• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E21D
審判 全部無効 2項進歩性  E21D
審判 全部無効 1項1号公知  E21D
管理番号 1323355
審判番号 無効2016-800059  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-05-20 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第5732215号発明「セグメント」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5732215号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効にすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
平成22年 9月 1日 出願
平成27年 4月17日 設定登録
平成28年 5月20日 本件審判請求
平成28年 8月 1日 審判事件答弁書、証拠説明書(1)
平成28年 9月 5日 審理事項通知書
平成28年 9月27日 口頭審理陳述要領書、証拠説明書(請求人)
平成28年10月 3日 証拠説明書(請求人)
平成28年10月13日 口頭審理陳述要領書、証拠説明書(2)(被請求人)
平成28年10月18日 上申書、証拠説明書(請求人)
平成28年10月26日 口頭審理

第3 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
周方向へ連結され、さらに軸方向へ連結されることにより、掘削穴内に筒状壁体を構成するセグメントであって、
前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり、
前記枠体は、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、該スキンプレートの前記軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、前記スキンプレートの前記周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え、
前記セグメントの前記内周側、又は前記セグメントの前記内周側および前記外周側には、前記周方向に延びる複数の主鋼材が前記軸方向に配列され、
該複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられていて、
前記一対の主桁板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、前記補強部材は前記一対の主桁板間の寸法よりも短い寸法に形成され前記一対の主桁板のいずれか一方に連結され、前記配力筋は前記補強部材に連結され、前記補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして前記中間部で主桁板に溶接されたアンカー鉄筋であって、前記配力筋は前記一対の折曲部に連結されたことを特徴とするセグメント。
【請求項2】
前記一対の主桁板を連結するリブは設けられていないようにした請求項1に記載されたセグメント。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許発明1及び2の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年9月27日付け口頭審理陳述要領書、平成28年10月18日付け上申書、第1回口頭審理調書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。

(1)無効理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とすべきである。

(2)無効理由2(新規性欠如、進歩性欠如)
本件特許発明1及び2は、公然知られた発明(甲第2号証の1ないし7)であるか、又は公然知られた発明(甲第2号証の1ないし7)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第1号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とすべきである。

(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件特許の請求項1の「前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり」との記載は「セグメントの」の製造方法が記載されている場合に該当するから、本件特許発明1は不明確である。
したがって、本件特許の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件特許の請求項1及び2についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

なお、無効理由3に関し、本件特許の請求項2の「前記一対の主桁板を連結するリブは設けられていないようにした」との記載が不明確であるとの主張(審判請求書17頁8ないし11行)は、取り下げられた(第1回口頭審理調書を参照。)。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:「下水道シールド工事用二次覆工一体型セグメント設計・施工指針」、東京都下水道サービス株式会社、平成21年2月、表紙、前書き、目次、3頁、62頁、174-175頁、180頁、奥付
甲第2号証の1:「公募型共同研究の終了報告について(二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型))」、東京都下水道局建設部、平成19年7月10日
甲第2号証の2:「二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)に関する共同研究報告書」、東京都下水道局他、平成19年3月、表紙、1-2頁
甲第2号証の3:「平成18年度 二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)実証工事適用報告書」、東京都下水道局他、平成19年3月、表紙、目次、1頁、添付資料-2(セグメントの設計計算書)の表紙、目次、27頁、及び、添付資料-8(実証工事の製作および現場状況写真)の1頁、4頁
甲第2号証の4:「平成17年度 二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)報告書」、東京都下水道局他、平成18年1月、表紙、目次、13頁、15-16頁、46頁、65-67頁、70頁、写真集25頁
甲第2号証の5:甲第2号証の4の写真集25頁下方の写真の拡大
甲第2号証の6:協議書、東京都他、平成18年3月31日
甲第2号証の7:「二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)に関する共同研究」協定書、東京都他、平成17年5月26日
甲第3号証:特開2006-118307号公報
甲第4号証:特開平11-343794号公報
甲第5号証:特開2000-1883号公報
甲第6号証:特開2002-121999号公報
甲第7号証:異議2015-700123号の異議決定
甲第8号証:「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第19版]」、特許庁、平成25年6月、79-82頁

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1(進歩性欠如)について
ア 本件特許発明1と甲1発明との相違点
(ア)相違点1
本件特許発明1は「外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレート」を備えるが、甲1発明は「スキンプレートの有無が明示されていない」点。
(審判請求書8頁31ないし33行)

(イ)相違点2
本件特許発明1は「前記セグメントの前記内周側、又は前記セグメントの前記内周側および前記外周側には、前記周方向に延びる複数の主鋼材が前記軸方向に配列され」るが、甲1発明は「主鋼材の有無が明示されていない」点。
(審判請求書9頁1ないし4行)

(ウ)相違点3
本件特許発明1は「該複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられ」るが、甲1発明は「配力筋の有無が明示されていない」点。
(審判請求書9頁11ないし13行)

(エ)相違点4
本件特許発明1は「前記配力筋は前記一対の折曲部に連結され」るが、甲1発明は「補強部材の折曲部と配力筋の連結との有無が明示されていない」点。
(審判請求書9頁19ないし21行)

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
例えば、甲第4号証(特開平11-343794号公報)図5に開示されるように、当該技術分野において、枠体の外周側にスキンプレートが設けられるのは従来周知であるから、「外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレート」を備えることは設計的事項にすぎない。
(審判請求書8頁34ないし末行)

(イ)相違点2について
例えば、甲第5号証(特開2000-1883号公報)図4に開示されるように、当該技術分野において、セグメントの前記内周側および前記外周側に主鋼材が設けられるのは従来周知であるから、「前記セグメントの前記内周側、又は前記セグメントの前記内周側および前記外周側には、前記周方向に延びる複数の主鋼材が前記軸方向に配列され」ることは設計的事項にすぎない。
(審判請求書9頁5ないし10行)

(ウ)相違点3について
例えば、甲第5号証図4に開示されるように、当該技術分野において、複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられるのは従来周知であるから、「該複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられ」ることは設計的事項にすぎない。
(審判請求書9頁14ないし18行)

(エ)相違点4について
当該技術分野において、鉄筋同士を重ね継手又は溶接等で連結して一体性を向上させることは従来周知であるから、「前記配力筋は前記一対の折曲部に連結され」ることは設計的事項にすぎない。
(審判請求書9頁22ないし25行)

ウ 異議決定(甲第7号証)の判断について
(ア)甲1発明も「リング面及びセグメント継手面に補強鋼板を設置してコンクリートを打設」するものであり、セグメントの完成品としては「枠体と該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されるもの」となるため、甲1発明も「コンクリート中詰め鋼製セグメントのII型」に該当する以上、「別種のセグメント」と認定することはできない。
(審判請求書11頁4ないし9行)

(イ)本件特許発明1に係る特許請求の範囲には、「RCセグメントの型枠を利用」しないという製造工程が記載されていないにもかかわらず、本件特許発明1で当該製造工程を認定することはできない。
(審判請求書11頁19ないし22行)

(ウ)甲第3号証(特開2006-118307号公報)の段落【0002】に、「二次覆工を省略する場合に使用するセグメントは、シールドトンネルの直線部及び緩曲線部においてはRCセグメントを用い、急曲線部においては、施工時のシールドジャッキの偏心やシールドテールのせり等によりRCセグメントでは損傷が発生しやすいため、RCセグメントの周りを鋼殻で囲ったコンクリート中詰鋼製セグメントを用いる。」と記載されており、RCセグメント(I型)の周りを鋼殻で囲ったものがコンクリート中詰め鋼製セグメント(II型)であることが開示されている。このため、「RCセグメントを主体としたI型」の周りを鋼殻で囲った甲1発明と「コンクリート中詰め鋼製セグメントのII型」に係る本件特許発明1とで、「二次覆工一体型セグメント」である点が共通して、両者に何ら形式的・実質的な差異はなく、少なくとも「RCセグメントを主体としたI型」である甲1発明を、「コンクリート中詰め鋼製セグメントのII型」とすることの動機付けがないと認定することはできない。
(審判請求書13頁8ないし22行)

