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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1323364
審判番号 不服2014-19408  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-29 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2012-529237「印刷方法および液体インクジェットインク」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月24日国際公開,WO2011/032939,平成25年 2月 7日国内公表,特表2013-504462〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2010年9月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年9月15日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成24年5月8日に翻訳文が提出され,平成25年10月21日付けで拒絶理由が通知され,平成26年4月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年5月20日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年9月29日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成27年11月12日付けで拒絶理由が通知され,平成28年5月17日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は,平成28年5月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「画像を形成するために,少なくとも2色のインク組成物を基材上に堆積させる工程,および,
前記基材に対して前記画像を固定する工程
を含み,
前記インクは,静電印刷ヘッドを用いて堆積され,
前記静電印刷ヘッドは,分散媒流体中に分散させた帯電可能な顔料を,印加電界を用いて,最初に濃縮し,その後に噴出させ,
前記画像の固定を行う前に,すべてのインク組成物を前記基材上に堆積させ,
それぞれのインク組成物は,帯電可能な顔料を前記基材に固定することができる結合剤を含有せず,
前記分散媒流体は,絶縁性の流体である,
基材上に画像を形成する方法。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本願発明」という。)


3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成27年11月12日付けで通知された拒絶理由の一つ(以下,「当審拒絶理由」という。)は,概略,本願の各請求項(平成28年5月17日提出の手続補正書による補正前の各請求項)に係る発明は,特開2005-103958号公報に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。


4 引用例
(1)特開2005-103958号公報
ア 特開2005-103958号公報の記載
当審拒絶理由で引用された特開2005-103958号公報(以下,「引用文献」という。)は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,インクジェット記録方法に関するものであり,詳しくは,画像に光沢性の付与及び増強が可能で,耐ブロッキング性及び耐摩擦性を有するインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
インクジェット記録方式には,・・・(中略)・・・静電界を利用して荷電粒子を含有するインク滴を飛翔させる方式(特許文献1,2参照)がある。・・・(中略)・・・一方,静電界を利用する方式は,インク滴の飛翔方向を静電界により制御するため,望ましい位置へインク滴を正確に着弾させることが可能であり,高画質の画像形成物(印刷物)を作成でき優れている。
【0004】
静電界を利用するインクジェット記録に用いられるインク組成物としては,分散媒および,色材を少なくとも含む荷電粒子を含有するインク組成物が用いられる(特許文献3,4参照)。色材を含有するインク組成物は,色材を変更することにより,イエロー,マゼンタ,シアン,墨の4色のインクを作成することができ,さらに金や銀の特色インクを作成することができる。したがって,カラーの画像形成物(印刷物)を作成することができるため有用である。形成した画像を高速かつ高画質を維持し,カラーの画像形成物(印刷物)を安定化させるために,紙にインク画像を定着させるが,この定着は主として加熱加圧下でインクに含まれる樹脂を軟化させ紙に圧着するヒートローラ方式が用いられる。この定着は,通常ほとんどの場合有効であるが,被記録媒体の過酷な使用条件下や繰返し使用の場合に,印刷物を重ねたときにインク画像の裏移りが発生したり,スクラッチ,摩耗により画像の画質低下を引き起こすことがある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は,画像の定着及び保護を高速かつ低温で実現し,目的とする画像を高画質のまま維持可能であり,印刷物のカール,ヨレ,皺,歪み等が少なく,また被記録媒体の材質,構成及び性質を選ばず,本来のしなやかさを保持しつつ,更に画像に光沢性の付与及び増強が可能な耐ブロッキング性及び耐摩擦性を有するインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,以下のとおりである。
(1) 分散媒と,少なくとも色材およびその被覆ポリマーを含む荷電粒子とを含有するインク組成物を,静電界を利用したインクジェット記録方式でインク滴として飛翔させ,被記録媒体に画像を形成させ,続いて前記画像の表面に動的弾性率が50℃で5×10^(5)Pa以上のオーバーコートポリマーを含むオーバーコート層を設けることを特徴とするインクジェット記録方法。・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,画像の定着及び保護を高速かつ低温で実現し,目的とする画像を高画質のまま維持可能であり,印刷物のカール,ヨレ,皺,歪み等が少なく,また被記録媒体の材質,構成及び性質を選ばず,本来のしなやかさを保持しつつ,更に画像に光沢性の付与及び増強が可能な耐ブロッキング性及び耐摩擦性を有するインクジェット記録方法が提供される。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるインク組成物は,分散媒と,少なくとも色材およびその被覆ポリマーを含む荷電粒子とを含有する。
[分散媒]
分散媒は,高い電気抵抗率,具体的には10^(10)Ωcm以上を有する誘電性の液体であることが好ましい。仮に電気抵抗率の低い分散媒を使用すると,隣接する記録電極間で電気的導通を生じさせるため,本形態には不向きである。また,誘電性液体の比誘電率は5以下が好ましく,より好ましくは4以下,更に好ましくは3.5以下である。このような比誘電率の範囲とすることによって,誘電性液体中の荷電粒子に有効に電界が作用されるため好ましい。
・・・(中略)・・・
【0012】
[色材]
本発明に用いる色材としては,公知の染料および顔料を使用することができ,用途や目的に応じて選択することができる。例えば,記録された画像記録物(印刷物)の色調の観点からは,顔料を用いることが好ましい(例えば,技術情報協会発行 「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」 2001年12月25日 第1刷参照。以下「非特許文献1」
とも称する)。色材を変更することにより,イエロー,マゼンタ,シアン,墨(ブラック)の4色のインクを作成することができる。特に,オフセット印刷用インクやプルーフに用いられる顔料を使用するとオフセット印刷物と同様な色調が得られるので好ましい。
・・・(中略)・・・
【0018】
[被覆ポリマー]
本発明において,顔料等の色材は,分散媒に直接,分散(粒子化)するよりも,被覆ポリマーにより被覆された状態で分散(粒子化)することが好ましい。被覆ポリマーで被覆することにより,色材が持つ荷電を遮蔽し望ましい荷電特性を付与することができる。また,本発明においては,被記録媒体へインクジェット記録した後,ヒートローラ等の加熱手段により定着するが,この際被覆ポリマーが熱により溶融し,効率よく定着できる。
・・・(中略)・・・
【0030】
[分散剤]
本発明において好ましくは,色材と被覆ポリマーの混合物を分散媒中に分散(粒子化)するが,粒子直径を制御し,かつ粒子の沈降を抑制するために分散剤を使用することがさらに好ましい。・・・(中略)・・・
【0041】
[荷電調整剤]
本発明においては,色材と被覆ポリマーの混合物を,分散剤を用いて分散媒中に分散(粒子化)することが好ましく,粒子の荷電量を制御するために荷電調整剤を併用することがさらに好ましい。」

