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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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異議2015700283 | 審決 | 特許 |
異議2017700431 | 審決 | 特許 |
異議2017701099 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08B |
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管理番号 | 1323511 |
異議申立番号 | 異議2016-700981 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-10-12 |
確定日 | 2016-12-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5902697号発明「新規なセルロースエーテルおよびその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5902697号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5902697号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2011年10月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年10月12日(US)米国)を国際出願日として特許出願され、平成28年3月18日に特許権の設定登録がされ、同年4月13日にその特許公報が発行され、その後、同年10月12日に特許異議申立人信越化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月4日に特許異議申立人より上申書が提出されたものである。 第2 本件発明 特許第5902697号の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】エーテル置換基が、メチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意にメチルとは異なるアルキル基である、セルロースエーテルであって、 該セルロースエーテルが、MS(ヒドロキシアルキル)0.05?1.00を有し、 無水グルコース単位の水酸基が、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されており、 s23は、無水グルコース単位の2位および3位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率であり、 s26は、無水グルコース単位の2位および6位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率であり、 ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度が2?200mPa・sである、セルロースエーテル。 【請求項2】ヒドロキシアルキルメチルセルロースである、請求項1に記載のセルロースエーテル。 【請求項3】ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.27以下である、請求項2に記載のセルロースエーテル。 【請求項4】DS(メチル)が1.2?2.2である、請求項1?3のいずれか1項に記載のセルロースエーテル。 【請求項5】水性組成物の総質量基準で7?40質量%の請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロースエーテルを含む、剤形のカプセルまたはコーティングを製造するための、水性組成物。 【請求項6】請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロースエーテルを含む水性組成物をディッピングピンと接触させるステップを含む、カプセルの製造方法。 【請求項7】請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロースエーテルを含む水性組成物を剤形と接触させるステップを含む、剤形のコーティング方法。 【請求項8】請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロースエーテルを含む、カプセルシェル。 【請求項9】請求項8に記載のカプセルシェルを含む、カプセル。 【請求項10】請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロースエーテルを含む組成物でコートされている、剤形。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。 本件発明1?10は、本件出願前に頒布された以下の甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件発明1?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特表2002-541270号公報 甲第3号証:特開2005-307214号公報 (以下、それぞれ「甲1」、「甲3」という。) なお、傍証として、以下の甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証が提出され、並びに上申書に添付して甲第2号証に関連する陳述書(以下「甲第2号証の2」という。)が提出されている。 甲第2号証:「置換率(質量%)からMS及びDSへの換算式」と題する文書 甲第4号証:本件特許の対応米国特許であるUS9,394,376号の審査段階における2015年12月3日に米国特許庁に提出された応答書(抄訳文が甲第4号証の1として提出されている。) 甲第5号証:甲第4号証の応答書に添付された宣誓書(全訳文が甲第5号証の1として提出されている。) 甲第2号証の2:信越化学工業株式会社の横澤拓也が平成28年10月25日付けで作成した陳述書 (以下、それぞれ「甲2」、「甲4」、「甲5」、「甲2の2」といい、上記の甲4及び甲5の訳文は「甲4訳文」、「甲5訳文」という。) 第4 当審の判断 (1)甲号各証の記載 ア 甲1 (1a)「【請求項1】(a)所望のメトキシル置換レベルの約20%以上である第一のメトキシル置換レベルにまでセルロースパルプをメチル化するために充分な反応条件において、セルロースパルプを、第一の量の水性アルカリ及び第一の量のメチル化剤と反応させること、及び、 (b)所望のメトキシル置換レベルの約40%以上である第二のメトキシル置換レベルにまでメチル化するために充分な反応条件において、前記第一のメトキシル置換レベルのメチルセルロースを、第二の量の水性アルカリ及び第二の量のメチル化剤と反応させること、 の工程を含む、所望のメトキシル置換レベルを有するメチルセルロースの製造方法。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項10】ヒドロキシプロピル置換を有するメチルセルロースを生成するために充分な反応条件下において、ある量のプロピレンオキシドとセルロースパルプもしくはメチルセルロースとの接触を、第一もしくは第二の段階において行なう、請求項1記載の方法。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項19】請求項1記載の方法により製造される、メチルセルロース。」(2?4頁、特許請求の範囲の請求項1、10及び19) (1b)「【0001】本発明は、向上したゲル強度を有するメチルセルロース、このようなメチルセルロースの製造方法及びこのようなメチルセルロースを含む組成物に関する。 【0002】セルロースエーテルは、食品組成物への添加剤として、そして増粘性、冷凍/解凍安定性、潤滑性、湿分保持性及び開放性、皮膜形成性、テキスチャー、コンシステンシー、形状保持性、乳化性、結合性、懸濁及びゲル化性などの物性を付与するための方法において添加剤として使用されている。例えば、特定のメチルセルロースの熱ゲル特性が卵白と似ていることが発見されて以来、食品用途にメチルセルロースは使用されてきた。すなわち、メチルセルロースの溶液は新鮮な生の卵白と非常に似た、熱により触媒されるゲル化を起こす。 【0003】実際、食品において卵白の代替という食品業界において長期にわたって感じられてきた要求が存在する。この長期にわたって感じられてきた要求は健康及び宗教上の理由を含む種々の理由により動機付けられてきた。 【0004】卵白とメチルセルロースの両方の重要な特性は食品成分どうしを結合することができる能力である。これら2種の食品ヒドロコロイドのゲル強度が食品中の結合力を担うことが注目された。 【0005】メチルセルロースは、特定の食品用途において、卵白を代替することにより業界の長期間にわたって感じられてきた要求を部分的に満たした。しかし、メチルセルロースのゲル強度は、他の食品用途では卵白を代替するには不充分であった。従って、ある食品用途において、卵白を代替するという長期間にわたって感じられてきた業界における要求は依然として存在する。このような食品用途では、これまで、従来の(すなわち、当業界において既知の)メチルセルロースで代替することができなかった。 【0006】より高い粘度を有するメチルセルロースは、より高いゲル強度をも有することが当業界において一般に知られている。本発明は、与えられた粘度において、従来技術のどのメチルセルロースよりも有意に高いゲル強度を示すメチルセルロースに関する。本発明のメチルセルロースは、優れた結合性、コンシステンシー及び形状保持性を有する食品組成物の開発を可能にする。 【0007】本発明は、当業者が、与えられた粘度で、より高いゲル強度を有するメチルセルロースを使用することを可能にする。本発明は、また、当業者が、与えられたゲル強度で、より低い粘度を有するメチルセルロースを使用することを可能にする。より高い分子量(すなわち、粘度)を有するメチルセルロースは湿分を強く結合しすぎる傾向を示す。このため、口に対して乾燥した感触を有する、最終的に加工された食品を生じることがある。本発明は、要求されるゲル強度を維持しながら、より低い粘度を有するメチルセルロースを使用することにより、湿分開放性及び加工された食品の全体の組織を改良することを当業者に可能にする。 【0008】第一の態様において、本発明は、223×(v^(0.273))(式中、vは2%水溶液での20℃におけるメチルセルロースの粘度を示す)を超えるゲル強度(G’)を有するメチルセルロースに関する。ゲル強度の粘度に対するこの関係は、G’≧223×(v^(0.273))によって示されることができ、≧は以上を意味する。本発明のメチルセルロースは、また、メチルセルロースの質量を基準として21%?42%のメトキシル置換を有する。 【0009】ゲル強度は動的レオメトリーによって測定できる。複素粘度の弾性率成分はゲル強度を測定するときに定量化される。この動的弾性率はゲル強度(G’)として一般に知られている力成分を示す。弾性率(貯蔵弾性率)を測定するための技術は Kinetics of Thermal Gelation of Methylcellulose and Hydroxypropylmethylcellulose in Aqueous Solutions,Carbohydrate Polymers,volume 26,no.3,pp.195?203に記載されており、それを参照により本明細書に取り入れる。特に指示がない限り、本明細書中の全てのゲル強度は動的レオメータにおいてメチルセルロースの1.5質量%水溶液の弾性率を測定することにより決定されたものである。 