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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1323537
異議申立番号 異議2016-700922  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-26 
確定日 2017-01-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5897184号発明「ポリウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5897184号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5897184号の請求項1ないし4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年5月12日に特許出願され、平成28年3月11日に設定登録され、平成28年9月26日に特許異議申立人安田愛美により特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
水酸基を2以上有するポリオール化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなるポリウレタン樹脂(C)、及び無機充填剤(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記無機充填剤(D)は、下記(D1)及び(D2)を含有する、ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物;
(D1):レーザー回折散乱法により計測される粒度分布における、体積基準累積90%粒子径(D_(90))と、体積基準累積10%粒子径(D_(10))との比(D_(90))/(D_(10))が1?5であり、且つ、体積基準累積50%粒子径(D_(50))が0.1?3μmの水酸化アルミニウム粒子;
(D2):レーザー回折散乱法により計測される粒度分布における、体積基準累積90%粒子径(D_(90))と、体積基準累積10%粒子径(D_(10))との比(D_(90))/(D_(10))が5?10であり、且つ、体積基準累積50%粒子径(D_(50))が5?15μmの水酸化アルミニウム粒子。
【請求項2】
前記水酸基を2以上有するポリオール化合物(A)が、ヒマシ油系ポリオール(A1)、及びポリブタジエンポリオール(A2)を含有し、且つ、前記(A)100質量%に対する前記(A1)の含有量は、50質量%以下である、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。
【請求項4】
請求項3に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。」

第3 特許異議申立の理由の概要
1 本件特許発明1ないし本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。

2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
すなわち、発明の詳細な説明には、実施例として、(D1)/(D2)(重量比)が27/73の一点のみが開示されているから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

第4 甲第1号証の記載及び同号証に記載された発明
1 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「ポリウレタン樹脂組成物」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物および無機充填材(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)を含有し、
前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を含有するポリウレタン樹脂組成物。」

イ 「【0002】
従来、電子回路基板や電子部品は、外部からの汚染を防ぐためにポリウレタン樹脂等を用いて封止することが行われている。」

ウ 「【0043】
実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。
(ポリブタジエンポリオール(A))
A1:平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール
(商品名:Poly bd R-15HT、出光興産社製)
A2:平均水酸基価47mgKOH/gのポリブタジエンポリオール
(商品名:Poly bd R-45HT、出光興産社製)
(ひまし油系ポリオール(E))
E1: ひまし油
(商品名:ひまし油、伊藤製油社製)
E2: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル
(商品名:URIC Y-403、伊藤製油社製)
E3:ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル
(商品名:HS 2G 160R、豊国製油社製)
(ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B))
B1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体
(商品名:デュラネートTPA-100、旭化成ケミカルズ社製)
B2:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体
(商品名:デュラネートTLA-100、旭化成ケミカルズ社製)
(ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C))
C:ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート変性体
(商品名:デュラネートA201H、旭化成ケミカルズ社製)
(無機充填材(D))
D1:水酸化アルミニウム
(商品名:ハイジライトH-32、昭和電工社製)
D2:水酸化アルミニウム
(商品名:水酸化アルミC-305、住友化学社製)」

エ 「【表1】




2 甲第1号証に記載された発明
上記記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ポリブタジエンポリオール(A)を含有する水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を含有するイソシアネート基含有化合物および水酸化アルミニウムを含有する無機充填材(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物。」

第5 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ポリブタジエンポリオール(A)を含有する水酸基含有化合物」は、本件特許発明1の「水酸基を2以上有するポリオール化合物(A)」に相当し、同様に後者の「ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を含有するイソシアネート基含有化合物」、「水酸化アルミニウムを含有する無機充填材(D)」は、前者の「ポリイソシアネート化合物(B)」、「無機充填剤(D)」に相当する。

以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、

[一致点]
「水酸基を2以上有するポリオール化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)とからなるポリウレタン樹脂(C)、及び無機充填剤(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
無機充填剤(D)に関して、本件特許発明1では、「(D1):レーザー回折散乱法により計測される粒度分布における、体積基準累積90%粒子径(D_(90))と、体積基準累積10%粒子径(D_(10))との比(D_(90))/(D_(10))が1?5であり、且つ、体積基準累積50%粒子径(D_(50))が0.1?3μmの水酸化アルミニウム粒子」及び「(D2):レーザー回折散乱法により計測される粒度分布における、体積基準累積90%粒子径(D_(90))と、体積基準累積10%粒子径(D_(10))との比(D_(90))/(D_(10))が5?10であり、且つ、体積基準累積50%粒子径(D_(50))が5?15μmの水酸化アルミニウム粒子を含有する」(以下、「特定(D1)と特定(D2)の関係」という。)のに対して、引用発明では、かかる関係を有するか不明な点。