(2)無効理由2(新規性欠如、進歩性欠如)について
ア 公知性について
(ア)本件共同研究は、民法第667条第1項の各要件を満たし、「組合契約」の法的性質を有する。
(上申書4頁19ないし20行)

(イ)本件共同研究に係る組合契約は、東京都と上記5社との間で取り交わされた「協議書」(甲第2号証の6)において、当初の平成18年3月31日から平成19年3月31日まで終期が延長されているものの(本件協定書第2条及び協議書第1条)、平成19年3月31日にその存続期間が満了している。したがって、本件共同研究は、本件発明の出願日(平成22年9月1日)前の時点である平成19年3月31日に「組合解散」となっている。
そして、本件共同研究に係る組合契約では、本件協定書の第10条にあるように、各当事者に秘密保持義務が課されているものの、平成19年3月31日における「組合解散」の時点で、組合解散と同時に秘密厳守の義務も解除され、甲2発明が公然性を有することになる。
(上申書4頁22行ないし5頁7行)

(ウ)本件共同研究は、平成17年3月1日から平成19年3月31日までの約2年間にわたるもので、相当程度の期間にわたる有期契約に該当するから、本件共同研究の終期をもってして、その終期と同時に各当事者の秘密厳守の義務も解除され、甲2発明が当然に公然性を有することになる。
(上申書5頁下から2行ないし6頁4行)

新規性欠如について
本件特許発明1では、「前記配力筋は前記一対の折曲部に連結された」ものとなっており、この連結方法が「溶接」又は「ひねり等の嵌合」であるとしても、鉄筋同士の連結方法を重ね継手又は溶接等とすることは設計的事項にすぎない。また、例えば、甲第6号証(特開2002-121999号公報)図5に開示されるように、配力筋を折り曲げた態様とすることについても設計的事項にすぎない。
(審判請求書13頁26ないし31行)

進歩性欠如について
(ア)甲2発明を「合成セグメント」に適用するの動機付け
a コンクリート系セグメント(RCセグメント)、鉄鋼製セグメント(コンクリート中詰め鋼製セグメント)、及び合成セグメントの何れについても、トンネルの外壁となる弧状のブロック(セグメント)を技術分野とする。
(口頭審理陳述要領書4頁13ないし16行)

b 本件発明と甲2発明とでは、ともにトンネルの外壁として内水圧荷重に対する強度確保を課題としており、「課題の共通性」が肯定される。
(口頭審理陳述要領書5頁23ないし25行)

c 本件発明と甲2発明とでは、コンクリートに埋め込まれたアンカー鉄筋等によって、コンクリートと鋼板とがズレたり外れたりするのが防止されるという作用、機能が共通するから、「作用、機能の共通性」が肯定される。
(口頭審理陳述要領書7頁8ないし11行)

d 甲第2号証には、コンクリート及びその側面の鋼板を構成部材とした場合(合成構造)の強度計算が開示されており、「引用発明の内容中の示唆」が認められる。
(口頭審理陳述要領書7頁21ないし24行)

(イ)「枠体」について
a 4側面に鋼板を有する「鋼板付きのRCセグメント」においても、4側面の鋼板を溶接で接合することは、広く一般的に行われている技術常識である。
このことは、甲第3号証には「鋼板付きのRCセグメント」が開示されているが、甲第3号証の段落【0007】【図1】に、4側面の鋼板が「溶接部4」で相互に接合されることが記載されていることからも理解できる。
(口頭審理陳述要領書8頁17ないし23行)

b 甲第2号証の4第46頁にも、主桁と継手板の突合せ部に溶接を施すことが記載されている。
(口頭審理陳述要領書8頁末行ないし9頁1行)

c 甲第3号証の「溶接部4」等の技術常識を甲2発明に適用すれば、4側面の鋼板が相互に接合されて、4側面の鋼板とコンクリートとを併せた強度計算が容易に可能となるため、被請求人の主張する本件発明の「枠体」は何ら新たな技術的価値を有するものではない。
(口頭審理陳述要領書9頁下から4行ないし10頁1行)

(ウ)配力筋とアンカー鉄筋との連結について
a 一般的に、連結とは、複数の物体が物理的に結び付くことをいう。そして、特に、複数の鉄筋(配力筋及びアンカー鉄筋に相当)を構造的に連結する場合には、一方の鉄筋と他方の鉄筋とで荷重伝達できる状態を「連結」という。
(口頭審理陳述要領書11頁2ないし5行)

b 被請求人は、平成27年2月10日に提出した意見書において、「アンカー鉄筋と配力筋との定着は溶接だけでなくひねり等の嵌合によって行える」と主張しており、本件発明の明細書には一切記載がないものの、溶接以外の状態も「連結」に該当すると考えているようにも思える。
このため、溶接以外の状態も「連結」に含まれるとすれば、一方の鉄筋と他方の鉄筋とで荷重伝達できる状態が「連結」であると解さざるを得ない。
(口頭審理陳述要領書11頁11ないし18行)

c 甲第2号証の5の写真において、アンカー鉄筋と配力筋とは、互いに部分的にラップして接触又は近接した状態で配置されていることが看取できる。
そして、複数の鉄筋が接触又は近接した状態でコンクリートに埋め込まれれば、例え互いに溶接されなくても、複数の鉄筋で荷重伝達できる状態となることは技術常識である(この技術常識の証拠が必要であれば後日追加してもよい)。
また、本件発明の「連結」が溶接であるとしても、複数の鉄筋をラップさせて溶接することも単なる技術常識である(この技術常識の証拠も必要であれば後日追加してもよい)。
以上より、甲2発明には、配力筋とアンカー鉄筋との連結が開示されている。
(口頭審理陳述要領書11頁20ないし12頁4行)

エ 異議決定(甲第7号証)の判断について
(ア)甲2発明も「コンクリートを打設し、コンクリート硬化後、背面のスキンプレートを溶接することにより、セグメント継手面、リング継手面及び背面が鋼板に覆われてなる」ものであり、セグメントの完成品としては「枠体と該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されるもの」となるため、甲2発明も「コンクリート中詰め鋼製セグメント」に該当する以上、「別種のセグメント」と認定することはできない。
(審判請求書15頁17ないし23行)

(イ)「RCセグメントの一種」の周りを鋼殻で囲った甲2発明と「コンクリート中詰め鋼製セグメント」に係る本件特許発明1とで、「二次覆工一体型セグメント」である点が共通して、両者に何ら形式的・実質的な差異はなく、少なくとも「RCセグメントの一種」である甲2発明を、「コンクリート中詰め鋼製セグメント」とすることの動機付けがないと認定することはできない。
(審判請求書16頁17ないし22行)

(3)無効理由3(明確性要件違反)について
本件特許の請求項1については、被請求人も自認するように、被請求人の主張する本件発明と甲2発明との相違点が「製法的」な認定となっており、仮にこのような相違点の認定が許容されるという心証ならば、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するので、不明確となる。
(口頭審理陳述要領書17頁10ないし15行)

