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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特174条1項  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1323529
異議申立番号 異議2016-700836  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-08 
確定日 2017-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5883204号発明「表面保護フィルムまたはシートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5883204号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5883204号に係る出願(特願2007-251276号、以下「本願」という。)は、平成19年9月27日に出願人帝人株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成28年2月12日に特許権の設定登録がされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年9月8日に特許異議申立人澤山政子(以下「申立人」という。)により「特許第5883204号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がされた。

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、請求項1ないし請求項5が記載されており、そのうち請求項1には、以下のとおりの記載がある。
「[I]下記式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]のみ、もしくは[II]下記式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]、および直鎖状ジオール類または脂環式アルキレン類から誘導されるカーボネート構成単位[B]を含んでなる、カーボネート構成単位[A]が全カーボネート構成単位中50?100モル%の割合であり、且つ樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.22?0.50であるポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂ブレンド物を、製膜温度が180℃?350℃の範囲で溶融製膜することにより形成される未延伸の基材層と粘着層とからなる表面保護フィルムまたはシートの製造方法。
【化1】



(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)ないし(3)が存するとしている。
(なお、上記申立書には「甲第4号証」なる記載が散見されるが、「甲第4号証」として添付された証拠は存しない。)

(1)本件の請求項1に係る発明についての特許は、同請求項1に係る平成26年8月29日付け手続補正書によりされた補正(以下「本件補正」という。)が、本願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下併せて「本願当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内でされたものでなく、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正がされた特許出願であるから、同法第113条第1号に該当し、同請求項1に係る特許は取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件特許の請求項1ないし3及び5に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(3)本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2006-28441号公報
甲第2号証:コンバーテック、第30巻、第2号、2002年2月15日、株式会社加工技術研究会発行、第82?90頁
甲第3号証:「化学大辞典2(縮刷版)」、1989年8月15日、共立出版株式会社発行、第626?627頁
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第3号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲3」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1ないし3につきいずれも理由がないから、本件の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし5に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき詳述する。

I.取消理由1について
取消理由1につき検討すると、申立書第4頁下から第3行?第6頁第6行の記載からみて、申立人が「新たな技術的事項」として主張する点は、上記本件補正により補正された「未延伸の基材層と粘着層とからなる」のうち、(a)基材層が「未延伸」であること及び(b)本件特許に係る表面保護フィルム又はシートが「粘着層」を有することの2点であるものと認められる。
しかるに、上記(a)の点につき検討すると、本願当初明細書の実施例に係る記載(【0069】?【0085】、特に【0079】)からみて、本件特許に係る表面保護フィルム又はシートの基材層を構成するものと認められるフィルムの製造において、単に溶融製膜によりフィルムを製造しているものであり、何らかの延伸処理を行っているものではないから、当該フィルムが、延伸されていないもの、すなわち「未延伸」のものであることは、当業者が客観的に認識することができるものと認められ、本願当初明細書に記載されているに等しい事項であるものと認められる。
また、上記(b)の点につき検討すると、本願当初明細書の背景技術に係る記載(【0002】?【0007】、特に【0002】)からみて、本願の出願時の当業界において、表面保護フィルム又はシートは、一般に樹脂成形物からなる基材層と粘着層とからなるものであると認識されており(なお、この点については甲2の記載も参照。)、本件特許に係る表面保護フィルム又はシートについても、当然にポリカーボネート樹脂(ブレンド)の成形物からなる基材層と粘着層とからなるものであることが前提となっているものと理解するのが自然であるから、本件特許に係る表面保護フィルム又はシートが「粘着層」を有することは、本願当初明細書に記載されているに等しい事項であるものと認められる。
してみると、上記(a)及び(b)の2点は、いずれも本願当初明細書に記載されているに等しい事項であるから、新たな技術的事項を導入しないものと認められる。
したがって、本件補正は、本願当初明細書に記載した事項の範囲内でされたものということができ、特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たしているものということができる。
よって、上記取消理由1は、理由がない。

II.取消理由2及び3について

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由2及び3は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲3に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1に係る引用発明の認定を行う。
なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。

