアンテナ整合は適切なときに実行されること、アンテナシステム、シンセサイザ1140、受信機1120及び送信機1130が正しいモードで動作することを保証することができる。このようなソフトウェアはまた、処理された反射波サンプルを適切に解釈するために必要とされる上述の振幅スケーリング定数及び位相シフト定数を自動的に決定するよう構成される較正手順を含んでもよい。」)


(イ)そうすると、引用例に記載された発明(以下、「引用発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「アンテナ1105はアンテナシステムを介して受信機回路1120及び送信機回路1130と結合され、アンテナシステムは、調整可能な整合ネットワーク1111、T/Rデュープレクシング回路1112及び方向性結合器1113を含み、整合ネットワーク1111はデュープレクサ1112の後、従って送信パス及び受信パスの両方の中に有り、
無線ネットワーク局からのユーザデータトラフィックの受信に対応する第1のモードにおいては、アンテナシステムは、受信機1120が無線ネットワークから(ラインFで)信号を受信するように、受信機1120、送信機1130及びアンテナ1105を結合され、前記信号は、T/Rデュープレクサ1112を通して受信機1120に伝送され、周波数シンセサイザ1140は受信機1120に対する局部発振器信号を生成し、生成される1つの局部発振器信号は、第1のモードでアンテナシステムから受信された信号をダウンコンバートするよう受信機1120を適合させ、ダウンコンバートされたデジタル信号サンプルは、受信機から(ラインDで)デジタル信号処理回路1150に送られ、
周波数シンセサイザ1140は、送信機1130に供給される送信搬送波周波数信号を生成し、前記送信搬送波周波数信号は、ベースバンド処理回路1150から(ラインEで)受信されるデジタルベースバンド信号で変調され、
第2のモードにおいては、アンテナシステムは、受信機1120が方向性結合器1113から(ラインGで)信号を受信するように、送信機1130、受信機1120及びアンテナ1105を結合し、前記方向性結合器1113は、インピーダンス不整合によってアンテナシステムから反射された送信機信号成分を分離し、
受信機1120は、反射信号をダウンコンバートするためのホモダインダウンコンバータを備えてもよく、受信信号に対しては、同一のまたは別個のダウンコンバータが使用されてもよく、周波数シンセサイザ1140で生成される局部発振器信号は、第2のモードにおいて結合したアンテナシステムからの反射された送信信号をダウンコンバートするよう受信機を適合させ、
ベースバンド処理回路1150は、ダウンコンバートされた送信機反射波信号を処理する第2のモードで動作するように構成され、反射波サンプルと(ラインEで)送信機に印加された送信機変調信号に関する知識とを合成して、既知の送信機変調成分を反射波信号に対して補償し、それによりアンテナ反射係数を計算し、アンテナ反射係数を求めた後には、アンテナ整合を改善するために、調整可能な整合ネットワーク1111に対する変更を算出し、制御ラインKを使用して整合ネットワーク1111に対する変更を命令するものであり、
オプションとして、受信機はまた、アンテナシステムに向かって進行する順方向送信機信号波のサンプルを(ラインHで)方向性結合器1113から受信してもよい、
トランシーバ。」

イ 対比(一致点及び相違点)
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明は、トランシーバであって、無線ネットワーク局からのユーザデータトラフィックの受信に対応する第1のモードにおいて、アンテナ1105で受信した信号を、調整可能な整合ネットワーク1111及びT/Rデュープレクシング回路1112を経由して受信機1120に伝送し、周波数シンセサイザ1140で生成された局部発振器信号に基づいてダウンコンバートする「受信パス」と、
周波数シンセサイザ1140で生成された送信搬送波周波数信号を、送信機1130においてベースバンド処理回路1150から(ラインEで)受信されるデジタルベースバンド信号で変調し、T/Rデュープレクシング回路1112、調整可能な整合ネットワーク1111及びアンテナ1105を経由して送信する「送信パス」とを有している。
ここで、引用発明の「トランシーバ」は、本件補正発明にいう「無線通信装置」に対応するものであり、引用発明の「アンテナ1105で受信した信号」及び受信機1120で「ダウンコンバートされたデジタル信号サンプル」は、それぞれ本件補正発明の「第1の無線通信信号」及び「第1のデジタル信号」に相当し、引用発明において、「デジタルベースバンド信号」及び「アンテナ1105を経由して送信」される信号は、それぞれ本件補正発明の「第2のデジタル信号」及び「第2の無線通信信号」に相当する。
また、引用発明の「周波数シンセサイザ1140で生成された局部発振器信号」及び「周波数シンセサイザ1140で生成された送信搬送波周波数信号」は、本件補正発明の「発振器信号」に相当し、引用発明の「アンテナ1105」及び「調整可能な整合ネットワーク1111」は、それぞれ本件補正発明の「アンテナ」及び「アンテナチューナ」に相当する。
そうすると、引用発明は、「第1の無線通信信号を受信し、前記第1の無線通信信号を、少なくとも発振器信号に基づいて、第1のデジタル信号に変換するように構成された受信パスと、
第2のデジタル信号を、少なくとも前記発振器信号に基づいて、第2の無線通信信号に変換するように構成された送信パスと、
前記受信パス及び前記送信パスに接続され、前記第2の無線通信信号を送信するように構成されたアンテナと、
前記送信パス及び前記アンテナに接続されるアンテナチューナと、」を有していることが認められる。

