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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1323480
異議申立番号 異議2016-700188  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-02 
確定日 2016-11-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5774006号発明「組成物、この組成物からなる表示デバイス端面シール剤用組成物、表示デバイス、およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5774006号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正することを認める。 特許第5774006号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5774006号(請求項の数は16。以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成23年7月29日(優先権主張 平成22年7月29日)に出願され、平成27年7月10日に特許の設定登録がされ、同年9月2日に特許公報が発行され、その後、平成28年3月2日(受理日:同年3月4日)に、本件特許の請求項1ないし13に係る特許に対し、特許異議申立人 山口慎太郎(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年6月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年8月19日(受理日:同年8月22日)に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正」という。)があり、さらに平成28年10月6日(受理日:同年10月11日)で異議申立人から特許法第120条の5第5項に基づく意見書の提出があったものである。


第2 本件訂正について

1.本件訂正の内容
本件訂正による訂正の内容は、特許請求の範囲の請求項1に
「 【請求項1】
(1)23℃において液状のエポキシ樹脂と、
(2)酸無水物と、分子内に2以上のメルカプト基を有するチオール化合物とからなる群より選ばれ、23℃において液状のエポキシ樹脂硬化剤と、
(3)23℃において固体である2級アミンもしくは3級アミン、または2級アミンもしくは3級アミンを内包するマイクロカプセルと、
(4)フィラーと、
を含む樹脂組成物であって、
前記23℃において固体である2級アミンまたは3級アミンは、融点が60?180℃である、イミダゾール化合物および変性ポリアミンからなる群より選ばれる微粒子であり、かつ該微粒子の平均粒子径が0.1?10μmであり、
前記マイクロカプセルは、イミダゾール化合物および変性ポリアミンからなる群より選ばれる一以上の2級アミンまたは3級アミンからなるコアと、前記2級アミンまたは3級アミンを内包し、融点が60?180℃であるカプセル壁とを有し、
かつ前記マイクロカプセルの平均粒子径が0.1?10μmであり、
前記(4)成分の含有量が、前記(1)成分、前記(2)成分および前記(3)成分の合計100重量部に対して、50?150重量部であり、
E型粘度計により測定される、25℃、2.5rpmにおける粘度が0.5?50Pa・sである、表示デバイス端面シール剤用組成物。」
とあるのを、
「 【請求項1】
表示素子とそれを挟持する一対の基板とを有する積層体の周縁部に形成された前記一対の基板の端部同士の隙間に充填するための表示デバイス端面シール剤用組成物であって、
(1)23℃において液状のエポキシ樹脂と、
(2)酸無水物と、分子内に2以上のメルカプト基を有するチオール化合物とからなる群より選ばれ、23℃において液状のエポキシ樹脂硬化剤と、
(3)2級アミンもしくは3級アミンを内包するマイクロカプセルと、
(4)フィラーと、
を含む樹脂組成物であって、
前記マイクロカプセルは、イミダゾール化合物および変性ポリアミンからなる群より選ばれる一以上の2級アミンまたは3級アミンからなるコアと、前記2級アミンまたは3級アミンを内包し、融点が60?180℃であるカプセル壁とを有し、
かつ前記マイクロカプセルの平均粒子径が0.1?10μmであり、
前記(4)成分の含有量が、前記(1)成分、前記(2)成分および前記(3)成分の合計100重量部に対して、50?150重量部であり、
E型粘度計により測定される、25℃、2.5rpmにおける粘度が0.5?50Pa・sである、表示デバイス端面シール剤用組成物。」
に訂正するというものである。

