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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1323792
審判番号 不服2015-3384  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-23 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2014-520085「作業車両」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開、WO2014/185117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2014(平成26)年2月26日を国際出願日とする出願であって、平成26年4月24日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成26年6月4日に手続補正書が提出された後、平成26年8月11日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年11月14日付けで拒絶査定がされ、平成27年2月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.平成27年2月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年2月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成27年2月23日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成26年10月17日提出の手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
負荷状態に応じた作業が可能な複数の作業モードを有する作業車両であって、
エンジンと、
前記エンジンから排出される排気ガス中の窒素酸化物を浄化する排気ガス浄化装置と、
前記排気ガス浄化装置に供給する還元剤を蓄える還元剤タンクと、
前記還元剤タンクに蓄えられた前記還元剤の状態を判定する状態判定部と、
前記状態判定部で判定された前記還元剤の状態に応じて、前記エンジンの出力を制御するエンジン制御部とを備え、
前記エンジン制御部は、前記還元剤の状態が基準値以下となった場合、前記複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなる制限運転エンジン出力トルクカーブを用いて、前記エンジンの出力を制御する、作業車両。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
負荷状態に応じた作業が可能な複数の作業モードを有する作業車両であって、
エンジンと、
前記エンジンから排出される排気ガス中の窒素酸化物を浄化する排気ガス浄化装置と、
前記排気ガス浄化装置に供給する還元剤を蓄える還元剤タンクと、
前記還元剤タンクに蓄えられた前記還元剤の状態を判定する状態判定部と、
前記状態判定部で判定された前記還元剤の状態に応じて、前記エンジンの出力を制御するエンジン制御部とを備え、
前記エンジン制御部は、前記還元剤の状態が基準値以下となった場合、作業モードに対応して設定された通常運転エンジン出力トルクカーブを、前記複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなる制限運転エンジン出力トルクカーブに変更して、前記エンジンの出力を制御する、作業車両。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「エンジン制御部」について、「還元剤の状態が基準値以下となった場合、複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなる制限運転エンジン出力トルクカーブを用いて、エンジンの出力を制御する」としていたものを、「還元剤の状態が基準値以下となった場合、複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなる制限運転エンジン出力トルクカーブ」が、「作業モードに対応して設定された通常運転エンジン出力トルクカーブ」から「変更」される旨を限定することを含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件についての判断
本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の国際出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2013-160104号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「建設機械の排ガス浄化装置」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は建設機械の排ガス浄化装置に係り、特に液体還元剤を用いて排ガスの浄化を行う建設機械の排ガス浄化装置に関する。
……(後略)……」(段落【0001】)

