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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C12N
管理番号 1323804
審判番号 訂正2016-390147  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-11-07 
確定日 2017-01-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5766115号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5766115号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5766115号は、平成21年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年6月23日 フランス)を国際出願日として出願され、その請求項1?7に係る発明について平成27年6月26日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、平成28年11月7日に本件の訂正審判が請求されたものである。

第2 請求の趣旨および訂正の内容
本件審判の請求の趣旨は、特許第5766115号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その訂正の内容は、下記訂正事項1、2のとおりである。

1.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ヒト脂肪組織からの多能性成人幹細胞(hMADS細胞)」と記載されているのを、「ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?7も同様に訂正する)。

2.訂正事項2
明細書の段落【0013】、【0025】、【0053】にそれぞれ、「ヒト脂肪組織からの多能性成人幹細胞(hMADS細胞)」、「ヒト脂肪組織から生じた多能性成人幹細胞(hMADS細胞)」、「ヒト脂肪組織からの多能性成人幹細胞(hMADS細胞)」と記載されているのを、「ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)」に訂正する。

第3 当審の判断
(1)訂正の目的について
本件明細書には、「hMADS細胞」という用語が、「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」を意味するという記載と、「ヒト脂肪組織からの多能性成人幹細胞」を意味するという記載が混在しており、該「hMADS細胞」という用語の意味が不明確になっている。
ここで、本件明細書の段落【0055】には、略語の正式名称が列記されており、「略語:hMADS細胞(「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」)」と記載されている。また、段落【0010】には、「間葉幹細胞(ヒト多能性脂肪由来幹細胞、またはhMADS細胞)」と記載されている。これらの記載は、「hMADS細胞」が「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」を意味するものであることを示していると認められる。
また、実施例においては、hMADS細胞として、「5歳のドナー」由来の脂肪組織から確立されたhMADS-2株が用いられており(【0056】)、このことからも、「hMADS細胞」という記載における「A」が、「adult(成人)」を意味するものではなく、「adipose(脂肪)」を意味するものであることが推認できる。
このことは、実施例の「I.材料および方法」に、「細胞培養:調製ならびにhMADS細胞の多能性および自己再生の特徴付けは記述されている(Rodriguez, A.M., et al., Biochem Biophys Res Commun, 2004. 315(2): p. 255-63;Rodriguez, A.M., et al., J Exp Med, 2005. 201(9): p. 1397-405;Zaragosi, L.E. et al., Stem Cells, 2006. 24(11): p. 2412-9;Elabd, C, et al., Biochem Biophys Res Commun, 2007. 361(2): p. 342-8)。」と記載されており(【0056】)、これらの論文には、「hMADS細胞」として、「infants(乳幼児)」(Rodriguez, A.M., et al., Biochem Biophys Res Commun, 2004. 315(2): p. 255-63のMaterials and methods)、「5-year-old male donor(5歳の男のドナー)」(Rodriguez, A.M., et al., J Exp Med, 2005. 201(9): p. 1397-405のMaterials and methods)、「5-year-old male donor(5歳の男のドナー)」または「4-month-old male donor(4ヶ月の男のドナー)」(Zaragosi, L.E. et al., Stem Cells, 2006. 24(11): p. 2412-9のMATERIALS AND METHODS)、または、「young donors(若いドナー)」(Elabd, C, et al., Biochem Biophys Res Commun, 2007. 361(2): p. 342-8)由来の脂肪組織から確立された株を用いたことが記載されていることからも明らかである。
そうすると、請求項1および段落【0013】、【0053】における「hMADS細胞」という記載は、「ヒト脂肪組織からの多能性成人幹細胞」ではなく、「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」を意味しているものと認められる。また、段落【0025】における「hMADS細胞」という記載についても同様に、「ヒト脂肪組織から生じた多能性成人幹細胞」ではなく、「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」を意味しているものと認められる。
したがって、「ヒト脂肪組織からの多能性成人幹細胞(hMADS細胞)」および「ヒト脂肪組織から生じた多能性成人幹細胞(hMADS細胞)」という記載を「ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)」と訂正する訂正事項1、2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1、2は、特許明細書の【0055】の「略語:hMADS細胞(「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」)」、【0010】の「間葉幹細胞(ヒト多能性脂肪由来幹細胞、またはhMADS細胞)」という記載に基づくものであるから、訂正事項1、2は、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合する。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)の理由から明らかなように、訂正事項1、2は、明瞭でない記載を訂正するためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合する。

(4)独立して特許を受けることができるものであること
訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないので、特許法第126条第7項に適合する。

第4 むすび
したがって、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおりに審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
確立されたヒト褐色脂肪細胞株およびhMADS細胞株から分化させる方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト白色脂肪細胞集団の対応する発現と比較して、UCP1、CIDEA、CPT1BおよびBcl-2の発現が高く、Baxの発現が低く、ならびにPPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16の発現が類似である、機能的なヒト褐色脂肪細胞集団に関する。本発明はまた、hMADS細胞を機能的ヒト褐色脂肪細胞集団へと分化させるための方法、ヒト白色脂肪細胞集団を機能的なヒト褐色脂肪細胞集団へと変換させるための方法、および個体における体重を調整することができる分子に関するスクリーニング法にも関する。
【背景技術】
【0002】
白色脂肪組織(WAT)は、ヒトにおいてエネルギーバランスおよび炭水化物-脂質恒常性の制御において重要な役割を果たしている(Ailhaud G.et al.,Annu Rev Nutr,1992.12:p.207-233;Rosen,E.D.and B.M.Spiegelman,Nature,2006.444(7121):p.847-53)。WATとは対照的に、褐色脂肪組織(BAT)は、適応性の熱産生を専門に行っており、その際にアンカップリングプロテインUCP1が決定的な役割を果たす。褐色脂肪組織の存在は、齧歯類において、より大型の哺乳動物新生仔と同様によく知られている(Garruti,G.and D.Ricquier,Int J Obes Relat Metab Disord,1992.16(5):p.383-90;Cannon,B.and J.Nedergaard,Physiol.Rev,2004.84(1):p.277-359)。特に驚くべき事実は、最近のデータが健康な成人に機能的BATが存在することを示唆している点である(Nedergaard,J.et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab,2007.293(2):p.E444-52;Cypess,AM et al.,N.Engl.J.Med.2009.360:p.1509-17;Saito,M.et al.,Diabetes 2009.印刷前公表、オンライン4月28日(Published Ahead of Print,Online April 28);van Marken Lichtenbelt,W et al.,N.Engl.J.Med.2009.390:p.1500-08;Virtanen,KA et al.,N.Engl.J.Med.2009.360:p.1518-1525)。
【0003】