(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】


で表される糖質から製造可能なエーテルジオール残基、および下記式(2)
-O-(C_(m)H_(2m))-O- (2)
(ただしmは2?12の整数)
で表されるジオール残基を含み、当該エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65?98重量%を占め、かつガラス転移温度が90℃以上である脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルム。
【請求項2】
式(2)で表されるジオールの残基がエチレンジオール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、および1,6-ヘキサンジオール残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の残基であることを特徴とする請求項1に記載の光学用フィルム。
【請求項3】
エーテルジオール残基がイソソルビド残基である請求項1または2に記載の光学用フィルム。
【請求項4】
脂肪族ポリカーボネートの光学弾性定数が40×10^(-12)Pa^(-1)以下である請求項1?3のいずれかに記載の光学用フィルム。
【請求項5】
下記式(3)を満足する請求項1?4のいずれかに記載の光学用フィルム。
1.010<R(450)/R(550)<1.070 (3)
(式中、R(450)、R(550)はそれぞれ波長450nm、550nmにおけるフィルム面内の位相差値である。)」

(a-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルムに関するものである。本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートは光学弾性定数が小さく、また本発明の光学用フィルムは位相差値の波長分散が小さいという特徴を有しており、例えば液晶表示装置の位相差板や基板として有用である。」

(a-3)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものである。すなわち本発明は光弾性定数が低い脂肪族ポリカーボネートから、位相差値の波長分散が小さく、かつ耐熱性の高い光学用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、先に特定の脂環族構造のジオールを含む新規な脂肪族ポリカーボネートを提案している(PCT/JP2004/0086)。該脂肪族ポリカーボネートは耐熱性が高くかつ実用性の高いモノマーを用いることが特徴である。
【0006】
我々はかかる脂肪族ポリカーボネートからなるフィルムを検討した結果、該脂肪族ポリカーボネートは光学弾性率が低く、それから得られるフィルムは位相差値の波長分散が小さく、液晶表示装置の位相差板、基板などの光学用途に適することを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、糖質由来のエーテルジオール残基および脂肪族ジオール残基を含み、当該エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65?98重量%を占め、かつガラス転移温度が90℃以上である脂肪族ポリカーボネートからなる光学用フィルムであり、脂肪族ジオール残基として好ましくは、エチレンジオール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、および1,6-ヘキサンジオール残基であり、エーテルジオール残基として好ましくはイソソルビド残基である。・・(中略)・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートは光弾性定数が小さく、本発明の光学用フィルムは透明性が高く、位相差値の波長分散が小さいという特徴を有しており、液晶表示装置の位相差板などに適用する光学用フィルムとして大変有用であり、本発明の光学用フィルムにより、視野角特性に優れかつ安定性に優れた位相差フィルムを提供することが出来る。」

(a-4)
「【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明の光学用フィルムを構成する脂肪族ポリカーボネートとは、下記式(1)
【化1】


で表されるエーテルジオール残基、および下記式(2)
-O-(C_(m)H_(2m))-O- (2)
(ただしmは2?12の整数)
で表されるジオール残基を含んでなり、エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65?98重量%を占め、かつガラス転移温度(Tg)が90℃以上であるポリカーボネートである。Tgは100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上である。またエーテルジオール残基は全ジオール残基中、80?98重量%を占めることが好ましい。
【0010】
すなわち本発明のポリカーボネートは、式(4)
【化2】


の繰り返し単位部分と式(5)
【化3】


(ただしmは2?12の整数)
の繰り返し単位部分とを有する。
【0011】
エーテルジオール残基の含有量が65重量%よりも少なくなると、得られる樹脂のガラス転移温度が下がり、また重合度も上がりにくくなりフィルムとして靭性不足になりがちであり好ましくない。一方エーテルジオールの含有量が98重量%よりも多いと、溶融粘度が非常に高くなり重合進行やその後の成型加工が困難になる。
【0012】
本発明の脂肪族ポリカーボネートにおいて、上記式(2)で表されるジオール残基として、具体的にはエチレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、および1,6-ヘキサンジオール残基を好ましく挙げることが出来る。かかるジオール残基は1種類でも良いし、組み合わせて用いても良い。
【0013】
また本発明ではエーテルジオール残基および上記式(2)で表されるジオール残基の他に、光学的な物性を損なわない範囲でその他のジオール残基を含んでも良い。かかるその他のジオールとしてはシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなど脂環式アルキレンジオール類・・(中略)・・などを挙げることができる。その場合、上記式(2)のジオール残基100重量部に対し、その他のジオール残基は合計で50重量部以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の脂肪族ポリカーボネートの重合度は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒中、濃度1.2g/dL、30℃で測定した還元粘度(ηsp/c)で0.1?10dL/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.45?8dL/g、さらに好ましくは0.65?5dL/gである。還元粘度が0.1dL/gよりも小さいとフィルムの靭性が保たれず、また10dL/gよりも大きいとポリマーおよびフィルムの製造面で困難となる。」