(イ)「【0011】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0012】
図1に、本発明の第1実施形態である建設機械の排ガス浄化装置を概略的に示す。本実施形態に係る排ガス浄化装置2は、油圧ショベル等の建設機械に設けられたディーゼルエンジン1から排出される排気ガスを浄化するものである。
【0013】
ディーゼルエンジン1は、図示しない燃料タンクから高圧ポンプにより燃料が供給され、この高圧燃料を燃焼室内に直接噴射し燃焼させることにより駆動する。このディーゼルエンジン1及び高圧ポンプ等は、エンジンコントロールモジュール4(以下、ECMという)により制御される。
【0014】
ディーゼルエンジン1からの排気ガスは、ターボチャージャ8を経た後にその下流の排気通路9に流され、排ガス浄化装置2により浄化処理が行われた後、大気に排出される。
……(中略)……
【0016】
排気通路9には、上流側から排気ガス中のパティキュレート(PM)を捕集するパティキュレートフィルタ(DPF)16と、排気ガス中のNOxを還元除去する選択還元型NOx触媒(SCR)19とが直列に設けられている。
【0017】
選択還元型NOx触媒19は、液体還元剤(例えば、尿素又はアンモニア等)が供給されている時に排気ガス中のNOxを連続的に還元除去するものである。本実施形態では取扱いの容易さから液体還元剤として尿素水を用いている。
【0018】
排気通路9の選択還元型NOx触媒19の上流側には、選択還元型NOx触媒19に尿素水を供給するための尿素水噴射弁20が設けられている。尿素水噴射弁20は尿素水供給ライン21を介して尿素水タンク23(液体還元剤タンク)に接続されている。
【0019】
また、尿素水供給ライン21には尿素水供給ポンプ22が設けられている。尿素水タンク23内に貯留された尿素水は、尿素水供給ポンプ22により尿素水噴射弁20に供給され、尿素水噴射弁20から排気通路9の選択還元型NOx触媒19の上流位置に噴射される。
……(中略)……
【0022】
尿素水タンク23には尿素水残量センサ24が配設されている。この尿素水残量センサ24は、尿素水タンク23内の尿素水残量を検出する。
……(中略)……
【0024】
また、排ガス浄化装置コントローラ5は、尿素水残量センサ24から出力される尿素水残量に基づき、尿素水残量の尿素水タンク23の全容積に対する割合を読み取る。本実施形態では、この尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合を尿素水残量Aというものとする。従って、尿素水残量Aが50%であるとは、尿素水タンク23の容量の半分の尿素水が尿素水タンク23内に残存していることを示す。
【0025】
排ガス浄化装置コントローラ5は、通信手段によりディーゼルエンジン1の制御を行うECM4と接続されている。また、ECM4は通信手段により機械コントローラ6に接続されている。
【0026】
機械コントローラ6は、ブーム,アーム等を駆動する油圧ポンプ、及びブームシリンダ,アームシリンダ等の油圧システムに対しオイルの供給及び供給停止を行う各種制御弁等の制御を行う。この機械コントローラ6は、通信手段を介してエンジンコントロールモジュール(ECM)4及び排ガス浄化装置コントローラ5と接続されている。
【0027】
よって、排ガス浄化装置コントローラ5が有している排ガス浄化装置2の各種情報は、機械コントローラ6が共有しうる構成となっている。なお、ECM4、排ガス浄化装置コントローラ5、機械コントローラ6は、それぞれCPU、ROM、RAM、入出力ポート、及び記憶装置等を含む。
【0028】
機械コントローラ6には、モニター7(表示装置)及びモード設定装置18(作業モード設定手段)が接続されている。モニター7には、警報及び運転条件表示が表示される。この警報及び運転条件表示については、説明の便宜上後述するものとする。
【0029】
モード設定装置18は、作業モードを切り替える装置である。図2は、モード設定装置18を拡大して示している。本実施形態に係る建設機械では、モード設定装置18により作業モードを目標エンジン回転数に応じてSPモード、Hモード、Aモードの3つのモードに切り替えられる構成となっている。このモード設定装置18は、スイッチノブ18aを回転操作し、指示部18bをSP、H、Aの各表示に合わせることによりモード切り替えを行うことができる。 」(段落【0011】ないし【0029】)

(ウ)「【0030】
次に、図3及び図4を用いて、上記構成とされた排ガス浄化装置2の動作の一実施形態について説明する。図3は、機械コントローラ6が実行する排ガス浄化装置2の動作処理を示している。また、図4は図3のフローチャートに示す動作内容を表形式で具体的に示す図である。なお、図3に示す処理は所定時間毎に繰り返し実行されるルーチン処理である。また、図3ではステップを「S」と略称すると共に「%」の表示を略している。
【0031】
図3に示す処理が起動すると、先ず機械コントローラ6は排ガス浄化装置コントローラ5を介して、尿素水タンク23内の尿素水残量Aを読み取る。前記のように尿素水残量Aは、排ガス浄化装置コントローラ5が尿素水残量センサ24の検出結果に基づき、尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合を読み取ったものである。
【0032】
ステップ10では、この尿素水残量Aが15%を超えているか否かが判断される。尿素水残量Aが15%を超えている状態は、尿素水残量が多いため、エンジン出力及び油圧システムを通常動作させても問題がない状態である。
【0033】
このため、ステップ10で肯定判断(YESの判断)がされた場合は、処理はステップ11に進み、図4に示す動作(I)が実行される。即ち、尿素水噴射、エンジン出力、及び油圧システムは通常動作が維持され、また後述する警報表示及びカウントダウンは実行されない。このステップ11が実行されると、処理はステップ10に戻る。
【0034】
一方、ステップ10で否定判断(NOの判断)がされると、処理はステップ12に進む。ステップ12では、尿素水残量Aが10%を超し、かつ15%以下であるか否かが判断される。本実施形態では、尿素水残量Aが15%以下になると、尿素水残量が減少したことを運転者に知らせる警告を行うと共に、ディーゼルエンジン1及び油圧システムに運転条件制限を適宜実行する構成となっている。
【0035】
よって、ステップ12で肯定判断が行われた場合は、ステップ15において図4に示す動作(II)が実行される。即ち、尿素水噴射及び油圧システムは通常動作が維持されるが、ディーゼルエンジン1ではエンジン出力が10%低減される運転条件制限が実施される。」(段落【0030】ないし【0035】)