インビボにおいて、低温に対する曝露後またはβ-アドレナリン受容体(β-AR)アゴニストによる処置後の齧歯類において、WAT沈着の中心部に褐色脂肪細胞の島が出現することは公知である(Timmons,J.A.,et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2007.104(11):p.4401-6;Cousin,B.,et al.,J Cell Sci,1992.103(Pt 4):p.931-42;Xue,B.,et al.,Mol Cell Biol,2005.25(18):p.8311-22)。同様に、PPARγアゴニストリガンドによる処置後に、白色脂肪沈着物においてUCP1を発現する細胞が出現することも、齧歯類およびヒトにおいて報告された(Wilson-Fritch,L.,et al.,J Clin Invest,2004.114(9):p.1281-9;Fukui,Y.,et al.,Diabetes,2000.49(5):p.759-67;Bogacka,I.,et al.,Diabetes,2005.54(5):p.1392-9)。しかし、これらの知見は、そのような部位に褐色前駆体が既に存在していたことを除外することができない。逆に、ヒツジおよびウシ新生仔と同様に、ヒト新生児におけるBATのWATへの急速な変換は、白色前駆体が既に存在していたことを除外することができない(Casteilla,L.,et al.,Am J Physiol,1987.252(5 Pt 1):p.E627-36;Casteilla,L.,et al.,Biochem J,1989.257(3):p.665-71;Casteilla,L.,et al.,Eur J Biochem,1991.198(1):p.195-9)。WATおよびBATからエクスビボで得られた前脂肪細胞がそれぞれ、白色および褐色脂肪細胞のみを生じる限り、白色および褐色細胞株に共通する前駆細胞の存在が示されなければならない(Moulin,K.,et al.,Biochem J,2001.356(Pt 2):p.659-64)。マウスにおける最近の研究は、白色脂肪細胞のシグネチャーとは別個の褐色脂肪細胞の筋原性のトランスクリプトームシグネチャーが存在することを示すことによって、この可能性を支持する(Timmons,J.A.,et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2007.104(11):p.4401-6)。
【0004】
しかし、他の研究は、遺伝子組換え(transgenesis)によって白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞が生じる可能性を強調しており(Tiraby,C.and D.Langin,Trends Endocrinol Metab,2003.14(10):p.439-41;Tiraby,C,et al.,J Biol Chem,2003.278(35):p.33370-6)、いくつかの共活性化因子および転写因子が、褐色脂肪細胞の形成に関与している。このように、分化の際に、PGC-1αおよびPGC-1βは、ミトコンドリア形成および呼吸において本質的で相補的な役割を果たしている(Puigserver,P.,et al.,Mol Cell,2001.8(5):p.971-82;Uldry,M.,et al.,Cell Metab,2006.3(5):p.333-41)。しかし、これらのPPARγ共活性化因子とは反対に、ジンクフィンガー転写タンパク質PRDM16は、PGC-1α、UCP1、およびII型ヨードチロニン脱ヨウ素酵素(Dio2)の誘導によって、白色前脂肪細胞の「褐色」の決定を真に制御する(Seale,P.,et al.,Cell Metab,2007.6(1):p.38-54)。
【0005】
Zilberfarb et al.,1997,J Cell Sci 110(Pt 7),801-807による論文は、遺伝子組換えによって得られるヒト褐色脂肪細胞PAZ6の不死化株を記述している。この論文はPAZ6株がUCP1をコードするmRNAを発現することを示している。
【0006】
しかしこの論文は、この発現によって機能的UCP1が得られること、すなわち内部ミトコンドリア膜にそれが位置することによりアンカップリング活性を有し、このようにヒト白色脂肪細胞の活性より有意に高い呼吸活性およびアンカップリング活性をヒト褐色脂肪細胞に付与するUCP1が得られることを示していない。その上、β-アドレナリン受容体の特異的アゴニストによる呼吸活性の刺激がUCP1の存在に依存するとは報告されていない。
【0007】
その上、Zilberfarb et al.,1997の論文はまた、β3-アドレナリン受容体が、PAZ6細胞においてアデニレートシクラーゼおよび脂肪分解にカップリングすることを記述している。β3-アドレナリン受容体とアデニレートシクラーゼのあいだのこのカップリングは、UCP1のアンカップリング活性に至る一連の事象に先立つことが知られている。
【0008】
しかし、Zilberfarb et al.,1997の論文はまた、アデニレートシクラーゼとβ3-アドレナリン受容体のあいだのカップリングに関する類似の結果が、新しく単離されたラット脂肪細胞を用いることによって、他の著者(Murphy et al.,1993)によって得られていることも記述している。これらは実は白色脂肪細胞である(Murphy et al.,1993:「ラット白色脂肪細胞における環状AMP依存的タンパク質キナーゼのβ3-アドレナリン受容体誘発性活性化と脂肪分解の活性化との相関(”Correlation of β3-adrenoreceptor-induced activation of cyclic AMP dependent protein kinase with activation of lipolysis in rat white adipocytes”)を参照されたい)。
【0009】
このように、Zilberfarb et al.,1997において褐色PAZ6脂肪細胞について得られ、記述された結果は、白色脂肪細胞について得られた結果と類似であり、このことは必然的に白色脂肪細胞の活性と類似のこれらの褐色脂肪細胞からの呼吸活性およびアンカップリング活性が得られたことになる。Zilberfarb et al.,1997によって記述された褐色PAZ6脂肪細胞は、このように本発明の状況において機能的ではない。
【0010】
最近、本発明者らは、ヒト脂肪組織から間葉幹細胞(ヒト多能性脂肪由来幹細胞、またはhMADS細胞)を単離した。クローン状態において、これらの細胞は、正常な核型、強い自己再生能を有し、腫瘍形成性を有しない。hMADS細胞は、いくつかの系列、特に造骨細胞および脂肪細胞に分化できることがわかっており、インビボで骨および筋再生に至る(Rodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63;Rodriguez,A.M.,et al.,J Exp Med,2005.201(9):p.1397-405;Zaragosi,L.E.,et al.,Stem Cells,2006.24(11):p.2412-9;Elabd,C,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2007.361(2):p.342-8)。一度脂肪細胞に分化すると、hMADS細胞はヒト白色脂肪細胞の機能的特性(レプチンおよびアジポネクチンの分泌、インスリンおよびβ-アドレナリン作動神経アゴニストに対する応答、ならびに霊長類に対して特異的、心房性ナトリウム利尿因子に対して特異的、Rodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63)を獲得する。このように、hMADS細胞は、その褐色脂肪細胞へも分化する可能性を試験するための適した細胞モデルを表す。
【0011】
本発明者らの結果は、PPARγの持続的な慢性的活性化が、インビトロでのその変換を促進するために、ならびにその呼吸およびアンカップリング能を増加させるために十分であること、ならびにβ3アゴニストが含まれるβ-アドレナリン受容体アゴニストが、UCP1の発現のみならずイソプロテレノールなどのβ-アドレナリン受容体の特異的アゴニストによる呼吸活性の刺激を正に調整することを示している。hMADS細胞の分化によって、特に体重を調整することができる分子を同定するための、ならびに詳しくは過剰な体重および/または肥満を処置するための細胞モデルとして用いることができる機能的なヒト褐色脂肪細胞集団が得られる。
【発明の概要】
【0012】
このように、第一の局面に従って、本発明は、以下の遺伝子を同時に発現する機能的なヒト褐色脂肪細胞集団に関する:
- UCP1、CIDEA、CPT1BおよびBcl-2タンパク質をコードする遺伝子、これらの遺伝子の発現はヒト白色脂肪細胞集団の発現より高い、
- Baxタンパク質をコードする遺伝子、この遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団の発現より低い、ならびに
- PPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16タンパク質をコードする遺伝子、これらの遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団の発現と類似である。
【0013】
本発明に従うヒト褐色脂肪細胞の機能的集団(または株)は、ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)集団(または株)から生じる。hMADS細胞は、2004年2月12日に公開された国際出願WO 2004/013 275において、およびRodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63において詳しく記述されている。これらのhMADS細胞は、用いる培養培地に応じて、脂肪細胞、造骨細胞、筋細胞、および内皮細胞などの様々な細胞タイプに分化することができる。確立されたhMADS細胞集団は、一定数の細胞倍加のあいだ保存される自己再生能および脂肪細胞分化能を有し、すなわち、それらは長期間生存して、最初の細胞特徴を変更することなく分裂することができる。その結果、そのような集団は、hMADS細胞株と呼ばれうる。有利には、本発明に従うhMADS細胞集団は、少なくとも130回、さらにより有利には少なくとも200回の集団倍加のあいだ保存される自己再生能および脂肪細胞分化能を有する。本発明において、hMADS細胞集団を機能的なヒト褐色脂肪細胞集団に分化させることができる条件は決定されており、これを以下に記述する。このように、機能的なヒト褐色脂肪細胞集団を確立することができる。この集団は、一定数の集団倍加のあいだ保存される、そこからそれが生じるhMADS細胞集団と同じ自己再生能および脂肪細胞分化能を有する。このように、細胞は長期間生存して、最初の細胞特徴を変更させることなく分裂することができる。その結果、この集団はまた、機能的な褐色脂肪細胞株と呼ばれうる。
【0014】
本発明に従って、「機能的な」ヒト褐色脂肪細胞集団とは、任意の他の細胞タイプの呼吸活性およびアンカップリング活性と比較して、特に白色脂肪細胞の活性と比較して、有意に高い呼吸活性およびアンカップリング活性を有する集団を意味する。その上、機能的なヒト褐色脂肪細胞集団の有意により高い呼吸活性は、この集団をイソプロテレノールなどのβ-アドレナリン受容体の特異的アゴニストに曝露する場合に刺激される。機能的ヒト褐色脂肪細胞集団における有意により高い呼吸活性およびアンカップリング活性のみならず、β-アドレナリン受容体の特異的アゴニストによる呼吸活性の刺激は、UCP1をコードする遺伝子の発現によるものであり、対照的にヒト白色脂肪細胞では同じ遺伝子の発現が存在しない。UCP1タンパク質のアンカップリング活性は、ヒト褐色脂肪細胞の内部ミトコンドリア膜にこのタンパク質が存在することに起因する。これらのヒト褐色脂肪細胞による有意により高い呼吸およびアンカップリング活性は、UCP1タンパク質が内部ミトコンドリア膜に局在せず、機能的でない場合には観察されないであろう。ヒト褐色脂肪細胞の機能性は、以下に記述されるように様々な様式で証明されうる。
【0015】
本発明において、「呼吸活性」とは、細胞または細胞集団が酸素を消費する能力を意味する。この酸素を消費する能力は以下に示されるように測定されうる。
【0016】
本発明において、「アンカップリング活性」とは、UCP1タンパク質の能力、およびその結果それを含有する細胞がその呼吸活性をそのATP産生から切り離す能力を意味する。実際に、細胞が呼吸すると、細胞は内部ミトコンドリア膜の内外のあいだでプロトン勾配を生じる。この勾配によってATPを生成することができる。しかし、UCP1タンパク質は、このプロトン勾配を消散させる。これによって、ATP産生の強い減少および熱産生の増加が起こる。このように、所定のATP産生に関して、褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞よりかなり多くの酸素を消費するであろう。アンカップリング活性の測定は以下に示す。