第5 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論し(平成28年8月1日付け審判事件答弁書、平成28年10月13日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:「トンネル・ライブラリー23 セグメントの設計【改訂版】 ?許容応力度設計法から限界状態設計法まで?」、第1版、社団法人土木学会、平成22年2月19日、表紙、5-6頁、奥付
乙第2号証の1:「鋼製セグメントについて」、日本シールドセグメント技術協会公式サイト、URL:http://www.jssa3.org/tech/index.html
乙第2号証の2:「RCセグメントについて」、日本シールドセグメント技術協会公式サイト、URL:http://www.jssa3.org/tech/rc1.html
乙第2号証の3:「合成セグメントについて」、日本シールドセグメント技術協会公式サイト、URL:http://www.jssa3.org/tech/conb1.html
乙第3号証:「平成17年度 二次覆工一体型シールド工法の急曲線部セグメントの開発(I型)報告書」、東京都下水道局他、平成18年1月、表紙、目次、5-7頁、13頁
乙第4号証:「大辞林」、三省堂、「連結」の項、weblio辞書ウェブサイト、URL:http://www.weblio.jp/content/%E9%80%A3%E7%B5%90
乙第5号証:「大辞林」、三省堂、「嵌め合い」の項、weblio辞書ウェブサイト、URL:http://www.weblio.jp/content/%E3%81%AF%E3%82%81%E3%81%82%E3%81%84

3 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1(進歩性欠如)について
ア 甲1発明はRCセグメント、すなわち、鉄筋コンクリートを材質として使用したコンクリート系セグメントであるから、そもそも本件発明とはセグメントの種類が異なり 、そのために、甲1発明には、主構造たる鋼製の「枠体」が存在しない。
(審判事件答弁書11頁下から2行ないし12頁2行)

イ 甲1発明で「補強鋼板」を設ける目的は、甲1発明が急曲線部用のコンクリート系セグメントであることから、急曲線部用セグメントに特有に生じる施工時のひび割れ(ジャッキ推力に起因するひび割れ)を防止するため、曲げ耐力・点接触による集中荷重を分散する点にある。このため甲1発明ではリング面・継手面のそれぞれに「補強鋼板」を設けているのであり、「補強鋼板」相互に溶接されていない。
したがって、形状の点からして、甲1発明のリング面・継手面「補強鋼板」は相互に連結して枠体の形状を形成しておらず、本件発明の「枠体」を構成する「主桁板」(「継手面」)に該当しない。
(審判事件答弁書13頁13ないし末行)

ウ 甲1発明の「補強鋼板」は、本件発明の「枠体」とは異なり、強度計算(完成時の外圧・内圧に対する強度計算)の際に構成部材として考慮されない。したがって、甲1発明の「補強鋼板」は、本件発明の主構造であり、強度計算の構成部材となる「枠体」の一部を成す「主桁板」(「継手板」)にあたらない。
(審判事件答弁書14頁4ないし9行)

エ RCセグメント(コンクリート系セグメント)と合成セグメントとでは材質、基本構造、強度計算、特性を異にするため、当業者がRCセグメントとして開示されている技術をよほどの事情でもない限り、合成セグメントに変更する動機も理由もない。そのような変更は材質も基本構造も異なるまったくの別物を作ることであり、設計を一からやり直して新たなセグメントを製作しなければならなくなってしまうからである。
(審判事件答弁書16頁16ないし末行)

オ 甲1発明の「補強鋼板」は、急曲線部用セグメントに特有に生じる施工時のひび割れ(ジャッキ推力に起因するひび割れ)を防止するため、曲げ耐力・点接触による集中荷重を分散させることを目的として設けられているから、リング面・継手面のそれぞれに設けられていれば十分であり「補強鋼板」を相互に連結して枠体の形状(4面)に変更する理由がない。また仮に「補強鋼板」を連結して枠体形状(4面)にしたとしても、「補強鋼板」は完成時の外圧・内圧に対する強度確保を企図するものではない(強度計算において考慮されない)から、いずれにせよ「補強鋼板」は合成セグメントである本件発明の「主桁板」に該当しない。
(審判事件答弁書18頁9ないし17行)

カ 甲4のスキンプレートは合成セグメント(本件発明)の「枠体」を形成するスキンプレートに相当するものではなく、甲4には、RCセグメントに対し「枠体」の一部を成すスキンプレートを設けることが周知技術であることなど一切記載されていない(RCセグメントはそもそも枠体を要しないから、そのような周知技術は存在しない。)。
(審判事件答弁書19頁1ないし6行)

(2)無効理由2(新規性欠如、進歩性欠如)について
ア 公知性について
協定書(甲2の7)の8条には、「共同研究の成果等の取扱い 甲又は乙は、共同研究の成果等を甲乙以外の者に知らせようとするときは、あらかじめ相互の同意を得るものとする。」とあり、また、10条には、「甲及び乙は、共同研究の実施の過程で知り得た秘密を乙又は甲以外の者に漏らしてはならない。」としているところ、それらの義務の継続期間を規定した規定は存在しないから、上記各義務には期間の定めがないと解釈することが合理的である。
(口頭審理陳述要領書4頁14ないし20行)

新規性欠如、進歩性欠如について
(ア)本件発明は合成セグメントであり、材質は鋼製の枠体とコンクリートの一体物であり、強度計算は一体化された枠体とコンクリートを構成部材として行われるのに対し、甲2発明は鉄筋コンクリートを材質とするコンクリート系セグメントであって、強度計算は鉄筋コンクリートのみを構成部材として計算されるものであり、そもそも主構造たる「枠体」を有しない。
(審判事件答弁書26頁9ないし14行)

(イ)甲2発明の4側面の鋼板および背面のスキンプレートは相互に接合されておらず、型枠形状を成していない。
(審判事件答弁書28頁9ないし10行)

(ウ)本件発明と甲2発明は、本件発明が「前記配力筋は前記補強部材に連結され」および「前記配力筋は前記一対の折曲部に連結され」との構成を有するのに対し(構成要件Fの一部)、甲2発明では、配力筋がジベル用のコの字筋に連結されていない点において相違する。
(審判事件答弁書29頁11ないし14行)

(エ)コンクリート系セグメントと合成セグメントとでは基本構造、強度計算、特性を異にするため、当業者が甲2発明のコンクリート系セグメントを合成セグメントに変更する動機も理由もないということである。
(審判事件答弁書31頁11ないし14行)

(オ)甲2発明はRCセグメントであるから、鋼製部材とコンクリートとは一体化されず、したがって、鋼製部材同士を連結させることはないから、甲2発明において配力筋をコの字筋(補強部材)の一対の折曲部に連結させる動機はない。
(審判事件答弁書32頁16ないし19行)

(3)無効理由3(明確性要件違反)について
本件発明は請求項自体の記載によって合成セグメントの発明であることが特定されているから、請求人の主張には理由がない。
(審判事件答弁書34頁1ないし2行)

第6 当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある(下線は審決で付した。また、丸付き数字は角括弧付き数字に置き換えた。以下同じ。)。

ア 「1.3 用語の定義
本指針に用いる用語は次のとおりとする。
(1)二次覆工一体型セグメント」
二次覆工一体型セグメントとは、下水道シールド工事に用いられているセグメントの内面に、従来実施してきた二次覆工(現場うちコンクリート)の防食機能を、防食層としてセグメント本体に付加したものをいう。
……
(6)急曲線部用セグメント
急曲線部に用いる二次覆工一体型セグメントをいう。急曲線部用セグメントにはI型とII型とがある。
(7)二次覆工一体型コンクリート系セグメント
二次覆工一体型セグメントの一種で、鉄筋コンクリートを基本構造としたものをいう。
(8)二次覆工一体型鋼製セグメント
二次覆工一体型セグメントの一種で、鋼製部材を基本構造としたものをいう。」(3頁1ないし25行)

イ 「4)曲線半径と急曲線部用セグメントの適用範囲
急曲線部に適用する急曲線部用セグメントの種類は、曲線半径に応じて解説表-7.2のとおりとする。この適用範囲は、急曲線部用セグメントI型およびII型(参考資料-10)の構造特性から決定したものである。」(62頁5ないし8行)

ウ 62頁の解説表-7.2をみると、100m未満?80m以上の曲線半径に適用されるセグメント構造は、急曲線部用セグメント[I型]であり、80m未満?30m以上の曲線半径に適用されるセグメント構造は、急曲線部用セグメント[II型]であることがみてとれる。