(a-5)
「【0031】
本発明の光学用フィルムの製造方法としては、ポリカーボネートを溶媒に溶解させた樹脂溶液を用いる溶液キャスト法、ポリカーボネートをそのまま溶融させて流延する溶融製膜法が挙げられる。
・・(中略)・・
【0036】
溶融製膜法によりフィルムを作成する場合には、一般にTダイから融液を押し出して製膜される。製膜温度は、ポリカーボネートの分子量、Tg、溶融流動特性などから決められるが、180℃?350℃の範囲であり、200℃?320℃の範囲がより好ましい。温度が低すぎると粘度が高くなりポリマーの配向、応力歪みが残りやすいことがあり、逆に温度が高すぎるのも熱劣化、着色、Tダイからのダイライン(筋)などの問題がおきやすくなることがある。
【0037】
かくして得られる未延伸フィルムの膜厚は特に制限はなく目的に応じて決められるが、フィルムの製造面、靭性などの物性、コスト面などから10?300μmが好ましく、より好ましくは20?200μmである。
【0038】
本発明の光学用フィルムとしては、該未延伸フィルムを1軸延伸または2軸延伸など公知の延伸方法によりポリマーを配向させたものも好適である。かかる延伸により例えば液晶表示装置の位相差フィルムとして用いることが出来る。延伸温度はポリマーのTg近傍の、通常(Tg-20℃)?(Tg+20℃)の範囲で行われ、延伸倍率は縦一軸延伸の場合、通常1.02倍?3倍である。延伸フィルムの膜厚としては20?200μmの範囲であることが好ましい。」

(a-6)
「【0041】
本発明の光学用フィルムは芳香族ポリカーボネートに比べて透明性に優れており、全光線透過率は88%以上であり、90%以上であることが好ましい。またヘイズ値は5%以下でありより好ましくは3%以下である。
【0042】
本発明の光学用フィルムは1枚単独で用いてもよいし、2枚以上積層して用いてもよい。また他の素材からなる光学用フィルムと組み合わせて用いてもよい。偏光板の保護膜として用いてもよいし、また液晶表示装置の透明基板として用いてもよい。」

(a-7)
「【実施例】
【0043】
以下に実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお参考例、実施例および比較例中の物性測定は以下のようにして行ったものである。
1)ポリマーの還元粘度(ηsp/c)
フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒からなる濃度1.2g/dLの溶液を用い、30℃で測定した。
2)ガラス転移温度(Tg)
Dupont社製910示差走査熱量計を用い、窒素ガス気流下、毎分20℃の昇温速度で測定した。
・・(中略)・・
4)フィルムの膜厚
アンリツ社製の電子マイクロ膜厚計で測定した。
・・(中略)・・
【0044】
[参考例1:脂肪族ポリカーボネートの製造]
イソソルビド23.38gと1,6-ヘキサンジオール4.73gとジフェニルカーボネート42.84gとを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.82mg(ジオール成分1モルに対して1×10^(-4)モル)、および2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩を27.2μg(ジオール成分1モルに対して0.5×10^(-6)モル)仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
【0045】
撹拌下、反応槽内を13.3×10^(-3)MPaに減圧し、生成するフェノールを留去しながら20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10^(-3)MPaで25分間反応させ、さらに、215℃に昇温して10分間反応させた。
【0046】
ついで徐々に減圧し、2.67×10^(-3)MPaで10分間、1.33×10^(-3)MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10^(-5)MPaに到達したら、徐々に250℃まで昇温し、最終的に250℃,6.66×10^(-5)MPaで1時間反応させて重合反応を終了した。得られたポリマーの還元粘度は1.139dL/g、ガラス転移温度は123℃であった。
【0047】
[参考例2:脂肪族ポリカーボネートの製造]
ジオールとしてイソソルビド23.38gと1,3-プロパンジオール3.04gを用いた他は参考例1と同様にしてポリカーボネートの溶融重合を行った。得られたポリマーの還元粘度は0.902dL/g、ガラス転移温度は144℃であった。
【0048】
[実施例1]
参考例1で得られたイソソルビド残基と1,6-ヘキサンジオール残基からなる脂肪族ポリカーボネートを塩化メチレンに溶解させ、濃度18wt%の溶液を得た。該溶液をステンレス基板上にキャストして温度40℃で20分、温度60℃で30分加熱乾燥後、フィルムを基板から剥離してさらにフィルム周囲をゆるく固定して60℃で30分、80℃で30分、100℃で1時間、120℃で1時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1および表2に示す。
【0049】
[実施例2]
参考例2で得られたイソソルビド残基と1,3-プロパンジオール残基からなる脂肪族ポリカーボネートを塩化メチレンに溶解させ、濃度18wt%の溶液を得た。該溶液をステンレス基板上にキャストして温度40℃で20分、温度60℃で30分加熱乾燥後、フィルムを基板から剥離してさらにフィルム周囲をゆるく固定して60℃で30分、80℃で30分、100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1および表2に示す。
【0050】
[実施例3?4]
実施例1で得た未延伸のポリカーボネートフィルムを、延伸機を用いて延伸温度120℃で2通りの延伸倍率にて1軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの位相差値およびその波長分散の物性を表2に示す。
【0051】
[実施例5]
実施例2で得た未延伸のポリカーボネートフィルムを、実施例3と同様に延伸機を用いて延伸温度140℃で1軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの位相差値およびその波長分散の物性を表2に示す。
【0052】
[比較例1]
ビスフェノールAからなるポリカーボネートである帝人化成製パンライトC-1400を用いて、実施例2と同様にして塩化メチレン溶液からキャストフィルムを得た。このフィルムの物性を表1および表2に示す。本発明の脂肪族ポリカーボネートと比べて光弾性定数が高く、また位相差値の波長分散が大きいことが分かる。
【0053】
【表1】