【0010】第二の態様において、本発明は、所望のメトキシル置換レベルを有するメチルセルロースの製造方法に関する。この方法は、(a)所望のメトキシル置換レベルの約20%以上である第一のメトキシル置換レベルにまでセルロースパルプをメチル化するために充分な反応条件において、セルロースパルプを第一の量の水性アルカリ及び第一の量のメチル化剤と反応させること、及び、所望のメトキシル置換レベルの約40%以上である第二のメトキシル置換レベルにまでメチル化するために充分な反応条件において、前記第一のメトキシル置換レベルを有するメチルセルロースを第二の量の水性アルカリ及び第二の量のメチル化剤と反応させることの工程を含む。 【0011】本発明の第三の態様は本発明のメチルセルロースを含む食品組成物に関する。 【0012】本発明の第四の態様は本発明のメチルセルロースを含む医薬カプセルに関する。」 (1c)「【0014】本発明は、従来のメチルセルロースと比較して、与えられた粘度グレード及びパーセントメトキシル置換率について高められたゲル強度を有する新規のメチルセルロースを提供する。本発明の好ましいメチルセルロースは、また、等価の粘度及びパーセントメトキシル置換の従来のメチルセルロースよりも低いゲル化温度を示すことができる。本発明の好ましいメチルセルロースは、また、等価の粘度及び置換率の従来のメチルセルロースよりも長いメルトバック時間を示すことができる。 【0015】より低いゲル化温度は特定の用途では望ましく又は好ましいことがあるが、それは本発明の非本質的特性である。低められたゲル化温度は食品製造及び加工において有用である。食品組成物はより低い温度でゲル化でき、加熱/冷却サイクルの間のエネルギー及び加工時間を節約できる。さらに、食品組成物は加工の間により広い温度範囲で形態を保持することができる。ゲル化温度はメチルセルロースの1.5質量%水溶液を加熱しそしてゲル化を起こす狭い温度範囲を観測することにより決定される。 【0016】メルトバック時間は、周囲温度に冷却する間に、熱的に形成されたメチルセルロースのゲルが融解するのに要する時間長さを一般に指す。より長いメルトバック時間は特定の用途で望ましく又は好ましいことがあるが、本発明の非本質的特性である。周囲温度でのより長いメルトバック時間は食品加工及び製造において有用である。ゲル化はより広い温度範囲にわたって維持されることができ、そして食品加工及び消費の間の組織のより長く、より良好な保持が可能である。メルバック時間は以下により決定される。20ミリリットルビーカー中にメチルセルロースの1.5質量%の水溶液15gを提供し;この溶液を沸騰水中で8分間加熱し-溶液はビーカー内でゲル化するであろう;周囲温度環境で平らな表面上にビーカーを逆さまにし;ゲルを冷却し、次いで融解させて表面上にパドルを形成させる。メルトバック時間は冷却を開始したとき(沸騰水から取り出したとき)から透明なパドルを形成するまでの時間から測定される。」 (1d)「【0018】2%水溶液中20℃において約1,000,000センチポアズ(cP)以下の粘度を有するメチルセルロースは本発明により製造できる。好ましいメチルセルロースは約1?約600,000cP(20℃、2%溶液)の粘度を有することができる。より好ましいメチルセルロースは、約1?約100,000cP(20℃、2%溶液)の粘度を有することができる。本明細書の目的では、水溶液の全ての粘度は、ASTM D1347-72及びD2363-79に従ってUbbelohde tube により決定される(特に指示がない限り)。」 (1e)「【0019】本発明により製造できるメチルセルロースは、制限するわけではないが、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシブチルメチルセルロース(HBMC)、メチルエチルセルロース(MEC)及びカルボキシメチルメチルセルロース(CMMC)を含む。本発明の好ましいHPMCは約1?約32%、より好ましくは約1?約14%、そして最も好ましくは約3?約12%のヒドロキシプロピル置換率を有するであろう。食品組成物中における使用に好ましいメチルセルロースは約5%以下、より好ましくは約1%以下、そしてさらにより好ましくは約0.2%以下の非メトキシル置換含分又はレベルを有するであろう。食品組成物中における使用に最も好ましいメチルセルロースは非メトキシル置換含分を実質的に含まないであろう。本明細書の目的では、全ての非メトキシル置換率はメチルセルロースの質量を基準として質量%で表現される(特に指示がない限り)。 【0020】食品組成物中に有用な本発明のメチルセルロースはメチルセルロースの質量を基準に約21?約42質量%のメトキシル置換率を一般に有する。本明細書の目的では、全てのメトキシル置換率はメチルセルロースの質量を基準として質量%で表現される(特に指示がない限り)。本明細書の目的では、全てのメトキシル率はASTM D2363-72に従って測定される(特に指示がないかぎり)。 【0021】好ましい(食品組成物中における使用の目的で)メチルセルロースは少なくとも約25%のメトキシル置換率を有する。より好ましいメチルセルロースは少なくとも約29%のメトキシル置換率を有する。本発明の好ましい(食品組成物中における使用の目的で)メチルセルロースは約35%未満のメトキシル置換率を有する。より好ましいメチルセルロースは約32%未満のメトキシル置換率を有する。」 (1f)「【0022】本発明のメチルセルロースは新規の方法により製造される。・・・ 【0023】メチルセルロースを製造するための従来の方法とは対照的に、本発明のメチルセルロースは2つ以上の別個の段階においてセルロースパルプをメチル化する新規の方法により製造される。本発明によると、セルロースパルプは第一の段階において、水酸化アルカリにより部分的にアルカリ化されそしてメチル化剤(好ましくは塩化メチル)により部分的にメチル化される。本発明は特定の理論によって限定されるべきではないが、第一の段階の後のセルロース上のメチル化されたサイトは次の段階でのメチル化に対してより選択的であるものと信じられる。すなわち、次の段階でのメチル化は第一の段階でメチル化されたサイトの近くで起こりやすく、従来のメチルセルロースで生じるよりもセルロース上でのメチル化サイトが低い均一性の分布になる。このより低い均一性の分布は「ブロック状」置換と呼ぶことができる。第一の段階で生じた部分的にメチル化されたセルロースは、後の段階(1段階又は複数段階)において、所望の完了レベルにまで、さらなる水酸化アルカリ及び塩化メチルにより、さらにアルカリ化されそしてさらにエーテル化される。好ましくは、続く段階で使用されるメチル化剤は、所望のメトキシル置換レベルを生じるために充分な反応条件で連続添加又は漸増添加により導入される。 【0024】本発明のメチルセルロースを製造するために使用されるセルロースは、通常、木又は綿から得られるセルロースパルプである。パルプは好ましくは粉体又はチップの形態で供給される。ウッドパルプは好ましい。 【0025】セルロースパルプのアルキル化は複数の段階で逐次的に行なわれる。「段階」とはアルカリ化反応及びメチル化反応(又は置換)が起こる反応シーケンスを意味する。段階は、セルロースパルプ又は部分的にメチル化されたセルロースのメトキシル置換レベルを有効に上げる。場合により、ヒドロキシプロピル置換のような他のタイプのエーテル化はメトキシル置換とともに又はメトキシル置換に加えて行なってもよい。 【0026】本発明によると、セルロースパルプは、水性アルカリ、好ましくは水性水酸化ナトリウムによって1つ以上の反応器中で2つ以上の段階でアルカリ化される。水性アルカリを含むバスもしくは攪拌タンク中に浸漬すること又は乾燥パルプ上へ水性アルカリを直接的にスプレーすること、などの当業界に既知の手段のいずれかによってパルプをアルカリ化することができる。反応時間は、水酸化物濃度、温度及び滞留時間によって変わる。水性アルカリは水の質量を基準として約30?約70質量%の水酸化アルカリ含有分で好ましくは使用される。アルカリ化の温度は、好ましくは約30℃?約110℃、最も好ましくは約30℃?約90℃の範囲である。パルプ中の均一な膨潤及びアルカリ分布は混合及び攪拌によって制御できる。水性アルカリの添加速度は発熱アルカリ化反応の間に反応器を冷却することができる能力により支配されうる。水性アルカリの添加速度は本発明に対して重要でない。所望ならば、ジメチルエーテルのような有機溶剤は希釈剤及び冷却剤として反応器に添加されてよい。所望ならば、反応器のヘッドスペースは排気され又は窒素のような不活性ガスによりパージされ、アルカリ性セルロースの酸素により触媒される解重合を制御してもよい。 【0027】本発明によると、アルカリ化されたセルロースパルプは1つ以上の反応器中で2段階以上の段階でエーテル化されて(すなわち、メチル化されて)メチルセルロースを生成する。エーテル化のための反応時間は濃度、圧力、温度、滞留時間及び発熱反応を制御することができる能力によるであろう。好ましいエーテル化剤は塩化メチル又はジメチルスルフェートのようなメチル化剤である。塩化メチルは好ましい。メチル化剤は、1つ以上の段階において、バッチ装填添加、連続添加又は漸増添加により添加されてよい。好ましくは、メチル化剤は、第一の段階の後の少なくとも1つの段階、好ましくは第二の段階において、連続添加又は漸増添加により添加される。「バッチ装填添加」とは、比較的に短時間の間に実質的に休むことなく添加することを意味する。「連続添加」とは、より長時間の間に実質的に休むことなく添加することを意味する。「漸増添加」とは、より長時間の間において少量の別々の量を周期的に添加することを意味する。水酸化アルカリ及びメチル化剤は反応器に同時に添加されてもよいが、好ましくは、順次添加され、一番目に水酸化アルカリが添加され、二番目にメチル化剤が添加される。 【0028】本発明のメチルセルロースを製造するために2段階法は好ましい。第一の段階において、水性水酸化アルカリ及びメチル化剤をセルロースパルプと反応させて第一のメトキシル置換レベルのメチルセルロースを生成させる。水酸化アルカリ及びメチル化剤の各々は、第一の段階で、バッチ装填添加、連続添加又は漸増添加により添加されてよい。添加の速度は重要でない。第一の段階における反応温度は好ましくは制御されて、水酸化アルカリ、メチル化剤及びセルロースパルプの間の一般に均一な接触及び反応が起こることができるようにする。第二の段階において、部分的にメチル化されたセルロースと、さらなる量の水性水酸化アルカリ及びメチル化剤を反応させて、第二のメトキシル置換レベル(すなわち、所望の置換レベル)を有するメチルセルロースを生成させる。水酸化アルカリ及びメチル化剤は、第二の段階で、バッチ装填添加、連続添加又は漸増添加により添加されてよい。第二の段階での水酸化物の添加速度は重要でない。 【0029】メチル化剤は第二の段階で15分以上の経過添加時間にわたって約65℃?約120℃の反応体温度で添加され、好ましくは、20分以上で約75℃?約100℃であり、そして最も好ましくは25分以上で約80℃?約90℃である。第二の段階において、どんなに長時間にわたって連続的又は漸増的にメチル化剤を添加してもよいが、時間的な経済性の理由で約120分以下、より好ましくは約60分以下、そして最も好ましくは約20分?約45分で添加を行なうことが好ましい。第二の段階でのメチル化剤の添加の後に、エーテル化は反応が進行することができるどの温度で行なってもよいが、時間的な経済性の理由で約65℃?約120℃、そしてより好ましくは約80℃?約90℃で行なうことが好ましい。反応器内の温度は当業界に知られているどの手段で決定されてもよい。温度決定手段は、蒸気温度制御を用いること及び反応器の内容物(セルロースパルプ/メチルセルロース塊)中に差し込まれた熱電対を用いることを含む。好ましい二段階法において、両方の段階は同一の反応器内で行なわれる。 【0030】好ましくは、総計のメトキシル置換の約20?約80%は第一の段階で行なわれ、そして約80?約20%は第二の段階で行なわれる。より好ましくは、総計のメトキシル置換の約30?約70%は第一の段階で行なわれ、そして約70?