エ 「急曲線部に適用する二次覆工一体型セグメントは、急曲線部の施工時に発生しやすいコンクリートのひび割れ防止対策を施したRCセグメントを主体としたI型と、コンクリート中詰め鋼製セグメントのII型がある。
I型は曲線半径R-80m以上R-100m未満、II型はR-30m以上R-80m未満を原則とした。これは、I型・II型の各セグメントの幅に対する製作上の制約から区分した。……
なお、コンパクトシールド工法用セグメントについては、I型の経済性の特徴となる一般部のセグメントの型枠利用に工夫が必要となるため、R-80m以上R-100m未満の場合についても、選定に際しては両者の経済性について比較検討する必要がある。」(174頁2ないし15行)

オ 「1.I型セグメント
1)構造と製作方法
I型の基本構造は、RCセグメントのリング面に補強鋼板を配置し、セグメント軸方向の曲げ耐力を向上させるとともに、点接触による集中荷重を分散する機能をもたせたものである(参考図-10.1)。また、製作は、一般部RCセグメントの型枠を利用し、リング面に補強鋼材を設置してコンクリートを打設する方法で製作する(参考写真-10.1)。
なお、リング面の補強で、その効果が不足する場合はセグメント継手面に補強鋼板を設置する。
2)ひび割れ要因の分析
急曲線施工時におけるRCセグメントに生じるひび割れには、種々の要因が考えられる。その主なひび割れ発生要因を推定し、その具体的対策を検討した。
[1]曲線部では、シールドジャッキによる偏荷重によってセグメントの目開きが生じ易い。
[2]目違い、目開きによりジャッキ推力の作用で軸方向の曲げモーメントが発生し、また、点接触による集中荷重で、ひび割れやカケが発生する(参考図-10.2)。
3)ひび割れの対応策
(1)補強鋼板の検討条件
……
・セグメント幅600mm
・補強鋼板はずれ止め筋を用いてセグメント本体と一体成形する。
(2)補強鋼板の検討と仕様
補強鋼板の仕様の決定は次の考え方によって行い、曲げ実験により補強効果を確認した。
……
[2]参考図-10.3に示すリング面に配置した鋼板断面積を、鉄筋コンクリートにおける圧縮側および引張側鉄筋断面積として曲げ耐力(Mu)を算定する。なお、鉄筋は無視する。
[3]補強鋼板の断面積はMu>Mmaxを満足するように定めた。
以上の条件により算出した補強鋼板の標準寸法を参考表-10.1に示す。なお、鋼板の厚み、桁高を変更する場合は、表中の断面積を上回ること。
セグメント桁高200mmに対する補強鋼板については、開発実験の軸方向曲げ試験により、参考図-10.4に示すずれ止め筋を200mmピッチに配置して、補強鋼板の降伏応力度までのずれ止め性能を確認している。」(174頁17行ないし175頁30行)

カ 上記オの記載を踏まえて、174頁の参考図-10.1をみると、一対の補強鋼板がセグメントのリング面に配置されることがみてとれる。

キ 上記オの記載を踏まえて、175頁の参考図-10.4をみると、一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたずれ止め筋が、その中間部で補強鋼板に固着されていること、及び、ずれ止め筋の幅が60mmであることがみてとれる。

ク 「3.急曲線部セグメントの設計例
I型の主断面の検討は、補強鋼板を無視し、一般部の二次覆工一体型セグメントと同様に行う。」(180頁2行)

ケ 上記アないしクによれば、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般部RCセグメントの型枠を利用し、リング面及びセグメント継手面に一対の補強鋼板を設置してコンクリートを打設してなる急曲線部用のRCセグメントであって、
補強鋼板は、ずれ止め筋を用いてセグメント本体と一体成形され、
ずれ止め筋は、一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成され、その中間部で補強鋼板に固着されており、
また、ずれ止め筋は、補強鋼板に200mmピッチに配置され、その幅は60mmであってセグメント幅の600mmより小さい、
急曲線部用のRCセグメント。」

(2)甲第2号証の1ないし甲第2号証の7
ア 甲第2号証の2ないし甲第2号証の5の関係について
(ア)甲第2号証の1、甲第2号証の6及び甲第2号証の7の記載内容によると、東京都下水道局と新日本製鉄株式会社、株式会社熊谷組、前田建設工業株式会社、フジミ工研株式会社及びジオスター株式会社の5社によりテーマ名を「二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)」と称する共同研究(以下「甲2共同研究」という。)が行われたことが認められる。
そして、甲第2号証の2、甲第2号証の3及び甲第2号証の4は、その記載内容からみて、甲2共同研究における一連の報告書であり、甲第2号証の5は、甲第2号証の4の写真の一部を拡大したものと認められる。

イ 甲第2号証の2ないし甲第2号証の5に記載された発明
(イ)甲第2号証の2には、以下の記載がある。

a 「1.研究の概要
二次覆工一体型セグメントは、RCセグメント製造時において内面側に防食層を施し、現場施工の二次覆工を省略して、管渠築造工事のコスト縮減、工期短縮、環境負荷の低減を目指すものである。しかし、トンネルの線形上必要となる急曲線部の覆工では、セグメントは幅の狭いものを使用する必要があり、そのため従来は、通常の鋼製セグメントを組立てた後、内型枠(セントル)を設置して二次覆工を打設することや、あるいは防食に必要な二次覆工厚さがない場合には樹脂被覆を施す方法等が行われている。さらに、大掛かりな二次覆工を省略するためにコンクリート中詰め鋼製セグメント(SSPC)を用いてトンネルを組立てた後、ボルトボックスの充填を行う方法等も行われている。このため、トンネルの急曲線部ではコスト、工期面で課題を有している。
そこで、一般部のRCセグメント用型枠に鋼材を固定した後、コンクリートを打設してセグメントを鋼材にて補強する低価格の急曲線部用セグメントの提案を行い、種々の確認試験を実施し、実際の工事へ適用した。」(1頁1ないし13行)

b 「A案はRC型枠に鋼板を取付け、コンクリートを打設する。コンクリート硬化後、背面のスキンプレートを溶接する。(5面鋼枠)」(2頁1ないし2行)

c 2頁の図-1のA案構造をみると、スキンプレートが湾曲板状であることがみてとれる。

(ウ)甲第2号証の3には、以下の記載がある。

a 「1.はじめに
二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)において、昨年度は平板型試験体および円弧試験体を用いて、セグメントの曲げ試験、リング継手の引張・せん断試験およびジャッキ推力の影響確認等を実施し、所要の性能を確認した。
本年度は本共同開発の現場試行工事として、豊島区高田三丁目、文京区目白台一丁目付近再構築工事のR=60m部に適用したので、ここにその報告を行う。」(1頁1ないし6行)

b 添付資料-8(実証工事の製作および現場状況写真)の1頁上方の「鉄筋籠」の写真、及び同4頁上方の「型組」の写真をみると、セグメントの内周側および外周側には、周方向に延びる複数の主鋼材が軸方向に配列され、複数の主鋼材の配列を固定する配力筋が設けられていることがみてとれる。