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、
(1)表示デバイス端面シール剤用組成物の用途を「表示素子とそれを挟持する一対の基板とを有する積層体の周縁部に形成された前記一対の基板の端部同士の隙間に充填するため」のものと限定するものであり、また、
(2)表示デバイス端面シール剤用組成物を構成する成分の(3)を「23℃において固体である2級アミンもしくは3級アミン、または2級アミンもしくは3級アミンを内包するマイクロカプセル」から「2級アミンもしくは3級アミンを内包するマイクロカプセル」に特定するものであるので、
特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、請求項1ないし16は一群の請求項であり、本件訂正は一群の請求項ごとにされたものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.独立特許要件
本件訂正は、請求項1と一群のものである請求項14ないし16も訂正するものである。請求項14ないし16は、特許異議の申立てがされていない請求項であるので、請求項14ないし16に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合することが必要である。
後記の第5のとおり、取消理由1、取消理由2によって、請求項14ないし16が直接あるいは間接に引用する請求項1に係る特許を取り消すことができないし、また他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由もない。そして、請求項14ないし16でのみ記載される事項に請求項14ないし16に係る特許を取り消すべき理由があるものとも認めることができない。
以上のとおりであるので、訂正後の請求項14ないし16に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を見いだすことはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正による請求項1ないし13に係る訂正は特許法第120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、本件訂正による請求項14ないし16に係る訂正は特許法第120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5ないし7項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1ないし16]について訂正を認める。


第3 本件発明

上記第2 4.のとおり、本件訂正による訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明13」という。)は、平成28年8月19日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
表示素子とそれを挟持する一対の基板とを有する積層体の周縁部に形成された前記一対の基板の端部同士の隙間に充填するための表示デバイス端面シール剤用組成物であって、
(1)23℃において液状のエポキシ樹脂と、
(2)酸無水物と、分子内に2以上のメルカプト基を有するチオール化合物とからなる群より選ばれ、23℃において液状のエポキシ樹脂硬化剤と、
(3)2級アミンもしくは3級アミンを内包するマイクロカプセルと、
(4)フィラーと、
を含む樹脂組成物であって、
前記マイクロカプセルは、イミダゾール化合物および変性ポリアミンからなる群より選ばれる一以上の2級アミンまたは3級アミンからなるコアと、前記2級アミンまたは3級アミンを内包し、融点が60?180℃であるカプセル壁とを有し、
かつ前記マイクロカプセルの平均粒子径が0.1?10μmであり、
前記(4)成分の含有量が、前記(1)成分、前記(2)成分および前記(3)成分の合計100重量部に対して、50?150重量部であり、
E型粘度計により測定される、25℃、2.5rpmにおける粘度が0.5?50Pa・sである、表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項2】
前記組成物の水分含有量が0.5重量%以下である、請求項1に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項3】
前記フィラーは、無機フィラーと、有機フィラーとを含む、請求項1又は2に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項4】
前記フィラーは、平均粒子径が0.1?20μmの球状フィラーである、請求項1?3のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項5】
前記23℃において液状のエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、およびポリサルファイド変性エポキシ樹脂からなる群より選ばれる一以上である、請求項1?4のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項6】
前記(3)成分/前記(2)成分の含有比が、重量比で0.2?1.2である、請求項1?5のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項7】
前記有機フィラーは、
融点または軟化点が60?120℃である、シリコン微粒子、アクリル微粒子、スチレン微粒子、およびポリオレフィン微粒子からなる群より選ばれる一種類以上の微粒子、またはカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、変性マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックスおよび変性フィッシャートロプッシュワックスからなる群より選ばれる一種類以上のワックスである、請求項3に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項8】
前記組成物を、80℃で60分間加熱硬化させて得られる厚さ100μmのフィルムの、DMSにより5℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度Tgが30?110℃である、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項9】
前記組成物を、80℃で60分間加熱硬化させて得られる厚さ100μmのフィルムの、DMSにより5℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度Tgが10?40℃である、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項10】
前記表示デバイスが、電気泳動方式により情報を表示するデバイスである、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項11】
前記表示デバイスが、電子ペーパーである、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項12】
表示素子と、
前記表示素子を挟持する一対の基板と、
前記一対の基板の周縁部に形成される前記一対の基板同士の隙間を封止する請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物の硬化物と、を有する、表示デバイス。
【請求項13】
前記一対の基板は、一方がガラス基板、他方が樹脂シートであり、
前記硬化物は、厚さ100μmとした際のDMSにより5℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度Tgが30?110℃である、請求項12に記載の表示デバイス。」