約30%は第二の段階で行なわれる。最も好ましくは、総計のメトキシル置換の約40?約60%は第一の段階で行なわれ、そして約60?約40%は第二の段階で行なわれる。二段階法の特定の態様を表1に記載する。 【0031】本発明のメチルセルロースの製造のために三段階法も有用である。・・・ 【0032】四段階以上の段階を有する方法も可能である。・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0034】HEMC、HPMC、HBMC、MEC及びCMMCのようなメチルセルロースはセルロースパルプ又はメチルセルロースを、メチル化剤(エーテル化剤)に加えて他のエーテル化剤と反応させることにより調製できる。有用なエーテル化剤は塩化エチル、酸化エチレン、酸化プロピレン及び酸化ブチレンを含む。他のエーテル化剤は所望の反応を行なうために充分なプロセス条件で、メチル化剤との反応の前、その間又はその後のどの段階で反応させてもよい。他のエーテル化剤はバッチ装填添加、連続添加又は漸増添加により反応器に加えられてよい。好ましくは、他のエーテル化剤は第一の段階で反応される。好ましくは、他のエーテル化剤はメチル化剤の前に又はメチル化剤とともに反応される。 【0035】メチル化剤及び他のエーテル化剤は、反応器に液体又は気体の形態で添加されてよい。液体の形態は非常に好ましい。反応器は好ましくはエーテル化剤が主として液体相を維持するような圧力に維持される。 【0036】エーテル化の後に、メチルセルロースを洗浄し、塩及び他の反応副生成物を除去する。塩が可溶性であるいかなる溶剤も用いることができるが、水は好ましい。メチルセルロースは反応器内で洗浄されてよいが、好ましくは、反応器の下流にある別個のウォッシャー中で洗浄される。洗浄の前又は後に、メチルセルロースは残存有機含有分を低減するようにスチームに暴露することによりストリッピングされてよい。 【0037】メチルセルロースは低減された湿分及び揮発性含分にまで乾燥され、好ましくは、メチルセルロースの質量を基準として約0.5?約10.0質量%の水、より好ましくは約0.8?約5.0質量%の水及び揮発分にまで乾燥される。低減された湿分及び揮発性含分により、メチルセルロースが粒状形態にミリングされることが可能になる。メチルセルロースは好ましくは約40℃?約130℃の温度で乾燥される。有用なドライヤーはトレードライヤー、流動床ドライヤー、フラッシュドライヤー、攪拌ドライヤー及びチューブドライヤーを含む。 【0038】メチルセルロースは所望のサイズの粒状物にミリングされる。所望ならば、乾燥及びミリングは同時に行なわれてよい。ミリングはボールミル、衝撃粉砕機、ナイフグラインダー及び空気通過衝撃ミルのような当業界で既知のいずれかの手段により行なうことができる。」 (1g)「【0039】本発明のメチルセルロースは種々の食品組成物中に有用である。・・・ 【0040】食品組成物中に特に有用なメチルセルロースは非メトキシル置換を殆ど有しないか又は全く有しないメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースである。・・・ 【0041】メチルセルロースは建築製品、工業製品、農業製品、パーソナルケア製品、家庭用製品及び医薬品のような他の用途に有用である。有用な医薬用途はカプセル、被包材、タブレットコーティング、及び、医薬及び薬剤のための賦形材を含む。有用な賦形材の機能は、持続開放性及び時間調整開放性タブレットを含む。・・・ 【0042】本発明のメチルセルロースは医薬カプセル用組成物中に特に有用である。本発明のメチルセルロースから形成されるカプセルは従来のメチルセルロースから形成されるカプセルよりも乾燥後に実質的に低い撓みを示す。特に有用なメチルセルロースは非メトキシル置換を殆ど有しないか又は全く有しないメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、低分子量を有するもの、すなわち、2%水溶液において約3?約100cP、好ましくは約3?約15cPであるものである。低分子量のメチルセルロースは上記の方法から直接的に製造でき、又は、酸により触媒される解重合により高分子量のメチルセルロースから製造できる。有用な酸は無水塩化水素及び塩酸を含む。所望の程度までの解重合に次いで、酸は重炭酸ナトリウムのような塩基との接触により中和されて解重合が停止される。・・・ 【0043】メチルセルロースカプセルは、通常、冷たいメチルセルロースコーティング水溶液中に熱いピンを浸漬させるか又は熱いメチルセルロースコーティング水溶液中に冷たいピンを浸漬させることにより製造される。溶液はピン上でゲル化し、水は乾燥工程の間に蒸発し、ピンの周囲に乾燥したメチルセルロースの薄いフィルム層を形成する。薄いフィルムはキャップ及びボディーの形態をとり、それらをピンから取り外し、合わせてカプセルを形成する。・・・ 【0044】従来のメチルセルロースを用いた医薬カプセルの製造の間に乾燥が不均一に起こると、キャップおよびボディーは時々撓み、そしてカプセルとなるように合わせ又は組み立てることが困難であることがある。本発明のメチルセルロースから形成されるキャップ及びボディーは、ゲル強度が向上されているので、このような撓みに対して良好な耐性を示すことができる。」 (1h)「【0045】以下は本発明の実施例である。特に指示がない限り、全ての百分率、部及び割合は質量基準である。 【0046】実施例 例1 本発明のメチルセルロースを本発明の方法に従って製造した。 微細に粉砕したセルロースウッドパルプをジャケット付きの攪拌器付き反応器に入れた。反応器を脱気し、そして窒素でパージして酸素を除去し、その後、再び脱気した。反応器を2段階で用いた。第一の段階では、50質量%の水中の水酸化ナトリウムを、0.45/1.0のNaOH/セルロースの質量比でセルロース上にスプレーし、温度を40℃(開始温度)に調節した。NaOH/セルロースを約10?20分攪拌した後に、ジメチルエーテル及び塩化メチルの混合物を反応器に添加し、さらなる塩化メチルを加え、塩化メチル/セルロースの質量比が約0.64/1.0となるようにした。その後、反応器の内容物を40℃から80℃に次の40分間で加熱した。80℃(クック温度)に到達した後に、第一の段階の反応をさらに30分間(クック時間)進行させた。残りの水酸化ナトリウム及び塩化メチルを添加し、さらなる反応をさせることにより第二の段階を行った。第二の量の50質量%の水中のNaOHを、質量比0.65/1.0のNaOH/セルロース(セルロースはちょうどこの時点で実際に部分的にエーテル化されている)で10分間にわたって添加した。第二の量の塩化メチルを、質量比0.90/1.0の塩化メチル/セルロースのレベルまで約35分間にわたって添加した。反応を80℃でさらに30分間(クック時間)続け、エーテル化を完了した。表2は、プロセス情報並びにアルカリ化及びエーテル化に関するデータを示す。 【0047】反応の後、反応器を通気し、そして50℃に冷却した。反応器の内容物を取り出し、熱水を含むタンクに移してスラリーを形成し、次いで、それを15分間攪拌した。このスラリーを熱いタンクからフィルターへとポンプ送りし、そこで、脱水し、そして熱水で洗浄して塩及び有機副生成物を除去した。その後、湿潤メチルセルロースをドライヤーに移し、そこで、湿分及び揮発分をメチルセルロースの質量を基準として1?4質量%にまで低減した。その後、メチルセルロースを約40メッシュ(420マイクロメートル)の粒度に粉砕した。 【0048】メチルセルロースを分析し、31.8%メトキシル置換率(1.96のメトキシル置換度)を含むことが判った。それは2質量%水溶液において17,000センチポアズ(cP)の粘度、1.5質量%水溶液で105°F?108°F(40.6℃?42.2℃)のゲル化温度(Tgel)及び5445パスカルの弾性率(G’)を示し、そして35分のメルトバック時間を示した。製品特性を表3に示す。これらの物性は同様の置換及び粘度レベルの従来のメチルセルロースよりも望ましい。このような従来のメチルセルロースは、通常、1.5質量%水溶液で約52℃?59℃のTgelを示し、そして1.5質量%水溶液で800?2000パスカルのG’を示す。このように、本発明のメチルセルロースは、同様の置換及び粘度グレードの従来のメチルセルロースと比較して、有意に高いG’及び有意に低いゲル化温度の両方の利点を有する。 【0049】明細書中に開示した種々の例において、G’はC25歯状ボブ及びカップシステムでボーリンVORレオメータ(Bohlin Corp.)で1.5質量%水溶液で測定された。 【0050】例1A?1D 例1のメチルセルロースのサンプルを種々の時間にわたって無水塩化水素との反応により解重合し、次いで、重炭酸ナトリウムで中和した。解重合の後に、サンプルは614cPの粘度(2%溶液)を示し、2250パスカルのG’及び20分のメルトバック時間を示した。別の解重合の後に、サンプルは219cPの粘度、1400のG’、108°F(42℃)のTgel及び40分のメルトバック時間を示した。別の解重合の後に、サンプルは81cPの粘度、1390パスカルのG’、103°F(39℃)のTgel及び19分のメルトバック時間を示した。別の解重合の後に、サンプルは66cPの粘度、1680パスカルのG’及び25分のメルトバック時間を示した。製品特性を表4に示す。 【0051】例2 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は表2に示した以外は例1のとおりである。 【0052】メチルセルロース製品は、31.3%のメトキシル置換を有し、2質量%水溶液において26,000cPの粘度、34.4℃のTgel、3740パスカルのG’及び50を超えるメルトバック時間を示した。これらの物性は同様の置換及び粘度レベルの従来のメチルセルロースと非常に良好に比較される。製品特性を表3に示す。 【0053】例2A?例2B 例2のメチルセルロース最終製品のサンプルを種々の長さの時間にわたって無水塩化水素との反応により解重合し、次いで、重炭酸ナトリウムで中和した。解重合の後に、サンプルは375cPの粘度(2%溶液)を示し、1080パスカルのG’及び50分を超えるメルトバック時間を示した。別の解重合の後に、サンプルは29cPの粘度、569パスカルのG’、87°F(31℃)のTgel及び30分のメルトバック時間を示した。製品特性を表4に示す。 【0054】例3 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は表2に示した以外は例1のとおりである。 【0055】メチルセルロース製品は29.9%のメトキシル置換を有し、そして30,000cPの粘度(2%溶液)、89°F(31.7℃)のTgel及び3200パスカルのG’及び50分を超えるメルトバック時間を示した。製品特性を表3に示す。 【0056】例4 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は表2に示した以外は例1のとおりである。 【0057】メチルセルロース製品は32.9%のメトキシル置換を有し、そして11,000cPの粘度(2%溶液)、122°F(50℃)のTgel及び3180パスカルのG’及び17分のメルトバック時間を示した。製品特性を表3に示す。 【0058】例5 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は表2に示した以外は例1のとおりである。 【0059】メチルセルロース製品は32.7%のメトキシル置換を有し、そして2600cPの粘度(2%溶液)、118°F(48℃)のTgel及び1460パスカルのG’及び20分のメルトバック時間を示した。製品特性を表3に示す。 【0060】例6 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は表2に示した以外は例1のとおりである。 【0061】メチルセルロース製品は26.9%のメトキシル置換を有し、そして2質量%水溶液において330cPの粘度、128°F(54℃)のTgel及び1470パスカルのG’及び8分のメルトバック時間を示した。