(エ)甲第2号証の4には、以下の記載がある。

a 「表5.3のA案、B案の計算には、鋼板(主桁)を考慮しない値が記載されている。参考までにリング面に配した鋼板を考慮して、合成構造とした場合の計算値を表5.4に記載する。」(13頁3ないし4行)

b 「ひびわれは、各ケースともスパン中央部に発生したが、A案は表5.3に示すようにひびわれ荷重がPt=6kNと他に比べて小さな値であった。この原因の一つとしては、A案はコンクリート硬化後にスキンプレートを溶接しているために、溶接によりスキンプレート側が縮み、その結果内面の無筋コンクリート部に引張応力を発生させたことが考えられる。」(13頁7ないし10行)

c 「A案の止水に関しては、主桁と継手板の突合せ部に溶接を施し、溶接箇所にこの溶剤を塗布する方法も有効と考えられた。」(46頁14ないし15行)

d 「15.まとめ
二次覆工一体型シールド工法の急曲線部に使用するセグメントとして、RCセグメントの型枠を利用し、型枠の側面に鋼板を取り付けた急曲線用セグメントの提案を行い、実用性の検討を行った。」(70頁1ないし4行)

e 「セグメント継手面、リング継手面および背面、計5面が鋼板に覆われている。」(70頁の表15の「A案」の「構造」欄)

f 「セグメント面、リング面の鋼板を型枠にセットし、コンクリートを打設。コンクリート硬化後、背面のスキンプレートを溶接して完成。」(70頁の表15の「A案」の「製作方法」欄)

g 「止水は、基本的にスキンプレートの水密溶接による。ただし、溶接不良が生じた場合を考慮する必要がある。」(70頁の表15の「A案」の「止水方法」欄)

h 写真集25頁の写真(下方の写真を拡大したものが甲第2号証の5)をみると、一対の折曲部の間に中間部を有する複数の略U字状の鉄筋が、その中間部で主桁に溶接されていること、及び、略U字状の鉄筋の寸法は、一対の主桁間の寸法より短いことがみてとれる。

(オ)上記(ア)ないし(エ)によると、甲2共同研究の一連の報告書である甲第2号証の2ないし甲第2号証の5には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般部のRCセグメント用型枠に鋼板からなる主桁と継手板を取付け、コンクリートを打設し、コンクリート硬化後、背面に湾曲板状のスキンプレートを溶接するとともに、主桁と継手板の突合せ部を溶接することにより、セグメント面、リング面及び背面の5面が鋼板に覆われてなる急曲線部用セグメントであって、
セグメントの内周側および外周側には、周方向に延びる複数の主鋼材が軸方向に配列され、複数の主鋼材の配列を固定する配力筋が設けられ、
一対の折曲部の間に中間部を有する複数の略U字状の鉄筋が、その中間部で一対の主桁に溶接され、
略U字状の鉄筋の寸法は、一対の主桁間の寸法より短い、
急曲線部用セグメント。」

(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。

「【0002】
シールドトンネルは、シールドマシンの後部内で、トンネル壁体を構成するセグメントを組み立て、組み立てたセグメントの前面に反力をとり、シールドマシン後部のジャッキがシールドマシンを推進し、セグメント1リング分の推進が終了する毎に、新たなセグメントを組み立て、以後、シールドマシンの推進とセグメントの組立てとを繰り返して形成される。
一般的な円形断面のシールドトンネルの場合、各セグメントは、トンネル壁体の中心を基準として所定の間隔で分割された弧状のブロック体である。
……
二次覆工を省略する場合に使用するセグメントは、シールドトンネルの直線部及び緩曲線部においてはRCセグメントを用い、急曲線部においては、施工時のシールドジャッキの偏心やシールドテールのせり等によりRCセグメントでは損傷が発生しやすいため、RCセグメントの周りを鋼殻で囲ったコンクリート中詰鋼製セグメントを用いる。
上記鋼殻はプレス加工あるいは溶接によるビルドアップにより製作され、その後、簡易な型枠を用いて、鋼殻内部及び上部にコンクリートを打設することでコンクリート中詰鋼製セグメントを形成する。よって、コンクリート中詰鋼製セグメントは、鋼材の使用量や製作工数が多くなるので、経済的に不利である。」

(4)甲第4号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 両端部と中央部に接合孔が形成された左右一対の円弧状の側板と、
両端部に接合孔が形成され、上記一対の側板に四角形に結合された前後一対の端板と、
上記一対の側板及び端板の外周側に円弧状に張設されたスキンプレートと、
上記側板と端板の各隅部の接合孔の部分に、外周側に開放してそれぞれ設けられたボルトボックスと、
上記側板の中央部の内側に、接合孔に連通して取り付けられたナット部材と、
上記一対の側板の間に設けられた補強部材と、
上記側板と端板とスキンプレート及びボルトボックスで囲まれた空間に充填されてそれらと一体に固化されたコンクリートとを具備したことを特徴とする貯水槽用セグメント。」

イ 「【0030】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、脱型作業が不要でコスト安に製造することができる上、一対の側板及び端板等によって強度と成形精度が向上されたセグメントを市場に提供することができる。」

(5)甲第5号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は相互に複数連結することにより円筒状の貯水槽を形成する貯水槽用セグメントと、その製造法に関するものである。」

イ 「【0011】図4に示されるように、枠体2内には、枠体2の形状に沿って、補強リブ6の上下に、補強リブ6を挟み込むようにして引張材9が配される。引張材9は、貯水槽用セグメント1に要求される強度に応じて厚さ及び幅が調節され、主桁板4に全面またはスポット溶接される鋼板10と、これと同じく、その径と格子のピッチが貯水槽用セグメント1に要求される強度に応じて調節される、格子状に組まれた縦筋と横筋とからなり、枠体2の形状に沿って補強リブ6に溶接される鉄筋11からなる。」

(6)甲第6号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の記載がある。

ア 「【請求項1】 主桁板と継手板と背面板とからなる鋼殻内に複数の主鉄筋とせん断補強筋をそれぞれ配筋するとともにコンクリートを充填し、かつ前記継手板に継手を設けてなる合成セグメントにおいて、前記継手板に主鉄筋定着用の連結部を設け、この連結部に前記主鉄筋の端部を定着し、かつ前記継手を二段に設けてなることを特徴とする合成セグメント。
【請求項2】 主桁板と継手板と背面板とからなる鋼殻内に複数の主鉄筋とせん断補強筋をそれぞれ配筋するとともにコンクリートを充填し、かつ前記継手板に継手を設けてなる合成セグメントにおいて、前記鋼殻の内側部に定着用の孔を有するリブを、前記せん断補強筋の端部に定着用のフックをそれぞれ突設するとともに、前記孔とフックとを係合して前記せん断補強筋の端部を前記鋼殻の内側部に定着し、かつ前記継手を二段に設けてなることを特徴とする合成セグメント。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は鋼製セグメント、鋳鉄製セグメント、さらには球状黒鉛鋳鉄製セグメント(ダクタイルセグメント)も含む鋳鋼製セグメントなどのメタル系セグメント(以下、「鋼殻」という)とその中に充填されたコンクリートとからなる一体構造の合成セグメントに関し、特に常時、大きな内水圧が作用する下水道幹線や地下河川などとして利用される水路用トンネルの覆工材として開発されたものである。」

ウ 「【0023】こうしてトンネルの地山に沿って所定の曲率で弧状に湾曲する鋼殻12が形成され、この鋼殻12内に補強筋として複数の主鉄筋13とせん断補強筋14がそれぞれ配筋され、かつコンクリート15が充填されている。」

エ 「【0030】せん断補強筋14は、例えば図5(a),(b)に図示するように背面板3側(地山側)にコの字状をなす門形に曲げ加工などによって形成され、かつ垂直部分14a,14aの下端部にトンネルの周方向に突出するフック14b,14bがそれぞれ形成されている。……
【0031】また、こうして形成された複数のせん断補強筋14は、例えば図5(c)に図示するように、両側の主桁板1,1間に複数の主鉄筋13を抱き込むようにしてトンネルの周方向に所定間隔おきに配筋され、かつ両端のフック14bをリブ11の定着孔11aまたは横リブ5の定着孔5aに挿入して固定されている。
【0032】このように、複数の主鉄筋13の両端が両端の継手板2に定着され、かつせん断補強筋14の両端が背面板3の底部に定着されていることで、鋼殻12と複数の主筋13およびせん断補強筋14との完全な一体化が可能になり、これにより主鉄筋13とせん断補強筋14はともに、コンクリート15の単なるひび割れ防止材としてではなく、鋼殻12と同等に合成セグメントの構造材として評価される。」

