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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1323448
異議申立番号 異議2016-700229  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-17 
確定日 2016-10-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5783424号発明「ガスセンサ制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5783424号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第5783424号の請求項1?9に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第5783424号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成24年4月13日に特許出願され、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人飯島秀子により特許異議の申立てがされ、平成28年5月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人飯島秀子から同年9月2日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)請求項1に係る「内燃機関の排気通路に配置され、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部を覆う多孔質保護層と、を含むガスセンサ」を、「内燃機関の排気通路に配置されたガスセンサであって、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する多孔質保護層と、を含むガスセンサ」に訂正する。
(2)請求項1に係る「前記多孔質保護層は、セラミックス粒子を含んでおり、前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であり」を、「前記多孔質保護層は、多数のセラミックス粒子が結合した多孔質体により構成されており、前記多孔質保護層を構成する前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であるセラミックス粒子のみであり」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)の訂正事項に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「ガスセンサ」については、「【0028】 触媒部40よりも下流側の排気管29には、ガスセンサ50が配置されている。このガスセンサ50は、触媒部40よりも下流側の排気管29に流れる排ガス中の特定ガス成分(ここでは酸素)の濃度を検出するセンサであり、排ガスの空燃比を検出するためのセンサである。」と記載され、「ガスセンサ」が有する「多孔質保護層」については、「【0038】 上記多孔質保護層52の形成方法としては、セラミックス粒子(典型的には粒状)その他の多孔質保護層形成成分(例えばバインダ、分散剤など)を適当な溶媒(例えば水)に分散したスラリーを調製し、このスラリーをセンサ素子60およびヒータ部70の表面に塗布して焼成させる方法を好ましく採用することができる。」と記載されていることから、「ガスセンサ」が「内燃機関の排気通路に配置され」ること、及び、「該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する多孔質保護層」を含むことは、明細書に記載されているものと認められる。
したがって、上記(1)の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、「ガスセンサ」及び「多孔質保護層」の配置箇所について、「内燃機関の排気通路に配置され」ること、及び、「該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する」ことに具体的に特定して限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、上記(2)の訂正事項に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「【0034】 多孔質保護層52は、多数のセラミックス粒子を結合させた多孔質体により構成されており、水分がセンサ素子60に到達してセンサ素子60が被水割れするのを抑制するために設けられている。この実施形態では、センサ素子60およびヒータ部70は、図示する横断面形状において、その隅角部がテーパー状に切欠かれており、この切欠きによって、センサ素子60およびヒータ部70の当該箇所における多孔質保護層52の厚みが調整されている。この実施形態では、部位ごとに厚みt1?t5が相違している。この部位ごとに異なる多孔質保護層52の最大厚みは、概ね80μm以下であることが好ましい。多孔質保護層52の厚みが80μm以下の場合には、ガスセンサ50のセンサ活性時間が向上する。そのため、例えばEuroVIにおけるエミッション排出量に関する規定を満足するセンサ活性時間を下回ることが可能になる。すなわち、図2において、厚みt1?t5の中で最も厚い厚みがこの80μmとなるように多孔質保護層52が形成されていることが好ましい。一方、多孔質保護層52の厚みが薄すぎると、水分がセンサ素子60に到達してセンサ素子60が被水割れするのを抑制できないことがあるため、通常は、最小厚みが凡そ30μm以上(好ましくは40μm以上、特に好ましくは50μm以上)の多孔質保護層52を形成することが好ましい。
【0035】 多孔質保護層52は、例えば、アルミナ、スピネル、ムライト等を主体とする金属酸化物や炭化珪素等の金属炭化物などのセラミックス粒子から構成されている。必要に応じてセラミックス粒子に貴金属粒子を担持させてもよい。かかる貴金属粒子としては、パラジウムやロジウムを単独で、もしくはパラジウム、ロジウムおよび白金のうちの2種以上の合金を使用することができる。
【0036】 上記セラミックス粒子の平均粒径としては、概ね12μm以下である。例えば、平均粒径が凡そ10μm以下のセラミックス粒子の使用が好ましく、より好ましくは8μm以下であり、特に好ましくは6μm以下である。このように小径のセラミックス粒子から多孔質保護層52が構成されることにより、多孔質保護層52の耐被水性が向上し、凝縮水が染み込みにくくなる。・・・セラミックス粒子の平均粒径は当該分野で公知の方法、例えばレーザ散乱法に基づく測定によって求めることができる。
【0037】 ここで開示される多孔質保護層52を構成するセラミックス粒子は、BET比表面積が概ね20m^(2)/g以下の範囲にあることが好ましい。このようなBET比表面積を満たすセラミックス粒子は、ガスセンサの多孔質保護層に用いられ、より高い性能を安定して発揮するガスセンサを形成し得るものであり得る。・・・なお、比表面積の値としては、一般的な窒素吸着法による測定値を採用することができる。
【0038】 上記多孔質保護層52の形成方法としては、セラミックス粒子(典型的には粒状)その他の多孔質保護層形成成分(例えばバインダ、分散剤など)を適当な溶媒(例えば水)に分散したスラリーを調製し、このスラリーをセンサ素子60およびヒータ部70の表面に塗布して焼成させる方法を好ましく採用することができる。」との記載がなされていることから、「前記多孔質保護層は、多数のセラミックス粒子が結合した多孔質体により構成されており、前記多孔質保護層を構成する前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であるセラミックス粒子のみ」であることは、明細書に記載されているものと認められる。
したがって、上記(2)の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、「多孔質保護層」を構成する「セラミックス粒子」を、「多数のセラミックス粒子が結合した多孔質体により構成され」、「前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であるセラミックス粒子のみであ」ることに具体的に特定して限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これらの訂正は、訂正前の請求項の引用関係からみて一群の請求項に対して請求されたものであることが明らかである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正を認める。