製品特性を表3に示す。 【0062】例7 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は追加の(第三の)段階を有すること以外は例1のとおりである。プロセス情報を表5に示す。 【0063】メチルセルロース製品は35.4%のメトキシル置換を有し、そして461,000cPの粘度(2%溶液)、45℃のTgel及び6900パスカルのG’を示し、周囲温度でメルトバックに対して安定であった。このメチルセルロース製品は同様のメトキシル置換及び粘度レベルの従来のメチルセルロースと比較して有意に高いG’及び有意に低いTgelという利点を有する。製品特性及び組成を表6に示す。 【0064】例8 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は追加の(第三の)段階を有すること以外は例1のとおりである。プロセス情報を表5に示す。 【0065】メチルセルロース製品は36.1%のメトキシル置換を有し、そして26,000cPの粘度(2%溶液)、113°F(45℃)のTgel、7990パスカルのG’を示し、周囲温度でメルトバックに対して安定であった。このメチルセルロース製品は同様のメトキシル置換及び粘度レベルの従来のメチルセルロースと比較して有意に高いG’及び有意に低いゲル化温度という利点を有する。製品情報及び組成を表6に示す。 【0066】例9 本発明の別のメチルセルロースを本発明の方法により製造した。方法は追加の(第三の)段階を有すること以外は例1のとおりである。プロセス情報を表5に示す。 【0067】メチルセルロース製品は34.9%のメトキシル置換を有し、そして25,000cPの粘度(2%溶液)、95°F(35℃)のTgel、7565パスカルのG’を示し、周囲温度でメルトバックに対して安定であった。このメチルセルロース製品は同様のメトキシル置換及び粘度レベルの従来のメチルセルロースと比較して有意に高いG’及び有意に低いTgelという利点を有する。製品情報及び組成を表6に示す。 【0068】幾つかのメチルセルロースを当業界に既知の従来の方法を用いて製造した。これらのサンプルの製品特性を表7に示す。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0072】 【0073】 【0074】 【0075】 【0076】 【0077】 」 (1i)「【0069】表7に示している従来技術のサンプルのゲル強度及び粘度を、表3及び4に示している例1、例1A,1B,1C,1D及び例2,2A及び2Bのゲル強度及び粘度とともにグラフ化した。対応するグラフは図1に示す。ゲル強度(対数スケールで表示)と粘度(対数スケールで表示)との関係はほぼ直線である。最も適したアルゴリズムを用いて各データのセットでラインを描いた。各ラインを近似した等式をグラフ上に示している。 【0070】図1中のグラフは約29%?32%のメトキシル置換を有する本発明のメチルセルロースのゲル強度は223×v^(0.273) を超えることを示している。粘度に対するゲル強度のこの関係は近似であり、そして本発明のメチルセルロースはこの近似値から若干低くなってもよいことを理解すべきである。例えば、表3のデータは、例2、2A及び2Bを示すラインよりも若干低くなっているが、従来技術を示すラインよりもずっと上にある。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明のメチルセルロース及び従来技術のメチルセルロースの弾性率を描く画像である。 【図1】 」(提示の段落並びに31?32頁図面の簡単な説明及び図面) イ 甲2 (2a)「 」(1葉目) ウ 甲2の2 (22a)「 」(1葉目) エ 甲3 (3a)「【請求項1】メチルヒドロキシアルキルセルロース(MHAC)を製造する方法において、 (a)(i)セルロース及び懸濁媒体をオートクレーブ中へ導入し、その際に前記懸濁媒体は、前記懸濁媒体の全質量に対してクロロメタン20質量%?50質量%を含有し、かつ (ii)前記オートクレーブ中でセルロースにアルカリ金属水酸化物水溶液を噴霧し、それによりセルロースをアルカリ化し、かつセルロースをクロロメタンと反応させ; (b)場合により少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤を、60℃を上回る温度で前記オートクレーブ中へ導入し; (c)アルカリ金属水酸化物を、使用されるクロロメタンに関して少なくとも+0.1モル当量の超化学量論的量で前記オートクレーブ中へ導入し; (d)場合により少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤を、60℃を上回る温度で前記オートクレーブ中へ導入し、かつ導入されたヒドロキシアルキル化剤を少なくとも20分間反応させ; (e)クロロメタンを、使用される全アルカリ金属水酸化物に関して少なくとも+0.2モル当量の超化学量論的量で前記オートクレーブ中へ導入し; (f)場合によりアルカリ金属水酸化物を前記オートクレーブ中へ導入し、かつ反応を60℃?110℃の温度で続け;かつ (g)(i)前記懸濁媒体を蒸留により除去し、それにより残りのクロロメタンを含有する留出物を形成させ、 (ii)メチルヒドロキシアルキルセルロースを単離し、かつ (iii)場合により単離されたメチルヒドロキシアルキルセルロースを洗浄し、かつ乾燥させ、 その際に、段階(d)のヒドロキシアルキル化剤が段階(b)のヒドロキシアルキル化剤と同じであるか又は異なり、アルカリ金属水酸化物が段階(a)、(c)及び(f)のそれぞれについて独立して選択されるが、但しヒドロキシアルキル化剤の添加を段階(b)及び段階(d)の少なくとも1つにおいて行う ことを特徴とする、メチルヒドロキシアルキルセルロース(MHAC)を製造する方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1) (3b)「【0002】本明細書に記載された発明は、メチルヒドロキシアルキルセルロース(MHACs)、好ましくはメチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)及びメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)の工業的製造方法に関する。 【背景技術】 【0003】メチルセルロース及び挙げられたそれらの混合エーテルが多段法において製造されることは公知である。第一段階において使用されるセルロースは所望の粒度範囲に粉砕される。第二段階において粉砕されたセルロースは、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムの濃厚水溶液とミキサー中で緊密に混合され、かつ活性化されてアルカリセルロースが得られる。 【0004】公知方法は適している混合ユニット中での噴霧アルカリ化であり、該アルカリ化の間に粉砕されたセルロースにアルカリ金属溶液が噴霧される。スラリー法において粉砕されたセルロースは懸濁媒体(非溶剤)中に懸濁され、ついでアルカリが添加される。モロミアルカリ化法においてセルロースはカセイソーダ溶液中に懸濁され、ついでスクリュープレス又は穴あきシリンダープレスに導通される。 【0005】第三段階においてクロロメタン及びヒドロキシアルキル化剤、例えばエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドとの不均一系反応が行われる。 【0006】さらなるプロセス段階はセルロースエーテルの精製、粉砕及び乾燥を含む。 【0007】MC及びMHACを工業的に製造する困難は、アルカリ化、しかし特にクロロメタン、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドでのエーテル化がかなりの熱の放出を含む発熱反応段階であるということにある。目下、ジメチルエーテル及び/又はクロロメタンがスラリー法における懸濁媒体(スラリー)として使用される場合には、温度上昇は、同時の圧力増大と結びついている。 【0008】さらにMC及びMHACは、極めて幅広く変わる適用分野に製品を提供できるように、異なる置換度で製造可能でなければならない。 【0009】セルロースエーテル化学においてアルキル置換はDSによって一般的に記載される。DSはアンヒドログルコース単位当たりの置換OH基の平均数である。メチル置換は、例えば、DS(メチル)又はDS(M)として示される。 【0010】ヒドロキシアルキル置換は通常MSによって記載される。MSは、アンヒドログルコース単位1mol当たりの、エーテル結合で結合されるエーテル化試薬のモルの平均数である。エーテル化試薬エチレンオキシドでのエーテル化は、例えば、MS(ヒドロキシエチル)又はMS(HE)として示される。エーテル化試薬プロピレンオキシドでのエーテル化は、従ってMS(ヒドロキシプロピル)又はMS(HP)として示される。 【0011】側基はZeisel法に基づいて決定される(文献:G.Bartelmus及びR.Ketterer,Z.Anal.Chem.286(1977)161-190)。 【0012】製品の多様な性質、例えば、熱フロキュレーション点、溶解度、粘度、塗膜形成能、保水能及び接着強さは、エーテル化度及び置換基の種類により調節される。MC及びMHACは、異なる適用分野において、例えば鉱物質で分散液をベースとする建築材料系におけるコンシステンシー調節剤及び加工助剤としてか、又は化粧品及び医薬品の製造において使用される。高い置換度を有するセルロースエーテルはまた有機溶剤用の増粘剤として適している。 【0013】Houben-Weyl,Methoden der Organischen Chemie[Organic Chemistry Methods],Makromolekulare Stoffe[Macromolecular Materials],第4版,Vol.E20,p.2042(1987)は、例えば、基礎をなす化学及び製造原理(製造方法及び処理段階)の概観、並びに物質の概要及び性質の記載及び多様な誘導体の可能性のある適用を提供する。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0018】特許出願番号WO00/59947には、高められた“ゲル強度”を有するメチルセルロース及びメチルセルロース誘導体の製造方法が記載されており、前記方法は、第一段階においてセルロースは最初の量の水性アルカリ金属水酸化物及び最初の量のメチル化剤と反応され、かつ第一段階においてエーテル化されたセルロースは第二段階において第二の量の水性アルカリ金属水酸化物及び第二の量のメチル化剤と反応されることにより特徴付けられる。 【0019】残念ながら、有利には使用されるべきである水性アルカリ金属水酸化物とメチル化剤との比に関して何も情報を提供していない。テキストからはアルカリ金属水酸化物がメチル化剤の前に装入されることが明らかになる、それというのも水性アルカリの添加速度が重要ではない一方で、メチル化剤の添加速度が定義されるからである。 【0020】WO00/59947の手順は段階アルカリ化、メチル化、アルカリ化、メチル化に傑出している純粋な二段法である。 【0021】この手順はまたWO 00/59947に記載された実施例により確認される。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0025】以下に記載される本発明の課題は、メチルヒドロキシアルキルセルロース誘導体、例えば、メチルヒドロキシエチルセルロース及びメチルヒドロキシプロピルセルロースの工業的製造方法を提供することにあり、前記方法は、多量の懸濁媒体(スラリー)が第一の反応相において使用されることを可能にし、付加的に最後のエーテル化段階において使用されるアルカリ金属水酸化物に関連して高い化学量論的過剰量のクロロメタンを可能にし、かつ廃ガスを1つのバッチから付加的な廃ガス後処理段階なしで次のバッチへ供給されることを可能にし、これにより使用される出発物質の良好な試薬収率を誘導する。 