オ 「【0035】
【発明の効果】この発明は以上説明したとおりであり、特に鋼殻の継手板に主鉄筋定着用の連結部を設け、この連結部に主鉄筋の端部を定着し、また前記鋼殻の内側部に定着用の孔を有するリブを、せん断補強筋の端部に定着用のフックをそれぞれ突設するとともに、前記孔とフックとを係合して前記せん断補強筋の端部が前記鋼殻の内側部に定着してあるので、鋼殻と複数の主筋およびせん断補強筋との完全な一体化が可能になり、これにより主鉄筋とせん断補強筋はともに、コンクリートの単なるひび割れ防止材としてではなく、鋼殻と同等に合成セグメントの構造材として評価される。」

2 無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「急曲線部用のRCセグメント」は、本件特許発明1の「セグメント」に相当する。また、甲1発明の「急曲線部用のRCセグメント」は、「セグメント継手面に一対の補強鋼板を設置」してなるから、「周方向へ連結され」ることは明らかであり、「軸方向へ連結されること」は技術常識である。

(イ)甲1発明の「一般部RCセグメントの型枠を利用し、リング面及びセグメント継手面に一対の補強鋼板を設置してコンクリートを打設してなる急曲線部用のRCセグメント」と、本件特許発明1の「前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり、前記枠体は、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、該スキンプレートの前記軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、前記スキンプレートの前記周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え」ることとを対比する。
甲1発明の「リング面」に設置される「一対の補強鋼板」と本件特許発明1の「枠体」の「一対の主桁板」とは、「セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板」である点で共通し、甲1発明の「セグメント継手面」に設置される「一対の補強鋼板」と本件特許発明1の「枠体」の「一対の継手板」とは、「セグメントの周方向両端に設けられた一対の板」である点で共通する。
甲1発明の「コンクリート」は本件特許発明1の「コンクリート」に相当する。
してみると、両者は、「セグメントは、セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板と、セグメントの周方向両端に設けられた一対の板と、コンクリートとを備える」点で共通する。

(ウ)甲1発明は、「RCセグメント」であるから、本件特許発明1の「前記セグメントの前記内周側、又は前記セグメントの前記内周側および前記外周側には、前記周方向に延びる複数の主鋼材が前記軸方向に配列され、該複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられてい」ることとは、「セグメント内に補強鋼材が設けられている」点で共通する。

(エ)甲1発明の「補強鋼板は、ずれ止め筋を用いてセグメント本体と一体成形され、ずれ止め筋は、一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成され、その中間部で補強鋼板に固着されており、また、ずれ止め筋は、補強鋼板に200mmピッチに配置され、その幅は60mmであってセグメント幅の600mmより小さい」ことと、本件特許発明1の「前記一対の主桁板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、前記補強部材は前記一対の主桁板間の寸法よりも短い寸法に形成され前記一対の主桁板のいずれか一方に連結され、前記配力筋は前記補強部材に連結され、前記補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして前記中間部で主桁板に溶接されたアンカー鉄筋」であることとを対比する。
甲1発明の「ずれ止め筋」は、「補強鋼板」と「セグメント本体」とを一体成形するために用いられるから、本件特許発明1の「アンカー鉄筋」である「補強部材」に相当する。
甲1発明の「ずれ止め筋は、補強鋼板に200mmピッチに配置され、その幅は60mmであってセグメント幅の600mmより小さい」ことと、本件特許発明1の「前記一対の主桁板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、前記補強部材は前記一対の主桁板間の寸法よりも短い寸法に形成され前記一対の主桁板のいずれか一方に連結され」ることとは、「セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、前記補強部材は前記セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板間の寸法よりも短い寸法に形成され前記セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板のいずれか一方に連結され」る点で共通する。
甲1発明の「ずれ止め筋は、一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成され、その中間部で補強鋼板に固着されて」いることと、本件特許発明1の「前記補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして前記中間部で主桁板に溶接された」こととは、当該技術分野において鋼材や鉄筋の固着は溶接により行われることが技術常識であるから、「補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして中間部でセグメントの軸方向両端に設けられた一対の板に溶接された」点で共通する。
してみると、両者は、「セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、補強部材はセグメントの軸方向両端に設けられた一対の板間の寸法よりも短い寸法に形成されセグメントの軸方向両端に設けられた一対の板のいずれか一方に連結され、補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして中間部でセグメントの軸方向両端に設けられた板に溶接されたアンカー鉄筋」である点で共通する。

(オ)以上によれば、本件特許発明1と甲1発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「周方向へ連結され、さらに軸方向へ連結されることにより、掘削穴内に筒状壁体を構成するセグメントであって、
前記セグメントは、セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板と、セグメントの周方向両端に設けられた一対の板と、コンクリートとを備えてなり、
セグメント内に補強鋼材が設けられ、
前記セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、前記補強部材は前記セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板間の寸法よりも短い寸法に形成され前記セグメントの軸方向両端に設けられた一対の板のいずれか一方に連結され、前記補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして前記中間部でセグメントの軸方向両端に設けられた板に溶接されたアンカー鉄筋であるセグメント。」

(カ)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
セグメントの基本構造に関し、本件特許発明1は、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、スキンプレートの軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、スキンプレートの周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されるのに対し、甲1発明は、一般部RCセグメントの型枠を利用し、リング面及びセグメント継手面に一対の補強鋼板を設置してコンクリートを打設してなる点。

<相違点2>
セグメント内に設けられた補強鋼材に関し、本件特許発明1では、セグメントの内周側、又はセグメントの内周側および外周側には、周方向に延びる複数の主鋼材が軸方向に配列され、該複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられており、配力筋は補強部材の一対の折曲部に連結されるのに対し、甲1発明では、補強鋼材の具体的な構成が不明であり、補強鋼材とずれ止め筋が連結されているか否かも不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1について
相違点1に係る甲1発明の構成は製造方法により表記されているところ、相違点1を製作された物の構成の違いとして表記し直すと以下のとおりである。
<相違点1’>
本件特許発明1のセグメントは、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、スキンプレートの軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、スキンプレートの周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されるのに対し、甲1発明の急曲線部用のRCセグメントは、リング面及びセグメント継手面に設置された補強鋼板とコンクリートとから構成されるが、リング面及びセグメント継手面に設置された補強鋼板は互いに接合されていないため枠体を形成するものではなく、また外周側にスキンプレートを備えていない点。