第4 取消理由

当審において平成28年6月16日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

「1.本件の請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.本件の請求項1ないし13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



甲第2号証:特開2006-228708号公報(以下、甲2という。)
甲第4号証:特開2009- 80149号公報(周知文献)(以下、甲4という。) 」


第5 当合議体の判断

1.甲2の記載
(1)
「【請求項1】
(A)エポキシ基を分子内に少なくとも1個含有する化合物100重量部に対して
(B)酸無水物硬化剤 50?1000重量部
(C)硬化促進剤 0.01?20重量部
を含有し、粘度が100?10000mPa・sの範囲にあることを特徴とする有機ELシール材。
【請求項2】
前記(B)成分中に、(B-1)酸無水物を分子内に少なくとも1個含有するポリマーを50?1000重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の有機ELシール材。
【請求項3】
前記(A)100重量部に対して、(D)シランカップリング剤を0?30重量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の有機ELシール材。
【請求項4】
前記(A)100重量部に対して、(E)無機微粒子フィラーを0?500重量部含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の有機EL用シール材。」(特許請求の範囲【請求項1】?【請求項4】)

(2)
「[(A)エポキシ基を分子内に少なくとも1個含有する化合物]
本発明における(A)エポキシ基を分子内に少なくとも1個含有する化合物は、官能基としてエポキシ基を1分子中に少なくとも1個含有する化合物を使用する。(A)成分の具体的な例として次の化合物が挙げられる。フェニルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、エチルジエチレングリコールグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエングリシジルエーテル、2-ヒドロキシエチルグリシジルエーテル等の1官能性エポキシ化合物、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル等の2官能性エポキシ化合物、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ等の多官能エポキシ化合物が挙げられる。」(段落【0009】)

(3)
「[(B)酸無水物硬化剤]
本発明の(B)酸無水物硬化剤は、有機EL素子の耐熱温度である80?120℃もしくはそれ以下の温度で硬化可能なものを用いることが望ましい。具体的な例としては、無水フタル酸やテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸などの酸無水物系硬化剤である。」(段落【0021】)

(4)
「[(C)硬化促進剤]
一般的に酸無水物を用いた硬化系では硬化温度が150℃程度と高く、有機EL用シール剤としてはより低温での硬化が望まれる。そこで本発明では、(C)硬化促進剤を併用することにより硬化性を向上し、有機EL素子の耐熱温度である80?120℃程度で硬化可能なシール剤を実現している。本発明の硬化促進剤は、ベンジルジメチルアミンや2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第三アミン化合物、2-メチルイミダゾールや2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物などを用いることが出来るが、その他ルイス塩基化合物ならば使用することが出来る。」(段落【0025】)

(5)
「[(E)微粒子無機フィラー]
本発明の有機EL用シール材には、任意成分(E)微粒子無機フィラーを添加することが出来る。微粒子無機フィラーとは、一次粒子の平均径が0.005?10μmの無機フィラーである。具体的には、シリカ、タルク、アルミナ、ウンモ、炭酸カルシウム等が挙げられる。微粒子無機フィラーは、表面未処理のもの、表面処理したものともに使用できる。表面処理した微粒子無機フィラーとして、例えば、メトキシ基化、トリメチルシリル基化、オクチルシリル基化、又はシリコーンオイルで表面処理した微粒子無機フィラー等が挙げられる。これらの成分は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の樹脂組成物における(E)微粒子無機フィラーの成分の含有割合は、シール材に要求される透明性や粘度によって調整する必要があるが、前記(A)100重量部に対して、0?500重量部含有することにより、耐透湿性、接着力、揺変性付与等に効果が得られる。
[その他添加物]
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲においてその他樹脂成分、充填剤、改質剤、安定剤等その他成分を含有させることができる。
<他の樹脂成分>
他の樹脂成分としては、たとえば、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジェン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン-ブタジェン-スチレンブロック共重合体、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂、フッ素系オリゴマー、シリコン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー等が挙げられる。これらは、1種単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。
<充填剤>
充填剤としては、たとえば、ガラスビーズ、スチレン系ポリマー粒子、メタクリレート系ポリマー粒子、エチレン系ポリマー粒子、プロピレン系ポリマー粒子等が挙げられる。これらは、1種単独でも複数種を組み合わせて使用してもよい。」(段落【0029】?【0031】)