(ウ) 「【0047】
[インクジェット記録装置]
本発明では,以上記述したインク組成物を,インクジェット記録方式により,被記録媒体へ記録する。本発明においては,静電界を利用したインクジェット記録方式を用いることが好ましい。静電界を利用するインクジェット記録方式は,制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより,インク組成物の荷電粒子を静電力によって吐出位置に濃縮し,吐出位置から記録媒体へ飛翔させる方式である。制御電極と背面電極間に印加する電圧は,例えば荷電粒子が正の場合,制御電極が正極であり背面電極が負極となる。背面電極へ電圧を印加する代わりに被記録媒体に帯電を行っても同様の効果が得られる。
・・・(中略)・・・
【0050】
本発明のインク組成物を適用するに適したインクジェット記録装置の構成例を以下に示す。
まずは,図3に示す記録媒体に片面4色印刷を行う装置の概要について説明する。
図3に示されるインクジェット記録装置1は,フルカラー画像形成を行うための4色分の吐出ヘッド2C,2M,2Y及び2Kから構成される吐出ヘッド2にインクを供給し,さらに吐出ヘッド2からインクを回収するインク循環系3,図示されないコンピュータ,RIP(ラスター・イメージ・プロセッサ)等の外部機器からの出力により吐出ヘッド2を駆動させるヘッドドライバ4,位置制御手段5を備える。またインクジェット記録装置1は,3つのローラ6A,6B,6Cに張架された搬送ベルト7,搬送ベルト7の幅方向の位置を検知可能な光学センサなどで構成された搬送ベルト位置検知手段8,記録媒体Pを搬送ベルト上に保持するための静電吸着手段9,画像形成終了後に記録媒体Pを搬送ベルト7から剥離するための除電手段10及び力学的手段11を備える。搬送ベルト7の上流,下流には,記録媒体Pを図示されないストッカーから搬送ベルト7に供給するフィードローラ12及びガイド13,剥離後の記録媒体Pへインクを定着させると共に図示されない排紙ストッカーに搬送する定着手段14及びガイド15が配置されている。またインクジェット印刷装置1の内部には,搬送ベルト7を挟んで吐出ヘッド2に対向する位置には,記録媒体位置検出手段16を有し,さらにインク組成物から発生する溶媒蒸気を回収するための排出ファン17及び溶媒蒸気吸着材18からなる溶媒回収部が配置され,装置内部の蒸気は該回収部を通って装置外部に排出される。
・・・(中略)・・・
【0053】
・・・(中略)・・・本発明で好適に使用されるインクジェットヘッドは,インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ,吐出を行うインクジェット方法であり,主に記録媒体又は記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。・・・(中略)・・・
【0063】
[オーバーコート層]
本発明では,前述のように,インク組成物を静電界を利用したインクジェット記録方式でインク滴として飛翔させ,被記録媒体に画像を形成させ,続いて前記画像の表面にオーバーコートポリマーを含むオーバーコート層を設ける。ここで該オーバーコートポリマーの動的弾性率は,50℃で5×10^(5)Pa以上であることが必要である。
【0064】
[動的弾性率]
ポリマー物性としての動的弾性率は,ポリマーの変形しやすさや流動性を示し,その挙動はレオロジーと呼ばれる学問体系に属している。
本発明者らの検討によれば,動的弾性率は,インク画像の定着性の指標となり,耐ブロッキング性及び耐摩擦性に深く関係することが見出された。つまり動的弾性率は,オーバーコート層の熱的流動性,すなわちフロー性,上に重ねられた記録紙への画像の裏移りのしにくさ,すなわち耐ブロッキング性,そしてインク画像の熱定着時におけるヒートローラへ画像の一部が転移するオフセット等と深く関係する。
・・・(中略)・・・
【0066】
[オーバーコートポリマー]
オーバーコートポリマーの動的弾性率は,前述のように,50℃で5×10^(5)Pa以上であることが必要であり,好ましくは50℃で7×10^(5)Pa以上,さらに好ましくは1×10^(6)Pa以上である。また,オーバーコートポリマーの重量平均分子量は,2,000?300,000が好ましく,より好ましくは2,500?200,000,さらに好ましくは3,000?100,000の範囲である。多分散度は1.0?15.0が好ましく,より好ましくは1.2?14.5,さらに好ましくは2?14の範囲である。
また,オーバーコートポリマーのガラス転移点もしくは融点は,40?100℃の範囲にあるのが好ましい。
オーバーコートポリマーとしては,例えばアクリル系,ポリエステル系,ポリエチレン系,ポリスチレン系ポリマーまたはこれらの混合物が挙げられる。これとは別に,前述の被覆ポリマーをオーバーコートポリマーとして用いることも好ましい。
【0067】
オーバーコート層は,オーバーコートポリマーをインク組成物の作製と同様に混練,微粉砕処理を行い更に分散媒に微粒子として分散し荷電を付与して,インクで描画された画像を有する印刷物表面に静電インクジェット方式でその全面に吐出することにより形成することができる。その後インク画像の定着と同様に加熱手段により被膜化し画像の更なる定着と光沢性,耐ブロッキング性及び耐摩擦性を付与する。オーバーコート層被膜としての厚みは0.1?100μm,好ましくは0.3?70μm,より好ましくは0.5?20μmであり,画像部と非画像部の全体の厚みが一定となるように画像データ処理によりオーバーコートポリマーの吐出量を調節してもよい。なお,インク画像は熱定着されていてもされていなくともよい。定着されていない場合は単に無着色のインクによりオーバーコート層が一層重ね書きされることになる。この場合は画像と共に一回の熱定着で済むことになり,処理速度の高速化と印刷物作製のコスト低減が実現できる。・・・(中略)・・・
【0069】
[被記録媒体]
本発明においては,用途に応じて様々な被記録媒体を用いることができる。例えば,紙,プラスチックフィルム,金属,及び,プラスチックまたは金属がラミネートまたは蒸着された紙,金属がラミネートまたは蒸着されたプラスチックフィルム等を用いれば,インクジェット記録することにより,直接印刷物を得ることができる。」

(エ) 「【実施例】
【0071】
以下,実施例及び比較例により,本発明を詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。なお,特記ない限り組成比率,%は質量比,質量%を表す。
【0072】
オーバーコートポリマーの作成
[オーバーコートポリマー1]
メチルメタクリレート(和光純薬(株)製)40g,メチルアクリレート(和光純薬(株)製)60g,分散剤[BZ-2]10g,アイソパーG(エクソン社(株)製)200gを三口フラスコに投入し,オイルバス中にて窒素気流下,70℃まで加温した。反応液温が70℃に到達した後,30分間,窒素気流下にて70℃で攪拌した。その後,ラジカル重合開始剤V65(和光純薬(株)製)を3g加え,窒素気流下にて70℃で3時間重合した。
さらに,3時間後ラジカル重合開始剤V65(和光純薬(株)製)を1.5g加え,液温を80℃まで上昇させ,窒素気流下にて2時間重合した。重合反応終了後,反応液を室温まで冷却し,テフロンメッシュにて濾過後,目的の粒子分散物を得た。分散物ポリマーの重量平均分子量Mwは15,000,平均粒子径は0.83μmで,0.2μm以下の微小粒子量は0.1%であった。
・・・(中略)・・・
【0076】
実施例1
<使用した材料>
本実施例1においては,下記に示す材料を使用した。
【0077】
・シアン顔料(色材) フタロシアニン顔料 C.I.Pigment Blue(15:3)(東洋インキ製造(株)製,LIONOL BLUE FG-7350)
・被覆ポリマー [AP-1]
・分散剤 [BZ-2]
・荷電調整剤 [CT-1]
・分散媒 アイソパーG(イソパラフィン系,エクソン社製)
・オーバーコート剤 [オーバーコートポリマー1]
【0078】
被覆ポリマー[AP-1],分散剤[BZ-2],荷電調整剤[CT-1]の構造を以下に示す。
【0079】
【化5】