第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1?9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「 【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されたガスセンサであって、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する多孔質保護層と、を含むガスセンサと、
前記ガスセンサに設けられ、前記センサ素子を加熱するヒータ部と、
前記ヒータ部を通電制御するヒータ制御部と
を備え、
前記多孔質保護層は、多数のセラミックス粒子が結合した多孔質体により構成されており、
前記多孔質保護層を構成する前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であるセラミックス粒子のみであり、
ここで前記ヒータ制御部は、
前記内燃機関の始動時に、前記センサ素子の温度が所定の始動温度となるように、前記ヒータ部への通電を行う始動時通電処理と、
前記始動時通電処理の後、前記センサ素子の温度が該センサ素子の活性化温度に維持されるように、前記ヒータ部への通電を行う通常通電処理と
を実行し得るように構成されており、
前記始動時通電処理における前記始動温度は、前記通常通電処理における制御温度よりも高い温度に設定されている、ガスセンサ制御装置。
【請求項2】
前記始動時通電処理における始動温度は、前記センサ素子の活性化温度以上の温度に設定されている、請求項1に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項3】
前記始動時通電処理における始動温度は、750℃?900℃の範囲内に設定されている、請求項2に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項4】
前記排気通路には、温度センサが配置されており、
前記ヒータ制御部は、前記温度センサに電気的に接続されており、
ここで前記ヒータ制御部は、前記始動時通電処理を実施している間に、前記温度センサによって前記排気通路内の温度を測定し、
当該温度の測定値が所定の基準値を超えた場合に、前記始動時通電処理を終了するように構成されている、請求項1?3の何れか一つに記載のガスセンサ制御装置。
【請求項5】
前記始動時通電処理の温度に対する基準値は、100℃?150℃の範囲内に設定された値である、請求項4に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項6】
前記ヒータ制御部は、前記始動時通電処理の継続時間が所定の基準値を上回った場合に、前記始動時通電処理を終了するように構成されている、請求項1?3の何れか一つに記載のガスセンサ制御装置。
【請求項7】
前記始動時通電処理の継続時間に対する基準値は、400秒?600秒の範囲内に設定された値である、請求項6に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項8】
前記多孔質保護層の最大厚みが、80μm以下である、請求項1?7の何れか一つに記載のガスセンサ制御装置。
【請求項9】
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒を該内燃機関の排気通路に配置した排ガス浄化装置であって、
請求項1?8の何れかに記載のガスセンサ制御装置を備える、排ガス浄化装置。」

第4 取消理由及び申立理由の概要
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3,6?9に係る特許に対して平成28年5月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

甲1号証:特表2009-529691号公報
甲3号証:特開2010-169655号公報
甲6号証:特開2011-237222号公報

訂正前の請求項1?3,6?7に係る発明は、甲1号証及び甲3号証に記載された発明に基づいて、訂正前の請求項8に係る発明は、甲1号証及び甲3号証に記載された発明並びに甲6号証に記載された事項に基づいて、訂正前の請求項9に係る発明は、甲1号証及び甲3号証に記載された発明に基づいて、又は、甲1号証及び甲3号証に記載された発明並びに甲6号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その請求項1?3,6?9に係る特許は特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して特許異議申立人により申立てがされた特許異議の申立理由の要旨は、次のとおりである。

甲1号証:特表2009-529691号公報
甲2号証:特開平3-138560号公報
甲3号証:特開2010-169655号公報
甲4号証:特開2004-316594号公報
甲5号証:特開2010-127268号公報
甲6号証:特開2011-237222号公報

訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1号証に記載された発明又は甲2号証に記載された発明及び甲3号証に記載された事項に基づいて、訂正前の請求項4に係る発明は、甲1号証に記載された発明、甲3?5号証に記載された事項に基づいて、請求項5に係る発明は、甲1号証に記載された発明、甲3?4号証に記載された事項に基づいて、訂正前の請求項6?7に係る発明は、甲2号証に記載された発明及び甲3号証に記載された事項に基づいて、訂正前の請求項8に係る発明は、甲1号証に記載された発明又は甲2号証に記載された発明及び甲3、6号証に記載された事項に基づいて、訂正前の請求項9に係る発明は、甲1号証に記載された発明又は甲2号証に記載された発明及び甲3、5号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その請求項1?9に係る特許は特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。


第5 取消理由及び申立理由についての判断
1 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明の認定
(1)甲1号証の記載事項
甲1号証には、次の事項が記載されている(下線は参考のために当審で付した。)。