【0026】バッチ式に操作する方法において、求められる置換度に応じて異なる量のアルカリ金属水酸化物(水溶液として)、クロロメタン及びヒドロキシアルキル化試薬、例えば、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドは、セルロースと反応されてMC又はMHACが得られる。 【0027】このために次の段階が一般的に続く: 反応器にセルロースを装入する セルロースを不活性化する 懸濁剤を添加する セルロースにカセイアルカリ溶液を噴霧する(アルカリ化) 高められた温度(40℃を上回る)でセルロースをエーテル化する 試薬を噴霧する 揮発性物質を蒸留する(バッチ廃ガス) 粗セルロースエーテルを排出して洗浄する(場合により熱い洗浄水の添加後に) そのような方法に適している反応器の例は、LoedigeからのDruvatherm DVT型の反応器である。これらの反応器は工業用製造プラントについて少なくとも10m^(3) の体積を有する。より大きな反応器でさえ好ましくは使用される。 【課題を解決するための手段】 【0028】特に、本発明は、クロロメタン及びヒドロキシアルキル化剤を有するアルカリの存在でセルロースからメチルヒドロキシアルキルセルロース(MHAC)を工業的に製造する方法に関するものであり、その際に前記方法は次の工程を含む: (a)(i)セルロース及び懸濁媒体(本明細書で“懸濁剤”とも呼ばれる)をオートクレーブ中へ導入し、その際に前記懸濁媒体は前記懸濁媒体の全質量に対してクロロメタン20質量%?50質量%を含有し、かつ (ii)前記オートクレーブ中でセルロースにアルカリ金属水酸化物水溶液を噴霧し、それによりセルロースをアルカリ化し、かつセルロースをクロロメタンと反応させ; (b)場合により少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤を、60℃を上回る温度で前記オートクレーブ中へ導入し; (c)アルカリ金属水酸化物を、使用される(段階(a)においてオートクレーブ中へ導入される)クロロメタンに関して少なくとも+0.1モル当量の超化学量論的量で前記オートクレーブ中へ導入し; (d)場合により少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤を、60℃を上回る温度で前記オートクレーブ中へ導入し、かつ導入されたヒドロキシアルキル化剤を少なくとも20分間反応させ; (e)クロロメタンを、使用される全アルカリ金属水酸化物(段階(a)及び(c)においてオートクレーブ中へ導入されるアルカリ金属水酸化物の全量)に関して少なくとも+0.2モル当量の超化学量論的量で前記オートクレーブ中へ導入し; (f)場合によりアルカリ金属水酸化物を前記オートクレーブ中へ導入し、かつ反応を60℃?110℃の温度で続け;かつ (g)(i)前記懸濁媒体(オートクレーブからの)を蒸留により除去し、それにより残りのクロロメタンを含有する留出物を形成させ、 (ii)メチルヒドロキシアルキルセルロース(本方法により製造)を単離し、かつ (iii)場合により単離されたメチルヒドロキシアルキルセルロースを洗浄し、かつ乾燥させ、 その際に、段階(d)のヒドロキシアルキル化剤は段階(b)のヒドロキシアルキル化剤とは同じか又は異なり、アルカリ金属水酸化物は段階(a)、(c)及び(f)のそれぞれについて独立して選択されるが、但しヒドロキシアルキル化剤の添加は段階(b)及び/又は段階(d)において行われる。 【0029】段階(a)、(c)又は(f)におけるアルカリ金属水酸化物の添加は、部分段階において行われることができる。1つ又はそれ以上のヒドロキシアルキル化剤の添加は段階(b)及び/又は(d)において行われる。」 (3c)「【発明を実施するための最良の形態】 【0031】本発明による方法は、二成分、三成分及び四成分のメチルヒドロキシアルキルセルロース(MHACs)の製造に、好ましくは二成分誘導体メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)及びメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)の製造に、特に好ましくはメチルヒドロキシプロピルセルロースの製造に利用される。 【0032】ジメチルエーテル(DME)、又は好ましくはDME及びクロロメタンの混合物は、不活性懸濁剤として使用される。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0041】ヒドロキシアルキル基の導入に適しているヒドロキシアルキル化剤は、例えば、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)である。プロピレンオキシド及びエチレンオキシドが特に好ましい。複数のヒドロキシアルキル化剤はまた、1つのバッチ中で、三成分メチルセルロース誘導体、例えば、メチルヒドロキシエチルヒドロキシブチルセルロースの製造のために使用されることができる。 【0042】本方法の実際の実施は通常、不活性化されている、粉砕された又は破砕されたセルロースで出発する。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0045】段階c)及びf)におけるアルカリ金属水酸化物の添加速度は反応温度で行われる。アルカリ金属水酸化物の添加速度は毎分0.01?0.4モル当量である。水酸化ナトリウムの添加速度は好ましくは毎分0.02?0.2モル当量である。水酸化ナトリウムの添加速度は特に好ましくは毎分0.04?0.1モル当量である。 【0046】場合により、1つ又はそれ以上のヒドロキシアルキル化剤の添加及び反応は段階b)において又は段階c)とe)との間に(段階d)と呼ばれる)、反応温度で行われる。段階b)中及び付加的に段階c)とe)との間の双方で反応温度で1つ又はそれ以上のヒドロキシアルキル化剤を添加することも可能である。 【0047】好ましくはアルキレンオキシドは、段階b)中及び付加的に段階c)とe)との間にヒドロキシアルキル化剤として添加される。アルキレンオキシドは、場合により複数の段階において計量導入されることができる。 【0048】プロピレンオキシドは、特に好ましくはアルキレンオキシドとして計量導入される。 【0049】ヒドロキシアルキル化剤アルキレンオキシドの添加速度は反応温度で行われる。アルキレンオキシドの添加速度は毎分0.01?0.4モル当量である。アルキレンオキシドの添加速度は好ましくは毎分0.02?0.2モル当量である。アルキレンオキシドの添加速度は特に好ましくは毎分0.04?0.1モル当量である。 【0050】場合により、複数のアルキレンオキシドは、連続してか又は同時にか又は混合されて添加されることができる。添加速度はこの場合にアルキレンオキシドの合計に関する。 【0051】ヒドロキシアルキル化剤及びクロロメタンとの反応は60?110℃で、好ましくは65?90℃で、特に好ましくは75?85℃で行われる。 【0052】求められる置換のレベルに応じて、添加されるべきヒドロキシアルキル化剤の量は意図的に調節される。多様な適用分野において目下のところ通常の使用におけるMHEC生成物のためには、使用されるべきヒドロキシアルキル化剤の量は、AGU当たり約0.02?5当量、好ましくはAGU当たり約0.05?1.0当量、特に好ましくはAGU当たり約0.1?0.7当量である。これは、0.02?1.2のMS(HE)を有する、好ましくは0.03?0.8のMS(HE)を有する及び特に好ましくは0.05?0.6のMS(HE)を有するMHECsを製造する結果となる。 【0053】MHPCsは好ましくは本発明による方法により製造される。多様な適用分野において目下のところ通常の使用におけるMHPC生成物のためには、使用されるべきPOの量はAGU当たり約0.05?5当量、好ましくはAGU当たり約0.5?4当量、特に好ましくはAGU当たり約1.0?3当量である。これは、0.05?3.3のMS(HP)を有する、好ましくは0.2?1.8のMS(HP)を有する及び特に好ましくは0.4?1.2のMS(HP)を有するMHPCsを製造する結果となる。反応系へのヒドロキシアルキル化剤の添加は、1つの計量分配段階においてか又は、分割されて、複数の計量分配段階において行われることができる。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0059】エーテル化後が終了した後に、全ての揮発性成分は、場合により部分真空の適用下に、蒸留により分離される。揮発性成分は凝縮され、かつ懸濁媒体として次のバッチにおいて使用されることができる。 【0060】生じる生成物の精製、乾燥及び粉砕は、セルロース誘導体技術において常用である先行技術の方法に従って行われる。」 (3d)「【実施例】 【0062】以下に続く例において、単位“eq(当量)”は使用されるセルロースのアンヒドログルコース単位(AGU)に関して使用されるべきそれぞれの物質のモル比を表す。 【0063】例1?4 オートクレーブ中で、木材セルロース0.5質量部及びリンター0.5質量部を、真空排気によるか及び窒素で不活性化した。 【0064】ついで段階a)において懸濁媒体の全質量に関してクロロメタン約40質量%からなるジメチルエーテル及びクロロメタンの混合物を反応器中へ計量分配した(導入した)。使用されるセルロースの量に関してこの懸濁媒体約2.1質量部の全部を計量分配した。50質量%カセイソーダ水溶液の形の水酸化ナトリウムを、混合しながら、セルロース上に噴霧した。ついでプロピレンオキシドを段階b)において反応器中へ計量分配した。混合物をここで約75℃に加熱した。 【0065】段階c)においてついで約75℃の反応温度で50質量%カセイソーダ水溶液の形の水酸化ナトリウムを計量分配した。これは化学量論の変化をもたらした(例1?3)。 【0066】これに続いて、別のプロピレンオキシドを段階d)において75℃の反応温度で反応器中へ計量分配した。 【0067】ついでバッチを70min、混合しながら反応させた。 【0068】ついで段階e)においてクロロメタンを、20分間かけて反応器中へ計量分配し、同時に約85℃の反応温度に加熱した。これは、化学量論の新たな変化をもたらした(例1?3)。 【0069】次に段階f)において50質量%カセイソーダ水溶液の形の水酸化ナトリウムを約85℃の反応温度で計量分配した。 【0070】ついでバッチを約85℃でさらに50分間反応させた。 【0071】揮発性成分を留去し、その際に部分的に減圧下で作業した。こうして得られた廃ガスを凝縮させ、これは全質量に関して塩化メチル約32質量%を含有していた。廃ガスは、さらなる後処理段階なしで次の反応バッチのための懸濁媒体として使用することができた。 【0072】粗生成物を熱水で洗浄し、ついで乾燥させ、粉砕した。 【0073】個々の反応段階において使用されるべきエーテル化剤の量は第1表に示されている。 【0074】 * NaOHの添加を各0.6モル当量の2つの部分段階において行った ** POの添加を部分段階NaOH IIの間に行った 計量分配の速度は、段階b)及びd)におけるプロピレンオキシド並びに段階c)及びf)における水酸化ナトリウムについて毎分0.04?0.06モル当量であった。 【0075】こうして得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースエーテルのメチル基での置換度(DS-M)及びヒドロキシプロピル基での置換度(MS-HP)は、第2表に挙げられている。生成物の2%水溶液中の粘度(V2)(D=2.55s^(-1)、20℃、回転粘度計)は約60,000mPasであった。NaCl含量は全ての生成物中で<0.5質量%であった。 【0076】 」 オ 甲4 特許異議申立人が提出した甲4訳文により示す。 (4a)「クレーム1?5、9、11及び13?16は、ReibertらのUS6,235,893号(以下、「Reibert特許文献」)と同じであるとしてpre-AIA 35 USC第102条(b)により拒絶され、又はReibert特許文献から自明であるとしてpre-AIA 35 USC第103条(a)により拒絶されている。」(6頁14?16行、甲4訳文1頁) (4b)「そうは言っても、本願明細書の教示とReibert特許文献の教示との違いをさらに示すために、Reibert特許文献の例1のプロセスの特徴を満足するプロセスにより、追加の比較例Gを、当該違いが示される程度に行った。追加の比較例Gは、添付の宣誓書に記載されている。追加比較例Gでは、無水グルコース単位1モル当たりの水酸化ナトリウムと塩化メチルの量は、質量比ではなくモル比で記載されていることを除いてはReibert特許文献の例1と同じであることに留意する。比較例Gにおけるアルカリ金属水酸化物の添加速度は、毎分無水グルコース単位1モル当たり0.26モルの水酸化ナトリウムとなった。物性[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]は0.35であり、今回の補正前にクレームされた範囲の一端と同じ値であり、今回の補正後のクレームされた範囲の外側の値である。」(7頁18?29行、甲4訳文1頁) カ 甲5 特許異議申立人が提出した甲5訳文により示す。 (5a)「 」(1頁、甲5訳文1?2頁) (5b)「 」(2?3頁、甲5訳文3?4頁) (2)甲1に記載された発明 甲1は、向上したゲル強度を有するメチルセルロースについて記載した特許文献であり(摘示(1a)?(1c))、請求項1には 「(a)所望のメトキシル置換レベルの約20%以上である第一のメトキシル置換レベルにまでセルロースパルプをメチル化するために充分な反応条件において、セルロースパルプを、第一の量の水性アルカリ及び第一の量のメチル化剤と反応させること、及び、 (b)所望のメトキシル置換レベルの約40%以上である第二のメトキシル置換レベルにまでメチル化するために充分な反応条件において、前記第一のメトキシル置換レベルのメチルセルロースを、第二の量の水性アルカリ及び第二の量のメチル化剤と反応させること、 の工程を含む、所望のメトキシル置換レベルを有するメチルセルロースの製造方法」 の発明が、請求項10には「ヒドロキシプロピル置換を有するメチルセルロースを生成するために充分な反応条件下において、ある量のプロピレンオキシドとセルロースパルプもしくはメチルセルロースとの接触を、第一もしくは第二の段階において行なう、請求項1記載の方法」の発明が、請求項19には「請求項1記載の方法により製造される、メチルセルロース」の発明が、それぞれ記載されている(摘示(1a))。 そして、そのメチルセルロースは、従来技術の、等価の粘度及びパーセントメトキシル置換率を有するメチルセルロースと比べて、「高められたゲル強度」、「低いゲル化温度」及び「長いメルトバック時間」を示すと記載されている(摘示(1c))。ここで、ゲル強度とは、ゲルの動的弾性率G’であり(摘示(1b)【0009】)、ゲル化温度とは、水溶液を加熱したときにゲル化を起こす温度であり(摘示(1c)【0015】)、メルトバック時間とは、ゲルを冷却したときにゲルが融解するのに要する時間である(摘示(1c)【0016】)。 そして、請求項1の製造方法に関し、製造の原料、試薬、装置、手順について詳しく説明されている(摘示(1f))。 そのメチルセルロースが、請求項10の「ヒドロキシプロピル置換を有するメチルセルロース」であってよいこと、すなわち、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであってよいことについては、「本発明により製造できるメチルセルロースは、制限するわけではないが・・・ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)・・・を含む。本発明の好ましいHPMCは約1?約32%、より好ましくは約1?約14%、そして最も好ましくは約3?約12%のヒドロキシプロピル置換率を有するであろう・・・質量%で」と記載され(摘示(1e)【0019】)、その製造に関して「HPMC・・・のようなメチルセルロースはセルロースパルプ又はメチルセルロースを、メチル化剤(エーテル化剤)に加えて他のエーテル化剤と反応させることにより調製できる。有用なエーテル化剤は・・・酸化プロピレン・・・を含む。他のエーテル化剤は所望の反応を行なうために充分なプロセス条件で、メチル化剤との反応の前、その間又はその後のどの段階で反応させてもよい。他のエーテル化剤はバッチ装填添加、連続添加又は漸増添加により反応器に加えられてよい。好ましくは、他のエーテル化剤は第一の段階で反応される。好ましくは、他のエーテル化剤はメチル化剤の前に又はメチル化剤とともに反応される」と記載されている(摘示(1f)【0034】)。 メチルセルロースの粘度について、2%水溶液中20℃において「約1,000,000センチポアズ(cP)以下」、「約1?約600,000cP」又は「約1?約100,000cP」であると記載されるほか(摘示(1d))、「医薬カプセル用組成物」用途の、非メトキシル置換を殆ど又は全く有しないメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースに関し、低分子量であって同じ濃度で「約3?約100cP」又は「約3?約15cP」であるものが「特に有用なメチルセルロース」として言及されている(摘示(1g)【0042】)。低分子量化のために解重合することについても言及されている(同)。 そのメトキシル置換率について、「本発明のメチルセルロースは、また、メチルセルロースの質量を基準として21%?42%のメトキシル置換を有する」(摘示(1b)【0008】)、「食品組成物中に有用な本発明のメチルセルロースはメチルセルロースの質量を基準に約21?約42質量%のメトキシル置換率を一般に有する。・・・好ましいメチルセルロースは少なくとも約25%のメトキシル置換率・・・より好ましいメチルセルロースは少なくとも約29%のメトキシル置換率・・・好ましい・・・メチルセルロースは約35%未満のメトキシル置換率・・・より好ましいメチルセルロースは約32%未満のメトキシル置換率を有する」と記載されている(摘示(1e)【0020】?【0021】)。 また、実施例には、非メトキシル置換を有しないメチルセルロースを製造した例のみが記載され、メトキシル置換率(MeO%)及びメトキシル置換度(MeO DS)、2質量%水溶液における粘度、並びに1.5質量%水溶液におけるゲル化温度(Tgel)、弾性率(G’)すなわちゲル強度、及びメルトバック時間を測定したことが記載されている(摘示(1h)(1i))。実施例で製造された、非メトキシル置換を有しないメチルセルロースは、 メトキシル置換率(MeO%)は26.9?36.1%の範囲、 メトキシル置換度(MeO DS)は1.61?2.25の範囲、 2質量%水溶液における粘度は29?461,000cPの範囲、 1.5質量%水溶液におけるゲル化温度(Tgel)は31?54℃の範囲、 弾性率(G’)は569?7990パスカルの範囲、 メルトバック時間は8分?50分超の範囲 にある。 そして、ヒドロキシプロピルメチルセルロース自体は、周知の物質であって、当業者は、摘示(1f)に示された手順に従い、酸化プロピレンを、メチル化剤との反応の前、その間又はその後の何れかの段階で反応させて、製造できることは明らかである。 してみると、甲1には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの具体的な製造例の記載こそないものの、その請求項10に係る発明の方法で製造されたヒドロキシプロピルメチルセルロースの発明として、以下の 「以下の製造方法により製造されたヒドロキシプロピルメチルセルロース: (製造方法) (a)所望のメトキシル置換レベルの約20%以上である第一のメトキシル置換レベルにまでセルロースパルプをメチル化するために充分な反応条件において、セルロースパルプを、第一の量の水性アルカリ及び第一の量のメチル化剤と反応させること、及び、 (b)所望のメトキシル置換レベルの約40%以上である第二のメトキシル置換レベルにまでメチル化するために充分な反応条件において、前記第一のメトキシル置換レベルのメチルセルロースを、第二の量の水性アルカリ及び第二の量のメチル化剤と反応させること、 の工程 を含む、所望のメトキシル置換レベルを有するメチルセルロースの製造方法であって、ヒドロキシプロピル置換を有するメチルセルロースを生成するために充分な反応条件下において、ある量のプロピレンオキシドとセルロースパルプもしくはメチルセルロースとの接触を、第一もしくは第二の段階において行なう、上記方法」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、セルロースのヒドロキシ基が、ヒドロキシプロピル化及びメチル化されてエーテルとなったものであり、ヒドロキシプロピルはヒドロキシアルキルの一種であるから、本件発明1の「エーテル置換基が、メチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意にメチルとは異なるアルキル基である、セルロースエーテル」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 「エーテル置換基が、メチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意にメチルとは異なるアルキル基である、セルロースエーテル」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1においては、上記のセルロースエーテルが、 「該セルロースエーテルが、MS(ヒドロキシアルキル)0.05?1.00を有し、 無水グルコース単位の水酸基が、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されており、 s23は、無水グルコース単位の2位および3位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率であり、 s26は、無水グルコース単位の2位および6位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率であり、 ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度が2?200mPa・sである」 と特定されているのに対し、甲1発明においては、MS(ヒドロキシアルキル)、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]及びASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した水中2質量%溶液中20℃にて測定したときの粘度の、各数値が、特定されたものではない点 イ 相違点についての検討 相違点1について検討する。 (ア)MS(ヒドロキシアルキル)について 本件発明1においては、MS(ヒドロキシアルキル)は0.05?1.00であると特定されている。 一方、甲1には、上記(2)に示したとおり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのヒドロキシプロピル置換率について、約1?約32質量%(最も好ましくは約3?約12質量%)であることが記載されている。 また、ヒドロキシプロピルメチルセルロースに限られないメチルセルロースのメトキシル置換率について、約21?約42質量%(より好ましくは約29?約32質量%)であることが記載されている。 そこで、ヒドロキシプロピル置換率及びメトキシル置換率が上記の範囲にあるヒドロキシプロピルメチルセルロースの、MS(ヒドロキシアルキル)がどの程度であるのかを計算してみる。 (計算式) 簡単のために、無水グルコース単位の2位、3位及び6位の-OHが一部-ORに置換され、Rは-CH_(3) 又は(-CH_(2)CH(CH_(3))O)_(m)H(ただしmは1以上の整数)であるとして計算し、(-CH_(2)CH(CH_(3))O)_(m)CH_(3) の存在は、考慮しない。 DS(メチル)=a (0<a<3) MS(ヒドロキシプロピル)=b とし、 メトキシル置換率(%)=x ヒドロキシプロピル置換率(%)=y とし、置換された無水グルコース単位の式量をMとすると、無置換の無水グルコース単位の式量が162、ヒドロキシ基とメトキシ基の式量の差は14、ヒドロキシ基とヒドロキシプロポキシ基の式量の差は58であり、メトキシ基の式量は31、ヒドロキシプロポキシ基の式量は75であるから、 M=162+14a+58b …(1) x=(31a/M)×100 …(2) y=(75b/M)×100 …(3) (1)式に(2)式及び(3)式からの a=Mx/3100 …(4) b=My/7500 …(5) を代入して整理すると、 M=162/[1-(14x/3100)-(58y/7500)] …(6) 式(6)のMとx、yにより、式(4)、(5)から、a、bを計算できる。ただし、0<a<3である。 (計算結果) x=21?42(好ましくは29?32)、y=1?32(好ましくは3?12)の何カ所かの計算結果を以下に示す。 (i)x、y共に下限の、x=21、y=1のとき M=181 a=1.22 b=0.02 (ii)xが下限でyが上限の、x=21、y=32のとき M=246 a=1.67 b=1.04 (iii)xが上限でyが下限の、x=42、y=1のとき M=202 a=2.74 b=0.03 (iv)x、y共に上限の、x=42、y=32のとき M=288 a=3.90 b=1.23 上記のaは、0<a<3を満たさないから、x=42、y=32となることはない。 (v)x、yそれぞれの好ましい範囲の上限の、x=32、y=12のとき M=213 a=2.19 b=0.34 上記の計算結果によると、甲1に記載された、ヒドロキシプロピル置換率が約1?約32質量%(最も好ましくは約3?約12質量%)、メトキシル置換率が約21?約42質量%(より好ましくは約29?約32質量%)のヒドロキシプロピルメチルセルロースでは、MS(ヒドロキシプロピル)すなわちMS(ヒドロキシアルキル)は、概ね、本件発明1における「0.05?1.00」の範囲と重複し、特に、甲1において好ましい範囲についての上記計算結果の(v)では、0.34と、本件発明1における上記の範囲に含まれるといえる。 したがって、甲1発明において、相違点1のうちの「MS(ヒドロキシアルキル)0.05?1.00を有し」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得る。 (イ)[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]について a 本件発明1においては、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]は0.35以下であると特定されている。 このs23は、「無水グルコース単位の2位および3位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率」であり、s26は、「無水グルコース単位の2位および6位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率」であるから、上記の特定は、本件発明1の「エーテル置換基が、メチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意にメチルとは異なるアルキル基である、セルロースエーテル」におけるエーテル置換基の、グルコース環における置換位置分布を特定したものである。 このs23に数える置換パターンを有する無水グルコース単位は、本件特許明細書の段落【0069】に、以下のように説明されている。 「s23は下記条件を満たす無水グルコース単位のモル分率の合計である。 a)無水グルコース単位の2-および3-位における2つの水酸基がメチル基で置換されており、かつ6位が置換されていない(=23-Me); b)無水グルコース単位の2-および3-位における2つの水酸基がメチル基で置換されており、6位がメチル化ヒドロキシアルキル(=23-Me-6-HAMe)または2ヒドロキシアルキル基(決定注:「2」は「2個連結した」の意味であると認める。)を含むメチル化側鎖(=23-Me-6-HAHAMe)で置換されている;ならびに c)無水グルコース単位の2-および3-位における2つの水酸基がメチル基で置換されており、かつ6位がヒドロキシアルキル(=23-Me-6-HA)または2ヒドロキシアルキル基(決定注:同上)を含む側鎖(=23-Me-6-HAHA)で置換されている。」 s26に数える置換パターンを有する無水グルコース単位についても、同じ段落に同様に説明されている。 本件発明1における、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるとは、s23/s26に着目すると、 s23/s26≦0.2×MS(ヒドロキシアルキル)+0.35 であるから、s23/s26は、0.05?1.00の範囲であるMS(ヒドロキシアルキル)の数値に応じて、0.36以下?0.55以下ということになる。つまり、s23に数える置換パターンを有する無水グルコース単位が、s26に数える置換パターンを有する無水グルコース単位と比べて、およそ三分の一以下(MS(ヒドロキシアルキル)が0.05のとき)?およそ二分の一以下(MS(ヒドロキシアルキル)が1.00のとき)というように、相当に少ない、特定の置換位置分布を有するヒドロキシアルキルメチルセルロースであることを表している。 一方、甲1には、甲1発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースについて、記載されているとはいえるが、実際に製造した具体例の記載はなく、甲1発明のメチルセルロースが、相違点1のうちの「無水グルコース単位の水酸基が、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されており」との構成を当然に備えることを推認させる記載はない。また、上記の構成を備えるように、無水グルコース環におけるメチル基やヒドロキシプロピル基の置換パターン又は置換位置分布に着目することを、動機付ける記載もない。甲1には、置換位置分布について、請求項1に記載の製造方法を採用することに関連して、 「本発明は特定の理論によって限定されるべきではないが、第一の段階の後のセルロース上のメチル化されたサイトは次の段階でのメチル化に対してより選択的であるものと信じられる。すなわち、次の段階でのメチル化は第一の段階でメチル化されたサイトの近くで起こりやすく、従来のメチルセルロースで生じるよりもセルロース上でのメチル化サイトが低い均一性の分布になる。このより低い均一性の分布は「ブロック状」置換と呼ぶことができる。」(摘示(1f)【0023】) との記載があるが、この記載は、2位及び3位が共にメチル化されるものが増加することを示唆するといえ、本件発明1が、s23に数える置換パターンを有する無水グルコース単位の、s26に数える置換パターンを有する無水グルコース環に対する比率に、上記の上限を設けることとしているのとは、逆方向である。 したがって、甲1発明において[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]を0.35以下とすることは、甲1の記載からは、動機付けられない。 b 甲3を参照すると、甲3はメチルヒドロキシアルキルセルロース(決定注:ヒドロキシアルキルメチルセルロースと同じである。)を製造する方法について記載した特許文献であり、製造の各工程の物質の量比や温度、時間を特定したものである(摘示(1a)?(1d))。メチルヒドロキシプロピルセルロース(決定注:ヒドロキシプロピルメチルセルロースと同じである。)を製造することや、そのMS(HP)(決定注:MS(ヒドロキシプロピル)と同じである。)を「0.05?3.3」又は「0.2?1.8」又は「0.4?1.2」とすること(摘示(3c)【0053】)の記載はあるが、無水グルコース環におけるメチル基やヒドロキシプロピル基の置換パターン又は置換位置分布に着目することを動機付ける記載はない。 してみると、甲3の記載を組み合わせても、甲1発明において[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]を0.35以下とすることは、動機付けられない。 c したがって、甲1発明において、相違点1のうちの「無水グルコース単位の水酸基が、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されており」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 (ウ)ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度について 相違点1のうち上記(イ)で検討した点が想到容易ではないので、この点について検討するまでもないが、簡単に検討できるので検討する。 本件発明1においては、上記粘度は、2?200mPa・sであると特定されている。 一方、甲1には、上記(2)に示したとおり、「医薬カプセル用組成物」用途の、非メトキシル置換を殆ど又は全く有しないメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースに関し、低分子量であって、2%水溶液において「約3?約100cP」又は「約3?約15cP」であるものが「特に有用なメチルセルロース」として言及され、低分子量化のために解重合することについても言及されている。実施例においては、非メトキシル置換を有しないメチルセルロースの例ではあるが、解重合を行った例1A?1D及び例2A?2Bが記載され、例1C、1D及び2Bの2%水溶液の粘度はそれぞれ81、66及び29cPである。 粘度の単位「mPa・s」と「cP」は意味する内容が同じである。測定方法について、本件発明1では「ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度」であり、甲1においては「ASTM D1347-72及びD2363-79」、「20℃、2%溶液」であり(摘示(1d))、実際上同様の測定結果が得られると認められる。 よって、甲1には、甲1発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースについて、2%水溶液の粘度を3?100mPa・sとすることが示唆されている。 したがって、甲1発明において、相違点1のうちの「ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度が2?200mPa・sである」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得る。 (エ)上記(ア)?(ウ)によれば、甲1発明に、甲3に記載された事項を組み合わせても、甲1発明において、相違点1に係る 「該セルロースエーテルが、MS(ヒドロキシアルキル)0.05?1.00を有し、 無水グルコース単位の水酸基が、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されており、 s23は、無水グルコース単位の2位および3位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率であり、 s26は、無水グルコース単位の2位および6位における2つの水酸基のみがメチル基で置換されている無水グルコース単位のモル分率であり、 ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度が2?200mPa・sである」 との構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。 