第6 判断
1 特許法第29条第2項について
(1) 本件特許発明1について
本件特許発明1は、上記特定(D1)と特定(D2)の関係を有することによって、「熱伝導性に優れ、且つ、作業性及び保存安定性に優れたポリウレタン樹脂組成物を提供する」(以下、「本件特許発明の課題」という。)ものである(特許明細書段落【0010】)。
そこで、本件特許発明の課題解決手段として、上記特定(D1)と特定(D2)の関係を特定することの容易想到性について検討する。
まず、甲第2号証には、「ビスフェノールAグリシジルエーテル(90重量%)及びモノエポキシサイド(10重量%)からなるエポキシ樹脂100重量部に対し、析出法による水酸化アルミニウムA(日本軽金属社製RF-2071、平均粒径8μm、伝導度50μS/_(cm)以下)を120重量部、粉砕法による水酸化アルミニウムB(昭和電工社製H-42I、平均粒径1μm、伝導度100μS/_(cm)以下)を15重量部・・・配合することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。」との記載はあるものの(段落【0048】)、レーザー回折散乱法により計測される粒度分布における、体積基準累積90%粒子径(D_(90))(以下、単に「(D_(90))」という。)と、体積基準累積10%粒子径(D_(10))(以下、単に「(D_(10))」という。)との比(D_(90))/(D_(10))を特定する記載も示唆もない。
また、甲第3号証には、「<水酸化アルミニウムA>」として「レーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D_(50))が1μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-42M)とレーザー回折散乱法で測定した重量基準の平均粒径(D_(50))が8μmの水酸化アルミニウム(商品名:昭和電工株式会社製 ハイジライトH-32)とを重量比25:75で混合したもの。」との記載(段落【0034】)及び「本発明における重量基準頻度分布とは、レーザー回折散乱法で測定した重量基準の粒径(μm)を常用対数で表示したときの粒径に対する粒子重量の頻度分布(重量%)を意味する。このような粒径分布の水酸化アルミニウムは、平均粒径(D_(50))が10μm未満であって重量基準頻度分布の異なる少なくとも2種類の水酸化アルミニウムを混合することにより得ることができる。混合後の平均粒径(D_(50))が2μm未満である水酸化アルミニウムを用いた場合、熱硬化性樹脂組成物の粘度を低く抑えることができず、製造上の問題から、必要な量を含有させることが困難となる。」との記載(段落【0021】)があるが、(D_(90))、(D_(10))及び比(D_(90))/(D_(10))を特定する記載も示唆もない。
また、甲第4号証には、「(無機充填材(D))
D1: アルミナ(平均粒子径45μm)
(商品名:アルミナDAM-45、DENKA社製)
D2: アルミナ(平均粒子径3.5μm)
(商品名:LS220、日本軽金属社製)」との記載(段落【0053】)及び【表1】から、異なる「平均粒子径」を有する「アルミナ」を混合することは記載されているものの、(D_(90))、(D_(10))及び比(D_(90))/(D_(10))を特定する記載も示唆もない。
また、甲第5号証には、【表1】及び段落【0035】から、「ハイジライトH-42M,昭和電工(株)製,平均粒径1.0μ」を「充填剤」として配合した「ポリウレタン組成物」は記載されているものの、(D_(90))、(D_(10))、レーザー回折散乱法により計測される粒度分布における、体積基準累積50%粒子径(D_(50))(以下、単に「(D_(50))」という。)及び比(D_(90))/(D_(10))を特定する記載も示唆もない。
また、甲第6号証には、段落【0025】及び段落【0028】の記載から、異なる「粒径」を有する「水酸化アルミニウム」を組合せて使用することは記載されているものの、(D_(90))、(D_(10))、(D_(50))及び比(D_(90))/(D_(10))を特定する記載も示唆もない。
そうすると、上記特定(D1)と特定(D2)の関係について、甲第2ないし6号証に記載も示唆もないのみならず、本件特許発明の課題解決手段として、上記特定(D1)と特定(D2)の関係を特定する動機づけの根拠も見いだせない。
したがって、引用発明において、上記特定(D1)と特定(D2)の関係を特定すること及びその動機づけを記載又は示唆する証拠のない本件においては、容易想到性を肯認することができない。
加えて、本件特許発明1による効果(【表1】及び【表2】)も、引用発明及び甲各号証の記載から当業者が予測し得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、引用発明及び甲各号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4と引用発明とは、少なくとも上記相違点で相違するから、本件特許発明2ないし4は、引用発明及び甲各号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
確かに、特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、「D1-1」が「15」質量部及び「D2-1」又は「D2-2」が「40」質量部のもののみが記載されているが、特許明細書全体の記載に照らせば、本件特許発明の課題は、D1とD2の比ではなく、上記特定(D1)と特定(D2)の関係を特定することによって解決されると解するのが相当である(段落【0010】ないし【0013】、【0016】、【0017】及び【0058】ないし【0066】)。
よって、特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されている。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-10 
出願番号 特願2015-97447(P2015-97447)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井津 健太郎  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 西山 義之
小柳 健悟
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5897184号(P5897184)
権利者 サンユレック株式会社
発明の名称 ポリウレタン樹脂組成物  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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