ア「【請求項12】
センサの加熱を調節する温度設定手段を備えたセンサの作動装置において、
センサが、少なくとも、固有の作動温度より大きい衝撃抵抗温度(T_(3))を有するように、前記温度設定手段がセンサの加熱を作動させることを特徴とするセンサの作動装置。」

イ「【0002】
物理的性質を決定するためのセンサないしは測定センサが多数使用される。例えば、内燃機関の排気系内に、温度センサ、すすセンサおよびガス・センサが設けられ、これらのセンサは、触媒および制御と組み合わされて、排気ガスの有効な浄化を可能にする。」

ウ「【0005】
センサの作動温度は、一般にメーカーにより指定され且つ典型的には750°-850℃の間にある。
他のセンサにおいてもまた、しばしば、始動させるためにセンサを作動温度まで加熱することが必要である。好ましくは内燃機関の暖機過程の間にできるだけ早く利用可能なセンサの測定信号を得るために、センサをできるだけ急速に加熱することが望ましい。
【0006】
内燃機関の始動において、ここでは特に低温の内燃機関において、燃焼時に発生した水蒸気が排気系の低温表面上に水滴の形で沈降することがある。
水滴がセンサのセラミック表面に落下したとき、水滴による局部冷却が、温度差に基づく熱応力によってセラミックが破壊されるほどに大きくなることがある。
【0007】
ドイツ特許公開第19934319号から、例えば、セラミック・センサ・エレメントを保護するために保護管を有するガス測定センサが既知である。測定ガスないしは排気ガスが出入するための開口を有する他の内管が、セラミック・センサ・エレメントを、水との直接接触から保護するものである。」

エ「【0009】
独立請求項の特徴を有する本発明による方法は、従来技術に比較して、センサの加熱において、特に低温排気系内の低温センサの加熱においてもまた、センサが遮断されたままであったり、または低温で作動されるのではなく、固有の作動温度よりも大きい、いわゆる衝撃抵抗温度と呼ばれる温度に加熱されるという利点を有している。
【0010】
さらに、センサが、固有の作動温度より大きい衝撃抵抗温度(T_(3))を有するようにセンサの加熱を調節する温度設定手段を備えた、本発明による方法を実行するための装置が提供されることが有利である。
【0011】
従属請求項に記載の手段により、独立請求項に記載の方法の有利な改良および改善が可能である。
衝撃抵抗温度(T_(3))がセンサの故障確率の関数として決定されることが、特に有利である。即ち、衝撃抵抗温度を、存在するセンサ・タイプまたは使用事例に適合させ、且つセンサを、それ以上においては十分な熱衝撃安全性が存在する温度に加熱するだけでよいことが有利である。衝撃抵抗温度が、この温度において故障確率が固有の作動温度においてよりも小さいように選択されることが好ましい。
【0012】
他の改善により、センサが既に衝撃抵抗温度においてセンサの測定作動を行うように設計されている。即ち、既知の方法においてはセンサの安全性の理由から遮断されたままである過程において、既にセンサ信号が評価可能となる。
【0013】
他の形態において、センサを衝撃抵抗温度(T_(3))に加熱したのちに、センサが第2の温度(T_(2))において測定動作が行われるように設計されている。この第2の温度はセンサの作動温度であることが好ましい。即ち、センサは、常に衝撃抵抗温度において作動される必要はなく、熱衝撃の危険がもはや存在しないときに正常作動に切換可能であることが有利である。
【0014】
他の修正態様において、衝撃抵抗温度(T_(3))に加熱される前に、センサが、はじめに、第2の温度(T_(2))ないしはセンサの固有の作動温度より小さい第1の温度(T_(1))に加熱されるように設計されている。この方法により、センサははじめに低温において加熱可能であり、即ち場合により存在する凝縮水膜を排除可能である。これにより、例えばセンサが程度の差を問わず濡れていることにより、セラミックを急激に加熱したときに熱応力が発生し、これが場合によりセラミックを破壊させるという危険が低減されることが有利である。
【0015】
他の形態において、内燃機関の始動前にセンサが衝撃抵抗温度に加熱されるように設計されている。この方法は、内燃機関が始動したとき、および最初のガス流れが排気系内に発生したとき、センサが既に作動準備状態にあり且つはじめから関連する測定結果を提供可能であるという利点を有している。」