【0017】
本発明において、細胞集団による遺伝子の発現とは、この発現に起因する産物が該遺伝子の翻訳産物である、すなわち遺伝子によってコードされるタンパク質であるか、または該遺伝子の転写産物である、すなわちタンパク質をコードするmRNAのいずれかであることを意味する。遺伝子の発現は、たとえばイムノブロッティング技術を用いることによる翻訳産物(遺伝子によってコードされるタンパク質)の定量、またはたとえば定量的RT-PCRおよび/またはノザンブロット技術による転写産物(タンパク質をコードするmRNA)の定量のいずれかによって決定される。遺伝子発現産物の定量技術は、当業者に周知である。
【0018】
機能的なヒト褐色脂肪細胞集団によるUCP1、CIDEA、CPT1B、Bcl-2、Bax、PPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16タンパク質をコードする遺伝子の発現を定量して、ヒト白色脂肪細胞集団によるこれらの同じ遺伝子の発現と比較する。このヒト白色脂肪細胞集団は、有利には、先に記述したようにhMADS細胞集団から生じる。hMADS細胞をヒト白色脂肪細胞に分化させる培養条件は、特に2004年2月12日に公表された国際出願WO2004/013 275の17ページ36行から18ページ8行目において、または本特許出願の実施例の章において記述されている。有利には、ヒト白色脂肪細胞集団は、ロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、およびトログリタゾンから有利に選択されるチアゾリジンジオンファミリーの化合物などのPPARγ受容体の特異的アゴニストによって、hMADS細胞集団を1?9日間、有利には6日間刺激した後に得られる。
【0019】
本発明において、機能的ヒト褐色脂肪細胞集団による遺伝子の発現は、この発現の有意な差が観察された場合に、ヒト白色脂肪細胞集団による同じ遺伝子の発現より高いまたは低いと見なされる。逆に、機能的ヒト褐色脂肪細胞集団による遺伝子の発現が、ヒト白色脂肪細胞集団による同じ遺伝子の発現に対して±0.20倍で同一である場合には、差は有意ではない。
【0020】
有利には、UCP1タンパク質をコードする遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団によるこの同じ遺伝子の発現より10?1000倍高く、好ましくは20?500倍高く、
および/またはCIDEAタンパク質をコードする遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団によるこの同じ遺伝子の発現より10?100倍高く、好ましくは20?100倍高く、
および/またはCPT1Bタンパク質をコードする遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団によるこの同じ遺伝子の発現より2?10倍高く、好ましくは4?8倍高く、
および/またはBcl-2タンパク質をコードする遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団によるこの同じ遺伝子の発現より1.5?4倍高く、好ましくは2?3倍高く、
および/またはBaxタンパク質をコードする遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団によるこの同じ遺伝子の発現より0.25?2.5倍低く、好ましくは0.5?2倍低く、
および/またはPPARα、PGC-1α、PGC-1βおよびPRDM16タンパク質をコードする遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団によるこれらの同じ遺伝子の発現に対して±0.20倍で同一である。
【0021】
有利な態様に従って、UCP1をコードする遺伝子の発現は、β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激後に、有利にはβ3-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激後に、有利には1?24時間を含む持続期間、有利には6時間の刺激後に増加する。有利には、UCP1をコードする遺伝子の発現は、β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られる発現と比較して1.5?4倍高い。
【0022】
任意の特異的β-アドレナリン受容体アゴニストを用いることができる。そのようなアゴニストの例は、Carpene,C.Methods Mol Biol 2001.155,129-140の表1において特に引用されている。特に、化合物ノルアドレナリンおよびアドレナリン、化合物T0509(β1)、化合物サルブタモールおよびプロカテロール(β2)、化合物BRL37314(β3)、ドブタミン、テルブタリン、3つのβ1、β2、およびβ3アドレナリン受容体の特異的アゴニストであるイソプロテレノール、β3-アドレナリン受容体の部分的アゴニストである化合物CGP12177A、ならびにβ3-アドレナリン受容体の特異的アゴニストである化合物CL316243を引用することができるが、これらに限定されるわけではない。有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストは、ドブタミン、テルブタリン、イソプロテレノール、ノルアドレナリン、アドレナリン、β3-アドレナリン受容体の部分的アゴニストである化合物CGP12177A、およびβ3-アドレナリン受容体の特異的アゴニストである化合物CL316243から選択される。さらにより有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストは、ノルアドレナリン、アドレナリン、イソプロテレノール、およびCL316243から選択される。化合物ドブタミン、テルブタリン、イソプレナリン、およびCL316243は、特にSigma Chemical Company(St Louis,MO,USA)から得ることができる。化合物CGP12177Aは、Research Biochemical(Natick,MA,USA)から得ることができる。
【0023】
同様に、有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストの濃度は、1nM?1000nMを含み、有利には1nM?500nM、さらにより有利には1?100nMを含む。
【0024】
本発明はまた、本発明に従う集団などのヒト褐色脂肪細胞集団においてUCP1タンパク質をコードする遺伝子の発現を増加させるために特異的β3-アドレナリン受容体アゴニストを用いることにも関する。有利には、本発明は、本発明に従う集団などのヒト褐色脂肪細胞集団におけるUCP1タンパク質アンカップリング活性を増加させるために、特異的β3-アドレナリン受容体アゴニストを用いることに関する。好ましくは、アゴニストは、化合物CL316243であり、好ましくは1nM?1000nMを含む濃度、有利には1nM?500nM、さらにより有利には1nM?100nMを含む濃度で用いられる。
【0025】
第二の局面に従って、本発明は、特異的PPARγ受容体アゴニストによる前述のhMADS細胞の刺激を含む、ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)集団を、本発明において定義される集団などの機能的ヒト褐色脂肪細胞集団に分化させるための方法に関し、刺激は以下のあいだ行われる:
- 10?30日を含む持続期間、有利には13?20日、さらにより有利には15?16日を含む期間、または
- (i)2?9日、有利には3?7日、さらにより有利には6日を含む持続期間のhMADS細胞の白色脂肪細胞への第一の分化期間、(ii)第一の期間の後に、2?10日、有利には4?7日、さらにより有利には5日を含む持続期間の、そのあいだに刺激を停止させる、第二の期間、(iii)第二の期間の後に、1?10日、有利には1?6日、さらにより有利には2日を含む持続期間の第三の刺激期間。
【0026】
任意の特異的PPARγ受容体アゴニストを本発明の状況において用いることができる。ロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、トログリタゾンまたは化合物NC-2100などのチアゾリジンジオンを引用することができるがこれらに限定されるわけではない。同様に、化合物S26948、N-(2-ベンゾイルフェニル)-L-チロシンに由来する化合物、FMOC誘導体、2(3H)ベンザゾロン(benzazolonic)複素環を含む1,3-ジカルボニル化合物、スルホニルウレアファミリーの化合物、5位で置換された2-ベンゾイルアミノ安息香酸ファミリーの化合物、化合物ハロフェナート、インデン-N-オキシドファミリーの誘導体、テルミサルタン、イルベサルタンおよびロサルタンなどの1型アンジオテンシン受容体アンタゴニストも引用することができる。有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストはチアゾリジンジオンであり、チアゾリジンジオンは、さらにより有利にはロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、およびトログリタゾンを含む群から選択される。シグリタゾンおよびトログリタゾン化合物は、特にCayman Chemical(Ann Arbor,MI,USA)から得ることができる。ピオグリタゾンおよびロシグリタゾン化合物は、Sigma Chemical Co.(St Louis,MO,USA)から得ることができる。ダルグリタゾンは、Medicinal Chemistry,AstraZeneca R&D(Molndal,Sweden)から得ることができる。
【0027】
有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがロシグリタゾンである場合、ロシグリタゾンの濃度は5nM?1,000nM、有利には10nM?500nM、さらにより有利には20?100nMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがピオグリタゾンである場合、ピオグリタゾンの濃度は、0.2μM?10μM、有利には0.4μM?5μM、さらにより有利には0.8μM?2μMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがシグリタゾンである場合、シグリタゾンの濃度は、0.5μM?20μM、有利には1μM?10μM、さらにより有利には2μM?4μMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがダルグリタゾンである場合、ダルグリタゾンの濃度は、0.2μM?20μM、有利には0.5μM?10μM、さらにより有利には1μM?5μMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがトログリタゾンである場合、トログリタゾンの濃度は、0.2μM?10μM、有利には0.5μM?5μM、さらにより有利には1μM?4μMを含む。
【0028】
hMADS細胞集団の繁殖および分化のために用いられる一般的な培養条件は、当業者に公知であり、特に出願WO2004/013 275において、または本特許出願の実施例の章に記述されている。hMADS細胞集団を分化させるために用いられる培養培地は、細胞を用いる前に定期的に、好ましくは2日ごとに交換される。この培地は、有利には新生仔ウシ血清などの血清を含有せず、化学的に定義される。
【0029】