・・・(中略)・・・
【0081】
<インク組成物[EC-1]の作成>
シアン顔料10g,被覆ポリマー「AP-1」20gを,入江商会(株)製卓上型ニーダーPBV-0.1に入れ,ヒーター温度を100℃に設定し2時間加熱混合した。得られた混合物30gをトリオサイエンス(株)製トリオブレンダーにて粗粉砕し,さらに協立理工(株)製SK-M10型サンプルミルにて微粉砕した。得られた微粉砕物30gを,分散剤[BZ-2]7.5g,アイソパーG75g,および直径約3.0mmのガラスビーズと共に,東洋精機製作所(株)製ペイントシェーカーにて予備分散した。ガラスビーズを除去した後,直径約0.6mmのジルコニアセラミックビーズと共に,シンマルエンタープライゼズ(株)製TypeKDLダイノミルにて,内温を25℃に保ちながら5時間,引き続き45℃で5時間,2,000rpmの回転数で分散(粒子化)した。得られた分散液からジルコニアセラミックビーズを除去し,アイソパーG316gと荷電調整剤[CT-1]0.6gを加え,インク組成物[EC-1]を得た。
【0082】
<インクジェット記録>
図3?5に示すインクジェット記録装置に,実施例1のインク組成物[EC-1]をインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図4に示すタイプの150dpi(チャンネル密度50dpiの3列千鳥配置),833チャンネルヘッドを使用し,また定着手段として1kWのヒータを内蔵したシリコンゴム性ヒートローラを使用した。・・・(中略)・・・被記録媒体としてオフセット印刷用微コート紙を使用した。エアーポンプ吸引により被記録媒体表面の埃除去を行った後,吐出ヘッドを画像形成位置まで被記録媒体に近づけ,記録すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し,搬送ベルトの回転により被記録媒体を搬送させながら吐出ヘッドを逐次移動しながらインク組成物を吐出して2400dpiの描画解像力で画像を形成した。・・・(中略)・・・得られたグレースケール画像記録物(印刷物)は,筋ムラ,インクのにじみがなく極めて鮮明な画像であった。画像形成不良等は全く見られず,また外気温の変化,記録時間の増加によってもドット径変化等による画像劣化は全く見られず,良好な画像形成が可能であった。
【0083】
<オーバーコート層>
オーバーコートポリマー1を7質量%の濃度として,荷電調整剤[CT-1]を0.1質量%加えインク化した。該インクを前述と同様に所謂ベタ画像となるようにパルス幅を調節して画像上に吐出ドットを連続させた。・・・(中略)・・・
【0085】
<定着評価>
画像とオーバーコート層を形成した後,ヒートローラを用いて加熱し,印刷用紙であるコート紙の温度を60?100℃まで5℃刻みで変化させ定着をおこない,印刷画像のブロッキング性について定着性を十分満足する温度で,その画像上に印刷用紙と同じ紙を重ね,約50g/cm^(2)の重量をかけ,50℃で24時間放置し,重ねた紙の裏面への画像部の転写程度を目視評価した。
【0086】
実施例2
オーバーコートポリマーをエルバックスII-5610(エチレン-酢ビ,三井・デュポンケミカル製)に変えた以外は,実施例1と同素材にて,実施例1と同様な方法にてオーバーコートインクを作成し,インクジェット描画,オーバーコート層形成,画像評価を実施した。
【0087】
実施例3
オーバーコートポリマーを,AT-96(ベンジルメタクリレート/メチルメタクリレート,モル比75/25,アルドリッチ社製)8質量部とポリマー3の2質量部との混合物に変えた以外は,実施例1と同素材にて,実施例1と同様な方法にてオーバーコートインクを作成し,インクジェット描画,オーバーコート層形成,画像評価を実施した。
【0088】
比較例1
実施例3において,オーバーコート層を形成しなかった以外は実施例3と同様にして,画像を形成した。
【0089】
上記各実施例および比較例で得られた結果を表1に示す。
【0090】
【表1】



(オ) 「【図面の簡単な説明】
【0096】
・・・(中略)・・・
【図3】本発明に用いるインクジェット印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図である。
【図4】本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である(判りやすくするために,各吐出部でのガード電極のエッジは描いていない)。
【図5】図4に示す,インクジェットヘッドの吐出部の使用数が多いときの荷電粒子の分布状態を示す側面断面図である(図4の矢視X-Xに相当)。
・・・(中略)・・・
【図3】

【図4】

【図5】



イ 引用文献に記載された発明
前記ア(イ)の「分散媒」,「色材」,「被覆ポリマー」,「分散剤」及び「荷電調整剤」に関する記載,並びに前記ア(エ)に記載された実施例1ないし3で用いているインク組成物の各成分から,「分散媒と,被覆ポリマーにより被覆された顔料と,分散剤と,荷電調整剤とからなるインク組成物」を把握することができ,かつ,前記ア(イ)の【0012】の4色のインクに関する記載及び前記ア(ウ)の【0050】の4色分の吐出ヘッド(インクジェットヘッド)を有し,フルカラー画像形成を行うインクジェット記録装置1についての記載から,「イエロー,マゼンタ,シアン及びブラックの4色のインク組成物」を用いてフルカラー画像を行うことを把握できるから,引用文献に次の発明が記載されていると認められる。(なお,引用文献中では,画像を形成する対象物に対して,「被記録媒体」という表現と,「記録媒体」という表現とが混在して用いられているが,「被記録媒体」に統一して引用発明の構成を認定した。)

「イエロー,マゼンタ,シアン及びブラックの4色のインク組成物であって,それぞれが,電気抵抗率が10^(10)Ωcm以上の誘電性の液体である分散媒と,被覆ポリマーにより被覆された顔料である荷電粒子と,前記荷電粒子を前記分散媒中に分散させるための分散剤と,前記荷電粒子の荷電量を制御するための荷電調整剤とからなるインク組成物を,静電界を利用したインクジェット記録方式でインク滴として飛翔させて,被記録媒体にフルカラー画像を印刷し,続いて,当該フルカラー画像が印刷された前記被記録媒体の表面の全面に,動的弾性率が50℃で5×10^(5)Pa以上のオーバーコートポリマーを含むオーバーコート層を形成し,その後,加熱手段を用いて前記オーバーコート層を被膜化することによって,フルカラー画像の定着と光沢性,耐ブロッキング性及び耐摩擦性を付与するインクジェット記録方法であって,
前記静電界を利用したインクジェット記録方式とは,インクジェットヘッドに設けられた制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより,前記インクジェットヘッドのインク流路内で前記荷電粒子を電気泳動させて吐出位置に濃縮し,前記背面電極に起因する静電吸引力により吐出位置からインク滴を被記録媒体へ飛翔させる方式のことであり,
前記被覆ポリマーは,前記顔料が持つ荷電を遮蔽して望ましい荷電特性を付与するとともに,加熱手段により定着する際に熱により溶融して効率よく定着するために用いられている,
インクジェット記録方法。」(以下,「引用発明」という。)

(2) 周知の技術的事項
ア 顔料の被覆に関する周知の技術的事項
(ア)特開2004-181644号公報の記載
特開2004-181644号公報(以下,「周知例1」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であって,当該周知例1には次の記載がある。(下線は,後述する第1周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)

a 「【0019】
本発明で好適に使用されるインクジェット記録ヘッドは,インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ,吐出を行うインクジェット方法に関し,主に記録媒体または記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。従って,記録媒体あるいは対向電極がヘッドに対向していない場合や,ヘッドと対向する位置にあっても記録媒体あるいは対向電極に電圧が印加されていない場合には,誤って吐出電極に電圧が印加された場合や振動が与えられた場合でもインク滴の吐出は起こらず,装置内を汚すことはない。」

b 「【0024】
インク流路72に入れるインクは,粒径0.1?5.0μm程度の着色荷電粒子をキャリア液中に分散したものを用いる。キャリア液は,高い電気抵抗率(1010Ωcm以上)を有する誘電性の液体であることが要求される。仮に電気抵抗率の低いキャリア液を使用すると,吐出電極によって印加される電圧によりキャリア液自身が電荷注入を受けて帯電してしまうため,荷電粒子(帯電したインク粒子)Rの濃度が高められず,濃縮がおこらない。また,電気抵抗率の低いキャリア液は,隣接する記録電極間で電気的導通を生じさせる懸念もあるため,本形態には不向きである。
・・・(中略)・・・
【0027】
上記の非水溶媒中に,分散される着色粒子は,色材自身を分散粒子として誘電性液体中に分散させてもよいし,定着性を向上させるための分散樹脂粒子中に含有させてもよい。含有させる場合,顔料などは分散樹脂粒子の樹脂材料で被覆して樹脂被覆粒子とする方法などが一般的であり,染料などは分散樹脂粒子を着色して着色粒子とする方法などが?般的である。色材としては,従来からインクジェットインク組成物,印刷用インキ組成物,あるいは電子写真用液体現像剤に用いられている顔料および染料であれはどれでも使用可能である。・・・(中略)・・・
【0029】
またインク組成物として,粘度は0.5?5mPa・secの範囲が好ましく,より好ましくは0.6?3.0mPa・sec,更に好ましくは0.7?2.0mPa・secの範囲である。着色粒子は荷電を有し,必要に応じて電子写真用液体現像剤に用いられている種々の荷電制御剤が使用でき,その荷電量は5?200μC/gの範囲が望ましく,より好ましくは10?150μC/g,更に好ましくは15?100μC/gの範囲である。また荷電制御剤の添加によって誘電性溶媒の電気抵抗が変化する事もあり,下記に定義する分配率Pが,50%以上,より好ましくは60%以上,さらに好ましくは70%以上である。」