オ「【0018】
図1は、例として、付属の操作装置(制御装置)200を備えた、ガス混合物内のガス成分の濃度を決定するためのセンサないしはガス・センサ100を示す。この例においては、ガス・センサは広帯域λセンサとして形成されている。広帯域λセンサは、本質的に、下部領域内にヒータ160を、中間領域内にネルンスト・セル140を、および上部領域内にポンプ・セル120を含む。ポンプ・セル120は中央領域内に開口105を含み、開口105を通過して排気ガス10がポンプ・セル120の測定室130内に到達する。測定室130の外側端部に電極135、145が配置され、この場合、上部電極135はポンプ・セルに付属されて内部ポンプ電極(IPE)135を形成し、下部電極145はネルンスト・セル140に付属されてネルンスト電極(NE)145を形成する。ポンプ・セル120の排気ガスに面している側は保護層110を有し、保護層110の内部に外部ポンプ電極(APE)125が配置されている。外部ポンプ電極125と測定室130の内部ポンプ電極135との間に固体電解質が伸長し、電極125、135にポンプ電圧が印加されたとき、固体電解質を介して酸素が測定室130内に搬送可能、または測定室130から搬出可能である。
【0019】
ポンプ・セル120に他の固体が続き、この他の固体は基準ガス室150と共にネルンスト・セル140を形成する。基準ガス室150にはポンプ・セルの方向に基準電極(RE)155が設けられている。基準電極155と、ポンプ・セル120の測定室130内のネルンスト電極145との間に設定された電圧は、ネルンスト電圧に対応する。他のセラミック層内の下部領域内にヒータ160が配置されている。
【0020】
ネルンスト・セル140の基準ガス室150内に酸素基準ガスが保持される。ポンプ電極125および135を介して流れるポンプ電流(I pump)により、測定室内に、測定室130内の「λ=1」の濃度に対応する酸素濃度が設定される。
【0021】
この電流の制御およびネルンスト電圧の評価は操作装置ないしは制御装置200が行う。この場合、演算増幅器220は、基準電極155にかかっているネルンスト電圧を測定し、且つこの電圧を、典型的には約450mVである基準電圧U Refと比較する。偏差がある場合、演算増幅器220は、抵抗210およびポンプ電極125、135を介してポンプ・セル120にポンプ電流を印加する。
【0022】
さらに、制御装置200の内部において、ヒータ160への電気ライン内に温度設定手段300が配置され、温度設定手段300は、ヒータに印加されている電圧を、したがって間接的にセンサの温度もまた、λセンサの作動のために適した方法で設定する。
【0023】
図2並びに図3にλセンサの可能な加熱方式が示され、ここで、図2にはセンサ表面における表面温度の線図が、また図3にはヒータに印加されている電圧の対応の線図が略図で示されている。
【0024】
図2および図3に例として示されている作動方式は、時点t_(Start)における内燃機関のスタート前にセンサの加熱を行う。センサ・エレメントの多孔層内に蓄積された凝縮水を加熱除去するために、センサ・エレメントは、ヒータ電圧U_(1)で、表面温度T_(1)=300℃に加熱される。加熱除去期間Δ_(taus)=t_(2)-t_(1)は、最大蓄積凝縮水量m_(K,max)、印加加熱電力P_(H,aus)および水の蒸発エンタルピーΔhvにより決定される。即ち次式が成立する。
【0025】

【0026】
加熱除去後に、センサ・エレメント表面は電圧U_(3)で衝撃抵抗温度T_(3)に加熱される。センサ・エレメントを直接包囲する保護管を加熱するために、加熱期間Δt_(H,SR)=t_(Start)-t_(3)の間加熱される。したがって、全予熱期間は、加熱除去期間Δt_(aus)、保護管加熱期間Δt_(H,SR)およびそれぞれの加熱傾斜期間t_(1)およびt_(3)-t_(2)から構成されている。
【0027】
最大温度は時点t_(TPE)における露点終端TPEに到達するまで保持される。その後に、センサ表面は電圧U_(2)で標準作動温度T_(2)に低下される。
ここで、原理的に他の温度経過もまた考えられる。特に、適切なセンサにおいては、場合により加熱除去が省略され且つ加熱除去過程なしに直接衝撃抵抗温度T_(3)に加熱されてもよい。」

カ 図1には、以下の図面が示されている。


キ 図2には、以下の図面が示されている。


(2)甲1号証に記載された発明の認定
上記(1)ア?キの記載を総合すると、甲1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「内燃機関の排気系内に設けられ、付属の操作装置(制御装置)200を備えた、ガス混合物内のガス成分の濃度を決定するためのガス・センサ100であって、ガス・センサは広帯域λセンサとして形成されており、下部領域内にヒータ160を、中間領域内にネルンスト・セル140を、および上部領域内にポンプ・セル120を含み、ポンプ・セル120の排気ガスに面している側は保護層110を有している、ガス・センサ100と、
制御装置200の内部において、ヒータ160への電気ライン内に温度設定手段300が配置され、温度設定手段300は、ヒータに印加されている電圧を、したがって間接的にセンサの温度もまた、λセンサの作動のために適した方法で設定するものであり、時点t_(Start)における内燃機関のスタート前にセンサの加熱を行い、センサ・エレメント表面は電圧U_(3)で衝撃抵抗温度T_(3)に加熱され、最大温度は時点t_(TPE)における露点終端TPEに到達するまで保持され、その後に、センサ表面は電圧U_(2)で標準作動温度T_(2)に低下されるものである、
ガス・センサの作動装置。」