その上、本発明に従うヒト褐色脂肪細胞集団の機能性は、イソプロテレノールなどの特異的β-アドレナリン受容体アゴニストを用いてその呼吸活性を刺激することによって証明されうる。このように、好ましい態様に従って、hMADS細胞集団を本発明に従うヒト褐色脂肪細胞集団分化させるための方法は、得られたヒト褐色脂肪細胞集団の機能性を証明する段階を含み、証明する段階は、以下の連続段階を含む:
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによってヒト褐色脂肪細胞集団の呼吸活性を刺激する段階、
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費を定量する段階、ならびに
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費が、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られた発現および/または酸素消費と比較して増加すれば、集団が機能的であることが証明される段階。
【0030】
集団が機能的である場合、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下と比較して、少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%の増加などの呼吸活性の強い刺激が観察される。これに対し、白色脂肪細胞を特異的β-アドレナリン受容体アゴニストに曝露しても、刺激は観察されない。
【0031】
好ましくは、UCP1をコードする遺伝子の発現は、β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られる発現と比較して1.5?4倍高い。
【0032】
有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストは、イソプレナリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドブタミン、テルブタリン、および化合物CL316243から選択され、有利にはイソプロテレノールである。
【0033】
同様に、有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストの濃度は、1nM?1,000nM、有利には1nM?500nM、さらにより有利には1nM?100nMを含む。
【0034】
ヒト褐色脂肪細胞集団の機能性は、たとえば呼吸計を用いて酸素消費を定量することによって証明されうる。そのような技術は、当業者に周知である。
【0035】
ヒト褐色脂肪細胞集団の機能性はまた、集団のアンカップリング活性を定量することによっても確認されうる。アンカップリング活性のこの定量は、カルボニルシアニド3-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)などのアンカップリング剤を用いて行われうる。そのような技術は、当業者に周知である。
【0036】
第三の局面に従って、本発明は、ヒト白色脂肪細胞集団を特異的PPARγアゴニストによって1?10日、有利には1?6日、さらにより有利には2日を含む持続期間刺激する段階を含む、ヒト白色脂肪細胞集団を、本発明において定義されるような機能的ヒト褐色脂肪細胞集団に変換するための方法に関する。
【0037】
ヒト白色脂肪細胞集団は、先に記述されたとおりである。ヒト白色脂肪細胞集団を変換するために用いられる培養培地は、hMADS細胞を分化させるために用いられる培地と同じである。同様に、この培地は、細胞を用いる前に定期的に、好ましくは2日毎に交換される。
【0038】
特異的PPARγ受容体アゴニストは、先に定義されたとおりである。
【0039】
有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストはチアゾリジンジオンであり、有利には、チアゾリジンジオンは、ロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、およびトログリタゾンを含む群から選択される。
【0040】
有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがロシグリタゾンである場合、ロシグリタゾンの濃度は5nM?1,000nM、有利には10nM?500nM、さらにより有利には20?100nMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがピオグリタゾンである場合、ピオグリタゾンの濃度は、0.2μM?10μM、有利には0.4μM?5μM、さらにより有利には0.8μM?2μMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがシグリタゾンである場合、シグリタゾンの濃度は、0.5μM?20μM、有利には1μM?10μM、さらにより有利には2μM?4μMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがダルグリタゾンである場合、ダルグリタゾンの濃度は、0.2μM?20μM、有利には0.5μM?10μM、さらにより有利には1μM?5μMを含む。同様に有利には、特異的PPARγ受容体アゴニストがトログリタゾンである場合、トログリタゾンの濃度は、0.2μM?10μM、有利には0.5μM?5μM、さらにより有利には1μM?4μMを含む。
【0041】
好ましい態様において、本発明に従う変換するための方法は、ヒト白色脂肪細胞集団の変換後に得られたヒト褐色脂肪細胞集団の機能性を証明する段階も同様に含み、証明する段階は以下の連続段階を含む:
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによってヒト褐色脂肪細胞集団の呼吸活性を刺激する段階、
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費を定量する段階、ならびに
- コードする遺伝子の発現および/または酸素消費が、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られた発現および/または酸素消費と比較して増加すれば、集団が機能的であることが証明される段階。
【0042】
好ましくは、UCP1をコードする遺伝子の発現は、β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られた発現と比較して1.5?4倍高い。
【0043】
有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストは、イソプレナリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドブタミン、テルブタリン、および化合物CL316243から選択され、有利にはイソプロテレノールである。
【0044】
同様に、有利には、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストの濃度は、1nM?1,000nM、有利には1nM?500nM、さらにより有利には1?100nMを含む。
【0045】
本発明はまた、本発明において定義されるような、分化させる方法または変換させる方法によって得られたヒト褐色脂肪細胞集団にも関する。
【0046】
もう1つの局面に従って、本発明は、個体における体重を調整することができる分子または分子の組み合わせを同定するための、有利には、個体における過剰な体重および/または肥満を処置することができる分子または分子の組み合わせを同定するためのモデルとして、本発明に従う機能的ヒト褐色脂肪細胞集団を用いることに関する。
【0047】
有利には、本発明は、以下の連続段階を含む、褐色脂肪細胞集団の呼吸活性および/もしくはアンカップリング活性に対して作用することができる、ならびに/または個体における体重を調整することができる分子または分子の組み合わせを同定するための方法に関する:
- 本発明に従う機能的ヒト褐色脂肪細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- ヒト褐色脂肪細胞集団のUCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費および/またはアンカップリング活性を定量する段階、ならびに
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費および/またはアンカップリング活性が該分子の非存在下で得られたものとは有意に異なる場合、褐色脂肪細胞集団の呼吸活性および/もしくはアンカップリング活性に対して作用することができる、ならびに/または個体における体重を調整することができるとして、分子または分子の組み合わせが同定される段階。
【0048】
有利な態様に従って、UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費および/またはアンカップリング活性が、分子または分子の組み合わせの非存在下で得られた場合より高い場合、分子または分子の組み合わせは、褐色脂肪細胞集団の呼吸活性および/もしくはアンカップリング活性を増加させることができ、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる。
【0049】
同様に、有利には、本発明は、以下の連続段階を含む、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる分子または分子の組み合わせを同定するための方法にも関する:
- hMADS細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- hMADS細胞集団が本発明に従う機能的ヒト褐色脂肪細胞集団の表現型を発現する場合、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができるとして、分子または分子の組み合わせが同定される段階。
【0050】
本発明に従って、「機能的ヒト褐色脂肪細胞集団の表現型」とは、集団が、先に記述したように、UCP1、CIDEA、CPT1B、Bcl-2、Bax、PPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM 16タンパク質をコードする遺伝子を同時に発現することを意味する。同様に、集団は、イソプロテレノールなどの特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによって刺激されうる増加した呼吸活性を有する。この表現型は、先に記述されたように決定されうる(イムノブロッティング、ノザンブロット、定量的RT-PCR、呼吸計等)。
【0051】
同様に、有利には、本発明は、以下の連続段階を含む、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる分子または分子の組み合わせを同定するための方法にも関する:
- ヒト白色脂肪細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- ヒト白色脂肪細胞集団が、本発明に従うヒト褐色脂肪細胞集団の表現型を発現する場合に、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができるとして、分子または分子の組み合わせが同定される段階。
【0052】
ヒト白色脂肪細胞集団は先に定義されたような集団である。
【0053】
以下の実施例および図面は、本発明を例証し、本発明の範囲をいかなるようにも制限しない。
[本発明1001]
以下の遺伝子を同時に発現する機能的なヒト褐色脂肪細胞集団:
- UCP1、CIDEA、CPT1B、およびBcl-2タンパク質をコードする遺伝子、
これらの遺伝子の発現はヒト白色脂肪細胞集団の発現より高い、
- Baxタンパク質をコードする遺伝子、
この遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団の発現より低い、ならびに、
- PPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16タンパク質をコードする遺伝子、
これらの遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団の発現と類似である。
[本発明1002]
UCP1をコードする遺伝子の発現が、β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激後、有利にはβ3-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激後に増加する、本発明1001のヒト褐色脂肪細胞集団。
[本発明1003]
特異的PPARγ受容体アゴニストによるhMADS細胞の刺激を含む、ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)集団を本発明1001または1002において定義される集団などの機能的ヒト褐色脂肪細胞集団に分化させるための方法であって、刺激が以下のあいだ行われる、方法:
- 10?30日を含む持続期間、または
- (i)2?9日を含む持続期間の、hMADS細胞を白色脂肪細胞へと分化させる第一の期間、(ii)第一の期間の後、2?10日を含む持続期間の第二の期間が続き、そのあいだに刺激を停止させ、(iii)第二の期間の後に続く、1?10日を含む持続期間の第三の刺激期間。
[本発明1004]
特異的PPARγ受容体アゴニストがチアゾリジンジオンであり、該チアゾリジンジオンが、有利にはロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、およびトログリタゾンを含む群から選択される、本発明1003の分化させる方法。
[本発明1005]
特異的PPARγ受容体アゴニストの濃度が、アゴニストがロシグリタゾンである場合、5nM?1,000nMを含み、アゴニストがピオグリタゾンである場合、0.2μM?10μMを含み、アゴニストがシグリタゾンである場合、0.5μM?20μMを含み、アゴニストがダルグリタゾンである場合、0.2μM?20μMを含み、およびアゴニストがトログリタゾンである場合、0.2μM?10μMを含む、本発明1004の分化させる方法。
[本発明1006]
hMADS細胞集団を分化させた後に得られるヒト褐色脂肪細胞集団の機能性を証明する段階をさらに含み、証明する段階が以下の連続段階を含む、本発明1003?1005のいずれかの分化させる方法:
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによってヒト褐色脂肪細胞集団の呼吸活性を刺激する段階、
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費を定量する段階、ならびに
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られたものと比較して、UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費が増加すれば、集団が機能的であると証明される段階。
[本発明1007]
特異的β-アドレナリン受容体アゴニストが、イソプレナリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドブタミン、テルブタリン、および化合物CL316243から選択され、有利にはイソプロテレノールである、本発明1006の分化させる方法。
[本発明1008]
特異的β-アドレナリン受容体アゴニストの濃度が1nM?1,000nMを含む、本発明1006または1007の分化させる方法。
[本発明1009]
1?10日を含む持続期間、特異的PPARγアゴニストによってヒト白色脂肪細胞集団を刺激する段階を含む、本発明1001または1002において定義された集団などの機能的ヒト褐色細胞集団にヒト白色細胞集団を変換させる方法。
[本発明1010]
特異的PPARγ受容体アゴニストがチアゾリジンジオンであって、該チアゾリジンジオンが、有利にはロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、およびトログリタゾンを含む群から選択される、本発明1009の変換させる方法。
[本発明1011]
特異的PPARγ受容体アゴニストの濃度が、アゴニストがロシグリタゾンである場合、5nM?1,000nMを含み、アゴニストがピオグリタゾンである場合、0.2μM?10μMを含み、アゴニストがシグリタゾンである場合、0.5μM?20μMを含み、アゴニストがダルグリタゾンである場合、0.2μM?20μMを含み、およびアゴニストがトログリタゾンである場合、0.2μM?10μMを含む、本発明1010の変換させる方法。
[本発明1012]
ヒト白色脂肪細胞集団を変換させた後に得られるヒト褐色脂肪細胞集団の機能性を証明する段階をさらに含み、証明する段階が以下の連続段階を含む、本発明1009?1011のいずれかの変換させる方法:
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによってヒト褐色脂肪細胞集団の呼吸活性を刺激する段階、
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費を定量する段階、ならびに
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られたものと比較して、UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費が増加すれば、集団が機能的であると証明される段階。
[本発明1013]
特異的β-アドレナリン受容体アゴニストが、イソプロテレノール、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドブタミン、テルブタリン、および化合物CL316243から選択され、有利にはイソプロテレノールである、本発明1012の変換させる方法。
[本発明1014]
特異的β-アドレナリン受容体アゴニストの濃度が1nM?1,000nMを含む、本発明1012または1013の変換させる方法。
[本発明1015]
個体における体重を調整することができる分子または分子の組み合わせを同定するための、有利には、個体における過剰な体重および/または肥満を処置することができる分子または分子の組み合わせを同定するためのモデルとしての、本発明1001または1002の機能的ヒト褐色脂肪細胞集団の使用。
[本発明1016]
以下の連続段階を含む、褐色脂肪細胞集団の呼吸活性および/もしくはアンカップリング活性に作用することができる、ならびに/または個体における体重を調整することができる分子または分子の組み合わせを同定するための方法:
- 本発明1001または1002の機能的ヒト褐色脂肪細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- ヒト褐色脂肪細胞集団のUCP1をコードする遺伝子の発現、および/または酸素消費、および/またはアンカップリング活性を定量する段階、ならびに
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費および/またはアンカップリング活性が、上記分子の非存在下で得られるものとは有意に異なる場合に、上記分子または分子の組み合わせを、褐色脂肪細胞集団の呼吸活性および/もしくはアンカップリング活性に作用することができる、ならびに/または個体における体重を調整することができると同定する段階。
[本発明1017]
UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費および/またはアンカップリング活性が、分子または分子の組み合わせの非存在下で得られるものより高い場合に、該分子または分子の組み合わせが、褐色脂肪細胞集団の呼吸活性を増加させることができ、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる、本発明1016の同定する方法。
[本発明1018]
以下の連続段階を含む、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる、分子または分子の組み合わせを同定する方法:
- hMADS細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- hMADS細胞集団が、本発明1001または1002の機能的ヒト褐色脂肪細胞集団の表現型を発現する場合、上記分子または分子の組み合わせを、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができると同定する段階。
[本発明1019]
以下の連続段階を含む、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる、分子または分子の組み合わせを同定する方法:
- ヒト白色脂肪細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- ヒト白色脂肪細胞集団が、本発明1001または1002のヒト褐色脂肪細胞集団の表現型を発現する場合、上記分子または分子の組み合わせを、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができると同定する段階。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】hMADS-2細胞の脂肪細胞分化に及ぼすロシグリタゾンの効果。hMADS-2細胞の脂肪細胞分化を、「材料および方法」の章に記述されるプロトコールに従って実施した。ロシグリタゾンを、表示の濃度および日で添加した。以下を16日目に行った:A)細胞を固定した後、オイルレッド0によって染色した、B)GPDH活性を測定した、およびC)PPARγmRNAレベルを定量的RT-PCRによって決定した。結果は、様々な組の細胞について行った独立した3回の実験の平均値±SDを表す;100%は(C)500nMロシグリタゾンの存在下で16日目に得られた値に対応する。
【図2】褐色脂肪細胞マーカーの発現に及ぼすロシグリタゾンに対するhMADS-2細胞の長期間曝露の効果。hMADS-2細胞の分化を図1において記述されるように行った。16日目に、UCP1(A)、UCP2(C)、CIDEA(D)、およびCPT1B(E)mRNAレベルを定量的RT-PCRによって決定した。結果は、様々な組の細胞について行った独立した3回の実験の平均値±SDを表す;結果を、500nMロシグリタゾンの存在下で得られた値を100%とすることによって表記する。UCP1タンパク質のレベル(B)を、内因性の内部標準としてTBPを用いて異なる2組の細胞についてのイムノブロッティングによって決定した。
【図3】β-アドレナリンアゴニストに応答したβ3-アドレナリン受容体の発現およびUCP1の発現の刺激。A)hMADS-2細胞の脂肪細胞分化を、表記の日に100nMロシグリタゾンの存在下で行い、mRNAレベルを定量的RT-PCRによって17日目に決定した。(B、C)分化を、3?16日目まで100nMロシグリタゾンの存在下で、最後の6時間のあいだ表記の濃度のβ-アドレナリンアゴニストの非存在下または存在下で得た。結果は、様々な組の細胞について行われた3回(A)および2回(B)の独立した実験の平均値±SDを表す;結果を、3?9日目までの処置のあいだ(A)に、またはβ-アドレナリンアゴニストの非存在下(B、C)でのいずれかの処置によって得られた値を100%とすることによって表記する。