b 引用発明の「方向性結合器1113」は、本件補正発明の「無線周波数(RF)カプラ」に相当する。

c 引用発明の「受信機1120」には、ラインGにより、「方向性結合器1113」で分離された「インピーダンス不整合によってアンテナシステムから反射された送信機信号成分」(「反射信号」と同義)が入力される。そして、「受信機1120」に備えられた「ホモダインダウンコンバータ」は、周波数シンセサイザ1140で生成される局部発振器信号に基づいて、前記反射信号をダウンコンバートしているから、引用発明の「ホモダインダウンコンバータ」は、「前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから反射電力信号を受信するダウンコンバータ」であって、「少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記反射電力信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートするように構成されたダウンコンバータ」であるといえる。

d 引用発明の「ベースバンド処理回路1150」は、ダウンコンバートされた送信機反射波信号(ラインD)と(ラインEで)送信機に印加された送信機変調信号に関する知識とを合成して、既知の送信機変調成分を反射波信号に対して補償し、それによりアンテナ反射係数を計算し、アンテナ整合を改善するために、調整可能な整合ネットワーク1111に対する変更を算出し、制御ラインKを使用して整合ネットワーク1111に対する変更を命令している。
そうすると、引用発明において、「方向性結合器1113」と、「ホモダインダウンコンバータ」を含む「受信機1120」とを有し、「ベースバンド処理回路1150」で算出したアンテナ整合を改善するための「変更」を「調整可能な整合ネットワーク1111」に命令するパスは、本件補正発明の「前記アンテナ及び前記アンテナチューナに接続される制御パス」に対応するパスであって、「無線周波数(RF)カプラと」、「前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから反射電力信号を受信するダウンコンバータであり、少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記反射電力信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートするように構成されたダウンコンバータとを有し」、少なくとも「前記ベースバンド反射電力信号に基づいて」、「前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するように構成される」ものといえる。

(イ)したがって、両者は、
「第1の無線通信信号を受信し、前記第1の無線通信信号を、少なくとも発振器信号に基づいて、第1のデジタル信号に変換するように構成された受信パスと、
第2のデジタル信号を、少なくとも前記発振器信号に基づいて、第2の無線通信信号に変換するように構成された送信パスと、
前記受信パス及び前記送信パスに接続され、前記第2の無線通信信号を送信するように構成されたアンテナと、
前記送信パス及び前記アンテナに接続されるアンテナチューナと、
前記アンテナ及び前記アンテナチューナに接続される制御パスと、
を有し、
前記制御パスは、
無線周波数(RF)カプラと、
前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから反射電力信号を受信するダウンコンバータであり、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記反射電力信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートする
ように構成されたダウンコンバータと
を有し、
前記制御パスは、少なくとも前記ベースバンド反射電力信号に基づいて前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達するように構成される、
無線通信装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
制御パスが、本件補正発明では、「前記RFカプラに結合されたスイッチ」を有し、ダウンコンバータが「前記スイッチを介して」前記RFカプラに結合されて、前記RFカプラから「入射電力信号及び反射電力信号を交互に受信」するとともに、「少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記入射電力信号をベースバンド入力電力信号へとダウンコンバート」し、前記制御パスは、「前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて」制御信号を生成するものであるのに対し、引用発明では、「ベースバンド入射電力信号」に対応する信号を、送信機に印加された送信機変調信号に関する知識から得て、これとベースバンド反射電力信号に基づいて制御信号を生成するものである点。

