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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60K |
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管理番号 | 1323386 |
審判番号 | 不服2015-20586 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-18 |
確定日 | 2017-01-24 |
事件の表示 | 特願2011-278308「ハイブリッド車両の発電制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日出願公開、特開2013-129225、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成23年12月20日の出願であって、平成27年3月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成27年6月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年8月14日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成27年11月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年9月13日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成28年11月17日に意見書が提出されるとともに同日に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本件出願の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成28年11月17日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。 「 【請求項1】 内燃機関と、前記内燃機関から出力されたトルクが伝達されるとともに駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材と、出力したトルクを前記内燃機関に付与できるように設けられた第1モータ・ジェネレータと、前記出力部材と連結された第2モータ・ジェネレータと、前記第1モータ・ジェネレータ及び前記第2モータ・ジェネレータのそれぞれと電気的に接続されたバッテリと、軸線回りに回転可能に設けられて複数のコイルを有する第1ロータ、前記第1ロータの外周に前記第1ロータと同軸に配置されるとともに前記第1ロータに対して相対回転可能に設けられて磁石を有する第2ロータ、及び前記第2ロータの外周に前記第1ロータ及び前記第2ロータと同軸に設けられて複数のコイルを有するステータを含む回転電機と、を備え、前記第1ロータが前記内燃機関と連結され、前記第2ロータが前記出力部材と連結され、前記第1ロータ及び前記第2ロータにて前記第1モータ・ジェネレータが構成され、かつ前記第2ロータ及び前記ステータにて前記第2モータ・ジェネレータが構成されているハイブリッド車両に適用され、 前記出力部材が前記駆動輪から入力された動力で回転駆動される場合に前記第2モータ・ジェネレータで回生発電を実行する発電制御装置において、 前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に、前記第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクにて前記内燃機関から出力される出力トルクがアイドリング運転時に前記内燃機関から出力されるアイドリングトルクより大きくなるように前記内燃機関及び前記第1モータ・ジェネレータをそれぞれ制御するとともに、前記第1モータ・ジェネレータからトルクが付与されることで増加した前記内燃機関の出力トルクの増加分が前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分で相殺されることによって前記内燃機関から前記出力部材に伝達されたトルクが前記駆動輪に付与されないように前記第2モータ・ジェネレータの発電量を増加させる発電量増加手段を備え、 前記ハイブリッド車両には、前記第1ロータと前記第2ロータとが一体に回転する係合状態と、前記第1ロータと前記第2ロータとが相対回転可能となる解放状態とに切り替え可能なクラッチ手段が設けられ、 前記発電量増加手段は、前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に前記クラッチ手段を前記解放状態に切り替える発電制御装置。 【請求項2】 前記発電量増加手段は、前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に、まず前記内燃機関の出力トルクが前記アイドリングトルクより大きくなるように前記内燃機関を制御し、次に前記第1モータ・ジェネレータから前記内燃機関に付与したトルクにて前記内燃機関の出力トルクを増加させた前後の前記内燃機関の回転数の変化幅が所定の許容値未満になるように前記第1モータ・ジェネレータを制御し、その後前記内燃機関の出力トルクのうち前記第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクで増加した分のトルクが前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分で相殺されるように前記第2モータ・ジェネレータを制御する請求項1に記載の発電制御装置。 【請求項3】 前記発電量増加手段は、前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に、まず前記内燃機関の出力トルクが前記アイドリングトルクより大きくなる所定の負荷トルクが前記第1モータ・ジェネレータから前記内燃機関に付与されるように前記第1モータ・ジェネレータを制御し、その後前記第1モータ・ジェネレータから前記負荷トルクが付与された前後の前記内燃機関の回転数の変化幅が所定の許容値未満になるように前記内燃機関を制御するとともに前記内燃機関の出力トルクのうち前記第1モータ・ジェネレータから付与された前記負荷トルクで増加した分のトルクが前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分で相殺されるように前記第2モータ・ジェネレータを制御する請求項1に記載の発電制御装置。 【請求項4】 前記発電量増加手段は、前記内燃機関の出力トルクが増加したことにより生じた前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分が予め設定した上限値未満になるように前記内燃機関、前記第1モータ・ジェネレータ及び前記第2モータ・ジェネレータを制御する請求項1?3のいずれか一項に記載の発電制御装置。 【請求項5】 前記発電量増加手段は、前記バッテリの蓄電率が高いほど前記内燃機関の出力トルクが増加したことにより生じる前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分が小さくなるように前記内燃機関、前記第1モータ・ジェネレータ及び前記第2モータ・ジェネレータを制御する請求項1?4のいずれか一項に記載の発電制御装置。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由 (1)平成27年3月23日付けで通知した拒絶理由の内容 平成27年3月23日付けで通知した拒絶理由の内容は、次のとおりである。 「この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。 理由 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1-7 ・引用文献等 1-2 ・備考 引用文献1(例えば段落[0016]-[0033],図1-3等参照)には、内燃機関と、内燃機関から出力されたトルクが伝達されるとともに駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材と、出力したトルクを内燃機関に付与できるように設けられた電動機と、出力部材と連結された発電機と、電動機及び発電機のそれぞれと電気的に接続されたバッテリと、を備えたハイブリッド車両であって、回転電機が、軸線回りに回転可能に設けられて複数のコイルを有する第1ロータと、第1ロータの外周に第1ロータと同軸に配置されるとともに第1ロータに対して相対回転可能に設けられて磁石を有する第2ロータと、第2ロータの外周に第1ロータ及び第2ロータと同軸に設けられて複数のコイルを有するステータと、を含み、第1ロータが内燃機関と連結され、第2ロータが出力部材と連結され、第1ロータ及び第2ロータにて電動機が構成され、第2ロータ及びステータにて発電機が構成され、第1ロータと第2ロータとが一体に回転する係合状態と、第1ロータと第2ロータとが相対回転可能となる解放状態とを切り替え可能なクラッチ手段を備え、出力部材が駆動輪から入力された動力で回転駆動される場合に発電機で回生発電を実行するハイブリッド車両が記載されている。 