【図4】白色脂肪細胞からの褐色表現型の誘導はPPARγ活性化に依存する。最初に、hMADS-2細胞を、100nMロシグリタゾンの3?9日目までの存在下で白色脂肪細胞に分化させた。リガンドを、一旦除去した後、14日目およびそれ以降のあいだ、表記の濃度で添加するか、または添加しない。16日目に、UCP1、CIDEA、およびCPT1BのmRNAレベルを定量的RT-PCRによって決定し(A)、特異的PPARリガンドによる14?16日目までの曝露後に、UCP1タンパク質の量をイムノブロッティングによって決定した(B)。結果を、3?9日目まで100nMロシグリタゾンに曝露した後16日目で得られた値を1とすることによって刺激倍率として表記する;値は、様々な組の細胞について行った独立した2回の実験の平均値±SDを表す。
【図5】白色および褐色脂肪細胞の呼吸活性およびアンカップリング活性に及ぼすロシグリタゾンによる長期処置の効果。hMADS-2細胞を、100nMロシグリタゾンの存在下で白色脂肪細胞を得るために3日?9日目まで、または褐色脂肪細胞を得るために3?20日目まで分化誘導して、または最後に3?9日目の後に16?20日目まで分化誘導した。20日目に、酸素消費(A)、酸化的リン酸化のデカップリング(B)およびイソプレナリンによる酸素消費の刺激(C)を「材料および方法」に記述されるプロトコールに従って測定した。結果は、様々な組の細胞について行った独立した4回の実験の平均値±SDを表す。*100nMロシグリタゾンの存在下で3?9日目まで処置した細胞と比較してP<0.05。
【図6】白色または褐色表現型の獲得の関数としての転写因子および共因子の遺伝子発現。hMADS-2細胞の脂肪細胞分化を100nM(A)、または表記の濃度(B)のロシグリタゾンの存在下で行った。PRDM16、PGC-1α、PGC-1β、およびPPARα mRNAレベルを16日目(A)および17日目(B)に定量的RT-PCRによって決定した。結果は、様々な組の細胞について行った独立した3回の実験の平均値±SDを表す;結果を、100nMロシグリタゾン(A)または500nMロシグリタゾン(B)の存在下で得た値を100%とすることによって表記する。
【図7】白色または褐色表現型の獲得の関数としてのアポトーシスに関連する遺伝子の発現。hMADS-2細胞の脂肪細胞分化を100nMロシグリタゾンの存在下で行った。16日目に、Bcl-2およびBax mRNAレベルを定量的RT-PCRによって決定した。結果は、様々な組の細胞について行った独立した3回の実験の平均値±SDを表す。結果を、3?9日目までのロシグリタゾンによる処置によって得られた値を100%とすることによって表記する。*P≦0.05。
【図8】hMADS-1細胞の脂肪細胞分化に及ぼすロシグリタゾンの効果。hMADS-1細胞を図1に記述されるプロトコールに従って分化させた。ロシグリタゾンに対する曝露を、表記の濃度および日で行った。16日目に細胞を固定してオイルレッドOによって染色し(A)、GPDH活性を決定した(B)のみならず、定量的RT-PCRによってUCP1およびCIDEA mRNAレベルを決定した(C)。結果は、様々な組の細胞によって行われた独立した2回の実験の平均値±SDを表し、16日目に100nMロシグリタゾンの存在下で得られた値を100%とすることによって表記される(C)。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0055】
略語:hMADS細胞(「ヒト多能性脂肪由来幹細胞」);WAT(「白色脂肪組織」);BAT(「褐色脂肪組織」);PPAR(「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体」);PPRE(「ペルオキシソーム増殖因子-応答エレメント」);UCP1(「アンカップリングプロテイン1」);UCP2(「アンカップリングプロテイン2」);PGC-1α(β)(「PPARγ共活性化因子α(β)」);CtBP-1(「C-末端結合タンパク質-1」);AR(「アドレナリン受容体」);CIDEA(「細胞死誘導DFF45様エフェクターA」);NAIP(「神経アポトーシス阻害タンパク質」):CTP-1B(「カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1B」);PKA(「プロテインキナーゼA」);T3(「3,5,3’-トリヨードチロニン」);TBP(「TATAボックス結合タンパク質」);PRDM16(「PRドメインジンクフィンガータンパク質16」);Bax(「Bcl-2関連Xタンパク質」);Bcl-2(「B細胞CLL/リンパ腫-2」)。
【0056】
I.材料および方法
細胞培養:調製ならびにhMADS細胞の多能性および自己再生の特徴付けは記述されている(Rodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63;Rodriguez,A.M.,et al.,J Exp Med,2005.201(9):p.1397-405;Zaragosi,L.E.et al.,Stem Cells,2006.24(11):p.2412-9;Elabd,C,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2007.361(2):p.342-8)。hMADS-2株の細胞は、5歳のドナーの陰部領域の脂肪組織から確立された;それらを継代16回?35回で用いた(細胞集団の35?100倍加)。細胞を、10%仔ウシ胎児血清、2.5ng/ml hFGF_(2)、60μg/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)において細胞4,500個/cm^(2)の密度で培養した。培地を2日毎に交換した後、細胞がコンフルエントになると、hFGF_(2)を除去して、細胞を2日後に分化誘導させ、これを分化0日目と定義した。脂肪細胞の分化培地は、10μg/mlトランスフェリン、0.85μMインスリン、0.2nM T_(3)、1μMデキサメタゾン(DEX)、および500μMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)を添加したDMEM/H12(1:1、v/v)からなる。3日後、培地を交換して(DEXおよびIBMXを省略)、ロシグリタゾンを表記の濃度および日で添加する。細胞を用いる前に培地を2日毎に交換する。グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)活性の決定およびオイルレッドOによる脂質染色は、これまでに記述されている(Negrel,R.et al.,Proc Natl Acad Sci USA,1978.75(12):p.6054-8;Bezy,O.,et al.,J Biol Chem,2005.280(12):p.11432-8)。
【0057】
RNA精製および分析:RNA抽出、逆転写酵素の使用、およびリアルタイム定量的RT-PCRによるmRNAレベルの決定は記述されている(Zaragosi,L.E.et al.,Stem Cells,2006.24(11):p.2412-9;Elabd,C,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2007.361(2):p.342-8;Bezy,O.,et al.,J Biol Chem,2005.280(12):p.11432-8)。関心対象遺伝子の発現を、TBP遺伝子の発現と比較して標準化して、ΔCt比較法を用いて定量した。Primer Expressソフトウェア(Perkin Elmer Life Sciences)を用いて得られたオリゴヌクレオチドプライマーの配列を以下の表1に記述する。
【0058】

【0059】
イムノブロット分析:全細胞溶解物を、既に記述されているようにイムノブロットによって分析する(Bezy,O.,et al.,J Biol Chem,2005.280(12):p.11432-8)。ウサギから得られた一次抗体である抗ヒトUCP1および抗TBPは、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,USA)の製品であり、二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートした)は、Promega(Charbonnieres,France)の製品である。「強化化学発光」システム(Millipore,Saint-Quentin-Yvelines,France)を検出のために用いた。
【0060】
酸素消費の決定:酸素消費を、ペルティエサーモスタット、クラーク電極、および統合磁気撹拌子(Oroboros,Innsbruck,Austria)を備えた二室注入呼吸計を用いて測定した。測定を、10%仔ウシ胎児血清を含有するDMEM/F12培地(1:1、v/v)の2ml容積中で絶えず撹拌しながら37℃で行った。各測定の前に、チャンバーに存在する培地を空気によって30分間平衡化した後、新しくトリプシン処理した細胞をこの培地に移した。静止呼吸状態に達した後、ATPシンターゼをオリゴマイシン(0.25?0.5mg/l)を用いて阻害して、アンカップリング剤カルボニルシアニド3-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)の最適な濃度1?2μMの存在下で細胞の呼吸活性を滴定した。呼吸鎖を1μg/mlアンチマイシンAによって遮断した。酸素消費をDataGraphソフトウェア(Oroboros Software)を用いて計算した。基礎呼吸活性は、アンチマイシンAに対して感受性である酸素消費に対応する。呼吸活性を、注入チャンバーに即時添加した1μMイソプレナリンの存在下で刺激して、上記のように測定を行った。
【0061】
統計分析:データを平均値±SDとして表記して、Studentのt-検定によって分析する。p<0.05の場合、差は有意であると見なされる。
【0062】
II.結果
UCP1および褐色脂肪細胞マーカーは、hMADS細胞分化の際に発現される
既に記述されているように(Rodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63)、PPARγ活性化がhMADS-2細胞の脂肪細胞分化にとって必要である(図1A)。漸増濃度のロシグリタゾンによる3?9日目までの6日間の細胞の処置によって、脂質の蓄積が起こり、GPDHおよびPPARγ遺伝子の発現が起こる。さらに1週間処置しても、GPDHおよびPPARγ遺伝子の発現は変化しない。16日目に、20nMロシグリタゾンは最大の応答を誘導するために十分であり、これはこのリガンドに関するPPARγ親和性と一貫する(図1A?C)。結果を全体的に見ると、hMADS-2細胞のロシグリタゾンに対する6日間の曝露が重要な白色脂肪細胞マーカーの最大発現を可能にすることが強調される。一方、そのような3?9日目までの曝露によるmRNAおよびUCP1タンパク質の発現は非常に弱い。しかし、3?16日目まで20nMに曝露すると、それらの強い発現が得られる(図2A、B)。UCP1とは反対に、UCP2 mRNAの強い発現はなおも9日目で観察される;これはより長い曝露によって増加して(図2C)、UCP2タンパク質が検出される(B.Miroux and C.Ricquier、私信)。これらの結果は、ロシグリタゾンによる処置の持続期間がUCP1遺伝子の発現を調整することを示唆している。同様に、UCP1の発現に密接に関連していると報告されるCIDEA遺伝子の発現が増加する(図2D)(Zhou,Z.,et al.,Nat Genet,2003.35(1):p.49-56)。白色脂肪細胞と比較すると、褐色脂肪細胞は非常に高いミトコンドリア形成を有する(Wilson-Fritch,L.,et al.,J Clin Invest,2004.114(9):p.1281-9)。実際に、ミトコンドリアカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT1B)をコードするmRNAのレベルは、hMADS-2細胞が白色の表現型から褐色の表現型へとスイッチすると強く増加する(図2E)。予想外に、PPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16のレベルは、白色または褐色表現型を発現する脂肪細胞において類似である(図6)。