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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1323512
異議申立番号 異議2016-701015  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-25 
確定日 2016-12-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第5908895号発明「Niめっき金属板、溶接構造体、及び電池用材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5908895号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5908895号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2012年5月8日(優先権主張2011年5月10日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年4月1日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人福岡良枝(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5908895号の請求項1?8の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件発明1は、次のとおりである。なお、分説の符号A?Dについては、当審で付したものである(以下、「構成A」?「構成D」ともいう。)。

「A 金属板からなる基材の表面に第1Niめっき層が形成され、その上に第2Niめっき層が形成されてなるNiめっき金属板であって、
B 錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ、
C 前記第2Niめっき層の厚みが0.50μm以上であって、
D かつ該第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下であるNiめっき金属板。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第15号証を提出し、以下の理由により、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由1」という。)。

2-1 本件発明1?8は、甲第9号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第9号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2-1」という。)。

2-2 本件発明1?8は、甲第10号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第10号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2-2」という。)。

2-3 本件発明1?8は、甲第11号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第11号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2-3」という。)。

2-4 本件発明1?8は、甲第12号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第12号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2-4」という。)。

2-5 本件発明1?8は、甲第13号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第13号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「申立理由2-5」という。)。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2001-279490号公報
甲第2号証:特開2009-170161号公報
甲第3号証:特開2009-117345号公報
甲第4号証:特開2011-81949号公報
甲第5号証:特開2011-81950号公報
甲第6号証:特開昭64-72461号公報
甲第7号証:特開2001-279489号
甲第8号証:国際特許出願PCT/JP2012/061744の国際調査報告書
甲第9号証:特開2005-85480号公報
甲第10号証:特開2005-149735号公報
甲第11号証:特開2004-218043号公報
甲第12号証:特開2002-50324号公報
甲第13号証:特開2008-226795号公報
甲第14号証:特開2009-76420号公報
甲第15号証:特開2006-12801号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「接触抵抗が低い高光沢リチウムボタン電池負極缶及び正極缶用片面Niめっき鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【請求項1】 表面粗さがRa0.05μm以下に調整されたオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、基材表面に光沢Niめっき層を介して層厚0.01?0.3μmの無光沢Niめっき層が形成されていることを特徴とする接触抵抗が低い高光沢リチウムボタン電池負極缶用片面Niめっき鋼板。
【請求項2】 表面粗さがRa0.05μm以下に調整されたフェライト系ステンレス鋼を基材とし、基材表面に光沢Niめっき層を介して層厚0.01?0.3μmの無光沢Niめっき層が形成されていることを特徴とする接触抵抗が低い高光沢リチウムボタン電池正極缶用片面Niめっき鋼板。」

(1b) 「【0009】光沢Niめっき層が形成された後、光沢度を損なわない程度の膜厚、すなわち0.01?0.3μmの膜厚で無光沢Niめっき層を形成する。無光沢Niめっきには、たとえば光沢剤無添加の全塩化物浴や硫酸ニッケル,塩化ニッケルホウ酸成分等を含むワット浴等が使用される。めっき条件は使用するめっき浴組成によって異なるが、たとえばワット浴ではpH1.5?6.0,浴温40?70℃,電流密度2?10A/dm^(2)の範囲で選定され、通電時間を変化させることにより必要厚みの無光沢Niめっき層を形成する。無光沢Niめっき層は、光沢Niめっき層が外気に直接触れることを防止する遮断膜として働き、光沢Niめっき層に含まれている光沢剤の酸化を防止すると共に、表面の接触抵抗を有効に低下させる。このような作用は、0.01μm以上の膜厚で顕著となる。しかし、無光沢Niめっき層が厚すぎると光沢度が低下するので、膜厚の上限を0.3μmに設定することが好ましい。なお、本件明細書でいう光沢Niめっき層は、光沢剤を添加しためっき浴を用いた電気めっきで形成されためっき層を意味し、鏡のような高い反射率又は解像度を呈する。これに対し、光沢剤を含まないめっき浴を用いた電気めっきで形成されるめっき層を無光沢Niめっき層という。」

(1c) 「【0010】
【実施例】表面粗さがRa0.036?0.072μmに調整された板厚0.25mmのSUS304オーステナイト系ステンレス鋼板をめっき原板として使用し、電解脱脂,酸洗の前処理を施した後、次のウッド浴に浸漬し、膜厚0.25μmのNiストライクめっきを施した。

【0011】Niストライクメッキした後、0.5?8.2μmの範囲で膜厚を変化させた光沢Niめっき層を次の条件で形成した。

【0012】次いで、光沢Niめっき層の上に、0?0.77μmの範囲で膜厚を変化させた無光沢Niめっき層を次の条件で形成した。



(1d) 「【0015】



2 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「単4形アルカリ乾電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【0021】
本実施形態に係る単4形アルカリ乾電池の構造をより詳しく述べると、正極端子を兼ねる有底円筒形の電池ケース1の内壁には中空円筒状の正極2が接している。正極2の中空部には有底円筒形のセパレータ4を介して負極3が配置されている。そして電池ケース1の開口部は封口ユニット9によって封口されている。封口ユニット9は、図3に示すように負極端子板7、負極端子板7に溶接された負極集電子6、および樹脂製の封口体5により構成されている。負極集電子6は負極3の中央に挿入されている。ここで正極2、セパレータ4および負極3には電解液が浸透して含まれており、電解液のみは図示していない。」

(2b) 「【0039】
負極端子板7は、図3に示すように、平たいリング状の周縁部7aと、中央部の平坦部7cと、周縁部7aの内周縁と平坦部7cの外周縁とを連結するように設けられた円筒部7bとを有するハット形状の部材である。また、負極端子板7は、図には表れていないが、周縁部7aに、脂製封口体5の安全弁である薄肉部5eが破断したときの圧力を逃がすガス孔が複数個設けてある。このような負極端子板7は、例えば、ニッケルめっき鋼板、スズめっき鋼板などを所定の寸法、形状にプレス成型して作製される。」

(2c) 「【0046】
樹脂製の封口体は、6,12-ナイロンを材料として作製した。負極集電子は、銅線にSnめっきをしたものを用いた。セパレータには、クラレ(株)製のアルカリ乾電池用セパレータ(ビニロンとテンセルからなる複合繊維)を用いた。」

(2d) 「【図3】



3 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「組電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【請求項1】
複数の単電池から構成される組電池であって、
Cu合金からなる基材の表面にSnおよびNiの少なくとも一方の金属を有するメッキ層が形成されてなる接続端子によって、前記単電池同士が接続されてなることを特徴とする組電池。」

(3b) 「【0006】
従来の組電池において、単電池同士を繋ぐための接続端子には、厚みが0.1?0.5mm程度の、主にNiを主成分とした金属端子が用いられており、組電池を構成する際には、前記のような接続端子を、例えば電池の缶底と缶の上部(正極キャップ)とに抵抗溶接することが一般的である。」