引用文献2(例えば段落[0008],[0022]-[0030],図1-4等参照)には、ハイブリッド車両において、出力部材が駆動輪から入力された動力で回転駆動される場合に発電機で回生発電を実行する発電制御にあたり、内燃機関から出力されるトルクをアイドリングトルクより大きくなるように、内燃機関とそれに接続された回転電機とを制御し、内燃機関のトルクが増加したことにより生じた発電量の増加分が上限値(バッテリの蓄電率が高いほど小さくなるように設定された充電受入適正値から回生電力を引いた値)未満になるようにする技術が記載されている。 引用文献1に記載のものに、引用文献2に記載の上記技術を適用し、回生発電が実行中かつ内燃機関が運転中の場合に、内燃機関から出力されるトルクをアイドリングトルクより大きくし、効率を向上することに格別の困難性があるとは認められない。引用文献1に記載のものにおいて、回生制動に影響を与えることなく内燃機関から出力されるトルクを大きくするには、内燃機関の出力トルクを電動機の反力トルクで受け、その反作用として第1ロータが第2ロータに与えるトルクを発電機の反力トルクで受けなくてはならないことは、当業者にとって当然であり、そのような制御の結果、発電機の発電量が増加することは明らかである。内燃機関の出力トルクと電動機の負荷トルクのどちらを先に変化させるかは、単なる設計事項にすぎない。 よって、請求項1-7に係る発明は、引用文献1,2に記載の技術事項から当業者が容易になし得たものである。 <引用文献等一覧> 1.特開2009-274536号公報 2.特開平07-236203号公報」 (2)原査定の内容 原査定の内容は、次のとおりである。 「この出願については、平成27年 3月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ●理由(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-7 ・引用文献等 1-4 引用文献1には、内燃機関と、内燃機関から出力されたトルクが伝達されるとともに駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材と、出力したトルクを内燃機関に付与できるように設けられた電動機と、出力部材と連結された発電機と、電動機及び発電機のそれぞれと電気的に接続されたバッテリと、を備えたハイブリッド車両であって、回転電機が、軸線回りに回転可能に設けられて複数のコイルを有する第1ロータと、第1ロータの外周に第1ロータと同軸に配置されるとともに第1ロータに対して相対回転可能に設けられて磁石を有する第2ロータと、第2ロータの外周に第1ロータ及び第2ロータと同軸に設けられて複数のコイルを有するステータと、を含み、第1ロータが内燃機関と連結され、第2ロータが出力部材と連結され、第1ロータ及び第2ロータにて電動機が構成され、第2ロータ及びステータにて発電機が構成され、第1ロータと第2ロータとが一体に回転する係合状態と、第1ロータと第2ロータとが相対回転可能となる解放状態とを切り替え可能なクラッチ手段を備え、出力部材が駆動輪から入力された動力で回転駆動される場合に発電機で回生発電を実行するハイブリッド車両が記載されている(例えば段落[0016]-[0033],図1-3等参照)。 引用文献2には、ハイブリッド車両において、出力部材が駆動輪から入力された動力で回転駆動される場合に発電機で回生発電を実行する発電制御にあたり、内燃機関から出力されるトルクをアイドリングトルクより大きくなるように、内燃機関とそれに接続された回転電機とを制御し、内燃機関のトルクが増加したことにより生じた発電量の増加分が上限値(バッテリの蓄電率が高いほど小さくなるように設定された充電受入適正値から回生電力を引いた値)未満になるようにする技術が記載されている(例えば段落[0008],[0022]-[0030],図1-4等参照)。 そしてハイブリッド車両の技術分野において、内燃機関による駆動力の変動を抑制するよう、内燃機関の出力トルクの増加分が発電機の発電量の増加分で相殺されることによって内燃機関から出力部材に伝達されたトルクが駆動輪に付与されないように発電機の発電量を増加させることは、本願の出願前における周知の技術である(必要ならば、引用文献3の段落[0029],[0030],図1、引用文献4の段落[0009],[0055]-[0057],等参照)。 したがって引用文献1に記載のハイブリッド車両において、引用文献2に記載の事項を参照して、回生発電が実行中かつ内燃機関が運転中の場合に、電動機から付与されたトルクにて内燃機関から出力される出力トルクがアイドリング運転時に内燃機関から出力されるアイドリングトルクより大きくなるように内燃機関及び電動機をそれぞれ制御し、その際に上記周知の技術のように内燃機関による駆動力の変動を抑制するよう、内燃機関の出力トルクの増加分が発電機の発電量の増加分で相殺されることによって内燃機関から出力部材に伝達されたトルクが駆動輪に付与されないように発電機の発電量を増加させることに格別の困難性があるとは認められない。またこれらの適用を阻害する特段の事情も見当たらない。 よって、請求項1-7に係る発明は、引用文献1,2に記載の事項及び上記周知の技術から当業者が容易になし得たものである。 ところで出願人は、上記意見書において、請求項1に係る発明のハイブリッド車両について「電動機からトルクが付与されることで増加した前記内燃機関の出力トルクの増加分が前記発電機の発電量の増加分で相殺されることによって前記内燃機関から前記出力部材に伝達されたトルクが前記駆動輪に付与されないように前記発電機の発電量を増加させる」と特定し、当該発明特定事項が上記拒絶理由通知書で通知した引用文献1,2に開示も示唆もされていないから、請求項1-7に係る発明は引用文献1,2に記載の事項から容易に想到し得ない旨主張している。 しかしながら、上述したように、請求項1に係る発明の当該発明特定事項は本願の出願前における周知の技術であり、請求項1-7に係る発明は、引用文献1,2に記載の事項及び上記周知の技術から当業者が容易になし得たものであるから、出願人の上記意見書による主張は採用できない。 <引用文献等一覧> 1.特開2009-274536号公報 2.特開平07-236203号公報 3.特開2007-253658号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献) 4.特開2001-224105号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)」 2 原査定の理由についての判断 2-1引用刊行物 (1)刊行物1 ア 刊行物1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-274536号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0016】 図1?3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と車輪38との間に設けられた変速機44と、エンジン36と変速機44との間に設けられた回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。 【0017】 回転電機10は、図示しないケーシングに固定されたステータ16と、ステータ16の径方向内側に配置されステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ステータ16と第1ロータ28との間に配置されステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。第1ロータ28は回転電機10の入力軸34と機械的に連結され、入力軸34はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は回転電機10の出力軸24と機械的に連結されており、出力軸24は変速機44を介して車輪38に機械的に連結されていることで、車輪38には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。 【0018】 ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線(固定子導体)20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。 【0019】 入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線(回転子導体)30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。 【0020】 出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。 【0021】 入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。 