(6)
「[樹脂組成物の調整]
本発明の全面封止に適した有機ELシール材は、各組成物を均一に混合するように調製する。粘度は樹脂の配合比やその他の成分の添加により調整できる。その粘度は全面封止に適した作業性の観点から、100?10000mPa・sの範囲にあることを特徴とする。好ましくは、500?8000mPa・sの範囲である。ここで粘度測定は25℃でE型粘度計(東機産業製 RC-500)によって測定されたものである。
前記各原料を混合し、シール材組成物を得る際に、トップエミッション方式で用いるシール材の場合、可視光領域で高い透明性が要求される。シール材を透明にするためには、各原料に着色の無いものを選択して用い、微粒子無機フィラーを用いる場合にはエポキシ樹脂など有機成分と屈折率を合わせたり、無機微粒子フィラーの粒径を可視光の波長よりも十分に小さくしたりすることで光散乱をなくし、透明性を確保すればよい。
[シール方法]
本発明のシール材は、基板上に形成された有機EL素子上に直接、または無機薄膜などの保護膜を介して有機EL素子全面を覆うように硬化物を形成して用いる全面封止用有機ELシール材に好適である。シール材のディスプレイ基材への塗布方法は、均一にシール材が塗布できれば塗布方法に制限はない。例えばスクリーン印刷やディスペンサーを用いて塗布する方法等公知の方法により実施すればよい。また、樹脂製フィルムやガラス板、金属板など防湿性に優れた板状の部材を封止板として用い、ディスプレイ基板と封止板の間にシール材を充填する形態で使用することも可能である。シール剤を塗布後、加熱してシール剤を硬化させる。硬化条件としては、例えば100℃の恒温槽内で1時間保管することで硬化する。」(段落【0034】?【0035】)

2.甲2記載の発明
上記1.(1)の特に請求項1の記載、上記1.(5)の特に微粒子無機フィラーについての記載、上記1.(6)の粘度の測定法についての記載より、甲2には、
「(A)エポキシ基を分子内に少なくとも1個含有する化合物 100重量部
(B)酸無水物硬化剤 50?1000重量部
(C)硬化促進剤 0.01?20重量部
(E)任意成分としての微粒子無機フィラー 0?500重量部
を含有し、25℃でE型粘度計によって測定された粘度が100?10000mPa・sの範囲にある有機ELシール材。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3.甲第4号証の記載
(1)
「【請求項1】
粒子で構成された表示媒体を、少なくとも一方が透明な2枚の基板間の隔壁で形成されたセル空間に封入し、表示媒体を電気的に駆動させることによって画像等の情報表示を書換えできる情報表示用パネルにおいて、
前記情報表示用パネルの情報表示領域の外周部に設けたシール剤の発熱ピーク温度が、前記情報表示領域に形成した隔壁に配置した接着剤の発熱ピーク温度より低く、温度差が40℃以内であることを特徴とする情報表示用パネル。
【請求項2】
前記シール剤の主成分が、熱硬化型エポキシ樹脂であり、
前記接着剤の主成分が、紫外線硬化型樹脂と熱硬化型樹脂との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の情報表示用パネル。」(特許請求の範囲の請求項1、2)

(2)
「液晶表示装置(LCD)に代わる情報表示装置として、帯電粒子を液体中で駆動させる方式(電気泳動方式)の情報表示装置や、帯電粒子を気体中で駆動させる方式(例えば、電子粉流体方式)の他、導電粒子や半導体粒子を気体中で駆動させる方式の情報表示装置が知られている。」(段落【0002】)