ウ 発明の効果について 本件特許明細書の段落【0009】?【0011】には、発明の目的として「水性溶液中の同じ粘度および濃度の公知のヒドロキシアルキルメチルセルロースよりも低いゲル化温度を水性溶液中で有する新規なセルロースエーテルを提供すること」及び「公知のヒドロキシアルキルメチルセルロースよりも高い貯蔵弾性率を有する新規なセルロースエーテルを提供すること」が記載されている。そして、段落【0072】?【0109】の例及び比較例では、そのうちの粘度が低いものを示した例16?21並びに比較例E及びFにおいて、以下の表3に示されるように、2質量%水溶液中20℃で測定した粘度が3.8?5.5mPa・sであり、MS(ヒドロキシプロピル)が0.08?0.44の範囲であって、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシプロピル)]が0.16?0.19である例16?21と、粘度が5.5又は6.3mPa・s、MS(ヒドロキシプロピル)が0.14又は0.24、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.38又は0.36である比較例E及びFが製造及び試験され、同程度の粘度及びMS(ヒドロキシプロピル)では、例のほうが、比較例より有意に低いゲル化温度を有することが示されている。 例16?21は、それぞれ例1?6の粘度の高い(分子量が大きい)ヒドロキシプロピルメチルセルロースを部分解重合したものであり、これを含む例1?11と比較例A及びBについて、粘度、ゲル化温度、貯蔵弾性率G’の物性が表1に記載されている。また、粘度の高いヒドロキシエチルメチルセルロースについての例12?15並びに比較例C及びDについて、粘度、ゲル化温度の物性が表1続きに記載されている。 これらを参照すると、粘度の高い(分子量が大きい)ヒドロキシプロピルメチルセルロースについても、同程度の粘度及びMS(ヒドロキシプロピル)では、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が小さい、例のほうが、比較例より有意に低いゲル化温度を有することが示されている。これらを部分解重合して、本件発明1の発明特定事項である「ASTM D2363-79(2006年再承認)に準拠した、水中2質量%溶液中、20℃にて測定したときの粘度が2?200mPa・sである」となるようにした場合にも、例16?21におけるのと同様に、低いゲル化温度の物性が得られることを、当業者は推認できると認められる。ヒドロキシエチルメチルセルロースについても、例16?21におけるのと同様に、低いゲル化温度の物性が得られることを、当業者は推認できると認められる。 そして、この効果は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの無水グルコース環におけるメチル基やヒドロキシプロピル基の置換パターン又は置換位置分布について、何ら着目するものではない甲1及び甲3の記載から、当業者が予測することができないものである。 エ したがって、本件発明1は、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 オ 特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、特許異議申立書の11?14頁において、「甲1発明のセルロースエーテルの製造方法が、本件特許発明1のセルロースエーテルの製造方法と同じであれば、同一の製造方法で得られたセルロースエーテルは、無水グルコース単位の水酸基が、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されていることになる。そこで、甲1発明のセルロースエーテルの製造方法と、本件特許発明1のセルロースエーテルの製造方法とを対比させて同一性を検討する」として、甲1の実施例である例1と、本件特許明細書に記載された例1とを対比し、多数の相違する点について、 甲1でも「メチル化剤をプロピレンオキシド・・・と共に添加できる」、 本件でも、甲1の例1のような「塩化メチルと水酸化ナトリウムの添加が同時に行われた時間が存在する態様も含まれる」、 本件特許明細書の段落【0043】に記載される第2段階でのアルカリ金属水酸化物の添加速度「毎分無水グルコース単位1モル当たり0.04モル当量未満」は甲3に記載される周知条件であるから、甲1の例1での当該添加速度が、毎分0.263モルと計算されるものであっても、任意選択事項である、 などとして、同15頁において、「甲1発明のセルロースエーテルの製造方法は、任意選択事項である第二の段階でのアルカリ水酸化物の添加速度として甲第3号証の周知条件を選択すると、本件特許発明1のセルロースエーテルの製造方法と同じである。したがって、甲第1号証は、S23及びS26を記載していないが、甲第3号証の周知条件と組合せると、甲1発明によって製造されるセルロースエーテルは、無水グルコース単位の水酸基が[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されチルものであり、本件特許発明1の特定事項(エ)を満足するものと推察される」と主張している。 しかし、甲1には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを製造することに関して、上記(2)で認定した甲1発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースを製造し得る程度の、一般的な記載がされているが、実際にヒドロキシプロピルメチルセルロースを製造した具体例の記載はない。例えば、エーテル化剤である酸化プロピレン(決定注:プロピレンオキシドである。)をどのように反応系に投入するかについても、甲1には、「他のエーテル化剤は所望の反応を行なうために充分なプロセス条件で、メチル化剤との反応の前、その間又はその後のどの段階で反応させてもよい。他のエーテル化剤はバッチ装填添加、連続添加又は漸増添加により反応器に加えられてよい。好ましくは、他のエーテル化剤は第一の段階で反応される。好ましくは、他のエーテル化剤はメチル化剤の前に又はメチル化剤とともに反応される」(摘示(1f)【0034】)と記載されるだけであり、特許異議申立人が主張するような個別具体的な製造条件を、当業者が選択すべきだといえるような記載はない。また、仮に特許異議申立人が主張するような個別具体的な製造条件を選択したとしても、その結果、甲1発明において、そのヒドロキシプロピルメチルセルロースが、相違点1に係る「[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.35以下であるようにメチル基で置換されており」との構成を備えたものなるか否かも、明らかではない。 したがって、特許異議申立人の主張は、採用できない。 b 特許異議申立人は、また、甲4及び甲5を提出して、特許異議申立書の14?15頁において、「甲5に記載の比較例Gでは、MS(ヒドロキシプロピル)が0.25であり、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.34であるHPMCが得られており、特定事項(ア)、(イ)、(ウ)を満足するセルロースエーテルを得ている。また、甲5に記載の比較例Hは、比較例Gで得られたHPMCを解重合して2質量%水溶液の20℃における粘度が4.7mPa・sであるHPMCを得ており、特定事項(エ)を満足する。甲5は、メチルセルロースではなくHPMCを製造しているため、甲1の実施例の例1の再現試験とは言えず本件特許発明の新規性を否定するものとは言えないかもしれないが、同様な方法で得られたHPMCは、特定事項(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)を満たしており、本件特許発明1に係るセルロースエーテルが甲1発明に基づき容易に得られる証拠となっている」と主張している。 しかし、甲4と甲5とでは、肝心の「[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]」の数値が「0.35」なのか「0.34」なのかという齟齬があり、無条件にその内容が正しいと評価できるものではない。しかも、そこで扱われている実験は、「ReibertらのUS6,235,893号」(決定注:甲1とパテントファミリーの関係にある。)の、例1の追試ではなく、プロピレンオキシドを特定量、特定のタイミングで投入することの条件設定を行い、また、加熱温度も上記米国特許又は甲1の「80℃」とは異なる「85℃」で行うという変更を加えたものである。甲4及び甲5を根拠に、本件発明1が、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、特許異議申立人の主張は、採用できない。 (4)本件発明2?10について 本件発明2は、本件発明1において、その「エーテル置換基が、メチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意にメチルとは異なるアルキル基である、セルロースエーテル」が「ヒドロキシアルキルメチルセルロースである」と特定されたものであり、 本件発明3は、本件発明2において、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.27以下である」と特定されたものであり、 本件発明4は、本件発明1?3において、「DS(メチル)が1.2?2.2である」と特定されたものである。 したがって、これらも、本件発明1と同様に、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本件発明5は、本件発明1?4の何れかに係るセルロースエーテルを含む水性組成物に係るものであり、 本件発明6は、本件発明1?4の何れかに係るセルロースエーテルを含む水性組成物を用いるカプセルの製造方法に係るものであり、 本件発明7は、本件発明1?4の何れかに係るセルロースエーテルを含む水性組成物を用いる剤形のコーティング方法に係るものであり、 本件発明8は、本件発明1?4の何れかに係るセルロースエーテルを含むカプセルシェルに係るものであり、 本件発明9は、本件発明8のカプセルシェルを含むカプセルに係るものであり、 本件発明10は、本件発明1?4の何れかに係るセルロースエーテルを含む組成物でコートされている剤形に係るものである。 したがって、これらも、本件発明1と同様に、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明1?10は、本件出願前に頒布された甲1(主引用例)に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、本件発明1?10についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、この理由によって取り消されるべきものではない。 第5 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-12-14 |
出願番号 | 特願2013-533885(P2013-533885) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 伊藤 幸司 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
冨永 保 中田 とし子 |
登録日 | 2016-03-18 |
登録番号 | 特許第5902697号(P5902697) |
権利者 | ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー |
発明の名称 | 新規なセルロースエーテルおよびその使用 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 有原 幸一 |