(3c) 「【0008】
このようなことから、例えば、特許文献1には、Ni-Sn合金層を有する電池用リード体が提案されており、これを、単電池同士を繋ぐための接続端子に用いることで、その溶接強度を高めている。」

(3d) 「【0012】
【特許文献1】特開平11-265701号公報
・・・」

4 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、「密閉型電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「【0017】
本発明の密閉型電池において、前記外部接続部に電気的に接続する外部配線でありかつ開口を有する外部接続金属板をさらに有し、前記外部接続金属板は、前記開口にボルトを通し前記ねじ部とそれに対応するナットまたはボルトとを締め合わせるにより前記外部接続部と接触するように固定され、前記外部接続金属板は、無光沢ニッケルメッキ層を表面に有することが好ましい。
このような構成にすれば、前記外部接続部と外部接続金属板を接触させることができる。また、前記外部接続金属板が無光沢ニッケルメッキ層を表面に有することにより、正極接続端子や負極接続端子に接続表面の劣化が懸念される金属が用いられたときに前記外部接続金属板と正極接続端子または負極接続端子との界面での接触不良や接触抵抗の増大が生じることを抑制することができる。」

(4b) 「【0021】
本実施形態の密閉型電池20は、蓋部材2を接合したケース1の内部に、絶縁部材10を介して蓋部材2とそれぞれ接合した正極接続端子3および負極接続端子4と、セパレータ24と、セパレータ24を介して配置された正極21および負極22と、電解液とを備え、正極21および負極22は、それぞれ正極接続端子3および負極接続端子4に接続され、正極接続端子3および負極接続端子4は、それぞれ蓋部材2を貫通し、かつ、蓋部材2と接合したケース1の外部と内部とを仕切る板状の外部接続部8をそれぞれ有し、外部接続部8は、この一部を貫通するねじ部材6と接合し、ねじ部材6は、ナットおよびボルトのいずれか一方と締め合うことができるねじ部31、ならびに外部接続部8とカシメ構造により接合するカシメ部32を有することを特徴とする。」

5 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、「密閉型電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【0015】
本発明の密閉型電池において、前記外部接続部に電気的に接続する外部配線でありかつ開口を有する外部接続金属板をさらに有し、前記外部接続金属板は、前記開口を貫通した前記ボルト部とナットとを締め合わせるにより前記外部接続部と接触するように固定され、前記外部接続金属板は、無光沢ニッケルメッキ層を表面に有することが好ましい。
このような構成にすれば、前記外部接続部と外部接続金属板を接触させることができる。また、前記外部接続金属板が無光沢ニッケルメッキ層を表面に有することにより、正極接続端子や負極接続端子に接続表面の劣化が懸念される金属が用いられたときに前記外部接続金属板と正極接続端子または負極接続端子との界面での接触不良や接触抵抗の増大が生じることを抑制することができる。」

(5b) 「【0019】
本実施形態の密閉型電池20は、図1に示すように蓋部材2を接合したケース1の内部に、絶縁部材10を介して蓋部材2とそれぞれ接合した正極接続端子3および負極接続端子4と、セパレータ24と、セパレータ24を介して配置された正極21および負極22と、電解液とを備え、正極21および負極22は、それぞれ正極接続端子3および負極接続端子4に接続され、正極接続端子3および負極接続端子4は、それぞれ蓋部材2を貫通し、かつ、蓋部材2と接合したケース1の外部と内部とを仕切る板状の外部接続部8をそれぞれ有し、外部接続部8は、ねじ部材6と接合し、ねじ部材6は、ボルト部31および外部接続部8と接合する接合部32を有し、接合部32は、前記内部に向かって拡開する円筒状の形状を有し、かつ、外部接続部8に介入し、外部接続部8は、接合部32の先端、内周面および外周面と密着することを特徴とする。」

6 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第6号証には、「リード体付き電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(6a) 「厚さ0.2mmのSUS430製のステンレス板を、例えば、硫酸ニッケルに塩化アンモニウム及びホウ酸を加えて作った無光沢ニッケルメッキ浴に浸し、電気メッキ法によって、このステンレス板の表面に厚さ3μm程度の無光沢ニッケルメッキを施した。
次いで第1図に示したように、偏平形リチウム電池の如き偏平形電池1の負極端子面上に上記で得たステンレス板からなるリード板2の一端部を密着させて固定し、またリード板上方に設けた対物レンズ3により電池端子面近傍に収束させたレーザ光を所定の溶接個所に当てこの溶接個所を瞬間的に高温に加熱溶融するなどして、リード板2を電池端子面にレーザスポット溶接した。同様にして偏平形電池1の正極端子面にも同様なリード板4をレーザスポット溶接して、第2図に示した如き、本発明に係るリード体付き電池(本発明品)を作製した(図中「×」部は溶接部)。
一方、メッキ浴の組成を変えるなどして、無光沢メッキに代えて光沢ニッケルメッキを施したステンレス板をリード板として用いた以外は同様にして、従来のリード体付き電池(従来品)を作った。尚、本発明品、従来品ではリード板の溶接強度は夫々10.3kg、9.5kgであった。」(2頁右下欄1行?3頁左上欄5行)

7 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第7号証には、「電気接触材料及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(7a) 「【0003】ここで、電解によるNiめっきには、光沢Niめっきと無光沢Niめっきがある。光沢Niめっきは、表面が鏡面仕上げされたかのような奇麗な光沢を有していて、とくに外観性を重視する用途に適している。この光沢Niめっきは、結晶を微細化するような添加剤(光沢剤)をめっき浴に加えることで形成することができる。しかし、その添加剤の使用により、めっき層中の不純物とくにSおよびCの含有量が多くなり、これによって上記電気接触抵抗が高くなってしまうという問題が生じる。・・・」

(7b) 「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は本発明による電気接触材料の断面形態を模式的に示す。同図に示す電気接触材料は、Fe系またはCu系の薄板状金属素材(被めっき素材)1上に、無光沢Niめっきによる下層21、光沢Niめっきによる中間層22、無光沢Niめっきによる上層(表層)23がそれぞれ、電解めっきにより順次積層形成されている。下層21および上層23の無光沢Niめっき層はそれぞれ、SやCなどの不純物含有量が少なくなるようなめっき浴条件にて形成されている。また、中間層22の光沢Niめっき層は、めっき結晶を微細化するような添加剤をめっき浴に加えて形成されている。」

8 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第9号証には、「電池缶用Niメッキ鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(9a) 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、耐食性、摺動性および接触抵抗に優れた電池缶用のNiメッキ鋼板および電池缶の提供を目的とする。」