(イ)特開2004-82689号公報の記載
特開2004-82689号公報(以下,「周知例2」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であって,当該周知例2には次の記載がある。(下線は,後述する第1周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0051】
本発明で好適に使用されるインクジェットヘッドは,インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ,吐出を行うインクジェット方法に関し,主に記録媒体または記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。従って,記録媒体あるいは対向電極がヘッドに対向していない場合や,ヘッドと対向する位置にあっても記録媒体あるいは対向電極に電圧が印加されていない場合には,誤って吐出電極に電圧が印加された場合や振動が与えられた場合でもインク滴の吐出は起こらず,装置内を汚すことはない。」

b 「【0070】
インク流路72に入れるインクは,粒径0.1?5.0μm程度の着色荷電粒子をキャリア液中に分散したものを用いる。キャリア液は,高い電気抵抗率(1010Ωcm以上)を有する誘電性の液体であることが要求される。仮に電気抵抗率の低いキャリア液を使用すると,吐出電極によって印加される電圧によりキャリア液自身が電荷注入を受けて帯電してしまうため,荷電粒子(帯電したインク粒子)Rの濃度が高められず,濃縮がおこらない。また,電気抵抗率の低いキャリア液は,隣接する記録電極間で電気的導通を生じさせる懸念もあるため,本形態には不向きである。
・・・(中略)・・・
【0073】
上記の非水溶媒中に,分散される着色粒子は,色材自身を分散粒子として誘電性液体中に分散させてもよいし,定着性を向上させるための分散樹脂粒子中に含有させてもよい。含有させる場合,顔料などは分散樹脂粒子の樹脂材料で被覆して樹脂被覆粒子とする方法などが一般的であり,染料などは分散樹脂粒子を着色して着色粒子とする方法などが?般的である。色材としては,従来からインクジェットインク組成物,印刷用インキ組成物,あるいは電子写真用液体現像剤に用いられている顔料および染料であれはどれでも使用可能である。・・・(中略)・・・
【0075】
またインク組成物として,粘度は0.5?5mPa・secの範囲が好ましく,より好ましくは0.6?3.0mPa・sec,更に好ましくは0.7?2.0mPa・secの範囲である。着色粒子は荷電を有し,必要に応じて電子写真用液体現像剤に用いられている種々の荷電制御剤が使用でき,その荷電量は5?200μC/gの範囲が望ましく,より好ましくは10?150μC/g,更に好ましくは15?100μC/gの範囲である。また荷電制御剤の添加によって誘電性溶媒の電気抵抗が変化する事もあり,下記に定義する分配率Pが,50%以上,より好ましくは60%以上,さらに好ましくは70%以上である。」

c 「【0098】
【実施例】
[実施例1]
図1に示すインクジェット記録装置に,4色のインク(顔料としてカーボンブラック,フタロシアニンブルー,CIピグメントレッド,CIピグメントイエローを使用した正荷電した着色粒子をアイソパーGに分散したインク,着色粒子平均粒径0.7?1.0μm)をそれぞれ4つのヘッドにつながるインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図9に示すタイプの150dpi(チャンネル密度50dpiの3列千鳥配置),833チャンネルヘッドを使用し,また定着手段として1kWのヒータを内蔵したシリコンゴム性ヒートローラを使用した。インク温度管理手段として投げ込みヒータと攪拌羽をインクタンク内に設け,インク温度は30℃に設定し,攪拌羽を30rpmで回転しながらサーモスタットで温度コントロールした。ここで攪拌羽は沈澱・凝集防止用の攪拌手段としても使用した。またインク流路を一部透明とし,それを挟んでLED発光素子と光検知素子を配置し,その出力シグナルによりインクの希釈液(アイソパーG)あるいは濃縮インク(上記インクの固形分濃度を2倍に調整したもの)投入による濃度管理を行った。記録媒体としてオフセット印刷用微コート紙を使用した。エアーポンプ吸引により記録媒体表面の埃除去を行った後,吐出ヘッドを画像形成位置まで記録媒体に近づけ,印刷すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し,搬送ベルトの回転により記録媒体を搬送させながら吐出ヘッドを逐次移動しながら油性インクを吐出して2400dpiの描画解像力で画像を形成した。搬送ベルトとして,金属ベルトとポリイミドフィルムを張り合わせたものを使用し,このベルトの片端付近に搬送方向に沿ってライン状のマーカーを配置し,これを搬送ベルト位置検知手段で光学的に読みとり,位置制御手段を駆動して画像形成を行った。この際,光学的ギャップ検出装置による出力により吐出ヘッドと記録媒体の距離は0.5mmに保った。また吐出の際には記録媒体の表面電位を-1.8kVとしておき,吐出をおこなう際には+500Vのパルス電圧を印加し(パルス巾50μsec),15kHzの駆動周波数で画像形成を行った。画像形成不良等は全く見られず,また外気温の変化,印刷時間の増加によってもドット径変化等による画像劣化は全く見られず,良好な印刷が可能であった。」

(ウ)特開2006-315363号公報の記載
特開2006-315363号公報(以下,「周知例3」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であって,当該周知例3には次の記載がある。(下線は,後述する第1周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0020】
以下,本発明の詳細について説明する。
【0021】
本発明のインクジェット記録方法においては,不揮発成分が10質量%以上,50質量%未満であるインクジェットインクを用いて,液滴量として0.1pL以上,0.5pL以下で印刷用塗工紙に印字することを特徴とする。
【0022】
はじめに,本発明に係るインクジェットインク(以下,単にインクともいう)について説明する。
・・・(中略)・・・
【0024】
(油性インク)
本発明に係るインクは不揮発成分の比率が多いことを特徴とするが,そのような構成からなるインクの出射安定性を付与する観点から,油性インクであることが好ましい態様の1つである。
・・・(中略)・・・
【0031】
次に,本発明に係る油性インクで使用される着色剤について説明する。
【0032】
油性インクに用いる着色剤としては,顔料であることが好ましく,例えば,有機顔料および無機顔料,もくしは顔料を分散媒として不溶性の樹脂等に分散させたもの,または顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等を用いることができる。また樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。」

b 「【0082】
本発明のインクジェット記録方法においては,本発明に係るインクを印刷用塗工紙上に吐出する方法として,静電吸引方式を用いることが好ましい。
【0083】
一般に,インクジェット記録方式としては,圧電素子の振動によりインク流路を変形させることによりインク液滴を吐出させるピエゾ方式,インク流路内に発熱体を設け,その発熱体を発熱させて気泡を発生させ,気泡によるインク流路内の圧力変化に応じてインク液滴を吐出させるサーマル方式,インク流路内のインクを帯電させてインクの静電吸引力によりインク液滴を吐出させる静電吸引方式が知られている。ピエゾ方式,サーマル方式により吐出された液滴は,液適量を本発明の0.1pL以上,0.5pL以下とした場合,記録媒体への着弾前に空気抵抗により著しく液滴速度が低下するため,印字精度が不十分となる場合がある。静電吸引方式の場合,記録媒体に近くなるほど液滴が加速されるため,液適量によらず高い印字精度が得られる。」

c 「【0100】
〔インクセット3の調製:油性インク〕
下記の方法に従って,イエローインクY3,マゼンタインクM3,シアンインクC3,ブラックインクK3から構成されるインクセット3を調製した。
【0101】
(イエローインクY3の調製)
下記の各添加剤を順次混合した後,ディゾルバーを用いて1時間プレ分散を行った。更にビーズミルを用いて練肉し,#3000の金属メッシュフィルターでろ過してイエローインクY3を調製した。
【0102】
有機溶媒:アイソパーG(エクソン化学社製) 82部
顔料:C.I.ピグメントイエロー128 10部
顔料分散剤:Solsperse28000(アビシア製) 8部
(マゼンタインクM3,シアンインクC3,ブラックインクK3の調製)
上記イエローインクY3の調製において,顔料をC.I.ピグメントイエロー128に代えて,それぞれC.I.ピグメントレッド122,C.I.ピグメントブルー15:3,C.I.ピグメントブラック7を用いた以外は同様にして,マゼンタインクM3,シアンインクC3,ブラックインクK3を調製した。
【0103】
〔インクセット4の調製:油性インク〕
下記の方法に従って,イエローインクY4,マゼンタインクM4,シアンインクC4,ブラックインクK4から構成されるインクセット4を調製した。
【0104】
(イエローインクY4の調製)
下記の各添加剤を順次混合した後,ディゾルバーを用いて1時間プレ分散を行った。更にビーズミルを用いて練肉し,#3000の金属メッシュフィルターでろ過してイエローインクY4を調製した。
【0105】
有機溶媒:アイソパーG(エクソン化学社製) 75部
顔料:C.I.ピグメントイエロー128 16部
顔料分散剤:Solsperse28000(アビシア製) 9部
(マゼンタインクM4,シアンインクC4,ブラックインクK4の調製)
上記イエローインクY4の調製において,顔料をC.I.ピグメントイエロー128に代えて,それぞれC.I.ピグメントレッド122,C.I.ピグメントブルー15:3,C.I.ピグメントブラック7を用いた以外は同様にして,マゼンタインクM4,シアンインクC4,ブラックインクK4を調製した。
・・・(中略)・・・
【0119】
〔印字方法A:静電吸引型インクジェット記録〕
特開2004-136651号公報に記載のものと同様の静電吸引型インクジェット記録ヘッドをXYステージに固定し,表1記載のインク液滴量で,記録用紙としてNK特両面アート紙(日本加工製紙(株)製)に対し,単色ベタ画像(印字率50%,100%),カラーの写真画像を記録した。」