【0054】
【表2】


【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光学用フィルムにより、視野角特性に優れかつ安定性に優れた位相差フィルムを提供することが出来る。」

イ.甲1に記載された発明
上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-7)の各記載(特に下線部参照)からみて、
「下記式(1)
【化1】


で表される糖質から製造可能なエーテルジオール残基、および下記式(2)
-O-(C_(m)H_(2m))-O- (2)
(ただしmは2?12の整数)
で表されるジオール残基を含み、当該エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65?98重量%を占め、ガラス転移温度が90℃以上であり、かつフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒中、濃度1.2g/dL、30℃で測定した還元粘度(ηsp/c)で0.1?10dL/gの範囲にある脂肪族ポリカーボネートを180℃?350℃の範囲で溶融製膜してなる光学用フィルムの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「パテントから探る包装材料開発動向(34)
表面保護フィルム
1.はじめに
ステンレス、アルミ等の金属板、塗装鋼板、合成樹脂阪等の表面を2次加工時や輸送・保管中のキズ防止、あるいは塵等から保護するための保護フィルム、マスキングフィルム、またはマーキングフィルムもこの範疇に入る。・・(中略)・・これらのフィルムには、軟質塩化ビニル系樹脂やポリオレフィン(PO)系樹脂フィルムを基材とし、その片面に粘着剤層を設けたものが一般的である。必要特性は、耐候性、粘着性、塗装母体を傷めない、被着体に糊残りがない等である。
最近のダイオキシン騒動から、軟質塩化ビニル系のものが敬遠され、熱可塑性エラストマー系に移行している。
また、プリント基板のパターンフィルムやソルダーレジストフィルムの膜面保護用フィルム、液晶偏光板の保護等、光学部材用関連のものにも用途開発が進んでいる。
構成は、基本的には、基材フィルム/粘着層/剥離フィルムからなる。
使用されている基材フィルムの種類は、PO、塩化ビニル、特殊ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)等がある。
出願は、基材に関するもの、粘着剤層の粘着剤組成物に関するもの、およびこの両者の間に新たな機能(例えば帯電防止性)を付与する層に関するもの等が見られる。」
(第82頁表題部?中欄第6行)

(3)甲3の記載事項
甲3の「かんげんねんど 還元粘度」の欄には、還元粘度が、比粘度η_(sp)を(溶質高分子)濃度cで割った値(η_(sp)/c)である旨定義されており、さらに、比粘度η_(sp)が、高分子希薄溶液の粘度ηの溶媒粘度η_(0)に対する比(η/η_(0))である相対粘度η_(r)から1を減算した値(η_(r)-1)であることも記載されている。

2.対比・検討

(1)対比
本件発明と上記甲1発明とを対比すると、本件発明と甲1発明とは、
「下記式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]および直鎖状ジオール類から誘導されるカーボネート構成単位[B]を含んでなるポリカーボネート樹脂を、製膜温度が180℃?350℃の範囲で溶融製膜することにより形成されるフィルムまたはシートの製造方法。
【化1】