(9b) 「【実施例】
【0025】
本発明例1?6および比較例1?3
板厚0.25mmのNb-Ti-Sulc鋼(未再結晶鋼板)を原板とし、無光沢Niメッキ→拡散処理→調質圧延→半光沢添加剤含有Niメッキの手順でサンプルを製造した。無光Niメッキは、無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)によって行った。拡散処理は、連続焼鈍炉にて無酸化条件で800℃均熱40secの条件で行った(この条件を表1中「std」と表記)。調質圧延は、2スタンド圧延機にて、各種粗度のロールを用い、ドライ圧延した。半光沢添加剤含有Niメッキは、先の無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)に市販のアセチレン系半光沢添加剤を添加した浴で行った。なお、半光沢添加剤入Niメッキに先だって、5%NaOHによる脱脂処理、つづけて5%硫酸水溶液により表面活性化処理を行った。なお、無光沢Niメッキ、半光沢添加剤入Niメッキそれぞれの付着量は表1に示すとおりである。また最終製品の表面粗度Raも表1に示すとおりである。
【0026】
本発明例7?8および比較例4
半光沢添加剤含有Niメッキに替わり、光沢添加剤入Niメッキを行う以外は、先の例と全く同一に処理した。光沢添加剤含有Niメッキは、無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)に市販の含窒素系光沢添加剤を添加した浴で行った。無光沢Niメッキ、光沢添加剤入Niメッキそれぞれの付着量は表1に示すとおりである。
・・・
【0030】
【表1】



9 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第10号証には、「電池缶用Niメッキ鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(10a) 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、加工時の耐カジリ性、および耐食性、電池特性を改善しうるNiメッキ鋼板および電池缶の提供を目的とする。」

(10b) 「【実施例】
【0027】
(実施例1?6)ならびに(比較例1?5)を示す。
【0028】
板厚0.25mmのNb-Ti-Sulc鋼(未再結晶鋼板)を原板とし、無光沢Niメッキ→拡散処理→半光沢添加剤含有Niメッキ→調質圧延の手順でサンプルを製造した。無光Niメッキは、無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)によって行った。拡散処理は、連続焼鈍炉にて無酸化条件で800℃均熱40secの条件で行った(この条件を表1中「std」と表記)。拡散処理後のNiメッキ層の状態をGDSおよび断面観察により観察し、表1中に示した(「A」はFe-Ni拡散層を、「B」はFe-Ni拡散層とその上層に再結晶軟質化したNiメッキ層が存在する状態であることを示す)。半光沢添加剤含有Niメッキは、先の無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)に市販のアセチレン系半光沢添加剤を添加した浴で行った。なお、半光沢添加剤入Niメッキに先だって、5%NaOHによる脱脂処理、つづけて5%硫酸水溶液により表面活性化処理を行った。調質圧延は、2スタンド圧延機にて、各種粗度のロールを用い、ドライ圧延した。なお、無光沢Niメッキ、半光沢添加剤入Niメッキそれぞれの付着量は表1に示すとおりである。また最終製品の表面粗度RaおよびRmaxも表1に示すとおりである。
【0029】
(実施例7)
半光沢添加剤含有Niメッキに替わり、光沢添加剤入Niメッキを行う以外は、先の例と同一に処理した。光沢添加剤含有Niメッキは、無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45 g/リットル)に市販の含窒素系光沢添加剤を添加した浴で行った。無光沢Niメッキ、光沢添加剤入Niメッキそれぞれの付着量は表1に示すとおりである。
・・・
【0034】
【表1】



10 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第11号証には、「電池缶用Niメッキ鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(11a) 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、耐食性、摺動性および接触抵抗に優れた電池缶用のNiメッキ鋼板および電池缶の提供を目的とする。」

(11b) 「【0024】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0025】
実施例1?6および比較例1?2
板厚0.25mmのNb-Ti-Sulc鋼(未再結晶鋼板)を原板とし、無光沢Niメッキ→拡散処理→半光沢添加剤含有Niメッキ→調質圧延の手順でサンプルを製造した。無光沢Niメッキは、無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)によって行った。拡散処理は、連続焼鈍炉にて無酸化条件で800℃均熱40secの条件で行った(この条件を表1中「std」と表記)。半光沢添加剤含有Niメッキは、先の無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)に市販のアセチレン系半光沢添加剤を添加した浴で行った。なお、半光沢添加剤入Niメッキに先だって、5%硫酸水溶液により表面活性化処理を行った。調質圧延は、2スタンド圧延機にて、Ra0.04μm粗度のロールを用い、全伸び率が2.6%となるようにドライ圧延した(この条件を表1中「std」と表記)。なお、無光沢Niメッキ、半光沢添加剤入Niメッキそれぞれの付着量は表1に示すとおりである。
【0026】
実施例7?8
半光沢添加剤含有Niメッキに替わり、光沢添加剤入Niメッキを行う以外は、先の例と全く同一に処理した。光沢添加剤含有Niメッキは、無光沢ワット浴(硫酸ニッケル:350g/リットル+塩化ニッケル:70g/リットル+ホウ酸:45g/リットル)に市販の含窒素系光沢添加剤を添加した浴で行った。無光沢Niメッキ、光沢添加剤入Niメッキそれぞれの付着量は表1に示すとおりである。
・・・
【0035】
【表1】



11 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第12号証には、「電池ケース用表面処理鋼板及び電池ケース」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(12a) 「【請求項4】 ケース内面に相当する面では、下層として鉄-ニッケル拡散層と、上層としてニッケルめっき層とを有し、ケース外面に相当する面では、下層として鉄-ニッケル拡散層と、中間層としてニッケル層と、上層として光沢ニッケルめっき層とを有する電池ケース用表面処理鋼板。」

(12b) 「【請求項12】 前記ニッケルめっき層の厚みが0.2?3μmであることを特徴とする請求項3、4、7、8、9のいずれかに記載の電池ケース用表面処理鋼板。」

(12c) 「【0015】表面処理鋼板の母材となる鋼板、即ち、めっき原板としては,通常、低炭素アルミキルド鋼が好適に用いられる。さらに、ニオブ,チタンを添加し、非時効性極低炭素鋼(炭素0.01%未満)から製造された冷延鋼帯も用いられる。
【0016】そして、通常法により,冷延後,電解清浄,焼鈍,調質圧延した鋼帯をめっき原板とする。その後、このめっき原板を用い、ニッケルめっきを両面に行う。めっき後、熱処理によりニッケルー鉄拡散層を形成する。ただし、熱処理は、全量ニッケル-鉄合金層としても良いし、厚みとして3μm以下のニッケル層が残るような条件で行う。この目的のためには、箱型焼鈍法による熱処理では、450?650℃の温度で4?15時間、連続焼鈍法では、600?850℃の温度で、0.5?3分程度の熱処理が好ましい。その後、電池ケース外面に相当する面には、光沢ニッケルめっきあるいは光沢ニッケル合金めっきを行う。光沢ニッケル合金めっきとしては、ニッケルーコバルト合金めっきが好ましい。また、もう一つ方法として、電池ケース外面に相当する面に前記と同じように、光沢ニッケルめっきあるいは光沢ニッケル合金めっきを行った後、内面に相当する面に無光沢のニッケルめっき、半光沢ニッケルめっきあるいは光沢ニッケルめっきを行う。光沢ニッケルめっきを行う場合は、外面側の光沢ニッケルめっきを行うときと同時に行っても良い。めっき厚みとして、0.2?3μmの範囲が良い。0.2μm未満では、電池性能の向上の効果が認められず、3μmを超すと効果が飽和し、いたずらに厚くするとコストアップになる。」