(エ)「【0040】
ここで運転条件制限とは、尿素水タンク23内の尿素水の残量が既定残量以下となった時に実施されるものである。具体的な運転条件制限としては、ECM4が実行するディーゼルエンジン1のエンジン出力の低減、エンジン回転数の低減及び停止処理、排ガス浄化装置コントローラ5が実行する尿素水の噴射停止処理、及び機械コントローラ6が実行する油圧システムの油圧出力の低減及び停止処理等である。」(段落【0040】)

(オ)「【0065】
本発明は、液体還元剤を用いた排ガス浄化装置を有する建設機械及び自動車に広く適用が可能なものである。
…(後略)…」(段落【0065】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(オ)及び図1ないし図4の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)、(イ)及び(オ)の記載から、引用文献1には、油圧ショベル等の建設機械が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(イ)及び図1の記載から、引用文献1に記載された油圧ショベル等の建設機械は、ディーゼルエンジン1と、ディーゼルエンジン1からの排気ガス中のNOxを還元除去する選択還元型NOx触媒19と、選択還元型NOx触媒19に供給する尿素水を貯留する尿素水タンク23と、尿素水タンク23内の尿素水残量Aの検出結果に基づき、尿素水タンク23の全容積に対する割合を読み取る排ガス浄化装置コントローラ5とを備えることが分かる。

(ク)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図1、図3及び図4の記載から、引用文献1に記載された油圧ショベル等の建設機械は、排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合に応じて、ディーゼルエンジン1の出力の低減を実行するエンジンコントロールモジュール4を備えることが分かる。

(ケ)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図1、図3及び図4の記載から、引用文献1に記載された油圧ショベル等の建設機械において、エンジンコントロールモジュール4は、排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合が10%を超し、かつ15%以下であると判断すると、ディーゼルエンジン1の出力の10%低減を実行するものであることが分かる。

(コ)上記(1)(イ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1に記載された油圧ショベル等の建設機械は、目標エンジン回転数に応じて複数の作業モードを切り替えられる構成となっていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図4の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「目標エンジン回転数に応じて複数の作業モードを切り替えられる構成となっている油圧ショベル等の建設機械であって、
ディーゼルエンジン1と、
ディーゼルエンジン1からの排気ガス中のNOxを還元除去する選択還元型NOx触媒19と、
選択還元型NOx触媒19に供給する尿素水を貯留する尿素水タンク23と、
尿素水タンク23内の尿素水残量Aの検出結果に基づき、尿素水タンク23の全容積に対する割合を読み取る排ガス浄化装置コントローラ5と、
排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合に応じて、ディーゼルエンジン1の出力の低減を実行するエンジンコントロールモジュール4とを備え、
エンジンコントロールモジュール4は、排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合が10%を超し、かつ15%以下であると判断すると、ディーゼルエンジン1の出力の10%低減を実行するものである油圧ショベル等の建設機械。」