【0022】 クラッチ48は、その係合/解放により、入力軸34(入力側ロータ28)と出力軸24(出力側ロータ18)との機械的係合及びその解除を選択的に行うことが可能である。クラッチ48を係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ48を解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48は、例えば油圧や電磁力を利用してその係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで、クラッチ48の締結力を調整することもできる。 【0023】 直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。インバータ40は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。 【0024】 スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、ロータ巻線30の各相及びブラシ96とそれぞれ電気的に接続されている。スリップリング95は、回転が固定されたブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接続を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、整流器93と電気的に接続されており、ブラシ96からの電力は整流器93へ供給される。このスリップリング95及びブラシ96により、入力側ロータ28のロータ巻線30の電力(交流電力)を取り出すための電力伝達部を構成することができ、取り出された交流電力は整流器93へ供給される。 【0025】 整流器93は、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を整流して直流に変換する。昇圧コンバータ(DC-DCコンバータ)94は、スイッチング素子を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により整流器93で整流された直流電力を昇圧(電圧変換)して出力する。昇圧コンバータ94で昇圧(電圧変換)された直流電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、整流器93及び昇圧コンバータ94を含んで、スリップリング95及びブラシ96により取り出された交流電力を電力変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能な電力変換部を構成することができる。ここでの整流器93は、スリップリング95側から昇圧コンバータ94側への一方向のみの電力変換を行い、昇圧コンバータ94は、整流器93側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。そのため、整流器93及び昇圧コンバータ94を含む電力変換部は、スリップリング95側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。 【0026】 電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をスイッチング動作するときのデューティ比を制御することで、昇圧コンバータ94での昇圧比(電圧変換比)を制御する。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速比の制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、クラッチ48の係合/解放を切り替えることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。 【0027】 インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができる。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の変換も可能である。その場合は、出力側ロータ18の動力がステータ巻線20の電力に変換されて蓄電装置42に回収される。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。そして、インバータ40は双方向の電力変換が可能であり、蓄電装置42はステータ巻線20に対して電力の送受が可能である。 【0028】 また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、電磁カップリング機能を実現することができる。さらに、永久磁石33間に突極部として磁性体(強磁性体)が入力側ロータ28(ティース52a)と対向して配置されている例や、永久磁石33が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、入力側ロータ28の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクも入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する。 【0029】 ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを発生させる際には、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。これによって、昇圧コンバータ94から蓄電装置42とインバータ40間の配線へ電流が流れ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用する。一方、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を行わない状態で昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じてもロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。また、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をオフ状態に維持して昇圧コンバータ94による昇圧(電圧変換)を停止させることによっても、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。 【0030】 次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作、特に、エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動する場合の動作について説明する。 【0031】 エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28が回転駆動する。入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、ロータ巻線30に誘導電流が流れ、この誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により出力側ロータ18にトルクが作用して出力側ロータ18が回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから車輪38へ伝達されることで、車両の駆動等、負荷の駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。 【0032】 さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力は整流器93で直流に整流され、整流された直流電力は昇圧コンバータ94で昇圧される。そして、昇圧コンバータ94からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクが作用する。これによって、出力側ロータ18のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、昇圧コンバータ94からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。 【0033】 さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。」(段落【0016】ないし【0033】) (イ)「【0052】 以上説明した本実施形態では、エンジン36のトルクT_(e)に基づいて昇圧コンバータ94における昇圧比を制御することで、蓄電装置42からスリップリング95を介してロータ巻線30へ電力を供給することなく、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルク(電磁カップリングトルク)T_(c)を制御することができ、エンジン36の回転速度ω_(e)を制御することができる。