(エ) 周知例1ないし3から把握される周知の技術的事項
周知例1ないし3の記載から,次の技術的事項が,本願優先日より前に周知であったと認められる。

「絶縁性の溶媒中に着色荷電粒子を分散させたインクを用い,静電吸引力によりインク滴の吐出を行うインクジェット記録方式において,前記着色荷電粒子として,樹脂で被覆されていない顔料を用いること。」(以下,「第1周知事項」という。)

イ 結合剤に関する周知の技術的事項
(ア)特開2001-39006号公報の記載
特開2001-39006号公報(以下,「周知例4」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であって,当該周知例4には次の記載がある。(下線は,後述する第2周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,インクジェット記録方式の記録方法及びこれにより記録された記録物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】インクジェット記録は,微細なノズルからインクを小滴として吐出して,文字や図形を被記録体表面に記録する方法である。・・・(中略)・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明はこのような課題を解決するもので,その目的とするところは,加熱や紫外線などによる硬化・定着工程を要することなくトップコート層を形成して,耐光性・耐水性・定着性等の記録物の堅牢性と,光沢感に優れた良好な印字品質とをあたえる記録方法及びこれにより記録された記録物を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために,本発明の記録方法は,被記録媒体にインクジェット記録方式で記録を行い画像を形成した後,被記録体印字面の全面にインクジェット記録方式でトップコート液を噴射して一様な透明のトップコート層を形成する記録方法で,前記トップコート液が少なくとも樹脂エマルジョンと水とを含有してなることを特徴とする。」

b 「【0021】また本発明は,被記録媒体に記録するインクジェット記録用インクの着色材に顔料を用いることを特徴とするものである。ここで用いられる顔料は,従来からインクジェット記録用インクの組成物に使用されているものを用いることができる。例えば,酸化チタン及び酸化鉄や,カーボンブラックなどの無機顔料を利用することができる。また,アゾ顔料(例えば,アゾレーキ,不溶性アゾ顔料,又は縮合アゾ顔料など)や多環式顔料(例えば,フタロシアニン顔料,キナクリドン顔料またはチオインジゴ顔料など),ニトロ顔料,ニトロソ顔料,またはアニリンブラックなどの有機顔料を利用することができる。また,顔料の分散安定性を向上させるために界面活性剤や樹脂などの分散剤をインクジェット記録液中に添加することが好ましい。」

c 「【0031】(実施例2)実施例2は顔料系のインクジェット記録用インクに本発明を適用したものである。
【0032】(1)顔料分散液の作成
スチレンーアクリル酸共重合体樹脂(重量平均分子量=25000;酸価=200)4部,トリエタノールアミン2.7部,イソプロピルアルコール0.4部,イオン交換水72.9部を70℃の加温下で完全溶解させた後,カーボンブラックMA7(三菱化学株式会社製)20部を加え混合攪拌し,アイガーミル(アイガージャパン社製)で顔料の平均粒子径が100nmになるまで分散を行った(ビーズ充填率70%,メディア径0.7mm)。
【0033】(2)画像記録用インクジェット記録液の作成
次に,前記の顔料分散液を用い,以下に示す組成で画像記録用インクジェット記録液を作成した。
【0034】
前記顔料分散液 20%
グリセリン 10%
ジエチレングリコール 3%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 8%
サーフィノール465 1%
水酸化カリウム 0.2%
イオン交換水 57.8%
上記の成分を容器の中で十分混合攪拌し,ポアサイズ0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し,画像記録用インクジェット記録液を作製した。
【0035】
(3)トップコート液の作成
樹脂エマルジョン(酢酸ビニル系エマルジョン,MFT=5℃) 10%(固形分として)
トリエチレングリコール 8%
グリセリン 2%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5%
サーフィノール465 1%
トリエタノールアミン 0.5%
イオン交換水 73.5%
上記の成分を容器の中で十分混合攪拌し,ポアサイズ0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し,トップコート液を作製した。
【0036】(4)記録物の作製
被記録媒体:EPSON社製 フォトプリント紙2
プリンター:EPSON社製MJ-930
MJ-930に画像形成用インクジェット記録液とトップコート液とをそれぞれ装着し,画像を形成する走査と,トップコート液を噴射する走査との2回の記録ヘッド走査により記録物を得た。」

(イ)特開2003-276323号公報の記載
特開2003-276323号公報(以下,「周知例5」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であって,当該周知例5には次の記載がある。(下線は,後述する第2周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,カラー顔料インクを用いたインクジェット記録方法により画像が形成されたインクジェット記録物及びその製造方法に関し,詳しくは,発色性及び画像堅牢性に優れたインクジェット記録物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】インクジェット記録方式は,記録ヘッド(インクジェットヘッド)のノズルからインクの液滴を吐出させ,紙などの記録媒体に付着させて画像を形成する記録方式である。カラーインクジェット記録においてはイエロー,マゼンタ,シアンの減法混色の3原色インクを基本とし,必要に応じこれにブラックその他の色を加えた4色以上のインクを用いて,カラーインクジェット画像を形成する。
【0003】カラーインクジェット画像の形成に使用するインクジェット記録用インクには,記録画像の発色性に優れ記録媒体上で鮮明な画像が得られること,画像堅牢性(耐光性,耐水性,耐ガス性,耐擦性など)に優れ長期保存による記録画像の劣化がないことなどが求められる。インクジェット記録用インクの着色剤には染料と顔料があり,一般に,染料は記録画像の発色性には優れるが耐光性,耐水性などに劣り,顔料は記録画像の耐光性,耐水性などには優れるが発色性に劣るため,染料と顔料のどちらを選択するかは,発色性と画像堅牢性のどちらを重視するかで決定される。また,染料,顔料にはそれぞれ多くの種類があり,その選択によっては満足のいく発色性又は画像堅牢性が得られない場合もあるため,適切な染料又は顔料を選択する必要がある。また,カラー画像の場合,複数色のうちの一色でも画像堅牢性に劣るものが存在すると,その影響でカラー画像全体の品位が著しく低下するため,着色剤の選択に際しては,単色での画像堅牢性のみならず,各色の画像堅牢性のバランスも考慮する必要がある。
・・・(中略)・・・
【0006】従って,本発明の目的は,高い画像濃度で発色性に優れると共に,画像堅牢性にも優れ長期保存が可能なカラー画像が形成されたインクジェット記録物及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
【特許文献1】特開平9-132742号公報
【特許文献2】特開昭57-87988号公報
【特許文献3】特開2000-153677号公報
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,高レベルの画像堅牢性を達成し得る,複数の顔料インクを用いたカラーインクジェット記録について種々検討した結果,顔料インクを使用することにより懸念される発色性の悪さが,少なくともイエローの顔料として特定の顔料を選択し且つ画像を保護層で被覆することにより解消できることを知見すると共に,このようにすることにより,カラー画像を形成する各色の画像堅牢性のバランスもとれることを知見した。
【0009】本発明は,上記知見に基づきなされたもので,記録媒体の少なくとも一面に,1種又は2種以上の顔料インクにより画像が形成されたインクジェット記録物であって,1種又は2種以上の上記顔料インクが,少なくとも,着色剤としてC.I.ピグメントイエロー74を含有するイエローインクを含んでおり,且つ上記インクジェット記録物が,上記画像を被覆する保護層を有するインクジェット記録物を提供することにより上記目的を達成したものである。」