(3)甲3号証の記載事項
甲3号証には、次の事項が記載されている(下線は参考のために当審で付した。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関から排出される燃焼排気中の特定ガス成分濃度を測定するガスセンサ素子及びこれを備えたガスセンサの耐久性、耐被水性強度向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン等の内燃機関の燃焼排気流路に、該燃焼排気中に含まれる酸素、窒素酸化物、アンモニア、水素等の特定ガス成分の濃度を検知するガスセンサを配設して、内燃機関の燃焼制御や排ガス浄化装置の制御を行っている。
このようなガスセンサとして、例えば、酸素センサの場合、平板状に形成された酸素イオン導伝性の固体電解質層と、該固体電解質層の一方の表面に形成されて被測定ガスに接する測定電極層と、該測定電極層側に形成されて上記被測定ガスを透過する多孔質拡散抵抗層と、上記固体電解質層の他方の表面に形成されて基準ガスに接する基準電極層と、該基準電極層側に形成されて上記基準ガスを導入する基準ガス室を有する基準ガス室形成層と、発熱体を内部に有する絶縁性の基体とを積層してなる積層型ガスセンサ素子が用いられている。
【0003】
一方、被測定流体としての燃焼排気中には、P、Ca、Zn、Si等のオイル含有成分やK、Na、Pb等のガソリン添加成分からなる被毒物質が含まれており、積層型ガスセンサ素子の測定電極層や多孔質拡散層がこれらの被毒物質に汚染されて、ガスセンサの応答性劣化や出力異常等の問題を引き起こす虞がある。
【0004】
また、燃焼排気中には、水蒸気も含まれており、これが凝縮して水滴となり積層型ガスセンサ素子に付着する虞もある。
加えて、このような積層型ガスセンサ素子は、固体電解質層を特定のイオンに対してイオン電導性を示すべく、内蔵された発熱体によって例えば700℃以上の高温に加熱され、活性化された状態で使用されている。
このため、被測定ガス中の存在する水滴の付着(被水)によって、積層型ガスセンサ素子に大きな熱衝撃が加わり素子の被水割れを生じる虞もある。
【0005】
そこで、被毒物質を捕獲して誤動作を防止すべく、被測定ガスに晒される拡散抵抗層の表面に所定膜厚の被毒トラップ層を形成したり(特許文献1参照)、水滴が付着したときにクラックが発生するのを防止すべく、ガスセンサ素子の外周面に所定膜厚の多孔質保護層を形成して、水滴を該多孔質保護層内に分散させて熱衝撃を緩和させたり(特許文献2参照)することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の被毒トラップ層は、被毒物質を確実に捕獲すべく比較的大きな比表面積を有する耐熱粒子を用いて形成されているため水滴を吸収し易くなっている。このため、ガスセンサ素子が高温に加熱されたときに被水割れを起こしたり、ガスセンサ素子を乾燥すべく発熱体に少電流を通電したときに、被毒トラップ層内に保持された水分によってガスセンサ素子の乾燥不足を招き、ガスセンサ素子を活性化すべく昇温したときの熱衝撃により素子割れを起こしたりする虞がある。
【0007】
そこで、本願発明は、かかる実情に鑑み、ガスセンサ素子を被毒物質から保護すると同時に被水割れからも保護する多孔質保護層を有して優れた耐久性を示すガスセンサ素子とこれを備えたガスセンサとを提供するものである。」

イ 「【0025】
本発明のガスセンサ素子は、自動車エンジン等の内燃機関から排出される燃焼排気流路に設けられ、該燃焼排気等の被測定ガス中に含まれる酸素、NOx、NH_(3)、HC(炭化水素)等の特定成分の濃度を検出し、内燃機関の燃焼制御や、燃焼排気処理装置の制御等に利用されるガスセンサに用いられるものである。
【0026】
本発明の第1の実施形態におけるガスセンサ素子10として、最も基本的な酸素センサを例に、図を参照しながら説明する。なお、図1(a)は、ガスセンサ素子10の要部断面図であり、本図(b)は、本図(a)中A部の詳細を示す拡大模式図である。
図1(a)に示すように、ガスセンサ素子10は、略平板状に形成されたセンサ部13とこれに積層して設けたヒータ部14とからなり、略長軸状に形成されており、その外周面が、接触角の異なる2種以上の耐熱粒子を含む混合体からなる多孔質保護層によって覆われている。
本発明の要部である多孔質保護層は、疎水性耐熱粒子160で形成された疎水性多孔質保護層16と親水性耐熱粒子170で形成された親水性多孔質保護層17とによって形成されている。
【0027】
センサ部13は、イットリア安定ジルコニア等の酸素イオン導電性固体電解質材料を用いて略平板状に形成された固体電解質層100と、固体電解質層100の被測定ガスに接する側の表面に形成された測定電極層120と、さらに測定電極層120側に積層して形成された被測定ガスを所定の拡散抵抗の下で透過する多孔質の拡散抵抗層150と、固体電解質層100の他方の表面に形成されて基準ガスとして導入される大気に接する基準電極層110と、基準電極層110の側に積層して形成されて基準ガスを導入する基準ガス室130を形成するための基準ガス室形成層131と、によって構成されている。測定電極層120と基準電極層110とからなる電極対と固体電解質層100とによって測定部であるセンサ部13を形成している。一方、センサ部13を加熱・活性化するヒータ部14は、平板状に成形した絶縁性の基体145、144の内側に積層して発熱体140が形成されている。
なお、センサ部13及びヒータ部14の角には、熱応力集中を避け、歪みを緩和すべく、長手方向にC面が形成されている。
図1(b)に示すように、疎水性多孔質保護層16は、疎水性耐熱粒子160が集合した多孔質体からなり、センサ部13及びセンサ部14の外周表面を覆っている。さらに、親水性多孔質保護層17は、親水性耐熱粒子170が集合した多孔質体からなり、疎水性多孔質保護層16の外周表面を覆っている。
【0028】
親水性耐熱粒子170は、例えば、アルミナAl_(2)O_(3)、スピネルMgO・Al_(2)O_(3)、シリカSiO_(2)、チタニアTiO_(2)のいずれかから選択される金属酸化物が用いられている。
親水性耐熱粒子170には、平均粒径10nmから0.2μm程度の粒径のものを用いることが可能で、そのBET比表面積は、10m^(2)/g以上100m^(2)/g以下となっている。また、親水性耐熱粒子170と水との真の接触角は30°以下であり、図2(a)に示すように、親水性多孔質保護層17と水滴との見かけの接触角は、20°以下であり、滴下した水滴が、速やかに親水性耐熱粒子170間に形成された細孔に毛管現象によって拡散するため、測定不可能な程小さくなっている。
【0029】
疎水性耐熱粒子160は、例えば、炭化硅素SiC、炭化タンタルTaC、炭化タングステンWC、炭化チタンTiCのいずれかから選択される金属炭化物、又は、窒化硅素Si_(3)N_(4)、窒化チタンTiNのいずれかから選択される金属窒化物、若しくは、ホウ化チタンTiB、ホウ化ジルコニウムZrB_(2)のいずれかから選択される金属硼化物のいずれかが用いられている。
疎水性耐熱粒子160には、平均粒径1μmから20μm程度の粒径のものを用いることが可能で、そのBET比表面積は、0.1m^(2)/g以上10m^(2)/g以下となっている。
また、疎水性耐熱粒子160と水との真の接触角は75°以上であり、 図2(b)に示すように、疎水性多孔質保護層16と水との接触角が大きいので、疎水性耐熱粒子160間に形成される細孔内に浸透することなく、疎水性多孔質保護層16の表面上に撥水される。
【0030】
このため、図2(c)に示すように、ガスセンサ素子10の表面に水滴が付着すると、疎水性多孔質保護層16内に浸透することなく親水性多孔質層17内を拡散する。このときガスセンサ素子10がヒータ部14への通電により加熱されていても、センサ部13及びヒータ部14に直接水滴が触れることがなく、親水性多孔質保護層17内で蒸発するので、センサ部13及びヒータ部14が被水割れを起こす虞がない。」