(3)
「以下、本発明の情報表示用パネルを構成する各部材について説明する。
基板については、少なくとも一方の基板(表示面側基板)は情報表示用パネル外側から表示媒体の色が確認できる透明な基板であり、可視光の透過率が高くかつ耐熱性の良い材料が好適である。背面側基板は透明でも不透明でもかまわない。基板材料を例示すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、アクリル等の有機高分子系基板やガラスやセラミックス等の無機系基板を用いる。基板の厚みは、2?5000μmが好ましく、さらに5?2000μmが好適であり、薄すぎると、強度、基板間の間隔均一性を保ちにくくなり、5000μmより厚いと、薄型情報表示用パネルとする場合に不都合がある。」(段落【0022】?【0023】)

(4)
「本発明の情報表示用パネルは、ノートパソコン、電子手帳、PDA(Personal Digital Assistants)と呼ばれる携帯型情報機器、携帯電話、ハンディーターミナル等のモバイル機器の表示部、電子書籍、電子新聞、電子マニュアル(取扱説明書)等の電子ペーパー、看板、ポスター、黒板(ホワイトボード)等の掲示板、電子卓上計算機、家電製品、自動車用品等の表示部、ポイントカード、ICカード等のカード表示部、電子広告、情報ボード、電子POP(Point Of Presence、Point Of Purchase advertising)、電子値札、電子棚札、電子楽譜、RF-ID機器の表示部のほか、POS端末、カーナビゲーション装置、時計など様々な電子機器の表示部に好適に用いられる他、書き換え装置に装着して表示書き換えを行うリライタブルペーパーとしても好適に用いられる。」(段落【0046】)

4.本件特許発明1について
(1)引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「(A)エポキシ基を分子内に少なくとも1個含有する化合物」は上記1.(2)からビスフェノール型エポキシ樹脂等を包含したものであり、本件明細書段落【0020】で列挙されているものと重複するから、本件特許発明1の「(1)23℃において液状のエポキシ樹脂」に相当する。
引用発明の「(B)酸無水物硬化剤」は上記1.(3)から無水フタル酸等を包含したものであり、本件明細書段落【0028】で列挙されているものと重複するから、本件特許発明1の「(2)酸無水物」である「23℃において液状のエポキシ樹脂硬化剤」に相当する。
引用発明の「(C)硬化促進剤」は上記1.(4)からイミダゾール化合物等を包含したものであり、本件明細書段落【0037】?【0040】において列挙されているものと重複するから、本件特許発明1の「(3)2級アミンもしくは3級アミン」に相当する。
引用発明の「(E)微粒子無機フィラー」は上記1.(5)から無機フィラーのタルク等を包含したものであり、本件明細書段落【0052】?【0053】に列挙されているものと重複するから、本件特許発明1の「(4)フィラー」に相当する。
よって、本件特許発明1と引用発明とは、
「(1)23℃において液状のエポキシ樹脂と、
(2)酸無水物である23℃において液状のエポキシ樹脂硬化剤と、
(3)2級アミンもしくは3級アミンと、
(4)フィラーと、
を含む樹脂組成物であって、
前記(4)成分の含有量が、前記(1)成分、前記(2)成分および前記(3)成分に対して、範囲が特定され、
E型粘度計により測定される、25℃における粘度が特定されたものである、樹脂組成物。」
である点で一致し、
以下の点で相違している。

ア 相違点1
「(3)2級アミンもしくは3級アミン」に関し、本件特許発明1では、「マイクロカプセル」に内包され、該マイクロカプセルは、「イミダゾール化合物および変性ポリアミンからなる群より選ばれる一以上の2級アミンまたは3級アミンからなるコアと、前記2級アミンまたは3級アミンを内包し、融点が60?180℃であるカプセル壁とを有」することが特定されているのに対し、引用発明では「イミダゾール化合物」であることは特定されているものの、マイクロカプセルに内包されていない点。