ウ 判断
上記相違点につき判断する。

上記引用例には、図4とともに、次のとおりの記載がある(なお、下線は当審において付したものである。)。
h 「Thus, in a first mode of operation, homodyne receiver 412 converts an antenna-received signal on a selected receive channel frequency to a suitable form for processing, such as (UQ) complex baseband samples in Cartesian format. This conversion enables processor 460 to recover transmitted data and control information conveyed by the received signal. In a second mode of operation, which may be a "transmit" mode for transceiver 410, baseband processor 460 controls switch 424 such that the transmitter 414 is coupled to antenna 422 through directional coupler 418 and impedance matching circuit 426, and controls amplifier 444 such that it amplifies the antenna-reflected signals provided to receiver 412 via coupler 418. Use of the dual-input amplifier 444 allows feedback of the antenna-reflected signals to bypass the receive band pass filter 440, which generally passes the receive frequency band while rejecting signals at the transmit frequency band.」(第9ページ第1行?第11行)
(当審訳:「従って、第1のモードの動作では、ホモダイン受信機412は、選択された受信チャネル周波数でアンテナが受信した信号を、デカルト座標(直交座標)フォーマットにおける(I/Q)複素ベースバンドサンプルのような処理を行うのに適切な形式に変換する。この変換によって、プロセッサ460は、受信信号によって搬送されてきた送信データと制御情報とを回復することができる。第2のモードの動作は、トランシーバ400に関しては“送信”モードであってよく、ベースバンドプロセッサ460は、送信機414が方向性結合器418及びインピーダンス整合回路426を通してアンテナ422と結合するようスイッチ424を制御し、また、増幅器444が、結合器418を介して受信機412に供給されるアンテナ反射信号を増幅するよう増幅器444を制御する。2入力増幅器444を使用することにより、アンテナ反射信号のフィードバックに、受信バンドパスフィルタ440をバイバスさせることができる。受信バンドパスフィルタ440は、一般に、受信周波数帯域は通過させるが、送信周波数帯域では信号を阻止する。」)

i 「While the reflection coefficient for the antenna-reflected transmit signals actually is the complex ratio of the reflected transmit signal to the forward transmit signal, Figure 4 does not explicitly illustrate measurement of the forward transmit signal. Rather, Figure 4 illustrates measurement of the reflected signal based on feeding back the reflected signals from directional coupler 418 to receiver 412. However the forward signal is known if the signal developed at the output of transmitter 414 is known, i.e., if its amplitude is known and the phase shift between local oscillator circuit 452 and the transmitter output is known. These factors can be calibrated for a given transceiver design or for a specific transceiver, and calibration information stored in transceiver 400. For example, calibration characterizations over a range of power levels (and frequency, if necessary) may be stored in memory circuits within the processor support circuits 462. Alternatively, receiver 412 may be configured with a third input on which it receives a coupled version of the transmitted signal. Processor 460 would then control receiver input selection to alternately downconvert the reflected signals and the forward signals, such that it has baseband samples of both and can thereby compute an accurate ratio of forward-to- reflected power.Such an approach would, in at least some cases, obviate the need for stored calibration tables. Thus, one might opt for a slightly more complex circuit implementation of transceiver 400, i.e., the use of forward and reflected signal feedback paths into receiver 412, or one might opt to calibrate transceiver 400 and store such calibration information in it.」(第11ページ第12行?第29行)
(当審訳: 「アンテナから反射された送信信号に対する反射係数は、実際には、反射された送信信号の順方向送信信号に対する複素数比となるが、図4は、順方向送信信号の測定を明示的には図示してはいない。むしろ図4は、方向性結合器418から受信機412への反射信号のフィードバックに基づく反射信号の測定を示している。しかしながら、送信機414の出力において展開される信号がわかれば、即ち、その振幅がわかり、局部発振器回路452と送信機出力との間の位相シフトがわかれば、順方向信号は知ることができる。これらの要因は、所与のトランシーバ設計、或いは、具体的なトランシーバに対して較正されることができ、また較正情報はトランシーバ400に記憶される。例えば、ある電力レベル(と必要に応じて、周波数)の範囲にわたる較正の特徴付けは、プロセッサ支援回路462の内部にあるメモリ回路に記憶することができる。あるいは、受信機412は、送信信号が結合したバージョンを受信する第3の入力を備えるよう構成することができる。このようにすれば、プロセッサ460は、反射信号と順方向信号とを交互にダウンコンバートするよう受信機入力の選択を制御し、プロセッサ460が両方のベースバンドサンプルを有し、それにより、順方向電力対反射電力の比を正確に算出できる。このようなアプローチは、少なくともいくつかの場合には、較正テーブルを記憶しておく必要性を除去するものである。従って、僅かだけ、より複雑なトランシーバ400の回路構成とする(即ち、受信機412への順方向信号と反射信号とのフィードバックパスを使用する)か、または、トランシーバ400を較正して、この較正情報をその中に記憶するかをオプションとして選択することができる。」)