ウ 「【0042】
図7を参照して本発明の第3の実施形態におけるガスセンサ素子10aについて説明する。上記実施形態においては、疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170とを別々にガスセンサ素子10の表面に塗布した構成について説明したが、本実施形態においては、疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170とを混合したスラリーを用いて多孔質保護層を形成した点が相違する。本実施形態においても上記実施形態と同様に、ガスセンサ素子10a表面への水滴の侵入が阻止され被水割れを生じ難くできる。
本実施形態においては、図7に示すように、疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170との混合割合を、多孔質保護層の内側に向かって疎水性耐熱粒子160の割合が高くなり、多孔質保護層の外側に向かって親水性耐熱粒子170の割合が高くなるように形成してある。さらに、本実施形態においては、ガスセンサ素子10の被測定ガスに晒される部位の、ガスセンサ素子10の軸方向に対して、先端側に向かう程、疎水性耐熱粒子160の割合が高くなり、基端側に向かう程、親水性耐粒子170の割合が高くなるように形成してある。
具体的な多孔質保護層の製造方法として、例えば、多孔質保護層を形成するスラリーの濃度を変化させ、複数回に分けて塗布することによって本実施形態のように、多孔質保護層内で、疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170との存在割合に変化をつけることができる。
なお、本発明において多孔質保護層は、疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170との割合を、図7の実線で示したように連続的に変化させた構造でも良いし、点線で示したように、内層側を疎水性耐熱粒子160のみで構成し外層側を親水性耐熱粒子のみで構成した2層構造としても良いし、2点破線で示したように、最内側を疎水性耐熱粒子160のみで構成し中間層を疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170との混合層で構成し最外層を親水性耐熱粒子170のみで構成した3層構造、あるいは、それ以上の層に分けて疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170との割合を変化させた構成としても良い。」

エ 図1には、以下の図面が示されている。


オ 図7には、以下の図面が示されている。


(4)甲3号証に記載された発明の認定
上記(3)ア?オの記載を総合すると、甲3号証には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「内燃機関から排出される燃焼排気流路に設けられるガスセンサ素子であって、
ガスセンサ素子10は、略平板状に形成されたセンサ部13とこれに積層して設けたヒータ部14とからなり、その外周面が、接触角の異なる2種以上の耐熱粒子を含む混合体からなる多孔質保護層によって覆われており、
センサ部13は、固体電解質層100と、測定電極層120と、拡散抵抗層150と、基準電極層110と、基準ガス室形成層131と、によって構成されており、
多孔質保護層は、疎水性耐熱粒子160と親水性耐熱粒子170とを混合したスラリーを用いて形成されており、親水性耐熱粒子170は、例えば、アルミナAl_(2)O_(3)、スピネルMgO・Al_(2)O_(3)、シリカSiO_(2)、チタニアTiO_(2)のいずれかから選択される金属酸化物が用いられ、平均粒径10nmから0.2μm程度の粒径のものを用いることが可能で、そのBET比表面積は、10m^(2)/g以上100m^(2)/g以下となっており、疎水性耐熱粒子160は、例えば、炭化硅素SiC、炭化タンタルTaC、炭化タングステンWC、炭化チタンTiCのいずれかから選択される金属炭化物、又は、窒化硅素Si_(3)N_(4)、窒化チタンTiNのいずれかから選択される金属窒化物、若しくは、ホウ化チタンTiB、ホウ化ジルコニウムZrB_(2)のいずれかから選択される金属硼化物のいずれかが用いられ、平均粒径1μmから20μm程度の粒径のものを用いることが可能で、そのBET比表面積は、0.1m^(2)/g以上10m^(2)/g以下となっている、
ガスセンサ素子。」