イ 相違点2
「(4)成分の含有量」に関し、本件特許発明1では、「(1)成分」、「(2)成分」および「(3)成分」の「合計100重量部に対して、50?150重量部であ」るのに対し、引用発明では、「(4)成分の含有量 0?500重量部」が「(1)成分 100重量部」との相対的な量で特定されており、さらに「(2)成分 50?1000重量部」および「(3)成分 0.01?20重量部」それぞれが「(1)成分 100重量部」との相対的な量で特定されている点。

ウ 相違点3
E型粘度計により測定される、25℃における粘度について、本件特許発明1では「2.5rpm」における条件として「0.5?50Pa・s」であるのに対し、引用発明では、粘度計の回転数条件が不明ながら「100?10000mPa・s(=0.1?10Pa・s)」と特定されている点。

エ 相違点4
組成物の用途に関し、本件特許発明1では「表示素子とそれを挟持する一対の基板とを有する積層体の周縁部に形成された前記一対の基板の端部同士の隙間に充填するための表示デバイス端面シール剤」であるのに対し、引用発明では「有機ELシール材」である点。

(3)相違点1ないし4についての判断
ア 相違点1
引用発明の「2級アミンもしくは3級アミン」に関して、甲2には硬化促進剤として上記の1.(4)の記載はあるが、硬化促進剤である「2級アミンもしくは3級アミン」をマイクロカプセルに内包して使用することは、記載されていないし、それを示唆するような記載もない。また、硬化促進剤である「2級アミンもしくは3級アミン」をマイクロカプセルに内包して使用することが当該技術分野の技術常識であるとは認めることができないし、そのようにして使用する動機付けがあるものとも認めることができない。
この点に関して、異議申立人は、「甲第3号証(特開2009-51954号公報)の段落[0019]には、エポキシ硬化促進剤は可使時間延長の点からマイクロカプセル化された潜在性硬化促進剤であることが好ましいことが開示されています」(平成28年10月6日付けの意見書3.(2-1))と主張する。しかしながら、甲2において引用発明の「硬化促進剤」の「可使時間」を延長させる動機付けとなる記載があるとは認めることができないから、引用発明の「硬化促進剤」をマイクロカプセルに内包させて使用することを当業者が容易に想到するとすることはできない。
イ 相違点4
引用発明の組成物の用途に関して、甲2の「本発明のシール材は、基板上に形成された有機EL素子上に直接、または無機薄膜などの保護膜を介して有機EL素子全面を覆うように硬化物を形成して用いる全面封止用有機ELシール材に好適である。シール材のディスプレイ基材への塗布方法は、均一にシール材が塗布できれば塗布方法に制限はない。」(上記の1.(6))の記載から、引用発明はディスプレイ基材への適用も意図しているとはいえる。
しかしながら、引用発明は、甲2の上記の記載から、全面を覆うように塗布して用いることを前提としているものと解するのが自然である。その点で、甲2には、「ディスプレイ基板と封止板の間にシール材を充填する形態で使用する」との記載はあるが、「ディスプレイ基板と封止板の間」の全面にシール剤を充填すると解するべきであって、本願発明1のような「周縁部」に用いることを示すものでもないし、それを示唆するものでもない。さらに、そのようにして使用する動機付けがあるものとも認めることができない。

(4)まとめ
相違点2及び相違点3について検討するまでもなく、相違点1及び相違点4の点で、本件特許発明1は引用発明ではなく、また、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、取消理由1、取消理由2によって、本件特許発明1を取り消すことができない。

5.本件特許発明2ないし13
請求項2ないし13は、直接または間接に、請求項1を引用するものである。

(1)上記4.のとおり、本件特許発明1は引用発明ではないから、本件特許発明2ないし9も、同様に、引用発明ではないから、取消理由1によって、本件特許発明2ないし9を取り消すことができない。