上記記載hによれば、引用例の図4に記載された実施例は、「インピーダンス整合回路426」(引用発明の「調整可能な整合ネットワーク1111」に対応)を「方向性結合器418」(引用発明の「方向性結合器1113」に対応)とスイッチ424(引用発明の「T/Rデュープレクサ1112」に対応)との間に配置したものであり、上記記載iには、図4には明示的に図示されていない「順方向送信信号」に関し、オプションとして、「受信機412は、送信信号が結合したバージョンを受信する第3の入力を備えるよう構成」することができ、これにより、プロセッサ460(引用発明の「ベースバンド処理回路1150」に対応)は、「反射信号と順方向信号とを交互にダウンコンバートするよう受信機入力の選択を制御し、プロセッサ460が両方のベースバンドサンプルを有し、それにより、順方向電力対反射電力の比を正確に算出できる」ことが記載されている。

ところで、上記引用例の記載a及び図11によれば、引用発明のオプションとして、「受信機はまた、アンテナシステムに向かって進行する順方向送信機信号波のサンプルを(ラインHで)方向性結合器1113から受信してもよい」ことが記載されている。

引用発明において上記オプションを採用した場合の「制御パス」の具体的な構成は、引用発明を認定した図11の実施例に関する記載中には明示されていないものの、上記図4に記載された実施例と同様に、ラインHから入力された方向性結合器1113からの「順方向送信機信号波のサンプル」(上記図4に記載された実施例の「送信信号が結合したバージョンを受信する第3の入力」からの「順方向信号」、本件補正発明にいう「RFカプラ」からの「入射電力信号」に相当)と「反射電力信号」とを、交互にダウンコンバートするよう受信機入力の選択を制御し、両方のベースバンドサンプル(本件補正発明にいう「前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号」に相当)に基づいて順方向電力対反射電力の比を算出して、制御信号を生成し得ることは当業者に明らかである。

また、上記「交互にダウンコンバートするよう受信機入力の選択を制御」するための具体的手段として「RFカプラに結合されたスイッチ」を採用することも、設計上の事項にすぎない(必要ならば、米国特許出願公開第2007/019180号明細書(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1)参照。図4及び段落52には、カプラ410からの入射電力信号C_(A)と反射電力信号C_(B)とを切り替えるSW_(1)430が記載されている。)。

してみれば、引用発明において、上記オプションとして開示された構成を採用し、引用例の上記記載iを参照して相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、これによる効果も上記引用例から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件補正発明は、上記引用例に記載された発明及び他の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 小括
上記ア?ウのとおり、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に規定する要件に適合するものであるとしても、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

上記(2)及び(3)のとおりであるから、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年1月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1から8までに係る発明は、平成27年9月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1から8までに記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
第1の無線通信信号を受信し、前記第1の無線通信信号を、少なくとも発振器信号に基づいて、第1のデジタル信号に変換するように構成された受信パスと、
第2のデジタル信号を、少なくとも前記発振器信号に基づいて、第2の無線通信信号に変換するように構成された送信パスと、
前記受信パス及び前記送信パスに接続され、前記第2の無線通信信号を送信するように構成されたアンテナと、
前記送信パス及び前記アンテナに接続されるアンテナチューナと、
前記アンテナ及び前記アンテナチューナに接続される制御パスと、
を有し、
前記制御パスは、無線周波数(RF)カプラと、該RFカプラに結合されるダウンコンバータとを有し、該ダウンコンバータは、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの第1の信号をベースバンド入射電力信号へとダウンコンバートし、
少なくとも前記発振器信号に基づいて、前記RFカプラからの第2の信号をベースバンド反射電力信号へとダウンコンバートし、且つ
前記ベースバンド入射電力信号及び前記ベースバンド反射電力信号に基づいて前記アンテナチューナのインピーダンスを制御するための1つ以上の制御信号を前記アンテナチューナに伝達する
ように構成される、
無線通信装置。」

2 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、引用例に記載される引用発明は、前記第2[理由]2(3)(独立特許要件の検討)のア(イ)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2(3)(独立特許要件の検討)で検討した本件補正発明から「RFカプラに結合されたスイッチ」を削除するとともに、
本件補正発明の「ダウンコンバータ」から、「前記スイッチを介して」「前記RFカプラから入射電力信号及び反射電力信号を交互に受信する」という限定を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由]2(3)(独立特許要件の検討)のアからウまでに記載したとおり、引用例に記載された発明及び他の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記特定の限定を省いた本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明及び他の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記引用例に記載された発明及び他の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-03 
結審通知日 2016-08-09 
審決日 2016-08-24 
出願番号 特願2012-63394(P2012-63394)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H04B)
P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 吉田 隆之
北岡 浩
発明の名称 無線通信装置のアンテナをチューニングするシステム及び方法  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