これに対し、スキンプレートと一対の側板(主桁板)と一対の端板(継手板)とを備え、内周側が開口された箱型に形成された枠体内にコンクリートを打設してなるセグメントは、甲第4号証に記載のように周知である(上記1(4)を参照。)
また、シールドトンネル緩曲線部においてはRCセグメントを用い、急曲線部においては、施工時のシールドジャッキの偏心やシールドテールのせり等によりRCセグメントでは損傷が発生しやすいため、RCセグメントの周りを鋼殻で囲ったコンクリート中詰鋼製セグメントを用いることは、甲第3号証に記載のように技術常識である(上記1(3)を参照。)。
しかし、甲第1号証には、甲1発明に該当する「コンクリートのひび割れ防止対策を施したRCセグメントを主体としたI型」は、曲線半径が80mないし100mの曲線部に適用し、コンクリート中詰め鋼製セグメントのII型は、曲線半径が30mないし80mの曲線部に適用することが記載されており、甲1発明は、コンクリート中詰め鋼製セグメントのII型を適用する必要のない比較的曲線半径の大きい曲線部に適用されるものである。また、甲第1号証の「コンパクトシールド工法用セグメントについては、I型の経済性の特徴となる一般部のセグメントの型枠利用に工夫が必要となる」(上記1(1)エを参照。)との記載に照らせば、甲1発明の特徴は、一般部のセグメントの型枠を利用することにより経済性を高めることにあると認められる。
他方、上記周知技術のセグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体内にコンクリートを打設して製作されるから、一般部のセグメントの型枠を利用できないことは明らかであり、コンクリート中詰め鋼製セグメントについても同様である。
してみれば、上記技術常識を前提としても甲1発明に上記周知技術を適用する動機付けはない。
また、上記周知技術のセグメントと甲1発明とは、その製作方法が異なる上、補強鋼板は互いに接合されておらず枠体を形成するものでもないから、上記周知技術のセグメントの枠体からスキンプレートのみを取り出し、甲1発明に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない。
よって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(イ)相違点2について
セグメントの内周側、又はセグメントの内周側及び外周側に、周方向に延びる複数の縦筋(主鋼材)を軸方向に配列し、複数の縦筋の配列を固定する横筋(配力筋)を設けることは、甲第5号証に記載のように周知である(上記1(5)を参照。)
また、合成セグメントにおいて、鉄筋を鋼殻(枠体)に定着することにより、鉄筋を鋼殻と同等の構造材として評価できるようにすることは、甲第6号証に記載のように周知である(上記1(6)を参照。)。
しかし、甲1発明の「補強鋼板」は、急曲線施工時におけるRCセグメントに生じるひび割れ対策として、セグメント軸方向の曲げ耐力を向上させるとともに、点接触による集中荷重を分散するために設けられたものであって(上記1(1)オを参照。)、RCセグメントの主断面の検討では無視されるものであるから(上記1(1)クを参照。)、構造材として評価されるものではない。
してみれば、甲1発明において、補強鋼材として上記周知の縦筋と横筋を採用することは当業者にとって容易であるとしても、補強鋼板は構造材ではなく、その横筋を補強鋼板に固着されたずれ止め筋に連結することにセグメントの断面設計上の技術的意味はないから、甲1発明において、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2は、当業者が甲1発明、並びに、甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由1により、無効にすることはできない。

3 無効理由2について
(1)甲2発明の公知性について
請求人は、甲2共同研究においては、その実施期間の終了をもって当事者の守秘義務が解除され、甲2発明は公然知られたものとなった旨主張するので、以下検討する。

ア 甲第2号証の7には、以下の記載がある。
(ア)「共同研究の実施に関する協定書
(二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)に関する共同研究)
東京都(以下「甲」という。)と新日本製鐵(株)、(株)熊谷組、前田建設工業(株)、フジミ工研(株)、ジオスター(株)(以下5者を総称して「乙」という。)とは、二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)に関する共同研究について、次のとおり協定を締結する。」(1頁1ないし5行)

(イ)「2.共同研究の実施期間
共同研究の実施期間は協定成立の日の翌日から平成18年3月31日までとする。」(1頁14ないし15行)

(ウ)「7.共同研究により取得した発明、考案に係る権利の取扱い
この研究で得られた工業所有権については、下記の定めるところによる。……」(1頁下から8行ないし2頁1行)

(エ)「8.共同研究の成果等の取扱い
甲又は乙は、共同研究の成果等を甲乙以外の者に知らせようとするときは、あらかじめ相互の同意を得るものとする。」(2頁2ないし4行)

(オ)「10.秘密の保持
甲及び乙は、共同研究の実施の過程で知り得た秘密を乙又は甲以外の者に漏らしてはならない。」(2頁8ないし9行)

(カ)3頁には、「平成17年5月26日」の日付とともに、甲乙の代表者名が記載され、押印がされている。

イ 甲第2号証の6には、以下の記載がある。
(ア)「協議書
東京都(以下「甲」という。)と新日本製鐵(株)、(株)熊谷組、前田建設工業(株)、フジミ工研(株)、ジオスター(株)(以下5者を総称して「乙」という。)とは、平成17年5月26日付「共同研究の実施に関する協定書(二次覆工一体型シールド工法の急曲線セグメントの開発(I型)に関する共同研究」(以下「原協定書」という。)に基づき、下記の事項を協議する。」(1枚目1ないし5行)

(イ)「1 共同研究の実施期間の変更
原協定書第2条の実施期間を延長し、平成19年3月31日までとする。」(1枚目7ないし8行)

(ウ)「3 その他
前項以外の事項に関しては、原協定に従うものとする。」(1枚目18ないし19行)

ウ 甲第2号証の1の2枚目の表の「研究期間」欄には、「平成17年5月26日?平成19年3月31日」と記載されている。

エ 上記アないしウによると、甲2共同研究は、甲第2号証の7の協定書により協定が締結され、甲第2号証の6の協議書により実施期間が延長されたもので、その研究期間は、平成19年3月31日に終了したものと認められる(以下、甲第2号証の7及び甲第2号証の6に係る協定を「甲2協定」という。)。
甲2協定では、「共同研究の成果等」を甲乙以外の者に知らせようとするときは、あらかじめ相互の同意が必要とされており(8条)、また、甲及び乙は、「共同研究の実施の過程で知り得た秘密」を乙又は甲以外の者に漏らしてはならない(10条)こととされている(上記ア(エ)、(オ)を参照。)。「共同研究の成果等」及び「共同研究の実施の過程で知り得た秘密」について、甲2協定に定義規定は置かれておらず、その意味するところは必ずしも明確ではないが、「共同研究の成果等」に甲2発明が含まれることは明らかであり、「共同研究の実施の過程で知り得た秘密」にも共同研究の成果たる甲2発明が含まれるものと解するのが相当である。
他方、上記10条の秘密保持義務に関しては、存続条項が置かれていない。よって、秘密保持義務が甲2共同研究の実施期間の終了をもって解除されたとするか否かは、当該秘密保持義務の条項を、甲2協定の契約当事者である甲乙の合理的な意思に照らして解釈することにより判断することが相当と認められる。
そして、「共同研究の実施の過程で知り得た秘密」には、甲2発明を含む甲2共同研究の成果はもとより、その他甲乙の事業上の情報等も含まれ得るところ、そのような情報は、一般的に、共同研究の実施期間が終了したからといって他者に漏らしていい性質のものではない。
してみると、上記10条の規定は、期限の定めのない義務として、甲乙双方に秘密保持義務を課したものと解するのが、甲2協定の契約当事者である甲乙の合理的な意思にかなうというべきである。
請求人は、甲第8号証を提出し、甲2協定は民法第667条第1項に規定する組合契約に該当するから、上記10条の秘密保持義務は甲2共同研究の実施期間の終了をもって解除される旨主張するが(上記第4、3(2)アを参照。)、甲第8号証に記載のものは事案を異にし本件に適切ではないから、採用できない。
よって、甲2発明は、本件特許の出願前に公然知られた発明とはいえないから、本件特許発明1及び2は、公然知られた発明であるとも、公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
なお、念のため、以下本件特許発明1及び2と甲2発明とを対比して、新規性進歩性についての判断を行う。

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明の「急曲線部用セグメント」は、本件特許発明1の「セグメント」に相当する。また、甲2発明の「急曲線部用セグメント」は、「継手板」を備えるから、「周方向へ連結され」ることは明らかであり、「軸方向へ連結されること」は技術常識である。

(イ)甲2発明の「一般部のRCセグメント用型枠に鋼板からなる主桁と継手板を取付け、コンクリートを打設し、コンクリート硬化後、背面のスキンプレートを溶接するとともに、主桁と継手板の突合せ部を溶接することにより、セグメント面、リング面及び背面の5面が鋼板に覆われてなる急曲線部用セグメント」と、本件特許発明1の「前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり、前記枠体は、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、該スキンプレートの前記軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、前記スキンプレートの前記周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え」ることとを対比する。
甲2発明の「主桁」、「継手板」、「スキンプレート」及び「コンクリート」は、本件特許発明2の「主桁板」、「継手板」、「スキンプレート」及び「コンクリート」に、それぞれ相当する。
甲2発明の「主桁」と「継手板」は「突合せ部を溶接」されており、「スキンプレート」の溶接は「主桁」及び「継手板」に対してなされることは自明の事項であるから、甲2発明の溶接された「主桁」、「継手板」及び「スキンプレート」は、「内周側が開口された箱型に形成された枠体」といえる。
してみると、両者は、「セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、枠体内のコンクリートとから構成されてなり、枠体は、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、スキンプレートの軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、スキンプレートの周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え」る点で共通する。