齧歯類の褐色脂肪細胞は、インビトロおよびインビボで白色脂肪細胞よりアポトーシスに対してより感受性であることが公知である。これらの脂肪細胞は、抗アポトーシスBcl-2タンパク質およびアポトーシス促進Baxタンパク質の双方を発現する(Briscini et al.,FEBS Lett 1998.431,80-84;Lindquist and Rehnmark,J Biol Chem 1998.273,30147-30156;Nisoli et al.,Cell Death Differ 2006.13,2154-2156)。齧歯類とは対照的に、ヒト白色脂肪細胞は、抗アポトーシス遺伝子Bcl-2およびNAIPの弱い発現に関連すると見られるアポトーシスに対して高い感受性を有する(Papineau et al.,Metabolism 2003.52,987-992)。予想外に、hMADS細胞の白色表現型から褐色表現型へのスイッチは、抗アポトーシス遺伝子Bcl-2の発現の増加およびアポトーシス促進Bax遺伝子の発現の減少を伴い、Baxに対するBcl-2の比率は1から3.7となり(図7)、このことは、種に応じてアポトーシスに関連する遺伝子の発現パターンが異なることを暗示している。UCP1に関する限り(図2)、β3-アドレナリン受容体(図3A)およびβ2-AR受容体(結果は示していない)は、hMADS-2細胞を3?16日目までロシグリタゾンに曝露した場合に発現され、β-アゴニストに対する機能的応答を分析した。図3Bおよび3Cが示すように、UCP1 mRNAおよびUCP1タンパク質の発現は、β受容体の汎アゴニストであるイソプロテレノール、および選択的β3アゴニストである化合物CL316243の10?100nM濃度による6時間の刺激後に有意に増加する。要するに、PPARγの持続的な慢性的活性化によって、UCP1の発現が起こり、βアゴニストに対する機能的応答が獲得される。
【0063】
UCP1発現の調節は、白色脂肪細胞へと既に分化したhMADS細胞において起こる
これまでの実験では、hMADS細胞を長期処置することが褐色の表現型の獲得にとって必要であるか否か、または白色脂肪細胞へ既に分化したhMADS細胞にロシグリタゾンを短時間曝露することによってそのトランス分化が可能となるか否かを知ることは不可能である。この目的のために、hMADS-2細胞を3?9日目までロシグリタゾンに予め曝露して、リガンドを除去した後、14?16日目まで添加した。結果は、白色脂肪細胞のこの2日処置がUCP1、CIDEA、およびCPT1B遺伝子の発現を刺激するために十分であることを示している(図4A)。この効果は、PPARγに対して特異的であり、特異的リガンドWy14643およびL165041によるPPARβ/δおよびPPARαのそれぞれの活性化は、UCP1タンパク質の発現を誘導しない。ロシグリタゾンを、PPARの活性化剤/リガンドとしての多価不飽和脂肪酸(10μMで存在するアラキドン酸、エイコサペンタエン酸、およびドコサヘキサエン酸)に交換しても、UCP1遺伝子発現に対して効果を有しないようである(結果は示していない)。これらの知見は全て、白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞表現型を獲得するためにはPPARγの短期間の特異的活性化で十分であることを示している。UCP1発現に及ぼすロシグリタゾンの効果は、hMADS-2細胞に限定されない;それらはまた、月齢31ヶ月のドナーの臍帯領域の脂肪組織から、および月齢4ヶ月のドナーの前陰部脂肪組織からそれぞれ確立されたhMADS-1およびhMADS-3細胞についても観察される(Rodriguez,A.M.,et al.,J Exp Med,2005.201(9):p.1397-405)(図8および結果は示していない)。
【0064】
白色および褐色脂肪細胞に分化したhMADS細胞の酸素消費および呼吸デカップリング
褐色脂肪細胞の1つの主要な特徴は、強い呼吸活性および酸化的リン酸化の重要なデカップリングである。酸素感受性電極を用いて決定された酸素消費(Cannon,B.and J.Nedergaard,Physiol Rev,2004.84(1):p.277-359)により、相対的呼吸速度を測定することが可能であった。結果は、総およびアンカップリング呼吸活性に及ぼす長期間のロシグリタゾンによる処置の有意な効果を示している。3?9日目まで曝露されて白色表現型を発現するhMADS-2細胞について得られた値と比較すると、褐色の表現型の獲得を可能にする慢性的な曝露の20日後、これらの2つの活性はそれぞれ、3倍および2.5倍増加する(図5AおよびB)。hMADS-2細胞を白色脂肪細胞に予め分化させた後にロシグリタゾンによって16?20日目まで処置すると、総活性およびアンカップリング呼吸活性の増加は低減されるが、それでもなお顕著なままである(図5AおよびB)。イソプロテレノールなどの特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる酸素消費の重要な刺激もまた、褐色表現型の獲得の際に観察される(図5C)。これらの結果は、hMADS-2細胞による褐色表現型の獲得が、予測されるようにUCP1を通して、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる酸素消費、アンカップリング活性、および呼吸の刺激の増加を伴うことを示しており、hMADS細胞から得られた褐色脂肪細胞が機能的であることを立証している。
【0065】
III.考察
近年、フルオロデオキシグルコース-ポジトロンエミッション技術により、健康な成人において白色脂肪組織とは異なる部位に活性な褐色脂肪組織が存在することを示すことができるようになった(Nedergaard,J.et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab,2007.293(2):p.E444-52)。このように、過去数十年のあいだに普及したコンセンサスとは反対に、これらの重要な知見は、ヒトにおいてエネルギー支出を調整するためにBATの代謝活性を刺激する可能性を示唆している。実際に、齧歯類における褐色脂肪組織は、適応性の熱発生において重要な役割を果たしており、遺伝子組換えによってそれを除去すると、肥満齧歯類において観察される肥満および機能障害が起こるが(Cannon,B.and J.Nedergaard,Physiol Rev,2004.84(1):p.277-359;Lowell,B.B.,et al.,Nature,1993.366(6457):p.740-2)、ヒトではBATの役割はなおも論争の主題である(Cinti,S.,Nutr Metab Cardiovasc Dis,2006.16(8):p.569-74)。このように、これらの全ての知見を考慮に入れて薬理学的に言えば、ヒト褐色脂肪細胞のモデルを開発することは、極めて重要であることがわかるはずである。
【0066】
本発明者らの結果は、若いドナーの脂肪組織から確立され、白色脂肪細胞へと分化することが既に知られている多能性ヒト幹細胞がまた、褐色脂肪細胞も生じることができることを初めて示す(Rodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63;Rodriguez,A.M.,et al.,J Exp Med,2005.201(9):p.1397-405)。
【0067】
生物学的に言えば、本発明者らの結果は、hMADS細胞が、その系列が白色および褐色系列の上流であろう未成熟な幹細胞であるという仮説を支持する。褐色系列に入ると、hMADS細胞は齧歯類褐色脂肪細胞の全ての特徴を示す;それらはUCP1、CIDEA、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16遺伝子を発現するのみならず、PPARファミリーの3つのメンバーを発現する。重大なことに、褐色表現型の獲得は、呼吸活性およびアンカップリング活性の重要な増加を伴う。イソプロテレノールおよび化合物CL316243によってUCP1発現が正に調整されたことは、β-アドレナリン受容体、特にβ3受容体によって生成されるシグナル伝達経路が、これらの細胞においても同様に機能的であることを立証している。
【0068】
今日まで、ヒトにおけるβ3-アドレナリン受容体の存在および役割はかなり論争されている(Lafontan,M.and M.Berlan,Trends Pharmacol Sci,2003.24(6):p.276-83)。このように、若いヒヒの褐色脂肪細胞はこれらの受容体を弱く発現するが、4つのβ3-アドレナリン作動神経アゴニストに応答した脂肪分解は観察されない(Viguerie-Bascands,N.,et al.,J Clin Endocrinol Metab,1996.81(1):p.368-75)。加えて、遺伝子組換えによって不死化され、β3-アドレナリン受容体を発現するヒト褐色脂肪細胞は、部分的β3アゴニストであるCGP12177Aに応答してごく弱い脂肪分解活性を示し、これらの受容体は、アデニレートシクラーゼにごく弱くカップリングしているように思われる(Zilberfarb,V.,et al.,J Cell Sci,1997.110(Pt 7):p.801-7;Jockers,R.,et al.,Endocrinology,1998.139(6):p.2676-84)。いずれの場合においても、本発明者らの研究の結果とは反対に、特異的β3アゴニストに応答したUCP1発現の刺激もアンカップリング呼吸活性も報告されていない。その上、特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる呼吸活性の刺激も報告されていない。
【0069】
ロシグリタゾンは、2型糖尿病の処置に用いられるインスリン感作分子のクラスであるチアゾリジンジオンファミリーに属する(Olefsky,J.M.and A.R.Saltiel,Trends Endocrinol Metab,2000.11(9):p.362-8)。これは、PPARγを特異的に活性化することによって脂肪細胞の最終分化を促進する(Rodriguez,A.M.,et al.,Biochem Biophys Res Commun,2004.315(2):p.255-63;Tai,T.A.,et al.,J Biol Chem,1996.271(47):p.29909-14;Forman,B.M.,et al.,Cell,1995.83(5):p.803-12)。PPARγ活性化は、白色前脂肪細胞において起こるのみならず、褐色前脂肪細胞においても起こり、それぞれ白色および褐色脂肪細胞への分化が起こる(Nedergaard,J.,et al.,Biochim Biophys Acta,2005.1740(2):p.293-304;Petrovic,N.et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab,(May 20,2008).doi:10.1152/ajpendo.00035.2008)。
【0070】
特に、ロシグリタゾンの存在にもかかわらず、およびDEX/IBMX「カクテル」によるPKA経路の活性化が分化の最初の3日間の際に不可欠であることが証明されているという事実にもかかわらず、この刺激効果は不十分であるように思われ、白色脂肪細胞への分化のみが起こる。培養培地からDEX/IBMXを除去した後、hMADS細胞による褐色脂肪細胞表現型の獲得は、白色表現型を発現する細胞においてPGC-1α、PGC-1βおよびPRDM16が既に十分に発現されていても、ロシグリタゾンによるPPARγに対する活性化の持続期間にもはや依存しないことに注目することは印象的である。
【0071】