(12d) 「【0018】
【実施例】本発明について、さらに、以下の実施例を参照して具体的に説明する。板厚0.25mmならびに0.4mmの冷間圧延、焼鈍、調質圧延済の低炭素アルミキルド鋼板を、それぞれ、めっき原板とした。また、板厚0.25mmならびに0.4mmの冷間圧延後の極低炭素アルミキルド鋼板をめっき原板とした。両めっき原板の鋼化学組成は、共に、下記の通りである。
【0019】
C:0.04%(%は重量%,以下同じ)
Si:0.01%
Mn:0.22%,
P:0.012%
S:0.006%
Al:0.0.48%
N:0.0025%
【0020】上記めっき原板を、常法により、アルカリ電解脱脂,水洗,硫酸浸漬,水洗後の前処理を行った後,通常の無光沢ニッケルめっきを行う。
【0021】1)無光沢ニッケルめっき
下記の硫酸ニッケル浴を用いて無光沢ニッケルめっきを行った。
浴組成
硫酸ニッケル NiSO_(4)・6H_(2)O 300 g/L
塩化ニッケル NiCl_(2)・6H_(2)O 45 g/L
硼酸 H_(3)BO_(3) 30 g/L
浴pH: 4(硫酸で調整)
撹拌:空気撹拌
浴温度: 60 ℃
アノ-ド:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロレン製バッグで覆ったものを使用。
無光沢のニッケルめっき後、熱処理により、ニッケルー鉄拡散層を形成する。熱処理条件は、水素6.5%、残部窒素ガス、露点ー55℃の非酸化性雰囲気中で、最表層にニッケル層が0.01?3μm残るか、全量ニッケル-鉄合金層となるように均熱時間、均熱温度を適宜変えて熱処理を施した。更に、電池ケース外面に相当する面には、光沢ニッケルめっきあるいは光沢ニッケルーコバルト合金めっきを行った。光沢ニッケルめっきは下記の光沢ニッケル-コバルト合金めっき浴の硫酸コバルトを添加しないで行った。
【0022】2)光沢ニッケル-コバルト合金めっき
硫酸ニッケル浴に硫酸コバルトを適宜添加してニッケルめっき層中にコバルトを含有させた。
浴組成
硫酸ニッケル NiSO_(4)・6H_(2)O 300 g/L
塩化ニッケル NiCl_(2)・6H_(2)O 45 g/L
硫酸コバルト CoSO_(4)・6H_(2)O (適宜)
硼酸 H_(3)BO_(3) 30 g/L
含窒素複素環化合物 0.6 g/L
含窒素脂肪族化合物 2.0g/L
浴pH: 4(硫酸で調整)
撹拌:空気撹拌
浴温度: 60 ℃
アノ-ド:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロピレン製バッグで覆ったものを使用した。上記の条件で、硫酸コバルト添加量および電解時間を変えて、めっき皮膜中のコバルト含有量、めっき厚みを変化させた。ここまでの表面処理でも特性は良好であるが、更に、電池ケース内面側に、無光沢ニッケルめっき、半光沢ニッケルめっきあるいは光沢ニッケルを行っても良い。無光沢ニッケルめっき浴は前記記載のめっき浴が使える。光沢ニッケルめっきの場合、電池ケース外面側に光沢ニッケルめっきを行う時と同時に行っても良い。また、半光沢ニッケルめっきについては、下記のめっき浴を使う。この半光沢ニッケルめっきは、最初の無光沢ニッケルめっきの替わりに実施しても良い。
【0023】3)半光沢ニッケルめっき
硫酸ニッケル浴に半光沢剤として不飽和アルコールのポリオキシーエチレン付加物および不飽和カルボン酸ホルムアルデヒドを適宜添加して半光沢ニッケルめっきを行った。
浴組成
硫酸ニッケル NiSO_(4)・6H_(2)O 300 g/L
塩化ニッケル NiCl_(2)・6H_(2)O 45 g/L
硼酸 H_(3)BO_(3) 30 g/L
不飽和アルコールのポリオキシーエチレン付加物 3.0 g/L
不飽和カルボン酸ホルムアルデヒド 3.0g/L
浴pH: 4(硫酸で調整)
撹拌:空気撹拌
浴温度: 60 ℃
アノ-ド:Sペレット(INCO社製商品名、球状)をチタンバスケットに装填してポリプロピレン製バッグで覆ったものを使用。
・・・
【0027】
【表1】



12 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第13号証には、「電池用金属部品及び電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(13a) 「[実施例1]
【0040】
本実施例では、LR6型(単3型)のアルカリ電池11の試験用サンプルを14種類作製し、これらを対象として下記の特性に関する試験を行った。
【0041】
ここでは、下地層である無光沢ニッケルめっき層26(第1ニッケルめっき層)の厚さT1、及び、最表層である光沢ニッケルめっき層27(第2ニッケルめっき層)の厚さT2を0μm?2μmの範囲で変更した。なお、サンプル2,3,4,5,7,8,9,10を、本発明の技術的思想の範囲内のサンプルとして位置づけた。
【0042】
試験項目としては、素材ニッケルめっき鋼板の耐食性、寿命加工数、DSC枚数及び発錆数の4つとした。
素材ニッケルめっき鋼板の耐食性:塩水噴霧試験(SST)での顕著な点錆が発生するまでの時間を、A(120分超)、B(60分?120分)、C(60分以内)の3段階で評価した。
・・・
【表1】



13 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第14号証には、「電池用缶、それを用いた電池および電池用缶の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(14a) 「【0036】
図6に示すように、正極集電体を兼ねた有底円筒形の電池用缶12には、中空円筒状の正極合剤2が内接するように収納されている。正極合剤2の中空部には有底円筒形のセパレータ4を介してゲル状負極3が配置されている。電池用缶12の開口部は、正極合剤2、ゲル状負極3等の発電要素を収納した後、釘型の負極集電体6と電気的に接続された負極端子板7と樹脂封口体5を一体化した組立封口体9により封口される。電池用缶12の外表面は、絶縁を確保するため外装ラベル8により被覆されている。」

(14b) 「【0043】
前記負極集電体6は銀、銅、真鍮等の線材を所定の寸法の釘型にプレス加工して得られる。なお、加工時の不純物の排除と隠蔽効果を得るためにその表面にスズやインジウムでメッキを施すことが好ましい。例えば、前記負極集電体6は、特開平5-283080、および特開2001-85018記載の公知の方法で得られる。
【0044】
前記負極端子板7は、概帽子状の形状を有し、その周縁鍔部に前記樹脂封口体5の安全弁が作動した際の圧力を逃がすガス孔が複数個設けてある。例えば、ニッケルめっき鋼板、スズめっき鋼板などを所定の寸法、形状にプレス成型して得られる。」