そのため、蓄電装置42とスリップリング95(ロータ巻線30)との間の電力変換については、ロータ巻線30の交流電力を直流に変換して蓄電装置42(またはインバータ40)へ供給する方向の電力変換のみが行えればよく、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してスリップリング95(ロータ巻線30)へ供給する方向の電力変換を行う必要がなくなる。その結果、蓄電装置42とスリップリ ング95との間には、一方向の(スリップリング95側から蓄電装置42側への)電力変換を行うための整流器93と昇圧コンバータ(DC-DCコンバータ)94を設ければよく、双方向の電力変換を行うためのインバータが不要となる。したがって、本実施形態によれば、動力伝達装置の構成の複雑化及び高コスト化を招くことなく、エンジン36の運転状態を制御しながら車輪38を回転駆動することが可能となる。 【0053】 なお、エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動する場合に、車輪38の回転速度(車両の速度)が高くなると、出力側ロータ18の回転速度も高くなる。出力側ロータ18の回転速度が入力側ロータ28の回転速度よりも高い状態でロータ巻線30に誘導電流が流れると、出力側ロータ18にその回転速度を減少させる方向のトルク(制動トルク)が作用することで、車輪38(車両)に制動力が作用することになる。これに対して本実施形態では、車輪38の回転速度(車両の速度)が高くなっても、変速機44の変速比を小さくする方向に変更することで、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高い状態を維持することができる。その状態では、ロータ巻線30の誘導電流は、出力側ロータ18にその回転速度を増大させる方向のトルクを作用させるように流れるため、蓄電装置42からスリップリング95を介してロータ巻線30へ電力を供給することなく、出力側ロータ18(車輪38)に制動トルクが作用するのを防止することができる。さらに、本実施形態では、出力側ロータ18の回転速度が入力側ロータ28の回転速度より高くなっても、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する(あるいは昇圧コンバータ94による昇圧を停止させる)ことで、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを防止することができる。したがって、出力側ロータ18の回転速度が入力側ロータ28の回転速度より高くなっても、出力側ロータ18(車輪38)に制動トルクが作用するのを防止することができる。ただし、本実施形態において、エンジン36の動力を用いて車輪38を回転駆動する場合は、電子制御ユニット50は、出力側ロータ18の回転速度が入力側ロータ28の回転速度よりも低くなるように変速機44の変速比を制御することが好ましい。 【0054】 また、エンジン36からのトルクを車輪38へ伝達する際には、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、回転電機10を発進装置として機能させることができる。そのため、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。さらに、蓄電装置42からステータ巻線20への電力供給を行うことなく、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力伝達を行うことができるため、蓄電装置42の蓄電量が少ない場合や極低温時等においても、エンジン36からの動力を車輪38へ伝達することができる。 【0055】 また、車速(車輪38の回転速度)がある一定速度以上となり、(出力側ロータ18の回転速度)>(入力側ロータ28の回転速度)が成立する場合には、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することもできる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることができる。また、クラッチ48を係合する場合は、クラッチ48の締結力を調整することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で伝達されるトルクを制限することができる。したがって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で衝撃トルクの伝達を抑制することができる。 【0056】 また、本実施形態では、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行うこともできる。その場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、車輪38を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。」(段落【0052】ないし【0056】) (ウ)「【0064】 また、図21に示す構成例では、図1,2に示す構成例と比較して、スタータ用インバータ41が設けられている。スタータ用インバータ41は、蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給する。図21に示す構成例において、エンジン36を始動する場合は、蓄電装置42からスリップリング95を介してロータ巻線30へ電力供給するようにスタータ用インバータ41のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30への供給電力を用いてエンジン36のクランキングを行うことができる。その際には、入力側ロータ28に回転磁界を形成し、この回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によりエンジン36に繋がる入力側ロータ28にトルクを作用させるが、出力側ロータ18もその反力トルクを受けることになる。そのため、EV走行時にエンジン36を始動する場合は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給して出力側ロータ18にこの反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力を用いて出力側ロータ18を回転駆動することができる。」(段落【0064】) イ 上記ア及び図面の記載から分かること 上記ア並びに図1ないし3及び21の記載から次のことが分かる。 (ア)上記ア(ア)ないし(ウ)並びに図1ないし3及び21の記載によれば、刊行物1には、ハイブリッド駆動装置を備えた車両に適用される電子制御ユニット50が記載されていることが分かる。 (イ)上記ア(ア)並びに図1ないし3及び21の記載(特に、段落【0016】ないし【0021】並びに図1ないし3及び21の記載)によれば、ハイブリッド駆動装置を備えた車両は、エンジン36と、前記エンジン36から出力されたトルクが伝達されるとともに車輪38と動力伝達可能に接続された出力軸24と、第1の回転電機と、前記出力軸24と連結された回転電機10における第2の回転電機と、前記第1の回転電機及び前記第2の回転電機のそれぞれと電気的に接続された蓄電装置42と、軸線回りに回転可能に設けられて複数のロータ巻線30を有する第1ロータ28、前記第1ロータ28の外周に前記第1ロータ28と同軸に配置されるとともに前記第1ロータ28に対して相対回転可能に設けられて永久磁石32,33を有する第2ロータ18、及び前記第2ロータ18の外周に前記第1ロータ28及び前記第2ロータ18と同軸に設けられて複数のステータ巻線20を有するステータ16を含む回転電機10と、を備え、前記第1ロータ28が前記エンジン36と連結され、前記第2ロータ18が前記出力軸24と連結され、前記第1ロータ28及び前記第2ロータ18にて前記第1の回転電機が構成され、かつ前記第2ロータ18及び前記ステータ16にて前記第2の回転電機が構成されているハイブリッド駆動装置を備えることが分かる。 ここで、上記ア(ウ)並びに図1ないし3及び21の記載によれば、第1の回転電機は、出力したトルクをエンジン36に付与できるように設けられたことが分かる。 (ウ)上記ア(ア)並びに図1ないし3及び21の記載(特に、段落【0033】の記載)によれば、電子制御ユニット50は、出力軸24が車輪38から入力された動力で回転駆動される場合に第2の回転電機で回生発電を実行することが分かる。 (エ)上記ア(イ)及び(ウ)並びに図1ないし3及び21の記載(特に、段落【0056】及び【0064】の記載)によれば、電子制御ユニット50は、エンジン36を始動する場合に、蓄電装置42からロータ巻線30へ電力供給するようにスタータ用インバータ41のスイッチング動作を制御するとともに、その際、前記エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて車輪38を回転駆動するEV走行時にエンジン36を始動する場合には、前記蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給して第2ロータ18に反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御する始動制御手段を備えることが分かる。 (オ)上記ア(ア)並びに図1ないし3及び21の記載(特に、段落【0026】の記載)によれば、ハイブリッド駆動装置を備えた車両は、第1ロータ28と第2ロータ18とが一体に回転する係合状態と、前記第1ロータ28と前記第2ロータ18とが相対回転可能となる解放状態とに切り替え可能なクラッチ48を設けたことが分かる。 また、上記ア(ア)並びに図1ないし3及び21の記載(特に、段落【0026】の記載)によれば、電子制御ユニット50は、クラッチ48の係合状態と解放状態とを切り替えることがわかる。 ウ 引用発明 上記ア及びイを総合して、本願発明1の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「エンジン36と、前記エンジン36から出力されたトルクが伝達されるとともに車輪38と動力伝達可能に接続された出力軸24と、出力したトルクを前記エンジン36に付与できるように設けられた第1の回転電機と、前記出力軸24と連結された第2の回転電機と、前記第1の回転電機及び前記第2の回転電機のそれぞれと電気的に接続された蓄電装置42と、軸線回りに回転可能に設けられて複数のロータ巻線30を有する第1ロータ28、前記第1ロータ28の外周に前記第1ロータ28と同軸に配置されるとともに前記第1ロータ28に対して相対回転可能に設けられて永久磁石32,33を有する第2ロータ18、及び前記第2ロータ18の外周に前記第1ロータ28及び前記第2ロータ18と同軸に設けられて複数のステータ巻線20を有するステータ16を含む回転電機10と、を備え、前記第1ロータ28が前記エンジン36と連結され、前記第2ロータ18が前記出力軸24と連結され、前記第1ロータ28及び前記第2ロータ18にて前記第1の回転電機が構成され、かつ前記第2ロータ18及び前記ステータ16にて前記第2の回転電機が構成されているハイブリッド駆動装置を備えた車両に適用され、 前記出力軸24が前記車輪38から入力された動力で回転駆動される場合に前記第2の回転電機で回生発電を実行する電子制御ユニット50において、 前記エンジン36を始動する場合に、前記蓄電装置42から前記ロータ巻線30へ電力供給するようにスタータ用インバータ41のスイッチング動作を制御するとともに、その際、前記エンジン36の動力を用いずに前記回転電機10の動力を用いて前記車輪38を回転駆動するEV走行時に前記エンジン36を始動する場合には、前記蓄電装置42から前記ステータ巻線20へ電力供給して前記第2ロータ18に反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御する始動制御手段を備え、 前記ハイブリッド駆動装置を備えた車両には、前記第1ロータ28と前記第2ロータ18とが一体に回転する係合状態と、前記第1ロータ28と前記第2ロータ18とが相対回転可能となる解放状態とに切り替え可能なクラッチ48が設けられ、 前記クラッチ48の係合状態と解放状態とを切り替える電子制御ユニット50。」 (2)刊行物2 ア 刊行物2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-236203号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、電気自動車の制御装置に関し、特にシリーズ形ハイブリッド電気自動車の発電機を駆動するエンジンのエネルギー効率を向上させるとともに、振動や騒音を低減することができる電気自動車の制御装置を提供するものである。 【0002】 【従来の技術】従来より、例えば図7に示すようなシリーズ形ハイブリッド電気自動車が提案されている。このシリーズ形ハイブリッド電気自動車というものは、エンジン1と、このエンジン1に駆動されて電力を発生する発電機2と、この発電機2から発生する電力により充電されるバッテリ3と、発電機2あるいはバッテリ3、もしくはその両方から供給される電力を変換するコントロールユニット4と、このコントロールユニット4の出力を受け電気自動車を走行させるモータ5とを備えたものであって、エンジンは発電機2の駆動専用に、モータ5は電気自動車の走行専用に設けられたものである。図1は、図7のシリーズ形ハイブリッド電気自動車をブロック図で示したものである。図において、1は発電機駆動手段であるエンジン、2はエンジン1によって駆動され電力を発生する発電機、3は発電機2から発生する電力により充電される蓄電手段であるバッテリ、5は電気自動車を走行させるモータ、6は発電機2あるいはバッテリ3もしくはその両方から供給される電力を変換する電力変換手段であるインバータであって前記モータ5に電力を供給する。7は走行情報を検出する図示しない走行情報検出手段であるセンサ類からの走行情報を受け、運転者の所望する通りに電気自動車を走行させるべくインバータ6を制御する走行制御手段である走行制御器、8はバッテリ3の蓄電量を検出する蓄電量検出手段である残存容量検出器、9は走行制御器7と残存容量検出器8との出力を受け、エンジン1と発電器2とからなる発電ユニットの発電を制御する発電量制御手段である発電ユニット制御器である。 【0003】上記のように構成された電気自動車の制御装置は、図示しないセンサ類によりアクセル踏込量、モータ5の駆動状態(力行、停止あるいは回生)などの走行情報を検出し、この走行情報に基づき運転者の所望する通りに電気自動車を走行させるべく走行制御器7でインバータ6を駆動する。なお、上述したモ-タ5の制御技術は既に公知のものであるため詳細な動作説明は省略する。 【0004】次に、発電ユニットの制御について、図5を用いて説明する。ステップ41では、残存容量検出器8によりバッテリ3の残存容量が検出される。この残存容量は、例えばバッテリ3の満充電を零点とし、バッテリ3の入出力電流を検出する電流センサの出力を所定時間毎にサンプリングし、これを積算することにより検出できる。ステップ42では、ステップ41で検出した残存容量が、満充電に対し50%未満になっているか否かを判定する。ここで50%以上であれは充電の必要なしとしてステップ41に戻る。50%未満であれば充電の必要有りとしてステップ43に進む。ステップ43ではエンジン1を始動させ、所定時間暖機運転を行う。この時点では発電機2の界磁電流は発電ユニット制御器9により遮断されている。従って、発電機2は単に空転しているに過ぎず、電力を発生しない。ステップ44では走行制御器7からモータ5の駆動状態(力行、停止あるいは回生)を読み出し、ステップ45でモータ5が回生状態であるか否かを判定する。もし回生状態であれば、電気自動車の制動力を確保するために発電機2の発電を禁止すべく、ステップ46に進む。ステップ46では、エンジン1をアイドル回転数に保持し、発電機2の界磁電流を遮断したままとし、ステップ44へ戻る。 【0005】ここで、回生状態では発電を禁止しなければならないという理由を簡単に述べる。モータ5が回生状態にあるということは、電気自動車が制動状態にあるということである。この時の制動力の大きさは、モータ5からインバータ6を介してバッテリ3に回生される電力量によって決定される。ところでバッテリには充電受入適正値(換言すればバッテリが受け入れられる電力量の上限値)というものがある。従って、モータ5が回生状態にあるときに発電機2が発電を行った場合のモータ5の回生電力量は式(1)で示される通りになる。 回生電力量=充電受入適正値-発電機発電量 (1) 即ち、式(1)で理解されるように、回生状態において発電機が発電を行っている場合、その発電量が大きくなるほどモータ5の回生電力量が制限され電気自動車の制動力を低下させてしまうのである。」(段落【0001】ないし【0005】) (イ)「【0008】 【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来の電気自動車の制御装置は、モータ5が回生状態になる度にエンジン1を無負荷アイドル運転としていたので、エンジン1のエネルギー効率が悪かった。 【0009】また、モータ5が回生状態になるとエンジン1を所定回転数からアイドル回転数に、力行状態になるとアイドル回転数から所定回転数に急変させていたので、エンジン1から振動や騒音が発生し自動車の快適性を損なっていた。 【0010】この発明は、かかる問題点を解決するために為されたものであり、エンジンのエネルギー効率の向上、エンジン1からの振動や騒音の抑制、モータ回生による制動力を確保することによる安全性の向上、バッテリの充電効率の向上、およびバッテリの長寿化が可能な電気自動車の制御装置を得ることを目的としている。 ・・・略・・・ 【0014】 【課題を解決するための手段】この発明の電気自動車の制御装置は、電気自動車の走行情報を検出する走行情報検出手段と、蓄電手段の蓄電量を検出する蓄電量検出手段と、走行情報と蓄電量検出手段の出力とに基づき発電機駆動手段と発電機とを制御する発電量制御手段を備え、発電量制御手段は、電動機が回生状態にあるときは、発電機から発生する発電量と電動機からの回生電力量との和が所定値になるよう発電量を制御するようにしたものである。 ・・・略・・・ 【0018】 【作用】この発明の電気自動車の制御装置は、電動機が回生状態にあるときは、発電機から発生する発電量と電動機からの回生電力量との和が所定値になるよう発電量を制御する。」(段落【0008】ないし【0018】) (ウ)「【0022】 【実施例】 実施例1.以下、この発明の実施例1を図によって説明する。実施例1のブロック構成は図1と同様のものであるため、これを援用して説明する。実施例1では、従来装置のフローチャートである図5に代えて、図2のフローチャートを使用する。また、この図2のフローチャートによる発電機2およびモータ5の動作を図3にタイムチャートで示す。なお、実施例1の基本的な動作は従来装置と同様であるため、ここでは省略する。 【0023】まず、実施例1の詳細な説明をする前に、基本的な概念を説明する。上述では、回生電力量と発電機の発電量との和が充電受入適正値以上になるとバッテリ3がこれを受け入れることができなくなり、回生による制動力を損なってしまう旨述べたが、厳密に言うと、回生電力量と発電機発電量との和が充電受入適正値よりも大きくてもこれをバッテリ3に流入させることはできる。しかしながら、この場合はバッテリ3に負担がかかるため寿命が短くなり、最悪の場合は破損にいたる。また、回生電力量と発電機発電量との和が充電受入適正値を越えてもこれをバッテリで受け入れることができるとは言うものの、あまりその値が大きくなるとバッテリで受け入れることができなくなり、上述したように回生による制動量を損なってしまう。従って、式(1)が成立するように発電機2の発電量を制御することが最も望ましい。以下に、その具体的な構成と動作を説明する。 【0024】図2において、ステップ11、12、13は、それぞれ図5のステップ41、42、43に対応している。ステップ11では残存容量検出器8でバッテリ3の蓄電量を検出し、ステップ12でその蓄電用が満充電の50%未満か否かを判定し、50%未満であればステップ13にてエンジン1を始動してアイドル回転数で所定時間暖機運転を行う。なお、上記蓄電量の検出は、バッテリ3にどれ位の電力量が残っているかという残存容量を検出することにより行っているが、満充電からどの位の電力量を消費したかという消費容量を検出してもよい。 【0025】ステップ14では、走行制御器7からモータ5の駆動状態(力行、停止あるいは回生)を読み取る。ステップ15では、ステップ14で読み取った情報に基づいて、モータ5が回生状態にあるか否かを判定する。モータ5の回生状態の判定は、走行制御器7がインバータ6に力行運転を指令しているか、回生運転を指令しているか、あるいは停止を指令しているかを検出すればよい。ステップ15においてモータ5が回生状態にあると判定されるとステップ16に進む。ステップ16では走行制御器7から回生電力量を読み取る。ステップ17では、モータ5の回生電力量と発電機2の発電量との和が、所定値である充電受入適正値になるように発電量を制御する。このステップでは、バッテリ3の充電受入適正値からステップ16で読み取った回生電力量を差し引いて、モータ5の回生による制動力を損なわない発電量を演算する。また、この発電量に見合った発電機2の界磁電流の通電率を演算する。なお、上記充電受入適正値は、バッテリの方式(例えば、鉛酸バッテリ、ニッケル・カドミウムバッテリなど)と、その容量(通常、放電能力の目安として定められているAH(アンペア・アワー)容量)の大きさとによって予め定められている。ステップ18では、ステップ17で得られた界磁電流の通電率の制御と、発電機2の駆動トルクの変動にともなうエンジン回転数の変動を所定の回転数に制御する定速回転制御とを発電ユニット制御器9により同時に実行する。ステップ14から18においては、モータ5が回生状態にあるときはその回生電力量に応じて制動力を損なわない発電量だけ発電するよう制御が継続される。その様子を図3に示す。図3ではモータ5が回生状態にあるとき、その回生電力量が増加すれば発電量が減少し、回生電力量が減少すれば発電量が増加することが示されている。 【0026】ステップ15において、モータ5が回生状態ではないと判定されるとステップ19の定量発電モードに進む。ステップ19、20、21、22は図5のステップ47、48、49、50にそれぞれ対応している。これらのステップでは、モータ5の力行電力量に拘らず、一定の電力を発電機2から発生させる。ステップ19では発電ユニット制御器9によりエンジン1の回転数を所定回転数に制御する定速回転制御を行うとともに、発電機2に所定の界磁電流を供給する。ステップ20ではステップ12と同様にバッテリ3の残存容量を検出し、ステップ21で残存容量が70%未満であればステップ14に戻り、70%以上であればステップ22に進んで発電ユニット制御器9によりエンジン1を停止するとともに、発電ユニット制御器9から発電機2に与えていた界磁電流を遮断する。 【0027】以上のように、上記実施例1によれば、従来装置に比し図3の斜線部分に相当する電力量が増加しており、この分だけ多くバッテリ3に充電する。従って、モータ5の回生状態においても、エンジン1を無駄に回してエネルギー効率を悪化させることがない。 【0028】また、図3において、エンジン1の回転数は、モータ5が力行状態であるか回生状態であるかに拘らず常に所定回転数となるよう制御されているので、モータ5の駆動状態に応じてエンジン1の回転数が急変するようなことがなく、振動、騒音が抑制される。 【0029】また、回生電力量に応じて発電量を増減しているので、モータ5の回生による制動力を損なうことがない。 【0030】また、式(1)が成立するように発電機の発電量を決定しているので、バッテリ3は充電受入適正値で充電されることになり、バッテリ3の充電効率が向上するとともに、過大な電力が流入することがないためバッテリ3の寿命が短くなることがない。」(段落【0022】ないし【0030】) (エ)「【0035】実施例3.なお、上記実施例では、シリーズ形ハイブリッド電気自動車の制御装置について述べたが、自動車の走行駆動にエンジンとモータを併用、あるいは選択的に使用するパラレル形ハイブリッド電気自動車にも適用することができる。但し、その場合には、エンジンでバッテリを充電しモータで電気自動車を駆動する状態でのみ上記制御を行うようにする配慮が必要である。」(段落【0035】) イ 上記アから分かること (ア)上記ア(ア)ないし(エ)並びに図1ないし4及び7の記載によれば、刊行物2には、ハイブリッド電気自動車の制御装置が記載されていることが分かる。 (イ)上記ア(ア)及び図7の記載によれば、ハイブリッド電気自動車は、エンジン1と、前記エンジン1に駆動されて電力を発生する発電機2と、前記発電機2から発生する電力により充電されるバッテリ3と、前記発電機2あるいは前記バッテリ3もしくはその両方から供給される電力を変換するインバータ6と、前記インバータ6から電力を供給される走行用のモータ5とを備えたことが分かる。 (ウ)上記ア(ア)ないし(ウ)並びに図1ないし4及び7の記載(特に、段落【0005】、【0014】、【0018】及び【0025】の記載)によれば、ハイブリッド電気自動車の制御装置は、モータ5が回生状態にあるときは、エンジン1から出力されるトルクがアイドリングトルクより大きくなるように前記エンジン1を制御して、前記モータ5の回生電力量と発電機2の発電量との和が、バッテリ3が受け入れられる電力量の所定の上限値である充電受入適正値になるように前記発電機2の発電量を制御することが分かる。 ここで、「モータ5が回生状態にあるときは、エンジン1から出力されるトルクがアイドリングトルクより大きくなるようにエンジン1を制御」することについては、刊行物2において、上記2-1(2)ア(イ)の段落【0008】ないし【0010】には、「従来の電気自動車の制御装置は、モータ5が回生状態になる度にエンジン1を無負荷アイドル運転としていたので、エンジン1のエネルギー効率が悪かった。」という問題点があったため、「エンジンのエネルギー効率の向上」を図ることが記載され、また、上記2-1(2)ア(ウ)の段落【0025】には、「ステップ14から18においては、モータ5が回生状態にあるときはその回生電力量に応じて制動力を損なわない発電量だけ発電するよう制御が継続される。その様子を図3に示す。図3ではモータ5が回生状態にあるとき、その回生電力量が増加すれば発電量が減少し、回生電力量が減少すれば発電量が増加することが示されている。」と記載され、さらに、図3には、モータが回生状態にあるときに、発電していることが記載されていることからみて、明らかである。 ウ 刊行物2記載の技術 上記ア及びイを総合して、本願発明1の表現に倣って整理すると、刊行物2には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されていると認める。 「エンジン1と、前記エンジン1に駆動されて電力を発生する発電機2と、前記発電機2から発生する電力により充電されるバッテリ3と、前記発電機2あるいは前記バッテリ3もしくはその両方から供給される電力を変換するインバータ6と、前記インバータ6から電力を供給される走行用のモータ5とを備えたハイブリッド電気自動車の制御装置において、前記モータ5が回生状態にあるときは、前記エンジン1から出力されるトルクがアイドリングトルクより大きくなるように前記エンジン1を制御して、前記モータ5の回生電力量と前記発電機2の発電量との和が、前記バッテリ3が受け入れられる電力量の所定の上限値である充電受入適正値になるように前記発電機2の発電量を制御する技術。」 