b 「【0011】
【発明の実施の形態】以下,本発明のインクジェット記録物について詳細に説明する。本発明のインクジェット記録物は,記録媒体の少なくとも一面に,少なくともイエローインクを含む1種又は2種以上の顔料インクにより画像が形成されている。
【0012】上記イエローインクは,着色剤としてC.I.ピグメントイエロー74を含有している。この着色剤は,記録画像の耐光性及び耐ガス性にやや難があるものの,発色性に優れており,高い画像濃度を得ることができる。
【0013】フルカラー画像の形成には,上記イエローインクの他に,少なくともマゼンタインク及びシアンインクが必要になる。マゼンタインクの着色剤としては,C.I.ピグメントレッド122を用いることが,発色性及び耐光性の点で好ましい。また同様の理由で,シアンインクの着色剤としては,C.I.ピグメントブルー15:3を用いることが好ましい。・・・(中略)・・・
【0015】また,上記イエローインクには,記録画像の耐光性を高める観点から,紫外線吸収剤,光安定化剤,消光剤及び酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有させることが好ましい。・・・(中略)・・・
【0017】本発明に係る顔料インクは,上述した点以外は,この種のインクジェット記録用インクと同様に構成される。即ち,着色剤(顔料)及び水の他に,均一分散,浸透調整,保湿,粘度調整等のため,分散剤,アルコール等の各種溶剤,界面活性剤等が添加されている。
【0018】そして,本発明のインクジェット記録物は,上記顔料インクにより形成された画像を被覆する保護層を有する。
【0019】上記保護層は,樹脂からなる。樹脂としては,記録媒体との密着性に優れ,透明性が高く,熱や光で変色し難く,化学的・物理的バリヤ性に優れた塗膜を形成し得る樹脂が用いられ,このような特性を有する樹脂の中から,保護層の形成方法に応じて適宜選択され使用される。保護層の形成方法としては,樹脂溶液又は樹脂分散液(オーバーコート液)を,記録媒体の画像形成面(画像面)に塗布するリキッドオーバーコート法と,フィルムを画像面に貼り合わせるオーバーコート法がある。」

c 「【0059】〔実施例1〕
(記録物の作製)セイコーエプソン製の2種類のインクジェット記録用紙〔MCマット紙(型番:KA450MM),PM写真用紙(型番:KA420PSK)〕それぞれのインク受容層上に,インクジェットプリンタ(MC2000,セイコーエプソン製)を用いて,下記組成のイエロー,マゼンタ,シアン,ライトマゼンタ,ライトシアン及びブラックの6色の顔料インクにより,反射光学濃度(OD値)1.0と最大OD値のイエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),レッド(R),ブルー(B),グリーン(G)のカラーパッチを印刷して画像面を形成し,記録媒体の異なる2種類の記録物を得た。尚,上記のMCマット紙,PM写真用紙の各インク受容層のJ.TAPPI No.48-85に従い測定される空隙率は,MCマット紙40%,PM写真用紙50%である。
【0060】尚,顔料インクの調製は,下記の要領で行った。サンドミル(安川製作所製)に顔料,分散剤及び水の混合物と,重量で該混合物の1.5倍量のガラスビーズ(直径1.7mm)とを入れ,2時間分散させてからガラスビーズを取り除き,顔料分散液を得た。次いで,顔料及び分散剤以外の成分を混合してインク溶媒を調製し,該顔料分散液を撹拌しながら該インク溶媒を徐々に滴下して,常温で20分間撹拌した。その後,5μmのメンブランフィルターで濾過して,顔料インクを得た。
【0061】
〈イエローインク1の組成〉
・C.I.ピグメントイエロー74 5重量%
・スチレン-アクリル酸共重合体・アンモニウム塩(分散剤) 2重量%
・グリセリン 10重量%
・サーフィノール465 1重量%
(界面活性剤,Air Product and Chemicals,Inc.製)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 8重量%
・イオン交換水 バランス
計100重量%
【0062】
〈マゼンタインクの組成〉
・C.I.ピグメントレッド122 5重量%
・スチレン-アクリル酸共重合体・アンモニウム塩(分散剤) 2重量%
・グリセリン 10重量%
(界面活性剤,Air Product and Chemicals,Inc.製)
・サーフィノール465 1重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 8重量%
・イオン交換水 バランス
計100重量%
【0063】
〈シアンインクの組成〉
・C.I.ピグメントブルー15:3 5重量%
・スチレン-アクリル酸共重合体・アンモニウム塩(分散剤) 2重量%
・グリセリン 10重量%
・サーフィノール465 1重量%
(界面活性剤,Air Product and Chemicals,Inc.製)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 8重量%
・イオン交換水 バランス
計100重量%
・・・(中略)・・・
【0066】
〈ブラックインクの組成〉
・カーボンブラックMA-7(三菱化学(株)製) 6重量%
・スチレン-アクリル酸共重合体・アンモニウム塩(分散剤) 3重量%
・グリセリン 10重量%
・サーフィノール465 1重量%
(界面活性剤,Air Product and Chemicals,Inc.製)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 8重量%
・イオン交換水 バランス
計100重量%
【0067】(熱転写シート1の製造)支持体としてのPETフィルム(厚み38μm)に,アクリルエマルジョン(商品名「ボンロンS1320」固形分濃度40%,三井化学製)と界面活性剤(商品名「サーフィノールTG」日信化学工業製)の混合物(界面活性剤の含有量0.05重量%)を,乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布し,乾燥させて被転写層を形成し,熱転写シート1を製造した。
【0068】そして,この熱転写シート1を用いて,2種類の上記記録物をオーバーコート処理した。オーバーコート処理は,被転写層と記録物の画像面とが接触するように,熱転写シート1と記録物とを重ね合わせ,一対のヒートロール間を通過させて,加熱温度70℃,線圧10N/cmで加熱加圧処理した後,上記支持体を剥離して透明な保護層を形成することにより行った。保護層の厚みは10μmであった。このようにして得られた,記録媒体の異なる2種類の保護層付き記録物を,実施例1のサンプルとした。」

(ウ) 周知例4及び5から把握される周知の技術的事項
周知例4及び5に記載された各実施例で用いている顔料インクは顔料を被記録媒体に固定するための結合剤を含有していない(スチレンーアクリル酸共重合体樹脂は分散剤として添加された樹脂である。)から,これら周知例4及び5の記載から,次の技術的事項が,本願優先日より前に周知であったと認められる。

「顔料インクを用いたインクジェット記録方式で被記録媒体に画像を形成した後,当該画像を被覆するオーバーコート層を形成する画像形成方法において,前記顔料インクとして,顔料を被記録媒体に固定するための結合剤を含有しないインクを用いること。」(以下,「第2周知事項」という。)


5 対比
(1) 引用発明の「フルカラー画像」,「インク組成物」,「被記録媒体」,「分散媒」及び「顔料」は,本願発明の「画像」,「インク組成物」,「基材」,「分散媒流体」及び「顔料」に,それぞれ相当する。