14 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第15号証には、「二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(15a) 「【0024】
本発明における正極板1及び負極板2の電極基体の材料には、耐電解液性を有する導電物質、中でも金属を用いることが好ましい。具体的にはNi/Ca電池やNi/MH電池で代表されるアルカリ蓄電池では、ニッケル、鉄、ニッケルメッキ鋼板、Li電池系ではアルミニウム、又は銅のいずれかを主成分とする金属を例として挙げることができる。」

(15b) 「【0028】
従って、負極側集電板6には、導電性に優れ、かつ耐電解液性を有する金属を材料とすることが好ましい。具体的には、アルカリ蓄電池の場合は、電極基材と同じくニッケル、鉄、ニッケルめっき鋼板、Li電池の場合は、正極集電板としてはアルミニウムを、負極集電板としては銅を主成分とする金属を例示することができる。負極板2の電極端部4’と、負極側集電板6との電気的接続は、当該接続を確実強固なものとするために、溶接にて行われることが好ましい。・・・」

第5 甲号証に記載された発明
1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記(1a)、(1c)、(1d)によれば、比較例15、16に注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「オーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、基材表面に光沢Niめっき層を介して層厚0.77又は0.84μmの無光沢Niめっき層が形成されているNiめっき鋼板。」(以下、「甲1発明」という。)

2 甲第9号証に記載された発明
甲第9号証の前記(9a)、(9b)によれば、本発明例1?6は、いずれのサンプルも、Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に半光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されており、また、本発明例7?8は、いずれのサンプルも、Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されており、これらのサンプルは全てNiメッキ鋼板であることは明らかである。
そして、本発明例1?6の半光沢添加剤入Niメッキの付着量は1?18g/m^(2)であり、また、本発明例7?8の光沢添加剤入Niメッキの付着量は1?5g/m^(2)であり、ここで、Niの密度は8.90g/cm^(3)(25℃)である(「岩波 理化学辞典 第4版」、1994年7月18日、p.934)ことから、換算すると、半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みは0.11?2.02μmとなり、光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みは0.11?0.56μmとなる。
以上から、甲第9号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されてなるNiメッキ鋼板であって、
前記半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?2.02μmであり、前記光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?0.56μmであるNiメッキ鋼板。」(以下、「甲9発明」という。)

3 甲第10号証に記載された発明
甲第10号証の前記(10a)、(10b)によれば、実施例1?6は、いずれのサンプルも、Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に半光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されており、また、実施例7は、Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されており、これらのサンプルは全てNiメッキ鋼板であることは明らかである。
そして、実施例1?6の半光沢添加剤入Niメッキの付着量は1?15g/m^(2)であり、また、実施例7の光沢添加剤入Niメッキの付着量は9g/m^(2)であり、ここで、前記2で示したように、Niの密度は8.90g/cm^(3)(25℃)であることから、換算すると、半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みは0.11?1.69μmとなり、光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みは1.01μmとなる。
以上から、甲第10号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されているNiメッキ鋼板であって、
前記半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?1.69μmであり、前記光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが1.01μmであるNiメッキ鋼板。」(以下、「甲10発明」という。)

4 甲第11号証に記載された発明
甲第11号証の前記(11a)、(11b)によれば、実施例1?6は、いずれのサンプルも、Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に半光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されており、また、実施例7?8は、いずれのサンプルも、Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されており、これらのサンプルは全てNiメッキ鋼板であることは明らかである
そして、実施例1?6の半光沢添加剤入Niメッキの付着量は1?18g/m^(2)であり、また、実施例7の光沢添加剤入Niメッキの付着量は1?5g/m^(2)であり、ここで、前記2で示したように、Niの密度は8.90g/cm^(3)(25℃)であることから、換算すると、半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みは0.11?2.02μmとなり、光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みは0.11?0.56μmとなる。
以上から、甲第11号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板の表面に無光沢Niメッキ層が形成され、その上に半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層が形成されているNiメッキ鋼板であって、
前記半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?2.02μmであり、前記光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?0.56μmであるNiメッキ鋼板。」(以下、「甲11発明」という。)

5 甲第12号証に記載された発明
甲第12号証の前記(12c)には、表面処理鋼板の母材となる鋼板を冷延後,電解清浄,焼鈍,調質圧延した鋼帯からなるめっき原板の両面にニッケルめっきを行い、電池ケースの内面に相当する面に、めっき厚みとして0.2?3μmの範囲の無光沢ニッケルめっき、半光沢ニッケルめっきあるいは光沢ニッケルめっきを行うことが記載されているから、甲第12号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「表面処理鋼板の母材となる鋼板を冷延後,電解清浄,焼鈍,調質圧延した鋼帯の表面にニッケルめっき層が形成され、その上に無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケルめっき層が形成されている表面処理鋼板であって、
前記無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケル層の厚みが0.2?3μmである表面処理鋼板。」(以下、「甲12発明」という。)

6 甲第13号証に記載された発明
甲第13号証の前記(13a)によれば、実施例1のNo.2?5、7?10に注目すると、甲第13号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「鋼板の表面に無光沢ニッケルめっき層が形成され、最表層として光沢ニッケルめっき層が形成されている素材ニッケルめっき鋼板であって、
前記光沢ニッケルめっき層の厚みが0.1?2μmである素材ニッケルめっき鋼板。」(以下、「甲13発明」という。)

第6 対比・判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「基材」は、「オーステナイト系ステンレス鋼」からなるものでって、「Niめっき鋼板」の基材となるものであるから、当該「基材」が金属板であることは明らかである。
したがって、甲1発明の「オーステナイト系ステンレス鋼」からなる「基材」は、本件発明1の「金属板からなる基材」に相当する。

(イ) 甲1発明における「基材表面」の「光沢Niめっき層」は、基材の表面に形成されているものであるから、甲1発明の「光沢Niめっき層」は、本件発明1の「第1Niめっき層」に相当する。

(ウ) 甲1発明における「無光沢Niめっき層」は、「基材表面に光沢Niめっき層を介して」形成されているから、光沢Niめっき層上に形成されるものである。
また、甲1発明の「無光沢Niめっき層」は、「層厚0.77又は0.84μm」であり、本件発明1の「第2Niめっき層の厚み」である「0.50μm以上」と重複している。
そして、甲1発明の「無光沢Niめっき層」について、甲第1号証の前記(1b)には、「光沢剤を含まないめっき浴を用いた電気めっきで形成されるめっき層を無光沢Niめっき層という」と記載されているから、上記「無光沢Niめっき層」は、光沢剤を含まない無光沢Niめっきにより形成したものである。
一方、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0018】
・・・第2Niめっき層は、無光沢Niめっき、半光沢剤の割合を低減した半光沢Niめっき、又は光沢剤の割合を低減した光沢Niめっきにより形成することができる。・・・」
「【0020】
上記したように、第2Niめっき層を光沢Niめっきにより形成すると、溶接時にめっき層中にクラックが発生して溶接強度が低下することから、第2Niめっき層中のC及びSの濃度を規制する。C及びSは光沢剤が分解して生じる元素である。」
「【0037】
表1、表2で第2Niめっき層を形成する際、光沢剤濃度が「-」は無光沢Niめっきを表す。・・・」
「【0046】
【表1】