マウスにおいて、PRDM16が白色脂肪細胞においてUCP1の発現を誘導するが、PPARγの活性化がCIDEAの発現およびミトコンドリア成分にとって必要であることが知られている(Seale,P.,et al.,Cell Metab,2007.6(1):p.38-54)。本発明者らの結果は、これらの知見、およびCIDEA遺伝子のプロモーターにおけるPPAR応答エレメントの存在と一致する(Viswakarma,N.,et al.,J Biol Chem,2007.282(25):p.18613-24)。しかし、PRDM16、PGC-1α、およびPGC-1βの発現以外に、ロシグリタゾンに対する持続的な曝露が、褐色表現型の完全な獲得にとって同様に必要である他の分子事象を誘導しないことを除外することはできない。ロシグリタゾンによって短期間処置したhMADS細胞または長期間処置したhMADS細胞の識別的トランスクリプトーム分析は、この仮説に対する答えを提供するはずである。
【0072】
血糖症およびインスリン血症を正常にするロシグリタゾンによって、動物のみならず多くの患者において体重が増加する(Carmona,M.C.,et al.,Int J Obes(Lond),2005.29(7):p.864-71;Goldberg,R.B.,Curr Opin Lipidol,2007.18(4):p.435-42;Home,P.D.,et al.,Diabet Med,2007.24(6):p.626-34;Joosen,A.M.,et al.,Diabetes Metab Res Rev,2006.22(3):p.204-10)。本発明者らの結果は、ヒトにおいて、ロシグリタゾンが健康な個体の高い割合において観察されるBAT活性を不十分ではあるが増加させうる可能性を除外しない(Nedergaard,J.et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab,2007.293(2):p.E444-52;Cypess,AM et al.,N.Engl.J.Med.2009.360:p.1509-17;Saito,M.et al.,Diabetes 2009.Publish Ahead of Print,Online April 28;van Marken Lichtenbelt,W et al.,N.Engl.J.Med.2009.390:p.1500-08;Virtanen,KA et al.,N.Engl.J.Med.2009.360:p.1518-1525)。
【0073】
非身震い性熱産生の場合または高カロリー食によって誘導した場合のエネルギー支出に対するBATの関与は、齧歯類において十分に確立されている。ヒトにおいて、個体間で観察される体重増加の差は、栄養物に応答したエネルギー支出の増加能の差に関連するようであり(Lowell,B.B.and E.S.Bachman,J Biol Chem,2003.278(32):p.29385-8)、褐色脂肪組織の量は白色脂肪組織の量に反比例する(Saito,M.et al.,Diabetes 2009.Publish Ahead of Print,Online April 28;Virtanen,KA et al.,N.Engl.J.Med.2009.360:p.1518-1525)。これらの知見が、個体がBATの質量および/または活性を増加させる能力が異なることに関連するのであれば、本発明者らのヒト褐色脂肪細胞モデルは、特に細胞のPRDM16発現ならびに呼吸およびアンカップリング能を刺激することによって、BATの形成および機能を増加させることができる分子に関するスクリーニングを可能にするはずである。可能性ではあるが、UCP1発現の増加は、β-アドレナリン受容体による、および胆汁塩によって活性化されるTGR5受容体によるPKA経路の二重の活性化によると見なされうる(Watanabe,M.,et al.,Nature,2006.439(7075):p.484-9)。
【0074】
IV.補足結果
材料および方法は、先の実施例の章のI部において示された材料および方法である。
【0075】
1-最近の研究は、マウスにおいてi)白色脂肪細胞のシグネチャーとは異なる褐色脂肪細胞の筋原性シグネチャーが存在すること(Timmons et al.,2007;Seale et al.,2008,Nature 454:961-967)、およびii)骨形態形成タンパク質7(BMP7)による処置(Tseng et al.,2008.Nature 454:1000-1004)、または遺伝子組換え(Tiraby,C et al.,J.Biol Chem.2003.278:p.33370-76)によって白色の前駆体から褐色脂肪細胞を生成できる可能性を示した。
【0076】
本発明者らは、本発明者らのヒトhMADS細胞が、増殖相の際に、または骨様細胞と同様に脂肪細胞へのその分化の際もしくは後にMyf5遺伝子を発現しないことから、それらが筋シグネチャーを有しないことを示している。
【0077】
その上、BMP7単独によってhMADS細胞を処置しても、ロシグリタゾンの非存在下では脂肪細胞に分化させることができないが、むしろ予め白色脂肪細胞に分化した細胞においてUCP-1タンパク質発現の弱い増加が起こる。
【0078】
2-白色および褐色脂肪細胞へのhMADS細胞の分化に及ぼすロシグリタゾンの効果は、核受容体PPARγによって媒介される。実際に、PPARγアンタゴニストである化合物GW9662を分化培地に添加すると、一方でhMADS細胞の脂肪細胞への分化を防止して、他方で予め白色脂肪細胞へ分化した細胞においてUCP-1遺伝子を発現させない。
【0079】
3-白色脂肪細胞と比較して、褐色脂肪細胞は非常に強いミトコンドリア形成を示す。本発明者らは、hMADS-2細胞が白色表現型から褐色表現型へとスイッチした場合に、ミトコンドリアカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CTP1B)をコードするmRNAレベルが強く増加することを示した。最近の結果は、チトクロームcオキシダーゼ活性(内部ミトコンドリア膜のマーカー)も同様に、白色脂肪細胞と比較して褐色hMADS脂肪細胞において増加することを示しており、このように、白色表現型から褐色表現型への移行の際のミトコンドリア形成の増加に関する本発明者らの知見を強める。
【0080】
4-齧歯類において、腸管の再吸収による胆汁酸は、褐色脂肪細胞の形質膜上に位置するGタンパク質にカップリングした受容体(TGR5)に結合する。cAMPの産生は、T3の細胞内濃度を増加させるII型ヨードチロニン脱ヨウ素酵素の発現を刺激する。後者は次に、UCPによるミトコンドリアのデカップリングを刺激して、熱の形でエネルギーを発散する(Watanabe et al.,2006)。ヒトにおいて、そのような系は、これまでに記述されていない。hMADS細胞は、脂肪細胞分化の際にTGR5遺伝子を発現して、このように、TGR5受容体アゴニストリガンドを用いて呼吸デカップリングに及ぼす薬理学試験を検討することが可能である。
【0081】
参考文献目録







【配列表】










(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的PPARγアゴニストによるhMADS細胞の刺激を含む、ヒト多能性脂肪由来幹細胞(hMADS細胞)集団を機能的ヒト褐色脂肪細胞集団に分化させるための方法であって、該刺激が、
- 10?30日を含む持続期間、または
- (i)2?9日を含む持続期間のhMADS細胞から白色脂肪細胞への第一の分化期間、(ii)第一の期間の後に、2?10日を含む持続期間の、その間に刺激を停止させる、第二の期間、(iii)第二の期間の後に、1?10日を含む持続期間の第三の刺激期間
行われ、それによって、以下の遺伝子を同時に発現する機能的ヒト褐色脂肪細胞集団を得る、前記方法:
- UCP1、CIDEA、CPT1B、およびBcl-2タンパク質をコードする遺伝子、
これらの遺伝子の発現はヒト白色脂肪細胞集団の発現より高い、
- Baxタンパク質をコードする遺伝子、
この遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団の発現より低い、ならびに、
- PPARα、PGC-1α、PGC-1β、およびPRDM16タンパク質をコードする遺伝子、
これらの遺伝子の発現は、ヒト白色脂肪細胞集団の発現と類似である。
【請求項2】
特異的PPARγアゴニストがチアゾリジンジオンであり、該チアゾリジンジオンが、有利にはロシグリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、ダルグリタゾン、およびトログリタゾンを含む群から選択される、請求項1記載の分化させる方法。
【請求項3】
特異的PPARγアゴニストの濃度が、アゴニストがロシグリタゾンである場合、5nM?1,000nMを含み、アゴニストがピオグリタゾンである場合、0.2μM?10μMを含み、アゴニストがシグリタゾンである場合、0.5μM?20μMを含み、アゴニストがダルグリタゾンである場合、0.2μM?20μMを含み、およびアゴニストがトログリタゾンである場合、0.2μM?10μMを含む、請求項2記載の分化させる方法。
【請求項4】
hMADS細胞集団を分化させた後に得られるヒト褐色脂肪細胞集団の機能性を証明する段階をさらに含み、証明する段階が以下の連続段階を含む、請求項1?3のいずれか一項記載の分化させる方法:
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによって該ヒト褐色脂肪細胞集団の呼吸活性を刺激する段階、
- UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費を定量する段階、ならびに
- 特異的β-アドレナリン受容体アゴニストによる刺激の非存在下で得られたものと比較して、UCP1をコードする遺伝子の発現および/または酸素消費が増加すれば、集団が機能的であると証明される段階。
【請求項5】
特異的β-アドレナリン受容体アゴニストが、イソプレナリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドブタミン、テルブタリン、および化合物CL316243から選択され、有利にはイソプロテレノールである、請求項4記載の分化させる方法。
【請求項6】
特異的β-アドレナリン受容体アゴニストの濃度が1nM?1,000nMを含む、請求項4または5記載の分化させる方法。
【請求項7】
以下の連続段階を含む、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができる、分子または分子の組み合わせを同定する方法:
- hMADS細胞集団を分子または分子の組み合わせの存在下に置く段階、
- hMADS細胞集団が、請求項1において定義された機能的ヒト褐色脂肪細胞集団の表現型を発現する場合、上記分子または分子の組み合わせを、ヒト褐色脂肪細胞の形成を促進することができる、ならびに/または個体における過剰な体重および/もしくは肥満を処置することができると同定する段階。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-06 
結審通知日 2016-12-08 
審決日 2016-12-20 
出願番号 特願2011-515361(P2011-515361)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (C12N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大久保 智之幸田 俊希藤澤 雅樹  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 松田 芳子
長井 啓子
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5766115号(P5766115)
発明の名称 確立されたヒト褐色脂肪細胞株およびhMADS細胞株から分化させる方法  
代理人 清水 初志  
代理人 清水 初志  
代理人 清水 初志  

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