(ウ)甲2発明の「主鋼材」及び「配力筋」は、本件特許発明1の「主鋼材」及び「配力筋」に相当し、甲2発明の「中間部で一対の主桁に溶接」された「略U字状の鉄筋」は、本件特許発明1の「略U字状に形成されたジベルとして前記中間部で主桁板に溶接されたアンカー鉄筋」である「補強部材」に相当する。

(エ)以上によれば、本件特許発明1と甲2発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「周方向へ連結され、さらに軸方向へ連結されることにより、掘削穴内に筒状壁体を構成するセグメントであって、
前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内のコンクリートとから構成されてなり、
前記枠体は、外周側に設けられた湾曲板状のスキンプレートと、該スキンプレートの前記軸方向両端にそれぞれ設けられた一対の主桁板と、前記スキンプレートの前記周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板とを備え、
前記セグメントの前記内周側および前記外周側には、前記周方向に延びる複数の主鋼材が前記軸方向に配列され、
該複数の主鋼材の少なくとも一部の配列を固定する配力筋が設けられていて、
前記一対の主桁板には、複数の補強部材がそれぞれ連結されて、前記補強部材は前記一対の主桁板間の寸法よりも短い寸法に形成され前記一対の主桁板のいずれか一方に連結され、前記補強部材は一対の折曲部の間に中間部を有する略U字状に形成されたジベルとして前記中間部で主桁板に溶接されたアンカー鉄筋であるセグメント。」

(オ)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点A>
セグメントの製作に関し、本件特許発明1は、スキンプレートと一対の主桁板と一対の継手板とを備えた枠体内に打設されたコンクリートからなるのに対し、甲2発明は、一般部のRCセグメント用型枠に鋼板からなる主桁と継手板を取付け、コンクリートを打設し、コンクリート硬化後、背面に湾曲板状のスキンプレートを溶接するとともに、主桁と継手板の突合せ部を溶接してなる点。

<相違点B>
本件特許発明1では、配力筋は補強部材の一対の折曲部に連結されるのに対し、甲2発明では、そのような構成を備えていない点。

イ 判断
(ア)相違点Aについて
a 本件特許発明1は物の発明であるので、まず、相違点Aに係る製作の仕方の違いによりセグメント自体に相違が生じるか否かについて検討する。
甲第2号証の4には、「A案は……ひびわれ荷重がPt=6kNと他に比べて小さな値であった。この原因の一つとしては、A案はコンクリート硬化後にスキンプレートを溶接しているために、溶接によりスキンプレート側が縮み、その結果内面の無筋コンクリート部に引張応力を発生させたことが考えられる。」(上記1(2)イ(ウ)bを参照。)と記載されており、甲2発明では、スキンプレートの溶接によりセグメントの内面側に引張応力が発生するのに対し、本件特許発明では、そのような引張応力は発生し得ない。
してみると、本件特許発明1と甲2発明とは、相違点Aに係る製作の仕方の違いによりセグメント自体の構成が明らかに異なるものになるといえる。

b 次に、甲2発明において、相違点Aに係る本件特許発明1の構成とすることが容易想到といえるか検討する。
スキンプレートと一対の側板(主桁板)と一対の端板(継手板)とを備え、内周側が開口された箱型に形成された枠体内にコンクリートを打設してなるセグメントは、甲第4号証に記載のように周知である(上記1(4)を参照。)
また、シールドトンネル緩曲線部においてはRCセグメントを用い、急曲線部においては、施工時のシールドジャッキの偏心やシールドテールのせり等によりRCセグメントでは損傷が発生しやすいため、RCセグメントの周りを鋼殻で囲ったコンクリート中詰鋼製セグメントを用いることは、甲第3号証に記載のように技術常識である(上記1(3)を参照。)。
しかし、甲第2号証の2には、「……トンネルの急曲線部ではコスト、工期面で課題を有している。そこで、一般部のRCセグメント用型枠に鋼材を固定した後、コンクリートを打設してセグメントを鋼材にて補強する低価格の急曲線部用セグメントの提案を行い、種々の確認試験を実施し、実際の工事へ適用した。」(上記1(2)イ(イ)aを参照。)と記載されており、当該記載に照らせば、甲2発明の特徴は、一般部のRCセグメント用型枠を利用することにより、急曲線部用セグメントの製造コストを下げるとともに工期を短縮することにあると認められる。
他方、上記周知技術のセグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体内にコンクリートを打設して製作されるから、一般部のセグメントの型枠を利用できないことは明らかであり、コンクリート中詰め鋼製セグメントについても同様である。
してみれば、上記技術常識を前提としても甲2発明に上記周知技術を適用する動機付けはない。
よって、甲2発明において、上記相違点Aに係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(イ)相違点Bについて
合成セグメントにおいて、鉄筋を鋼殻(枠体)に定着することにより、鉄筋を鋼殻と同等の構造材として評価できるようにすることは、甲第6号証に記載のように周知である(上記1(6)を参照。)。
しかし、乙第3号証(甲第2号証の4と同じ報告書)には、「設計荷重時(鉄筋のみ考慮)」(7頁4行)、「表5.3のA案、B案の計算には、鋼板(主桁)を考慮しない値が記載されている。参考までにリング面に配した鋼板を考慮して、合成構造とした場合の計算値を表5.4に記載する。」(13頁3ないし4行)と記載されており、当該記載に照らせば、甲2発明の急曲線部用セグメントのセグメント面、リング面及び背面の5面を覆う鋼板は設計時に考慮されていないから、構造材として評価されるものではない。
してみれば、甲2発明において、鋼板は構造材ではなく、配力筋を略U字状の鉄筋に連結することに設計上の技術的意味はないから、上記周知技術に照らしても、甲1発明において上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
なお、請求人は、甲2発明は、配力筋と略U字状の鉄筋が近接した状態で配置されており、荷重伝達が可能であるから、配力筋と略U字状の鉄筋は「連結」されているといえる旨主張する(上記第4、3(2)ウ(ウ)を参照。)。
しかし、「連結」とは、「つなぎ合わせること」(三省堂「大辞林」、乙第4号証)であって、「前記配力筋は前記一対の折曲部に連結された」とは、配力筋と補強部材の折曲部とが直接接合されることを意味することは明らかであるから、上記請求人の主張は採用できない。

(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が公然知られた発明であるとも、公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(4)小括
以上のとおり、甲2発明は公然知られたものではなく、また本件特許発明1及び2は、甲2発明と同一であるとも、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、本件特許発明1及び2は、公然知られた発明であるとも、公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
したがって、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第1号及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由2により、無効にすることはできない。

4 無効理由3について
(1)請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり」との記載について、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するので、不明確である旨主張する。

(2)判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり」との記載は、当業者が枠体と該枠体内に打設されたコンクリートとからなるセグメントの構成を直ちに理解できるから、明確である。
なお、上記請求項1の記載のうち、「該枠体内に打設されたコンクリート」は、単に状態を示すことにより構造を特定しているにすぎないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されているとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであって、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第2項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由3により、無効にすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由によっては、本件特許発明1及び2の特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-10 
結審通知日 2016-11-14 
審決日 2016-11-25 
出願番号 特願2010-196000(P2010-196000)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E21D)
P 1 113・ 111- Y (E21D)
P 1 113・ 537- Y (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介西田 秀彦  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
中田 誠
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5732215号(P5732215)
発明の名称 セグメント  
代理人 渡邉 孝太  
代理人 加治 梓子  
代理人 牧野 知彦  
代理人 安彦 元  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