【表2】



以上によれば、第2Niめっき層を、光沢剤を含まない無光沢Niめっきにより形成したもの(実施例1-1?1-27、実施例2-1?2-22、比較例1-1?1-2)は、いずれも、光沢剤が分解してC及びSが生じることはないため、当該第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度は1.0質量%以下となっているといえる。
そうすると、光沢剤を含まない無光沢Niめっきにより形成した、甲1発明の「無光沢Niめっき層」においても、光沢剤が分解してC及びSが生じることはないため、当該「無光沢Niめっき層」の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度は1.0質量%以下となっているものと認められる。

(エ) 以上から、甲1発明の「基材表面に光沢Niめっき層を介して層厚0.77又は0.84μmの無光沢Niめっき層が形成されている」ことは、本件発明1の「金属板からなる基材の表面に第1Niめっき層が形成され、その上に第2Niめっき層が形成されてな」り、「前記第2Niめっき層の厚みが0.50μm以上であって、かつ該第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下である」ことに相当する。

(オ) したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致している。

相違点1:Niめっき金属板について、本件発明1は、「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るのに対し、甲1発明は、そのような用途であるかどうか不明である点。

イ 相違点についての判断
本件発明1の「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るとの用途につき、甲1発明の「Niめっき鋼板」を、そのような用途に用いる際には、「Niめっき鋼板」表面の「無光沢Niめっき層」を、「錫めっき層を表面に有する銅合金条」との「抵抗溶接」に用いることとなるから、甲1発明において、Niめっき鋼板表面の無光沢Niめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて以下検討する。

(ア-1) 甲第2号証の前記(2a)?(2c)には、単4形アルカリ電池において、ニッケルめっき鋼板からなる負極端子板と、Snめっきした銅線からなる負極集電子とを溶接することは記載されているものの、両者を抵抗溶接すること、及び、ニッケルめっき鋼板のニッケルめっきが無光沢ニッケルめっきであることは記載も示唆もされていない。

(ア-2) 甲第3号証の前記(3a)?(3b)には、組電池において、Snめっき層が形成されてなるCu合金接続端子を電池の缶底と缶の上部とに抵抗溶接することは記載されているものの、電池の缶底と缶の上部との表面が無光沢Niめっき層であることは記載も示唆もされていない。

(ア-3) 甲第4号証の前記(4a)?(4b)、及び、甲第5号証の前記(5a)?(5b)には、いずれにも、密閉型電池において、正極接続端子及び負極接続端子は、それぞれ外部接続部を有し、開口を有する外部接続金属板は、この開口を貫通したボルト部とナットとを締め合わせるにより外部接続部と接触するように固定されること、及び、外部接続金属板の表面に無光沢ニッケルメッキ層を形成することにより、正極接続端子又は負極接続端子との界面での接触不良や接触抵抗の増大が生じることを抑制することができることは記載されているものの、正極接続端子又は負極接続端子が、錫めっき層を表面に有する銅合金条であること、及び、正極接続端子又は負極接続端子と外部接続金属板とを抵抗溶接することは記載も示唆もされていない。

(ア-4) 甲第6号証の前記(6a)には、無光沢ニッケルメッキを施したステンレス板からなるリード板の方が、光沢ニッケルメッキを施したステンレス板からなるリード板よりも、電池の端子面上における、レーザスポット溶接強度が高いことは記載されているものの、電池の端子が、錫めっき層を表面に有する銅合金条であること、及び、無光沢ニッケルメッキを施したステンレス板からなるリード板と電池の端子とを抵抗溶接することは記載も示唆もされていない。

(ア-5) 甲第7号証の前記(7a)?(7b)には、光沢Niめっきは、添加剤(光沢剤)をめっき浴に加えることで形成することができるが、その添加剤の使用により、めっき層中の不純物とくにSおよびCの含有量が多くなり、これによって電気接触抵抗が高くなってしまうという問題が生じること、及び、無光沢Niめっき層はそれぞれ、SやCなどの不純物含有量が少なくなるようなめっき浴条件にて形成されていることは記載されているものの、無光沢Niめっき層と、錫めっき層を表面に有する銅合金条とを抵抗溶接することは記載も示唆もされていない。

(ア-6) 甲第14号証の前記(14a)?(14b)には、電池において、スズメッキを施した銅からなる釘型の負極集電体と、ニッケルめっき鋼板をプレス成型した負極端子板とを電気的に接続することは記載されているものの、両者を抵抗溶接すること、及び、ニッケルめっき鋼板のニッケルめっきが無光沢ニッケルめっきであることは記載も示唆もされていない。

(ア-7) 甲第15号証の前記(15a)?(15b)によれば、アルカリ蓄電池では、ニッケルメッキ鋼板からなる負極板の電極端部と、ニッケルめっき鋼板からなる負極側集電板とを溶接により電気的接続すること、及び、リチウム系電池では、銅を主成分とする金属からなる負極板の電極端部と、銅を主成分とする金属からなる負極側集電板とを溶接により電気的接続することは記載されているものの、無光沢Niめっき層と、錫めっき層を表面に有する銅合金条とを抵抗溶接することは記載も示唆もされていない。

(ア-8) 前記(ア-1)?(ア-7)の検討によれば、甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証のいずれにも、無光沢Niめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証に記載されたいずれの事項からも、甲1発明において、Niめっき鋼板表面の無光沢Niめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。

(ア-9) そして、本件特許明細書の【0013】によれば、本件発明1は、「基材の表面にNiめっき層を2層めっきした場合に、Niめっき層のクラック発生を防止して溶接性を向上させることができる」という効果を奏するものであり、この効果は、甲第1号証及び甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証の記載からは予測し得ないものである。

(ア-10) したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(2) 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、前記(1)の判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲1発明及び甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) 異議申立人の主張
ア 異議申立人は、特許異議申立書10頁2?17行において、甲第3号証の【0008】、【0012】で従来技術として引用する特許文献1(特開平11-265701号公報)は、Niめっき鋼板から成る電池容器に抵抗溶接する電池用リード材に関するものであることから、甲第3号証の技術も、同様に、Niめっき鋼板から成る電池容器に抵抗溶接する電池用リード(接続端子)に関する技術であると考えられるので、甲第3号証には、錫を有するめっき層が形成されてなるCu合金接続端子を、Niめっき鋼板から成る電池容器の缶底と缶の上部(正極キャップ)に抵抗溶接する技術が記載されている旨主張している。
しかし、甲第3号証の【0008】(前記(3c)参照。)、【0012】(前記(3d)参照。)で従来技術として引用されている特許文献1(特開平11-265701号公報)は、証拠として提出されておらず、当該特許文献1が、どのような技術に関するものであるのか確認することはできないから、甲第3号証の技術が、Niめっき鋼板から成る電池容器に抵抗溶接する電池用リード(接続端子)に関する技術であるとはいえないし、また、甲第3号証には、錫を有するめっき層が形成されてなるCu合金接続端子を、Niめっき鋼板から成る電池容器の缶底と缶の上部(正極キャップ)に抵抗溶接する技術が記載されているともいえない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。