2-2 対比 本願発明1と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・引用発明における「エンジン36」は、本願発明1における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「車輪38」は「駆動輪」に、「出力軸24」は「出力部材」に、「第1の回転電機」は「第1モータ・ジェネレータ」に、「第2の回転電機」は「第2モータ・ジェネレータ」に、「蓄電装置42」は「バッテリ」に、「ロータ巻線30」は「コイル」に、「第1ロータ28」は「第1ロータ」に、「永久磁石32,33」は「磁石」に、「第2ロータ18」は「第2ロータ」に、「ステータ巻線20」は「コイル」に、「ステータ16」は「ステータ」に、「回転電機10」は「回転電機」に、「ハイブリッド駆動装置を備えた車両」は「ハイブリッド車両」に、「回生発電」は「回生発電」に、「電子制御ユニット50」は「発電制御装置」に、「クラッチ48」は「クラッチ手段」に、それぞれ相当する。 ・引用発明における「前記エンジン36を始動する場合に、前記蓄電装置42から前記ロータ巻線30へ電力供給するようにスタータ用インバータ41のスイッチング動作を制御するとともに、その際、前記エンジン36の動力を用いずに前記回転電機10の動力を用いて前記車輪38を回転駆動するEV走行時に前記エンジン36を始動する場合には、前記蓄電装置42から前記ステータ巻線20へ電力供給して前記第2ロータ18に反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御する始動制御手段を備え」ることは、本願発明1における「前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に、前記第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクにて前記内燃機関から出力される出力トルクがアイドリング運転時に前記内燃機関から出力されるアイドリングトルクより大きくなるように前記内燃機関及び前記第1モータ・ジェネレータをそれぞれ制御するとともに、前記第1モータ・ジェネレータからトルクが付与されることで増加した前記内燃機関の出力トルクの増加分が前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分で相殺されることによって前記内燃機関から前記出力部材に伝達されたトルクが前記駆動輪に付与されないように前記第2モータ・ジェネレータの発電量を増加させる発電量増加手段を備え」ることに、「ハイブリッド車両が所定の状態の場合に、第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクにより内燃機関が所定の状態となるように第1モータ・ジェネレータを制御するとともに、前記第1モータ・ジェネレータからトルクが付与されることで出力部材に伝達されるトルクの増加分が駆動輪に付与されないように第2モータ・ジェネレータによりトルクの相殺を行うよう制御する所定の制御手段を備え」ることという限りにおいて一致する。 ・引用発明における「前記クラッチ48の係合状態と解放状態とを切り替える」は、本願発明1における「前記発電量増加手段は、前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に前記クラッチ手段を前記解放状態に切り替える」に、「クラッチ手段の係合状態と解放状態とを切り替える」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、 「内燃機関と、前記内燃機関から出力されたトルクが伝達されるとともに駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材と、出力したトルクを前記内燃機関に付与できるように設けられた第1モータ・ジェネレータと、前記出力部材と連結された第2モータ・ジェネレータと、前記第1モータ・ジェネレータ及び前記第2モータ・ジェネレータのそれぞれと電気的に接続されたバッテリと、軸線回りに回転可能に設けられて複数のコイルを有する第1ロータ、前記第1ロータの外周に前記第1ロータと同軸に配置されるとともに前記第1ロータに対して相対回転可能に設けられて磁石を有する第2ロータ、及び前記第2ロータの外周に前記第1ロータ及び前記第2ロータと同軸に設けられて複数のコイルを有するステータを含む回転電機と、を備え、前記第1ロータが前記内燃機関と連結され、前記第2ロータが前記出力部材と連結され、前記第1ロータ及び前記第2ロータにて前記第1モータ・ジェネレータが構成され、かつ前記第2ロータ及び前記ステータにて前記第2モータ・ジェネレータが構成されているハイブリッド車両に適用され、 前記出力部材が前記駆動輪から入力された動力で回転駆動される場合に前記第2モータ・ジェネレータで回生発電を実行する発電制御装置において、 前記ハイブリッド車両が所定の状態の場合に、前記第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクにより前記内燃機関が所定の状態となるように前記第1モータ・ジェネレータを制御するとともに、前記第1モータ・ジェネレータからトルクが付与されることで出力部材に伝達されるトルクの増加分が前記駆動輪に付与されないように前記第2モータ・ジェネレータによりトルクの相殺を行うよう制御する所定の制御手段を備え、 前記ハイブリッド車両には、前記第1ロータと前記第2ロータとが一体に回転する係合状態と、前記第1ロータと前記第2ロータとが相対回転可能となる解放状態とに切り替え可能なクラッチ手段が設けられ、 前記クラッチ手段の係合状態と解放状態とを切り替える発電制御装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 「ハイブリッド車両が所定の状態の場合に、第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクにより内燃機関が所定の状態となるように第1モータ・ジェネレータを制御するとともに、前記第1モータ・ジェネレータからトルクが付与されることで出力部材に伝達されるトルクの増加分が駆動輪に付与されないように第2モータ・ジェネレータによりトルクの相殺を行うよう制御する所定の制御手段を備え」ることに関し、本願発明1においては、「前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に、前記第1モータ・ジェネレータから付与されたトルクにて前記内燃機関から出力される出力トルクがアイドリング運転時に前記内燃機関から出力されるアイドリングトルクより大きくなるように前記内燃機関及び前記第1モータ・ジェネレータをそれぞれ制御するとともに、前記第1モータ・ジェネレータからトルクが付与されることで増加した前記内燃機関の出力トルクの増加分が前記第2モータ・ジェネレータの発電量の増加分で相殺されることによって前記内燃機関から前記出力部材に伝達されたトルクが前記駆動輪に付与されないように前記第2モータ・ジェネレータの発電量を増加させる発電量増加手段を備え」るのに対して、引用発明においては、「前記エンジン36を始動する場合に、前記蓄電装置42から前記ロータ巻線30へ電力供給するようにスタータ用インバータ41のスイッチング動作を制御するとともに、その際、前記エンジン36の動力を用いずに前記回転電機10の動力を用いて前記車輪38を回転駆動するEV走行時に前記エンジン36を始動する場合には、前記蓄電装置42から前記ステータ巻線20へ電力供給して前記第2ロータ18に反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御する始動制御手段を備え」る点(以下、「相違点1」という。)。 [相違点2] 「クラッチ手段の係合状態と解放状態とを切り替える」ことに関し、本願発明1においては、「前記発電量増加手段は、前記回生発電が実行中かつ前記内燃機関が運転中の場合に前記クラッチ手段を前記解放状態に切り替える」のに対して、引用発明においては、「前記クラッチ48の係合状態と解放状態とを切り替える」点(以下、「相違点2」という。)。 2-3 判断 (1)上記相違点1及び2の検討に先立ち、刊行物2記載の技術について、本願発明1の用語との対応関係を検討する。 ・刊行物2記載の技術における「エンジン1」は、本願発明1における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「バッテリ3」は「バッテリ」に、「モータ5」は「第2モータ・ジェネレータ」に、「ハイブリッド電気自動車」は「ハイブリッド車両」に、「制御装置」は「発電制御装置」に、「モータ5が回生状態にある」は「第2モータ・ジェネレータで回生発電を実行する」に、それぞれ相当する。 ・刊行物2記載の技術における「発電機2」は、本願発明1における「第1モータ・ジェネレータ」に、「ジェネレータ」という限りにおいて一致する。 したがって、刊行物2記載の技術は、本願発明1の用語又は対応する用語で表現すると、次のとおりの技術ということができる。 「内燃機関と、前記内燃機関に駆動されて電力を発生するジェネレータと、前記ジェネレータから発生する電力により充電されるバッテリと、前記ジェネレータあるいは前記バッテリもしくはその両方から供給される電力を変換するインバータと、前記インバータから電力を供給される走行用の第2モータ・ジェネレータとを備えたハイブリッド車両の発電制御装置において、前記第2モータ・ジェネレータで回生発電を実行するときは、前記内燃機関から出力されるトルクがアイドリングトルクより大きくなるように前記内燃機関を制御して、前記第2モータ・ジェネレータの回生電力量と前記ジェネレータの発電量との和が、前記バッテリが受け入れられる電力量の所定の上限値である充電受入適正値になるように前記ジェネレータの発電量を制御する技術。」 (2)そこで、上記相違点1及び2について検討する。 上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項において、第1モータ・ジェネレータから内燃機関にトルクが付与されるところ、本件出願の明細書の段落【0051】における「発電量増加制御の実行中は第2モータ・ジェネレータMG2で回生発電が行われているため、電気が発生している。第1モータ・ジェネレータMG1には、この第2モータ・ジェネレータMG2で発生した電気の一部がインバータ6を介してそのまま供給される。そして、第1モータ・ジェネレータMG1はこの電気を利用してエンジン2に負荷トルクを付与する。すなわち、発電量増加制御では、第2モータ・ジェネレータMG2で発生した電気の一部で第1モータ・ジェネレータMG1を駆動させる。」との記載によれば、第1モータ・ジェネレータは、発電量増加制御の実行中にモータとして機能して、内燃機関にトルクを付与するものである。 これを踏まえると、上記(1)の検討から理解できるように、刊行物2記載の技術は、回生発電が実行中かつ内燃機関が運転中の場合に、内燃機関と連結された第1ロータ及び駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材に連結された第2ロータにて構成されたモータ・ジェネレータから内燃機関にトルクが付与される技術事項(以下、「技術事項A]という。)を示すものではない。 また、刊行物2記載の技術は、回生発電が実行中かつ内燃機関が運転中の場合に、クラッチ手段を前記第1ロータと前記第2ロータとが相対回転可能となる解放状態に切り替える技術事項(以下、「技術事項B」という。)を示すものではない。 さらに、原査定の拒絶の理由において引用された特開2007-253658号公報(特に、段落【0029】及び【0030】並びに図1を参照。)及び特開2001-224105号公報(特に、段落【0009】及び【0055】ないし【0057】を参照。)に記載があるように、ハイブリッド車両において、内燃機関の出力トルクの変動による駆動力の変化を抑制するために、内燃機関の出力トルクの増加分がジェネレータの発電量の増加分で相殺されることによって前記内燃機関から出力部材に伝達されたトルクが駆動輪に付与されないようにすることは、本件出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術」という。)であるが、当該周知技術は技術事項A及び技術事項Bを示すものではなく、周知技術の例証として挙げられたこれら刊行物にも、技術事項A及び技術事項Bは記載も示唆もされていない。 そうすると、引用発明において、刊行物2記載の技術及び周知技術を適用したとしても、上記相違点1及び2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、容易に想到できたことではない。 (3)そして、本願発明1は、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えることにより、内燃機関から出力されたトルクが駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材に伝達される形式のハイブリッド車両、すなわち、パラレル形のハイブリッド車両であることを前提とした、「本発明の発電制御装置によれば、回生発電の実行中かつ内燃機関の運転中の場合に電動機から付与したトルクで内燃機関の出力トルクを増加させることができる。そのため、内燃機関の熱効率を向上させることができる。そして、この熱効率を高くした内燃機関の出力トルクで発電を行うので、少ない燃料で発電量を増加させることができる。そのため、燃費を向上させることができる。また、車両のエネルギ効率を向上させることができる。」(本件出願の明細書の段落【0014】)という、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術からは当業者が予測することができない効果を奏するものである。 (4)したがって、本願発明1は、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明2ないし5についても、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2-4 まとめ 上記2-3のとおりであるから、本願発明1ないし5については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。 よって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の内容 当審拒絶理由の内容は、次のとおりである。 「本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 本件出願の特許請求の範囲の請求項1において、「内燃機関と、前記内燃機関から出力されたトルクが伝達されるとともに駆動輪と動力伝達可能に接続された出力部材と、出力したトルクを前記内燃機関に付与できるように設けられた電動機と、前記出力部材と連結された発電機と、前記電動機及び前記発電機のそれぞれと電気的に接続されたバッテリと、軸線回りに回転可能に設けられて複数のコイルを有する第1ロータ、前記第1ロータの外周に前記第1ロータと同軸に配置されるとともに前記第1ロータに対して相対回転可能に設けられて磁石を有する第2ロータ、及び前記第2ロータの外周に前記第1ロータ及び前記第2ロータと同軸に設けられて複数のコイルを有するステータを含む回転電機と、を備え、前記第1ロータが前記内燃機関と連結され、前記第2ロータが前記出力部材と連結され、前記第1ロータ及び前記第2ロータにて前記電動機が構成され、かつ前記第2ロータ及び前記ステータにて前記発電機が構成されているハイブリッド車両」と記載されている。 しかしながら、本件出願の明細書の発明の詳細な説明(特に、段落【0025】)には、ハイブリッド車両において、第1ロータ(巻線ロータ13)及び第2ロータ(磁石ロータ14)で構成された電動機としても機能する第1モータ・ジェネレータMG1と、第2ロータ及びステータ(ステータ15)で構成された発電機としても機能する第2モータ・ジェネレータMG2と備えていることは記載されているが、ハイブリッド車両において、第1ロータ及び第2ロータで構成された「電動機」と、第2ロータ及びステータで構成された「発電機」とを備えることは、記載されていない。 よって、本件出願の請求項1ないし5に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」 2 当審拒絶理由についての判断 平成28年11月17日に提出された手続補正書によって、本件出願の請求項1は、上記第2の【請求項1】に示すものに補正された。 また、平成28年11月17日に提出された手続補正書によって、本件出願の特許請求の範囲における【請求項2】ないし【請求項5】、並びに、明細書における段落【0006】ないし【0010】及び【0013】についても、同様に、「電動機」を「第1モータ・ジェネレータMG1」とするとともに、「発電機」を「第2モータ・ジェネレータMG2」とする補正がされた。 このことにより、本願発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。 よって、当審拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-01-11 |
出願番号 | 特願2011-278308(P2011-278308) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(B60K)
P 1 8・ 121- WY (B60K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山村 秀政 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
三島木 英宏 槙原 進 |
発明の名称 | ハイブリッド車両の発電制御装置 |
代理人 | 山本 晃司 |