(5)さらに、甲2号証には「加熱型空燃費検出器」(発明の名称)に関する技術的事項が記載され、甲4号証には「内燃機関の排気系制御システム」(発明の名称)に関する技術的事項が記載され、甲5号証には「凝集水検出装置及び凝集水検出方法並びに排気浄化装置」(発明の名称)に関する技術的事項が記載され、甲6号証には「ガスセンサ素子とガスセンサ」(発明の名称)に関する技術的事項が記載されている。

2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「内燃機関の排気系内」は、本件発明1の「内燃機関の排気通路」に相当し、甲1発明の「ネルンスト・セル140」及び「ポンプセル120」は、本件発明1の「センサ素子」に相当し、甲1発明の「ネルンスト・セル140」、「ポンプセル120」、「保護層110」を含むセンサ部分は、本件発明1の「ガスセンサ」に相当する。
また、甲1発明の「保護層110」は、「ポンプ・セル120の排気ガスに面している側」に設けられ、さらに、上記1(1)カに示されているように、「ポンプ・セル120」の表面に形成され、センサ全体の外表面を構成することが明らかであるから、甲1発明の当該「保護層110」と、本件発明1の「該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する多孔質保護層」とは、「該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する保護層」という点で共通する。
そうすると、甲1発明の当該「内燃機関の排気系内」に設けられた「ネルンスト・セル140」、「ポンプセル120」、「保護層110」を含むセンサ部分と、「内燃機関の排気通路に配置されたガスセンサであって、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する多孔質保護層と、を含むガスセンサ」とは、「内燃機関の排気通路に配置されたガスセンサであって、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する保護層と、を含むガスセンサ」という点で共通する。

(イ) 甲1発明の「下部領域内」の「ヒータ160」は、本件発明1の「前記ガスセンサに設けられ、前記センサ素子を加熱するヒータ部」に相当する。

(ウ) 甲1発明の「温度設定手段300」は、「ヒータに印加されている電圧を、したがって間接的にセンサの温度もまた、λセンサの作動のために適した方法で設定するもの」であるから、本件発明1の「前記ヒータ部を通電制御するヒータ制御部」に相当する。

(エ) 甲1発明の「衝撃抵抗温度T_(3)」、「標準作動温度T_(2)」は、本件発明1の「所定の始動温度」、「センサ素子の活性化温度」に相当する。
そして、甲1発明の「温度設定手段300」は、具体的には、上記3(1)キの図2に示されているように、「時点t_(Start)における内燃機関のスタート」時に、「センサ」が「衝撃抵抗温度T_(3)」となるように「加熱」し、「その後に」「動作作動温度T_(2)に低下」させるものであるから、甲1発明の当該温度制御を行う「温度設定手段300」は、本件発明1の「前記内燃機関の始動時に、前記センサ素子の温度が所定の始動温度となるように、前記ヒータ部への通電を行う始動時通電処理と、前記始動時通電処理の後、前記センサ素子の温度が該センサ素子の活性化温度に維持されるように、前記ヒータ部への通電を行う通常通電処理とを実行し得るように構成されており、前記始動時通電処理における前記始動温度は、前記通常通電処理における制御温度よりも高い温度に設定されている」「ヒータ制御部」に相当するものである。

(オ) 甲1発明の「ガス・センサの作動装置」は、本件発明1の「ガスセンサ制御装置」に相当する。

イ 以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「内燃機関の排気通路に配置されたガスセンサであって、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する保護層と、を含むガスセンサと、
前記ガスセンサに設けられ、前記センサ素子を加熱するヒータ部と、
前記ヒータ部を通電制御するヒータ制御部と
を備え、
ここで前記ヒータ制御部は、
前記内燃機関の始動時に、前記センサ素子の温度が所定の始動温度となるように、前記ヒータ部への通電を行う始動時通電処理と、
前記始動時通電処理の後、前記センサ素子の温度が該センサ素子の活性化温度に維持されるように、前記ヒータ部への通電を行う通常通電処理と
を実行し得るように構成されており、
前記始動時通電処理における前記始動温度は、前記通常通電処理における制御温度よりも高い温度に設定されている、ガスセンサ制御装置。」

(相違点)
「保護層」について、本件発明1は、「多孔質保護層」であり、「前記多孔質保護層は、多数のセラミックス粒子が結合した多孔質体により構成されており、前記多孔質保護層を構成する前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であるセラミックス粒子のみ」であるのに対して、甲1発明は、そのような構成を有するか不明である点。