の点で一致し、下記の3点で相違するものといえる。

相違点1:「ポリカーボネート樹脂」につき、本件発明では「カーボネート構成単位[A]が全カーボネート構成単位中50?100モル%の割合であ」るのに対して、甲1発明では「エーテルジオール残基が全ジオール残基中、65?98重量%を占め」る点
相違点2:「ポリカーボネート樹脂」につき、本件発明では「樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.22?0.50である」のに対して、甲1発明では「フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒中、濃度1.2g/dL、30℃で測定した還元粘度(ηsp/c)で0.1?10dL/gの範囲にある」点
相違点3:製造される「フィルム又はシート」につき、本件発明では「未延伸の基材層と粘着層とからなる表面保護フィルムまたはシート」であるのに対して、甲1発明では「光学用フィルム」である点

(2)各相違点についての検討
事案に鑑み、特に、上記相違点2につき検討する。

ア.相違点2について
上記相違点2につき検討すると、甲3にも記載されているとおり、本件発明における比粘度と甲1発明における還元粘度とは、比粘度を溶液濃度で割ったものが還元粘度である点で一応の正の相関関係が存する(すなわち一方の数値が増大すればもう一方も増加する。)ものとは認められるものの、両者、特に比粘度が、高分子希薄溶液の粘度ηの溶媒粘度η_(0)に対する比(η/η_(0))である相対粘度η_(r)から算出される点で、同一試料高分子であっても、各粘度の測定時の溶媒の種類及びその(温度における)粘度により有意に異なるものとなることが当業者に自明である。
してみると、本件発明における比粘度と甲1発明における還元粘度とは、測定時の溶媒の種類及び測定温度が異なるから、直接的に対比することができず、その各粘度数値の異同につき論じることができない。
したがって、上記相違点2につき、実質的な相違点でないということはできず、また、甲1及び甲3に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることということはできない。

イ.相違点1及び3について
なお、上記ア.で検討したとおり、相違点2につき、実質的な相違点であり、甲1及び甲3に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が、適宜なし得ることということはできないのであるから、相違点1及び3につき検討することを要しない。

(3)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(特に【0008】など参照)からみて、「コシの強さ(引張弾性率)、防傷性、および耐溶剤性に優れたバイオマス資源を原料として使用されたポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂ブレンド物からなる未延伸の基材層と粘着層からなり、金属板用、樹脂板用、木製化粧板用、銘板用、建築資材用、自動車部品用、特には液晶部材といった光学製品用および電気電子部品用などに好適に用いられる表面保護フィルムまたはシートの製造方法」の提供にあるものと認められる。
そこで、本件特許明細書の実施例の記載(【0069】?【0085】参照)を更に検討すると、本件発明の製造方法により製造されたポリカーボネート樹脂(組成物)からなる未延伸基材であれば、耐傷性に優れ、引張弾性率2298MPa(実施例1)なる高いコシを有し、さらに耐溶剤性、特に汎用有機溶剤に対する耐溶剤性が高い点においても優れると認められるのに対して、本件発明の範囲外のポリカーボネート樹脂からなるものであれば、上記の耐傷性及び耐溶剤性の点で劣り、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、本件請求項1に記載された事項を具備することにより、「コシの強さ(引張弾性率)、防傷性、および耐溶剤性に優れたバイオマス資源を原料として使用されたポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂ブレンド物からなる未延伸の基材層と粘着層からなり、金属板用、樹脂板用、木製化粧板用、銘板用、建築資材用、自動車部品用、特には液晶部材といった光学製品用および電気電子部品用などに好適に用いられる表面保護フィルムまたはシートの製造方法」の提供という顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲1発明の効果又は甲1発明に甲1ないし甲3に記載された事項を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明であるということはできず、また、甲1発明及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

3.他の請求項に係る発明について
本件特許の請求項2ないし5に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を直接または間接に引用して記載しているものであるところ、上記2.で説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1発明であるということはできず、また、甲1発明及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。
したがって、本件特許の請求項2、3及び5に係る発明につき、いずれも、同一の理由により、甲1発明であるということはできず、また、本件特許の請求項2ないし5に係る発明につき、甲1発明及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

4.取消理由2及び3に係るまとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし3及び5に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明であるということができず、また、本件の請求項1ないし5に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
よって、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由2及び3は、いずれも理由がない。

III.当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由1ないし3はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-12-27 
出願番号 特願2007-251276(P2007-251276)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 55- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
橋本 栄和
登録日 2016-02-12 
登録番号 特許第5883204号(P5883204)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 表面保護フィルムまたはシートの製造方法  
代理人 為山 太郎  

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