(2) 引用発明は,イエロー,マゼンタ,シアン及びブラックの4色のインク組成物を,静電界を利用したインクジェット記録方式でインク滴として飛翔させて,被記録媒体にフルカラー画像を印刷しているところ,飛翔したインク滴が被記録媒体に着弾し,当該被記録媒体上に堆積することによって,フルカラー画像を形成していることが自明であるから,引用発明は,「フルカラー画像」(本願発明の「画像」に相当。以下,「5 対比」の欄において,引用発明の構成に付したカッコ中の記載は,当該構成に相当する本願発明の発明特定事項を指す。)を形成するために,4色の「インク組成物」(インク組成物)を「被記録媒体」(基材)上に堆積させる工程を備えているといえる。
また,引用発明は,フルカラー画像上にオーバーコート層を形成した後に,「加熱手段を用いてオーバーコート層を被膜化する」ことによって,「フルカラー画像の定着」を行っているところ,「フルカラー画像の定着」は「フルカラー画像」(画像)の「固定」といえるから,引用発明の「加熱手段を用いてオーバーコート層を被膜化する」工程は,「被記録媒体」(基材)に対して「フルカラー画像」(画像)を「固定」する工程といえる。
したがって,引用発明は,「画像を形成するために,少なくとも2色のインク組成物を基材上に堆積させる工程,および,前記基材に対して前記画像を固定する工程を含」むという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(3) 引用発明で採用している「静電界を利用したインクジェット記録方式」とは,インクジェットヘッドに設けられた制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより,前記インクジェットヘッドのインク流路内で荷電粒子を電気泳動させて吐出位置に濃縮し,背面電極に起因する静電吸引力により吐出位置からインク滴を被記録媒体へ飛翔させる方式のことであり,前記「荷電粒子」は,被覆ポリマーによって被覆された「顔料」であって,望ましい荷電特性が付与されたものであるところ,当該「荷電粒子」が帯電し,電圧の印加により発生する「電界」により,帯電した「荷電粒子」に静電気力が作用して,吐出位置での「濃縮」および吐出位置からの「飛翔」が行われることが,当業者に自明であるから,引用発明の「荷電粒子」は,本願発明の「帯電可能な顔料」に相当し,引用発明の「インクジェットヘッド」は,本願発明の「分散媒流体中に分散させた帯電可能な顔料を,印加電界を用いて,最初に濃縮し,その後に噴出させ」る「静電印刷ヘッド」に相当する。
したがって,引用発明は,「インクは,静電印刷ヘッドを用いて堆積され,前記静電印刷ヘッドは,分散媒流体中に分散させた帯電可能な顔料を,印加電界を用いて,最初に濃縮し,その後に噴出させ」るという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(4) 引用発明では,フルカラー画像が印刷された被記録媒体の表面の全面にオーバーコート層を形成し,その後,「加熱手段を用いてオーバーコート層を被膜化する」のであるから,被記録媒体全面へのオーバーコート層の形成が完了してから,「オーバーコート層の被膜化」(画像の固定)を行うものと解される。
しかるに,引用発明では,被記録媒体全面へのフルカラー画像の印刷が完了してから,オーバコート層の形成を行うのか,それとも,フルカラー画像を印刷しながら,印刷された部分に対して順次オーバコート層を形成するのかについては,特定されていないものの,オーバーコート層は少なくとも印刷されたフルカラー画像上に形成されるのであるから,前記いずれの場合であっても,被記録媒体全面へのオーバーコート層の形成が完了した時点で,被記録媒体全面へのフルカラー画像の印刷が完了していることになる。
したがって,引用発明は,被記録媒体全面へのフルカラー画像の印刷の完了後に(すなわち,すべての「インク組成物」(インク組成物)を「被記録媒体」(基材)上に堆積させた後に),「画像の固定」を行うものといえる。
一方で,引用発明では,オーバーコート層の形成前にフルカラー画像の熱定着を行うのか否かは任意とされており(引用文献の【0067】の記載を参照。),当該熱定着も「画像の固定」といえるところ,少なくとも,オーバーコート層の形成前にフルカラー画像の熱定着を行う態様の引用発明であって,かつ,オーバーコート層の形成を,フルカラー画像を印刷しながら,印刷された部分に対して順次行う態様の引用発明においては,オーバーコート層形成前のフルカラー画像の「熱定着」が,フルカラー画像の印刷が完了する前に行われることになる。
つまり,引用発明は,「画像の固定」を,被記録媒体全面へのフルカラー画像の印刷が完了後(すなわち,すべての「インク組成物」(インク組成物)を「被記録媒体」(基材)上に堆積させた後)に行うものであるが,当該「画像の固定」以外に,フルカラー画像の印刷が完了する前にも「画像の固定」を行うこともあり得るものである。
これに対して,本願発明は,「画像の固定を行う前に,すべてのインク組成物を基材上に堆積させ」るものであるところ,すべてのインク組成物を基材上に堆積させる前に,「画像の固定」を行わないものと解するのが相当である。
そうすると,本願発明と引用発明は,「少なくとも,すべてのインク組成物を基材上に堆積させた後に,画像の固定を行う」点で共通する。

(5) 引用発明のインク組成物中の「分散媒」(分散媒流体)は,電気抵抗率が10^(10)Ωcm以上の誘電性の液体であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の【0022】によれば,本願発明の「絶縁性」とは「10^(9)オーム.cm」以上の電気抵抗率を有することを指していると解されるから,引用発明の「分散媒」は本願発明の「絶縁性の流体」に該当する。
したがって,引用発明は,「分散媒流体は,絶縁性の流体である」であるという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(6) 引用発明は,「被記録媒体」(基材)上に「フルカラー画像」(画像)を印刷する「インクジェット記録方法」であるところ,「被記録媒体上にフルカラー画像を印刷する」ことが,本願発明の「基材上に画像を形成する」ことに相当するから,「基材上に画像を形成する方法」であるという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(7) 前記(1)ないし(6)に照らせば,本願発明と引用発明は,
「画像を形成するために,少なくとも2色のインク組成物を基材上に堆積させる工程,および,
前記基材に対して前記画像を固定する工程
を含み,
前記インクは,静電印刷ヘッドを用いて堆積され,
前記静電印刷ヘッドは,分散媒流体中に分散させた帯電可能な顔料を,印加電界を用いて,最初に濃縮し,その後に噴出させ,
少なくとも,すべてのインク組成物を前記基材上に堆積させた後に,画像の固定を行い,
前記分散媒流体は,絶縁性の流体である,
基材上に画像を形成する方法。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本願発明では,「画像の固定を行う前に,すべてのインク組成物を基材上に堆積させ」る,すなわち,すべてのインク組成物を基材上に堆積させる前には画像の固定が行われないのに対して,
引用発明では,すべてのインク組成物の基材上への堆積が完了する前にも画像の固定を行うのか否かは特定されていない点。

相違点2:
本願発明では,それぞれのインク組成物が,帯電可能な顔料を基材に固定することができる結合剤を含有していないのに対して,
引用発明では,それぞれのインク組成物中の荷電粒子は,被覆ポリマーにより被覆された顔料からなるものであって,当該被覆ポリマーが,加熱手段により定着する際に熱により溶融して効率よく定着するという機能,すなわち顔料を被記録媒体に固定する機能を有していることから,インク組成物が結合剤を含有していないとはいえない点。


6 判断
(1)相違点1について
引用文献の【0067】には,「オーバーコート層は,・・・(中略)・・・インクで描画された画像を有する印刷物表面に静電インクジェット方式でその全面に吐出することにより形成することができる。その後インク画像の定着と同様に加熱手段により被膜化し画像の更なる定着と光沢性,耐ブロッキング性及び耐摩擦性を付与する。・・・(中略)・・・なお,インク画像は熱定着されていてもされていなくともよい。定着されていない場合は単に無着色のインクによりオーバーコート層が一層重ね書きされることになる。この場合は画像と共に一回の熱定着で済むことになり,処理速度の高速化と印刷物作製のコスト低減が実現できる。」と記載されていて,オーバーコート層の形成前に,画像の熱定着を行わずに,画像の熱定着をオーバコート層の被膜化とともに一回の熱定着で済ませることで,処理速度の高速化と印刷物作製のコスト削減を行う態様が開示されているところ,当該態様においては,被記録媒体全面へのフルカラー画像の印刷が完了する前(すなわち,すべての「インク組成物」(インク組成物)を「被記録媒体」(基材)上に堆積させる前)に,画像の固定が行われることはない。
したがって,引用発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,引用文献に記載された事項であって,相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
ア 引用発明は,「インクジェットヘッドに設けられた制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより,前記インクジェットヘッドのインク流路内で前記荷電粒子を電気泳動させて吐出位置に濃縮し,前記背面電極に起因する静電吸引力により吐出位置から被記録媒体へ飛翔させる方式」である「静電界を利用したインクジェット記録方式」でカラー画像を印刷しており,前記荷電粒子として,被覆ポリマーで被覆された顔料を用いているところ,当該被覆ポリマーは,顔料が持つ荷電を遮蔽して望ましい荷電特性を付与するとともに,加熱手段により定着する際に熱により溶融して効率よく定着するために用いられているものである。