イ 異議申立人は、特許異議申立書9頁9行?12頁6行、14頁9行?15頁2行において、甲第2号証及び甲第3号証には、Niめっき鋼板を、錫めっきしてなる銅線又は銅端子に溶接する技術が記載されており、甲第4号証?甲第6号証には、無光沢Niめっき層(C,Sが含まれていないNiめっき層)を形成することにより溶接性を向上させる技術が記載されていることから、甲第2号証?甲第6号証には、「Niめっき鋼板を、錫めっきしてなる銅線又は銅端子に溶接する技術、及び無光沢Niめっき層(C,Sが含まれていないNiめっき層)を形成することにより、錫を含む金属に対する溶接性が向上する点」との構成が記載されており、この構成は、本件発明1の構成Bに相当し、ここで、甲第1号証は電池容器(缶、蓋)に関する技術に関するものであり、甲第2号証?甲第6号証はいずれも、その電池容器(缶、蓋)と金属部材を溶接で接合する技術そのものあるいはその技術に関する記載のある文献であるから、甲第1号証に記載された構成A,C,Dを備えるNiめっき鋼板を、甲第2号証?甲第6号証に記載されている構成Bの用途に用いることに格別の困難性はない旨主張している。
しかし、上記(1)イ(ア-8)で検討したように、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも、無光沢Niめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証に記載されたいずれの事項からも、甲1発明において、Niめっき鋼板表面の無光沢Niめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。
また、仮に、異議申立人の上記主張のとおり、甲第2号証及び甲第3号証には、Niめっき鋼板を、錫めっきしてなる銅線又は銅端子に溶接する技術が記載されており、甲第4号証?甲第6号証には、無光沢Niめっき層(C,Sが含まれていないNiめっき層)を形成することにより溶接性を向上させる技術が記載されており、さらに、「Niめっき鋼板を、錫めっきしてなる銅線又は銅端子に溶接する技術、及び無光沢Niめっき層(C,Sが含まれていないNiめっき層)を形成することにより、錫を含む金属に対する溶接性が向上する点」との構成が、本件発明1の構成Bに相当するものとして以下検討する。
まず、甲第2号証?甲第6号証の記載から、「Niめっき鋼板を、錫めっきしてなる銅線又は銅端子に溶接する技術、及び無光沢Niめっき層(C,Sが含まれていないNiめっき層)を形成することにより、錫を含む金属に対する溶接性が向上する点」との構成を得るには、甲第2号証及び甲第3号証に記載の事項と、甲第4号証?甲第6号証に記載の事項を組み合わせる必要がある。
そして、甲1発明を、甲第2号証?甲第6号証に記載されている構成Bの用途に用いるためには、甲第2号証及び甲第3号証に記載の事項と、甲第4号証?甲第6号証に記載の事項を組み合わせることにより得られた事項を、さらに、甲1発明に組み合わせることとなるから、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(4) まとめ
以上から、本件発明1?8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 申立理由2-1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲9発明との対比
本件発明1と甲9発明とを対比する。
(ア) 甲9発明の「Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板」、「無光沢Niメッキ層」、「半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層」、「Niメッキ鋼板」は、それぞれ、本件発明1の「金属板からなる基材」、「第1Niめっき層」、「第2Niめっき層」、「Niめっき金属板」に相当する。

(イ) 甲9発明では、「前記半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?2.02μmであり、前記光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?0.56μmであ」り、いずれの厚みも、本件発明1の「第2Niめっき層の厚み」である「0.50μm以上」と重複している。

(ウ) したがって、本件発明1と甲9発明とは、以下の2点で相違し、その余の点で一致している。

相違点2:Niめっき金属板について、本件発明1は、「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るのに対し、甲9発明は、そのような用途であるかどうか不明である点。

相違点3:本件発明1は、「第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下である」のに対し、甲9発明は、それが不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点2について
相違点2は、前記相違点1と同じ内容であるところ、本件発明1の「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るとの用途につき、甲9発明の「Niメッキ鋼板」を、そのような用途に用いる際には、「Niメッキ鋼板」表面の「半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層」に「錫めっき層を表面に有する銅合金条」を「抵抗溶接」することとなるから、甲9発明において、Niメッキ鋼板表面の半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討するに、前記1(1)イ(ア-8)で検討したように、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証のいずれにも、半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載されたいずれの事項からも、甲9発明において、Niメッキ鋼板表面の半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。

(イ) そして、前記1(1)イ(ア-9)で示したように、本件発明1は、「基材の表面にNiめっき層を2層めっきした場合に、Niめっき層のクラック発生を防止して溶接性を向上させることができる」という効果を奏するものであり、この効果は、甲第9号証及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証の記載からは予測し得ないものである。

(ウ) したがって、前記相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲9発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(2) 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、前記(1)の判断と同様の理由により、甲9発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲9発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) まとめ
以上から、本件発明1?8は、甲第9号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第9号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 申立理由2-2について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲10発明との対比
本件発明1と甲10発明とを対比する。
(ア) 甲10発明の「Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板」、「無光沢Niメッキ層」、「半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層」、「Niメッキ鋼板」は、それぞれ、本件発明1の「金属板からなる基材」、「第1Niめっき層」、「第2Niめっき層」、「Niめっき金属板」に相当する。

(イ) 甲10発明では、「前記半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?1.69μmであり、前記光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが1.01μmであ」り、いずれの厚みも、本件発明1の「第2Niめっき層の厚み」である「0.50μm以上」と重複している。

(ウ) したがって、本件発明1と甲10発明とは、以下の2点で相違し、その余の点で一致している。

相違点4:Niめっき金属板について、本件発明1は、「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るのに対し、甲10発明は、そのような用途であるかどうか不明である点。

相違点5:本件発明1は、「第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下である」のに対し、甲10発明は、それが不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点4について
相違点4は、前記相違点1及び相違点2と同じ内容であるところ、本件発明1の「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るとの用途につき、甲10発明の「Niメッキ鋼板」を、そのような用途に用いる際には、「Niメッキ鋼板」表面の「半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層」に「錫めっき層を表面に有する銅合金条」を「抵抗溶接」することとなるから、甲10発明において、Niメッキ鋼板表面の半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討するに、前記1(1)イ(ア-8)で検討したように、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証のいずれにも、半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載されたいずれの事項からも、甲10発明において、Niメッキ鋼板表面の半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。

(イ) そして、前記1(1)イ(ア-9)で示したように、本件発明1は、「基材の表面にNiめっき層を2層めっきした場合に、Niめっき層のクラック発生を防止して溶接性を向上させることができる」という効果を奏するものであり、この効果は、甲第10号証及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証の記載からは予測し得ないものである。

(ウ) したがって、前記相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲10発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(2) 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、前記(1)の判断と同様の理由により、甲10発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲10発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) まとめ
以上から、本件発明1?8は、甲第10号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第10号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 申立理由2-3について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲11発明との対比
本件発明1と甲11発明とを対比する。
(ア) 甲11発明の「Nb-Ti-Sulc鋼からなる原板」、「無光沢Niメッキ層」、「半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層」、「Niメッキ鋼板」は、それぞれ、本件発明1の「金属板からなる基材」、「第1Niめっき層」、「第2Niめっき層」、「Niめっき金属板」に相当する。