(2)上記4.のとおり、本件特許発明1は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないのであるから、本件特許発明2ないし13も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、取消理由2によって、本件特許発明2ないし13を取り消すことができない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由1、取消理由2によっては、本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示素子とそれを挟持する一対の基板とを有する積層体の周縁部に形成された前記一対の基板の端部同士の隙間に充填するための表示デバイス端面シール剤用組成物であって、
(1)23℃において液状のエポキシ樹脂と、
(2)酸無水物と、分子内に2以上のメルカプト基を有するチオール化合物とからなる群より選ばれ、23℃において液状のエポキシ樹脂硬化剤と、
(3)2級アミンもしくは3級アミンを内包するマイクロカプセルと、
(4)フィラーと、
を含む樹脂組成物であって、
前記マイクロカプセルは、イミダゾール化合物および変性ポリアミンからなる群より選ばれる一以上の2級アミンまたは3級アミンからなるコアと、前記2級アミンまたは3級アミンを内包し、融点が60?180℃であるカプセル壁とを有し、
かつ前記マイクロカプセルの平均粒子径が0.1?10μmであり、
前記(4)成分の含有量が、前記(1)成分、前記(2)成分および前記(3)成分の合計100重量部に対して、50?150重量部であり、
E型粘度計により測定される、25℃、2.5rpmにおける粘度が0.5?50Pa・sである、表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項2】
前記組成物の水分含有量が0.5重量%以下である、請求項1に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項3】
前記フィラーは、無機フィラーと、有機フィラーとを含む、請求項1又は2に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項4】
前記フィラーは、平均粒子径が0.1?20μmの球状フィラーである、請求項1?3のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項5】
前記23℃において液状のエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、およびポリサルファイド変性エポキシ樹脂からなる群より選ばれる一以上である、請求項1?4のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項6】
前記(3)成分/前記(2)成分の含有比が、重量比で0.2?1.2である、請求項1?5のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項7】
前記有機フィラーは、
融点または軟化点が60?120℃である、シリコン微粒子、アクリル微粒子、スチレン微粒子、およびポリオレフィン微粒子からなる群より選ばれる一種類以上の微粒子、またはカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、変性マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックスおよび変性フィッシャートロプッシュワックスからなる群より選ばれる一種類以上のワックスである、請求項3に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項8】
前記組成物を、80℃で60分間加熱硬化させて得られる厚さ100μmのフィルムの、DMSにより5℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度Tgが30?110℃である、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項9】
前記組成物を、80℃で60分間加熱硬化させて得られる厚さ100μmのフィルムの、DMSにより5℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度Tgが10?40℃である、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項10】
前記表示デバイスが、電気泳動方式により情報を表示するデバイスである、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項11】
前記表示デバイスが、電子ペーパーである、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物。
【請求項12】
表示素子と、
前記表示素子を挟持する一対の基板と、
前記一対の基板の周縁部に形成される前記一対の基板同士の隙間を封止する請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物の硬化物と、を有する、表示デバイス。
【請求項13】
前記一対の基板は、一方がガラス基板、他方が樹脂シートであり、
前記硬化物は、厚さ100μmとした際のDMSにより5℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度Tgが30?110℃である、請求項12に記載の表示デバイス。
【請求項14】
前記一対の基板は、両方ともにガラス基板又は樹脂シートであり、
前記硬化物は、厚さ100μmとした際のDMSにより5℃/分の昇温速度で測定される、ガラス転移温度Tgが10?40℃である、請求項12に記載の表示デバイス。
【請求項15】
前記一対の基板同士の隙間が、20?500μmである、請求項12?14のいずれか一項に記載の表示デバイス。
【請求項16】
表示素子と、前記表示素子を挟持する一対の基板と、を有する積層体を得るステップと、
前記積層体の周縁部に形成された前記一対の基板同士の隙間に、請求項1?7のいずれか一項に記載の表示デバイス端面シール剤用組成物を塗布または滴下するステップと、
前記塗布または滴下した表示デバイス端面シール剤を硬化するステップと、
を有する、表示デバイスの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-01 
出願番号 特願2012-526335(P2012-526335)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C08G)
P 1 652・ 121- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
守安 智
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5774006号(P5774006)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 組成物、この組成物からなる表示デバイス端面シール剤用組成物、表示デバイス、およびその製造方法  
代理人 鷲田 公一  
代理人 鷲田 公一  

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