イ しかるに,前記4(2)ア(エ)で「第1周知事項」として認定したとおり,「絶縁性の溶媒中に着色荷電粒子を分散させたインクを用い,静電吸引力によりインク滴の吐出を行うインクジェット記録方式において,前記着色荷電粒子として,樹脂で被覆されていない顔料を用いること。」が本願優先日より前に周知であったと認められるところ,引用発明の「静電界を利用したインクジェット記録方式」とは,当該第1周知事項における「絶縁性の溶媒中に着色荷電粒子を分散させたインクを用い,静電吸引力によりインク滴の吐出を行うインクジェット記録方式」に他ならないのであって,当該第1周知事項を熟知する当業者は,引用発明において,適切な荷電量が得られる顔料を選択し,あるいは適宜の荷電制御剤を用いる等によって,少なくとも,「顔料が持つ荷電を遮蔽して望ましい荷電特性を付与する」という観点からは,顔料を被覆ポリマーで被覆する必要がないことを容易に理解できると認められる。

ウ また,前記4(2)イ(ウ)で「第2周知事項」として認定したとおり,「顔料インクを用いたインクジェット記録方式で被記録媒体に画像を形成した後,当該画像を被覆するオーバーコート層を形成する画像形成方法において,前記顔料インクとして,顔料を被記録媒体に固定するための結合剤を含有しないインクを用いること。」が本願優先日より前に周知であったと認められるところ,引用発明は,第2周知事項と同様に,「顔料インクを用いたインクジェット記録方式で被記録媒体に画像を形成した後,当該画像を被覆するオーバーコート層を形成する」ものであって,画像の被記録媒体への固定がオーバーコート層によって行われることから,当該第2周知事項を熟知する当業者は,引用発明(特に,前記(1)で述べた「オーバーコート層の形成前に,画像の熱定着を行わずに,画像の熱定着をオーバコート層の被膜化とともに一回の熱定着で済ませる」という態様の引用発明)において,「加熱手段により定着する際に熱により溶融して効率よく定着する」という観点からも,顔料を被覆ポリマーで被覆する必要はなく,かつ,インク組成物中に別途「加熱手段により定着する際に熱により溶融して効率よく定着する」ための結合剤を含有させる必要もないことを容易に理解できると認められる。

エ 前記イ及びウに照らせば,引用発明において,インク組成物の製造コストを削減することを目的として,被覆ポリマーを省略すること,すなわち,荷電粒子として,被覆ポリマーで被覆されていない顔料を用いることは,第1周知事項及び第2周知事項を熟知する当業者が,容易に想到し得たことである。
そして,当該構成の変更を行った引用発明は,「それぞれのインク組成物が,帯電可能な顔料を基材に固定することができる結合剤を含有していない」という相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備することとなる。

オ 以上のとおりであるから,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,第1周知事項及び第2周知事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。

(3)効果について
本願発明の効果は,引用文献の記載,第1周知事項及び第2周知事項に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(4)容易想到性のまとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,第1周知事項及び第2周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)「画像の固定を行う前に,すべてのインク組成物を基材上に堆積させ」る点に関する予備的判断
ア 前記5(4)で述べたように,引用発明は,被記録媒体全面へのオーバーコート層の形成が完了してから,当該オーバーコート層の被膜化を行うものと解するのが相当と認められるが,仮に,引用文献の【0067】の「オーバーコート層は,・・・(中略)・・・インクで描画された画像を有する印刷物表面に静電インクジェット方式でその全面に吐出することにより形成することができる。その後インク画像の定着と同様に加熱手段により被膜化し」という記載が,被記録媒体全面へのオーバーコート層の形成が完了してから,当該オーバーコート層の被膜化を行うことまでは意味しておらず,オーバーコート層を形成しながら,形成された部分について順次被膜化するような態様をも包含していると解することが可能であり,したがって,当該点が本願発明と引用発明の相違点として認定できるとした場合の容易想到性についても,念のため以下で述べておく。

イ 引用発明において,「加熱手段によるオーバーコート層の被膜化」(画像の固定)は,フルカラー画像の定着と光沢性,耐ブロッキング性及び耐摩擦性を付与するために行われるものであるところ,これらの効果は,フルカラー画像上にオーバーコート層が形成されていること,及び当該オーバーコート層が被膜化されていることによって得られるものであって,被記録媒体全面へのオーバーコート層の形成の完了後に行われるのか,それとも,オーバーコート層を形成しながら,形成された部分に対して順次行われるのかといったオーバーコート層の被膜化のタイミングに依存して,得られたり得られなくなったりするものでないことは当業者に自明である。
そうすると,引用発明を具体化するに際して,「加熱手段によるオーバーコート層の被膜化」(画像の固定)を,オーバーコート層の形成が完了してから(したがって,インク組成物の被記録媒体全面への堆積が完了してから)行う態様と,オーバーコート層を形成しながら,形成された部分について順次行う態様のいずれを選択するのかは,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項というべきであるから,引用発明を,前記アで述べた相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,前記アで述べたように解したとしても,本願発明が,引用発明,第1周知事項及び第2周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの結論に変わりはない。

(6)請求人の主張について
本願発明の「画像の固定を行う前に,すべてのインク組成物を基材上に堆積させ」る点に関して,平成28年5月17日提出の意見書において,請求人は,
「さらに,引例1(審決注:引用文献を指している。)に接した当業者であっても,本願発明の構成である「画像の固定を行う前にすべてのインク組成物を基材上に堆積させること」を行うように引例1を変更させることはなんら動機付けられておりません。引例1の印刷手法では,各色毎に基材に対する固定や乾燥を行うことが一般的に必要とされているものであり,特に,基材が非吸収性である場合には後続の色材が堆積される前に固定や乾燥を行うことが必要とされるものです。これは,印刷のボケやにじみを防ぐために必要とされているものです。
したがって,成功や技術的利点をなんら期待しないにもかかわらず,当業者が引例1の方法を用いつつ上述した複雑な変更を行うことは,なんら理由がありません。」
などと主張する。
しかしながら,前記(2)で述べたように,引用文献の【0067】には,「オーバーコート層は,・・・(中略)・・・インクで描画された画像を有する印刷物表面に静電インクジェット方式でその全面に吐出することにより形成することができる。その後インク画像の定着と同様に加熱手段により被膜化し画像の更なる定着と光沢性,耐ブロッキング性及び耐摩擦性を付与する。・・・(中略)・・・なお,インク画像は熱定着されていてもされていなくともよい。定着されていない場合は単に無着色のインクによりオーバーコート層が一層重ね書きされることになる。この場合は画像と共に一回の熱定着で済むことになり,処理速度の高速化と印刷物作製のコスト低減が実現できる。」と記載されていて,フルカラー画像の印刷後,当該フルカラー画像の熱定着を行わずにオーバーコート層を形成し,フルカラー画像とオーバーコート層の両者を一回の熱定着(オーバーコート層については被膜化)により固定化するよう構成した態様が明記されている。
また,「基材が非吸収性である場合には後続の色材が堆積される前に固定や乾燥を行うことが必要とされる」旨の主張は,引用発明が,「被記録媒体」として「被吸収性」の基材のみを対象とした発明であるのならばともかく,引用文献の【0069】には,「紙」を含む様々な被記録媒体を用いることができることが記載されているのであるから,引用発明において各色の印刷毎に熱定着が必要であることを前提とした当該請求人の主張に根拠はない。そもそも,本願発明自体,「基材」の種類については何ら特定されるものでなく,請求人の主張に係る「被吸収性」の基材は,請求項4に記載された発明特定事項であるから,当該請求人の主張は,請求項の記載に基づかないものである。
以上のとおりであるから,前記請求人の主張は,採用することはできない。


7 むすび
本願の請求項1に係る発明は,引用発明,第1周知事項及び第2周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-29 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-22 
出願番号 特願2012-529237(P2012-529237)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 渡邉 勇
清水 康司
発明の名称 印刷方法および液体インクジェットインク  
代理人 加藤 秀忠  

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