2.-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、油圧ショベル等の建設機械は、通常、車両の形態を有するものであり、建設作業を行うための車両といえるから、引用発明における「油圧ショベル等の建設機械」は本願発明における「作業車両」に相当する。
また、油圧ショベル等の建設機械の技術分野において、複数の作業モードにおける負荷状態に対応し、エンジンを目標エンジン回転数に制御することは技術常識であるから、引用発明において「目標エンジン回転数に応じて複数の作業モードを切り替えられる構成となっている」ということは、本願補正発明における「負荷状態に応じた作業が可能な複数の作業モードを有する」ことに相当する。
そして、引用発明における「ディーゼルエンジン1」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「ディーゼルエンジン1からの排気ガス」は、「エンジンから排出される排気ガス」に、「NOx」は「窒素酸化物」に、「還元除去する」は「浄化する」に、「選択還元型NOx触媒19」は「排気ガス浄化装置」に、「尿素水」は「還元剤」に、「貯留する」は「蓄える」に、「尿素水タンク23」は「還元剤タンク」に、それぞれ相当する。
更に、引用発明において「尿素水タンク23内の尿素水残量Aの検出結果に基づき、尿素水タンク23の全容積に対する割合を読み取る」ことは、その技術的意義からみて、本願補正発明において「還元剤タンクに蓄えられた還元剤の状態を判定する」ことに相当し、引用発明における「排ガス浄化装置コントローラ5」は、その機能からみて、本願補正発明における「状態判定部」に相当する。
また、引用発明において「排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合に応じて、ディーゼルエンジン1の出力の低減を実行する」ことは、その技術的意義からみて、本願補正発明において「状態判定部で判定された前記還元剤の状態に応じてエンジン出力を制御する」ことに相当し、引用発明における「エンジンコントロールモジュール4」は、その機能からみて、本願補正発明における「エンジン制御部」に相当する。
そして、「エンジン制御部は、還元剤の状態が基準値以下となった場合、エンジンの出力馬力が小さくなるように制御する」ことという限りにおいて、引用発明において「エンジンコントロールモジュール4は、排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合が10%を超し、かつ15%以下であると判断すると、ディーゼルエンジン1の出力の10%低減を実行する」ことは、本願補正発明において「エンジン制御部は、還元剤の状態が基準値以下となった場合、作業モードに対応して設定された通常運転エンジン出力トルクカーブを、前記複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなる制限運転エンジン出力トルクカーブに変更して、前記エンジンの出力を制御する」ことに相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「 負荷状態に応じた作業が可能な複数の作業モードを有する作業車両であって、
エンジンと、
前記エンジンから排出される排気ガス中の窒素酸化物を浄化する排気ガス浄化装置と、
前記排気ガス浄化装置に供給する還元剤を蓄える還元剤タンクと、
前記還元剤タンクに蓄えられた前記還元剤の状態を判定する状態判定部と、
前記状態判定部で判定された前記還元剤の状態に応じて、前記エンジンの出力を制御するエンジン制御部とを備え、
前記エンジン制御部は、還元剤の状態が基準値以下となった場合、エンジンの出力馬力が小さくなるように制御する、作業車両。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
「エンジン制御部は、還元剤の状態が基準値以下となった場合、エンジンの出力馬力が小さくなるように制御する」点に関し、本願補正発明においては「エンジン制御部は、還元剤の状態が基準値以下となった場合、作業モードに対応して設定された通常運転エンジン出力トルクカーブを、前記複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなる制限運転エンジン出力トルクカーブに変更して、前記エンジンの出力を制御する」のに対し、引用発明においては「エンジンコントロールモジュール4は、排ガス浄化装置コントローラ5が読み取った尿素水タンク23の全容積に対する尿素水残量の割合が10%を超し、かつ15%以下であると判断すると、ディーゼルエンジン1の出力の10%低減を実行する」点(以下、「相違点」という。)。

2.-3 判断
上記相違点について検討する。
作業車両のエンジン出力制御装置において、複数の作業モードにそれぞれ対応して設定されたエンジントルクカーブを用いることは、本願の国際出願日以前に、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、国際公開2005/042951号の段落【0032】ないし【0037】等参照。)であったと認められる。
また、作業車両のエンジン出力制御装置において、エンジンの出力を低減させて運転するときに、作業モードに対応して設定されたエンジントルクカーブから、エンジンの出力馬力が小さくなるエンジントルクカーブに変更するように構成することは、単なる設計的事項の採用にすぎない(例えば、国際公開2005/024208号の段落[0062]ないし[0064]及び図5等参照。)。
したがって、引用発明において、エンジンコントロールモジュール4がディーゼルエンジン1の出力の低減を実行するよう構成するに際し、上記周知技術を参酌し、作業モードに対応して設定されたエンジントルクカーブを、複数の作業モードそれぞれが選択されたときのエンジンの出力馬力よりもエンジンの出力馬力が小さくなるエンジントルクカーブに変更するように構成することにより、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、技術の具体的適用に伴う設計変更であるから、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできず、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、平成27年2月23日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成26年10月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲、並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。

2.引用発明
本願の国際出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2013-160104号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1の(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
前記第2.の[理由]1.(2)で検討したとおり、本件補正は、該補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-2及び2.-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
上記第3.のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-26 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-09 
出願番号 特願2014-520085(P2014-520085)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
中村 達之
発明の名称 作業車両  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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