(イ) 甲11発明では、「前記半光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?2.02μmであり、前記光沢添加剤含有Niメッキ層の厚みが0.11?0.56μmであ」り、いずれの厚みも、本件発明1の「第2Niめっき層の厚み」である「0.50μm以上」と重複している。

(ウ) したがって、本件発明1と甲11発明とは、以下の2点で相違し、その余の点で一致している。

相違点6:Niめっき金属板について、本件発明1は、「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るのに対し、甲11発明は、そのような用途であるかどうか不明である点。

相違点7:本件発明1は、「第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下である」のに対し、甲11発明は、それが不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点6について
相違点6は、前記相違点1、相違点2及び相違点4と同じ内容であるところ、本件発明1の「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るとの用途につき、甲11発明の「Niメッキ鋼板」を、そのような用途に用いる際には、「Niメッキ鋼板」表面の「半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層」に「錫めっき層を表面に有する銅合金条」を「抵抗溶接」することとなるから、甲11発明において、Niメッキ鋼板表面の半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討するに、前記1(1)イ(ア-8)で検討したように、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証のいずれにも、半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載されたいずれの事項からも、甲11発明において、Niメッキ鋼板表面の半光沢添加剤含有Niメッキ層又は光沢添加剤含有Niメッキ層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。

(イ) そして、前記1(1)イ(ア-9)で示したように、本件発明1は、「基材の表面にNiめっき層を2層めっきした場合に、Niめっき層のクラック発生を防止して溶接性を向上させることができる」という効果を奏するものであり、この効果は、甲第11号証及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証の記載からは予測し得ないものである。

(ウ) したがって、前記相違点7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲11発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(2) 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、前記(1)の判断と同様の理由により、甲11発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲11発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) まとめ
以上から、本件発明1?8は、甲第11号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第11号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 申立理由2-4について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲12発明との対比
本件発明1と甲12発明とを対比する。
(ア) 甲12発明の「表面処理鋼板の母材となる鋼板を冷延後,電解清浄,焼鈍,調質圧延した鋼帯からなるめっき原板」、「ニッケルめっき層」、「無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケルめっき層」、「表面処理鋼板」は、それぞれ、本件発明1の「金属板からなる基材」、「第1Niめっき層」、「第2Niめっき層」、「Niめっき金属板」に相当する。

(イ) 甲12発明では、「前記無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケル層の厚みが0.2?3μmであ」り、いずれの厚みも、本件発明1の「第2Niめっき層の厚み」である「0.50μm以上」と重複している。

(ウ) したがって、本件発明1と甲12発明とは、以下の2点で相違し、その余の点で一致している。

相違点8:Niめっき金属板について、本件発明1は、「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るのに対し、甲12発明は、そのような用途であるかどうか不明である点。

相違点9:本件発明1は、「第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下である」のに対し、甲12発明は、それが不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点8について
相違点8は、前記相違点1、相違点2、相違点4及び相違点6と同じ内容であるところ、本件発明1の「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るとの用途につき、甲12発明の「表面処理鋼板」を、そのような用途に用いる際には、「表面処理鋼板」表面の「無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケルめっき層」に「錫めっき層を表面に有する銅合金条」を「抵抗溶接」することとなるから、甲12発明において、無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケルめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討するに、前記1(1)イ(ア-8)で検討したように、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証のいずれにも、無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケルめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載されたいずれの事項からも、甲12発明において、無光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき層又は光沢ニッケルめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。

(イ) そして、前記1(1)イ(ア-9)で示したように、本件発明1は、「基材の表面にNiめっき層を2層めっきした場合に、Niめっき層のクラック発生を防止して溶接性を向上させることができる」という効果を奏するものであり、この効果は、甲第12号証及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証の記載からは予測し得ないものである。

(ウ) したがって、前記相違点9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲12発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲12発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(2) 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、前記(1)の判断と同様の理由により、甲12発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲12発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) まとめ
以上から、本件発明1?8は、甲第12号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第12号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 申立理由2-5について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲13発明との対比
本件発明1と甲13発明とを対比する。
(ア) 甲13発明の「鋼板」、「無光沢ニッケルめっき層」、「最表層として」の「光沢ニッケルめっき層」、「素材ニッケルめっき鋼板」は、それぞれ、本件発明1の「金属板からなる基材」、「第1Niめっき層」、「第2Niめっき層」、「Niめっき金属板」に相当する。

(イ) 甲13発明では、「前記光沢ニッケルめっき層の厚みが0.1?2μmであ」り、その厚みは、本件発明1の「第2Niめっき層の厚み」である「0.50μm以上」と重複している。

(ウ) したがって、本件発明1と甲13発明とは、以下の2点で相違し、その余の点で一致している。

相違点10:Niめっき金属板について、本件発明1は、「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るのに対し、甲13発明は、そのような用途であるかどうか不明である点。

相違点11:本件発明1は、「第2Niめっき層の表面から深さ0.4μmまでのC、Sの合計平均濃度が1.0質量%以下である」のに対し、甲13発明は、それが不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点10について
相違点10は、前記相違点1、相違点2、相違点4、相違点6及び相違点8と同じ内容であるところ、本件発明1の「錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いられ」るとの用途につき、甲13発明の「素材ニッケルめっき鋼板」を、そのような用途に用いる際には、「素材ニッケルめっき鋼板」表面の「光沢ニッケルめっき層」に「錫めっき層を表面に有する銅合金条」を「抵抗溶接」することとなるから、甲13発明において、光沢ニッケルめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討するに、前記1(1)イ(ア-8)で検討したように、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証のいずれにも、光沢ニッケルめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いることは記載も示唆もされているとはいえないから、甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載されたいずれの事項からも、甲13発明において、光沢ニッケルめっき層を、錫めっき層を表面に有する銅合金条との抵抗溶接に用いるとの用途を導き出すことはできない。

(イ) そして、前記1(1)イ(ア-9)で示したように、本件発明1は、「基材の表面にNiめっき層を2層めっきした場合に、Niめっき層のクラック発生を防止して溶接性を向上させることができる」という効果を奏するものであり、この効果は、甲第13号証及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証の記載からは予測し得ないものである。

(ウ) したがって、前記相違点11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲13発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲13発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(2) 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、前記(1)の判断と同様の理由により、甲13発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲13発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

(3) まとめ
以上から、本件発明1?8は、甲第13号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、若しくは、甲第13号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-12-12 
出願番号 特願2013-514013(P2013-514013)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀧口 博史  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河本 充雄
松本 要
登録日 2016-04-01 
登録番号 特許第5908895号(P5908895)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 Niめっき金属板、溶接構造体、及び電池用材料の製造方法  
代理人 赤尾 謙一郎  
代理人 下田 昭  

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