ウ 上記(相違点)について判断する。
甲3号証には、甲3発明が記載されているものの、甲3発明における「親水性耐熱粒子170」及び「疎水性耐熱粒子160」の平均粒径は、「10nmから0.2μm程度」及び「1μmから20μm程度」であって、これら「親水性耐熱粒子170」及び「疎水性耐熱粒子160」を混合した粒子の集合が、「平均粒径が12μm以下」の粒子「のみ」になるとまではいえない。
同様に、甲3発明における「親水性耐熱粒子170」及び「疎水性耐熱粒子160」の「比表面積」は、「10m^(2)/g以上100m^(2)/g以下」及び「0.1m^(2)/g以上10m^(2)/g以下」であって、これら「親水性耐熱粒子170」及び「疎水性耐熱粒子160」を混合した粒子の集合が、「比表面積が20m^(2)/g以下」の粒子「のみ」になるとまではいえない。
したがって、甲3発明は、上記(相違点)に関する技術的事項を有するものとはいえず、甲1発明において、甲3発明を採用しても、本件発明1とはならない。
また、甲1発明において、「保護層」として上記(相違点)の構成を採用することは、単なる設計的事項ともいえない。

エ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、訂正事項により追加された技術的事項は、甲3号証の段落【0028】?【0029】、【0042】及び図7に記載されていると主張しているが、上記ウで判断したとおり、甲3号証には、上記(相違点)に関する技術的事項が記載されているとはいえない。また、親水性及び疎水性等、性質が全く異なり、その平均粒径及び比表面積の数値範囲が異なるものとして規定された2種類の粒子を混合し、混合された粒子についての平均粒径及び比表面積を1つの数値範囲として規定することは、当業者にとって自明ではない。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項1に係る発明は、甲2号証に記載された発明(以下、「甲2発明」という。)及び甲3号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを主張している。
しかしながら、甲2発明は、甲1発明と同様にセンサの加熱制御に関する発明であって、甲2発明も上記(相違点)に関する技術的事項を有するものとはいえない。また、上記2(1)ウで検討したとおり、甲3号証にも、上記(相違点)に関する技術的事項は記載されていない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

4 小括
よって、本件発明1は、甲1発明?甲3発明並びに甲1?6号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。
また、本件発明2?9に係る発明は、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明?甲3発明並びに甲1?6号証に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されたガスセンサであって、センサ素子と、該センサ素子の少なくとも一部の表面に形成され且つ該ガスセンサの外表面を構成する多孔質保護層と、を含むガスセンサと、
前記ガスセンサに設けられ、前記センサ素子を加熱するヒータ部と、
前記ヒータ部を通電制御するヒータ制御部と
を備え、
前記多孔質保護層は、多数のセラミックス粒子が結合した多孔質体により構成されており、
前記多孔質保護層を構成する前記セラミックス粒子は、レーザ散乱法に基づく平均粒径が12μm以下であり、かつ、窒素吸着法に基づく比表面積が20m^(2)/g以下であるセラミックス粒子のみであり、
ここで前記ヒータ制御部は、
前記内燃機関の始動時に、前記センサ素子の温度が所定の始動温度となるように、前記ヒータ部への通電を行う始動時通電処理と、
前記始動時通電処理の後、前記センサ素子の温度が該センサ素子の活性化温度に維持されるように、前記ヒータ部への通電を行う通常通電処理と
を実行し得るように構成されており、
前記始動時通電処理における前記始動温度は、前記通常通電処理における制御温度よりも高い温度に設定されている、ガスセンサ制御装置。
【請求項2】
前記始動時通電処理における始動温度は、前記センサ素子の活性化温度以上の温度に設定されている、請求項1に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項3】
前記始動時通電処理における始動温度は、750℃?900℃の範囲内に設定されている、請求項2に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項4】
前記排気通路には、温度センサが配置されており、
前記ヒータ制御部は、前記温度センサに電気的に接続されており、
ここで前記ヒータ制御部は、前記始動時通電処理を実施している間に、前記温度センサによって前記排気通路内の温度を測定し、
当該温度の測定値が所定の基準値を超えた場合に、前記始動時通電処理を終了するように構成されている、請求項1?3の何れか一つに記載のガスセンサ制御装置。
【請求項5】
前記始動時通電処理の温度に対する基準値は、100℃?150℃の範囲内に設定された値である、請求項4に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項6】
前記ヒータ制御部は、前記始動時通電処理の継続時間が所定の基準値を上回った場合に、前記始動時通電処理を終了するように構成されている、請求項1?3の何れか一つに記載のガスセンサ制御装置。
【請求項7】
前記始動時通電処理の継続時間に対する基準値は、400秒?600秒の範囲内に設定された値である、請求項6に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項8】
前記多孔質保護層の最大厚みが、80μm以下である、請求項1?7の何れか一つに記載のガスセンサ制御装置。
【請求項9】
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒を該内燃機関の排気通路に配置した排ガス浄化装置であって、
請求項1?8の何れかに記載のガスセンサ制御装置を備える、排ガス浄化装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-11 
出願番号 特願2012-91961(P2012-91961)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
田中 洋介
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5783424号(P5783424)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 ガスセンサ制御装置  
代理人 福富 俊輔  
代理人 安部 誠  
代理人 福島 俊輔  
代理人 安部 誠  

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